判例検索β > 昭和42年(ネ)第270号
建物収去土地明渡請求事件
事件番号昭和42(ネ)270
事件名建物収去土地明渡請求事件
裁判年月日昭和50年6月26日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第28巻3号234頁
判示事項建物敷地の代物弁済予約が使用権負担付きの代物弁済予約であるとされた事例
裁判要旨債務者が、自己の所有建物の敷地のみを債務の担保に供する目的で、右土地につき代物弁済の予約を締結した場合において、被担保債権額が三箇月余前に買い受けた右土地の更地価格の半分にも満たず、債務者が右予約当時右建物を住居として使用しており、弁済期に弁済がなかつたにもかかわらず、債権者は債務者が引き続き右建物に居住することに何の苦情も申し入れず、直ちに右土地を転売するなどの強硬手段に出ることもなかつたなど判示の事情のもとにおいては、右予約は、債務者が予約完結権の行使により土地所有権を失う時は、右土地を右建物所有のため使用しうる権利の設定を受けることをも約したものと解するのが相当である。
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主 文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事 実
一、 控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
二、 被控訴代理人は、次のとおり述べた。
(一) 請求原因
別紙目録一の(一)記載の土地(以下本件土地という。)は登記簿上別紙目録二の(一)のとおり表示されている土地であつて、もとAの所有に属したが、BがAからこれを買い受けて所有権を取得し、次いで、被控訴人が昭和四一年四月一五日Bからこれを買い受けて所有権を取得したものである。控訴人は、右土地上に別紙目録四記載の建物(以下本件家屋という。)を所有し、右土地を占有している。 よつて、被控訴人は控訴人に対し本件土地所有権に基づき、本件家屋を収去して右土地を明け渡すべきことを求める。
(二) 抗弁に対する答弁及び再抗弁
控訴人の後記抗弁(1)、(2)の事実は否認する。
仮に、控訴人が本件土地をAから買い受けたCから更に買い受けたとしても、これにつき所有権取得の登記はなされていないのに反し、登記簿上には、本件土地は、昭和四一年四月二二日付をもつて横浜市a区b町c番のdから分筆され、別紙目録二の(一)の地番を与えられた上、同日所謂中間省略の登記によつてAから直接昭和四一年四月一五日付売買により被控訴人に所有権移転がなされた旨登記されている。のみならず、仮に、本件土地が一旦控訴人の所有に帰したと認められるとしても、右土地は前記のとおりBがAからこれを買い受けた当時は、被控訴人からAに所有権が復帰していたものである。すなわち、昭和三六年三月一〇日頃控訴人は、Aから同月三一日を返済の期限として金五〇万円を借り受けたが、債務の履行を担保するため、Aと控訴人との間において同時に、若し、期限までに控訴人が右金員を返済しない時は、Aにおいて、別紙目録一の(一)、(二)の土地を自由に処分しうべく、若し、期限までに控訴人が貸金を返済した時は、これと引換えにAは、右土地につき、その間に確定した地番により、控訴人に対する所有権移転登記手続をすべき旨の合意がなされた。ところが、控訴人は右契約で定めた金五〇万円の返済期を徒過し、Aから再三の催告を受けたにもかかわらず、なお履行しなかつた。よつて、Aは、約旨に基づき昭和四一年四月八日頃、右土地の所有権を取得したものである。
かようにして、本件土地は、被控訴人がこれをBから買い受ける前に再びAの所有に帰していたのであるから、被控訴人がBを経由して本件土地の所有権を取得することに支障はなく、控訴人の抗争は根拠がない。
抗弁(8)は控訴人の故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防禦方法で、訴訟の完結を遅延させるものであるから却下されることを求める。若し却下されない場合は右抗弁事実を否認する。
三、 控訴代理人は、答弁及び抗弁として次のとおり述べた。
(一) 答弁
本件土地は、その現地における位置及び形状が別紙目録一の(一)のとおりであり、もと、Aの所有にかかるものであつたこと並びに控訴人が本件家屋を右土地上に所有してこれを占有していることは認めるが、その余の請求原因事実を全部否認する。
(二) 抗弁
(1) 仮に、被控訴人がその主張の経過で本件土地を買い受け、その地番が被控訴人主張のとおりであるとしても、本件土地は、隣接の別紙目録一の(二)の土地とともに合計五〇坪程の一区画としてCが昭和三五年一〇月四日頃所有者のAから買い受けて所有権を取得し、さらに、控訴人が、同年一二月一日Cから右土地を金一二五万円で買い受けてその所有権を取得したものであつて、控訴人は、代金の内金二五万円は売買契約成立と同時、中間金五〇万円は同年一二月二四日までに支払い、残金五〇万円の支払は所有権移転登記と引換えに支払う約定で同年一二月一五日に右土地の引渡も受け、翌年夏頃までには其処に自宅たる本件家屋を建築所有して現在に至つているものである。
(2) 仮に、被控訴人が本件土地を買い受け所有権移転登記を経由していると
しても、被控訴人は、控訴人の前記所有権取得につき登記の欠映を主張しえない背信的悪意者に該当するから、被控訴人は控訴人に対し本件土地の所有権の取得を対抗しえない。すなわち、右土地の登記関係の経緯を見るのに、当初Aは、本件土地を別紙目録二の(一)及び(二)の二筆であると誤解していたため、右土地を取り違えて右二筆につき、昭和三五年一〇月一四日Cに対し前記売買を原因とする所有権移転登記手続がなされたが、Cと控訴人との間の契約では前記のとおり、目的物件の所有権移転登記手続は残金五〇万円の支払と同時に行うべきものとされていたのに、右三の(一)の土地が登記簿上畑であり、控訴人が農家でなかつたため、所有権移転登記手続が遅れているうち、別紙目録三の(一)、(二)の土地は、別紙目録一の(一)、(二)の土地ではなく、実はその北隣の土地であり、本件土地は横浜市a区e町f番のgの一部であることが判明したので、Aは、本件土地の周辺の土地をも含めて地番を整理確定した上、誤つてした登記を抹消して本件土地につきその正確な表示をもつて控訴人のため所有権移転の登記手続をなすべく尽力することとなり、控訴人は、Aのなす手続の進行を待つているうちに、被控訴人は、これらの事情を知りながら、Bと共謀して控訴人から本件土地を奪取しようと企てて、AからB、Bから被控訴人への各売買契約を締結し、Aから被控訴人への所有権移転登記を経たものである。
(3) 仮に、被控訴人に本件土地所有権ありと認められたとしても、前記事実関係のもとにおいて、被控訴人が控訴人に対し本件家屋を収去して本件土地を明け渡すべきことを求めるのは権利の乱用に当るから許されない。
四、 証拠(省略)
理 由
一、 本件土地がもとAの所有であつたこと及び控訴人が本件土地上に本件家屋を所有して本件土地を占有していることについては当事者間に争いがない。(なお、控訴代理人は、当審口頭弁論期日に、同人が原審において本件土地の地番は被控訴人主張のとおりであることを認めたのは、真実に反し、錯誤に基づく自白であるから撤回する旨主張し、被控訴人は、右自白の撤回につき同意しない旨の陳述をしているが、原審口頭弁論期日において陳述されている控訴人提出の昭和四一年一一月一一日付準備書面その他原審の訴訟記録を仔細に検討すれば、本件土地の地番が被控訴人主張の地番ではないということは控訴人が当初から主張し、その防禦方法の中枢をなすものであることが明らかで、この点につき前記のような自白があつたとみることはできない。)。
二、 成立に争いのない甲第一号証、第三ないし第一〇号証、第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一六ないし第一八号証、乙第七号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一五、第一九号証、登記官署作成部分の成立につき争いなく、その余の部分の成立については当審証人Dの証言により真正に成立したと認めうる甲第二号証の一、右証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認めうる同号証の二、三、第一一号証、当審証人Eの証言により真正に成立したと認めうる乙第一号証、第二号証の一、二、弁論の全趣旨ことに当審証人Fの証言により真正に成立したと認めうる同号証の三、前掲各証言(但し、Eの供述中後記信用しない部分を除く。)当審証人A(第一、二回。但し、後記信用しない部分を除く。)、F、G及びHの各証言、当審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認定でき、前掲証人E及びAの各供述中認定にそわない部分は前掲各証拠に対比し措信せず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。 (一) 本件土地及び別紙目録一の(二)の土地を合せた五〇坪の土地は、その南側に接する土地及び北側に接する土地とともにAの所有であつたが、同人は、昭和三五年頃本件土地を含む右五〇坪とその北側に接する土地一三二坪を現地において区分し、小住宅用の敷地として分譲することとし、まず、Cに対し昭和三五年一〇月一四日本件土地及び別紙目録一の(二)の土地合計五〇坪を売り渡した。次いで控訴人は(当時未成年であつたので法定代理人親権者父E及び同母Iを代理人として)、同年一二月一日Cとの間に右五〇坪の土地を代金一二万円、内金二五万円は契約成立の時支払うべく、中間金五〇万円は同年一二月二四日限り支払うべく、残金五〇万円は右土地につき所有権移転登記手続をする時に支払うという約で買い受ける旨の契約を締結し、右内金及び中間金の支払を契約の趣旨どおり履行した。 (二) ところで、右認定の売買契約はAとCとの間においても、Cと控訴人との間においても、現地につき別紙目録一の(一)、(二)の土地を指示して行われたのであつたが、Aが右土地は登記簿上別紙目録三の(一)、(二)の土地に相当すると信じ、Cもこれを疑わず同年一〇月一四日右の二筆の土地についての売買に
よりCに所有権が移転した旨の登記手続をした。
(三) そこで、控訴人がCから本件土地を買い受けた際も別紙目録三の(一)、(二)の土地につき所有権移転登記手続をするつもりであつたが、その内(一)の土地の地目が畑であり、控訴人が農家でなかつた等のため手続が遅れているうちに、本件土地の北隣の土地をAから買つたGのため所有権移転登記をすべき土地が登記簿上見当らないという問題が起り、別紙目録三の(一)、(二)は本件土地ではなく、本件土地の北側の土地であるとの疑いが生じ、昭和三六年三月一〇日前記A、G、控訴人の母であるI等が集り善後策を協議した結果、別紙目録三の(一)、(二)土地の登記簿上の名義をCからAに戻し、周辺の土地と合筆した上で改めて現地における分譲の実状に応じて分筆し、各分譲地に正当な地番を表示したうえ各買受人への所有権移転登記手続をとることとした。しかし、それがためには別紙目録三の(一)、(二)についてのCのための登記済権利証をAが必要としたところ、控訴人は前記売買代金を完済していなかつたのでこれを所持せず、Aが右権利証を手に入れるには控訴人が前記売買代金残金五〇万円をCに支払つてこれと引換えに同人から交付を受けなければならなかつたが、控訴人は当時五〇万円の用意ができなかつたのでAからこれを借り受けることとし、Aと控訴人の法定代理人Iとの間に、控訴人はAから無利息で金五〇万円を借り受け、右金員は同年三月三一日限り返済すべく、若し、期限に返済しない時は右Aにおいて控訴人が買い受けた別紙目録一の(一)、(二)の土地を自由に処分し得る旨の契約を締結し、Aはその頃Iを伴つてCの代理人であつたFを訪れ同人に対し前記売買代金残金五〇万円を支払つて別紙目録三の(一)、(二)の土地についての権利証の手交を受けた。
(四) Aは測量士Dに依頼し、現地を測量し、公図その他の資料と照合して調査させたところ、本件土地は横浜市a区bc番のdの一部であり、別紙目録一の(二)の土地は同番の四の土地であり、別紙目録三の(一)、(二)の土地は本件土地の北側の隣地の一部であることが確定的に明らかとなつたので当時、その旨控訴人の父母に知らせた。
(五) 一方控訴人は、買受直後、別紙目録一の(一)、(二)の土地上に本件家屋の建築を開始し、昭和三六年七月末までに完成して同年八月一〇日付をもつて横浜市a区e町f番のgを所在地として本件家屋の保存登記手続をした。 (六) ところで、Aは控訴人が約定の期限に前記金五〇万円の返済をせず、その後再三の請求にも応じないので、控訴人のため別紙目録一の(一)、(二)の土地につき分筆をすること及び所有権移転登記手続をとることを留保していたが昭和四一年四月六日付書面をもつて、控訴人の父Eを介し、控訴人に対し前認定の担保契約に基づき、別紙目録一の(一)、(二)の土地を自己の所有に帰せしめ、他に転売する旨通告し、右書面は同月九日頃控訴人に到達した。Aはその直後頃Bとの間で同人に右土地を売り渡す旨の契約を締結した。
(七) Bは昭和四一年四月一五日被控訴人との間で同人に対し別紙目録一の(一)、(二)の土地と本件家屋とを一括して代金合計金三五〇万円で売り渡す旨の契約を締結し、被控訴人は右代金内金二五〇万円を支払い、右土地の所有権の移転を受けた。本件土地の登記については昭和四一年四月二二日付をもつて横浜市a区e町f番のgから分筆されて同番の七となつた旨の分筆登記と同時に、Aから被控訴人が昭和四一年四月一五日売買により所有権の移転を受けた旨の所有権移転登記(中間省略登記)が経由されている。
三、 ところで控訴人とA間に昭和三五年三月一〇日成立した右認定の契約は、右認定のその他の事実関係とくにAが被担保債権の弁済期経過後も右土地を当然自己の所有に帰したような態度を示さず、なほ、前項(六)に認定したとおり書面により右土地を転売する旨通告したことに鑑みると、弁済期に債務の支払がないことを予約完結権行使の条件とした代物弁済予約と解するのが相当である。また、右契約及び同時に締結された金五〇万円の消費貸借契約について直接交渉に当つたのは控訴人の母Iであるが右認定の事実と弁論の全趣旨を総合すれば控訴人の父Eも交渉の経過につき逐一報告を受け両名共同して右契約締結の意思決定をしたか、または、Eがこの件につきIに全権を委任したか何れかを推認するのが相当であるから、右各契約の締結につき控訴人は適法に代理されていたと認めるべく、本件土地の所有権は前示代物弁済予約完結の意思表示を含むと認められる昭和四一年四月六日付書面が控訴人に到達したことにより控訴人からAに移転し、その後さらに前認定のとおり同人からBへ、Bから被控訴人への各売渡によつて順次移転して被控訴人に帰したというべきである。

また、本件土地の地番については前記認定のとおり、調査の結果横浜市a区e町f番のgの一部であることが判明し、右土地から分筆登記手続により同番の七の地番が与えられたのであるから、被控訴人主張のと騎りの地番であり、よつて、被控訴人は本件土地につき登記を有する所有者というべきである(当審証人Jの証言により真正に成立したと認めうる乙第三号証の一、二、前掲証人Eの証言により真正に成立したと認める乙第四号証、成立に争いのない乙第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認めうる乙第三四号証、前掲証人J及びEの各供述も前記認定及び判断を左右するものではない。)。
四、 そこで控訴人の抗弁(3)及び本件請求の当否等について判断する(被控訴人は右抗弁に対し異議を述べているが、権利乱用の抗弁というものは、その内容をなす具体的事実が当事者の主張立証のうちに含まれ、すでに訴訟資料として提出されている時は、特に抗弁としての十分な法的構成を待つまでもなく裁判所は権利乱用に該当するか否かの判断をなしうるものである上に、本件においては右抗弁が特に時機に後れて提出されたと解し又は訴訟を遅延せしめると認めるべき資料もないから右異議は理由なしとして却下する。)。
<要旨>先に認定した代物弁済予約契約締結当時控訴人は本件土地を含む前記五〇坪上に本件家屋を建築して住居として使用中であつたこと(この事実は本件家屋の保存登記が昭和三六年八月一〇日付でなされていること及び弁論の全趣旨により推認しうる。)、控訴人が代金一二五万円で買い求め、既にうち七五万円を支払つた土地を三ケ月余り後に代金の半分にも足りない金五〇万円の債務のために代物弁済の予約を締結したこと、被担保債権である貸金五〇万円の返済期を過ぎたまま控訴人が引き続き本件土地の上に建設した本件家屋に居住を継続したにも拘らず、そのこと自体につきAは控訴人に対し何の苦情も申し入れず、直ちに本件土地を転売する等の強硬手段に出ることなく、ただ、前記金五〇万円の返済の催促をするだけであつたこと及びAが控訴人に金五〇万円を貸与したのは、本件土地及びその北隣の土地の分譲を行つた原所有者としての責任上、早くこれら土地につき正しい地番を確定して各買主のため所有権移転登記を完了する必要があつたためであつて、これを機会に控訴人から土地を取り上げたり、暴利を貪つたりする目的があつたわけではないこと(以上の事実中前記認定の事実以外の事実は弁論の全趣旨によりこれらを認めることができ、この認定を左右する証拠はない。)を総合して考察すると、Aと前認定の代物弁済予約契約締結の衝に当つたIとの間においては、控訴人が本件土地及び別紙目録一の(二)の土地につきAの予約完結権の行使により所有権を失う場合は控訴人は本件家屋を収去して土地を明渡すのではなく右土地に対し、控訴人のため引続き建物所有を可能ならしめる使用権を設定することを暗黙のうちに予定していたと解するのが相当である(このことは土地及びその地上の建物が同一の所有者に属する場合において土地のみについて抵当権が設定されたときのいわゆる法定地上権設定と相通ずるものであり、控訴人の父母は当時五〇万円の返済ができない時は本件土地の使用権も失うというような危険な契約をする筈がない。)。そうすると、Aが前記代物弁済の予約完結権の行使によつて右土地の所有権を取得してもそれは右のような一種の負担付きであつたということができる。(本件家屋については前記のとおり昭和三六年八月一〇日付で保存登記が経由されているのであるから控訴人が本件土地に借地権を有するときはその後本件土地所有権を取得した被控訴人に対し右借地権を対抗しうる道理であることが考え合わせられる。)。ところで、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は本件家屋が控訴人の所有であることをBから知らされ、しかも、本件土地上に本件家屋が存在し、控訴人及びその父母が居住しているに拘らず、現場まで調査に行きながら、控訴人又はその父母に面接して本件土地家屋の権利関係及びその基礎となる過去の事実関係、立退の意思の有無等につき尋ねることもしないまま、漫然控訴人を立退かせて自らこれを使用する目的でBから本件土地等及び本件家屋を買い受ける契約を締結したことを認定することができ、この認定を左右する証拠はない。 以上の事実関係とくに被控訴人は控訴人が平穏に居住している事実を現認し、かつ、本件家屋は控訴人の所有であると知りながら、敢えてその居住者に立退きを求めて自ら使用する目的でこれを買い受ける契約を締結し、(従つて本件家屋の所有権はそのままでは被控訴人に移転する筈がない。)、しかも右買受価格は時価より相当低額である事実(このことは本件土地を含む前記五〇坪の土地を昭和三五年一二月に買い受けた価格が金一二五万円であつたことと、被控訴人が右土地と本件家屋とを合せて昭和四一年四月金三五〇万円で買い受ける契約を締結している事実とを対比し、その間における大都市近郊の地価の値上りの状況を総合して考察すれば
自ら明らかである。)及び控訴人が本件土地を嘗て所有し、現に引続き使用し前所有者に対しては当然使用権を主張しうるという事実関係においてその生活の本拠としての住居を営みつつあることに鑑みれば、投機や投資等を目的とする権利関係の場合と異り、取引社会を支配する自由競争の原理は後退し、各自が生活の平穏を尊重する協力・互譲の精神が法律上も重要な意味を持つてくるというべきであり、控訴人に対し本件家屋を収去して本件土地を明け渡すべきことを求める被控訴人の所有権に基づく本訴請求は、著しく信義誠実の原則に反し、権利の乱用に該当するから棄却すべきであり、これを認容した原判決は取消を免れない。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九六条及び八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 裁判官 兼子徹夫)別紙
目 録 一(後記土地はいずれも昭和三五年一二月以来現況宅地である。)
(一) 別紙図面(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)及び(ロ)を順次直線で結ぶ線に囲まれた土地
(二) 同(ホ)、(リ)、(ヌ)、(ヘ)及び(ホ)を順次直線で結ぶ線に囲まれた土地
目 録 二
(一) 横浜市a区e町f番i
宅地 一四五・五平方メートル
(二) 横浜市a区bc番のh
畑 六坪
目 録 三
(一) 横浜市a区e町f番のj
畑 一畝一四歩
(二) 同町 k番のl
宅地 六坪
目 録 四
横浜市a区e町f番のi所在
(登記簿上の所在地同町f番地g)
家屋番号 同町m番n
木造瓦葺二階建居宅 一階 一八・七五坪
二階 一三・七五坪
別 紙
<記載内容は末尾1添付>

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