判例検索β > 平成18年(わ)第989号
地方税法違反被告事件
事件番号平成18(わ)989
事件名地方税法違反被告事件
裁判年月日平成21年3月9日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2009-03-09
情報公開日2017-10-13 01:36:51
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主文
被告人を懲役3年6月及び罰金4000万円に処する
未決勾留日数中100日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金20万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

堺市中区内にaと称する軽油等の製造工場兼販売事業所を,同府富田林市内にbと称する軽油等の製造工場を,それぞれ置き,さらに,同府南河内郡河南町内にcと称する軽油等の製造工場を有するdに原料を提供して軽油等の製造を委託するなどし,aの名称で軽油等の製造販売業を営んでいたものであるが,aの工場長として被告人が営む軽油等の製造販売業に関してその原料油等の仕入れ及び製造軽油の販売等の業務を統括管理していたeと共謀の上,平成16年10月1日ころから同月30日ころまでの間,a,b及びcの各軽油等製造工場(以下aほか2箇所の工場という。)において,大阪府知事の承認を受けないで,重油と軽油を混和させるなどして軽油(量不詳)を製造し,

第2

軽油引取税について特約業者及び元売業者以外の者で,上記第1のとおり,軽油等の製造販売業を営んでいたものであるが,別表記載のとおり〈別表省略〉,平成16年1月から平成17年1月までの間,aほか2箇所の工場において製造して譲渡した軽油と,aが自動車の内燃機関の燃料として販売した燃料炭化水素油を併せた課税標準量は各月分合計3489万7400リットルであり,これに対する軽油引取税額は合計11億2020万6540円であったにもかかわらず,製造して譲渡した軽油及び自動車の内燃機関の燃料として販売した燃料炭化水素油の一部につき有限会社fが製造,販売したように仮装した上,原料油等の仕入れ及び製造した軽油及び燃料炭化水素油の販売に係る請求書及び納品書等の原始伝票等を破棄するなどして,平成16年3月1日から平成17年2月28日までの間,13回にわたり,上記各月分の軽油引取税の申告納付期限までに,それぞれ,大阪市中央区内本町2丁目1番10号所在の大阪府中央府税事務所長に対して軽油引取税納付申告書を提出せず,そのまま各法定納付期限を徒過させ,もって,偽りその他不正の行為により,上記各月分の軽油引取税合計11億2020万6540円を免れ
たものである。
(証拠の標目)〈省略〉
(補足説明)※補足説明中法とのみ記載するものは地方税法を指す。また,証人の供述については,公判廷における供述と,公判調書中の供述部分を区別せず,公判供述又は証言と表示する。
第1
1
軽油該当性について
当事者の主張等
検察官は,平成18年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第1の軽油の未承認製造罪については,被告人が平成16年10月1日から同月30日までに製造した燃料油約378キロリットルが軽油に該当する旨主張している。また,検察官は,平成18年3月22日付け起訴状に係る軽油引取税のほ脱犯については,第一次的には,被告人が平成16年1月から平成17年1月までの間に製造して譲渡した軽油が各月分合計4225万5400リットルであり,これに対する軽油引取税額は合計13億5639万8340円である旨主張している(平成18年3月22日付け起訴状に係る主位的訴因)。
これに対して,弁護人は,被告人が製造した燃料油には,地方税法上の軽油に該当するものとそうでないものとが存在した可能性が極めて高く,被告人の刑責を問う場合には,相当量が軽油に該当しないことを前提とすべきであると主張している。
当裁判所は,被告人がaほか2箇所の工場で製造し,譲渡した燃料油の大半は,地方税法上の軽油に該当すると認められるが,全部が軽油に該当するものであったとは断定できず,軽油に該当しないものも一部含まれていた可能性があると判断した。以下,上記判断に至った理由を説明する。
2
地方税法上の軽油の定義
法700条の2第1項1号は,軽油について,

温度15度において,0.8017をこえ,0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい,政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。

と定義している。
また,地方税法施行令56条1項は,法700条の2第1項1号の政令で定める規格について,次のとおり規定している。(1)

分留性状90パーセント留出温度が267度をこえないこと

(2)

分留性状90パーセント留出温度が400度をこえること

(3)

前号に掲げるもののほか,残留炭素分が0.2パーセントをこえること
(4)

前2号に掲げるもののほか,引火点が温度130度をこえること

以上を整理すると,地方税法上の軽油は,炭化水素油であって,次の4つの要件を充足するものとなる。


温度15度において0.8017をこえ,0.8762に達するまでの比重を有すること



分留性状90パーセント留出温度が267度をこえ,400度以下であること



残留炭素分が0.2パーセント以下であること



引火点が温度130度以下であること
本件において,被告人が製造,譲渡した燃料油が炭化水素油であって,上記
③以外の要件を充足することに疑義はない。弁護人が争うのは上記③の要件該当性である。
3
争いのない事実関係
以下の各事実については,当事者間に争いはなく,関係証拠に照らしても優に認めることができる。
(1)

被告人は,a,bと称する燃料油製造工場をそれぞれ置き,さ

らに,cの名称で燃料油製造工場を有するdにその原料を提供して燃料油の製造を委託するなどし,aの名称で燃料油の製造販売業を営んでいた(なお,以下では,被告人がdに委託し,cで製造された燃料油についても,被告人が製造したと評価できるので,その前提で検討を進める。)。また,被告人は,大阪府和泉市内でgの名称で軽油製造工場を経営するhに原料油を提供し,同工場で製造された燃料油の一部をaの名義で買い取り,これをaの商品として,運送業者などに販売していた(なお,gで製造された燃料油については,平成17年2月7日に行われた臨検捜索によって押収された燃料油を鑑定した結果,残留炭素分が0.21パーセントであり,地方税法上の軽油に該当しないものであったことから,検察官は,gで製造された燃料油を起訴対象外としている。)。
(2)

aほか2箇所の工場における燃料油の製造方法の概要は次のとおりであ
る。
まず,原料であるA重油と灯油を撹拌用のタンクに入れる(aについては1回につき4キロリットル,b及びcについては1回につき2キロリットル)。ここに,活性炭,活性白土,重炭酸ナトリウムを投入し,撹拌させる。30分ほど撹拌した後,混合した物を沈澱槽に移し,不純物を沈澱させる。そして,上澄み液を濾過器に移し,ラヂオライトを加えて濾過し,さらに,フィルターを通して製品タンクに貯蔵する。また,沈澱槽に溜まった沈殿物は,遠心分離器にかけてスラッジと呼ばれる不純物を取り除き,採取された油を濾過する工程に戻す。
(3)

被告人は,軽油の製造につき,大阪府知事の承認を受けておらず,軽油引取税を一切申告していなかった。
4
残留炭素分に影響を与え得る事情
被告人が製造した燃料油の残留炭素分に影響を与え得る事情として,i(社団法人日本海事検定協会の大阪理化学分析センター長であり,後述する第1,第2,第4鑑定を実施した者。)の証言その他の関係証拠によれば,次の点が指摘できる。
(1)

まず,原料であるA重油は,残留炭素分が比較的高く,aほか2箇所の
工場から押収されたA重油の残留炭素分は,0.33ないし0.34パーセントであった。
他方,もう1つの原料である灯油は,残留炭素分が極めて低く,0.01パーセントないしそれ以下である。
したがって,同じ条件で燃料油を製造する場合,原料油のうちA重油の配合割合が高ければ高いほど,残留炭素分が高くなる。
(2)

活性白土には,残留炭素分を吸着させる効果があるため,これを原料油
に加えて撹拌することによって,残留炭素分が低くなると考えられる。活性炭についても,活性白土と同様,残留炭素分を吸着させる効果があり,これを原料油に加えて撹拌することによって,残留炭素分が低くなると考えられる。
なお,活性炭は,水分を多く含むと残留炭素分の吸着能力が低下する。また,活性白土についても,その状態によって残留炭素分の吸着能力に違いが生じ得る。
(3)

重炭酸ナトリウム及びラヂオライトについては,残留炭素分に影響を与
える要因であるとは認められない。
(4)

燃料油を濾過する工程を経ると,細かい浮遊物が除去されることから,
濾過前と比べて,残留炭素分が低くなる可能性がある。
(5)

燃料油は,製造後,時間が経過すると,光,熱,酸素との化学変化によって残留炭素分が高くなる傾向がある。
5
aほか2箇所の工場における軽油の製造方法について
aほか2箇所の工場における軽油の製造方法は,おおむね次のとおりである。(1)

aについて(e証言,甲19,26)
A重油は粘度が高く,気温が低くなると,撹拌,沈澱に時間がかかることから,粘度の低い灯油を多く配合するというように,季節によって,A重油と灯油の配合割合を変えていた。具体的には,A重油と灯油の配合割合は,冬季はおおむね3対1,夏季はおおむね7対1,春と秋はその中間くらいであった。


活性炭は,原料油4キロリットルに対し,鍋を使って1杯分(約500グラム)を入れていた。


活性白土は,原料油4キロリットルに対し,夏季であれば20キログラム入りの袋を2袋,冬季であれば3ないし4袋を入れていた。

(2)

bについて(甲21,28)
原料油であるA重油と灯油の配合割合は,冬季は,おおむね3対1であった。


活性炭は,原料油2キロリットルに対し,片手鍋に半分くらい(約500グラム)を入れていた。


活性白土は,原料油2キロリットルに対し,20キログラム入りの袋をだいたいの目安で1袋半くらい(約30キログラム)入れていた。
(3)

cについて(甲23,30)
原料油であるA重油と灯油の配合割合は,季節によって異なるが,5月ころの気候であれば,おおむね7対1であった。


活性炭は,原料油2キロリットルに対し,片手鍋1杯分(約300グラム)を入れていた。


活性白土は,原料油2キロリットルに対し,20キログラム入りの袋を1袋半くらい(約30キログラム)入れていた。
6
軽油該当性を推認させる事実とその評価について
(1)

検察官は,軽油該当性を推認させる事実として,次の点を指摘している。平成17年2月7日に行われた臨検捜索によって押収された燃料油の鑑定結果(甲16。以下第1鑑定という。)
平成17年2月7日にaほか2箇所の工場から押収された出荷前の製品である燃料油について,軽油該当性の鑑定を行った結果,いずれも軽油に該当するものであったことが判明している。その押収場所及び残留炭素分は次のとおりである。
(ア)
(イ)

a(タンクローリーのタンク)

(ウ)

b(タンクJ)

0.18パーセント

(エ)

a(製造工場2タンク2)

0.18パーセント

c(タンクC)

0.19パーセント

0.19パーセント

平成15年及び平成16年に行われた採油調査(以下採油調査という。)
平成15年及び平成16年にa及びbの各工場で製造され,出荷された燃料油について,採油調査が行われた結果,いずれも軽油に該当するものであったことが判明している。その製造元,採取日及び残留炭素分は次のとおりである。
(ア)


平成15年7月8日採取

0.19パーセント

(イ)


同月15日採取

0.15パーセント

(ウ)


同月25日採取

0.18パーセント

(以上につき甲87,90)
(エ)


平成16年7月26日採取

0.16パーセント

(甲88,91)

捜査段階における再現実験の結果(以下第2鑑定という。)
社団法人日本海事検定協会の大阪理化学分析センター長であるiは,警察からの嘱託を受け,平成17年5月,同センターの試験室において,aほか2箇所の工場における燃料油の製造を再現し,製造された燃料油の軽油該当性を鑑定するため,各工場や原料の仕入先から押収された原料及び薬剤を使用し,各工場の責任者が説明する製造手順,原料及び薬剤の配合割合,撹拌及び沈澱の時間等に従って,燃料油を製造する実験を行った(甲26,28,30)。そして,これにより製造された燃料油はいずれも軽油に該当するとの鑑定結果が得られている。この鑑定結果のうち,残量炭素分の数値は次のとおりである。
(ア)


0.14パーセント(甲29)

(ウ)


0.15パーセント(甲27)

(イ)

(2)

ac
0.18パーセント(甲31)

検討
第1鑑定及び採油調査について
第1鑑定は,本件対象期と近接する時期にaほか2箇所の工場で現に製造された燃料油を採取し,その軽油該当性を検査したものであるから,再現実験で製造された燃料油の軽油該当性を検査した第2鑑定や後述する第4鑑定に比して,その証拠価値は高いと認められ,aほか2箇所の工場で製造された燃料油が軽油に該当するものであったことにつき,一定の推認力を持つものと評価できる。
また,採油調査の結果も,a及びbの各工場で現に製造された燃料油が軽油に該当するというものであるが,このうち,上記(1)イ(エ)は,bにおける本件の対象期中のものであるから,第1鑑定と同様に,その証拠価値は高いと認められる。また,上記(1)イ(ア)ないし(ウ)は,aの工場で本件対象期前に製造されたものの検査結果であるが,平成15年当時と本件対象期当時とで,製造方法や使用する原料等に顕著な違いがあったことはうかがえず,3回にわたる検査の結果,いずれも軽油に該当するとの結果が得られているのであるから,これについても証拠価値は高く,軽油該当性について一定の推認力を有するものである。aほか2箇所の工場では,夏季は冬季に比べて,原料油に占める灯油の割合が低かったことがうかがえるところ(上記5(1)参照),灯油はA重油に比べて残留炭素分が非常に低く,同じ条件で燃料油を製造する場合,原料油のうち灯油の配合割合が低ければ低いほど,残留炭素分が高くなると考えられる(上記4(1))。また,aにおいては,冬季の方が夏季に比べて活性白土を多く使用していたとのことである。これらの点からすれば,第1鑑定は冬季に採取されたものの検査結果であるから,他の季節に製造されたものを検査した場合と比べて,残留炭素分が低くなるとも考えられる。しかしながら,夏季に行われた採油調査の結果からは,必ずしも夏季の方が残留炭素分が高くなるとの傾向は現れていない(各工場ごとの平均値を比較するとむしろ採油調査の結果の方が残留炭素分が低い。その原因は明らかではないが,後述する製造方法の不正確性等に起因するばらつきが原因として考えられるほか,冬季の方が原料油の粘度が高く,不純物の沈澱により時間を要することの影響も考えられる。)。このように,第1鑑定は,冬季のみの検査結果であることから,その推認力に一定の限界があるが,採油調査は,夏季における複数のデータを提供するものであって,第1鑑定の推認力を補う効果を有している。なお,cについては,採油調査が行われていないが,cと他の2工場とで,製造方法や原料等の使用量に顕著な差がないことにかんがみれば,採油調査の結果は,cで製造された燃料油の軽油該当性にもある程度意味を持つものと評価できる。
以上のとおりであって,第1鑑定及び採油調査の結果からすれば,aほか2箇所の工場で製造された燃料油が軽油に該当することが推認されるというべきである。

第2鑑定について
第2鑑定は,各工場において当時使用されていた原料や薬剤をそのまま使用し,各工場の責任者が説明する製造方法に従って,各工場における燃料油の製造過程の再現を試みたものである。この鑑定によれば,もともと原料油に多く含まれている残留炭素分が工程を経ることで低減していることが明らかとなっており,各工場で使用されていた活性炭や活性白土が残留炭素分を吸着・除去させる効果を有していることが裏付けられているといえる。
しかしながら,これは,あくまでも試験室内における再現であって,製造規模が,工場においては1回当たり2ないし4キロリットルであるのに対し,再現では1リットルと全く異なっており,撹拌についても,工場では大型のプロペラ状のものをモーターで回転させて行うのに対し,再現では化学実験用の攪拌機が用いられており,撹拌の効率に大きな違いがあると考えられる。また,沈澱その他の工程についても,工場における製造と再現実験とでは,相違点が少なからず見られるところである。
第1鑑定における残留炭素分の数値と比較しても,第2鑑定では,全体的に残留炭素分が低くなる傾向が見られる(aとbの再現において,その傾向が顕著である。後述するgについても,同様である。)。
したがって,第2鑑定の結果をそのままaほか2箇所の工場において製造された燃料油の残留炭素分の数値を表すものと評価することはできず,aほか2箇所の工場において製造された燃料油の軽油該当性を認める証拠としての価値は低いというべきである。

7
軽油該当性に疑いを生じさせる事実とその評価について
次に,弁護人が軽油該当性に疑いを生じさせる事実として指摘している点について,検討を加える。
(1)

各工場における製造方法の不正確性について

弁護人は,各工場での燃料油の製造方法が,原料油であるA重油と灯油の配合割合,活性炭等の薬剤の使用量,撹拌や沈澱の工程にかける時間等の点でまちまちであったことから,製造される燃料油も均質のものではなく,必ずしもすべてが軽油に該当するものであったとは限らない旨指摘している。


確かに,弁護人が指摘するとおり,残留炭素分を吸着させる効果を有する活性炭や活性白土の使用量については,ある程度のばらつきが生じていた可能性がある。
例えば,活性炭については,各工場とも,鍋を使って目分量で使用量を決めていたことから,使用量にばらつきが生じていたことがうかがえる。また,活性白土についても,aでは,季節によって使用量を2袋から多いときで4袋としていたとのことであり,かなりばらつきがあるし,bやcでは,おおむね1袋半を1回の使用量としていたとのことであるが,正確に計量していたわけではなく,目分量で決めていたことがうかがえる(例えば,bの従業員であったjは,活性白土の使用量について,

袋1つの重さが20キロなので,だいたい30キロ位を1回に入れます。これも,きっちり半分という訳ではなく,だいたいの目分量で半分くらい入れます。

と説明している。甲21。)。なお,活性炭や活性白土の吸着能力は,水分含有量によって左右されることから,同じ量の薬剤を使用しても,残留炭素分の数値に違いが生じることもあり得る。
また,撹拌や沈澱の工程にかける時間についてもある程度ばらつきが生じていた可能性がある。特に,沈澱の工程にかける時間が短いと,製造された燃料油に不純物が多く含まれることになり,残留炭素分が高くなる可能性がある。
さらに,e証言によれば,冬季に,客からの注文量を製造しきれない場合に製造した燃料油に灯油とA重油を混ぜた油をつぎ足して出荷したこともあったとのことである。A重油は残留炭素分が高いことから,A重油ないしA重油を含有する原料油のつぎ足しを行えば,製品である燃料油の残留炭素分の数値が上昇する可能性がある。

以上からすれば,aほか2箇所の工場で製造される燃料油の残留炭素分の数値は必ずしも一定しておらず,ある程度ばらつきが生じていたと考えられる。現に,同じaでほぼ同じ時期に製造された燃料油についても,0.15パーセント(平成15年7月15日採取分)から0.19パーセント(同月8日採取分)までと,軽油該当性が認められる範囲内ではあるものの,かなりのばらつきが生じている。第1鑑定及び採油調査の結果から,aほか2箇所の工場で製造された燃料油が軽油に該当するものであったとの推認が働くことは前述したとおりであるが,その残留炭素分の数値が0.18パーセントないし0.19パーセントと基準値の上限に近接するものが多かったことも考え合わせると,全部が軽油に該当するものであったとは断定できず,軽油に該当しないものも一部含まれていた可能性があることは否定できない。

(2)

A重油の品質が一定していなかったことについて
弁護人は,原料であるA重油の品質が一定していなかったことを指摘する。確かに,A重油の品質が一定でないこと及びその品質によって製造される
燃料油の残留炭素分の数値にも影響が生じ得ることはiも証言するところである。したがって,この点からも,製造された燃料油の一部が軽油に該当しないものであった可能性が否定できない。
(3)

A重油と灯油の配合割合について
弁護人は,原料油中のA重油と灯油の配合割合が時期によって異なってお
り,特に,冬季に灯油の配合割合が高いことを指摘する。
確かに,A重油と灯油の配合割合について,弁護人が指摘するような傾向が認められる。しかし,第1鑑定と採油調査の結果を対比しても,灯油の配合割合が低い夏季に残留炭素分が高くなるという傾向は見いだせない。ただ,季節による配合割合の変動に加え,同じ時期でも配合割合にばらつきが生じることも考えられるところであって,その結果,製造された燃料油の残留炭素分にもある程度の誤差が生じると考えられる。したがって,この点からも,製造された燃料油の一部が軽油に該当しないものであった可能性が否定できない。
(4)

gから採取された燃料油が軽油に該当しないものであったことについて平成17年2月7日にgから押収された出荷前の製品である燃料油につい
ては,鑑定の結果,残留炭素分が0.21パーセントであり,軽油に該当しないものであったことは,前述したとおりであるが,弁護人は,これを,他の工場において製造された燃料油の軽油該当性を疑わせる事実として指摘する。
しかしながら,gにおいては,平成16年7月に活性炭150キログラムが納入されたのを最後に,活性炭が納入されていない(甲94。他の工場では,毎月あるいは2か月に1回程度の割合でコンスタントに活性炭が納入されているのと対照的である。)。にもかかわらず,平成17年2月7日の時点でgには1袋10キログラム入りの活性炭が6袋分以上残っていたことが認められる(弁2)。gの従業員であるkの説明によれば,1回の製造で,原料油4キロリットルに対し,約1500グラムの活性炭を使用していたとのことであるが,150キログラムの活性炭は100工程分にしかならず,活性炭の納入状況と在庫量から見て,この説明ではつじつまが合わない(ちなみに,平成16年7月から平成17年1月までのgにおける原料油の月別仕入量は,最も少ない月でも1350キロリットルに及んでいる。乙41。)。むしろ,gは,活性炭の使用の有無及び使用量の点で,他の3工場と大きな違いがあった可能性が高いといえる。被告人も,gにおいては教えた製法を忠実に守らず,活性白土の使用量を少なくしていたので,製品の出来が悪いのではないかと懸念していたと供述しているし(乙10),eも,gが経費削減のため活性白土の使用量を少なくすることが多々あり,

gの軽油の色が濃い。

と噂になることがあったと供述しており(乙18),両名とも,gで製造された燃料油が他の工場で製造されたものと比べて品質が落ちるとの認識を有していたことがうかがえる。
したがって,gから採取された燃料油が軽油に該当しなかったとの鑑定結果を,他の工場において製造された燃料油の軽油該当性を疑わせる根拠とするのは適切でないというべきである。
(5)

弁護人の依頼により実施された再現実験の結果(以下第4鑑定とい
う。)
第2鑑定を実施した社団法人日本海事検定協会大阪理化学分析センターは,弁護人の依頼を受け,第2鑑定と類似の燃料油製造の再現実験を実施している。このうち,実験2は,aにおける製造工程の再現を試みたものである。具体的には,製造工程,原料油の量及びA重油と灯油の配合割合,活性炭等の薬剤の使用量,撹拌及び沈澱の時間を第2鑑定と同じ条件として,製造されたものの残留炭素分を検査したものである。弁護人は,実験2で製造された燃料油の残留炭素分が0.28パーセントと軽油該当性を欠くものであったことを,軽油該当性に疑いを生じさせる事実として指摘している。しかしながら,第4鑑定は,第2鑑定と同様,試験室内における再現にすぎないものであって,第1鑑定や採油調査の結果に比して,その証拠価値には限界があるというべきである。また,0.28パーセントという残留炭素分の数値は,第1鑑定や採油調査の結果によるいずれの数値ともかなりかけ離れており,ほぼ同じ条件での再現実験である第2鑑定の結果とも著しくかけ離れている。これについては,第4鑑定で使用したA重油の残留炭素分(0.38パーセント)が第2鑑定のもの(0.33ないし0.34パーセント)と比べて高いこと(第2鑑定では,現に工場で使用されていた原料によって再現実験が行われたのであるから,第4鑑定よりも証拠価値が高い。)の影響が考えられるが,その他に,使用した薬剤の吸着能力の違いが影響した可能性もある(この点,第2鑑定では,工場から押収されたものが使用されているが,第4鑑定で使用された薬剤の入手過程等は明らかにされていない。なお,実際の工場における製造では,納入された薬剤が次々と消費されていく状況だったこと(甲94,乙41)からすれば,極端に劣化した薬剤が用いられることはあまり考えられない。)。
したがって,第4鑑定の結果を,aほか2箇所の工場で製造された燃料油の軽油該当性を疑わせる根拠とするのは適切でないというべきである。(6)

公判段階における軽油該当性の鑑定結果(以下第3鑑定という。)
について
本件では,弁護人が,平成17年2月7日に押収されたが軽油該当性の検査が行われていなかった燃料油について,軽油該当性を検査するための鑑定を請求し,これが採用され,鑑定が実施されている。弁護人は,この第3鑑定について,弁論で触れていないが,これについても検討を加える。第3鑑定では,検査された資料の多くが残留炭素分の基準値である0.20パーセントを超えている。しかしながら,これらの資料は,そもそも鑑定資料として適格性を欠くものであったといわざるを得ない。
まず,第1に,これらの資料は,採取されてから検査実施(平成19年2月15日から同年3月19日)まで2年以上という長期間にわたって保存されているが,その間,温度調整も行われず,酸素を含んだ普通の空気にも触れるような状態に置かれていた。このような状況下においては,経年劣化により残留炭素分が高くなると考えられる。したがって,第3鑑定の結果がそのまま製造当時の残留炭素分の値を示すものとは認められない。
また,これらの資料の中には,フィルターで濾過する最終工程を経る前のものもある(平成19年押第49号符号1-1,1-2,2-1,2-2,4,5)。フィルターで濾過することにより不純物が取り除かれ,残留炭素分が低減する可能性があることは,iも証言しており,その工程を経ていない資料は,この点でも鑑定資料としての適格性に欠ける。
したがって,第3鑑定の結果を,aほか2箇所の工場で製造された燃料油の軽油該当性を疑わせる根拠とすることはできない。
8
結論
以上を基に検討するに,第1鑑定及び採油調査の結果は,aほか2箇所の工場で現に製造された燃料油の軽油該当性に関するものであり,本件において証拠価値が最も高いものと認められ,また,第1鑑定と採油調査の結果が季節の異なる複数のデータを提供する点で,互いに推認力を補強し合う関係にあるので,aほか2箇所の工場で製造された燃料油の大半が軽油に該当するものであったことが推認されるというべきである。ただ,他方で,各工場における製造方法の不正確性,A重油の品質が一定していなかったこと,A重油と灯油の配合割合に変動があったことなどの事情にかんがみれば,aほか2箇所の工場で製造された燃料油のすべてが軽油に該当すると認めることはできず,ある程度,軽油に該当しないものが含まれていた可能性は否定できない。

第2
1
軽油引取税のほ脱犯の成否について
主位的訴因について
平成18年3月22日付け起訴状に係る主位的訴因は,被告人が平成16年1月から平成17年1月までの間に製造して譲渡した燃料油(各月分合計4225万5400リットル)の全部が軽油であることを前提として,軽油引取税のほ脱犯の処罰を求めるものであるが,既に第1で検討したとおり,被告人が製造して譲渡した燃料油の大半は軽油に該当するものであったと認められるものの,全部が軽油に該当するものであったと断定することはできず,一部は軽油に該当しないものであった可能性も否定できない。したがって,主位的訴因をそのまま認定することはできない。本件のように,一部が軽油に該当しないと判断される場合,軽油に該当すると認められる範囲内で,主位的訴因の一部を認定し,軽油引取税のほ脱犯の成立を認めることができるはずであるが,本件では,軽油に該当すると認められるものと,そうでないものとの割合を数量的に表すことが困難である。
2
予備的訴因について
予備的訴因は,被告人が製造・譲渡した燃料油が軽油に該当しないとしても,特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者が,燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売した場合に当たるので,被告人には法700条の3第4項により軽油引取税が課されるとして,その軽油引取税のほ脱犯の処罰を求めるものである(なお,課税標準量を主位的訴因より減量し,各月分合計3489万7400リットルとしており,これに伴い,ほ脱税額も合計11億2020万6540円に減額している。)。
ここでいう燃料炭化水素油の定義について,法700条の3第3項は,炭化水素油で軽油又は揮発油以外のものと規定している。法は,軽油に該当するものは軽油として課税し,そうでない場合に燃料炭化水素油として課税するとの構造を採っていることから,軽油に該当するものは燃料炭化水素油としての課税対象からは除外されているのである。
弁護人及び被告人は,予備的訴因について事実及び犯罪の成立を争っておらず,被告人が製造した燃料油(各月分合計3489万7400リットル)を自動車の内燃機関の燃料として販売した事実は,証拠によって優に認定することができる(なお,燃料炭化水素油が販売先において実際に自動車の内燃機関の燃料に用いられたか否かは納税義務の存否に影響しないというべきである。)。ただし,第1で検討したとおり,被告人が製造した燃料油の中に軽油に該当するものが含まれていたことは疑う余地のないところである。主位的訴因を全面的に排斥し,予備的訴因をそのまま認定することは,当裁判所の事実認定判断と合致しない上,軽油に該当する部分についても燃料炭化水素油としての課税を認めることになるから,上述した課税構造とも矛盾することになる。3
当裁判所の認定
そこで,当裁判所としては,判示第2の事実記載のとおり,aほか2箇所の工場において製造して譲渡した軽油とaが自動車の内燃機関の燃料として販売した燃料炭化水素油を併せた課税標準量は各月分合計3489万7400リットルであり,これに対する軽油引取税額は合計11億2020万6540円であったと認定した。これは,主位的訴因及び予備的訴因それぞれの一部縮小認定であるが,軽油と燃料炭化水素油のそれぞれの課税標準量の内訳を明らかにしていないという意味では,概括的認定ないし択一的認定ともいえる。ただ,軽油であっても,燃料炭化水素油であっても,ほ脱犯の罰条は同じであって,犯罪構成要件及び法定刑に違いはなく,課税根拠となる条文が異なるだけである。軽油及び燃料炭化水素油の両方で課税される場合,課税対象となる軽油及び燃料炭化水素油の総量が課税標準量となるのであり,申告・納税義務が別個に生じるわけではなく,各月ごとに1個の申告・納税義務が生じるにすぎない。したがって,仮に,軽油と燃料炭化水素油の課税標準量の内訳が判明しなくても,総量が明らかになれば,課税上不都合は生じない。なお,軽油の場合の軽油引取税のほ脱犯と,燃料炭化水素油の場合の軽油引取税のほ脱犯とで,犯情に軽重があるのであれば,両者のどちらであるのかを確定できない場合に,被告人に有利な事実を認定するとの処理も考えられるが,軽油か燃料炭化水素油かで,ほ脱犯の犯情には特に軽重はないと考えられる。本件では,軽油に該当すると認められるものと,そうでないものとの割合を数量的に表すことが困難であることから,軽油と燃料炭化水素油の課税標準量の内訳を明らかにすることはできないが,総量が明らかになっている以上,このような認定も許されるというべきである。なお,訴訟手続上の問題として,訴因変更を経ることなく,上記のような認定ができるかについても検討するに,上記認定は,軽油該当性の認められる限度で主位的訴因を認め,これが認められなかった残部について予備的訴因の限度で軽油引取税のほ脱犯を認めたものであって,主位的訴因及び予備的訴因それぞれの一部縮小認定にすぎず,両訴因の範囲を逸脱するものではないから,訴因変更を経ることなく上記の認定をすることは差し支えないと判断した。4
訴訟条件について
弁護人は,燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売したことによる軽油引取税のほ脱については,大阪府による告発が行われていないという点を指摘する。
この点,間接国税については,都道府県知事による告発が訴訟条件となるものであるが,本件では被告人による軽油引取税のほ脱について,平成18年3月20日付けで大阪府知事の告発がなされていることが明らかであり(甲73),この告発をもって,これと公訴事実の同一性を有する予備的訴因についても訴訟条件を充足するというべきである。

第3

軽油の未承認製造罪の成否について

1
平成18年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第1(軽油の未承認製造
罪)は,被告人が平成16年10月1日から同月30日までに製造した約378キロリットル全部が軽油に該当することを前提にするものであるが,第1で検討したとおり,被告人が製造した燃料油のすべてが軽油に該当するものであったと断定することはできず,一部が軽油に該当しないものであった可能性も否定できないことから,この公訴事実をそのまま認定することはできない。しかしながら,他方,本件で起訴対象とされている燃料油は約378キロリットルと非常に多量であり,aほか2箇所の工場において1工程で使用される原料油は2キロリットルないし4キロリットルであるから,全体としては100工程以上かけて製造されたものであるところ,第1において認定した事実によれば,いかに製造方法等にばらつきがあり,軽油に該当しないものが含まれていた可能性があるにしても,そのすべてが軽油に該当しないものであったなどとは到底考えられず,平成16年10月1日から同月30日までの間にaほか2箇所の工場において,製造された燃料油の相当部分が軽油であったという事実は,合理的な疑いを容れる余地なく認定できるというべきである。なお,本件では,起訴状別表中のどれが軽油に該当するものであったのかを特定できないことから,軽油製造の回数,製造日,製造量を明らかにすることができない。しかしながら,そもそも,製造量については,軽油未承認製造罪において犯罪事実の特定に不可欠の事項ではなく,証拠上特定できない場合には,これを判示しないこともやむを得ないというべきである(もちろん,軽油の未承認製造罪において,製造量は量刑上重要な事実であるが,製造量の特定ができないことは,量刑上被告人に有利に取り扱われるべきである。)。また,製造日についても,具体的な日付の特定まではできないものの,平成16年10月1日から同月30日までの間というように,その期間を示すことで処罰対象となる犯罪事実の特定はなされているといえる。製造回数についても,本件で具体的な特定はできないが,一定期間内の製造行為としてその範囲は特定できているし,回数が特定できないことも量刑上被告人に有利に取り扱えば足りる。したがって,軽油の未承認製造罪については,判示第1のとおりの犯罪事実を認定するのが相当であると判断した。
2
なお,軽油の未承認製造罪の罪数について付言するに,本件の各工場における製造行為は,同一場所で同じ態様の行為が反復継続して行われたものであり,犯意としても継続していると評価し得る上,侵害法益も製造行為ごとに異なるものではなく,単一であると評価できることから,これを包括一罪として処理するのが相当である。本件では,製造回数,製造日,製造量を具体的に特定して認定することができないが,このことが被告人に不利にならないように取り扱われるべきであるから,併合罪として処断されるべき犯罪事実をそれぞれ特定・峻別して認定することができない以上,併合罪として加重するのは適当ではなく,この点からも,包括一罪として処理するのが相当である。なお,工場が異なれば,それぞれ別罪となり,これらは併合罪の関係に立つものと考える。(法令の適用)
1
被告人の
(1)

判示第1の事実は,各工場ごとにそれぞれ包括して刑法60条,地方税法700条の22の3第1項(同法700条の22の2第1項2号)に,
(2)

判示第2の事実のうち,


別表番号1ないし4の各所為は,平成16年法律第17号附則23条により,各月ごとにいずれも同法による改正前の地方税法700条の28第2項(700条の14第1項2号,5号,700条の3第4項,700条の4第1項5号)に,


判示別表番号5ないし13の各所為は,各月ごとにいずれも地方税法700条の28第2項(700条の14第1項2号,5号,700条の3第4項,700条の4第1項5号)に

それぞれ該当するところ,
2
各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し,

3
以上の各罪は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により,犯情の最も重い判示第2別表番号12の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役3年6月及び罰金4000万円に処し,

4
同法21条を適用して未決勾留日数中100日をその懲役刑に算入することとし,

5
その罰金を完納することができないときは,同法18条により金20万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,

6
訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1
本件は,被告人が,①aほか2箇所の工場において,共犯者と共謀の上,大阪府知事の承認を受けないで,軽油を製造し(判示第1),②これらの工場で製造して譲渡した軽油又は自動車の内燃機関の燃料として販売した燃料炭化水素油の合計量が約3489万リットルであるのに,その製造譲渡又は販売に係る軽油引取税11億円余りを申告せずに脱税した(判示第2)という,各地方税法違反の事案である。

2
本件で被告人がほ脱した軽油引取税額は,約1年間で総額11億円余りと極めて高額に及んでいる上,そのほとんどは未だ納付されておらず,結果は重大である。他方,判示第1で被告人が未承認製造した軽油の量については,上記のとおりその数量を確定することはできないため,この点については量刑上,被告人に有利に考慮すべきであるが,そうであるにしても,被告人は,自らが経営し,又は委託する複数の工場で,組織的かつ職業的に,軽油の密造を行っていたことは明らかで,判示第1の犯行はその継続した犯行の一環であること,さらに,長期間にわたり製造した軽油を譲渡し,又は燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売しながら,その間,軽油引取税を一切申告納付せず,利益を得てきたことなどの事情に照らすと,本件犯行は全体として非常に悪質なものといわざるを得ない。軽油引取税は,道路特定財源として各道府県の道路整備等に充てられる重要な財源であるところ,本件のように不正に製造された軽油や燃料炭化水素油が安価で販売されることによって,正規軽油等の流通が著しく阻害され,地方自治体における租税秩序や道路行政に重大な悪影響を及ぼすことは明らかであり,本件犯行はそれ自体反社会的なものであるが,さらに被告人は,各工場の従業員らに命じ,原料油の請求書等を廃棄させる一方,販売先への請求書には,軽油引取税が含まれているような記載をさせたり,別会社名義で請求書を作成させるなど,犯行発覚を免れるために周到かつこうかつな隠ぺい工作をはかっていたのであり,この点からも犯情は非常に悪い。被告人は,経営者として,原料油の仕入れや製品油の受注を自ら行ったり,各工場の従業員らに対してこれらを行うよう指示し,さらには上記のとおり従業員に隠ぺい工作をさせるなど,本件各犯行において,統括的,主導的な役割を果たしていたものと認められるのであり,厳しい非難を免れない。
3
以上によれば,被告人の刑事責任は重い。

4
他方で,ほ脱税額に比べればわずかな額ではあるが,修正申告の上,本件に係る軽油引取税100万円余りを納付したほか,被告人の財産が一部換価されて本税に充当されていること,本件各犯行につき反省の弁を述べていること,20年以上前に恐喝未遂罪によって執行猶予の付された懲役刑の前科はあるものの,それ以降は処罰歴はないこと,高齢で体調も優れないこと,妻が公判廷に出廷し今後の監督を誓約していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
5
しかしながら,これら被告人のために斟酌しうる事情をできる限り考慮しても,ほ脱税額が巨額であることや本件各犯行で主導的中心的な役割を果たしてきたことなど,上述した被告人の刑事責任の重さに照らせば,被告人についてその刑の執行を猶予することは相当とはいえない。そこで,以上の諸事情を総合勘案し,主文の刑を科すこととした次第である。

6
よって,主文のとおり判決する。

(求刑

懲役5年及び罰金5000万円)

平成21年3月9日
大阪地方裁判所第12刑事部

裁判長裁判官

並木正男
裁判官

渡部市郎
裁判官

安原和

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