判例検索β > 平成13年(行コ)第239号
事件記録閲覧謄写許可処分取消、公正取引委員会審判事件記録閲覧謄写許可処分取消、公正取引委員会審判記録閲覧謄写許可執行取消各請求控訴
事件番号平成13(行コ)239
事件名事件記録閲覧謄写許可処分取消,公正取引委員会審判事件記録閲覧謄写許可処分取消,公正取引委員会審判記録閲覧謄写許可執行取消各請求控訴
裁判年月日平成14年6月5日
法廷名東京高等裁判所
判示事項私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の違反行為の被害者と同法69条の規定にいう「利害関係人」
裁判要旨私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の違反行為の被害者は,同法59条の規定により参加を認められた場合,同法24条の規定に基づく差止請求訴訟を提起する場合及び同法48条4項等の規定による審決が確定して同法25条の規定に基づく損害賠償請求をする場合以外には,同法69条の規定にいう「利害関係人」には当たらず,同条に基づき審判事件の事件記録の閲覧謄写等をすることはできない。
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主 文
1 原判決主文3項を取り消す。
2 被控訴人が参加人A,同B,同C及びDに対して平成13年3月12日付けでした公正取引委員会平成11年(判)第4号事件の事件記録の閲覧謄写を許す旨の各処分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,参加によって生じた費用を参加人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨(控訴人ら共通)
(1) 主文1,2項と同旨
(2) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件各控訴をいずれも棄却する
(2) 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
事案の概要は,原判決5頁7行目の「審判事件」の次に「(公正取引委員会平成11年(判)第4号事件。以下「本件審判事件」という。)」を加え,同9行目の「2名」を「1名」に改め,同26行目から同6頁1行目にかけての「,Eは同年12月5日に」を削り,同3行目の「,D及びE」を「及びD」に改めるほかは,原判決の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。
第3 証拠
証拠関係は,本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから,これをここに引用する。
理 由
1 本案前の争点についての判断は,原判決8頁15行目から同11頁16行目までに記載のとおりであるから,これをここに引用する。
2 そこで,本案の争点について判断するに,本件は,法69条の規定に基づいて本件各申請人に対してされた本件各処分の取消しが求められている事案であるところ,法69条は,「利害関係人は,公正取引委員会に対し,審判開始決定後,事件記録の閲覧若しくは謄写又は課徴金納付命令書若しくは審決書の謄本若しくは抄本の交付を求めることができる。」と規定しているが,この規定にいう「利害関係人」とは,当該審判事件の被審人のほか,法59条及び60条の各規定により審判手続に参加し得る者並びに当該審判事件の対象をなす法違反行為の被害者をいうものと解すべきである(最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)。
そして,本件審判事件は,控訴人らごみ焼却炉メーカーによる地方公共団体のごみ焼却炉発注のための入札における談合(以下「本件違反行為」という。)の有無を審判の対象事実とするものであり,控訴人らは,いずれも本件審判事件の被審人として本件違反行為の存在を否認して争っている者であること,参加人Aは,その住所地の地方公共団体である横浜市につき,参加人Bは,その住所地の地方公共団体である東京都につき,参加人Cは,その住所地の地方公共団体である多摩ニュータウン環境組合につき,Dは,その住所地の地方公共団体である兵庫県尼崎市につき,それぞれ,上記各地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ式燃焼装置を採用するごみ焼却施設の建設工事に関し,控訴人らが事前に話し合って受注予定者を決定し,受注予定者以外の4社は受注予定者が定めた価格で受注することができるように協力する旨の合意をし,控訴人ら各社の談合担当者が毎月1回程度受注調整と称する会合を行って,各地方公共団体の発注する個々のごみ焼却施設建設工事について入札談合行為を行い,これにより各地方公共団体に損害を被らせたことが各地方公共団体に対する民法709条の不法行為を構成し,当該地方公共団体の長が同不法行為に基づく損害賠償請求権の行使をしないことが地方自治法242条1項の規定にいう「怠る事実」に当たるとして,同項に基づき監査請求を行い,さらに,同法242条の2第1項4号の規定に基づき各地方公共団体に代位して控訴人らに対する損害賠償請求訴訟を提起した者であり,これらの訴訟は現在も係属していることは,前記前提事実のとおりである。
3 しかるところ,被控訴人は,本件各申請人は本件審判事件の対象をなす本件違反行為によって自ら損害を受けたわけではないが,本件違反行為により損害を被った発注者たる
地方公共団体が有する損害賠償請求権を地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく住民訴訟により代位請求している者であり,住民訴訟の結果は対世効を有し,被代位者たる地方公共団体をも拘束するものであって,住民訴訟の原告による違反行為の立証活動は被害者である地方公共団体に直接影響を及ぼすものであるから,このような立場にある本件各申請人は,「違反行為の被害者」に準ずる者として,法69条の規定にいう「利害関係人」に当たると主張する。
しかしながら,本件各申請人は,いずれも,法69条の規定にいう「利害関係人」に当たるものと解することはできない。その理由は,以下のとおりである。 (1) 法は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇用及び国民実所得の水準を高め,もって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としているところ(1条),この目的を達成させるための機関として被控訴人を置いている(27条)。そして,法の対象とするのが生生発展する複雑な経済事象であり,一般消費者と事業者,競争関係にある事業者同士などの利害の対立に関係し,被控訴人の行う処分が直接国民の権利に関係するものであることから,被控訴人には,中立・公正な立場からの判断が求められるのであり,その独立性・中立性を確保するため,被控訴人の委員長及び委員は,独立してその職権を行うこととされ(28条),一定の事由がある場合を除き,在任中,その意に反して罷免されることはなく(31条),また,報酬も,在任中は,その意に反して減額することができない(36条2項)等の身分保障の規定が設けられている。被控訴人が行政機関でありながら準司法的機関といわれるゆえんである。また,被控訴人が行う法違反事件の処理手続は,法の第8章第2節中の45条から70条の3までに規定されていて,被控訴人は事件について必要な調査をするために一定の強制処分をすることができ(46条1項),その審判手続は被控訴人の判断で開始されるなど(49条1項),その手続は,当事者主義を基調とする民事訴訟手続とは異なり,職権主義的,糾問主義的なものとなっており,また,被控訴人には,調査のために強制権限(40条)や調査嘱託権限(41条),公聴会開催権限(42条)などが付与されている。このように,法が法違反事件の処理手続を職権主義的,糾問主義的なものにし,被控訴人に調査のための強力な権限を付与しているのは,その扱う事象が複雑で,特殊専門的な知識を要するものでありながら,できるだけ短時日にその解決を図ることが要請されていることによるものと解される。そして,被控訴人のした審決の取消訴訟においては,被控訴人が認定した事実は裁判所を拘束するとされているが(80条1項),これも,準司法的機関であり,特殊専門的な知識を要する事象を専門的に扱う被控訴人の判断を司法の場においても尊重し,それによって,司法判断の適正性,迅速性を確保しようとすることによるものと解されるのである。
(2) そこで,次に,このような法の規定の下において法違反行為による被害者がどのように位置付けられているかをみると,45条1項において,「何人も,この法律の規定に違反する事実があると思料するときは,公正取引委員会に対し,その事実を報告し,適当な措置をとるべきことを求めることができる。」と規定しており,この報告をする者は,通常は,法違反行為の被害者と考えられるが,この規定は,被控訴人の審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定にすぎず,報告者に対して被控訴人に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものではない(最高裁昭和47年11月16日第一小法廷判決・民集26巻9号1573頁参照)。次に,法59条本文は,「公正取引委員会は,必要があると認めるときは,職権で,審決の結果について関係のある第三者を当事者として審判手続に参加させることができる。」と規定しており,ここにいう「審決の結果について関係のある第三者」とは,被審人と利害を共通にする者だけでなく,被審人と利害が対立する者,すなわち,法違反行為の被害者も含まれるものと解されるが,同条の規定の文言に照らすと,同条は,民事訴訟法や行政事件訴訟法の参加の規定とは異なり,第三者に対して審判手続への参加を権利として認めている規定ではなく,適正・迅速な処理のために,被控訴人が必要と判断する限りにおいて,被控訴人の裁量によって,第三者を審判手続へ関与させることができることを定めた規定にすぎないものと解される。これらのほかに,法違反行為の被害者が手続に関与し得ることを定めた法の規定はない。 このように,法は,法違反行為の被害者が法違反事件の処理手続に積極的に関与し得ることを定めた規定を置いていないのであるが,これは,法の定める法違反事件の処理手続がもともと公益保護の立場から法違反の状態を是正することを主眼とし,法違反行為による被害者の個人的利益の救済を図ることを直接の目的とするものではないことによるものと解される。もっとも,法は,その25条において,私的独占又は不当な取引制限の禁
止規定(3条)等に違反した事業者等は被害者に対して無過失損害賠償責任を負う旨を規定し,その26条1項において,25条の規定による損害賠償請求権は48条4項,53条の3又は54条の規定による審決が確定した後でなければ裁判上主張することができない旨を規定しているが,これらの規定による損害賠償責任制度は,審決の結果に基づいて個々の被害者の受けた損害の填補を容易にさせることにより,審決による法違反行為の排除と相まって,法違反状態の是正の効果をより一層挙げようとする目的に出た付随的制度であると解されるのである(上記最高裁昭和47年判決,最高裁平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照)。また,平成12年法律第76号による改正により追加された法24条は,「第8条第1項第5号又は第19条の規定に違反する行為によってその利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者は,これにより著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがあるときは,その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれのある事業者若しくは事業者団体に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」としているところ,ここに規定された差止請求制度は,被控訴人の行う審判手続とは別に,不公正な取引方法の禁止規定に違反する行為の被害者や被害者となるおそれのある者に対して当該違反行為の差止請求の訴訟を提起し得ることを認めることにより,法25条の規定による損害賠償請求という事後的な救済方法のほかに,より直截的に現に行われ又は行われようとしている当該違反行為そのものを差し止め,これによって当該違反行為による被害者の個人的利益の救済を図るとともに,法1条の目的の達成を任務とする被控訴人の役割を当該違反行為の被害者に補完させようとするものといえる。そして,この差止請求制度に関しては,濫訴防止の規定(法83条の2)や裁判所と被控訴人との関係を定めた規定(法83条の3)などが設けられている。 上記のように,法は,45条1項の規定によって審査手続開始の職権発動を促す報告をする場合,59条の規定によって審判手続に参加する場合,24条の規定に基づく差止請求訴訟を提起する場合及び25条の規定に基づく損害賠償請求をする場合以外には,法違反行為による被害者に特段の地位を与えていないのである。
(3) ところで,法69条は,法違反事件の処理手続を規定した第8章第2節の中に置かれた規定であり,このことにかんがみれば,法は,同条に定める審判事件の事件記録の閲覧謄写等は原則として審判手続の中においてされることを予定しているものと解されるのである。したがって,審判事件の被審人並びに法59条及び60条の規定により審判手続に参加を認められた者(参加を認められた者は,当事者と同一の立場に立つ。)が法69条の規定にいう「利害関係人」に当たることは明らかであり,法違反行為の被害者も,法59条の規定により審判手続に参加を認められた場合には,ここにいう「利害関係人」として事件記録の閲覧謄写等をすることができることになる。問題は,審判手続に参加を認められない法違反行為の被害者が法69条の規定にいう「利害関係人」として事件記録の閲覧謄写等をすることができるかであるが,そのような被害者は,既にみたように,法24条の規定に基づいて差止請求訴訟を提起するか,又は少なくとも法48条4項,53条の3若しくは54条の規定による審決が確定して法25条の規定に基づく損害賠償請求をすることができるようになるまでは,法の規定の上では特段の地位を与えられていないのであり,いずれにしても審判手続に関与する余地はないのである。
(4) このような法69条の規定及び法における法違反行為の被害者の地位にかんがみれば,法違反行為の被害者は,法59条の規定により参加を認められた場合,法24条の規定に基づく差止請求訴訟を提起する場合及び法48条4項等の規定による審決が確定して法25条の規定に基づく損害賠償請求をする場合以外には,法69条の規定にいう「利害関係人」には当たらず,同条に基づき審判事件の事件記録の閲覧謄写等をすることはできないものと解するのが相当である。
もとより,法の禁止規定に違反する行為(法違反行為)は,我が国のあるべき経済社会の秩序に反し,公共の利益に反するものであるから,その行為によって被害を受けた者は,法25条の規定に基づく損害賠償請求のほかに,民法709条の規定に基づいても損害賠償を請求することが可能であるが,その場合には,証拠資料の収集・提出は,民事訴訟法の規定によって行うべきことになる。仮に法違反行為の被害者は法69条の規定にいう「利害関係人」として常に審判事件の事件記録の閲覧謄写等を求めることができるとすると,極論すれば,被害を受けたと主張しさえすれば,だれでも事件記録の閲覧謄写等が可能になりかねない。しかし,事件記録の中には,被審人や事件関係者の企業秘密やその従業員のプライバシーに属する資料も含まれ得るのであり,それゆえ,被控訴人の委員長,委員及び職員には,その職務に関して知得した事業者の秘密について秘密保持義務が課されているのであるが(法39条),被害者と称する者に広く事件記録の閲覧謄写等を認めるとすれば,かような秘密保持義務の規定は空文化し,被審人や事件関係者に大きな不利益を与えるおそれがある。上記のとおり,被控訴人のする法違反事件の処理手続
が職権主義的,糾問主義的なものであり,被控訴人には調査のための強力な権限が付与されていることを考慮すると,被審人や事件関係者の上記のような不利益はより一層大きなものといえるし,まして,後に法違反行為がない旨の審決がされる可能性があることをも考えると,なおさらである。職権主義的に,かつ,強力な権限をもって収集された資料が,いまだ法違反行為があったと認定されていない段階で,民法709条の規定に基づく損害賠償請求訴訟において証拠資料として用いられることは,法の予定していないところというべきである。
(5) そして,本件各申請人は,法59条の規定によって本件審判事件に参加をした者や法24条の規定に基づく差止請求訴訟を提起した者ではなく,法25条の規定に基づく損害賠償請求をする者でもなく,前述の内容の住民訴訟を提起し,民法709条の規定に基づく損害賠償の請求をしている者にすぎないのであるから,法69条の規定にいう「利害関係人」には当たらないものといわざるを得ない。
4 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件各申請人は法69条の規定にいう「利害関係人」に当たるとしてされた本件各処分は違法といわざるを得ず,当裁判所の上記判断と異なる原判決は不当である。
よって,原判決主文3項を取り消し,被控訴人のした本件各処分を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官 石 井 健 吾
裁判官 大 橋 弘 裁判官植垣勝裕は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官 石 井 健 吾
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