判例検索β > 平成14年(行ウ)第335号
新潟県厚生農業協同組合連合会救済命令取消
事件番号平成14(行ウ)335
事件名新潟県厚生農業協同組合連合会救済命令取消
裁判年月日平成15年12月3日
法廷名東京地方裁判所
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主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じたものを含め,原告の負担とする。 事実及び理由
第1 請求
被告が中労委平成13年(不再)第5号事件について,平成14年7月3日付けでなした不当労働行為救済命令を取り消す。
第2 事案の概要
新潟県地方労働委員会(以下「新潟地労委」という。)は,原告の職員で新潟県厚生連労働組合三条総合病院支部の支部長であった被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)が申し立てた不当労働行為救済申立事件について,①原告が補助参加人に対し三条総合病院から長岡中央看護専門学校へ転勤を命じたこと,②原告が上記組合に対し,上記転勤発令について労働委員会に救済申立てがされた場合には労働協約等を締結しないと通告したことが,いずれも不当労働行為に当たるとして,別紙1のとおり,救済命令を発した。
被告は,その再審査申立事件(中労委平成13年(不再)第5号)について,別紙2のとおり,原告の再審査申立てを棄却する命令を発し(以下「本件命令」という。),新潟地労委の救済命令を維持した。
本件は,これを不服とする原告が本件命令の取消しを求める事案である。1 前提となる事実(証拠等を掲げない事実は争いがない。)
(1) 当事者及び関係者
ア 原告
原告は,肩書地に本部を置き,医療・保健等に関する事業を営む農協組織の連合会である。本件で問題となる平成11年3月当時(以下,「本件当時」というときは平成11年3月当時をいう。),新潟県内に,長岡中央綜合病院,三条総合病院,糸魚川総合病院,刈羽郡総合病院など11の病院及び長岡中央看護専門学校(以下「看護学校」という。)等の施設を設置運営しており,その職員数は約3500人であった。(乙200の添付資料1-10,弁論の全趣旨)イ 新潟県厚生連労働組合
新潟県厚生連労働組合(以下「組合本部」又は単に「組合」という。)は,原告の職員,組合専従者等により組織される労働組合である(乙156)。本件当時,組合員数は約3000名であり,組合本部の執行委員長はP1であった(以下「P1委員長」という。)。
本件当時,組合は,上記11の病院に11の支部を有していた。各支部には,原則として,総会,代議員会,支部委員会の機関が置かれ,支部の業務運営にあたる者として,支部長,副支部長,書記長及び支部委員の役員が置かれている。(乙156)
三条総合病院支部(以下「三条支部」という。)は,三条総合病院に所属する組合員からなり,本件当時,組合員約250人を擁し,支部長,副支部長(4人),書記長,支部委員(16人)の役員が業務運営にあたっていた。
中央綜合病院支部(以下「中央支部」という。)は,長岡中央綜合病院及び看護学校に所属する組合員約670名からなり,職場を単位とした27ブロックから支部委員,代議員を選出している。看護学校は,このうちの1ブロックであり,本件当時17名の組合員がいた。長岡中央綜合病院と看護学校とは所在を異にし,徒歩で約20分かかる距離にあり,中央支部の中心的活動の場は長岡中央綜合病院にあった。
ウ 補助参加人
補助参加人(昭和23年4月25日生,本件当時50歳)は,昭和41年,三条総合病院に准看護婦として就職し,昭和44年,いったん退職した後,刈羽高等看護学院に入学して正看護婦の資格を取得し,更に新潟大学医学部付属助産婦学校に進んで助産婦の資格を取得した。昭和47年に再び三条総合病院の助産婦として就職し,その後は一貫して同病院に勤務し,本件当時は看護部主任看護婦であった。この間,小児科外来に配属された1年前後を除き,産婦人科を含む混合病棟で勤務していたが,平成11年2月に皮膚科外来に配属替えとなった(乙52)。 補助参加人は,昭和47年に三条支部の青年部役員,同部長を務めた後,昭和50年以降は支部長,書記長,支部委員等を歴任し,平成4年から本件当時までは,連続して7期同支部の支部長の任にあった(乙52)。
本件当時,補助参加人の家族は,夫と長女(19歳,大学生),次女(17歳,
高校生),長男(10歳,小学生)の5人であった。
(2) 夜勤人員削減問題に対する三条支部の対応
平成10年12月25日,三条総合病院は,三条支部に対し,平成11年度(同年4月以降)に5階病棟の夜勤体制を3.5人体制から3.0人体制に変更することを提案した。なお,同病院では,平成10年度に5階病棟の夜勤体制が従前の4.0人体制から3.5人体制に変更となり,実施されていた。
三条支部は,平成11年1月28日に拡大代議員会を開催し,病院側からの3.0人夜勤体制の提案を拒否することを決議し,同年2月10日,三条総合病院長に対し,病院側からの提案を受けることができない旨文書で回答した。(3) 看護学校における人事異動と本件転勤命令
ア 看護学校に勤務していたP2専任教員心得は,平成10年12月初旬ころ,原告に対し,平成11年3月末をもって退職する旨申し出た。原告は,これを受け,長岡中央綜合病院の推薦に基づき,P2の後任に同病院看護婦P3を充てる人事を平成10年12月中に内定した。これは,看護教員研修の受講申込みの締切りが同月末であったため急遽行われた措置であった。
イ 原告は,平成11年2月15日,看護学校専任教員P4に対し,同年4月1日付けで,糸魚川総合病院検診センターへ異動させる旨の転勤内示を行った。ウ 三条総合病院のP5事務長(以下「P5事務長」という。)は,同年11年2月19日,補助参加人に対し,同年4月1日付けで三条総合病院看護部主任より看護学校専任教員心得に転勤させる旨を口頭で内示し,同年3月12日,正式に辞令を発した(以下「本件転勤命令」という。)。
補助参加人は,上記転勤内示の受諾を拒み,辞令の受取りも拒否した。(4) P6発言
ア 組合本部からの申入れに基づき,平成11年3月25日午後,原告,組合本部及び三条支部の三者が出席して補助参加人の転勤に関する話合いの場が開催され,原告側は,P6参事(現代表理事。以下「P6参事」という。),P7人事部長(以下「P7人事部長」という。)らが出席した(席上P6参事が行った発言内容には争いがある。)。
イ 組合本部からの申入れにより,同年3月31日午後5時35分,補助参加人の転勤問題について団体交渉が開催された。席上,P6参事は,①本件転勤命令は通常の転勤であり,不当労働行為ではない,②組合で機関決定があった以上は,たとえ個人によるものであっても不当労働行為救済命令申立てをすることは許されない,③それでも組合支部もしくは個人で救済申立てをするというのであれば,3月31日に執行する労使間の協約及び慣行について,地労委の判断を踏まえて対応する必要があるので,7本の労働協約の延長締結は4月1日には行わないことになる,④個人でも救済申立てをしないということならば,労働契約の延長締結に応じる,との発言をした(以下,3月25日の発言とあわせ「P6発言」という。)。 P6発言にある7本の労働協約とは,「組合員の範囲に関する協定」「人事に関する協定」「賃金控除に関する協定」「給与規程第8条に関する協定」「在籍労働組合専従者に関する覚書」「育児休業に関する労使協定」「介護休業等に関する労使協定」であり(以下,一括して「7協定」という。),いずれも有効期間が平成10年4月1日から平成11年3月31日までの1年間とされていた。(乙376,416)
(5) 本件救済申立て
補助参加人は,平成11年4月1日,新潟地労委に対し,原告を被申立人として,本件転勤命令が不当労働行為であるとして救済を申し立て,同年5月10日には,原告が組合や補助参加人に対し,三条支部や補助参加人が不当労働行為救済申立てをした場合は組合との労働協約等をすべて締結しない旨通告して不当な圧力をかけたこと,及び同年4月1日以降の原告の行為が不当労働行為であるとして救済の追加申立てを行った。
新潟地労委は,平成13年1月29日,別紙1のとおり,本件転勤命令は労働組合法(以下「労組法」という。)7条1号及び3号の,労働協約延長締結保留のP6発言は同条3号の不当労働行為であるとして,原告に対し,①本件転勤命令を取り消し,補助参加人を三条総合病院看護部主任に復帰させること,②原職復帰までの間に受けるはずであった賃金相当額の支払(既払額を除く。),③本件救済申立てを阻止したり,取り下げさせるために組合との労働協約等の不締結を通告するなどしての支配介入の禁止を命じ,その余の申立てを棄却する旨の救済命令を発した。

原告は,これを不服として,同年2月7日,被告に対し,再審査を申し立てたところ,被告は,平成14年7月3日,別紙2のとおり,原告の再審査申立てを棄却する旨の救済命令を発した(原告への命令書写しの交付は同月15日)。 原告は,平成14年8月12日,本訴を提起した。
2 争点
(1) 本件転勤命令が労組法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入に当たるか。
(2) P6発言が労組法7条3号の支配介入に当たるか。
(3) 被告の審問手続における違法の有無
3 当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(本件転勤命令が不利益取扱い及び支配介入に当たるか)について
ア 原告の主張
使用者は,業務上の必要に応じ裁量により労働者の勤務場所を決定することができるところ,本件転勤命令は,以下のとおり,業務上の必要に応じたもので,人選において適正であり,補助参加人に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでなく,不当な動機・目的をもってなされたものでないから,適法かつ相当であり,これを不当労働行為とした本件命令は違法である。(ア) 業務上の必要性に基づくこと
本件転勤命令は,看護学校において1名の専任教員(P4)が転出し,1名の専任教員心得(P2)が退職した後の人員を補充するため,業務上の必要があって発令したものである。なお,補助参加人の前任であるP4に対する転勤命令は,人道上の問題として長期の単身赴任を解消したいという動機からなされたものである。(イ) 事前の意向確認を行っていないことについて
原告本部の人事部は,約3500名の職員のうち70~80名の定期人事異動を一括して扱っており,事務量が膨大となることから,対象者に対する事前の意向確認は行っておらず,このことは労使間の人事慣行として確立している。したがって,本件転勤命令にあって事前に補助参加人の意向を確認しなかったことは何ら異例なことではない。また,看護学校教員にかかわる人事異動については,主任看護婦以下の看護婦も異動の対象となっていた。
(ウ) 人選が適正であること
原告は,P4の後任を選ぶにあたり,看護学校への通勤が可能な近隣病院であること,臨床指導協力病院であったこと,退職者P2が三条出身であったこと,過去にも教員赴任の実績があること等から,三条総合病院に勤務する看護婦から後任者を選ぶことがより適当と判断した。そして,三条総合病院勤務者から対象者を選出するにあたり,P4の看護学校での地位,年齢と,転出による現場への影響を考慮して,主任看護婦5名の中から選出することとし,この5名のうち家族に高齢者がいる2名を対象者から除外し,残る3名の主任看護婦の中から,原告が知り得た事情等を総合的に判断して,指導力があり,臨床指導が充分可能な経歴を持つ補助参加人を選出した。以上のとおり,本件転勤における人選は合理的で,恣意にわたるところはない。
なお,原告においては,看護学校専任教員又は同教員経験者以外で看護教員研修を受講した者はいないから,同研修の未受講者に対しても看護学校の専任教員に発令せざるを得ず,過去の実績でも,発令時点では同研修未受講であった者の方がはるかに多いから,補助参加人が同研修を未受講であったことは,看護学校教員としての適性を欠くことにはならない。厚生省(現厚生労働省)も研修未受講のP2が専任教員心得として教壇に立ち続けることに異議を差し挟まず,未受講者であるP2による講義等であっても,看護師受験資格付与に何らの支障がないものと取り扱っているし,組合からも異議を述べられたことはない。
(エ) 本件転勤命令が補助参加人に通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものではないこと
a 看護学校は補助参加人の自宅からの通勤圏内にあり,通勤上の不利益はない。b 看護教員研修を受講するための長期出張は一過性のもので,転勤と同視すべきものではなく,組合からも不利益を課すものとの指摘を受けたことはない。また,原告は,当該者の希望や家族構成などを配慮して,適当な時期を定めて出張させており,看護学校へ赴任後直ちに研修受講のため出張しなければならない扱いになっていたわけではない。一定期間研修を受けず,全く研修を受けないまま看護学校教員として勤務した者であっても,十分に職責を全うしていたほか,研修未受講であ
るがゆえに十分な内容の講義ができないなどといった問題は従前発生していない。 補助参加人に当時10歳の長男がいたことは著しい不利益の理由とはならない。高齢者や学齢期の子供を抱えながら研修を受講した者は相当数おり,補助参加人も三条総合病院では毎月8回程度の夜勤をこなしていたから,研修のため出張をしていても長男を養育することは可能であったし,原告は,研修派遣の時期決定に際し,家族構成等当該者の個人的事情に十分配慮して柔軟に対応してきた。また,当時50歳という補助参加人の年齢もハンディキャップとはならない。補助参加人とほぼ同年齢で,研修を無事終了し,専任教員としてその職責を十分に全うした者がおり,年齢的なハンディキャップは全くなかった。
c 看護婦から看護学校教員への転勤は職種変更ではない。
d 原告は,補助参加人が看護学校に赴任した後,新任であることを踏まえ,担当科目を減らしたり,母性保護等補助参加人が精通している分野を中心として受け持ちを決める等の配慮をする予定であった。
e 補助参加人が組合活動を行うについて不利益はない。
代議員ブロック単位でみれば,看護学校ブロック単位より少ないブロックは少なくない。また,当時組合中央支部は三条支部の2.7倍の組合員数を擁し,組合本部に対する影響力も大きいことに照らせば,看護学校に転勤すれば,補助参加人自身の影響力を増加させる可能性は大きいといえ,補助参加人の今後の組合活動にとって利益とも考え得る要素を包含している。しかも,組合は,組合員が組合活動のため看護学校から長岡中央綜合病院に移動する際にタクシーの利用を認めており,両者の距離的な問題は,組合活動の支障とならない。
(オ) 不当な動機・目的をもってなされたものでないこと
a 補助参加人は,本件転勤命令以前において,その組合活動のゆえに不利益的取扱を受けたことはない。
b 原告は,その施策を実施するためには組合本部と協議するシステムとなっており,三条支部が反対したからといって,これが実現できなくなるわけではない。原告が三条支部の活動及びこれに大きな役割を果たす補助参加人を嫌悪する必要はない。
c 本件転勤内示の時点(平成11年2月19日)において,原告本部は,三条支部が同年2月10日に新人員削減案に対し正式に拒否した事実を認識しておらず,原告本部は,同年3月11日,三条総合病院から同年3月9日付け「職員の採用並びに権限委託について」の書面を受けたことにより初めてこれを知った。本件転勤は,三条支部拒否回答に先行して準備が進んでいたものであって,三条支部の原告提案に対する対応との間には何ら関係がなく,本件転勤が不当な動機・目的をもって発令されたものではない。
(カ) 組合は一貫して本件転勤命令は不当労働行為に該当しないとしていること 原告は組合と十分な協議を重ねつつ,各種問題の解決を図り,組合との間で締結された労働協約を尊重し,遵守しながら人事異動を行っており,そのルールに則ってなされた人事異動は,労使関係の自律的要素を尊重する意味においても十分に尊重されなければならないところ,本件転勤命令に対し,組合は不当労働行為に該当しないとしている。
イ 被告及び補助参加人の主張
本件命令書に記載のとおり,本件転勤は,補助参加人の組合活動が原告の人員削減の障害となることを嫌悪して行われたものであり,労組法7条1号及び3号の規定に該当する不当労働行為である。被告の認定した事実及び判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
ウ 補助参加人の補足主張(原告主張に対する反論)
(ア) 業務上の必要性の欠如
原告は,本件転勤の必要性について一貫した説明,主張をしておらず,その変遷自体,業務上の必要性の欠如を物語るものである。
(イ) 事前の意向確認の欠如
原告においては,看護婦の転勤については,夜勤等があることから,他の職種と異なり本人の希望か同意がある場合になされるという労使慣行があった。本件転勤命令は,この従来の慣行からかけ離れた異例のものであり,このことも不当労働行為意思に基づくことを推認させる。
(ウ) 人選の合理性について
看護学校は,もともと長岡中央綜合病院の付属施設として設立された看護婦養成所であり,専任教員の最も多くが同病院の看護婦から選任され,これに次いで公募
による採用が多いにもかかわらず,長岡中央綜合病院から人選した形跡がなく,公募による採用も検討されていないことからすれば,看護婦数の少ない三条総合病院から人選する必要性も合理性も存在しない。また,P4の後任を選任するにあたって,同人と同年齢の者から人選する必要はなく,むしろ,県外での研修が予定されていることからすれば,若い看護婦を専任教員として養成する方が合理的である。(エ) 不利益性について
専任教員となるためには,県外の研修施設で1年間の研修を受講する必要があるところ,本件当時,小学生の長男がおり夫も新潟での勤務のため朝早くから出勤しなければならないという家庭状況にあり,しかも50歳を過ぎた補助参加人にとってこの研修を受講するには困難があったこと,看護婦・助産婦としての臨床経験しかなかった補助参加人を専任教員へ異動させることは,組織規程上も仕事内容の上でも職種の変更にあたることなどから,補助参加人にとっての不利益性は明らかである。
また,看護学校において日常的に接する組合員は僅か17名にすぎず,一つの代議員ブロックでしかない看護学校で日常的な組合活動をしてもその影響力は看護学校内にとどまる。場所的に離れた長岡中央綜合病院に対し,補助参加人の影響力を強めることは不可能である。三条支部における長年の組合活動による組合員の信頼をもとに支部長に選任された補助参加人にとって,本件転勤命令は補助参加人を三条支部から隔離するものであり,補助参加人の組合活動にとっても不利益を及ぼすものである。
(オ) 組合との関係
組合が本件転勤命令を不当労働行為ではないと判断しているのは,もと組合執行委員長であったP6参事が組合に対しその影響力を行使しているからにすぎない。(2) 争点(2)(P6発言が支配介入に当たるか)について
ア 原告の主張
原告が7協定の締結を留保したのは,このうちの「人事に関する協定」が組合員の転勤異動に関するものであって,本件のように転勤命令に対して組合員が徒に不当労働行為を主張して拒否するような事態となれば,原告としては労使協定が誠実に遵守されていないと判断せざるを得ず,労使協定を見直すための検討に入らざるを得ない状況にあったためである。他の協定についても一括して締結を留保したのは,7協定の更新日が全て4月1日であり従来一括更新してきたからであって,当初から締結をしないという意向はなかった。協定の中には,協約延長がなされないことによって,原告自身に不利益となるものも含まれている。
イ 被告及び補助参加人の主張
本件命令書に記載のとおりであり,P6発言は労働組合員である申立人の不当労働行為救済の申立てをする権利への明らかな干渉であって,労組法7条3号に該当する支配介入となる。原告の主張は理由がない。
(3) 争点(3)(被告の審問手続における違法の有無)についてア 原告の主張
被告は,平成14年2月4日の調査期日において,前年12月3日に審問が終結しているとして,原告が提出しようとした書証の提出を認めなかった。しかし,労働委員会規則40条13項,14項の規定からすると,審問の終結は,当事者の最終陳述の後,命令を発するに熟すると認められるときになされるものであるところ,被告は,本件命令を発するには最終準備書面の提出及び更なる調査期日が必要であると判断し,平成14年2月4日に調査期日を開き,当事者双方から同年2月15日付けで最終準備書面の提出を受けていたにもかかわらず,平成13年12月3日審問を終結し,原告の証拠提出の機会を奪った。
以上のとおり,被告は審問の終結の意味を十分理解することなく,審問の終結を理由に原告の証拠提出の機会を奪ったものであって,違法かつ不当である。イ 被告の主張
本件命令書第4の6記載のとおりであり,被告の審問手続に違法な点はなく,原告の主張は失当である。なお,被告は,第1回審問期日終了に際し,次回をもって審問を終結することを予告しており,にもかかわらず原告は当該証拠を提出しなかったのである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件転勤命令が不利益取扱い及び支配介入にあたるか)について(1) 認定した事実
前提となる事実,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり
認められる(証拠を掲記しない事実は争いがない。)。
ア 原告の人員削減案をめぐる労使交渉
(ア) 原告の経営状況等
原告は,平成2年以降赤字に陥り,平成10年度決算時には9億円余の累積赤字を抱える状態となった。
そのような状況下で,平成9年の原告役員改選期に,昭和46年以降26期連続して組合執行委員長の地位にあったP6(P6参事)に対し,原告から参事への就任要請がなされ,P6参事は,組合の承認の下,任期途中で執行委員長を辞任し,参事に就任した。これに伴い,副執行委員長の一人であったP1委員長が執行委員長代行となり,同年秋の組合大会で執行委員長に選任された。P1委員長は,P6執行委員長の下で,書記次長を2期務めた後,副執行委員長に選任され,平成9年当時は副執行委員長として2期目であった。(乙8,59,156,365)(イ) 三条総合病院における平成10年度人員削減の経過
平成9年12月3日,同年の年末手当をめぐる労使交渉が組合側の要求どおり3.0月分で妥結したが,その直後,三条総合病院を含む複数の病院事務長から組合支部に対し,一斉に人員削減の提案がされ,三条総合病院においても,同月4日,P5事務長から補助参加人とP8三条支部書記長(以下「P8書記長」という。)に対し,同病院における新年度人員計画について討議したい旨の申入れがされた。
この状況を受けて,同月6日に開催された支部役員学習会においては,各支部役員から本部役員に対し,年末手当と人員削減を結びつけた合意の有無を問う発言が相次いで出された。組合本部役員はこれを否定し,原告側からの人員削減の提案はいったん撤回された。
平成10年1月28日,三条総合病院側から三条支部に対し,同病院における平成10年度人員計画案が提案された。この提案は,看護部においては各病棟人員,更に薬剤部等看護部以外の人員の削減を内容とするものであり,5階病棟(産婦人科・内科・小児科混合病棟)においては4人を削減して29人体制とし,この削減の結果夜勤を4.0人体制から3.5人体制とするものであった。そして,病院側は,29人体制を前提として夜勤4.0人体制の場合と3.5人体制の場合の勤務表を作成した上,看護部長を通じて組合員に示し,29人体制の下で夜勤4.0人体制を組むことの無理を説いた。病院側が示したこの29人配置による3.5人夜勤体制は,昭和43年に成立した夜勤協定の内容に反するものであった。 三条支部組合員の間では,数年来原告の経営状況の悪化に伴い,5階病棟の3.5人夜勤体制が病院側から提案されていたことに加え,29人配置での夜勤勤務表のシュミレーションが示されたこともあって,補助参加人ら支部三役の意向とは異なり,病院側の提案を受け入れるべきという意見が大勢を占めるに至り,結局,同支部ではこれに同意することが決議され,同年4月以降,5階病棟は29人配置の勤務体制が,夜勤については3.5人体制が実施されることになった。(乙35,52,65,108,110,152,172,200・53頁,乙300,304,305)
(ウ) 三条支部による謝罪要求
三条支部は,同年4月15日,三条総合病院に対し,この5階病棟夜勤人員を巡る労使間の交渉途中に病院側が人員配置が29人であり動かない数字であるとしたこと及び病院側が支部に相談なく29人体制の勤務表を作成して組合員に示したことは不当労働行為に当たるとして,文書による謝罪をするよう申し入れた。病院側は,同年6月14日,三条支部に対し,5階病棟の3.5人体制への見直しに関し,三条支部の同意のないまま勤務のシュミレーションを作成したことにより職場に混乱を生じさせ,補助参加人から不当労働行為の指摘を受けたことについて遺憾の意を表明し,今後は留意に務めるとの釈明文を提出した。(乙31,32)(エ) 三条総合病院における平成11年度人員計画案をめぐる労使交渉 三条総合病院は,平成10年12月25日,三条支部に対し,平成11年度に5階病棟の夜勤体制を3.5人体制から3.0人体制とする提案を行った。 三条支部は,同月29日に三役会議を開催して対応を検討した。補助参加人は,夜勤人員削減は結果的には人員削減に直結するものであるところ,前回の人員削減提案時には,組合員の夜勤協定に対する理解が十分でなかったことが病院側提案を呑まざるを得ない結果につながったと考え,平成11年1月以降,三条支部内において,病棟の配置人員を減らすことは人員削減に直結する旨訴えるとともに,各病棟の入院患者数及び分娩状況などについて実地調査を行い,現場の実態把握に努め
た。
三条支部は,平成11年1月28日に開催された拡大代議員会において,上記結果を踏まえ,病院側の提案は受け入れ難いものであるとして,3.0人夜勤体制の提案を拒否することを決議し,同年2月10日,三条総合病院に対し,病院側の夜勤人員削減提案を拒否する旨を文書で通告した。
病院側が提案した人事計画案は,三条支部の同意が得られない限り,実施することができないものであった。
(乙110,151,300,305,307)
イ 本件当時の看護学校専任教員に関する事情
(ア) 看護学校の組織,教員構成等
看護学校には,学校長(長岡中央綜合病院長が兼務)の下に,教務部と事務部が置かれ,教務部には,教務部長,教務主任,専任教員が配置されている。 本件当時(平成11年3月31日現在),教務部の構成は,教務部長(副学校長)1人,教務主任2人,専任教員12人の15人体制であり,その年齢構成をみると,教務部長の56歳(看護学校在勤25年以上)が最高齢で,教務主任は53歳(同24年弱)と52歳(同25年),専任教員12人は,53歳2人(同23年と12年余),50歳1人(P4。同7年11月)のほか,40代の者が5人(同3年から5年8月),30代の者が4人で,専任教員12人の平均は42.25歳であった。このうち助産婦の資格を有する者は3名いた。
この15人は,概ね30代で看護学校に転入しており,転入時の年齢が最も高齢であったP4の場合でも42歳で,逆に最も若年で転入した者は転入時26歳であった。また,P4を含む50代の専任教員3名は,いずれも40歳前半までには看護教員研修の受講を終えていた。
看護学校は,もともと長岡中央綜合病院附属の施設として発足した沿革から,専任教員は同病院の看護婦から転任して来る者が多く,上記15人のうち,10人は同病院出身であり,他は三条総合病院が2人,糸魚川総合病院(P4)と魚沼病院が各1人,新規採用者が1人であった。なお,昭和49年度から平成10年度までの間に看護学校専任教員として転入又は採用された者の出身病院をみると,長岡中央綜合病院が17人,新規採用が10人,刈羽が5人,三条が3人,魚沼,糸魚川が各1人であり,長岡中央綜合病院出身者が圧倒的に多い。
三条総合病院からの転任は,平成2年8月1日付けで転入したP9(当時48歳前後)が初めてであり,その後,平成3年4月1日付けでP10(助産婦)が,平成9年4月1日付けでP2がそれぞれ三条総合病院から転入した。なお,P9は,平成10年3月31日付けで7年8月勤務した後退職した。
看護学校の専任教員を原告の職員から補充するときは,長岡に近い病院から希望者を募ったり,適任と思われる者に対し内示に先立って意向を打診するなどの方法が採られていた。また,原告においては,看護学校に欠員が生じた場合に,同人が選出された病院から後任を選任するという慣行はない。
(乙168,301,305,306,385,417)
(イ) 厚生省による指導とP2の退職申出
a 本件当時,厚生省の「看護婦等養成所の運営に関する指導要領」では,看護婦養成所の専任教員は,保健婦,助産婦又は看護婦として5年以上業務に従事していた者であって一定の機関による看護教員研修を受けた者であることが要件(この要件には除外事由があるが補助参加人はこれに当たらない。)とされていた。同研修は,当時は新潟県内ではほとんど実施されておらず,東京など新潟県外において受講する必要があり,その期間は,6か月から1年であった。
b P2は,新潟市内の病院に看護婦として7年間勤務した後,結婚を期に退職し,改めて住居に近い三条総合病院に就職した。同人は,当初から看護学校の教員を経験したいとの希望を上司に伝えてあり,平成9年初めころ,上司から同年3月31日付けで退職する専任教員の後任として転任することを打診されて承諾し,同年4月1日に赴任した。なお,同年3月31日付けで退職した教員は2人いたが(いずれも三条総合病院出身者ではない。),転入者はP21人であり,新規採用者もいなかった。
しかし,P2は,義父が病気になり,義母に育児を任せて研修のため長期出張をすることができない状況になったことから,教務部長に対し,平成10年3月31日付けで退職したいと申し入れたところ,P9が同日付けで退職する予定であることを理由に遺留され,平成10年度は職に留まっていた。
ところで,原告は,平成10年に翌年度から看護学校の入所定員を減じることを
予定して,厚生省に対し学則を変更することの承認を申請していたところ,同省は,平成10年10月22日に看護学校等の実地調査を行った上,同年12月18日付け文書でこれを承認したが,同時に,原告に対し,同省健康政策局長名の文書により,看護教員研修未受講の専任教員1名(P2)には看護教員研修を受講させること等3項目の指導事項を明記して看護学校の運営に関する指導を行った。P2は,実地調査の際も厚生省の係官から平成11年度には研修を受けるよう指導されていたものの,上記のとおり育児の関係で県外における長期研修を受講することが困難であったため,平成10年12月初旬ころ,原告に対し,翌年3月末をもって退職することを申し出た。(乙308,312,358,395,396)c 原告は,平成11年度に東京で行われる看護教員研修受講の締切りが平成10年12月末であったため,P2の退職申出を受け,同月下旬ころ,長岡中央綜合病院から推薦を受けて同病院に勤務するP3をP2の後任に充てる人事を内定した。(ウ) P4に対する転勤命令等
a P4は,平成3年5月1日付けで糸魚川総合病院から看護学校専任教員に異動となった。同人は,かねて看護教育に関心があり,糸魚川総合病院の主任看護婦(当時。現在は看護婦長に相当)であった平成元年6月から6か月間看護教員研修を受講した。しかし,この受講の前後,P4と同病院の他の主任看護婦らとの間に人間関係の軋轢が生じており,研修終了後糸魚川総合病院に戻るにあたり,P4は責任をとる形で主任看護婦の職を辞任し,看護婦として同病院に勤務した。しかし,その後もこの軋轢が解消せず,P4は,当時の専務理事の勧めもあって,看護学校専任教員となることを承諾し,平成3年5月1日付けでその旨発令された。P4は,単身で長岡に赴任し,以後平成11年3月31日まで7年11月看護学校専任教員を務めた。(乙263,327,335,371ないし373)b P4は,赴任した平成3年の秋,子供が小さかったこともあって,糸魚川への再度の転勤希望を出したことがあり,同年12月3日付けの組合本部から原告に対する「転勤希望実現のお願い」の文書に添付された転勤希望者一覧表にも,糸魚川への転勤希望者としてP4の名が掲げられていた。しかし,その後は看護教育への意欲が増したため,実母の介護等の問題が生じた時期も含め,転勤の希望は一切出しておらず,組合からの転勤希望者一覧表に名前が掲げられたこともない。(乙327,369,416,417,弁論の全趣旨)
c P4は,看護学校では小児看護を担当しており,平成8年のカリキュラム改正に伴って,3学年分の授業内容を新たに策定した上,平成9年度から実施に移しており,平成11年度は新カリキュラムによる生徒が最終学年を迎える時期であった。(乙327。なお,P4は,転勤後の平成11年7月及び9月に転勤先から出張し,引き続きこの授業を担当した。)
d 原告は,平成11年2月15日,看護学校事務部長を通じてP4に対し,同年4月1日付けで糸魚川総合病院への転勤を内示した。P4は,看護学校からの転出は全く念頭になかったため即答を避けたが,同部長から,話があるときに異動しておいた方がよいとの助言を受け,家族と相談の上,翌16日,異動を承諾する旨伝えた。なお,この内示に先立って,P4に対する原告側からの意向打診や現在の家族状況の調査等は一切なかった。(乙327,416)
e 他方,組合本部を通じて同年3月1日にP4の転入予定を知った糸魚川支部は,糸魚川総合病院に対し,同年3月2日付け文書により,この転勤には同意できず,転勤受入れは無効としてもらいたい旨を申し入れるに至った。これを受けた原告側は,組合本部を通じて糸魚川支部に対する説明の場を求め,翌3日,P6参事,P7人事部長及び組合P1委員長が糸魚川総合病院に出張し,同病院幹部職員及び組合糸魚川支部役員出席の下で,P4の転勤受入れ問題について協議した。この席で原告側は,同支部に対し,P4の単身赴任が10年以上続いていること,病院側は健診センターへの受入れを可能としていることを説明して円滑な受入れを要請した。
P7人事部長は,同月5日,P4と面談し,糸魚川総合病院の健診センターに婦長待遇で異動させること,将来地域保険推進センターが整備されたときには課長職となる含みであることを説明した。
ただし,同年4月1日に同病院健診センターに転任したP4の業務内容は,健康診断担当のもう1人の看護婦と大差のないものであった。(乙261,262,264,265,339,417)
ウ 本件転勤の内示・発令とその後の労使交渉等
(ア) P5事務長は,平成11年2月19日,補助参加人に対し,4月1日付け
で三条総合病院看護部主任より看護学校専任教員心得に転勤させる旨を口頭で内示した。この内示に先立って,原告から補助参加人に対する意向打診や家族状況調査等は行われなかった。
補助参加人がP5事務長に対して転勤理由を尋ねたところ,P5事務長は,具体的な理由を説明せず,三条総合病院から赴任したP2が退職する代わりだと思うなどと答えた。そこで,補助参加人は,P5事務長に対し,転勤の理由を原告本部に確認の上,三条支部へ文書で回答するよう申し入れた。(乙142) P5事務長は,同年3月1日,P7人事部長に確認の上,三条支部に対し,補助参加人の転勤の理由につき,①従来から三条総合病院より教員として転任してもらっていた,②このたび三条から転任していた教員が退職することとなり,後任として引き続き三条からの転任を決定した,③転任者として補助参加人が専任教員として適任であると判断した,と記載された文書を交付した。(乙254,乙307)(イ) 本件転勤内示後,三条支部は,後述するとおり,補助参加人の転勤に反対する支部総会決議をし,組合本部に対しても同様の取り組みをするよう要請するなどして活発な反対活動を行っていたが,原告は,その最中の同年3月12日,補助参加人に対し本件転勤を発令した。補助参加人は,同辞令の受領を拒否した。 なお,原告は,発令にあたり,受講申込期限が過ぎているとして補助参加人に看護教員研修を受講させる措置はとっておらず,当時,同研修を受けていない教員は「専任教員心得」とするよう県が指導していたことから,補助参加人に対する辞令も「専任教員心得」とし,転勤後に同研修の修了を待って「専任教員」とする扱いとした。
また,看護学校には既に助産婦資格をもつ教員が3名おり,うち2名は助産婦の業務と関連の深い母性看護学及び婦人科での実習指導を担当していたため,原告は,補助参加人には基礎看護学の基礎看護技術及び小児看護学の小児看護方法論Bを単独で担当(総授業時間は他の教員より少な目であった。)させ,小児科での実習指導及び保健所実習を他の教員と共同で担当させることとしていた。エ 原告における看護婦の人事異動の状況
(ア) 原告において勤務場所を異にする転勤をした者は,平成8年度は総数85名中看護婦19名,平成9年度は総数129名中看護婦28名,平成10年度は総数180名中看護婦44名(中条病院の赤字対策による転勤者を除くと25名)であった。なお,全職員に占める看護婦の割合は約54パーセントである。(イ) 原告においては,平成6年4月1日,従前の看護婦長を看護部長,副婦長を副看護部長,主任看護婦を看護婦長にするという看護部長制度を導入し,看護婦長の下に新たに主任看護婦を置いたが,この制度が導入された後本件転勤命令に至るまで,主任看護婦の転勤の例はない。本件以後においては,平成12年4月1日付けの看護部の人事異動で主任看護婦の転勤が2例あるが,いずれも看護婦長への昇格を伴うものであった。
(ウ) 本件転勤の行われた平成11年4月1日付けの看護部の人事異動(転勤及び同一勤務箇所内での配置替え)をみると,総数61名中主任看護婦以下(主任看護婦,助産婦,看護婦及び准看護婦)の異動者は53名であり,このうち転勤者は35名いたが,補助参加人を除く34名のうち,16名は転勤希望者であり,それ以外の18名は中条病院の赤字対策による転勤者であった。
(エ) 原告には,女性の転勤は原則として通勤範囲内とするという労使慣行がある。
(2) 判断
以上の事実に基づき,本件転勤命令が労組法7条1号(不利益取扱い)及び3号(支配介入)に当たるか否かを検討する。
ア 業務上の必要性について
(ア) P4に対する転勤命令の必要性について
原告は,P4に対する看護学校から糸魚川総合病院健診センターへの転勤は,人道上の問題として長期の単身赴任を解消するために行ったものと主張する。しかし,(1)イ(ウ)に認定のとおり,P4は,平成3年秋に糸魚川への転勤希望を出したことがあるものの,これが叶わなかった後は転勤の希望を全く出しておらず,上記転勤内示がされた平成11年2月15日当時にも糸魚川総合病院に戻りたいとする希望は有していなかった。むしろ同人は,当時,担当する小児看護教育等の職務に意欲的に取り組んでおり,自己の策定した新カリキュラムによる教育が遂行途中であったこともあって,この時期における転勤は,同人にとっては全く想定外の事態であり,その意に沿うものではなかったと認められる。そして,原告は,
P4の意向聴取や家族関係等の状況調査を一切行わないまま,2月15日に上記転勤の内示を行っており,同人に対する人道的配慮が同人を異動させる理由であるとすれば,これは極めて不自然なことである。
しかも,糸魚川総合病院に看護婦として勤務していたP4が通勤圏内にない長岡の看護学校専任教員へ異動した背景には,同病院現場の看護婦らとの人間関係における軋轢があり,そのような背景事情は原告においても当然承知していたはずであるのに(乙370によると,長く組合執行委員長の地位にあったP6参事は,平成元年にP4が看護教員研修から戻る際の処遇に関し糸魚川支部と病院側との話合いがもたれた際にも組合執行委員長として同席している。),P4を受け入れる糸魚川総合病院側の現場の意向を予め考慮した形跡もなく,3月2日に糸魚川支部から病院に文書で受入れ反対の申入れがなされるや,急遽,しかもわざわざP6参事とP7人事部長がP1委員長とともに糸魚川総合病院まで赴いてその説得に当たり,結局病院看護部とは異なる健診センターへの異動である旨説明するなどして了解をとりつけているのである。P4に対する上記転勤命令は,事前に関係者の意向確認・調整すらされずに性急に行われたものであり,その経緯も不自然という他ない。
他方,看護学校における事情をみると,P4の後任となる者が専任教員として看護学校に勤務するためには看護教員研修を受講させることが必要であり,原告は,平成10年12月,厚生省から看護教員研修未受講であったP2について研修を受講させるよう文書で指導を受け,このため,退職するP2の後任のP3については,平成11年4月から看護教員研修が受講できるよう,平成10年12月中には意向打診の上で人選を終えている。仮に平成11年4月の人事異動期にP4を看護学校から転出させるのであれば,後任者が看護教員研修を受講できるよう,P3のように前年12月中には人選を行うことが必要であり,P4に対する内示もそのころ行われるべきものと考えられるのに,原告は,そのような手だてを全くせず,平成11年2月15日に至ってP4の意向打診もなく転出の内示を行っており,この点においても,P4の異動は計画性を欠く唐突なものであったといえる。 以上要するに,本件当時,P4を看護学校から転出させなければならない客観的に合理性のある理由は見出せず,P4の単身赴任解消という人道的配慮がその動機であったするには余りに疑義が多い。
(イ) 人選について
原告は,補助参加人をP4の後任に選んだ理由について,①まず三条総合病院から選出することが適当と考え,②同病院勤務者の中でP4の地位,年齢と,転出による三条総合病院に対する影響を考慮して対象を主任看護婦に絞り,③家族に高齢者がいる者を除外し,④その他の事情を総合的に判断して補助参加人を選出したとする。
しかし,(1)イ(ア)に認定のとおり,看護学校に転出や退職で専任教員の欠員が生じた場合,転出又は退職した者の出身病院から後任者を選ぶという慣行はなく,本件前に三条総合病院から看護学校の専任教員となった3名も,そのような理由で選ばれたわけではない。そもそも,看護学校の沿革や地理的近さ,看護婦数(乙200の添付資料1-10によると,平成10年10月1日現在では長岡中央綜合病院が409人で原告の他の病院に比べ圧倒的に多く,刈羽郡総合病院が304人でこれに次ぐ。三条総合病院は169人で11病院中5番目である。)からすると,むしろ長岡中央綜合病院からの選任をまず考えるのが自然である。さらに,過去の例では新規採用者も相当数いたことを考えると,長岡中央綜合病院からの人選や新規採用を考慮せず,まず三条総合病院から選出するとしたこと自体が不自然である。さらに,後任を選ぶに際し,前任であるP4の当時の年齢や地位を考慮したことに合理性があるとは考えられず,むしろ,本件当時看護学校に在籍していた専任教員は全員30代から40代の初めに看護学校に転入していることや,P4の後任者は転入後6か月ないし1年の看護教員研修を受講する必要があることを考慮すると,30代ないし40代前半の年齢の者をまず対象として考える方がはるかに自然である。
さらに,前記(1)イ(ア)に認定のとおり,本件当時看護学校には助産婦資格を有する専任教員が3名おり,補助参加人が長年従事した助産婦業務の知識・経験を必要とする状況にあったとはいえず,その意味においても補助参加人を選出したことは不合理である。
そして,同認定のとおり,欠員の生じた専任教員を原告が設置運営する病院に勤務する看護婦の中から選ぶ場合は,長岡に近い病院から希望者を募ったり,適任と
思われる者に対し,内示に先立って意向打診するなどの方法が採られていたことからすると,そもそもそのような手順を全く踏まず,原告本部において一方的にその主張のような方法で後任者を選出し,内示すること自体が極めて不自然といえる。(ウ) 補助参加人に対する転勤理由の説明について
前記(1)ウ(ア)のとおり,三条総合病院のP5事務長が平成11年3月1日に補助参加人に対し,P7人事部長に確認の上で文書により回答した補助参加人の転勤理由には,三条から看護学校に転任していた教員(P2)が退任することとなり,後任として引き続き三条からの転任を決定した旨が記載されていた。しかし,(1)イ(イ)に認定のとおり,P2の後任としてP3が看護学校に転入することは平成10年12月に既に決定しており,補助参加人の異動はP4の転出に伴うものである。にもかかわらず,あえてその事実を伏せ,上記のような転勤理由の回答を行っていることには作為が感じられ,本件転勤命令の業務上の必要性それ自体について,強い疑念を抱かせる。
(エ) 主任看護婦に対する転勤の実例について
前記(1)エに認定のとおり,原告においては,看護婦の転勤は他の職種に比べると少なく,中でも平成6年4月に看護部長制度が導入された後の主任看護婦については,本件転勤命令に至るまで前例がなかったこと,本件転勤命令と同じ平成11年4月1日付け転勤者をみても,中条病院の赤字対策という特別な事情に基づく転勤以外は,いずれも本人の希望によるものであったことからすると,本件当時において,少なくとも主任看護婦以下の看護部職員の転勤については,本人の意向を配慮した上で発令を行うという労使慣行が存していたものと認められる。 にもかかわらず,本件転勤は,補助参加人の意向を事前に問うことなく内示され,本人が内示の受諾を拒否しているにもかかわらず発令されたという点においても極めて異例である。
(オ) 補助参加人の不利益について
補助参加人は,原告に就職して以来30年以上の間,助産婦として臨床現場に勤務することを専らとしてきたのであって,本件当時は原告の定年年齢である60歳(乙155)まで9年1月を残すのみである。そのような経験,年齢にある補助参加人にとって,自ら希望するわけでもない看護婦養成という新たな職責を課せられることは,それだけで精神的に過大な負担となるものといえる。のみならず,看護学校の専任教員となるためには,県外において6か月ないし1年間の長期にわたる研修を受講する必要があり,そのためには,必然的に単身赴任を余儀なくされるが,受講時には51歳以上の年齢に達しているはずの補助参加人にとって受講それ自体が精神的,身体的な負担となることは容易に想像されるところであり,まして小学生の長男があり,その養育を委ねられる同居の親もいないという補助参加人の家庭状況からすれば,研修受講のための単身赴任が本人及び家族に過大な負担を強いるものであることも明らかである(原告における「女性職員の転勤は原則として自宅から通勤圏内」という労使慣行にも実質的に反する。)。
原告は,同研修が一過性のものにすぎないとか,家庭の事情を考慮して研修受講時期は配慮する予定であったとか主張するが,6月以上,場合により1年にも及ぶ単身赴任での研修が補助参加人及びその家族に与える負担は,一過性のものとして軽視できる類のものではないし,厚生省の指導要領や平成10年12月に現実に原告に対して行われた文書による指導からすると,専任教員としての職務を遂行させながら,その者の看護教員研修受講を先送りにさせるというのは,看護学校(看護婦養成所)の設置運営者として許される発想ではない。
(カ) 小括
以上検討したところによると,本件転勤命令は,補助参加人にとって少なからぬ不利益をもたらすものであるところ,その発令の理由はP4の転出に伴うもので業務上の必要によるとされるが,P4の後任に補助参加人を人選することの合理性は全くといえるほど見出せない上,そもそもP4を看護学校から転出させたこと自体にも合理的理由が見出せない。そして,このP4及び補助参加人に対する転勤命令に関しては,前例や慣行に外れる点が余りに多く,異例かつ強引なものといえる上,補助参加人に対する当初の転勤理由の説明にも作為が感じられことを併せ考えると,本件転勤命令が業務上の必要に基づくものとは到底考えられず,むしろ,補助参加人を三条総合病院から転出させることそれ自体が目的であったと考える他はない。
イ 本件転勤命令前の労使関係について
他方,本件転勤命令に至るまでの労使事情をみると,補助参加人は,長年にわた
り三条支部の役員として支部活動の中心的役割を担っていたところ,前記(1)アに認定したとおり,三条総合病院においては,平成10年度人員計画案の実施直後,三条支部が病院側の行動は不当労働行為に該当するとして強く抗議し,同年6月に病院側が文書による釈明を余儀なくされるなど,補助参加人が当時配属されていた5階病棟の人員削減問題を中心に,労使が対立する状況が生じていた。そして,補助参加人は,平成10年12月に病院側から,平成11年度に5階病棟の夜勤人員をさらに削減する人員計画案を示されるや,病院側の提案を受入れざるを得なかった前年度の経験を踏まえ,実地調査を実施した上で支部組合員に病院側提案の問題性を訴えるなど,三条支部長として上記提案に反対する活動を活発かつ速やかに展開し,平成11年1月28日の拡大代議員会において,病院側の提案を正式に拒否する方針を決議させるに至り,同年2月10日には,病院側の提案を拒否する旨を文書で通告した。これにより,三条総合病院は,支部の同意が得られない結果,平成11年度人員計画案を実施することができない状況となった。 この事実によると,三条総合病院においては,本件転勤命令の直前である平成11年2月10日時点では,平成11年度人員計画案をめぐって労使間に極めて深刻な労使の対立が生じており,経営再建のため人員削減の方針を進めようとする原告病院側にとって,三条支部の中心的存在である補助参加人が,極めて大きな障害となっていたことが認められる。
ウ 本件転勤命令の不当労働行為性
以上のとおり,補助参加人に不利益を課す本件転勤命令には,業務上の必要性自体を肯定することができず,補助参加人を三条総合病院から転出させることそれ自体に主眼があったとみざるを得ないところ,本件転勤命令及び異動先の前任者であるP4に対する転勤命令がなされる直前の時期には,上記のとおり,人員削減問題をめぐって三条総合病院と三条支部との労使対立が深刻化し,三条支部における補助参加人の存在が病院側の経営方針実施に極めて大きな障害となっていた事実を照らし合わせると,本件転勤命令は,三条総合病院の実情を憂慮した原告が,三条支部の支部長としてその中心的地位にあった補助参加人の存在を嫌悪し,同人を三条支部から隔離して,三条支部の団結権を弱めようとする意図に基づいてなされたもので,労組法7条1号の不利益処分であるとともに,同条3号の支配介入行為であるといわざるを得ない。
原告は,三条総合病院の人員計画案に対する三条支部の拒否回答を原告本部が知ったのは,補助参加人への本件転勤命令の内示後である同年3月10日ころであると主張するが,各病院の新年度人員計画は原告本部の進める経営再建策及び4月期の人事異動計画と密接不可分な関係にあることからすると,およそ不合理な主張であって,採用の限りではない。
なお,組合が本件転勤命令は不当労働行為に該当しないとの見解をとっているとしても,そのことは上記判断を左右するものではない。
2 争点(2)(P6発言が支配介入にあたるか)について
(1) 認定した事実
ア 平成11年3月25日の話合いに至る事情
三条支部は,補助参加人に対する本件転勤の内示がなされた平成11年2月19日以降,同月26日に臨時支部総会を開催してこの転勤に反対する決議を行い,組合本部に対し転勤反対について取り組むよう要請し,これを受けた組合は,3月4日原告に対し,補助参加人の転勤撤回と団体交渉を申し入れ,いったん同月11日の団体交渉開催が決定された。しかし,3月4日にP6参事がP1委員長とこの問題について会談した後,組合本部の申入れによりこの団体交渉は延期されることとなり,P1委員長は,3月5日,三条支部三役に対し「今後の闘いを進める上で必要な検討事項」を示した。三条支部は,これを受け,同月11日から改めて投票による支部決議を実施した上,支部組合員249人のうち賛成票144(反対81票,無効21票,棄権3票)の結果を得て,3月15日,本件転勤命令につき不当労働行為として三条支部で取り組むことを決議,決定したが,3月19日の組合中央委員会では,三条支部からの支部長転勤反対決議要求は否決された。(乙53ないし55,110,142,200,224,225,301,303ないし305,377)
他方,原告は,3月16日,組合本部に対し,補助参加人が転勤を受諾しないことに関して懲戒委員会を開催することを口頭で申し入れた。
イ 3月25日のP6発言
同月25日,組合本部の申入れにより,原告,組合本部及び三条支部の三者の間
で本件転勤命令に関する話合いが行われた。
P6参事は,「本件転勤は従来の慣行に従って行った異動である。組合から役員の異動について変更の申入れがあれば慎重に対処したい。」と述べ,これを受けてP1委員長は「組合役員の転勤異動の慣行について変更を求める考えはない。今回の問題も組合の機関決定で不当労働行為とは決めていない。」と述べ,労使間で人事協定及び労使慣行について,労使双方とも従来どおりの見解であることを相互に確認した。
これに対し,三条支部は,今回の転勤命令は従来の労使慣行に反すると主張し,本件転勤命令の撤回を申し入れた。
P6参事は,三条支部の主張を受け,もし転勤命令に異を唱えるのであれば懲戒委員会の手続をもって対処する旨述べ,また,組合に対し,地方労働委員会への不当労働行為救済申立てがされるのであれば労使間の7協定を更新日である4月1日に延長締結しない旨述べた。
(乙27,52,134,170,308,312。なお,乙135には,P6理事の7協定に関する上記発言は含まれていない。しかし,組合は3月30日に新潟地労委にあっせんを申請しており,その申請書(乙170)には,上記発言のような原告の主張は受入れられない旨,また初回団交日が3月25日である旨記載されており,この事実からすると,乙135が上記認定を妨げるものとは考えない。)ウ 3月31日のP6発言
原告,組合本部役員及び各支部中央委員は,同月31日,団体交渉を開催し,その席上において,P6参事は,前提となる事実(4)イのとおり,補助参加人が個人としても不当労働行為救済申立てや訴訟の提起に及んだ場合には,同日で失効する原告と組合との7協定すべてについて延長締結せず,翌4月1日から無協約状態にする旨発言した。
これに対し,P8書記長らが,個人が救済申立てをすることと,原告と組合全体との間で労働協約を締結しないことは別の問題であるとの反論を述べたところ,P6参事は,「我々はそういう見解には立たない。結びません。留保します。4月1日から。」,「さっきから同じことをなんべんも言っているんでね。少し分かる人から教えて貰ってください。」等とと強い口調で発言したため,出席した支部役員らは,自由に発言することができない雰囲気となり,P1委員長もP6参事に対し,協定の延長締結をあらためて依頼した。
その後,組合本部三役と原告幹部らが対応を協議した結果,組合として新潟地労委に対し救済申立てなどの法的措置は採らない,従来の協定,慣行を尊重するという従来の関係を維持することを前提として,労働協約を延長締結する方針が確認された。
(甲151,152,乙110,142,乙301,305,312,417)(2) 判断
上記認定のとおり,P6参事は,平成11年3月25日の組合及び三条支部との話合い及び同月31日の団体交渉の各席上,三条支部もしくは補助参加人個人で救済申立てをするのであれば,原告と組合との間の7本の労働協約の延長締結を一括してしない旨発言し,とりわけ3月31日の席上では強い口調でその発言をした。 労働委員会に対する救済申立ては,組合員が個人としてでも自由になし得ることはいうまでもないところ,補助参加人個人が不当労働行為救済申立てをすることと,原告と組合との間の協約を締結しないこととは何らの合理的な関連性が認められないのであって(この点に関する原告の主張は到底採用できない。),P6参事による上記発言は,無協約状態をおそれる組合本部及び三条支部の危惧感を利用して,組合の協力の下に,補助参加人に対し,事実上救済申立てを断念させるよう圧力をかける意図でなされたことが明らかであり,労組法7条3号の支配介入にあたる。なお,組合員である補助参加人個人も,労組法7条3号の支配介入について救済を申し立てることができることはいうまでもない。
3 争点(3)(手続違背)について
原告は,原告が審問手続終結後に書証を提出しようとしたところ,被告が審問を再開せず,その提出を認めなかったとして,本件命令に手続上の違法があると主張する。しかし,審問終結後に証拠の申し出がなされた場合において,審問を再開するか否かは,申し出の時期,証拠価値等を勘案して被告がその裁量により判断すべきものであるところ,本件において,被告が審問を再開し証拠の提出を認める措置をとらなかったことが,その裁量の範囲を逸脱する違法なものであるとすべき事情は認められない(かえって乙417によれば,平成13年12月3日の尋問終了後
に被告が審問を終結しようとした際,補助参加人の側が反証のため書証追完の機会を強く求めたが,被告の審査委員はその必要がないとの見解を示し,結局補助参加人及び原告の当事者双方が互いにこれ以上の証拠は提出しないことで了解して審問が終結されたことが認められ,この経緯からすれば,被告が審問を再開しなかったのはむしろ当然といえる。)。
原告の主張は独自のものであって採用できない。
4 結論
以上のとおり,本件命令は適法なものであるから,その取消しを求める原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官 三代川三千代
裁判官 龍見昇
裁判官 鈴木昭洋
(別紙1)
命令書
新潟県三条市<以下略>
申立人 P11
新潟県新潟市<以下略>
被申立人 新潟県厚年農業協同組合連合会
代表理事会長 P12
上記当事者間の新労委平成11年(不)第1号不当労働行為救済申立事件について、当地方労働委員会は、平成13年1月18日、第1,288回公益委員会議において、会長 公益委員 P13、公益委員 P14、同 P15、同 P16、同 P17が出席して合議の上、次のとおり命令する。
主 文
1 被申立人は、申立人を平成11年4月1日以降三条総合病院看護部主任から長岡中央看護専門学校専任教員心得に転勤させる旨の同年3月12日付け辞令を取り消し、申立人を三条総合病院看護部に主任として勤務させなければならない。2 被申立人は、申立人に対し、平成11年4月1日から申立人が原職に復帰するまでの間、同人が原職で勤務していれば受けるはずであった給与及び賞与に相当する額(既払額を除く。)を支払わなければならない。
3 被申立人は、申立人の本件不当労働行為救済申立てを阻止したり、取り下げさせるため、新潟県厚生連労働組合及び申立人に対し、同組合との労働協約、労働協約覚書の不締結を通告するなどして支配介入をしてはならない。
4 申立人のその余の申立てをいずれも棄却する。
理 由
第1 事案の概要
本件は、申立人P11と被申立人新潟県厚生農業協同組合連合会(以下、「連合会」ともいう。)との間で、連合会が、新潟県厚生連労働組合(以下、「組合」又は「組合本部」という。)三条総合病院支部(以下、「三条支部」という。)の支部長であった申立人に対し三条総合病院から長岡中央看護専門学校(以下、「看護学校」という。)へ転勤を命じたこと、同転勤(以下、「本件転勤」という。)発令以降、申立人が三条総合病院の施設内に立ち入ることを禁止及び妨害したこと、申立人が作成した「支部長P11」及び「P11」名の文書を受け付けない等の申入れをするなど支部長であることを否認したこと、三条支部の組合員に対し「P11を支援する会」に自主的に参加、協力することに威嚇、規制を加えたこと並びに申立人が不当労働行為救済申立てをした場合には労働協約等を締結しないと組合に通告したことが本件の救済申立てをさせないための圧力であり、いずれも不当労働行為であるとして争われた事案である。
第2 当事者の主張
1 申立人の主張の概要
(1) 申立人は、昭和41年に三条総合病院の准看護婦として就職し、昭和44年に進学のためいったん退職したが、昭和47年に再び三条総合病院に助産婦として就職し、現在看護部の主任である。昭和47年に三条支部の役員となり、平成4年からは連続して支部長であった。
(2) 平成9年、組合の執行委員長であったP6が連合会参事に転身して以来、
連合会の合理化の動きが強まり、その中で正規職員の削減についていわゆる「150人削減問題」が生じた。三条総合病院においても夜勤人員削減の提案がなされ、平成11年度についても平成10年12月25日に三条総合病院の夜勤人員を病棟当たり3.5人から3.0人へ削減する提案があり、病院側からこれに応ずるよう執拗な攻撃があったが、三条支部は、平成11年2月10日に受入れ拒否回答をした。
(3) 同年2月19日に申立人に対し、看護学校へ専任教員心得として転勤させる内示がなされた。これは、合理化を進めようとする連合会が、申立人が三条支部の支部長である限り、三条総合病院の合理化を進めることができないと判断し、申立人を三条支部から引き離す目的で行ったものである。
(4) 看護婦から看護学校の専任教員心得への異動は、職種の変更であって、事前の説明と打診が行われるのが通常であり、また、看護婦は非転勤職種であり、転勤には本人の希望又は同意が必要とされていた。組合も組合員の転勤については、「転勤には本人と支部組合の了解が必要であるというのが労使合意の内容である。」と認識している。
(5) 同年3月25日及び31日の団交の席上、連合会は「本件転勤について、申立人又は三条支部が不当労働行為救済の申立てをするなら、地労委の結論が出るまで、労働協約、覚書の締結は保留する。」と3月31日で期限が切れる7本の労働協約、覚書の延長締結を拒否して、申立人又は三条支部が不当労働行為救済の申立てをしないように圧力をかけた。
(6) 4月以降も申立人は三条総合病院に出勤し、組合事務室で支部活動をしていたが、4月8日に連合会は、同病院長名で「支部長P11」及び「P11」名での文書受取拒否を通告し、申立人が三条支部の組合事務室で支部長として活動していることを知りながら、「支部長不在」であるとして申立人が三条支部の支部長であることを否認した。
(7) 4月12日に連合会は三条総合病院内立入禁止を病院長名で申立人に通告し、組合事務室にも出入り禁止とした。これは、申立人が三条支部で支部長として組合活動をすることを敵視し、申立人を排除する目的でなされたものである。(8) 4月14日に「P11を支援する会」(以下、「支援する会」という。)が結成されたが、連合会は、21日に「P11の転勤拒否問題をめぐる行動の自粛要請について」と題する病院長名の文書を職場全員に配布し、三条支部の組合員が「支援する会」に自主的に参加することに対して威嚇、規制を行った。(9) 本件転勤命令は申立人を三条支部から排除し、三条支部を弱体化するためになされたものである。また、連合会が、全部の労働協約等の締結を保留して個人申立てをさせないようにしたり、病院長名で支部長であることを否認したり、三条総合病院内への立入りを禁止したり、申立人を支援する組合員や支援活動を妨害することなどの様々な手段を使って申立人を転勤させようとしたことは、申立人を三条支部から排除しようとする意図によるもので、不当労働行為であることは明らかであり、以下のような救済を求める。
ア 被申立人は、三条支部の支部長である申立人に対し、平成11年4月11日以降三条総合病院看護部主任から看護学校の専任教員心得に転勤させる辞令を取り消し、従来どおり三条総合病院の看護部の職場に勤務させなければならない。イ 被申立人は、申立人が三条支部の組合事務室をはじめ、三条総合病院の施設内に立ち入ることを禁止したり妨害したりして、申立人の三条支部組合員及び三条支部の支部長としての組合活動上の不利益を与え、かつ、組合及び三条支部の組合活動に支配介入してはならない。
ウ 被申立人は、三条支部に対し、「支部長P11」及び「P11」の名をもって提出された文書を受け付けない等の申入れをするなどして、適正に選出され、かつ、組合規約上現に正当な支部長であるP11が三条支部の支部長であることを否認し、他の対応措置をとるよう圧力をかけるなどして、もって、三条支部の組合の運営に支配介入し、かつ、申立人に対して申立人が三条支部の支部長としてする組合活動上の不利益を与えてはならない。
エ 被申立人は、「支援する会」に、三条支部の組合員が自主的に参加、協力することに対し、「病院機構に混乱をきたすもの」と威嚇、規制するなどして、三条支部の組合活動に支配介入してはならない。
オ 被申立人は、組合や申立人に対し、三条支部や申立人が不当労働行為の申立てをなした場合は、労働協約等をすべて締結しない旨を通告して不当な圧力を加え、三条支部に不当労働行為の申立てをしないよう仕向け、かつ、申立人に対して不当
労働行為の申立てを取り下げるよう圧力を加えてはならない。
カ 被申立人は、申立人が平成11年4月1日から原職に復帰するまでの間、三条総合病院に勤務していれば受けるはずであった給与及び賞与に相当する額を支払わなければならない。
キ 被申立人は、申立人に上記アからオまでの内容の謝罪文を交付するとともに、同内容の文書を三条総合病院の職員の出入口の見やすい場所に2週間掲示しなければならない。
2 被申立人の主張の概要
(1) 連合会が申立人に対して本件転勤命令を出したことは認めるが、本件転勤命令については、上記申立人の主張の概要(3)後段のような意図はなく、業務上の必要があって合理的な人選を行った結果のものであり、連合会において転勤の必要性は、全施設のすべての職種に生じている。
(2) 上記申立人の主張の概要(4)の労使合意は否認する。
転勤についての組合との労使慣行は、以下のとおりである。
ア 組合本部三役については事前協議する。
イ 組合員については内示を発令40日前に本人及び組合に通知する。ウ 本人の健康上の理由及び家族等に転勤することで支障がある場合は、組合を通じて話があった場合は考慮する。
エ 女性の転勤は原則として通勤範囲とする。
オ 単身赴任については3年を目処に通勤範囲に戻す。
(3) 看護学校の教員として申立人が選任されたのは、平成11年2月初旬に、急遽、看護学校から糸魚川への転勤が発生したが、後任の人事について時間に余裕がなく、教員養成講習の受講が当面困難なことから、長岡、刈羽、三条、栃尾、魚沼も含め臨床指導ができ、指導力のある主任以上の中から選出することとなった結果である。
教員人事は重要事項であるが、看護婦転勤と特に区別しているものではなく、まれに病院からの推薦がある場合があっても、選出の責任は連合会の人事部にあり、必ず推薦に従っているものではない。なお、助産婦と専任教員は、職名も別で、形式的には職種が異なるといえるが、同意が必要な職種変更と取り扱われていないし、給料表に変更もなく、待遇面でも同一である。
(4) 上記申立人の主張の概要(5)は否認する。
3月31日のP6参事の発言は、「協定を結ばないとは言っていない。地労委が受理し、どう判断するかをみて会としての対応を決めたい。今までの協定、慣行に影響が出てくることもあるので、締結は少し待ってほしい。地労委から別の見解が出てくれば、それに従わなければならない。」としているに過ぎない。支部長の本件転勤が即不当労働行為とされるなら、これまでの取扱いと異なることになり、労使全体の協定及び慣行に影響しかねないとの判断に基づいたものである。(5) 上記申立人の主張の概要(6)は誤解である。三条総合病院長が4月8日付け文書を組合に通知したのは、申立人が、3月29日に三条総合病院あてに転勤反対に関する「支部長P11」及び「P11」連名の書面を提出したが、これは、連合会と組合支部との間の文書取扱いの慣行とは異なっており、対組合事務処理が混乱しかねないと判断したからである。
(6) 上記申立人の主張の概要(7)も誤解である。申立人が、4月以降、本件転勤命令にもかかわらず三条総合病院に出勤し、制服を着用して各職場にあいさつ回りの行動を続けたので、三条総合病院長は、他の職員の業務や患者への影響を懸念し、4月12日付け書面で赴任命令に従うことと勤務時間内の病院施設立入りを禁止したものである。
(7) 上記申立人の主張の概要(8)も誤解である。三条総合病院長が4月21日付け文書を配布したのは、本件転勤を不当労働行為との認識のない連合会としては、「支援する会」の参加者が他の職員に執拗に参加を勧誘したり、職員同士が対立するような雰囲気が生じかねない可能性を懸念したためである。ことさら組合活動を抑制する目的のもとで事実と異なる内容を職員に示すとか、組合を嫌悪ないし支配介入するなどの場合は別にして、連合会が職員に職場秩序維持の立場から、その認識に基づいて使用者としての見解を示したことに何ら問題はない。(8) 以上のとおり、本件申立てにはいずれも理由がなく、すべて棄却されるべきである。
第3 当地方労働委員会が認定した事実
本件につき、当委員会が疎明資料によって認定した事実は以下のとおりである。
1 当事者
(1) 申立人
申立人は、昭和41年、連合会三条総合病院に准看護婦として就職し、昭和44年、進学のためにいったん退職した後、刈羽高等看護学院に入学、更に新潟大学医学部付属助産婦学校に進み、昭和47年に再び同病院の助産婦として就職、その後は一貫して同病院に勤務し、申立て時においては看護部主任であった。 また、昭和47年に三条支部の青年部役員、同部長を務めた後、昭和50年以降は支部長、書記長、支部委員等を歴任し、平成4年から申立て時まで同支部の支部長の任にあった。
(2) 被申立人
連合会は、職員数約3500人を有する農業協同組合の連合会で、新潟県内において12の病院を有している。
2 労働組合組織
(1) 新潟県厚生連労働組合
連合会には、組合が存在し、組合員数は約3000人で、11の支部を有している。
(2) 三条支部
連合会の病院の一つである三条総合病院には、三条支部があり、組合員約250人を擁している。同支部は、役員である支部長、副支部長(4人)、書記長、支部委員(16人)を選任し、支部定期総会を開催し、支部会計を有して運営されている。
3 人員削減
(1) 連合会は、平成2年以降赤字となり、平成10年度決算時においては9億円余の累積赤字を抱える状態となった。この厳しい経営状態は、組合内でも委員会等の機会に議題に上り、また様々な機関紙にも記事として取り上げられるところとなった。
このような状況下での平成9年秋闘において、組合は年末手当3.0月分を要求し、同年12月3日、交渉は組合側の要求どおり妥結した。
(2) 上記(1)の直後である同月4日、三条を含む複数の病院事務長は、この日一斉に人員削減を提案した。中には、前記年末手当3.0月分と引換えに150人の人員削減を行うことになっていると明言し、或いは各職場に赴いて具体的な職場ごとの削減人数を示し、この部署は削減対象になっていると告げる事務長もあった。
三条総合病院においては、P5事務長(以下、「病院事務長」という。)は、人員削減提案に関する具体的な数字は示さなかったが、年末手当も出たことであるから新年度人員計画について討議したい旨を支部三役に申し入れた。(3) 同年12月6日、長岡市で開催された組合本部役員及び支部役員学習会において、各支部役員から、年末手当妥結直後の人員削減提案について事情の説明を求める質問が本部役員に対して相次いだ。これに対して本部役員からは、連合会と組合本部の間にそのように年末手当と人員削減を結び付けた合意はない旨の回答があった。
(4) 平成10年1月28日、平成10年度人員計画案が、三条総合病院から三条支部に提案された。この提案は、看護部においては各病棟人員、さらに薬剤部等看護部以外の人員の削減を内容とするものであった。5階病棟においては4人を削減して29人体制とし、この削減の結果夜勤については4.0人体制から3.5人体制とするものであった。29人の配置による3.5人の夜勤体制は、昭和43年の夜勤協定の内容に反するものであったが、病院側は29人体制による勤務表を作成の上これを組合に提示し、その人員で4.0人夜勤体制を組むことの無理を組合員に説き、一部の組合員にはこれを止むを得ないものとする雰囲気もあった。 三条支部は、拡大代議員会において、休日にのみ3.5人体制で夜勤を行う、この体制で3か月間試験的に勤務を行う、その結果を踏まえて再び議論を行う、という妥協案を決議し、これを病院側に提出した。
しかし、同年3月、病院事務長らは支部役員に対し、29人体制を所与のものとして夜勤体制に関する病院側提案を受け入れるように説得し、その結果、組合員の間では3.5人夜勤体制を受け入れるべきという意見が大勢を占めるに至って、病院側の提案に同意することが決議された。
この結果4月から、5階病棟は29人の人員での勤務体制を、また夜勤については35人体制を実施した。

(5) この人員削減を巡る労使間の交渉の中で、三条支部は、病院側が支部に相談なく29人体制の勤務表を作成して組合員に示したことが不当労働行為に当たるとして病院にその旨の申入れを行った。
6月14日、病院事務長はこれに対し文書をもって釈明した。
(6) 平成10年12月25日、三条総合病院は三条支部に対し、5階病棟の夜勤体制を3.5人体制から3.0人体制とする旨を提案した。
三条支部は、12月29日に三役会議を開催し対応を検討した。 P11支部長は、夜勤人員削減は結果的には人員削減に直結するものであるところ前回の人員削減提案時には、組合員の夜勤協定に対する理解が十分でなかったことが病院側提案を飲まざるを得ない結果につながったと考え、翌平成11年1月5日の支部委員会をはじめとして支部内で討議し、また各病棟の入院患者数及び分娩状況などについて実地調査を行い、現場の実態把握に努めた。
その結果を踏まえ、三条支部は、1月28日に開催された拡大代議員会において、病院側の提案は受け入れ難いものであることを確認し、3.0人夜勤体制の提案を拒否することを決議した。
2月10日、三条支部は、三条総合病院に対し、病院側の夜勤人員削減提案を拒否する旨を文書で通告した。
4 長岡中央看護専門学校の人事異動
(1) 平成10年12月、連合会は、看護学校教員P2の退職に伴い、長岡中央綜合病院看護婦P3を後任に充てる人事を行った。
P3の選任に当たっては、長岡中央綜合病院からの推薦があった。(2) 平成11年2月15日、連合会は、看護学校専任教員P4に対し、平成11年4月1日付けで糸魚川総合病院検診センターへ異動させる旨の転勤内示を行った。
P4は、平成元年に糸魚川総合病院看護部から、看護教員研修を経て看護学校専任教員に転じ、11年4月に転出するまで、およそ10年間にわたり同校看護教員の職にあった。
P4は、看護教員職に就いた当初は、糸魚川への再度の転勤の希望を組合を通じて出していたが、教育現場での経験を積むにつれその職務に意義を見いだし、通信教育を利用して大学で児童心理学を学ぶなど自己研鑽に励み、看護教育に意欲をもっていたことから、内示当時においては糸魚川へ看護職として戻る希望を出していなかった。
そのため、内示を受けても即答せず、翌16日になって転勤を受諾する旨回答した。
5 申立人への転勤内示
(1) 平成11年(これ以降、年の記載のないのはすべて平成11年の意である。)2月19日午後5時過ぎ、病院事務長は勤務中の申立人を事務長室へ呼び出し、P8三条支部書記長を伴って事務長室に赴いた申立人に対して、4月1日付けで三条総合病院看護部主任より看護学校専任教員心得に転勤させる旨を口頭で内示した。
申立人は転勤理由を問うたが、病院事務長は、理由はわからない、と答え、申立人は、本件転勤の受諾を拒んだ。
なお、本件転勤内示に先立って、連合会から申立人に対する意向打診、調査等はなかった。
(2) 2月22日、申立人の転勤内示を受けて、三条支部は三役会議を開催し、支部長転勤について支部委員会及び支部総会で討議することを決定した。 同日夕方、三条支部は支部委員会を開催した。委員会では出席者から、本件転勤内示は不当であるとの意見が出された。
(3) 2月26日、三条支部は臨時支部総会を開催し、支部長である申立人への本件転勤命令は不当労働行為であり、これに反対する支部決議を中央委員会に提出し、その上で組合本部にP11転勤反対について取り組むよう要請する決議をした。
(4) 3月2日、三条支部は組合本部に支部総会決議を報告した。 組合本部はこれを受け、申立人の転勤につき三条総合病院と団体交渉をもつよう三条支部を指導した。
3月3日、三条支部はこれを受け、申立人の転勤を取り消すように、三条総合病院に対して交渉を申し入れた。
(5) 申立人は先に転勤理由について文書で回答するよう病院事務長に申し入れ
ていたところ、病院事務長は連合会本部のP7人事部長に確認の上、3月1日に回答「P11さんの看護学校への転勤内示について(支部からの申出による本部確認)」を申立人に手渡した。
当該文書では、
ア 三条総合病院から看護学校へ転出していた教員(P2)が退職することにより、同校に欠員が生じたので、引き続き三条総合病院から後任を選んだことイ 申立人を教員として適任であると認めたこと
が理由として述べられていた。
6 申立人の転勤内示を巡る連合会と組合の動き及び申立人の不当労働行為救済申立て
(1) 3月3日、P6参事、P7人事部長及び組合本部のP1執行委員長が糸魚川総合病院に出張し、病院長以下病院幹部職員及び組合糸魚川総合病院支部長以下支部役員の出席で、P4の糸魚川への転勤について上記の者による話合いの機会がもたれた。
糸魚川総合病院では、平成元年にP4が糸魚川から転出した当時の病院内部での人間関係の軋轢がいまだしこりとなって残っており、この話合いは組合糸魚川支部がP4転入に関する事情の説明を求めたことを受け、組合本部を通じて連合会に申し入れたものであり、P4の受入れ調整のための機会であった。
この場で連合会側は、P4の単身赴任が10年以上続いていること、また病院側も検診センターへの受入れを可能としている等の事情を糸魚川総合病院支部に対し説明し、円滑な受入れを要望した。
(2) 3月4日、組合本部は、三条支部総会の議案書をファックスで入手し、この三条支部の決議を受けて、連合会に申立人の転勤の撤回及び団体交渉を申し入れた。
(3) 同日、組合本部より三条支部に電話があり、その日申し入れた団体交渉が3月11日に行われることが決定した旨伝えられた。
(4) 同日、P6参事はP1執行委員長と会談し、申立人の転勤に関する三条支部の決議及び組合本部からの団交申入れに関連し、支部長の転勤の可能性に対する組合本部の考え方をただした。
P1執行委員長は、支部長の今回の転勤は組合に対する支配介入ではないこと、この点については、組合本部としての考え方に変更はない旨を回答した。(5) 翌3月5日朝、P1執行委員長から三条支部副支部長に、三条支部において支部三役会議を開催するので、支部三役を招集するようにとの指示があった。 この組合本部要請による三役会議の場で、P1執行委員長は3月11日の団体交渉の延期を申し入れることとなったと伝えた。
同委員長は、延期の理由及び今後の指導として、今後の闘いを進める上で必要な検討事項」を示し、転勤反対で闘うのであれば、
ア 反対の闘いのあり方、不当配転か、不当労働行為か
イ 救済申立て、仮処分申請を行うのは、P11個人なのか、支部なのかウ これらの手続をとった場合のその後について
それぞれ明確にすること及び「一層明確な支部の反対決議」が必要であることを、支部役員に申し渡した。
(6) 他方、同日P7人事部長は看護学校にP4を訪ね、同校事務部長立会いで、P4は糸魚川総合病院の検診事業拡大の方針により検診センターに配属になること、またその業務の内容及び転勤後の待遇等を説明した。
(7) 3月8日、組合本部は、11日に予定していた団体交渉の延期と申入れ内容の撤回を連合会に申し入れた。
同日、P1執行委員長は当地方労働委員会事務局に赴き、不当労働行為救済申立て書式の交付を受けた。
また、申立て書式はその後三条支部に送られ、不当労働行為救済申立てに関する指導が行われた。
(8) 3月8日、三条支部は拡大代議員会を開催し、「一層明確な支部の反対決議」を得るため、投票により支部の決議を行うことを決定し、11日からこれを実施した。
投票の結果は、当時の全支部組合員は249人であるところ、賛成144票、反対81票、無効21票、棄権3票であった。
この支部投票の結果を受け、3月15日に開催された拡大代議員会で、P11支部長に対する本件転勤命令について、これを不当労働行為として三条支部で取り組
む方針を確認し決議した。
またその後開催された支部役員会において、支部長転勤に関する今後の具体的取組について、三条支部として不当労働行為救済申立てを行うこと等を決定した。(9) 3月11日、P1執行委員長は組合本部役員及び三条支部三役あてに「支部長転勤選挙についての文書に関して」を出した。
その中で同委員長は、自分が3月5日の三条支部三役会議でした指導は、「今後の闘いを進める上で必要な検討事項」のとおりであり、「支部としての決議」を求めたものではないとして、三条支部の「支部長転勤の選挙について」という文書に記載されていた執行委員長の指導に関する部分について訂正を求めた。(10) 3月12日、連合会は申立人に対して、平成11年4月1日付けで看護学校専任教員心得を命じる辞令を出した。
申立人は、辞令の受取を拒否した。
(11) 3月16日、連合会は組合本部に対し、申立人が転勤を受諾しないことに関して、懲戒委員会を開催することを口頭で申し入れた。
また、P1執行委員長は3月17日付け「三条支部P11支部長の転勤に関して」を出し、連合会から懲戒委員会開催の申入れがあったことを本部三役及び三条支部三役に伝えた。
(12) 3月19日、第5回中央委員会が開催され、三条支部長の転勤問題は議題の一つとされた。
三条支部は、今回の転勤命令は不当労働行為であるとして支部長転勤反対の決議を求めたが、中央委員会は立証に耐える証拠提出がなく根拠薄弱であるとの理由で、三条支部の決議要求を否決した。
(13) 3月23日、組合本部は三条支部拡大代議員会を招集した。 ここではP11支部長転勤問題に関して、連合会から組合本部に懲戒委員会開催が申し入れられていることが議論された。しかし、このように懲戒委員会が議事となる一方で、この段階では、いまだ組合本部は三条支部に対し、地方労働委員会への不当労働行為救済申立ての指導を行っていた。
(14) 3月24日、P6参事及びP7人事部長は、三条支部の支部長転勤は不当労働行為であるとの主張を受けて、本人から事情聴取するため三条支部を訪ねた。
しかし、申立人は業務多忙を理由に面会を拒否した。
(15) 3月25日昼過ぎ、三条支部は当地方労働委員会への不当労働行為救済申立書の草案を組合本部あてにファックスで送信した。
申立人はP11と組合三条支部の連名となっていた。
(16) 3月25日午後、組合本部の、懲戒委員会を控えてP11支部長転勤に関して説明を求める旨の申入れにより、連合会、組合本部及び三条支部の三者での、P11支部長転勤に関する話合い(申立人はこれを団体交渉とする。)が開催された。かねてから申立人は今回の転勤が受けられないことを理由に、連合会と組合本部の間で団体交渉をもつことを希望していたのである。
席上、P6参事は「本件転勤は従来の慣行に従って行った異動である。組合から役員の異動について変更の申入れがあれば慎重に対処したい。」と述べ、これを受けてP1執行委員長は「組合役員の転勤異動の慣行について変更を求める考えはない。今回の問題も組合の機関決定で不当労働行為とは決めていない。」と述べ、労使間で人事協定及び労使慣行について、労使双方とも従来どおりの見解であることを相互に確認した。
これに対し、申立人ら三条支部側は、今回の転勤命令は従来の労使慣行に反すると主張し、本件転勤命令の撤回を申し入れた。
P6参事は、三条支部の主張を受け、もし転勤命令に異を唱えるのであれば、ア 懲戒委員会の手続をもって対処する。
イ P11個人によるものであっても、地方労働委員会への不当労働行為救済申立て等がなされるのであれば、労使間の7本の協定を、更新日である4月1日に延長締結しない。
と述べた。
また、P7人事部長は、申立人の看護学校への転勤理由について、同校での退職と転出によって生じた2人の欠員補充について、1人については長岡中央綜合病院から選任したが、もう1人については三条を含めた近隣病院から選出する意向であったところ、退職者が三条総合病院出身者であったこと、及び同病院は実績があったという理由で同病院から選出したと述べた。

(17) 3月29日、組合本部において第6回中央委員会が開催され、三条支部長の転勤が議題として提出された。
これについて、
ア 三条支部が作成した地方労働委員会への不当労働行為救済申立書案には、事実誤認があり、中央委員会では転勤反対の決議ができないこと
イ 組合として申立ての可能性を検討するが、P11本人が解雇されるという事態を回避するために、看護学校への転勤を要望すること
ウ 一般的に支部長の転勤について反対、という立場を組合はとらないことエ 従来の組合の転勤に関する考え方を改める必要性はないこと
等が決議された。
また、3月31日に申立人の転勤問題について、連合会と組合本部の間で団体交渉が行われることが決定された。
(18) 3月30日、組合は前日の中央委員会で決定された31日の団体交渉開催を連合会に申し入れた。
(19) 同日、申立人は、組合三条支部長という肩書きを併記して、三条総合病院長あてに、本件転勤辞令の撤回を申し入れた。
その理由は、
ア 本件転勤命令は不当労働行為であること
イ 看護学校へ申立人を転勤させることについて、合理的な理由がないことであった。
(20) 3月31日午後1時、申立人の転勤問題に関する懲戒委員会が開催されたが、その内容は秘密にされている。
なお、懲戒委員会の構成員は、連合会側から参事、人事部長、病院長代表、部長代表、事務長代表、看護部長代表の6人、組合側から執行委員長、副執行委員長(4人)、書記長の6人の計12人であった。
(21) 同日午後1時5分から1時30分まで、三条支部で支部役員会が開催され、この場で、以下のことが確認された。
ア 申立人の転勤問題に関して、地方労働委員会への不当労働行為救済申立てをP11個人と三条支部が行うこと
イ 4月1日以降も、申立人は三条総合病院に出勤することで転勤の不当性を示すこと
(22) 同日午後3時30分、組合本部で第7回中央委員会が開催された。 中央委員会の議題は三条支部長の転勤問題のみであった。
この席で、かねて三条支部から提出されていた不当労働行為救済申立書で地方労働委員会への申立てを行うこと、及び三条支部が申立てを行うことのいずれもが、三条支部選出以外の中央委員全員の反対で否決された。
この採決により、三条支部は支部として地方労働委員会へ申立てをすることを断念した。決議に反した支部申立てを強行することにより支部全体が被る不利益を回避するためである。
(23) 中央委員会はいったん中断され、午後5時35分、連合会、組合本部役員及び各支部中央委員の参加により団体交渉が開催された。
席上、P6参事は、
ア 今回の転勤は通常の転勤であり、不当労働行為ではないこと
イ 組合で機関決定があった以上は、たとえ個人によるものであっても、地方労働委員会に不当労働行為救済申立てをすることは許されないこと
ウ それでもなお支部若しくは個人で救済申立てをするというのであれば、3月31日で失効する労使間の協約及び慣行について、地労委の判断を踏まえて対応する必要があるので、7本の労働協約の延長締結は4月1日には行わないことになること
また、中央委員会の決定により支部申立ての可能性を否定する組合本部役員の発言を受けて、
エ 個人でも救済申立てをしないということならば、労働協約の延長締結に応じること
を大声で発言し、参加者は怖れにより自由な発言をはばかるような雰囲気であった。
また、P1執行委員長は、「本件転勤は人事協定及び慣行上問題があるものではない、組合は不当労働行為とは認識していない。」と発言し、組合本部も本件転勤について連合会と同一の見解に立つ旨を明らかにした。

他方、この席で一部の組合本部役員からP6参事の上記発言内容について疑義が出され、申立人をはじめとする三条支部からの出席者は、本件転勤の不当性と地方労働委員会への救済申立ての可能性を主張したが、P6参事は支部長転勤は不当労働行為ではないこと及び協約締結保留の見解を一貫して強硬に主張した。 ここで、P1執行委員長は、事態の紛糾及び明日から労使間が無協約状態になることを怖れ、団体交渉を中断して連合会側出席者と組合本部三役のみによる話合いを求めたので、午後6時35分、団体交渉は中断され、労使双方の首脳部のみの話合いが行われた。
(24) 首脳部話合いの後、午後6時54分、団体交渉が再開された。 冒頭に連合会のP18専務は、先ほどまでのP6参事の協約締結保留発言とは異なり、組合との話合いにおいて、組合として地方労働委員会への救済申立てをしないとの説明を受けたので、協約をすべて延長締結する旨発言した。(25) 午後7時00分、組合の中央委員会が再開され、以下の提案につき採決が行われた。
ア 三条支部は、4月1日に拡大代議員会を開催すること
イ 三条支部が、3月11日から行った支部長転勤反対の投票の有効性は消滅したこと
ウ 申立人が4月1日から転勤拒否の状態で本件転勤について争うことは、解雇につながるおそれがあり、避けるべきであること
採決の結果、出席委員16人中、三条支部選出以外の14人の賛成により決議された。
これにより、組合本部は公式見解として地方労働委員会への救済申立ての可能性を最終的に否定した。
(26) その結果、P11は自らが申立人となって、地方労働委員会へ不当労働行為救済申立てを行うか否かの判断を迫られることとなった。
前記のとおり、中央委員会において、三条支部組合員144人の賛成によるP11転勤反対の決議は効力を失ったとされたが、P11は自らの判断で救済申立てを断念することは、この三条支部の投票による支部長転勤反対の決議を無にし、また三条支部組合員に対する背信ともなると考えて、4月1日、個人の立場で当地方労働委員会に不当労働行為救済を申し立てた。
7 申立て以後
(1) 4月1日朝、申立人は平常どおりに制服着用の上、三条総合病院へ出勤した。三条支部組合員にあいさつをして回った後、皮膚科外来に赴いたが、そこでの仕事は与えられなかった。申立人は看護部長室に赴き、P19看護部長に従来どおりの業務受領を願い出たが容れられず、同部長、P6参事及び病院事務長から看護学校への赴任を促された。
夕方、前日の中央委員会で組合本部より要請された三条支部拡大代議員会が開催され、この席上、申立人は支部長としてあいさつをした。
(2) 4月6日、申立人は支部三役と協議の上、支部長P11及びP11個人の名で、三条総合病院あてに、本件転勤不応諾を理由とする同人に対する不利益取扱いを行わないよう、文書で申し入れた。
(3) 4月8日、三条総合病院長は三条支部にあてて、以下の内容の文書を出した。
ア 4月1日以降申立人は看護学校職員であること
イ 三条総合病院は同日以降組合三条支部長は不在であると認識していることウ 三条総合病院は「支部長P11」及び「P11」の名による文書を収受しないこと
エ 支部長不在による支障を回避するため、早急に対応してもらいたいこと(4) 4月9日、P6参事とP7人事部長は、申立人に対する2回目の転勤命令を手交するため三条総合病院を訪れた。
申立人は組合三条支部の支部長として両名に面会することとし、副支部長3人を同席させた。P6参事とP7人事部長は、本件転勤は申立人個人の問題との前提で事情を聴き転勤命令を手交するつもりであったので、副支部長3人を退出させ、その上で転勤命令を手交し、申立人はこの転勤命令を受領した。
なお、申立人に対する転勤命令は、4月1日、9日、26日、5月26日と4回にわたって出されている。
(5) 4月12日、三条総合病院長は、申立人にあてて同日付け「病院施設への立入り禁止について」という文書を出し、病院事務長及び総務課長が、同病院内の
組合事務室にいた申立人にこれを手交した。
その内容は、申立人が、4月1日以降同病院に籍がないにもかかわらず、勤務地である看護学校に赴任せずに同病院の施設に出入りをしていることについて、病院長の施設管理権に基づいて、これを禁止するというものであった。 また病院事務長及び総務課長は、この文書の内容を口頭で申立人に伝えるとともに、組合事務室にも立ち入らないように申し渡した。これに対して申立人は、組合事務室は病院長の施設管理権外であると反論した。
(6) 4月14日、三条総合病院長は、連合会本部の指示により、病院各職場長にあてて同日付け「P11の転勤拒否問題について」という文書を出して本件の事実経過を説明し、連合会及び病院の対応についての理解及び業務の円滑な遂行への協力を求めた。
また一部職場長は、この文書について朝礼等で説明し、申立人の支援に参加してはならないと述べた。
(7) 同日夕刻、「支援する会」結成総会が開催された。この会の発足は一部で新聞報道され、連合会は本件の影響拡大を一層危惧するに至った。(8) 4月15日、組合中央委員会は、申立人に対し以下の内容の勧告文を出し、第8回中央委員会において手交した。
ア 地方労働委員会への救済申立てを直ちに取り下げること
イ 直ちに発令先に異動すること
なお、勧告に従うのであれば、組合は懲戒委員会において解雇回避のために力を尽くすが、勧告に従わなければ、懲戒委員会において態度を保留する旨が添えられていた。
(9) 4月16日、組合本部の要請で、三条支部拡大代議員会が三条総合病院で開催された。
冒頭、P1執行委員長はあいさつで「P11さんには転勤に応じてもらいたい。今日は懲戒委員会の構成員で来た。」と述べた。
さらにこの拡大代議員会は、通常は支部書記長が行う司会をP20本部執行委員が自ら担当し、さらに同人が議長の指名を行うという異例の開始となった。 討議において、P21本部書記長から本件転勤問題について組合本部執行部の考え方と中央委員会の経過について説明があったが、三条支部代議員からは申立人の救済申立てを肯定する意見や、組合本部の対応に対して批判的な意見も出された。 また、議長は支部三役にあらかじめ告げずに支部長代行の選出を提議し、支部に任せられるべきであるという支部役員の意見もあったが、その日の拡大代議員会で支部長を選出することが多数決で決議された。そして2人の立候補者に対し投票が行われ、P22支部長代行が選出された。この日は申立人も出席していたが、支部長としてあいさつすることもなく、発言の機会も与えられなかった。(10) 4月21日、三条総合病院長は、連合会本部了解の上、「従業員各位」あてに、同日付け「P11の転勤拒否問題をめぐる行動自粛要請について」という文書を、病院の全職員に配布した。
その内容は、
ア 救済申立て内容はほとんどが事実誤認であり、連合会及び病院は本件転勤を通常の転勤と認識していること
イ 組合は本件転勤について、人事協定及び慣行上問題はなく、不当労働行為とは認識しておらず、救済申立てには正当性がないこと
ウ 三条総合病院は、「個人による本件申立て並びにこれを支援する行動」を、病院機構に混乱をきたすものと懸念しており、異常事態と認識していることエ 一刻も早くこれを正常化したいので、従業員の理解と協力を求めることオ 上記行動は組合活動ではないので、院内及び就業時間内の言動を慎み業務遂行に万全を尽くすこと
というものであった。
この文書は、申立人の転勤問題に対する同病院の職員の支援に萎縮をもたらし、「支援する会」への参加等の支援活動はもとより、病院内でこの問題を話題にすることもはばかられるような雰囲気が生じた。
(11) 5月18日、組合書記長会議席上で、組合本部三役を含む出席者から、出席したP8三条支部書記長に対し、申立人の救済申立てについて同書記長らが地方労働委員会で補佐人を務めることを批判する発言があった。
また、その後の中央委員会において、当地方労働委員会が5月10日に行った本件救済申立てについての第1回調査時に申立人側から提出された補佐人名簿の写し
が、中央委員に配布されるということがあった。
(12) 6月9日、組合の中央委員会が開催され、議題の一部として以下の事項が決議された。
ア 組合中央委員会の決定にもかかわらず、新潟県医療労働組合連合会(以下、「医労連」という。)が申立人支援の方針を継続するのであれば、組合は県労連加盟費及び地区労連分担金の支払を保留すること
イ 申立人の代理人弁護士に対し抗議文を、「支援する会」に対し質問状を出すこと
ウ 本件転勤問題に関するすべての事項については、中央委員会及び執行委員会預かりとし、三条支部独自の判断及び検討は行わせないこと
後日これらはそのとおり実行され、組合と、医労連、申立人代理人弁護士、「支援する会」、当地方労働委員会における申立人補佐人との間に軋轢や対立を生じさせた。
(13) 組合本部は、一般組合員に対して当地方労働委員会の本事件についての審問傍聴の制限を行い、これにより、各自の思想、信条の自由を主張し、自らの意思で傍聴したいという一部の一般組合員との間に軋轢や対立が生じた。(14) 本事件申立人補佐人であるP8及びP23は、8月の三条支部役員選挙でそれぞれ支部長、書記長に立候補し、また同じく補佐人であるP24は本部執行委員に立候補し、選考委員会はいったんこれを受け付けた。
しかし、例年と異なり、この年の選考委員会には本部書記長が毎回参加し、その指導のもとに選考が行われた結果、上記P8ら3人及び申立人の支援者6人は補佐人又は支援者であることを理由としていずれも選考手続から除外され、選考委員会が新たに選定、指名した者のみを候補者として役員選挙が行われた。第4 当地方労働委員会の判断
前記の事実認定に基づき、本件の争点について順次判断する。
1 本件転勤命令の不当労働行為性について
(1) 本件転勤命令と申立人の組合活動について
平成11年3月に至るまで、申立人が三条支部の支部長として支部活動の中心的役割を担い、申立人の強い指導力の下に三条支部の支部活動が行われていたことは、本件疎明資料から明らかである。
申立人の活動姿勢は、労働条件の維持改善等を組合員の立場で貫徹しようとするものであったが、これは経営の悪化から合理化を迫られていた(認定事実3の(1))被申立人との対立を生じさせるものであり、特に三条総合病院では、そのことが顕著であった。即ち、認定事実3の(4)及び(5)のとおり、三条総合病院にあっては、平成10年以降、人員削減を巡る病院側と申立人が指導する三条支部との対立が激しくなり、同年6月には不当労働行為であるとの主張や事務長の文書による釈明という事態にまで発展していた。そのような状況の中で、新しい人員削減の提案とこれに対する三条支部の正式拒否という事実(認定事実3の(6))があり、特に、連合会にあっては、人員配置に関する協定により毎年各病院が作成する人員計画案は各組合支部の同意がなければ実施できなかった(証人P7の証言)のであるから、経営の悪化により合理化が急務であった連合会にとって申立人の存在がその大きな障害となっていたことはたやすく推認することができる。(2) 従来の看護婦の転勤の実態について
ア 次に、当時の連合会の、平成8年度から10年度までの転勤の実情をみると疎乙第7号証によれば、その数は、以下の表のとおりである。
表1
全機種
a 除く中条b 全職員数c
平成8年度 85 85 3,404
平成9年度 129 129 3,402
平成10年度 180 157 3,369
計 394 371 10,175
看護婦のみ
d 除く中条e 内役付 全職員数f
平成8年度 19 19 1 1,856
平成9年度 28 28 8 1,856
平成10年度 44 25 6 1,838

計 91 72 15 5,550
注「除中条」とは中条病院再建策の一環として労使合意に基づき特に行われた転勤数を除く意味。
上表により、看護婦転勤者数の全看護婦数に占める割合を、全転勤者数の全職員数に占める割合及び看護婦以外の転勤者数の看護婦以外の全職員数に占める割合と比較すると、次の表のとおりである。
表2
全体の転勤者比率 看護婦以外の転勤者比率(算出式) a/c b/c* (a-d)/(c-f) (b-e)/(c-f)*
平成8年度 2.50% 2.50% 4.26% 4.26%
平成9年度 3.79% 3.79% 6.53% 6.53%
平成10年度 5.34% 4.66% 8.88% 8.62%
計 3.87% 3.65% 6.55% 6.46%
看護婦の転勤者比率
(算出式) d/f e/f*
平成8年度 1.02% 1.02%
平成9年度 1.51% 1.51%
平成10年度 2.39% 1.36%
計 1.64% 1.30%
即ち、この表によれば看護婦転勤者数の全看護婦数に占める割合は、非看護婦転勤者数の全非看護婦数に占める割合に比べ四分の一ないし五分の一の件数に過ぎない。
また全体の転勤者数及び看護婦以外の転勤者数は増加傾向にあるが、看護婦の転勤者数は、中条病院対策を除いた転勤件数をみれば、ほとんど取るに足らない程の数字である。
イ 次に、看護婦の転勤について、役職別に検討する。
疎乙第83号証によれば、平成元年度から12年4月1日付け発令までの、主任職以上にある看護婦の転勤は30例(本件転勤を含む。)があり、その詳細は以下の表のとおりである。
表3
旧職名 副婦長 主任看護婦 看護婦 本部調査役 専任教員 計年度(平成) (主任待遇) 1 - 1 1 - - 2 2 2 3 - 1 - 6 3 1 2 - - - 3 4 - - - - - 0 5 2 4 - - - 6 計 5 10 1 1 0 17 現行職名 副看護部長 婦長 主任看護婦 本部調査役 専任教員 計年度(平成)
6 - - - - 0 7 - - - - 0 8 - - - - 0 9 (不明) 3 - - - 3 10 - - - - 0 11 4 1 - 1 6 12 2 2 - - 4 計 - 9 3 0 1 13
注 同一の列にある旧職名と現行職名は、平成6年の看護部長制導入により変更している。
これによれば、平成6年の看護部長制導入以降主任の職にある看護婦には、本件転勤に至るまで、転勤の例は1例もない。即ち本件転勤は、連合会が看護部長制を導入して以来、前例のない転勤事例であるということができる。平成12年度には、主任看護婦で2例の転勤事例があるが、これは、申立人が本件の救済を申し立て、問題が顕在化して以後のことであるから、これをもって本件を正当化することはできない。
ウ また、疎甲第68号証によれば、看護部長制が導入された平成6年以降の主任の職以上にある看護婦の異動は47件あり、その詳細は以下の表のとおりである。表4
職名 看護部長 副看護部長 副看護部長 看護婦長 看護婦長 主任看護婦 計
年度(平成) 兼婦長 職務代理
異動 6 - - - 1 - - 1
内 7 - - - 2 - 6 8
部 8 - - - 1 - 1 2
異 9 - - - 1 1 8 10
動 10 - - - - - 2 2
計 0 0 0 5 1 17 23
------------------------------------------
転 6 4 4 - - - - 8
勤 7 - - 1 1 - - 2
部 8 - - 1 - - - 1
異 9 4 2 2 - - - 8
動 10 1 3 1 - - - 5
計 9 9 5 1 0 0 24
これによれば、看護部長制導入以降、婦長以下の異動は1件を除いてすべて内部での異動である。
エ 以上の事実からすれば、本件転勤命令は、連合会における従来の看護婦の転勤の在り方から非常にかけ離れたものであることが明らかである。
(3) 看護学校への転勤について
ア 看護学校教員の職が、臨床現場での看護婦、助産婦との職とは全く異なったものであることは明らかであるところ、これへの異動は、看護教育に対する知識及びそのための相当の準備が要求されることから、看護婦から看護教員への転勤は、他職種への転換と言い得る内容の異動であり、連合会でもそのように認識していたものであることは証人P7の証言から窺われる。そして、このような異動には、事実上、本人の同意を得て行う必要があるとするのが合理的であり、連合会においても従来はそのように運用されてきたものと考えられる。
イ 他方、申立人は、連合会に就職して以来30年以上の間、助産婦として臨床現場に勤務することを専らとしてきたのであって、自分自身の将来として看護教員と
なることは考慮したこともなく、まして50歳を過ぎてから看護教育という新たな職責を課せられることは、過大な負担となるものであるということができる。ウ 申立人への発令内容は看護学校専任教員心得であるが、看護学校専任教員となるには、県外で開催される半年から一年の研修を修了することが必要である。看護学校の教員がこの看護教員研修を受講することは厚生省(現厚生労働省)によって指導されており、看護学校専任教員となるためには研修の受講は事実上必要とされているものであった。
遠隔地での研修受講のため、家族と別居せざるを得ず、またそれによって経済的負担をも伴うということは、申立人にとって明らかに不利益なものである。エ また、連合会においては、被申立人の主張によっても、「女性職員の転勤は原則として自宅からの通勤圏内」という労使慣行が存するが、本人の希望によらずに遠隔地での研修が必要となるという本件転勤命令はこの慣行に反するものである。オ 以上から判断すれば、50歳を過ぎた申立人に、その意向を確認し同意を得ることなく看護学校教員へ転勤を命じることは、不利益な取扱いに当たる。(4) P4の転勤について
ア 次に、看護学校で申立人の前任者とされるP4の転出に関する事情を見ると、前記認定事実4の(2)のとおり、P4の転勤は本人の希望によるものではなかった。また事前にP4の意向を調査した上で決定されたものでもなかった。 証人P7は、P4の転勤は本人の意思に関係なく、人道上の問題として長期の単身赴任を解消したいという動機からなされたものであると証言するが、連合会は、看護学校へ転勤後のP4の家族状況及び家族の現住所等について、調査、確認をしていなかったのであり、更に認定事実6の(1)のとおり、連合会は内示後に組合糸魚川総合病院支部よりP4の転勤について説明を求められ、P6参事ほかが糸魚川総合病院に出向いて説明を余儀なくされるという事態を招いている。このことは、P4の転勤が事前の十分な調整に基づくものではなく、他の理由によって看護学校に空きポストを作るために急遽断行したものではないかと推測するに十分である。
イ 申立人への内示後の連合会の説明によれば、看護学校において申立人は三条総合病院出身であるP2の後任であるとされていた(認定事実5の(5))。 しかし、平成10年12月のP2の退職申出の直後には、長岡中央綜合病院の看護婦P3がその後任として決定しており、既に看護教員講習会の受講手続がされていたのである(証人P7の証言)。
その後、被申立人は、申立人はP4の後任として看護学校教員に選任されたものであると主張するに至っており(証人P7の証言)その間の説明がつかない。(5) 申立人の本件転勤拒否以後の連合会の対応について
前記認定事実6の(11)、(16)及び(23)のとおり、連合会は、申立人の転勤拒否について懲戒委員会の開催を組合本部に申し入れ、また、組合との団体交渉(話合い)において、本件転勤につき地方労働委員会へ不当労働行為救済申立てをするのであれば、労使間の7本の協定の延長締結を保留すると明言した。(6) 小括
以上(1)ないし(5)によれば、本件の強引とも言うべき転勤は、申立人が支部長として人員削減反対の方針を堅持する三条支部を弱体化する意図の下に行われたものと推認するのが合理的であり、これ以外に本件転勤に伴う様々な不自然さを説明する途はない。
即ち、本件転勤は申立人の組合活動が連合会の人員削減の障害となることを嫌悪して行われたものであり、労働組合法第7条第1号及び第3号の規定に該当する不当労働行為である。なお、この点について、連合会は三条総合病院の人員計画案に対する三条支部の拒否回答を知ったのは、申立人への本件転勤の内示後である3月10日頃であると主張し、証人P7及び同P6はその旨の証言をするが、いずれも採用できない。三条総合病院のように人員削減を巡る労使間の対立があるところで組合の支部が提案の拒否を正式に決議した以上、直ちにこれを了知したものと考えるのが自然であり、遅くとも三条支部から三条総合病院への回答があった2月10日にはそのことを知っていたものと考えるのが妥当である。
2 労働協約の延長締結保留の不当労働行為性について
(1) 認定事実6の(16)及び(23)のとおり、連合会のP6参事は平成12年3月25日の労使間の話合いにおいて、本件転勤につき、個人によるものであっても地方労働委員会への不当労働行為救済申立てをするのであれば、同月31日に失効する労使間の7本の協定を延長締結しないと発言し、更に同月31日の団体
交渉においても同旨の発言をした。
(2) 不当労働行為救済の申立ては、労働組合法で認められた労働組合及び労働組合員個人の当然の権利であり、これに対して失効が目前に迫っている労使間の協定の締結保留を唱えて、申立てをしないように被申立人が組合に迫ることが組合の運営に対する介入となることは明らかである。
(3) これについて被申立人は、「協定を結ばないとは言っていない。地労委が受理し、どう判断するかをみて会としての対応を決めたい。今までの協定、慣行に影響が出てくることもあるので、締結を少し待ってほしい。地労委から別の見解が出てくれば、それに従わなければならないとしているに過ぎない。」等と主張するが、延長締結拒否の対象となった協約の中には、チェックオフや組合員の範囲など、人事異動とは直接関係のないものも含まれ、地労委の判断がそれら協約にどのような影響を及ぼすのかは何ら明確にされておらず、またこれを被申立人において検討した形跡もない。また、P6参事自身、組合の執行委員長を長期にわたって務めた経験を有するのであるから、協約を延長締結しないことによる労使間の無協約状態が組合に及ぼす影響については、十分承知していたはずである。 このような状況下において、人事異動とは無関係なものを含む全協約について一括して延長締結を拒否することには、何ら合理性を見いだすことができない。(4) 小括
上記のとおりP6参事の前記発言は、労働組合員である申立人の不当労働行為救済の申立てをする権利への明らかな干渉であり、それは発言が行われた時期を考慮すれば一層明らかである。
以上のとおり、P6参事の発言は、労働組合法第7条第3号に該当する支配介入となる。
なお、不当労働行為救済の申立ては労働組合法第7条第1号に該当する場合に限らず、組合員個人も当該組合に対する支配介入について正当な利害関係を有する以上、労働組合法第7条第3号該当について申立てを行うことも、もとより可能である。
3 4月1日以後の連合会の対応
(1) 支部長の地位の否認について
平成11年4月1日以降の申立人の行動及びこれに対する三条総合病院側の対応、特に、同月8日、「支部長P11」及び「P11」の名による文書を受け取らないと通知するに至った経緯は、前記認定事実7の(1)ないし(3)記載のとおりである。申立人が三条支部の組合員または支部長であるかどうかは、組合が自主的に決める事柄であり、三条総合病院側が組合に確認することなしに一方的に支部長不在としたことは、申立人を三条支部から排除しようとする不当労働行為であると解する余地もあるが、これは本件転勤の有効性を申立人と被申立人間で争ったことに伴う付随的事象であって、端的に本件転勤の有効性を判断すれば足りることであり、これ自体を独立の不当労働行為として論じるべきものではない。よってこの点に関する申立人の主張は採用できない。
(2) 病院内立入禁止について
三条総合病院側が申立人に対して4月12日に病院内施設立入禁止を通告したことに関する経緯は前記認定事実7の(5)のとおりであるが、これについても前記(1)と同様のことがいえるので、独立の不当労働行為として扱うことはしない。よってこの点に関する申立人の主張も採用できない。
(3) 「P11を支援する会」への支部組合員の参加について
「支援する会」に関する事実経過は、前記認定事実7の(6)、(7)及び(10)記載のとおりである。
これに基づいて、「支援する会」に三条支部組合員が自主的に参加することについて検討するに、組合員の個人的な活動が組合全体の活動として労働組合法の保護を受けるためには、その個人的活動が組合の団結権を擁護するために正当であることが認められなければならない。
しかるに、本件での「支援する会」は組合員以外の一般市民も参加する任意の団体であり、その活動は申立人の救済申立てを側面より支援することを目的としていると考えられ、本件全疎明資料によっても申立人とともに直接に団結権擁護の活動をしているとは認められない。
よって「支援する会」の活動に三条支部組合員が自主的に参加することは、そのまま三条支部の団結権擁護のための行動であったとは言い難く、また「支援する会」の活動そのものが組合活動として行われたと言うこともできないので、連合会
が出した参加自粛要請の文書は「支援する会」へ参加しようとする三条支部組合員を萎縮させる効果をもつものであったにせよ、労働組合法第7条第3号が規定する支配介入には該当しない。よってこの点に関する申立人の主張を採用することはできない。
4 結論
(1) 救済方法について
以上の事実及び判断に基づくと、申立人に対する救済の内容は以下のとおりとなる。
ア 申立人に対する本件転勤は不当労働行為を構成するものとして許されない。従って、主文第1項のとおり被申立人は、申立人を三条総合病院看護部において主任として勤務させなければならない。
イ また、本件転勤命令が不当労働行為である以上、申立人は本件転勤命令以降の賃金額の支払を受けるべきものであるから、主文第2項のとおりこれを命じる。ウ 次に、被申立人が、申立人に本件救済申立てをさせないために労使協定の延長締結を保留すると言ったことも不当労働行為に該当するものであるからこれを許さず、主文第3項のとおり命令する。
エ 次に、申立人は、被申立人が、平成11年4月1日以降、申立人が組合の三条支部長であることを否認したり、三条総合病院施設内への立入りを禁止したことが不当労働行為であると主張するが、これらは前記のとおり、独立の不当労働行為として論じるべきものではないので、これらのみを取り上げて救済を命じるべきものでもなく、これらに関する申立てを棄却する(主文第4項)。
オ 次に、申立人は、被申立人が三条支部の組合員が「支援する会」に参加することを規制したことも不当労働行為であると主張するが、前記のとおり、これが組合への支配介入となることへの疎明がないので、これに関する申立ても棄却する(主文第4項)。
カ 更に、申立人は、本件転勤命令等に関する謝罪文の掲示も求めているが、本件に現れた一切の事情を考慮した結果、本件転勤命令に関する部分についての主文第1項及び第2項で足りると判断されるので、謝罪文の掲示はこれを命じない(主文第4項)。
(2) 法律上の根拠
よって労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条を適用して、主文のとおり命令する。
平成13年1月29日
新潟県地方労働委員会
会長 P13
(別紙2)
命令書(写)
新潟県新潟市<以下略>
再審査申立人 新潟県厚生農業協同組合連合会
代表理事 会長 P12
新潟県三条市<以下略>
再審査被申立人 P11
上記当事者間の中労委平成13年(不再)第5号事件(初審新潟地労委平成11年(不)第1号事件)について、当委員会は、平成14年7月3日第1359回公益委員会議において、会長公益委員P25、公益委員P26、同P27、同P28、同P29、同P30、同P31、同P32、同P33、同P34、同P35、同P36、同P37出席し、合議の上、次のとおり命令する。
主 文
本件再審査申立てを棄却する。
理 由
第1 事案の概要
1 本件は、①再審査申立人(初審被申立人)新潟県厚生農業協同組合連合会(連合会)が新潟県厚生連労働組合(組合又は組合本部)三条総合病院支部(三条支部)の支部長であった再審査被申立人(初審申立人)P11(P11)に対し三条総合病院から長岡中央看護専門学校(看護学校)へ転勤を命じたこと、②同転勤(本件転勤)の発令以降、再審査被申立人が三条総合病院の施設内に立ち入ることを禁止し妨害したこと、③三条総合病院は再審査被申立人が作成した「支部長P1
1」及び「P11」名の文書を受け付けない等の申入れをするなど支部長であることを否認したこと、④三条支部の組合員に対し「P11を支援する会」(「支援する会」)に自主的に参加、協力することに威嚇、規制を加えたこと、⑤三条支部及びP11が不当労働行為救済申立てをした場合には労働協約等を締結しないと組合に通告して本件の救済申立てをしないように圧力をかけたことが、いずれも不当労働行為に該当するとして、①について平成11年4月1日に救済申立てが、②から⑤までについて同年5月10日に追加申立てがあった事件である。2 初審新潟県地方労働委員会は、平成13年1月29日、連合会に対し、①本件転勤命令を取り消し、P11を三条総合病院看護部主任に復帰させること、②原職復帰までの間に受けるはずであった賃金相当額の支払い(既払い額を除く。)、③本件救済申立てを阻止したり、取り下げさせるために組合との労働協約等の不締結を通告するなどしての支配介入の禁止を命じ、その余の申立てを棄却した。 連合会は、これを不服として、同年2月7日、再審査を申し立てたが、P11からの再審査申立てはない。
第2 当事者の主張の要旨
当事者の主張の要旨は、初審命令第2記載のうち、次のとおり改めるほかは、これと同一である。
1 同1の(6)から(9)までを削り、新たに(6)として「よって、本件転勤命令は、P11を三条支部から排除し、同支部を弱体化するためになされた労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であり、また、連合会が労働協約等を締結しないと組合に通告したことは、三条支部ないしP11に不当労働行為の申立てをしないように圧力をかけたもので、同条第3号に該当する不当労働行為である。」を加える。
2 同2の(5)から(7)までを削り、(8)を(5)とし、末尾に行を替えて、次のとおり加える。
なお、再審査申立人は、当審において、さらに概要次のとおり主張した。ア 看護学校におけるP11の前任者であるP4(P4)に対する転勤命令は、長期単身赴任をしていたという理由のほか、看護学校での教員としての業績も芳しくなかったことから糸魚川総合病院に転勤させたものである。
イ 不当労働行為救済制度においては、その申立てをする者と申立てをすることによって回復すべき労働組合活動上の正当なる利益(救済利益)とが一致し又は合理的関連性を有すべきことはその制度の趣旨に照らして当然であり、申立適格者と救済対象の主体とが相違することはあり得ない。しかるに初審命令は、三条支部の主張ないし申立てがないにもかかわらず、再審査被申立人に対する本件転勤命令を三条支部の弱体化を意図したものと推認し、三条支部への支配介入としているもので合理的根拠がない。また、再審査被申立人の本件転勤命令拒否と同人が個人名でなした本件救済申立ては、三条支部の意向に反して行われたものであり、組合活動の正当性を明らかに逸脱しており、法的保護の埒外にある。
ウ 再審査申立人は、新潟地方裁判所で争われている本件転勤拒否に伴う不払い賃金の仮処分命令申立事件の判断と提出証拠の違いにより判断が異なることがないよう、貴委員会に対して、さらに証拠提出の機会を求めたが、これを認めなかったことは裁量権の範囲を逸脱したものである。
第3 当委員会の認定した事実
当委員会の認定した事実は、初審命令第3記載のうち、次のとおり改め又は加えるほかは、これと同一である。
1 同2の末尾に行を替えて、(3)として次のとおり加える。
(3) 中央支部
組合の中央支部は、長岡中央綜合病院及び看護学校に所属する組合員約670名からなり、職場を単位とした27ブロックから支部委員、代議員を選出している。看護学校は、このうちの1ブロックであり、本件転勤命令当時17名の組合員がいた。中央支部の中心的活動の場は長岡中央綜合病院にあった。なお、長岡中央綜合病院と看護学校とは所在を異にし、徒歩で約20分かかる距離にある。2 同4の(1)を次のとおり改める。
(1) 平成10年12月、連合会は、看護学校の専任教員であるP2(P2)が同11年3月末で退職したい旨申し出たことを受けて、長岡中央綜合病院の推薦に基づき、後任に同病院看護婦P3を充てる人事を内定した。これは看護教員研修の受講の締切りが同10年12月末であったために急遽行われた措置であった。 なお、P2からの退職の申し出は、同年10月に行われた厚生省(現厚生労働
省)の調査において、連合会が専任教員には全員看護教員養成の研修(看護教員研修)を受けさせるよう指導され、また、この研修を受けていなかったP2も同11年度には研修を受けるよう指導されたところ、同人には保育や介護の必要な家族がおり、後記(3)のとおり県外で6か月から1年間の長期にわたる研修受講は困難であることからなされたものである。
3 同4の(2)の末尾に行を替えて、「なお、P4への転勤内示に先立って、連合会から同人に対する意向打診、現在の家族状況の調査等はなかった。また、P4は、平成8年に担当していた小児看護学について、新たなカリキュラム(看護学校における3学年分)を作成し、これによる教育を遂行中であったが、本件転勤に伴い、3年目のカリキュラムを自ら行うことはできなくなった。しかし、看護学校には適任者がいなかったため、P4は、同11年7月と9月に転勤先から出張し、引き続きこの授業を担当した。」を加える。
4 同4の末尾に行を替えて、(3)及び(4)として次のとおり加える。(3) 本件転勤命令当時の厚生省(現厚生労働省)の「看護婦等養成所の運営に関する指導要領」では、看護婦養成所の専任教員は、保健婦、助産婦又は看護婦として5年以上業務に従事していた者であって一定の機関による看護教員研修を受けた者(この要件には除外事由があるがP11はこれに当たらない。)とされており、平成11年3月に看護学校に在職する専任教員はP2を除き全員看護教員研修を受けていた。なお、この研修は、当時は新潟県内ではほとんど行われておらず、東京などの県外で受講する必要があった。また、その研修期間は6か月から1年であった。
(4) 平成11年3月31日時点で看護学校に在職する教員は14名いた。このうち教務主任を除いた専任教員12名の在勤年数をみると、20年以上の者が1名、10年から20年までの者が1名、5年から10年の者が6名いた。その平均年齢は42.25歳であり、50歳以上の者はP4も含め3名であったが、これら3名の教員は30歳から40歳前半に看護学校勤務となり、40歳前半までには看護教員研修の受講を終えていた。
なお、看護学校の専任教員の欠員補充は、新規採用によることもあったが、連合会職員から補充するときは近隣の病院から希望者を募ったり、適任と思われる者に対し内示に先立って意向を打診するなどの方法が採られていた。
5 同5の(1)中、「口頭で内示した。」の後に「本件転勤は転居を伴うものではなく、給与上の格付けを異にするようなものでもなかった。」を加え、(1)の末尾に行を替えて、「また、連合会は、本件転勤に当たって、既に受講申込期間が過ぎているとして、P11に事前に看護教員研修を受講させるような措置はとらなかった。当時、看護教員研修を受けていない教員は「専任教員心得」とするよう新潟県から指導が行われていたことから、P11への本件転勤発令内容は、上記のとおり「専任教員心得」とされ、同研修の修了をまって「専任教員」とすることとされていた。加えて、看護学校には既に助産婦資格をもつ教員が3名おり、うち2名は助産婦の業務と関連の深い母性看護学及び婦人科での実習指導を担当していたため、連合会は、P11には基礎看護学の基礎看護技術及び小児看護学の小児看護方法論Bを単独で担当(総授業時間は他の教員より少な目であった。)させ、小児科での実習指導及び保健所実習を他の教員と共同で担当させることとしていた。」を加える。
6 6の(4)中の「同日」を「3月4日」に改める。
7 6の(7)、(15)、(26)及び7の(11)、(12)、(13)中の「当地方労働委員会」を「新潟県地方労働委員会」に改める。
8 同6の(17)中の「また、3月31日に申立人の転勤問題について、連合会と組合本部の間で団体交渉が行われることが決定された。」を「また、組合本部は、P11の転勤問題について、3月31日に連合会と団体交渉を行うことを決定した。」に改める。
9 同6の(19)中の「同日」を「3月29日」に改め、同(19)を(18)に、同(18)を(19)に改め、順序を入れ替える。
10 同7の(4)中の「4月1日、9日、26日、5月26日と4回」を「4月1日、9日、26日、5月27日、11月5日と5回」に改める。11 同7の末尾に行を替えて、8として次のとおり加える。
8 連合会における人事異動の実態
(1) 連合会において転勤(勤務箇所(病院等)を異にする人事異動)した者は、平成8年度は総数85名中看護婦19名、同9年度は総数129名中看護婦2
8名、同10年度は総数180名中看護婦44名(中条病院の赤字対策による転勤者を除くと25名)であった。なお、看護婦が全職員に占める割合は約54%である。
(2) 連合会では、平成6年4月1日から、それまでの看護婦長は看護部長に、副婦長は副看護部長に、主任看護婦は看護婦長にするという看護部長制度を導入し、看護婦長のもとに新たに主任看護婦を置いたが、その後本件転勤まで主任看護婦の転勤は1例もなかった(本件以後においては、同12年4月1日付けの看護部の人事異動で主任看護婦の転勤が2例あるが、いずれも看護婦長への昇格を伴うものである。)。
なお、同制度導入に際し、組合と連合会は、昇格に当たり転勤を原則としない旨の確認を行った。
(3) 本件転勤の行われた平成11年4月1日付けの看護部の人事異動(転勤及び同一勤務箇所内での配置替え)をみると、総数61名中主任看護婦以下(主任看護婦、助産婦、看護婦及び准看護婦)の異動者は53名であり、このうち転勤者は35名いたが、P11を除く34名のうち、16名は転勤希望者であり、それ以外の18名は中条病院の赤字対策による転勤者であった。
(4) 連合会には、女性の転勤は原則として通勤範囲内とするという労使慣行がある。
第4 当委員会の判断
当委員会の判断は、初審命令第4記載(同3及び4の部分を除く。)のうち、次のとおり改め又は加えるほかは、これと同一である。
1 同1の(2)を次のとおり改める。
(2) 看護婦の転勤実態等について
前記認定事実8のとおり、連合会における看護婦に対する転勤は多くなく、その比率も看護婦以外のものに比べると低く、平成6年4月以降本件転勤まで主任看護婦の転勤例はないことが認められ、また、本件転勤の行われた同11年4月1日付けの転勤者をみても中条病院の赤字対策という特別な事情に基づく転勤以外は本人の希望によるものであったことからすると、少なくとも主任看護婦以下の看護部職員の転勤については、本人の意向を配慮した上で発令を行うという扱いがなされていたものと認められる。
しかし、本件転勤に際し、連合会がP11にその意向を聞くようなことはなかった。
2 同1の(3)ア中の「連合会においても従来は」以下を「前記認定事実4の(4)のとおり、連合会においても従来はそのように扱ってきた。」に改める。3 同1の(3)イ中の「看護教員となることは考慮したこともなく」以下を「看護教員となることを考慮したこともないことからすれば、看護教育という新たな職責を課せられることは過大な負担となるものであるということができる。また、当時の看護学校の実情をみると、前記認定事実5の(1)のとおり、既に看護学校には助産婦資格を持つ者が3名おり、P11が長年従事した助産婦業務の知識・経験を必要とする状況にはなかった。」に改める。
4 同1の(3)ウからオまでを次のとおり改める。
ウ 連合会においては、看護学校赴任後に看護教員研修を受ける者がいたが、前記認定事実4の(1)、(3)及び5の(1)のとおり、看護学校の専任教員となるには看護教員研修の受講が必須とされており、本件転勤命令の内示直前には、厚生省(現厚生労働省)から研修についての指導がなされているのに、P11は同研修を受けておらず、本件転勤に当たって事前に受講させるような配慮もなされていない。
エ また、遠隔地での研修が必要となる看護学校の転勤と通勤圏外への転勤は同一に考えることはできないとしても、同研修は6か月から1年の長期出張が必要となるものであるから、前記認定事実8の(4)の連合会における「女性職員の転勤は原則として自宅から通勤圏内」という労使慣行の趣旨からすると、この面においても事前に本人の意向を聞くなどの配慮がなされるべきであった。そして、同4の(4)認定のとおり、連合会においては現にこのような扱いがなされてきたのであるから、本件転勤に当たってこのような措置をとらなかった連合会の態度は異例なものであるといえる。
オ さらに、上記(1)のとおり、P11は、長年にわたり、組合員約250名を擁する三条支部において、支部長あるいは支部三役として中心的な役割を果たしていた。しかしながら、前記認定事実2の(3)のとおり、看護学校には組合員が1
7名しかおらず、また、同校は、看護学校の組合員が属する中央支部の中心的活動の場である長岡中央綜合病院とは離れた位置にあり、本件転勤によりP11の組合活動に影響が生じることは明らかである。
以上からすると、本件転勤命令に際し、P11に対しては、それまで行われてきたものとは異なる扱いがなされ、また、本件転勤は、P11にとって職務上、生活上、組合活動上の各面において、不利益なものであったことは明らかである。5 同1の(4)イの末尾に行を替えて、ウとして次のとおり加える。ウ また、前記認定事実4の(2)のとおり、当時、P4は新たなカリキュラムによる教育の遂行中であったが、本件転勤に伴い中途でこれを放棄せざるを得なくなり、看護学校に適任者がいなかったため、P4は転勤先から出張をしてまで引き続きこの授業を担当した。
そうすると、これらのことに加え、上記(3)でみたP11への本件転勤命令に際しての事情をも併せ考えると、本件転勤命令は、業務上の必要性や効率性の観点からなされたものとはいえず、その合理的な理由は見いだし難い。6 同1の末尾に次のとおり加える。
再審査申立人は、前記第2の2の(5)アのとおり、当審において、P4の転勤の理由として、同人の長期間の単身赴任の解消のほか、看護学校での業績の悪さをあげるに至った。しかしながら、前者の主張については、上記(4)ア判断のとおりである。後者の主張については、当時、本人や組合に対する説明ではこのことがP4の転勤理由としてあげられておらず、本件の初審段階でもこの点についての主張は一切なく、再審査段階とりわけ再審査被申立人からP4が証人として申請された後にはじめてなされていることからすると、仮に看護学校におけるP4の言動に問題となる点があったとしても、これが同人に転勤を命じる理由であったとみることはできない。したがって、この点についての連合会の主張は理由がない。 また、再審査申立人は、前記第2の2の(5)イのとおり主張するが、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為救済申立てについては、救済利益を有する労働者個人においてもなし得ることは不当労働行為制度の趣旨からして明らかであり、このことは当該個人の申立てが同人の所属する労働組合の意向に反したものであったとしても異ならない。よって、連合会のこの主張も理由がない。 さらに、再審査申立人は、同(5)ウのとおり主張するが、この申し出をしたのは、審問終結後のことであり、しかも提出しようとした各疎明資料はいずれも結審前に提出することが可能なもので、当該申し出の時期、証拠価値等を勘案した上、これを認めなかったものであり、当委員会の裁量権の範囲内の措置であることはいうまでもない。
7 同2の(1)中の「平成12年3月25日」を「平成11年3月25日」に改める。
以上のとおりであるので、本件再審査申立てには理由がない。
よって労働組合法第25条及び第27条並びに労働委員会規則第55条の規定に基づき、主文のとおり命令する。
平成14年7月3日
中央労働委員会
会長 P25 印

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