判例検索β > 平成18年(わ)第459号
証拠隠滅、証人等威迫、脅迫
事件番号平成18(わ)459
事件名証拠隠滅,証人等威迫,脅迫
裁判年月日平成21年4月28日
法廷名宮崎地方裁判所
裁判日:西暦2009-04-28
情報公開日2017-10-13 01:36:44
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主文
被告人を懲役1年6月に処する
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,v会所属の弁護士であり,
第1

Aに対する盗品等有償譲受け被告事件の弁護人であったものであるが,Bと共謀の上,同事件の真犯人がCである旨主張し,同主張と合致する証拠を作出しようと企て,平成18年2月28日ころ,東京都新宿区●●●町●丁目●●番●号xビル1階甲(当時)店内において,Cの実兄であるDをして,

銀行通帳の売買で逮捕されたAさんの弁護士費用と引っ越し費用のうち,私と弟で100万円を出しました。これは,私たちのやった事でAさんが裁判になったお金です。

などと記載させ,C及びDが真犯人である旨の内容の虚偽の別紙書面を作成し,同年9月6日,宮崎市旭2丁目3番13号宮崎地方裁判所第205号法廷において,これを真正な証拠であるように装って同地方裁判所刑事部に提出し,もって他人の刑事被告事件に関する証拠を偽造してこれを使用し,

第2

いわゆる振り込め詐欺グループの幹部であるEから依頼を受け,同グループの構成員であるFに対する詐欺被疑事件の弁護人であったものであるが,平成18年11月2日午後4時7分ころ,東京都千代田区●町●丁目●番地警視庁y町警察署接見室内において,Fと接見した際,それまで黙秘を貫くように指示していたにもかかわらず,同人が事実関係を供述したい旨申し出たことから,同人に対し,

ふざけるな。

と怒鳴り,接見室の仕切板を一回手でたたき,だれに頼まれて来てると思ってるんだ。雑用じゃねえんだぞ。Eにはお前ですべて終わらせるように言われている。認めるんだったらすべてお前がかぶる以外にないぞ。知らねえって言っておけばいいんだ。余計なことをしゃべったら,お前の女だってこっちで面倒見てるんだし,実家の住所だって知ってるんだから,お前,どうなっても知らないぞ。などと申し向け,もって他人の刑事事件の捜査に必要な知識を有するFに対し強談威迫の行為をするとともに,同人の親族の生命,身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫したものである。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
[証拠隠滅被告事件(判示第1)]
第1
1
争いがないか,または,証拠上明らかに認められる事実
被告人は,v会所属の弁護士である。Bは,指定暴力団z1会二代目z2組z3組組員であり,Aは,Bの運転手をしていた。また,Bは,同会z4二代目z5組組長であるGと暴力団組織における兄弟の杯を交わしており,戸籍上同人の養子となり,G姓となっていたこともあった。Hは,Gの配下の若い衆であり,Bとも親交がある者である。Dは,Hの後輩に当たる者で,Gの運転手を務めていたこともある。Cは,Dの実弟であり,HやGとも知り合いの関係にある。
被告人は,知り合いの弁護士からBの刑事事件の弁護の依頼を受けたことからBと知り合い,その後もBやその知人の刑事事件や民事事件を受任していたほか,一緒に飲みに行くなどしていた。また,Bを通じてGとも知り合い,Gの刑事事件や民事事件も受任していた。

2
Aは,平成17年11月10日,通帳売買に係る盗品等有償譲受けの被疑事実により逮捕され,同年12月1日に起訴された(以下A事件という。)。その公訴事実の要旨は,

Aは,氏名不詳者らと共謀の上,平成16年10月25日,東京都豊島区内において,aが銀行から詐取した通帳2通等を,それらが詐取されたものであることを知りながら,Iを介してJから有償で譲り受けた。

というものである。3
Bは,Aが逮捕された日に,被告人に対しAの弁護を依頼した。
被告人は,平成17年11月11日に,Aの弁護人に就任して同人と接見し,その後,東京都新宿区内の喫茶店乙でBと会い,Aと接見したことの報告をした。
被告人は,同月27日にAと接見した。また,そのころ,打合せのためにBと会った。
被告人は,同年12月3日にAと接見し,その際,

Gが狙われている。2通口座,これをGから金をもらって,現金とひきかえに,Gのところの若い者といって受領した。

などと記載したメモを作成した。同日,被告人がAと接見したのを受け,被告人,H及びBが,東京都新宿区内のスナック丙に集まって話合いが持たれ,その席で被告人が接見の内容を報告した。
4
被告人は,同月26日にA事件における検察官の請求予定証拠の開示を受けたことから,同月末か平成18年の正月休みが明けてすぐのころ,被告人,H及びBが乙に集まり,被告人が開示された証拠の内容を説明した(以下この会合を乙第1会合という。)。
開示されたA事件の証拠には,取引相手であるJらが,A事件における通帳の取引相手は,bと名乗っていたAであると述べた供述調書があった。また,Jが作成したbを含めた取引相手のグループの組織を示した図面(以下本件組織図という。)も開示証拠に含まれていた。本件組織図には,最初通帳の注文をしてきたのはcと名乗る人物であり,その同じグループにdと名乗る人物もおり,同人と2回会ったことがあること,bの上司としてeと名乗る人物がいること,e及びcの上司としてfと名乗る人物がいること,グループのトップにはGがいることなどが記載されている。なお,fと名乗る人物はH,cと名乗る人物はK,dと名乗る人物はLである。

5
被告人は,その後,平成18年1月中旬ころ,Bと二人で会った。
6
被告人は,同月17日にAと接見し,翌18日にA事件の第1回公判期日が開かれ,Aは,同事件に関し身に覚えがない旨の陳述をした。また,被告人は,別に真犯人がおり,その人物がある程度特定されつつある旨の意見を述べた。
7
その日の夜,被告人,H,C,D,G及びBが乙に集まって話合いが持たれた(以下この会合を乙第2会合という。)。

8
Bは,同年2月14日以降28日までの間に,HがGの指示でKらから集めた現金のうちの一部をHから受け取った。

9
同月28日,A事件の第2回公判期日において,Jの証人尋問が実施された。Jは,自らが通帳等を譲り渡してきた人物と,平成16年10月25日にIを介して通帳等を譲り渡した人物がいずれもAである旨証言した。また,被告人がJにCの写真を示したところ,Jは,写真の人物に見覚えはなく,A事件の犯人ではない旨証言した。

同日夜,甲に被告人,D,C及びBが集まり話合いが持たれた(以下この会合を甲会合という。)。その際,Dが別紙書面(以下本件書面という。)を作成した。

その後,同年3月中旬ころから,D及びCが被告人らからの連絡に応じなくなった。

同年3月28日,A事件の第3回公判期日において,Aに対する被告人質問が実施された。Aは,通帳売買を一切行ったことがない旨供述した。
同年5月2日,A事件の第4回公判期日において,被告人が冒頭陳述をし,A事件の真犯人はCであり,同人もそのことを自認している旨の主張をした。
被告人は,Cを証人申請して採用され,同月31日の第5回公判期日で取り調べられることとなったが,同日,Cは裁判所に出頭しなかった。
同年8月4日,東京地方裁判所において,A事件に関し,I,M及びCの所在尋問が実施された。I及びMは,いずれも,bと名乗る人物はAである旨証
言し,Cは,自分はA事件の犯人ではない旨証言した。
同年9月6日,A事件の第6回公判期日において,被告人は,Cが真犯人であることを立証趣旨として本件書面の証拠調べ請求をして採用され,取り調べられた。なお,被告人は,本件書面を裁判所に提出する前に,Bと連絡を取り,提出について同意を得ていた。
さらに,同年10月25日の第7回公判期日において,Dの証人尋問が実施され,被告人から,本件組織図に関し,

fの本名はだれ,cの本名はだれ,dの本名はだれ,eは私です,bは弟ですと,あなたが私に説明したんだけれども,そういう事実はなかったか。

と質問され,Dは,

そういう事実はなかった。

と答え,また,本件書面に関し,被告人から,

あなたが下書きを作ってきて,私にてにをはを直してくれないかと言って私が直してあなたが書いたものではないか。

と質問され,そういう事実はないと否定する証言をした。A事件の論告弁論期日が同年11月15日と指定された。

被告人は,同年11月9日,証拠隠滅の被疑事実により逮捕され,同月30日に起訴された。

第2

争点及び当事者の主張
証拠隠滅被告事件の争点は,(1)A事件の真犯人がCである旨の本件書面の内容は虚偽かどうか,(2)被告人に本件書面の内容が虚偽であるとの認識があったか,(3)本件書面は,被告人がBと共謀してDに作成させたものか,(4)公訴提起が公訴権濫用に当たるかである。
争点(1)ないし(3)について,検察官は,被告人がBと共謀の上,内容虚偽である本件書面を,その内容が虚偽であることを認識した上で,Dに命じて作成させたものである旨主張する。これに対し,弁護人は,本件書面の記載内容は虚偽ではなく,被告人はCがA事件の犯人と考えていたもので,本件書面も,BがDに対し,C及びDらがA事件のために拠出した金銭が恐喝されたものではないことを説明する文書を書くように求め,Dがこれに応じて任意に作成し
たものである旨主張する。
また,争点(4)について,弁護人は,証拠隠滅被告事件の公訴提起は,被告人の正当な弁護活動を妨害し,A事件の無罪判決を阻止する目的をもって行われた違法なもので,また,切り違え尋問をするなど違法捜査を行った上でなされたものであり,検察官が公訴権を濫用したものである旨主張する。第3
1
争点(1)ないし(3)に対する判断
本件書面作成に至るまでの被告人らの行動状況等
(1)

被告人がCを含む6人分の写真を入手した経緯と状況
Hは,当公判廷の証言及び検察官調書において,上記写真収集の経緯について,以下のとおり述べている。
(ア)

乙第1会合の後,被告人から,

CD兄弟の写真を用意してくれ。

と頼まれ,Dに対し,

お前とCの写真を持ってこい。

と指示した。数日後,Dが白い銀行の封筒に入った写真を持ってきたが,CD兄弟のほかにgの写真も入っていた。
これとは別に,Gから,h,iとjの写真も持っていくように言われた。Gは,被告人が私にCD兄弟の写真を集めるように言ったことを知っていた。私は,CD兄弟らの写真と一緒の封筒にhら3人の写真を入れ,乙第2会合の前に,被告人と二人で会って渡した。被告人やGから写真を集めろと言われたから集めただけで,被告人にはどれがCの写真かを説明していないし,被告人からも,どれがCの写真なのか,他の写真は何なのかといった質問は受けていない。
(イ)

以上のHの証言及び供述は,写真を渡すようHから要求されたとい
うD及びCの証言と符合するし,写真の収集を指示したというGの証言とも符合しているほか,実際に被告人の勤務先の法律事務所からC以外の者らの4枚の写真も発見されている。また,供述内容も具体的であり,捜査段階からこの点に関する供述は一貫している。

これらに照らせば,前記のHの証言及び供述は信用することができる。イ
小括
そうすると,被告人がCを含む6人分の写真を入手した経緯と状況は,被告人は,平成17年の年末か,または平成18年の正月休みが明けてすぐのころに行った乙第1会合の後,Hに対してCD兄弟の写真を用意するように指示し,それを知ったGは,Hに対してh,i,jの写真を被告人のところに持って行くように指示し,それぞれ指示を受けたHは,CD兄弟とgのほかhら3人分の合計6人分の写真を集め,同月18日の乙第2会合より前の1月のある日に,被告人と二人で会って,6人分の写真を被告人に渡し,その際,Hは,写真のどれがDでどれがCであるなどの説明をしておらず,被告人も写真の説明を求めなかったことが認められる。
(2)

平成18年1月18日の夜に行われた乙第2会合の状況
Dの証言要旨
平成18年1月ころに,GにCと来るように言われ,乙に行った。それまでは,Aが逮捕されたことは知らなかった。乙には,被告人,G,B,Hなのかもしれないが印象にない人と私とCが集まった。被告人は,BやGにたばこに火を付けてもらったり,話しぶりも命令口調で,怖い人という印象だった。
被告人からAが盗品譲渡しで捕まったことを聞いた。そして,被告人が,Cと私に,「前あるか。」と聞いた。私は,「ない。」と答え,Cが,

前って何ですか。

と聞いたら,被告人は,

ぱくられたことがあるか。

と聞き,Cは,「ないです。」と言った。Gが,

A君,帰ってこれるのかな。

と言うと,被告人が,

だれか出さないと帰ってこれねえだろう。

と答えた。すると,Gが,

うちの兵隊出します。

と言った。兵隊とは,Cと私のことかなと思った。Gの発言は席にいる人たちには多分聞こえていると思う。

そして,被告人が写真をスーツの上着の内ポケットから出してかざし,Cに,

お前似てるな。

と言ったので,CがAの身代わりにさせられるのかなと思った。写真は普通の大きさで現像とかに出して返ってくるようなもので,だれのものかは見ていないが,話の流れからAのものだと思った。被告人がCに,

20日間我慢できねえか。執行猶予で出してやる。シナリオを書いてやるから出ろ。

と言った。Cは下を向いて,おどおどしている態度だった。Cは,なぜ身代わりにならなくてはいけないのかと聞いていないし,私も,Cがなぜ出ないといけないのかという質問は怖くてできなかった。被告人からは組織図を見せられた。書き込みがあったかなかったかよく分からない。それ以外に裁判記録を見ていない。組織図を見せられ,被告人から,

弟がbでいけ。

と言われた。Bも聞いていた。その後は特に何もなく,

もう帰っていいぞ。

と言われて終わった。被告人からA事件の具体的内容についての説明を受けたり,CがIから通帳を買ったかどうか尋ねられたりはしていない。IやJのことについても尋ねられていない。私たちからbがCであるとか,eが私であると言ったことはない。他の人が本件組織図のbがCであるとも言っていない。私とCが本件組織図の偽名の説明をしたことはない。

Cの証言要旨
平成18年1月ころの夜,Dから,Gが呼んでるから行こうと言われ二人で乙へ行った。用件は分からなかった。乙へ行くとG,B及び被告人がおり,もう一人は余り記憶がない。Hがいた記憶はない。K及びLはいなかった。被告人に会うのはこの日が初めてだったが,紹介などはなかった。Bが一番怖くて他の人の記憶は余りない。私たちが最後に着いたと思う。被告人は偉そうで,命令口調で話し,BやGを呼び捨てにしており,たばこの火を付けさせていた。BやGより暴力団員として上の地位だと思った。最初弁護士と分からず,途中そうかなとも思ったが,最後まで弁護士と信
じていなかった。
被告人から,

前あんのか。

と聞かれ,私が,

前って何ですか。

と聞き返すと,被告人が,

前科のことだ。

と言った。私は,

ありません。

と答え,Dもないと言ったと思う。被告人からAがこういうことで捕まったという話があった。そして,Bが,多分Gに,

兄貴どうすんだよ。

このままじゃ,Aが。

とか言った。すると,Gが,

うちから兵隊出す。

と言った。兵隊が私かDのことだと思い,身代わりにさせられると思った。Gの発言はBにも聞こえていると思う。Dが,

自分たちはやくざじゃないんで。

と言うと,Bが,

兄貴が捕まるってことはどういうことだか分かってんのか。

と怒鳴った。被告人が,ファイルの中かバッグの中からだと思うが,写真を出してテーブルの上に置いた。そして,被告人が写真を持ち,Bがのぞくように見て,Bが私に対し,

ああ,お前のほうが似てるな。

と言った。写真はAの写真だった。以前Aと一緒に海に行ったことがあるので何となく覚えていた。見てすぐは分からなかったが記憶がよみがえってきた。被告人がテーブルの真ん中に写真を置いたのでそのときに見た。
その後,被告人から,

シナリオを書いてやるから,20日間我慢できるか。

などと言われた。また,被告人がA4くらいの大きさの書類のようなものを出し,

これがあればいつでも呼べるからな。

と言った。その他の書類は見ていない。組織図を見たことはない。A事件の記録は読まされていない。会合中,私はほとんど下を向いていた。何か言われれば,はあ,ということくらいしか言っていない。何で僕なんだろう,早く帰りたいという心境だった。なぜ身代わりにならなければならないのかとは怖くて聞けなかった。被告人かBに,

裁判までに時間があるから考えとけ。

と言われ会合は終わりになった。会合では,被告人からA事件の日時,場所,通帳購入先等,具体的な内
容について説明を受けておらず,Iを知っているかとも聞かれていないし,A事件に係る通帳売買についての事情聴取もされていない。私たちが自分たちがやったとは言っていないし,本件組織図の偽名がだれを指しているのかも説明していない。宮崎の裁判に出るとも言っていない。証言して捕まったらどうするんだろう,弁護士はどうするんだろうなどとも言っていない。この会合で,だれかが,bがCであると説明したことはなく,CはDにいいように使われているからかわいそうだという発言もなかった。会合の後,1月末か2月に,とりあえず携帯電話を変えた。逃げたら家族に何かあると思い,逃げなかった。警察に行くと,BやGから報復されると思い行かなかった。

DとCの証言の信用性の検討
(ア)

DとCの証言は,乙第2会合における被告人やGらの発言内容につ
いてそれぞれの記憶に基づいて具体的に述べているし,被告人に対して抱いた印象や被告人らの発言を受けて感じた心情等の証言には,体験した者が述べる迫真性も認められる。記憶にないことや,記憶があいまいなところは正直にその旨述べている。
会合の際の状況については,会話の流れや実際になされた行動内容について,両名の証言内容はおおむね符合している。
(イ)

また,被告人がAの写真を取り出したとの点は,Cは実際にAの写
真を見たと証言しているところであり,Dは推測として述べるものであるが,Cの面前で,被告人がCの写真を取り出してC本人と見比べる必要性もないし不自然であることからすれば,Dの推測は合理的なものである。
(ウ)

さらに,被告人が

だれか出すほかない。

旨発言した点,Gが

うちの兵隊を出す。

旨の発言をした点や,被告人がシナリオを書いてやるなどと発言したとの点,ほぼ被告人が一方的に話をしていた点,
D及びCが意味のある発言をほとんどしていないといった点については,Hが,この乙第2会合の様子につき,被告人は,DやCに対し一方的にものを言っている感じで,口調は荒かった。BやGにたばこの火を付けてもらったことも多分あった。被告人はGに,『Aを出すんだったら,だれか出さないと無理だぞ。』と言い,Gは,『うちの兵隊出しますよ。』と言った。DとCに,『おれが全部うまくやってやる。』とも言った。また,写真を一人で見て,『似てるかなあ。』と言って首をかしげたりしていた。『間違えるかなあ。』,『見ようによっちゃ似てんのかなあ。』とも言っていた。と証言していることとも符合するほか,前科の有無を尋ねたという点ではBの証言とも符合している。
(エ)

加えて,BやGは現役の暴力団員であり,また,被告人もBの依頼
でAの弁護をしている弁護士であるところ,DとCが,これらの人物を罪に陥れる目的であえて乙第2会合の状況について虚偽の事実を述べているとも考え難い。
(オ)

なお,Cの証言には,記憶があいまいな部分も見受けられ,B

が写真を見ながら,やっぱりお前が似てるななどと発言したと証言する部分は,D,H,Bの証言と違っているが,C自身,BやGもいて怖かったため記憶がはっきりしない部分があることが窺え,この点がCの証言の重要部分の信用性まで揺るがすものではない。
(カ)

そうすると,乙第2会合の状況についてのDとCの証言は,その基
本的な部分については信用することができる。
(キ)

なお,弁護人は,Dは自ら作成した内容証明郵便に関し不自然な証
言をしており信用できない旨主張するが,内容証明郵便に関してDなりの説明をしており,それがDの証言の信用性を揺るがすものとは認められない。
弁護人は,Cが080から始まる携帯電話を使用したことはないなど
と偽証をしており,その証言は信用できない旨主張するが,Cは,この点について,変更した後の電話番号を弁護人らに知られたくなかったからである旨説明しており,BやGから逃れて身を隠すなどしていた証拠隠滅被告事件の経緯にも照らせばその説明が不合理なものとはいえず,証言の信用性に影響を及ぼさない。
また,弁護人は,Cは実際に弁護士事務所あての封筒に住所とbの偽名を書いた可能性があるのに,bという偽名を使用したことがない旨偽証しており,その証言は信用できない旨主張するが,Cは,他の者に依頼されて記載した可能性を否定しない旨の証言をしているところであるし,上記の封筒とA事件との関連性は不明であることから,その証言の信用性に影響を及ぼすものではない。

被告人の供述
被告人は,乙第2会合において,DとCに,

A事件の犯人があなたたちで間違いないか。

と聞くと,二人が間違いない旨答え,Dが,自分がeで,Cがbであるなどと説明したほか,他の者がどのような偽名を用いていたか説明した,会合では,Dが

Cを出したくない。

などと発言し,出頭するかどうかでもめて,会合がまとまらなくなったなどと供述する。しかし,これらは,前記のD及びCの証言に反するのみならず,H及びBが証言で,DとCが,Cがbであると認めた場面はなかったし,偽名について説明した場面もなかったなどと述べていることとも反するもので,信用できない。


小括
以上によれば,平成18年1月18日夜の乙第2会合において,Gから呼ばれて用件が分からずにやってきたDとCに対し,被告人が「前あるか。」と尋ね,被告人がGの言葉を受けて,

だれか出さないと帰ってこれねえだろう。

と言ったのに対し,BがGに,

兄貴どうすんだよ。


と言うと,Gが,

うちの兵隊出します。

と言ったこと,被告人がAの写真とCを見比べながら,

お前似てるな。

と言い,さらに,

シナリオを書いてやるから,20日間我慢できるか。

弟がbでいけ。

と言ったこと,Dが,

自分たちはやくざじゃないんで。

と言うと,Bが,

兄貴が捕まるってことはどういうことだか分かってんのか。

と怒鳴ったことが認められる。
(3)

JのA事件第2回公判における証言
Jは,平成18年2月28日に行われたA事件の第2回公判において,前記(第1,9,p.7)認定のとおり,Jが平成16年10月25日にIを介して通帳等を譲り渡した人物,つまり,A事件の犯人はAである旨証言し,また,被告人からCの写真を示されたが,その人物に見覚えはなくA事件の犯人ではない旨証言した。


信用性の検討
(ア)

Jは,A事件でIを介してAに譲渡した通帳等をMから有償で譲り
受けた罪により起訴され,平成17年7月に執行猶予が付された有罪判決を受け,その判決も確定しているところ,その捜査段階から,取引相手のbがAであると特定していたものであり,bとは10回から15回直接会った顔見知りで,会ったときも相手の顔はよく見える状態で,長いときは2時間くらい一緒にいたこともあることや,違法な取引をする相手であるから,その人物を慎重に確認していたと認められることなどから,記憶に鮮明に残っていたものと認められる。
(イ)

Jは,bが

Gのところのbです。

と言ったと証言しているとこ
ろ,当時,AがGの弟分のBの運転手をし,また,逮捕されたAにGが宅急便で差し入れするなど,Gとの交流があったものであるから,AがJに対して,上記の発言をすることも不自然ではない。
(ウ)

Jは捜査段階で,Aの写真面割りの前から,bの容貌について,年
齢が24歳くらい,身長が170センチから175センチくらい,色黒でぼさぼさの茶髪頭,一見暴走族風の今風の男,黒っぽい服装,黒いルイヴィトンのバッグを持っていた旨述べていたが,その容貌はAのそれとは矛盾しないし,その証言するバッグの形状はAが逮捕当時に所持していたバッグの形状とほぼ合致している。
(エ)

また,JはAの写真面割りにおいても,69枚の写真を順に見てい
く中でAの写真を目にしたとき,これがbだと言ってAの写真を選別している。
(オ)

Jは,A事件における証人尋問後,宮崎空港で偶然被告人と会い,
被告人からA事件の犯人がAで間違いないか聞かれたのに対し,間違いない旨答えている。
(カ)

さらに,Jは,本件公判廷においても一貫して,Aが通帳等の取引
をしたbである旨を,当時の関係者の行動を具体的に説明しながら明確に証言している。

弁護人の主張の検討
(ア)

弁護人は,Jが使用した写真面割台帳には,Aと同年代の者の写真
はなく,Jの指示に基づき収集されたz1会z2組関係者の写真のみで構成されているなど,写真面割りの手続が不適切である旨主張する。しかし,写真面割台帳の写真の中には,二十代と見える者はA以外にも複数存在し,写真面割台帳は,Jが捜査官にz1会二代目z2組の関係者の写真を見たいと申し出たのに応じて捜査官が作成したものであり,作成経緯に捜査官の不自然な作為があったことは窺えず,また,面割りの過程において捜査官の誘導や暗示があったことも窺えないことなどに照らせば,写真面割りの手続が不適切であったとは認められない。(イ)

弁護人は,Jがbを見てから識別に至るまでの時間が長すぎ,その
証言は信用できない旨主張するが,Jの証言内容や写真選別の状況に照
らせば,識別に至るまでの時間のみをもってその証言の信用性が否定されるものではない。
(ウ)

弁護人は,AはA事件当時ひげを生やしていたのに,Jは捜査段階
当初はこの点を供述していなかったもののその後言及するなど,供述が変遷しており,その証言は信用できない旨主張する。
しかし,Jは,bのひげは余り目立っていなかったような気がするとか,自分はきちんと手入れしている場合にひげがあるという言い方をするなどとも証言していることに照らすと,Jが,ひげの点をbの特徴を表すものとの印象までは抱いていなかったものと認められ,bに関するJの証言内容に照らしても,Jの証言の信用性に影響を及ぼすものではない。

小括
以上からすると,平成18年2月28日のA事件第2回公判における,Jの,A事件でIを介して通帳等を譲り渡した人物はAであり,Cに見覚えはなくA事件の犯人ではない旨の証言は信用できるものであったと認められる。

(4)

甲会合の状況
Dの証言要旨

(ア)

平成18年2月28日の夜,Bから,弟と二人で来るように言われ,
Cとともに甲へ行った。Cと二人で店の外で待っていると被告人が来て,店に入ろうかというときにBも来た。
被告人から,

腹決まったか。

と聞かれ,また,

おれがシナリオ書いてやるからいけ。

と言われた。Bも,

この店使えるんだよね。

とこの店はBらの息が掛かった店であるかのような言い方をした。そして,被告人から,

弟一人出ても裁判がひっくり返らない。お前もeでいけ。

と言われ,

お前らがやったという文面を書け。

と言わ
れた。私が,

何でですか。

と言うと,

いいから書け。

と言われた。本件書面作成に当たっては,被告人が口で言うことを私がひらがなで書いていき,被告人から,

ああ,やっぱ,ここ消せ。

と言われて書き直しながら,二,三枚ぐらい書き,消したところを全部つなげて清書するという形で作成した。Cがコンビニにレポート用紙を買いに行ったかどうかは記憶にない。Lの秀の漢字が分からず,被告人から,

そんな字も書けないのか。

と言われた。Bが,この店にはBの息が掛かっているような言い方をしたので,書かないと店から帰れないのかなと思った。
(イ)

本件書面の内容について,私とCで100万円は出していないし,
Hにお金を渡していない。LやKがお金を出したかは知らない。私は,Lの下の名前を知らないので書けないし,長い文章も書けない。実際にやっていないので,自分から私たちがやったこととは書かないし,お金も出していないので100万円出したとも書かない。お金をBのところに持ってきた理由や経緯について書くように指示されて書いたものではない。
(ウ)

本件書面は被告人が多分背広の内ポケットにしまった。被告人は,
立ち上がったときに,

出すからな。

と言っていた。Bも聞いていたと思う。
(エ)

甲を出るとき,出口付近で,被告人から,

逃げたら組織で追うからな。

と言われた。Bも,駐車場で,

弟逃がすなよ。

と言ってきた。このことは,喫茶店でBに電話が架かってきており,Bが兄貴と呼んでいたので多分Gからの電話であり,

兄貴,分かった。後で言いますから。

というような言葉を聞いたので,Gの考えだと思う。(オ)

甲で自分たちがやったとは言っていない。出るならみんなで出たい
とも言っていないし,身代わりで出るようなことは言っていない。Cが,

変装していたし,自分を分かるはずじゃないんだけどな。

などと発言したことはない。
(カ)

その後,被告人から電話があり,

腹決まったか。

と言われたが,
言葉を濁していた。同年3月半ばに自分の妻子とCとともに逃げて身を隠した。仕返しが怖く警察には相談しなかった。
(キ)

gから,自分たちが逃げた後にGが実家に押し掛けてきたことや,
gがGから,

DやCをかくまってたら殺すからな。

と言われたことを聞いた。

Cの証言要旨
(ア)

平成18年2月28日の夜,被告人と会うつもりでDと甲へ行った。
BやGがいると話せないので,少しは期待して行った。店の外でDと二人で待っていて,被告人が来たので店に入った。10分くらいしたらBも来たので,被告人と話せるという期待はすぐ終わった。甲では4人だった。
(イ)

被告人から,

C一人だとAを無実にできないからDと二人で出ろ。

と言われた。優しい言い方ではなかった。ほかに,

シナリオを書いてやる。

とも言われた。Bからは,

Cどうするんだよ。

と言われた。初めてCと呼ばれ,このときだけ優しめの言い方だった。私が被告人とBに,

何で自分なんですか。

と言うと,Bから,

お前は決まっているんだよ。

と言われた。それでもう何も言えなくなり,反論できる状態ではなかった。
(ウ)

本件書面については,当時はどういう書面か全く分からなかった。
Dが被告人に言われたとおりにはいはいという感じで書いた。私は,Dが書面を書く前だった気がするが,Bから,

ノートを買ってこい。

と言われてお金を渡されコンビニに買いに行った。ノートかレポート用紙を買い,Bに渡した。

(エ)

本件書面の内容について,Dと私は100万円を出していない。H
にお金を渡していない。Dと私にとって,HやBは怖い存在なので,彼らの名前を書くこと自体おかしいし,目の前にいるのに,Bと呼び捨てで書くことはない。私たちがやったと,自分たちがしたことを認めるようなことを書くこともない。
甲で,私たちがA事件をやったと述べたことはない。Dは,私を出さずになんとからないか,みんなで出たいなどという発言もしていない。私が変装していたなどと発言したことは絶対にない。Dが自分で書面を用意して被告人に提出したということもない。
(オ)

Dが被告人らに本件書面を書かされているときにBに電話があり,

ああ分かっています。今書かしています。

という会話をしており,Bに命令できるのはGだと思うので,甲会合にはGも関与していると思う。
(カ)

この日も結論が出なかった。帰り際にDがBに呼ばれ二人で話して
いた。後で,Dから,Bが,

弟を絶対逃がすなよ,説得しろ。

と言ったと聞いた。帰りの車の中でDと,逃げないとまずいなという話になった。
(キ)

その後,同年3月半ばに実家を出て逃げた。弁護士も絡んでいるの
で,だれも信用できず警察にも相談しなかった。

DとCの証言の信用性の検討
(ア)

DとCの証言は,甲会合における被告人やBの発言内容,書面を作
成する際の状況,その際の被告人の言動,そのときどきの心情等について具体的に述べているし,体験した者が述べる迫真性も認められる。記憶にないことも正直にその旨述べている。
(イ)

甲会合で被告人から記載内容を口授されて言われるままをDが書い
たという本件書面の作成状況について,DとCの証言は一致している。
また,Dが本件書面を被告人から強制的に書かされたと述べていたとのKの証言とも符合する。
また,会合の途中で,Gと思われる人物からBに電話があったという点についても,DとCの証言は一致している。
(ウ)

加えて,BやGは現役の暴力団員であり,また,被告人もBを通じ
てAの弁護をしている弁護士であるところ,DとCが,これらの人物を罪に陥れる目的であえて虚偽の事実を述べているとも考え難い。
(エ)

そうすると,甲会合における状況についてのDとCの証言は,その
基本的な部分において信用できるものである。

弁護人の主張の検討
(ア)

弁護人は,本件書面の文章が稚拙であり,弁護士である被告人が作
成した示談書や合意書とはかけ離れており,被告人がDに口授して作成させたものではない旨主張する。
しかし,本件書面の作成名義人は弁護士ではなくDであって,文書の種類も示談書や契約書ではなく,過去に起きた事実関係を説明するものであるから,弁護士が作成する整然とした文章とは違って,稚拙な文章であっても不自然ではない。そして,Dが被告人の言うことをひらがなで書いていき,被告人から,

ああ,やっぱ,ここ消せ。

などと言われて書き直しながら二,三枚書き,消したところをつなげて清書したことからすると,本件書面の文脈に稚拙な部分があっても不自然とはいえない。
(イ)

また,弁護人は,被告人には本件書面を作成させる必要性も動機も
ないと主張するが,Dの証言によれば,本件書面作成後,それを背広の内ポケットにしまった被告人が,

出すからな。

と発言していることなどからすると,被告人には本件書面を作成する必要性や動機があったものと認められる。

(ウ)

本件書面では,Aの2回とHの1回,それぞれ名前が出る部分はい
ずれもさん付けで記載されながら,Bについては,2回名前が出るうちの最初の部分はさん付けであったものが,後の部分ではB
と呼び捨てになっているところ,DやCにとって怖い存在のBの面前でDが自ら作成した文書であるなら,Aと同様に一貫してさん付けで書くのが自然と思われることからすると,Bを呼び捨てで書いた部分があることは,Bを呼び捨てにしていた被告人が口授したことを推認させるものである。この点,弁護人は,さん付けしたかどうかは微細な点にすぎないと主張するが,賛成できない。
(エ)

以上のとおりであり,本件書面は被告人が口授してDに書かせたも
のではないとの弁護人の主張は採用できない。

小括
以上によれば,被告人,BとD,Cの4人が集まった甲で,被告人が,

腹決まったか。

シナリオを書いてやる。

弟一人出ても裁判がひっくり返らない。お前もeでいけ。

お前らがやったという文面を書け。

などと言って,Dに口授して本件書面を書かせたこと,Cが,

何で自分なんですか。

と言うと,Bが,

お前は決まっているんだよ。

と言ったこと,途中,Bの携帯に電話があり,Bが,

兄貴,分かった。後で言いますから。

とか

ああ分かっています。今書かしています。

と言ったこと,被告人が本件書面を背広の内ポケットにしまった後,

出すからな。

と言ったこと,店を出た帰り際,被告人が

逃げたら組織で追うからな。

と言い,BがDに,

弟逃がすなよ。

と言ったことが認められる。

2
本件書面作成時の被告人の認識についての検討
以上の各事実を前提に,被告人が,本件書面作成時に,DとCがA事件の犯人ではないと認識していたかどうかを検討する。

(1)

本件書面作成に至るまでの被告人らの行動状況等は前記(第3,1,p.
9)のとおりであり,以下,それに基づいて検討する。

被告人が,乙第1会合の後乙第2会合よりも前ころに,CD兄弟ら6人分の写真を入手した経緯と状況は前記(第3,1,(1),p.9)のとおりであり,それによれば,被告人は乙第2会合が始まるまでCと面識はなく,写真のどれがCかは知らなかったものと認められる。


平成18年1月18日夜の乙第2会合における被告人らの言動は前記(第3,1,(2),p.10)のとおりであり,被告人がGの言葉を受けて,

だれか出さないと帰ってこれねえだろう。

と言い,BがGに,

兄貴どうすんだよ。

と言うとGが,

うちの兵隊出します。

と言い,その後,被告人がAの写真とCを見比べながら,

お前似てるな。

シナリオを書いてやる。

などと言い,BがDに対し,

兄貴が捕まるってことはどういうことだか分かってんのか。

と怒鳴ったことなどに照らせば,この乙第2会合において,被告人は,Cの顔つきや風貌を確認してAの写真と見比べ,Gの兵隊の中からだれか出す者を物色したものと認められる。


その後,平成18年2月28日のA事件第2回公判におけるJの証言内容は前記(第3,1,(3),p.16)のとおりであり,Jは,A事件の犯人はAであり,Cに見覚えはなくA事件の犯人ではない旨明言し,さらに,帰りの宮崎空港で被告人から確認された際にも,犯人はAに間違いないと答えたことからすると,被告人は,Jの証言内容が堅く揺るぎないものであることが分かったものと認められる。


平成18年2月28日の夜の甲会合の状況は前記(第3,1,(4),p.19)のとおりであり,前記のJ証人尋問後のその夜の会合で,被告人は,

弟一人出ても裁判がひっくり返らない。お前もeでいけ。

お前らがやったという文面を書け。

などと言って,Dに口授して本件
書面を作成させ,その途中,Gと思われる人物からBに電話があり,Bが,

今書かしています。

と言い,また,Cに,

お前は決まってるんだよ。

と言い,本件書面作成後,被告人がDに,

出すからな。

逃げたら組織で追うからな。

と言い,Bが,

弟逃がすなよ。

と言ったものであることからすると,この甲会合において,被告人とBは,A事件におけるJの証言に対抗させる証拠として,CをAの身代わりとして出廷させるべくCとDに迫ったものと認められる。
(2)

ところで,Hは,乙第1会合のとき被告人とBに対し,本件組織図に基
づいて,bの偽名を使っていたのはCであり,A事件の犯人はCであるのにAは間違われて逮捕されている旨説明したと証言し,被告人とBも,Hからそのように説明を受けたため,A事件の真犯人はCであると信じた旨述べる。この点,前記認定のとおり,被告人は,乙第1会合の後に,Cの写真だけでなくDの写真をも集めるよう指示し,HからCD兄弟ら6人分の写真を受け取ったものの,Hから写真の説明はなく,被告人もHに対してCの写真がどれであるかの説明を求めていないし,乙第2会合では,

真犯人を出す。

とか「Cを出す。」というのではなく,

だれか出さないと帰ってこれない。

と特定の者を示さない言い方をし,これに対し,Gが,

真犯人を出す。

とか,「Cを出す。」などと答えるのではなく,だれを出すのか特定することなく,

うちの兵隊を出す。

などと答えており,さらに,被告人がAの写真を取り出して見て,Cに対し,

お前が似ている。

と告げるなどして,Aと似た容貌の人物を物色している。そのほかにも,

シナリオを書いてやるから出ろ。

とか,Cに,本件組織図を示して「bでいけ。」などと述べているし,CがA事件の犯人かどうかについて直接質問をして確かめることはなく,A事件のJやIとの面識の有無等についても確認していない。
これらの被告人の言動は,乙第1会合において,Hから,bがCであると
聞かされた結果,CがA事件の真犯人であると信じていたとすれば極めて不自然なものであり,被告人やBの言動に照らせば,乙第1会合でHが証言するような説明がなされた事実はなかったと認めるのが自然である。したがって,上記のHの証言は虚偽であって信用できず,被告人とBが,Hの説明を信じたために,CがA事件の犯人であると信じた旨述べるところも信用できない。
(3)

そうすると,被告人とBは,乙第2会合で,実際にCに会って,その容
貌を確かめた上,最終的にCをAの身代わり犯人にすることを決めるととともに,そのための説得をしたものとみるのが自然である。
その後,被告人は,2月28日にJに対する証人尋問に立ち会い,JがA事件の犯人はAであってCではない旨明言し,帰路の宮崎空港でもJからAに間違いない旨の返答をも得た上で,その日の夜に行われた甲会合において,Bが同席するところで,Dに対し,

弟一人出ても裁判がひっくり返らない。

とか,

お前もeでいけ。

などと発言をし,Dに口授する方法で本件書面を作成させたものである。
(4)

弁護人の主張
弁護人は,本件書面は,Bが,自らが恐喝行為をしたと言われないよう
にDに内容を指示し,それに応じてDが作成したものであると主張し,被告人とBもおおむね同旨を述べている。
しかしながら,本件書面では,DとCはお金を出していないのに出したように書かれていること,関係者が支払った金額も実際とは異なっていること,HがGの指示に基づいてBの意向と関係なく金銭を集めたにすぎず,Bは金銭を集めるのに何ら関与していないので,恐喝を心配するというのも不自然であること,また,Hが証言するような集金の態様によれば,DやLらがすすんでお金を提供した様子であり,恐喝を恐れるような集金の態様とは窺われないこと,被告人も,A事件におけるDの証人尋問におい
て,恐喝と言われないように本件書面を作成したという被告人の主張を前提とした質問をしていないことや,被告人はBから,甲の会合時もその後も,本件書面の文面で恐喝にならないか否かの相談も受けていないことが認められる。
そうすると,被告人の供述及びBの証言は不自然,不合理で信用できず,弁護人の主張は採用できない。

また,弁護人は,乙第2会合や甲会合での関係者の言動がD及びCの証言どおりであったとしても,被告人らがCがA事件の犯人と考えて行った言動と考えても矛盾しない旨主張し,個々の言動の趣旨について縷縷主張するが,関係者の言動を上記各会合前後の状況も含めた一連のものとしてみると,上記のとおりに理解するのが自然であって,弁護人の主張はいずれも独自の見解というほかなく,採用できない。


弁護人は,被告人が,本件書面をA事件に使用するためにDに作成させたのであれば,Cの所在尋問前に証拠調べ請求しているはずなのに,現実には,被告人は本件書面の存在を失念し,Cの尋問終了後に取調べ請求をしているのであって,これらの事情は被告人が本件書面を作成させたわけではないことを推認させるものであると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
しかし,前記認定のとおりの本件書面の作成状況や,その際,被告人が,

出すからな。

と述べていたことや,Hの説明でCがA事件の真犯人と信じたというのであれば,本件書面はAの無罪を証明する重要な証拠であることからすると,その弁護人がCの尋問を行うための準備の過程で本件書面の存在を失念したままであったというのは,いかにも不自然かつ不合理である。CがA事件において,自らはA事件の犯人ではないとの証言をしたのを受けて本件書面を提出することにしたとみても不合理とはいえない。

そうすると,本件書面の提出時期から,直ちに被告人が本件書面を作成させていないことが推認されるものではないので,弁護人の主張は採用できない。

弁護人は,被告人が平成18年2月4日の接見の際,Aに対し,B作成の手紙を見せているが,この手紙にはAがCと間違われた旨の記載があるなど,Bが,CがA事件の真犯人であるとの認識をしていたことを示す記載があり,被告人も自らの認識と異なる内容の手紙をAに見せるはずはないので,被告人がBとほぼ同様の認識を持っていたといえ,したがって,Bの手紙は,被告人がCが真犯人であると認識していたことを裏付けるものである旨主張する。
しかし,Bの手紙は,その内容に照らし,被告人とBがCに対してA事件の身代わり犯人として出頭を求めた乙第2会合の後に作成されたものと認められ,Cを身代わり犯人とすることを前提とした上で作成されたものと認められる。そうすると,Dの弟とお前がまちがわれたみたいだなどの記載も,身代わり犯人としてCが出頭する話が進んでいることをAに知らせ,ただ,そうした場合のデメリットも想定して,それでもよいかよく考えてほしいとのBの意向を伝えたものと認めることができる。したがって,Bの手紙をもって,弁護人の主張するような,被告人がCを真犯人と認識していたことの裏付けとすることはできない。

(5)

小括
以上によれば,被告人は,DとCはA事件の犯人でないことを認識しつつ,
CをAの身代わり犯人とする計画の一環として,内容虚偽の本件書面を,内容が虚偽であると認識した上でDに作成させたものと認められる。3
本件書面作成後,被告人が平成18年9月6日のA事件第6回公判で本件書面を提出するまでの状況等
(1)

平成18年2月28日のJ証人尋問及びその夜の甲会合の後,同年8月
4日のA事件における東京地裁でのI,M及びCの所在尋問までの出来事については前記(第1,11ないし14,p.8)のとおりである。(2)

平成18年8月4日のA事件での所在尋問におけるI,M及びCの証言Iの証言
(ア)

証言の要旨
Jの依頼で,平成16年10月25日にJR大塚駅に行き,同駅付近
のビルのところで,Mから通帳等を入手した。そして,これを,Jの指示に従い,別の男に渡して現金を受け取った。その後,その現金から23万円を抜き取り,残りの現金をMに渡したほか,23万円のうちの20万円をJの指定する口座に送金した。通帳等を渡した相手はAである。なお,Iは,自らが取引した相手がAである旨をA事件の証言時から一貫して証言しており,本件における所在尋問においても同様に証言している。
(イ)

信用性の検討
Iは,A事件当日の1回相手に会ったにすぎないが,Iにとっては通
帳等の売買にかかわったという,印象深い事柄であったと考えられる。相手を見たのも晴れた日の昼間で明るく,相手がマスクをしたり帽子をかぶっていたという事情もなく,Iの視力も1.5及び1.0で問題はなく,約10分弱と短時間ではあるが比較的まとまった時間二人でいて,一番接近したときは1メートルくらいの距離で相対していたというものであって,その視認状況は比較的良いものであったと認められる。取引相手の容貌は,捜査官に対して自発的に,20歳前半から半ばくらい,色が黒く短髪で,身長がIより若干低く,目がちょっと垂れているが,ちょっと鋭い目をした男性である旨具体的に供述しており,写真面割りでも,写真を順に見ていく途中で気付いてAの写真を選んだ旨述べていることからすると,写真面割り前後を通じて捜査官の誘導や示唆
があったような事情も窺われない。
以上によれば,平成16年10月25日に通帳等を譲渡した相手がAであるとの,平成18年8月4日のIの証言は十分信用できるものであったと認められる。
(ウ)

弁護人の主張の検討


写真面割りについて
弁護人は,J及びMの場合と同様に,Iの写真面割りの手続が不適切である旨主張する。
しかし,Iは,写真を順に見ていく途中で気付いてAの写真を選んでいることや,写真面割台帳には二十代と見える者はA以外にも複数存在していることなどに照らせば,写真面割りの手続が不適切であったとは認められない。


識別までの時間について
弁護人は,Iがbを見てから識別に至るまでの時間が長すぎ,その識別供述は信用できない旨主張するが,Iの証言内容や写真選別の状況に照らせば,識別に至るまでの時間のみをもってその証言の信用性が否定されるものではない。


したがって,弁護人の主張するところはいずれも採用できず,Iの証言の信用性に影響を及ぼさない。


Mの証言
(ア)

証言の要旨
平成16年10月25日のA事件では,Iに通帳等を売り渡した。A事件に係る取引時ではないが,Jが通帳等を譲渡していた相手を,
JR目白駅付近のマクドナルドの店内で見た。1階の座席で,Jが入口に背を向け,取引相手が入口に向いて互いに向かい合って座っていたので,入口を入ってから,その横を通り過ぎて階段のところまで行く間に,
右斜め下の目線で見た。別の日,JR大塚駅付近のロイヤルホストの店内から,店外にいるJと取引相手を見ている。これらの相手はいずれもAであった。
なお,Mは,自らが見たJの取引相手がAである旨をA事件の証言時から一貫して証言しており,当公判廷においても同様に証言している。(イ)

信用性の検討
Mによれば,Mの視力は眼鏡を使用して約1.5で,マクドナルドに
おいては,店舗内であって明るさも識別には十分であったと認められる。また,Jと相対している取引相手がどのような人物か興味を持って見ていたし,その横を通り過ぎる間,一,二メートルくらいの距離から,四,五秒くらい見た,取引相手も帽子をかぶったりマスクをしているということもなかったというのであるから,客観的視認状況も悪くなかったと認められる。
Mは,Jの取引相手の容貌について,年齢については二十代前半から半ば,色が黒く,目がぎょろっとしていて,不精ひげを生やし,髪をバックにしたような,えらが張っている男などと具体的に供述しており,写真面割りでも,写真を見ていってすぐに見たことがある人物であると気付いてAの写真を選び,どこで見たか話をした旨述べていることからすると,写真面割り前後を通じて,捜査官の誘導や示唆があったような事情も窺われない。
以上によれば,Mが目撃したJの取引相手はAであるとの,平成18年8月4日のMの証言は十分信用できるものであったと認められる。(ウ)

弁護人の主張の検討


写真面割りについて
弁護人は,J及びIの場合と同様に,Mの写真面割りの手続が不適切である旨主張する。

しかし,Mは,写真を見ていってすぐに見たことがある人物であると気付いてAの写真を選んでいることや,写真面割台帳には二十代と見える者はA以外にも複数存在していることなどに照らせば,写真面割りの手続が不適切であったとは認められない。

識別までの時間について
弁護人は,Mがbを見てから識別に至るまでの時間が長すぎ,その証言は信用できない旨主張するが,Mの証言内容や写真選別の状況に照らせば,識別に至るまでの時間のみをもってその証言の信用性が否定されるものではない。


マクドナルドにおける視認状況について
弁護人は,Mがマクドナルドの階段の位置を間違えていたため,視認状況が変わっており,Mの証言は信用できない旨主張する。
この点,Mは,当初,マクドナルドの階段の位置を間違え,階段を上りながら取引相手を見ていた旨供述していたところ,その後,Jと取引相手の座っている席の横を通り過ぎながら取引相手を見たと証言を変えているのであるが,いずれも右斜め下を見るような形で取引相手を見たという状況に変化はなく,Mの視認状況に大きな影響を与えるものとはいえない。


したがって,弁護人が主張するところはいずれも採用できず,Mの証言の信用性に影響を及ぼさない。


Cの証言
(ア)

証言の要旨
Cは,A事件において,IやMと同じ日に行われた所在尋問で,弁護
人請求証人として証言し,平成16年10月25日に通帳やキャッシュカードを買い受けた事実はない,被告人に対して自分が真犯人で自首しようと思っているとか,裁判所にも出廷するなどと話したことはない,
また,被告人に対して本件組織図のfはだれ,cはだれ,dはだれ,eはだれで,bは私ですと説明したことはない旨を明確に証言している。(イ)

信用性の検討
Cの当公判廷における乙第2会合の状況に関する証言の信用性(第3,
1,(2),ウ,p.13)と,甲会合の状況に関する証言の信用性(第3,1,(4),ウ,p.22)は前記のとおりであり,いずれも信用できるものである。
そして,平成18年8月4日のA事件の所在尋問における上記の証言内容も,本件公判における証言と基本的に一貫していることからすれば,上記のA事件の証言内容は十分信用できるものであったと認められる。4
本件書面提出時の被告人の認識についての検討
(1)

被告人は,前記(第1,16,p.8)のとおり,平成18年9月6日,
A事件の第6回公判期日において,Cが真犯人であることを立証趣旨として本件書面の証拠調べ請求をして採用され,受訴裁判所に提出した。(2)

ところで,前記(第3,2,p.24)のとおり,被告人は2月28日
の甲会合で,CがA事件の犯人ではなく,本件書面の内容が虚偽であることを認識しながらDに作成させているところ,その後,8月4日のA事件の所在尋問で,I,M及びCに対する各尋問に立ち会い,いずれもA事件の犯人がCではない旨の各証言を聞いているのであり,これらの証言には,CがA事件の真犯人であることを窺わせるような事情もなく,被告人にとって,本件書面の記載内容が虚偽であるとの認識を弱めるどころか,かえって強めるようなものであった。
また,甲会合後の3月中旬ころから,D及びCが逃亡して被告人らからの連絡に応じなくなっていたところ,K,Lの証言及び被告人の供述によれば,被告人は,それ以降も,KやLに事情聴取を行っていないことが認められる。Cと連絡が取れなくなった以上,同人が犯人であると立証するために,Kら
関係者に事情聴取をする必要性がより高まったものと考えられるのに,被告人はこれを行っておらず,Cの犯人性についての情報を収集していない。(3)

小括
このように,内容が虚偽であることを認識しながら作成した本件書面につ
いて,その後,その認識を弱める事情すらないまま本件書面の提出に至っていることに照らせば,被告人が本件書面の内容が虚偽であることを認識した上で,裁判所に提出したものと認められる。
5
Bとの共謀の有無
(1)

前記(第1,p.5)認定のとおり,Bは暴力団組織におけるGの弟分
の立場にあり,Aが逮捕された後は被告人とよく連絡を取り合い,平成17年12月3日のスナック丙では,被告人から接見メモに基づいてGが捜査の対象となっているとの報告を受けたものである。そして,Bは,乙第1会合及び第2会合のいずれにも出席し,乙第2会合において,前記(第3,1,(2),オ,p.16)認定のとおり,被告人が,

だれか出さないと帰ってこれねえだろう。

と言うと,Gに向かって,

兄貴どうすんだよ。

と言い,Gが,

うちの兵隊出します。

と応じているし,Dに対し,

兄貴が捕まるってことはどういうことだか分かってんのか。

と怒鳴っている。また,甲会合においても,前記(第3,1,(4),オ,p.23)認定のとおり,被告人が口授した上でDが本件書面を作成した際も同席し,Cに対し,

お前は決まっているんだよ。

と言い,途中Gからの連絡を受けて,

ああ分かっています。今書かしています。

と言い,さらに,Dに,

弟逃がすなよ。

と言っていることなどに照らせば,Bは,被告人と意を通じた上で,内容が虚偽であると知りながら本件書面をDに作成させたものと認められる。
(2)

Bについても,本件書面作成後,本件書面が虚偽であることの認識を弱
める事情は窺われず,また,Cの犯人性について情報を収集したといった事
情も窺われない。そして,前記(第1,16,p.8)認定のとおり,被告人が本件書面を裁判所に提出する前には,被告人からその旨連絡を受けこれを了承したものであることからすると,本件書面の提出についても,被告人とBとは意を通じていたものと認められる。
(3)

小括
そうすると,被告人とBとの間には,内容虚偽の本件書面を裁判所に提出
することの共謀があったものと認められる。
6
弁護人の主張の検討
(1)

弁護人は,写真を集めたのは,写真をAに見せて捜査機関による捜査が
どの程度進んでいるかを確かめるためであった旨主張し,H及びGもこれに沿う証言をしている。
しかし,写真入手の経緯と状況は前記(第3,1,(1),p.9)認定のとおりであり,その後の乙第2会合の状況は前記(第3,1,(2),オ,p.16)認定のとおりであるところ,それらによれば,被告人やGがHに指示をして6名分の写真を集めさせたのは,Gの配下の者で,A事件に関与しておらず,Aに似た人物を物色するためであったと認められる。この点,弁護人が主張するような目的で写真を集めたのなら,被告人はその旨明確に供述できるはずであるが,被告人は,HにはCの写真を持ってくるように指示したのに,なぜC以外の写真が集まったか分からないとか,C以外の写真を持ってきた側の意図は,当時は聞いたと思うがその後すっかり忘れたなどと述べたり,これらの写真を実際にAに見せたかについては供述をしていないのであり,いずれも不自然といわざるを得ない。
そうすると,弁護人の上記主張は採用できない。
(2)

弁護人は,Gに捜査の手が伸びるのを避けるために身代わり犯人を出す
必要はないし,Cを出頭させる方がむしろ危険であること,被告人はGよりもBと連絡を取っていること,GはAの弁護に関し金銭を出していないこと,
被告人もGのためには動いていないことなどから,本件はGに捜査の手が伸びるのを避けるために行われたものではない旨主張する。
しかし,Gは平成15年7月に出所した前科を有しているところ,A事件においては,AがGのところのbである旨述べた上でJと取引をしていたもので,Aが逮捕された後,被告人がAから,捜査機関がGを狙っている旨の捜査情報を得て,それをGに報告していること,これを受けてGが伊豆方面に身を隠していること,その後,乙第1会合が持たれ,Aと似た人物を物色するためにCらの写真を集めたことにGも関与していること,Gが,D及びCを乙に呼び出すとともに,乙第2会合に出席し,兵隊を出す旨の発言をし,被告人が会合においてCに出頭を求める説得をしたほか,BもDに対し,Gが捕まることがどういうことか分かっているのかなどと発言をしていること,甲会合においてもBがGの指示を受けていることなどに照らせば,B及び被告人は,Gの意向を受けて,A事件に関与していないCを身代わりとし,Aを釈放させることによりGに対して捜査機関の手が伸びるのを避けるために行動していたものと認められるので,弁護人の主張は採用できない。(3)

弁護人は,被告人,B及びGには,A事件について,CをAの身代わり
犯人として出頭させる動機はない旨主張するが,上記(2)で認定したとおりの本件の事実経過やその際の各人の言動にも照らせば,被告人,B及びGには,その動機があったものと認められるので,採用できない。
(4)

弁護人は,Aが執行猶予付きの判決が予想されたので否認する理由も
ないのに一貫して否認していたことや,被告人がアリバイの成立の有無の調査を指示するなどしていたこと,Hらの証言によれば被告人が誤認逮捕だと述べていたこと,宮崎空港でJにAに間違いないのかなどと話し掛けていることからしても,被告人がA事件の犯人がA以外の者であると考えていたと推測される旨主張する。
しかし,これまで認定してきた本件の事実経過に照らせば,上記の弁護人
が指摘するところは,被告人の認識に関する前記認定を覆すような事情ではないし,Cを身代わり犯人とするという目的に照らせば,Aが否認を貫くのは当然のことでもあり,弁護人の主張は採用できない。
(5)

弁護人は,eと名乗る人物がDであることを前提に,①A事件関係者で
あるfを名乗っていたHや,eを名乗っていたDから,bの携帯電話に複数回架電されているところ,その回数に照らせばCがbと考えられる,②Hは,ロイヤルホストでCとともにJと会った旨証言している,③Hは,Cがbという偽名を用いていた旨証言している上に,Cも公判廷で,封筒にbの氏名を書いた可能性があることを認めており,自らが裁判に出頭した際に記載した出頭カードの文字とが酷似していることを認めざるを得なかった,④Hは,DとAの関係について,昔は友達みたいだったが平成17年ころは話もしないし連絡もしない感じだったと証言し,D及びKの証言によれば,DとAは仲が悪く,KはAを見たことがあるという程度の付き合いがあるにすぎないことから,AがKの代わりにJに会って取引をしたりDとともに通帳売買をしていたとは考え難い反面,Cが犯人であるとすれば,H,D及びKとも同じc区出身のグループであり,通帳売買時の行動とも符合することなどから,A事件の犯人であるbはCである旨主張する。
しかし,J,I及びMが,いずれもCの写真も見せられた上で,自らが取引をしたり目撃した人物はCではなくAであると証言し,これらの証言が信用できることは前記のとおりであるので,Cが犯人であるという弁護人の主張を採用することはできない。
(6)

その他,弁護人が縷縷主張する点を検討しても,本件の認定に影響を及
ぼすものではない。
7
争点(1)ないし(3)についての結論
以上によれば,(1)A事件の真犯人がDとCである旨の本件書面の内容は虚偽であり,(2)被告人とBには本件書面の内容が虚偽であるとの認識があり,
(3)本件書面は,被告人がBと共謀してDに作成させたものと認められる。そして,被告人は,Bと共謀の上,本件書面が内容虚偽の証拠であることを知りながら,平成18年9月6日のA事件の公判において,Cが真犯人であるとの立証趣旨で,真正な証拠と装って提出したものである。
第4
1
争点(4)に対する判断
違法捜査に基づく起訴であるとの点について
弁護人は,証拠隠滅被疑事件の捜査を担当したN検事が,被告人の取調べの際,違法な切り違え尋問を行って被告人の供述調書を作成しており,このような違法捜査及び違法収集証拠に基づいてなされた証拠隠滅被告事件の公訴提起は違法無効である旨主張する。
しかし,証拠隠滅被告事件の証拠構造は,D及びCの供述を基礎とし,これにJ,I及びMら関係者の供述や書証等を加えてそれらの信用性を判断し,また,他の間接事実をも考慮するというものであり,被告人の供述を中心として公訴の提起や維持がなされているものではない。また,弁護人が指摘する接見メモの内容は,その文面から一義的に内容が明らかに分かるものではなく,検察官及び弁護人がそれぞれの立場で主張する内容のものと解しても不合理ではない多義的なものであり,本件の争点にかかる事実認定に用いるには証拠価値の乏しいものである。このような接見メモの内容を巡って,N検事がAと被告人の錯誤に乗じて供述調書を作成したとしても,捜査の手法としての相当性はともかく,その供述調書の,本件の争点に関する証拠としての価値は乏しく,現に検察官は本件において,被告人の供述調書の請求を撤回している。このように,本件の証拠構造からすると,接見メモとその内容にかかる供述調書は証拠価値に乏しいものであるところ,そのような証拠の収集過程において,仮に違法な捜査が行われたとしても,それが直ちに,他に適法に収集された重要証拠に支えられた本件の公訴提起の全体を違法無効とする程の重大な違法であるということはできない。

よって,弁護人の主張は採用できない。
2
被告人の弁護活動の違法な妨害であるとの点について
弁護人は,被告人の逮捕と起訴は,N検事がA事件が無罪となることを阻止するために,被告人の弁護活動を妨害する目的で行ったものである旨主張する。確かに,証拠隠滅の被疑事実による被告人の逮捕は,A事件の第1審公判手続が進行している中で,論告弁論期日の約1週間前に行われており,その結果,A事件の訴訟進行に重大な影響を与えたもので,刑罰法令を適正,迅速に実現すべき刑事訴訟の原則に照らし,時期の点において著しく妥当性を欠くものであったというべきである。
しかし,逮捕の時期は,A事件の証拠調べが終了し,当事者の訴訟活動としては論告弁論を残すのみとなった段階であり,A事件の弁護活動に与える影響は比較的小さかったものと認められる。また,証拠隠滅被告事件の証拠構造が上記1記載のとおりであることからすれば,N検事にA事件が無罪となることを阻止する意図があったとまでは認めることはできない。
よって,弁護人の主張は採用できない。

第5

結論
以上によれば,判示第1の事実を認定することができる。

[証人等威迫,脅迫被告事件(判示第2)]
第1
1
争いがないか,または,証拠上明らかに認められる事実
Eは,Fらとともに振り込め詐欺を行っていたが,Eら幹部グループの関与が捜査機関に発覚しにくいように,幹部グループと,現金の引き出し役やだまし役という捜査機関に発覚しやすい立場の者との間に,クッションと呼ばれる連絡役を置き,幹部を知る者を少数にしていた。そのため,Eの関与の事実を知っていたのは,幹部及びクッション役のみであり,Fもそのクッション役の一人であった。Fは,振り込め詐欺に使う預金口座を用意させたり,詐欺の実行役らからの報告を受けたり,詐取金を回収するなどの役割をしていた。
2
Fは,平成18年9月21日,勤務先のホストクラブの無許可営業に関し,風俗営業の規制及び適正化に関する法律(以下風適法という。)違反の被疑事実で逮捕された。
Eの存在を知る者の中で一番最初に逮捕されたのがFであるが,その時点では,FがEらの存在を供述しない限り,Eらの存在は捜査機関に明らかにならなかった。加えて,Eは,Fに対し,Fが警察に捕まった場合にはEのことを供述しないようにと伝えており,Fもこれを了承していた。

3
被告人は,Bの紹介によりEと会い,Fの弁護をすることとなり,9月24日,27日,10月11日,14日にFと接見した。また,10月5日付けで,風適法事件に関する付添人選任届を作成した。

4
Fは,10月16日,振り込め詐欺に関する被疑事実により逮捕され,警視庁y町警察署に勾留された。Fが逮捕された段階では,捜査機関は,Fより上位の人間の存在は解明できておらず,上位の人間の存在の可能性がある一方,Fが最上位の立場の可能性もあると認識していた。

5
被告人は,10月16日,17日,21日,26日,28日,11月2日(接見時間は,午後4時7分から午後4時30分まで),7日にそれぞれFと接見した。また,10月21日に,詐欺事件に関する弁護人選任届を作成した。
6
Fは,11月16日にEの名前を出して上位の人間の存在を供述し,その結果,Eら関係者が逮捕されるに至った。

第2

争点及び当事者の主張
証人等威迫,脅迫被告事件の争点は,(1)被告人が,Fに対して,強談威迫,脅迫行為を行ったか,(2)平成18年11月2日のFとの接見当時,被告人は,Fが,Eらの振り込め詐欺事件の捜査に必要な知識を有すると認められる者であるとの認識を有していたか,(3)本件公訴提起が公訴権濫用に当たるか,である。
検察官は,争点(1)及び(2)の事実が認められると主張するのに対し,弁護
人はいずれも否定し,弁護人は争点(3)の公訴権濫用を主張して公訴棄却すべきであるとするのに対し,検察官はそれを否定する。
第3
1
争点(1)に対する判断
Fの証言及び供述
(1)

証言及び供述の要旨
Eとは高校生のときに知り合い,家出をした際に面倒を見てくれるなどしたため,平成17年初めころにはE抜きの生活は考えられなくなり,Eのことを兄貴と呼び,一生付いていこうと思うようになった。同年夏ころにEから振り込め詐欺の仕事を紹介され,警察に捕まってもEの名前を出すなとたびたび言われていた。平成18年2月ころ,振り込め詐欺グループの一員が逮捕されたときも,Eから,捕まってもおれの名前を出すな。事件のことは知らないで通して,どうしても通せなくなったらお前が全部抱えてくれ。おれはお前のことを弟だと思っている。捕まっている間,事業をやって稼いでおくから,出てきたら一緒に事業をやろう。と言われた。私も絶対にEの名前を出すつもりはなく,分かりましたと答えた。

平成18年9月24日,風適法の被疑事実により逮捕された後,被告人と最初の接見をした。被告人は,

Bに頼まれて来た。

と言った。私が

どこのBさんですか。

と聞くと,

z1会の者だ。

と言い,

BとEから頼まれて来た。

と再度言った。

同年10月11日及び14日の接見では,風適法の記録に,捜査2課が振り込め詐欺で捜査中との記載があることを被告人から聞かれたので,同年2月に戸塚警察署から任意同行を求められて事情聴取されたが,知らないと言い通して何もなく帰ってきたことがあり,保護観察中だったので,そのことを保護司に報告したため,裁判所に通知が行っているのではないかと説明した。被告人には,半年くらい前の事件で,何人くらい捕まったと説明した。被告人から,

お前はパイで帰ってきたんだな。

と言われ,

自分は取りあえず今のところパイで帰って来たんで何もないと思うんですけど。

と答えると被告人がその旨メモをした。

お前は関係ないな。

と言って,被告人が関係なしとメモした。

半年もたって逮捕者もこれだけ出していれば,今更捕まえたりはしてこないだろう。

と言い,

Eもかかわっているのか。

と聞くので,

少なからずかかわっています。

と答え,その記録の記載についてEに伝えるように依頼すると,被告人は,「分かった。」と言った。私が,再逮捕されるかどうかを聞くと,

もし捕まったりとかしたら知らないって言っておけ。

と言われた。エ
同年10月16日,振り込め詐欺で逮捕されたが,その日に私が依頼して被告人と接見した。被告人は接見室に入ってきて,

Eとも話してたんだけれども,やっぱり来たか。

と言った。逮捕されたのでこれからどうすればいいかという話になり,被告人は,

取りあえず知らないと言っておけ。20日でパイの可能性もあるし,起訴されれば検察側のほうから証拠が開示されるから,そしたら,ストーリーをこっちで立てるから,お前は何も心配するな。

と言った。また,

調書とかに指印とかサインとかは一切するな。警察の調べに出てきた名前とかは全部覚えておけ。警察の調べで誘導尋問や利益誘導があればこっちのもんだから,ちゃんと覚えとけよ。

と言い,私の交際相手について,

Eがしっかり面倒見てるから安心しろ。

と言った。

取調べで得た情報,出てきた名前とかどこまであっちがつかんでいるかはすぐに伝えろ。

とも言った。被告人からやっぱり来たかと言われ,少年事件の記録のことを伝えてもらった結果Eも心配して被告人と打合せをしたのだろうと思い,被告人のアドバイスを受け入れようと思った。
翌17日の接見の際も,被告人から,

一切しゃべるな。

と言われた。この黙秘の指示は,その後の接見のたびに言われた。また,同日前後ころ,

彼女と別れたことにしないと警察の手が余計に回るから,別れたことにしろ。

と強く言われた。オ
同月20日,成人の雑居房である第5留置室に入り,Oらと同室になった。Oには,何かとあれば相談したり,話を聞いてもらったりした。最初は,起訴から公判の流れを聞いたり,接見禁止がどうしたら取れるのかなどを相談した。黙秘していることも伝えた。


同月21日の接見の際,被告人から,

調べの中で,E,k,lの名前が出てきてないか。

と聞かれ,

出ていません。

と答えた。そのときもとにかく黙っとけと言われた。私も,少なくともEの名前は出さないつもりだった。


取調べの際に担当捜査官から,振り込め詐欺の被害者がつらい生活を送っていることを聞かされ,自分の祖母が被害に遭ったらどうだろうなどと考え,自分の祖母と重なり,初めて自分が悪いことをしたことを自覚した。また,否認していて,このままグループのトップだと思われたら困ると考え,自分のやったことだけでも話せたらいい,このまま黙っているのはきついと思い始めた。Oにも,完全黙秘はきついという話をしたところ,

そりゃそうだろうね。完黙することが本当にいいのかね。

と言われた。

同月26日の取調べで,私の自宅から押収された同年9月の振り込め詐欺で使われた携帯電話の契約書9枚を見せられた。この契約書が関係する中野の件は私の関与が薄く,携帯電話を調達した者がその振り分けを私の部屋でした際に契約書を忘れていったものであり,私の中では関与していないという認識だったので,この件まで私の責任にされたらたまらないと思った。
同日の接見では,被告人が,

Eが中野の件で来るかもしれないから気を付けろと言っていたぞ。

と言ったので,

もう来てます。

と言った。被告人が,

どういうことだ。

と聞き返してきたので,取調べで9枚の契約書を示されたことを伝えた。そして,中野の件には私の関与が薄いの
で,これも全部かぶらなければいけないのかEに聞いてほしいと依頼した。中野の件の実行犯が同じころに逮捕されていたので,Eの方にもつながってくるのではないかと心配したEが,被告人に話したのだと想像した。この接見の際,被告人に対し,詐欺グループに関し一通りの話をしており,その中にEがいることも話した。
同日以降は,中野の件の契約書を示されたことから焦りの気持ちが出てきて,私が関与した内容を正直に話し,周りの名前はあくまで偽名で通そうかと思うようになった。

同月28日の接見では,被告人は,

たまたま近くに寄ったから顔を出した。Eとはまだちょっと話せてないんだよな。

と言った。5万円がEから差し入れられたが,被告人からは,

親父からの差し入れだったというふうに言っとけよ。

と言われた。

Oに,完全黙秘がきついので,自分がやったことだけ正直に話し,周りのことは偽名で通そうと思うがどう思うかと相談すると,Oから,

中途半端にやってうまくいくのか。

と言われ,また,

正直にしゃべることはいいことだ。

とも言われた。同月26日の接見以降,自分がやったことは認めたいという気持ちを被告人に伝えたいと強く思うようになった。被告人に,中野の件も全部かぶらなければいけないのかをEに聞いてもらったが,その返答次第で考えようと思っていた。勾留満期が近づいているので,次回被告人が来たら相談しようと思っていることをOに話した。

同年11月2日の接見では,被告人は,接見室の3つあるうちの真ん中の席に座った。目の前のテーブルのようなものの上に左ひじをついて,左前のめりの体勢で,右手はメモを取るような体勢だった。被告人と私の距離は仕切板を挟んで1メートルくらいだった。
私が,完全黙秘はきつい,自分のやったことはしゃべりたい,Eたちの名前は絶対出さないから自分のことだけしゃべらせてくれと言うと,被告
人は,とても怒ったような,一気に顔が赤くなって,激高した態度になり,

ふざけるな。

と怒鳴り,左ひじをついたまま左手を床と水平の方向に動かし,こぶしで仕切板をドンと1発たたいた。仕切板をたたいた位置は,自分の体の右肩か右胸の辺りのところだった。そして,被告人の言葉がきつくなり,

だれに頼まれて来てると思ってるんだ。雑用じゃねえんだぞ。Eにはお前ですべて終わらせるように言われている。認めるんだったらすべてお前がかぶる以外にないぞ。知らねえって言っておけばいいんだ。

などと言い,

余計なことをしゃべったら,お前の女だってこっちで面倒見てるんだし,実家の住所だって知ってるんだから,お前,どうなっても知らないぞ。

などと区切りなく,怒った興奮した口調で言った。こんなこと言うなんて弁護士じゃないな,やくざと変わらないなと思った。彼女や家族のことを出され,自分はもうしゃべれない,今後どうすればいいんだろう,心配だなという気持ちがとても強く,家族や彼女に何か悪いことが起きるのではないかと危険を感じた。被告人が直接何かをするとは少しも考えなかったが,被告人がEらに自分が供述したとかEたちを裏切ることをしたことを伝えると,Eや周りの暴力団員が怒って実際に何かしらのアクションでも起こすのではないかという心配があった。被告人の発言で固まってしまい,その後も被告人がずっと何か言っていたが,それも聞けず違うことを考えていた。被告人はそれ以降ずっと怒っていて,どんどん興奮し,言葉の節々に,「ぶっ殺す。」とか,

ぐちゃぐちゃにしてやる。ふざけるな。

という言葉を言っていたのが強く記憶に残っている。
自分のしたことをしゃべれない,そうすると,長期服役となって祖母の死に目にも会えないかもしれないと思い,とても悲しくなり,泣き出してしまった。すると,被告人が,泣くなよという感じでなぐさめ,

おれは男の涙にも女の涙にも弱いんだ。

などと言った。

お前がしっかりやっていれば女の面倒だってEがしっかり見るから安心しろ。起訴されたら検察側の証拠をこっちが全部見られるから,そうしたらストーリーをおれが立てるから,お前はそのとおりにしとけば大丈夫だ。

とも言った。また,今までどおり,

取調べには一切応じるな。

と言った。接見後第5留置室に戻ると,Oからどうだったのかと聞かれ,接見の内容を説明すると,Oは,

それって脅しじゃないか。

と言い,

雑用じゃねえってそれが弁護士の仕事なんだから。

と言った。私も脅しだと思った。話したことが伝われば何かしらのことをするぞと言われたので,脅されたことを捜査官に言っても結果は同じだろうと思い,捜査官には言わなかった。
その後も黙秘を続けたが,その最大の理由は,被告人に脅されて言えなくなったことにある。

同月6日に詐欺罪で起訴され,同月7日に被告人と接見した。被告人は,

起訴されたか。

検察は一体何を証拠つかんでるんだろうな。

公判が始まれば少し前に証拠は全部見られるから,そしたらこっちでストーリー立てるからそのとおりにしとけ。女のことはお前がしっかりやってればEが面倒見てくれるから。

などと言った。

同月8日に中野の件の振り込め詐欺事件で再逮捕された。私が関与していないのに,この件もかぶらなければならないのかと思ってとても動揺した。とにかくEなりに伝えて何かしらの対策を考えてほしいと思い,被告人に電話してくれるよう留置係に伝えた。脅された相手を呼ぼうとしたのは,接見禁止が付されており,唯一の外部とのパイプが被告人であったことや,中野の件はEにどうにかしてくれと言っていたので,再逮捕の事実をEに伝えれば何かしら動いてくれるのではないかという期待があったからである。
しかし,被告人が逮捕されたことを留置係係長から聞いて,とても驚き,
自分と外部との唯一のパイプだった被告人が捕まり,これからどうすればいいんだろうと思った。Eが被告人の逮捕を知り,すぐに違う人をよこしてくれるんじゃないかと思い,とにかく待とうと思った。

同月12日,以前,少年事件で付添人をしてくれたP弁護士が接見に来てくれた。P弁護士は,

君のお父さんに頼まれて来ました。君のお父さんはとても心配していてすぐ扉の外で待ってるんだよ。

と言い,事件のことを聞いてきた。私は,警察には一切しゃべっていないこと,今まで被告人に脅されて話せなかったこと,今警察は私が振り込め詐欺グループのトップだと思っているが,本当は,口座や携帯電話の用意をし,振り込め詐欺のグループとの連絡役をし,お金の受渡しをしたのが自分の役割であったことを伝えた。
P弁護士は,一通り私の話を聞き,私の入れ墨を見ながら,入れ墨が中途半端だということはまだ君の気持ちも決まりきってはいないんだろう。君がこちらの世界に戻ってきてやり直すというのであれば僕は幾らでも力を貸す。ただ,君がそちらの世界で生きていくというのであれば,僕は君のお父さんとお母さんに,君のことはあきらめるように言う。,

ちゃんとやり直す気があるんだったら正直に全部しゃべりなさい。

と言った。私は,P弁護士の言うことが本当に正しいことだと思い,また,17歳か18歳くらいのときから家を飛び出したりしていたのに,親がまだ見捨てずに心配してくれていることを知り,うれしい驚きがあった。一方,Eのことをどうしても言えないという気持ちも強く,その両面でとても悩んだ。そこで,

考えさせてください。

と言った。第5留置室まで泣きながら戻った。Oらが,どうしたのかと聞くので,P弁護士との接見の内容を話し,悩みについて話すと,Oから,弁護士を使って脅しを掛けてくるような兄貴が信用できるのか。君はまだ若いんだから幾らでもやり直せるんだから,お父さんが見捨ててなかったということはいいことじゃないか。少しでも正直にしゃべった方がいいよ。と言われた。その後,朝方まで一人で考え,事件について話そうと決めた。ソ
同月13日の取調べで,捜査官に自分の周囲の人間を保護するとの約束を取り付けた上で,自分の実際の役割を話し,また,被告人に脅されていたが,P弁護士と話をして考え,話そうと思ったと伝えた。捜査官はとても信じてくれない様子だった。それまで正直に話をしていなかったので,信じてもらえないのは当然だと思った。脅されたことは本当だと強く主張すると,捜査官がこいつはうそをついているという心証を強くすると考え,事件を分かってもらうためには少しでも自分の事件のことに対して疑われないように話したいと思っていたので,被告人に脅されたことを強くは主張しなかった。
その日のP弁護士との接見の際,捜査官に事実を話し始めたことを伝えた。


同月14日,犯行を自白する内容の上申書を作成し,自分の振り込め詐欺グループには役割があることや,その上役3人のうちiとjの名前を書いたが,Eの名前は書かなかった。正直に話して気持ちが楽になり,それまでは留置係に聞かれないように小声で話したりするなど気を付けていたが,話した後は留置係警察官とも話すようになり,弁護士が逮捕されて大変だったねと言われたときも,自分が脅された話をした。


同日,S弁護士と接見した。S弁護士は,

Eさんに頼まれて来ました。●●先生(掲載者注釈:被告人のことを指す)をz1会に紹介したのは私だから私も責任を感じちゃってて,あなたの弁護をしようと思っています。

と言った。私は,P弁護士にお願いしようと思っており,S弁護士との接見で変な態度をとればそれがEに知られてしまうとも思ったので,なるべく聞かれたことには答えて当たり障りないような話をした。その中でうそをついたこともあったと思う。被告人に脅されたという話はしてい
ない。

同月15日,P弁護士と接見した際,Eの名前を初めて出し,振り込め詐欺グループがどういうものであったか話をした。


同月16日,上申書を2通作成した。一通には,一切話すなということを被告人に言われて事件のことを話さなかった,ただ,P弁護士が来てくれて話をしようと思ったという内容であるが,それには,被告人から脅されたとは書いていない。書面化して証拠品として残したくない,事を大きくしたくないという気持ちが強く,また,捜査官も信じてくれていなかったので,被告人に一切話すなと言われたところだけに限定して書いた。もう一通には,Eの名前も出して振り込め詐欺グループの全体像について本当のことを書いた。


平成19年2月末,担当のT検事に対し,振り込め詐欺事件について最初の段階から詳しく話し,脅迫事件についても話した。T検事からは,脅迫事件について,被害届を出してほしいと言われた。最初は出したくないという気持ちが強かった。事を大きくして何かがあるのがとても嫌だったのと,取調べが延びるのも嫌だった。ただ,このころから,真実を知りたい,許せないという気持ちも徐々に出てきた。


被害届を出すことについてP弁護士に相談すると,報復があるなどデメリットがあるなら弁護人として勧めないが,君が決めることであり,君が出したいなら出すことはいいと言われた。そして,同年4月17日に被害届を提出した。

(2)

信用性の検討
Fの証言は,まず,被害に至る経緯の部分について,被告人が付添人に就任してからの接見のやりとりにおける被告人の言動等について具体的に証言するものである上に,自白をすることを被告人に相談しようと考えるに至った経緯やその際の心情の変化などに関する部分についても具体的,
詳細に述べており,心情の変化について述べるところも不自然,不合理な点はみられない。

被害状況について,その際の被告人の顔の表情,口調,態度などについて具体的に述べている上に,Fが,自分のしたことは話したいなどと,被告人の指示に従わない言動をしたところ,被告人が怒ったという流れも自然である。また,被告人の強い口調の言葉を聞いて動揺した様子や,涙を流した心情についても具体的に話し,体験した者が語る迫真性も認められる。


被害後の状況についても,直後のOとのやりとり,P弁護士と接見した際のやりとりの内容やその直後の心情,その後のOらとのやりとりの状況,そして,それらを通じて考えが変わっていく状況などについて,具体性,迫真性を有する供述をしているものであり,その経緯に不自然な点はない。反対尋問に対しても特段揺らいでおらず,記憶にないことはその旨をありのまま答えている。


さらに,被告人はFの付添人ないしは弁護人として活動していた者であり,Fが慕っていたEの依頼により付添人となって活動していたものである。このような被告人に対し,Fがあえて虚偽の被害事実を述べて陥れる行為に出るとは考え難い。


また,捜査機関から誘導されたりして虚偽の事実を述べていることを窺わせるような事情も認められない。

2
F証言に対する他の証言による補強
(1)

Oの証言
証言の要旨
(ア)

Fからは振り込め詐欺事件の概要について聞いていたほか,完全黙
秘でいきたいというようなことを言っており,実際にしばらくは黙秘していたと思う。Fが兄貴と慕う人物について,家出をした後,生活の面
から大変世話になっていると聞いており,その人物も詐欺事件に関係していると聞いていた。被告人については,その人物が派遣してくれた弁護士と聞いている。また,被告人から黙秘するように指示されたとも聞いている。
(イ)

勾留延長の少し前くらいの時期から,Fの態度が,どうしても兄貴
の名前を出すわけにはいかないので,できれば自分のところで止めたい,完全黙秘がつらいので,兄貴の名前は出さずに自分がやったことだけは話したいというふうに変わってきた。Fに対しては,中途半端な供述をするんだったら全部話した方がいいんじゃないかというアドバイスをした。また,若いし,何度もやり直しできるんだから,すべて話して一からやり直したらどうだという話もした。これに対し,Fは,兄貴の名前は出したくないと言った。Fは,勾留延長後すぐくらいの時期に,今度弁護士が来たらそういうことを話してみたいと言っていた。
(ウ)

Fは,接見直後,弁護士から脅されたということを言った。
その後食事になって,食後の自由時間に詳しい内容を聞いた。対面に
座り,ひじ,額を突き合わせるようにして,少し声を潜めるような感じで話をした。Fは,完全黙秘はできそうもないので,とにかく自分のやったことは話したい,兄貴の名前は絶対に出したくない,とにかく自分のところで止めておきたいということを弁護士に言ったら,話をするようであれば家族とか彼女がどうなっても知らないぞと言われたと言った。おれも他の事件でいろいろ忙しい,お前の雑用係じゃないんだ,だから黙秘しとけと強く言われたとも聞いた。Fに対し,

それは脅しじゃねえか。

と言うと,Fは,

そうですね。

と言っていた。夕食の時間があって落ち着いたせいか,Fは,一つ一つ説明するように話した。Fは落胆していた。黙秘するのがつらそうで,弁護士に黙秘するよう強く言われたため,うんざりという感じだった。


信用性の検討等
(ア)

Oの証言内容は,Fと同房となってからのFの言動,Fの心情の動
きや考え方の変化など,日々Fと接してきて体験したところをありのまま供述しているものと認められる。そして,被告人と接見をした直後のFの発言内容や,食事後にFから聞いた内容について具体的に述べており,Fの表情や動揺の様子を述べるところは,体験した者が述べる迫真性も認められ,反対尋問にも揺らいでいない。
(イ)

また,Oは,被告人やEとは利害関係を有しない第三者であり,あ
えて虚偽の事実を述べるような事情も認められない。
(ウ)

なお,Oは,被告人が仕切板をたたいたとか,ぶっ殺すと言ったと
いう点はFから聞いていない旨証言するところ,FがOに対し,被告人がした言動のすべてを事細かに話しているとは限らないので,Oが上記の点を証言していなくても不自然とはいえない。
弁護人は,Oが,Fから話を聞いた日を特定できていないことを指摘するが,Fの勾留延長後すぐくらいの時期に,今度弁護士が来たらそういうことを話してみたいと言っていたと証言し,弁護士の接見の直後に脅された旨の話を聞いたなど証言していることからすると,日付の特定ができていなくても,Oの証言の信用性に影響を及ぼすものではない。(エ)

そうすると,Oの証言は十分に信用できるものである。
そして,Oの証言は,Fの証言を支えるものであり,その信用性を高
めるものである。
(2)

P弁護士の証言
証言の要旨
(ア)

Fの父親の依頼で,平成18年11月12日の夕方にFと接見した。
Fは,思い掛けない人が来たという感じで非常に驚いていた。Fからは,事件の内容を聞いたり逮捕後の経過を聞いたりした。取調べに対しては,
黙秘ないし否認をしているということだった。話している途中,入れ墨が見えてびっくりし,やくざになったわけでもなさそうだが,半分足をつっこんでいる状況だと思った。Fには,

全部そっちの世界から抜けて,ちゃんと戻るというんであれば私やりましょう。もしそうでない,今のまま続けるなら私は弁護するつもりはない。

と言った。Fは,上の人の名前を出すのに非常にちゅうちょしており,心情的にはそうしたい気もあったようだが,その時点ではそこに踏み込めなかった。被告人からは,全面否認か黙秘で通せと言われていた,脅されていたということは言っていた。どういう内容で脅されたかは,自分から積極的に聞いた記憶は余りない。Fが話したときに少し言っている可能性はあるが,それ自体が記憶に残っていない。Fは,少しずつこちらの方になびくのは見て取れた。接見後,Fの父親に,事件の内容と前の弁護士に脅されていたようであると伝えた。
(イ)

その後,同月13日の接見では,上の者の名前を出すか出さないか
で,かなり長時間話したが,Fは名前を言わなかった。
次の15日の接見で,Fが,「決心した。」と言い,

先生お頼みします。

と言って,E,j及びiの名前を初めて明かした。(ウ)

平成19年3月ころ,Fが,T検事から被害届を出すように言われ
ていると言った。Fは,報復を怖がるのと,今更という考えもあったと思うが,被害届を出すことにそれほど積極的ではなかった。私も積極的ではなかった。被害届を出せば,法廷に引っ張り出されることもある程度予測できるので,そういうことも全部説明して,

出すんであればしっかり言わなければ駄目だ。

自分で考えろ。

と言った。イ
信用性の検討等
(ア)

P弁護士の証言内容は,Fが被告人から脅迫を受けた旨聞いたこと
を証言しているほか,Fとの接見のやりとりや,被害届を出すかどうか
のやりとりなども具体的である。
(イ)

また,同弁護士は,以前被告人と共同して刑事事件の弁護を担当し
たこともあり,本件でも,Fが被害届を出すことについては余り積極的ではなかった旨述べていることに照らしても,あえて被告人に対して不利に虚偽の供述をするような事情は認められない。
(ウ)

そうすると,P弁護士の証言は十分信用できるものである。
そして,P弁護士の証言は,Fの証言を支えるものであり,その信用
性を高めるものである。
(3)

Uの証言
証言の要旨
平成18年11月15日当時,警視庁y町警察署留置係係長であり,集中護送のため押送バスを待っている間,Fに,弁護士が逮捕されて大変だねという話をすると,Fが,

いやいやとんでもないですよ。

と言い,机にひじを90度くらいに曲げてついて,半身になる姿勢をとって,

話したらお前の家族と女,どうなっても知らねえぞ。ぶっ殺してやると言われた。

などと言った。Fは,とにかくひどいということを言っていた。Fの態度や言い方を見て,真剣に話しており,これはうそじゃないなと思った。


信用性の検討等
(ア)

Uの証言内容は,Fの発言内容やそのときのFの態度について具体
的に述べているし,Fが長く留置場にいたために記憶に残っている旨述べていることから,記憶に基づいて証言しているものと認められる。(イ)

そして,留置係では,被告人について,腰が低くていい弁護士だと
いう噂をしていたというのであるから,あえて被告人に不利に虚偽の事実を述べることは考え難い。
(ウ)

なお,弁護人は,UがFのことをうそつきであると述べていること
は,FがUに話した内容もうそである可能性がある旨指摘するが,Uは,被告人に脅されたとのFの発言に関しては,Fの態度等の根拠を示して,うそではないと思ったと述べていることからすると,Uの証言内容は矛盾するものではない。
(エ)

そうすると,Uの証言は十分に信用できるものである。
そして,Uの証言は,Fの証言を支えるものであり,その信用性を高
めるものである。
(4)

Eの証言及び供述
証言及び供述の要旨

(ア)

振り込め詐欺をしていたとき,Fに対し,もしFが警察に捕まった
場合,私のことを供述しないようにと言っており,Fも了承していた。(イ)

Fが風適法違反で逮捕された際,Fの弁護士について,私,j及び
Bで話し合って決めた。弁護士をFに用意するメリットは,Fの調べの中で私の名前が出ていないかを把握できるという点にあった。その夜,コージーコーナーに集まって話し合い,被告人に弁護を依頼することになり,弁護士費用として20万円を私が被告人にその場で支払った。また,被告人に会う前に,Fの交際相手とも会い,生活は心配するなと言って5万円渡した。
(ウ)

平成18年9月21日から同年10月16日までは,被告人とは携
帯電話で話したり,直接会ったりして連絡を取っていた。少年事件の捜査書類の中に振り込め詐欺で捜査中と書いてあることを被告人から聞いた。被告人から,

これ,もしかしたら事件になって噴火するかもしれないよ。

と言われ,また,Fがこういうふうに捜査されているが君もかかわっていたかと聞かれ,私とjもちょっとはかかわっていると答えた。以前自分たちは,捕まったら自己責任の上,他の人間の名前をしゃべらないようにしようと決めていたので,今度Fに会うときに,そ
の意志と気持ちは揺らいでいないか再確認してほしいと被告人に依頼した。
(エ)

10月16日にFが詐欺の被疑事実により再逮捕されたときは,被
告人に電話し,Fがもしかしたらすごく動揺しているかもしれないので面会に行ってくれるよう依頼した。Fの身柄拘束が少し長くなりそうだったので,

交際相手は大丈夫だから心配するな。最小限に被害をとどめてくれ。他人の名前は言うな。

と伝えるよう被告人に依頼した。弁護士費用は払わなければと思っていたが,お金がなく払えなかった。交通費として5万円くらい渡したことがあるくらいである。
(オ)

Fの再逮捕後,心配だったので,被告人と大体ほぼ毎日,電話した
り会ったりして連絡を取っていた。同月17日の接見の内容も聞き,被告人からFが黙秘していると聞いた。被告人は,

この方がいい。Fが認めてしまったら,いろいろと話さないといけないこともある。まずは裁判の1か月前くらいに証拠が開示されるから,それを見て決めた方がいいから黙秘させるよ。

と言った。(カ)

同月16日以降,Fの態度は黙秘と聞いていた。被告人とは,捜査
の中で私の名前が出ていないかどうかについても話をしていた。被告人は,

このままでいこう。

このままでいってくれる。

と言った。Fに5万円の差し入れをする際は,指紋がばれたらまずいのでお金を替えてほしい,私の名前では入れられないのでFのお父さんかだれかの名前でお願いしますと頼んだ。

こういう状況でもし自分が捕まるとしたらどんな状況ですか。

と聞くと,被告人は,

Fがしゃべらなきゃないだろう。あとはEに関する証拠は何もないので,そしたらFだろう。

と言った。被告人に,Fに話さないように伝えることを依頼した。また,携帯電話の通話明細の話もした。ガサが入って,連絡用の携帯電話の明細書が押収されたと捜査官から話をされたとのFからの話を聞い
た。
(キ)

勾留延長になり,Fが自分のことを話したいと言い始めたと被告人
から聞いた。被告人は,

Fが自分のことは認めたい,話したいというふうに言ってきたので黙らせといたよ。

と言った。被告人は,Fが話したりすると,私がどういうふうにFを組織に入れたとか,おのずと私の名前をどんどん話さないといけなくなるし,全容がすべて明らかになってしまうので話さない方がいいと言った。Fは,結局黙秘していると思っていた。
(ク)

取調官からkやlらの名前が出てきたことがないかFに尋ねてほし
いと被告人に依頼したことはある。中野の件でも来るかもしれないから気を付けろとFに伝えてほしいと依頼したこともある。

信用性の検討等
(ア)

Eの証言内容は,被告人に対し,自らが振り込め詐欺に関与してい
ることを話した場面や,Fに黙秘させる理由を述べた場面,Fが認めたいと言い出したのに対して被告人がやめさせたとの場面等のやりとりについて,具体的に述べているし,その内容に不自然,不合理な点はみられない。反対尋問にも揺らいでおらず,捜査官から誘導されたことを窺わせるような事情も認められない。
(イ)

また,Eの証言は,Fが警察に捕まってもEの名前を出さないと話
し合っていたこと,被告人が面会に来た際,

BとEから頼まれて来た。

と言ったこと,少年事件の記録に振り込め詐欺に関する記載があることについてEに伝えてくれるよう依頼したこと,Fが被告人から黙秘するように指示されたこと,平成18年10月16日の接見の際,被告人から,

Eとも話してたんだけれども,やっぱり来たか。

と言われたこと,Eからの伝言として,Fの交際相手について,

Eがしっかり面倒見てるから安心しろ。

と言われたこと,被告人から,取調べで
Eらの名前が出ていないか聞かれたこと,5万円の差し入れは父親からのものにしておけと言われたことなどはFの証言と符合するし,被告人が,

Fが自分のことは認めたい,話したいというふうに言ってきたので黙らせといたよ。

と言った旨の証言は,被告人に自分のことを認めたい旨話した際に脅迫されたとのFの証言とも符合する。
(ウ)

Eは,Bの紹介で被告人と知り合い,Fの弁護を被告人に依頼した
り,他に民事紛争の解決を依頼したりする関係にあったこと,被告人に不利な証言やFの証言に沿う証言をして自らの立場が有利になるとは認められないことなどに照らせば,Eが,あえて虚偽の供述をして被告人を陥れるとは考え難い。
(エ)

そうすると,Eの証言は十分信用できるものである。
そして,Eの証言は,Fの証言を支えるものであり,その信用性を高
めるものである。
3
弁護人の主張の検討
(1)

弁護人は,被告人の供述するFの言動を根拠に,Fは平気でうそをつく
人間であるとか,演技力があり大人をだますことに長けているので証言は信用できないと主張するが,前記で検討したようにFの証言内容が虚偽のものとは認められない。
(2)

弁護人は,平成18年11月当時のFの供述調書には被告人から脅され
たとの記載がなく,平成19年3月25日の供述調書に初めて脅されたとの記載があり,その後脅迫行為について詳細化した供述記載があることから,被害状況に関するFの供述は不自然に詳細化して変遷しており,また,被告人が仕切板をたたいた手についても変遷するなど,信用できない旨主張する。しかし,上記のFの供述状況は,Fが,当初は捜査官も信じてくれていなかったので被告人に脅されたとは強くは言っていなかった,平成19年2月末にT検事から脅迫事件について被害届を出してほしいと言われてどうする
かを考えるようになったと述べているところとおおむね符合するのであって,その後,気持ちの整理がつき,記憶を喚起して被害状況を供述していったものと認められる。被告人が仕切板をたたいた手についても,たたいたのは左手であり,自らの裁判の公判廷では,自分から見て右側の方の手でたたいたので,緊張していたこともあって右手と述べてしまったと説明している。したがって,弁護人の指摘するFの供述部分はいずれも不合理なものとはいえず,信用性に影響を及ぼさない。
(3)

弁護人は,供述が変遷していることなどを根拠に,検察官とFとが事件
を虚構した旨縷縷主張するが,検察官とFが事件を虚構したことを窺わせるに足る事情は認められない。
(4)

弁護人は,Fの振り込め詐欺事件にはz1会の関与はなく,FがEの
存在を供述したとしてもz1会が動くことはないのだから,Eの名前を出さないように被告人から脅されたとのFの供述は荒唐無稽であると主張するが,被告人による強談威迫や脅迫行為の有無と,z1会が現実に振り込め詐欺事件に関与しているかどうかとは直接かかわりのないことであるから,Fの証言の信用性に影響を及ぼさない。
4
Fの証言及び供述の信用性についての結論
以上検討したとおりであり,Fの証言及び供述は,それ自体信用できるものであることに加え,前記のとおりO,P,U及びEの各証言による信用性の補強も認められることから,十分信用することができる。

5
被告人の供述
(1)

供述の要旨
平成18年9月21日の朝,Bから連絡があり,知り合いが警察に逮捕されたので会ってほしいと言われ,Fが逮捕されたことを聞いた。Fの父親に電話をして弁護人となることの了承を得た上で,当日午後7時ころから新宿のコージーコーナーでB,E,jらと会い,風適法事件についてF
の弁護を引き受けることにした。Eからは,早く出してやってくれくらいの要望はあったが,それ以外は特になかった。

同月24日のFとの接見では,被疑事実を聞き,手続の説明や取調べを受ける際の一般的注意事項の説明をした。Eから,交際相手のことはちゃんと世話をしているということを伝えるよう頼まれていたので伝えた。Fは,

ありがとうございます。兄貴によろしく言ってください。

と言った。すぐ出られると思っていた様子で,交際相手の心配は余りしていなかった。Bから頼まれたということは,途中で話した可能性はある。B,E及びママの名前を出すなとは言っていない。同月27日にも接見し,その後,EにFが元気だったとか,彼女を頼むとかいうことを伝えた。

同年10月11日の接見には風適法事件の記録を持参した。同記録の振り込め詐欺に関する記載に関連して,関係なし,パイの記載はい
ずれもFが述べたことをメモしたものである。Fに対し,お前のところまでこないだろうとは言っていないし,捕まったりしたら知らないと言っておけとも言っていない。裁判官に振り込め詐欺のことについて聞かれたら関係ないとちゃんと答えるよう指導をしただけである。Fが全く関係していないと言っていたので,振り込め詐欺の話をするはずがない。


同月14日の接見の際,Fが,振り込め詐欺に関与していると告白し,将来どうなるのか,逮捕される可能性があるのかを聞いてきた。Fは,半年もたって何人も捕まってるから,先生もう来ませんよねとしつこく言っていた。私は,終わってる可能性だってあるかもしれないけど,分からないなどと答えた。振り込め詐欺事件の内容についての説明はほとんどなく,立件されているわけではないので聞く気にならなかった。共犯者の名前も出なかった。Eが関係しているかを聞いたら関係しているということだけで終わり,どういう役割かは分からなかった。
接見後,Eに電話して関与の有無を聞くと,Eは少し関係していると答
えたが,立件されていないから聞く必要もないと思い,それ以上深く聞いていない。

同月16日,Fが振り込め詐欺で逮捕されたと聞き,Eからも連絡があり,接見に行った。接見前に詐欺の概要について捜査機関から聞いていた。Fから,これから一体どうなるのか,どうしたらいいのかと聞かれ,手続の説明をした。Fが事実を認めると思ったら,否認すると言ったので少し驚いたが,否認すると言うのならしょうがないよねと言い,否認の理由を聞いた。Fは,任意の取調べのときに身柄釈放されたことがあり,新証拠がなければ起訴されない可能性があるので否認すると言った。Fは,情状が悪くなって刑が重くなること,任意の取調べのときから状況がどう変わったのか,新証拠が出てきたのかを心配していた。捜査機関に会って新証拠が何があるか調べてくれと言うので,無理だと答えた。また,Fは,交際相手のことと,兄貴に付いていきますということを言っていた。Fは,詐欺で逮捕されてから交際相手の心配をし始めた。取りあえず黙っとけ,とか,20日間でパイになる可能性があるとは言っていない。Fの言うようなストーリーの話はしていない。それに近い話として,情状が重くなることを心配していたので,

それはしょうがない。起訴されたら考えようよ。記録も開示されるから,そのときになぜ捜査段階で否認したのかということをお互い考えて法廷で言うしかない。

と話した。調書にサインするなとか調べに出てきた名前を全部覚えておけとは言っていない。誘導尋問や利益誘導の話もしていないし,黙秘ないし否認を勧めたこともない。接見後Eと会い,接見内容の報告をした。否認するらしいことを伝えると,Eは,ああそうですかという感じで,どうしてほしいとかの依頼はなかった。このとき,Eの名前を出さないという約束があることは知らなかった。


同月17日,Fに呼び出されて接見した。否認に対する意見を求められ,
新証拠は何か,交際相手は元気にしているか,情状は一体どうなるか,兄貴には付いていくというようなことの繰り返しだった。結論として,否認して不起訴を期待して頑張るが,起訴されたら認めるという方針になった。交際相手の面倒を見てくださいという話をされた。交際相手に,任意の取調べを受けるのが嫌ならもう別れたと言えばどうかとアドバイスしたので,警察がこの点で揺さぶりを掛けてきても心配するなと言った。接見を終わるに当たり,起訴されて記録が開示されるまではもう接見に来ないので,よほど急用があったら電話するようにと言った。
Eに対しては,いつかは覚えていないが,Fが面会で女の話ばかりするので困るというぐちを言ったことはある。Fが否認の不利益を心配しているのと,新証拠を調べてほしいと言っているのもEに伝えた。Eは,ああそうですかと人ごとのような感じだった。心配しているのだろうが淡々としたものだった。兄貴に付いていきますということも伝えると,分かりましたと言っていた。

同月21日,Fから急用と言われて呼び出されて接見した。内容は今までと同じで,交際相手のこと,情状のこと,新証拠のこと,兄貴に付いていきますということばかりだった。mという者の話も出て,mがFの名前を話しているかもしれないので,話したかどうかをEを通じて調べてくれと強く頼まれた。E,k,lの名前が出ていないかとは尋ねていない。Fの父親にも元気にやっていると連絡した。父親から,警察が来ると言ってるがどうしたらいいかと聞かれ,やってもらいなさいと伝えた。
同月21日から26日までに,Fの父親から携帯電話の空き箱が押収された話を聞き,21日か26日の接見の際伝えると,空き箱の外側に携帯電話の番号がはってあり,自分がやったと明らかになってしまうので焦っているという説明を受けた。自認に変わるかなと思い,どうするのか聞くと,しばらく考え込み,振り込め詐欺で使われた携帯が全部分かっている
わけではなく,押収されたものが振り込め詐欺につながらない可能性もあるので,取りあえず勾留満期まではやはり否認すると言った。

同月26日に急用で接見希望と警察署から連絡があり,Fと接見した。内容は,新証拠があるのか,あるとしたら何か,交際相手は元気か,情状はどうなるのかということだった。また,mに関する報告をし,中野の件に関する振り込め詐欺の話をした。中野の件はFから話したものだが,具体的内容は聞いていない。中野の件を気を付けろと自分からは言っていない。Fから,中野の件を調べられている,自分は関係していないが自宅から携帯の契約書が押収され,その携帯が中野の件で使われているようなので自分が疑われていると説明を受けた。Fは,友達が遊びに来て置き忘れたもので,自分は一切関与していないと説明した。以前の詐欺の件は私の前では認めていたので,中野の件はFの言葉を信じた。Fから,取調べで契約書を突き付けられて追及されているのでどうすればよいかアドバイスを求められたので,関係ないなら積極否認しろ,だれがいつ来て置いていったか捜査機関に言えとアドバイスした。しかし,Fは,実名を出すことはできない,詐欺事件はいろいろな関係者がいるので一人の名前を出したらどんどん名前を言わなければならない,そうすると困ってしまう,だから自分からは言うことはできないなどと言った。そこで,どうするのか聞くと,偽名で言うと答えたので,そうすると積極的にうそを言わせることになるため反対した。名前を明かすことはできませんがということくらいで言うしかないんじゃないかとアドバイスをしたが,受け入れられなかった。そこで,積極否認もしない,でもやっていないというのであれば黙秘するしかないんじゃないかとアドバイスすると,Fが,Eとも相談してくれませんかと言った。Eから,mはFの名前を出していないと報告を受けたので,名前を出してないことをFに伝えた。交際相手は元気にしているか,見捨てるとは言ってないかなどと聞かれた。

接見後,同月27日だと思うが,Eと連絡を取った。FからEに相談するように言われていたことを話し,自分は黙秘するしかないと言っておいたがどうかと考えを聞いた。Eの答えは,ああそうですかというくらいだった。中野の件について関与していたかEは話していないし,自分からも聞いていない。Eから5万円を差し入れのために預かった。

中野の件でEと相談した返事を持って来ることを約束していたので,同月28日にもFと接見した。私に相談しながらFの考えるとおりやればいいとEが言っていることを伝え,名前を挙げて言うことができないのか,自分は関係してないんだからちゃんと言わなきゃ駄目だと言ったが,Fは名前は出せないと言うので,結局選択肢は黙秘しかないと伝え,最終的にFが決断した。Fは黙秘するのはつらいと言ってきた。つらいならしゃべったらどうかと言うと,やはりしゃべれないと言い,最終的に黙秘で頑張るということになった。5万円を差し入れたほか,交際相手の話をした。また,コンタクトレンズの差し入れの依頼を受けた。
接見後,Fの父親には連絡した。Eにも報告したと思うが明確な記憶はない。黙秘でいくことに決まったということくらいは言っているかもしれない。


前日にy町署から至急来てくれと連絡があったため,同年11月2日に時間をやりくりして接見に行った。私が先に接見室に入ったと思う。真ん中のいすに,Fと正対する姿勢で座り,メモ用紙を出して目の前に置いた。半身にはなっていない。Fが入ってきて,頼まれていたコンタクトレンズを差し入れしておいたという話をし,急用と連絡があったのでどういう内容かを尋ねた。Fは,彼女は元気でいますか,私を待つと言ってくれていますかということを聞いてきた。急用ということで時間をやりくりして来たのにまた女性の話かと思いむっとして,もういいかげんにしてくれ。女の話ばっかりじゃないか。起訴されるまでは私は急用以外は来ないと言ってあるよね。ところが来てみれば女性の話ばかり。もういいかげんにしてくれ。私は刑事弁護人であって,あなたの伝書鳩でもないし雑用係でもない。そういう話ならもう私は帰ります。と言った。Fに対して怒りの気持ちが少なからずあり,口調はかなり厳しい,しかりつける,しっ責するような口調だったが,声は普通どおりの大きさと思う。発言は割と一気に言った。手は机に置いたまま,上半身をいすの背もたれの方に少しそるような感じの姿勢で,手に持っていたボールペンは乱雑に右手から離したという状態だった。腹立たしいので厳しい表情をしていたと思う。初めてとった態度だったため,Fはあっけにとられていたような感じだった。Fは,一瞬驚いたような顔をして泣き出した。泣かれたのでびっくりして理由を聞くと,彼女がかわいそうなんだと言った。彼女がかわいそうだというのは分かるが,それは自分の責任なのだから,自分の責任でかわいそうだって泣いたってしょうがないという話をし,私は人の涙を見るのは好きじゃないとも言った。口調は,丁寧に,大丈夫だよというような言い方を心掛けた。
そのほかのやりとりは,同月6日が勾留満期だったので検察官の取調べの状況等を聞き,3連休だからもう決裁されている可能性があるということで,決裁の説明をし,おそらく起訴になるという話をした。このときはFはもう泣きやんでいた。

同月7日に,起訴状の宅下げを受ける目的で自分から接見に行った。Fは交際相手の話をし,交際相手あての手紙の持ち帰りを依頼された。留置係のn係長から,彼女あての手紙で私あてのものとは思えないので接見禁止が付されている以上宅下げできないと拒絶された。接見室に戻ってFに,私あてのものに書き直して送り直すように言うと納得したので,n係長にもうこれでいいですと言って帰った。


Eが,被告人からFに黙秘させたと聞いたという証言をしたが,それは,
最終的に黙秘するしかないと言ったことを指しているのではないかと思う。私は認めさせたかったんだけれどもということで事情説明したはずである。一人名前を出したら,二人,三人と挙げないといけないというのはFの言葉だが,Eが私の言葉ととらえてしまった。Eには逐一丁寧に報告はしていないし,私も言い間違いがあったのかもしれない。
(2)

信用性の検討
以上の概要の被告人の供述は,本件接見の状況や,それに至る経緯やその
ときどきの接見内容に関するFの証言に反するのみならず,Eが,Fに黙秘するよう被告人に依頼した,被告人からFに黙秘させるとの説明を受けた,Fが自分のやったことを認めたいと言ったが黙らせておいたと報告を受けたなどと証言していることとも重要部分において反するものである。Fとの接見内容を報告した際のEの態度について被告人が供述するところは,Fに対する捜査がどの程度進んでいるかについて強い関心を持っていた旨証言しているEの態度と相容れない不自然なものである。
そうすると,本件接見に至る状況や本件接見の状況及びその後の状況に関する被告人の供述は信用することはできない。
6
争点(1)についての結論
(1)

Fの証言によれば,平成18年11月2日の接見時に,捜査官にEらの
存在を言わずにFで事件を止めるとの被告人やEの方針に反し,上の者の存在は示すが名前は出さずに自己が関与した程度や内容を捜査官に話したいと申し出たFに対し,被告人が,

ふざけるな。

と怒鳴り,仕切板を手でたたき,

だれに頼まれて来てると思ってるんだ。雑用じゃねえんだぞ。Eにはお前ですべて終わらせるように言われている。認めるんだったらすべてお前がかぶる以外にないぞ。知らねえって言っておけばいいんだ。

余計なことをしゃべったら,お前の女だってこっちで面倒見てるんだし,実家の住所だって知ってるんだから,お前,どうなっても知らないぞ。

などと申
し向けて,判示のとおり,強談威迫及び脅迫行為をしたものと認められる。(2)

この点,検察官は公訴事実において,「ぶっ殺す。」という言葉も強談
威迫や脅迫行為の内容とし,それをFの生命,身体等に対する害悪の告知として主張するが,Fの証言によれば,被告人が「ぶっ殺す。」,

ぐちゃぐちゃにしてやる。

と言った言葉それ自体は記憶にあるものの,それがどのような場面で言われたものか分からない旨述べていることからすると,その言葉が使われた文脈が判然としないので,強談威迫や脅迫行為の内容として言われたものと認定することはできないものである。
(3)

弁護人の主張の検討
弁護人は,判示の行為については,脅迫罪も成立しない旨主張する。しかし,本件接見において,被告人がFに申し向けた上記の文言は,Fの親族の生命,身体等に危害を加える可能性があることを告知する内容であり,被告人を通じてEやBらにFの言動が伝われば,暴力団員を介するなどして害が加えられることを恐れさせるものであったと認められる。また,被告人もその旨を認識していたと推認できる。
したがって,脅迫罪の成立を認めることができるので,弁護人の主張は採用できない。


弁護人は,被告人には強談威迫や脅迫行為に及ぶ動機がない,むしろFの望むように自白してもらえば公訴事実を争わないことになるのであるから,被告人にとっても歓迎すべきことである旨主張する。
しかし,FやEの証言に照らせば,被告人はEに対し,

Fが認めてしまったら,いろいろと話さないといけないこともある。

黙秘させる。

などと述べ,実際に,Eの意向に沿ってFに黙秘するよう伝え,Fもこれに異を唱えることなく従っていたものである。そうすると,被告人の意向はEと一致しており,Eを始めFの上の者たちの名前を一切出さず,Fで止めることにあったものと認められる。

ところが,Fが一転して,上の者の名前は言わないが自らの行為に関してのみ供述したい旨言い出したことから,もしFが被告人やEの方針に反して自己の関与の態様を説明すれば,上の者の存在が明らかとなり,Fが名前は出さないつもりではあっても,捜査の手がEらに及ぶことが予想されることから,Fを制止させるために強談威迫や脅迫行為に及んだと考えても不自然とはいえない。
そうすると,被告人には,Fに対して強談威迫や脅迫行為に及ぶ動機があったものと認められるので,その主張は採用できない。

弁護人は,Fが平成18年11月2日に被告人に脅されたとすれば,その後に被告人との接見を希望したり,接見に来たS弁護士に犯行についての話をしているのは不自然である旨主張する。
しかし,Fが被告人に接見を希望したのは,接見禁止が付されていて,唯一の外部とのパイプが被告人であったことや,再逮捕の事実をEに伝えれば中野の件は何かしら動いてくれるのではないかという期待があったからであり,S弁護士に対する対応も,P弁護士に弁護を依頼しようと思っていたため,S弁護士に変な態度を取ればそれがEに知られてしまうとも思い,聞かれたことにも当たり障りないように話をしたということからすると,いずれも不合理なものではないので,弁護人の主張は採用できない。
第4
1
争点(2)に対する判断
前記認定の事実によれば,(1)Fは,面会に来た被告人にEも振り込め詐欺に少なからずかかわっていると話し,Eも,被告人から尋ねられて少しはかかわっていると答え,他の人間の名前を出さない意志が揺らいでいないかFに確認するよう被告人に依頼したこと,(2)Eは,Fが振り込め詐欺事件で逮捕されたことを聞き,Fに他人の名前を言うなと伝えるよう被告人に依頼し,被告人は接見のたびにFに黙秘するよう指示したこと,(3)Eは,被告人に捜査で自分の名前が出ていないか聞いていたほか,kなどの関係者の名前が出ていな
いかFに聞くよう被告人に依頼しており,Fは被告人からその旨尋ねられたこと,(4)平成18年11月2日の本件接見の際も,Fが絶対にEの名前を出さないと言い,一方,被告人はEにはお前ですべて終わらせるように言われているなどと発言したこと,(5)被告人は,Fの取調べ状況や供述状況をEに話し,Eから,自分が捕まるとしたらどんな状況かと聞かれ,Fがしゃべらなきゃないだろうなどと答え,また,Eに対し,Fが話すとおのずとEの名前を話さないといけなくなるし全容が明らかになってしまうから話さない方がいいと言ったことなどが認められる。
2
以上によれば,平成18年11月2日の本件接見のとき,被告人は,FがEらに関する振り込め詐欺の成否や態様に関する知識を有する者であることを認識していたものと認められる。
したがって,被告人は,Fが刑法105条の2にいう,捜査に必要な知識を有する者であることを認識していたことが認められる。

第5

争点(3)に対する判断
弁護人は,証人等威迫,脅迫被告事件の公訴提起は,被告人に対する証拠隠滅被告事件の虚構が明らかになり,被告人が完全に無罪となることを回避する目的の下に事件を虚構した上で提起されたものであって,公訴権を濫用する違法なものである旨主張する。
ところで,証拠隠滅被告事件が虚構のものでないことは前記認定のとおりである。そして,証人等威迫,脅迫被告事件も前記認定のとおり,Fを始めとした関係者の供述等適法に収集された証拠に基づいたものであって虚構のものではない。したがって,検察官に被告人の無罪を回避する目的があったとは認められない。
また,証人等威迫,脅迫被告事件の事案の重大性に鑑みても,その公訴提起が訴追裁量権を濫用したものとはいえない。
したがって,公訴権濫用の主張は採用できない。

第6

結論
以上によれば,判示第2の事実を認定することができる。

(法令の適用)


第1の証拠偽造及び偽造証拠使用の各点につきいずれも刑法60条,104条第2の証人等威迫の点につき同法105条の2,脅迫の点につき同法222条2項

科刑上1罪の処理
第1につき刑法54条1項後段,10条(犯情の重い偽造証拠使用罪の刑で処断)
第2につき刑法54条1項前段,10条(重い脅迫罪の刑で処断)刑種の選択
第1及び第2につきいずれも懲役刑選択
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の負担
刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
本件は,弁護士である被告人が,暴力団員と共謀の上,自らが弁護人となっていた盗品等有償譲受け事件に関し,同事件の被告人以外の者が真犯人である旨の内容虚偽の書面を作成して,これを同事件を審理中の裁判所に提出したという証拠隠滅(第1),並びに,自らが弁護人を務めており,他人の刑事事件の捜査に必要な知識を有する者に対して強談威迫の行為をするとともに,同人の親族の生命,身体等
に危害を加えかねない気勢を示して脅迫したという証人等威迫及び脅迫(第2)の各事案である。
第1の証拠隠滅被告事件は,被告人が,共犯者である暴力団員の兄貴分にあたる暴力団員に捜査の手が伸びるのを防ぐために,盗品等有償譲受け事件で身代わり犯人を出すことを企てて行ったもので,その動機に全く酌むものはない。犯行態様も,複数人物の写真の中から身代わりにふさわしい者を選び出し,身代わり犯人になるよう強く求め,被告人が口授して内容虚偽の書面を作成させた上,これを裁判所に証拠として提出したというもので,計画的な犯行である。被告人は,主体的,積極的に関与しており,犯行態様は非常に悪質である。
弁護士が虚偽の証拠を提出することによって,裁判所の適正な司法権の行使を誤らせるとともに,えん罪を作り出そうとしたものであり,刑事司法の根幹を揺るがしかねないものであって,反社会性は大変強い。
被告人によって真犯人と名指しされた者は,裁判所に召喚されて証人尋問に応じることを余儀なくされており,精神的,身体的に多大な苦痛を負わされている。このように本件の結果は重い。
第2の証人等威迫及び脅迫被告事件は,弁護対象者の兄貴分にあたる人物に捜査の手が及ばないよう,弁護対象者に黙秘を指示していたところ,同人が捜査機関に対し,兄貴分らの名前は出さないが自己の関与した範囲の犯罪行為を供述したいと言い出したことに立腹して,判示の強談威迫,脅迫行為に及んだというのであり,動機に酌むものはなく,犯行も大変悪質である。
被害者は,接見禁止を付された勾留中,唯一頼りにすることのできるはずの弁護人であった被告人から脅迫され,大きな精神的衝撃を受けており,被告人に対して厳しい処罰を求めている。
本件も,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを旨とする弁護士の職責を逸脱したものであり,その反社会性は強い。
本件各犯行は,被告人が暴力団員との交際を持つ中で行われたものであり,交際
を通じて,弁護士としての規範意識や倫理観が鈍麻していたものと認められる。捜査,公判を通じて一貫して各犯行を否認し,被害者らを論難し,不自然な弁解をしており,反省の態度もみられない。
以上に照らせば,被告人の責任は大変重い。
他方,被告人は,所属する弁護士会の会務や司法試験受験生の指導に携わるなど,長期間にわたり弁護士として社会的責務を果たしてきたものであること,前科前歴がないこと,本件により相応の社会的制裁を受けることが考えられることなどの酌むべき事情も認められる。
そこで,諸般の事情を総合考慮すると,本件の態様及び犯情に照らせば,被告人の刑事責任は重く,酌むべき事情を十分考慮しても,本件が刑の執行を猶予するのを相当とする事案とは認め難く,主文の刑は免れない。
(検察官清水真一郎,私選弁護人江島寛(主任),鎌田勇夫(副主任),小杉公一,吉田秀康,山岸宏彰,新原次郎,塩地陽介,山口邦明,鍛冶良明,吉村誠,髙栁一誠,藤掛伸之,日向一仁,勝野めぐみ,山口暢子,殷勇基,土居範行,岩崎哲也,本間佳子,遠藤きみ各出席)
(求刑

懲役3年)

平成21年4月28日
宮崎地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

高原正良
裁判官

神谷厚毅
裁判官

井上理
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