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医師免許取消処分取消請求事件
事件番号平成19(行ウ)19
事件名医師免許取消処分取消請求事件
裁判年月日平成20年2月28日
法廷名名古屋地方裁判所
裁判日:西暦2008-02-28
情報公開日2017-10-17 20:44:38
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平成19年(行ウ)第19号

医師免許取消処分取消請求事件

主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求

処分行政庁が原告に対して平成19年2月28日付けでした同年3月14日をもって医師免許を取り消す旨の処分を取り消す。
第2

事案の概要

本件は,医師免許を取得して精神科の診療に従事していた原告が,患者に対する強制わいせつ行為等により有罪判決の言渡しを受け,厚生労働大臣(処分行政庁)により医師免許を取り消す旨の処分(以下本件処分という。)を受けたことから,本件処分の違法を主張してその取消しを求めている事案である。1
前提事実(争いがないか,証拠上明らかである。)

(1)原告(昭和26年○月○日生)は,医師免許を取得し,別紙犯罪事実記載の年月日当時,医療法人甲(当時の代表者理事長は原告)が開設する乙クリニック(現在の名称は丙クリニック。以下本件クリニックという。)において,精神科医師として診療に携わっていた者である。
原告には,妻aとの間に二男二女がある。
(2)原告は,平成17年10月25日,名古屋地方裁判所岡崎支部において,別紙犯罪事実記載のとおり,診療中の女性患者3名に対し,乳房を揉んだり陰部を触るなどした強制わいせつ及び準強制わいせつの罪により,懲役1年8月の実刑判決(同支部平成17年(わ)第316号,第386号,第440号)の言渡しを受け(以下,別紙犯罪事実記載の各犯行を本件各犯行という。),これを不服として控訴したところ,平成18年5月11日,名古屋高等裁判所において,懲役1年
8月,執行猶予4年の判決(同裁判所平成17年(う)第704号)の言渡しを受けた。名古屋高等裁判所は,同判決において,①本件各犯行は,同種の犯罪を3度にわたって繰り返したもので常習性が認められ,動機において酌むべき点がない上,被害者らが原告を主治医として全幅の信頼を寄せていたことを悪用した点で誠に卑劣であること,②患者らは医師を信頼しているからこそ,自己の秘密を打ち明け,身体を診せ,時には侵襲行為をも受忍するのであって,そのような行為を預かる医師には高度の倫理性が求められ,それと引換えに高い社会的評価を受けているのであるが,本件各犯行は,そのような前提を根底から揺るがしかねないものであって,行きずりの当事者間の強制わいせつ行為等と比して社会的影響が大であること,③被害者らが感じた屈辱,羞恥,恐怖等の精神的苦痛も当然大きく,患者の身でありながら,主治医の原告を告訴するには大きな苦悩と葛藤があったことも容易に想像がつくこと,④被害者らとの間で示談が成立し,いずれ医師免許に対する行政処分が予想されていること,前科前歴のないことなどの有利な事情を考慮しても,本件各犯行が地位を悪用した卑劣な犯罪で被害者が3名に達する累行された事案であることによれば,当然に執行猶予相当であるとはいえないこと,⑤しかし,原告が第1審判決後も厳しい社会的非難にさらされ続け,改めて自らの不明を恥じ,反省の情を深め,100万円の贖罪寄附をしたことを併せ考えると,社会内での更生の機会を与えることが相当であることなどを指摘した。同判決は,双方から上告等もなく,確定した。
なお,原告は,平成17年4月21日に逮捕されてその後勾留され,第1審係属中の同年7月15日に保釈され,実刑判決の言渡しにより保釈が失効して収容されたが,5日後に再度保釈された。また,原告は,逮捕直後ころ,愛知県弁護士会所属弁護士bを弁護人に選任し,第1審においてその弁護を受けたが,第1審判決直後ころ,b弁護士に替えて,同弁護士会所属弁護士cを弁護人に選任し,控訴審においてその弁護を受けた。そして,原告は,第1審係属中の同年7月上旬,被害者A及びCに各300万円の慰謝料を支払い,被害者Bに350万円の慰謝料を支払
って,被害者らと示談し,控訴審係属中の平成18年2月及び4月に法律扶助協会に対し合計100万円の贖罪寄附をした。
(3)厚生労働大臣は,平成19年2月28日,原告が上記有罪判決を受けて医師法(平成18年法律第84号による改正前のもの。以下同じ。)4条3号に該当することを理由として,同法7条2項の規定に基づき,平成19年3月14日をもって,原告の医師免許を取り消す旨の処分(本件処分)をした。
なお,厚生労働大臣は,本件処分をするに当たり,平成18年11月20日,愛知県知事に対し,原告の意見を聴取するよう依頼し,同県健康福祉部健康担当局医務国保課主査において,平成19年1月19日,原告及びその代理人c弁護士から意見を聴取した上,同知事は,同月26日,同大臣に対し,

当事者は,事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます。

との意見書を提出した。そして,同大臣は,同年2月28日,医道審議会に対し,原告に対する行政処分について意見を求めたところ,同審議会医道分科会長は,同日,原告につき免許取消との答申をした。
2
関連法令

(医師法)
4条

次の各号のいずれかに該当する者には,免許を与えないことがある。
1号

心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚
生労働省令で定めるもの
2号

麻薬,大麻又はあへんの中毒者

3号

罰金以上の刑に処せられた者

4号

前号に該当する者を除くほか,医事に関し犯罪又は不正の行為のあつ
た者
7条
1項

(略)

2項

医師が第4条各号のいずれかに該当し,又は医師としての品位を損す
るような行為のあつたときは,厚生労働大臣は,その免許を取り消し,又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる。
3項

前項の規定による取消処分を受けた者であつても,その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたとき,その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは,再免許を与えることができる。(以下略)

4項

厚生労働大臣は,前3項に規定する処分をなすに当つては,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならない。

5項

厚生労働大臣は,第1項又は第2項の規定による免許の取消処分をしようとするときは,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め,当該意見の聴取をもつて,厚生労働大臣による聴聞に代えることができる。

8項

都道府県知事は,第5項の規定により意見の聴取を行う場合において,第6項において読み替えて準用する行政手続法第24条第3項の規定により同条第1項の調書及び同条第3項の報告書の提出を受けたときは,これらを保存するとともに,当該処分の決定についての意見を記載した意見書を作成し,当該調書及び報告書の写しを添えて厚生労働大臣に提出しなければならない。

10項

厚生労働大臣は,当該処分の決定をするときは,第8項の規定によ
り提出された意見書並びに調書及び報告書の写しの内容を十分参酌してこれをしなければならない。
3
争点

(1)本件処分の実体的適法性の有無。
(2)本件処分の手続的違法性の有無。
第3
1
争点に関する当事者の主張
争点(1)について

(被告の主張)
(1)医師が医師法4条3号に規定する罰金以上の刑に処せられた者に該当するときは,厚生労働大臣は,同法7条2項に基づき医師免許を取り消し又は医業の停止を命ずるかどうかを決定する。そして,医師免許を取り消すか,又は医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,諸般の事情を考慮し,同項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるが,その判断は,医道審議会の意見を聴く前提の下で,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解するのが相当であり,厚生労働大臣がした処分は,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とはならない。
(2)原告は,本件各犯行に係る強制わいせつ及び準強制わいせつの罪により,懲役1年8月,執行猶予4年の刑に処せられたものであり,医師免許の取消事由である罰金以上の刑に処せられた者(医師法4条3号)に該当することは明らかである。
また,刑事事件の判決が指摘しているように,原告は,性的な好奇心を満たそうと,繰り返しわいせつ行為をするという本件各犯行に及んだものであり,被害者らの人格を無視してひたすら自己の性欲を満たそうとしたその動機は,極めて自己中心的なものである。診察を受けに来た被害者らに対し,診察行為の一部ではないかと思わせ,また,突然のことで抵抗すらできない状況の下で被害者の乳房等を弄ぶなどしたものであり,患者の尊厳を守りつつ,その治療に誠意を尽くすべき医師としての重大な責務を放棄した本件各犯行の態様は,真に卑劣かつ悪質である。本件各犯行は,同種の犯罪を3度にわたって繰り返したものであり,原告には常習性も認められる。一般に,患者は医師を信頼しているからこそ,自己の秘密を打ち明け,身体を診せ,時には侵襲行為をも受忍するのであって,そのような行為を預かる医師には高度の倫理性が求められ,それと引換えに高い社会的評価を受けているので
あるが,原告の本件各犯行は,そのような前提を根底から揺るがしかねないものであって,行きずりの当事者間の強制わいせつ行為等と比して社会的影響が大きいものである。
このような本件各犯行の悪質性等を考慮すれば,厚生労働大臣の本件処分の判断が,社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合に該当しないことは明らかである。
(3)原告は,本件の犯罪事実の実態は,治療行為の一環として行われたものであるにもかかわらず,被害者らは原告に対し金銭を要求し,これを拒否された意趣返しとして告訴したと推認される旨主張するが,刑事事件の審理においては,原告の上記のような供述内容や,第1審及び控訴審における各弁護人の助言を受けた上での原告の公判供述を踏まえた事実認定が行われたものであり,その認定には疑う余地がない。3名の被害者が,いずれも同様の金員要求を行い,そのいずれもが虚偽告訴を行ったという原告の主張こそが不自然である。
(4)原告は,本件処分は他の処分例と比較して著しく均衡を欠く旨主張するが,過去の処分事案に関する刑事罰対象行為の概要と判決結果のみを本件処分と比較してその適法性を論じようとすること自体理由がないし,過去5年間の処分例を,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ及びこれらの罪と他罪の併合罪を行った者に限定して見ると,医業停止にとどまった例はいずれも診療外での犯行であり,診療中にこれらの罪を犯した者が免許取消しとならなかった例はないから,原告の同主張は理由がない。
また,原告は,本件処分が,医道審議会医道分科会の作成した医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方についてと題する指針に引きずられた類型的,形式的判断である旨主張する。
同指針は,わいせつ行為について,国民の健康な生活を確保する任務を負う医師,歯科医師は,倫理上も相応なものが求められるものであり,猥せつ行為は,医師,歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり,また,人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為である。行政処分の程度は,基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが,特に,診療の機会に医師,歯科医師としての立場を利用した猥せつ行為などは,国民の信頼を裏切る悪質な行為であり,重い処分とする。としているのであって,本件処分が,本件各犯行の種類,性質,動機,診療の機会であったか否かを具体的に検討し,原告に執行猶予が付されている事実,刑事判決に判示される情状,意見の聴取において原告が述べた意見や提出された嘆願書等の原告に有利な事情等をも考慮し,医道審議会の意見を聴いた上でされたものである以上,本件処分が形式的なものであるなどと疑う余地はない。
(5)原告は,愛知県知事の意見書は原告に対し医師免許取消処分までは望まない趣旨のものであったから,厚生労働大臣は同知事の同意見を尊重すべきである旨主張する。
愛知県知事はその意見書において

事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます。

との意見を付しており,原告の事件後の対応等を積極的に評価しているものとみることもできるが,同知事は,医師法7条8項の規定によって,処分の決定についての意見を述べる職責と権限を有するのであるから,仮に,同知事が原告の医師免許取消しを望まないというのであれば,その旨を明記したと考えられるのであって,かかる意見を記載していないことから判断すれば,同知事は,原告の事件後の対応に評価すべき点があることを指摘するにとどめ,本件処分については厚生労働大臣の裁量にゆだねたものと解するのが自然である。
(6)原告は,本件処分は,刑事控訴審判決が原告に社会の中で更生する機会を与えるべく執行猶予付きの判決を言い渡した趣旨に反するものである旨主張するが,刑事控訴審判決は,原告に対する有利な事情としていずれ医師免許に対する行政処分が予想されていること等を挙げ,

社会内での更生の機会を与えることが相当と考えられる。

と判示しており,原告の医師免許取消処分を予想し,その他の事情も総合考慮した上で,実刑に処するよりも社会内で更生する機会を与えることが相当と判断して執行猶予を付したと理解されるのであるから,本件処分は,執行
猶予判決の意味を損なうなどとはいえず,むしろ刑事控訴審判決からは本件処分の正当性さえうかがえるのであって,原告の上記主張は失当というべきである。(7)原告は,被害者らに対し高額な示談金の支払や法律扶助協会に贖罪寄附を行い,被害者B及びCが原告の処罰を求めない旨の嘆願書を提出していること,理事長兼院長職を辞し,地元医師会を脱退し,インターネット等で誹謗・中傷されるなど既に社会的制裁を十分受けていること,これまで医師としての重大な職責を果たし,多くの医師仲間や患者が引き続き原告の診療を望んでいることなど,原告には有利な情状が多く存在している旨主張する。
しかし,被害者B及びCが嘆願書を提出しているとしても,原告は,本訴において,被害者らが金銭的要求を拒否されたことの意趣返しとして告訴したことによって有罪判決の言渡しを受けたと主張しているのであって,被害者らが,かかる原告の主張を知った上での宥恕又は医師免許取消しへの消極意見を表明しているとは到底考えられない。
そのほか,原告の主張する上記各情状は,本件処分を行うに当たり愛知県の所管課によって行われた意見の聴取において述べられた意見及びその際に原告の提出した意見書等で述べられているものと同様であるところ,これらが本件各犯行に比して,原告の医師免許の取消しを回避させ得るものでないことは明らかではあるものの,厚生労働大臣は,これらの意見を踏まえた上で,その裁量の範囲内で本件処分をしたものであり,その処分に違法性がないことは明らかである。(8)原告は,本件処分により,原告の診療を受けていた患者の精神状態が不安定となりパニック状態に陥ることが予想される,本件クリニックが閉鎖に追いやられスタッフや患者に不利益をもたらす,原告の家族崩壊につながるおそれがあるなど,周囲に看過できない影響を与える旨主張する。
しかし,原告のこれらの主張についても,既に本件処分を行うに当たり行われた意見の聴取において述べられた意見や提出された意見書及び陳述書で述べられていたものであって,本件処分はそれらの意見等を踏まえてされたものである。精神科
医師と患者の信頼関係が重要であることを前提としても,他の医師による治療が不可能なものでないことは明らかであり,かつ,原告の診療を受けていた患者が,本件処分によって他の医師の診療を受けることを制限されるものではない。また,厚生労働大臣は,患者の転医に要する期間を考慮したからこそ,原告に対して医師免許を取り消す日を2週間後として猶予期間を与えているのである。なお,本件クリニックの閉鎖や家族崩壊などは,原告の非違行為に起因するものであり,原告に対する本件処分との関係で厚生労働大臣の判断に違法性を生じさせるものではない。
(原告の主張)
以下の事情からすれば,本件処分は,何ら合理的な理由が存せず,厚生労働大臣に許された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものである。(1)本件各犯行を認定した刑事判決は,その事実認定に誤りがあること原告は,被害者Aに対しては,腹診を試みたにすぎず,被害者Bに対しては,乳汁分泌の診察や腹診を行ったものであり,被害者Cに対しては,衣服の上から軽く身体に触れるという行動を取ったものであって,いずれも,本人の了解の下での治療目的の行為であり,そこには暴行・脅迫等の行為は一切なかった。被害者らは,原告が逮捕される前に原告に対し金銭的要求をしており,原告がこれを拒み続けていたところ,平成17年4月21日になって突然逮捕されたものであり,しかも被害者Aについてはその約1年半前の,被害者Bについてはその約1年前の,被害者Cについてはその約3か月前の事件であって,こうした経緯は,被害者らが金銭的要求を拒否された意趣返しとして告訴したものであることを強く推認させる。実際,原告が起訴されてから,被害者らが高額な示談金を要求し,その結果合計950万円の高額な和解が成立している。
また,被害者らが有している境界型人格障害が,実際には被害を受けていないにもかかわらず,被害の訴えという行動に結びついたと考えることができる。すなわち,境界型人格障害は,その病理的特徴として,全体の中の一部分を全体として理
解してしまい,それが心的事実として認識されてしまうために,曲解が非常に起きやすく,全体像を見ているようで実際には一部しか見ておらず,自分の勝手な判断,勝手な思い込みが強いという点が挙げられる。要するに,あらゆる面で主観的世界に支配されやすく,空想と現実の識別が極めて減弱しているため,愛着の対象を容易に憎悪の対象へと変化させ,ときには,対象を利用して自利を得ようとすることもある。病理的な特徴として,情緒的な反応で行動化が起きやすいという点も挙げられるが,その行動が長期化することは考えにくいということに照らすと,近親者か知人等関係者の中に,被害的な訴えをあおった人物がいるとの考えも十分に成り立つのである。
そして,仮に被害者らが本当に被害に遭ったのであれば,情緒的に混乱し,感情的になり,大声を出したり,怒りや罵声を出したりすると考えるのが自然であるが,そのような様子は全くなかった。
なお,原告は,刑事手続において,被害者らに対する本件各犯行を認める内容の供述調書の作成に応じているが,これは,接見禁止の状態で長期間の身柄拘束が続き,精神的にも肉体的にも疲労困憊していたところ,捜査官から

事実として認めない以上,保釈もあり得ない。裁判も不利になる。

などと言われ,原告の身柄拘束により,本件クリニックの患者やスタッフに迷惑がかかり,本件クリニックの経営にも影響が出ることを配慮した結果,やむを得ず,上記内容の供述調書の作成に応じたものである。また,原告は,起訴後も保釈されず,身柄拘束が長期に及んだため,犯罪事実を認めなければ身柄拘束が更に続いてしまうとの焦りから,身柄の解放を優先して,第1回公判期日において公訴事実を認めたものである。したがって,本件各犯行を認定した刑事判決は,その事実認定に誤りがある。(2)本件処分は他の処分例と比較して著しく均衡を欠き,医道審議会の指針に引きずられた類型的,形式的判断であること
平成19年2月28日に医師・歯科医師免許の取消処分を受けた者は4名で,原告のほかは,①殺人罪で懲役9年の刑に処せられた者,②5人の女性を全裸にさせ
て写真撮影して懲役2年8月の刑に処せられた者,③精神安定剤を混入したアルコール飲料を飲ませて心神を喪失させ,いわゆる輪姦行為に及んで,懲役3年(執行猶予5年)の刑に処せられた者であり,いずれも,原告の行為と比較すると,行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響等において,比較にならないほど悪質である。
同日にされた医師・歯科医師免許の処分結果を見ると,取消処分ではなく医業停止処分にとどまった者の中には,①恐喝・覚せい剤取締法違反で懲役3年(執行猶予5年)の刑に処せられた者,②傷害・暴行で懲役3年(執行猶予5年)の刑に処せられた者,③逮捕監禁・未成年者略取で懲役2年6月(執行猶予3年)の刑に処せられた者,④贈賄で懲役1年6月(執行猶予3年)の刑に処せられた者,⑤恐喝未遂で懲役2年(執行猶予3年)の刑に処せられた者,⑥歯科医師法違反・詐欺で懲役2年6月(執行猶予4年)の刑に処せられた者,⑦業務上横領で懲役3年(執行猶予5年)の刑に処せられた者,⑧有印私文書偽造等で懲役2年(執行猶予3年)の刑に処せられた者,⑨虚偽診断書作成・同行使で懲役1年6月(執行猶予3年)の刑に処せられた者のほか所得税法違反の者がいるのであって,原告以上に医師としての社会的信用を害したと評価できる者が多数存在する。
上記のとおり医業停止処分にとどまった者の事案と比較すると,原告の医師免許を取り消した本件処分は,余りにも均衡を欠くものであり,本件処分におけるこうした判断は,医道審議会医道分科会が取りまとめた医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方についてが,診療中にわいせつ行為がされた場合には重大な処分とする旨の指針を出していることに引きずられた類型的,形式的判断といわざるを得ない。
(3)愛知県知事が原告の医師免許取消処分までは望んでいない趣旨の意見書を提出していること
愛知県知事が厚生労働大臣に対して提出した平成19年1月26日付け意見書(乙4)において,

当事者は,被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており,その他,法律扶助協会にも寄附もしている。また,今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている。

との理由から,

当事者は,事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます。

との意見が述べられている。この意見書の内容からすれば,愛知県としても,原告に対し,医師免許取消処分までは望んでいなかったことが強く推認される。愛知県健康福祉部健康担当局医務国保課主幹によれば,医業停止の意味合いも含めて意見書を書いたとのことである。厚生労働大臣は,処分の決定をするときは,都道府県知事より提出された意見聴取に係る意見書等の内容を十分参酌しなければならないとされているのであるから(医師法7条10項),愛知県の意見を尊重して然るべきである。(4)原告が刑事控訴審で執行猶予付きの判決の言渡しを受けたこと刑事控訴審は,原告が社会の中で更生する機会を与えるべく,執行猶予付きの有罪判決を言い渡したものであり,医師たる原告の社会内での更生とは,医師という立場で社会で困っている人達を救うことにあるから,原告の医師免許を取り消すことは,刑事控訴審判決の趣旨に反するものである。
(5)原告には有利な情状が多くあること

原告は,被害者らとの間で示談が成立し,法律扶助協会に合計100万円
の贖罪寄附をしている上,被害者B及びCは,処罰を求めない旨の嘆願書を提出している。

原告は,今回の事件の責任を感じ,医療法人甲の理事長及び本件クリニッ
ク院長の職を辞し,地元の戊医師会からも脱退した上,本件クリニックの名称も乙クリニックから丙クリニックに変更した。
また,原告は,平成17年11月に診療を再開したが,FAXや文書で,あるいはインターネットによって,多くの誹謗・中傷がされた。
以上のように,原告は,既に十分な社会的制裁を受けている。

原告は,精神障害者の自立支援のための授産施設として丁という名の
レストランを運営するなど,奉仕の精神をもって精神障害者の自立支援に向けて尽
力してきており,そこには,医師として,あるいはまた人間として,重大な責務を貫く姿勢を感じ取ることができる。
原告は,医師として高い評価を受けており,多くの医師仲間や患者が,原告が診療を続けることを望んでいる上,今回の事件で大きな代償を払い,診療室のドアに窓を付けて中の様子が確認できるような措置も講じたから,今回のような事件が2度と起きないことは明らかである。
(6)本件処分により原告の周囲(患者,本件クリニック,家族)に看過できない影響を与えること

メンタルクリニックの診療においては,患者と医師との信頼関係が何より
も重要であって,本件クリニックで原告の診療を受けてきた患者は,自分の担当医は原告以外には考えられないと思っており,精神科の医師であれば誰でもよいという問題ではない。
実際,原告の診療を受けてきた多くの患者が,原告の診療を信頼し,今後も原告による診療を望んでおり,また,500名近くの患者が,原告が引き続き医師として活動できるように嘆願を寄せている。仮に,本件処分が取り消されなければ,これらの患者の精神状態がますます不安定となり,深い抑うつ状態やパニック状態に陥ることも容易に予想される。

本件処分の後,本件クリニックの経営は極めて困難となったため,看護師,
事務主任,事務長の3名を事業主の都合で解雇せざるを得ない状況に追い込まれ,その後,d医師も退職し,現在e医師が1名で診療を行っているが,十分な診療時間が取れず,現場としては日に日に大変な労働になっている状況である。こうした状況から明らかなように,本件処分により,本件クリニックの経営自体も危機に瀕することになり,閉鎖に追いやられ,多くのスタッフや患者に多大な不利益をもたらすことなる。

原告には,妻aとの間に長女(25歳),二女(22歳),長男(19
歳),二男(17歳)の4名の子供があるところ,本件処分による5人の精神的シ
ョックは計り知れず,家族の崩壊にもつながりかねない。
2
争点(2)について

(原告の主張)
前記1(原告の主張)(3)で述べたとおり,愛知県知事が厚生労働大臣に対して提出した意見書によれば,愛知県としても,原告に対して免許取消しまでを望むものではないことが強く推認できる。
厚生労働大臣は,処分の決定をするときは,都道府県知事より提出された意見聴取に係る意見書等の内容を十分参酌しなければならないとされており(医師法7条10項),しかも,厚生労働大臣は,医道審議会の委員に,当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行わせることができるのであるから(同法7条13項),これらの規定の趣旨を考慮すれば,愛知県と医道審議会の意見に径庭がある場合には,医道審議会自体が処分を受ける者に対して弁明の聴取をする機会を与えるべきである。それにもかかわらず,厚生労働大臣は,そうした手続を全く取らず,診療中にわいせつ行為がされた場合には医師免許を取り消すという形式的判断に終始している医道審議会の意見を偏重し,最終的な結論を下したとしたら,それは,単に形式を踏んだというというだけのことであるから,実質的には手続的適法性を欠いたものといわざるを得ない。
(被告の主張)
原告は,本件処分を行うに際しては,愛知県知事が提出した意見書を踏まえて,原告に改めて弁明聴取をさせるべきであったなどとして,本件処分が手続的適法性を欠く旨主張する。
しかし,本件処分に係る原告に対する手続は,医師法7条5項の意見の聴取を愛知県知事において行っているのであって,手続的適法性を欠いているとはいえない。
原告の指摘する医師法7条13項は,厚生労働大臣が医業の停止を命令しようとするときに,都道府県知事に弁明の聴取を行わせることができるほか,医
道審議会の委員に弁明の聴取を行わせることができるとする規定であり,医師免許の取消処分を受ける者に対して必要とされる手続ではないから,原告の上記主張は,その前提においてそもそも失当である。
したがって,本件処分が,手続的にも適法であることは明らかである。第4
1
当裁判所の判断
争点(1)について

(1)医師法7条2項は,医師が罰金以上の刑に処せられた者(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取り消し,又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定めているが,この規定は,医師が同号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じて反省を促すべきものとし,これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。したがって,医師が同号の規定に該当する場合に,免許を取り消し,又は医業の停止を命ずるかどうか,また,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであり,その判断は,厚生労働省設置法10条2項,医道審議会令(平成12年政令第285号)の規定に基づき設置された医道審議会の意見を聴く前提の下で,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。そうすると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許の取消し又は医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,これを違法ということはできないと解される(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・判例時報1342号68頁参
照)。
原告は,前記前提事実記載のとおり,平成18年5月11日,本件各犯行に係る強制わいせつ及び準強制わいせつの罪により,懲役1年8月,執行猶予4年の判決の言渡しを受けて,同判決が確定し,罰金以上の刑に処せられた者(医師法4条3号)に該当するから,厚生労働大臣は,原告に対して,医師免許を取り消し又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる(同法7条2項)。そして,上記で述べたとおり,原告に対して,免許を取消し又は医業の停止を命ずるかどうか,また,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかについての厚生労働大臣の判断は,その合理的な裁量にゆだねられているから,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,これを違法ということはできない。
(2)ア

原告は,被害者らに対して一定の身体接触があったことは認めるものの,
いずれも,本人の了解の下での治療目的の行為であり,そこには暴行・脅迫等の行為は一切なく,本件各犯行を認定した刑事判決の事実認定に誤りがある旨主張し,被害者らが原告を告訴したのは,金銭的要求を拒否された意趣返しとしてされたものであるとか,被害者らが有している境界型人格障害が,実際には被害を受けていないにもかかわらず被害の訴えという行動に結びついたと考えることができるなどとも主張する。

また,原告は,本人尋問において,別紙犯罪事実記載第1の事実について
は,治療行為であると誤信しているため抗拒不能の状態にあるのに乗じてわいせつな行為をしようと考え,治療行為中であると誤信させて心理的に抗拒不能の状態に陥らせとある部分を否認し,同女のブラジャーをまくり上げて両乳房を露出させたのは被害者A自身であり,両手掌で同女の両乳房を揉み,両手指で同女の両乳首をつまむなどして弄びとあるのは,乳頭の触診をしただけであり,

『声出していいよ。』などと申し向け

とある部分を否認し,同女が着用していたパンティーの中に右手を差し入れ,右手指で同女の陰部を押すように触るなどして弄びとあるが,腹診の際に被害者Aのおなかがへこんでいるためパンティーのゴムの下に指が入ったが陰部には全く届いておらず,強いてわいせつな行為をしたとある部分を否認する旨を,別紙犯罪事実記載第2の事実については,治療行為であると誤信しているため抗拒不能の状態にあるのに乗じてわいせつな行為をしようと考えとある部分,及び同女に治療行為中である旨誤信させて心理的,物理的に抗拒不能の状態に陥らせとある部分を否認し,同女が着用していた上衣をまくり上げたのは被害者B自身であり,

『下着がセクシーだね。肌がぷりぷりしてるね。』などと申し向けながら

とあるが,これら二つの用語は全く違う日に別々に言ったものであり,同女のブラジャーをまくり上げたのは被害者B自身であり,両乳房を露出させた上,両手掌で同女の両乳房を揉み,両手指で同女の両乳首をつまむなどしとあるが,これは乳汁分泌の触診のために乳頭を触ったものであり,同女が着用していたGパンのボタンを外してチャックを下げたのは被害者B自身であり,右手でパンティーの上から同女の陰部付近を撫で回すなどして弄びとあるが,被害者Bのおなかがふっくらふくれているので下着の上から触診したもので,陰部付近には全く届いておらず,強いてわいせつな行為をしたとある部分を否認する旨を,別紙犯罪事実記載第3の事実については,強いてわいせつな行為をしようと考えとある部分を否認し,

『お尻触ってもいい。』などと言いながら

とある部分については,おしりを触ってもよいとの許可を得ており,やにわに,同女を抱きしめる暴行を加えてその反抗を抑圧したとある部分を否認し,

『胸はどうだ。フェロモンを出させてやる。』などと申し向け

とある部分については,

十分女性として魅力がありますよ。自信を持ってください

と言ったが,上記の用語は使っておらず,

さらに,『感じるか。』などと申し向けながら,右手指をスカートの上から同女の陰部に押し込み上下に動かし,その陰部を弄び,もって,強いてわいせつな行為をした

とある部分を否認する旨を述べている。
(3)以下,原告の上記主張について検討するに,後掲各証拠及び弁論の全趣旨に
よれば,次の事実が認められる。

本件各犯行の経緯(甲4)

原告は,別紙犯罪事実記載第1のわいせつ行為を行ったとされる平成15年10月15日に,被害者Aの診察をし,平成16年2月16日,被害者Aから当該行為はセクハラである旨の電話を受け,同月18日,被害者Aの訴えを受けた戊医師会から事情聴取を受けた。原告は,同医師会に対し,診察行為を性愛化しすぎ,わいせつ行為と決めつけ被害者意識を誇大化したものであり納得できない旨の説明をした。
原告は,別紙犯罪事実記載第2のわいせつ行為を行ったとされる平成16年3月3日に,被害者Bの診察をし,その約2か月後,被害者Bから当該行為はセクハラである旨の苦情を言われ,同年5月12日,被害者Bの訴えを受けた戊医師会から事情聴取を受けた。原告は,同医師会会長に対し,(被害者Bは)治療中も私(原告)に対し,性的に挑発的で誘惑的であるが,本人は自覚できず,否認し,急に犠牲者化し,金銭要求を向けてきている旨の説明をした。原告は,別紙犯罪事実記載第3のわいせつ行為を行ったとされる平成17年1月5日,被害者Cの診察をし,同日昼ころ,被害者Cの兄と名乗る男から当該行為について説明を求められ,その翌々日に被害者Cが副院長と面談して謝罪を求めるなどした。原告は,同月17日,戊医師会に報告し,同月21日,同医師会の会長と面談して状況説明を行った。

刑事判決が確定するまでの経緯(甲1,2,60,原告本人)

原告は,平成17年4月21日,逮捕され(同日の夜に刑事事件の弁護をb弁護士に依頼した。),引き続き勾留されて,その際接見等が禁止され,その後起訴された。原告は,捜査段階当初,本件各犯行は治療行為であって,強制わいせつには当たらないなどと主張して犯行を否認していたが,その後本件各犯行を概ね認め,第1回公判期日の罪状認否においても公訴事実を認め,第2回公判期日後の同年7月15日に保釈された。

第1回公判期日において,別紙犯罪事実記載第2及び第3の犯行に関する証拠(被害者B及びCの告訴状,検面調書,警察官作成の実況見分調書,写真撮影報告書,原告の供述調書等)が取り調べられ,第2回公判期日において,同第1の犯行に関する証拠(被害者Aの告訴状,検面調書,警察官作成の実況見分調書,写真撮影報告書,原告の供述調書等),被害者らとの示談書等が取り調べられ,第3回公判期日において,情状証人等の取調べと被告人質問が実施された。なお,原告は,被害直後に被害者から被害を打ち明けられた状況,原告が謝罪した状況等,原告の行為が正当な治療行為に当たらないこと等を立証趣旨とする関係者の供述調書,犯行再現状況等を立証趣旨とする実況見分調書等については証拠とすることに同意したが,本件被害者以外の患者も原告から性的接触行為を受けていたこと等を立証趣旨とする関係者の供述調書については不同意とし,これらの不同意となった証拠は後に撤回された。また,原告の供述調書の中には,わいせつ目的を自認するものの,陰部を触っていないなどと一部事実を否認するものも含まれていた。原告は,同年10月25日,名古屋地方裁判所岡崎支部において懲役1年8月の実刑判決の言渡しを受け,再び身柄を拘束され(その際,刑事事件の弁護を従前のb弁護士に替えて本件訴訟代理人のc弁護士に委任した。),同判決に対し控訴し,5日間身柄が拘束された後に保釈された。
原告は,控訴審において,本件各犯行の事実関係は争わず量刑不当のみを主張し,平成18年5月11日,名古屋高等裁判所の控訴審において,懲役1年8月,執行猶予4年の有罪判決の言渡しを受けた。同判決は,双方から上告等もなく,確定した。

本件処分に至るまでの経緯(甲3,乙1∼9)

愛知県健康福祉部健康担当局長は,平成18年10月12日,厚生労働省医政局医事課長に対し,原告が医師法7条2項に該当する者であることを報告した。厚生労働大臣は,同年11月20日,愛知県知事に対し,原告の意見を聴取するよう依頼し,同知事は,平成19年1月19日に健康福祉部健康担当局医務国保課
主査をして原告及びその代理人c弁護士から意見聴取を行わせ,同月26日,同大臣に対し,意見聴取に係る意見書を,聴取調書写し,聴取報告書写し,聴取通知書写し,提出された証拠書類等及び愛知県医師会会長の意見書写しを添付して提出した。
厚生労働大臣は,同年2月28日,原告に対する処分について医道審議会に諮問し,同審議会医道分科会長から医師免許取消処分が相当である旨の答申を受けた上,同日付けで本件処分をし,同年3月5日,原告に本件処分に係る命令書を交付した。エ
本件クリニックの診療体制(甲21,62,63)

本件クリニックでは,従前,原告及びd医師が診療を行っていたが,原告が逮捕されたことに伴い,e医師が本件クリニックの院長となり,同医師及びd医師で診療に当たることになった。原告は,保釈された後もしばらくは診療を行うことを控えていたが,平成17年11月末ころから診療行為を行うようになり,原告,e医師及びd医師の3名で診察に当たっていた。しかし,原告の医師免許が取り消された平成19年3月14日以降は,e医師及びd医師が診察に当たり,原告は,本件クリニックの事務仕事とデイケアの患者の送迎などを担当するようになった。その後,同年9月8日にd医師が退職したため,本件クリニックでは,現在,e医師1名が診療を行っている。

被害者らとの示談及び嘆願等(甲6∼8の各1・2,9,50)

原告は,上記刑事事件の第1審係属中の平成17年7月2日,被害者Bとの間で350万円を支払う旨の示談をし,同月5日,被害者A及び被害者Cとの間で各300万円を支払う旨の示談をした。
被害者Bは,上記刑事事件の控訴審が係属中の平成18年5月,控訴審裁判所にあてて,原告は犯行を反省している様子が認められ,示談も成立しているとして,原告に対してこれ以上厳重処罰を求めないこと,今後は反省の上に立って医師として社会に貢献してもらいたいことなどを記載した嘆願書を提出した。また,被害者Cは,平成19年3月20日付けで,当裁判所にあてて,原告に対し厳重処罰を求
めていたが,執行猶予の判決が確定したので,これ以上の処罰や処分を求める気持ちはないこと,1日でも早く医師として活動できることを願っていることなどを記載した嘆願書を提出した。
(4)刑事判決における本件各犯行の認定内容について

上記認定のとおり,原告は,刑事事件の捜査段階の当初において,本件各
犯行が治療行為であって強制わいせつには当たらないなどと本件各犯行を否認していたが,その後本件各犯行を概ね認め,起訴後の第1審の公判廷においても本件各犯行を争わず,上記のとおり第1審で実刑の判決を受け,控訴した際にも,量刑不当のみを主張し,第1審判決の認定した本件各犯行を争ってはいなかった。原告は,刑事裁判において本件各犯行を自白した事情について,長期間の身柄拘束により精神的にも肉体的にも疲労困憊していたことや,身柄拘束が長期化すると本件クリニックの患者やスタッフに迷惑がかかり,本件クリニックの経営にも影響が出ることを考慮したためである旨を主張する。しかし,原告は,上記第1審手続中に保釈され,第1審判決言渡後の平成17年11月からは診療に復帰した状態で控訴審手続が行われたにもかかわらず,なお本件各犯行を争ってはいなかったのであるから,身柄拘束の長期化による影響を懸念したとする上記の弁明には合理性がないというべきである。
また,原告は,本人尋問において,前記(2)イ記載の本件各犯行の具体的な否認部分を第1審のb弁護士には説明せず,控訴審になってc弁護士に説明し,c弁護士と協議した上,刑事手続の状況を踏まえて,執行猶予判決を得るために本件各犯行を争わないことにしたなどと供述するが,原告が,第1審において本件各犯行を争わなかったにもかかわらず実刑判決の言渡しを受けたように,控訴審において本件各犯行を争わなかったからといって執行猶予判決の言渡しを受けることができるとは限らないし,事後審であること自体を理由として控訴審で犯罪事実を争えなかったともいえない。そして,刑事裁判において有罪判決が確定すれば,医師法上,免許取消し等の厳しい行政処分がされる可能性が高いことは原告においても十分に
認識し得たはずであって(原告自身も,本人尋問において,起訴された後くらいに弁護人から医師免許に係る行政処分がされることの説明を受けた旨供述している。),その上でされた原告の刑事裁判における自白の信用性は相当に高いとみるべきである。

また,仮に,原告が主張するように,原告が真に治療目的で被害者らに触
診し,それにもかかわらず被害者らの境界型人格障害の病理的特徴から被害を訴えるという行動に出たのであれば,原告は,被害者らが境界型人格障害の患者であったこと,当該触診が被害者らの診療・治療に必要であったこと,そして,当該被害の訴えが境界型人格障害の病理的特徴に起因する誇張や曲解によるものであることを,精神科の医師として,一般的な医学的知見及び自己の臨床経験に基づいて説明し,あるいは医学文献を提出したり,鑑定申請をしたりして立証すべきところ,原告は,刑事裁判においても,本訴においても,そうした医学的主張立証を何ら尽くしていない。
しかも,本件クリニックでの勤務経験があるf医師は,証人尋問において,精神科の治療として,女性の患者に対して衣服の上から胸やでん部あるいは陰部を触るという行為を行ったことはなく,そうした治療行為が掲載されている論文や文献は見たことがない旨証言しており,そのほか,原告が行った触診行為が精神科の診療,治療として精神医学会で是認されたものであることを認めるに足りる証拠はない(前記(2)イ記載中の原告が被害者らに対して行ったことを自認している行為に限定しても,それが精神科の診療,治療として精神医学会で是認された行為であるとは直ちに認められない。)。

前記(3)ア記載のとおり,原告は,平成15年10月に被害者Aに対して,
翌平成16年3月には被害者Bに対して,更に平成17年1月には被害者Cに対して,それぞれ身体接触を伴う行為を行い,しかも,原告は各行為の後,各被害者から被害申立てを受けた戊医師会による事情聴取を受けており,その都度,自己の行為の問題性を感じ取ることができたはずであるのに,同様の行為を3度にわたって
繰り返したものである。こうした事実経過は,原告が真に治療目的で行ったにもかかわらず意に反して被害申立てを受けたものというには余りにも不自然であり,むしろ,原告が患者に対するわいせつ行為について医師会への被害申立てを受けたにもかかわらず,規範意識の鈍麻,性癖及び常習性のゆえにこうしたわいせつ行為をやめられず繰り返したものとみるのが自然である。
加えて,時期や被害者を別異にする本件各犯行について,その被害者のいずれもが,原告の治療行為を曲解した上,金銭的要求を拒否された意趣返しとして原告を告訴したものであるとする原告の主張は,一般の経験則に照らして容易に受け入れ難いものといわざるを得ない。

被害者B及びCが提出した嘆願書(甲9,50)も,原告がわいせつ目的
で本件各犯行を行ったことを前提に,今後は医師として社会に貢献してほしいという趣旨の内容であって,原告がわいせつ目的ではなく治療目的で当該行為を行ったことを認めるものではない。しかも,これらの嘆願書が,被害者らの告訴等が金銭的要求を拒否されたことの意趣返しとしてされたものであるとの原告の主張を承知した上で,なお作成交付されたものかどうかは疑問というべきである(前記のとおり,被害者Bは,原告に犯行を反省している様子がみられることを,被害者Cは,執行猶予の有罪判決が確定したことを,それぞれ宥恕の理由として挙げている。)。オ
以上のとおり,原告は,本件各犯行について懲役1年8月,執行猶予4年
の有罪判決が確定しており,原告の本件における主張・立証の内容,刑事事件の経過,刑事裁判において取り調べられた証拠等に照らしてみても,刑事判決の認定事実や判断内容に誤りがあるとは直ちに認めることができず,原告が本件各犯行を犯したものと認めるのが相当である。
(5)厚生労働大臣の本件処分の判断に裁量権の逸脱,濫用があったか否かについて検討する。

ついて

医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方についてと題する指針に
医道審議会医道分科会は,平成14年12月13日,医師法7条2項等に規定する行政処分についての公正な規範を確立する趣旨から医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方についてと題する指針(甲49)を作成し,今後同分科会が行政処分に関する意見を決定するに当たっては,同指針を参考としつつ,医師等に求められる品位や適格性,事案の重大性,国民に与える影響等を勘案して審議していくこととされた。
同指針は,医師,歯科医師に求められる職業倫理に反する行為についての基本的な考え方として,①医療提供上中心的な立場を担うべきことを期待される医師,歯科医師が,その業務を行うに当たって当然に負うべき義務を果たしていないことに起因する行為については,国民の医療に対する信用を失墜するものであり,厳正な対処が求められること,②医師や歯科医師が,医療を提供する機会を利用したり,医師,歯科医師としての身分を利用して行った行為についても,同様の考え方から処分の対象となること,③医師,歯科医師は,患者の生命・身体を直接預かる資格であることから,業務以外の場面においても,他人の生命・身体を軽んずる行為をした場合には,厳正な処分の対象となること,④我が国において医業,歯科医業が非営利の事業と位置付けられていることにかんがみ,医業,歯科医業を行うに当たり自己の利潤を不正に追求する行為をした場合については,厳正な処分の対象となるものであること,以上の点を明記している。
さらに,事案別考え方として,わいせつ行為については,①国民の健康な生活を確保する任務を負う医師,歯科医師は,倫理上も相応なものが求められるものであり,わいせつ行為は,医師,歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり,また,人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為であること,②行政処分の程度は,基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが,特に,診療の機会に医師,歯科医師としての立場を利用したわいせつ行為などは,国民の信頼を裏切る悪質な行為であり,重い処分とすること,以上の点を明記している。
原告が行った本件各犯行は,医師としての立場を利用して,女性患者に対して診
療行為を装って繰り返しわいせつ行為に及んだというものであって,被害者の人格を無視するものであることはもとより,医師としての信頼を著しく裏切る悪質な行為であり,その実質に照らしても,医道審議会医道分科会の指針に照らしても,重い処分が妥当するものというべきである。

原告は,医師免許取消しという本件処分は,他の医業停止処分にとどまっ
た事案と比較して余りにも均衡を欠く旨主張する。
(ア)そこで,近時の医師及び歯科医師の免許取消処分又は医業停止処分の概要について検討してみると,次のとおりである。

平成14年度から平成17年度までの医師及び歯科医師のわいせつ行為
を理由とする処分件数を見ると,別紙行政処分一覧表(わいせつ事案/過去5年)のとおり,平成14年度が14件(うち免許取消処分が4件),平成15年度が7件(同1件),平成16年度が10件(同2件),平成17年度が9件(同3件)であるが,診療中にわいせつ行為が行われた事案はすべて免許取消処分がされている(乙10)。

本件処分と同日の平成19年2月28日にされた医師及び歯科医師の処
分のうち,免許取消処分を受けた者は,原告のほか,a)殺人罪で懲役9年の刑に処せられた者,b)5名の女性を診療中に全裸にさせて写真撮影した準強制わいせつ罪で懲役2年8月の刑に処せられた者,c)精神安定剤を混入したアルコール飲料を飲ませて心神を喪失させた上で2名で姦淫した準強姦罪で懲役3年(執行猶予5年)の刑に処せられた者の合計4名である(甲48の番号10,29∼31)。同日行われた医師及び歯科医師の処分のうち,性的な行為を理由として医業停止処分を受けた者は,上記一覧表のとおり,児童買春(2名),青少年保護育成条例違反(1名),迷惑防止条例違反(3名),公然わいせつ(1名)であり,いずれも診療中に行われたものではない(甲48の番号32∼38)。

平成18年8月2日にされた医師及び歯科医師の処分の中には,上記一
覧表のとおり,診療室内でされた強制わいせつ罪で懲役1年8月,執行猶予3年の
判決を受けた者に対して,医業停止処分(停止5年)がされた事案があるが,これは歯科助手の女性を被害者とする事案である(乙10)。
以上のとおりであって,平成14年度から平成18年度までの医師及び歯科医師によるわいせつ行為の事案のうち,本件各犯行のように診療中に患者に対してわいせつ行為等が行われた事案については,すべて免許取消処分がされており,上記指針に沿った処分がされている。
(イ)原告は,本件処分は他の処分事案と比較して均衡を欠いていると主張しているが,罰金以上の刑に処せられた医師に対する医師免許の取消しや医業停止処分等の決定については,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮して,厚生労働大臣の合理的な裁量判断に基づいてされるものであるから,他の処分事案との間で外形的に単純な比較をすることによっては,本件処分の違法性の有無を判断することはできない上,原告が指摘する他の処分事案と本件各犯行を,本件記録からうかがわれる事情を基に上記の観点に即して検討してみても,本件処分が他の処分事案と比較して著しく均衡を欠くものとは直ちに認められない。ウ
原告は,愛知県知事の意見書は原告に対し医師免許取消処分までは望まな
い趣旨のものであったから,厚生労働大臣は同知事の同意見を尊重すべきである旨主張する。
原告が指摘する愛知県知事の意見書(乙4)には,意見欄に

当事者は,事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます。

,理由欄に

当事者は,被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており,その他,法律扶助協会にも寄附もしている。また,今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている。

とそれぞれ記載されており,原告の事件後の対応について一定の評価をする趣旨を読みとることができるものの,同意見書の内容から直ちに同知事が原告の医師免許取消処分までを望んでいない旨を表明していると認めることはできず,むしろ,同知事は,原告の事件後の対応に評価すべき点があることを指摘するにと
どめ,原告に対する処分については厚生労働大臣の裁量にゆだねたものと解するのが相当である。
さらに,原告代理人が平成19年7月2日に愛知県健康福祉部健康担当局医務国保課主幹から電話で確認したとして提出する電話聴取書(甲51)の内容も,愛知県として原告について医業停止処分にとどめる意味合いも含めて意見書を書いたが,最終的な判断は厚生労働大臣にゆだねたというものであり,愛知県知事が医師免許取消処分までを望まないという意見を有していたものとは認められない。したがって,愛知県知事の意見書が原告について医師免許取消処分までは望まない趣旨のものであったことを前提とする原告の主張は理由がない。エ
原告は,本件処分は,刑事控訴審判決が原告に医師として社会の中で更生
する機会を与えるべく執行猶予付きの判決を言い渡した趣旨に反するものである旨主張する。
しかし,上記控訴審判決は,原告に有利な事情として,被害者ら3名に合計950万円の弁償金が支払われて示談が成立したこと等のほか,すでに診療所の院長を辞任し,いずれ医師免許に対する行政処分が予想されていることを指摘しているが,続けて本件が地位を悪用した卑劣な犯罪で被害者が3名に達する累行された事案であることによれば,これら有利な事情を考慮してもなお,当然に執行猶予相当であるとはいえずと判示して,原告を懲役1年8月の実刑に処した第1審判決の量刑が重すぎて不当であるとまではいえない旨をも指摘した上で,なお,第1審判決後の新たな事情として,被害者のうちの1名の宥恕を得て嘆願書が提出されたこと,厳しい社会的非難にさらされて社会的地位や名誉の多くを失ったこと,原告が改めて反省を深め,合計100万円の贖罪寄附を行ったことを併せて考えると,実刑の判断を維持するのは重きに失するとして,社会内での更生の機会を与えるのが相当である旨の判示をしており,その判断内容に照らせば,上記控訴審判決が述べる原告の社会内での更生が,引き続き医師として稼働することを意味するとも,医師免許に対する行政処分が医師免許の取消処分を想定したものでないと
も解することは困難というべきである。
そして,もとより,医師免許に対する行政処分は,厚生労働大臣の権限に属するものであって,その判断が刑事判決の内容によって決定されるものでもないことはいうまでもないところである。

原告は,被害者らに対し高額な示談金の支払や法律扶助協会に贖罪寄附を
行い,被害者B及びCが原告の処罰を求めない旨の嘆願書を提出していること,理事長及び院長職を辞し,地元医師会を脱退し,インターネット等で誹謗・中傷されるなど既に社会的制裁を十分受けていること,これまで医師としての重大な職責を果たし,多くの医師仲間や患者が引き続き原告の診療を望んでいることなど,原告には有利な情状が多く存在している旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける書証(甲5,6∼8の各1・2,9∼42,50,56の1・2,57∼59,66∼82)を提出し,また,f及び本件クリニックの患者Fも,本法廷において,原告が引き続き医師として診療することを望む趣旨の証言をしている。しかしながら,被害者B及びCの嘆願書については,前記(4)エで述べたとおり,本件訴訟における原告の主張を承知した上で作成交付されたものかどうか疑問があり,被害者B及びCが,被害者らの告訴等が金銭的要求を拒否されたことの意趣返しとしてされたものであるという原告の主張を知った上で,そうした原告について,今後も医師として活動することを望んでいるとは直ちに認めることができない。また,原告が,本訴において,わいせつ行為であることを否認し,刑事判決の認定が誤りであると主張した上,被害者らが金銭的要求を原告に拒否されたことの意趣返しとして告訴したものである旨主張していることにかんがみると,真に本件各犯行を悔悟反省しているのか疑わしいといわざるを得ない。
そのほか,原告の医師としてのこれまでの活動状況や事件後の対応等を検討してみても,それが直ちに医師免許の取消処分を回避しなければならない事情に当たるとは認められない。

原告は,本件処分により,原告の診療を受けていた患者の精神状態が不安
定となりパニック状態に陥ることが予想される,本件クリニックは閉鎖に追いやられスタッフや患者に不利益をもたらす,原告の家族崩壊につながるおそれがあるなど,周囲に看過できない影響を与えるなどと主張する。
原告の診療を受けていた患者の状況について,原告は,本人尋問において,逮捕されて診療できなくなった際には,自殺完遂に至った患者が7名で,多くの患者が自殺未遂に至り少なくとも7名が入院したこと,本件処分により診療できなくなった後は,自殺完遂に至った患者はいないが,数人の患者が自殺未遂に至り少なくとも2名が入院したことを述べる。しかし,原告本人尋問によれば,逮捕される以前から本件クリニックの患者が自殺完遂又は自殺未遂に至る例は数十例あったことが認められるから,原告が述べるように,原告の逮捕後に多くの患者が自殺や自殺未遂に至ったとしても,それが原告の治療を受けることができなくなったことに起因するものであるとは直ちに認められない。
また,精神科における治療については,医師と患者の信頼関係が重要であって,現在も原告の診療を希望している患者が相当数存在するとしても,それらの治療行為が全く代替性のないものであるとは認められない。
医師としての原告を欠いては本件クリニックの経営が破綻するおそれがあるということや,それによりスタッフ,家族が多大な影響を被ることも,それ自体が本件処分の適法性を否定する十分な根拠となし得るものではない上,その経営維持の方策が全くないとも考えられない。

以上によれば,医師としての立場を利用して,女性患者に対して診療行為
を装って繰り返しわいせつ行為に及ぶという本件各犯行を行い,懲役1年8月,執行猶予4年の有罪判決の言渡しを受けた原告に対し,厚生労働大臣が医師法4条3号に該当するとして同法7条2項に基づいてした本件処分について,原告主張の諸事情を含めて検討してみても,これが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用する違法なものであるとは到底認めることができない。

2
争点(2)について

原告は,本件処分を行うに際しては,愛知県知事が提出した意見書を踏まえて,医道審議会が原告に対して改めて弁明聴取をさせるべきであったなどとして,本件処分は手続的適法性を欠く旨主張する。
医師法は,厚生労働大臣が医師免許取消処分を行うときには,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならないこと(7条4項),また,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め,当該意見の聴取をもって,厚生労働大臣による聴聞に代えることができること(同条5項)を規定しているところ,上記1(3)ウ記載のとおり,本件処分に際しては上記規定に従った手続が履践されていることが認められる。そして,医師法は被処分者に対するそれ以上の弁明聴取を求めてはいない。
原告が指摘する愛知県知事の意見書(乙4)には,上記のとおり,原告の事件後の対応について一定の評価をする趣旨の記載があるが,その書面は同知事から厚生労働大臣に提出されており,同大臣はこの点をも考慮した上本件処分をしたものと解される。
また,原告は代理人弁護士(c弁護士)を選任し,厚生労働大臣及び愛知県知事あての詳細な意見書(乙8)等を提出し,愛知県の担当職員は原告及び代理人弁護士からの意見聴取を行ってその内容を記載した調書(乙9)を作成し,それらが同知事から同大臣に対して送付されていることが認められるから,更に改めて弁明聴取の機会を設けなかったとしても,手続的適法性を欠くことにならないことは明らかである。
したがって,原告の手続的瑕疵についての主張は全く理由がない。3
結論

以上によれば,本件処分は適法であると認められ,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部

裁判長裁判官

松並重雄
裁判官

前田郁勝
裁判官

片山博仁
(別紙)

第1

犯罪事実
原告は,平成15年10月15日午前11時ころ,愛知県豊田市g町h丁目
i番地j所在の乙クリニック2階東側診療室において,同クリニックに通院加療中の被害者A(当時28歳)が,治療行為であると誤信しているため抗拒不能の状態にあるのに乗じてわいせつな行為をしようと考え,同女に対し,

胸張りますか。寝てください。

などと申し向け,同女をベッド上に仰向けに寝かせ,同女に治療行為中であると誤信させて心理的に抗拒不能の状態に陥らせ,同女のブラジャーをまくり上げて両乳房を露出させて,両手掌で同女の両乳房を揉み,両手指で同女の両乳首をつまむなどして弄びながら

声出していいよ。

などと申し向け,さらに,同女が着用していたパンティーの中に右手を差し入れ,右手指で同女の陰部を押すように触るなどして弄び,もって,強いてわいせつな行為をした。
第2

原告は,平成16年3月3日午前11時40分ころ,上記乙クリニック2階
東側診療室において,同クリニックに通院加療中の被害者B(当時27歳)が,治療行為であると誤信しているため抗拒不能の状態にあるのに乗じてわいせつな行為をしようと考え,同女に対し,

血圧を測るからベッドに横になって。

などと申し向け,同女をベッド上に仰向けに寝かせて血圧測定を開始し,同女に治療行為中である旨誤信させて心理的,物理的に抗拒不能の状態に陥らせ,同女が着用していた上衣をまくり上げ,同女に対し,

下着がセクシーだね。肌がぷりぷりしてるね。

などと申し向けながら,同女のブラジャーをまくり上げて両乳房を露出させた上,両手掌で同女の両乳房を揉み,両手指で同女の両乳首をつまむなどし,更に同女が着用していたGパンのボタンを外してチャックを下げた上,右手でパンティーの上から同女の陰部付近を撫で回すなどして弄び,もって,強いてわいせつな行為をした。
第3

原告は,平成17年1月5日午前10時30分ころ,上記乙クリニック2階
東側診療室において,同クリニックに通院加療中の被害者C(当時35歳)に対し,強いてわいせつな行為をしようと考え,

お尻触ってもいい。

などと言いながら,やにわにその背後から右手で同女の臀部を撫で回し,両腕で同女を抱きしめる暴行を加えてその反抗を抑圧した上,右手で同女の左胸を着衣の上から3回くらい揉み,左手で同女の下腹部付近を撫で回して

胸はどうだ。フェロモンを出させてやる。

などと申し向け,さらに,「感じるか。」などと申し向けながら,右手指をスカートの上から同女の陰部に押し込み上下に動かし,その陰部を弄び,もって,強いてわいせつな行為をした。

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