判例検索β > 平成16年(行コ)第58号
裁決取消請求事件
事件番号平成16(行コ)58
事件名裁決取消請求事件
裁判年月日平成16年6月15日
法廷名東京高等裁判所
結果その他
判例集等巻・号・頁第57巻2号14頁
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成15(行ウ)362
判示事項税務署長が本来の納税義務者に対してした課税処分に対する異議申立てと第二次納税義務者の申立適格
裁判要旨第二次納税義務者は,税務署長が本来の納税義務者に対してした課税処分に対する異議申立ての申立適格を有しない。
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主 文

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨の判決を求める。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決を求める。
第二 事案の概要
本件は,被控訴人が,麹町税務署長が平成14年3月29日付けでしたA(以下「A社」という。)に対する法人税の決定及び無申告加算税賦課決定について,平成14年6月8日に第二次納税義務納付告知を受け,その2か月以内である同年8月6日に東京国税局長に対して異議申立てをしたが,東京国税局長が不服申立期間経過を理由として被控訴人の異議申立てを却下する旨の異議決定をしたため,同年11月8日,控訴人に対して審査請求をしたところ,控訴人が適法な異議申立てを経ていないことを理由に審査請求を却下する旨の裁決をしたことから,同裁決が違法なものであるとして,その取消しを求めた事案である。
一 判断の前提となる事実(認定根拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがないか当裁判所に顕著な事実である。)
1 麹町税務署長は,平成14年3月29日,A社に対し,平成10年7月1日から平成11年6月30日までの事業年度の法人税の決定及び無申告加算税の賦課決定(以下「本件課税処分」という。)を行い,平成14年4月3日本件課税処分の通知書がA社に到達した(甲4,8)。
2 東京国税局長は,平成14年6月7日,被控訴人に対し,A社の本件課税処分に基づく滞納国税につき,国税徴収法39条に基づく第二次納税義務の納付告知(以下「本件告知処分」という。)をした(甲1)。
3 A社は,平成14年7月22日,本件課税処分に対して異議申立てをした(乙1)。 4 被控訴人は,平成14年8月6日,本件告知処分に対して異議申立てをするとともに(甲3),本件課税処分に対しても異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした(甲2)。
5 東京国税局長は,平成14年10月11日,本件告知処分に係る被控訴人の異議申立てについて納付限度額を107億9959万1800円に変更する旨の異議決定をした(甲5)。 6 東京国税局長は,平成14年10月17日,本件課税処分に係るA社の異議申立てが国税通則法(以下「通則法」という。)77条1項に定める不服申立期間を経過した申立てであるとして,通則法83条1項に基づき,これを却下する旨の異議決定をした(乙1)。 7 東京国税局長は,同日,被控訴人のした本件異議申立てが通則法77条1項に定める不服申立期間を経過した申立てであるとして,通則法83条1項に基づき,これを却下する旨の異議決定をした(甲4)。
8 被控訴人は,平成14年11月8日,本件課税処分について審査請求をする(甲6。以下「本件審査請求」という。)とともに,同日,本件告知処分について審査請求をした(甲7)。
9 A社は,平成14年11月15日,本件課税処分について審査請求をしたが,同年12月2日,これを取り下げた(乙1,2)。
10 国税不服審判所長は,平成15年4月7日,被控訴人のした本件異議申立てが法定の不服申立期間を経過した不適法なものであるから,本件課税処分に係る被控訴人の審査請求は適法な異議申立てを経ないでされた不適法なものであるとして,通則法92条に基づき,これを却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲8)。 二 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,(1) 第二次納税義務者が主たる課税処分の取消しを求める不服申立適格を有するかどうか,(2) 本件異議申立てが通則法77条1項所定の不服申立期間内にされたものといえるかどうか(第二次納税義務者が主たる課税処分についての不服申立てをする場合の不服申立期間の起算日はいつか)である。
1 不服申立適格について
(一) 被控訴人の主張

通則法114条は,国税に関する税務訴訟について行政事件訴訟法等の定めによる旨規定するところ,行政事件訴訟法9条には,処分の取消訴訟の原告適格に関し,「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴えは,当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき『法律上の利益』を有する者に限り,提起することができる。」と定められており,処分について争う「法律上の利益」を有する者であれば,処分の名宛人でない者でもその処分の取消しを求め得ることは当然である。
第二次納税義務者は,主たる納税義務者が租税を滞納した場合において,その財産について滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に,主たる納税義務者に代わって租税を納付する義務を負うものである。したがって,主たる課税処分の全部又は一部が取り消された場合には,第二次納税義務者は,納税義務を免れるか,又はこれが軽減されるものであって,その取消しによって財産権の侵害を回復すべき法律上の利益を有するものである。
そして,第二次納税義務の納付告知の取消訴訟において,主たる課税処分の違法を主張することは認められておらず,また,一般に第二次納税義務が発生している場合,主たる納税義務者は無資力・無資産であり,不服申立てを断念する場合が多いと考えられるから,第二次納税義務者に対しても不服申立適格を与える必要性は大きい。 したがって,第二次納税義務者には,「法律上保護された利益」があるものとして,主たる課税処分について,その取消しを求める不服申立適格があるものというべきである。 (二) 控訴人の主張
第二次納税義務の納付告知は,確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するものであり,納付告知を受けた第二次納税義務者は,あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた主たる納税義務者と同様の立場に立つというべきであるから,第二次納税義務者が主たる課税処分の適否を争うことは許されない。 2 不服申立て期間の起算日について
(一) 被控訴人の主張
(1) 第二次納税義務者がする主たる課税処分に対する不服申立ての不服申立期間の起算日は,第二次納税義務者の主たる課税処分の知不知にかかわらず,第二次納税義務の賦課決定の納付告知書の送達を受けた日の翌日と解すべきである。仮にそうでないとしても,その起算日は,第二次納税義務者が主たる課税処分があったことを知った日の翌日であると解すべきであり,その場合,控訴人において,被控訴人が現実に主たる課税処分を知った日を主張立証しない限り,第二次納税義務の賦課決定の納付告知書が送達された日をもって,被控訴人が主たる課税処分を知った日と認定すべきである。 (2) 本件において,被控訴人が主たる納税義務者であるA社に対する本件課税処分の存在及び内容を知った日は,本件告知処分を受けた平成14年6月8日であり,被控訴人は,その翌日から起算して2か月以内である平成14年8月6日に東京国税局長に対して本件異議申立てをしたものであるから,不服申立期間を徒過していない。 (二) 控訴人の主張
(1) 第二次納税義務者が主たる課税処分の取消しについて不服申立適格を有するとしても,不服申立期間の起算日について,第二次納税義務者が主たる課税処分を知った時あるいは納付告知の通知を受けた時を基準とすると,主たる納税義務者に対する処分後相当期間が経過した後に課税処分に対する不服申立てをすることを許すこととなり,徴税の安定と能率を害するおそれがあるから,主たる課税処分が主たる納税義務者に告知された時をもって基準とすべきである。
(2) 本件において,主たる納税義務者であるA社に対し本件課税処分の通知が到達したのは平成14年4月3日であり,不服申立期間の起算日は同月4日であるところ,被控訴人が本件異議申立てをしたのは同年8月6日であって,2か月の不服申立期間を経過していることは明らかであって,本件異議申立ては通則法77条1項に定める不服申立期間を徒過した不適法な異議申立てである。
第三 当裁判所の判断
一 国税徴収法に定める第二次納税義務は,主たる納税義務が申告又は決定,更正等により具体的に確定したことを前提として,その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に,租税徴収の確保を図るため,本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にある第三者に対して補充的に課される義務であって,その納付告知は,形式的には独立の課税処分ではあるけれども,実質的には,上記第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものにほかならず,この意味において,第二次納税義務の納付告知は,主たる課税処分により確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するものというべ
きである(最高裁昭和48年(行ツ)第112号同50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁,最高裁平成6年(行ツ)第7号同年12月6日第三小法廷判決・民集48巻8号1451頁参照)。
すなわち,第二次納税義務制度は,形式的には第三者に権利が帰属しているが,実質的には本来の納税義務者にそれが帰属していると認めても公平を失わないような場合,あるいは,第三者が何らかの意味で本来の納税義務者と密接な親近性を有する者であり,両者の間に実質的な一体性を肯定しても公平に反しないような利害共通の関係がある場合において,形式的な権利の帰属を否認して私法秩序を乱すことを避けつつ本来の納税義務者の租税を徴収するために,形式的な権利の帰属者に補充的に納税義務を負担させて徴収手続の合理化を図るとともに,権利救済の面においても,主たる納税義務を争う第二次納税義務者の訴権は,本来の納税義務者によっていわば代理行使されているものとみて,主たる納税義務については,本来の納税義務者に主たる課税処分についての不服申立ての途が与えられている以上,徴収手続の段階では第二次納税義務者が別途これを争うことはできないものとすることとして,第二次納税義務者に対し,本来の納税義務者との間で確定した主たる納税義務の存否及び数額を実体的な要件とし,これを所与のものとしてその履行責任を負担させるというものであるということができる。 二 そうであるとすれば,納付告知を受けた第二次納税義務者は,あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた納税義務者と同一の立場に立つものであるということができ,本来の納税義務者は,主たる納税義務についての申告又は決定,更正等が不存在又は無効でない限り,徴収手続において主たる納税義務の存否又は数額を争うことができないのと同様に,第二次納税義務の納付告知を受けた者も,納付告知についての不服申立て又は訴えにおいて主たる納税義務の存否又は数額を争うことのできないのはもとより(前掲昭和50年8月27日第二小法廷判決参照),本来の納税義務者とは別に,主たる課税処分についての不服申立て又は訴えを提起する固有の利益は有しないものと解するのが相当である(主たる課税処分と第二次納税義務の納付告知とは,要件及び効果を異にする飽くまで別個の行政処分であって,主たる課税処分は,本来の納税義務者に対して納税義務を確定する法的効果を及ぼすものの,第二次納税義務者に対しては納税義務を負担させ確定させるものではなく,その法律上の効果として,直接第二次納税義務者の権利利益を侵害し又は必然的にこれを侵害するおそれがあるものということはできない。なるほど,主たる課税処分の全部又は一部が取り消されれば,第二次納税義務者は,納税義務を免れ又は軽減されることになるけれども,それは,主たる課税処分の法律上の効果として直接侵害された第二次納税義務者の権利利益が回復されるのではなく,第二次納税義務の納付告知の実体的要件である主たる納税義務の存否又は数額が変更されたことに基づく効果にすぎないのであって,このような効果をもって,第二次納税義務者の主たる課税処分に対する不服申立適格を基礎付けることはできないものというべきである。)。 三 このように,第二次納税義務者が本来の納税義務者との間で確定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことができないことは,主たる納税義務が申告により確定した場合(この場合において,第二次納税義務者が更正の請求をする余地がないことは,いうまでもないところである。)においては明らかなところであるが,主たる納税義務が課税処分によって確定した場合においてのみこれと別異に解することは,主たる納税義務が申告によって確定した場合との均衡を失することになって,不当であるし,本来の納税義務者が主たる課税処分についての不服申立て又は訴えの途を尽くし,もはやこれを争えなくなっているにもかかわらず,その後に至って第二次納税義務者が本来の納税義務者に対する課税処分についての不服申立て又は訴えを提起してその取消しを求めることができる(その裁決又は判決による課税処分の取消しの効果は,当然,本来の納税義務者にも及ぶことになる。)という不合理な結果を招来することになる。
四 したがって,【要旨】第二次納税義務者は,主たる納税義務の存否又は数額を争って主たる課税処分に対する不服を申し立てる適格を有しないものというべきである。 そうすると,本件異議申立ては,不服申立適格のない者によってされた不適法な申立てというべきであり,したがって,本件審査請求は,適法な異議申立てを経ないでされた不適法なものというべきであるから,これを却下した本件裁決に違法はない。 五 以上のとおり,本件裁決が違法であるとして被控訴人の請求を認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由がある。
よって,原判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 矢尾 渉裁判官 岡崎克彦)
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