判例検索β > 平成19年(う)第2824号
住居侵入、強制わいせつ致傷、強盗被告事件
事件番号平成19(う)2824
事件名住居侵入,強制わいせつ致傷,強盗被告事件
裁判年月日平成20年3月19日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁第61巻1号1頁
原審裁判所名横浜地方裁判所
判示事項強制わいせつ目的による緊縛状態に乗じて財物を取得した行為につき,強盗罪が成立するとされた事例
裁判要旨強制わいせつ目的で被害者を緊縛した後,新たに財物取得の意思を生じた場合において,被害者が緊縛されたまま反抗が抑圧されている状態に乗じて財物を取得したときは,新たな暴行・脅迫がなくとも,強盗罪が成立する。
裁判日:西暦2008-03-19
情報公開日2017-10-13 02:04:37
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役3年6月に処する
原審における未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

第1
1
(1)


本件控訴の趣意は,理由不備,法令適用の誤り,量刑不当の各主張である。
理由不備,法令適用の誤りの論旨について
論旨は,原判決は,被告人が,被害者に対して強制わいせつ罪の暴行・脅
迫を加えた後に,被害者から携帯電話等を奪取した行為につき,新たな暴行脅迫行為が加えられたとは認められないとしながら,身体の自由に対する侵害行為が継続している以上,新たな暴行があった場合と同視できる,あるいは財物奪取に向けられた暴行であると評価すべきであると判断しているが,この点について,強盗罪が成立する理由が明確になっていないのであり,理由不備があるし,結局,被告人には窃盗罪しか成立しないのであるから,法令適用に誤りがあるという。(2)

そこで,被告人に強盗罪が成立するかについて検討するに,次の事実は,
原審証拠により容易に認めることができる。

被告人は,被害者が勤務する会社から,絵画を購入した際,その従業員であ
った被害者と知り合い,同女に興味を持つようになったが,次第に,被害者の接客態度と販売方法に疑問と怒りを抱くようになった。そこで,被告人は,平成17年10月2日,被害者に対して性的ないたずらをして,それをカメラで撮影して,被害者に仕返しをしようなどと考えて,カメラやマスクなどを携えて,被害者の住居に赴いた。

被告人は,翌3日午前零時ころ,自宅に帰宅した被害者に対し,逃げないよ
うにするために,部屋に被害者を押し込み,更に這って逃げようとする被害者を捕まえて,顔面を数回殴打した。その後,被告人は,被害者の顔面にガムテープを,上半身に布団を掛け,目隠しをするとともに,パンティー等を脱がして,下半身の写真を撮った後,更に被害者の両手首を紐で後ろ手に縛って,身動きが困難な状態にした。

被告人は,その後,被害者の肛門等にバイブレーターを挿入するなどのわい
せつ行為をし,その状況を写真に撮った。

ウのわいせつ行為を行っている途中,被害者の携帯電話に着信があり,振動
音が鳴り響いた(なお,振動音はすぐに鳴りやんだ。。被告人は,携帯電話を手に)
取り,ポケットかバッグの中に入れた。
その時間については,正確には特定できないが,少なくとも,その後も,ウと同様のわいせつ行為は行われた。

同日午前1時40分ころ,わいせつ行為を終わらせた被告人は,被害者宅か
逃走することにした。被告人は,後ろ手に縛った紐を緩めるなどしたが,逃走の時間を確保するために,被害者の両足を更に縛った。逃走する際に,被告人は,被害者から脱がせたパンティーを見つけ,これも持ち去った。
被害者は,被告人が逃走した後,自ら両手首の紐を外すなどし,自由になった。カ
被害者は,被告人からイの殴打を受けた際には,一時意識が朦朧としたが,
その後は,意識を失うことはなかった。また,被告人は,わいせつ行為をしている最中も,逃走する際も,被害者が動いていたことを確認していた。キ
被告人は,逃走した後,本件で使用したマスクなどは川に投棄したが,被害者宅から持ち去った携帯電話やパンティーは自宅に保管していた。また,携帯電話のメールを確認して,被害者の交際関係を確認したり,被害者の実家の電話番号を携帯電話で確認して,その住所を調べ,ウで撮影した写真を送付したりした。(3)

そこで,検討するに,強制わいせつの目的による暴行脅迫が終了した後
に,新たに財物取得の意思を生じ,前記暴行脅迫により反抗が抑圧されている状態に乗じて財物を取得した場合において,強盗罪が成立するには,新たな暴行脅迫と評価できる行為が必要であると解されるが,本件のように被害者が緊縛された状態にあり,実質的には暴行脅迫が継続していると認められる場合には,新たな暴行脅迫がなくとも,これに乗じて財物を取得すれば,強盗罪が成立すると解すべきである。すなわち,緊縛状態の継続は,それ自体は,厳密には暴行脅迫には当たらないとしても,逮捕監禁行為には当たりうるものであって,被告人において,この緊縛状態を解消しない限り,違法な自由侵害状態に乗じた財物の取得は,強盗罪に当たるというべきなのである。緊縛された状態にある被害者は,一切の抵抗ができず,被告人のなすがままにまかせるほかないのであって,被告人の目的が最初は強制わいせつであったが,その後財物取得の意思も生じて財物を取得しても,なすすべが全くない状態に変わりはないのに,その行為が窃盗にすぎないというのは,不当な結論であるといわなければならない。例えば,緊縛状態がなく,強制わいせつの目的による当初の暴行脅迫により反抗を抑圧された被害者に被告人がこれを寄越せとか貰っておくと言って財物を取った場合に,その言動が新たな脅迫に当たるとして強盗罪が成立するのであれば,緊縛され問答無用の状態にある被害者から財物を取った場合が強盗罪でないというのは,到底納得できるところではない。
所論は,携帯電話等の奪取行為は,被害者の認識がないうちになされており,強盗罪は成立しないという。確かに,被害者は,被告人の本件犯行の後になって初めてこれらの物が取られたことに気付いているけれども,(2)のカで認定したとおり,被害者は失神状態にはないし,被告人も失神状態にあると誤信していたわけではなく,被害者に意識があり,被告人もそのことを認識していた状態の下で緊縛状態が継続していたのであるから,目隠しをされた被害者が物を取られたことに気付いていなかったからといって,結論に差が生じるものでもない。
所論は,携帯電話を持ち去ったのは,携帯電話の振動音が鳴り響いたので,動揺して反射的にポケットに入れたからであり,パンティーを持ち帰ったのは,わいせつ行為が終わり,たまたま興味本位から手にしたにすぎないものであり,いずれも,被害者の畏怖状態を積極的に利用する意思はないという。しかしながら,(2)のエのとおり,携帯電話の振動音は,直ちに鳴りやんだし,(2)のキのとおり,携帯電話の情報を利用した後に,自宅に保管していることからすれば,動揺して反射的に携帯電話をポケットに入れたなどという被告人の弁解は信用できない。携帯電話とパンティーの奪取は,いずれも,被害者の反抗を抑圧した状態に乗じて行われたことは明らかである。
その他,弁護人が述べるところを検討しても,被告人の行為が強盗罪に当たるとの原判断は,その理由付けを含めて正当であり,理由不備及び法令適用の誤りの各論旨はいずれも理由がない。
2
量刑不当の論旨について

本件は,知人女性宅に侵入した上,被害者に対し,顔面を手拳で数回殴打し,紐で両手首を後ろ手に縛るなどの暴行を加え,肛門等にバイブレーターを挿入するなどのわいせつ行為をし,上記暴行により,加療約4週間を要する鼻骨骨折等の傷害を被害者に与え,被害者の携帯電話等を強取したという,住居侵入強制わいせつ致傷,強盗の事案である。本件で考慮すべき量刑の事情は,原判決が適切に説示するとおりである。ことに,強制わいせつ罪の動機は身勝手なものであり,また,その犯行態様も計画的で陵辱の限りを尽くした卑劣極まりないものであること,傷害の結果も大きいものであること,被害者の肉体的苦痛はもとより精神的な苦痛も甚大であること,被告人は,犯行後,被害者の仕事先及び実家に,被害者のわいせつ写真を送りつけるなどし,被害者に精神的な苦痛を更に与えるような行動をとっており,被告人の犯行後の情状も悪質であることなどからすれば,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
そうすると,強盗罪については計画性はないし,被害額も多額ではないこと,被害者は,損害賠償の内金として,この種事案では高額であるといえる1200万円を受け取っていること,被告人は,被害者に対する謝罪の意と反省の情を示していること,被告人の父親と妻が,原審で被告人を監督する旨を証言していること,被告人には前科がないことなど原判決が掲げる被告人にとって酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人を懲役5年(求刑・懲役7年)に処した原判決の量刑は,原判決時においては相当であって,これが重過ぎて不当とはいえないところであった。しかしながら,当審で取り調べたところによると,原判決後,被告人は,更に500万円を支払い,被害者の宥恕の意思までは得られなかったが,被害者との間で示談を成立させたこと,当審において,被告人は,更に反省の情を深めたことなどが認められるところ,これらの事情を考慮すると,所論指摘のように刑の執行を猶予することは相当ではないが,現時点においては,原判決の量刑を軽減するのが相当である。
第2破棄自判
よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当審において被告事件について更に次のとおり判決する。
原判決が認定した罪となるべき事実に,原判決挙示の法令を適用し(科刑上一罪の処理,刑種の選択も含む。,なお犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条3)
号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で,被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中主文に掲げる日数をその刑に算入することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官原田國男裁判官田島清茂裁判官左近司映子)
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