判例検索β > 平成20年(わ)第3179号
強盗未遂、虚偽告訴、窃盗被告事件
事件番号平成20(わ)3179
事件名強盗未遂,虚偽告訴,窃盗被告事件
裁判年月日平成20年8月8日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2008-08-08
情報公開日2017-10-13 01:37:23
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主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aと共謀の上
第1

被告人がインターネットの出会い系サイトを利用して誘い出したB(当時26歳)に因縁をつけて金品を強取しようと企て,平成20年1月30日午後5時30分ころ,大阪市中央区内の駐車場において,同人に対し,Aが,

お前誰やねん。俺の女に手を出しやがって。

などと怒号しながら,Bの顔面,腹部等を手拳で殴打し,その着衣をつかんで腹部等を膝蹴りし,逃げようとした同人の着衣をつかんで引っ張り,その場に転倒させた上,「金出せや。」などと怒号しながら,その顔面,腹部等を足蹴にし,同人が着ていたズボンのポケットをまさぐるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,同人が金品を身に着けておらず,通行人から声をかけられるなどしたため,その目的を遂げなかった

第2

同年2月1日午後8時48分ころ,同市阿倍野区阿倍野筋所在の大阪市高速電気軌道第1号線(大阪市営地下鉄御堂筋線)天王寺駅駅長室において,痴漢発生の通報を受けて駆けつけた大阪府阿倍野警察署地域課勤務司法警察員らに対し,同線で乗り合わせた乗客であるC(当時58歳)が被告人の身体に触った事実はないのに,Cが刑事処分を受けることを認識しながら,被告人が

近くにいた男が,服の上から私の下腹部やお尻を触ってきました。

旨申し向け,Aが

女性の後ろに立っていた男が,女性のお尻を触っていました。撫で回すように触っていました。僕は男の腕をつかみ,痴漢された女性と一緒に駅長室に連れて来ました。

あの男が痴漢の犯人です。

旨申し向け,Cが大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反をした旨の虚偽の被害申告をし,もって,人に刑事処分を受けさせる目的で虚偽の申告をした

第3

同月2日午後9時30分ころ,同市北区小松原町所在のゲームセンター店内において,Dが遊技台上に置いていた同人所有又は管理にかかる現金約1万円
及び自動車運転免許証等14点在中の財布1個(時価100円相当)を窃取した
ものである。
(証拠の標目)

省略
(法令の適用)

省略
(量刑の理由)
本件は,被告人が,当時の交際相手であるAと共謀の上,①被告人と交際しようとした男性に因縁を付けて,Aにおいて,殴る蹴るの暴行脅迫を加え,金品を強取しようとしたが,未遂に終わった,②地下鉄の男性客に刑事処分を受けさせる目的で,警察官に対して,前記男性客が被告人に痴漢をした旨の虚偽の被害申告をした,③ゲームセンター店内で遊客の財布等を置き引きした,という強盗未遂,虚偽告訴及び窃盗の事案である。
被告人は,犯罪行為によって楽をして現金を入手しようとしていたAから,本件各犯行を持ちかけられるなどした都度,同人に嫌われたくないという思いから,悪いことと知りつつこれに応じる決意をしたもので,被告人自身においては,直接金銭欲を満たす目的がなかったとはいえ,やはり身勝手な動機に基づくもので,酌むべき事情があるとはいえない。その各犯行態様をみても,強盗未遂の犯行は,被告人において,Aとの共謀に基づき,インターネットの出会い系サイトで,被告人との交際を求める男性を探し出し,言葉巧みに呼び出した上,Aと携帯電話で連絡をとりつつ,前記男性と一緒にホテルに行く振りをして,同人が車を停めていた駐車場に連れ込み,同所において,Aがいきなり,被告人に手を出したなどと因縁をつけ,繰り返しその顔面を手拳で殴打したり,その腹部等を膝蹴りしたりし,さらに路上に引き倒した被害者の腹部等を足蹴にするなどの激しい暴行を加えつつ,金銭を要求しており,計画的かつ巧妙であるのみならず,粗暴かつ執拗な犯行であって,相当に悪質というべきである。被害者は,突然,因縁をつけられ,一方的に激しい暴行を受けて大きな苦痛と恐怖を味わわされたばかりでなく,その後も,食事や仕事等にも大きな支障を生じるような激痛がしばらく続いたというのであって,その結果は軽視できない。また,虚偽告訴の犯行は,被告人において,Aに誘われるまま,電車内の乗客を痴漢犯人に仕立て上げて,被害者を窮地に陥れ,そこにつけ込んで,示談金の名目で多額の現金を獲得しようとするのに協力したものであり,警
察官までをも欺き,本来,社会や市民の人権を守るための砦となるべき司法手続を,その金銭欲のためによこしまな方法で悪用しようとしたものであって,その卑劣な手段に酌量の余地はない。被告人は,Aとの間で,予め男性客を痴漢犯人に陥れるための役割分担を決めた上,Aの助言に従いスカートを履いて,痴漢にねらわれ易い外観をとり,地下鉄に乗って帰宅途中の中年男性にねらいをつけて,互いの身体が接触するほどの位置に佇立した上,同人に身体を触ったなどと嘘を言い,驚いて反論を試みようとした同人にすかさず近づいたAが,触るのを見たなどと嘘を言って加勢し,被害者を駅長室に連れて行き,同室において,臨場した警察官らに対し,被告人があたかも痴漢の被害に遭ってショックを受けている被害女性を演じつつ,架空の被害事実を申告し,Aにおいても,犯行を目撃した正義感の強い若者であるかのように演じることによって,虚偽告訴の犯行に及び,被害者に濡れ衣を着せて府条例違反の罪で逮捕させるに至ったものであって,計画的かつ巧妙で悪質な犯行である。このように被告人は,同犯行に不可欠で極めて重要な役割を果たしている。しかも,被告人らは,同犯行に先立ち,相互間における携帯電話の通話記録等を消去したり,駅構内で連れ立って歩くことを避けるなどによって,赤の他人同士を装い,本件犯行が警察に発覚しないよう画策もしており,周到かつ狡猾な行動をとっている。被害者は,全く身に覚えのないのに,電車内における痴漢という極めて不名誉な罪を突然着せられ,被告人とAの巧妙な立ち回りから,必死に弁解するも聞き入れられずに,そのまま府条例違反の犯人として逮捕され,丸1日近く警察署留置施設に収容されるに至ったもので,本件が平穏な社会生活を送っていた被害者に大きな打撃と屈辱を与え,その家族にも多大の衝撃と心労をもたらしたことは明らかである。さらに,本件が,特異な事件としてマスコミなどにより広く報道されることによって,公共交通機関を日々利用している多くの男性通勤客に対して,いつ本件と同様の無実の嫌疑を掛けられ事件に巻き込まれるかも知れないという不安を与えたことが推察されるのみならず,電車内で実際に痴漢被害に遭遇し,勇気を奮って被害申告をした女性についても,虚偽申告ではないかとの疑いの目で見られるという可能性を生じさせたことも窺われ,弱い立場にある性犯罪の女性被害者による被害申告を一層ためらわせる結果を招来させかねないことが危惧される。以上にかんがみると,虚偽告訴の犯行が,社会に与えた悪影響にも見過ごせないものがある。さらに,窃盗の犯行についても,被告人は,Aとの打合せに基づき,ゲームセ
ンターで,ゲーム機上に財布を置いたまま,ゲームに熱中している遊客に話しかけ,その近くに座ったりバッグを置くなどして,財布が見えにくい状況を作出させて,Aにこれを盗み出させているのであって,同犯行で被告人が果たした役割を軽くみることはできない。以上3件の犯行は,わずか4日間に次々と敢行されたものであって,被告人の行動は,この点からも非難を免れない。
以上に照らすと,犯情は芳しくなく,被告人の刑責を軽視することは許されないことから,被告人に対しては,実刑をもって臨むことも十分考慮に値するところというべきである。
しかしながら,翻って考察すると,被告人は,本件直前ころ,うつ病が悪化し,強い自殺願望を抱いていたところ,偶然知り合ったAから,同病者であるとして,被告人を慰めたり安心させたりする言葉を掛けられたことによって,Aに精神的に大きく依存するようになっていたところに,Aからの各種犯行への働きかけがあったことが,被告人において,これらに加わる契機となっており,それ以前における被告人の生活ぶりにかんがみても,もともと犯罪傾向は窺われないこと,強盗未遂については,被害者に対して殴る蹴るの激しい暴行を加えたのはAであって,被告人は,近くでこれを傍観していたに止まり,金品の奪取も結局失敗に終わっていること,窃盗については,財布を盗み出したのはAであり,被害額も多額とはいえない上,被告人は,その分け前を受け取っていないとみられること,虚偽告訴については,被告人が被害者に身に覚えのない罪を着せたという良心の呵責に苛まれ,犯行の6日後には,Aの脅迫的制止を振り切って,警察に進んで自首し,これを契機に被害者にかけられていた嫌疑が完全に晴らされるに至っていること,被告人は,その後も,Aと一緒に犯した他の二つの罪についても積極的に警察に打ち明け,これらについても自首が成立していること,被告人が,以上のように,捜査機関に対して,事実関係を素直に供述して真相の解明に協力し,公判においても,同様の供述態度で臨み,真摯な反省の態度を示していること,被告人が,家族の協力を得て,全被害者に対して相当額の賠償金を支払うことで,すべての事件で示談が成立しており,強盗未遂及び虚偽告訴の各被害者らには,直接会って謝罪し,同人らも被告人の誠意を認めて,その寛大な処分を望む旨の嘆願書の作成に応じていること,証人となった被告人の実母が,今後,被告人をしっかりと監督し,更生させることを誓っていること,被告人には前科がないこと,被告人がうつ病に罹患していて,そ
の治療が必要な健康状態にあることなどの被告人のために酌むべき事情も多く認められる。
そこで,これらの事情を総合考慮すると,被告人に対しては,今回に限って社会内における更生の機会を与えるのが相当と認められるから,主文のとおりの刑を量定した上,最長期の執行猶予期間を定めてその刑の執行を猶予することとした。平成20年8月8日
大阪地方裁判所第3刑事部
裁判官

樋口裕晃
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