判例検索β > 平成13年(わ)第344号
現住建造物等放火未遂、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反、住居侵入被告
事件番号平成13(わ)344
事件名現住建造物等放火未遂,傷害,銃砲刀剣類所持等取締法違反,住居侵入被告
裁判年月日平成14年4月26日
法廷名岡山地方裁判所
裁判日:西暦2002-04-26
情報公開日2017-10-13 01:47:28
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主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
押収してある文化包丁1丁(平成13年押第67号の1)及び100円ライター1個(同号の2)を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成8年ころ,客として行ったキャバレーのホステスであるA女に好意を抱き,交際するようになったが,平成9年ころ,A女が同店を辞めたため,被告人とA女の連絡は途絶えていた。
A女は,平成9年12月,Bと結婚したが,平成10年2月ころ,夫のBに内緒で多額の借金を抱え,その返済に行き詰まっていたため,被告人に電話をかけて,自己が結婚していることは秘密にしたまま,

友人にだまされて借金をした。それを返済しないと風俗店に売られてしまう。

などと嘘をつき,その返済資金として100万円を貸してほしいと頼んだところ,A女に同情した被告人は,100万円をA女に貸したが,A女は,これを被告人に返済しないまま再び被告人と連絡を絶った。
A女は,Bとの間に一人娘も誕生したが,未だ多額の借金を抱えており,そのことを依然Bには秘密にしていたため,平成11年9月ころ,再び被告人に電話をして,自己が結婚していることは明かさずに,

結局,風俗店に売られて,ホテトル嬢をやらされており,そこで父親の分からない子供を妊娠し,出産したので,連絡が取れなかった。

などと嘘をついて,生活費が足りないので金を貸してほしいと頼んだところ,A女に好意を抱いていた被告人は,
A女に同情して,
金を用立てた。
その後,A女は,自己が独身である,被告人といずれは結婚したいなどと嘘をついて被告人の気を引き,風俗店の借金があって一括返済したい,自分や友人の中絶
費用がいる,娘の入院費用がいるなどと嘘をついて被告人の同情を誘って,たびたび金を貸してくれるよう頼み,被告人がさすがに不審を抱くと,それならば別の人に頼む,ただし別の人に頼めば,その人と愛人関係にならざるを得ないなどと述べて,被告人のA女に対する気持ちに巧みにつけ入ったため,被告人は,いずれはA女と結婚して,A女の子供と3人で暮らしたい,A女と2人で働いて借金を返していけばよいと考え,知人や金融機関等から金を借りては,平成12年10月ころまでに,合計約1700万円をA女に貸してきた。一方,A女は,被告人から借りた金をほとんど全部ポーカーゲームにつぎ込んで使ってしまい,
また,
被告人に対し,
借金の返済を一向にしなかった。
しかし,そのころ,A女が住所を教えないことを不審に思った被告人は,A女の住民票を調べて,A女が姓をBの姓に改めていることを知って驚き,独身だと嘘をついていたのかと問いただすと,A女は,結婚していたことを認めたが,Bとは離婚する,被告人のことが好きだなどとその場限りの嘘をついたため,被告人も一応納得したものの,
A女がなかなかBと離婚しないため,被告人は,不信感を募らせ,A女の本心を知ろうと何度もA女に電話をしたり,A女の家に行ったり,遺書を書いて自殺を図ろうとしたりした。A女は,これに困惑し,嘘を糊塗するとともに,借金でBに迷惑をかけないようにするため,平成13年2月,戸籍上Bと離婚したが,その後もBと一緒に暮らしていたところ,同年4月末ころ,被告人に対し,5

月中には住み込みの仕事を探して,Bの家を出る。6月になったら,新しい家を見つけて,被告人を癒してあげるから。

などとさらに嘘をついた。被告人は,
A女に夫があることを知ってからは金を貸すこともなくなったものの,それまでに,A女に貸す金を借金により調達していたため,ついには約2000万円もの負債を抱えてしまい,弁護士に依頼して自己破産手続を進めていたところ,同年5月9日,A女が,その弁護士に対して,
被告人が自己にストーカー的行為をするので迷惑している。被告人に対する債務は借用書を書いた1240万円のみである。返済するつもりはあるが,被告人が頻繁に電話をかけてくるため,十分働けず,それができない。という内容の手紙を出していたことをその弁護士から知らされた。そこで,被告人は立腹し,A女に電話をかけて,手紙の内容について問いただしたところ,A女は開き直って,

今までのは全部嘘じゃ。あんたが好きじゃと言ったのも嘘じゃ。あんたが好きじゃないから,この先付き合うことも,会うことも一切せん。

とうそぶいたため,被告人は,A女に裏切られ,被告人自身多額の借金を負うはめになったことについて,A女を憎み,A女が自己から逃げるのなら,A女を車で人気のない所へ連れて行き,包丁で殺害した上,自殺しようと決意した。
同月11日,被告人は,文化包丁(刃体の長さ13.8センチメートル)1丁を用意し,A女が被告人の呼出しに応じない場合には,A女が住んでいる岡山県a市b字cd番地e所在のB方居宅(以下本件建物という。
)に,灯油を撒いて火
をつけると脅して,呼出しに応じさせようと考えるとともに,場合によっては実際に灯油に火をつけて本件建物を焼損させてもかまわないと考え,途中,灯油約18リットル及び100円ライター1個を購入して,車で,本件建物から程近いCガソリンスタンドまで行き,
車から降りると,
前記灯油及び100円ライターを持って,
本件建物へ向かった。
(罪となるべき事実)
被告人は
第1

前記のとおり,憤激の余り殺害しようと考えていたA女が呼出しに応じないときなど場合によっては,灯油に火をつけて,A女らが現に住居に使用している本件建物(木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗・居宅。床面積合計約130.72平方メートル。
)を焼損させてもかまわないとの意思の下に,平成1
3年5月11日午前3時50分ころ,本件建物の周囲に灯油約9.5リットルを撒布し,さらに,呼出しに応じたA女と車に乗れ乗らないの押し問答をするうち,
A女が被告人の指示に逆らって警察に連絡したことを知って一層激高し,本件建物に放火して焼損しようと決意し,同日午前4時10分過ぎころ,10
0円ライターに点火し,その火を本件建物東側脱衣場勝手口前コンクリート床上に撒布した灯油に近づけ,これに着火させようとし,もって放火の予備をした
第2

同日午前4時15分ころ,a市fg番地所在の前記ガソリンスタンド南側路上において,B(当時28歳)に前記放火を妨害されたことなどに立腹し,同人の首に自己の右腕を回してその場に倒し,
同人の上に被さるように乗りかかり,
同人の身体に向けて所携の前記文化包丁を突き出し,その左大腿部等を突き刺すなどし,よって,同人に加療約2週間を要する左大腿刺創等の傷害を負わせた
第3

業務その他正当な理由による場合でないのに,前記第2記載の日時場所において,刃体の長さ約13.8センチメートルの前記文化包丁1丁を携帯した
第4

前記第1記載の灯油に着火するためライターの代わりになるものを入手する目的で,同日午前4時20分ころ,本件建物に無施錠の東側脱衣場北側窓から侵入した

ものである。
(証拠の標目)

(事実認定の補足説明)
第1
1
放火に関する被告人の意図
本件公訴事実第1の要旨は,
被告人は,現にA女らが住居に使用している木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼住宅1棟(本件建物)に放火してA女に対する恨みを晴らそうと決意し,平成13年5月11日午前3時50分ころ,同建物の周囲に灯油約9.5リットルを撒布し,同日午前4時10分過ぎころ,同所において,所携のライターを点火して同灯油に着火しようとしたが,同女及びその内縁の夫Bにライターを取り上げられたため,同建物焼損の目的を遂げなかったというものであるが,この事実について,弁護人は,灯油撒布は
A女を脅迫する手段であり,ライターで灯油に火をつけようとしたときにも,被告人には建物焼損の意図はなく,放火の故意はなかったと主張し,被告人も公判廷において,この主張に沿う供述をする。
当裁判所は,
後記第2のとおり,
現住建造物等放火予備を認定したので,放火に関する被告人の意図について,以下補足的に説明する。
2
まず,灯油撒布時の被告人の意図について検討すると,被告人の捜査段階及び公判廷における一貫した供述によれば,確かに,被告人が本件建物の周囲に灯油を撒布した主たる目的は,A女を本件建物から呼び出そうとして脅迫するためであったことが認められる。
しかし,
(証拠略)によれば,被告人は,約9.5リットルの灯油を,本件建物の玄関南側軒下から,本件建物南面,西面,北西面にわたり,西側脱衣場勝手口前までの本件建物に沿ったコンクリート床上又は地面の部分,及び本件建物東側脱衣場勝手口前コンクリート床上など,ほぼ本件建物周囲にわたる広範囲に撒布したことが認められ,特に,
(証拠略)によれば,本件建物玄関前
にある木製椅子上にも灯油は撒布されていること,前記犯行に至る経緯記載のとおり,被告人は当初から100円ライターを購入して本件犯行現場に携行していたことからすれば,被告人は,捜査段階で認めているとおり,単に灯油を撒布して脅迫の手段とするにとどまらず,A女が呼出しに応じないときなど場合によっては,撒布した灯油に火をつけることも,当初より予定していたことが認められる。そして,被告人は公判廷で,灯油に着火すれば撒布した部分に炎が燃え広がっていくと考えていたと述べる反面,
被告人は,
このように大量,
広範囲に灯油を撒布しながら,撒布した灯油に着火した場合に,その火が建物に燃え移らないような特段の配慮をした形跡も窺われない。そうすると,被告人は,灯油に火をつけた場合には,その火が本件建物に燃え移り,本件建物が焼損しても仕方がないと認識しつつ,
灯油を撒布したものというべきであって,
条件付きかつ未必的ながらも現住建造物等放火を意図していたものと認められ
る。
3
次に,
ライターの火を灯油に近づけた際の被告人の意図について検討すると,前掲関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)

被告人は,判示第1の事実のとおり,本件建物の周囲に約9.5リット
ルの灯油を撒布し,その直後,電話でA女を呼び出したところ,A女は,これに応じて,被告人のいる判示ガソリンスタンドに来たが,被告人がA女を車に乗せても,A女は足は車外に出し,ドアを閉めず,被告人との間で車に乗れ乗らないの押し問答となった。
(2)

そればかりか,A女があらかじめBに頼んでおいたパトカーが同所付近
を通ったため,それを見た被告人は,A女が被告人の指示に逆らって警察に連絡して,またもや自分を裏切ったと激怒し,火をつける旨言い放つと,本件建物に向かった。
(3)

途中で,A女の身を案じて家から出てきていたBが,被告人を止めよう
としたので,被告人はBに飛び蹴りをくらわせ,Bがひるんだ隙に,本件建物東側脱衣場勝手口前に回り,しゃがみ込むと,同所コンクリート床上に撒いておいた灯油に,ライターの火を近づけた。
以上のとおり,被告人が灯油にライターの火を近づけたのは,既に被告人がA女を呼び出した後のことであって,A女を呼び出すための脅迫の必要性は消失したこと,被告人は,被告人に抵抗して時間稼ぎをしつつ,A女が警察を呼んだりしたことから,思うようにならないことに更に怒りの度を強めていたこと,被告人は火をつけると言い放って本件建物に向かったこと,後に検討するように,被告人は,判示第1ないし第3の犯行後にも,本件建物に侵入した上で,バスタオルをガスコンロの火で燃やすなど,放火目的とみられる行動を取っていることなどに加え,そもそも,前記のとおり,被告人は,灯油撒布時にも既に条件付きかつ未必的ながらも放火の意図を有していたことからすれば,灯油に火を近づけた際の放火の故意を認めた被告人の捜査段階における供述は
いずれも信用でき,これに反する被告人の公判供述は信用できない。そうすると,被告人が灯油にライターの火を近づけた時点において,被告人が灯油に火をつけて本件建物を焼損しようと決意していたことは優に認められるから,弁護人の主張には理由がない。
第2

放火未遂を認定せず,放火予備の認定にとどめた理由(実行の着手の有無及び不能犯)

1
現住建造物等放火未遂が成立するとの本件公訴事実第1につき,弁護人は,被告人の行為は,着手未遂の段階に至っていない可能性を主張し,あるいは不能犯であると主張するところ,当裁判所は,判示第1のとおり,未遂ではなく予備を認定するにとどめたので,以下にその理由を述べる。

2
まず,本件の灯油は,本件建物を焼損する上で,本件建物の外側に撒布されている放火の媒介物というべきところ,本件では未だその媒介物である灯油に着火していない。
次に,
(証拠略)によれば,灯油の引火点は摂氏40度以上であり,灯油自体が摂氏40度以上にならないと,たとえ火を近づけても灯油には火がつかないから,通常の気温下において,コンクリートタイル敷きの上に撒いた灯油にライターの火を近づけても,灯油は部分的に摂氏40度以上になるかもしれないが,その周囲は,熱が地面に逃げたりするため,なかなか温度が上がらず,灯油には火はつかないこと,このような灯油にライターで着火するには,石油ストーブの芯のように灯油がしみ込むほこりやゴミなどにライターの火を近づける必要があることが認められる。そうすると,本件の状況下で,単に灯油にライターを近づけても容易に灯油に着火するものではない上,仮に灯油に着火したとして,灯油全体が燃焼するのか,
芯の部分のみ燃焼するのか,その
燃焼する火が,いかなる経路で本件建物に燃え移りうるかは証拠上全く明らかではない。しかも,証拠上,本件現場に上記のような石油ストーブの芯のように灯油がしみ込むほこりやゴミが存在した事実は認めるに足りず,実際,被告
人の公判供述によっても,被告人は,撒いた灯油に前記ライターの火をしばらくの間近づけていたにもかかわらず,
灯油には着火しなかったというのである。
3
そうすると,他方で,本件建物は木造の可燃性建造物であること,灯油が本件建物の周囲に広範囲に撒布されていること,被告人が灯油に火をつけようとしたコンクリート床上付近には,
ポリバケツ,
灯油の残りが入ったポリタンク,
プロパンガスボンベがあったことを考慮しても,未だ媒介物たる灯油にすら着火しておらず,その着火の危険性が高かったと認めるに足りる証拠もない本件においては,被告人の行為は,未だ本件建物の焼損という結果発生の具体的危険性を有する行為というには合理的な疑いが残り,現住建造物等放火罪の実行の着手があったとは認められない。
弁護人の主張にはこの限度で理由がある。

4
もっとも,本件でも灯油が引火点に達する事態に至れば,本件建物が焼損する危険は高まるのであるから,被告人が,本件建物の周囲に灯油約9.5リットルを撒き,前記ライターを点火して灯油に近づけた行為は,放火の実現に有用な準備行為ということができる。そして,被告人の行為は,これを時間的に観察した場合,実行の着手の段階に至っていないとはいえ,質的内容的に観察した場合,本件建物焼損という結果の発生が絶対に不能な行為ということは到底できないから,不能犯ではなく,弁護人のこの点に関する主張には理由がない。
そうすると,被告人の行為は,現住建造物等放火の予備に当たるものであるから,判示第1のとおり認定した。

第3

傷害の動機について
判示第2の事実について,被告人は,A女とBが2人がかりで,殴りかかってきたので,対抗しようと思って刺したと主張し,弁護人は,放火を妨害されたことなどに立腹したとの傷害の動機を争うと主張する。
しかし,前掲関係各証拠によれば,本件建物東側脱衣場勝手口前において,
Bが被告人を蹴るなどし,A女が被告人からライターを取り上げたのは,被告人の放火を止めようとしたためであること,判示第2の傷害に先立ち,Bは被告人が文化包丁を持っていることを認識し,
後ずさりしていることが認められ,
これらによれば,A女とBが積極的に被告人に殴りかかるなど攻撃を仕掛けたことはなかったのであるから,被告人の主張には理由がない。
また,前掲関係各証拠によれば,被告人は判示第1の犯行直前,前記ガソリンスタンドから本件建物に向かう途中で,Bに進行を妨害されたり,判示第1の犯行直後,Bに蹴られるなどして,放火を妨害されたこと,さらに,被告人が文化包丁を自動車から取り出したときに,
その場にBが立ちはだかっており,
その直後,被告人は判示第2の犯行に及んだことが認められる。これらの事実に加え,被告人自身,捜査段階では,傷害の動機について,

Bに放火の妨害をされ,殴られたことに頭に来ていた。

旨供述していたことからすれば,被告人がBを刺した動機は,放火を妨害されたことなどに対する立腹であると認められる。よって,弁護人の主張には理由がない。
第4

住居侵入の目的
判示第4の事実について,被告人及び弁護人は,灯油に着火する媒介物を探す目的はなかったと主張する。
しかし,証拠略)によれば,被告人は,判示第2,第3の犯行に及んだ後,(
再び本件建物東側脱衣場勝手口前コンクリート床上に行き,前記ライターを探したところ,見つけることができず,その後,被告人は,東側脱衣場北側窓から本件建物に侵入したものであって,侵入後も,本件建物内で出会った後藤美代野に対して,
火はどこにあるんやなどと言ったり,
本件建物の台所において,
そこにあったバスタオルをガスコンロの火にかざして火をつけたこと,臨場した警察官にバスタオルの火をたたき消され,警察官から説得されて,逮捕に応じたが,その際,被告人は,警察官に対し,

ここの家族全員殺して,家に火をつけてやろうと思うた。

などと言ったことが認められる。以上によれば,
被告人が本件建物に侵入した目的は,灯油に着火するためのライターの代わりになるものを取得することにあったことは明らかである。よって,被告人及び弁護人の主張には理由がない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法113条(108条)に,判示第2の所為は同法204条に,判示第3の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,判示第4の所為は刑法130条前段にそれぞれ該当するところ,判示第2ないし第4の各罪について各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,押収してある文化包丁(刃体の長さ13.8センチメートル)1丁(平成13年押第67号の1)は,判示銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪行為を組成した物で,被告人以外の者に属しないから,刑法19条1項1号,2項本文を適用してこれを没収し,押収してある100円ライター1個(同号の2)は,判示現住建造物等放火予備の用に供した物で,被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人において,被害者らが店舗及び住宅に使用する建物の周囲に灯油を撒布し,それに所携のライターで着火しようとした現住建造物等放火予備の事案(判示第1の犯行),文化包丁を携帯し,これで放火の邪魔をした被害者を刺した事案(判示第2,第3の犯行),ライターの代わりに火をつけるものを探すために本件建物に侵入した事案(判示第4の犯行)である。
判示第1の犯行は,A女を殺害して自殺しようとまで思い詰めた被告人が,A女
が被告人に抵抗して,車を発車させようとしなかったことや,そればかりか,警察に連絡するなど,自己の思い通りにならないことに立腹し,A女及びその家族の住居である本件建物に放火しようとしたものであるが,動機は反社会的かつ短絡的であり,犯行態様も約18リットルもの灯油及び100円ライターを用意した上で,未明に,本件建物の周囲に,出入口である玄関や勝手口を含め広範囲に灯油を撒布し,プロパンガスボンベ2本及び灯油約8.5リットルが残ったポリタンクのある所で,撒布した灯油に火をつけようとしたものであり,計画的で危険であり,本件では幸い予備に終わったものの,仮に被告人が灯油でなくガソリンを用意したり,あるいは万が一灯油に着火し,その火が建物に燃え移れば,極めて重大な結果も生じ得たもので,まことに悪質である。
判示第2,第3の犯行は,前記放火などをたびたび妨害された怒りを,格別落ち度のないBに向け,これを刺したものであるが,動機は同じくまことに短絡的で酌量の余地に乏しく,その犯行態様も,殺傷能力の高い文化包丁を凶器に使用していること,そもそも包丁を携帯していた当初の目的もA女を殺害するという反社会的な目的であること,幸いにも大腿骨に文化包丁の刃が当たりそれ以上深く刺さらなかったために傷害の結果に終わったものの,その付近にある大動脈や大静脈を切断していれば大量出血により死の結果も生じ得たもので,犯行態様も危険極まりないことから,同じく悪質である。
さらに,判示第4の犯行は,被告人が判示第1の犯行で失敗した本件建物に対する放火をなおも実行しようと本件建物に侵入したものであるが,その動機は同じく反社会的で,犯行態様は,住人が就寝中である未明に包丁を持って住居に侵入するという,甚だしく住居の平穏を害するものであって,まことに悪質である。そして,判示第2の犯行により,Bは1か月もの間入院を余儀なくされたほか,被告人の本件一連の犯行により,現在も家人らは深夜の物音などに神経質になるなど,被告人の犯行の結果もまことに大きいものがあるが,現在まで慰謝の措置は一切とられていない。のみならず,被告人は公判廷において,ことさらに放火の意図
を否認するなど,反省の情にも乏しい。
したがって,被告人の刑事責任には重いものがある。
しかし,そもそも本件の発端は,判示認定のとおり,A女が被告人の純情をよいことにこれを手玉に取り,欺いて多額の金銭を貢がせ,ギャンブル等に使い果たした結果,被告人は,2000万円もの多額の負債を負い,自己破産手続をとることまで余儀なくされたのに,当のA女は,被告人に対しては甘い言葉で嘘を重ねて,嘘を糊塗し続けながら,裏では被告人をストーカー呼ばわりまでして,自分の生活を守ろうとしていたことに,被告人が怒り心頭に発したというものであって,自殺しようとまで思い詰めた被告人の屈辱,怒り,失望感は心情的には理解できるものであること,もとより,このような経緯に照らせば,本件の被害者の1人であるA女には相当の落ち度があること,幸いにも放火は予備に終わり,Bの怪我も現在は治癒し,後遺症も残していないことが窺われること,被告人もBを始めその家族らに被害が及んだことについては反省していること,A女のために破産を余儀なくされている被告人が被害者らに慰謝の措置がとれないことには致し方のない面もあること,被告人が公判廷において,徒に弁解を重ねているのは,自らにひどい仕打ちをしたA女が何ら責任を問われていないことへの不公平感に出たものともみられること,本件で最も多大な被害を被ったというべきBも,被告人が今後自分達に関わらなければ,許さないというものではないと述べるなど,本件の被害者らも,必ずしも被告人に厳罰を望んでいるものではないこと,被告人は,A女に対して刑事告訴の手続をとるなどして,自己の気持ちの整理をして,今後決してA女に危害を加えないことを誓っていること,被告人は,高校卒業後,安定した職場で勤め,その仕事ぶりは上司にも高く評価されていたもので,前途がある身であり,家族を初めとする周囲の指導監督により今後の更生が期待できること,
被告人には前科がなく,
今回初めて1年近く勾留され,また職場を解雇され,事実上の制裁を受けていることなど被告人のために酌むべき事情も多々認められる。
以上諸般の事情からすれば,今回は被告人の刑の執行を猶予するのが相当である
が,被告人は,未だA女に対する恨みは一生消えないと供述し,今後なおA女との争いの火種が消えたとはいい難い現状にかんがみれば,その猶予の期間中,公的機関の指導監督により再犯の防止を図るべく,被告人を保護観察に付するのが相当と判断した。
(求刑

懲役4年,文化包丁及びライターの没収)

平成14年4月26日
岡山地方裁判所第一刑事部
裁判長裁判官

西田真基

裁判官

金子隆雄

裁判官

永野公規

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