判例検索β > 平成15年(行コ)第17号
損害賠償請求(住民訴訟)控訴事件
事件番号平成15(行コ)17
事件名損害賠償請求(住民訴訟)控訴事件
裁判年月日平成15年6月16日
法廷名東京高等裁判所
判示事項市が東京都知事から使用許可を受けたことに基づき有する都営住宅の建物の使用権と地方自治法238条1項4号にいう「地上権,地役権,鉱業権その他これらに準ずる権利」
裁判要旨市が東京都知事から使用許可を受けたことに基づき有する都営住宅の建物の使用権は,地方自治法238条1項4号にいう「地上権,地役権,鉱業権その他これらに準ずる権利」に当たらない。
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主 文
本件控訴を棄却する
控訴人が当審において追加した訴えを却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,清瀬市に対し,815万6432円及びこれに対する平成13年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払をせよ。(後記第2の3(1)のとおり,控訴人は,上記2の請求の趣旨につき,原審では,建物の使用条件の変更を求めなかったことなどを義務違反とする請求の原因に基づく請求をしていたところ,当審において予備的に,C会との間で建物の使用貸借契約を締結したことを義務違反とする請求の原因に基づく請求を追加した。)第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件は,清瀬市が,東京都から使用許可を受けた建物の一部(東京都清瀬市ab丁目所在の都営d(以下「本件建物」という。)の1階部分の床面積405.64平方メートル(以下「本件建物部分」という。))を,身体障害者授産施設として,障害者授産事業等を行っている団体に使用させたことに関連し,市の財産の管理を違法に怠る事実,市と上記団体との間の違法な契約の締結又は市長個人に対する損害賠償請求権の管理(行使)を違法に怠る事実があり,市長個人は,東京都に対し建物の使用条件の変更を求めなかったことなどの同市に対する不法行為又は委任契約上の債務不履行により,同市が東京都に対し損害賠償として支払った金額(815万6432円)に相当する損害を同市に被らせたと主張して,同市の住民である控訴人が,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「法」又は「自治法」という。)242条の2第1項4号前段,後段に基づき,同市に代位して,市長の職にある被控訴人に対し,上記損害(併せて,これに対する不法行為又は債務不履行の後である平成13年9月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金)を同市に賠償するよう求めている住民訴訟である。(2) 控訴人は,原審において,清瀬市は,東京都から使用許可を受けたことに基づき建物の使用権を有しており,これは,法238条1項4号,237条1項,242条1項の「財産」に当たると解すべきであると主張し,それを前提に,上記団体が身体障害者授産施設として使用することを許容する使用条件への変更を東京都に対し求めなかったこと及び使用許可の更新を申請するに当たり上記趣旨の使用条件を前提としなかったことが,本件訴えの対象となる財産の管理を違法に怠る事実に当たると主張した。そして,控訴人は,被控訴人の上記の不作為は,不法行為又は委任契約上の債務不履行を構成すると主張して,法242条の2第1項4号前段に基づき,違法な財務会計上の怠る事実に係る当該職員に対する損害賠償請求として,上記の損害賠償を求めた(この請求を以下「甲請求」という。)。原審は,清瀬市が上記建物につき有する権利は,法238条1項4号の権利に当たらず,したがって,法237条1項,242条1項の「財産」に当たらないから,その管理を怠ることは,住民訴訟の対象となる財産の管理を怠る事実に当たらないとし,甲請求に係る訴えは,住民訴訟の類型に該当しない訴えであるとして却下した。(3) これに対し,控訴人が控訴を提起し,甲請求に係る訴えの対象となる財務会計上の行為又は事実として,上記に加え,被控訴人に対する損害賠償請求権の管理(行使)を違法に怠る事実を主張している(この主張に伴い,甲請求に係る訴えの根拠(代位の根拠)としては,法242条の2第1項4号後段の怠る事実に係る相手方に対する損害賠償請求が追加されている。)。さらに,控訴人は,当審において,被控訴人が,清瀬市と上記団体との間で上記建物を身体障害者授産施設として使用する内容の契約を締結したことが,住民訴訟の対象となる財務会計上の違法な行為に当たり,この契約の締結により市が損害を被ったとの主張を追加し,この主張は,従来の主張と予備的な関係に立つとする。当裁判所は,後記第3の3(1)のとおり,この主張は,甲請求とは異なる請求を定立するものであり,訴えの追加的変更に当たると判断する(この主張による追加的変更による請求を,以下「乙請求」という。)。
2 当事者の主張に関する原判決の摘示の引用
当事者の主張は,後記3,4に当審における主張の要旨を加え,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ない
し3(原判決2頁6行目から6頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁1行目から3行目の「本件建物部分の実態に即した使用許可を改めて申請するなど適切な措置を執らなかった。」を「C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,あるいは使用許可の更新の申請に当たり上記趣旨の使用条件を前提とするなどの措置を講じなかった。これは,財産の管理を違法に怠る事実に当たるとともに,被控訴人の清瀬市に対する不法行為又は委任契約上の債務不履行を構成する。」に改める。
(2) 同4頁14行目から15行目の「被告について,清瀬市が本件建物部分について有する使用借権の管理を怠る事実があるとして」を「清瀬市の有する本件建物部分に係る使用借権の管理に関する被控訴人の違法行為につき」に改め,16行目の「住民監査請求」の次に「(以下「本件監査請求」という。)」を加える。3 甲請求に係る訴えの対象となる財務会計上の行為又は事実及びこれについての住民監査請求の前置に関する追加主張
(1) 控訴人の主張
ア 市が本件建物部分につき有する使用権が法238条1項4号所定の地上権等に準ずる権利に該当し,「財産」に当たるかどうかは,その用益物権性,財産的価値や,財務会計上の観点から管理の適否を論ずべき余地の有無等によって決すべきである。
行政財産の使用許可を受けた者に当該財産を直接かつ排他的に支配する権原を付与する法令の規定に着目するのは,形式論であり,「財産」該当性を否定する根拠となり得ない。行政財産の使用許可は,使用期間を定めておらず,法238条の4第6項の事情がない限り永久に使用することができることとなるものであるから,これに基づく権原は,かえって強い権原ということができる。
地方公共団体が賃借権又は使用借権に基づき使用する不動産の管理に問題があれば,当該地方公共団体には損害賠償債務が発生するのであるから,賃借権又は使用借権に関する財産管理の必要性は大きい。
本件建物部分の使用権も,一時的なものではなく,実質的には本件建物の存続する限り永久的に使用することのできる強い権原であり,「学童クラブ」の使用目的の範囲内で広く自由使用等が許容されており,その財産的価値は高い。その管理は,財務会計上の観点から論ずべきであり,道路と異なり行政処分に基づく管理をすることができないことなどからすれば,むしろ,これが法238条1項4号所定の地上権等に準ずる権利に該当することは明白である。
なお,本件においては,東京都の許可条件に違反する使用によって清瀬市に損害が生じたにもかかわらず,同市とC会との間に無償で使用させる旨の合意がある以上前者が後者に対し使用料相当の損害賠償を求めることもできず,住民訴訟の対象とする以外には救済手段が一切ない。それゆえ,結論の合理性からしても,本件建物部分の使用権は,地上権等に準ずる権利に該当すると解すべきである。イ甲請求に係る訴えの対象となる財務会計上の行為又は事実としては,本件建物部分に係る使用借権の管理を違法に怠る事実のほか,被控訴人に対する不法行為又は委任契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権の管理(行使)を違法に怠る事実がある。
(ア) すなわち,被控訴人は,C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,あるいは使用許可の更新の申請に当たり上記趣旨の使用条件を前提とするなどの措置を講じなかった。これは,清瀬市に対する不法行為又は委任契約上の債務不履行を構成し,同市は,東京都に対し支払った損害金と同額の損害をこれにより被ったので,被控訴人に対し,損害賠償請求権を有するが,その行使を違法に怠っている。この事実も,甲請求に係る訴えの対象となる。
(イ) そして,本件監査請求の対象とされた事項は,本件建物部分の管理状況及び使用状況であるから,上記の損害賠償請求権の行使を違法に怠る事実も,監査請求を経ていたというべきである。
(ウ) 怠る事実を対象とする住民監査請求には,期間制限を定める法242条2項は適用されない。
損害賠償請求権等の不行使を住民監査請求の対象とする場合をいわゆる不真正怠る事実と観念するとしても,住民監査請求の請求期間は,当該損害賠償請求権の原因となる行為の時点ではなく,当該損害賠償請求権を行使し得るようになった時点
を基準とすべきである。清瀬市が被控訴人に対して上記の損害賠償請求権を行使し得るようになったのは,東京都住宅局長から平成13年8月1日損害賠償の請求を受け,同年9月28日までの間の損害金を支払った時点である。
よって,同年12月26日にされた本件監査請求は,いずれにしても適法である。
(2) 被控訴人の主張
上記(1)イの怠る事実を対象とする住民監査請求の請求期間は,次のア,イのいずれの点からみても,遅くとも被控訴人が清瀬市長に就任した平成7年5月1日から進行する。そうすると,平成13年12月26日にされた本件監査請求は,請求期間を徒過してされたものであり,不適法である。
ア 特定の財務会計上の違法又は不当の主張を,当該行為又は怠る事実のいずれの面からも住民訴訟の対象として構成し得る場合には,その怠る事実(いわゆる不真正怠る事実)についても住民監査請求の期間の制限があり,その起算点は,当該行為についてのそれと一致する。
上記(1)イの怠る事実に関する控訴人の主張において,清瀬市の東京都に対する損害賠償義務は,同市がC会に対し身体障害者授産施設の設置の目的で本件建物部分を使用させたという当該行為によって生じたものである。控訴人は,C会に対する使用許可ないしは清瀬市とC会との間の使用貸借契約の締結という当該行為を住民監査請求の対象とすることもできた。したがって,上記の怠る事実は,これらの当該行為と表裏をなす事実であり,いわゆる不真正怠る事実である。 よって,これについての監査請求期間は,当該行為であるC会の使用開始の日である平成6年6月又は遅くとも被控訴人の市長就任の日である平成7年5月1日を基準として起算されなければならない。
イ C会に対する使用許可ないし使用貸借契約の締結が東京都の定めた使用目的に違反したことによって東京都が清瀬市に対し取得するとされる損害賠償請求権は,上記の使用許可ないし使用貸借契約の締結の後,同一の使用目的違反に基づき日々発生している。一般に,同一の契約に基づいてされる数回の公金の支出を対象とする住民監査請求の期間は,もととなる契約の違法,不当を理由とする場合には当該契約の締結の日から起算されるべきものと解されていることに従えば,上記の損害賠償請求権に関わる住民監査請求の期間の起算日は,当該行為であるC会の使用開始の日である平成6年6月又は遅くとも被控訴人の市長就任の日である平成7年5月1日となる。
4 清瀬市とC会との間の契約の締結の違法を原因とする主張(乙請求に関する主張)
(1) 控訴人の主張
ア 被控訴人は,清瀬市長として,本件建物部分が適正に使用されるよう第三者と契約を締結し,同市に損害を被らせないようにする注意義務があるにもかかわらず,東京都の許可において定められた使用目的外の使用であることを熟知しながら,C会との間で,本件建物部分を身体障害者授産施設として無償で使用させる旨の契約を放置し,かつ,更新した。被控訴人のこの行為は,違法な契約の締結に当たるとともに,不法行為又は委任契約上の債務不履行を構成する。清瀬市は,この行為により,東京都に支払った損害金と同額の損害を被った。
よって,控訴人は,予備的に,被控訴人に対し,上記の損害を清瀬市に対し賠償するよう求める。
イ 本件監査請求の対象とされた事項は,本件建物部分の管理状況及び使用状況であるから,上記アの違法な契約の締結も,監査請求を経ていたというべきである。また,損害賠償請求権の原因も,従来の主張における請求原因と全く重なり合っており,法律要件に適合するよう構成し直しただけであるから,上記アの違法な契約の締結を対象とする訴えも,本件訴えにおいて当初から提起されていたものとして,法242条の2第2項に違反せず,適法というべきである。
(2) 被控訴人の主張
上記・の控訴人の主張は,清瀬市とC会との間で締結されていた使用貸借契約を,被控訴人が同市長に就任した後もそのまま維持したことの責任を問うものであるから,上記就任の時から監査請求期間が進行するといわなければならない。 よって,平成13年12月26日にされた本件監査請求は,請求期間を徒過してされたものであり,不適法である。
第3 当裁判所の判断
1 甲請求に係る訴えの適否について

(1) 使用借権の管理を怠る事実について
【要旨】当裁判所も,清瀬市が本件建物部分について有する使用権は,法238条の4第4項によってされた本件使用許可に基づく公法上の権利ないし地位であって,法律上確立した用益物権ないし用益物権的性格を有する権利ではないので,法238条1項4号の地上権等に準ずる権利に当たらず,したがって,その管理に関する事実は,住民訴訟の対象となる財産の管理を怠る事実に当たらないと判断する。その理由は,控訴人の当審における主張に対する判断を次のとおり付加するほかは,原判決の理由説示(原判決6頁12行目から7頁12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
ア控訴人は,① 行政財産の使用許可を受けた者に当該財産を直接かつ排他的に支配する権原を付与する法令の規定がないことは,使用許可に基づく権利の「財産」該当性を否定する根拠となり得ない,② 行政財産の使用許可は,使用期間を定めておらず,法238条の4第6項の事情がない限り永久に使用することができるものであるから,強い権原を基礎付けるものであると主張する。 しかしながら,むしろ,行政財産の使用許可を受けた者に当該財産を直接かつ排他的に支配する権原を付与する法令の規定がなく,法238条の4第6項が公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは地方公共団体の長等は使用許可を取り消すことができると規定していることは,使用許可に基づく権利が,その目的物が行政財産であることに由来する制約を受けていることを端的に表しているものと解するのが相当である。行政財産の使用許可に期限を定めることが法令上必須とされておらず,結果的に長期間にわたって使用を継続し得る場合があるからといって,これが使用許可に基づく権利の上記の性質を左右する事情になるわけではない。
イ 控訴人は,地方公共団体が使用借権に基づき使用する不動産の管理に問題があれば,当該地方公共団体に損害賠償債務が発生するのであり,行政処分に基づいて管理をすることもできないのであるから,使用借権に関する財産管理の必要性は大きいと主張する。
一般に,普通地方公共団体の有する権利は,その根拠や性質が様々であって,その行使の態様等によってはその義務者に対する損害賠償義務を当該普通地方公共団体に発生させるものもあることはいうまでもない。しかし,自治法は,住民訴訟の制度の目的にかんがみ,これによる違法の予防,是正の対象とされ得る行為又は事実の客体となるものを,「公金」,「財産」,「契約」,「債務その他の義務」と限定的に列挙し(同法242条の2第1項,242条1項),その上で特に「財産」については同法237条1項並びにこれを受けた同法238条1項各号,239条1項各号,240条1項及び241条1項によってそれに該当するものを完結的に規定していると解される。このような自治法の立法趣旨に照らせば,各個の物,権利や価値が財産に当たるかどうかは,上記各規定に則りその物等の性質に従って決まるものと解すべきである。それらの物等の管理及び違法の予防,是正の必要性の大小をそのつど考量して,その管理に関する事項が「財産」の管理に当たるものかどうかを決定することは,自治法の立法趣旨に適合する解釈とはいい難く,控訴人の上記主張は採用することができない。
控訴人は,さらに,本件は行政上の管理を行う余地がなく,また,清瀬市とC会との間に合意がある以上前者が後者に対し損害賠償を求めることもできず,救済手段が一切ないともいう。そこにいう救済手段が誰のどのような利益についていうものかは必ずしも明らかではなく,このような視点から直ちに住民訴訟の対象となる「財産の管理」への該当性が決まるとは解されない上に,仮に清瀬市の利益をいう趣旨であるとしても,真実同市が何者かの不法行為又は債務不履行によって損害を被ったのであれば,その損害賠償請求権の管理の適否の問題として論ずべきものであって,この点から使用許可に基づく権利を法238条1項4号の地上権等に準ずる権利に当たると解さなければならないものではない。
(2) 損害賠償請求権の行使を怠る事実について
ア 控訴人の上記第2の3・イで主張する原因事実による不法行為又は被控訴人との間の委任契約上の債務不履行に基づいて,清瀬市の被控訴人に対する損害賠償請求権が発生するとすれば,当該損害賠償請求権は,金銭の給付を目的とする同市の権利であるから,法240条所定の債権に当たり,したがって,法237条1項にいう同市の「財産」に当たる。
そうすると,同市の長が被控訴人に対し上記損害賠償請求権を行使しないことは,法242条1項所定の財産の管理を怠る事実に当たり,住民監査請求及び住民
訴訟の対象となる。
イ 請求原因・の事実,すなわち,控訴人が平成13年12月26日本件監査請求をし,清瀬市監査委員が平成14年2月21日控訴人に対し監査の結果を通知した事実は,当事者間に争いがない。
そして,控訴人が清瀬市監査委員に提出した本件住民監査請求書には,本件建物部分を身体障害者授産施設としてC会に使用させたことが,東京都の使用許可において定められた目的に反したため,清瀬市が東京都に対し所定の損害金を納付した事実を指摘し,「清瀬市長(当時企画部長)は自らの失態を市民の税金で処理することは不当である」,被控訴人に対し上記損害金に相当する815万6432円を「清瀬市へ返還することを請求する」と記載されている(甲8)。このような監査請求書の記載によると,本件監査請求は,上記損害賠償請求権を行使しない事実をもその対象とする趣旨であると認められる。
したがって,上記損害賠償請求権を行使しない事実についても,住民監査請求を経ていることになる。
ウ(ア) 法242条2項本文は,住民監査請求は当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときはこれをすることができないと規定している。この規定の文理及び趣旨と,財務会計上の何らかの不作為として把握される怠る事実の性質とにかんがみると,財務会計上の怠る事実を対象とする住民監査請求は,当該怠る事実とされる不作為が現に存続している限り,上記規定の定める監査請求期間の制限を受けるものではないと解される。
上記主張の損害賠償請求権に関しては,清瀬市長は,その発生を認めず,これを被控訴人に請求していない(この事実は,被控訴人において争うことを明らかにしないので,自白したものとみなされる。)のであるから,その管理を怠る事実を対象とする住民監査請求は,請求期間の制限を受けないこととなる。 そうすると,本件監査請求のうち上記損害賠償請求権の管理を怠る事実を対象とする部分を,法242条2項本文所定の監査請求期間を経過した後にされたものとして不適法ということはできない。
(イ) 被控訴人は,清瀬市の東京都に対する損害賠償義務は,同市がC会に対し身体障害者授産施設の設置の目的で本件建物部分を使用させたという行為によって生じたものであるから,控訴人の主張する怠る事実は,これらの行為と表裏をなす,いわゆる不真正怠る事実であると主張し,したがって,これについての監査請求期間は,遅くとも被控訴人の市長就任の日である平成7年5月1日を基準として起算されるべきであると主張する。
一般に,違法に財産の管理を怠る事実があるとしてされた住民監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているもの(これがいわゆる不真正怠る事実と呼ばれるものである。)であるときは,当該監査請求については,上記の怠る事実に係る請求権の発生原因とされた当該行為のあった日又は終わった日を基準として法242条2項の規定を適用すべきである。同項の規定が当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求を不適法とし,当該行為の違法是正等の措置を請求することはできないとしているにもかかわらず,監査請求の対象を当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成すれば同項の定める監査請求期間の制限を受けないで当該行為の違法是正等の措置を請求することが許されるとすると,法が監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されることになるからである。 しかしながら,控訴人の主張する上記損害賠償請求権の発生原因(被控訴人は,清瀬市の東京都に対する損害賠償義務に着目するが,この点において既に当を得ない。)は,C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,あるいは使用許可の更新の申請に当たり上記趣旨の使用条件を前提とするなどの措置を講じなかったということである。これ自体が財産の管理を怠る事実に当たるといえないことは,上記・に説示したとおりである。したがって,上記損害賠償請求権の管理を怠る事実を対象とする住民監査請求は,特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものではない。ここでは,行使を怠っているとされる請求権の原因事実そのものを対象として住民監査請求をすることができないのであるから,請求権の不行使を住民監査請求の対象とすることを認めることによって監査請求期
間の制限の趣旨が没却される事態は生じ得ないのであって,上記の理は,上記損害賠償請求権の管理を怠る事実を対象とする住民監査請求には当てはまらない。この点に関する被控訴人の主張は,前提を異にするものであって採用の限りでない。 被控訴人は,また,C会に対する使用許可ないし使用貸借契約の締結が東京都の定めた使用目的に違反したことによって東京都が清瀬市に対し取得するとされる損害賠償請求権は日々発生しているのであるから,上記の損害賠償請求権に関わる住民監査請求の期間の起算日は,遅くとも被控訴人の市長就任の日と解すべきであると主張する。
しかしながら,行使を怠っているとされる損害賠償請求権の発生する時期やその同一性,個数のいかんによって,その怠る事実を対象とする住民監査請求の期間の起算日が直ちに決まるものとは解されない上に,控訴人の主張するところによれば,清瀬市の被控訴人に対する損害賠償請求権(被控訴人は,ここでも東京都の同市に対する損害賠償請求権を取り上げるが,先に判示したと同様に失当である。)は,日々発生しているものとは解し難いから,被控訴人の主張はいずれにしても採用することができない。
エ してみると,甲請求に係る訴えは,上記の損害賠償請求権の管理を怠る事実を対象とするものとしては適法であるというべきである。
2 甲請求の当否について
(1) 請求原因・の事実のうち,控訴人が清瀬市の住民であること,被控訴人が清瀬市長の職にある者であることは,当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,被控訴人が清瀬市長に就任したのは平成7年5月1日であることが認められる。
同・(清瀬市が本件使用許可を受けたこと)及び同(3)(被控訴人の前任者の市長がC会に本件建物部分を身体障害者授産施設として無償で使用させたこと)の各事実,同・の事実のうち,被控訴人が,C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,あるいは使用許可の更新の申請に当たり上記趣旨の使用条件を前提とするなどの措置を講じなかったこと,同(5)の事実(Dが東京都監査委員に対し本件建物部分の管理を怠る事実につき住民監査請求をし,同監査委員が本件建物部分の使用に関し清瀬市に使用条件の違反があるとして,使用料相当損害金を補填するための措置を講ずべきことを東京都知事に勧告したこと),同・の事実のうち,東京都住宅局長が平成13年8月1日に清瀬市に対して815万6432円の納付を請求し,清瀬市が遅くとも平成13年9月28日までに東京都に対して同額を支払ったこと,同(8)の事実(本件監査請求と平成14年2月21日その請求を棄却する旨の監査結果の通知が控訴人にされたこと),以上の事実は,当事者間に争いがない。 また,被控訴人は,清瀬市がC会に対し本件建物部分を身体障害者授産施設として無償で使用させ始めた当時,同市企画部長の職にあり,本件使用許可を受ける件の処理にも関与していた(弁論の全趣旨)。
(2)上記(1)の事実に証拠(甲5)及び弁論の全趣旨を併せると,被控訴人は,清瀬市長に就任した際,同市がC会に本件建物部分を身体障害者授産施設として無償で使用させていること及びそれが本件使用許可において定められた条件に違反していることを認識しながら,C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,あるいは使用許可の更新の申請に当たり上記趣旨の使用条件を前提とするなどの措置を講じなかったものであると認められる。
これは,清瀬市の長である被控訴人が,東京都から使用許可を受けた行政財産について許可によって定められた条件に違反した使用をしたものであって,東京都との間に紛議を生じ,ひいては自らが長を務める清瀬市に,本来負担する必要のなかった義務を負わせるおそれのある行為であり,被控訴人が清瀬市との間の委任契約に基づいて負っている注意義務に違反するものというべきである。したがって,被控訴人は,債務不履行の責任を免れない(これを超えた積極的な加害行為として清瀬市に対する不法行為を構成するとはいい難い。)。
この点に関し,被控訴人は,次のとおり主張するが,いずれも採用することができない。
ア 被控訴人は,C会は,清瀬市の委託を受けて身体障害者授産事業を行っていたのであり,同事業の主体は,実質的には清瀬市であったから,C会に本件建物部分を使用させたことは,違法でなかったと主張するが,使用の主体はひとまず措いても,身体障害者授産施設として使用させた点において既に本件許可条件の違反が生
じているのみならず,本件建物部分について,その直接占有をC会が取得し,同会がこれを使用していたことは,上記・の事実から明らかであるから,身体障害者授産事業の「実質的な主体」が誰であるかを論ずるまでもなく,被控訴人の上記行為が本件許可条件に反していることは動かし得ない。
イ 被控訴人は,また,C会に本件建物部分を使用させたことが東京都との関係で違法であったとしても,C会に本件建物部分で身体障害者授産事業を行わせることは同市にとって必要有益な事業であったから,清瀬市との関係では違法ではなかったと主張する。
しかしながら,C会に身体障害者授産事業を行わせることが清瀬市にとって必要有益な施策であったとしても,そのためであればどのような手段を用いることも義務違反とならないというものではない。公共団体の長は,その施策の遂行のために必要な権利や地位を取得し,これを利用する場合にも,その権利や地位に関する法規又はこれに基づく他の行政主体の行為によって定められたところを遵守すべき注意義務を当該公共団体との関係で負うものと解すべきであり,当該権利や地位が施策遂行上不可欠であり,あるいは当該施策が重要であるからといって,その義務をないがしろにすることは許されない。
ウ 被控訴人は,東京都知事は平成13年8月1日付けで使用目的を身体障害者授産施設として本件建物部分の使用許可をし,C会にこれを使用させ,身体障害者授産事業を行わせることを追認したのであるから,違法性は治癒されたというべきであるとも主張するが,被控訴人が清瀬市に対して犯した義務違反が,同市の意思によらないで,東京都の意思ないし態度によって治癒されるものとはそもそも考えられない上,使用許可書(乙14の1)をみても,上記使用許可は,それ以前に清瀬市がC会に本件建物部分を身体障害者授産施設として使用させたことを追認ないし宥恕する趣旨を含むものとは認められないから,被控訴人のこの主張も失当である。
(3)ア そして,上記の清瀬市の東京都に対する815万6432円の納付は,本件使用許可における損害賠償の定めに則り,平成8年8月1日から平成13年7月31日までC会に身体障害者授産施設として本件建物部分を使用させたことを原因とする損害賠償金として納付したものである(甲3,5ないし7)。イ しかしながら,清瀬市が,当初から,C会の身体障害者授産施設として本件建物部分を使用することを前提に東京都から使用許可を受けていたとしても,上記授産施設は,東京都が行う公共住宅建設に関連する地域開発要綱に基づく使用料免除の対象にならない施設であって,東京都行政財産使用料条例及び東京都公有財産規則に従って,少なくとも上記納付額と同額の使用料を東京都に支払わねばならなかった(甲6,7,乙14の1,2)。
他方,同市は,平成13年7月31日改めて上記授産施設のため同年8月1日から2か月間の本件建物の一部の使用許可申請をし,その旨の許可を得てC会に心身障害者通所授産事業の運営業務を委託し(乙14の1,2,9),併せて,同年7月31日,障害児放課後育成施設として本件建物の一部を使用することを前提として,東京都に使用許可の申請をし,翌8月1日使用期間を5年間とする使用許可を得た上(乙15の1,2),同日上記障害児放課後育成施設の運営業務をC会に委託している(乙15の9)。以上の各事実と弁論の全趣旨とを併せ考えると,被控訴人の上記の債務不履行がなかった場合には,被控訴人は,C会が本件建物部分を身体障害者授産施設として使用することが許容される使用条件への変更を東京都に対して求め,上記使
用条件を前提とした上記の期間の使用料として,清瀬市は,東京都に対し,上記と同額の金員を納付することになったものと推認される。
ウ 以上によれば,清瀬市が東京都に支払った上記アの金員を,被控訴人の上記債務不履行によって同市の被った損害であるというのは相当ではない。(4) 以上のとおりであるから,甲請求は結局失当である。
3 清瀬市とC会との間の契約の締結の違法を原因とする主張(乙請求)について ・ 控訴人の主張の趣旨
控訴人は,清瀬市とC会との間の契約の締結をもって住民訴訟の対象となる財務会計上の行為とし,これを前提とした損害賠償請求権の発生原因として,被控訴人が,清瀬市とC会との間で本件建物部分を身体障害者授産施設として使用する内容の契約を締結したと主張した上,この契約の締結は,被控訴人の不法行為又は委任契約上の債務不履行を構成し,同市は,これにより東京都に対する損害賠償を余儀なくされ,よって賠償金額と同額の損害を被ったと主張するものである。
そうすると,控訴人の主張は,甲請求の訴訟物とされた上記各損害賠償請求権とは,不法行為に基づくものとしても委任契約上の債務不履行に基づくものとしても,異なった事実を原因(侵害行為又は注意義務違反)とするものであるから,それによって根拠付けられる各損害賠償請求権は,甲請求の訴訟物とされた上記各損害賠償請求権とは別のものであることとなる。してみれば,控訴人が予備的主張というのは,甲請求とは別個の請求(乙請求)を定立する申立てであり,訴えの予備的追加的変更を申し立てるものにほかならない。
そこで,以下乙請求に係る訴えの適否について検討する。
(2) 清瀬市とC会との間の契約の締結と住民監査請求
清瀬市がC会に本件建物部分を使用させたことは,上記2(1)のとおりであるが,その基礎に両名間の何らかの契約が存在するのかどうか,それがどのような契約であるかは,これを明らかにする的確な証拠がない。しかし,清瀬わかば会が本件建物部分を使用し始めたのが遅くとも平成6年6月15日であること(争いのない請求の原因(2),(3)の各事実,甲5)にかんがみれば,C会が本件建物部分を使用することに関連する財務会計上の契約が清瀬市との間に締結されたとすると,その時期は,遅くとも同日ころであったと推認される。
そうであるとすれば,本件監査請求は,上記のとおり平成13年12月26日にされたものであるから,上記の契約の締結を対象とする趣旨がこれに含まれていると解し得るとしても,契約締結の時から1年を経過した後にされたものであることが明らかであるが,監査請求期間を経過したことについての正当な理由に当たる事実の主張立証はない。
したがって,上記の契約の締結については,適法な住民監査請求がされたとはいえないことになる。
控訴人は,被控訴人が清瀬市とC会との間の契約を維持したことも,契約の締結に当たり,住民訴訟の対象となるとし,これを前提として,上記の契約の締結は適法な住民監査請求を経ていると主張しているものと解し得ないでもないが,法242条2項の規定に照らし,その前提を採用することができない。
もっとも,東京都知事が清瀬市に対し平成11年6月14日本件建物の使用許可を更新したことにかんがみると,仮に同市とC会との間に本件建物部分の使用に関する契約があったとすれば,この契約についても同日ころ更新の合意がされたことがうかがえないではなく,控訴人の上記主張は,この合意も住民訴訟の対象とするものと解する余地がある。しかし,この合意の時を基準としても,本件監査請求は1年を経過した後にされたものであることになるから,上記合意についても,適法な住民監査請求がされたとはいえない。
(3) 契約の締結の違法を原因とする訴えの追加的変更と出訴期間 乙請求を追加する趣旨の訴え変更申立ては,平成15年2月14日当裁判所に提出された控訴人の同月17日付け準備書面によってされたものである(記録上明らかである。)。一方,本件監査請求の結果が控訴人に通知されたのは,上記2(1)のとおり平成14年2月21日であるから,上記訴え変更申立ては,本件監査請求につき法242条の2第2項1号の定める期間を経過した後にされたことが明らかである。
控訴人は,乙請求の原因も,甲請求のそれと全く重なり合っており,法律要件に適合するよう構成し直しただけであるとして,乙請求に係る訴えも本件の当初から提起されていたものとみるべきであると主張するが,両請求の原因として控訴人の主張するところは,事実として異なるものであるだけでなく,それぞれの法的な観点も同一ではない。また,控訴人において,所定の期間内に乙請求に係る訴えを提起することを妨げるような事情があったとも認められない。したがって,乙請求を追加する訴え変更の申立てについて,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特別の事情があるとはいえない。
よって,上記訴え変更申立ては,出訴期間の遵守を欠くものであり,乙請求に係る訴えは,この点においても不適法であることとなる。
(4) まとめ
以上のとおり,乙請求に係る訴えは,いずれの点からしても不適法である。4 結論
以上の次第であるから,甲請求に係る訴えは適法ではあるけれども,同請求は失当であって棄却を免れない。しかし,この点に関し原判決を取り消して甲請求を棄却することは,原判決を控訴人に不利益に変更することとなるので,本件控訴を棄却するにとどめることとする。

また,当審で追加された訴え(乙請求に係る訴え)は不適法であるから,これを却下することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官赤塚信雄 裁判官 小林 崇 裁判官 長屋文裕)
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