判例検索β > 昭和49年(ラ)第32号
審判に対する即時抗告事件
事件番号昭和49(ラ)32
事件名審判に対する即時抗告事件
裁判年月日昭和49年7月3日
法廷名名古屋高等裁判所
判例集等巻・号・頁第27巻3号231頁
判示事項民法七八七条の認知の訴えの出訴期間を経過して提起された父子関係存在確認の訴えを認容する確定判決に基づく戸籍訂正の許否
裁判要旨嫡出でない子が、父が死亡してから三年以上経過した後検察官を被告とする父子関係存在確認の訴えを提起し、勝訴の確定判決を得たとしても、右判決は法律上の父子関係を形成する効力を有しないから、これに基づき戸籍訂正の手続によつて戸籍の父欄の記載をすることは許されない。
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主 文
原審判を取り消す。
本件不服の申立を却下する。
手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。
理 由
抗告人指定代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙抗告理由書記載のとおりである。
一 現行民法上嫡出でない子とその父との関係は、父が任意にその子を認知し、または、子、その直系卑属などから父に対して提起された認知の訴に対し勝訴判決がなされることによつてのみ創設され、両者の間にいかに自然的・生理的父子関係があつても、これによつてただちに法律上の父子関係が発生するものではない。この理は、内縁の夫婦から生れた子についても、これが嫡出でない子である以上ひとしく妥当するのであつて、ただ内縁関係が婚姻に準ずる実体を有するものであることから、内縁中に懐胎され父母婚姻後に出生した子に対しては嫡出子たる身分が与えられ、内縁の妻が内縁関係成立の日から二〇〇日後、解消の日から三〇〇日以内に分娩した子の認知の裁判においては、民法七七二条を類推して内縁の夫の子と推定される等の保護が与えられるにとどまり、内縁関係から生れた子はその父母が婚姻した場合でさえ父の認知がない限り準正されないことからみても明らかなように、自然的・生理的の父子関係が確実であつても、父の認知なくしては法律上父子関係の成立は認められないのである。そして、民法七八七条は、父の死亡後は、認知の訴を父死亡の日から三年間に限つて提起することを認めているから(ただし、認知の訴の特例に関する法律によるべき場合は別論であるが、本件は右法律によるべき場合にあたらないこと明らかである。)、右期間の経過後は、嫡出でない子とその父との間に法律上父子関係を発生させる途は現行法上存在しないのである。 <要旨>本件仙台地方裁判所の親子関係存在確認請求事件の判決は、相手方がその父であると主張するAが昭和二〇年一月二七日死亡した後民法七八七条に定める三年の期間をはるかに経過した昭和四七年に提起された相手方の訴を認容し、その主文において相手方が右Aであることを確認したものである。したがつて、右判決は、その事件名や主文の文言からみても、また、同裁判所が相手方の主張自体から民法七八七条の出訴期間経過後の訴であることが明白であるのにこれを却下しなかつたことからみても、民法七八七条に定める認知の訴に対する判決ではなく、右判決が確定しても認知の効力が生じないことは明らかである。そして、このことは右判決の主文の内容が相手方とAとの間の父子関係を確認していることによつては何ら妨げられるものではない。
このように見てくると、右親子関係存在確認事件の判決は、いわば自然的・生理的父子関係の存在を確認したものにすぎず、認知の裁判に代わり得る効力を有しないものというべきである。これに反する見解は民法七八七条を全く無視することとなり、到底採用することができない。
二 ところで、相手方は、その父の認知がなかつたため、戸籍父母欄中父欄が空白であつたところ、昭和四八年六月二一日抗告人区長に対し、前記仙台地方裁判所の確定判決を添付のうえ、右父欄に前記Aを父として記載することを求める旨の戸籍訂正の申請をなしたのである。右申請は戸籍法一一六条に基くものと認められる。
<要旨>しかしながら、戸籍の訂正は、戸籍の記載が当初から不適法または真実に反し、あるいはその記載に遺漏がある場合になされるものであるところ、相手方の戸籍には何ら訂正せらるべき箇所は存在しない。けだし、相手方の戸籍中父欄の記載が空白になつていることは、これまで相手方の父の認知または認知の裁判に基く届出がなかつたからに外ならず、前述したように認知がなければ嫡出でない子とその父との父子関係は生じないから、右記載の空白はまさに法律上正しい状態を反映しているものだからである。
また、身分関係が一定の事実または行為によって変更消滅する場合には、戸籍訂正の手続によるべきではなく、戸籍法第四章所定のそれぞれの届出によつて戸籍の記載をなすべきであるから、嫡出でない子とその父との間に父子関係が創設されたときは、前記戸籍法第四章のうち第三節に収める認知届出の各規定に従い届出をなし、これにより父欄の記載をなすべきものであり、戸籍訂正の方法によることは許されないのである。相手方は最高裁判所昭和四五年七月一五日言渡大法廷判決は、相手方のなした前記のごとき戸籍訂正の申請により嫡出でない子の戸籍の父欄への記入をしでも差支えないとの取扱を認める趣旨であると主張するが、当裁判所は該
判決はその事案において本件と異なり、また、相手方主張のような趣旨を含んでいるものとは考えないので、右主張は採用しない。
三 しかして、戸籍事務管掌者たる抗告人区長の権限は、戸籍の届出ないし訂正の申請の受理につき、その審査の方法が届書及びその添付書類並に戸籍簿等に限定されることはいうまでもないところであるが、その審査の対象については、届書における記載事項の具備、法令に要求された証明書の添付等形式的要件の審査をなしうるにとどまらず、民法七四〇条、七六五条、八〇〇条、八二二条等の各規定からも窺知しうるがごとく、ある程度の実質的要件の存否の審査もこれをなしうるのであり、ことに、届出事項が虚偽なることまたは実体法規に牴触しためにその効力を生ぜざることの明らかな場合には戸籍の記載を拒否することができるものと解されるのである。本件についてこれを見るに、相手方は、実体法上認知の裁判としての効力を有せざる前記仙台地方裁判所の判決をえたうえ、戸籍上何ら遺漏なきにかかわらず、認知届以外に途なき父欄の記入を戸籍訂正手続により達成しようとして前記申請をなしているに外ならないから、この申請を受理するにおいては実体法規に牴触し無効なることの明白な記載を戸籍上に現出することになるといわざるをえない。しかも、相手方の右戸籍訂正申請の許すべからざることは、相手方の提出した戸籍訂正申請書、その添付書類並びに戸籍簿により明白な場合であるといわなければならない。してみれば、抗告人区長としては、相手方の本件戸籍訂正申請を受理することができないものである。
四 以上説示のとおりであつて、抗告人区長が本件戸籍訂正申請を受理しない処分をしたことは相当であり、本件抗告は理由がある。よって、原審判は不当であるからこれを取り消し、相手方の本件不服申立を却下することとし、民訴法四一四条、三八六条、八九条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 吉川清 裁判官 川端浩)<記載内容は末尾1添付>

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