判例検索β > 平成13年(行ケ)第542号
懲戒処分取消請求事件
事件番号平成13(行ケ)542
事件名懲戒処分取消請求事件
裁判年月日平成14年3月27日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第55巻1号16頁
判示事項会社の顧問弁護士が株主総会の取締役選任決議において商法及び定款に違反する選任方法を積極的に支持し現実に実施させたことが弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされた事例
裁判要旨株主総会において,少数派株主である議長(代表取締役)が,多数派株主によって取締役を独占されることを防ぐ意図で,取締役の選任方法として明らかに商法及び定款に違反する方法を提案し,多数派株主が商法に違反するとの理由でその選任方法によることに反対したにもかかわらず,会社の顧問弁護士がその選任方法について説明するなどして積極的にこれを支持し,これによる選任決議を実施させたときなど判示事実関係のもとにおいては,当該顧問弁護士の行為は,弁護士としての品位を失うべき非行に当たる。
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主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が平成13年8月24日原告に対してした原告を戒告する旨の懲戒処分を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,被告から戒告処分を受けた弁護士である原告が,この処分の取消しを求めている事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか又は証拠により容易に認められる事実)(1) 原告は,大阪弁護士会所属の弁護士であるが,平成13年8月24日,被告から,戒告処分(甲2。以下「本件戒告処分」という。)を受け
た。(争いがない。)
(2) 本件戒告処分がされるに至る経緯は,次のとおりである。 大阪弁護士会の綱紀委員会は,B(以下「B」という。)から原告につきされた懲戒請求につき,調査の上,原告を懲戒することを相当としない旨の決議をし,大阪弁護士会は,同決議に基づき,平成12年11月15日付けで原告を懲戒しない旨の決定をした。(甲1)Bは,被告に対し,大阪弁護士会の上記決定について異議の申出をしたところ,被告の懲戒委員会は,審査の上,上記決定を取り消し,原告を戒告する旨の議決をし,これを受けて,被告は,平成13年8月24日,大阪弁護士会の上記決定を取り消し,本件戒告処分を行った。
(3) 被告がした本件戒告処分の理由の要旨は,次のとおりである。(甲2) ア 大阪弁護士会の綱紀委員会がした概要下記の事実認定は,相当である。(ア)株式会社奈良(以下「訴外会社」という。)は,資本金1000万円,発行済み株式総数2万株のゴルフ場経営を主たる目的とする株式会社であり,同社の株式は,Bの父親C(以下「C」という。)が1万0400株,同社の代表取締役D(以下「D」という。)が4000株,取締役Eの妻Fが2000株,その他3名がその余の株式を保有していた。(イ)CとD,Eら訴外会社の取締役らとは,訴外会社の経営をめぐって対立関係にあったところ,原告は,訴外会社及びDらとCとの間の訴訟事件,仮処分事件,商事非訟事件等において訴外会社及びDらの代理人となっていた。
(ウ)平成11年11月28日,訴外会社の定時株主総会(以下「本件総会」という。)が開催され,訴外会社の取締役及び監査役のほか,Cの代理人である弁護士G(以下「G」という。),株主Fの代理人である原告,その他の株主らが出席し,Dが議長となった。本件総会においては,取締役6名全員の任期満了に伴う新取締役選任が主要議題の一つとなっていたが,Dは,同議題に関し,D,H,I,E,J,C,B及びKの8名を新取締役の候補者とする議案を提出したところ,Cの代理人Gは,C,B,L,M,N及びKの6名を候補者とする修正動議を書面で提出した。これに対し,Dは,当初の提案を修正し,D,H,I,E及びJの5名を新取締役の候補者とする案を提出した。
訴外会社の定款上取締役の員数は10名以内となっていたため,選任すべき新取締役の数について議場に諮られ,6名とすることとされたので,上記合計11名の候補者の中から6名の新取締役を選任することとなった。
Dは,その選任方法として,株主は1株を1票としてそれぞれの持株の範囲内で上記候補者11名の中から1名又は複数名(6名を上限とする。)を選んで投票する方法,例えば,持株の範囲内で候補者の1人にその持株全部を投票することも,6名に分散して投票することも自由であるという投票方法(以下,この方法を「本件投票方法」という。)を提案した。 Gは,これに対し,本件投票方法は明らかに商法に違反するものであるとして,本件投票方法によって取締役を選任することに反対し,投票はしない旨発言したが,Dは,G以外の出席株主らに投票用紙を配って投票させ,D,H及びIが各3200株で新取締役に選任された旨の結果を発表した。
(エ)ところで,商法241条1項は,各株主は1株に付き1個の議決権を有すると規定し,同法256条の3第1項は,2人以上の取締役を選任するときにおいて,定款に別段の定めのある場合を除くのほか,累積投票によることを求めることができる旨規定し,同条3項は,各株主は1株に付き選任すべき取締役の数と同数の議決権を有し,各株主は1人のみに投票し又は2人以上に投票して議決権を行使することができると規定している。 これに対し,本件投票方法は,持株の範囲内でそれをだれに投票するかは自由,すなわ
ち,1人に全部を行使しても6人に行使しても自由であるというものであり,累積投票と異なるのは,「持株の範囲内で」投票できるという点であって,結局,各株主の1株に対して6分の1議決権を与えて累積投票を実施したのと内容的,効果的には同一であると考えられる。
したがって,本件投票方法は,株主の基本的権利である1株1議決権の原則を規定した商法241条1項に違反しており,さらに,累積投票と同様の内容・効果を目的としているので,同法256条の3第1項及び累積投票を禁止している訴外会社の定款(甲3)にも違反している。
よって,本件投票方法による取締役選任決議は,いずれにしても商法及び訴外会社の定款に違反した違法な決議方法であるといわざるを得ない。
(オ)本件投票方法は,だれによって考案され,提案されたかは明らかではないが,訴外会社の当時の経営陣であるDらが訴外会社の顧問弁護士である原告と検討し,採用することを決定したものである。したがって,原告は,違法な決議方法を指導したといえる。また,原告は,本件総会において,「持株全部を1人に投票してもよいし,分散してどう分けてもいい。」,「これは,累積投票ではない。」,「商法は,役員の選任方法について,特に定めていない。ものの本によれば,決議でもよいし,投票でもよいことになっている。」,「1人1人に全株式を投票することはできない。持株の範囲内だ。」などと発言して本件投票方法の説明を行い,本件投票方法を積極的に支援した。したがって,原告は,Dに対して違法な決議方法を指導・支援したものと認められるから,原告には懲戒の事由がある。 イ ところで,弁護士が職務上依頼者に示した法律判断が客観的には誤っており,あるいは裁判所の容れるところとならなかったとしても,それだけで直ちに弁護士を懲戒する理由となるものではないことは,もちろんである。しかしながら,本件において争われているのは,株式会社の取締役の選任という商法上の基本的問題であり,現行法においては,累積投票以外に多数派株主の意思を排して少数派株主代表の取締役を選任する方法がなく,定款で累積投票を排除している会社において,少数派株主代表の取締役を選任することが不可能であることは,法律実務家の共通認識というべきである。原告が依頼者と本件総会対策を協議するに当たり,直前の仮処分決定により反対派が議決権の多数を占めることが確定した状況において,その発案者がだれであるにせよ,本件投票方法により自派取締役を選任しようとする方策が法律的根拠を欠くことを指摘しないのみならず,顧問弁護士として本件総会に出席し,多数派株主の反対にもかかわらず本件投票方法を実行しようとする議長を支持し,その結果,正当な方法により有効な取締役選任が行われるまで争訟手続を要するに至らしめた原告の行為は,単に軽率であったというのみならず,法令及び法律事務に精通しなければならないとされる弁護士として著しく不見識であり,品位を失わせるものといわざるを得ない。
第3 争点
1 本件の争点は,・本件投票方法が取締役選任方法として違法なものであるか,・本件投票方法が違法であるとした場合,Dが新取締役の選任方法として本件投票方法を採用し,実行したことに関する原告の行為が弁護士として品位を失うべき非行に当たるか否かの2点である。
2 被告の主張
(1) 商法は,株式会社の社員の地位を株式という均一の割合的単位に細分化した上で,株式1株につき1個の議決権を与え,株主がその有する株式数に応じて議決権を行使することができるという徹底した資本多数決の原理を採用している(商法241条1項)。 取締役の選任は,株主総会の専属事項であるから(商法254条1項),株主は,取締役選任につき議決権を有しているところ,取締役それぞれが株式会社ひいては株主に対して重大な利害を及ぼす存在であり,個々人の個性・能力等を考慮して選任されるものであるから,各株主には,取締役の候補者ごとに持株数に応じた議決権を行使する機会が保障されなければならない。したがって,本件のように6人の取締役を選任する場合には,株主は,少なくとも6人の候補者に対して持株数に応じた議決権を行使する機会が保障されなければならないにもかかわらず,本件投票方法は,株主に対して持株数の範囲でしか投票権を与えておらず,上記機会を保障していないから,明らかに商法の定める1株1議決権の原則に反するものである。
(2) また,商法は,1株1議決権の原則を採用して多数派株主から独占的に取締役を選任することを容認する一方,累積投票制度を設け(商法256条の3),少数派株主にも取締役を選任する可能性を認めている。しかし,商法は,同時に,党派的対立を取締役会に持ち込むことは適当ではないとの理由から,定款において当該制度を排除する旨の定めを設けることができるものともしており,その場合には,当該制度を採用することができないこと
になる。このほかに,少数派株主が多数派株主の意思を排して取締役を選任し得る方法は,商法上認められていない。そうすると,定款により累積投票制度が排除されている訴外会社においては,累積投票制度を採用することができないのはもちろん,その他の方法によっても少数派株主が多数派株主の意思を排して取締役を選任することは,できないはずである。本件投票方法は,累積投票制度以外の方法により,Dら訴外会社の少数派株主が多数派株主であるCの意思を排して取締役を選任しようとするものであり,明らかに商法及び訴外会社の定款に反するものである。
(3) 以上のとおり,本件投票方法が商法及び訴外会社の定款に違反することは,明らかである。しかも,当該商法の規定は,基本中の基本事項であり,法律実務家であれば,当然に認識していなければならないものである。それにもかかわらず,原告は,Dから本件投票方法について事前に相談を受けながら,本件投票方法が違法であり,採用すべきではない旨の助言をしなかった。また,原告は,本件総会において,前期前提事実のとおりの発言をすることにより,Dに本件投票方法による取締役選任手続きを行わせた。このような原告の行為は,単に軽率であったというのみならず,法令及び法律事務に精通しなければならないとされる弁護士として著しく不見識であり,弁護士の品位を失わせるものといわざるを得ない。
3 原告の反論及び主張
(1) 株主が議決権を不統一行使することができることは,商法239条1項により認められているのであり,議決権の不統一行使と投票という方法とは,商法の1株1議決権の原則に反していない。そして,会社が拒まない限り,議決権の不統一行使は,許されるのである。また,商法が累積投票制度を認めていることは,正に商法が取締役の選任に投票制度を容認していることの証明である。定款が累積投票制度を排除している場合には,「1株に選任される取締役と同数の議決権を付与する」ことは許されないが,「投票」そのものが排除されるとの明文はなく,投票を排除すべき合理的な理由はないから,「投票」による方法は排除されていない。
本件投票方法は,この議決権の不統一行使と投票制度を組み合わせたものにほかならず,商法及び訴外会社の定款に反するものではない。
(2) 原告は,Gが原告に対して本件投票方法の説明や議論を求めてきたことに応じて,前記前提事実のとおりの発言を行ったにすぎず,本件投票方法を積極的に支援したものではない。
なお,Cの保有株式数注の1000株については,当時,Cの保有するものであるとは確定していなかった。
第4 争点に対する判断
1 前記前提事実(3)ア(ア)ないし(ウ)及び(オ)に記載された大阪弁護士会の綱紀委員会が認定し,被告も是認した事実のうち,原告が本件投票方法を積極的に支援したとの点及びCが保有しているとされている株式中1000株の帰属の点のほかは,当事者間に争いがない。
2 そこで,本件投票方法の違法性について検討する。
株式会社においては,1株につき1議決権を有するものとされている(商法241条1項)。この規定は,強行規定であって,法が特別に例外を認めた場合のほかは,定款又は株主総会の決議をもってしても制限することは許されない。そして,株主総会において複数の取締役を選任する場合には,その選任されるべき各取締役ごとに1個の議案として議決されるものであるから,株主は,1株につき,その選任されるべき取締役の数だけ議決権を行使することができることになる。しかし,この原則を貫くならば,取締役の全員が常に多数派株主によって選任されることになるところから,商法は,少数派株主の意見を取締役会に反映させ,あるいは少数派株主代表の取締役をして多数派株主代表の取締役の活動を監視せしめる途を開くための方法として,例外的に,複数の取締役の選任が行われる場合について累積投票制度(同法256条の3)を設けている。しかし,この制度においても,株主には1株につき選任すべき取締役の数と同数の議決権が与えられているから,1株1議決権の原則の例外を定めたものとはいえないのであり,本件投票方法のように株主に選任すべき取締役の数よりも少ない議決権しか与えずに累積投票と同様の投票方法を採用することは,1株1議決権の原則に反して株主の議決権を制限するものであり,定款又は株主総会の決議によっても許されないものといわざるを得ない。
3【要旨】次に,原告の行為が弁護士としての品位を失うべき非行に該当するか否かにつき検討する。
1で指摘した当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1,9,10,乙3)及び弁論の全
趣旨によれば,CとDらとの間で訴外O名義の株式1000株の帰属をめぐって紛争があり,CがD,訴外会社らを被告として同株式が自己に帰属するものであることの確認を求める訴訟を奈良地方裁判所に提起してC勝訴の判決がされたこと,同判決について,原告がD,訴外会社の代理人として大阪高等裁判所に控訴したが,控訴棄却の判決がされたため,最高裁判所に上告受理の申立てをしたこと(ただし,同上告受理申立てについては,本件総会後の平成12年6月上告不受理の決定がされている。),本件総会は,このような状況の下で開催されたものであること,他方,Cは,本件総会開催前に,本件総会において1万0400株について議決権を行使することができる旨の仮処分決定を奈良地方裁判所から得ていたこと,したがって,本件総会においては,Cが多数派株主として議決権を行使することができることとなっており,訴外会社では定款上取締役選任については累積投票制度を排除しているため,Cの意思により新取締役が選任されることが確実な状況であったこと,このような状況下において,Dら訴外会社の取締役らは,本件総会で選任される新取締役がC派に独占されることを回避するため,事前に,原告に新取締役の選任方法として本件投票方法を採用することについて相談し,投票用紙の準備までしていたことが認められる。この際,原告は,Dらに対し,本件投票方法が商法及び訴外会社の定款に違反する違法なものであることを説明し,新取締役の選任方法として本件投票方法を採用することを断念するよう進言した事実は認められず,これを容認したものといえる。また,原告は,本件総会には株主Fの代理人として出席していたものであるとはいえ,十数年前から訴外会社の顧問弁護士であったことをも併せ考慮すると,本件総会における原告の前記発言は,Dが本件投票方法によって新取締役の選任手続を行うことを積極的に支持したものと評価することができる。以上の結果,本件総会において違法な選任手続によって新取締役が選任されたものである。なお,甲1,6ないし8及び弁論の全趣旨によれば,本件総会終了後,Cは,奈良地方裁判所に,本件総会における取締役選任決議の取消等を求める訴訟を提起するとともに,本件総会で取締役に選任されたDらを相手として取締役職務執行停止・代行者選任の仮処分を申し立て,最終的には,上記職務執行停止・代行者選任申立て事件において選任された職務代行者により開催された平成12年9月23日の訴外会社の臨時株主総会において,Bらが取締役に選任され,同日開催の取締役会においてBが代表取締役に選任されたことにより,本件総会における取締役選任に端を発した紛争が終息したことが認められる。
4 以上によれば,本件投票方法が商法及び訴外会社の定款に違反する違法な取締役選任方法であると解すべきことは,少なくとも弁護士である原告には明らかであったというべきであるから,仮に原告の主張するように本件投票方法が必ずしも違法とはいえないとの見解があり得るとしても,そのような明らかに違法と解される本件投票方法をDらが本件総会において採用し,実施しようとしているのを容認し,積極的に支持して,これを現実に実施せしめ,その後の訴訟事件にまで発展した紛争の原因を作出したことは,そのような取締役選任方法が商法上違法とはいえない旨を準備書面等で主張するのとは次元を異にし,法律実務家である弁護士としては,軽率との非難を免れないばかりでなく,著しく不見識であり,弁護士として品位を失うべき非行に当たるものといわざるを得ない。 5 結論
以上の次第であるから,本件戒告処分に原告主張の違法は認められず,本件戒告処分の取消しを求める原告の本件請求は,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成14年2月4日)
(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 大橋 弘 裁判官 植垣勝裕)
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