判例検索β > 平成1年(う)第1284号
窃盗、有価証券変造、変造有価証券交付被告事件
事件番号平成1(う)1284
事件名窃盗、有価証券変造、変造有価証券交付被告事件
裁判年月日平成2年6月25日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第43巻2号83頁
判示事項一 テレホンカードの有価証券性
二 テレホンカードの磁気記録部分の無権限改ざんと有価柾券の「変造」
三 テレホンカードのカード式公衆電話機における使用と有価証券の「行使」
裁判要旨一 日本電信電話株式会社の発行にかかるテレホンカードは、刑法上の「有価証券」に当たる。
二 日本電信電話株式会社の発行にかかるテレホンカードの磁気記録部分に記録された利用可能度数情報を権限なく改ざんすることは、有価証券の「変造」に当たる。
三 日本電信電話株式会社の発行にかかるテレホンカードを真正なものとしてカード式公衆電話機に差し込んで通話のため使用することは、刑法一六三条一項の「行使」に当たる。
裁判日:西暦1990-06-25
情報公開日2017-10-13 01:50:19
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主 文
本件控訴を棄却する
当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
理 由
本件控訴の趣意は、弁護人遠藤雄司作成名義の控訴趣意書、控訴趣意書補充書及び控訴趣意書再補充書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官野上益男作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。 一 控訴趣意第一点(事実誤認、法令の適用の誤りの主張)について 所論は、要するに、原判示第二及び第三の各事実に関し、テレホンカードの磁気記録部分は、電話機を作動させ或は残度数を表示する磁気情報の媒介物に過ぎず、この部分に権利が化体していると解するのは、無形の情報に権利化体性を認めるに等しく、無形の権利を有体物に化体させることを目的とする有価証券制度の本質に反するので、この部分は有価証券変造罪の客体たる有価証券に当たらず、したがって、磁気記録部分を改ざんしても有価証券変造罪に該当せず、また、これを交付しても変造有価証券交付罪に該当しないのに、本件各テレホンカードの磁気記録部分の改ざんが有価証券変造罪、その交付が変造有価証券交付罪に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、ひいては法令の適用の誤りがあるというのである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討すると、原判示第二及び第三の各事実に関し、原判決の事実認定及び法令の適用に所論主張のような誤りはなく、また、原判決が補足的説明の項において、テレホンカードの仕組み及びその機能について認定説示しているところ及びこれに基づき説示する法律判断も、概ね正当なものとしてこれを維持することができる。以下に若干補足して説明する。
1 まず、関係各証拠によれば、現在わが国において用いられているテレホンカードは、次のようなものと認められる。すなわち、テレホンカードは、A株式会社が同会社の設置したカード式公衆電話機の利用者のために発行した、電話の役務の提供の代価の弁済の手段として用いられる前払式証票(プリペイドカード)であって、利用者は、Aの各店舗、販売代理店等でその発行度数に対応して決められた価格に従い、代金を支払ってこれを購入し、カード式公衆電話機を利用するときはこれを電話機の挿入口に差し込むという方法によって、利用可能度数の範囲内で電話の役務の提供(相手方との通話)を受けることができるというものである。Aが現在販売しているカードは、発行度数が五〇度、一〇五度、三二〇度及び五四〇度の四種類である。
テレホンカードの本体は、名刺大のポリエステル様素材で作られたカードである。そして、表面と裏面又はそのいずれかの面にAのテレホンカードであること及び発行度数の表示と、パンチ穴によっておよその残度数を示すための度数カウンターとが印刷されており、また、裏面全体が磁性体で構成され、そのうちの磁気ストライプ部分には当該カードがAの発行した正規のカードであることを識別するための固定情報すなわち発行情報として磁気の入力年月日、入力の通し番号及びエンコード(入力機械)番号情報並び秘密のプログラムによるパリティチェックを行うためのパリティビット、暗号及び暗号位置情報が印磁されているとともに、可変的な情報として残度数情報すなわちそのカードの利用可能度数情報が印磁されている。 利用者がカード式公衆電話機に挿入口からテレホンカードを差し込むと、電話機に内蔵されたカードリーダーがカードに印磁された磁気情報を読み取って、パリティビットと暗号の二重のチェックによりそのカードがAの発行した正規のカードであるかどうかを識別し(なお、電話機としては同時にカードの形状等の物理的特性や磁気記録の磁束密度によってもカードの真偽を識別する)、その際利用可能度数情報をいったん内蔵ソフトに転写するとともに、電話機の表示窓を通じて利用者が見ることのできる度数カウンターにその利用可能度数を赤色で表示し、これによって利用者が通話可能になる。そして、利用者が通話中は電話の使用量に従って電話機の内蔵ソフトに転写されている利用可能度数の数値が減算され、これに基づいて度数カウンターに表示されている残度数が漸次減少していき、通話が終了すると、その際の残度数が内蔵ソフトからカードの磁気記録部分に転写印磁され、一定度数に減ったときはカードにパンチ穴が開けられたのち、カードが返却口から外に出て来て、利用者に返還される。利用者は、残度数がある限りはテレホンカードをこのような形で何回でも繰り返して使用することができる。
なお、テレホンカードは、これを所持している者がAの店舗等で換金を求めるこ
とはできないが、他人との間の譲り渡し、譲り受けは自由であって、贈答に用いられることもあり、いわゆる金券屋に買い取らせたり、金券屋からAの販売価格よりも安い価格で購入することも可能である。
2 関係各証拠によれば、原判示第二及び第三の各犯行において、被告人は、Aが正規に発行した発行度数五〇度のテレホンカード約一六〇〇枚を利用し、その各カードの磁気記録部分に印磁されていた五〇度という度数情報を消磁し、そのあとにカード式公衆電話機の内蔵ソフトの最大許容量である一九九八度を印磁して、利用可能度数を改ざんし、こうして利用可能度数を改ざんしたテレホンカード約一六〇〇枚を他人に改ざんした旨告げて売り渡したものであることが明らかである。 3 そこで、以上のような事実を前提に、テレホンカードが刑法に定める有価証券変造罪や変造有価証券交付罪にいう有価証券に当たるかどうかを検討する。 刑法第一六二条・一六三条にいわゆる有価証券とは財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするものをいい、その証券が取引上流通性を有すると否とは必ずしも問わないものと解される。そして、テレホンカードは、前記のとおり、電話の役務の提供の代価の弁済のために用いられる前払式証票であるところ、テレホンカードであることが券面に印刷されてその旨の表示がなされ、かつ、電話の役務の提供を受けるにあたっては必ず当該カードをカード式公衆電話機に差し込むという方法を取らなければならず、その意味で権利の行使にカードの占有が必要的であるから、電話の役務の提供を受ける財産上の権利を化体した証票として、右にいう有価証券の要件を備えているとみることが可能のように思われる。
ただ、そのカードで現に享受しうる権利の具体的な内容すなわちそのカードの利用可能度数は、可変的なものであって、かつ、磁気記録部分に磁気情報として記録されていることから、その表示についても、発行時点におけるものは発行度数として券面に印刷されているものの、その後に変化したときは券面上の表示からは具体的な権利内容を知ることができないという点にテレホンカードの特色がある。そしてこの点、所論は、権利の化体性という有価証券の本質に照らし、権利の表示も証券上、文字やこれに代わる記号・符号によってなされていなければならず、券面上の表示と磁気記録部分の度数情報が食い違うテレホンカードでは、権利の表示が不完全といわざるをえず、したがって有価証券性が否定されると主張している。たしかに有価証券を論ずるに当たって、従来は紙その他の物体の上に可視性又は可読性のある権利表示が必要といわれてきている。それは、従来は有価証券に財産的権利を化体させるに当たっては、印刷、筆記その他の方法を用いて文字やこれに代わる記号・符号でその権利内容や作成名義を紙その他の物体上に記録ないし表示させるほかに手段はなかったのであり、したがって、有価証券に表示される権利の行使或は移転等に際しても、これに関与する当事者らが権利内容や作成名義の真正について確認するのに、従来は人々が自らの五感の作用により、すなわち通常は目で見る、読むという手段によってこれを行うほかなかったことによる。この場合、有価証券上の記載によって権利の内容や作成名義などが明らかにされていなければならないのは当然である。しかし、現在においては、電磁的記録が物体上に人の意思・観念の表示を記録する方法として社会生活上重要な役割を果たすようになり、その作成名義人すなわち意思・観念の帰属主体の特定も可能であるうえ、その内容を確認するのも電子情報処理機器の助けを借りて容易に行いうるようになって来ている。
そして、テレホンカードの場合も、前記のとおり、当該カードを用いて電話の役務の提供を受けるに当たっては、磁気記録部分に記録された利用可能度数情報がまさにその権利を記録したものとしての役割を果たし、更にその時点における残度数が電話機の度数カウンターに表示されるので、いわば権利の行使に際しては刻々と変化するとはいえその権利の内容が度数カウンターを介して表示されているとみることができるのである。またその際、当該カードがAの発行した正規のカードであるかどうか、すなわち真正に作成されたものであるかどうかについても、電話機に内蔵されたカードリーダーが行う当該カードに印磁された暗号情報等の読み取り、パリティチェックなどによって確認されることとなるのである。
以上要するに、テレホンカードを購入したり、事実上の流通過程に置いたりするときは、磁気記録部分に記録されている具体的な権利内容は一見して視認可能な状態では表示されず、発行時に券面上に印刷された発行度数が表示されているに留まるものの、一般にAの店舗などで購入するに際しては発行度数がそのカードの利用可能度数を表示しているものと信頼してよいものと考えられ、また、これをカード
式公衆電話機に差し込んで残度数を確認することも容易であり、また、電話の役務の提供を受けるに当たっては、右に見たとおり、権利の内容が度数カウンターを介して表示され、その表示されたところに従って通話を行うこ<要旨第一>とができるのである。すなわち、テレホンカードは、券面上の表示と磁気記録部分に記録された磁気情報とが一体となって、電話の役務の提供を受ける権利をカードに化体させたものとみることができ、しかも、社会生活上もそのようなものとして財産的価値が認められて事実上の流通性を持ち、かつ、使用されているのであるから、形式的な概念としてばかりでなく、社会的な実体としても刑法上有価証券として保護される実質を持つものと認めることができるのである。
<要旨第二>4 有価証券の変造とは、真正に作成された有価証券に権限なくほしいままに変更を加えることをいうものと解されるところ、以上にみたようにテレホンカードは刑法上の有価証券であって、テレホンカードの磁気記録部分に記録された利用可能度数を権限なく改ざんすることは、テレホンカードの記録表示している権利内容に変更を加えることにほかならないから、これが有価証券の変造に当たることはいうまでもない。すなわち、本件においても各テレホンカードの磁気記録部分の利用可能度数情報を五〇度から一九九八度に改ざんしたことは、有価証券であるテレホンカードの変造に当たるものと認められるのである。もっとも、所論は、テレホンカードは有価証券であっても権利の存在に関する社会の信頼は券面上の記載にあるのであるから、磁気記録部分の磁気情報を改ざんしても変造に当たらないという主張をしている。この点、テレホンカードの場合、券面上の表示と磁気記録部分に記録された磁気情報とが一体となって財産上の権利を化体させた有価証券であることは、以上に十分に検討したとおりであり、したがって、磁気情報を改ざんすることが有価証券に変更を加えることにならないという右主張は、まずその前提において採用できない。ただ、本件においては、券面上の度数表示は五〇度であるのに、磁気情報としての利用可能度数を一九九八度に改ざんしたことで、いわば外観と権利内容の記録表示である磁気情報との間に著しい食い違いが生じたことについて若干の問題がないわけではない。たしかにテレホンカードの場合も、流通過程においては券面に印刷された度数表示を信頼して取引するのが一般と考えられる。とはいえ、少なくとも流通の末端等においては、ある程度の枚数のカードを一括購入するときなど、電話機の度数カウンターを示されてこれに表示されている度数のカードであるなどと言われれば、これを信じ込む者もかなりいるであろうことが想定できる。したがって、右のような想定ができる以上、本件のような券面上の表示と著しい齟齬のある利用可能度数の改ざんも、単なる投棄等に留まらず、有価証券としてのテレホンカードに対する一般の信頼を害する変更と認められ、結局、本件の場合も外観との食い違いがあることによって変造に当たることが否定されるものではない。
<要旨第三>なお、有価証券の行使は、その用法に従って真正なものとして使用することと解されているところ、所論は、テレホンカードのその用法に従った使用は、利用者がテレホンカードを道具として機械を操作するものであり、その際磁気記録部分の磁気情報は電話機を作動させる道具ないし鍵の役目として機能しているに過ぎないから、有価証券に表示された権利の行使に当たらないという主張をしている。また、この点に関し、一般的に有価証券の行使について、これは人に対して行われなければならず、専ら機械のみに対して使用することは行使に当たらないとする議論もないではない。しかし、仮に行使は人に対するものでなければならないという前提に立っても、テレホンカードの本来的用法に従った使用すなわちカード式公衆電話機における使用も、この電話機を設置したAに対して権利を行使したもの、いいかえると電話機を介し人に対して有価証券を行使したものと認めることができる。この点まず、利用者が実際にテレホンカードを使用しようとしてこれを電話機に差し込んだ場合、電話機内では内蔵ソフトによるカードの磁気情報の読み取り或は転写などという処理ないし操作が自動的に行われて通話が可能になるものであることは前記のとおりであるが、そのように電話機内で処理ないし操作が自動的に行われるのは、電話機の設置者(テレホンカードの発行者でもある。)が予め内蔵ソフトにそのような処理ないし操作を行うべきことを指示したプログラムを組み込んでいることによることも明らかである。その意味で、利用者がテレホンカードを電話機に差し込んで電話の役務の提供を求めるときは、設置者が内蔵ソフトにおけるプログラムの設定等の機械的手段を介してとはいえ、その意思に基づいてこれを提供しているものと認めることが可能である。加えて、作成の真正に係る判断についても、前記のようにテレホンカードには暗号情報等が
印磁され、これに対応して電話機の内蔵ソフトにはその読み取りなどがプログラムに組み込まれ、Aが正規に発行したものでなければ通話ができないという仕組みになっていることに照らし、このような仕組みを介して設置者がその判断を行っているものと考えることもできる。以上要するに、テレホンカードの所持者においてテレホンカードをカード式公衆電話機で使用することは、そのカードを道具として電話機を機械的に操作するというものではなく、電話機の設置者に対し自己の財産上の権利を行使しているものと認めることができ、一方、設置者においても、機械という補助手段を介してではあるものの、自らの判断と意思に基づいてその利用者に電話の役務を提供しているものと認められ、したがって、テレホンカードの使用が有価証券としてのテレホンカードの行使に当たることも十分肯認できるのである。 更に、以上のことから、テレホンカードの変造或は変造したテレホンカードの交付に際し行使の目的を有していたかどうか考えるうえでも、自己が当該変造カードを真正なものとして公衆電話機で使用する目的又は他人に使用させる目的があれば、行使の目的を有していたものと認められることになる。そして、本件においても、被告人がテレホンカードの変造、交付に当たり右のような意味でも行使の目的を抱いていたものと認められることは、原判決が補足的説明の項で認定判示しているとおりである。
5 以上のとおりであるから、原判示第二及び第三の各事実に関し、原判決には所論指摘のような事実認定の誤りはなく、また、法令の適用の誤りもない。論旨は、理由がない。
二 控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について
所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当であり、刑の執行を猶予するのが相当であるというのである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を考え合わせて検討すると、本件の量刑において考慮すべき点として原判決が量刑の理由の項で説示しているところは、正当として維持することができ、原判決の量刑が不当であるとは考えられない。すなわち、本件は、被告人が、コンピューター関係に詳しい知り合いの者からカード式公衆電話機の内蔵されたロムを改造することにより市販のテレホンカードの利用可能度数を簡単に改ざんできるという話を聞き、またそのころ、被告人の経営する飲食店でかつて働いたことのある者からも利用可能度数を改ざんしたテレホンカードの密売の話を聞いたことから、自分自身でテレホンカードを改ざんし、これを密売して利益を挙げようと企て、右コンピューター関係に詳しい者に電話機の改造方を依頼した上、平成元年四月二六日ころ、道路脇の店舗前駐車場に設置してあったカード式公衆電話機一台を窃取し、次いで、同人に改造して貰ったこの電話機を用いて、同月末ころ、Aが正規に発行した発行度数五〇度のテレホンカード五九五枚を利用可能度数一九九八度のカードに改ざんして有価証券を変造し、右密売の話をしていた元従業員に情を打ち明けた上、この変造したテレホンカードを一枚当たり代金三五〇〇円の約定で売り渡して交付し、更に、同年五月上旬、前同様の方法で、発行度数五〇度のテレホンカード約一〇〇〇枚を利用可能度数一九九八度のカードに改ざんして有価証券を変造し、この変造したカード八〇〇枚を含む一九九八度に改ざんしたテレホンカード計一〇〇七枚を同人に代金合計三〇〇万円の約定で売り渡して交付したという事案である。被告人は、いわゆる金儲けをしたいという気持ちから、このように自ら公衆電話機を盗み、大量のカードの変造及び売り捌きを行っていたものであって、当時かなり多額の負債に苦しんでいたという事情はあるものの、その動機において特に同情の余地はなく、犯行の態様もいわば犯罪行為を営業的に反復していたというに等しく、更に本件及びこれに関連して、変造カードの売り渡し先から代金の一部支払いなどとして現金合計一二〇〇万円余りを受け取り、材料として使った正規のテレホンカードの購入代金や電話機を改造してくれた者に対する謝礼などを差し引いた九〇〇万円余りが被告人の実際の利得になっていることが窺え、また、大量のテレホンカードの利用可能度数が改ざんされ、これが密売されて世の中に出回ろうとしていたことが明らかになったことで、社会に与えた衝撃も無視することができず、これらの諸点を総合すると、被告人の刑事責任は重いものといわなければならない。
そうすると、本件各テレホンカードはいずれも実際に使用されるに至らず、その意味でAに多額の損害を与えるには至っていないこと、被告人は現在では深く反省後悔していること、被告人には昭和四五年に業務上過失傷害の罪で罰金刑に処せられたほかは前科がないことなど、所論指摘の諸般の事情を被告人のためにしん酌しても、被告人に対し刑の執行を猶予するのが相当であるとは認められず、刑期の点
においても懲役二年六月に処した原判決の量刑はまことに止むを得ないものであって、それが重過ぎて不当であるとはいえない。
更に、原判決後の事情として、電話機を窃取し破壊したことの被害弁償として、被害者であるAに二〇万円余を支払い、この件についてはAとの間で示談が成立していること、加えて、法律扶助協会に五〇万円を贖罪寄付していることが認められるが、これらの点を合わせ再考しても、原判決の量刑をこのまま維持することが不当とは考えられない。したがって結局、論旨は、理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文により被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 船田三雄 裁判官 松本時夫 裁判官 秋山規雄)
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