判例検索β > 平成17年(わ)第1209号
恐喝
事件番号平成17(わ)1209
事件名恐喝
裁判年月日平成19年3月15日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2007-03-15
情報公開日2017-10-13 01:38:50
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主文
被告人は無罪

第1


本件公訴事実
本件公訴事実は,被告人は,知人のAが経営していた株式会社Bが,株式会社
Cに対し債権を有していたにもかかわらず,同社が和議の申立てをして同債権の回収が困難になったことから,同債権の取立て名下に,同社の専務取締役であったD(当時57歳)から金銭を脅し取ろうと企て,平成11年10月28日夜,神戸市a区b町c丁目d番e号の被告人が管理する事務所内において,Dに対し,

金を払わないなら帰すわけにはいかない。今日からここに泊まれ。ずっとここにおれ。話し合いがつくまで帰らせるわけにはいかない。和議に反対しようと思えばできる。自分たちは菱なので,住む世界が違う。

旨語気鋭く言って金銭の交付を要求し,これに応じなければDの身体及び前記株式会社Cの業務等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して脅迫し,同人をその旨畏怖させ,よって,そのころ,同所において,Dをして,2000万円を支払う旨約束させた上,同月29日,同人から指示を受けた,事情を知らない当時の妻Eをして,岡山県笠岡市f町g番地hの株式会社F銀行G支店から,広島県呉市IJ丁目K番L号の株式会社H銀行I支店に開設されたA名義の普通預金口座に2000万円を振込送金させ,もって財物を脅し取った,というものである。
第2

弁護人及び被告人の主張
これに対して,弁護人及び被告人は,平成11年10月28日,Dに対し,前
記債権の支払を要求して2000万円の支払を約束させ,同月29日にDにA名義の預金口座に2000万円を振込送金させたものの,支払を約束させるに当たってDを脅迫したことはない,あるいは権利行使としての社会的相当性を逸脱するような脅迫をしたことはない旨主張する。
第3

当裁判所の判断(甲乙弁の番号は証拠等関係カードにおける検察官,弁護人
-1-

請求証拠の番号を示す。)
1
証拠上明らかな事実
まず,本件の事実経過について,次の事実が証拠上明らかに認められる。
(1)土木建築業を営む株式会社Cは,経営状態が悪化したことから,平成11年7月5日,手形不渡りを出し,同月21日,岡山地方裁判所倉敷支部に和議の申立てをし,同月22日,株式会社Cは,あらかじめ裁判所の許可を受けた場合を除いて,同日以前の原因に基づいて生じた,租税債務,労働債務等を除く一切の金銭債務の弁済をしてはならないことなどを内容とする保全処分が決定された(甲18)。
(2)この当時,株式会社Bは,株式会社Cに対して,合計4340万2500円の金銭債権(以下本件債権という。)を有していた(甲14)。
(3)D(以下Dという。)は,当時,株式会社Cの専務取締役であり(後の平成13年3月ころに代表取締役に就任),当時の株式会社Cの再建準備室長にはJが就いていた。
(4)同年10月ころ,被告人は,株式会社Cの和議申立ての代理人であるO弁護士に電話をし,また,再建準備室長のJにも電話をかけた。そして,それから同月27日までの間に,被告人は,数回,神戸にある被告人の兄Kが経営する有限会社Lの事務所において,Jと会った。なお,この有限会社Lの事務所は,被告人が代表する政治結社Mの事務所の隣の建物にあった。
(5)同月28日夕方,Dは,株式会社CのX支店でJと会い,このときJが被告人に電話をかけ,その電話でDも被告人と話をし,その結果,D及びJは被告人と会うため神戸の有限会社Lの事務所に行くことになった。そして,同日夜,DはJとともに有限会社Lの事務所に行って被告人と会ったが,その際,被告人は,Dに対して,本件債権に係る債務の支払を求めるとともに,少なくともこのうち2000万円を同月末までに支払うよう要求した。
(6)Dは,当時,株式会社Cが保険会社との間で契約していた企業年金保険の解
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約返戻金である6000万円弱の現金を自宅に保管しており(甲7),同月29日,Dは,当時の妻Eに依頼して,このうち2000万円(以下本件2000万円という。)を,本件債権に係る債務の支払として,F銀行G支店から,H銀行I支店のA名義の普通預金口座に振込送金した。
なお,株式会社Cの資産である現金については,Dだけでなく,当時の株式会社Cの代表取締役Nも,その一部を自宅に保管していた。
(7)同年12月1日午前10時,岡山地方裁判所倉敷支部は,株式会社Cにつき和議開始決定をした。その後,同支部は,平成12年3月3日に和議認可決定をし,同決定は同年6月7日に確定した。
(8)Dは,平成14年10月末ころ,株式会社Cの取締役会の席上で,本件2000万円の振込送金の事実を含め,株式会社Cの資産を被告人に渡すなどしていたことを明らかにし,その経緯等について説明した。その結果,Dは当時就いていた代表取締役を退任し,また,このころ,株式会社CはDを業務上横領罪で告訴した。
(9)平成16年12月ころから,Dは,業務上横領の被疑事実で警察から取調べを受け始め,その後,本件2000万円を含め,業務上保管していた株式会社Cの資産を横領したとして業務上横領罪で起訴され,第一審で有罪判決を受けた。
(10)他方,Dは,平成17年2月23日,本件2000万円の支払は被告人に恐喝されたなどとする被害届を警察に提出した。
2
Dの公判供述
そして,Dは,公判廷において,被告人から本件債権に係る債務の支払の要求があった状況等,本件2000万円の支払に至る経緯について要旨次のとおり供述する。

(1)株式会社Cが和議を申し立てた後,O弁護士から,被告人が右翼を名乗って同弁護士のところに,株式会社Cは整理屋であるPを関与させている,変な形
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で整理をしたら許さない旨の苦情の電話をかけてきたことを聞き,また,これを契機として,O弁護士からは,被告人が右翼であることを踏まえて,今後社員は一切対応する必要はなく,同弁護士に電話を回すようにとの指導を受けていた。
(2)その後,平成11年10月28日午後5時30分ころ,Jに呼ばれて株式会社CのX支店に行くと,Jから,被告人がどうしてもDに来てほしいと言っているので,神戸の被告人の事務所(実際は有限会社Lの事務所。以下同じ。)に行ってもらえないかと言ってきたが,O弁護士からの前記指導があったことから,行く必要はないと答え,Jと二,三十分の間話し合ったが,そのときJが被告人に電話をかけて,受話器を渡してきたので私が被告人と話をすることになった。
被告人は,今日どうしても神戸に来るように求めてきたが,行くことはできないと答えると,被告人が,

会社の下見てみい,こっちから車,そこの下へ2台回しとるし,家のほうも2台,若い衆行かしとる,今日あんたが帰ろうと思うても,家へ帰れんのやぞ。

と強い口調で言われた。それでも行くことはできないと答えていると,Jが受話器を取り,神戸へ行く旨を返事してしまった。なお,このとき,被告人から用件についての話はなかった。
(3)そこで,午後8時すぎころ,JとともにX支店を出て,神戸に向かったが,その車中で携帯電話に記録していた関係者の電話番号を消去したり,手帳をティッシュペーパーの箱の中に隠すなどした。また,Jから,これまで少なくとも2回,被告人の事務所に行ったこと,またその際被告人からPが整理屋である旨の苦情と,株式会社Bの株式会社Cに対する債権に係る債務の支払の要求があったことを聞いた。
(4)同日午後11時ころ,有限会社Lの事務所に到着し,被告人と事務所内で話をしたが,その際,被告人は,まず,Pは整理屋であると大阪や神戸の債権者が言ってきている,

わしも菱を張っとるんで,黙っとらん。

と言ってきて,
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これを聞いて,被告人が暴力団Q組系の関係者であると思った。
続いて,被告人は,妹が株式会社Bの社長に嫁いでいるが,妹が,株式会社Cが不渡りを出して,株式会社Bが大変なことになっていると言ってきたとして,株式会社Bの株式会社Cに対する本件債権に係る債務の支払を要求してきた。
この要求に対して,株式会社Cは既に裁判所に和議の申立てを行っており,既に裁判所から保全命令が出ているので,本件債権に係る債務の支払をすることはできないと言って断ったが,被告人はなお支払を要求し,今度はそのうちの2000万円を同月中に支払うように要求してきた。
この要求に対しても同様の理由で断り続けたところ,それまでソファーに座っていた被告人がいきなり立ち上がり,事務所の部屋の隅を指さしながら,

払ってくれんものなら,今日は帰らさん,払うまで,ここに泊まってもらう。

などと,怒りのこもった甲高い声で言ってきて,更に,株式会社Bの社長は東広島付近で相当に業者との付き合いがあるので,今後の和議の同意について,その力を発揮させてやろうという趣旨の話をしてきた。
(5)これを聞いて,このまま支払を断り続けていると,被告人の事務所に監禁されてしまい,自分や家族にも危害が加えられるのではないか,また,現在申立て中の株式会社Cの和議も妨害され,株式会社Cを再建することができなくなると思ったところ,Jが,2000万円は後にJが補てんするので,株式会社Bに対して2000万円を支払おうと提案してきた。Jがどのようにして補てんすることができるのかについて,被告人の前でかなりの時間をかけて押し問答をしたが,最終的にはJが補てんしてくれると考えて,株式会社Bに対して本件2000万円を支払うことを決意し,その旨を被告人に告げ,併せて,Jの補てんの約束について被告人に立会人になるよう求めたところ,被告人は納得し,立会人になることを承諾した。その後,被告人はすしをとってくれ,翌日午前1時ころに有限会社Lの事務所を出た。

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3
Dの公判供述の信用性
そこで,このDの公判供述の信用性について検討する。

(1)まず,Dの供述によれば,平成11年10月28日,D及びJが株式会社CのX支店を出発する際には,被告人の用件が何であるかは認識しておらず,以前にO弁護士のところに被告人がPが整理屋であるという趣旨の苦情の電話をかけてきたと聞いていたことなどから,神戸へ行けば被告人からその話が出ると思っていたにすぎないことになる。しかし,X支店で直接Dが被告人と電話で話をした際に,被告人が用件を話さず,Dも被告人にこれを尋ねなかったこと,また,Dは,神戸に向かう車中において,Jから,以前に少なくとも2度Jが被告人の事務所に行ったとの話を聞きながら,その際の被告人の用件やJと被告人の話の内容について詳細を聞かなかったということは,Dがこの車中で携帯電話の記録を削除したり,手帳を隠すなど,予想された被告人の行動に備えて周到な準備をしていることに照らすと,このことはそれ自体が不自然なものというべきである。
しかも,Dがこのとき被告人と電話で話した内容に関するDの公判供述は,この電話の際,被告人から本件債権に係る債務の支払を要求する話があったとするその検察官調書における供述と異なるものである。Dは,この供述の変遷の理由について,自分の業務上横領罪に係る公判において,裁判長から,被告人が本件債権に係る債務の支払を要求していることがあらかじめ分かっていたら,被告人の事務所に行けば金銭を取られることは当然分かっていたのではないかという趣旨の指摘を受け,分かっていたら自分は当然行かなかったであろうから,検察官調書における供述は勘違いであったと気付いたからである旨述べるが,この説明は,他方でDが,被告人から脅迫を受けたこと及びJが被告人に対して今から行く旨約束してしまったことから神戸に向かわざるを得なかった旨述べていることからすると,到底合理的であるとはいい難く,このDの供述の変遷は,Dが,自分の供述のうち,本件2000万円を被告人に脅し取
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られたということに整合せず,あるいは矛盾すると考えた部分を,故意に修正してきたことによる可能性が否定できない。
(2)また,Dは,株式会社Bに本件2000万円を支払うことを決意した際,被告人に対して,Jの2000万円の補てんの約束について立会人になるよう求めているが,これは,Dが供述するように,当時Dが被告人から,自分を監禁したり,自分や親族の身体,株式会社Cの和議に対する危害を加える旨の脅迫を受け,被告人を畏怖していたとすれば,不自然,不合理な行動というほかない。
この点,検察官は,Dは,被告人からの脅迫に屈して本件2000万円の振込送金をせざるを得ないと考えたものの,自分が株式会社Cの2000万円の現金資産を失わせたという責任を問われず,かつ,現金資産の欠損を明るみにせずに,それまで進められてきた株式会社Cの和議手続を進展させていくためには,Jの補てんの約束を確実に履行させるしかないと考えており,また,Dは,当時,Jを全面的に信頼する気持ちは持っておらず,しかも,Jの口だけの補てんの約束では履行はおぼつかないという思いから,自分と同様に被告人のことを畏怖しているであろうJに対していわば心理的な強制を働かせるために,被告人に立会人になってもらい,いざというときには暴力団組織を背景にしてJにその約束の履行を督促してもらいたいという,わらにもすがりつきたいというとっさの心理状態から被告人に立会人になってもらおうと考えたものであって,その当時畏怖していたDの心理状態としては理解し得るものである旨主張する。
しかし,そもそも,Dは,被告人に立会人になるよう求めた理由について検察官の主張するようには供述していないのであって,当時のDの心理状態が検察官の主張するように理解できる可能性があるからといって,その供述が不自然,不合理でないとはいえないというべきである。しかも,仮にDが検察官の主張するように,いざというときには暴力団組織を背景にしてでもJに補てん
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の約束を実行させるつもりで被告人に立会人となることを求めたのであれば,Dが本件2000万円の振込送金を決意した理由は,被告人からの脅迫があったことにではなく,Jが補てんの約束をしたことと,その約束について被告人が立会人となることを承諾したことにあったとみるのが自然なのであって,やはり,被告人から,自分を監禁したり,自分や親族の身体,株式会社Cの和議に対する危害を加える旨の脅迫を受けた旨のDの公判供述の信用性に疑問を挟むものというべきである。
また,Dは,本件2000万円を振込送金した後,被告人に対し,立会人としての役割を果たすように何回も求めたというのであるが,これもまた,被告人から脅迫を受け,被告人を畏怖していた者としては不自然,不合理な行動というほかない。
(3)次に,Dが本件2000万円の振込送金について被害届を出したのは,本件から約5年4か月後で,既に同人が業務上横領罪の被疑事実で捜査機関から取調べを受け始めた後の平成17年2月23日であるところ,このように被害届が遅れた背景及び理由について,Dは,公判廷において,要旨次のように供述する。すなわち,①本件2000万円を振込送金した平成11年10月29日の直後から,被告人から電話があり,更に株式会社Bの株式会社Cに対する債権に係る債務の残額を支払うように要求されたので,そういった金についてはもう工面ができないと断ったが,被告人は,

それじゃ株式会社Bがつぶれてしまう。

払ってくれないんだったら,裁判所に行って和議をつぶす。

などと脅してきたので,やむなく,同年11月5日,Yの駅で被告人に1000万円を手渡した,②これを皮切りに,被告人から更に株式会社Cの和議をつぶすなどと脅され,同月十五,六日ころに1000万円,同月下旬に500万円,同年12月初めころに500万円を被告人に渡した,③同月29日にも被告人に1000万円を渡したが,この時からは,被告人から,和議をつぶすという脅しだけではなく,事業展開の話があり,将来3億円とか5億円とかの金銭を
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返すという話もあって被告人に金を渡すようになり,結局,平成14年10月17日まで,合計28回,合計2億3460万円を,株式会社Cから預かっていた金銭から支払ったが,このうち,和議をつぶすという被告人の脅しがあって支払ったのが本件2000万円を含めて12回,事業を展開して将来金銭を返すという話があって支払ったのが16回であった,④本件2000万円の振込送金について被害届を出すのが遅れたのは,このように被告人が将来3億円とか5億円とかの金銭を返すと話しており,自分としては,株式会社Cから預かっていた資産を独断で被告人に渡してしまっていたので,被告人からそれだけの金銭を返してもらいたいという気持ちを強く持っており,本件2000万円について被害届を出してしまうと,被告人からは金が返ってこなくなると思って,被害届を出すことができなかった旨供述する。
しかし,Dは,前記のとおり平成11年11月5日から同年12月初めころまでの間に合計3000万円を被告人に渡したと述べているところ,これらは被告人から将来金銭を返すという話はなく,株式会社Cの和議をつぶすなどと脅されて渡したものである旨供述しているのであるから,前記の説明は,同年12月ころまでに本件2000万円について被害届を出さなかった理由にはなり得ないものである。この点,Dは,この時期までに被害届を出さなかった理由について,この時期に被害届を出せば,株式会社Cが保全命令を受けていたにもかかわらず特定の債権者である株式会社Bに対して債務の支払をしたことが明るみに出て,和議がつぶれてしまうと思ったからである旨供述するが,この供述は,当初裁判官がこの点の質問をした際にはこの時期までに被害届を出さなかった理由についておよそ答えることができなかったところに,検察官が誘導して答えを導いたものであるところ,このような重要な事項が誘導によらなければ供述できないということ自体が不自然,不合理というべきであるし,そもそも,被告人から脅されて株式会社Bに対する債務を支払い,あるいは被告人に金を渡したということが事実であれば,その被害を届け出たからといっ
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て,和議に差し支えが出るとは考えられない上,Dはこの点について和議の代理人であるO弁護士に全く相談をしていないのであって,その説明内容は到底合理的なものとはいえない。
なお,Dは,本件2000万円について被害届を出す前に,平成12年ころ,株式会社Cの経理部長Rに,本件2000万円を含めて当初Dが自宅に保管していた6000万円弱の現金の行方について説明し,平成14年10月末ころ,取締役会で本件2000万円を含め株式会社Cの資産を被告人に渡すなどしていたことを明らかにした旨供述するが,それでもDは結局平成17年2月に至るまで被害届を出さなかったのであるから,その不自然さを左右するものではないというべきであるし,特に,Dが平成11年12月ころまでに被害届を出さなかったこととはおよそ関係しないのであって,その不自然さ,不合理さをいささかも左右するものではない。
(4)以上に加え,Dは,平成11年10月28日以降,被告人との間の事柄についてO弁護士に全く相談をしていないが,Dの供述する被告人からの脅迫は,Dにおいて弁護士に相談することがためらわれるような,例えば弱みに付け込むようなものではないのであるから,これは不自然な行動というべきであること,Dは,自分自身が本件2000万円やその後被告人に渡した多額の金銭について業務上横領罪で起訴されており,自己に有利な事情を殊更に誇張,強調したり,不利な事情については否定したりあいまいにした供述をする動機があることも否定できないことも併せ考慮すれば,Dの前記公判供述は,これを裏付ける客観的状況や他の者の信用できる供述と符合する部分はともかくとして,全体的にその信用性に疑問が残るものというべきである。
4
Dの公判供述を裏付ける客観的状況や他の者の供述について

(1)そこで,Dの公判供述を裏付ける客観的状況や他の者の供述があるかについて検討する。
(2)客観的状況

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まず,本件2000万円の振込送金は,裁判所の保全命令によって支払を禁止されていた債務の支払であって,Dは,正当に支払を拒絶することができるにもかかわらず,被告人から要求を受けてこれを振込送金していること,当時,被告人はSの副議長,政治結社Mの代表及び暴力団であるTの総長の地位にあり,D及びJも当時被告人が右翼の大物であるとの認識を持っていたこと,そして,平成11年10月28日の本件債権に係る債務の支払要求は,政治結社Mの事務所の隣にある有限会社Lの建物の中で行われたことが証拠上明らかに認められるが,これらの事実は,Dが被告人から脅されて本件2000万円を振込送金したことを一定程度推認させる事実といえ,また,Dの公判供述を裏付けるものにもみえる。
しかし,他方で,株式会社Cは,Pの支援,協力を受けて和議の申立てをしたこと,Pは,Z事件で収監されたが,病気を理由に収監を免れ,当時入院先を転々としていたUが支配する企業であったこと,D及び当時の株式会社Cの代表取締役Nは,株式会社Cの資産である現金の一部をそれぞれの自宅に保管していたこと,Jは,Uから話があったことをきっかけとして株式会社Cの再建準備室長に就いたことが証拠上明らかである。
また,株式会社Cが申し立てた和議の平成11年10月当時の進行状況は,和議条件について債権者の同意の取付け中であり,当時の株式会社Cの事業計画は,株式会社Cに多額の債務を負っている株式会社V(代表取締役はU)の株式会社Cに対する債務の返済計画が重要な要素であったところ,平成11年10月当時の和議整理委員のこの事業計画に対する意見は,株式会社Vによる返済計画は具体的に数値化されたものではなく,しかも,弁済原資の多くが新規事業の成否にかかっている上,それら新規事業による収入見込みについて裏付けがなく,同社からの返済見込額を和議配当原資算定の具体的基礎としては評価できないので,和議不開始を相当とする。旨のものであったこと,その後,和議債権額の4分の3相当額の債権者の同意が得られたことから,同年
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11月24日,和議整理委員の意見は和議開始相当に変更されたこと(なお,これらの事実の認定は甲18添付の即時抗告申立書の記載によるものであり,同申立書は抗告人の主張が記載されたものにすぎないが,抗告人がこの点について真実と反する事実関係を記載するとは考え難いから,この点についての記載内容は事実と認められる。),その結果,平成12年3月3日に和議認可決定がされたが,これに対して一部の債権者が,株式会社Cの代表者が株式会社Vの株式をUに仮装譲渡し,関連会社の資産隠しを図った疑いがあることなどを理由として即時抗告を申し立てたことが認められる。
これらの事実から明らかなとおり,平成11年10月28日当時は,株式会社Cの和議申立てについては,その和議条件について法律上必要な債権者の同意(債権者集会において出席和議債権者数の過半数にしてその債権額が総債権額の4分の3以上の同意。旧和議法49条1項,旧破産法306条1項。)がいまだ得られておらず,株式会社Cの再建を目指すDとしては,和議条件について必要な債権者の同意を得ることが当面の重要課題であったと考えられるが,他方で,和議の手続にはUが関与していることやD及びNがそれぞれその自宅に株式会社Cの資産である多額の現金を保管していたことからすると,株式会社Cは,和議の手続において債権者を不当に犠牲にしようとしているとの批判を受けることももっともな状況にあり,実際にも債権者の中にはそのように考えている者がおり,被告人が株式会社Cに対して,和議に整理屋であるPを関与させている旨の苦情を言ってきたのも(この点については,D,J及び被告人の各公判供述はほぼ一致するから,事実と認められる。),その情報が被告人に入ったからであると考えられる。
そうすると,和議条件について必要な債権者の同意を得る見通しが必ずしも明るくない中,これを得たいと考えていたDが,被告人から,株式会社Bの社長は東広島付近で相当に業者との付き合いがあるという趣旨の話をされ,また,株式会社Cの債権者のうち3分の1は広島県内の者であったこと(Jの公判供
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述)もあって,自ら積極的に被告人や株式会社Bの協力を得て和議条件について債権者の同意を得たい,あるいは和議条件について債権者が積極的に反対しないようにしたいと思い,更に,Jから2000万円はJが後に補てんするという提案もあったことから,本件債権に係る債務を裏で非正規に弁済することを決意し,本件2000万円を振込送金したということも十分に考えられ,このように,Dが被告人からの脅迫がなくても本件2000万円を振込送金することは合理的にあり得ることというべきであるし,むしろ,Dが,平成11年11月下旬及び同年12月初めころに各500万円を被告人に渡した理由について,被告人から株式会社Cの和議条件についての債権者の同意の取付けのための費用として要求されて支払った旨供述していることは,この合理的な可能性の存在を裏付けるものといえる。
しかも,Dがこのような理由で本件2000万円を振込送金したとすると,Dが被告人に対してJの補てんの約束について立会人になるよう求めたこと,またその後被告人に対して立会人としての役割を果たすように何回も求めたり,平成14年10月に至るまで被告人に対して多額の金銭を渡していたこと,平成17年2月に至るまで被害届を出さなかったこと,平成11年10月28日以降被告人との関係についてO弁護士に一切相談をしなかったことのすべてが,一応,合理的な行動として説明できるのである。
したがって,前記の客観的状況は,Dが被告人から脅されて本件2000万円を振込送金したことを推認させるに十分なものとはいえず,Dの公判供述を裏付けるものとも,その信用性を増すものともいえないというべきである。(3)Jの公判供述
次に,Jは,公判廷において,平成11年10月28日の有限会社Lの事務所における出来事について,①被告人は,株式会社Bの株式会社Cに対する本件債権について,何とかしてくれないと困るなどと言って,当初は約4300万円全額の支払を要求していたが,やがて最低でも2000万円を今週の金曜
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日までに支払ってくれないと株式会社Bがつぶれる,倒産する,とせっぱ詰まった言い方をしてきた,②Dがこれを断っていると,被告人は,広島の債権者の和議の取付けが協力できない,そうすると和議がつぶされる,このままだったら私の立場もないから,街宣を岡山に回してでもつぶすなどと言ってきた,③また,被告人は,2000万円の支払の話がつかなければ,今晩泊まってでも帰さない,結論が出ない限りは帰すわけにはいかない旨強硬に言ってきた,④そして,この間,被告人は,組織という言葉を出したり,Dの自宅を三,四回,徹夜で監視していたこともあると言っていたなどと,Dの公判供述と概ね符合する供述をする。
しかし,このJの公判供述は,被告人から菱という言葉は出なかった旨述べる点など,この日の被告人の言動についてもDの公判供述と異なる点がある上,この日Dが本件2000万円の支払を決意するに至った経緯についても,自分がDに話したのは,緊急避難をする場合もあるかもしれないので弁護士と相談しながら進めることを助言し,その具体的方法として,株式会社Bの手形を割り引くなどの形で株式会社Bに貸付けをすることや,A1の株を売却することなどの具体的な処理方法があるという話をしただけである,また,この場ではD又は自分において被告人に対して本件2000万円を支払う約束はしておらず,持ち帰って検討し,前向きに努力すると言っただけであり,自分がDに2000万円を補てんする約束をしたこともなければ,Dが被告人に対してその約束の立会人になるよう求めたこともない旨,Dの公判供述と大きく異なる供述をしているのである。
しかも,Jの公判供述は,その他の部分においては,全くと言ってよいほどDの公判供述と異なるものである。すなわち,Jは,①平成11年10月28日に至るまでの経緯について,同年9月末か10月初めころ,被告人から株式会社Cにかかってきた電話を自分が受けたところ,被告人から,身内が債権者であるとして,その代理人としての債権の支払の要求があり,その後同月27
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日までの間に2回被告人の事務所で被告人と会った際も,被告人から本件債権に係る債務の支払の要求があったが,被告人からこのような要求があったことについては,1回目に被告人の事務所に行った翌日にDに報告した旨供述し,また,②同月29日にDが本件2000万円を振込入金した理由についても,多分,Nさんと相談をして,Nさんが,やっぱりDさんのいろいろな危機管理の中の話を聞いて,やばいと思って,それで今の,Aさんにはやっぱり世話になってるとかいろんなことの中で,要するにお金は払ったと思います。,(被告人からいろいろ言われて精神的に追い込まれていたということも)あると思いますよ,いろんな意味でね。和議のつぶしもある,いろいろな問題を加味した中で,たまたまDさんとこに,現金が四億何千万あったもんだから,(中略)そういう中で,そういう形で,まあ一抜けたという形の気持ちがあったんじゃないですかね。などと,被告人の脅迫が理由ではないかのような供述をしているのである。
このように,Jの公判供述は,Dの公判供述と重要な点で食い違っており,特に,D及び被告人が一致して供述している,JがDに2000万円を補てんする約束をし,被告人がその約束の立会人となったという点についてまでこれと異なる供述をしているのである。Jは,Uから話があったことをきっかけとして株式会社Cの再建準備室長に就いたこと,Jも自分はUに対する債権者である旨供述していることからも明らかなように,Uと関係を有する人物であることは明らかであって,自己に有利な事情を誇張,強調したり,不利な事情を否定したりあいまいにする供述をする動機があることも否定できず,まさにこの立会人に関する点は,Jが意図的に虚偽の供述をしているものと認められる。しかも,Jは,本件について警察から事情聴取を求められた際にも,取調べや調書の作成を断り,自分で陳述書を作成してこれを提出する方法によることを求め,そのとおり陳述書を提出するにとどめている上,検察官の事情聴取には応じたものの,その際に作成された検察官調書は,自分が提出した陳述書を
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基にして,検察官が幾つか質問をしながらこれを文章にして作成したものである旨供述している。また,Jが当初作成して警察に提出した上申書には,被告人がDを脅迫した状況や脅迫内容について余り詳しい記載がされておらず,警察からの要請で更に補充陳述書を作成して提出したというのであって,このようなJの供述経過に照らすと,Jは,その知覚,記憶に誤りのある供述や,自己に有利な事情を誇張,強調したり,不利な事情を否定したりあいまいにする供述を是正,修正する機会がないまま,公判廷で供述するに至ったということができる。
このようにみると,Jの前記公判供述もまた,全体的にその信用性に疑問があるというべきであって,平成11年10月28日の有限会社Lの事務所における出来事について,JがDの公判供述と符合する供述をしている部分があるからといって,Dの公判供述が裏付けられ,あるいはその信用性が増すということはできないというべきである。
(4)Eの公判供述
次に,本件当時Dの妻であったE(以下Eという。)は,公判廷において,①Dから本件2000万円の振込送金をするように頼まれた際,Dは時間を気にして,慌てているように見えた,②その後も,Dは,何度も株式会社Cの現金を保管している金庫を開けるようにと頼んできたが,そのときのDの様子も,急いでいるようで,それを見て,だれかに脅されているのかと思った,③前記の振込送金をしたすぐ後から,被告人から毎日のように電話がかかってくるようになり,それに応対しているDの様子は,大変困ったという態度であり,Dから被告人に対して居留守を使うように頼まれたこともあった,④Dが電話で被告人と話すときは,普通の人と話す態度ではなく,家族を遠ざけ,小さい声で話しており,また,被告人に対して

もう勘弁して下さい。

などと言っていたのを聞いたことがある,⑤Dに被告人のことを尋ねると,Dは,

右翼じゃあ。暴力団みてえなもんじゃあ。

と言っていた旨供述する。
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しかし,このEの公判供述は,Dの公判供述と矛盾するものではないものの,これを積極的に裏付けるものともいい難い。すなわち,前記のとおり,本件においては,和議条件について必要な債権者の同意を得たいと考えていたDが,積極的に被告人や株式会社Bの協力を得て和議条件について債権者の同意を得たい,あるいは和議条件について債権者が積極的に反対しないようにしたいと思い,本件債権に係る債務を裏で弁済したという合理的な可能性があるというべきであるところ,Eの公判供述は,これとも全く矛盾せず,整合的に理解することができるものである。そうすると,Eの公判供述もまた,Dの公判供述を裏付けるものとも,その信用性を増すものともいえないというべきである。(5)被告人の公判供述
このように,Dの公判供述を裏付け,その信用性を増すような供述はないというほかない。
もっとも,被告人は,公判廷において,平成11年10月28日の夜,有限会社Lの事務所において,Dに対して,本件債権を支払ってほしいと求めたが,菱や街宣という言葉を出してDを脅したことはない旨供述する一方で,

お金払わないなら帰すわけにはいかない。

とか

今日からここに泊まれ。

ということを言ったかという趣旨の質問に対しては,とにかく2人ともが,せっかく来ていただいたんやから,そこで,どうかお宅ら解決するまではちょっと,お金の段取りをする算段をして下さい,それまではおってくださいという意味のことは言ったと供述しており,被告人は,このとき,Dに対して,具体的な言葉の内容はともかく,本件2000万円の算段がつくまでは有限会社Lの事務所にいるように言ったと認められる。また,被告人は,このとき,Dに対して,整理屋のような者を入れていれば,和議に反対する者は多い,ほかの債権者もみんなそう言っている旨発言したとも供述しており,これらの発言がDに対する脅迫に当たるかを検討する必要がある。
まず,本件2000万円の算段がつくまでは有限会社Lの事務所にいるよう
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に言ったことについては,この発言の趣旨や発言の状況を踏まえて検討する必要があるところ,①これについて,Dは,被告人がいきなり立ち上がり,事務所の部屋の隅を指さしながら言ったものである旨供述するが,他方でJ及び被告人は,被告人は座ったまま言った旨供述しており,被告人が立ってこの趣旨の発言をしたとは証拠上認め難いこと,②本件債権に係る債務は保全処分によって弁済が禁止されているとはいえ,債権としては存在していたことからすれば,被告人がこの発言について,今日中に解決してくださいという意味であるとも述べていることを一概に否定することはできず,この発言が直ちにDに対する脅迫に当たるとはいい難い。また,整理屋のような者を入れていれば,和議に反対する者は多い,ほかの債権者もみんなそう言っている旨の発言は,一概に被告人の要求に応じなければ和議の手続を妨害するという趣旨とは解されないし,仮にそのような趣旨に受け取る余地があるとしても,被告人が具体的な妨害の手段や方法を示唆したわけではないこと,前記のとおり,当時,株式会社Cの和議の手続は,今後和議条件について必要な債権者の同意を得ていく段階にあり,被告人が既に和議条件に対して同意の意向を示している債権者に対して働きかけをすることが具体的,現実的に想定される状況にはなかったとみられることからすれば,この発言もDに対する脅迫に当たるとは認め難い。そうすると,この点の被告人の公判供述によって,平成11年10月28日の夜に有限会社Lの事務所で被告人がDを脅迫したと認めることはできず,また,Dの公判供述が裏付けられ,あるいはその信用性が増すということもできない。
(6)被告人の動機について
また,検察官は,被告人には本件犯行の動機がある旨主張するが,被告人がDに対して本件債権に係る債務の支払を要求したことについて争いのない本件において,被告人に動機があることをもって,Dの公判供述が裏付けられ,あるいはその信用性が増すとは到底いえないというべきである。

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(7)被告人のした被害弁償について
なお,検察官は,被告人が起訴後株式会社Cに対して2000万円を弁償していること,また,その際に株式会社Bの社長の妻に対して,2000万円を返さないことには自分が罪になる旨話したことについて,被告人の公判供述が真実であれば,被告人は何ら違法行為を行っておらず,また,2000万円も受け取っていないというのであるから,被告人はこのような弁償をする必要は全くないのであって,被告人はDに対して恐喝行為に及んだという認識があったからこそ前記弁償に及んだ旨主張する。
しかし,そもそも,2000万円を恐喝したとの被疑事実で身柄拘束を受け(後に勾留が取り消されて釈放されている。),起訴された被告人が,自らは無罪であると考えていたとしても,有罪と判断された場合に備え,有利な情状として評価を受けるために被害弁償をするということは,刑事被告人としてあり得る行動,態度というべきであって,このことを被告人がDを恐喝した根拠として重視することは相当でないというべきである。
また,弁護人の主張するとおり,被告人が自らには刑事責任はないと考えていても,民事上は,株式会社Cの株式会社Bに対する2000万円の弁済は保全命令に反するものである以上,その効力が否定されて株式会社Bが株式会社Cに対して2000万円の返還義務を負う可能性は高いのであって,その義務を前記弁済に関与した被告人が履行したとみることも可能であるから,やはり,前記弁償を被告人がDに対して恐喝行為に及んだ根拠として重視することは相当でないというべきである。
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まとめ

(1)以上のとおりみてくると,結局,Dの公判供述の信用性には疑問が残り,他の証拠関係に照らしても,本件公訴事実のうち,被告人がDを脅迫した事実を認定するにはなお合理的疑いが残るというべきである。
(2)もっとも,被告人の捜査段階及び公判廷における供述もまた不自然,不合理
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な点が多く,にわかには信用できないものである。
例えば,被告人は,公判廷において,和議の意味など,法律的な手続のことはよく分からず,裁判所で既に手続が進行していても,Dの一存で本件債権に係る債務の支払を受けることができると考えていた旨供述する。しかし,前記のとおり,株式会社Cの和議の申立ては,平成11年7月21日であり,同月22日には保全命令が出ているところ,被告人は,本件当日までに3回Jと会って本件債権に係る債務の支払を要求していたと述べるのであり,その際,被告人からの要求を受けたJとしては,和議の申立て中であることや保全命令が出ていることを理由として支払できない旨説明するのが自然である上,Jも,公判廷において,被告人が本件債権に係る債務の支払を要求してきたが,和議の申立て中であるので支払をすることはできないとはっきり断った旨供述していることからすれば,被告人は,Jから,和議の申立てや保全命令を理由として支払できないことの説明を受けていたと認めるべきである。また,被告人は,和議の法律的は意味はよく知らなかったと供述しながら,他方ではDに対して,整理屋のような者を入れていれば,和議に反対する者は多い,ほかの債権者もみんなそう言っている旨発言していることからすれば,被告人が和議について一定の知識を有していたことは明らかであって,これらによれば,Dの一存で本件債権に係る債務の支払を受けることができると考えていた旨の被告人の供述は,到底信用できるものではない。
このほかにも,被告人の公判供述には,不自然,不合理な点がみられるのであって,本件の事実関係が被告人の供述するとおりであったと認めることもまた,できないというべきである。
(3)しかしながら,前記のとおり,Dの公判供述その他の証拠によって本件公訴事実を認定することに合理的疑いが残る以上,被告人に有利に,本件公訴事実について犯罪の証明がないと判断すべきことは当然のことである。(4)ところで,本件において,Dを,被告人を陥れようとした者として非難する
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ことは相当ではないであろう。株式会社Cの和議にPや株式会社Vが関与していたことの当否や,これらの関与がDの望むものであったかどうかはおくとして,Dは,本件当時は株式会社Cの専務取締役として,後には同社の代表取締役として,株式会社Cの再建を第一と考えていたのであって,被告人は,このようなDの株式会社C再建にかける思いを利用して,本件2000万円を含め,Dから2億円を超える多額の金銭を引き出したものと認められる。そして,この多額の金銭は,結局D又は株式会社Cには一切返還されなかったため,株式会社Cからは再建に必要な資産がその分流出したままとなり,その後も株式会社Cの業績が芳しくなかったこともあってか,現在に至るまで株式会社Cの再建は実現せず,現在,株式会社Cは,和議を履行するためだけに存続しているというような状態(弁9)であり,他方,Dは,株式会社Cの多額の資産を業務上横領した犯罪者として長期の服役を余儀なくされる状況に至っているのである。被告人は,Dから多額の金銭を引き出すに当たり,様々な事業の話をDに持ちかけていたが,いずれも形になっていないのであり,Dが被告人にだまされたと考えるのも無理はなく,被告人は,このような株式会社CやDの現状を作り出したことについて,刑事責任はないとしても,民事責任,あるいは道義的,社会的責任の一端を負わなければならない可能性が高いといえ,本件において,ひとりDのみを責めることは酷というべきであって,被告人においても,自己の行為とその責任を顧みる必要があろう。
6
結論
以上のとおり,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。

よって,主文のとおり判決する。
(検察官熊谷功太郎,同中川善雄,私選弁護人明石博隆各出席)
(求刑―懲役3年
平成19年3月15日

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神戸地方裁判所第2刑事部

裁判官岩
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崎邦生
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