判例検索β > 平成14年(行コ)第117号
東京郵政局職員争議
事件番号平成14(行コ)117
事件名東京郵政局職員争議
裁判年月日平成16年6月30日
法廷名東京高等裁判所
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主 文
1 原判決を取り消す。
2 東京郵政局長が控訴人A,同B,同C,同D,同E及び同Fに対して昭和54年4月28日付けでした懲戒免職処分をいずれも取り消す。
3 東京郵政局長が控訴人Gに対して昭和54年4月28日付けでした懲戒免職処分が無効であることを確認する。
4 控訴人らの当審における追加請求に係る訴えをいずれも却下する。5 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 主文第1項から第3項と同旨
2 (当審における追加請求)控訴人らがいずれも被控訴人の職員であることを確認する。
第2 事案の概要等(略称等,闘争に至る経緯,処分等)
1 事案の概要
本件は,郵便局の集配課に勤務していた控訴人らが,郵政関係労働者をもって組織する労働組合である全逓信労働組合(全逓)の指導の下に昭和53年11月末ころから昭和54年1月末ころにかけて実施された争議行為に参加し,郵便物の配達業務を怠業したことにつき,東京郵政局長(当時)により,昭和54年4月28日付けで懲戒免職処分を受け,人事院の判定を経て,昭和61年,処分の取消し(控訴人Gについては無効確認。平成7年提訴)を求めた事案である。 原審は,取消事由及び無効事由を認めず,控訴人らの請求をいずれも棄却した。 当裁判所は,原判決と異なり,処分には裁量権を濫用した重大な瑕疵があり,控訴人らの請求を認容すべきものと判断した。
2 略称,全逓の組織,本件闘争に至る経緯,集配業務の作業工程等 判決に用いる略称,全逓の組織,本件闘争に至る経緯,集配業務の作業工程,控訴人らに対する処分の内容等は,次に付加するほか,原判決の事実及び理由の「第2章」の第1から第7まで(原判決3頁6行目から18頁22行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
平成15年4月1日,日本郵政公社法(平成14年法律第97号)が施行され,被控訴人が東京郵政局長の訴訟上の地位を承継した。
3 争点及び争点に関する当事者の主張等
当審における主張を次に加えるほかは,原判決の事実及び理由の「第3章」(原判決18頁23行目から35頁8行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人ら)
(1)争点1(本件処分の違憲性)に関する主張の補充
ア 本件闘争は,全逓が,郵政省の不当労働行為政策に対して憲法上の権利である団結権を防衛するためにした正当なものであり,本件においては,郵政省当局の不当労働行為(郵政省による熾烈な全逓敵視政策)及び全逓の本件闘争の正当性が判断されるべきであるのに,原判決は,その点の判断を欠いている。イ 公労法(昭和23年12月20日法律第257号。昭和53年7月5日法律第87号による改正後のもので昭和57年5月1日法律第37号による改正前のもの。)17条が違憲でなく,本件闘争が同条に違反するとしても,労働組合としての目的の達成のために行われた正当な行動については,憲法28条及びそれを実効あらしめるために設けられている労組法1条2項,7条1号,8条に基づき,違法性がないとして免責されるべきである。控訴人らの行為は,本件闘争の際に行われたもので,暴力の行使やそれに匹敵するものではなく,組合の指示命令に従い,一般組合員が公労法に違反する争議に参加しただけのことであるから,憲法28条及び労組法により違法性がないものとして免責されるべきである。
(2)争点3(裁量権の濫用)に関する主張の補充
ア 公務員に対する懲戒処分については,懲戒権者に広範な裁量権があるとされるが,違法な目的や動機により処分が行われた場合,処分理由となった事実の誤認があった場合,考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮した場合,処分が社会観念上著しく妥当を欠く場合には,裁量権の逸脱・濫用があり,違法とされている。また,懲戒免職処分という重大な不利益処分の場合には裁量権が少なくなる(裁量権収縮)ことにも注意を払うべきである。
イ 公平原則違反

(ア)本件闘争における指導者の行為を現認できなくても,指導者にどの程度の処分がされたかを念頭において単純参加者に対する処分を決めるべきである。(イ)本件闘争においては,同一局内で,同程度の行為をしながら停職や減給に止まった者が多く,控訴人らとの間の不均衡の原因は現認方法自体にあり,現認の限界を理由に不均衡の結果を正当化することはできない。
(ウ)現認は,当日の早期の段階で対象者を選出し,その者を1日中現認する必要はなく,1日の作業量を把握し,本来の処理数と比較すれば怠業は判明する。ウ 恣意的な選定
(ア)本件処分は,処分の対象者を選別する過程で,積極的活動家と目された組合員をねらい撃ちにしており,考慮すべきでない事項を考慮した違法がある。本件処分においては,上記の活動家を狙い撃つ目的に適合した現認方法及びその態勢が組まれ,処分基準が立てられ,対象者について集積された現認資料等に基づいてされ,参加者を可能な限り現認する努力がされた結果ではない。
①昭和50年当時,α局では,全逓と全郵政との勢力が拮抗しており,同期入局者21名中,唯一全逓に加入した控訴人Aをねらい撃ちにするために,同控訴人を恣意的に現認対象に選定した。②β局では,控訴人B以上に滞留物数を記録している職員がいるのに,控訴人Bに現認が集中している。③γ局では,全逓の組織率が低く,現認することにさほどの困難はなかったのに,恣意的に控訴人Cを現認対象とした。④δ局では,控訴人Gは,昭和48年秋ころから夜勤が増え,昭和49年3月から昭和51年2月の2年間に早出夜勤が77%という状態であった。控訴人Eも全逓に加入してから早出夜勤が増えた。昭和50年末の担当を見ると,年賀から速達及び小包に担当が代わった者の15名中12名が全逓組合員であった。昭和53年12月段階で全逓組合員は主任になっていなかったが,全逓を脱退した者は主任になっており,昇進差別があり,本件闘争前からの組合活動により当局から嫌われていた者(控訴人G,同E等)が現認対象にされた。⑤ε局では,昭和42年ころから当局の援助で全郵政が結成され,露骨な人事差別,控訴人Dを標的にした暴行等があった。控訴人Dに対する処分は,有能な活動家である同控訴人を恣意的にねらい撃ちにしたものである。⑥ζ局では,控訴人Fが,全逓に加入して直ぐに青年部委員となったこともあり,53・10闘争時から他の人と同じ行動をしていたのに重い処分を受けている。控訴人Fは,本件闘争においても,現認担当者にずっと現認されており,業務開始時に課長から最初に業務命令が出されることが多く,初めからねらい撃ち的に現認対象であった。指導行為も現認されているのに,指導者は,処分を受けていない。
これらの恣意的な考慮の事実が認められないとか,指導行為が現認されないといった原判決の判断は,採証法則に反し,事実を誤認している。
(イ)東京郵政局長は,本件闘争についての免職処分対象者として130数名を選別し,これを55名に絞り込んだというが,そのための勤務評定書のような資料に基づいておらず,絞り込み作業の内容は具体性がない。本件闘争期間中,「怠業の程度の著しい日」が20日以上で,配達郵便物数ゼロである者が停職1年にされ,控訴人Bは,配達郵便数1000通に達するのに懲戒免職処分を受けているのは不合理である。過去の非違行為及びこれに対する懲戒処分等の状況に関しても不均衡がある。そもそも130数名を55名に絞るということは,130数名の選別自体が大きく間違っていたことになる。この選別は合理性がない。
(被控訴人)
ア 控訴人らの主張(2)イについて
(ア)控訴人らは,指導行為を現認できたと仮定した場合に指導者にどの程度の処分が相当かを想定した上で,単純参加者の処分量定を検討すべきであると主張するが,考慮すべき諸般の事情が現認できないので,処分量定を想定することができず,上記主張は,前提において失当である。
(イ)控訴人らが問題とする同一局内の参加者間の処分の異同及び他局間の結果の違いは,現認書方式により生じたもので,上記の異同は,非違行為が現認された控訴人らに対する本件処分を違法ならしめるものではない。
本件闘争の目的が郵便物の滞留にあるから,処分対象となるのは,集配課の参加者の怠業行為が主であり,態様は参加者の自主性に委ねられていたからまちまちである。本件闘争は,中央からの指示に基づいて各職場で多くの組合員が参加して同一歩調により戦われたとして,同一局内にあっては同一の処分,局間でも同一の結果であるべきとの控訴人らの主張は,前提において失当である。
控訴人らは,現認体制を問題とするが,現認は,従来からの一般的指導に従い行
った。集配課の管理職員は集配業務の運行管理に全力を傾注しなければならず,集配課以外の課の管理職で現認に従事することのできる者の数には限りがあり,怠業行為者全員を現認することは不可能であったから,怠業の程度の著しい者,悪質な者から可能な範囲で現認したもので,方法は合理的である。
(ウ)控訴人らは,1日中継続して現認しなくても,1日の作業量と本来の作業量とを対比すれば怠業は判明する旨を主張するが,配達区によっては補助者が入っており,各個人別の作業能率低下の程度を正確に把握するにはこの方法によることはできない。もともと限られた管理職員により局内の作業工程別の処理状況を正確に把握することは困難であり,現認書に代わる方法は考えられなかった。イ 同ウについて
東京郵政局長は,本件闘争終了後,郵政省当局の指示を受けて,「怠業の程度の著しい日」が15日以上の者130数名について報告し,郵政省当局は,これらの者につき,「怠業の程度の著しい日」の数を中心的な要素として考慮しつつ,過去の非違行為に対する処分歴,平素の勤務状況,郵便局長の意見並びに他の公務員及び社会的影響等を総合勘案して,特に情の重い者55名を懲戒処分に付したもので,処分対象者の政治的思想ないし傾向を考慮する基準も資料もなく,そのような考慮をする余地はなかった。55名の者は,結果的には,著しい怠業行為をした日数が20日以上の者で,怠業行為をした日数が20日以上となる者のうち8名は免職ではなく停職1年とされたが,怠業行為の具体的態様,過去における非違行為とこれに対する処分の状況,平素の勤務状況等の点で,なお酌量軽減すべき情状が認められ,これらの諸事情を総合的に勘案して,特に酌量軽減の上,上記のとおりとした。怠業行為は同盟罷業よりも具体的な行為の態様に幅があり,控訴人らの行為は,業務妨害の程度が高度であるが,賃金カットを的確に行うことが困難である。そのため,控訴人らは,賃金カットを受けることなく,長期に大規模な怠業を続けたもので,本件闘争の悪質性は明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実及び控訴人らの処分事由該当性について
認定事実及び控訴人らの処分事由該当性については,原判決の「事実及び理由」の「第4章 当裁判所の判断」の「第1 認定事実」及び「第2 原告らの処分事由該当性について」欄(原判決35頁10行目から246頁4行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点1(本件処分の違憲性)及び争点2(公労法18条違反)について 争議行為を禁止した公労法17条1項が憲法28条に違反するものでなく,争議行為である本件闘争に公労法17条1項を適用することが違憲となるものでなく,本件処分が公労法18条に違反するものでもないことは,原判決の判断するとおりであるから,標記争点についての原判決の判断部分(原判決246頁6行目から25行目まで)を引用する。
控訴人らの当審における主張を考慮しても,原判決の判断は,左右されない。3 争点3(懲戒権の濫用)について
(1)本件闘争と控訴人らの懲戒免職に至る経緯の要約
前記1において引用した原判決の本件闘争,控訴人らの懲戒免職に至る経緯等についての事実認定の骨子を摘示すると,以下のとおりである。
ア 本件闘争に至る経緯(原判決35頁から37頁まで参照)
(ア)郵政省は,わが国の経済の高度成長に伴う郵政事業における事務量の増大に対処するため,昭和36年5月,「郵政事業長期計画」という合理化5か年計画を策定するとともに,職場秩序紊乱,悪労働慣行の是正等を標榜して労務管理を強める方針をとるようになった。全逓は,これらに対し,労働強化をもたらし,労働組合の団結権,団交権を侵害するとして,反対闘争を行い,同42年以降には,労務政策の変更を求めるなどの闘争を繰り返した。この間,同40年10月,全逓の運動方針に批判的な全郵政が結成されるに至り,組合員数は,昭和41年当時,全逓約24万6000人,全郵政約1万8000人であったのが,昭和47年には,全逓約19万6000人,全郵政約5万9000人となった。
(イ)全逓は,昭和53年7月,全国大会において,反合理化闘争の強化等の運動方針を決定し,執行委員会において,同年度の重要課題として,「反マル生」(郵政省の不当な労務政策に反対し,その変更を求める意)を標榜し,行動大綱として,郵便輸送合理化に対する闘い(53・10闘争)と反マル生闘争とを結合して実施する方針を決定し,同年8月16日以降10月2日まで,時間外労働拒否,平常能率の徹底,貯金・保険の募集等の業務規制を行い,全国で多数の者が処分を受
けた。
イ 本件闘争の概要と郵政省の対応(原判決37頁から43頁まで参照)(ア)全逓は,昭和53年11月,中央委員会において,全逓を敵視し,組織を弱体化させる郵政省の労務政策の転換を求めること(反マル生)を標榜して闘争することを決定し,全国戦術委員会において,11月16日以降の時間外労働の拒否,12月1日以降本格闘争の開始,作業能率をことさらに低下させるなどして郵便物を滞留させる業務規制闘争(いわゆる物だめ闘争)を軸とすること等の具体的戦術を決定し,時間外労働に関する労働協定締結の判断権及び業務規制闘争の際の業務命令拒否の判断権を各地本に委譲すると決定した。
(イ)全逓は,11月25日,郵政省に対し,反マル生重点課題28項目(後29項目)の要求をし,交渉を経た後,反マル生を標榜した年末闘争(本件闘争)の開始を指令し,12月1日,闘争の全国的な展開,10日以降の一層強化などを決定し,その後,年賀郵便物(12月15日受付開始)の処理の拒否を指令した。全逓は,1月4日,現状の一時中断を求めた公労委の意向を郵政省が受諾したのを受けて,地方本部及び支部に対し,地方交渉及び支部交渉を経た上で,1月20日まで闘争を一時中断すべき旨指示し,同月25日,臨時中央委員会において,反マル生要求実現に向けての長期闘争に移行し,ひとまず本件闘争を収拾する旨決定した。(ウ)郵政省は,郵便業務の円滑な運行を図るため,非常勤職員の大量雇用(全国延べ397万人,東京郵政局管内延べ約68万5000人),小包委託配達の拡大等を行ったが,郵便物の外務滞留物数は,全国で12月1日約415万通,同月11日約1100万通に上り,その後1月15日までの間に,1月1日の約1330万通を最大に,ほぼ連日約700万通ないし約1200万通(東京管内では,12月1日約210万通,その後1月20日までの間に,1月12日の約415万通を最大に,ほぼ連日約100万通から約300万通)が滞留した。元旦に配達することが予定されていた年賀郵便物約2億3196万7000通は,そのうち約93%の約2億1577万5000通が配達され,お年玉つき郵便葉書の抽選日(例年1月15日)は1月31日に延期された。
ウ 東京地本,東京郵政局及び地区本部(原判決43頁から52頁まで参照)(ア)東京地本と東京郵政局
a 東京地本は,11月11日,本件闘争態勢の確立を急ぐべき旨を各地区本部に伝達し,東京郵政局も,3課長会議(各郵便局の集配課長,郵便課長及び庶務会計課長が参加する。)において,職員の非違行為を現認すべき旨を指示した。b 東京地本は,同月15日,戦術委員会において,翌16日以降時間外労働拒否を開始し,西北地区,南部地区及び多摩地区の一部においては,同月24日以降業務命令拒否を含む業務規制闘争を開始するとの基本方針を決定し,これを各地区本部に伝達し,西北地区,南部地区,多摩地区町田支部は,同月24日,東京地本のその余の地区は,12月1日,本件闘争を開始した。
c 東京地本は,12月2日,戦術委員会において,各地区本部に対し,同月6日までに1日分の郵便物の滞留を発生させるべく各支部を指導するよう連絡し,以後,各地区本部から,支部の闘争状況の報告を受け,各地区本部を指導するとともに,役員を各職場に派遣して闘争を指導させ,同月13日,本部の指令に基づき,2日分の郵便物の滞留を目標に業務規制闘争を強化するよう地区本部に連絡した。d 東京郵政局長は,同月19日ころ以降,東京地本執行委員長,多摩地区,中部地区,南部地区,西北地区及び東部地区の各執行委員長に対し,文書により,違法な戦術の即刻中止を申し入れ,違法行為には厳正に対処する旨を警告した。(イ)地区本部
東部地区本部は,11月14日,支部代表者会議において,各支部に対し,闘争についての地区本部と支部の連絡体制,基本的戦術等を伝達した。東部地区本部は,同月30日,支部代表者会議において,各支部に対し,12月1日から業務規制闘争に突入すべきこと,同月4日から本格的な業務規制闘争を展開すべきこと,同月10日までに郵便物滞留の高原状態を作り,非常勤が配置されても手のつかない混乱状態を全支部で築くべきこと,各支部の郵便物滞留状況等を報告すべきこと等を伝達し,当局側のねらい撃ちを避けるため,組合員の全員参加により,同一の行動をとるべきこと等を指導した。東部地区本部は,また,12月6日,滞留状況が不十分であるとして,各支部に対し,業務規制を徹底すべきこと,1月21日以降の業務命令拒否戦術の解除(1月18日)等を指導した。
南部地区本部,西北地区本部及び多摩地区本部においても,同様に,11月中頃から1月中頃まで,各支部に対し,本件闘争の実施,闘争内容,戦術,連絡態勢等
について伝達し,各支部から,闘争状況等について報告を受けるなどしていた。エ 支部と局,本件闘争の態様(原判決52頁から231頁まで参照)(ア)控訴人らの所属する各支部は,おおむね,12月1日から闘争を開始し,参加人員,業務規制闘争としてされた闘争の内容及び態様等に異同はあるものの,1月20日ころまで,闘争を実施した。
(イ)控訴人らの所属する各支部における闘争は,要するに,配達区分棚からの抜出,大区分及び戸別組立,書留郵便物についての引受番号等の記録等,局内における準備作業を経て配達するものとされている郵便物につき,郵便物1通ずつ,殊更に時間をかけるなど,能率を極端に低下させて準備作業をし,誤区分検査と称して時間をかけて点検する等を交え,抜出作業に終始して大区分及び戸別組立を終了しない等のために配達作業に従事しないか,又は戸別組立等準備作業の未了のまま配達に出,ごく一部の郵便物しか配達しないなどという内容及び態様のものである。(ウ)本件闘争当時の控訴人ら所属の郵便局の状況
α局(控訴人A所属)においては,一集,二集所属の職員中,主事以下の者は99名,うち全逓の組合員は43名で,42名が本件闘争に参加した。 β局(控訴人B所属)においては,集配課に所属する職員中,主事以下の者は64名,うち全逓の組合員は49名で,大多数が本件闘争に参加した。 γ局(控訴人C所属)においては,一集,二集所属の職員中,主事以下の者107名,うち全逓の組合員48名で,大多数が本件闘争に参加した。 δ局(控訴人E,同G所属)においては,一集,二集所属の職員中,主事以下の者97名,うち全逓の組合員62名で,多数が本件闘争に参加した。 ε局(控訴人D所属)においては,一集,二集所属の職員中,主事以下の者82名,うち全逓の組合員18名で,大多数が本件闘争に参加した。
ζ局(控訴人F所属)においては,一集から三集まで所属の職員中,主事以下の者104名,うち全逓の組合員79名で,大多数が本件闘争に参加した。オ 本件闘争に係る処分(4・28処分)の概要(原判決8頁から12頁まで)(ア)郵政省は,本件闘争の参加者につき,4・28処分として,懲戒免職58名(東京郵政局管内55名),停職286名(同246名),減給1457名(同1046),戒告1425名(533名)の懲戒処分を発令し,「著しい怠業行為を行った者」の中から,非違行為の態様,反復継続した期間(日数),過去の非違行為及びこれに対する懲戒処分の状況,平素の勤務状況等を総合的に勘案し,懲戒免職を決定した。なお,「著しい怠業行為を行った者」とは,減給2月の迅厳処分(後記)を受けた後「怠業の程度の著しい日」が10日以上の者を言い,「怠業の程度の著しい日」とは,通配担当については,平常の配達郵便物数の1割以下しか配達しなかった日,速配担当については,3割程度以下しか配達しなかった日,取集担当については,取集箇所数の3割程度しか取り集めなかった日を言い,平常の作業能率の概ね50%以下しか配達しなかった日2日で,「怠業の程度の著しい日」1日に当たるとされ,懲戒免職とされた者は,最低でも,それが20日に及んだ。
(イ)懲戒免職となった58名のうち,東京郵政局(東京地本)関係の55名中,組合役職者の地位にあった者は,支部執行委員以上4名,分会長,副分会長5名,地区本部青年部委員1名,支部青年部委員14名であり,東京郵政局管内以外の3名は,管理職に対する暴行をも理由とするもので,東京の地区本部役員3名(東部地区本部執行委員長,同副委員長及び南部地区副執行委員長)は,公労法18条により解雇され,地区本部役員以上の全逓の指導者で,郵政省に在籍する者は,他にいなかった。
カ 控訴人らの懲戒免職の事由
(ア)控訴人A(原判決56頁から69頁まで及び243頁参照) 同控訴人は,12月21日から1月19日までの間に,20日間,怠業行為を現認され,うち,局内作業を完了しなかった日が抜出作業に終始した13日を含めて20日間,配達に従事しなかった日が15日間,配達に従事したが1通も配達しなかった日が4日,普通郵便物約30通を配達したのみの日が1日で,この間,2回,上司の職務上の命令に従わず,1回,上司に暴言を浴びせた。(イ)控訴人B(原判決73頁から99頁まで及び243頁参照) 同控訴人は,12月15日から1月23日までの間に,28日間,怠業行為を現認され,うち,局内作業を完了した日がなく,配達に従事しなかった日が27日,配達に従事したが書留郵便物1通を配達したのみの日が1日で,この間,各1回,上司の職務上の命令に従わず,上司に暴言を浴びせ,闘争の終了後も,2月7日及
び9日,局内作業において大区分及び戸別組立の作業をゆっくり行い,配達作業に従事したものの,一部しか配達しなかった。
(ウ)控訴人C(原判決103から122頁まで,243及び244頁参照) 同控訴人は,12月20日から1月20日までの間に,26日間,怠業行為を現認され,うち,通配を担当した5日間については,すべて作業を完了せず,配達にも全く従事せず,速配を担当した21日間については,すべて局内作業を完了せず,配達に従事しなかった日が18日,配達に従事したが1通も配達しなかった日が3日で,この間,再三,上司に暴言を浴びせ,1日,勤務を欠いた。(エ)控訴人E(原判決126頁から155頁まで及び244頁参照) 同控訴人は,12月8日から1月24日までの間に,37日間,怠業行為を現認され,うち,通配を担当した36日間についてはすべて局内作業を完了せず,配達に従事しなかった日が35日,配達に従事したが1通も配達しなかった日が6日,2通のみ配達した日が1日で,取集を担当した1日については,延べ2カ所のみから取集し,この間,再三,上司の職務上の命令に従わず,2日間,勤務時間の一部について所定の勤務を欠いた。
(オ)控訴人G(原判決155頁から179頁まで及び244頁参照) 同控訴人は,12月11日から1月24日までの間に,30日間,怠業行為を現認され,うち,通配を担当した27日間については,すべて局内作業を完了せず,配達にも従事せず,取集を担当した3日間については,取集に従事しないか,又は従事したものの取集せず,この間,再三,上司の職務上の命令に従わなかった。(カ)控訴人D(原判決184頁から200頁まで,244及び245頁参照) 同控訴人は,12月15日から1月22日までの間に,21日間,怠業行為を現認され,うち,通配を担当した2日間については,いずれも局内作業を完了せず,1通も配達しなかった日が1日,13通のみ配達した日が1日で,小包担当の19日間については,1個も配達しなかった日が8日,少数配達した日が11日で,この間,普通郵便物13通,小包13個を配達したのみで,2回,上司の職務上の命令に従わなかった。
(キ)控訴人F(原判決204頁から231頁まで及び245頁参照) 同控訴人は,12月14日から1月25日までの間に,28日間,怠業行為を現認され,うち,すべてにわたり大区分作業を完了せず,配達に全く従事しなかった日が26日,配達に従事したが1通も配達しなかった日が2日で,この間,再三,上司の職務上の命令に従わず,1日,勤務を欠き,1回,上司に暴言を浴びせた。キ 控訴人らの処分歴(原判決8頁及び233頁から242頁まで参照)(ア)迅厳処分
郵政省は,12月11日までの闘争参加者延べ5500名に対し,迅厳処分(怠業行為の現認された日の翌日に発令する即決処分。昭和48年以降,東京郵政局と協議の上,郵便局長限りでできるものとされていた。)を行った。その処分の基準は,1日を通じて明らかに怠業行為が認められた日について,最初の1日(53・10闘争で懲戒処分を受けなかった者については2日)で訓告,次の1日で再度訓告,その後の2日で戒告,次の3日で減給1月,次の4日で減給2月とされていた。迅厳処分は,昭和54年に入ってからは,発令されなくなった。(イ)控訴人A
同控訴人は,昭和51年3月から同53年9月までに訓告6回(スト参加2回,その余は遅刻,無断欠勤。括弧内は,処分事由。以下,同じ。),戒告2回(遅刻),年休闘争参加を理由に訓告1回,53・10闘争に関し,9月から10月までに訓告2回(業務命令拒否),戒告1回(作業能率低下),減給1月2回(同)の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,12月7日,8日,11日,14日,21日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(ウ)控訴人B
同控訴人は,昭和53年3月,減給2月(業務規制闘争における作業能率低下),9月,訓告1回(年休闘争参加),53・10闘争に関し,9月から10月までに,いずれも,作業能率低下を理由に,訓告2回,戒告1回,減給1月2回,減給2月1回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,12月1日,4日,6日,11日,15日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。

(エ)控訴人C
同控訴人は,昭和51年3月から同53年9月までに,訓告2回(スト参加1回,暴言1回),減給8月1回(集配課長に対する暴力行為),減給1月1回(上司の命令に従わず欠務),減給3月1回(職場離脱して欠務),訓告1回(年休闘争参加),53・10闘争に関し,9月から10月までに,作業能率低下を理由に,訓告2回,戒告2回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,12月4日,5日,7日,11日,20日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(オ)控訴人E
同控訴人は,昭和49年11月から同52年9月までに,訓告3回(業務規制闘争における業務命令拒否1回,同闘争における作業能率低下1回,スト参加1回),戒告1回(業務規制闘争における作業能率低下),減給2月2回(同1回,同及びスト参加1回),53年9月,訓告1回(年休闘争参加),53・10闘争に関し,9月から10月までに,作業能率低下を理由に,訓告2回,戒告1回,減給1月2回,減給2月1回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,11月25日,27日,29日,12月4日,8日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(カ)控訴人G
同控訴人は,昭和46年11月から同52年4月までに,業務規制闘争における作業能率低下等を理由に,訓告6回,戒告1回,減給1月1回,減給2月2回,減給4月1回,減給6月1回,減給10月1回,停職1月1回,このほか,同48年4月及び同53年9月戒告2回(年休闘争参加),同49年7月,減給8月1回(暴行等),同52年9月,訓告1回(スト参加),53・10闘争に関し,9月から10月までに,作業能率低下を理由に,訓告2回,戒告1回,減給1月2回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,11月25日,27日,29日,12月4日,11日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(キ)控訴人D
同控訴人は,昭和52年4月から同53年9月までに,訓告3回(スト参加,欠勤・暴行,及び年休闘争参加各1回),減給4月1回(集団抗議等),53・10闘争に関し,9月,作業能率低下を理由に,訓告2回,戒告,減給1月及び同2月各1回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,12月2日,4日,6日,11日,15日,作業能率低下を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(ク)控訴人F
同控訴人は,昭和53年3月減給2月(業務規制闘争による作業能率低下),7月訓告(欠務),53・10闘争に関し,9月,作業能率低下等を理由に,訓告2回,戒告,減給1月及び同2月各1回の処分を受けた。
同控訴人は,本件闘争につき,12月2日,4日,6日,9日,24日,作業能率低下等を理由に,迅厳処分(訓告2回,戒告,減給1月及び同2月(各1回))を受けた。
(2)懲戒免職処分についての司法判断
公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他,単なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するため,科される制裁である。国公法は,同法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒権者が,懲戒処分をすべきかどうか,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては,公正であるべきこと(74条1項)を定め,平等取扱いの原則(27条)及び不利益取扱いの禁止に違反してはならないことを定めている以外に,具体的な基準を設けていない。したがって,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,懲戒処
分をする場合にいかなる処分を選択すべきか,を決定することができ,その判断は,上記のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ,とうてい適切な結果を期待することができない。それ故,公務員につき,国公法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより,この裁量は,恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが,懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。したがって,裁判所が処分の適否を審査するにあたつては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか,又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきである。(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)
(3)裁量権の濫用
ア 本件闘争と全逓の役割
(ア)本件闘争は,前記認定によれば,大量の郵便需要の見込まれる年末年始,1月余もの長期間実施されたもので,参加者も多く,滞留郵便物が最大1000万通を超えるなど,円滑な通信手段が維持されず,国民生活に与えた不利益は甚大で,本件闘争後の経過を見ると,労働組合の要求を使用者に承認させることを究極の目的とする争議行為として成功であったとは言い難いが,事業の遂行を極度に阻害し,使用者に打撃を与えた点において,争議行為として一定の成果を挙げたと見うる。そして,時期の選定,1月余の長期に及ぶ期間,郵便物の滞留等による事業の混乱の程度,これらから推認される参加人員が大規模にのぼること等前記認定の事実を総合すると,本件闘争は,全逓の統制と指導の下に遂行されたと認められ,その意向と離れ,東京地本傘下の組合員の多数が実施した,いわばやりたい放題の無秩序な怠業行為と見る余地はない。
(イ)本件闘争は,上記のとおり,全逓の意思決定の下に実施された争議行為に他ならず,公労法により争議行為が禁止されている以上,事業の混乱,これによる国民生活上の不利益等も,全逓及びその意思決定に関わった者が第一次的にその責めを負うべきで,全逓の意思決定には参加する地位にないが,これに従った組合員は,本件闘争への参加,関連して行われた秩序違反行為の態様等に応じて懲戒を受けうるものの,本件闘争の実施の意思決定についてはもとより,本件闘争による郵便事業の混乱が大規模に及んだことについては,懲戒を受けるべき理由はない。イ 懲戒免職とされた者の組合における地位と控訴人らの懲戒事由(ア)前記のとおり,本件闘争を理由に懲戒免職とされた東京郵政局(東京地本)関係の55名中,支部執行委員以上4名,分会長,副分会長5名,地区本部青年部委員1名,支部青年部委員14名で,東京の地区本部役員3名(東部地区本部執行委員長,同副執行委員長及び南部地区副執行委員長)は,公労法18条により解雇され,地区本部役員以上の全逓の指導者で,郵政省に在籍する者は他におらず,本件闘争を理由として懲戒又は公労法18条による解雇を受ける余地もない。このように,本件闘争については,それが,全逓の意思決定の下に実施され,郵便事業の大規模な阻害という重大な事業秩序違反があるにもかかわらず,いわば本件闘争の首謀者として,違法な争議行為の実施の意思決定への関与を理由に,公労法に基づく解雇又は国家公務員法に基づく懲戒免職を受けた労働組合の地区本部以上の組織の役職者が異常に少ない。一方,全逓の意思決定に従い,全逓から見れば忠実に,郵政省から見れば執拗に,争議行為を実施した55名(当局の当初の判断によれば,130数名)もの多数の者が,大半は,地方本部,地区本部又は支部はもとより,分会の役員でもなく,本件闘争の実施についての全逓の意思決定に参画したといい難いにもかかわらず,最も過酷な懲戒免職(相当)とされた。全逓において,公務員の身分を有しない役員(かつて公務員であり,従前の違法争議行為等を理由として公務員の身分を失ったと推認される。)が多く,このため,本件闘争の実施についての意思決定に参画したことに基づくいわゆる指導者責任を追及し難い事情があることを窺うことができる。しかしながら,このことを考慮しても,本件闘争につき,施設の破壊等の反社会的行動やその他の秩序違反行為もないにもかかわら
ず,意思決定に従って忠実(又は執拗)に争議行為を実施したことのみを理由として,懲戒免職を課すこと自体,更には懲戒免職を課されるべき者が55名又は130数名もの多数となることについては,違法な争議行為についての問責のあり方として,合理性に重大な疑いがあるというべきである。
(イ)控訴人らは,全逓の組合員として本件闘争に参加し,前記認定の非違行為に及び,その内容も,全逓の指示の下にされた争議行為として,職場の全逓組合員の大多数の者と同様に,極端に能率を低下させ,局内における郵便配達の準備作業を行い,配達作業を実施しないか,ごく一部の郵便物の配達しかしないというもので,上司の職務上の命令に従わない等の規律違反行為に及んだ者がいるものの,他には積極的な業務妨害や施設を破壊する等の行為に及んだと認めるには足りない。これによれば,控訴人らは,出勤しながら,職務に従事しないのに等しく,同盟罷業と類似した効果の争議行為を実施したのに他ならず,このような態様及び性質の争議行為を,執拗に,かつ長期間実施したとしても,違法な争議行為への参加という職場秩序違反の行為に対する非難として懲戒処分を免れないものの,個々の組合員の行為として見る限り,もたらされる職場秩序の阻害の程度は,たかが知れており,これに対する非難としての懲戒の内容及び程度にも,おのずから限度があり,これを理由として懲戒免職を課す判断は,その合理性に重大な疑いがある。(ウ)控訴人らの一部は,上司の職務上の命令に従わないことをも非違行為とされているが,労働組合の指示に従い,違法と認識しながらも,争議行為に参加し,極端に能率を低下させた態様で業務に従事し,就業規則等により定められた業務を拒否しているのであり,上司の命令に従って争議行為を中止しなかったからといって,違法な争議行為の実施を理由とする懲戒処分を重くする理由となるものでなく,もとより,懲戒免職を是認する事情となるものではない。
(エ)本件闘争が大量の郵便物の滞留を招き,郵便事業が麻痺状態に陥ったと言っても過言ではない状態となり,国民生活上の不利益も大きかったことも前記認定のとおりであり,違法な争議行為については,業務阻害の重大さに応じて,重い懲戒処分が選択されるべきであるが,争議行為の実施の意思決定に参画した首謀者が最も重く,その余は意思決定及びその実行の過程への関与の程度に応じ,懲戒処分を課されるべきで,労働組合の意思決定に従った忠実さの度合いに応じて重い懲戒処分を選択することが合理的な判断とされる余地は少ない。控訴人らは,一部に支部の役員である者がいるが,本件闘争による大規模な郵便事業の麻痺,国民生活への大きな不利益につき,全逓の一員としてはともかく,自らの成果として誇る資格に欠けるとともに,大きな責任を負わされる理由もないというべきで,控訴人らに対する懲戒免職は,この観点からも,重大な疑問がある。
(オ)控訴人らは,現認方法の不当を主張するが,全逓組合員の多数が違法な争議行為に参加し,一方,違法行為を現認すべき者の員数が限られることは見やすい道理である以上,同じように違法な争議行為に参加した者の中においても,違法行為を現認される頻度,内容等において不均衡を生じることは十分ありうることであり,一方で明白な悪行を見逃し,他方で些細な非行のみをあげつらう等,明白な,又は特定の意図を推認させる不均衡がある場合を除き,現認された怠業の内容に差がある事実のみをもってしては,一方が懲戒を免れ,他方が懲戒され,又は一方が軽い懲戒を,他方が重い懲戒を受けることとなったからといって,懲戒が不合理とされることはない。
ウ 控訴人らの処分歴
控訴人らの処分歴は,前記のとおりで,本件闘争以前に,控訴人Gが,停職1月,減給(10月,8月等を含めて10回)等の懲戒を受け,控訴人Cが,減給(8月,1月)を含め,3回の懲戒を受け,控訴人Eが,減給(2月3回,1月2回)等の懲戒を受けるなど,減給の懲戒を受けた者がおり,本件闘争につき,控訴人ら全員が迅厳処分として減給2回の懲戒を受けており,本件闘争以前の懲戒の事由については,暴力行為等是認する余地のないものも見られるが,その他の多くは,争議行為を巡るものが大半であり,控訴人Gを除き,従前,停職以上の懲戒を受けた者はいない。
控訴人らの従前の処分歴には,若干の差異があるものの,本件闘争を理由とする懲戒処分の選択につき,従前の処分歴を参酌することにより,懲戒免職を選択することを相当とさせる程度のものは見あたらない。
エ 結論
以上に見てきたとおり,本件闘争は,年末,年始の郵便物の集中する時期を選定して実施され,これによる郵便物の滞留も,最高1000万通を超える日があるな
ど,事業の阻害の程度も著しく,それが1月余もの長期間継続した。これらの事実から,本件闘争は,全逓の意思決定の下,多数の組合員が参加して実施されたと推認される。本件闘争につき,公労法により違法とされる争議行為であり,首謀者として,労働組合の意思決定に参画してこれをあおり,そそのかしたことを理由として同法に基づいて解雇された者も,地区本部役員わずか3名で,全逓の地区本部,地方本部以上の組織の役員で公務員である者がいないため,上記3名のほかには,地区本部以上の組織の役員で,違法な争議行為の首謀者として懲戒免職とされた者もいない。換言すれば,本件闘争への参加を理由に懲戒免職とされた控訴人らを含む55名は,一部に全逓の末端組織である支部の執行委員らがいるものの,大半が全逓組合員というにとどまり,全逓の役員等,本件闘争の実施の意思決定に参画したと認めうる者はいない。控訴人らの懲戒免職事由とされた行為を見ても,全逓の意思決定に従った争議行為として,他の多数の全逓組合員と同様に,執拗(見方によっては忠実)に,闘争期間の20日以上にわたって極端に能率を低下させ,局内における郵便配達の準備作業を行い,ごく一部の郵便物のほか,配達せず,平常どおりの業務に従事すべき旨の上司の命令にも従わなかったというのである。また,控訴人らの懲戒処分歴も,本件闘争を理由とする迅厳処分を除くと,懲戒処分として,停職1月,減給10月,8月,6月等を10回受けた者1名,減給8月,4月を受けた者各1名がいる他は,高々短期の減給を受けたのにとどまる。懲戒処分が処分権者の裁量に委ねられるべき範囲の大きいことを考慮に入れても,事業体の秩序の維持のために労働者を組織外に排除する懲戒免職の事由の合理性にはおのずから限界があるというべきで,上記のような本件闘争及びこれを理由とする控訴人らに対する懲戒免職の合理性に疑いのある事情等によれば,本件闘争を理由として控訴人らに対してされた懲戒免職は,全逓の意思決定に従って違法な争議行為を実施した組合員に課されうる懲戒処分の選択及びその限界の決定につき,考慮すべき事実を考慮せず,社会通念に照らして著しく不合理な結果をもたらし,裁量権の行使を誤った重大明白な瑕疵があり,取消しを免れず,また,無効というべきである。4 付随的問題
控訴人らは,当審において,当裁判所の示唆もあって,地位確認請求を追加したが,本件処分が取り消され,又は無効が確認されれば,その判決の効力により,被控訴人との間に請求に係る地位が確認されるというべく,地位確認請求をするまでもないと解せられ,同請求は,訴えの利益を欠き,却下を免れない。また,控訴人らによる文書提出命令の申立ては,本件の判断に鑑み,必要がなく,却下する。第4 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求を棄却した原判決は相当でないから,これを取り消し,控訴人らの請求を前記の限度で認容することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 江見弘武
裁判官 岡光民雄
裁判官 市川多美子

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