判例検索β > 平成18年(ラ)第743号
養子縁組許可申立却下審判に対する抗告事件
事件番号平成18(ラ)743
事件名養子縁組許可申立却下審判に対する抗告事件
裁判年月日平成19年9月20日
法廷名大阪高等裁判所
結果その他
判例集等巻・号・頁第60巻3号1頁
原審裁判所名大阪家庭裁判所
判示事項後見人が自己の直系卑属である未成年者被後見人を養子とするため民法794条の許可申立てをした場合における裁判所の審査すべき範囲
裁判要旨後見人が,自己の直系卑属である未成年者被後見人を養子とするため,民法794条の養子縁組許可を申し立てた場合,裁判所は,当該被後見人の財産的地位に対する危険を排除するという観点から当該養子縁組の当否を吟味すれば足り,子の福祉確保の観点からその当否を審査すべきではない。
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主文1
原審判を取り消す。

2
抗告人が未成年被後見人を養子とすること
を許可する。

3
抗告費用は,抗告人の負担とする。

第1
1由
事案の概要等
事案の概要
(1)

未成年被後見人(以下「B」という。
)の後見人である抗告人(昭和2

4年▲▲月▲▲日生,Bの祖母に当たる。
)がBとの養子縁組の許可(民法
794条)を求めた事案である。
(2)

抗告人の長女であるC(以下「C」という。
)は,平成13年▲月▲▲

日,D(以下「D」という。
)と婚姻し,同年▲月▲▲日に長男Bをもうけ
たが,
平成14年▲月▲日,
Bの親権者を母であるCと定めて協議離婚した。
(3)

抗告人は,平成18年1月18日,Cが,その監護下にあるBに対し虐
待を繰り返したことを理由として,実母の親権を喪失させる旨の審判を申し立てるとともに(大阪家庭裁判所平成18年(家)第322号)
,これを本案
として,Cの親権者としての職務執行を停止し,職務代行者に自己を選任する旨の審判前の保全処分を申し立てたところ(同裁判所平成18年(家ロ)第10008号)
,大阪家庭裁判所は,同年2月3日,本案及び審判前の保
全処分の申立てもいずれも理由があるものと認め,同旨の各審判をした(確定)

(4)

抗告人は,同月18日,民法838条に基づき,Bの未成年後見人とし
て自己を選任することを求める審判を申し立て(同裁判所平成18年(家)第80479号)
,大阪家庭裁判所は,同年3月23日,これを認め,抗告人
をBの未成年後見人に選任する旨の審判をした。

(5)

抗告人は,同年5月3日,抗告人が被後見人を養子とすることの許可を
求める審判を申し立てた(原申立て)

(6)

原審は,同年8月9日,原申立てを却下する旨の原審判をした。
原審判の理由の要旨は,抗告人が愛情をもってBの養育監護に当たってい
ることは窺われるが,養子縁組が許可されても,生活の実態に変化が生じる訳ではなく,現時点で養子縁組すべき必要性に乏しく,むしろ,実父のDが養育の意欲を示していること等からみて,Dが親権者となる余地を閉ざすことは相当でないから,本件の養子縁組がBの福祉に適うものということはできない,というものである。
本件は,この原審判に対し,抗告人が抗告をした事件である。
2
抗告の趣旨及び理由
(1)

抗告の趣旨
抗告人は,原審判を取り消し,本件を大阪家庭裁判所に差し戻すとの裁
判を求めた。
(2)

抗告の理由
抗告の理由は,別紙のとおりである。

第2
1
当裁判所の判断
当裁判所は,原審判と異なり,本件養子縁組の許否について,それがBの福祉に適うか否かの検討を加えることは相当でなく,むしろ,本件においては,抗告人の原申立てを認容し,本件養子縁組を許可すべきであると判断する。その理由は,次のとおりである。

2
事実関係
(1)

記録によれば,原審判1頁24行目から3頁21行目までの事実が認め
られる。
(2)

記録(特に,当審における家裁調査官の調査)によれば,更に,次の事
実が認められる。


Cは,Bに対する児童虐待(傷害罪)により,平成18年10月12日,懲役2年に処する旨の実刑判決(控訴なく確定)を受け,現に服役中である。


抗告人は,平成18年1月以降,その配偶者Eとともに,Bを継続して監護養育している。


Dは,平成18年▲▲月▲日,現妻と婚姻し,同年▲▲月▲日,長男をもうけた。
Dは,現時点でも,将来的にはBを引き取りたい意向であり,これについては現妻も同意しているとして,抗告人らと被後見人の養子縁組には反対している。
なお,Dは,BがDを父親として認識していないので,当面は,Bの監護に抗告人が当たることに異論はなく,Bとの面接交渉を重ねることにより,親子間の信頼関係を築いていく意向である。


Cは,上記のとおり,現在服役中であり,被後見人の監護を抗告人らに委ね,抗告人らと被後見人との養子縁組についても同意している。

Bは,
現在では,Cの虐待による身体的外傷もほぼ治癒し,
心理面でも,
徐々に被虐待児症候群の症状が緩解して,日常生活上支障を生じない程度に回復している。また,Bは,抗告人及びその夫と同居し,その監護を受けながら,保育園に通園しているが,抗告人らに親和し,精神的に安定した状況にある。


抗告人らは,Dに対しては,Bの精神的状況が安定するまで静観することを求めており,現段階では,DとBとの面接交渉については消極的である。


抗告人が管理する被後見人の財産としては,比較的少額(約18万円)の預貯金以外に存在しない。

3
以上の事実関係を前提に,本件養子縁組許可の当否について検討する。
(1)

民法は,792条以下に養子縁組の要件に関する規定を置いているが,
本件に直接関連する後見人と被後見人の縁組につき家庭裁判所の許可を必要と定める民法794条は,親権者と同様の財産管理権を有する後見人が被後見人と縁組することを認めると,後見人の財産管理に対する民法の厳格な規制(861条,863条,864条,866条,870条,871条等。これとの対比で親権終了時における828条参照。
)を回避することが事実上
可能となることから,そのような場合における被後見人の財産的地位に対する危険を排除する趣旨で設けられた規定と解される。このことは,同条後段が「後見人の任務が終了した後,まだ管理の計算が終わらないときも,同様である。
」と規定していることからも明らかというべきである。
(2)

次に,民法798条は,未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可
を得るべきことを定めている。この規定は,未成年者縁組が未成年者の福祉に反する事態を生じたこともあった歴史的経験に鑑み,新たに,未成年者縁組が当該未成年者の福祉に適うか否かの審査権限を家庭裁判所に付与したものであるが,同条ただし書きは,未成年者が自己又は配偶者の直系卑属であるときは,そのような縁組が当該未成年者の福祉に反するようなことは通常生じないであろうとの立法政策上の判断から,家庭裁判所の許可を不要とする旨定めたものである。この立法について批判がないではないが,それが立法政策の問題にとどまるものである以上,
本条ただし書きに該当する場合は,
当該縁組が未成年者の福祉に適うか否かについての家庭裁判所の審査権限は及ばないものと解するほかない。
(3)

これらの民法の規定の構造を踏まえて検討すると,本件は,抗告人が自
己の直系卑属であるBを養子とする場合であるから,Bの福祉確保の観点から本件縁組の当否を審査する必要がないことは明らかであり,前記の民法794条の規定の趣旨に従い,Bの財産的地位に対する危険を排除するという観点から吟味を加えれば足りるのであって,そのような財産管理上の問題が
認められない場合には,本件縁組に許可を付与するのが相当というべきである。
したがって,
この点についての原審の上記判断に賛同することはできない。
(4)

そして,Bの財産状況は,前記のとおりであり,本件において,抗告人
が被後見人の財産を危うくするおそれがあるとは認められないから,上記の説示に照らし,本件縁組は許可するのが相当である。
抗告人の主張は,理由があるものというべきである。
もっとも,本件のように後見人が15歳未満の被後見人を養子とすることは利益相反行為となるため,本件養子縁組については,本裁判による許可のほか,特別代理人を選任した上で,その代諾を要することは当然のことである(民法860条,826条1項)

4
以上の次第で,抗告人の原申立てを却下した原審判は相当でなく,本件抗告は,理由があるから,家事審判規則19条2項に従い,原審判を取り消した上,本件縁組を許可する旨の審判に代わる裁判をすることとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官

田中壯太

裁判官

松本


裁判官

齋木稔久)

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