判例検索β > 昭和47年(ネ)第305号
地上権設定仮登記の本登記請求事件
事件番号昭和47(ネ)305
事件名地上権設定仮登記の本登記請求事件
裁判年月日昭和50年6月26日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第28巻3号250頁
判示事項法定地上権放棄の効力
裁判要旨法定地上権者がその法定地上権を放棄したことは、のちに地上建物を競落して所有者となつた者が右法定地上権を承継取得する妨げとならない。
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主 文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用及び認否は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目―記録一三丁―表八行目「中、本件地上」とあるところから次の行の終りまでを「はすべて認める。」と改め、同四枚目―記録一四丁―裏一行目「第六」とあるのを「第四」と改め、同行「(全部認める)」とある後に「、第五、第六(各写、原本の存在、成立とも認める)」を加え、同裏四行「証人」とある後に「(被告申請)」を加え、同行「A」とあるのを「B(一審証言当時の姓A)」と改める。)。
一 被控訴代理人は、次のように述べた。
1 被控訴人は、原判決添付目録二の(二)記載の建物(以下、「本件現建物」という。)の競落人として、昭和四五年七月九日競落代金残額三四六万五、〇〇〇円を完済して所有権を取得し、これによつて原判決添付目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)に法定地上権を取得した。
2 控訴人の後記二1、2の各主張はいずれも争う。右二2の主張は主張自体理由がない。
二 控訴代理人は、次のように述べた。
1 土地とその地上の建物とにつき土地建物の所有者により抵当権が設定されたのち建物が改築された場合にも新たな建物につき法定地上権発生の余地があるが、その地上権の内容は、旧建物が存続したときと同一内容であるべきものであり、朽廃しあるいは朽廃すべき旧建物を取り壊して新建物を建築したときには、土地の競落人と建物の競落人とが別人となつても、法定地上権は発生しないものと解すべきである。
原判決添付目録二の(一)記載の建物(以下「本件旧建物」という。)は、終戦後間もなく建築された全くのバラツクであり、昭和三七年四月二三日株式会社東京相互銀行のため本件土地とともに根抵当権を設定された当時は既に朽廃寸前の状態にあり、そのため同年五月頃から九月頃までの間に取り壊されて本件現建物が建築されたのであるから、これについては法定地上権は発生しないと解すべきである。 2 Bはその所有する本件土地と地上の本件旧建物(旧建物)とにつき株式会社東京相互銀行のために抵当権を設定したのち本件旧建物を取り壊し(朽廃以外の事由により滅失)、同一地上に建築した本件現建物と本件土地につきCのために抵当権が設定されたところ、東京相互銀行の抵当権実行の結果本件土地を控訴人が競落し、Cの抵当権実行の結果本件現建物を被控訴人が競落したという本件の場合、被控訴人が法定地上権を主張し得る相手はBであつて控訴人ではないと解すべきである。よつて、被控訴人は、法定地上権を取得してもこれをもつて控訴人に対抗することができない。
三 証拠(省略)
理 由
一 昭和三六年一〇月当時本件土地の地上には本件旧建物が存在し、Bが本件土地及び本件旧建物の所有権を同年同月一八日取得したのち、両者を共同担保として、株式会社東京相互銀行のために債権元本極度額三五〇万円の根抵当権を設定し、昭和三七年四月二三日根抵当権設定登記を経由したことは当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない甲第三号証、原審及び当審における証人B(原審証言当時の姓A、以下同様)の各供述によれば、Bは、昭和三七年七、八月頃本件旧建物を取り壊し、本件土地上に本件現建物を新築したことが認められ、Bが本件現建物につき同年一〇月二〇日所有権保存登記を経由し、次いでCのために本件現建物と本件土地とを共同担保として抵当権を設定し、昭和三八年七月二日その旨の登記を経由したことは当事者間に争いがない。
また、本件土地は、右東京相互銀行による根抵当権実行、競売の結果、控訴人が昭和四一年六月二八日競落によりその所有権を取得し、同年八月一日その旨の登記を了したこと及び本件現建物は、前記Cの抵当権実行、競売の結果、被控訴人が競
落したことは当事者間に争いがなく、前顕甲第三号証、成立に争いのない甲第七、第八号証によれば、被控訴人は、昭和四五年四月一六日本件現建物につき競落許可決定を受け、競落人として、同年七月九日既に支払いずみの保証金三五万円をあわせて競落代金三五〇万円を完済したことが認められるから、同日本件現建物の所有権を取得したものというべく、被控訴人が同年同月一三日その旨の登記を経由したことは当事者間に争いがない。
以上の事実関係のもとにおいて、本件土地に対する根抵当権設定の時に存在した地上の本件旧建物と土地に対する競売の行われた時に存した地上の本件現建物とについては、新旧の別こそあれ、同一土地上において改築され、建物所有者も前後同一人であり、本件土地につき根抵当権が設定された時も、競売が行われた時も土地及び建物の所有者は同一人であつたのであるから、土地につき競落がなされて土地の所有者と建物の所有者とが別人となつたときに建物の所有者はその土地について法定地上権を取得したというべきである。
二 ところが、控訴人は、本件旧建物は本件土地とともに抵当権を設定された当時既に朽廃寸前の状態にあり、これを取り壊して本件現建物を建築したのであるから、法定地上権は発生しないと主張する。思うに、土地に抵当権が設定された当時その地上に建物が存在していても土地抵当権の実行すなわち競売の前既に朽廃し又は朽廃したであろうとされる場合には、土地抵当権取得当時土地の担保価値を更地の担保価値よりも低く評価すべき理由を欠くから、たまたま旧建物の朽廃前しかも土地競売前に旧建物を取り壊して右土地上に新建物を建築し、土地の競落人と新建物の所有者とが別人となつても、法定地上権は発生しないと考える余地があろう。しかし、旧建物が土地競売前に朽廃したであろうという事情が認められないかぎり法定地上権は新建物所有者のため右土地につき発生すると解するのが相当である。ところで、前記のとおり根抵当権実行の結果、控訴人のために本件土地につき競落による所有権移転登記がなされたのは昭和四一年八月一日である。そこで、本件旧建物が昭和四一年八月一日までに朽廃したであろうか否かについて検討する。当審証人Bの供述によつて成立を認める乙第六号証中本件旧建物は昭和三七年七、八月頃取り壊された当時既に家屋としての耐用の限度に来ていたとの部分は、成立に争いのない甲第一、第二号証、原審及び当審証人Bの各供述に冒頭争いのない事実をあわせて認められる次の事実すなわち本件旧建物は昭和二二年一月二四日保存登記された当時は建坪三八・八四平方メートル(一一坪七合五勺)であり、その後昭和二七年には増築されて建坪五五・三七平方メートル(一六坪七合五勺)となり、さらに昭和三六年一〇月建坪二三・一四平方メートル(七坪)に変更され、Bはその頃営業の用に供するためにこれを買い受け、同建物を改築のため昭和三七年七、八月頃取り壊すまで右建物でラーメン屋を営んでいたこと、右Bは同年四月五日株式会社東京相互銀行のために本件旧建物、本件土地及び港区a町の土地建物を共同担保として元本極度額三五〇万円の根抵当権を設定していることに照らして、採用し難く、ほかに控訴人の主張事実を認めるべき証拠はないので、控訴人の右の主張はこれを採用することができない。
三 また、控訴人は、土地とその地上の新建物とが別人の所有に帰した場合建物所有者がその所有のため右土地につき取得した法定地上権をもつて対抗し得る相手方は当初右土地及びその地上に存在していた旧建物につき抵当権を設定した者であつて、土地の競落人ではないと主張するが、地上にある新建物の所有者が法定地上権を取得したとき、これを対抗し得る土地所有者は抵当権設定当初の所有者ではなく、その当時の土地所有者であると解するのが相当であるから、控訴人の右の主張は、主張自体失当であるといわなければならない。
四 さらに、控訴人は、控訴人が競落によつて本件土地の所有権を取得したのち、当時本件現建物を所有していたBとの間で本件土地につき普通建物所有を目的とする賃貸借契約を締結し、しかもその賃貸借契約が賃料不払により解除され、被控訴人はその後競落により本件現建物の所有権を取得したのであるから、法定地上権は成立しない旨主張する。既に明らかにしたとおり、同一人がその所有の土地及び地上建物につき抵当権を設定したのち建物が改築され、前記土地が抵当権の実行により競売され、他人に競落されたとき、改築建物の所有者は、競落により土地の所有権を取得した新土地所有者に対し改築建物所有のため、当初の建物の所有に必要な範囲で、当初の建物の耐用年数に応じ前記土地につき法定地上権を取得すると解すべきであり、前叙のとおり本件旧建物がもし取り壊されなかつたとすれば、本件土地につき根抵当権の実行された昭和四一年夏までに朽廃したであろうことを認め得ず、本件土地が本件旧建物所有のために必要とする範囲を超える事情の認めら
れない本件についてみれば、改築された本件現建物の所有者であるBは控訴人が昭和四一年八月一日本件土地につき競落により所有権を取得し、その旨の登記を経由したとき、本<要旨>件現建物所有のため本件土地につき法定地上権を取得したというべきである。そして控訴人の前示主張が法定地上権者と土地の取得者との間に建物所有の目的で土地賃貸借契約を締結する際、法定地上権者がその権利を放棄したから、後に当該建物を競落して所有者となる者も法定地上権を取得し得ないとの趣旨であり、法定地上権者であるBが自己の法定地上権を放棄したと認められるとしても、これによる効果は、放棄した本人に限るものであると解すべきであつて、右放棄の一事により後に建物を競落取得した者に法定地上権を取得させないことは民法三八八条の趣旨に反し認むべきではないといわなければならない。また、控訴人の前示主張が控訴人とBとの間の賃貸借契約が解除されたから、法定地上権も消滅し、従つてその後に建物を競落取得した者は法定地上権を取得するに由ないという趣旨であつたとしても、賃貸借の解除は法定地上権の消滅原因とは認め難いから右は主張自体失当といわなければならない。してみれば、控訴人が本件現建物所有者であつたBと本件土地につき控訴人主張のような賃貸借契約を締結し、また右契約が右Bの責に帰すべき事由により解除されたとしても、それにはかかわりなく束田の有する法定地上権は存続し、本件現建物についての抵当権が実行され、被控訴人が右建物を競落してその所有権を取得したとき、被控訴人はこれとともに本件土地につきBの有していた右建物所有のための法定地上権をも取得したというべきである。
五 他に被控訴人の前記法定地上権の取得を妨げるべき特段の主張はなく、右法定地上権の存続期間がその後満了したことも認められないところ、控訴人が右法定地上権設定登記に協力しないので、被控訴人は仮登記仮処分命令を得て、昭和四五年一一月二八日その主張どおりの地上権設定仮登記を経由したことは当事者間に争いがなく、前顕甲第一号証によれば右仮登記の内容は、原因昭和四五年四月一六日競落許可に基づく法定地上権設定、目的木造建物所有、権利者被控訴人となつていることが認められる。ところで、被控訴人が昭和四五年七月一三日本件土地の上に存在する本件現建物につき所有権移転登記を経由していることは前叙のとおりであるから、法定地上権の登記がなくても、その取得を第三者に対抗し得るのではあるが、前記仮登記は、その原因において権利変動の過程を如実に示しているものでないとはいえ、前叙のとおり被控訴人に先立つ地上権者のBは、本件現建物につきすでに抵当権実行の結果その所有権とともに地上権を失い自己のために法定地上権の登記を受ける利益がなくなつたというべきであるから、右Bの同意がないまま中間を省略して直接被控訴人が地上権の設定を受けたとの内容の前記仮登記を無効とする必要はなく、現に本件土地につき本件現建物所有のための法定地上権を有する被控訴人は真実の権利状態に合致させるため前記仮登記に基づいて控訴人に対し本登記を請求する訴は許されると解するのが相当である。
六 さすれば、被控訴人の本件請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であるから、本件控訴は、民訴法三八四条一項によつてこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 裁判官 兼子徹夫)
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