判例検索β > 平成14年(ネ)第5138号
競落代金返還請求事件
事件番号平成14(ネ)5138
事件名競落代金返還請求事件
裁判年月日平成15年1月29日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第56巻1号1頁
原審裁判所名新潟地方裁判所
原審事件番号平成12(ワ)683
判示事項市街化調整区域の指定があるのにこれがないものとして最低売却価額が定められた土地の競売手続の実施と民法568条,566
条の類推適用
裁判要旨土地の競売手続において,実際には当該土地につき市街化調整区域の指定があるにもかかわらず,これがないものとして最低競売
価額が決定され売却が実施された場合には,買受人は,民法568条,566条の類推適用により,売却代金の配当を受けた債権者に
対して,代金の減額を請求することができる。
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主 文
1 本件控訴を棄却する
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第2 事案の概要
1 本件は,競売手続で土地を取得した買受人が,競売手続における評価人の評価は当該土地についての公法上の規制が存することを看過してしたものであるとして,配当を受けた抵当権者に対して,担保責任の規定(民法568条,566条又は565条)に基づいて代金の一部返還又は損害賠償を求めた事案である。
2 前提となる事実
(1) 控訴人は,平成9年4月25日,株式会社新日光(以下「新日光」という。)から原判決別紙物件目録記載1ないし7の土地(以下,全体を「本件各土地」といい,個々の土地については「本件土地1」などという。)について,債権額を7000万円とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)の設定を受けた。(争いがない。)
(2) 控訴人は,本件抵当権に基づいて新潟地方裁判所に本件各土地の競売を申し立て,同裁判所は,平成10年12月28日,競売開始決定をした(同庁平成10年(ケ)第358号事件。以下,この事件の手続を「本件競売手続」という。)。(争いがない。)
(3) 本件各土地は,平成8年4月1日,新潟県告示第1148号をもって,都市計画法に基づく用途地域の指定として第二種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%)に指定されたが,昭和61年3月25日付けで新潟県告示803号をもって,都市計画法7条の市街化区域から市街化調整区域に編入(いわゆる「逆線引き」)されており,都市計画法上建物の建築が制限されている(以下,この制限を「本件規制」という。)。(争いがない。) (4) ところが,本件競売手続において評価人が作成した評価書(甲2。以下「本件評価書」という。)には,本件各土地の「公法上の規制」の項目に「第2種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%)に指定されている。」とのみ記載されており,本件各土地の評価については,本件各土地の南西約700mの住宅地域に所在する県基準地(番号・新潟(県)-a,所在地番・新潟市b番c,地積・176㎡,価格・1㎡当たり11万3000円,価格時点・平成10年7月1日,周辺の状況・一般住宅の中に空地が見られる新興の住宅地域,前面道路・南4m私道,公法規制・第2種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%))の価格を参考にし,標準的画地の更地価格を1㎡当たり10万4000円と査定し,面積が大きく,全体として不整形であり,整地不十分な箇所もあるなどの減価要因による個別格差修正減価として78%,競売市場の特殊性に基づく市場性減価として60%を考慮して,本件各土地の1㎡当たりの現況価格を4万8600円と評価したが,本件土地4の一部には賃借権を主張する第三者が施工したコンクリート製の洗車場施設が設置されていることから本件土地4については更に3%の減価を施し,最終的には,本件各土地の面積に評価した1㎡当たりの価格を乗じて,本件土地1を78万円,本件土地2を4510万円,本件土地3を83万円,本件土地4を3371万円,本件土地5を180万円,本件土地6を564万円,本件土地7を78万円と評価した旨が記載されている。(争いがない。)
(5) 新潟地方裁判所(以下「執行裁判所」という。)は,本件各土地を一括して売却することと定め,本件評価書に基づいて,最低売却価額を8864万円(その内訳は,本件評価書の本件各土地の上記評価額のとおり。)と定めて期間入札の方法による売却を実施した。(争いがない。)
(6) 被控訴人は,本件各土地につき8872万2000円の最高価で買受けの申出をし,平成11年7月19日,執行裁判所から売却許可決定を受け,同年8
月30日,代金を納付して,本件各土地の所有権を取得した。(争いがない。) (7) 控訴人は,平成11年10月20日,執行裁判所から本件競売手続の手続費用として111万0805円,本件抵当権に基づく配当として8761万1195円,合計8872万2000円の配当を受けた。(争いがない。)
なお,本件競売手続においては,控訴人以外からも配当要求・交付要求があったが,控訴人以外には配当されなかった。(甲6)
(8) 本件各土地は,その全部が市街化調整区域内に在るが,本件土地4ないし7については,平成13年1月22日,都市計画法(平成12年法律第73号による改正前のもの)43条1項6号ロの規定に基づく既存宅地の確認が受けられたため,3階建共同住宅の建築が可能となった。しかし,その余の本件土地1ないし3については,本件規制が残存している。(甲13の1及び2,14の1ないし13,弁論の全趣旨)
(9) 被控訴人は,平成12年9月12日に控訴人に到達した書面で代金の一部3901万円を返還するよう求めた。(争いがない。)
3 主要な争点と当事者の主張
(1) 競売手続によって買い受けた土地について公法上の規制があった場合,買受人は,民法568条,566条(又は565条)を類推適用して,配当を受けた債権者に代金の返還又は損害賠償を求めることができるか(争点1)。 ア 被控訴人の主張
本件競売手続においては,本件各土地は本件規制が存在しないものとして評価され,最低売却価額が定められ,売却に付されたものである。被控訴人は,本件評価書の写しを閲覧し,本件各土地が第二種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%)に指定されていることからマンションの建築が可能であると考え,本件規制の存在に気付かないまま,買受けの申出をしたのである。したがって,債務者が無資力である本件にあっては,買受人である被控訴人は,民法568条,566条(又は予備的に565条)を類推適用して,本件競売手続で配当を受けた控訴人に対して,代金の減額や返還を求めることができるというべきである。
また,控訴人は,本件各土地に本件規制が存することを知りながら本件競売手続の申立てをしたのであるから,民法568条3項により損害賠償義務を負う。
イ 控訴人の主張
公法上の規制である本件規制は,民法570条本文の規定にいう「瑕疵」に当たるものというべきであるから(最高裁昭和41年4月14日第一小法廷判決・民集20巻4号649頁),同条ただし書の規定により,競売手続による売却である本件については債権者である控訴人は担保責任は負わないものというべきである。なお,控訴人が本件各土地につき本件規制が存することを知っていたことは認めるが,損害賠償義務があることは争う。 (2) 本件について被控訴人は控訴人に対して担保責任を求めることができるか(争点2)。
ア 控訴人の主張
仮に本件各土地につき本件規制の存することについて民法568条,566条(又は565条)が類推適用されるとしても,被控訴人は,本件規制の存在を知っていたか,又はこれを知らなかったことにつき重大な過失を有していたから,控訴人に対し,代金の減額や返還を求めることはできないというべきである。すなわち,被控訴人は,新潟県内に多数の店舗を展開している県内の有力企業であるアークランドサカモト株式会社の専務取締役であるところ,同社は,本件各土地と同じ地区内に2店舗を有している。被控訴人は,同社の専務取締役として,上記2店舗の開発・出店に携わってきたはずであるから,その周辺地域の土地の環境や法的規制にも十分精通していたのである。その上,本件各土地及びその周辺の住宅地図には,「調整区域」の文字が白抜きで表示され,本件評価書にもその住宅地図が添付されていたのであるから,本件評価書を閲覧した被控訴人は,本件各土地が市街化調整区域内に在ることを知ることができたというべきである。 イ 被控訴人の主張
被控訴人がアークランドサカモト株式会社の専務取締役であること,同社が本件各土地と同地区であるd地内に店舗を有していることは認めるが,被控訴人が周辺地域の土地の環境や法的規制に精通していたことは否
認する。被控訴人は,本件評価書の記載を信用して,本件各土地にマンションを建築しようとして本件各土地を取得したものであり,本件規制の存在は知らなかった。
(3) 控訴人に担保責任が存する場合,減額又は賠償されるべき金額はいくらか(争点3)。
ア 被控訴人の主張
被控訴人は,本件規制が存しないものとして,本件各土地を最低売却価額8864万円の1.00092509倍に当たる8872万2000円で買い受けたので,これを本件各土地に割り振ると本件土地1ないし3に対する買受価格は4675万3209円になる。他方,本件規制が存するものとして本件土地1ないし3を評価すると,本件土地1は46万円,本件土地2は2682万円,本件土地3は49万円,合計2777万円が相当であるので,これを1.00092509倍すると2779万5688円となる。したがって,実際に買い受けた価額である4675万3209円から2779万5688円を控除した金額1895万7521円が減額又は賠償されるべき金額である。
イ 控訴人の主張
被控訴人の主張は争う。本件各土地に本件規制が存するとしても被控訴人の買い受けた金額は相応の価額であり,減額すべき,又は賠償すべき金額は存しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
前記前提となる事実によれば,本件競売手続においては,本件各土地につき実際には本件規制が存するにもかかわらず,評価人は,本件規制の存在を看過し,公法上の規制としては,本件各土地は第二種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%)の指定がされているのみであることを前提に本件各土地を評価し,執行裁判所も当該評価人の評価を前提に本件各土地の最低売却価額を決定し,売却を実施したことは明らかである。
ところで,【要旨】土地に対する競売手続において,実際には当該土地について都市計画法等の公法上の規制が存するにもかかわらず,これが存しないものとして最低売却価額の決定がされて売却が実施された場合に,公法上の規制が存するものとして売却が実施されればより低額で買い受けることができ,かつ,債務者が無資力のときには,買受人は,民法568条及び566条を類推適用して,売却代金の配当を受けた債権者に対して,代金の減額を請求することができるものと解するのが相当である。けだし,土地の競売手続においては,評価人は評価書に都市計画法等の法令に基づく制限の有無及び内容を記載しなければならないとされており(民事執行規則30条1項5号ロ),評価人は,このような公法上の制限の有無及び内容を考慮して土地の評価を行い,執行裁判所は,この評価に基づいて最低売却価額を定めるのであるが(民事執行法60条1項),評価人の作成した評価書の写しは,一般の閲覧に供するために物件明細書及び現況調査報告書の写しと共に執行裁判所に備え置かれることとされているのであって(民事執行規則31条2項),評価書に記載された当該土地の公法上の制限の有無及び内容は,いわば公示された売却の前提条件と評することができる上,仮に競売の目的たる土地に執行裁判所が想定していなかった公法上の規制が存在し,これによって買受人に不測の損害が生じたにもかかわらず,公法上の規制が存しないものとして売却が実施されたためにその分の利得を得た者に対して当該買受人が担保責任を追及し得ないものとすれば,公平の理念にもとる結果となり,不合理というべきだからである。 そして,証拠(甲1,6,16ないし19,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,本件各土地については,平成9年12月2日付けで同月1日代物弁済を原因として新日光からA及びBの両名に持分2分の1ずつの所有権移転登記がされているが,これは,新日光が倒産状況に陥った状況の下で,新日光の下請業者20社余りで構成される親睦団体「七日会」の会長及び副会長であったBとAが,下請業者らの新日光に対する約1億8000万円の債権を確保する目的で行ったものであることが認められるから,本件競売手続における債務者は,売却実施時点における本件各土地の所有名義にかかわらず,新日光というべきであり,かつ,債務者たる新日光は無資力と認めるべきである。
したがって,本件各土地に本件規制が存しないものとして買い受けたことにより被控訴人に損失が生じたとしたら,本件競売手続においてただ一人配当を受
けた控訴人は,被控訴人の減額請求に応じなければならないことになる。2 争点2について
控訴人は,本件規制の存在を知っていたか,又はこれを知らなかったことにつき重大な過失を有していた被控訴人は控訴人に対して代金の減額を請求し得ない旨主張するところ,仮に被控訴人が本件規制の存在を知りながらあえて買受けの申出をしたとしたら,そのような被控訴人が本件規制の存することを理由に競売手続によって損失を被ったと主張することは許されないものと解される。
しかしながら,被控訴人が,本件競売手続において買受けの申出をするに当たり,本件評価書の記載とは異なり,実際には本件各土地には本件規制が存することを知っていたと認めるに足りる証拠はない。かえって,甲第11,第12号証及び被控訴人本人尋問の結果によれば,被控訴人は,近い将来個人でマンション経営をしようと考え,採算性の点からその敷地として比較的安価に入手が可能な競売物件を探していたところ,平成11年6月ころ,新聞に掲載された競売物件情報によって本件各土地の存在を知り,執行裁判所に赴いて本件評価書の写しを閲覧したこと,被控訴人は,それまで裁判所に備え置かれた評価書等を閲覧した経験はなかったが,本件評価書の写しの記載によって本件各土地が第二種中高層住居専用地域(建ぺい率60%,容積率200%)に指定されていることを知り,本件各土地に6階建程度のマンションが建てられるものと考え,入札に加わることにしたこと,本件評価書の写しには,住宅地図が添付されており,その住宅地図には,本件各土地が表示された付近に「調整区域」の文字が白抜きで表示されていたが,被控訴人は,本件評価書の写しを閲覧した際にはこれに気付かなかったこと,被控訴人は,平成12年2月ころ,知人から本件各土地は逆線引きの市街化調整区域であるからマンションは建築できないのではないかと指摘され,藤巻元雄弁護士らに依頼して調査をしてもらったところ,本件各土地が逆線引きによって市街化調整区域に編入されていたことが判明したこと,以上の事実が認められ,これらの事実によれば,被控訴人が本件各土地に本件規制が存することを知ったのは平成12年2月以降であるものと認められる。
控訴人は,買受人に重過失がある場合にも減額請求はし得ない旨の主張をするが,仮にかかる見解に従うとしても,上記認定の事実に照らせば,本件評価書に記載されたところによって,本件各土地にマンションを建築し得るものと考え,本件評価書に添付された住宅地図の表示に気付かず,本件規制の存在を知らないまま,本件各土地につき買受けの申出をした被控訴人に重大な過失があるものということはできない。評価書は,土地の評価についての専門家である評価人が作成するものであるから,評価書の記載を信じたのみで,他に格別の注意を払わなかったとしても,買受人の重大な落ち度ということはできないからである。
したがって,争点2についての控訴人の主張は,採用することができない。 3 争点3について
(1) 前記前提となる事実によれば,本件土地4ないし7については,マンションの建築が可能となっているから,本件規制によって建物の建築が制限されているのは本件土地1ないし3ということになる。

そして,被控訴人は,本件各土地を一括して8872万2000円で買い受けているところ,その代金を本件各土地の最低売却価額に応じて案分すると,最低売却価額が78万円である本件土地1の代金分は78万0722円(円未満四捨五入。以下同じ。),最低売却価額が4510万円である本件土地2の代金分は4514万1722円,最低売却価額が83万円の本件土地3の代金分は83万円0768円になり,本件土地1ないし3についての代金額は合計で4675万3212円となる。
(2) 次に,甲第15号証及び弁論の全趣旨によれば,本件土地1ないし3について本件規制が存するものとして売却が実施されたと仮定すると,本件土地1は46万円,本件土地2は2682万円,本件土地3は49万円,合計で2777万円と評価されたものと認められ,したがって,この価額が本件土地1ないし3の最低売却価額となったものと推認される。

この2777万円に被控訴人が買受けを申し出た価額の最低売却価額に対する倍率(1.00092509)を乗じると,2779万5690円となり,本件規制が存するものとして売却が実施された場合,被控訴人は,本件土地1ないし
3を2779万5690円で買い受けることができたものと推認される。 (3) したがって,本件規制が存しないものとして本件土地1ないし3を買い受けた被控訴人には損失が生じていることは明らかであり,被控訴人は,控訴人に対し,実際に買い受けた代金4675万3212円から2779万5690円を控除した1895万7522円の減額を求めることができるものというべきである。 4 結論
以上によれば,被控訴人の本件請求は,1895万7521円とこれに対する被控訴人が控訴人に対して代金の返還を求めた日の翌日である平成12年9月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものというべきである。
よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日 平成14年11月27日)
(裁判長裁判官 久保内 卓亞 裁判官 大橋 弘 裁判官 長谷川 誠)
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