判例検索β > 平成13年(行コ)第77号
過少申告加算税賦課処分取消等請求事件(原審・東京地方裁判所平成12年(行ウ)第146号)
事件番号平成13(行コ)77
事件名過少申告加算税賦課処分取消等請求事件(原審・東京地方裁判所平成12年(行ウ)第146号)
裁判年月日平成14年1月23日
法廷名東京高等裁判所
判示事項税理士に委任してされた所得税の過少申告が国税通則法68条1項所定の重加算税の課税要件を満たさないとされた事例
裁判要旨納税者が税理士から約2600万円の譲渡所得税を約1800万円に減少させることができるとの説明を受け,その理由や方法について説明を受けることも,支出した費用の裏付け資料の提出を求められることもないまま,所得税の確定申告手続を委任したところ,税理士が譲渡所得全額を申告しないで確定申告をした場合に,納税者が税理士のした上記説明に疑義を呈しなかったことを超えて脱税を意図し,その意図に基づいて行動したと認められず,他方,税理士は,納税者から納税資金として預託を受けた1800万円を不法に領得するため,税務署員と共謀し,同署員に税務署保管の納税者の譲渡所得に係る課税資料を廃棄させて譲渡所得全額の申告をしなかったものであるなど判示の事実関係があるときは,上記確定申告は,申告されなかった譲渡所得に係る税額全額について国税通則法68条1項所定の重加算税の課税要件を満たさない。
戻る / PDF版
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成9年12月19日付けでした過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文第1,2項同旨
第2 事案の概要
1 本件は,税理士が,税務署員と共謀して控訴人の課税資料を廃棄させ,控訴人の平成2年分所得税中,土地についての譲渡所得税を申告も,納税もせず,納税のために預かった1800万円を領得し,事実の発覚後にされた過少申告加算税賦課決定(税額1万1000円)及び重加算税賦課決定(税額880万9500円)(本件各処分。内容は,別紙参照)につき,取消しが求められた事案である。
原審は,控訴人が,通則法(国税通則法)68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をし,同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れており,本件各処分は同法70条4項所定の期間後にされているが,適法であり,隠ぺい又は仮装されていない控訴人の事業所得の申告もれについても同法65条4項に規定する正当な理由が認められないと判断し,控訴人の請求をいずれも棄却した。
当裁判所は,控訴人が,同法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をしたこと及び同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた行為をしたことのいずれも認めることができず,本件各処分は同法70条4項の期間経過後にされた違法なもので,取り消すべきものと判断した。
2 前提事実(証拠を掲げないものは,争いがない。)
(1)控訴人の平成2年分の所得税の申告の経緯等
ア 控訴人は,昭和62年10月株式会社湘南開発から代金6836万5000円で買い受けた川崎市多摩区南生田所在の土地(本件土地)を,平成2年9月,株式会社東光に代金1億3000万円で譲渡した(乙8)。
イ 控訴人は,B税理士に対し,平成2年分の所得税の確定申告手続を委任し,平成3年3月6日,1800万円及び税務代理報酬5万円を支払い,各金員につき,預り証及び領収証を受領した(甲1から3まで,乙4,5,7)。
ウ B税理士は,平成3年3月15日,控訴人の平成2年分の所得税につき,総合課税の所得金額999万3048円,納付すべき税額7100円とする確定申告書を提出し,本件土地に係る譲渡所得税を申告も,納税もせず,支払を受けた1800万円を領得した(乙8,弁論の全趣旨)。
エ 控訴人は,平成9年12月12日,被控訴人に対し,平成2年分所得税について,本件土地の譲渡に係る所得を加えた別紙内容の修正申告をし,納付すべき税額2528万6500円のうち,平成8年分所得税の還付金により充当された21万9300円を除く2506万7200円につき,同月24日160万円,平成10年1月23日400万円,同年2月5日400万円,同月6日1546万7200円をそれぞれ納付した(甲8,10の1から4まで,甲12,13,乙10)。
オ 控訴人は,平成9年12月19日,本件各処分を受け,同10年2月12日,被控訴人に対し,異議申し出(同年5月22日,棄却)をし,同年6月19日,国税不服審判所長に対し,審査請求(平成12年3月16日,棄却)した。
(2)不動産譲渡所得税の課税の仕組みとB税理士による脱税
ア 不動産譲渡に係る所得税は,税務署において作成される事績書等の課税資料,譲渡所得を生じた納税義務者の氏名等を登載した譲渡者名簿等に基づき,納税義務者に申告書用紙等を郵送して確定申告を促して徴税が図られていたところ,事績書等の課税資料は,納税義務者の転居先の所轄税務署に送付されるが,その授受を確認する手続はとられておらず,課税資料の送付を受けた税務署において,これに基づいて譲渡者名簿が作成される前に課税資料が隠匿され,又は廃棄されると,譲渡所得の発生が事実上把握されず,納税義務者は,譲渡所得の申告をしないことにより,譲渡所得税の納税を免れることができた(乙3から7まで)。
イ B税理士は,昭和44,5年ころから,受任した納税義務者について虚偽の転居通知をし,送付を受けた税務署の署員に課税資料を廃棄させ,当該納税義務者の譲渡所得税を申告しない方法による脱税を実行しており,同49年ころからは,C税務署員の協力を得ていたところ,平成3年2月中旬ころから3月上旬ころにかけて,虚偽の転居通知をして荻
窪税務署に控訴人他6名の平成2年分の譲渡所得に係る課税資料を送付させ,同署に勤務していたC税務署員に廃棄させ,控訴人らの譲渡所得を申告しないで譲渡所得税を免れることが発覚しないよう取り計らった(乙1,3から7まで,弁論の全趣旨)。 ウ C税務署員は,謝礼として,B税理士から合計850万円の支払を受け,平成10年7月3日,加重収賄の罪により懲役3年の有罪判決を受け,B税理士は,同月21日,平成6年から8年にかけて行った脱税(所得税法違反)及び贈賄につき,懲役4年6月,罰金7000万円の実刑判決を受けた(乙1,2)。
3 争点
① 控訴人による隠ぺい又は仮装の行為(通則法68条1項) ② 控訴人による偽りその他不正の行為(同法70条5項) ③ 過少申告についての正当な理由(同法65条4項) 4 争点①(隠ぺい又は仮装の行為。通則法68条1項)に関する当事者の主張(1)被控訴人
ア 重加算税賦課決定の適法性
控訴人は,下記のとおり,B税理士が控訴人の所得税をほ脱させることを容認した上で,具体的方法を同税理士に委ね,脱税報酬を含め,又はその全額が報酬に充てられても異存はないとの意思の下に,同税理士に対し,1805万円を支払い,同税理士が確定申告書を提出し,これにより,当初から所得を過少に申告することを意図した上で,その意図を外部からも窺いうる特段の行為をしたというべきで,「隠ぺい又は仮装」の行為によって,本件土地の譲渡に係る所得税を免れた。
(ア)控訴人は,B税理士からメモを示され,脱税手段の概略について説明を受け,紹介料や草刈り費などの架空の経費を計上して税額を計算することを明確に認識しながら,これを積極的に認容し,納税額が約800万円低くなる理由について説明を受けることもなく,B税理士に確定申告手続を依頼した。
(イ)控訴人がB税理士に支払った1800万円が納税資金を含むとしても,重加算税は,その対象について納税者の認識を考慮する必要はなく,客観的に生じた過少申告の結果に対して賦課され,控訴人が譲渡所得税の全額について脱税することまで意図していなかったとしても,納税すべき額と1800万円の差額ではなく,納税を免れた金額の全額について賦課される。
イ 他人による隠ぺい又は仮装の行為
(ア)通則法68条1項にいう「納税者」は,納税者本人に限られず納税者以外の者で,納税者本人と同視し得る者を含む。
(イ)重加算税は,課税要件事実の隠ぺい又は仮装行為と,これに基づく過少申告等の結果,税務行政を混乱させて余分な徴税コストを負担させたという国家的損失を補填させるとともに,正当な申告納付義務の履行者との公平負担を図ることを目的とする行政上の措置である。このような重加算税の意義及び法的性質を前提とすれば,客観的に隠ぺい又は仮装の行為が行われ,これによって,過少申告等の納税義務違反の状態が生じたことが重要であり,納税者自身が隠ぺい又は仮装の行為をしたか否かは,刑罰の場合ほどには意味を持たない。
(ウ)納税者が納税手続を他人に委任した場合,受任者の行為は原則としてその効果が本人たる納税者に帰属し,納税者の行為と同一視できるというべきで,受任者による隠ぺい又は仮装の行為がされた以上,その選任,監督について納税者に過失がないと認められる場合を除き,受任者の申告の効果が納税者に帰属し,重加算税の賦課要件を満たし,かつ,通則法70条5項の不正の行為の要件を満たす。
(エ)本件において,B税理士が,控訴人から申告手続を依頼され,隠ぺい又は仮装の行為に及んでおり,B税理士の行為は控訴人の行為と同視し得るというべきで,控訴人は,B税理士が架空の経費を計上することを知りながら黙認し,確定申告書の内容を確認しておらず,選任,監督について過失がなかったとはいえないのであって,B税理士の隠ぺい又は仮装の行為についての控訴人の認識のいかんにかかわらず,重加算税の賦課要件が満たされる。
ウ 税理士による隠ぺい又は仮装の行為
(ア)重加算税は,納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし,又は仮装する方法によって行われた場合に行政機関により課せられ,これによってかかる方法による納税義務違反の発生を防止し,もって徴税の実をあげようとする趣旨に出た行政上の措置で,その目的は,課税要件事実の隠ぺい又は仮装行為とそれに基づく過少申告等の結果,税務行政を混乱させて余分な徴税コストを負担させた国家的損失を補填させるとともに,正当な申告納付義務の履行者との公平負担を図ることにある。

(イ)税理士による隠ぺい又は仮装の行為について委任した納税者に重加算税を賦課すべきかどうかは,税理士による当該行為によって生じた国家的損失を当該納税者の負担によって補填させるのが公平か,当該納税者に補填させず,国家の損失,即ち,他の正当な申告納付義務の履行者全体の損失のまま止めることが公平かという観点から決すべきで,かかる観点からすれば,納税者が税理士に隠ぺい又は仮装やそれに基づく過少申告を指示したか否か,あるいは,納税者が税理士による隠ぺい又は仮装の事実や具体的方法を知悉しているか否かにかかわらず,税理士に納税手続を委任した以上,選任,監督に過失がないことを立証しない限り,当該税理士の行為は納税者の行為と同視すべきで,重加算税の賦課がされるべきである。
(ウ)納税者は,職務の公正を疑わせる事情がある場合,税理士の選任を中止し,又は解任するか,申告書等を点検するなどして厳重に監督すべきで,これを怠り,税理士による隠ぺい,仮装や,これに基づく過少申告を見逃した場合,選任,監督に過失があったものとして,重加算税の賦課を免れない。
控訴人は,B税理士から,税額約2600万円を2310万円に減額するに当たり,国際学芸生活文化研究会有限会社に対する紹介料や本件土地の草刈り費用などの架空経費を計上すると説明を受け,「全部で1800万円でやってあげますよ。」と言われ,脱税に当たると認識しつつ,納税と報酬を含めて1800万円で済むと考えて委任しており,職務の公正を疑わせる事情のあるB税理士の選任を中止することも,不正行為に及ぶことのないように監督することもなく,逆に,不正行為を利用して脱税を図ろうとしたのであり,選任,監督について過失がある。
エ 仮定主張(当審における新主張)
控訴人が納税を免れた全額について重加算税の賦課要件を充たさないとしても,B税理士に渡した1800万円を超える部分は,控訴人とB税理士との委任契約の趣旨に基づくもので,少なくとも,重加算税の賦課要件を満たす。
(2)控訴人
ア B税理士は,控訴人から,平成2年分の所得税の申告及び納付を受任し,1800万円を預かり,前提事実のとおり,控訴人について虚偽の転入通知をし,C税務署員が課税資料を廃棄する方法により,控訴人の所得税申告を妨害し,1800万円を横領したのであり,控訴人は,不正行為に巻き込まれ,濡れ衣を着せられたのであって,脱税をする意思や脱税のための積極的な行為はない。
イ 控訴人の検察官に対する供述調書中には,B税理士から説明を受けた際,虚偽の経費を計上するなどして申告を行い,不正に税金を安く済ませることを理解しており,大変悪いことをしたと深く反省しているとの記載があるが,控訴人は,検事から,連日にわたる取調べと台湾人は嘘つきで嫌いだと差別的発言を受け,偽りの転居届をしたと決めつけられ,大学教授の地位を失うのではないかと混乱に陥り,当時,危篤状態にあった台湾在住の父親を訪問する必要があったほか,所得税法違反は公訴時効が成立していて起訴されることはなく,B税理士の責任のみを追及するためであるなどと言われ,取調べから免れるため,事実に反する供述をしたのであり,上記供述記載部分は,任意性及び信用性を欠く。
また,東京国税局調査官に対する聴取書中にも,任せて貰えれば1800万円に安くしてくれると話されて乗ってしまい,「Bに税金が安くなると持ち掛けられそれにのり不正な申告をしたことは私の不徳の致すところで非常に申訳なく思っています。」と述べたとの記載があるが,控訴人は,前記のとおり,検事から,連日にわたる苛酷な取調べを受けて疲労困憊し,判断力が低下した状態にあり,事実と異なる聴取書に署名押印したのであり,上記部分も,任意性及び信用性を欠く。
ウ 控訴人は,留学生に何度か頼んで草刈りを行っており,B税理士がメモに紹介料,草刈り費用を記載した際にも架空経費であるとの認識はなかった。
エ B税理士は,所得税の申告手続を受任しながら,控訴人の意思とは全く反対に,C税務署員と共謀して,控訴人の納税資金を着服横領したのであり,控訴人のために行為したとはいえず,その法律効果が控訴人に帰属することはない。
オ 控訴人は,次のとおり,B税理士の選任及び監督について過失がなかった。(ア)控訴人は,税務知識がなく,知人のDに照会して,資格のある税理士であることを確認し,B税理士に対し,平成2年分の譲渡所得の申告手続を依頼した。 (イ)控訴人は,B税理士に申告手続を委任し,納税資金1800万円を預け,税務代理報酬5万円を支払い,預り証及び領収書を受領しており,B税理士がC税務署員と共謀して納税資金を横領する意図であったことを知る由もなかった。

(ウ)控訴人は,税務知識に乏しく,当時多忙を極めており,B税理士を信頼して申告手続を一任し,その後,控訴人の妻を介して納税が完了したとの報告を受け,平成2年度の納税は終了したと考えたのであり,B税理士について「職務の公正を疑わせる事情」は存在せず,選任を中止し,又は監督する必要を感じなかった。
5 争点②(偽りその他不正の行為。通則法70条5項)に関する当事者の主張 (1)被控訴人
ア 控訴人は,重加算税を賦課されるべき「偽りその他不正の行為」によって本件土地の譲渡に係る所得税額を免れ,本件各処分は,加算税の納税義務成立の日である法定申告期限の経過の時から7年を経過する前にされており適法である。
イ 納税者から納税手続を受任した者の行為は,原則としてその効果が本人に帰属し,受任者の行為が納税者の行為と同一視でき,受任者による隠ぺい又は仮装の行為がされた以上,その選任,監督について納税者に過失がない場合を除き,受任者の申告の効果が納税者に帰属する。
(2)控訴人
控訴人は,前記のとおり,脱税をする意思がなく,脱税のための積極的な行為をしておらず,「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた」事実はなく,納税義務の成立の日から5年を経過した平成8年3月16日以後,平成2年分の所得税に係る加算税の賦課決定を行うことは許されない。
6 争点③(過少申告の正当理由。通則法65条4項)についての当事者の主張 (1)被控訴人
控訴人は,平成2年分の所得税の確定申告において,事業所得の金額の計算上,収入を過少に申告するとともに必要経費を過大に計上することにより事業所得の金額を過少に申告しており,事実を隠ぺいし,又は仮装したところに基づき事業所得を過少に申告していたとまではいえないものの,事業所得の金額が過少申告となったことについて通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められず,通則法65条1項の規定により過少申告加算税が賦課される。
(2)控訴人
控訴人の平成2年の所得税の申告が過少となったのは,前記のとおり,B税理士及びC税務署員による妨害のためであって,被控訴人の行政処理や指導が的確を欠いたのであり,納税者のみにその責を帰することは酷であり,このような事情は,通則法65条4項に規定する「正当な理由」その他の真にやむを得ない事情がある場合に該当し,控訴人に対して過少申告加算税を課すことは許されない。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
本件の事実経過につき,前提事実の他,以下の事実を認めることができる。 (1)控訴人は,従前,大学教授として得る収入等について税理士に委任することなく所得税を申告し,平成2年3月,平成元年分の所得税の申告の際,銀行口座から引き落として納税するための手続をとったが,本件土地の売却に伴う譲渡所得を得た平成2年分については申告を税理士に委任することとし,平成3年2月ころ,妻が所有するマンションの賃貸借の仲介をしていた縁で知ったEからB税理士の紹介を受けた(甲12,14,18から20まで,乙12)。
(2)B税理士は,昭和42年麹町税務署を最後に税務署を退職し,以来,税理士を開業しており,平成3年2月末ころ,控訴人から,本件土地の譲渡所得税について相談を受け,裏付け資料等を示されることもなく,事情を聴取しながら,メモ用紙に,上から順に,「売却130,000」,「購入△69,000」,「購入」の字の右に3段に「手数料2,070」,「登記300」,「印紙100」,「売却」の字の右に4段に,「手数料3,960」,「草刈600」,「印紙100」,この3種の数字の右に「△2,470」,下に「(利息1,340)」,「手数料3,960」の直上に「内紹介料356万・・・国際学芸生活文化研究会有限会社」,税額を試算したと推認される計算式,四角で囲んだ「25,920」,「23,100」,「18,000」等と記載(「手数料3,960」,「紹介料356万」及び「草刈600」の項目は,控訴人が,問われるまま,妻の関係する上記有限会社の名を告げたものの,出費した事実を告げていないにもかかわらず,B税理士が記載した。)し,これを控訴人に示し,税額約2600万円が経費を控除して2310万円となるところ,全部で1800万円で済ませることができ,800万円得すると説明したが,控訴人は,留学生に草刈りを手伝わせて謝礼を支払ったものの,裏付けとなる領収書はなく,紹介料356万円を支払った事実はなかった(甲12,14,19,乙4,8)。 (3)B税理士は,前提事実記載のとおり,永年にわたり,税務署員と共謀して脱税し,この方法によれば納税に使用する必要がないため,依頼者から預かった納税資金全額を領
得し,共犯である税務署員に報酬金を支払っていた(乙3,4)。 (4)控訴人は,相談当日直ちに依頼することなく,大学の研究室に在籍時以来の知人Dから,資格のある税理士であることについて確認を得た上,数日後,B税理士に対し,委任する意向を電話で告げ,平成3年3月6日,税務代理報酬5万円を支払って領収書を受領し,1800万円を交付して「預り證」を受領し,本件土地の譲渡に関する書類,給与所得に関する書類等税務申告の資料を送付した(甲4,12,14,18,19,乙4,8)。 (5)B税理士は,前提事実記載のとおり,平成3年3月15日,被控訴人に対し,控訴人の平成2年の所得税申告書を提出したが,本件土地の譲渡所得については申告も,納税もせず,控訴人から預かった1800万円を領得した(乙4)。
(6)控訴人は,後日,B税理士に対し,申告手続の履行について妻を通じて確認し,申告が終了したとの返答を得たが,申告書の控えの交付を受けることもなく,平成2年分の所得税7100円が銀行振替され,以後,平成9年まで,所得税の申告手続を同税理士に委任してきた(甲18,19,乙8,弁論の全趣旨)。
(7)控訴人は,平成9年11月13日,所得税法違反の被疑事実について東京地方検察庁において取調べを受け,検察官から,本件土地の譲渡所得税について申告も,納税もされていないことを知らされ,控訴人の所得税法違反については公訴時効が完成しているものの,脱税に当たるとして追及を受け,修正申告を勧められるなどし,嫌疑を晴らすため,前記メモを含め,本件土地の売買契約書,購入代金の領収書,所有権移転登記手続費用の領収書,印紙代領収書,登記簿謄本,B税理士に対する委任状,1800万円の預り證,5万円の税務代理報酬領収書等,自ら保管し,又はB税理士から受領した本件土地の譲渡所得税の申告に関係する書類をファイルごと検察官に提出し,B税理士に委任した経緯を説明し,供述録取書の作成に応じた(甲12,18,19,乙8)。 2 争点①(控訴人による隠ぺい又は仮装)について 当裁判所は,本件の事実関係の下においては,控訴人が通則法68条1項に規定する課税標準等を隠ぺいし,又は仮装し,これに基づき納税申告書を提出したと認めることができず,控訴人に対して重加算税を賦課することはできないと判断した。 (1)重加算税の賦課の要件
過少申告をした納税者は,課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,これに基づき納税申告書を提出したときは,重加算税を賦課される(通則法68条1項)。重加算税の制度は,これによって悪質な納税義務違反の発生を防止し,申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。この趣旨から,重加算税を賦課するためには,過少申告行為そのものが隠ぺい,仮装に当たるというだけでは足りず,過少申告行為そのものとは別に,隠ぺい,仮装と評価すべき行為があり,これに合わせた申告がされることを要する。しかしながら,納税者が,資料の隠匿等の積極的な行為をすることまでは必要でなく,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からも窺いうる特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合,重加算税の賦課要件が満たされる。
(2)控訴人に対する重加算税の賦課
ア 税理士は,税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とし(税理士法1条),税理士となるには,一定の資格を必要とする(同法3条,4条)。このような公共的な使命を担う税理士は,委任者である納税義務者と税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で行動すべきものとされ,脱税の相談に応ずることを禁止され(同法36条),委任者が不正に国税を免れている事実等を知ったときは,その是正をするよう助言する義務を負い(同法41条の3),故意又は過失によって真正の事実に反して税務書類の作成をしたときは業務停止等の懲戒を受ける(同法45条)。
イ B税理士は,前記のとおり,税務署を退職後,開業して程なくから脱税を実行しており,税務署員と共謀してする脱税であるにもかかわらず,控訴人の委任時まではもとより,発覚した平成9年まで25年余の長期間脱税が露見しなかった。税務当局が適正な徴税のために弛まぬ努力をし,脱税の摘発にも大きな成果を挙げてきた(公知の事実と言って良い。)我が国の実情の下では,税理士が,脱税の実績について顧客の評価を維持しながら,税務当局の追及を逃れて長く業務を継続することは不可能に近いと言って良いにもかかわらず,B税理士は,25年余の間,脱税の実行について税務当局の疑いを招いた形跡も窺うことができない。
ウ 控訴人は,B税理士から,前記メモを示され,税額2600万円が2310万円となるところ1800万円で足り,800万円得すると説明を受けており,税額を2310万円に減少させるについて費用を計上すると説明されたと認められるが,B税理士に委任すると,2600万
円又は2310万円の税が1800万円で足りることとなる理由について,説明を受けておらず,これを求めてもいない。控訴人は,また,紹介料356万円を支払った事実がなく,留学生に謝礼を支払ったものの,草刈費用について裏付け資料がないことについて気づいていたと認められる。控訴人は,知人のDから,資格のある税理士であることについて確認を得た上でB税理士に委任し,1800万円を預託した経緯もある。
エ【要旨】 これらの事実,殊に,800万円も税が減少して得すると説明を受け,支出していないか,又は裏付けのない費用を経費として計上して示され,資格について知人に確認していることからすると,控訴人は,B税理士が違法な手段により税額を減少させるのではないかとの疑いを抱いたと推認される。しかしながら,国が資格を付与し,税法に違反する行為を法律で禁止され,懲戒をも課される我が国の税理士制度の下では,納税者は,税理士に対し,税務申告手続の煩わしさから解放されると共に,法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように専門的知識と経験を発揮していわゆる節税をすることをも期待して委任するのであり,これを超えて,脱税をも意図して委任するのではない。控訴人も,経験したことのない多額の譲渡所得を得,譲渡所得税の申告手続の煩わしさからの解放と共に,いわゆる節税を意図してB税理士に委任したと推認されるものの,同税理士のした前記の説明に疑義を呈しなかったことを超えては,脱税を意図し,その意図に基づいて行動したと認めるには足りない。B税理士による前記各説明も,専門的知識に対する信頼の高さを逆手にとり,控訴人を騙す手段として,同税理士に委任することにより控訴人が受ける利益を誇張してされたに過ぎないことが事実経過から明らかで,25年余の長期間悪質な方法による脱税を実行してきたB税理士の真実の姿を知る者はともかく,税額の減少につき違法な手段によるのではないかとの疑いを抱いたとしても,税務署勤務の経験を有し,税務当局から脱税の疑いを抱かれることもなく永年業務に従事してきた,資格のある税理士によるものである以上,疑いを取り除くことなく委任したからといって,控訴人は,脱税を意図し,その意図に基づいて行動したと認めるには足りず,通則法68条1項に規定する課税標準等を隠ぺいし,又は仮装し,これに基づき納税申告書を提出した場合には当たらないというべきである。
(3)前記認定判断を妨げうる事実,証拠等
ア 控訴人は,前記のとおり,B税理士に申告を委任し,納税のために1800万円を預託したのであり,このことは,同金員について「預り證」を受領し,別に税務代理報酬5万円を支払ったことから明らかである。B税理士は,前記のとおり,控訴人のために納税する意思はなく,騙し取る意思で1800万円を受領して領得したのであり,詐欺又は業務上横領の罪を犯したに他ならず,脱税報酬を含め,又は全額が報酬に充てられても異存はないとの趣旨の下に控訴人が上記金員を交付した(被控訴人の主張)と認めることは到底できない。脱税額(800万円。被控訴人主張)を上回る報酬(1800万円)を支払う者はいないし,そのような脱税の請負が業として成り立つ筈がない。
イ 控訴人は,B税理士から,紹介料356万円及び草刈費用60万円が経費となりうるとしてこれを計上したメモを示されたが,紹介料を出費しておらず,草刈費用の出費の裏付けとなる書類がないことに気づいていた。しかしながら,これらは,出費した事実について控訴人の説明に基づくこともなく,B税理士が記載した費用で,領収書の呈示を求めてもいないなど,費用を計上して税額を減少させるB税理士の説明も,本件の事実経過の下では,控訴人を騙す手段としてされたものであることからすれば,これらの出費の有無は意味を有しないと言うべきで,加えて,譲渡所得税の計算の過程は,委任を受けた税理士が依頼者に説明すべき性質の事柄であり,本件土地の譲渡の費用や税額について,委任前の税務相談の際はもとより,委任後においても,B税理士に疑問を呈したり,説明を求めたりした事実がないことをとらえて,控訴人が所得税を過少に申告する意図を有し,この意図を外部から窺いうる行動をしたと評価することはできない。控訴人は,また,平成2年分の確定申告書の控えの送付を受けておらず,預託した金員の過不足を尋ねてもいないが,受任した税理士において,委任者の要求を待たず,申告手続を終えたことを報告し,控えを送付し,預託を受けた金員に過不足があれば,その報告をすべきで,委任者が説明又は送付を求めなかったことを格別に評価することもできない。
ウ 控訴人は,従前,税理士に委任することなく確定申告し,平成元年分以降,銀行口座振替の方法により納税することとしており,平成2年分については,7100円が銀行振替により納税され,譲渡所得税の納税に充てるべき金員をB税理士に預託しているが,金員の預託は同税理士の指示に従ったにとどまると認められ,この事実に格別の意味を見出すことはできないし,同年度分の所得税7100円が銀行振替された事実も,譲渡所得税の納税のために同税理士に金員を預託した以上,異とするに足りず,格別の意味を見出すことはできない。
(4)B税理士及び控訴人の検察官等に対する供述

ア B税理士は,平成9年12月,検察官に対し,要旨,控訴人から,本件土地の譲渡に係る所得税について,納税額を正規の金額より安くして欲しいと依頼を受け,控訴人に対し,本来2600万円くらいの税金を支払わなければならないが,税金,手数料などすべて含めて1800万円で手続できると告げたと供述した(乙4)。しかしながら,控訴人がEの紹介を得てB税理士に税務相談し,確定申告を委任するに至った前記認定の経緯と対比し,控訴人がB税理士に納税額を正規の金額より安くすることを依頼したとする部分は,裏付けに欠け,採用の限りではない。また,B税理士から税額が減少すると説明を受けて控訴人が委任したことが課税標準等を隠ぺいし,又は仮装し,これに基づき納税申告書を提出した場合に当たらないことは,先に判断したとおりである。
イ 控訴人は,平成9年11月ころ,検察官及び東京国税局調査官の事情聴取に対し,要旨,B税理士から税金が安くなるともちかけられて不正な申告をしたことが不徳の致すところであり,申し訳ないとの趣旨及びB税理士がメモ書きした経費が架空のものであることを認める趣旨の供述をしている(乙8,9)。しかしながら,控訴人は,税務署勤務の経歴を有する税理士と税務署員の共謀により騙し取られることなど露知らず,納税のために1800万円もの多額の金員を預託しており,前記認定の事実経過のとおり,税額の減少額の多さに疑いを抱いたものの,B税理士による脱税の方法を知らず(領得されると知りながら,金員を預託する者はいない。),脱税の意図を知っていたと認めるにも到底足りない。控訴人の検察官等に対する前記供述は,平成2年の所得税の税務申告を委任して6年余を経,B税理士の脱税の事実等が発覚した後にされており,控訴人が,重大な犯罪に加担した結果となったことを知らされ,脱税を依頼した事実を認めて謝罪の意向を示すものであるが,前記認定判断のとおり,B税理士に委任した当時,控訴人が所得税について脱税が行われることを知っていたと認めることはできない。また,控訴人は,前記のとおり,検察官に対し,保管していた本件土地の譲渡に関する書類及びB税理士から受領した書類,更には控訴人の脱税の意図を裏付けるものとして被控訴人もよりどころとするB税理士の記載した前記メモまでも提出しており,書類の保管及びその検察官への提出,いずれの点についても,控訴人が脱税を委任したとすれば,あまりに不可解な行動というべきである。以上の事情を考慮すると,控訴人のこれらの供述は信用性に欠けるというべきである。 (5)B税理士による脱税と控訴人の責任
ア 税理士は,前記のとおり,税務専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)。このような公共的な使命を担う税理士は,委任者である納税義務者の援助に当たっては,納税義務者と税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で行動すべきもので,B税理士による前記方法による脱税について,直ちに委任者である控訴人の責任を問うことはできない。被控訴人の主張は,独立して公正な立場で行動すべく法律で定められた税理士の公共的な使命を無視するもので,採用の限りではない。
イ 継続的に多額の収益を得た法人等の納税者が徴税事務に従事した経験を有する税理士に対し,甚だしい場合は脱税を依頼し,そうでない場合においても,徴税事務に対する影響力を期待し,巨額の税を免れようとする事例が明らかとなることがある(公知の事実)が,そのような場合は格別,大多数の納税者及び税理士が,法律の許す範囲内において納税額を少なくしようと試みることはあっても,適正な納税をしていると認められる(我が国において,一部を除き,徴税事務に格別の困難を生じていないことも,公知の事実であり,このことから本文のように認めても,我が国の実態を見誤るものではあるまい。)我が国の税理士制度の下においては,税理士による脱税について,委任した納税者は直ちには責任を負わず,重加算税を賦課するには,前記のとおり,納税者による資料の隠匿等の積極的な行為までは必要ではないまでも,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からも窺いうる特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合であることを要する。
ウ 本件においては,前記のとおり,控訴人は,税務相談をし,多額の税額が減少することに疑いを抱いたものの,所得税の申告を委任したのにとどまり,B税理士において,格別の説明をすることもなく,紹介料や草刈費用を計上し,税額を試算して見せ,納税に充てる金員として1800万円を騙し取り,税務署員と共謀し,委任者である控訴人の利益をおよそ無視する方法により脱税したのであり,控訴人が脱税の責めを負うべき理由を見出し難い。
(6)本件の特質
ア 控訴人は,納税のための1800万円もの多額の金員を税理士に騙し取られ,後に納税し,いわば二重の負担を負ったに等しいが,納税の義務を免れることができない以上,その限度では,税理士の選任を誤った負担を負うことは避けられない。
イ 被控訴人は,要旨,税理士による脱税について重加算税を賦課すべきかどうかは,生じた国家的損失を当該税理士を委任した納税者に負担させるのが公平か,国家の損失,すなわち他の正当な申告納付義務の履行者全体の損失に帰するのが公平かという観点から決すべきであると主張する。しかしながら,この主張は,本件において,税理士が脱税し,納税者から金員を騙し取り,国家と共に納税者にも被害を与えており,これらの被害が税務署員の協力なくしては発生しえなかった事実を無視するものである。控訴人は,税務署勤務の経験を有するB税理士に1800万円もの多額の金員を騙し取られた被害者であり,税理士と共謀して課税資料を廃棄し,税理士が納税者から金員を騙し取るのを可能にした税務署員は,共犯にほかならない。税務当局も,本件においては,脱税をするような明らかに税理士の資質に欠ける元税務署員を税理士にした点は措いても,税理士の脱税及び部内の共犯者の行為に永年気づいておらず,どちらかといえば,加害者と同視されるべき立場にある。この事実をも踏まえると,控訴人の過少申告に対する重加算税の賦課は,前記のとおり,事実の裏付けを欠いて是認することができないだけでなく,税務署員及び元税務署員の悪行について甘受すべき非難を納税者に転嫁して免れようとするに等しく,課税法規の適正な適用の見地からも大きな疑問がある。
(7)1800万円を超える部分と重加算税(被控訴人の当審における新主張) 前記の本件の事実関係の下においては,1800万円を超える部分についても,控訴人は,課税標準等を隠ぺいし,又は仮装したと認めることはできない。被控訴人の主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当である。
3 争点②(控訴人による偽りその他不正の行為)について (1)控訴人が重加算税を賦課されるべき方法により本件土地に係る譲渡所得税を免れたことを認めることができないことは,先に認定判断したとおりで,被控訴人において,譲渡所得税及び事業所得等に対する税について,その他に「偽りその他不正の行為」(通則法70条5項)により控訴人が税額を免れたと主張するものでない本件においては,その余の点について検討するまでもなく,控訴人が偽りその他の不正の行為により所得税について過少申告をしたと認めることはできず,控訴人に対する重加算税賦課決定につき,過少申告加算税の限度において是認することもできない。
(2)以上のとおり,本件においては,本件土地の譲渡所得の過少申告について重加算税を賦課すべき要件に欠ける他,譲渡所得及びその他の所得のいずれについても,平成2年の控訴人の所得税の確定申告書の提出期限である平成3年3月15日から5年を超えて,なお過少申告加算税を賦課することのできる事由が認められず,平成9年12月19日付けをもってされた本件各処分は,通則法70条4項の期間の制限を過ぎた後にされたものとして違法である。
4 まとめ
以上によれば,争点③(過少申告についての正当な理由)について検討するまでもなく,本件各処分は違法であり,その取消しを求める控訴人の本訴請求はいずれも理由があり,正当として認容すべきである。
第4 結論
よって,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消し,控訴人の請求をいずれも認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 江見弘武 裁判官 岩田 眞 裁判官 原 啓一郎)
トップに戻る

saiban.in