判例検索β > 昭和48年(ネ)第188号
土地所有権確認請求事件
事件番号昭和48(ネ)188
事件名土地所有権確認請求事件
裁判年月日昭和50年11月6日
法廷名名古屋高等裁判所
判例集等巻・号・頁第28巻4号339頁
判示事項民法施行前に創立された神社(郷社)が権利能力なき主体であると認められた事例
裁判要旨民法施行前に創立された神社(郷社)が人的要素として礼拝の目的をもつて集合した組織体たる氏子集団と、物的要素として固有の財産たる礼拝施設とより成り立ち、その管理運営の機構を備えていた以上、当時において(宗教法人令によリ法人格を取得する以前)すでに権利能力なき組織体(財団と社団のいずれの性質をも備えている実在人)として独立の存在であつたといえる。
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主 文
一、 原判決中、控訴人と別紙当事者目録記載の被控訴人らとに関する部分を取消す。
二、 別紙物件目録記載の土地は控訴人の所有であることを確認する。 三、 訴訟費用中、第一項記載の当事者に関する部分は、第一、二審とも同項記載の被控訴人らの負担とする。
事 実
一、 当事者の申立
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、別紙当事者目録記載の被控訴人ら(以下、単に被控訴人らという。)訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二、 当事者の主張並びに証拠の関係
次に訂正・付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 訂正部分
(一) 原判決二枚目表一行目に「本件土地」とあるのを、「別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)の従前地(1)の土地(以下、単に従前地(1)の土地という。)」と訂正する。
(二) 原判決二枚目表四行目に「右土地」とあるのと、原判決三枚目裏五行目及び一〇行目に「本件土地」とあるのとを、それぞれ「従前地(1)の土地」と訂正する。
2 控訴代理人の主張
(一) 仮に宗教法人法施行前の控訴人天王神社(以下、単に天王神社という。)が権利能力なき財団とは認められないとしても、天王神社は権利能力なき社団であつた。即ち、天王神社の氏子は当時の岐阜県稲葉郡a村bにあつたb部落とc部落の全住民から構成されていたが、天王神社は権利能力なき社団たる右氏子集団の総有財産であつて、その管理運営は右氏子集団が慣習的に行なつていたものである。
(二) 従前地の(1)の土地は、右氏子らが明治二〇年上半期頃亡Aから買受けて、天王神社の境内地として寄進したものである。そして、昭和二八年岐阜市b土地改良区による土地改良事業が施行された際、同土地改良区は、昭和四四年八月二八日換地処分に当たり、従前地(1)の土地は天王神社の所有地として、別に余剰地であつた別紙物件目録記載の従前地(2)の土地(以下、単に従前地(2)の土地という。)一筆を天王神社に帰属させたうえ、地積を増歩した。 (三) 昭和二四年四月調べの県社以下神社調べ(甲第七号証の一)によれば、天王神社の鎮座地には稲荷神社のように「個人持」なる記載はないが、このことは、右当時従前地(1)の土地が個人所有地として処理されず、神社所有地として処理されていたことを裏付けている。
また、前記土地改良事業の際、従前地(1)の土地の地積は増歩となつたが、これが個人所有地であつたならば当然減歩されるところであつたし、従前地(1)の土地が天王神社の所有地であつたからこそ、右土地改良区は被控訴人らに土地改良の賦課金を課していない。そして、これらの処理につき被控訴人らから何らの異議も出ていない。
(四) 原判決は、天王神社が、(イ)神社台帳(甲第二号証)には基本財産がない旨記載され、(ロ)神社明細帳(乙第一号証)には境内地は民有地であると記載され、(ハ)財産目録(乙第二号証)には基本財産は社殿三棟のみであると記載され、(二)法人格取得後も本件土地につき所有権取得登記をなさなかつた等の事実をあげて、天王神社は法人格取得の前後を通じ所有の意思をもつて本件土地を使用しできたものではないと認定している。
しかし、右(イ)については、神社台帳にいう基本財産とは現金、預金のみをさすもので土地は含まれていなく、かえつて同台帳には境内地七〇坪と記載されており、天王神社に境内地があることは明らかであり、右(ロ)については、民有地とは官有地ではないというだけの意味であつて、必ずしも個人所有地を意味するものではないし、右(ハ)については、財産目録に基本財産として境内地五五坪と記載されており、基本財産が社殿三棟のみであると判断したのは誤りであり、右(二)については、本件土地を処分する必要がなかつたことと、国から神社地を奪われることのないように形式的に部落の有力者名にし、かつ、右有力者個人の恣意的処分を防止するため三名の共有名義とし、さらに神社代表者の恣意的処分を防止するた
め神社名義に登記されなかつたものであるから、天王神社が所有の意思をもつて本件土地を自主占有しできたことは明らかである。
(五) 原判決は、境内地の面積は神社台帳には七〇坪、神社明細帳及び神社財産目録にはいずれも五五坪と記載されており、天王神社は従前地(1)の土地全体を境内地として使用していなかつたことが推認されると認定しているが、これらの記載は正確なものではなく、登記のなかつた従前地(1)の土地について目安で坪数を推察したにすぎないから、登記簿の面積と一致しないことをもつて右のように推認するのは独断である。天王神社の境内地は前記換地処分の前後により位置関係は異なるが、天王神社は本件土地の全部を境内地として自主占有しできたものである。
3 被控訴代理人の主張
(一) 天王神社の氏子がb部落とc部落の全住民によつて構成され、天王神社が右氏子集団によつて慣習的に管理運営されていたとの控訴人の主張は争う。 (二) 控訴人は天王神社は法人格取得以前は従前地(1)の土地について神社名義に登記し得なかつたというが、天王神社と同格の他の神社で登記を経由しているものがあるし、法人格取得後は登記をするのに障害はなかつたのに本訴提起までの長期間にわたり何らの登記もなされず、かえつて、神社台帳、法人登記簿謄本等によれば、天王神社の本件土地の占有は他主占有であることがわかる。 4 証拠(省略)
理 由
一、 成立に争いのない甲第一ないし第四号証、乙第一、第二号証天王神社の写真であることに争いのない甲第八号証の一ないし五、乙第三号証の一、二、当審証人Bの証言によつて成立の認められる甲第五、第六号証の各一、二、当審証人Cの証言によつて成立の認められる甲第七号証の一ないし三、原審証人D、当審証人C、原審及び当審証人Bの各証言を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する原審証人E、原審における被控訴本人F、当審における被控訴本人Gの供述部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 天王神社の創立年月日は不詳であるが、江戸時代に当時の岐阜県稲葉郡a村bに境内地及び境内建物を有する神社として創立された。氏子は同村b部落とc部落の全住民であり、神社の管理運営はb部落から一名、c部落から二名選出される氏子総代と両部落の部落集会により慣習的に行なわれ、神社祭礼費等の経費は氏子においてきよ出していた。
2 ところで、天王神社の旧境内地は河川の近くにあつて水害を受けたため、明治二〇年上半期に、氏子は、神社移転を計画し、訴外亡Aから本件土地の従前地(1)の土地(町名は現町名)を買取り、これを天王神社に寄進し、地方長官の許可を受けて従前地(1)の土地に境内地及び境内建物を移した。天王神社の現況は境内地に本殿及び拝殿があり、これを中心に鳥居や夜灯が置かれている。 3 天王神社は、宗教法人令(昭和二〇年一二月二八日勅令第七一九号)を改正する昭和二一年二月一日勅令第七〇号の施行により、同勅令付則二項に規定する「本令施行の際現に地方長官の保管に係る神社明細帳に記載せられたる神社」として宗教法人令による法人とみなされ、右付則三項の規定による届出がなされたことにより、地方長官の嘱託に基づき宗教法人として昭和二一年八月一五日設立登記がなされ、宗教法人令の規定により一人の主管者と三名の氏子総代が置かれてその業務運営がなされできた。次いで、天王神社は、宗教法人法により宗教法人として昭和二七年八月五日設立登記がなされ、同法の規定により責任社員四名、うち代表社員一名によつてその業務運営がなされている。
4 しかして、この間、境内地である従前地(1)の土地は天王神社固有の財産として管理されできており、宗教法人法施行の際には境内地は基本財産として神社財産目録(乙第二号証)に記載されたが、その所有名義は、氏子が亡Aから買受けた当時より法人格の取得後も通じて、土地台帳上は右買受当時の部落有力者で氏子総代をしていた亡H、亡A、亡Iの共有名義にされ、登記簿上は未登記のままに経過した。そして、岐阜市b土地改良区は、昭和四四年八月二八日土地改良事業による換地処分に当たり、従前地(1)の土地を天王神社の所有地として、別に区画整理上の余剰地である従前地(2)の土地を天王神社に帰属させたうえ、地積を増歩した。
5 もつとも、神社台帳(甲第二号証)には天王神社の基本財産はなしと記載されているが、ここにいう基本財産とは昭和二六年四月三日宗教法人法施行前の取扱いによるもので、現金のほか、山林、田地などの収益を得ることのできる財産を意
味し、境内地を含めていないものである(宗教法人法施行後は境内地も基本財産に含まれることになつた。)。また、神社明細帳(乙第一号証)及び県社以下神社調べ(乙第七号証の一)には天王神社の境内地は民有地と記載されているが、これは官有地に対する意味として使用されているもので、国から払下げを受けたものではないという意味であり、神社財産目録(乙第二号証)には天王神社の境内地の時価が計上されていないが、これは前記のように境内地が神社名になつていないので記載されなかつたものである。さらに、本件土地の従前地(1)の土地は九七坪(三二〇・六六平方メートル)であつたところ、神社台帳には七〇坪と記載され、神社明細帳及び神社財産目録にはいずれも五五坪と記載されているが、これらはいずれも従前地(1)の土地の地積を正確に調査把握していなかつたからである。 <要旨>二、 右認定の事実によると、天王神社は、社会的実体としては、設立当初より、人的要素として礼拝の目的をもつて集合した組織体たる氏子集団と、物的要素として固有の財産たる礼拝施設とより成り立ち、また、その管理運営の機構を備えていたものであるから、一つの権利能力なき組織体(控訴人はこれを財団もしくは社団であるというが、そのいずれの性質をも備えている実在人とみるのが相当である。)として独立の存在であつたといえるし、かかる実体は法人格取得後も従前と変わりなく、同一の主体として存続しているものである。そして、従前地(1)の土地は天王神社が民法施行前の権利能力なき実在人であつた当時に神社運営の必要上氏子から寄進されて民法施行後の所有権と同内容の包括的支配権を取得したものであるから、右支配権は民法施行法三六条により民法施行の日より民法に定める所有権としての効力を有している。それ故、その所有権は天王神社が法人格を有するに至つた後も当然に天王神社に帰属しているものである。従つてまた、従前地(1)の土地と前記土地改良事業に基づき天王神社に帰属することとなつた従前地(2)の土地との換地である本件土地が天王神社の所有であることは明らかである。
三、 そうすると、控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであるから、これと異なる原判決は不当として取消し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 植村秀三 裁判官 西川重長 裁判官 寺本栄一)別紙
物 件 目 録
岐阜市大字b字de番
一、宅 地 四九八・三九平方メートル
(従前地)
(1) 岐阜市大字b字df番のg
一、宅地 九六坪(三二〇・六六平方メートル)
(2) 同 字df番のh
一、宅地 三坪(九・九平方メートル)

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