判例検索β > 平成20年(わ)第719号
競売入札妨害、贈賄被告事件
事件番号平成20(わ)719
事件名競売入札妨害,贈賄被告事件
裁判年月日平成20年9月2日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2008-09-02
情報公開日2017-10-13 01:37:20
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主文
被告人を懲役2年6か月に処する
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,土木建築工事の設計施工及び請負等の業務を目的とする株式会社Aの代表取締役であったが,下記第1から第4までの各行為を行った。第1(平成20年3月10日付起訴状の訴因変更後の公訴事実)
B(C局国営D公園事務所の長として,同公園が発注するE工事の予定価格の決定等の職務に従事していたもの)及びF(G局国営H公園事務所の長であったもの)と共謀の上,同工事の指名競争入札に関し,その入札書比較価格(予定価格から消費税額を差し引いた金額)をBが被告人に知らせることにより同工事をAに高値で落札させようと企て,平成17年6月下旬ころ,奈良県高市郡a村bにある国営D公園事務所において,Bが,同郡c町de番地にあるA事務所にいた被告人に対し,電話で,同工事の入札書比較価格が5200万円をわずかに上回る金額となることを内密に知らせた。これにより,同年7月7日から8日にかけて執行された同工事の入札の際,被告人の指示によりA従業員が上記入札書比較価格に近接する5200万円で入札して同工事を落札した。
第2(平成20年3月31日付起訴状の公訴事実第2の2)
Bが,上記E工事の指名競争入札に関し,第1記載のとおり,平成17年6月下旬ころ,同入札の指名入札業者であるAの代表取締役であった被告人の求めに応じ,自己が職務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格が5200万円をわずかに上回る金額となることを被告人に内密に知らせて職務上不正な行為をしたことに対する謝礼の趣旨で,そのころ,第1記載の国営D公
園事務所の通用口付近において,Bに現金50万円の賄賂を渡した。第3(平成20年4月4日付起訴状の公訴事実第2の2)
平成17年6月24日ころ,第1記載のA事務所において,Fに対し,電話で,Bに対しその職務上知り得た秘密である上記E工事の入札書比較価格を被告人に内密に知らせるよう働きかけてもらいたいとのあっせんを依頼してその承諾を得た。そして,Fがそのとおりあっせんしてくれたことに対する謝礼の趣旨で,同年10月30日ころ,奈良県橿原市f町g番地にあるI駅東口付近において,Fに現金50万円の賄賂を渡した。
第4(平成20年2月17日付起訴状の公訴事実)
J(奈良県高市郡c町の長として,同町が発注するK工事(1工区)の最低制限価格の決定等の職務に従事していたもの)と共謀の上,同工事の一般競争入札に際し,同工事を特定の業者に落札させてAがその下請業者になることを企て,平成18年10月26日ころ,奈良県高市郡c町hi番地jにあるc町役場において,Jが,第1記載のA事務所にいた被告人に対し,電話で,同工事の非公表の最低制限比較価格(最低制限価格から消費税額を差し引いた金額)が請負対象設計金額の85パーセントの金額であることを内密に知らせた。これにより,同月27日に執行された同工事の入札の際,被告人から情報を得た株式会社Lの従業員が最低制限比較価格と同額の3億9998万6000円で入札して同工事を落札した。
【証拠の標目】
省略
【法令の適用】
1
第1及び第4の各行為はいずれも刑法60条,96条の3第1項に該当する(1か月以上2年以下の懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。第2の行為は刑法198条(197条の3第2項)に該当する(1か月以上3年以下の懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。

第3の行為は刑法198条(197条の4)に該当する(1か月以上3年以下の懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。
2
それぞれの罪について,定められた刑の中からいずれも懲役刑を選択する。
3
以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い第3の罪の刑に法律で定められた加重をする。
4
これにより導き出された刑期(1か月以上4年6か月以下の懲役)の範囲内で,被告人を懲役2年6か月に処する。その理由は後記【量刑の理由】のとおりである。

5
被告人には,この裁判の間身体拘束を受けた未決勾留の期間があるので,刑法21条を適用して,そのうち20日間をその刑に算入する。

6
ただし,後記【量刑の理由】に記載したとおり被告人に有利に考慮すべき事情もあるので,刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。

【量刑の理由】
1
事案の概要
本件は,建設会社の代表取締役であった被告人が,公共工事の競争入札に関し,共犯者である公園事務所長や町長から非公表の入札書比較価格や最低制限比較価格を内密に知らせてもらい,前者及びそのあっせんに対する謝礼として,同公園事務所長外1名に賄賂を渡したという事案である。

2
量刑上特に考慮した事情
(1)

被告人に不利な事情
贈賄(第2及び第3の各事案)について
(ア)

被告人は,入札を実施する公園事務所の所長であったBとその先輩に
当たるFに対し,50万円ずつもの多額の賄賂を渡している。しかも,これらの賄賂は,公共工事の入札書比較価格を内密に知らせてもらえるようFにあっせんを依頼し,これを承諾したFがBに働きかけ,これを受けた
Bが被告人に入札書比較価格を内密に知らせたことに対する謝礼として渡したものである。公務員の職務上の不正行為とそのあっせんに対する対価として賄賂が渡されたもので,公務に対する国民の信頼を著しく損なったものというほかない。
(イ)

被告人は,F及びBのいずれに対しても,自ら積極的に働きかけ,積
極的に賄賂を渡している。

競売入札妨害(第1及び第4の各事案)について
(ア)

被告人は,第1の事案では,自社が公共工事をできる限り高い金額で
落札受注するために犯行に及んだ。また,第4の事案でも,あらかじめ自社を下請業者にしてもらう約束をしていた特定の業者に確実に落札受注させるために犯行に及んだ。いずれも不当な経済的利益を目的とした身勝手な動機に同情すべき点はない。
(イ)

第1の事案では,被告人が,入札を実施する公園事務所の所長の地位
にあったBから入札書比較価格を内密に知らせてもらった結果,5207万円の入札書比較価格に対し5200万円という極めて近接した価格での落札に成功し,これにより被告人の建設会社が約550万円の利益を得た。第4の事案では,入札を実施するc町の長の地位にあったJから非公表の最低制限比較価格を内密に知らせてもらった結果,被告人から情報を得た特定の業者が最低制限比較価格と同額での落札に成功し,これにより被告人の建設会社が約4470万円の利益を見込める状況となった。このように,公正な競争を目的とする入札が現実に妨害された。
(ウ)

被告人は,いずれの犯行でも自ら積極的に共犯者に働きかけている。
とりわけ第1の事案では,被告人が,先輩であるFからBに働きかけさせて犯行に巻き込んでいる。
(エ)

被告人は,本件以前にも入札手続において不当な便宜を図ってもらっ
たことを自認しており,常習的犯行である。

(2)

被告人に有利な事情


被告人は,公訴事実をすべて認めて,反省の弁を述べ,自ら建設会社の取締役を辞任している。


本件の発覚により,被告人が代表取締役を務めた建設会社は,指名停止処分を受けるなど一定の制裁を受けている。


被告人には,ここ20年以上の間,前科がない。


高齢であり,健康状態もよくない。


被告人に代わって上記会社の代表取締役となった実弟が,情状証人として出廷し,被告人が将来再び同社の代表取締役に就くことはないと証言している。被告人も,今後同社の経営には関与せず,二度と裁判所の世話になるようなことはしないと述べている。

3
結論
上記2(1)の事情からすれば,被告人の刑事責任は重いというべきであるが,他方で,上記2(2)のとおり被告人に有利に考慮すべき事情もある。よって,これらの諸事情を総合的に考慮すれば,被告人に対しては,今回に限り,社会内で更生する機会を与えるのが相当であるから,主文の刑を量定した上,その刑の執行を猶予することとした。

(求刑

懲役3年)

平成20年9月2日
大阪地方裁判所第14刑事部
裁判長裁判官

長井秀典
裁判官

今井輝幸
裁判官

渡邉一昭
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