判例検索β > 平成20年(わ)第460号
事件番号平成20(わ)460
裁判年月日平成21年2月9日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2009-02-09
情報公開日2017-10-13 01:36:56
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平成20年(わ)第460号
主文
被告人両名をそれぞれ懲役3年に処する
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から5年間それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名は,共謀の上,平成17年7月21日午前3時45分ころ,兵庫県尼崎市a町b丁目c番地のd付近路上において,A(当時37歳)に対し,その顔面等を手拳等で数回殴打して同人を路上に転倒させた上,さらに,その頭部等を手拳で殴打し,足蹴にするなどの暴行を加え,その後,Bが,上記暴行により路上に転倒した上記Aの頭部を足蹴にして足で踏みつける暴行を加え,よって,そのころ,同所において,同人を上記各暴行による外傷性くも膜下出血により死亡させたが,上記いずれの暴行により上記Aを死亡させたか知ることができないものである。(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断)
検察官は,主位的には,被告人両名及びBが共謀の上で被害者に対し暴行を加えて死亡させたとして,被告人両名に傷害致死の共同正犯が成立すると主張し,予備的に,被告人Cと被告人Dが共謀の上で被害者に対し暴行を加え,Bも被害者に対し暴行を加えたが,いずれの暴行によって被害者が死に至ったかは知ることができないとして,同時傷害の規定により,被告人両名に傷害致死が成立すると主張している。他方,被告人両名は,本件の事実関係の一部についてそれぞれ争っている上,被告人両名がそれぞれ主張する事実関係を前提に,被告人Cの弁護人は,本件当時,被告人Cが被害者に対し挑発的な言動に出たことはなく,一方的に絡んできた被害者に対する被告人Cの暴行については正当防衛が成立すると主張し,被告人Dの弁護人も,被告人Dが被害者の腹部を足で押したことはあるが蹴ったことはなく,被告人Dの暴行については過剰防衛が成立すると主張している。
ところで,被告人両名及びBは,平成17年7月22日に,被害者に対する傷害致死の共同正犯としてそれぞれ通常逮捕され,勾留を経た上で神戸家庭裁判所尼崎支部へ送致されたところ,同年9月5日,同裁判所において検察官送致の審判を受け,同月14日,傷害致死の共同正犯として,神戸地方裁判所尼崎支部に起訴された。
被告人両名は,同支部における差戻前1審において,被告人Cと被害者がもみ合いとなった経緯や被告人Dの被害者に対する暴行態様,被告人両名及びBとの間の共謀の成立を争い,被告人Cは正当防衛の成立を,被告人Dは正当防衛又は過剰防衛の成立をそれぞれ主張し,検察官は,被告人両名の共謀に基づく暴行又はBの暴行により被害者が死亡したとする同時傷害による傷害致死の訴因を予備的に追加した。
差戻前1審裁判所は,平成18年12月15日,被告人両名及びBとの間の共謀の成立をいずれも否定した上で,被告人Cの暴行及び被告人Dの当初の暴行についてはいずれも正当防衛が成立し,その後の被告人Dの暴行についてはBとの同時傷害による傷害致死を構成するものの,過剰防衛が成立すると判断して,被告人Cにつき無罪,被告人Dにつき懲役3年,執行猶予5年とする旨の判決を宣告した。これに対し,検察官が,被告人両名に対する差戻前1審判決について控訴を申し立てたところ,控訴審裁判所は,事実の取調べを経ないまま,平成19年12月20日,差戻前1審の事実認定及び正当防衛,過剰防衛の成否に関する判断はいずれも誤りであるとして,本件を神戸地方裁判所に差し戻す旨の判決を宣告した。その後,控訴審判決に対し被告人両名がそれぞれ上告を申し立てたが,平成20年3月31日に被告人両名の上告をいずれも棄却する旨の決定がされ,同決定は同年4月8日確定した。
以上の経過により本件が当審に差し戻されたところ,当審では,本件の争点についていずれも新たな証拠を取り調べていることから,差戻前1審において既に取り調べられた証拠と,当審において取り調べた新たな証拠とを総合して,判示事実を認定した理由を説明するとともに,
被告人両名の各弁護人の主張について判断する。
第1

証拠により比較的容易に認定できる事実
本件において,関係証拠により比較的容易に認定できる事実は以下のとおりである。

1
本件当時,被告人Cは18歳,被告人Dは17歳の高校3年生であり,被告人両名とBとは小学校及び中学校の同級生であって,互いに親しく交遊する間柄であった。
本件当時,被告人Cの身長は約168センチメートル,体重は約55キログラム,
被告人Dの身長は約183センチメートル,
体重は約64キログラム,
Bの身長は約170センチメートル,体重は約59キログラムであった。また,本件当時,被告人Cは,紺色の地に赤い花があしらわれたアロハシャツと黒色の短パンを着用しており,被告人Dは,両肩から首周りが黒色の灰色半袖シャツと茶褐色の半ズボンを着用していた。
他方,被害者は,本件当時37歳の男性であり,身長が約167センチメートル,体重が約71キログラムであった。
なお,被告人Dは,4歳のころから小学校6年生まで空手を習っており,最後は初段の前の1級まで到達した。
2
被告人両名及びBは,平成17年7月21日午前1時30分ころから同日午前2時ころまでの間,焼鳥屋でビールや焼酎を飲酒した後,同日午前2時30分ころから,兵庫県尼崎市a町b丁目所在のe3階にあるカラオケ店でさらに焼酎(酎ハイ)を飲酒し,同日午前3時30分ころに同店を出た。被告人両名及びBは,この当時,多少酒に酔った状態ではあったが,足取りはしっかりしていた。
他方,被害者は,同月20日午後11時ころから,e3階にある居酒屋で,Eと共に,ビールや焼酎などを飲酒し,同月21日午前3時30分ころに同店を出たが,この際に酩酊したEがe内の通路で転倒して床に頭を打ち付けたため,被害者がEを支えてエレベーターに乗り,1階へ降りた。

3(1)

上記のとおりBと共にカラオケ店を出た被告人両名は,e北側路上に駐
輪していた各自の自転車に乗車し,
e北側の道路を西に向かって走り始めた。
この際,被告人両名と共にeを出たBは,同人の自転車に乗車する前にe前路上で立ち小便をしたが,途中で既に被告人両名がそれぞれ自転車に乗車して出発したことに気付き,遅れて自転車に乗車して同じ方向に走り始めた。被告人両名は,先頭を被告人Dが,その二,三メートル後方を被告人Cがそれぞれ自転車に乗って走行していたところ,その前方に,左側に並んだEの腰に手を回し,ふらつきながら西に向かって歩いている被害者の姿を認めた。
(2)

被告人両名は,二,三メートル離れた被害者らの左側を走行して,被告
人D,被告人Cの順に被害者らを追い越した。この際,被告人Dは,被害者らの方に顔を向けて見たところ,被害者と目があったため目をそらせて走行を続け,被告人Cも,右側を向いて被害者らの方を見たところ,被害者が被告人Cの方を向いた気がしたため,視線をそらせて走行を続けた。(3)

すると,被害者は,被害者らを追い越した被告人Cに対し,

何見とんじゃ。

と怒鳴りつけてきた。これを聞いた被告人Cは,被害者の左前方約3.9メートルの位置で自転車を止めた上,自転車にまたがったままの状態で,右後方にいた被害者の方を振り返って応答した。
これに対し,被害者は,被告人Cの方へ近寄った上で,被告人Cが乗っていた自転車の後輪泥よけ部分を1回足で蹴りつけ,泥よけが凹損するとともに,同所に付いていた反射板が外れた。
被告人Dは,被害者の

何見とんじゃ。

という声を聞いて,被告人Cの数メートル前方で自転車を止めて後方を振り返ったところ,被害者が被告人Cの自転車を蹴りつけたところを目撃した。
(4)

被害者に自転車を蹴りつけられた被告人Cは,その場で右足を上げ時計
回りで身体を回して自転車から降り,西を向いていた自転車の左側に立ち,そのまま自転車のハンドルを握っていた両手を放し,右側の路上に自転車を倒し,その胸倉を両手で掴んできた被害者と掴み合いとなった(なお,自転車を倒したことと,胸倉を掴まれたことの順序には争いがある。)。(5)

その後,被告人Cと被害者は,互いに相手を掴もうと手を出したり相手
が出してきた手を払うというようなもみ合いとなり,被告人Cが,右手の平の付け根(掌底)を前に突き出すようにして,被害者の口元付近を強く突いた。
被告人Cの上記攻撃により被告人Cの胸倉を掴んでいた手を離した被害者は,被告人Cの顔面を右手拳で殴打しようとしたが,被告人Cが体を後方に反らせてかわしたため,被害者の右手は被告人Cの左頬に軽く当たるに止まった。
これに対し,被告人Cは,被害者の腹部を目がけて,右手拳,左手拳,右手拳の順に合計3回にわたって被害者に殴りかかり,1発目は被害者の腹部に命中したが,二,三発目は防御した被害者の腕に当たるなどしてその腹部には当たらず,その後も被告人Cと被害者との掴み合いや殴り合いが続いた。
(6)

上記のとおりの被告人Cと被害者との間のもみ合いや殴り合いを見た被
告人Dは,被告人Cに対して暴力を振るっている被害者に腹を立て,自転車を降りて掴み合っている被告人Cと被害者に近づき,

お前,誰どついてんねん。

と言いながら被害者の腹部付近に対し右足で暴行を加えた。(7)

被告人Dの上記暴行を受けた被害者は,二,三歩後退して被告人Cから
離れたものの,

おまえじゃあ。

といいながら再度被告人Cに掴みかかろうとしたため,被害者の左側に立っていた被告人Dが,被害者の左肩と左手を掴んで引っ張った。このため,被害者は,

おら,こら。

などと言いながら,被告人Dに向かい,下から上に突き上げるようにして両手を交互に突き出していった。(8)

被告人Cは,上記のとおりもみ合う被告人Dと被害者との間に,前のめ
りの姿勢で両手を前に出して頭から飛び込んでいったが,被害者から

おまえじゃあ。

などと言われ,口元付近を手で押されて後ろに押しのけられた。
(9)

その後,被害者は,体を揺らしながらも両手を突き出しながら勢いよく
被告人Dに迫ったため,被告人Dも被害者の手を払いのけながら被害者の顔面付近に二,三回殴りかかったが,いずれも被害者には当たらなかった。このようにして,被告人Dと被害者は,被告人Dが後ずさったり両者の位置が数回入れ替わりながらも,次第に被告人Dが優勢となって2人は西方に移動していき,同市a町b丁目c番地のd付近路上でもみ合っていた際,被害者の手が被告人Dのあご付近に当たり,被告人Dの右首筋に出血を伴う長さ約10センチメートルから15センチメートルの2本のひっかき傷ができた。
これに立腹した被告人Dが,右手拳で力を込めて被害者の左あご付近を1回殴りつけると,被害者は,右に旋回するようにして身体の右側を下に向けて路上に倒れ込み,右側頭部を路面に打ち付けた。
さらに,被告人Dは,身体の右側を下にして倒れ込み,左手で顔を覆うような体勢であった被害者の身体をまたいで,右手拳で被害者の左側頭部を,左手拳で被害者の左目付近をそれぞれ1回ずつ殴りつけるとともに,サンダルが脱げて素足となった右足の甲で,被害者の口元付近を1回蹴りつけた。
(10)

被告人Cは,被害者から押しのけられた後は,その場に立って被告人D
と被害者の様子を見ていたところ,被告人Dに殴打された被害者が倒れ込んだ後に,被害者と一緒にいたEが見当たらないことに気付いたため,Eの姿を探すため周囲を見回した。
4(1)

ところで,Bは,立ち小便を済ませてから,被告人両名を追うようにし
て自転車に乗って走行していた際,小走りで東に向かうEとすれ違った後,被害者の怒声を聞いて前方を見ると,被告人Dと被害者が掴み合っているのが見えたため,急いで被告人Dの方へ向かった。
(2)

Bは,自転車に乗ったまま被告人Cに近づいたところ,被告人Dが被害
者の顔面を殴打して転倒させた様子を見たため,被告人Cに対して

どないしたん。

と聞き,

けんかになった。

という被告人Cの答えを聞いて,「まじで。」と言った。
その後,Bは,自転車に乗ったまま被告人D及び被害者の方へ近づき,自転車を降りて,倒れた被害者の頭部や顔面を殴ったり蹴ったりしていた被告人Dの方へ歩み寄った。
5
そのころ,
被告人Cは,
Eがeの方へ向かって移動していったことに気付き,
同女が人を呼びに行ったと考えて「逃げよう。」などと声をかけ,これを聞いた被告人Dも,被害者から離れて置いてあった自転車の方へ戻った。他方,Bは,倒れていた被害者の方へ歩み寄りながら,自転車の方へ向かって歩いてきた被告人Dとすれ違う際に,被告人Dに対し

誰,こいつ。

などと尋ねたものの,被告人Dは返答をしなかった。Bは,
倒れて動かない被害者の後頭部付近に立ち,だれに手出してんねん。
などと言いながら,靴下を履いただけの右足で,倒れていた被害者の後頭部をボールを蹴るように1回蹴りつけた。
その後,被告人両名はそれぞれ自転車に乗って本件現場から立ち去ったが,Bは,自転車に乗った後にも再度倒れている被害者に近づき,自転車に乗ったまま,サンダルを履いた左足で被害者の頭部を踏みつけた。
6
被害者は,同日午前4時ころ,右側頭後頭部打撲による外傷性くも膜下出血により死亡した。
同日行われた解剖の結果,被害者には,上記傷害のほか,皮下出血及び第5,第6肋骨の骨折を伴う左側胸部打撲傷,皮下出血を伴う左上腕前内側,外側及び右上腕内側の各打撲傷などが認められ,被害者の血液からは,1ミリリットル当たり1.17ミリグラムのアルコールが検出された。
また,Eは,同日午前5時ころ,e1階の入口で,うつ伏せに倒れて寝ているところを,カラオケ店店員に発見された。

7(1)

被告人Dは,本件現場を離れた後,Bから喧嘩の経緯を尋ねられたため,
それを説明してから,被告人Cと別れた。その後,Bは,被告人Dとともに立ち寄ったコンビニエンスストアの店員に喧嘩があったなどと話したほか,被告人Dも,被告人Dが負けていると思ったのに相手である被害者がのびていたと話してきたBに対し,

おいしいとこ持っていかれた。

などと話した。
(2)

被告人Dは,同日午前4時10分ころから同日午前4時20分ころまでの間に,携帯電話機で,被告人Cに対し,俺ら強い♥オヤスミzzzという
電子メールを送信し,被告人Cから本間それおやすみzzzという電子メールの返信を受けて,さらに,
おまえがわるいけどおまえなぐるやつゆるさん♥笑オヤスミzzzという電子メールを送信したが,返事はなかっ
た。
8
その後,被告人両名及びBは,被害者が死亡したことを知り,同月22日午前1時30分ころ,そろって兵庫県尼崎北警察署へ出頭したが,その直前に,被告人両名及びBは,被害者が被告人Cの自転車をいきなり蹴ってきたこととして,それ以前の出来事を隠し,被害者に対する暴行についても,被告人Dは1回殴打して1回足蹴にしただけであり,
被告人Cは1回手の平で突いただけ,
Bは1回蹴っただけとする旨の口裏合わせをした。

9
ところで,被告人Cは,同年8月4日に中園江里人弁護士を,同月7日には塩川茂弁護士をそれぞれ弁護人に選任し,同月9日までの間に,2度にわたって弁護人と接見をした。弁護人との接見の際,被告人Cは,自らは被害者をからかうような発言をしていないということだけを説明し,弁護人からは,自分の記憶どおりに話をするようにという助言を受けた。

被告人Cは,検察官送致の決定が言い渡された後の平成17年9月9日に,被告人Dに対し,

調べは辛かった。Dは?だきょうしまくった…。検事もだきょうして自分の言いたい事言えんかった↓Dは?

俺も審判は覚語(覚,「悟の誤記であると認められる。以下同じ。)してた。逆送なるって。でもD
に言いたい。自分の思いや,思ってる事,言いたい事は言えよ。投げやりにはなるなよ!!!覚語するのはいい事やけどこの事もしっかり持ってな。俺もそーするし,Bだってそー思ってるよきっと。」などと記載した手紙を,同月1
6日にも,被告人Dに対し,
てか執行尊予(執行猶予の誤記であると認

められる。)つくの本間びみょーらしいな↓最悪の判決を考えとこか!!!

てか少年刑所「刑務所

の誤記であると認められる。何年くらいかな?!

悪くて3年以上?わかんね。考えんとこ。
」などと記載した手紙をそれぞれ出
しており,他方,被告人Dも,同月6日に,被告人Cに対し,
正直,2∼3年は覚悟してんで!!少年刑務所かな

カンベ(少年鑑別所の意味と思われる。)いく前に,2回受けた検察官の調べはきつかったよなぁ∼,多分はたちゃんと同じやねん(人が)あのメガネの人きつかったわ∼,またあたったら最悪やわ

などと記載した手紙を,同月22日には,刑務所な∼,3年以上って俺も聞いた∼ってか3年って長いよな!!笑などと記載した手紙をそれぞれ出している。
第2

争いのある事実について

1
被告人Cの発言について
検察官は,被告人両名が被害者らを追い越した際(上記第1の3(2))に,被害者らをからかうような発言をしたのは被告人Cである旨主張するのに対し,被告人Cの弁護人は,そのようなことを言ったのは被告人Dである旨主張するので,以下,検討する。
(1)

被告人Dの供述について
被告人Dは,逮捕当初から平成17年7月27日の取調べまでは,この点について何ら供述していなかったものの(乙16)
,同年8月9日の
検察官による取調べにおいては,被害者らを追い越す際に,被告人Cが,

ようやるわ。

というような被害者らをからかうような言葉をぼそっと言い,被告人Dも

ふふん。と鼻で笑うように答えた旨供述している(乙

21)

そして,被告人Dは,少年審判では,

自分たちが被害者らを追い越す際に,自分が男性の顔をちらっと見た後,後方を走行していた被告人Cが,「ええ年こいてようやるわ。

みたいなことを言ってきたので,鼻で笑うように聞き流した。おまえがわるいけどおまえをなぐる奴はゆる「さん。」という電子メールのおまえがわるいという意味は,被告人Cのええ年こいてとの発言が良くないという意味です。被告人Cは
その言葉を自分に向けて言ってきました。被害者には聞こえていないと思います。
」と供述しており(乙39)
,差戻前1審においても,

はっきりとは覚えてはいないが,被告人Cが「ようやるわ。

ということを小声で言ったような気がします。自分もそう思ったので,
ふふん。」と鼻で
笑うように答えました。」と供述しているところである(差戻前1審の第7回公判期日における供述)

さらに,被告人Dは,当審においても,「被告人Cが

ようやるわ。

と言ったと思うが,自分はそのようなことを言っていない。」と供述している。

そこで,被告人Dの上記各供述のうち,被告人Cが

ようやるわ。

という趣旨の文言を言ったとの点の信用性について判断するに,被告人Cの弁護人も指摘するように,被告人Dは被害者に対し最も激しい暴行を加えていることなどから,自らの責任を軽減するため,被告人Cに責任をなすりつけ虚偽供述をするおそれがあることは確かであるから,被告人Dの上記供述部分の信用性については,より慎重な検討が必要とされるところ,(ア)被告人Cが被害者を追い越した直後に,被害者が被告人Cに対して怒鳴りつけて被告人Cに向かっていっていることに加え,その後,被告人Cと被害者が殴り合いとなった際に被告人Dがそこに介入した後も,被害者はお前じゃと言ったりしながら被告人Cをしつこく攻撃しようとしていたのであって,そのことは,被害者が怒鳴って来る前に,被告人Cが被害者の気に触る言動をしたことを示唆していると見られること,(イ)もし,被告人Cの弁護人が指摘するように,被告人Dが被告人Cに責任をなすりつけようとするのならば,被告人Dにおいて,被告人Cの発したという上記文言は,被害者に向けられたものであるとか,同人に聞こえていたはずであると述べるのが普通であると思われるのに,上記のように,少年審判では,そのようなことはなかった旨,被告人Cをかばっているとも見られる供述をしているのであって(この点について,差戻前1審では,被告人Dは供述を変えている。,このこ)
とは,被告人Dが被告人Cに責任をなすりつけようとすることと矛盾していること,(ウ)被告人Cに対して送信したおまえがわるいという電子メールについて,被告人Cの弁護人は,
お前が怒鳴られて「はぁ
と言って被害者を怒らせてしまったから悪い」という意味にも,
お前が怒鳴られて喧嘩になってしまったのがまずかったという意味にも解釈できると主張するところ,確かに,そのような意味にも理解できないではないものの,被告人Cが被害者に対し何もしていないにもかかわらず,被害者が先に怒鳴って向かって来たのに対し,はぁと言ったり,さら
にはそれが原因で喧嘩になったとしても,それは,普通に考えれば,先に怒鳴ってきたり,自転車を蹴ってきた被害者に責任があることは明らかであるから,そのような場合に,被告人Dが,被告人Cに落ち度があるようなことを指摘するはずがないのであって,それをしているということは,やはり,被害者が怒鳴って来る前に,被告人Cが被害者を怒らせるようなことを何かしたと見るのが自然であり,そうすると,本件事件の数十分後に送信した上記電子メールのおまえがわるいというのは,被告人Dが供述するように,被告人Cが

ようやるわ。

といったことを被害者らに言って被害者を怒らせたことを指していると考えるのが合理的であること,以上の諸点に照らすと,被告人Dの上記供述のうち被告人Cが

ようやるわ。

との趣旨の文言を言ったとの点は信用できるといえる。

これに対し,被告人Cの弁護人は,上記で指摘する点のほか,(ア)被告人Dが,わざわざ被害者らの歩いていた方へ向かうため,通常の経路とは異なる経路を通ったほどに被害者ら(特にE)に対する強い関心を抱いていたこと,(イ)空手を習うなど体力に自信があり,飲酒の影響もあった被告人Dが,被害者らをからかうような発言をした可能性が高く,そのことは,被告人Dが被害者らを見て,

ようやるわ。

という気持ち
があったと供述していることからも裏付けられていること,(ウ)

何見とんじゃ。

という被害者の発言は,被告人Dからからかわれた上,被告人Cが追い越す際に被害者らを見たために腹を立てて出た言葉であると見るのが自然であること,(エ)Bは,本件のすぐ後に,公園等で被告人Dに事情を聞いた際,被告人Cが被害者をからかったとは聞いておらず,被告人Dも,Bに被告人Cがからかったことがあったとは言っていないと供述していることからすると,そのようなことはなかったと見るのが自然であることを指摘して,被告人Dの上記供述は信用できない旨主張する。
しかし,(ア)の点は,本件当時,被告人Dが選択したf橋までの経路は,被告人Cが日頃通行していたやや遠回りとなる経路(当審弁6)とは異なっていたとしても,距離の長短や途中の道路状況(当審弁25)からみて特に不合理な経路ではないから,被害者らに気付く前に,自然と来た道を帰ったという被告人Dの当審における供述が不合理であると考えられず,被害者らに対する関心から,被告人Dがわざわざ被害者らの歩く方へ向かったと見ることはできない。
また,(イ)の点については,被告人Cも被告人Dと同様に飲酒による影響下にあった上,被告人Dの体力への自信も被告人Dによる被害者らをからかう発言をする可能性をそれほど高める事情とはいえず,被害者らをからかう気持ちがあったという被告人Dの供述も,被告人Cの発言に同調するように鼻で笑ったという被告人Dの対応の理由を説明したものであるから,被告人Dが上記のような気持ちを持っていたからといって,それが被告人Dが被害者らをからかうような発言をしたことを裏付けるものとまでは認められない。
さらに,(ウ)の点は,

何見とんじゃ。

という被害者の発言を,被害者らをからかうような発言をした上,同人らの方を見た被告人Cの言動に対するものと見ることもできるのであって,被告人Cが被害者らをからかうような発言をしたことを前提としても不自然ではないのである。そして,(エ)の点については,確かに,Bは,差戻前1審において,本件の後,2回,被告人Dらから事情を聞いた際,被告人Cが被害者を見たりしたことから喧嘩になるなどしたと聞いたが,被告人Cが被害者をからかうようなことを言ったとの話はなかったとの供述をしているものの,差戻前1審の前に行われた少年審判では,裁判長からこの点を聞かれて,もしかしたら,

言っているかもしれませんが,覚えていません。

と答えてもいたのであり,他方,被告人Dも,差戻前1審では,本件事件の後,Bとどのような話をしたのか記憶がない趣旨の供述をしていたが,当審では,本件事件の直後に,Bと話をしたことにつき,「ちょっと思い出せないです。」との趣旨の供述を繰り返した末,「君はBに対し,Cが最初声を掛けたから実はけんかになったのだという説明をしたことがありますか。」と聞かれて,「それもなかったと思うんですけど。」と答えてはいるが(当審の第2回公判期日における供述)
,その後の当審にお
ける第3回公判期日では,「おまえがわるいというのは,被告人Cがからかったことが悪いという意味であれば,その電子メールを打った時にその記憶があったはずなのに,前回その記憶がなかったというのはどういう意味ですか。」との趣旨の質問に対し,「なかったとはやっぱ断言できないんで」「断言はできないけど,その当時,そういう思いがあったからこそ,やっぱり手が動いてたと思うし。」と答えているのであって,このようなBや被告人Dの供述を全体として見ると,本件事件直後の会話等につき,両名ともいずれも記憶がかなりあいまいなまま供述している感を否めず,そうすると,この両名の上記供述からは,被告人Dが,Bに対し,被告人Cが被害者をからかったことを話してはいないとまで認定するのは困難であり,したがって,被告人Cの弁護人が指摘するBと被告人Dとの間の会話の内容をもって,被告人Cがからかうような言葉を言ったとの被告人Dの上記供述の信用性を否定することにはならないと解される。
(2)

被告人Cの供述について
被告人Cは,逮捕当日である平成17年7月22日の警察官による取調べでは,被害者らを追い越す際に横目でちらっと見た旨供述しただけであったところ(乙3)同月23日の検察官による弁解録取においても,,
被害者らに

ようやるわ。

などとは言っていない旨供述し(前弁47),
同月27日の警察官による取調べでは,肩や背中がむき出しになったEの服装を見てうらやましく思い,被害者らを追い越す際にちらっと被害者らを見たとのみ供述していた(乙4)

ところが,被告人Cは,同年8月2日の警察官の取調べにおいて,初めて,出頭前に被告人Dらと口裏合わせをした旨を述べた上で,被告人Cが被害者らに対して

いいねえー,いいねえ。

とからかったことが本件の発端である旨供述し始め(乙6)
,翌3日の警察官の取調べでも,被
害者らを追い越す際に,

いいねえー,いいねえ。

と声をかけ,追い越した直後に被害者らの方を見たところ,被害者と目が合い,

何見とんじゃ,こら。

と怒鳴られた旨供述し(乙8),同月9日の検察官の取調べ
においては,飲酒により気が大きくなり,調子に乗って,被害者らを追い越す際に,被害者らをちらっと見るとともに,
ええのう。」か,
いいねえ。」という言葉をぼそっと言ったところ,被害者らを追い越した直後に,被害者から

何見とんじゃ。

と文句を言われた旨供述するに至っている(乙10)

そして,被告人Cは,少年審判では,「すれ違う時に僕が

いいねえ。いいねえ。

と声をかけたかもしれなくて。」「その人のところを通り過ぎる時に声をかけたかもしれなくて,それは自分自身でもあんまり覚えてなくて,他の人が言っているというから考えて言ったかもしれなくて」「言っていない記憶が強いのです。最初は。しかし,D君とかが言っていると言われたら,自分も不安になってきて,言ったかもしれないと思い始めてきたのです。それまでは言っていないと思っていました」と供述している(乙37)

さらに,被告人Cは,差戻前1審において,「被害者らを追い越す際に,首を右に曲げて被害者らをちらっと見たが,声をかけた記憶はない。」と供述する一方で(差戻前1審の第5回公判期日における供述)
,「被害者
らを追い越す際に,被害者らをからかうような言葉を言ったかもしれないということは認めるのか。」との質問に対しては,

言われてみたら,ほかの人が言っているんで,そうです,はい。

と答えている(差戻前1審の第6回公判期日における供述)

ところが,被告人Cは,当審になって,「e前路上で自転車を西に向け終わったときに,自転車に乗って被害者らの左後方を走行していた被告人Dが,

ようやるわ。

と言ったのを聞き,その後に自転車に乗った自分が,被害者らを追い越す際に被害者らの方を見たところ,被害者から

何見とんじゃ。

と言われた。」とこれまでとは違った供述をし始め,この点については,「平成17年7月29日の検察官の取調べの後,留置場に戻り布団の中で,情景を思い出しているうち,被告人Dが「ようやるわ。」と言ったことを思い出した。」「しかし,このことを話すと,取調べが長引くと思ったことから取調べでは話さなかった。また,被告人Dとの交友を続けたかったことや,被告人Dに不利なことを供述すると周囲から悪者扱いされると思ったこと,留置場で同房であった少年から試験観察か保護観察で帰れると言われており,被告人Dの父親からも軽い処分になると聞かされていたことなどから,8月4日に接見に来てくれた中園弁護人にも話さなかったし,親族にも言わなかった。」「差戻前1審の第8回公判で,被告人Dが自分の目の前で自分が被害者をからかうようなことを言ったというのを聞き,大きなショックを受け悔しくて夜も寝られなかったが,被告人Dのことを母親に言うと,それが外部に知れて仲間から悪者扱いされると恐れたし,弁護人の接見でも言わなかったのも,嘘をついていると疑われるのではないかと恐れ,言わなかった。」「ところが,平成18年9月22日に保釈になって釈放され,家で被告人Dのことを母親に話したが,その時には弁護人にも話をしないでおこうと思っていたが,同月26日,塩川弁護士らと会ったとき,同弁護士らの顔を見ていると,今までずっと自分の力になってくれたことを考えて,会ってすぐに被告人Dのことを話した。」と供述するに至っているのである。

このように,被告人Cは,捜査段階から当審の前までは,被害者をからかうような言葉を自分が言った記憶はないとか,あるとか供述していたのに,当審に至って,突然,被告人Dがそれを言ったと供述し始めたので,まずは,後者の供述の信用性について判断を進める。
そもそも,被告人Dが被害者をからかうような言葉を言ったというのであれば,それが発端となって同人の怒りを呼び起こし,殴り合う喧嘩にまで発展しているのであるから,被告人Dが喧嘩のきっかけを作った張本人であって責められるべき人物であることは誰の目から見ても明らかであり,そのような被告人Dが,本件事件の数十分後に,わざわざ被告人Cに対し,「おまえがわるいけど」などという電子メールを送信するはずがないのであって,そのような電子メールを送信しているということは,被告人Dが上記文言を言っていないことの証左と見るべきである。
次に,上記のとおり,被告人Cは,捜査段階で,被害者をからかうような言葉を言ったのは被告人Dであることを思い出したというのであるが,そうであるならば,その後の少年審判で,被告人Dのことを言い出せなかったにせよ,自分はからかうような言葉を言っていないと明言するのが普通であり,からかうような言葉を言ったかもしれないなどといった趣旨のあいまいな供述をするはずがないのであって,そのような供述をしているということは,被告人Cの当審での上記弁解に多大の疑念を生じさせるものである。さらに,被告人Cは,被告人Dがからかうような言葉を言ったのを思い出しながら,
平成18年9月22日までそれを言わなかった理由について,
あれこれと主張しているが,上記のとおり,被告人Cは,被告人Dにおいて,被告人Cがからかうような言葉を被害者に言ったと述べていることを知っていることを前提にしながらも,両名とも検察官送致になった後,被告人Dに対し,

でもDに言いたい。自分の思いや,思っている事,言いたい事は言えよ。投げやりにはなるなよ。俺もそーするし。

などといった手紙を送付していることなどから,被告人Dのことを言えば,交友関係を続けられなくなるとか,周囲から悪者扱いされると心配していたとは考え難いものがあるばかりか,少年審判で,付添人から,

あなた自身はこの事件が最終的にどういう風になると予想しているのですか。と聞かれ,

少年院か刑事裁判になるかどちらかだと思っています。

と答え,さらに,

それについて,僕達が何か意見を言ったことがありますか。

と尋ねられ,

いいえ。「分からないよ。

と言われました。」と述べているこ
とに加え,検察官送致になった後,被告人Dに宛てた手紙において,

俺も審判は逆送になると覚悟していた。

といった内容を記載していることからすると,もともと,被告人Cは,本件につき,試験観察や保護観察といった比較的軽い処遇になるとは思っていなかったと認められるのであり,したがって,被告人Cが被告人Dのことを言わなかった理由として挙げている諸点は,他の証拠に照らすと,いずれも説得力に欠け,人を納得させるに足りるものではない。
しかも,被告人Cは,差戻前1審の第8回公判期日において,被告人Dの言葉を聞き,大きなショックを受けたが,被告人Dのことを母親に言うと外部に知れて自分が悪者扱いされるのを恐れて言わなかったと述べながら,保釈で釈放されたその日に母親に被告人Dのことを話したというのは腑に落ちないものがあるばかりか,弁護人には嘘をついていると思われるので長い間言わないでおいたと述べながら,保釈後弁護人に会って,すぐに被告人Dのことを話しているが,その理由として説明するところも人を納得させるに十分なものではなく,不自然な感を否めない。
このような事情を総合すると,被告人Cの当審での上記弁解の信用性はないというべきである。

もっとも,被告人Cは,上記のとおり,捜査段階では,逮捕,勾留されてから約10日間は被害者に声をかけたことを否認し,その後これを認める供述するに至っているが,
被告人Dに対して,
検察官の取調べは厳しく,
妥協しまくった趣旨の手紙を出していることや,その後の少年審判では,「他の人が言うのだったら,被害者に声を掛けたかもしれない。」との趣旨のあいまいな供述に終始している上,差戻前1審でも,ほぼ少年審判時と同様の供述をしていることにかんがみると,被害者に声をかけたことを認めた被告人Cの捜査段階の上記供述は,被害者が被告人Cを怒鳴りつけその後も執ように被告人Cに対する攻撃を続けようとしていたことや,上記電子メールの内容とも整合していることを考慮しても,信用性はそれほど高くないというべきである。

(3)

Eの当審における供述について
Eは,当審において,「本件当時,被害者と共に駐車場へ向かって歩いていたところ,前方から自転車に乗って向かってきた若い男性から,すれ違いざまに何か言われてうっとうしい気持ちになり,その後,もう一度若い男性の自転車が戻ってきて,被害者から待っているよう言われた後に喧嘩となった記憶がある。この時に声をかけてきた若い男性は,白っぽい服装だったかもしれないが,本件当時の被告人両名の着衣を見てもどちらが声をかけてきた男性の着衣かは分からず,被告人両名のどちらが本件当時見た若い男性かは分からない。」という趣旨の供述をする。イ
弁護人は,Eが,本件直前の飲酒状況や被害者との会話,若い男性が自転車に乗っていたことなど,本件当時の出来事について相当程度記憶していることから,Eの上記供述には高い信用性が認められるとした上で,(ア)最初に若い男性とすれ違った際に不快な言葉をかけられたという点は,先行していた被告人Dが被害者らをからかうような発言をしたという被告人Cの供述と一致しており,(イ)不快な言葉をかけた若い男性は白っぽい服装であったという点は,青地にオレンジの花柄のアロハシャツを着用していた被告人Cではなく,大部分が淡い灰色の半袖シャツを着用した被告人Dの服装と概ね合致しているので,これらのことは,被告人Dが被害者らをからかうような発言をしたという被告人Cの上記供述を裏付けるものである旨主張する。
しかし,Eの上記供述は,被害者らをからかうような発言をしてきた若い男性が,被害者らの正面から対面して進行してきたという点で明らかに動かし難い事実と異なっている上,Eは,本件当時,酒に酔っていたため,一人で立っていたり歩くことが困難で,本件事件後も,第三者に発見されるまでの約1時間にわたりeの1階入口で寝込んでしまうほどの泥酔状態にあったことや,E自身も,本件当時はこれまで経験したことがないほどに酩酊していたため,被害者と居酒屋を出た後に転倒したことなど当時の出来事をよく覚えていないと供述していることからすると,その記憶はもとより,当時における事実認識の正確性にも重大な疑問があるのである。そうすると,(ア)Eは,上記のとおり,すれ違った男性が戻ってきた後,被害者がその男性に対しちょっと待てと言って喧嘩となった旨供述しているが,この点も,男性とすれ違った辺りの記憶は大きく誤っている部分もあることなどからすると,男性が戻ってきたことと,喧嘩になった順序の記憶も必ずしも正確である保証はなく,被告人両名に追い越された後に,自転車で走行してきたBともすれ違ったEが,最初に被害者らを追い越した被告人Dには気付かないまま,次に被害者らを追い越した被告人Cを最初にすれ違った若い男性と認識し,その後にBとすれ違ったのを若い男性が戻ってきたと誤認した可能性も否定できないし,また,(イ)声をかけてきた若い男性の服装についても,よく分からないと述べたり,何となく白っぽい服だったというくらいの記憶かと問われて「はい。」と答える程度のEの供述から,声をかけてきた男性が白っぽい服を着ていたとまで認定するのは無理がある。
したがって,記憶のみならず,そもそも認識の正確性についてすら重大な疑問があるEの上記供述の信用性はかなり低いと判断すべきであり,この供述をもって,被告人Dが被害者らをからかうような発言をしたという被告人Cの当審での弁解を裏付けるものとは到底考えられず,被告人Cの弁護人の上記主張は採用できない。(4)

以上の検討によれば,信用できる被告人Dの上記供述等関係証拠による
と,被告人Cは,被害者らを追い越す際に,

ようやるわ。

などと被害者
らをからかうような発言をしたと優に認められる。
2
被告人Cが被害者に対して応答した際の口調について
(1)

被告人Cは,何見とるんじゃこら。と怒鳴った被害者に対する応答(上

記第1の3(3))について,逮捕当日である平成17年7月22日の警察官の取調べにおいては何ら供述していなかったものの(乙3)
,同月27日及
び同年8月3日の警察官による取調では,いずれもハーッと言った旨供述し(乙4,8)
,同月9日の検察官の取調べにおいては,被害者から文
句を言われたことで頭に来て,被害者に対し,
はあ。」と挑発的な感じで
答えた旨供述している(乙10)

そして,少年審判でも,「その時からカッとなってたので後先のことを考えずに,何を言っているのかという感じで「はあ。」と言ったが,この発言を隠しておきたいと思って口裏合わせをした。」言われていることに「何やという感じで「はあ。」と言いました。」などと供述をし(乙37)
,差
戻前1審においても,「なぜ被害者からそのようなことを言われなければならないのかという気持ちから,
はあ。」と言ったが,この発言があると自
分たちの方が悪くなると思い,この事実を隠そうと口裏合わせをしたのであり,その言い方は語尾が上がるイントネーションで,相手をいらだたせるようなものであった。」と供述している(差戻前1審の第5回及び第6回公判期日における各供述)
。ところが,被告人Cは,当審になって,それまでの供述を変え,被害者に対し,同人が発した言葉の意味を尋ねるように,語尾を上げずに「はっ。」と聞き返しただけであって,その口調は同人を挑発するようなものではなかった旨供述するに至っているのである。
(2)ア

そこで,被告人Cの上記各供述について検討すると,①上記のとおり,
被告人Cは,自分が「はぁ」と言ったことが分かれば,自分たちの方が悪くなるから隠していたという供述部分は具体的で,真実味がある。また,②被告人Cは,捜査段階から差戻前1審までは,一貫して,語尾の上がった挑発的な口調で「はあ。」と言った旨供述している(そればかりか,当審で被告人Cの弁護人が提出した2008年9月30日付け意見書にも,

(被告人Cは)驚きと,どうして自分が怒鳴り付けられなければならないのかという気分から,「はぁ。

と言った」旨記載されているのである。)上,被告人Dもまた,同様に捜査段階から当審に至るまで,一貫して,被告人Cが挑発的な口調で「はあ。」と言った旨供述しており,その信用性に疑問を入れる余地はないと思われ,その供述と被告人Cの上記供述は相互に合致しており,その信用性を補強し合っているといえる。そして,③被告人Cは,上記のとおり,当審において,それまでの供述を変えた理由について合理的に説明できておらず,差戻前1審での供述内容について確認されると,語尾を上げるイントネーションであったと供述した記憶はなく,そのような供述をした理由も説明できないなどと,自己に不利益な点について,はぐらかそうとする傾向がうかがわれる。以上の①ないし③の諸点に照らすと,被告人Cは,「何見とるんじゃ。」と怒鳴ってきた被害者に対し,挑発するように,語尾を上げて,「はぁ」と言ったことは明らかであり,これに反する当審の被告人Cの供述は全く信用できない。

これに対し,被告人Cの弁護人は,(ア)被告人Cが,挑発的な口調で「はあ。」と言ったという捜査段階の供述は,被告人Cの消極的な性格と合致しないことや,(イ)当時18歳の高校生であった被告人Cの供述調書の記載内容は正確ではなく,取調官の見込みによる記載があることから,挑発的な口調で「はあ。」と言った旨の被告人Cの捜査段階における供述は信用できない旨主張する。
しかしながら,(ア)本件当時,被告人Cは飲酒した直後であり,また友人である被告人DやBも一緒にいたことからすると,被告人Cが消極的な性格であったとしても,怒鳴りつけてきた被害者に対して挑発的に口答えをすることも十分考えられる。そのことは,被害者から胸倉を掴まれた後に,同人から顔面を殴打されそうになり,それをほぼかわしながら,逃げようともせず,すぐに右手,左手,そして右手と手拳で3回被害者の腹部付近を殴りつけて仕返しをしようとするなど向かっていっていることからも裏付けられている。また,(イ)被告人Cは,捜査段階のみならず,少年審判時や差戻前1審においても,捜査段階と同様の供述をしていることからすると,この点に関する被告人Cの供述調書の記載が取調官の見込みによるものであったり不正確であったりしたということは考えられない。
したがって,被告人Cの弁護人の上記主張はいずれも採用できない。3
被告人Cが被害者と向かい合うまでの行動について
検察官は,被告人Cが自転車を降りた後,同車を倒して被害者に向かって行った旨主張するのに対し,被告人Cの弁護人は,被告人Cが,自転車を降りてそのまま被害者の方を向いたのではなく,同人から胸倉を掴まれたために同人と向き合う体勢となった旨主張するので,この点について検討する。(1)

被告人Cの供述について
被告人Cは,平成17年7月27日の警察官の取調べでは,被害者に対し腹を立て,自転車から降りて被害者と向かい合ったところ,同人が両手で被告人Cの胸倉を掴んできた旨供述し(乙4)
,同年8月3日の警
察官の取調べにおいても,被告人Cと被害者が向かい合う状態で,同人が被告人Cの胸倉を両手で掴んできた旨供述していたのであり(乙8),
同月9日の検察官の取調べでは,被害者に自転車を蹴られたことからますます頭に来て,自転車を降りて「何やと。」と言いながら被害者に向かって行くと,被害者が被告人Cの服を掴んできた旨供述するに至っている(乙10)

そして,少年審判では,付添人から,「それで自転車から降りて,自転車をそのままそこに倒して,被害者の方を向いたら,いきなり襟首を捕まれたのですか。」と聞かれ,「はい。」と答え,「僕がつかみ返してからはお互いに押されたり,引っ張られたりしていました。」と供述している(乙37)

しかるに,差戻前1審において,被告人Cは,「自転車を蹴られ,腹は立った。右足を上げて右に回し自転車の方に向いて降りた。そして,そのままハンドルから手を離して自転車を倒した。すると,自分の横にいた被害者から,右手で左襟を掴まれ,右回りに回る感じで同人と向き合い,右襟を掴まれた。捜査段階では,被害者の方を向いたことと,被害者から襟を掴まれたこととの先後関係は意識していなかった。」

つかんでこられたら,やっぱりやり返さなあかんと思いました。

などと供述を一部変えている(差戻前1審の第5回及び第6回公判期日における各供述)

ところが,被告人Cは,当審では,さらに,供述を一部変え,「自転車を降りた後,ハンドルを握っていた状態で被害者から胸倉を掴まれたため,ハンドルから手を離したので自転車が倒れた。そして,被害者の両袖を掴み返した。」との趣旨の供述をするに至っているのである。イ
そこで,被告人Cの上記各供述について見るに,①まず,被告人Cは,捜査段階,次いで,少年審判時,差戻前1審,そして,当審と時を経るにつれ,自らの行為をより消極的,受動的なものであったように供述を変遷させており,しかも,その変遷の理由につき何ら合理的な説明をしていないことからすると,全体として,自己保身の気持ちが強くなっていると思われ,後の供述ほど真実を語っていない疑いが濃厚であると認められるのである。さらに,具体的には,②被告人Cは,捜査段階のみならず,少年審判時においても,自転車から降りて,自ら自転車から手を離してそれを倒し,被害者の方を向いた後に,同人から胸倉を掴まれたとの供述をしていたのであり,その供述の信用性に疑問を入れる余地は乏しく,しかも,その内容は,被告人Cが自転車を降りて被害者に向き合ったとする被告人Dの検察官に対する供述(乙21)とも合致している。また,③被害者がその直前には被告人Cの乗っていた自転車の後輪泥よけを蹴るという行動に出ているのであるから,このような事態に対応すべく右足を時計回りに回して自転車を降りた被告人Cが,自分に怒鳴りながら向かってきた被害者の方を向くというのは自然,かつ合理的であり,それに対し,差戻前1審で述べているように,自転車を倒した後,被害者の方を向かずに,倒した自転車の方を向いて降りたというのは,状況からして,いかにも不自然極まりない。しかも,④警察に自首する前に,被害者が突然自転車を蹴ってきたことにするなど,責任軽減のため,喧嘩となった経緯について被告人Dらと口裏を合わせていた被告人Cが,被害者の方を向いたのが先か,同人から身体の一部を掴まれたのが先かという,被害者による直接的な暴行が開始された際の状況について,捜査段階はもとより少年審判においても意識していなかったという差戻前1審における被告人Cの供述も不自然というほかない。以上の①ないし④の諸点に照らすと,被告人Cは,自転車を降りてから,自転車を立てかけることもできたのに,わざわざ自分で自転車をその場に倒した後,被害者の方を向いた際,その胸倉を被害者から掴まれたとの事実を認定することができる(もっとも,上記のとおり,被告人Cの検察官調書(乙10)には,被告人Cが被害者に向かって行ったとの記載も存するが,それを裏付ける証拠は他にないことなどから,同記載部分の信用性は乏しいといわざるを得ない。)。
(2)

ところで,被告人Cは,被害者から胸倉を掴まれた直後に同人を掴み返
しているところ,捜査段階においては,一貫して被害者の両腕を掴んだと供述していることや,被害者の左右上腕には,ほぼ左右対称に同じ位置に打撲傷(皮下出血)が存するところ,その二つの傷の位置関係や,本件における被告人D及びBの各暴行には,いずれも被害者にそのような傷害を生ずるものが認められないことなどからすると,被害者から胸倉を掴まれた被告人Cが,被害者の両腕を掴み返したものと認定するのが相当である。4
被告人Dの被害者に対する暴行の態様とその目的について
検察官は,被害者の第5,第6肋骨の骨折は,被告人Dの足蹴りによるものであり,その足蹴りは被害者を攻撃するためのものであった旨主張するのに対し,被告人Dの弁護人は,被害者の上記骨折は被告人Cの手拳による殴打によって生じたもので,被告人Dは,右足で被害者を蹴ったのではなく押しただけであり,また,その暴行の目的も,もみ合っている被告人Cと被害者とを引き離すことにあった旨主張するので,この点について検討する。
(1)ア

上記第1の6で認定したとおり,被害者には,第5,第6肋骨の骨折
を伴う左側胸部打撲傷が認められるところ,本件証拠上,上記傷害の原因となった打撃は,被告人Cの手拳による殴打(上記第1の3(5))か,または,被告人Dの右足での暴行(上記第1の3(6))しか考えられないのである。
そして,肋骨骨折を伴う被害者の左胸部の打撲傷の存在及び被告人Dから足での打撃を受けた被害者が二,三歩後方に後退していることなどからすると,その打撃は比較的力の込められたものであったと推認されることに加え,①被害者を殴打しようとした被告人Cの手拳が2回当たった被害者の腕には,これにより生じたと考えられる負傷が見当たらないこと,②被害者と体格がほぼ同じ被告人Cの手拳による殴打に比べ,過去に空手を習ったことがあり,初段の直前の初級まで資格を取得しており,その体格も被害者よりも大柄である被告人Dが足で打撃を加える方が被害者の身体に与えるダメージは強いと思われることをも併せ考えると,被害者の左胸部の上記傷害は,被告人Dの右足での暴行により生じたものと認めるのが相当である。

これに対し,被告人Dの弁護人は,(ア)被告人Dが被害者に対し右足で暴行を加えたのは同人のへその上の辺りであり,同人の上記傷害の部位とは異なっていること,(イ)被害者の皮下出血や骨折した肋骨の範囲は,被告人Dの足の大きさとは異なる一方,被告人Cの右手拳の大きさとは一致することから,被害者の上記傷害は,被告人Cの右手拳による殴打により生じたものであり,被告人Dの右足による暴行で生じたものではない旨主張する。
しかしながら,(ア)の点については,被害者の上記傷害の部位は,左胸部の乳首の左下で左脇腹と表現してもおかしくない上,骨折している第5,第6肋骨,とりわけ,第6肋骨は腹部に位置するとも見られる(当審弁7)ことからすると,被告人Dの打撃部位と被害者の上記傷害の部位が矛盾するとまではいえない。
また,(イ)の点は,足の裏で蹴りつけた場合であっても,足の裏の全面が被害者の身体に接触するわけではないから,被告人Dの足の大きさと被害者の皮下出血や骨折の範囲が必ずしも一致するものではなく,同様に被告人Cの右手拳と同じ大きさの皮下出血等の傷害が生ずるものともいえないから,上記傷害の範囲との比較により,その原因が被告人Cの右手拳による殴打であり,被告人Dの右足による足蹴りではないと判断することはできない。
したがって,被告人Dの弁護人の上記主張は採用できない。
(2)ア

ところで,被告人Dは,被告人Cと被害者との間に入っていった際(前
記第1の3(6))の暴行について,捜査段階では,被告人Cと一緒に被害者に暴行を加えようと考え,被告人Cと被害者との間に割って入るようにしながら,

お前,誰どついてんねん。

などと言って,右足の裏で被害者の腹部付近を1回蹴りつけた旨供述している(乙21)

そして,被告人Dは,少年審判では,もみ合っている被害者と被告人Cの間に入って2人を引き離そうと思い,被害者の腹の辺りを右足の裏で押すようにして蹴ったのであり,検察官の取調べにおいて,

加勢する気はなかった。

と言ったが,加勢する気がないのに足で入るわけがないと言われて「そうです。」と答えた旨供述している(乙39)。
さらに,差戻前1審においては,被告人Dは,被害者が優勢に見えたため,被害者を止めようという気持ちと,被害者に対する腹立ちの気持ちから,

おまえ,だれどついてんねん。

と言いながら,被害者の腹辺りを足の裏で押して,被告人Cと被害者との間に入ったが,跳び蹴りをしたという警察官調書の表現は事実と異なっている旨供述し,当審では,被告人Cと被害者の方へ歩いて行ったが,跳び蹴りはしていない旨供述している。

そこで,被告人Cと被害者との間に被告人Dが入った際(前記第1の3(6))の被告人Cの被害者に対する暴行の態様について検討すると,①上記のとおり,被告人Dの被害者に対する足による打撃は相当程度の力を込めてなされたものと推認されるところ,被告人Cは,被告人Dが蹴ったかどうかは分からないとしながらも,捜査段階から少年審判,差戻前1審を通じて,被告人Dが被害者ともみ合う被告人Cの右側から勢いよく入ってきた旨供述しており,このことは上記推認を一層強めるものである。そして,それは,被告人Dが,もめている被害者と被告人Cの方に急いで駆け付けて行ったことを示しているといえる。また,②差戻前1審で供述しているように,被告人Dとしては,被害者を止めようという気持ちと同人に対する腹立たしさから,同人と被告人Cの方に行ったというのならば,急いで2人の方に行くはずであり,歩いて行くことなどしないと思われる。このような事情にかんがみると,被告人Dは,被告人Cともみ合っていた被害者に走り寄った上で,勢いをつけて,その右足の裏で被害者の左腹部付近を押すようにして蹴りつけたとの事実を優に認定することができる。(3)

次に,被告人Dによる暴行の目的につき検討を進めるに,2人を引き離
すだけの目的であったのならば,より穏便な方法もあったと思われるのに,上記認定のとおりの被告人Dの被害者に対する足蹴は,それ自体が被害者の反発や反撃を招く可能性のある強度の攻撃であり,被告人Cと被害者を引き離すなど2人の間のもみ合いを終了させ事態を収拾するための行動を超えるものであることは明らかである上,被告人Dは,その暴行を被告人Cへの加勢と認識するであろう被害者に対し,
やめろ。」などと加勢する
意図がないことを分からせるような言動を一切とることなく,逆に,

だれどついてんねん。

などと,かえって被害者を挑発するような発言をしていることに照らすと,被告人Dの被害者に対する暴行が,単に被告人Cと被害者とを引き離すだけの目的で行われたと見ることはできない。
加えて,被告人Dは,被害者を足蹴りした後に,被告人Cに掴みかかろうとした被害者の肩や手を掴んで引っ張るなど,同人の被告人Cに対する新たな攻撃を阻止しているだけでなく,その後,被告人Dに対する攻撃を始めた被害者に対して,顔面付近を狙って殴りかかるなど積極的な攻撃を行ったばかりか,顔面を殴りつけて転倒させ,身動きをしない被害者の顔面を殴打したり足蹴りしたりするという激しい暴行を加え続けているのであって,このような被告人Dによる一連の暴行の態様や程度は,それ自体が,被告人Cに加勢して被害者を攻撃するという目的をも有して2人の間に入っていき暴行を振るったことを推認させる事情となるのである。そして,被告人Cに手を出した被害者に腹が立ち,被告人Cに加勢して一緒に被害者に暴行を加えようと考えて,被害者に対し上記の足蹴りをした旨の被告人Dの捜査段階における供述(乙21,なお,被告人Dの弁護人は,この調書の任意性を争っているが,関係証拠によると,被告人Dに対し,検察官による厳しい取調べがあったことは認められるものの,それが任意性に影響を与えるほどの違法なものではなかったと認められる。は,)
被害者に対して暴行を加えるにあたり,被告人Cに対して暴行を加える被害者を止めなければいけないという気持ちとともに,このような行動に出た被害者に対する腹立ちの気持ちもあったという被告人Dの差戻前1審における供述とも矛盾するものとまではいえないのに対し,自らの行動に関する差戻前1審以降になされた被告人Dの供述は,上記のとおり,もめている被害者と被告人Cの方に歩いて行ったなどと自らの行為を過小に供述したり,暴行の態様も自己防衛的な行為であるように供述する傾向がうかがわれることからすると,信用性は乏しいといわざるを得ない。
したがって,被告人Dの被害者に対する当初の暴行(上記第1の3(6)の暴行)は,単に被告人Cと被害者を引き離すだけにとどまらず,被告人Cに加勢し,共同して被害者に対し暴行を加える目的をも持って行われたと認めるべきである。
5
被告人Dと被害者との間に入った被告人Cの目的について
検察官は,もみ合っていた被告人Dと被害者との間に被告人Cが飛び込んだのは,被告人Dに加勢するためであった旨主張するのに対し,被告人Cの弁護人は,被告人Dと被害者とを引き離すためだけの目的で,被告人Dに加勢して被害者に暴行を加えるつもりまではなかった旨主張するので,以下,検討する。
(1)

この点について,被告人Cは,検察官の取調べにおいて,被告人Dと二
人がかりで被害者を痛めつけようと思い,被告人Dと被害者との間に飛び込んだ旨供述していたが(乙10)
,少年審判では,自分が原因となって被
告人Dと被害者との間のもみ合いが始まったため,その間に入って止めようと思った旨供述しており(乙37)
,差戻前1審でも,被告人Dと被害者
を引き離そうと思い,2人の間に無言で入った旨供述し(差戻前1審の第5回公判期日における供述)
,当審でも同様に2人を止めようと思ってその
間に飛び込んだ旨供述する。(2)

そこで,被告人Cの上記各供述について検討すると,被告人Dと被害者
との間に飛び込んだ際の被告人Cの行動は,被害者のみに向けられた暴行とまではいえないものであることや,被告人Cの弁護人の指摘するとおり,被告人C立会のもとで行われた実況見分調書(甲12)には,被告人Dと被害者との間に入って喧嘩をやめさせようとした旨の被告人Cの説明が記載されていることからすると,専ら被害者を攻撃する意図のみに基づいて被告人Dと被害者との間に飛び込んだとする被告人Cの検察官に対する上記供述の信用性には疑問が残る。
しかしながら,被告人Cは,被告人Dと被害者との間に飛び込んだ際には,
やめろなどといった被告人Dや被害者を制止するような言動を一切とっておらず,被害者に押しのけられた後にも,互いに掴み合いや殴り合いを続ける被告人Dと被害者の様子を見守るだけで,2人を制止するための行動に出ていないという当時の被告人Cの態度は,専ら被告人Dと被害者とを引き離そうという目的だけで2人の間に飛び込んだかのような被告人Cの少年審判時及び差戻前1審並びに当審での各供述内容と必ずしも整合するものではないし,飛び込んだ際に被害者らを制止するような言動をとっていない理由については,分からず,被害者に口を押されて口が若干痛かったので被告人Dと離そうとする気が失せたという被告人Cの差戻前1審での供述(差戻前1審の第6回公判期日における供述)も,説得力に欠けるものであって,専ら被告人Dと被害者を引き離す目的だけで2人の間に飛び込んだという被告人Cの供述は信用性に乏しいといえる。そして,先に指摘したとおり,被告人Cが,被告人Dと被害者との間に飛び込んだものの,被害者に押し戻された後には,被告人Dと被害者とを引き離そうとする言動を一切とっておらず,被害者が転倒した後にも一方的に強度の暴行を加える被告人Dを制止しようとはしていなかったことに加え,そもそも,被告人Cは,当初は,被告人Dと被害者がもめているところに入っていったことを隠していたところ,その理由として,そのような行動をしたと述べたら,怪しまれると思ったからであると述べている(差戻前1審の第6回公判期日における供述)が,本当に止めようとして2人の間に入ったのならば,被告人Cにとって有利な事柄であってそのまま正直に話せばよかったのであって,わざわざ隠していたということは,飛び込んだ点にやましいものがあったからではないかと推察されることからすると,被告人Dと被害者との間に飛び込んだ被告人Cには,被告人Dと被害者とを引き離そうという目的だけではなく,被害者ともみ合っていた被告人Dと共に,被害者に対して暴行を加える目的もあったと推認することができる。
(3)

これに対し,被告人Cの弁護人は,被告人Cが,被告人Dと共に被害者
に暴行を加える目的で被告人Dと被害者の間に飛び込んだのであれば,被害者から押し戻された後も同人に向かっていくはずであるところ,被告人Cはそのような行動に出ていなかったのであるから,被告人Cに上記の目的がなかったことは明らかであると主張する。
確かに,被告人Cは,被告人Dと被害者との間に飛び込んだ後に被害者から押しのけられ,その後は被害者に対する積極的な攻撃には出ていないものの,被告人Dが,被害者と相互に位置を変えながら,両手を突き出して勢いよく迫ってくる被害者に対し,その顔面付近を狙って二,三回殴りかかっていたという闘争状況に照らせば,被告人Cにおいて,被告人Dと被害者を引き離そうという目的のみならず,被告人Dと共に被害者に暴行を加える目的をも持ちながらも,被告人Dが被害者の攻撃に防戦しつつ,積極的に攻撃を試み喧嘩を優勢に進めていたことから,被告人Dに任せておこうとの気持ちから,2人の状況を見守っていたとしても不自然ではなく,このような被告人Cの態度から,直ちに被告人Dと共に被害者に暴行を加える目的がないと見ることはできない。
よって,この点に関する被告人Cの弁護人の主張は採用できない。第3

被告人両名の間及び被告人両名とBとの間の各共謀の成否及びその時期に
ついて
1
まず,被告人両名の間における共謀について検討すると,被告人Cによる当初の被害者に対する暴行(上記第1の3の(4)及び(5)における被告人Cの各暴行)については,当該暴行自体はもとより,その発端となった被告人Cと被害者との間のやりとりについても,被告人Dは何ら関与しておらず,被告人Cは被告人Dとの間の意思疎通もないままに,上記の各暴行に及んでいるのであるから,被告人Cと被告人Dとの間で,明示又は黙示による意思の連絡があったとは認めることはできない。
また,被告人Dが被害者の腹部付近を足蹴にするなどした暴行(上記第1の3の(6))についても,上記第2の4で認定したとおり,被告人Dについては,被告人Cに加勢し,それまで被害者に対し暴行を加えていた被告人Cと共同して,被害者に対する暴行を加えようという意思に基づいて被害者に対する上記暴行に及んだと認められるものの,被告人Dと被告人Cとの間でこの点に関する明確な意思疎通はなく,被告人Dが間に入った直後には,なおも被告人Cに向かってきた被害者に対する被告人Cの攻撃がみられなかったことからすると,被告人Dの上記暴行についても,被告人Dと被告人Cとの間で,明示又は黙示による意思の連絡があったと認めることはできない。
しかしながら,その後,被告人Cにおいて,被告人Cに加勢するように開始した被告人Dの被害者に対する暴行を制止しなかったばかりか,互いに掴み合ったり殴り合ったりしていた被害者と被告人Dとの間に入ろうとするなど,自らも被害者に対する暴行に関与しようとしていたのであるから,被告人Cが被告人Dと被害者との間に入った時点においては,被告人両名の間で,暗黙のうちに,被告人両名が共同して被害者に対する暴行を加えるという意思を相通じたとみることができるのであり,この時点で,被害者に対する暴行についての共謀関係が成立したと認めるのが相当である。
2
そこで,次に,被告人両名及びBとの間における,被害者に対する暴行に関する共謀の成否について検討すると,被告人両名が被害者に対し暴行を加えるという事態は,本件現場付近で偶然通りかかった被害者と被告人Cとの間のやりとりから突発的に生じた出来事であり,また,Bは,被害者と被告人Dがもみ合っているのを見た時点(前記第1の4(1))以前の被告人両名の被害者に

する各暴行については全く認識していなかったのであるから,被告人両名の

の時点までの暴行について,被告人両名とBとの間に,明示又は黙示による

思の連絡を認めることはできない。
また,Bは,その後の被告人Dによる被害者に対する暴行(前記第1の3(9)の暴行)についても,これを目撃し,暴行を加えている被告人Dに近づいているものの,被告人Cに事情を尋ねたのみであり,被告人Dに加勢し共同して被害者に対し暴行を加えようとした言動はみられないことからすると,これらの暴行についても,被告人両名との間で明示又は黙示による意思の連絡があったと認めることもできない。
さらに,Bが被害者に対して加えた暴行(前記第1の5の各暴行)についても,Eがeに向かったことを察知した被告人Cが逃走しようと提案し,これに応じた被告人Dが,被害者から離れて自転車に向かうなど,被告人両名の被害者に対する一連の暴行が終了した後に,被告人両名と何らの意思疎通もないままに,倒れていた被害者に対し一方的に加えたものであり,被告人両名とBとの間に明示又は黙示による意思の連絡があったと認めることはできない。したがって,被告人両名とBとの間では,被告人両名の被害者に対する各暴行及びBの被害者に対する各暴行のいずれについても共謀関係の成立は認められず,被告人両名とBとの間では,被害者に対する暴行の共同正犯は成立しない。
第4
1
同時傷害の適用と被告人両名の罪責について
Fの鑑定書(甲31)及び差戻前1審における同人の証言によれば,被害者の死亡原因であるくも膜下出血は,同人の右側頭後頭部に対して加えられた外力により生じたと考えられるものの,被害者の顔面及び頭部の負傷状況に照らすと,いずれの部位に対する打撃も相当強い外力であると推測できるから,被告人D又はBのいずれの暴行により外傷性くも膜下出血が生じたのかを確定することはできないものと認められる。2

そして,本件各暴行の態様,暴行を受けた際の被害者の様子や対応等に照らせば,被告人Cの被害者に対する暴行や,被告人Cとの間の共謀関係が成立する以前における被告人Dの被害者に対する暴行は,いずれも外傷性くも膜下出血の原因となるような被害者の頭部に対する強度の打撃ではなく,これらの暴行により被害者に外傷性くも膜下出血が生じたものではないと認められる。他方,被告人Cとの共謀関係に基づき,被害者を路上に転倒させてその頭部を路面に打ち付け,さらに倒れていた被害者の顔面や頭部を殴ったり蹴りつけたりした被告人Dの暴行や,倒れている被害者の頭部を蹴りつけたり踏みつけたBの暴行は,いずれも被害者に生じた外傷性くも膜下出血の原因となり得る暴行であると認められるところ,本件では,このうちのどの暴行が被害者に外傷性くも膜下出血の傷害を負わせたものであるかは分からない。したがって,本件では,被告人Cとの共犯関係に基づいて被告人Dが加えた暴行と,被告人両名と共犯関係がないままにBが加えた暴行のいずれが被害者に外傷性くも膜下出血の傷害を負わせたのかは不明であるから,その死因となる傷害を被害者に負わせた者が被告人D又はBのどちらであるかは知ることができない場合となり,被告人両名には,刑法207条に基づき,被害者に対する傷害致死の共同正犯が成立する。

第5
1
被告人Cに関する正当防衛の成否について
以上のとおり認定した事実関係を前提に,まず,被害者の被告人Cに対する一連の暴行が,被告人Cに対する急迫不正の侵害に当たるか否かを検討する。(1)

そもそも正当防衛は,法秩序に対する侵害の予防ないし回復のための実
力行使にあたるべき国家機関の保護を受けることが事実上できない緊急状態において,私人が実力行使に及ぶことを例外的に適法として許容する制度であるところ,予期された侵害であっても,これに直面すれば緊急状態に陥ることがあるのだから,侵害を予期していたことのみをもって直ちに侵害の急迫性が失われるとはいえない。
しかしながら,単に侵害を予期していたのみならず,その機会を利用し,侵害者に対する積極的な加害の意思で実力行使に及んだ場合には,そもそも国家機関に保護を求めるつもりがないのであるから,緊急状態に陥っていたとはいえないのであり,このような場合には,侵害の急迫性が認められず,正当防衛は成立しない。
(2)

そうすると,被告人Cは,その歩行状況から酩酊状態にあることが明ら
かな被害者について,

ようやるわ。

などとその行動をからかうような言葉を,深夜の路上約3メートル程度の距離という被害者の耳に入ることが容易に察することができる状態で発していることや,その後も挑発するように語尾を上げて「はあ。」と応答するなど,被告人Cよりも年上である被害者の感情を害し怒らせる可能性のある言動をとっていたのであり,被告人Cに向けて怒声を発した被害者に対し,被告人Cが驚くことなく対応していることからすると,被告人Cは,上記の言動により,被害者が感情を害することをある程度予想していたものと認められる。
そして,実際に被告人Cの言動に腹を立てて怒号を発し,それを聞いて停車した被告人Cの自転車に近寄って後輪の泥よけを蹴った被害者に対し,自転車を降車して,これをわざわざ路上に倒すとともに,自ら被害者と向き合った被告人Cの一連の行動は,予想に違わず感情を害した被害者が,有形力の行使に及ぶほどに立腹していることを認識した上で,その攻撃があれば,それに対し反撃をしようという挑戦的,かつ闘争的な態度と見られるのであり(このことは,被告人Cが,少年審判時に,

その後,あなたは,自転車を)蹴られてむかっときたわけですか。と聞かれて,「はい。」(

と答えていることからも裏付けられている。),このような態度をとった被告人Cには,被害者がさらなる有形力の行使に及ぶであろうという予想を前提に,そのような事態になれば,被告人Cも同様に,被害者に対し有形力を行使しようという意思があったものと認めるのが相当である(このことは,仮に,被告人Cがからかうような言葉を言っていなかったとしても,同様である。)。
さらに,向かい合った被告人Cの胸倉を掴むという被害者の行動は,被告人Cの身体に対する被害者のさらなる攻撃を予想させる行為であるところ,このような被害者の行動に直面した被告人Cは,ひるむことなく被害者の両腕を強く掴み返しているのであるから,被告人Cの身体に直接有形力を行使してくるという被害者の行動は,被告人Cも予想していたものであり,この時点においては,その後に被害者がさらに殴る蹴るといった攻撃に出ることをも,被告人Cは十分に予期していたものと認められる。(3)

そして,被告人Cが,上記のとおり,被害者に対する挑戦的,かつ闘争
的な態度をとっていた上,被害者の口元付近を押して胸倉を掴んだ被害者の手を離したり,その後被告人Cの顔面を殴ろうとした被害者の手拳をかわした後も,被害者と対峙し,その腹部目がけて3回にわたり連続して殴打行為をするなど,酩酊していた被害者の攻撃と比較しても,より強度の攻撃を積極的に続けているのであり,被告人Cが,自らは被害者に対する暴行を止めた後も,被告人Dの被害者に対する暴行を止めようとはしていなかったことなどからすると,被告人Cには,上記のとおり,被害者による侵害行為を予期した時点で,同人に対する積極的な加害行為に出る意思があったものと認めるべきである。
2
したがって,本件では,被告人Cにおいて,被害者による侵害行為の十分な予期に加えて,同人に対する積極的加害意思の存在が認められるから,被害者の被告人Cに対する侵害行為は急迫性を欠くと解されるので,被告人Cには正当防衛が成立する余地はない。

第6
1
被告人Dに関する過剰防衛の成否について
被告人Dについても,同様に,被害者の被告人両名に対する暴行が急迫不正の侵害に当たるか否かを検討する。
被告人Dは,上記のとおり被害者の感情を害する被告人Cの一連の言動や,これに立腹した被害者の行動を見聞していた上,被告人Cと被害者が互いに掴み合う状態となった際にも,当初はこの様子を見ていただけであったことからすると,被告人Cの言動に立腹し,被告人Cの乗車する自転車を蹴ったり被告人Cの胸倉を掴んだ被害者が,被告人Cに対し殴る蹴るといった攻撃に及ぶことを予想していたと認められるのであり,その後,被告人Dが被害者に対する暴行を開始するまでの間に,被害者が被告人Cに対して素手で加えた攻撃は,被告人Dの予想する侵害行為の態様や程度を超えるものではなかったと認められる。
そして,被告人Cに加勢する目的もあって,勢いよく被害者に近づき,その腹部付近を強い力で足で押して蹴りつけるという強度の攻撃を加え,その後も被害者の顔面を殴打したり,倒れ込んで動かない被害者の頭部や顔面を殴る蹴るという攻撃を加えた被告人Dには,
被害者に対する攻撃を開始した当初から,
被害者に対する積極的な攻撃意思があったと認められる。
2
したがって,本件では,被告人Dについても,被害者による侵害行為の十分な予期に加えて,同人に対する積極的加害意思の存在が認められるから,同人の被告人両名に対する侵害行為はいずれも急迫性を欠き,これに対する被告人Dの過剰防衛が成立する余地はない。

第7

以上検討したとおり,本件では,被告人両名の共謀に基づいた被害者に対する暴行と,被告人両名とは共謀関係のないBの被害者に対する暴行のいずれかにより被害者が死亡するに至ったものと認められるから,被告人両名の犯罪事実としては,被告人両名とBとの同時傷害による被害者に対する傷害致死を主張する検察官の予備的訴因が認められるに止まり,被告人両名及びBの共謀に基づく暴行により被害者が死亡したという検察官の主位的訴因を認定することはできない。
そして,被告人Cについて正当防衛の成立を主張する被告人Cの弁護人の主張及び被告人Dについて過剰防衛の成立を主張する被告人Dの弁護人の主張はいずれも採用できないから,判示のとおりの事実を認定した次第である。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,飲酒した被告人両名とその友人が,深夜,路上において,女性と共に歩いていた男性を冷やかして喧嘩となり,被告人Cともみ合った後に,被告人D及び友人が男性に対しそれぞれ強度の暴行を加え,よって,いずれかの暴行により男性を死亡させたという傷害致死の事案である。
被告人両名は,当時,未成年であったにもかかわらず,深夜,飲食店やカラオケ店において,友人であるBと共に2時間以上にわたって飲酒をした後,帰宅しようと自転車に乗って走り始めたところ,酩酊した若い女性と共に前方を歩いていた被害者を見つけて追い越す際に,被告人Cが被害者らをからかうような発言をし,被告人Dも鼻で笑いながらそれぞれが被害者らをちらっと見たため,これに腹を立てた被害者が,追い越していった被告人Cを怒鳴りつけた。これを聞いて自転車を止めた被告人Cは,被害者の方を向いて挑発的な返答をしたところ,近づいてきた被害者から乗っていた自転車を蹴りつけられた。このため,立腹して自転車を降り同車を倒して被害者と向き合った被告人Cは,被害者から胸倉を掴まれたため同人の両腕を掴み返してもみ合いとなり,同人の腹部を殴打するなどし,被告人Dも被害者を勢いよく蹴りつけた後に,被害者に対して判示のとおりの暴行を加え,後にBが加えた暴行のいずれかによって被害者を死亡させているのであり,飲酒の影響があったとはいえ,挑発的な言動で被害者の怒りを買い,同人の粗暴な言動に暴力で対抗したという本件の経緯に同情の余地は少ない。
被告人Dは,被害者の顔面を手拳で殴打して路上に転倒させた後,抵抗はもとより防御すらままならない状態で路上に倒れていた被害者に対し,その頭部と顔面を手拳で殴打した上,顔面を足で蹴りつけるという暴行を加えたものであり,被害者を死に至らせる可能性のある暴行を一方的に加えたその犯行態様は極めて危険である。また,被告人Cも,上記のとおり被害者に対して挑発的な言動をとるなど本件犯行の原因となる被害者とのトラブルを招いたばかりか,被害者に押しのけられた後には積極的に暴行を加えていないものの,
被告人Dによる一方的な暴行を見守り,
被害者と一緒にいた女性がその場を離れていくのを見て逃げるよう声をかけているのであり,その責任は被告人Dのそれに比べても決して軽いものではない。本件犯行は,被害者の死という取り返しのつかない結果を引き起こしているところ,妻と幼い子どもを残したまま,別れを告げることすらできずにこの世を去った被害者の無念や苦悩は察するに余りあり,夫であり父である被害者を突然奪われた遺族が被告人両名に対する厳重な処罰を望んでいるのももっともである。そして,被告人Cにおいては,当審に至って,被害者にからかうような言葉をかけたのは被告人Dであると不合理な供述をするに至っており,どの程度深く反省しているのか疑問が生ずるものである。
このような事情に照らすと,
被告人両名の刑事責任には軽視できないものがある。
しかし,他方で,被告人Dは,自らの暴行などによって被害者を死に至らせたことを反省し,被害者やその遺族に対する謝罪の言葉を述べており,被告人Cも,本件の経緯について一部信用し難い弁解をしているものの,深夜に飲酒をした上での一連の行動については反省する態度を示していること,本件被害の弁償について,被告人両名がBと共に被害者の遺族に対し3000万円を支払う旨の調停が成立しており,各自1000万円ずつ合計3000万円が支払われていること,上記のとおり被告人Cの挑発的な言動が原因であり,
また飲酒の影響がうかがわれるものの,
被告人Cの自転車を蹴りつけたり被告人Cの胸倉を掴むといった被害者の冷静さを欠いた行動が本件犯行の原因の一つとなっていることは否定できず,その限度では被害者にも落ち度があったといえること,被告人両名は,被害者が死亡したことを知るや,家族にこれを打ち明けるなどして自首していること,被告人Cには前科前歴が全くなく,被告人Dも交通違反歴や喫煙による補導歴のほかには前科前歴がないのであって,被告人両名共に粗暴性や犯罪傾向はうかがわれないこと,被告人Cは逮捕から保釈までの約1年2か月,被告人Dは逮捕から差戻前1審の判決宣告までの約1年5か月といずれも相当長期間身柄を拘束されて,実質的な処罰を受けるとともに反省の機会を与えられたといえること,社会復帰後の被告人Cは,大学進学に向けて勉強を続け,被告人Dも高校を卒業して就職し,両親が立て替えた被害弁償の資金を返済するなど,被告人両名が共にその生活態度を改め,差戻前1審において指導監督を約束した両親のもとで真面目に生活をしていること,本件当時は被告人両名が未だ思慮分別が十分ではない未成年であったことなど,被告人両名にとって有利に考慮すべき事情もある。
以上の事情を総合考慮すると,被害者の生命を奪った本件犯行の結果の重大性にかんがみれば,被告人両名に対してはそれぞれ主文のとおりの刑を科すべきではあるが,被告人両名がそれぞれ更生に向けて努力している現在においては,引き続き社会において自力更生の努力を続けさせるために,その刑の執行を猶予することが相当であると考えた。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・被告人両名につきいずれも懲役5年)
平成21年2月9日

神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

東尾
裁判官

佐藤
裁判官

宮端龍一建謙一
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