判例検索β > 平成19年(ネ)第2775号
敷金返還請求権確認等請求事件
事件番号平成19(ネ)2775
事件名敷金返還請求権確認等請求事件
裁判年月日平成20年9月24日
法廷名大阪高等裁判所
結果その他
判例集等巻・号・頁第61巻3号1頁
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成17(ワ)12817
判示事項転借人が転貸人(賃借人)に提供した敷金をもって転貸人が賃貸人に敷金を提供した場合において同敷金返還請求権を信託目的とする旨の合意をしたとまでは認められないとされた事例
裁判要旨転借人が転貸人(賃借人)に提供した敷金をもって転貸人が賃貸人に敷金を提供した場合において,転借人と転貸人との間で賃貸人に対する敷金返還請求権が分別管理されることが当事者間で予定されていたとはいえず,実質的な賃貸借関係が転借人と賃貸人との間にあって転貸人が形式的に介在したに過ぎないという事情もないなど判示の事実関係の下においては,転借人と転貸人との間で,賃貸人に対する敷金返還請求権を信託目的とする旨の合意をして信託契約をしたとまでは認められない。
戻る / PDF版
主文1
被控訴人の請求を棄却する。

2
原判決主文第1・2項は,当審における被控訴人の訴えの交換的変更によって失効した。

3
訴訟費用は,第1・2審とも被控訴人の負担とする。


第1

実及び理由
被控訴人の請求
被控訴人と控訴人との間において,被控訴人が大阪法務局平成19年度金第×××××号の供託金4億円の供託金還付請求権を有することを確認する。
第2

事案の概要

1
事案の要旨
(1)

Z電鉄株式会社(以下「Z電鉄」という。
)が所有する別紙不動産目録

1記載の建物(以下「本件建物」という。
)の1階及び2階部分のうち別紙
賃貸図面の朱塗り部分(以下「本件賃借部分」という。
)について,Z電鉄
が控訴人にパチンコ店舗として使用する目的で賃貸する旨の出店契約書が交わされ,同契約書に従って控訴人からZ電鉄に対し敷金4億円が差し入れられた。この敷金は,本件賃借部分について,控訴人から被控訴人に同目的で転貸借する旨のほぼ同内容の出店契約書が作成され,これに従って被控訴人から控訴人に対し差し入れられた敷金4億円が充てられたものである。(2)

本件の原審における事案は,被控訴人が控訴人に対し,Z電鉄に対す
る上記敷金返還請求権は,被控訴人の信託財産である等と主張して,その敷金返還請求権を有することの確認と,これが被控訴人に移転した旨Z電鉄に通知することを請求したものである。
(3)

原審は,Z電鉄に対する敷金返還請求権を被控訴人の信託財産であると
認定して,被控訴人の請求を全面的に認容したために,これを不服とする控訴人が控訴した。
(4)

被控訴人から上記敷金返還請求権について債権処分禁止等仮処分命令が
申し立てられ,平成19年7月27日,その決定が発せられたため,Z電鉄は,債権者不確知を理由として,原判決言渡後の同年9月5日,上記敷金4億円を供託した(大阪法務局平成19年度金×××××号)

(5)

そこで,被控訴人は,上記供託金還付請求権(以下「本件供託金還付請
求権」という。
)が自己に帰属するとして,当審において従前の訴えを交換
的に変更し,控訴人に対し,本件供託金還付請求権を被控訴人が有することの確認を求めたものである。
2
争いのない事実等

(1)ア

被控訴人は,遊技場経営等を事業目的とする株式会社であり,平成1
1年11月17日,本件賃借部分において,パチンコ店を出店するためにN株式会社として設立され(資本金1000万円)
,平成12年4月13
日に現商号に変更し,同年8月から本件賃借部分で「a」の店名で営業を行っている。

控訴人は,大阪証券取引所第1部に上場していた建築土木工事の請負を主たる事業目的とする中堅ゼネコン(平成12年当時の資本金30億円)であったが,平成17年5月5日に大阪地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし(同裁判所平成17年(再)第××号,この時点での資本金130億3000万円)
,同月9日に再生手続開始決定がなされた。さらに
同年11月14日には,再生計画認可決定がなされ(乙2,3)
,平成1
8年4月12日,再生手続は終結した(乙5)



Z電鉄は,Zグループの中核事業会社のひとつとして,都市交通事業,不動産事業,エンタテイメント・コミュニケーション事業,リテール事業等を目的とする株式会社であり,本件建物の所有者である。
(2)ア

本件建物の所在地(別紙不動産目録2ないし4記載の土地〈以下「本
件土地」という。
〉及びその周辺地域)は,大阪駅周辺のZグループの施
設が集積する地区内に位置している。

本件土地及びその周辺地域は,いわゆるバブル崩壊後に開発計画が進まずに,駐車場として放置されていたところ,平成11年10月21日に至り,Z電鉄によって「W開発計画」と称する開発計画(以下「本件開発計画」という。
)がプレス発表された。


本件開発計画では,3階建のスポーツ・アミューズメント施設として,本件建物を建築し,1階にパチンコ・スロットホール,2階にアミューズメント施設,3階にボーリング場をテナントとして誘致し,平成12年8月に開業することが予定されていた。


本件建物は,本件開発計画に基づき,Z電鉄によって建築されたものであり,現在,1階では,被控訴人がパチンコ店を営業し,2階,3階では,Tがゲームセンターとボーリング場を営業している。

(3)ア

Z電鉄は,控訴人との間で,平成12年6月26日,別紙契約目録2
記載のとおり,本件賃借部分の賃貸借契約(出店契約)を締結した(以下「本件賃貸借契約2」という。。


控訴人と被控訴人は,同日,別紙契約目録1記載のとおり,本件賃借部分の賃貸借契約(出店契約)を締結した(以下「本件賃貸借契約1」という。。


(4)ア

被控訴人は,控訴人に対し,本件賃貸借契約1の予約証拠金として,
平成12年3月21日に5000万円を,同年4月25日に1億5000万円をそれぞれ交付し,控訴人は,Z電鉄に対し,本件賃貸借契約2の予約証拠金として,同月27日に2億円を交付した(上記各予約証拠金は,いずれも同年6月26日の本件賃貸借契約1・2に基づく敷金に充当された。。


被控訴人は,同月27日,控訴人に対し,本件賃貸借契約1の敷金として2億円を交付し,控訴人は,同月28日,Z電鉄に対し,本件賃貸借契約2の敷金として2億円を交付した(以上,ア,イによりZ電鉄に差し入れられた敷金4億円を「本件敷金」という。。


(5)ア

被控訴人は,本件賃借部分に関する基本工事を除く建築・設備工事の
うち,本件建物の入店者(以下「入店者」という。
)の費用負担において
入店者側が設計施工した工事(本件賃借部分を返還するとき入店者の費用をもって原状に回復するもの。以下「C工事」という。
)について,控訴
人と請負契約を締結し,平成12年8月31日までに控訴人に対し,総額4億8300万円を支払った。

被控訴人は,本件賃借部分に関する基本工事を除く建築・設備工事のうち,入店者の要望により,入店者の費用負担においてZ電鉄側が設計施工した工事又は入店者の費用負担において入店者側が設計施工した工事のうち,入店者がZ電鉄への無償譲渡を認めた工事(以下「B工事」という。
)に関する本件賃貸借契約1・2に基づく工事負担金として,平成12年9月28日までに控訴人に対し,総額1億6401万円を支払った。
(6)

被控訴人は,平成19年7月17日,大阪地方裁判所に対し,債務者を
控訴人,第三債務者をZ電鉄として,①

控訴人は,Z電鉄から本件敷金の

返還請求権を取り立て,又はこれについて譲渡,質権の設定その他一切の処分をしてはならない,②

Z電鉄は,控訴人に上記債務を支払ってはならな

い,との債権処分禁止等仮処分命令を申し立て,同月27日,その決定が発せられた。そこでZ電鉄は,債権者不確知を理由として,同年9月5日,本件敷金を供託した(大阪法務局平成19年度金×××××号)
(甲31の1・
2,32,33)

(7)

控訴人は,本件賃貸借契約2に基づくZ電鉄に対する本件敷金の敷金返
還請求権が控訴人にあるから,本件供託金還付請求権も控訴人に帰属すると主張している。
3
争点及び当事者の主張
(1)

争点1(Z電鉄と被控訴人間に直接の賃貸借契約を認めることができる
か。

〔被控訴人〕
形式上,被控訴人・控訴人間,控訴人・Z電鉄間には,本件賃貸借契約1・2が存在するが,Z電鉄と被控訴人は,直接に交渉を行い,契約条件を定めていた上に,賃貸借契約上の内装等に関する財産区分は,Z電鉄と被控訴人との間で定められた財産区分であった。この点から見て本件においては被控訴人とZ電鉄との間には,直接の賃貸借契約が成立する。そうであれば本件敷金も控訴人を使者としてZ電鉄に差し入れられたものに過ぎないから,その敷金返還請求権(以下「本件敷金返還請求権」という。
)は被控訴人に
帰属するというべきである。
〔控訴人〕
否認する。
被控訴人は,被控訴人とZ電鉄との直接の賃貸借契約が成立しているとの主張を行わないことを明らかにしていたにもかかわらず,弁論終結を予定した期日の直前に上記の主張を行ったものである。かかる行為は,訴訟手続における信義則に著しく反する行為であるとともに,著しく時機に後れたものであるから,却下すべきである。
(2)

争点2(本件敷金返還請求権は,被控訴人を委託者兼受益者とし,控訴
人を受託者とする信託財産であるか。

〔被控訴人〕

委任契約の成立
(ア)

被控訴人は,平成12年4月25日,Z電鉄の承諾のもとに,本件
賃借部分において被控訴人がパチンコ店を営業する目的で,控訴人に対し,Z電鉄を賃貸人,控訴人を賃借人として本件賃貸借契約2を締結すること,本件賃貸借契約2の当事者としての契約を管理することを委任し,控訴人は,これを受任した(以下「本件委任契約」という。。)
(イ)

本件委任契約において,被控訴人と控訴人との間で,以下のとおり
の合意がなされた。

被控訴人は,本件賃借部分において,パチンコ店を営業する。


本件委任契約に基づいて締結された本件賃貸借契約2に基づき控訴人がZ電鉄に対し負担する一切の債務は,被控訴人が負担する。当該賃貸借契約に基づく敷金(又は予約証拠金)
,賃料,共益費等の支払
は,被控訴人が履行するものとし,被控訴人が控訴人に預託した金員を控訴人が各支払期日にZ電鉄に支払うものとする。


被控訴人は,Z電鉄に対しては,転借人の地位にあるものとし,控訴人は,本件委任契約に基づきZ電鉄と賃貸借契約を締結すると同時に,本件賃借部分に関し,被控訴人と賃貸借契約を締結する。
本件委任契約の趣旨に基づき,控訴人は,転貸人として固有の利益を有してはならないものとし,被控訴人との間の契約は,控訴人とZ電鉄との間の当該契約と完全に同一の賃借条件でなければならない。ただし,賃料及び共益費等の支払期日は,控訴人が被控訴人から預託されZ電鉄に支払うまでの事務処理期間を考慮して定める。


被控訴人は,Z電鉄と控訴人間の賃貸借契約に基づく控訴人の債務を保証するため,D,株式会社E,Fを連帯保証人とする。


被控訴人は,控訴人に対し,本件委任契約に基づく報酬として1か月30万円を支払う。


C工事については,被控訴人が控訴人に発注する。
B工事については,被控訴人が控訴人及びL建設株式会社からなるJV(共同企業体)に発注するか,あるいはZ電鉄が同JVに発注し,被控訴人がその費用を負担する。
(ウ)

本件賃貸借契約1・2は,本件委任契約に基づき締結された(以下,
本件賃借部分に関する被控訴人,控訴人,Z電鉄との賃貸借関係を「本件賃貸借関係」という。。


信託契約の成立
(ア)

旧信託法(大正11年法律第62号)1条によれば,
「財産権ノ移

転其ノ他ノ処分ヲ為シ」「他人ヲシテ一定ノ目的ニ従イ財産ノ管理又,
ハ処分ヲ為サシムル」ことによって,信託契約が成立する。当事者が信託という文言を用いていたか否か,法的な意味において信託契約であるという認識を有していたか否かは,信託契約の成否につき決定的な意味を持たず,当事者が信託契約の成立を基礎づける事実関係を認識している以上,信託契約が成立する。
(イ)

ところで,本件賃貸借関係は,一般の転貸借関係とは異なっており,
以下のとおり,契約締結の経緯,当事者の意思,契約実態からみて,実質的な賃貸人はZ電鉄であり,実質的な賃借人は被控訴人である。a
Z電鉄は,本件土地の一部の所有者であった財団法人G(以下
「G」という。
)との従前の関係でやむを得ず,本件賃貸借関係に控
訴人を介在させたにすぎない。


本件賃貸借契約1・2の契約の内容は,契約当事者を変更しただけで,その内容は,ほぼ完全に同一である。これは偶然や便宜ではなく,Z電鉄の意向であり,その契約条件については,Z電鉄と被控訴人との間で決定され,控訴人は,これに従うしかなかった。


本件賃貸借契約1・2の契約条件が同一(すなわち,敷金や賃料
〈使用料〉が同一)であることから,本件賃貸借関係において控訴人には,賃料差益が存在しない。

本件賃貸借契約1において,控訴人は,被控訴人から事務経費として月額30万円を取得できることになっているが,これは,控訴人が事務履行義務(被控訴人から受領した賃料〈使用料〉をZ電鉄に交付すること)を被控訴人に対して負担していることを意味している。

本件賃借部分について,控訴人に独自設備や造作資産はない。そして,B工事についての費用負担者は被控訴人であり,C工事についてZ電鉄に原状回復義務を負担しているのは被控訴人である。

(ウ)

そして,被控訴人の控訴人に対する敷金4億円の交付は,本件委任
契約の趣旨に従って(必ずしも本件委任契約の存在を前提とせずとも),
これをZ電鉄に本件敷金として交付するという目的に従って処分することが合意されていたものであり,その結果,被控訴人の控訴人に対する敷金4億円の交付により,被控訴人を委託者兼受益者,控訴人を受託者とする信託契約(以下「本件信託契約」という。
)が成立したものであ
る。
(エ)

ところで,信託契約の成立要件には,分別管理義務は含まれないと
解するべきである。
仮に,信託契約の成立要件として,分別管理義務を要するとした場合,控訴人は,被控訴人が敷金4億円を控訴人の一般当座預金口座に入金したこと及び控訴人がZ電鉄に本件敷金を交付するまでの間に期間があったことを問題としている。
しかし,単に被控訴人が控訴人に交付した敷金4億円の入金先が特別の口座か一般の当座預金口座かによって,信託の成立が左右されることはない。また,同敷金4億円(ただし,平成12年3月21日に被控訴人から控訴人に交付された5000万円の予約保証金を除く。
)は,信
託合意に接着して分別管理がなされることが義務づけられていれば,信託法上の分別管理義務として十分であるし,本件では,控訴人が上記入金のあった金員を直ちにZ電鉄に本件敷金として支払うべきことが義務づけられていたのであるから,信託法上の分別管理義務に合致しているというべきである。
なお,上記の5000万円の予約保証金の交付についても,本件委任契約が成立した平成12年4月25日の時点で,被控訴人・控訴人間でZ電鉄に支払われるべきものとして,信託合意がなされたものである。そして,被控訴人が控訴人に交付した敷金4億円が控訴人からZ電鉄に交付され,控訴人のZ電鉄に対する敷金返還請求権となったことによって,控訴人の他の責任財産との分別管理がなされているというべきである。
(オ)

したがって,本件賃貸借契約2に基づく控訴人のZ電鉄に対する本
件敷金返還請求権は,被控訴人の信託財産である。

本件信託契約の終了
(ア)

被控訴人は,平成17年3月7日,控訴人に対し,Z電鉄の承諾の
もと,本件委任契約を同年4月30日をもって終了する旨の意思表示をした。
(イ)

したがって,本件委任契約の終了に伴い,被控訴人と控訴人との本
件信託契約も終了し,被控訴人に本件敷金返還請求権が帰属した。〔控訴人〕

本件賃貸借関係は,本件賃貸借契約2によってZ電鉄から控訴人が本件賃借部分を賃借し,本件賃貸借契約1によって控訴人が被控訴人に対し,本件賃借部分を転貸したというものであり,本件賃貸借契約2によって控訴人がZ電鉄に交付した本件敷金の敷金返還請求権が被控訴人に帰属するなどということはありえない。
被控訴人は,上記のような転貸借関係を争ったことはなかったが,控訴人が再生手続開始決定を受けたため,被控訴人の控訴人に対する4億円の敷金返還請求権が再生債権となったことから,被控訴人は,上記のような再生債権としては,さしたる配当を受けられないと知るや,にわかに被控訴人と控訴人との間に信託契約関係があったとして,本件敷金返還請求権が被控訴人に帰属するものであると主張するに至ったものである。本件敷金返還請求権は,原則どおり,民事再生法による規律に従うべきである。

本件敷金返還請求権は,控訴人の帳簿上にも資産として計上されており,控訴人の一般債権者からみると,控訴人の責任財産の一部をなすものである。このため,控訴人の一般債権者との関係では,本件敷金返還請求権が控訴人の一般財産から分別管理され,特定性をもって保管されていることは必須の要件である。
しかし,本件敷金は,本件賃貸借契約2に基づき,授受されているだけで,被控訴人との関係で,本件敷金返還請求権について,それが控訴人が被控訴人に対して負担する敷金返還義務の履行以外の使途に使用されないことを確保する合意もなければ,仕組みもない。
したがって,控訴人が被控訴人のために本件敷金を管理しているという要件を欠いている。
そして,本件敷金返還請求権については,
「債権者の責任財産としての
期待」を阻害するような公示・公告・公知性・周知性は全くない。

控訴人が本件賃貸借関係において賃借人兼転貸人として入った理由は,Z電鉄がこれまで取引関係のないパチンコ店(被控訴人)と直接契約することを嫌悪し,パチンコ店のトラブルや賃料不払いのリスクに対応するためである。控訴人は,これまで取引関係のなかった大手電鉄会社のZ電鉄からの工事実績を取りたかったことから,Z電鉄から賃借人兼転貸人として入ることを指示されたので,あえて賃料負担のリスクを冒してまで本件賃貸借関係に入ったのであり,控訴人が転貸そのもので新たに利得を得ようという気はなかったものである。したがって,本件賃貸借関係において,控訴人が賃料差額を得ていないからといって固有の利益がないとはいえない。
現に,控訴人は,Z電鉄との関係で賃借人としての義務を負っているのであり,仮に,被控訴人が控訴人に対する賃料を支払わなかった場合には,控訴人がZ電鉄に賃料を支払うことになることが明らかである。

信託財産を分別管理する義務は,信託契約の重要な判断要素であるというべきである。
これを本件についてみれば,本件賃貸借契約1に基づき被控訴人から控訴人に対して交付された敷金4億円は,いずれも一旦,控訴人の当座預金口座に入金されており,控訴人の一般財産に混入している以上,その後に本件賃貸借契約2に基づき控訴人がZ電鉄に本件敷金を交付したとしても,本件敷金は,あくまで本件賃貸借契約1とは別個の契約に基づいて交付した敷金であり,分別管理がなされていたとはいえず,この点からも信託契約の成立は否定されるべきである。

(3)

争点3(本件敷金返還請求権の債権譲渡があったか。


〔被控訴人〕

控訴人は,平成17年3月7日,被控訴人及びZ電鉄との間において,同年4月30日を期限として,控訴人がZ電鉄との本件賃貸借契約2の賃借人としての地位及び被控訴人との本件賃貸借契約1の転貸人としての地位から離脱し,本件敷金返還請求権については,被控訴人が承継することに合意した。


控訴人は,Z電鉄に対する本件敷金返還請求権を被控訴人に譲渡したことをZ電鉄に通知していないが,意図的に対抗要件の具備の手続を遅延しているものであり,背信的悪意者として,対抗要件の欠缺を主張するにつき正当な利益を有していない。
〔控訴人〕

控訴人が,平成17年4月30日をもって,Z電鉄との本件賃貸借契約2の賃借人としての地位及び被控訴人との本件賃貸借契約1の転貸人としての地位から離脱することについての大筋の合意に至っていたことは事実であるが,詳細な内容については,交渉中であり,敷金の取扱い等については未定であった。


仮に,控訴人が本件敷金返還請求権を被控訴人に譲渡するとの合意をしたとしても,当該債権譲渡については,対抗要件の具備が必要であるが,控訴人は,債務者であるZ電鉄に対して確定日付のある通知を行っておらず,Z電鉄からの確定日付のある承諾もない。
そして,控訴人が本件賃貸借関係から離脱するための条件等については,詳細に詰めきれていなかったのであるから,控訴人がZ電鉄に上記債権譲渡の通知をしなかったことをもって,直ちに背信的悪意者に該当するということはできない。

(4)

争点4(商法558条,552条2項の類推適用により被控訴人には本
件敷金返還請求権について取戻権の行使が認められるか。

〔被控訴人〕
問屋が委託に基づいて第三者との間でした売買により取得する目的物や代金については,委託者への帰属を認めるだけでなく,破産法上の取戻権の行使が認められる。
本件において,控訴人がZ電鉄に対して負う契約上の債務に関する出捐は,控訴人が被控訴人のために行う財産的事務処理のための費用としてすべて被控訴人が負担し,被控訴人から控訴人に対して交付される金銭も上記費用として交付されるものであるから,控訴人が当該金銭に関し純粋な財産権帰属者として行動することは許されず,そこからの利益は得られないということが,控訴人と被控訴人との間で合意されていた。換言するならば,控訴人が自己の名をもって他人である被控訴人のためにZ電鉄との間で本件賃貸借契約2を締結したということである。
以上の控訴人と被控訴人との関係は,控訴人により引き受けられる行為が「物品の販売又は買い入れ」でないことを除けば,商法の問屋における問屋と委託者との関係と同じであり,本件のような場合においても,一般的な債権者よりも委託者の地位にある被控訴人を保護すべきであり,それが公平の理念にも合致する。
〔控訴人〕
本件においては問屋又は準問屋の関係が成立することはありえない。本件賃貸借契約2に基づく本件敷金は,控訴人の一般財産から支出されたものであり,控訴人のZ電鉄に対する本件敷金返還請求権は,控訴人の一般財産を構成する。その敷金の原資が,被控訴人から本件賃貸借契約1に基づき差し入れられた敷金によるものであるとしても,それは控訴人のZ電鉄に対する本件敷金返還請求権が,控訴人の一般財産であること,及び被控訴人が控訴人の一般債権者との関係において優先権を有するものではないという結論を左右するものではない。
第3
1
当裁判所の判断
本件の経緯
争いがない事実等に加え,証拠(原審証人H〈甲23の陳述書を含む。,〉
同I〈甲25の陳述書を含む。,同J〈甲26の陳述書を含む。,同K〈乙〉

7,8の陳述書を含む。)及び文中掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば,〉
以下の事実が認められる。
(1)

本件土地及びその周辺地域は,いわゆるバブル崩壊後開発計画が進まず,
駐車場として放置されていたものであるが,平成11年10月21日ころ,Z電鉄によって本件開発計画がプレス発表されるに至った。本件開発計画では,3階建のスポーツ・アミューズメント施設として,本件建物が建築されることになっており,1階にはパチンコ・スロットホールを誘致することが構想されていた。そしてZ電鉄は,平成10年秋ころ,従前からパチンコ・スロットホールの建築請負工事の実績があった控訴人に対し,本件建物の1階にパチンコ・スロットホールのテナントを誘致することを条件に,本件建物の建築請負工事について,L建設株式会社との共同企業体(JV)の構成員として参加するように依頼し,控訴人はこの申出を承諾した。
(2)

被控訴人代表者であるDの先代は,従前から岡山県においてパチンコ店
等を手広く営んでいたところ,控訴人は,平成10年12月ころから,Z電鉄に対し,先代の長男であるMが経営するn株式会社を上記テナントの候補として紹介した。しかしMは,先代のパチンコ店を継がずに東京でn株式会社を営んでいたことから,その信用力に不安があったため,その後,テナントとしては,Oグループの中でもっとも信用のある株式会社E(先代の三男F経営)が支援するとの前提で,二男Dが交渉相手となっていた(乙10)。
そして,平成11年4月26日には,Z電鉄側とD(Oグループ)が初顔合わせをし,同年7月ころまでに,D(Oグループ)が本件建物1階のパチンコ店のテナントとして確定した。
なお,控訴人の常務であるPは,平成11年1月ころ,Oグループに対し,テナント交渉については,本件土地の地上げに関わっていた株式会社Qコーポレーションの代表取締役のR(以下「R」という。
)及びS弁護士(以下
「S弁護士」という。
)を通すように申し入れ,Oグループはこれに応じた。
この結果,S弁護士が被控訴人の代理人となったほか,Mが株式会社Qコーポレーションとの間にコンサルタント契約を締結し,同年6月22日,同社に対し,コンサルタント料名下に6000万円を支払う旨約束し,同日,そのうち1000万円を支払った(甲14)
。この後,Rらは,被控訴人に対
し,本件開発計画に関連して,種々の利権や便益の供与を要求するようになった。
(3)

平成11年10月1日には,Z電鉄及びL建設株式会社の主催で本件開
発計画の第2回近隣説明会が開催されたが,同説明会には,本件建物のテナントとして,OグループのD(パチンコ・スロット部門)及びT(ボーリング・アミューズメント部門)が参加した(甲28・29の各1・2)。そして,
本件開発計画は,同月21日にプレス発表された。
(4)

Dは,平成11年11月17日,本件建物でパチンコ店を営むために自
己を代表取締役として,被控訴人を設立した(当初の商号は,N株式会社であったが,平成12年4月13日にXに商号変更した。。

(5)

Z電鉄は,このころには,本件賃借部分について,控訴人に賃貸し,控
訴人が被控訴人(Oグループ)に転貸する方式(出店契約)を採用することを決定していた。これは被控訴人並びにその母体であるOグループの業態及び信用の点を懸念したこともあって,本件賃貸借関係の中間に控訴人が介在することにより被控訴人の信用を補完することが主眼であったが,本件土地については,将来,本格的な開発が予定されているために,その際に使用者である被控訴人からの権利主張等があった場合のリスクの軽減を図り,かつ直接の当事者とならないようにするという目的もあった。また,本件土地の一部は,Gの所有するものであったために(甲2,4)
,Z電鉄は,開発計
画についてGの了解が必要であったが,控訴人を直接の賃借人とすることで,Gの承諾を得やすいという事情もあった。
控訴人には,Z電鉄と被控訴人との間に介在して,中間マージンを得ることができるほか,Z電鉄との間の取引を広げる目的があった。被控訴人には,控訴人が入ることにより本件建物を円滑に賃借することができ,大阪を代表する繁華街で事業展開が可能となるメリットがあった。
(6)

ところで,Z電鉄と被控訴人との出店契約書案が作成されるほどに進展
していたにもかかわらず,被控訴人と控訴人との間の契約交渉がなかなか進行しなかった。そのようなときS弁護士は,平成12年3月9日付けで,被控訴人の代理人として,控訴人に対し,出店契約(転借契約)における敷金4億円が支払えない状況にあるので,U銀行からの借入金によることにするが,融資が得られない場合には,敷金を60回(5年間)の分割払いとすること,C工事の代金4億3000万円及びB工事の代金約7000万円についても,60回(5年間)分割払いとすること等を「御願書」として,送付した(乙11)

これを受けて,控訴人は,被控訴人に資金的な不足が予測され,このままでは最終的にZ電鉄にも迷惑をかけるとして,同月13日,Z電鉄に対し,被控訴人をテナントから外したいと申し入れ,既に水面下では別のパチンコ店に接触しており,一部図面の変更の可能性についての協議を行うことを求めた。しかし,Z電鉄は,Z電鉄内部の決裁やGとの関係からして,本件建物の本件賃借部分について,控訴人を賃借人,被控訴人を転借人とするスキームを変更することには問題があると判断していた。
(7)

Z電鉄の担当者であったHは,平成12年3月14日,被控訴人のD社
長と面談し,同月17日,被控訴人のI顧問税理士と面談し,それぞれ資金繰りについて確認し,さらに同月21日にも,被控訴人からヒアリングしたところ,その話は,S弁護士の上記「御願書」の内容とは異なっており,逆に,RやS弁護士が被控訴人から出店のお礼や弁護士費用名下に多額の金員を受け取っていたこと及びRが更に被控訴人から多額の金員を要求していると認識した。
(8)

被控訴人は,控訴人に対する敷金の交付やB工事及びC工事の代金支払
について控訴人の要望を受け入れることにした(平成12年4月24日までに,C工事については,引渡時に80%を現金払い,20%を90日の約束手形払いとなった〈乙9〉)上で,同月21日,資金力がある証しとして,。
控訴人の口座に賃貸借契約の敷金の前渡金として5000万円を入金した。(9)

Z電鉄は,平成12年3月24日,テナント変更をするならば,被控訴
人を紹介した責任問題,近隣対応への責任問題,Gへの説明等について控訴人から書面による報告が必要であり,現時点でテナントを変更するとの判断はできないとして,控訴人に対して翻意を要請したところ,控訴人は,同月27日,テナント変更の意思を撤回した。
(10)

Z電鉄は,本件開発計画を円滑に進行させるためには,本件建物への出
店契約に関する控訴人の不相当な利益獲得とRらの利権を阻止することが必要と判断し,Z電鉄と控訴人との賃貸借契約を,控訴人と被控訴人との賃貸借(転貸借)契約とを完全に一致させるように自ら乗り出し,Z電鉄トップ層から控訴人トップ層へ強い改善の申入れがなされた。この後,本件建物の賃貸借契約条件については,Z電鉄と被控訴人との間で直接の協議がなされるようになった。
(11)

その後,Z電鉄と被控訴人との間において,賃料,敷金等の契約条件の
合意が成立したことから,平成12年4月25日,Z電鉄と控訴人,控訴人と被控訴人は,それぞれ出店予約契約書及び関連する覚書を作成した(甲8,10)

そこで,被控訴人は,控訴人に対し,同日,予約証拠金として1億5000万円を控訴人名義の当座預金口座に振り込んで支払い,控訴人は,同月27日,Z電鉄に対し,被控訴人から上記の振込みを受けた1億5000万円に被控訴人から同年3月21日に賃貸借契約の敷金の前渡金として受領していた分の5000万円を加えて,予約証拠金として合計2億円を支払った。なお,被控訴人は,上記の1億5000万円を控訴人名義の当座預金口座に振り込むに当たり,Z電鉄に対し,振込依頼書の写しをファクシミリで送り,控訴人に送金したことを伝えて,このことをZ電鉄から控訴人に確認をしてもらって,Z電鉄から確認したことを折り返し電話をもらっていた。(12)

そして,平成12年6月26日,Z電鉄と控訴人との間で,本件賃貸借契約2が,控訴人と被控訴人との間で本件賃貸借契約1が締結された。そこで,被控訴人は,同月27日,敷金として2億円を控訴人名義のV銀行当座預金口座に振り込んで支払い,控訴人は,同月28日,Z電鉄に対し,敷金として2億円を支払った。
なお,被控訴人は,上記の2億円を控訴人名義の当座預金口座に振り込むに当たり,前(11)同様にZ電鉄に振込の事実を伝え,Z電鉄から確認を得ている。
(13)

本件賃貸借契約1・2の契約内容は,いずれも全部で32条の条項
から成り立っているが,ほぼ契約条件(賃料,敷金等を含む。
)は同一であ
る。契約内容が異なっている点は,①

賃料の支払日について,本件賃貸借

契約1では,毎月20日の翌月分先払いとなっているが,同2では,毎月25日の翌月分先払いとなっている点,②

電気・水道代・共益費等(以下

「共益費等」という。
)の支払日について,本件賃貸借契約1では,毎月2
0日となっているが,同2では,毎月25日となっている点,③
本件賃貸

借契約1では,被控訴人が控訴人に「事務経費」として月額30万円を支払うことになっているが,同2では,そのような約定はない点,④
本件賃貸

借契約1では賃借人は契約に基づく権利を譲渡,担保に供するなどの一切の処分を禁じられるが,同2では賃借人(控訴人)は賃貸人(Z電鉄)と協議の上書面による承諾を得た部分については第三者に転貸又は営業委託することができるとされ,その承諾の方法等が定められている点である(甲7,9)

(14)

本件賃貸借契約1・2の各契約書においては,いずれも「仮称)


ZWビル・出店予約契約書添付

工事区分及び物件引渡概要」が添付されて

おり,その中で,B工事及びC工事についての定めがある(甲7,9)ところ,そのうちB工事(入店者の負担においてZ電鉄側が設計施工した工事又は入店者の費用負担において入店者側が設計施工した工事のうち,入店者がZ電鉄への無償譲渡を認めた工事)及びC工事(入店者の費用負担において入店者側が設計施工した工事。本件賃借部分を返還するとき入店者の費用をもって原状に回復するものとするもの)に関する費用負担した「入店者」(すなわち,B工事及びC工事に関する権利義務の帰属主体)は,被控訴人である。
(15)

本件建物は,平成12年7月25日新築され,同年8月から,被控訴人
が営業を開始した。本件建物の光熱費,水道代の支払方法等に関しては,Z電鉄と被控訴人との間の合意で決定した。しかし,賃料や光熱水道費は,それぞれの契約に従って,各賃借人が各賃貸人に支払っていた。控訴人は,Z電鉄に対する本件敷金返還請求権について自己の資産として決算書等で計上しており,他の財産関係と区分するような特別の扱いはしていなかった。(16)

平成13年12月21日,従来Gが所有していた本件土地の一部の所有
権がZ電鉄に移転した。
(17)

控訴人,被控訴人及びZ電鉄は,平成16年7月5日の会合で,控訴人
が本件賃貸借関係から離脱することについて一応の了解をしたが,離脱時期や条件について確定しない状態のまま,被控訴人とZ電鉄は,同年12月ころ契約更新の方向で協議した。Z電鉄は,控訴人及び被控訴人に対し,平成17年2月21日,本件賃貸借契約1・2が同年7月31日に終了することを前提として,協議中の控訴人から被控訴人への契約切替えの調整によって新契約の始期を決定するとの留保付きで,控訴人と被控訴人に対し再契約条件を申し入れた(甲11)
。その後,同年3月18日ころになって,Z電鉄
は控訴人に対して,本件賃貸借契約2の合意解約書案を送付した。これによれば,本件賃貸借契約2は同年4月30日付けで合意解約され,Z電鉄は被控訴人との間で新契約を締結することとされ,本件賃貸借契約2に基づく敷金残額及び資産は被控訴人が承継することとされていた(甲13)。控訴人
は,これを被控訴人に転送するとともに,内容について問題がなければ,同様の内容の契約を控訴人と被控訴人との間でも作成したいと伝えた。ところが,控訴人と被控訴人との間で,本件建物に施工した空調設備工事の費用負担問題が生じており,同時解決を目指した控訴人は,賃貸借関係からの離脱を先延ばしした(乙13∼15)

(18)

ところで,控訴人は,バブル期後に民間土地造成工事に進出していたが,
土地造成工事の多くが頓挫したことにより多額の不良債権を抱えていた。そこで,金融機関からの支援の下に増資を行い再建計画を策定していたが,その初年度である平成17年3月期において大幅な計画未達となり,さらに同年3月31日,売買代金請求訴訟において敗訴し,50億円にのぼる特別損失を計上することになった。そこで控訴人は同年5月5日,民事再生の申立てを行った(甲27)

2
争点1(Z電鉄と被控訴人間に直接の賃貸借契約を認めることができるか。
)について
(1)

被控訴人は,Z電鉄と被控訴人は,直接に交渉を行い,契約条件を定め
ていた上に,賃貸借契約上の内装等に関する財産区分は,Z電鉄と被控訴人との間で定められた財産区分であったから,本件においては被控訴人とZ電鉄との間には,直接の賃貸借契約が成立すると主張する。
(2)

控訴人は,上記主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとするが,
この申立てにより訴訟の完結を遅延させることとなるものではないから,この主張を時機に後れたものとして却下することはできない。
(3)

そこで,上記主張について検討するに,なるほど,前記1の認定事実に
よれば,本件賃貸借契約1・2の予約契約及び本契約に際しては,控訴人の介在を排除して,もっぱら被控訴人とZ電鉄との間で契約条件が合意されたものであり,両契約の契約条件は,いくつかの例外を除けば同一であり,両契約におけるB工事及びC工事に関する権利義務の帰属主体は,いずれも被控訴人であることが認められる。
しかしながら,前記1認定のとおり,①

被控訴人は,本件建物でパチン

コ店を営むために,本件賃貸借契約1・2のわずか半年前に設立された資本金1000万円の会社であって,その背後に控えるOグループを含めても業態及び信用力に懸念があり,Z電鉄は,上場企業である控訴人の介在による信用補完及び紛争防止,Gからの承諾の得やすさ等の観点から控訴人に賃貸し,控訴人が被控訴人に転貸する方式を採用したこと,②
賃貸借契約条件

については,Z電鉄と被控訴人との間で直接の協議がなされるようになったが,その理由は,もっぱらR等による利権を排除するためであり,上記のような転貸方式を採用する必要性ないし当初の目的が消滅したわけではないこと,③

本件敷金は,被控訴人からいったん控訴人の当座預金口座に振り込
まれた上で控訴人からZ電鉄に送金されたものであること,④
Z電鉄と控

訴人,控訴人と被控訴人は,それぞれ出店予約契約書及び関連する覚書を個別に作成していること,⑤

Z電鉄と控訴人との間の本件賃貸借契約2と,

控訴人と被控訴人との間の本件賃貸借契約1とは,別個に締結され,契約書も別に作成されていること,⑥

本件賃貸借契約1・2の契約内容は,ほぼ

同一であるが,そのようにしたのは,前記のとおり透明性を確保して被控訴人に対する不当な要求を防止するためであって,控訴人を排除しなければならないような事情ではないこと,⑦

契約書の個別内容においても,賃料の

支払日,共益費等の支払日が異なるだけでなく,本件賃貸借契約1では,被控訴人が控訴人に「事務経費」として月額30万円を支払うことになっており(単なる事務経費とするには不相当に多額である。,また本件賃貸借契)
約2においては,あえて第三者への転貸又は営業委託があることを前提とする規定が設けられていること,⑧

賃料の支払は本件賃貸借契約1に従って

被控訴人から控訴人になされ,同2に従って控訴人からZ電鉄になされていたこと,が認められる。これらの事実に加えて,⑨
控訴人とZ電鉄との関

係では,被控訴人が控訴人に賃料を支払わなかったとしても,控訴人においてZ電鉄に対する賃料支払義務を免れるものではないことはもとより,Z電鉄は,本件建物の用益方法が不適切であれば,控訴人に対してその是正を要求できると理解でき,また他方,控訴人と被控訴人との関係においても,Z電鉄が,修繕義務等の賃貸人としての義務に応じなかった場合には,契約上控訴人が被控訴人に対する修繕義務等を負担することになるはずであって,控訴人は以上のような固有のリスクを負担しているといえるし,⑩
本件敷

金についても,仮に被控訴人に債務不履行がなく,控訴人の帰責事由によってZ電鉄に損害が生じた場合にも,Z電鉄は,本件敷金4億円から損害分を控除できると考えられる。
以上によれば,法形式においては,Z電鉄と控訴人との間には本件賃貸借契約2,控訴人と被控訴人との間では本件賃貸借契約1という疑義を許さない明瞭な賃貸借契約書が作成されているだけでなく,その実質においても,所有者であるZ電鉄はリスク回避のために転貸借関係の必要性又は目的を保持し,中間に介在した控訴人もまた事務経費名目で月額30万円のコミッションを確保するほか,Z電鉄との取引関係の確保という独自の利害関係を有し,かつ,上記のようなリスクも負担しているのであって,このような実質を有する上に,当事者はそれぞれ転貸借関係を前提として賃料振込等の行動をとっていることが明らかである(なお,被控訴人は,事務経費や信用補完,控訴人の経営戦略上の利点は賃貸借契約の実質を構成しない反射的利益に過ぎないと主張するが,例えば,商社が,信用供与の目的を持って取引に介入して売買の当事者となるように,さまざまな経済的動機から一定の法形式が採用されるのであって,その法律行為からもたらされる法的効果が欲されている以上,法はそれに保護を与えることになる。。

したがって,本件においては被控訴人とZ電鉄との間で,直接の賃貸借契約が成立したとは到底認めることができない。
3
争点2(本件敷金返還請求権は,被控訴人を委託者兼受益者とし,控訴人を受託者とする信託財産であるか。
)について
(1)

委任契約の成否
被控訴人は,Z電鉄と控訴人,控訴人と被控訴人が各出店予約契約書を作
成した平成12年4月25日に被控訴人と控訴人との間で本件委任契約が成立したと主張するが,上記認定の事実に照らしても,これを認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2)

信託契約の成否
被控訴人は,本件敷金返還請求権につき,被控訴人を委託者兼受益者とし,
控訴人を受託者とする信託財産であるとし,控訴人と被控訴人との間に信託契約が締結されたと主張するので,以下,検討する。

先に認定した本件賃貸借契約1・2の成立に際して作成された出店契約書等の契約関係書面のいずれにも信託の文言は使用されておらず,信託を意図したと見られる条項も全く存在しない。また,上記契約に至る当事者間の交渉過程においても,さらには契約期間中を通じても,法的な意味における信託契約が意識されていた形跡は一切存在しない。


前記1認定の事実によれば,Z電鉄を原賃貸人,控訴人を原賃借人とする本件賃貸借契約2,さらに控訴人を転貸人,被控訴人を転借人とする転貸借関係(本件賃貸借契約1)が,法形式として明瞭に存在する上に,かつ本件賃貸借契約1・2における契約内容を検討するに,被控訴人から控訴人に交付された4億円,さらに控訴人からZ電鉄に交付された4億円については,いずれについても「本契約に基づく債務の履行を担保するため,敷金として下記金額を甲に預け入れるものとする。「本契約終了の際,」
乙が本物件を完全に明渡し,本契約に基づく一切の義務を履行した後に,乙の請求により遅滞なく甲から乙に返還する。(なお,甲は賃貸人,乙」
は賃借人である。
)と定めているのであるから,これらの資金は,本件賃
貸借契約1・2に付随するところの,独立した敷金の性格を有することは明らかである。
一般的に賃貸借契約とこれに基づく転貸借契約とは別個のものであり,転貸借契約に基づき転貸人に交付された敷金を,転借人の信託財産として転貸人が管理しているということは通常観念できない。

これに対して,被控訴人は,本件敷金が,上記のように本件賃貸借契約2に基づく敷金としての性格があるとしても,それが信託契約に基づいて交付されたこととは両立すると主張している。
また,被控訴人も主張するように,当事者が信託という文言を用いていたか否か,法的な意味において信託契約であるという認識を有していたか否かは,信託契約の成否につき決定的ではないと考えられるところでもある。
そうであれば,本件の論点は,法律関係としては転貸借関係が存在し,原賃貸借,転貸借の両方について敷金が交付された場合に,当事者が信託という法律構成を選択した認識やそれを示す表示が存しないときであっても,原賃貸借関係における本件敷金返還請求権を,転借人を委託者かつ受益者とし,原賃借人兼転貸人を受託者とする信託財産であると認定できるような特段の事情があるかどうか,ということに帰着する。そこで以下,この特段の事情の有無について検討する。
(ア)

旧信託法1条によれば,
「財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ」「他


人ヲシテ一定ノ目的ニ従イ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムル」を信託というと規定している(ちなみに現行信託法(平成18年法律第108号)は,信託とは「特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。
)に従い財産の管理又は処分及びその他
の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。(2条1項)としたうえで,信託の方法を限定して,その一つに」
信託契約を規定し,
「特定の者との間で,当該特定の者に対し財産の譲
渡,担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約」
(3条1号)としている。。

本件事案は旧信託法の適用下の時点で生じたので,信託の成立要件としては,①財産権の処分,②他人をして一定の目的に従いその財産を管理又は処分をさせること,となる。しかし,それが契約即ち意思表示の合致により成立するものである以上,効果意思即ち一定の法的効果を欲する意思の合致が必要であることはいうまでもない(我が国の法制度上擬制信託〈当該事案の妥当な解決を目的として,当事者の明示的ないし黙示的な意思と無関係に信託の成立を擬制すること〉を認めることはできない。。

(イ)

信託契約における法的効果としては,受託者の義務についてだけみ
ても信託義務遂行義務,善管注意義務,忠実義務,公平義務,分別管理義務など,さまざまなものを挙げうるが,意思表示の当事者が具体的な法的効果を意識していることは必要ではなく,効果意思の内容としては,一般的に捉えることが可能であるから,委託者は受託者に対して一定の目的に従い財産の管理又は処分をさせ,受託者は目的に従って財産の管理又は処分を行うという抽象的な法的効果を欲することで足りると解される。しかし,それだけでは外延が曖昧であって,例えば財産の移転を伴う委任契約や目的を定めた寄託契約との区別がつかないおそれがあるところ,信託については,信託財産が受託者の一般財産とは独立した法的地位に立ち,受託者の債権者からの執行や倒産手続から隔離され,執行の対象とされず,かつ,受託者が破産した場合でも委託者に取戻権が確保されることが重要となる。すなわち,受託者の財産との混淆を許容すると,信託財産から利益を得るなどの受託者の義務違反行為を防遏し難いだけでなく,上記のような独立した法的地位とは矛盾するから,信託の効果意思の内容となる財産の管理又は処分は,受託者の財産関係とは何らかの区分をつけたものであること,すなわち信託財産の分別管理が不可欠である。
(ウ)

ところで,効果意思は,その表示されたところから推断するほかは
ないが,本件においては,既に述べたように信託を直接的に示す表現はまったくみられないから,信託の効果意思の存在を肯認するに足りる表示があるかを検討する必要がある。
ところが,前記1認定の事実によれば,本件においては,信託財産としての分別管理は格別に仕組まれておらず,当事者も意識していないというべきである。
これに対して,被控訴人は,被控訴人が控訴人に交付した敷金4億円が控訴人からZ電鉄に交付され,控訴人のZ電鉄に対する本件敷金返還請求権となったことによって,控訴人の他の責任財産との分別管理がなされていると主張する。
しかし,前記1認定の事実によれば,被控訴人から控訴人に,平成12年3月21日に5000万円,同年4月25日に1億5000万円が控訴人の通常の当座預金口座に送金され,その上で同月27日に控訴人からZ電鉄に2億円が交付され,残金2億円は同年6月27日に被控訴人から控訴人に同様に送金され,同月28日に控訴人からZ電鉄に支払われているというのであり,いずれも控訴人の一般財産に混入したことが明らかで,控訴人のみならず,被控訴人においても上記のように送金した4億円の資金を別途管理しようとしていない。その後に控訴人がZ電鉄に対して本件敷金4億円を交付したことによって分別管理したと被控訴人は主張するが,Z電鉄への交付以前における状態では完全に控訴人の一般財産と混淆されていたことを否定できるものではない上に,控訴人がZ電鉄に支払ったのは,本件賃貸借契約2に基づく敷金契約の結果そうなされたというに過ぎないのであるから,そのことで分別管理がなされることが当事者間で予定されていたと認めることはできない。さらに,前記1認定の事実によれば,控訴人は,Z電鉄に対する敷金返還請求権について自己の資産として計上していたものであり,控訴人の固有財産から区分した経理処理さえも講じていなかったというのである。その他,本件敷金返還請求権について,控訴人の一般財産との区分が意識されていた事跡はまったく見当たらない。
(エ)

以上によれば,本件敷金4億円の管理又は処分につき,受託者の財
産関係と何らかの区分がつけられていたわけでもなく,また被控訴人を含む関係者も意識していないのであるから,本件において控訴人及び被控訴人に,信託の効果意思があったと認めることはできない。

被控訴人は,本件賃貸借関係は,一般の転貸借関係とは異なっており,契約締結の経緯,当事者の意思,契約実態からみて,実質的な賃貸人はZ電鉄であり,実質的な賃借人は被控訴人であるから,その実質を保護するために,本件敷金が信託財産と合意されたと主張する。
しかしながら,前記2において詳述したところによれば,本件においては,被控訴人とZ電鉄との間で直接の賃貸借契約が成立していると認めがたいというだけでなく,控訴人がZ電鉄と被控訴人との賃貸借関係に形式的に介在しただけに過ぎず,実質的な賃貸人はZ電鉄だけであるということはできない。


被控訴人は,本件賃貸借契約1に基づく敷金4億円の交付は,Z電鉄に本件敷金として交付するという信託目的に従って処分することが合意されていたと主張する。
しかしながら,控訴人及びZ電鉄は上場企業であり,賃貸借関係については詳細な契約書を作成しているにもかかわらず,上記のような信託目的が示された書面は一切作成されず,交渉途次においてもその信託目的について当事者のいずれかからでも示されたという証拠は全くない。前記1認定の事実によれば,被控訴人が控訴人に本件賃貸借契約1に伴う敷金が交付されれば,本件賃貸借契約2に付随する敷金の原資になることが予想されていたことは推認できるが,控訴人が別途資金手当を行っても何ら差し支えはなかったはずであり,信託目的を合意したとまで認めることはできない。
さらにいえば,本件敷金について信託契約を締結しなければならない実益ないし必要性は,控訴人が倒産し或いは他の債権者から本件敷金返還請求権について差押えがなされるなどの事態があっても本件敷金返還請求権を被控訴人が確保すること以外には想定できないが,敷金の交付がなされた平成12年当時,控訴人の信用状態について被控訴人が懸念していたという証拠もない。

以上のとおりであって,原賃貸借関係における本件敷金返還請求権を,転借人を委託者かつ受益者とし,原賃借人兼転貸人を受託者とする信託財産であると認定できるような特段の事情があるということはできず,結局,本件敷金返還請求権をもって被控訴人の信託財産であると認めることはできない。

4
争点3(本件敷金返還請求権の債権譲渡があったか。
)について
被控訴人は,平成17年3月7日,控訴人が被控訴人及びZ電鉄との間において,同年4月30日を期限として,控訴人がZ電鉄との本件賃貸借契約2の賃借人としての地位及び被控訴人との本件賃貸借契約1の転貸人としての地位から離脱し,本件敷金返還請求権については,被控訴人が承継することに合意したと主張する。
これを見るに,前記1認定の事実によれば,控訴人,被控訴人及びZ電鉄は,平成16年7月5日の会合で,控訴人が本件賃貸借関係から離脱することについて一応の了解をし,平成17年3月18日ころには,Z電鉄から控訴人に,本件賃貸借契約2の合意解約書案が送付されたこと,これは控訴人から被控訴人に転送され,控訴人と被控訴人との間でも同様の書面が作成されることが想定されていたことが認められる。
しかし,それ以上に進んで,控訴人と被控訴人との間で,合意解約書が作成されたとする証拠はないし,上記の合意解約書案(甲13)は,企業としての記名押印が予定されているが,弁論の全趣旨によれば,Z電鉄と控訴人,控訴人と被控訴人のそれぞれの間で,合意解約書に対する調印等はなされていないことが認められ,もちろん債権譲渡通知などは一切存しない。さらに証拠(甲19,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,平成17年5月1日以降も控訴人に対して賃料及び事務経費を支払っており,控訴人もまたZ電鉄に対して賃料を支払っていたこと,Z電鉄,控訴人及び被控訴人の三者は,従前の契約の終了時である同年7月31日に,出店契約書に調印し,同年8月1日以降も三者間の契約関係を当初契約関係と同一の内容で継続することに合意していることが認められるのであって,これらの事情に照らせば,控訴人が本件の契約関係から離脱する合意が平成17年3月7日になされ,それに伴って本件敷金返還請求権の債権譲渡があったとの被控訴人の主張は容れることはできない。
5
争点4(商法558条,552条2項の類推適用により被控訴人には本件敷金返還請求権について取戻権の行使が認められるか。
)について
被控訴人は,控訴人について再生手続が開始された後の被控訴人の地位は,問屋が破産した場合の委託者の地位に類似するとして,商法558条,552条2項の類推適用により,本件敷金4億円に対する取戻権の行使を認めるべきであると主張する。
問屋が委託者のために物品を購入した後に破産手続開始決定を受けた場合には,委託者が目的物の取戻権を認められると解される。これは問屋が,自己の名においてであるが他人の計算において物品の販売又は質入れをなすを業とするという問屋制度の本質に鑑みて,実質的には委託者に帰属しながら法形式としては問屋に帰属している権利について,問屋の債権者よりも委託者を保護したものである。しかし,本件における控訴人は,そもそも取次を業とする者ではないから問屋又は準問屋ではないことはもとより,既に説示したとおり原賃借人兼転貸人としての地位を実質的にも保持しているのであって,被控訴人の計算において,Z電鉄との間で本件賃貸借契約2を締結したと解することはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
6
結論
以上によれば,被控訴人の本訴請求は理由がないので,これを棄却することとし,被控訴人の請求を認容した原判決主文第1・2項は訴えの交換的変更により失効しているのでこれを明らかにすることとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

井垣敏生

裁判官


宏司

裁判官

山本善彦)

(別紙)
契約目録
1
賃貸借契約



賃貸人

控訴人



賃借人

被控訴人



賃貸借契約の目的物

本件賃借部分



使用目的

パチンコ店



賃貸借契約の種類

借地借家法第38条に定める定期建物賃貸借



期間

始期

2000年8月1日

終期

2005年7月31日

月額

金21,269,000円



賃料

(消費税別途加算)


事務経費

月額

金30万円



賃料の支払日

毎月20日の翌月分先払い


敷金

金4億円
ただし,うち金2億円は予約証拠金を充当する。


電気・水道代・共益費(以下「共益費等」という。
)の支払日
毎月20日

2
賃貸借契約



賃貸人

訴外Z電鉄株式会社



賃借人

控訴人



賃貸借契約の目的物

本件賃借部分



使用目的

パチンコ店



賃貸借契約の種類

借地借家法第38条に定める定期建物賃貸借



期間

始期

2000年8月1日

終期

2005年7月31日

月額

金21,269,000円



賃料

(消費税別途加算)


賃料の支払日

毎月25日の翌月分先払い



敷金

金4億円
ただし,うち金2億円は予約証拠金を充当する。


電気・水道代・共益費(以下「共益費等」という。
)の支払日
毎月25日

(別紙不動産目録及び別紙賃貸図面は省略)
トップに戻る

saiban.in