判例検索β > 平成13年(行ケ)第382号
選挙無効請求事件
事件番号平成13(行ケ)382
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日平成14年10月30日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第55巻3号8頁
判示事項公職選挙法が参議院議員選挙につき採用している非拘束名簿式比例代表制の合憲性
裁判要旨公職選挙法が参議院議員選挙につき採用している非拘束名簿式比例代表制は,国会にゆだねられた立法裁量権の限界を超えるものではなく,憲法に反するとはいえない。
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主 文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
平成13年7月29日に行われた参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)のうち比例代表選出議員の選挙(以下「本件比例代表選
挙」という。)を無効とする。
第2 事案の概要
1 前提事実((1)以外は当事者間に争いがない。)
(1) 原告らは,平成13年7月29日に行われた本件選挙の選挙人である(弁論の全趣旨)。
(2) 本件選挙は,公職選挙法(昭和25年法律第100号)について,公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年11月1日法律第118号)によって改正された公職選挙法(以下「本件改正法」という。)12条2項,4条2項及び同法附則による選挙区及び議員定数の定めに 従って実施されたものである。
(3) 本件改正法は,参議院比例代表選出議員について,従来の拘束名簿式比例代表制を非拘束名簿式比例代表制に変更するものであり,同法の定める非拘束名簿式比例代表制(以下「本件非拘束名簿式」という。)の概要は次のとおりである。ア 選挙人は,各参議院名簿届出政党等(以下「届出政党等」という。)から提出された公職の候補者たる参議院名簿登載者(以下「名簿登載者」という。)のうち1人の氏名を投票用紙に自書して投票する。ただし,名簿登載者の氏名を自書することに代えて,一の届出政党 等の名称又は略称(以下「名称等」という。)を自書することができる。(46条3項)
イ 各届出政党等の得票数(当該届出政党等に係る各名簿登載者の得票数を含むものをいう。以下同じ。)に基づき,ドント方式により, それぞれの届出政党等の当選人の数を定める。(95条の3第1項)
ウ 各届出政党等の名簿登載者の間における当選人となるべき順位は,その得票数の最も多い者から順次に定めるものとし,この順位 に従い,上記イにより定められた当該届出政党等の当選人の数に相当する数の名簿登載者を当選人とする。(95条の3第3項,第4 項)
(4) 本件改正法の制定の経過は次のとおりである。
ア 参議院は,平成11年6月,参議院選挙制度改革に関する協議会を設置し,平成12年2月25日,同協議会において,拘束名簿式比例代表制を維持することを前提に議論を進めていくことになった。
イ 同年6月,衆議院議員総選挙が実施された。
ウ 同年9月12日,自由民主党,公明党及び保守党の与党3党が参議院選挙制度検討与党プロジェクトチームを設置し,同プロジェクト チームは,同月19日,改正案の要綱を発表した。
エ 与党3党は,同年10月3日,本件改正法の法案を参議院に提出し,参議院において与党のみの4日間の審議で委員会採決が行われ
た。そして,A参議院議長が与党のみの本会議開催に応じなかったため,同議長が解任された後,同法案は同月19日の参議院本会議 で可決された上,同日衆議院に送付された。衆議院においては3日間の審議の結果,同月26日の本会議において可決され,これにより
本件改正法が成立し,同年11月1日に公布,同月21日から施行された。2 原告らの主張
本件非拘束名簿式は,以下のとおり憲法に違反するから,これに基づいて行われた本件比例代表選挙は無効である。
(1) 選挙制度に関する国会の立法裁量権について
選挙によって選ばれる国会議員が,自らを選出する有権者の選挙権の内容を定める立法に関し,広範な裁量権を持ちこれを自由に決め得るとするのは,常識的にいって奇妙であって,国会に広範な裁量権を認めることはできない。
代表民主制においては,代表者に対する国民意思の忠実な反映が要請され,このよ
うな国民意思の忠実な反映があってこそ,国民意思による国政のコントロールが可能となり,また,全国民を代表する議員で構成される国会に国権の最高機関たる正当性が付与され,国会の権限行使における広範な裁量権が正当化される。 このように選挙権は「投票箱と民主政の過程」を直接構成する権利であるが,これがいったん侵害されると「投票箱と民主政の過程」による是正は困難であり,ひいては代表民主制自体が死滅に導かれる。したがって,憲法自身が自らの生命線である代表民主制を死滅に導くおそれのあるような「委任」を,広範な裁量権をもって,自らが創造した国家機関たる国会に付与したものとは到底考えられない。
したがって,「投票箱と民主政の過程」を構成する選挙権に関し,「法律でこれを定める」とした憲法43条2項,44条,47条の規定から,広範な立法裁量権が国会に付与されたものと解することはできず,むしろ,憲法は,選挙権に関する立法に関しては,立法府に対 し,民意が忠実に反映されるようなシステムを創設し,選挙権の内容について代表民主制の本質を充足するよう規定することを義務付け ているというべきである。(2) 本件非拘束名簿式は国民の選挙権を侵害するものである。 本件非拘束名簿式は,投票者の意思を確認せずに個人支持票を政党支持票として数えることとなるもので,各届出政党等の名簿登載者間において当該届出政党等による投票の流用(横流し)を認めるものである。
すなわち,ある名簿登載者個人に投票したいと思っても,その名簿登載者の所属する届出政党等には投票したくないという投票者の投票意思は認められず,当該名簿登載者個人を支持して投票した者の投票意思はその投票者の真意にかかわらずその名簿登載者個人の所属する届出政党等を支持する投票意思と評価されてしまうことになる。当該名簿登載者個人が当選人となった後に議員を辞職した場合,その投票者の真意とはかけ離れた形での政党に対する投票意思のみが残ってしまう。また,選挙違反をして大量得票を得た名簿登載者の得票は,当該名簿登載者の所属する届出政党等に帰属するが,選挙違反による当選無効の効果は当該名簿登載者に限られ,投票の流用を受けて議席を得た者にまで及ばないのである。
従来の拘束名簿式比例代表制では,名簿登載者の順位があらかじめ確定しているから,有権者の政党名を記載しての投票意思に当選者の順位が確定した候補者集団への投票意思という連続性を肯定できたのに対し,本件非拘束名簿式においては,名簿の順位は確定しておらず,個人名での得票数の順に当該届出政党等での当選者の順位が定まるものとされており,また,名簿登載者個人名の自書を原則としたため,有権者の個人名を記載しての投票意思からは,候補者集団への投票という意味合いも,順位付けられた候補者集団への投票意思も見出し難く,投票意思とその評価との間に忠実な連続性を看取できない。
特に,我が国の選挙の実情は,争点選挙,政策選挙からはほど遠い情実選挙や候補者本人の人格に対する人気投票が大勢を占 め,個人支持票と政党支持票との間には著しい票の差があるから,名簿登載者個人名の記載を認めることは,情実選挙,名簿登載者 個人の人格に対する人気投票の度合いを一層高めるものであり,政策を掲げる「候補者の集団」への投票の意味合いを希薄にするも のである。 そうでありながら,他方で,投票の効果については,争点や政策を掲げる「候補者の集団」への投票と擬制されるのである。のみならず,拘束式の場合を超えて,超過得票に相当する票について,順位付けられない「候補者の集団」での自由な使用を許すものである。
したがって,本件非拘束名簿式における投票意思と投票意思の擬制との乖離は著しく,本件非拘束名簿式は,投票意思を歪め,投票意思の代表者への忠実な反映を阻害し,ひいては公正な選挙をも阻害し,憲法15条に定める国民の選挙権を侵害するものである。
(3) 本件非拘束名簿式は直接選挙に当たらない。
憲法43条1項は,国民が議員を直接選ぶことを当然の前提としている。したがって,政党のみを選ぶという制度は,同項にいう「選挙」とはいえない。 また,上記のとおり,代表民主制下において選挙権が「投票箱と民主政の過程」を直接構成する重要な権利であることからすると,選挙権の行使による投票意思の表明は,できるだけ忠実に反映され,評価されることを要するのであって,このような投票意思の忠実な反 映,すなわち,選挙権の行使による投票意思の表明と,その表明された投票意思の評価の中間に何らの介在をも排除するというのが直 接選挙制の要請である。したがって,ある投票者の投票意思が他の投票者の投票意思に影響を受け,別の投票意思と評価されてしまう ならば,それはもはや直接選挙制の要請を充足しているとはいえない。

本件非拘束名簿式においては,名簿登載者個人名による投票意思も当該名簿登載者の所属する届出政党等による投票とみなされ,名簿登載者には全く順位が付されていないものであるから,超過投票に相当する票は,自己の当選させたい個人ではない個人名を記載した投票者の投票意思のために用いられ,投票者が自分の投票をどのように使用するかを政党に一任する結果ともなっている。このような他の投票者の意思の介在等により自己の投票意思が評価される危険性を内包しているのである。 したがって,本件非拘束名簿式は,直接選挙を定めた憲法43条1項に違反する。(4) 本件非拘束名簿式は立法裁量権の合理的行使を逸脱している。 仮に,選挙制度の仕組みの具体的決定が国会の裁量に委ねられるとしても,上記(2)及び(3)のほか,以下の事情からすれば,本件非拘束名簿式は,立法裁量権の合理的行使を逸脱するものであり,憲法15条,1条,前文,43条,44条及び47条に違反する。
ア 立法目的の不当性
本件非拘束名簿式の立法目的としては,従来の拘束名簿式比例代表制を改め,①「顔の見える選挙」の実現,②過度の政党化の批判への対応,③政党の行う順位付けが有権者にとってわかりにくいといった批判への対応,ということが言われている。 しかしながら,本件非拘束名簿式の採用は,平成12年6月の衆議院選挙で不振だった与党が平成13年に行われる参議院議員通 常選挙で過半数割れとなることに危機感を抱いたことによる党利党略という他事考慮に基づくものであって,立法目的の不当性は明らか である。
イ 立法目的と手段との合理的関連性の欠如
本件非拘束名簿式は,前記のとおり,投票のいわゆる横流しを認めることにより,投票者が知らない候補者の得票とされ,かえって「顔の見えない選挙」となっているし,「過度の政党化の批判への対応」という点も,結局名簿登載者個人に投ぜられた票は,当該名簿登載者個人の所属する届出政党等の得票とされるものであり,本件非拘束名簿式が採用されたからといって解消される問題ではない。さらに,非拘束名簿式比例代表制を採用したからといって,旧来の拘束名簿式比例代表制に比べて,届出政党等に所属しない個人候補者の立候補が可能となったわけでもないのであるから,本件非拘束名簿式の採用が過度の政党化に対する歯止めとなるものでもない。さらに,政党の行う順位付けが有権者にとってわかりにくいといった批判に対しては,政党内における名簿登載者の順位付けの決定過程を透明化することこそがその批判に対する抜本的な解決方法であり,その努力をすることなく安易に非拘束名簿式比例代表制を採用するのは本末転倒である。
かえって,本件非拘束名簿式は,有権者からの個人候補者への得票を得るため,同一名簿内の候補者間でのサービス合戦となり,政策本位,政党本位の理念とは著しく乖離する選挙制度であり,また,不正の温床にもなりやすい。また,選挙区を全国一区としたため,旧全国区の際に言われた「残酷区」制あるいは「金権政治」が復活するおそれがある。そして,各届出政党等の名簿登載者の当選順位は,個人得票数の最も多い者から順次に定められるものとすることは,一見有権者の意思により個人候補者が選べる制度のようにも見えるが,そもそも,ある候補者が政策本位,政党本位の理念に従った選挙運動をすればするほどその運動により得られる投票結果は,政党名を記載した投票となりやすく,「個人得票数の最も多い者から順次に」とはいえ,それが正確に有権者の選択を反映したものとなっているかどうか疑わしい。
本件非拘束名簿式は以上のような矛盾を内包した欠陥を持つ選挙制度といわざるを得ない。
ウ 立法過程の不当性
本件非拘束名簿式を採用した本件改正法の立法過程をみると,参議院選挙制度改革に関する協議会において,当面は拘束名簿式比例代表制を維持することを前提に議論を進めていくこととされていたものが,平成12年6月実施の総選挙において与党が不振であったため,平成13年実施の参議院議員通常選挙で与党の過半数割れが必至となることに危機感を抱き,突如与党によって本件非拘束名簿式が提出されたものであり,参議院において,与党は特別委員会の設置を強行し,議長職権で委員を任命するなどし,与党のみで審議することわずか4日で委員会強行採決を行い,A参議院議長のあっせん案も拒絶し,与党のみの本会議開会に同議長が応じないと,議長を解任して与党のみで法案を可決させた。そして,衆議院でもわずか3日の議論の後,採決を強行して改正法を成立させた。
このような立法過程からは,参議院の特性を生かした選挙制度改革の議論が十分に行われておらず,党利党略のもとに本件非拘束名簿式が採用されたことは明らかであ
り,これは国会に付与された立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものである。
国会が改正法を制定する過程において,前記立法目的を達成する手段として,他にどのような選択肢を挙げ,他の選択肢をも考慮した結果,本件非拘束名簿式がいかなる意味で国民の選挙権を十全ならしめる方法として選択されたのか,その審議経過が合理的な判断に基づき行われたものであるかは,国会の立法裁量権の行使の合理性の審査であり,当然に司法審査が及ぶ事項である。仮に,改正法を制定する過程については議院の自律権の問題として司法審査が及ばないものとすると,本件非拘束名簿式のような国民の選挙権の内容に関する事項については,いったんそれが歪められると「投票箱と民主政の過程」を通じての国民の政治的批判は十全に機能しないことは明らかであって,その意味からも,上記立法過程を司法審査の対象外とすることは失当である。
3 被告の主張
以下のとおり,本件非拘束名簿式は憲法に違反するものではなく,本件比例代表選挙は有効である。
(1) 原告らの主張(1)に対して
議会制民主制度の下における選挙制度は,国民の多様な利害や意見の公正かつ効果的な反映等を考慮し,国民意思の的確な反 映,政局の安定等の諸要請を,それぞれの国の政治状況に照らし,多種多様で複雑微妙な政策的及び技術的考慮の下に,全体的,総 合的見地から考察し,適切に調整した上で決定されるべきものである。そして,我が憲法も,国会の両議院の議員の選挙について,およ そ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は 法律で定めるべきものとし(43条,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだね ているのであるから,国会の選択した選挙制度が,憲法が要請する普通選挙,平等選挙等の要請に反するものであれば格別,このよう な憲法上の要請に合致した選挙制度については,およそ違憲,違法の問題が生じる余地はなく,国会において通常考慮し得る諸般の要 素を考慮してもなお一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているときに初めて国会の合理的裁量の限界を超え ているものと推定されるのであって,その程度に至らない限りは当不当の問題が生ずるにすぎない。(2) 原告らの主張(2)に対して
政党は,国民の政治的意思を組織化する役割を有し,憲法の定める議会制民主主義は,政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできず,政党は議会制民主主義において不可欠な要素であるとともに,国民の政治意思を反映する最も有力な媒体であ る。このような政党の議会制民主主義において果たす役割の重要性からすれば,名簿登載者の氏名を記載して投票した者は,当該名 簿登載者の所属する政党の果たす役割に対しても期待し,当該名簿登載者の所属する届出政党等へ1票を投じるという意思を表示した ものであると同時に,その氏名を記載した名簿登載者のその名簿内における当選人となるべき順位を上位にするという意思を表示した ものと考えるのが合理的であり,投票者の投票意思を歪めるものではない。仮に,多数の個人票を獲得して当選した名簿登載者がその 後辞職したとしても,投票者が間接的に政党を通した政治的意思の発現を期待していたことに変わりはない以上,政党への投票とみな したとしても,何ら投票者の投票意思を歪めることにはならない。(3) 原告らの主張(3)に対して
本件非拘束名簿式においては,有権者は,届出政党等の名簿を見て,その支持する政党等を選択し,そこに記載された名簿登載者のうち最上位の当選人となるべき者の氏名を記載することとなる。そして,有権者が投票した後の段階で他の意思が入り込む余地はない。すなわち,投票において表明された有権者の意思のみに基づいて当選人が決定される仕組みとなっていて,選挙人の投票意思と投票結果との間に何らの中間意思も介在しないのであり,そうである以上,本件非拘束名簿式が直接選挙の原則に反しないことは明らかである。
(4) 原告らの主張(4)に対して
ア 本件非拘束名簿式は,従来の拘束名簿式比例代表制の欠点とされる,候補者の顔が有権者に見えにくいこと,過度の政党化を招くこと,政党の行う順位付けが有権者にとってわかりにくいといった問題に対応するものとして制定されたものであり,この立法目的が不当で あるとはいえない。むしろ,本件非拘束名簿式は,従来の拘束名簿式比例代表制と異なり,国民が政策決定の中心となる政党を選択せ ずに政党に属する個別の候補者を選択することを認め,その場合には,国民の意思を正確に反映した名簿
における順位によって当選 人が決定されるというものであり,拘束名簿式比例代表制に比べて直接選挙の要素がより強くなり,憲法上の要請をより強く満たすもの というべきである。
イ 既に主張したところによれば,本件非拘束名簿式が,国会において通常考慮し得る諸般の事情をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているとはいえない。
ウ 本件改正法は,国会において法に則り適正に審議及び議決が行われている。 そもそも,憲法は,権力分立の原理に立ち(41条,65条,76条参照),立法権を衆参両議院をもって構成される国会に帰属させ(41条),全国民を代表する議員によって組織された各議院の存立,運営を外部の干渉,妨害から保護する必要があるため,各議院は議院の組織,議事運営その他議院の内部事項について,他の国家機関から干渉・介入されることなく自主的に決定し,自ら規律する機能たるいわゆる議院の自律権を有する(58条2項本文,同条1項,55条,50条,国会法55条以下,114条,116条参照)。そして,衆参各議院における法律案の議事手続に至る経緯の適否は,各議院に認められた自律権の範囲内の事項であり,司法審査の対象とはならない。国会の活動は,本来,政治的なもので,むしろ国会内の自由な活動をもって支えられるから,その中での問題の収拾も国会の自主的な政治的努力によるべきであり,この意味でも,議院内の問題は裁判所の審査を通して是正すべきものではなく,むしろ広く国民の政治的批判に待つべき問題である。
したがって,この点についての原告らの主張も失当である。
第3 当裁判所の判断
1 代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に即して具体的に決定される べきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。日本国憲法もまた,このような理由から,国会の 両議院の議員の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票 の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を 原則として国会の広い裁量にゆだねている。このように,国会は,その裁量により,衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正 かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから,国会が新た な選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが,上記の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するた め国会の上記のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に 違反することになるものと解すべきである(最高裁判所昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁、最高裁判所平成8年9 月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁,最高裁判所平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁等参照)。以上の 判断に反する原告らの主張は採用できない。2 そこで,以下においては,上記の見地に立って,本件非拘束名簿式が国会にゆだねられた裁量権の限界を超えているかどうかについて検討する。
(1) 参議院議員の選挙制度については,昭和57年の公職選挙法の改正により,従来の全国区制に代えて拘束名簿式比例代表制が導 入された。この制度の概要は,一定の要件を備えた政党その他の政治団体が,その名称及びその所属する者の氏名及びそれらの者の 間における当選人となるべき順位を記載した名簿を届け出,選挙人は届出政党等の名称等を自書して投票し,各届出政党等の得票数 に基づきドント方式により各届出政党等の当選人の数が定められ,名簿における当選人となるべき順位に従い,当該届出政党等の当 選人の数に相当する順位までの名簿登載者を当選人とするというものである。この制度の導入については,全国区制度が広大な地域を 選挙区とし,全国の有権者を対象とする個人本位の選挙となっており,有権者にとって候補者の選択が困難であることや,候補者にとっ ても膨大な経費を要するといった問題点の解消を図るとともに,政党が議会制民主主義を支える不可欠の要素であり,国民の政治的意 思形成の媒介として重要な機能を果たしている現状を踏まえ,個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改めることにより,参議 院議員にふさわしい人材を得ることをより可能とし,また,有権者の意思を適正に国政に反映することを可能とすることが立法目的とされ ていた。(乙1の1)
一方,本件改正法は,従来の拘束名簿式比例代表制が「候補者の顔の見えない選挙」,過度の政党化,政党の行う順位付けが有権者にとって分かりにくいといった批判
があったことを考慮し,国民の多元的な意思を政治に反映し,参議院の独自性を十分に発揮するために,選挙制度の改革が必要であり,拘束名簿式を非拘束名簿式に改め,候補者の顔の見える,国民が当選者を決定する選挙とすることを立法目的としている。(乙2の1,乙3の1,3,乙4)
【要旨】 (2) 原告らは,本件非拘束名簿式は,投票者の意思を確認しないで個人支持票を政党支持票として数えることとなるもので,各 届出政党等の名簿登載者間において当該届出政党等による投票の流用(横流し)を認めることになり,投票意思を歪め,投票意思の代 表者への忠実な反映を阻害し,国民の選挙権を侵害するものであると主張する。
しかし,非拘束名簿式も拘束名簿式比例代表制と同様,政党の得票数に応じて当選者の数を配分する比例代表制の一形態であっ て,基本的に政党本位の選挙制度であることには変わりはなく,上記のとおり,「候補者の顔の見えない選挙」,過度の政党化,政党の 行う順位付けが有権者にとって分かりにくいといった拘束名簿式比例代表制の問題点を改めるものとして導入されたものである。
憲法は政党について規定するところがなく,これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから,憲法は,政党の存在を当然に予定しているものというべきであり,政党は,議会制民主主義を支える不可欠の要素であると同時に,国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である(最高裁判所昭和45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号625頁参照)ことにかんがみると,選挙を政党本位のものとする選挙制度を採用することが国会の裁量の範囲に属するものであることは明らかである。 このような比例代表制の制度趣旨からすると,本件非拘束名簿式における名簿登載者個人名を自書した投票であっても,それは第一義的には当該名簿登載者の所属する届出政党等(あるいはその届出政党等の名簿登載者の集団)に対する投票意思が表示されたものであり,これと併せて当該届出政党等の名簿登載者のうち当該名簿登載者が当選人となるべくその順位を上位にする旨の投票意思が表示されたものとみる(これに対し,届出政党等の名称等を自書した投票の場合には,届出政党等(あるいはその届出政党等の名簿登載者の集団)に対する投票意思のみが表示されたものとみる。)のが合理的であって,このような投票意思が選挙の結果すなわち届出政党等の当選人の数及び届出政党等の名簿登載者間において当選人となるべき者の順位に反映するものであるから,各届出政党等の名簿登載者間における投票の流用ないし横流しであるとか,投票意思が歪められるといった原告らの指摘は当を得たものではなく,本件非拘束名簿式は何ら国民の選挙権を侵害するものではない。
原告らは,名簿登載者個人に投票したいが,その名簿登載者の所属する届出政党等には投票したくないという投票者の投票意思が認められないことになるとして,このことを問題視するが,政党・政策の選択を基本とする選挙制度である比例代表制においては,政党(あるいはその名簿登載者の集団)に対する投票を本旨とするものであって,投票者においてもこのような制度を前提とする投票行動が期待されており,原告ら主張の上記意思は認められないことになるけれども,それは比例代表制を採用したことに伴う当然の結果にすぎず,これをもって憲法15条に違反するとはいえない。したがって,名簿登載者が当選人となった後に議員を辞職した場合に投票者の真意とはかけ離れた形での政党に対する投票意思のみが残るとの原告らの主張も正当ではない。また,当選人となった名簿登載者が選挙違反により当選無効となっても,その者の個人名を自書した投票はその名簿登載者の所属する届出政党等にそのまま帰属することについても,これを一概に不合理と断定することはできないし,いずれにせよこのような特殊病理的な現象を根拠に,本件非拘束名簿式が投票意思を歪めるものであるとか,国民の選挙権を侵害するものというのは相当ではない。
(3) 原告らは,本件非拘束名簿式が憲法の要請である直接選挙に当たらないと主張する。
しかしながら,本件非拘束名簿式においては,届出政党等の得票数(当該届出政党等の名簿登載者個人の得票数を含む。)の多寡に応じて各届出政党等の当選人の数が定まり,各届出政党等の名簿登載者の間においては,その得票数の最も多い者から順次に当選人が定まるものとされているから,投票の結果すなわち選挙人の総意によって当選人が決定され,当選人の決定について投票者以外の意思が投票後に介在することはない点において,選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。
むしろ,従来の拘束名簿式比例代表制においては,選挙人は届出政党の名称等のみを投票用紙に自書して投票することとされ,名簿において当選人となるべき順位があ
らかじめ届出政党等によって定められ選挙人はその提示された順位をそのまま受け入れざるを得ないものであったが,本件非拘束名簿式においては,当選人となるべき順位は定められておらず,第一次的には名簿登載者個人の氏名を自書して投票することとされており,名簿登載者間における当選人となるべき順位も投票の結果によって定まることとされていて,一定の限度では候補者個人の選択の自由があることになるから,拘束名簿式比例代表制に比べてより直接選挙の要請を満たすものと評価することができる(なお,拘束名簿式比例代表制が憲法15条1項,43条1項に違反するものでないことについては,前掲最高裁判所平成11年11月10日大法廷判決参照)。 したがって,原告らの主張は採用できない。
(4) 原告らは,立法目的の不当性,立法目的と手段との合理的関連性の欠如,立法過程の不当性を挙げて,本件非拘束名簿式が国会の立法裁量権の範囲を逸脱するものであると主張する。
しかしながら,選挙制度には一定不変の形態があるわけではなく,その基本的な仕組みをいかに定めるか及び当該仕組みの下において個々具体的な選挙区や定数をいかに定めるかが必然的に各政党の獲得する議席数等選挙結果に影響を及ぼすことになるから,ある選挙制度の導入を図ろうとする政党等に対して,自己に有利な選挙制度の実現を図ろうとしているとの批判を受けることは必ずしも珍しいことではないのであって,このことから直ちに当該選挙制度が国会の裁量権の範囲を逸脱するものとはいえないことはいうまでもない。そして,本件非拘束名簿式は,上記のとおり,国民の選挙権の保障や直接選挙の要請に反するものではなく,他に憲法上の要請に反する点も見当たらない。また,上記のとおり,本件非拘束名簿式は,「候補者の顔の見えない選挙」,過度の政党化,政党の行う順位付けが有権者にとって分かりにくいといった拘束名簿式比例代表制の問題点を改めることを目的として導入されたものであり,その立法目的が合理性を欠くものとはいえず,この立法目的に照らして本件非拘束名簿式が格別合理性を欠くものともいえない。
したがって,本件非拘束名簿式が国会にゆだねられた裁量権の範囲を逸脱するものとは到底認めることはできない。
なお,原告らは,本件改正法の立法過程をとらえて,本件非拘束名簿式は選挙制度改革の議論が十分に行われないまま党利党略のもとに採用されたものであって,これは国会に付与された立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると主張する。
しかし,そもそも,本件非拘束名簿式が国会の裁量権を逸脱するものであるかどうかは,基本的にはその内容自体から判断されるものであって,それが国会においていかなる審議経過を経て成立したかは直接の関係を有しないものというべきである。そして,上記のほか証拠(甲3の4ないし37,乙1,2の各1,2,乙3の1ないし4)によってうかがわれる改正法の立法経過を勘案しても,上記の判断に影響を及ぼすような事情は見当たらない。
第4 結論
以上のとおりであるから,原告らの主張はすべて理由がなく,原告らの請求はいずれも棄却すべきである。
(裁判長裁判官 赤塚信雄 裁判官 宇田川 基 裁判官 加藤正男)
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