判例検索β > 昭和50年(ネ)第127号
登記抹消登記手続請求事件
事件番号昭和50(ネ)127
事件名登記抹消登記手続請求事件
裁判年月日昭和50年11月27日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第28巻4号369頁
判示事項消費貸借契約及び担保権設定契約が無権代理人によつて締結された場合における原状回復義務と同時履行
裁判要旨消費貸借契約及びこれに基づく担保権設定契約が無権代理人によつて締結された場合において、本人が無権代理人を経て交付を受けた金員につき相手方に対し不当利得返還義務を負うときは、右担保権に関してされた登記の抹消義務と右金員の返還義務とは、同時履行の関係にあると解するのが相当である。
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主 文
原判決を次のように変更する。
控訴人は被控訴人に対し被控訴人から金二〇〇万円の支払いを受けるのと引き換えに別紙物件目録記載の土地につき前橋地方法務局嬬恋出張所昭和四六年一一月九日受付第七九六四号をもつてなした同月四日付代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記及び同出張所昭和四六年一一月九日受付第七九六三号をもつてなした同月四日付金銭消費貸借の同日設定契約を原因とする抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも五分しその二を被控訴人の負担としその余を控訴人の負担とする。
事 実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、被控訴人において後記控訴人の主張を争い、控訴人において、「本件消費貸借契約が無効であつたとしても、このように消費貸借契約が当初から無効である場合に、これに基づき担保権が設定され、他方貸金として金員が交付されていたときは、双方の債務が同時に履行されることが公平に合する趣旨とする民法五三三条の規定を類推適用して、右担保権につきなされた登記の抹消義務と借主が受け取つた金員の返還義務とは同時履行の関係にあると解すべきである。」と述べたほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書七枚目裏一〇行目中「第六」を「第五」に、同添付物件目録を別紙物件目録のとおり改める。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理 由
一、 当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の本件消費貸借並に抵当権設定契約の成立及びその契約の追認又は表見代理に関する主張を排斥し、主文掲記の各登記はいずれもその原因を欠き控訴人はこれを抹消する義務があるものと判断するので、原判決の理由(ただし、原判決書八枚目表一行目から同一四枚目表七行目まで。)をここに引用する。
原判決書八枚目表六行目中「並びに」の下に「官署作成部分の成立及び被控訴人の印影が同人の印顆により顕出されたことは争いがなく、その余の部分については」を加え、同裏七行目中「斡施」を「斡旋」に改め、同九枚目表一行目中「原告に対し、」の下に「その依頼の趣旨に反し控訴人から右のように本件土地を担保にして金三〇〇万円の借入れをすることを秘して、」を、同二行目中「買主」の下に「として控訴人」を、同七行目中「承諾し、」の下に「Aに対し」を、同裏四行目中「赴き、」の下に「かねて話合いのとおり」を、同一〇枚目表末行中「本件土地を」の下に「代金五〇〇万円で」を加え、向裏一行日中「意思であり、」を「意思でAに対しその代理権を授与したものであり、これに反しAは右代理権授与の趣旨に反してBを通じて控訴人に対し本件土地を担保に金員の貸借を申し入れ、」に改め、同一一枚目表一一行目中「電話があつたとき」の下に「身の危険を感じ」を加え、同一三枚目裏二行日中「乙第一号証」を「(乙第一号証)」に改め、同一一行目中「被告は、」の下に「右の消費貸借契約を締結し、Aに貸金三〇〇万円を交付した当時、借主本人である被控訴人が近くにいて、このことをAから知らされていたものであるから、控訴人は容易に被控訴人に会いその真意を確かめることができたにもかかわらず、これを確かめることもしなかつたものであり、ただ」を加える。
二、 同時履行の抗弁権について
(1) 前示認定のように、被控訴人と控訴人との間において、本件土地の売買契約もまた控訴人主張の本件土地を担保とする消費貸借契約も成立していなかつたものであるにもかかわらず、控訴人は右消費貸借に基づく貸金として三〇〇万円を出捐し、被控訴人はそのうち二〇〇万円を受領したものであつて、これが受領した金員は他にこれを利得すべき法律上の原因が認められないから、控訴人の損失において被控訴人が法律上の原因なくして利得したこととなり、被控訴人はこれを不当利得金として控訴人に返還する義務があり、その返還義務の範囲については、被控訴人は前示認定のように本件土地について売買契約が成立したものと信じて右金員を受け取つた善意の不当利得者であるからその利益の存する限度においてこれを控訴人に返還すべきところ、被控訴人は右二〇〇万円のうち一四七万円を費消したの
で現存利益は五三万円にすぎないと主張し、前示認定によると、右二〇〇万円のうち一〇〇万円は山陽鉱業に貸し付け、うち四〇万円はA、Cの両名に礼金として、うち二万円は登記料として、うち五万円は契約成立祝賀費としてそれぞれ交付し、残額五三万円を自己のために受け取つたものであるが、右山陽鉱業に対する貸付金一〇〇万円は特段の反証のない本件においては貸付金債権として利益が現存し、その他の礼金四〇万円、登記料二万円並びに契約成立祝賀費五万円は被控訴人主張の売買契約が成立したものとして交付したものであり、本件消費貸借及びこれに基づく担保権設定のために交付したものではないが、前示認定のように被控訴人がこれら金員を交付したのは代理人として依頼したAないしはCの本件土地につき売買契約が成立したとの言を信じたことによるものであるから、売買契約が成立していれば当然支払うべきものであり、他方売買契約が成立せず本件のような消費貸借契約に基づく金員であつたならば前記のような各名目の下に被控訴人がこれを右AないしCに交付する筈のない金員であるから、被控訴人は、AないしはCに対し右金員を不当利得として返還を請求するか、右の金員の交付を余儀なくされた行為により生じた損害に対し、不法行為に基づきこれが金額の損害の賠償を請求できる立場にあり、他に反証の認められない本件においては、右の請求権もこれまた現存するものと認められるから、被控訴人は控訴人に対し右金二〇〇万円を不当利得金として返還する義務がある。
<要旨>(2) ところで、同時履行の抗弁権は、通常双務契約から生ずる対価関係にある債務は同時に履行されるのが公平であり、かつ信義に合するという理由で認められるもので、同時履行の抗弁権に関する民法五三三条の規定は、この見地から契約の解除に基づく原状回復義務や損害賠償義務についても準用(同法五四六条五七一条六三四条六九二条等)され、このような準用がない場合でも、当事者の意思により双務契約から生じない互の債務に対価的意義を付与することによつて認められることは右の規定が任意規定の趣旨からして明らかであるが、右の規定が当事者双方の債務が同時に履行されることが公平かつ信義に合するときは当事者の意思にかかわらずなお右の規定を類推適用すべきものと解すべきところ、双務契約が解除によらず取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は同時履行の関係にある(最高裁判所昭和四七年九月七日第一小法廷判決最高裁判所民事判例集二六巻七号一三二七頁参照。)と解すべきであるし、また消費貸借契約は双務契約ではないけれども、本件のように消費貸借契約に基づき担保権が設定され、他方これにより借主に金員が交付された場合において、右消費貸借契約及びこれに基づく担保権設定契約が当初から無効のときにおいてもなお、右担保権に関してなされた登記抹消義務と交付された金員が不当利得として返還を請求できる場合における金員の支払義務とは同時履行の関係にあるものと解することは、民法五三三条の前記趣旨に照らして相当である。
(3) したがつて、被控訴人の主張の前記控訴人の登記抹消義務と前記(1)て認定した被控訴人の控訴人に対する不当利得返還義務とは同時履行の関係にあり、控訴人は被控訴人に対し前示不当利得金二〇〇万円の支払いを受けるのと引き換えに主文掲記の登記の抹消義務を履行すれば足るので、控訴人の同時履行の抗弁は理由がある。
三、 すると、原判決中控訴人に対し主文掲記の登記の抹消を単純に命じた部分は不当であつて取消しを免がれず、この点に関する控訴は理由があるけれども、その余の部分は相当であつてこの点に関する控訴は理由がない。
よつて、原判決を変更し、控訴人に対し被控訴人から金二〇〇万円の支払いを受けるのと引き換えに主文掲記の各登記の抹消を命じ、被控訴人のその余の請求を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも当事者双方の勝敗の割合を勘案して各負担を定めることとして、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 館忠彦 裁判官 安井章)別紙
物 件 目 録
一、所 在 群馬県吾妻郡a村大字b字c
地 番 d番e
地 目 原野
地 積 六六二平方メートル
二、所 在 群馬県吾妻郡a村大字b字c
地 番 d番f
地 目 原野

地 積 四三〇平方メートル
三、所 在 群馬県吾妻郡a村大字b字c
地 番 d番g
地 目 原野
地 積 三三平方メートル
四、所 在 群馬県吾妻郡a村大字b字c
地 番 d番h
地 目 原野
地 積 六六平方メートル

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