判例検索β > 平成17年(わ)第4842号
住居侵入、強盗殺人、鉄砲刀剣類所持等取締法、強盗、窃盗被告事件
事件番号平成17(わ)4842
事件名住居侵入,強盗殺人,鉄砲刀剣類所持等取締法,強盗,窃盗被告事件
裁判年月日平成18年11月2日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2006-11-02
情報公開日2017-10-13 01:39:16
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主文
被告人を死刑に処する
押収してある果物ナイフ1本(平成17年押第465号の1)を没収する。理由
(犯罪事実第1の犯行に至る経緯)
被告人は,前刑仮出所後の昭和57年ころ,現在の内妻であるAと出会い,以後平成13年ころまで,同女と共に,大阪府,兵庫県,和歌山県のパチンコ店等で住み込みで働くなどして生活していた。
平成13年11月ころ,被告人は,岐阜県羽島郡(以下略)所在の有限会社BのC営業所で新聞勧誘員(新聞販売拡張員)として稼働し,同町内のアパート等でAと共に生活するようになったものの,平成15年11月ころから,以前にもよくしていたパチンコをするようになり,平成16年夏過ぎころからは,パチスロにのめり込んでそれに時間を費やすようになったために仕事の実績が伸びず,歩合制による給料が減っていった。そのため,被告人は,パチスロの資金や生活費等に窮し,同年10月には給料から4回にわたって合計16万円の前借りをするようになり,平成17年1月ころからは,自身のアパートの大家や同営業所の元同僚からも借入れをするようになった。そして,被告人は,取引先関係者からの借入れを禁止されていたにもかかわらず,同年4月9日,取引先の新聞販売所所長から,返済期限を同年5月2日として3万円を借り受けたが,その返済資金の目途が立たなかったため,前刑以前に繰り返していた空き巣をするしかないと考えるに至った。そこで,被告人は,同年4月10日ないし同月12日ころ,その犯行道具として,バール,手袋を購入し,また,家人に発見されても脅して逃げられるようにするため,果物ナイフ(平成17年押第465号の1,以下本件ナイフという。)を購入し,その後,新聞勧誘の仕事をするかたわら,空き巣に適する家を探すなどしたが,Aの存在等から,警察に捕まるのが怖くて,犯行に踏み切れないでいた。しかるところ,被告人は,同月17日の給料日に支給される給料で前記新聞販売所所長らに借
金を返済しようと考えていたが,支給された給料の手取額が予想を下回っていたため,同所長への返済資金が捻出できず,同月23日,2万円を前借りしたものの,それも結局パチスロ等で費消してしまった。
そのため,被告人としては,どうしても金を工面しなければならない状況に陥り,同月27日,手提げカバン(同号の2)に,本件ナイフ,バール,手袋等を入れて出勤し,その日の新聞勧誘の担当地域である同県揖斐郡(以下略)に向かい,同日午後1時前ころ,同地区で送迎の車を降り,新聞勧誘を行いつつ,空き巣に適する留守宅を探していたところ,後記D方を発見して,留守であれば侵入することを決めた。
被告人は,新聞勧誘を装い,同女方玄関先の呼び鈴を数度押し,玄関扉を叩いたりしながら,

ごめんください。

などと呼びかけ,玄関左手の引き戸も叩いて同様に呼びかけるなどした。家人が応対に出なかったことなどから,留守であろうと考えたが,念のために,玄関右横にある東側和室の南側掃出し窓の方に行くと,その窓が数センチメートル開いていたので,留守かどうかを確認するため,それを更に開けて,

こんにちは。

などと呼びかけた。しかし,それでも家人が応対に出なかったことから,被告人は,玄関先通路で家人が帰宅してこないかどうかを確認した後,侵入を決意し,前記掃出し窓の前に戻った。
(犯罪事実第1〔岐阜事件という。〕)
被告人は,金品窃取の目的で,平成17年4月27日午後3時ころ,岐阜県揖斐郡(以下略)所在のD方東側和室の南側掃出し窓から同女方に侵入して金品を物色中,D(当時57歳)に発見されるや,同女から金員を強取しようと企て,同女の両上腕を強くつかむなどの暴行を加え,

静かにせえ。金を出せ。

などと語気鋭く申し向けて同女を脅迫し,その反抗を抑圧した上,同女から,同女管理の現金1万5000円在中の封筒1通を強取し,その際,同女が助けを求めようとしたことから,犯罪が発覚するのをおそれ,同女方1階居間において,同女が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,同女の背後からその首に腕を回して
頚部を強く絞め,さらに,床上に仰向けに倒れた同女が頭部を少し起こすような動作をしたことなどから,同女を殺害しようと決意し,同所において,殺意をもって,仰向けに倒れた同女の身体に馬乗りになってその頚部を両手で扼し,よって,そのころ,同所において,同女を窒息死させて殺害した。
(犯罪事実第2の犯行に至る経緯)
被告人は,岐阜事件の翌々日である平成17年4月29日朝,新聞でその犯人の服装等がかなり詳細に報じられたため,自身が犯人として特定されることなどを懸念して岐阜を離れることとし,Aには

会社が傾いていて,給料がもらえない。大阪に行って仕事を見つけるから,今すぐ大阪に行こう。

などとうそを言って説得し,前記大家から金員を借り受けるなどした上で,同日中に,Aと共に,高速バスに乗って,大阪に移動した。
被告人は,その後,ビジネスホテル等に泊まりながら就職先を探したが見つからず,ホテルの宿泊代金や食費,パチンコ代等のため所持金が徐々に乏しくなり,同年5月6日ころからは,再び空き巣に入る家を物色するようになった。そして,被告人は,同月11日に至り,所持金がほとんど底をついたため空き巣をして金銭を得ようと考え,同日午前11時過ぎ,Aを漫画喫茶に連れて行き,同女にはそこで待機するように指示をした上,本件ナイフ,バール,手袋等が在中している前記手提げカバンを持ち,同日午後零時前ころ,京阪電鉄のE駅付近で空き巣に適する家を探し歩いたが見つからなかった。そのため,被告人は次第に焦りを感じ,同日午後3時過ぎころ,後記マンションF付近において,確実に金を手に入れるためには本件ナイフを使用して強盗を行うしかないものと意を決した。そこで,被告人は,Fの向かい側のマンションにおいて,新聞勧誘員を装って強盗を行う部屋を探していたところ,妊婦が応対した部屋もあり,そこでは強盗をすることには気が引けたため,新聞勧誘の話をしたのみでその場を辞し,また,同マンションには空き家や留守宅が多かったことから,同マンションを出てFに入った。Fでは,その最上階から強盗を行う部屋を探していき,同日午後3
時30分ころ,a号室のG方に至り,その玄関チャイムを鳴らした。すると,在宅していた同人の内妻Hが応対したため,被告人は,同女に新聞勧誘の話をするなどしたが,同女が多弁で会話が途切れなかったことや,その態度がしっかりとしていたため,同女を相手に強盗を行うのは難しいと考えた。そのため,いったんその場を辞したものの,付近の公園等で思い悩んだ挙げ句,どうしても金が欲しいなどという気持ちから,再度,G方で強盗を行うことを決意した。
被告人は,Fに入り,G方に向かって階段を上がる途中,本件ナイフを前記手提げカバンから取り出し,刃を鞘から少し抜いた状態で上着の左側内ポケットに忍ばせ,G方の玄関チャイムを鳴らした。
(犯罪事実第2〔大阪事件という。〕)
被告人は,生活費に窮したことから,民家に立ち入って家人から金員を強取しようと企て,平成17年5月11日午後4時20分ころ,新聞勧誘員を装い,大阪市(以下略)所在のマンションFa号室のG方を訪問して同人方玄関内に侵入し,そのころ,同所において,応対に出たH(当時45歳)に対し,所携の本件ナイフ(刃体の長さ約10.5センチメートル)をその首筋に突き付け,

静かにしろ。金を出せ。

と申し向け,その反抗を抑圧して同女から金員を強取しようとしたところ,同女に腕をつかまれるなどして抵抗されたため,同女を殺害して金員を強取しようと決意し,同玄関内及び同玄関前において,殺意をもって,本件ナイフで同女の腹部及び胸部等を多数回突き刺し,そのころ,同玄関前において,同女を左胸部刺創による出血により失血死させて殺害したが,その間,同女に身体をつかまれるとともに,助けを求める叫び声を上げられたため,そのままその場から逃走し,金員強取の目的を遂げなかった。
(犯罪事実第3)
被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記犯罪事実第2記載の日時ころ,同記載のG方において,刃体の長さが6センチメートルをこえる同記載の本件ナイフ1本を携帯した。

(犯罪事実第4〔京都強盗事件という。〕)
被告人は,生活費に窮したことから,民家に立ち入って家人から金員を強取しようと企て,平成17年5月12日午後4時ころ,新聞勧誘員を装い,京都市(以下略)所在のI方を訪問して玄関から同女方内に侵入し,そのころ,同所において,応対に出た同女(当時81歳)に対し,所携の本件ナイフをその胸元に突き付け,「金,出せ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金約500円を強取した。
(犯罪事実第5〔犯罪事実第6と併せて京都窃盗事件という。〕)被告人は,金品窃取の目的で,平成17年5月13日午前11時ころ,同市(以下略)所在のJ方に,同人方1階応接間南側掃出し窓の施錠を外して侵入し,同人方において,同人管理の現金約1000円在中の小銭入れ1個(時価100円相当)を窃取した。
(犯罪事実第6)
被告人は,金品窃取の目的で,平成17年5月21日午後2時ころ,京都府京田辺市(以下略)所在のK方に,同人方1階客間南側掃出し窓の施錠を外して侵入し,同人方において,同人所有又は管理の現金約5万1000円,国民健康保険被保険者証1通(K名義)及び財布1個(時価1000円相当)を窃取した。(証拠の標目)省略
(争点に対する判断)
第1

弁護人の主張(争点)
弁護人は,(1)判示第1の事実(岐阜事件)について,被告人に被害者Dに対する殺意が生じたのは,床上に仰向けに倒れたDの身体に馬乗りになって頚部を両手で扼した時点であり,その前の,Dの背後からその首に腕を回して頚部を絞めた行為は,Dを黙らせて逮捕を免れるための制圧行為にすぎず,その時点では殺意はなかった,(2)判示第2の事実(大阪事件)について,被告人に被害者Hに対する殺意が生じたのは,G方玄関前でHの胸部等を本件ナイフ
で刺した時点であり,その前の,G方玄関内での刺突行為は,Hの抵抗を排除して逮捕を免れるための制圧行為にすぎず,その時点では殺意はなかった旨主張して,いずれの事件についても殺意の発生時期を争い,さらに,(3)判示第4の事実(京都強盗事件)については,刑法42条1項の自首が成立する旨主張し,被告人も,(1)(3)に沿う供述をしている。
そこで,以下,(1)岐阜事件における殺意の発生時期,(2)大阪事件における殺意の発生時期及び(3)京都強盗事件についての自首の成否について検討する。第2
1
当裁判所の判断
岐阜事件における殺意の発生時期について(争点(1))
(1)

被告人の捜査段階供述及び公判供述並びに医師K作成の鑑定書及び同人
の検察官調書等の関係証拠によれば,被告人がDの頚部を絞めるに至った経緯,動機及びその際の状況等は,被告人がDから現金在中の封筒を強取した後,これを上着のポケットに入れようとした際,Dが被告人の手を振りほどいて,

誰か助けて,お父さん。

などと叫びながら逃げ出そうとしたため,Dを捕まえて黙らせようと思い,Dを追いかけ,判示の1階居間において,その背後から右手でその口を塞ぎ,左手をその首に回してDを捕まえ,さらに,Dの首に回した左腕を右腕の肘の内側に置いて,右肘関節を中心として内側に折り曲げるようにしてしばらくの間その頚部を強く絞め,Dが暴れるなどしなくなってから,ようやく頚部を絞めるのをやめたが(以下第1の首絞め行為という。),Dが死亡したかもしれないと思ってその場から逃げようとしたところ,Dが少し頭を持ち上げるような動作をしたことなどから,直ちに,床上に仰向けに倒れていたDの身体に馬乗りになってその頚部を両手で扼し(以下第2の首絞め行為という。),そのころ,Dを窒息死させたというものであることが認められる。なお,被告人の身長は約167センチメートルで,Dの身長は約147センチメートルである。

(2)

以上によれば,第1の首絞め行為に至る経緯,動機については,被告人
がDに対し殺意を抱いたとしても特に不自然な状況はなく,同首絞め行為の態様は,Dが窒息しないよう格別の配慮をすることなく,相当程度の時間にわたり,Dの背後から,その首に腕を回して頚部を強く絞め続けるという危険なものである。そして,被告人は,第1の首絞め行為の後,Dがなお生存していることが分かるや,直ちに第2の首絞め行為に及んでDを窒息死させているのであり,これに加えて,被告人が,第1の首絞め行為について,捜査段階では,検察官に対して,

これだけ力一杯Dの首を締め続ければ,Dは息をすることができず,Dが死んでしまうかもしれないと思った。私は,このようにDが死んでしまうかもしれないことを分かりながら無我夢中でDの首を絞め続けた。

などと,殺意を認める供述をしていたこと,被告人とDとの前記体格差などを併せ考えると,被告人が,第1の首絞め行為の際,Dに対する殺意を有していたことは優に認定でき,被告人の公判供述中これに反する部分は信用性に乏しいものといわざるを得ない。
(3)

もっとも,被告人は,Dが大声で叫んで逃げ出すなどの突発的な事態に
対応して,Dを黙らせるためにとっさに第1の首絞め行為に及んだものであること,その態様も,立ったままの状態で,同じく立っているDの背後から腕を回してその頚部を締めるなどというもので,その際,Dが被告人の左腕と自身の首の間に指を差し込もうとしたり,被告人の左腕を両手でつかんで外そうともがいたりしており,その間に両名が前記居間の中を移動していることなどを併せ考慮すると,その際,Dの頚部が完全に固定された状態にあったものとまでは認め難いことなどからして,この時点での殺意は,検察官が主張する確定的殺意ではなく,未必的なものにとどまっていたものと認められる(なお,関係証拠によれば,被告人が第2の首絞め行為に及んだ時点で確定的殺意を有していたことは明らかである。)。

2
大阪事件における殺意の発生時期について(争点(2))
(1)

被告人の捜査段階供述及び公判供述並びに医師L作成の鑑定書等の関係
証拠によれば,被告人は,Hに対し,本件ナイフで,まず,G方玄関内において,その腹部等を3回突き刺し(以下第1刺突行為という。),次いで,G方玄関前において,その胸部等を3,4回程度突き刺して(以下第2刺突行為という。),Hを失血死させたことがほぼ問題なく認められる。そして,第1刺突行為に至る経緯・動機は,判示のとおり,Hに対し,本件ナイフを首筋に突き付けるなどして金員を強取しようとしたところ,Hに腕をつかまれて,

何しよんの。

などと大声で叫ばれるなどしたためというものであって,被告人には殺意を抱くに十分な経緯や動機が存在したこと,凶器は殺傷能力を有する刃体の長さが約10.5センチメートルの鋭利な果物ナイフ(本件ナイフ)であって,被告人はその性能を十分認識していたこと,第1刺突行為の態様は,Hの正面から,左手でその右肩をつかみ,ことさらに身体の枢要部を避けることなく,また,手加減することなく,右手に持った本件ナイフでその左腹部を1回突き刺し,更に同様にその左腋窩及び左上腕を1回ずつ突き刺すなどというものであること,その結果,Hの左腹部には腹壁を貫通し後腹膜に至る深さ約11センチメートルの刺創が,その左腋窩には深さ約4.5センチメートルの刺創が,その左上腕には上腕静脈を切断する深さ約4.5センチメートルの刺創がそれぞれ形成されたことが認められる。
(2)

このような第1刺突行為に至る経緯や動機,使用した凶器の形状,刺突
の回数,態様及びその際の両名の体勢,それにより形成された創傷の部位・程度等に加えて,被告人が捜査段階においては,一貫して第1刺突行為の際に殺意があったことを認める供述をしていたこと等にも照らすと,被告人は,第1刺突行為の際に既に確定的殺意を有していたものと認められ,被告人の公判供述中これに反する部分は信用性に乏しいものといわざるを得ない(な
お,関係証拠によれば,被告人が第2刺突行為に及んだ際にも確定的殺意を有していたことは明らかである。)。
3
京都強盗事件についての自首の成否について(争点(3))
(1)

警察官M及び被告人の各公判供述等の関係証拠等によれば,京都強盗
件については,少なくともその犯人が捜査機関に発覚していなかった段階で被告人がこれを大阪事件の取調官であるMに自供したことが認められるが,他方で,被告人は,大阪事件の被疑事実によって平成17年8月4日に通常逮捕され(ただし,罪名は殺人),同月6日に勾留されている(罪名は強盗殺人)ところ,逮捕時の弁解録取後にMの取調べを受けた際には,Mは,同年7月30日に被告人を大阪事件の被疑者として指名手配した時点で,被告人が既に京都窃盗事件で指名手配されていたことや,多数の窃盗前科等を有していることを把握していたのであり,被告人が大阪事件及び岐阜事件をいずれも認めていたこと,被告人が逮捕時に本件ナイフを所持していたことなどから,強盗事件等の余罪の存在を念頭において,

ほかに何かやっていないのか。

などと追及したのに対し,当初,被告人は,

人は二人しか殺してません。

窃盗は多すぎて,ちょっと分からない。

などと答えたが,その20ないし30分後には,

刑事さん,京都でもたたきやってますわ。

などと京都強盗事件を自供し始め,同年8月9日に同事件についての自供書等を作成するに至ったことが認められる。
(2)

このような状況のもとにおいては,既に大阪事件により逮捕され,捜査
官の取調べを受けていた被告人が,同事件についての取調べ中,余罪を追及されて更に他の同種の犯罪事実を自ら供述したとしても,かかる供述は,自ら進んで犯罪事実を捜査機関に申告することを意味する刑法42条1項の自首には該当しないものというべきである。
第3

結論
したがって,判示第1及び第2の各事実はいずれも優にこれを認定すること
ができ,判示第4の事実につき刑法上の自首は成立しないのであって,弁護人の冒頭の主張はいずれも採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示第1及び第2の各所為のうち各住居侵入の点はいずれも刑法130条前段に,各強盗殺人の点はいずれも同法240条後段に,判示第3の所為は平成18年法律第41号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,判示第4の所為のうち住居侵入の点は刑法130条前段に,強盗の点は同法236条1項にそれぞれ該当し,判示第5及び第6の各所為のうち各住居侵入の点はいずれも同法130条前段に,各窃盗の点はいずれも行為時においては平成18年法律第36号による改正前の刑法235条に,裁判時においてはその改正後の刑法235条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い裁判時法の刑によることとし,判示第1及び第2の各住居侵入と各強盗殺人の間,判示第4の住居侵入強盗の間並びに判示第5及び第6の各住居侵入と各窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条によりそれぞれを1罪として,判示第1及び第2についてはいずれも重い強盗殺人罪の刑で,判示第4については重い強盗罪の刑で,判示第5及び第6についてはいずれも重い窃盗罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第1及び第2の各罪についてはいずれも死刑を,判示第3,第5及び第6の各罪についてはいずれも懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるところ,同法46条1項本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第2の罪について被告人を死刑に処し,他の刑を科さないこととし,押収してある果物ナイフ1本(平成17年押第465号の1)は,判示第2の強盗殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)

1
本件各犯行の概要
本件は,被告人が,(1)民家に侵入して金品を物色中,その家人に発見されるや,同人に対し暴行脅迫を加えて金品を強取し,その際,同人の頚部を扼するなどして殺害した住居侵入強盗殺人の事案(判示第1・岐阜事件),(2)①マンション居室に侵入した上,その家人の首筋に果物ナイフを突き付けるなどの脅迫を加えて金員を強取しようとしたところ,同人から抵抗されたため,果物ナイフでその腹部,胸部等を多数回突き刺して殺害したが,財物奪取は未遂に終わった住居侵入強盗殺人の事案(判示第2・大阪事件)と,②その際,果物ナイフを不法携帯した事案(判示第3),(3)民家に侵入した上,家人に対し果物ナイフをその胸元に突き付けるなどの脅迫を加えて現金を強取した住居侵入強盗の事案(判示第4・京都強盗事件),(4)民家に侵入した上,金品を窃取した住居侵入窃盗2件の事案(判示第5及び第6・京都窃盗事件)である。
2
各犯行の犯情
(1)

岐阜事件について
被告人は,判示のとおり,パチスロ等にのめり込んでその資金や生活費等に
窮した末,勤務先の営業所長から禁止されていたにもかかわらず,その取引先関係者から借金し,その返済資金に窮したことから空き巣を決意し,被害者方を窃盗の対象に選び,判示認定の経緯から強盗殺人にまで及んでいる。パチスロ等が原因で生じた金銭的窮境を脱するために,他者の生命までをも踏みにじった被告人の態度は身勝手極まりなく,酌量の余地はない。被告人は,空き巣に適する侵入先を探して被害者方に狙いをつけるや,呼び鈴を押したり,玄関扉を叩いたりするなどしたほか,更に玄関先通路で家人が帰宅してこないかを確認した上で被害者方に侵入し,室内の物色を開始しており,窃盗の計画性は顕著である。
そして,被害者方の2階に上がり,被害者に発見されて大声を出されるや,被害者に対して判示の暴行脅迫を加え,その腕をつかんだまま1階に降り
て現金在中の封筒を強取した上,助けを求めて逃げ出そうとする被害者の背後からその首に腕を回して頚部を強く絞め,さらに,仰向けに倒れた被害者が生存していることが分かるや,すぐに被害者に馬乗りになって両手でその頚部を思い切り扼して窒息死させて殺害し,被害者が再び息を吹き返すことがないことを確認した上で逃走しているのであって,強盗殺人の態様は,被害者の命を何ら顧みることなく,完全にこれを奪い去ることを意図した執拗かつ残忍なもので,冷酷非道である。
なお,検察官は,被告人が本件ナイフを購入した目的に関連して,被告人は,その購入当初から,家人に発見されて抵抗等された場合には殺害に及ぶことも辞さない決意を有していた旨主張するが,岐阜事件の犯行態様は前記のとおりであって,本件ナイフは犯行に使用されていないばかりか,使用が容易な状態で所持していた形跡もうかがわれないことなどからすると,検察官のこの主張には賛同できない。
岐阜事件においては,被害者Dが死亡しており,その結果自体が極めて重大である。被害者は,一家の主婦として家族を支えてきた上,姑の介護や脳溢血で倒れた夫の看病を献身的にこなし,最近では夫と共に子供の結婚や初孫の誕生を心待ちにするなど,家族との平穏で幸福な時間を慈しむように生活していたところ,落ち度など微塵もないのに,突如としてその尊い命を奪われて前途を絶たれたもので,その悔しさと無念さは計り知れない。また,被害者は,最も安全であるべき自宅内で休息していたところを被告人に襲われ,凶悪な暴行等を加えられている間には何度も助けを求める声を上げるなどしており,その被った恐怖や苦痛,絶望感にも察するに余りあるものがある。被害者の遺族である,夫,長男及び長女は,突然に妻あるいは母親を奪われたものであり,以後重く長い苦しみに包まれている。夫は,自宅付近の畑で農作業をして帰宅したところ,被害者の変わり果てた姿を発見したものであって,その衝撃の大きさは甚大であったと推察される上,近くにいながら妻
を助けることができなかったという自責の念に日々苛まれており,また,長男及び長女も,いずれも十分な親孝行をすることができなかったという強い後悔の念を抱くに至っている。しかるに,遺族らに対する損害賠償は全くなされておらず,遺族らの処罰感情はいずれも峻烈であり,一様に被告人に対して極刑を求めていることは至極当然のことである。
さらに,被告人は,強取金の一部を事件当日のうちにパチスロで費消しており,そのときの被告人の心情がいかなるものであったにせよ,犯行後の情状にも芳しくないものがある。
(2)

大阪事件について
被告人は,岐阜事件を犯したことで逃亡を余儀なくされ,来阪したものの,
就職先が見つからず,生活費等に窮し,判示の経緯から,強盗を決意するに至って被害者方をその対象に選び,強盗殺人にまで及んでいる。被告人が来阪後も貴重な所持金をパチンコで費消していることや,わずか約2週間前に岐阜で強盗殺人という重大事件を犯していることをも併せ考えると,その動機は岐阜事件にも増して身勝手極まりなく,被告人の発想の根底には社会の規範や他人の尊厳を甚だしく軽視する人格態度があるものと断ぜざるを得ず,大阪事件の犯行に至る経緯や動機に酌量の余地は皆無である。
犯行態様についてみるに,被告人は,犯行に使用するために本件ナイフを上着の内ポケットに忍ばせ,新聞勧誘員を装って被害者方に侵入し,後ろ手にその玄関扉を施錠した上,被害者に対して同ナイフをその首筋に突き付けて脅迫を加えており,強盗の犯意は強固で,その計画性は顕著である。
しかも,被告人は,被害者から抵抗されるや,被害者方玄関内において,確定的殺意をもって,本件ナイフで第1刺突行為に及び,いったんは倒れた被害者が大声で助けを求めて玄関外に逃げ出したことなどから,より強い殺意に基づいて同ナイフで第2刺突行為に及んで,被害者をその場で失血死させて殺害しているのであって,その態様は,極めて執拗かつ残虐で,冷酷極まりないも
のというほかない。
なお,被告人は,当公判廷において,被害者から抵抗されることは考えなかったなどと,殺害の結果が偶発的なものであるかのような供述をしているけれども,被告人は,凶器を用いた強盗という凶悪事犯をあらかじめ計画し,その実行に際しても,被害者が抵抗するや否や被害者の殺害を決意し,反抗抑圧等の手段として躊躇なく本件ナイフで被害者の腹部,胸部等を多数回突き刺し,殺害を実現しているのであって,被害者の死亡という結果の発生が偶発的なものであったとは到底いえない。
大阪事件においては,被害者Hが死亡しており,その結果自体極めて重大である。被害者は,子育てや生活に苦労した時期等を経て,数年前からは内縁の夫と長男との穏やかで幸せな生活を築き,最近決まった内縁の夫との入籍を心待ちにしていた矢先に,被告人を新聞勧誘員であると信じて何ら警戒することなく自宅玄関内に招き入れたばかりに,突然の凶刃に倒れ,人生半ばにしてその前途を奪われたものである。被害者は,被告人に刺されていったん倒れたものの,力を振り絞って大声で助けを求め,外に逃げようとしたところを再び被告人に刺されて無残にも殺害されたものであり,どれほどの恐怖や苦痛を感じ,どれほどの思いで助けを求めていたのか,想像するに余りある。
遺族である内縁の夫は,長年実現しなかった被害者との入籍を果たし,また,転居をして被害者とゆっくりと暮らす計画を立てるなど,これまでの苦労に報い,被害者を幸せにすると誓っていたその矢先に,その愛する内妻を奪われたものである。そして,今なお納骨せず,被害者の祭壇に日々話しかけるなどしており,当公判廷でも,自らも早く被害者のもとにいきたいと述べるなど,被害者を失ったことによる埋めようのない喪失感と闘っている。被害者の長男も,友人と共同で開店させる店(プールバー)に両親を招いたり,兄弟で費用を負担して両親を旅行させるなどの親孝行ができたはずであったのに,理不尽にもその母親を奪われたものであり,被告人に対して同様に強い憤りを抱いている。
しかるに,遺族らに対する損害賠償は全くなされておらず,遺族らの処罰感情は峻烈であり,いずれも被告人が極刑に処せられることを望んでいるが,その心情もまた至極当然のことである。
(3)

京都強盗事件について
被告人は,大阪事件により金銭を得ることができず,所持金が僅少となった
ことから,空き巣をしようと考え,新聞勧誘員を装って侵入先を物色したものの,見つからなかったために本件強盗に及んだものである。被告人がその前日に強盗殺人事件を犯していることや,同事件で使用した本件ナイフをそのまま凶器として使う態様での強盗を決意していることを考えると,被告人の身勝手な発想は常軌を逸しており,凶器を用いての強盗を平然と重ねようとするその思考態度には戦慄すべきものがある。大阪事件と同様,犯行に至る経緯や動機に酌量の余地は皆無であり,その法規範軽視の姿勢には厳しい非難が妥当する。
被告人は,新聞勧誘員を装って侵入先を物色中に被害者方を訪問し,被害者が一人暮らしの老女であることを把握していたことから,被害者方を強盗の対象に選び,同じく新聞勧誘員を装って被害者方に侵入した上,本件ナイフを被害者の胸元に突き付けるなどの脅迫を加えているのであって,犯行は計画的であるだけでなく,その態様は,被害者の死傷の可能性もはらむ危険なものである。そして,被害者に与えた精神的衝撃等にも大きいものがあるところ,被害弁償は全くなされておらず,被害者は厳罰を希望している。しかも,被告人は,犯行後に,

警察に言ったら家に火をつける。

などと被害者を脅して口止めを図っており,犯行後の情状も悪い。
(4)

京都窃盗事件について
犯行の動機は,前記各事件と同様に生活費等を得るためというもので,身勝
手で酌むべき点はない。また,犯行態様は,あらかじめバールやガムテープ等を準備し,侵入先を探して被害者方に狙いをつけると,まず玄関のチャイ
ムを鳴らすなどして家人の不在を確認した上,大きな音がしないよう窓ガラスにガムテープを貼り,これをバールで叩き割るなどして室内に侵入し物色するという手慣れたもので,周到に準備された計画的犯行である。そして,被害額も少額ではないところ,これらについても何ら被害弁償はなされておらず,各被害者はいずれも厳罰を希望している。
3
以上の事情に加え,本件各犯行は1か月足らずの間に次々と敢行され,特に,強盗殺人2件はわずか約2週間の間に相次いで敢行されたもので,被告人の規範意識の鈍麻は著しいといわざるを得ないこと,強盗殺人2件は,岐阜と大阪という離れた二つの地域にわたるもので,そのいずれもが,白昼に何らの落ち度もない家庭の主婦が強盗犯人によって殺害された事案であり,各犯行が付近住民に与えた不安感等も深刻で,社会的影響には大きいものがあること,被告人は,少年時に強盗傷人及び窃盗等により中等少年院送致の保護処分を受けているほか,窃盗又は常習累犯窃盗等による懲役前科7犯(いずれも実刑)を有しており,40歳ころまでは服役を繰り返していたことなどをも併せ考えれば,被告人の判示各所為は厳しく非難されなければならない。

4
他方,被告人のために酌むべき事情に目を転ずると,まず,岐阜事件については,被告人は,被害者方に侵入して物色中,被害者に発見されてとっさに強盗を決意し,殺害についても,被害者が助けを求めようとしたことをきっかけとして,凶器を使用することなく素手で首を絞めたというものであり,偶発的,突発的な側面もあり,計画性は認められない上,財産的被害は1万5000円と比較的少額にとどまっている。大阪事件については,被害者から抵抗されてとっさに殺害を決意したもので,殺害行為についての計画性までは認められない上,財産的被害は生じていない。また,京都強盗事件については,被害額は少額であり,京都窃盗事件については,被害品のうち一部が還付されている。
以上に加えて,被告人は,各被害者又はその遺族に謝罪文を送付していること,一部事実関係を争うものの,捜査・公判を通じて,犯行に至る経緯や動機を
含めて各犯行の全貌を詳細に供述しており,京都強盗事件については,前記のとおり,刑法上の自首が成立するものではないが,自ら積極的に事実を供述していること,被告人は,反省の念を述べた供述書を作成し,当公判廷においても,涙ながらに自己の行為を振り返り,その顛末を真摯に受け止めて反省し,自己の罪を償うためにはどんな刑にも服する旨も述べていること,前科に関しては,他人の殺害や重大な傷害を目的としたものはない上,前刑仮出所後の約23年間は,内妻との生活を築いて大過なく過ごしてきたこと,被告人には高齢の母親がいることなどが挙げられる。
なお,被告人は,既に還暦を過ぎ,現在65歳と高齢の域に達しつつあるところ,これまでの社会経験に裏打ちされた分別のある行動が期待されてしかるべきであるのに,それとは正反対の道を選択し,凶悪な犯行に及んだものであり,その年齢の点を被告人のために酌むべき情状として評価することについては自ずから限度があるし,また,同様に,年齢の点を考慮すると,被告人自身の今後の更生可能性の点を特に採り上げて論ずるのも本件では妥当とは考えられない。5
結論
これら諸事情を総合考慮の上,本件において極刑の選択ができるか否かについて検討する。
死刑は,人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重に行われなければならないところ,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の事情を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に限り,死刑の選択が許される(最高裁判所昭和58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁参照)というべきである。

これを本件についてみるに,岐阜事件及び大阪事件は,パチスロ等にのめり込んだこと等が原因で嵩んだ借金の返済に窮したため,あるいは,逃亡生活中の生活費等に窮したために犯された強盗殺人2件の事案であり,その動機,罪質は極めて悪質であること,殺害の態様は,いずれも,確定的殺意に基づく,執拗かつ残忍で,冷酷なものであること,わずか約2週間の間に2名の尊い人命が奪われており,結果は誠に重大であること,遺族らの被害感情が極めて峻烈であること,社会的影響も大きいこと,被告人は,大阪事件を敢行した翌日にも同一の凶器を使用して京都強盗事件に及び,その後も,窃盗等を繰り返す一方,その窃取金等の一部をパチンコ等で費消するなど,堕落した生活を続けていたこと,被告人には金銭浪費の習性がうかがえ,その規範意識の鈍麻にも根深いものがあるほか,金銭奪取犯罪への親和性も認められることなどをも併せ考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大である。
したがって,被告人のために酌むべき前記の諸事情を最大限に考慮しても,被告人に対しては,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑をもって臨むほかないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑,押収してあるナイフ1本没収)

平成18年11月15日
大阪地方裁判所第5刑事部

裁判長裁判官

中川博之
裁判官

入子光臣
裁判官

林扶友
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