判例検索β > 平成17年(わ)第1919号
住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火、電磁的公正証書原本不実記録、同供用、有印私文書偽造、同行使、旅券法違反
事件番号平成17(わ)1919
事件名住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,電磁的公正証書原本不実記録,同供用,有印私文書偽造,同行使,旅券法違反
裁判年月日平成19年3月22日
法廷名千葉地方裁判所
裁判日:西暦2007-03-22
情報公開日2017-10-13 01:38:49
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平成19年3月22日宣告
平成17年(わ)第1919号,第2099号,第2603号,同18年(わ)第696号

住居侵入強盗殺人,現住建造物等放火電磁的公正証書原本不実記録
同供用,有印私文書偽造,同行使,旅券法違反被告事件
主文
被告人を死刑に処する

第1


被告人の身上経歴等
被告人は,昭和18年4月17日,北海道北見市において出生したが,出生前に父が死亡したため,祖父母の子として入籍され,祖父母の家庭,母とその交際相手の家庭及び親戚の家庭を転々としながら成育した。被告人は,生活が貧しく,中学生のころ,買い物に行った店の引出しから現金を盗んで補導され,中学校卒業後,店を経営する祖母の小切手をその取引先に持ち込み1万円を借りて費消したこと及び夜間飲食店に忍び込んで飲食物を盗んだことで,昭和34年10月,詐欺窃盗の罪で中等少年院送致の処分となった。被告人は,その後,家族と離れ,住み込みをしながら働くなどして生活していたが,金銭に窮し,夜間商店のショーウィンドーから指輪を盗んだことなどで,昭和35年12月,窃盗窃盗未遂,住居侵入未遂の罪で,1年以上3年以下の懲役刑に処せられ,A少年刑務所に服役し,その後,平成元年3月までの間に,窃盗詐欺等の罪で合計6回にわたり懲役刑に処せられるなどし,さらに,共犯者と建築会社社長宅に押し入り,家人らに暴行脅迫を加えて現金3億円余りを強取し,さらに同人らをガムテープで緊縛するなどしたことで,平成3年11月,強盗監禁の罪により懲役12年に処せられた。

第2

B株式会社社長宅における住居侵入強盗殺人・現住建造物等放火事件(以下B事件という。平成17年11月11日付け起訴状記載の公訴事実)(犯行に至る経緯)

被告人は,前記のとおり,平成3年11月,強盗監禁の罪により懲役12年に処せられ,C刑務所に服役することになった。甲は,タイ人女性を絞殺するなどしたことにより,平成元年10月,殺人窃盗の罪により懲役12年に処せられ,上記刑務所に服役していた。
被告人は,平成4年ころ,上記刑務所の工場で甲と同じ班に配属され,平成7年12月ころ,同人と同房になり,次第に親しくなっていった。被告人は,まわりの同房者等に対し,前は,会社社長宅に押し入り,社長に銀行からお金を持ってこさせて3億円を強奪し,海外で豪遊して帰ってきたなどと繰り返し自慢したり,出所後は資産家の家をねらって10億円くらいの大金を手に入れる,今度は証拠隠滅のため家人を皆殺しにして火を点ける,その後は偽名のパスポートを使って海外に行き遊んで生活するなどと将来の犯行計画について話したりした。
被告人は,犯行対象として,会社として利益が出ていて,ワンマン経営で,大金をある程度自由に動かせるオーナー社長を狙おうと考え,雑誌等を読んで会社の内容等を調査し,多数の会社の持ち株率,借金状態,住所,電話番号等のデータをノートに書き込んで情報を収集し,その中でも会社の経営状態がよく,社長の持ち株率も高いB株式会社を一番の有力候補と考えていた。被告人は,甲に対し,犯行計画を話したり,ノートを見せたりするうちに,入手した金を折半するなどと持ち掛けて,同人を上記犯行計画に誘うようになり,最初は軽く受け流していた甲も,被告人が何度も誘ううちに,本気になり,平成8年終わりころまでに,被告人と犯行計画を実行する意思を被告人に伝えた。
被告人は,その後も甲と上記犯行計画について何度も話し合い,同人に対し,先に出所したら犯行の謀議に使用するアパートや犯行に使用する自動車,資金等を準備しておくよう依頼した。
甲は,平成12年5月23日,仮出獄によりC刑務所を出所した後も,定職
に就かず,知人らと,浮浪者の名義を利用して携帯電話を購入し,外国人等に転売する仕事をしたり,その仕事で入手した浮浪者の個人情報のうち,Dの名義を利用して国民健康保険証を取得し,これを身分証明書として同人名義で借金をしたりして金を稼ぎ,C刑務所で知り合った群馬県佐波郡に住む知人を頼って同人宅に居候するなどして生活を送っていた。
甲は,平成14年5月,被告人がそろそろ仮出獄してくるころだと考え,被告人に刑務所内で話し合った計画がどうなったか聞こうと思い,被告人から出所後の連絡先として教えられていた同人の義父の電話番号に電話をかけ,あと1か月くらいで被告人が仮出獄すると聞いたため,自己の携帯電話の番号を連絡先として教え,同年6月11日,被告人の出所に備えて群馬県伊勢崎市内のアパートの一室を借りて,そこに住むようになった。
被告人は,同月25日,仮出獄によりC刑務所を出所し,同日E保護観察所に出頭し,都内の更生保護施設に入所するとともに,義父からきいた甲の携帯電話の電話番号に電話をかけて甲と連絡をとり,翌26日,外泊許可を受けて,甲が用意したアパートに行った。被告人は,アパートに着くと,C刑務所の中で話したBを狙う計画について,
甲さん大丈夫かなどと言って甲にまだ計
画を実行する気持ちがあるか確認し,甲が大丈夫ですと答えたため,同人と刑務所内で話した計画の内容を確認してこれを実行することを決めた。被告人は,自分が使用するための他人名義のパスポートが必要であったため,甲が前記の方法で入手したDの個人情報や同人名義の国民健康保険証等を受け取りD名義のパスポートを入手するため,後記第5の1及び2の各犯行に及んだ。
被告人は,同年7月22日,更生保護施設から義父方を転居先とする転居許可を受け,同月25日,同施設を退所した。
被告人は,Bの社長宅(以下F宅という。
)付近を数回下見し,電話を
かけて日中の在宅状況を調べるなどして収集した情報をもとに,甲との間で,
同年8月5日に実行すること,具体的な手順としては,宅配業者を装ってF宅に侵入し,在宅している女性及び帰宅した社長を刃物で脅すなどして制圧し,金融機関から金を調達させた後,皆殺しにし,家に火を点けて逃げることなどを取り決めた。被告人らは,犯行当日までに,犯行に使用する段ボール,刃物,布粘着テープ,缶入り混合ガソリン等を用意したり,犯行時に乗っていく自動車を駐車しておく場所をF宅の最寄りのG駅から離れたH駅近くの駐車場に決めたりするなどの準備を進めた。
被告人らは,同月5日,甲が運転する自動車で下見をしておいた駐車場に向かい,同日午前11時30分ころ,同駐車場に駐車して,そこから電車及び徒歩でF宅に向かった。
(罪となるべき事実)
被告人は,甲と共謀の上,民家に押し入り家人に暴行脅迫を加えて金品を強取した上,その犯跡を隠ぺいするため,家人を殺害するとともに同民家に放火してこれを焼損しようと企て,平成14年8月5日午後3時ころ,千葉県松戸市ab丁目c番地のd所在のF方を宅配業者を装って訪問し,応対に出たFの長女Iをして1階玄関ドアを開けさせて同居宅内に押し入った上,1
そのころ,同所において,前記I(当時40歳)及びその母J(当時66歳)に対し,所携の刃物ようの物を前記Iに突き付け,両名の両手首をネクタイようの物でそれぞれ縛り上げ,その各口部及び前記Iの眼部に布粘着テープを貼り付けるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して,前記Fほか1名所有に係る現金数十万円及び腕時計5個ほか5点(時価合計約966万円相当)を強取し,さらに,いずれも殺意をもって,

(1)被告人において,同所2階主寝室で,前記Iの頸部にネクタイを巻き付けて絞め付けるなどし,よって,そのころ,同室において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,
(2)甲において,同所1階居間で,前記Jの頸部にネクタイようの物を巻き
付けて絞め付けるなどし,よって,そのころ,同室において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,
2
同日午後3時30分ころ,同所において,同所2階主寝室ベッド上及び1階居間床上に混合ガソリンをまいた上,これらにライターでそれぞれ点火して火を放ち,その火を1階居間の壁及び天井等に燃え移らせ,よって,現に前記Fらが住居に使用する同人方(鉄筋コンクリート造亜鉛メッキ鋼板葺2階建,床面積合計約214.81平方メートル)1階居間の壁及び天井等合計約83平方メートルを焼損し

たものである。
第3

東京都目黒区内の歯科医師宅における住居侵入強盗殺人事件(以下K事件という。平成18年2月3日付け起訴状記載の公訴事実)(犯行に至る経緯)
B事件では,当初の計画とは異なり,F宅にある金品を強取しただけで,予想していたほどの大金を得られなかったため,被告人は,自動車学校の費用,生活費,パチンコ代等に前記強取金を費消してしまうと,金銭に窮し,平成14年9月ころから,フィリピン旅行から帰国した甲と再び前記アパートで同居し,空き巣狙いによる窃盗を繰り返して生活していたが,すぐに甲から再び資産家を狙おうと催促されるようになった。
被告人は,以前犯行対象として検討していたゲームソフト会社の社長宅を狙おうと考えたが,甲と同社長宅を下見に行ったところ,防犯設備が整っていたことから,同宅を狙うことを断念した。しかし,その帰宅中,被告人が,歯科医であれば金を持っているであろうと考え,立ち寄ったコンビニエンスストアから取ってきた職業別電話帳を調べ,L歯科医院(以下,単に歯科医院という。
)の広告が目についたことから,甲に同医院を経営するMの自宅(以下M宅という。
)を狙うことを提案すると,甲はこれを承諾した。
被告人は,その後,甲と歯科医院やM宅周辺を下見し,M宅に入りやすいと
判断すると,同所において強盗殺人を行うことを決め,その後,被告人において,具体的な犯行手順を考え,甲には,夕方,Mらしき人物が歯科医院から出てきたら,同人をM宅までつけるなどと話し,甲との間で,B事件と同様に,M宅に押し入り,現金を準備させてこれを強奪した後,家人を皆殺しにすることを計画した。
被告人らは,犯行に使用するナイフと手袋を用意し,同月24日,前記自動車で歯科医院付近まで行き,少し離れた場所に駐車して,Mらしき人物が出てくるのを待っていたが,夕方になっても一向に出てこなかったことから,Mが出てきたのを見逃したかもしれないと考え,被告人はM宅に向かい,甲は歯科医院の前に残って待つことにした。
(罪となるべき事実)
被告人は,甲と共謀の上,民家に押し入り,家人に暴行脅迫を加えて金品を強取した上,口封じのため家人を殺害しようと企て,平成14年9月24日午後6時30分ころ,東京都目黒区e町f丁目g番h号M方勝手口ドアから同居宅内に押し入り,同所において,上記M(当時71歳)に対し,被告人において,殺意をもって,所携の刃物で同人の左側胸部を突き刺すなどしてその反抗を抑圧し,同人所有の現金約35万円及びカレッジリング1個(時価3万円相当)を強取した上,更に甲において,殺意をもって,同人の頸部をタオルで締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を左側胸部刺創による左肺損傷に起因した胸腔内出血及び絞頸による窒息により死亡させて殺害したものである。
第4

千葉県我孫子市内の会社社長宅における住居侵入強盗殺人事件(以下N事件という。平成17年12月28日付け起訴状記載の公訴事実)(犯行に至る経緯)
被告人は,K事件で強取した金を1か月くらいで費消すると,再び金銭に窮し,甲と空き巣狙いによる窃盗を繰り返す生活をしていたが,平成14年10
月上旬ころから,再び甲から金持ちのところを狙おうなどと誘われるようになった。被告人も,K事件で思っていたほど大金を得られなかったため,次の事件を考えるようになり,以前来店した時に活況ぶりが印象に残っていた株式会社Oの金券ショップを狙うことを思いつき,同年11月15日ころ,甲にその旨提案すると,甲はこれに賛成した。被告人と甲は,同月18日ころ,上記金券ショップを下見したところ,同店は防犯設備があってそのまま押し入るのが難しそうであったため,同店を経営するPを拉致して同店に連れて行き,同人に鍵を開けさせて押し入ることとし,Pを拉致する方法としては,帰宅途中のPを襲う方法をとり,それが無理であれば,B事件と同様に,先に家に押し入って家人を監禁して人質にし,帰宅したPを捕まえる方法をとることとした。そこで,被告人らは,同日,帰宅するPを尾行して同人が住むアパート(以下P宅という。
)を突き止め,現場付近の状況を下見し,Pの下車駅からP
宅までの間で同人を拉致することを決めた。また,被告人と甲は,同月19日,犯行に使用する手錠と催涙スプレーを購入し,P宅に侵入する場合は警察官を装うこと,翌日に計画を実行することなどを決めた。被告人と甲は,同月20日朝,警察官を装うためスーツを着用し,包丁や催涙スプレーを封筒に入れて持ち,甲の運転する自動車で現場に向かい,P宅を再度確認した上,午後7時ないし8時ころ,Pの下車駅で同人が出てくるのを待ったが,午後11時を過ぎてもPを見つけることができなかったため,その日に計画を実行することを断念し,警察官を装ってP宅に押し入る方法に計画を変更した上,翌日にこれを実行することとし,その夜は,高速道路のサービスエリアに駐車した車の中で仮眠をとり,翌日,再びP宅に戻り,同宅及びその周辺を下見した上,B事件と同様に同宅の最寄りのQ駅から離れたR駅前の駐車場に駐車し,そこから電車及び徒歩でP宅へ向かった。
(罪となるべき事実)
被告人は,甲と共謀の上,民家に押し入り,家人に暴行脅迫を加えて金品を
強取した上,口封じのため家人を殺害しようと企て,平成14年11月21日午後6時10分ころ,千葉県我孫子市ij丁目k番l所在のm館n号P方を警察官を装って訪問し,応対したPの妻Sをして玄関ドアを開けさせて同居宅内に押し入った上,そのころ,同所において,上記S(当時65歳)に対し,その顔面を手拳で殴打し,後ろ手錠をかけるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して,上記Pほか1名所有に係る現金百数万円及び財布1個(時価約2000円相当)等を強取した上,さらに,殺意をもって,上記Sの頸部にアース用コードを巻き付けて絞め付けるなどし,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
第5

有印私文書偽造等事件
(罪となるべき事実)
被告人は,
1
Dの住民登録を不正に異動させようと企て,平成14年7月12日,群馬県伊勢崎市o町p丁目q番地所在の伊勢崎市役所において,同市役所市民課戸籍係員に対し,上記Dが同市r町s番地tuに転入した旨内容虚偽の住民異動届を提出するなどして虚偽の申立てをし,情を知らない上記係員らをして,上記伊勢崎市役所に設置されている権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせた上,そのころ,同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供し,

2
上記Dの氏名を冒用して一般旅券発給申請書を偽造するなどの不正の行為により同人名義の一般旅券の交付を受けようと企て,同月26日,前橋市v町w丁目x番y号所在の群馬県パスポートセンターにおいて,行使の目的をもって,ほしいままに,外務大臣あての一般旅券発給申請書用紙の氏名欄にD
,現住所欄に群馬県伊勢崎市r町s番地tuなどと各記入し,申
請者署名欄にDと冒書し,これに被告人の顔写真を貼付し,もってD作
成名義の一般旅券発給申請書1通を偽造し,即時,同所において,同パスポートセンター係員に対し,偽造に係る上記一般旅券発給申請書を真正に作成されたもののように装い上記Dの戸籍謄本等と共に提出して行使し,群馬県知事を経由して外務大臣に一般旅券の発給を申請し,同年8月6日,同パスポートセンターにおいて,同パスポートセンター係員から,外務大臣が発行し被告人の顔写真が転写された上記申請に係る上記D名義の一般旅券(旅券番号TG2422125)の交付を受け,もって不正の行為によって旅券の交付を受け
たものである。
(事実認定の補足説明)
1
弁護人は,判示第3のK事件について,被告人はMと激しくもみ合ううちに刃物がMの体に刺さってしまった可能性があり,被告人が刃物でMの左側胸部を突き刺した行為について殺意があったとは認められない,Mは甲がMの首を絞めたことにより死亡したのであって被告人によるナイフでの刺突行為はMの死因ではない,被告人は甲にMを縛るように指示しただけであり同人の殺害は指示していないなどと述べ,被告人にはMに対する強盗殺人罪が成立しない旨主張する。
2
そこで,まず,被告人が刃物でMの左側胸部を突き刺した行為につき,殺意があったか否かを検討する。
関係各証拠によれば,本件の刺突状況は,被告人が,帰宅したMを勝手口から家に押し込んだとたん,Mから両手で右手首を掴まれ,持っていたナイフを奪われそうになったためもみ合いになり,その際に上記ナイフによりMの身体に数か所の刺切創が形成されたものであること,Mの主な受傷は,3か所の左側胸部刺創,後頭部から左側頭部にかけての切創及び左肘頭部を中心とした切創等であり,このうち左側胸部の各刺創は,創洞がいずれも内方に向かい,深さがそれぞれ約7センチメートル,約5.3センチメートル,約2.8センチメートルであり,最も深い刺創は,左胸腔内に入り左肺損傷を伴い,単独で致命傷となるものであ
ること,成傷器は,刃体の長さが7.0センチメートル内外またはそれ以上,刃幅が先端から約7センチメートルのところで3センチメートル内外の先端の尖った片刃の刃器であると考えられることが認められ,かかる創傷の部位・程度,個数,成傷器の形状,刺突の方向等を総合すれば,被告人は,十分な殺傷能力を有するナイフを用い,3回にわたりMの身体の枢要部である左側胸部を刺突していることが認められ,かかる態様に徴すると,上記各創傷が偶然に生成されたとは考え難く,被告人が意識的に左側胸部を狙って刺突行為をくり返した事実を優に認定できる。
以上によれば,被告人にMに対する確定的殺意があったことは明らかである。3
次に,被告人がMの左側胸部を刃物で刺した行為及び甲がMの頸部を締め付けた行為とMの死亡との因果関係の有無について検討する。
関係各証拠によれば,Mは,平成14年9月24日午後6時30分ころ,被告人にナイフで左側胸部等を刺され,肺損傷を伴う刺創を負ったこと,甲がM宅に到着した際,腹部から大量の血を流しながら居間の床の上に倒れ,弱い呼吸をしていたこと,その後,甲からタオルで首を力一杯絞め付けられると,「うっ。
とうめき声を出し,体に力が入った状態になり,そのまま首を絞め続けられると,脱力して身動きをしなくなったことが認められる。
また,Mの死体を解剖し,その死因等の鑑定をした医師Tの当公判廷における供述によれば,Mの肺損傷に伴う胸腔内出血及び絞頸による窒息は,いずれも単独で最終的には脳の循環障害を生じさせるものであり,本件においてはいずれの原因がより直接的に効いたかは判断できないという意味で死因が競合しているいわざるを得ないが,両者がある場合は片方しかない場合に比べて死期が早まることは十分考えられ,最終的には両者が死因として関与したということができる,というのである。
以上によれば,上記各行為はいずれもMの死亡という結果と因果関係を有することが優に認められる。

4
さらに,被告人が甲に指示した内容については,甲が,Mは,甲がM宅に到着した時点で既に両手をコードようのもので結ばれていた,被告人から絞めてくれと言われてMの殺害を指示されたと述べていること,実際,事件後に現場に駆け付けた消防署職員がMの死体を発見した際,Mの前腕にコードが巻き付いているのを発見していること,Mは,被告人に左側胸部を刺され,腹部から大量の血を流して身動きの取れない状況であったことなどの事情にかんがみれば,被告人が,甲が到着した際,甲に対し,さらにMを縛ることを指示したとは考え難く,被告人自身,前記告白書と題する書面において,甲にMの殺害を指示したことを認めていることをも併せ考えれば,被告人が甲に対しMの殺害を指示したことは明らかである。

5
以上によれば,弁護人の上記各主張はいずれも理由がなく,被告人が殺意をもって刃物でMの左側胸部を突き刺し,上記行為が甲の絞頸行為と相まってMの死亡という結果が発生したと認められるばかりでなく,被告人が甲に対しMの殺害を指示したこともまた認められるから,被告人にはMに対する強盗殺人罪が成立する。

(確定裁判)
1
確定裁判の表示
宣告日・宣告裁判所
罪名
平成17年7月13日・前橋地方裁判所

住居侵入窃盗

宣告刑
確定日
2
懲役4年
平成17年10月28日

証拠
検察事務官作成の前科調書(甲11)
(法令の適用)


判示第2の所為のうち

住居侵入の点につき

刑法60条,130条前段

I及びJに対する各強盗殺人の点につき
各被害者ごとに,刑法60条,平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段
現住建造物等放火の点につき
刑法60条,108条(有期懲役刑の刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第3及び第4の各所為のうち
住居侵入の点につき

いずれも刑法60条,130条前段

強盗殺人の点につき
いずれも刑法60条,平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段
判示第5の1の所為のうち
電磁的公正証書原本不実記録の点につき

刑法157条1項

不実記録電磁的公正証書原本供用の点につき
刑法158条1項,157条1項
判示第5の2の所為のうち
有印私文書偽造の点につき

刑法159条1項

偽造有印私文書行使の点につき
刑法161条1項,159条1項
不正旅券受交付の点につき
平成17年法律第55号附則7条により同法による改正前の旅券法23条1項1号

科刑上一罪の処理
判示第2につき
刑法54条1項後段,10条(住居侵入とI及びJに対する各強盗殺人並びに現住建造物等放火との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重いJに対する強盗殺人罪の刑で処断)判示第3及び第4につき
いずれも刑法54条1項後段,10条(各住居侵入強盗殺人との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,1罪として重い各強盗殺人罪の刑で処断)判示第5の1につき
刑法54条1項後段,10条(電磁的公正証書原本不実記録と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不実記録電磁的公正証書原本供用罪の刑で処断)
判示第5の2につき
刑法54条1項後段,10条(有印私文書の偽造とその行使と不正旅券受交付との間には順次手段結果の関係があるので,結局1罪として刑及び犯情の最も重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第2ないし第4の各罪につき
判示第5の1の罪につき

いずれも死刑

懲役刑

併合罪の処理
刑法45条後段,50条,45条前段,46条1項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑で処断し他の刑を科さない)
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1
事案の概要

本件は,被告人が,刑務所仲間と共謀の上,平成14年8月5日,会社社長宅に押し入り,家人2名に暴行を加えて現金等を強取した上,口封じと犯跡隠ぺいのため,同人らを絞頸して殺害し,さらに同居宅に放火し(判示第2のB事件),
同年9月24日,歯科医師宅に押し入り,同医師をナイフで刺突するなどの暴行を加えて現金等を強取した上,同人を絞頸して殺害し(判示第3のK事件),同
年11月21日,別の会社社長宅に押し入り,家人1名に暴行を加えて現金等を強取した上,同人を絞頸して殺害し(判示第4のN事件)
,単独で,判示第2の
犯行以前に,同犯行後に他人に成り代わって生活するため,上記強盗殺人等事件の共犯者が従前入手していた浮浪者の個人情報を利用して,同浮浪者の住民登録を異動させた上,同人名義の一般旅券を入手しようと企て,村役場に同浮浪者が住民登録を異動した旨の虚偽の申立てをして住民基本台帳ファイルに不実の記録をさせた上,これを同所に備え付けさせ(判示第5の1)
,上記浮浪者名義の一
般旅券発給申請書を作成してパスポートセンターに提出し,同人名義の一般旅券の交付を受けた(判示第5の2)
,という住居侵入強盗殺人,現住建造物等放
火,電磁的公正証書原本不実記録,同供用,有印私文書偽造,同行使,旅券法違反の事案である。
2
犯行に至る経緯及び犯行の動機
本件各強盗殺人等の犯行に至る経緯及び動機は,判示第2ないし第4の各犯行に至る経緯において認定したとおりであり,被告人は,強盗等の罪で服役中,再び資産家を狙って億単位の金を奪い,海外で遊んで暮らそうなどと考え,会社情報を収集するなどして犯行対象となる会社を物色するかたわら,前回の強盗等の犯行での失敗を踏まえて,今度は捕まらないように家人を殺害し,家に放火しようなどと犯行の手順を具体的に検討し,刑務所内で知り合った共犯者に犯行計画を持ち掛け,その賛同を得ると,同人と計画を何度も話し合い,先に仮出所する同人に対し,犯行の準備を整えておくよう依頼し,共犯者が仮出所してから約2年後に仮出所して共犯者と再会するや,上記犯行計画を確認し合い,共謀を遂げ,
わずか1か月余りのうちにB事件の犯行に及んだものである。さらに,被告人は,B事件の強取金を短期間で費消してしまうと,再びB事件と同様の強盗殺人等事件を敢行しようと考え,犯行対象を選定し,下見をするなどして犯行計画を立て,K事件,次いでN事件の各犯行に及んでいる。
被告人は,一攫千金を狙い,強取金で海外で楽に生活しようなどという思惑で本件各犯行に及んだものであり,その動機,経緯は,極めて自己中心的かつ利欲的で生命の尊厳に全く思いを致すことがないものであり,酌量の余地はない。とりわけ,B事件においては,贖罪の場である刑務所において,更生を図り内省を深めるどころか,前回同様に資産家を狙った強盗をしようと考え,さらに,前回の失敗を踏まえて罪証隠滅のために家人を殺害し,家に放火する計画まで立て,この計画に共犯者を巻き込んだものであり,規範意識の欠如は甚だしい。また,被告人は,B事件後も,凶悪犯罪を行ったことに対する罪悪感を感じることもなく,引き続きK事件及びN事件を敢行したものであり,自らの利欲のために平然と殺害行為をくり返したものであって,冷酷無比な人命無視の態度は著しい。弁護人は,被告人が仮出所したときには,同人はもはや犯行計画を実行することは考えていなかったが,共犯者が被告人を待っていたためにB事件を敢行せざるを得なかった,K事件及びN事件も共犯者の慫慂によるものであるなどと主張するが,前記認定のとおり,B事件は,被告人が,刑務所内で共犯者と別れた後長期間にわたり犯意を持続し,出所後直ちに共犯者と連絡をとり,その犯行意思を再確認した上,犯行の準備を行い,短期間のうちに犯罪を実現したものであり,K事件及びN事件も,共犯者からの催促や誘いが犯行の契機とはなっているものの,被告人においても,B事件及びK事件で当初の思惑をはるかに下回る金員しか得られなかったため,再び一攫千金を狙い,被告人主導で犯行の準備を行って各犯罪を実現したものであって,被告人の犯行実現に向けた意思は極めて強固で執拗なものというべきであって,悪質である。
3
犯行の計画性及び態様

被告人は,先に仮出所する共犯者に,犯行の謀議に使用するアパートや犯行に使用する自動車を用意するよう指示し,出所後は,共犯者から浮浪者の個人情報の提供を受け,自己が同人に成り済まして行動できるように同人名義のパスポートを用意し,各犯行に当たっては,まず,被告人において犯行対象を選定し,被告人が単独で,あるいは,共犯者が同行して,現場周辺を下見したり,家人の在宅状況等を下調べし,これに基づいて被告人が犯行手順等を具体的に計画すると,共犯者と打合せの上,ナイフ,手袋,手錠等犯行に使用する道具を準備し,犯行当日には現場付近の状況を最終確認するなどしているのであって,本件は周到な準備の上敢行された極めて計画性の高い犯行である。
本件各犯行態様をみるに,B事件においては,宅配便業者を装って被害者に玄関の戸を開けさせ,ナイフを突き付けて居宅内に押し込み,被害者らの顔面及び手首をガムテープなどで緊縛し,被害者らから金のありかを聞き出して家中を物色して金品を強取すると,ネクタイようの物で被害者らの首を絶命するまで力一杯絞め続けて被害者らを殺害し,さらに,犯跡隠ぺいのため,同居宅に火を点けたものであり,K事件においては,被告人において,被害者宅に侵入する際,もみ合いになり被害者の左側胸部付近をナイフで3回刺突して同人に致命傷を負わせ,さらに,共犯者において,腹部から血を流し,ひん死の状態の被害者の背後にまわり,細く絞ったタオルで被害者の首を締め付け,そのまま数分間渾身の力を込めて絞め続け,被害者が動かなくなった後も確実を期するためタオルを首に強く縛り付け,さらに別のタオルで再び首を絞め続けて殺害し,N事件においては,警察官を装って被害者に玄関の戸を開けさせ,ナイフを突き付けて居宅内に押し込み,被害者に手錠や猿ぐつわをし,抵抗する被害者の顔面を殴り,催涙スプレーを吹き付けるなどの暴行を加え,被害者から金品のありかを聞き出してこれを強奪すると,共犯者において,アース用コードで被害者の首を絶命するまで数分間締め続け,さらに同コードを首に結んで固定したというものである。これらの各犯行は,言葉巧みに家人を欺いて自宅の玄関の戸を開けさせ,ある
いはナイフを突き付けるなどして脅すなどして居宅内に侵入し,ガムテープや手錠で拘束するなどして,室内を物色し,あるいは暴行脅迫により現金の保管場所を聞き出すなどし,金品強取後は,情け容赦なく殺害行為に及び,長時間首を絞め続け,動かなくなった後も頸部を締め付けたタオル等を結んで固定するなどしたものであり,巧妙かつ粗暴な犯行であるばかりでなく,殺害行為については,当初から犯跡隠ぺいや口封じのために殺害する意思であって,確実に殺害するために執ように絞頸行為に及んでいるのであり,極めて冷酷非情で残虐な凶悪事犯というほかないのであり,そこには人間性の片りんもうかがわれないところである。
4
結果
本件各犯行により何ら落ち度のない4名の尊い生命が奪われた結果はいうまでもなく極めて重大である。B事件の被害者であるJは,病を患いながらも夫を支え,家族との食事会や孫の成長を楽しみにしていたものであり,娘のIは,病気の母を支えながら家事を手伝い,温かい家庭の中で生活していたものである。K事件の被害者であるMは,現役の歯科医師として精力的に仕事をし,家庭では一家の支柱として頼られ,間近に控えた長男の結婚式を楽しみにしていたものである。N事件の被害者であるSは,夫を支えて家事を切り盛りする傍ら,多彩な趣味を持ち,夫婦で仲むつまじく生活していたものである。このように,いずれの被害者も,その家族と共に幸福な生活を送っていたにもかかわらず,最も安全であるべき自宅において突然襲われ,理不尽な暴行脅迫を受け,非業の死を遂げたのであるから,被害者らの受けた恐怖感,絶望感は筆舌し難く,肉体的苦痛も甚大で,大切な家族を残してその生命を断たれた無念さは察するに余りある。B事件,K事件及びN事件の3つの事件を併せると,現金合計百数十万円のほか,時価合計約970万円相当の腕時計や貴金属類が奪われており,財産的損害も大きい。
遺族らは,最愛の家族の死という突然の悲報にさらされ,変わり果てた姿の被
害者と対面させられたものであり,その悲しみと苦しみは計り知れない。各遺族らは,B事件において,いつも座っているソファの上でかろうじて人と判別できるほどに焼け焦げた状態の,あるいは,ガムテープで顔面を覆われ,絞殺時に利用されたネクタイが首に巻かれたままベッドの上に倒れた状態の変わり果てた肉親の姿を目の当たりにし,K事件においては,腹部から大量の血を流して床に倒れている状態の義父を発見し,N事件においては,猿ぐつわをはめられ,首にアース用コードを巻き付けられて死亡している妻の姿を発見したものであり,いずれも無惨というほかなく,遺族らの受けた衝撃は想像を絶するものがある。上記各事件は2年以上犯人が判明せず,その間遺族らは怒りと憎しみのやり場なく過ごしてきたものであり,その各処罰感情はしゅん烈を極めており,いずれも被告人に対する極刑を求めている。一方,これに対する慰謝の措置は全く講じられていない。
本件各強盗殺人事件は,4か月足らずの間に連続して敢行されたもので,特にB事件にあっては著名な企業の社長宅が襲われ,家人が2名も殺害され,居宅に放火されるなど凶悪さが際立っていたことなどからして,社会に与えた衝撃は大きい。
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被告人の関与の程度
被告人は,B事件を発案し,刑務所内で共犯者を犯行計画に執拗に誘い,本件各強盗殺人事件の発端を作出した者であるとともに,本件各強盗殺人事件の犯行対象を選定し,具体的な犯行計画を立案し,犯行現場においては意思決定を行って共犯者に被害者らの殺害等につき指示を与え,自らも金品の物色行為を行うとともにB事件の被害者のうち1名を殺害し,K事件においても被害者に致命傷を与えており,本件各犯行の実現に対する被告人の寄与度は大きい。
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一般情状
被告人は,前刑の裁判において二度と犯罪を犯さないと誓い,その後長期の服役をし,矯正教育を施され,更生の機会を与えられながら,反省を深めることな
く,服役中から事件を起こすことを決意し,その計画を着実に進めていたものであり,かかる経緯に徴すると,被告人には,前刑の罪を犯したことに対する真しな改悛の情も贖罪の意識もうかがわれない。
そして,出所後は,直ちにB事件を実行に移すことを決意し,平然とその犯行を敢行し,その後,何ら臆することなく同様の手口を用いて2件の強盗殺人事件を敢行し,その後も空き巣狙いの現行犯人として逮捕されるまでの間,共犯者と共に空き巣狙いを繰り返していたものである。
これらの点からすると,被告人の大金を手にするためなら殺人をも厭わない反社会的で冷酷非情な犯罪性向は極めて根深いといわざるを得ず,その改善更生の余地を見出すのは困難である。
また,被告人は,旅券法違反等の罪により逮捕され,勾留の手続に際し,検察庁の留置室で待機中,たまたま共犯者と隣同士の部屋になった際,同人に対し本件強盗殺人等事件について口止めをしていること,共犯者がB事件について自白し,同事件が発覚した後も,警察官の取調べにおいては,同事件を起こしたことを認めながら,詳細については一切語らず,他方で,週刊誌に対しては,同事件についてその内容を詳細に語るとともに,K事件,N事件についても自己が犯人であると告白していること,本公判廷において,当初,起訴された事実を認めたので,あとは何を言っても同じことだから無駄なことは何も言いたくないなどと述べていたこと,さらに,弁護人に説得されて被告人質問に応じるようになった後も,刑務所内では共犯者と仲良くなるために強盗をする計画を話しただけで,本気で強盗をするつもりはなかった,B事件については,当初から家人を殺害するつもりはなく,被害者に言われた言葉にかっとして殺害してしまっただけである,K事件については,被害者を居間に連れて行ったときにはじめて自分がナイフで刺したのではないかと気付いた,共犯者に被害者の殺害を指示したことはなく,共犯者が自分の言葉を勘違いして絞殺してしまった,などと被告人の犯行当時の言動や他の証拠と明らかに矛盾し,自己の罪責の軽減を図ろうとするような
不合理な弁解をしているのであって,被告人が本件各犯行を真しに受け止め,被害者の遺族に心底謝罪の意思を持ち,反省を深めているとはいい難い面がある。7
死刑の合憲性
弁護人は,死刑制度は残虐な刑罰に当たり,憲法36条に違反する,死刑執行は恣意的であり,同法14条に違反するなどと主張するが,死刑制度がこれらの憲法条項に違反するものでないことは,最高裁判所の判例(昭和23年3月12日大法廷判決・刑集9巻4号663頁等)及びその趣旨に照らして明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみて付言するに,弁護人は,刑事施設に拘置された死刑の確定判決を受けた者の状況につきるる主張して,死刑は憲法36条の残虐な刑罰に当たる旨主張するが,死刑確定者に対する拘置は,刑法11条2項に基づく死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続であって,このような拘置の後に死刑を執行することは,上記判例の趣旨に徴すれば憲法36条にいう残虐な刑罰に当たらないことは明らかである(最高裁昭和60年7月19日第1小法廷決定・裁判集民事145号271頁参照)
。また,弁護人は,複数の死刑確定者
の中から一定の者を選択して死刑執行を行うことについての恣意性をいい憲法14条の平等原則に反するなどと主張するが,複数の死刑確定者がいる場合にその執行の時期が別個になるのは必然的に生じることであるから,これにより死刑制度が憲法14条に違反するということにはなり得ない。次に弁護人は,死刑の宣告を受けるのは,満足な教育を受けていない人及び職のない人に集中しているから憲法14条に違反するなどとも主張するが,不遇な境遇にあっても大多数の人々は犯罪とは無縁の生活を送っているのであり,仮にそのような傾向がうかがわれるとしても,死刑宣告を受けた者はその犯した罪によって処罰されているのであるから,憲法14条に違反するということにはならない。さらに弁護人は,死刑制度は正義に反し民主主義や象徴天皇制と相容れないから違憲であるなどと主張し,死刑制度をめぐる世界各国の情勢やわが国の現状等を挙げて様々な観点から論じるが,いずれも弁護人の独自の見解であって,そこで挙げられた諸事情が
現行の死刑制度の違憲性につながるものとはいえない。
したがって,弁護人の主張は理由がない。
8
結論
以上の諸事情にかんがみて量刑について検討する。
死刑が冷厳な極刑であり,窮極の刑罰であることにかんがみると,その適用が慎重に行われなければならないことはいうまでもないが,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものというべきである。
そこで,前記の諸事情を考慮すると,本件各強盗殺人等事件は,これまで説示したとおり,極めて重大,悪質なものであり,特に,いずれも利欲目的の強盗犯人が,犯跡隠ぺい,口封じ等の目的で,押し入った居宅に居合わせた家人を情け容赦なく殺害し,B事件においては居宅に放火までしているのであって,その悪質性は際立っていること,各殺害行為は,緊縛されて抵抗のできない被害者らの頸部を,あるいはナイフで致命傷を負わせた被害者に対しさらにその頸部を長時間にわたり執ように絞め付け,息を吹き返すことのないようにさらに頸部を縛り付けるなどしたものであり,著しく残虐かつ執ような態様であること,殺害された被害者の数は4名もの多数に上り,結果は極めて重大であること,遺族の処罰感情は極めてしゅん烈であり,社会に与えた影響も大きいこと,被告人の改善更生の余地を見出すのは困難であることなど,これまで論じてきた諸事情を勘案すれば,被告人が,公判廷において事実を認め,被告人なりの反省の態度を示していること,幼少期に複雑な家庭環境で育ち,その不遇な生育歴に同情すべき点があること,排尿障害の持病があることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人の罪責は余りにも重大であって,罪刑の均衡の見地からも
一般予防の見地からも極刑をもって臨むほかない。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑)

平成19年3月22日
千葉地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

根本
裁判官

堀内有子
裁判官

国分史子渉
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