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住民訴訟控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成18年(行ウ)第80号)
事件番号平成23(行コ)35
事件名住民訴訟控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成18年(行ウ)第80号)
裁判年月日平成25年1月31日
法廷名名古屋高等裁判所
判示事項市議会の会派が,市から交付された政務調査費のうち,所属議員らに個人経費分として支給したとする金額から同会派が市に返還した金額を控除した残額を不当に利得しているとして,市の住民らが,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長に対し,前記会派の権利義務を承継した新会派に前記残額と同額の不当利得金の返還請求をするよう求める請求が,一部認容された事例
裁判要旨市議会の会派が,市から交付された政務調査費のうち,所属議員らに個人経費分として支給したとする金額から同会派が市に返還した金額を控除した残額を不当に利得しているとして,市の住民らが,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長に対し,前記会派の権利義務を承継した新会派に前記残額と同額の不当利得金の返還請求をするよう求める請求につき,政務調査費は,広範な職責を有する普通地方公共団体の議会の議員活動を実効あらしめるために,その調査研究のための費用を助成する趣旨,目的のものであること,議員による調査研究活動は,一般に外部から容喙されるべきものではないから,政務調査費の支出の適法性の判断は,原則として自律的な判断に委ねられるべきであるが,他方で,これが公費を原資としていることに照らすと,収支の状況はできるだけ透明性を確保することが望ましいこと,政務調査費の交付を受けた会派が本来の使途及び目的に反する支出をした場合,市長は,当該不適切な支出に相当する額の返還を求めることができること,その返還請求権は不当利得返還請求権の性質を持つと解されるから,一般的な主張立証責任の分配法則に従い,政務調査費の返還を請求する側において,返還を求める政務調査費の支出が「市政に関する調査研究に資するために必要な経費」の支出に当たらないことの主張,立証責任を負うことになること,返還を請求する側において,相応の根拠をもって当該会派の提出した収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証し,当該政務調査費の支出が本来の趣旨・目的に沿ったものでないとの疑いを生じた場合には,返還を求められている会派側において,政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度で政務調査費の支出状況を明らかにすべきであり,そのような最低限度の説明責任さえ果たさない場合には,返還義務を免れないこと,当該会派が政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度で支出状況を明らかにした場合でも,返還を請求する側が,具体的な政務調査費の支出が本来の使途及び目的に反した支出であることを推認させる外形的事実を主張立証したときには,会派側において,当該政務調査費の支出が本来の使途及び目的に適うものであることを立証しない限り,返還義務を免れないこと,以上のように解するのが相当であるとした上で,前記会派の支出のうち,前記会派所属議員提出に係る政務調査費の支出の概要を記載した陳述書の提出がなかった議員に支給された政務調査費については,基本的な説明責任が果たされていないとして直ちにその全額を不当利得として返還すべきと判断するのは相当でなく,その可否は,あくまでも返還を請求する側において,不適切な使途に充てられたことを推認させるに足りる具体的な外形的事実を主張立証できたかに掛かるというべきであり,前記陳述書に記載された支出のうち,事務所の借り上げ費については,名古屋市会政務調査費の使途基準及び収支報告書の閲覧に関する規程(平成13年名古屋市会達第1号)において基本的に政務調査費の支出対象としては想定されていないところ,事務所の借上げが調査研究活動の実施に不可欠であることをうかがわせる具体的な事情について何ら明らかにされていないことからすれば,前記事務所借上げ費相当額については,「市政に関する調査研究に資するため必要な経費」として支出したものには当たらないから,前記会派は同金額を市に返還する義務を負うなどとして,前記請求を一部認容した事例
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平成25年1月31日判決言渡
平成23年(行コ)第35号

住民訴訟控訴事件

主文1
1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する

2
1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)

1審被告は補助参加人会派に対し,294万円を支払うよう請求せよ。

(2)
3
1審原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを40分し,その1を1審被告の負担とし,その余を1審原告らの負担とし,補助参加によって生じた費用は,これを40分し,その1を補助参加人会派の負担とし,その余を1審原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
1審原告ら
(1)

控訴の趣旨


原判決中,1審原告ら敗訴部分を取り消す。


1審被告は,補助参加人会派に対し,1億3500万円及びこれに対する平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。


(2)

訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
1審被告の控訴の趣旨に対する答弁

アイ2
1審被告の本件控訴を棄却する。
控訴費用は1審被告の負担とする。

1審被告
(1)

控訴の趣旨

原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。


1審原告らの請求を棄却する。


訴訟費用は,補助参加によって生じた費用も含め,第1,2審とも1審原告らの負担とする。

(2)

1審原告らの控訴の趣旨に対する答弁



第2

主文1項と同旨
控訴費用は1審原告らの負担とする。

事案の概要(以下,略称は原判決の表記に従い,適宜,原判決における記載箇所を示す。)

1(1)

本件は,名古屋市の住民である1審原告らが,名古屋市議会の会派で
あったA(原判決1頁21行目)が名古屋市から交付された平成16年度の政務調査費1億3950万円のうち,本件政務調査費(同4頁25行目から26行目)1億3500万円を不当に利得していると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,1審被告に対し,同金額の返還及びこれに対する遅延損害金の支払をAの権利義務を承継した補助参加人会派に請求するよう求める住民訴訟である。
(2)

原審は,1審被告が補助参加人会派に対し,4614万円を支払うよう
請求せよとの判決をしたところ,1審原告ら及び同被告がこれを不服として控訴した。なお,控訴審では,1審段階で1審被告に補助参加していたB(以下「B議員」という。),C及びD(以下「D議員」という。)の3名が補助参加の申出を取り下げ,また,1審原告Eは訴えを取り下げた。2
名古屋市における政務調査費交付手続等の概要,前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決2頁25行目の「らなない」を「らない」と,同12頁11行目,20行目,24行目,25行目及び13頁2行目の「原告」を「1審原告ら」とそれぞれ改め,3,4項のとおり,当審における当事者等の主張(原審での主張を敷衍するものを含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2

事案の概要」2ないし4に記載のとおりであるから,これを

引用する。
3
当審における1審原告らの主張
(1)

原判決は政務調査費の支出状況が明確でないことを看過していること総論
原判決は,収支報告書(原判決2頁24行目)の内容が不正確であることから,補助参加人会派に政務調査費の支出状況を明らかにする説明義務があるとしておきながら,補助参加人会派が支出状況に関する抽象的で概括的な説明(以下「一応の説明」という。)しか行わず,支出状況が「明らか」にされたとはいえないのに,補助参加人会派の説明責任が果たされたものと判示した。しかし,これは,原判決が自ら示した判断枠組に反して不合理な認定をしたというべきであり,補助参加人会派は支出状況について立証したものとはいえない。


補助参加人会派が負うべき説明義務の内容
(ア)

原判決が判示した説明義務の内容
原判決は,収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証した場
合,「返還を求められている会派側において,政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度において,政務調査費の支出状況を明らかにすべき」であると判示している。この判断枠組みは,原判決も述べるように,本件条例(原判決2頁7行目)においては,収支報告書を閲覧しても支出の明細は明らかでなく,補助参加人会派が所持している領収書等の資料がなければ支出状況が明らかにならないことから,補助参加人会派に対して説明責任を認めるものであり,「秘匿性の要請に抵触しない」とする点を除いて正当である。
(イ)

補助参加人会派は客観証拠により支出状況を明らかにすべきこと
上記判断枠組において「明らかにすべき」とされている説明義務の内容・程度については,①説明義務が生じる前提として支出報告書の記載内容が不正確であるとの事情が存在すること,②政務調査費が税金を原資としており,その収支状況について透明性の確保が強く求められること,③適正な会計処理を行っている会派であれば支出状況を説明することは難しくないことなどの事情に照らせば,使途について一応の説明をするだけでは足りず,領収書等の証拠を示すことで,報告された内容に対応する支出が実際に存在したことまで説明される必要があるものと解すべきである。
(ウ)

秘匿性の要請による限定は不要であること


政務調査活動の内容は秘匿不要であること
原判決は,補助参加人会派の説明義務を「政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度」に限定している。
しかし,本件規程(原判決2頁11行目。乙1)の使途基準を見れば明らかなとおり,そもそも名古屋市会政務調査活動の内容に秘匿の必要性が認められるものは見当たらない。これは,原審において各議員が提出した陳述書に記載された具体的な活動内容に即しても同様であって,政務調査活動として行われたという個々の活動内容には秘匿の必要性は認められないし(陳述書により説明されていることがその証である。),その支出状況を明らかにすることで議員の活動が阻害される事情もうかがえない。以上を要するに,議員の政務調査活動は公的なものであって,その性質上秘匿すべきものではない(甲15)。

原判決が判示する秘匿性の要請は説明責任の要請に劣後すること
原判決は,執行機関等の不正の調査を秘密裏に行う必要性や,会派独自の政策を秘匿させて当該会派の優位性を保護すべき要請などを挙げて,政務調査活動の秘匿性の要請が存在すると判示する。
しかし,もともと,地方議会の機能は,予算,決算の承認等,自治体行政のチェックを主たる内容とするものであって,活動は基本的に会計年度で区切られるものであること,仮に複数年度にわたる調査が行われたとしても,本件は平成16年度の政務調査費の使途を問題としているのであって,口頭弁論が終結した平成22年11月1日の段階で秘匿すべき情報があるとは到底思われないこと,秘匿すべき調査の内容について補助参加人会派からも特段の主張がないことにかんがみれば,本件の政務調査活動を秘匿する必要性はない。
仮に,原判決のいう秘匿性の要請を考慮するとしても,これらは政務調査費の全てにおいて補助参加人会派の説明義務を免除する理由にならない。例えば,会議費,資料作成費,事務費,人件費といった類型の支出については,その支出状況(以下において「支出内容」ともいう。)を明らかにしたところで,秘匿すべき活動内容が明らかになるものではない。また,陳述書で活動内容について説明された内容については,既に秘匿性が失われたものといえるから,支出内容を明らかにしても不都合は生じない。

補助参加人会派は支出状況の説明責任を果たしていないこと
(ア)

説明責任についての原判決の判示
原判決は,政務調査費の支出の概要を記載した陳述書が提出されたこ
とをもって,支出状況について「一応の説明」により補助参加人会派の説明責任が果たされたものと判示している。
(イ)

陳述書のみでの説明で説明責任が果たされたとはいえないこと
そもそも,補助参加人会派の弁明というべき陳述書だけをもって,支
出内容について説明されたものと認定すること自体が,経験則に反する不当なものであるといわざるを得ない。収支報告書について不正確な点が存在するにもかかわらず,かかる報告書を作成した補助参加人会派にとって有利な認定をするためには,客観証拠に裏付けられた十分な立証がされる必要がある。補助参加人会派に属する議員が提出した各陳述書は,いずれも議員が自身の政務調査活動の内容について概説した上で,それに要した費用の額を述べるにとどまるものであり,収支報告書の記載と大差ないので不十分である。
(ウ)

陳述書以外の証拠による立証も十分可能であること
補助参加人会派に属する議員は,本件規則(原判決2頁9行目)6条
に基づく手続を履践しているはずであるから,会計帳簿や領収書等の証拠を提出することによって,支出状況を正確に説明することが可能である。これは,原判決も正当に指摘しているところである。
(2)

原判決は政務調査費が不正支出されている疑いを看過していること総論
原判決は,1審原告らが違法支出の内容を具体的に主張しておらず,個々の具体的支出をとらえた主張がなされていないことを理由として,不適切な支出を推認させる外形的事実が立証されるべきであるとして1審原告らの主張を排斥しているが,これは1審原告らに対して過度に立証責任を負担させ,補助参加人会派の反証責任を不当に免除したものであり,原判決には判例違反及び審理不尽の違法がある。


返還請求者に個々の具体的支出まで特定した違法性の主張を求めることは妥当ではないこと
(ア)

法律上,議員は支出内容を具体的に説明する責任を負うこと
原判決は,補助参加人会派が政務調査費の支出状況を明らかにした場
合に,返還を請求する側は,「具体的な政務調査費の支出が,政務調査費の本来の使途及び目的に違反した不適切な支出であることを推認させる外形的事実」を主張立証すべきと判示する。問題は,「外形的事実」を立証するために,1審原告らが支出内容まで具体的に立証しなければならないかという点である。
そもそも,税金を原資とする政務調査費の使途については,地方自治法100条15項が政務調査費の交付を受けた議員に収支報告書の提出を義務付け,これを受けた本件条例5条,同6条,同8条1項及び本件規則6条が収支報告書による収支状況の適正化を図ろうとしていることなどによって,法律上,議員に重い説明責任が課されている。政務調査費の支出内訳については実際に活動を行った議員が最も容易に説明できる立場にあることも踏まえれば,議員は,政務調査費の支出状況に加え,個々の支出の適切さを裏付ける客観証拠等を踏まえて一定程度具体的な使途の説明を行うべきであって,そのような説明がされない場合,当該支出の正当性は否定されるものと解すべきである。
したがって,政務調査費の支出が適切であることを具体的に説明すべき義務は議員側にあり,返還請求を求める側としては,議員側が具体的説明を怠っていることを指摘し,あるいは抽象的な違法支出の疑いを主張立証すれば,返還請求を基礎付けることができるとする一方で,議員ないし会派は,領収書等の証拠を提出することにより,個々の支出と政務調査の関連性を明らかにする必要があり,これを怠った場合には政務調査費の返還義務を免れないと解すべきである。
(イ)

本件の事情に即しても1審原告らが具体的な主張立証責任を負担す
ることは不当であること
少なくとも本件においては,補助参加人会派は陳述書を提出するのみで,具体的な支出状況について明らかにしていないのであるから,1審原告らから違法支出を疑わせる外形的事情を具体的に主張立証することは不可能であり,違法支出についての主張が十分具体化されないことにはやむを得ない理由がある。

補助参加人会派の反証責任を不当に免除した原判決は最高裁判決に違反していること
(ア)

総論
本件において政務調査費の支出が適切であったというためには,補助
参加人会派が積極的に支出内容に関する具体的説明を行う必要があるが,原判決は,議員の陳述書をもって一応の説明がされたとして,1審原告らの主張を排斥した。
しかしながら,このような判断方法は,下記の最高裁判例に違反する。(イ)

最高裁判所第三小法廷平成22年3月23日判決・集民233号2
79頁。以下「平成22年最高裁判決」という。)の内容
平成22年最高裁判決は,「政務調査費の支出は市政と何らかの関連性を有することが必要であるが,その関連性の要件の判断においては議員の裁量権が尊重されなければならず,一見して明らかに市政とは無関係であるとか,極めて不相当なもの以外は関連性を認めるべきである。」として実質的判断を行わずに支出の適法性を認めた原審判決に対し,支出に係る物品の購入時期や議員の残任期など具体的な事情から支出の違法性を認定した上,次のように判示した。


住民監査請求における本件議員らの監査委員の調査に対する本件回
答の内容は,前記のとおり,そのほとんどが抽象的なものにとどまるところ,本件において,このような抽象的な回答をせざるを得ないような合理的な理由があるか否かは定かではなく,本件回答があるだけで上記の特段の事情があるということは困難である。
そうすると,上告人の上記主張に係る事実の存否や上記の特段の事情の有無について十分に審理することなく,単に本件物品の品名を認定し,上記のような本件回答を参酌するだけで,直ちに本件各支出は本件使途基準に反するものとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。」
このように,平成22年最高裁判決は,議員が正当な理由なく抽象的な説明に終始している場合に,支出対象の項目や議員の回答を参酌するだけで支出の適法性を認定するという安易な判断方法を明確に否定している。
(ウ)

原判決は平成22年最高裁判決が求める最低限の説明責任を無視し
ていること
平成22年最高裁判決は,個々の経費の支出が調査研究活動に必要かについて「議員の合理的判断」を尊重する前提として,支出項目だけでなく,個々の支出状況に関する説明を議員,会派側に要求している。これに対し,原判決は,「一応の説明」がされたことにより,議員や補助参加人会派の説明責任が果たされ,返還請求者である1審原告らに具体的な主張立証責任が生じると判示している。
しかし,原判決のいう「一応の説明」の実態は,補助参加人会派が提出した陳述書にあるような,大まかな項目についての支出総額を記載しただけの抽象的かつ裏付けを欠く代物であって,平成22年最高裁判決が前提とする支出項目や金額等に関する個別具体的説明を含むものではない。
(エ)

原判決は平成22年最高裁判決が求める審査方法を省略しているこ

原判決は,1審原告らは具体的な政務調査費の支出について,その不適切さを疑わせる外形的事実を主張立証していないと判示する。
しかし,平成22年最高裁判決によれば,1審原告らは主張立証責任を十分果たしており,補助参加人会派こそこれに対し反証すべきである。すなわち,平成22年最高裁判決は,個別の支出対象の品目や金額,支出時期等の情報と,議員の活動状況を照らし合わせた上で,支出の必要性が欠けることの疑いを認定しているが,そこでは,返還請求者側に主張の具体性を明示的に要求していない。
平成22年最高裁判決の上記判断方法に従えば,本件における支出の違法性に関する立証責任の分配は,支出項目の概要を示す収支報告書しか客観証拠はなく,これに対して1審原告らがこの収支報告書の不正確さを示したという事情を踏まえて決定されるべきである。本件で1審原告らが主張し,原審も認定している,地方自治法が要求する収支報告書の記載が正確でないという事実は,当該収支報告書に係る支出内容が違法であることを当然に疑わせるものであり,これ以外に収支を裏付ける客観証拠がないことに照らせば,平成22年最高裁判決が支出の違法性を認めた支出状況の具体的事情に匹敵するものというべきである。加えて,1審原告らは,後記エのとおり,類型的に特性上政務調査費として妥当性を欠く疑いが強い支出が存在することについて,可能な限り具体的に主張している。これらの主張により,政務調査費の支出に関する違法の疑いは十分示されているから,本件における支出内容の反証責任は補助参加人会派にある。
以上の次第で,本件においては1審原告らが示した疑問点や違法の疑い,あるいは補助参加人会派が支出内容について具体的に説明できない特段の事情の有無について十分に審理しなければならないが,原判決は,抽象的な説明に終始する陳述書のみによって支出の適法性を認めており,平成22年最高裁判決の要求に反している。

補助参加人会派に属する議員らの支出内容に政務調査費として不適切なものが含まれている疑いがあること
(ア)

総論
原判決も認定したとおり,Aの会計処理及びそれを反映させた収支報
告書には問題があり,支出内容について正確な報告がされているとはいえない。このこと自体が,補助参加人会派に所属する議員の支出状況の適切さを疑わせるものである。
また,1審原告らが原審で主張したように,補助参加人会派及び議員は,支出内容について実際の支出がされたという説明を行っていないというにとどまらず,その使途についても具体的な説明を欠き,あるいは政務調査費として認められない支出を計上している。これらの点について十分な説明がされない限り,補助参加人会派は政務調査費の返還義務を免れない。
(イ)

会派外の政務調査活動への支出について


会派外の政務調査活動についての取扱い


政務調査費の使途は会派としての政務調査活動に限定されること
原判決は,政務調査活動の外延を明確に定義することは困難であ
ること,本件条例1条が支出対象を会派としての政務調査活動に限定していないこと,いわゆる1人会派に対しても政務調査費が交付されることなどを理由として,政務調査費の支出対象は会派の行うものに限定されないと判示する。
しかしながら,地方自治法100条13項(現在の14項)を受
けて制定された本件条例1条が「議員の調査研究活動に資する」と表現しているのは,会派の調査研究を行う者が議員であることを受けたものである。すなわち,同条は,「議会における会派」に支給すると規定し,同2条が「会派に対して交付する」としていることからみて,「議員の調査研究に資する」との文言は,「会派の調査研究を行う議員の調査研究に資する」と読むべきであって,会派の調査研究とは関係しない議員の調査研究に政務調査費を支出することを許容するものではない。そして,同条2項括弧書きはこれを受け,会派の所属議員が1人であった場合であっても,交付対象は議員個人ではなく,これを「会派」とみなし,会派に政務調査費を交付するという解釈をとることを注意的に述べた規定である。
原判決のいうような政務調査活動と政治活動ないし委員会活動と
重複する部分については,議員報酬や費用弁償によって賄われるべきであり,会派を交付対象とした政務調査費を用いることは許されない。すなわち,政務調査費として認められる支出は,会派の政務調査活動と具体的に関連するものでなければならない。そして,かかる関連性の具体的な主張立証責任は,補助参加人会派にある。原判決は,政務調査費が会派活動に限定された特殊な費用であることを考慮せず,その支出対象を不当に広くとらえている点で,本件条例の趣旨を誤って理解している。
政務調査費が地方自治法100条に制定されたのは,平成12年
5月の地方自治法改正によるものである。この改正後,地方議会の全国的な団体である全国都道府県議会議長会が議会の参考に「政務調査費の交付に関する条例(例),及び同規程(例)関係資料集」(甲20)を取りまとめ,各議会に送付している。
この条例(例)は本件条例と異なり,「会派および議員に対し」
政務調査費を交付するとしている(1条,2条)。そして,使途基準については「別に定める」(同条例(例)9条)とし,規程
(例)第5条に使途基準についての規定を置き(11頁),会派の使途としては「調査研究費,研修費,会議費,資料作成費,資料購入費,広報費,事務費,人件費」の8項目を,議員への交付分については「調査研究費,研修費,会議費,資料作成費,資料購入費,広報費,事務所費,事務費,人件費」の9項目を定めている。要するに,全国議長会も交付対象ごとに,使途基準についての定めを設けること,すなわち,「会派」へ支給した政務調査費は,「会派」の使途基準で支出すべきであって,「議員」に支出した政務調査費の使途基準で支出することは許されないとの立場をとっている。


政治活動と政務調査活動
また,原判決のように政務調査費の支出対象を広範にとらえると
しても,支出対象の活動が明白な政治活動であり,あるいは別途費用が支弁されるものである場合には,そのような活動を政務調査費で賄うことは許されない。
このように,政務調査費で賄うことができない支出内容が含まれ
ていると考えられる場合には,支出を按分し,政務調査費に賄われるべきでない部分の支出を違法とするのが確定した判例の見解である(最高裁判所第一小法廷平成22年9月30日決定)。この見解に従えば,政務調査費で賄えない内容の活動に費用が支出された場合,これと不可分な支出額は全体として違法となるものと解するのが自然である。原判決は,これに反して,1審原告らが主張する政治活動等に対する支出の疑いについて,活動内容が全体として政治活動等に該当するかどうかを判断するにとどまり,政治活動等に該当する活動に使用されていた金額の算定や,それが他の支出と可分であるか否かという点について何ら判断していない。よって,原判決には,判例違反及び審理不尽の違法がある。



交際その他の目的を有する支出
政治活動以外の目的でなされた支出についても,上記政治活動に
関する判断基準が該当する。すなわち,その支出がいくら議員としての資質向上に役立つものであったとしても,支出の性格が客観的に政務調査活動に関係しない場合には政務調査費からの支出が許されないという基準が判例の確定した基準である。
この基準によれば,歯科医でもあるF議員が歯科医師会の研修等
に政務調査費を47万4100円支出したことなどは典型的な目的外支出である。

会派外の政務調査活動に用いられた支出の存在
補助参加人会派に属する議員の支出内容に政務調査費で賄えない性質の支出が含まれている。とりわけ,事務費や人件費として支出された内容については,その性質上,会派内の政務調査活動以外にも支出されていると考えられるから,このような費用は原則として議員報酬等で賄われるべきものであって,あえて政務調査費に計上する以上,その根拠が積極的に示されなければならない。しかるに,補助参加人会派に属する議員は,陳述書においてこれら費用にいくら支出したかを何らの根拠なく述べるだけである。

(ウ)

飲食費について
飲食費に関する原判決判示の問題点
原判決は,1審原告らが違法と主張する飲食費の支出を具体的に主張していないことをもって,飲食費に関する違法の検討を行うことなく1審原告らの主張を排斥している。
しかし,本件においては,補助参加人会派は具体的な支出状況及び使途について何ら説明していないのであるから,そもそも1審原告らが具体的に飲食費の支出につき主張立証することは不可能である。このような場合,補助参加人会派側に不適切な飲食費の支出がないことの説明を求めるべきである。


飲食費の不正支出を推認させる事実の存在
1審原告らが提出したAの共通経費を記録した過去の会計帳簿(甲7ないし12)によれば,「昼食代」「飲食代」の名目だけでも,平成9年度が158万8966円,平成10年度が198万7639円,平成11年度が191万8620円,平成12年度が265万7460円,平成13年度が261万3745円,平成14年度が251万8195円の飲食費の支出があったことが認められる。
会計帳簿においては,以上の支出のほかにも,食堂での会合やホテルでの懇親会など政務調査活動との関係性が大いに疑われる支出が散見され,Aにおける政務調査費不正使用の実態をうかがわせる記載がされている。また,飲食費だけを見ても,その内容は本会議の昼食代などとして1500円以上の弁当等を注文しており,健全な市民感覚からして浪費というほかない。
上記の飲食費支出はAの過去の共通経費に関するものであって,1審原告らが請求している平成16年度の個人支給分の政務調査費に関するものではないが,会派における上記のような支出実態は,所属議員の金銭感覚や活動内容も同様であることを推認させるものであり,議員個人が主宰した会議等においても同様に飲食費を支出している疑いを抱かせるに十分である。補助参加人会派が議員個人に関する帳簿や領収書等を提出しないので,1審原告らが,違法な飲食費支出の内容を具体的に主張できないことには相当の理由があるから,1審原告らの前記主張をもって社会通念上逸脱した飲食費の支出がされたことを推認し,補助参加人会派に反証責任を負わすべきである。

会議費中の飲食代金への支出について
本件では補助参加人会派が会議費中に占める飲食費について明らかにしていないものの,平成14年度のAの共通経費部分については,会議費に当たる懇談会費60万2648円のうち,46万5480円が目的外支出であるとして,監査委員の報告を受けていることが明らかになっている(平成21年3月26日名古屋地方裁判所判決,甲17)。これは懇談会費全体の77.2%に当たる。そして,共通経費だろうと個人経費だろうと政務調査費の支出基準は補助参加人会派において共通するはずであり,共通経費に関する住民訴訟において,Aにおいては政務調査費を飲食代に支出することが恒常的に行われていたことが明らかであることにかんがみれば,「一般的,外形的にみて」会議費への支出に飲食費が含まれることは明らかであり,補助参加人会派において飲食費の支出の有無並びに当該支出が社会通念上政務調査費の支出として許容されることを立証する責任がある。そして,補助参加人会派がかかる立証をしない場合には,会議費のうち,77.2%相当額は政務調査費の支出としては是認されないものとして,返還すべきである。これを原審が相当と判断した16人分の会議費に照らすと,合計額は591万7736円となり,うち77.2%に当たる金額は456万8492円となる。
したがって,補助参加人会派が飲食費を明らかにしていない現状においては,すくなくとも456万8492円は政務調査費として支出が是認されない。
(エ)

広報費について
広報費に関する原判決の問題点
原判決は,議員の行う広報活動には選挙民に情報を提供してその反応を見ることによる施策決定上の重要な役割があるから,広報費を政務調査費から充てることは地方自治法に違反しないと判示する。
しかしながら,上記判示は,広報費の支出の一部が「調査研究に資するため必要な経費」(地方自治法100条14項)となり得ることをいうにとどまるものであって,広報費の名目で支出される政務調査費全てが適法であることの根拠にはならない。地方自治法はあくまで「調査研究に資するため」の政務調査費支給を認めるものであって,調査研究と関係ない場合,外形的に使途基準の広報費に該当していたとしても,適法な支出とはならない。そして,広報活動全般が調査研究に資する性質を帯びるものではない以上,広報費名目の支出というだけで適法になるということはあり得ない。

広報費名目の支出に違法の疑いが強いこと
広報活動は性質上政治活動としての意味合いが強いものであるから,具体的な使途が明らかにされない場合には,広報費の支出は政務調査費として不適切なものであったと推認すべきである。原審が支出を認定した16人の広報費あるいはこれに関連した支出の合計759万8638円は政務調査費から支出することは許されない。


「G」に政務調査活動と無関係の記事が含まれること
特に,補助参加人会派が発行している機関紙「G」については,紙面の中に各議員の後援活動という明らかに政務調査活動と無関係の記事が含まれていることが証拠上明らかであり,原判決もそのこと自体は否定していない。少なくとも,かかる部分の印刷・配布に支出された部分は政務調査費として認められず,これに相当する支出部分は違法たるを免れない。原判決はこの点を看過しており,到底是認できない。
広報費の支出がある程度許されるとの立場を採用しつつ,広報の内容が明らかでない場合には,2分の1の按分割合を基本とすべきであり,かかる観点から,759万8638円の2分の1に当たる379万9319円は少なくとも政務調査費の支出として許されない。

(オ)

事務所借上げ費について
原判決の判示について
原判決は,本件規程の定める使途基準にいう事務費には事務所借上げ費は含まれないとの解釈を前提として,政務調査活動のために特に事務所を借り上げる必要を主張立証しないB議員,D議員の事務所借上げ費の政務調査費からの支出が許されないと判示した。
政務調査費から事務所借上げ費の支出が許されないとの判断自体は正当であるが,仮に政務調査活動のために特に事務所を借り上げる必要性を主張,立証したとしても,その全額について政務調査費からの支出が許されるとした点は妥当ではなく,せいぜい事務所使用の実態に即した割合で政務調査費の支出の相当性を判断すべきである。

本件規程の定め
本件条例を受けて使途基準を定めた本件規程には,事務所の賃借料への支出が項目として挙げられていない。むろん,本件規程が定める「事務費」と事務所費とは語感が類似するだけで,内容は全く異なる。事務費とは「調査研究活動に係る事務遂行に必要な経費」であり,事務所費のような賃借料を含まないことは社会通念上常識である。
事務費に事務所の賃借料を含まないことが社会通念を構成していることは,先の都道府県議長会の規程(例)の別表第二を見れば明らかである(甲20の14頁)。この規程案では,事務費とは別個の項目として「議員が行う調査研究のために必要な事務所の設置,管理に要する経費」として「事務所費」が挙げられているからである。
よって,政務調査費から事務所の賃借料の支出をすることは,もともと本件条例に違反する支出として原則違法である。


B議員及びD議員の事務所借上げ費について
B議員は「政務調査活動への協力者への交通の便や資料の保管場所の必要のため」もともと議会活動用の事務所として使用していた「自宅の1階部分」を使用することなく,自宅事務所とは別の事務所を借り上げていたという。しかし,政務調査活動の協力者への交通の便というが,一体いかなる政務調査活動にどのような協力者が必要であったか,それら協力者にとって自宅事務所の交通の便が悪いのはなぜかなどについて何の具体的な説明もなされていない。
D議員も「資料の作成,整理,調査活動の準備や実践に必要な場所を確保する」という理由で事務所を借り上げているが,いかなる政務調査活動のために事務所が必要であったかについては全く主張されていない。
結局,両議員の主張だけでは,これらの事務所において具体的にどのような会派の政務調査活動を行ったか明らかになっておらず,本件規程にない賃料の支払を正当化するだけの根拠はなく,政務調査費の支出は違法である。
仮にB議員が政務調査活動の目的で借り上げた事務所において,会派の政務調査活動を行ったと主張立証したとしても,政務調査費の支出として許容されるのは,本件条例の定めからみて,せいぜい3分の1でしかない。
(カ)

人件費の支出について
補助参加人会派の主張立証責任について
裁判例は,人件費全額について政務調査費を支出することは認められないことを前提とし,按分的な支出を認容する場合であっても,会派又は議員側の具体的な主張,立証を必要とするとの立場に立っている。そして,その具体的な主張,立証の程度についても,被雇用者の住所等が明らかにされない場合には,全額を違法とし,具体的にどのような職務を担当していたかについての主張,立証を求めている。さらに,仮に会派が人件費の使途を具体的,詳細に立証したとしても,人件費のうち2分の1を超える支出が許されないとするなど,裁判例はいずれも厳格な判断を示している。


本件の人件費支出について
補助参加人会派において22名がアルバイトの支出についての陳述書を提出している。しかし,これらの陳述書のうち,被雇用者の氏名を明らかにしている者は皆無であり,これだけで全員の人件費の支出全体が違法になる。
次に,陳述書による説明からみて,H議員による人件費の支出が政務調査費の支出として不当といわざるを得ない。H議員は丙18の1で,年間を通して毎月1人のアルバイトを雇用し,同人に質問原稿の清書,「G」の原稿作成,発送作業,市政報告会や研究会の資料作成,当日の運営補助,意見要望の保管をさせたと述べている。しかし,原稿の清書は政務調査活動と全く無縁であること,H議員自らが作成しないGの原稿の作成は,誰もがなし得る内容の記述でしかない筈であるから(でなければ,他人に原稿作成は依頼できない),単純な政治目的の広報活動としかみることができないこと,市政報告会や研究会の資料作成,当日の運営補助,意見要望の保管なども政務調査活動というよりも,政治集会の運用といった面が主であることから,これらに要したアルバイト料の支出240万円が政務調査費の支出として是認されるものではない。
また,他の21名について,氏名不詳者に対して真に人件費を支出しているとの判断に到達できたとしても,21名が政務調査活動の補助としてアルバイトや被雇用者に従事させたと主張する内容は,資料の制作や議会での質問等のための資料作成,電話での聞き込み調査,調査研究活動の資料の整理,意見交換会の意見の整理等,いずれも下級審判決が認定した業務の内容と異なるものはない。したがって,上記裁判例にかんがみて,少なくとも全額について政務調査費の支出が正当化される例は一例もない。
よって,少なくとも裁判例の基準によれば,人件費中50%を超える1714万8740円とH議員が支出した人件費240万円の合計1954万8740円の人件費への政務調査費の支出は認められない。4
当審における補助参加人会派の主張
(1)

立証責任について

原判決の判示
原判決は,政務調査費の返還請求は不当利得返還請求権であり,返還を請求する側において,支出が「市政に関する調査研究に資するため必要な経費」の支出に当たらないことの主張,立証責任を負うとの前提に立ちながらも,請求する側において,相応の根拠をもって当該会派の提出した収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証した場合には,補助参加人会派において,政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度において政務調査費の支出状況を明らかにすべきであるとの新たな基準を設定し,本件においては,支出状況説明の陳述書が提出された16名の議員が受領した合計8850万円を除く4500万円の政務調査費については,個別の議員ごとの支出状況について何の立証もないので返還の対象となると判示した。


原判決の問題点
(ア)

理論面について
原判決は,本件報告書(原判決4頁13行目から14行目)の正確性
について,以下の3つの根拠を挙げて,本件報告書の内容が正確でないと考えることに相応の根拠があると判示する。すなわち,①本件監査請求(同5頁1行目)に対する監査結果で,問題点が指摘されていること,②I議員(同4頁21行目)の450万円について,従前収支報告書のうち調査費の項目だけから450万円を減じて,訂正されているのは不自然であること,③J委員長(同16頁12行目)の証言は,月次報告書(同16頁19行目)の数字を積算して収支報告書を作成した,I議員は月次報告書を提出していないと述べながら,一方で450万円の返還に伴い収支報告書を訂正したと述べていて矛盾していることを指摘する。
しかし,①については,監査結果は全体として抽象的な指摘に止まり,唯一具体的な内容は「I議員に対する政務調査費の支給(450万円)に至る経緯が曖昧である」という事実のみである。②については,I議員に支給された450万円と領収書との対応関係が不明であることから,事後の修正手続の上でやむなく調査費の項目から450万円を減じたものであって,修正以前の報告書の記載が不正確であったということにはならない。③については,収支報告書は月次報告書を積算したものであるが,月次報告書の提出がない450万円について同額を後日減じるのは矛盾だという趣旨と思われる。しかし,仮にそうであったとしても,結果として補助参加人会派は疑義を払拭するため余分に450万円を返還したにすぎないのであるから,その行為によりその余の支出全体についてかえって不利益な扱いを受けるのは理屈に合わない。
原判決の理論によれば,当該年度の会派全体の政務調査費の支出のごく一部にでも収支報告書の記載との関係で矛盾があれば,報告書全体が不正確ということになり,その余の支出全体について会派が説明義務を負うことになるが,余りに論理に飛躍がある。
(イ)

本件における具体的問題点
仮に原判決による立証責任の分担に従った場合においても,本件にお
いては,その評価,当てはめにおいて以下のような問題がある。
地方議会における会派は会派内の会議や勉強会を通じて一定の政策のビジョンを立てて,協調して活動することが多く,年間に必要とされる政務調査活動の費用もおおむね似通ってくる。したがって,同一会派の一定割合の議員から政務調査費の支出についての説明がなされていれば,その余の議員についても同様の支出がなされていたであろうことは事実上推定できる。
原審において,当時Aに所属していた16名の議員が陳述書を提出して金額において合計8850万円の支出状況を説明しているのであるから,他の議員についても特段の事情がなければ同様の支出をしているであろうことは事実上推定され,全体として政務調査費の支出状況を明らかにしたと評価すべきである。
この点,原判決は,4500万円の政務調査費については,支出が不適切であることを推認させる外形的事実について1審原告らから何ら主張立証もないまま,単に個別の議員ごとの支出状況について立証がないとの理由で返還の対象となるとしており,不当である。
さらに,上記4500万円に該当する議員は合計9名で,うち現在も市議会議員である者1名,現在市議会議員でない者6名,死亡している者2名であり,陳述書の提出が不可能ないし困難な者がいるから,原判決が判示するように陳述書の提出されていない議員の全ての支出について返還義務があるとするのは補助参加人会派にとって酷である。
ところで,補助参加人会派は,平成16年度において合計1億5345万円の政務調査費の交付を受け,①平成17年5月26日に606万5717円,②平成18年11月16日に450万円,③平成20年5月22日に165万9781円,合計金1222万5498円を返還しているが,これに原判決主文の4614万円を加えると,合計5836万5498円,交付総額の38.1%が返還すべき総額ということになり,逆にいえば,交付額の6割余りしか認められないことになる。一方,丙10の4末尾の別紙一覧は,平成16年から同19年までの名古屋市における会派別の政務調査費交付総額及び返還金額を表にしたものであるが,この交付総額と返還金額の数字は公表されているものであり,パーセンテージはその金額を基に計算上算出された数字であるところ,これによれば,年度により多少のバラツキはあるものの,Kは13%から23%,その余の会派は,1%から8%程度の返還率である。すなわち,当時の名古屋市議会議員に必要とされる平均的な政務調査費の支出実態は,交付額の9割,少なく見積もって8割を下らないという実態がある。提出済みの16名の議員の陳述書に,上記実態を併せ考慮すれば,なお一層,補助参加人会派の平成16年度政務調査費個人分の支出状況は明らかにされていると評価すべきである。
(2)

事務所借上げ費について
原判決の判示
原判決は,B議員及びD議員が支出した事務所借上げ費,合計114万円について,本件規程の別表の事務費の内容欄に「事務所借上げ費」が例示されていないことから,基本的に同費用は政務調査費の支出の対象としては想定していないとし,上記両名の陳述書には調査研究活動のために特に事務所を借り上げる必要があったことが述べられていないことから,補助参加人会派は上記同額について返還義務を負うと判示した。


原判決の問題点
本件規程別表の「事務費」の内容欄に「調査研究活動に係る事務遂行に必要な経費」,さらに括弧書きで「事務用品・備品購入費・通信費等」との記載があり,また別表の欄外の「注」には「(

)内は例示」との記載

があることから,上記3つの例が例示であることは明らかである。しかし,原判決は3つの例が例示であることは認めながら,事務所借上げ費は例示に挙げられていないから,本件規程は基本的に政務調査費の支出の対象としては想定していないと判示する。
しかしながら,例示として挙げられている「事務所用品」「備品」は事務所建物の中で行う政務調査活動に必要な備品であるし,政務調査活動に必要な「通信」は電話やパソコンを使用して主に事務所建物内で行われることは自明である。そうであるなら,その事務所の借上げ費が政務調査活動に必要な費用であることも自明である。
結局,事務所借上げ費は,政務調査活動のために事務所が必要なことは当然であることから,それ自体が一般的,外形的に違法な支出であることを推認させるものとはいえず,特に返還を請求する側から違法な支出を推認させる事実が主張立証されていない本件において,補助参加人会派にはこれについて返還義務はない。
(3)

当審における1審原告らの主張に対する反論
1審原告らの主張の要旨
(ア)

原判決は,不当利得を請求する側において,相応の根拠をもって補
助参加人会派の提出した収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証した場合には,補助参加人会派において,政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度において政務調査費の支出状況を明らかにすべきであると判示した。
(イ)

これに対し,1審原告らは,①収支報告書の記載が正確でないとさ
れた以上,陳述書による一応の証明では足りず,領収書等の証拠を示すことで,報告された内容に対応する支出の全てについて実際に説明する必要がある,②政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度という条件は不要であると主張する。

立証責任について
(ア)

原判決の判示について
1審原告らは,前記ア(イ)①のように主張して,陳述書による一応の
説明をもって補助参加人の説明義務が果たされたとした原判決を批判している。
しかし,原判決は,補助参加人会派が一応の説明をすればそのことのみをもって結論が決まると述べているわけではなく,1審原告らが具体的な支出が不適切であることを推認させる外形的事実を主張立証した場合,補助参加人会派は当該支出が本来の使途目的に適うものであることの立証責任を負うとしている。つまり,具体的な支出が不適切であることを推認させる外形的事実を何ら主張立証しないまま返還請求を認容することに一定の歯止めをかけており,それ自体はこれまでの不当利得返還請求に関する判例理論に立脚した判断といえる。むしろ,個別の具体的な支出が不適切であることを推認させる外形的事実を立証しないまま,個人分支出の全額の返還を求める1審原告らの主張は独自の見解である。(イ)

立証責任に関する最高裁判決の引用について
1審原告らは,平成22年最高裁判決を引用し,同判決の理論に従え
ば,本件においては補助参加人会派においてその支出の全てが適法であることを反証せねばならないかの如く主張している。しかし,上記判決は,問題となった支出について,当該議会の議員名,支出時期,購入品目,金額を上げて個別具体的な支出が主張立証され,当該支出自体が一般的,外形的に見て不適切な支出であると強く疑われる事案である。(ウ)

収支報告書が不正確であるという意味について
1審原告らは,「補助参加人会派の議員の支出内容には政務調査費と
して不適切なものが含まれている疑いがある」と主張し,その理由として「原判決も認定したとおり……収支報告書には問題があり,支出内容について正確な報告がされているとはいえない」と主張する。
ところが,原判決によれば,当該年度の会派全体の政務調査費の支出のごく一部にでも収支報告書の記載との関係で矛盾があれば,報告書全体が不正確ということになり,その余の支出全体について補助参加人会派が一応の説明義務を負うことになるが,論理に飛躍がある。まして,1審原告らの主張するように一応の説明に止まらず領収書等による詳細な説明までが必要であるとの論法は,不当利得の返還を請求する側において,適法な支出に当たらないことの主張,立証責任を負うとの前提を無視するに等しく,あまりに不合理である。

秘匿性の要請について
前記ア(イ)②について,1審原告らは,議員の政務調査活動は公的なものであって,その性質上秘匿すべきものとはいえないと主張する。一方,本件において1審原告らは,補助参加人会派の個人分の支出全体について詳細な説明を求めており,議会ないし議員の自律を確保するために,秘匿性が要請されることはむしろ自明である。
この点につき,本件訴訟に付随する文書提出命令申立事件において,最高裁判所第二小法廷平成22年4月12日決定・集民234号1頁は,本件条例上,収支報告書の様式が個々の支出の金額や支出先,当該支出に係る調査研究活動を行った議員の氏名,当該活動の目的や内容等を具体的に記載すべきものとはされていないことや,議長の採ることのできる具体的な調査の方法が本件条例及び本件規則において定められていない趣旨は,「会派による個々の政務調査費の支出について,その具体的な金額,支出先等を逐一公にしなければならないとなると,当該支出に係る調査研究活動の目的,内容等を推知され,その会派及び所属議員の活動に対する執行機関や他の会派等からの干渉を受けるおそれを生ずるなど,調査研究活動の自由が妨げられ,議員の調査研究活動の基盤の充実という制度の趣旨,目的を損なうことにもなりかねないことから,政務調査費の収支に関する議長への報告の内容等を上記の程度にとどめることにより,会派及び議員の調査研究活動に対する執行機関や他の会派等からの干渉を防止しようとするところにあるものと解される。」と判示しており,正に本件事案において政務調査活動に一定の秘匿性が要請されることを明言している。エ
各支出項目への批判について
(ア)

会派の政務調査に限定されるとの主張について
1審原告らは,政務調査費の使途は補助参加人会派の政務調査に限定されると主張する。
しかし,地方自治法100条13項(平成20年改正後は14項)は,「その議会の議員の調査研究に資するため……会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる」と定め,これを受けた本件条例1条にも「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部」として政務調査費を交付することが規定されており,特に会派に限定する規定はなく,また政務調査活動自体,必ずしも会派としての統制の下で行う必要があるものではない。また,同条例2条においては,括弧書きで「会派」は「所属議員が1人の場合を含む。」と規定して,1人会派に対しても交付を定めていることに照らせば,会派が行うものに限定する必要はない。

次に,1審原告らは,甲20の「政務調査費の交付に関する条例

(例)及び同規程(例)関係資料集」を根拠に,名古屋市における政務調査費についてもその使途は会派の行う政務調査活動に限られ,議員個人の政務調査活動への支出は違法であると主張する。
しかしながら,甲20は,文字通り例,ひな形であり,何ら規範的根拠となり得るものではない。さらに,上記主張は,甲20が政務調査費の交付規程(例)第5条で「会派に係る政務調査費については別表第1」「議員に係る政務調査費については別表第2」と区別して規定していることを根拠とする。確かに,名古屋市の規程が上記のように分けて規定してあれば,別の基準を一方の基準に当てはめることはできないといえるかもしれない。しかし,名古屋市においては条例や規程において甲20のような2種類の基準を定めていないし,まして文言上も会派の政務調査活動に限定していないのであるから,1審原告らの批判は当を得ない。
(イ)

政治活動との不可分性について
1審原告らは,原判決が,議員の特定の活動は政務調査活動と政治活動の性質を併せ持つ場合があることは否定できないとして,その活動の中心的な目的が明白な政治活動(専ら選挙で当選を目指すことを目的とした活動)であるときは格別,そうでないときはその支出が本件規程に定める政務調査費の使途基準に合致している場合には違法な支出ということはできないと判示したことを批判する。
しかしながら,例えば地域住民から市政について意見を聞く会合を開いた場合に,これは民意を集約する活動であり,正に政務調査活動の最たる活動であるが,当該議員との意見交換を通じて参加した市民がその議員の施策に共感を持ち,結果として当該議員への投票行動を選択したとしても,そのこと自体をもって,その活動に要した費用を違法とすることはできないことは自明である。したがって,この点において原判決の判示は正しく,1審原告らの批判は当を得ない。

1審原告らは,上記のような場合は,政務調査費としての支出を按分して認めるべきとの主張もしている。
しかし,仮に特定の政治活動の性質を持つ部分が含まれているとしても,原判決が指摘するようにその活動の中心的な目的が政務調査活動であるならば,当該支出がその活動のために充てられている以上,使途基準に従った正当な支出というべきである。

(ウ)

交際その他の目的を有する支出について
1審原告らは,F議員の歯科医師会の研修等のために政務調査費を4
7万4100円支出したことは目的外支出であると主張する。
しかし,F議員は歯科医師であることから,市の政策の中でも保健・医療・福祉・介護といった分野に特に興味を持ち,それに関わる研修や集まりには積極的に参加し,最新情報の収集に努めるとともに,開催議題に関連する行政課題についてのF議員自身や補助参加人会派の考え方を参加者へ説明し,これに対する意見,要望を聴取していた。また,それら会合の中には歯科医師会の集まりも含まれているが,「介護保険制度の意見交換」「今後の歯科医師のあり方」「障害者歯科についての報告」等,介護や医療の政策に有益な情報を得る場となっていた。
よって,上記47万4100円の支出は市政の政策策定のための調査活動の費用であって,使途基準に従った支出である。
(エ)

飲食費について
1審原告らは,Aの共通経費部分の会計帳簿を基に,個人分の支出においても飲食費が含まれているはずであるから,補助参加人会派から領収書等を提出させる等して反証する責任を負わせるべきであると主張する。
しかし,会派全体の活動と議員個人の活動とはその性質は異なるのであって(会派全体での政務調査活動としては各種会合が当然主体的な活動となる。),共通経費として飲食代が計上されていたとの理由で,必然的に個人の支出にも飲食代が含まれているということにはならない。また,そもそも仮に飲食代が含まれていると仮定しても,それが当該政務調査活動の目的に照らして社会的儀礼的な程度のものであれば違法な支出ということはできない。むしろ,外形的に違法であると推認される具体的な支出を不当利得の返還を求める側が指摘すべきであり,それをしないまま補助参加人会派に領収書の提出等すべての反証を課すなどという論法は,本件において領収書等の文書提出義務はないとした前掲最高裁決定にも反する主張である。


1審原告らは,個人分の支出についても何ら具体的な主張をしないまま,飲食費が含まれているはずであるとして,補助参加人会派から領収書等を提出させる等して反証する責任を負わせるべきと主張する。しかし,平成16年度における個人分支出の会議費は,市民に対する市政報告会や市民との意見交換会の費用であり,具体的には会場費や資料代である。
(オ)

広告費について
1審原告らは,広報活動は政治活動の意味合いが強いから広報費を政
務調査費から支出することは許されない,そうでないとしても2分の1相当分は返還すべきであると主張する。
しかしながら,そもそも本件規程の別表(乙1)には,項目として「広報費」,その内容として「調査研究活動,議会活動及び市政に関する政策等の広報活動に要する経費」,その例示として「広報紙,報告書等印刷費,送料,交通費等」がそれぞれ明記されている。つまり,名古屋市においては,「広報費」を政務調査費から支出することは制度上認められているのであり,1審原告らが述べるように,「広報費」であるとの理由で直ちに当該支出が違法であるとの主張が誤りであることは規定上明らかである。
この点,原判決は,「一般的に見て『調査研究に資するため必要な経費』の支出でないということはできない」と判示しており,議員の多様な政務調査活動の実態を理解した正しい判断である。例えば,地域住民を対象とする市政報告会を開いた場合,その報告を踏まえ逆に市民から要望や意見を出してもらい,これを集約することは議員の政務調査活動としてはしばしば見られる活動であるが,これに要する費用が政策決定のために必要な費用であることは異論がないであろう。そして,市民から意見を出してもらい,それを市政に反映するためには,その材料となる情報を市民へ提供する必要があるので,広報活動は政策策定のための重要な前提となる。
また,「G」の発行費用についても,各議員が推進する施策等を記事として掲載し,これに対する市民の反応を見て今後の議員としての活動に反映させる効果を有しているのであるから,政策に関連しない記事が含まれているとしてもそれは紙面の一部にすぎず,全体として専ら政務調査活動のための費用であることから,使途基準に反するとはいえない。同旨の原判決の判示は当を得たものである。
(カ)

事務所借上げ費について
甲20について
1審原告らは,文字通り例,ひな型にすぎない甲20(14頁)の別表2において,「事務費」とは別に「事務所費」の項目が規定されていることから,「事務費」の項目に事務所費は含まれないと主張する。確かに,「事務費」とは別にあえて「事務所費」の項目が規定されていれば,正にその規定における「事務費」項目に事務所費は含まれないと考えるのは当然である。しかし,名古屋市の場合にはそのように区分されることなく「事務費」項目のみ規定されているのであるから,「事務費」の概念を甲20の「事務費」より広義に解釈することは可能である。むしろ,甲20は,事務所の事務費が政務調査活動の費用として認められることを前提としている。


B議員の事務所借上げ費について
平成16年度において,B議員は毎月5万5000円,計66万円の事務所借上げ費を政務調査費から支出した。同議員は,もともと自宅の1階部分を主に後援会及び議会活動用の事務所として使用していたが,政務調査活動への協力者への交通の便や資料の保管場所の必要のため,自宅事務所とは別に専ら政務調査活動のための事務所として借り上げたものであり,上記支出が適法なことは明らかである。


D議員の事務所借上げ費について
平成16年度において,D議員は毎月4万円,計48万円の事務所借上げ費を政務調査費から支出した。D議員は,政務調査活動のために使用することを主目的として,具体的には,資料の作成,整理,調査活動の準備や実践に必要な作業の場所を確保するため,月額9万1000円で事務所を借り上げ,そのうち月額4万円を政務調査費から支出した。確かに,同事務所を後援会のために使用することもあったが,それは1年を通して見れば時間的にごくわずかの部分にすぎなかったので,上記48万円の支出が適法なこともまた明らかである。(キ)

人件費について
1審原告らの主張
1審原告らは,人件費のうち外形的に違法な支出であることが疑われる具体的な事実や支出を特定することなく,人件費については全額支出することは許されないとか,調査活動の補助職務の具体的な内容やさらには被雇用者の住所をも明らかにしなければ支出額の2分の1は一律違法であると主張している。


上記主張の問題点
そもそも政務調査費返還訴訟においては,原告側が一般的・外形的に違法な支出であることが疑われる個別具体的な事実や支出について主張立証すべきであり,その疑わしい支出が特定された場合には,会派側がその具体的な支出について正当な支出であることの反証が課せられる。


使途基準への適合性について
平成16年度において,名古屋市は人口226万人余りの大都市であり,通常の市町村の権限に加え政令指定都市として都道府県レベルの権限を併せ有し,市が処理する事務の範囲は広範にわたる。その結果,名古屋市における行政課題は多岐にわたり,議会で審議すべき事項や会派又はその所属議員として取り組むべき課題は膨大である。上記のような状況下において,個々の議員としても,政策策定のための資料の作成や整理,また広報活動のための資料作成,原稿作成,並びに会場の手配等,およそ政務調査活動をするについてあらゆるマンパワーを議員1人で賄うことはできず,当然ながらそれを補助する職員が必要であるし,その補助を得ることによって効率的,かつ,充実した調査活動が可能となる。本件規程が,その別表において政務調査費の項目として「人件費」,内容として「調査研究活動を補助する職員(臨時職員を含む。)を雇用する経費」と定めているのは,そのような議員の政務調査活動の実情を前提として,規定上も政務調査費から人件費を支出することを認めたものである。
実際,平成16年度にAに所属した多くの議員は,人件費総額のうち一定部分についてのみ政務調査費を充当し,その他の部分についてはそれ以外の費用を充てている。人件費総額の全額に政務調査費を充てている議員についても,専ら政務調査活動の補助をさせるアルバイトや事務員の人件費であり,後援会活動や政治活動について補助作業が必要であったとしても,それは1年を通じてごく一部であったり,その補助作業を後援会のメンバーや家族に無償で行わせたり等,各議員においてそれぞれ使途基準に従った対処をしている。
ところで,丙45の1・2は,公表されている平成16年度,17年度の名古屋市議会における各会派の政務調査費の総支給額及びその項目別の支出割合を補助参加人会派が一覧表にまとめたものであるところ,全体の支出に占める人件費の割合について,Aが突出して高い訳ではないことが分かる。この点からも,Aの平成16年度の人件費の支出について,特に外形的に違法をうかがわせる点はない。
第3

当裁判所の判断
当裁判所は,原判決と異なり,1審原告らの本訴請求は,1審被告が補助参加
人会派に対し,294万円を支払うよう請求することを求める限度で理由があり,その余は失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。1
政務調査費の意義及びこれを前提とした主張立証責任の分配について(1)

標記については,当裁判所の判断もおおむね原審(原判決13頁8行目
から16頁7行目まで)と同様であり,要約すれば,①政務調査費は,広範な職責を有する普通地方公共団体の議会の議員活動を実効あらしめるために,その調査研究のための費用を助成する趣旨・目的のものであること,②議員による調査研究活動は,一般に外部から容喙されるべきものではないから,政務調査費の支出の適法性の判断は,原則として自律的な判断に委ねられるべきであるが,他方で,これが公費を原資としていることに照らすと,収支の状況はできるだけ透明性を確保することが望ましいこと,③政務調査費の交付を受けた会派が本来の使途及び目的に反する支出をした場合,市長は,当該不適切な支出に相当する額の返還を求めることができること,④その返還請求権は不当利得返還請求権の性質を持つと解されるから,一般的な主張立証責任の分配法則に従い,政務調査費の返還を請求する側において,返還を求める政務調査費の支出が「市政に関する調査研究に資するために必要な経費」の支出に当たらないことの主張,立証責任を負うことになること,⑤返還を請求する側において,相応の根拠をもって当該会派の提出した収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証し,当該政務調査費の支出が本来の趣旨・目的に沿ったものでないとの疑いを生じた場合には,返還を求められている会派側において,政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度において,政務調査費の支出状況を明らかにすべきであり,そのような最低限度の説明責任さえ果たさない場合には,返還義務を免れないこと,⑥また,当該会派が⑤の支出状況を明らかにした場合でも,返還を請求する側が,具体的な政務調査費の支出が本来の使途及び目的に反した支出であることを推認させる外形的事実を主張立証したときには,返還を求められている会派側において,当該政務調査費の支出が本来の使途及び目的に適うものであることを立証しない限り,返還義務を免れないこと,以上のように解するのが相当と判断する。
(2)

この点につき,1審原告らは,①政務調査費が税金を原資としていて透
明性の確保が強く求められることなどから,政務調査活動の秘匿性の要請は不要であり,返還を求められた当該会派は,陳述書による一応の説明では足りず,領収書等の客観証拠を示して説明義務を果たすべきである(前記第2の3(1)イ(イ)(ウ),ウ(イ)(ウ),第2の3(2)イ(ア)(イ)),②当該会派が政務調査費の支出状況を明らかにした場合,返還を求める側が主張立証すべき外形的事実としては,政務調査費の趣旨・目的に反する個々の具体的支出内容まで明らかにしなければならないものではなく,類型的,抽象的に政務調査費として妥当性を欠く疑いが強い支出が存在することを主張立証すれば足り,この場合,当該会派側は,領収書等の客観証拠を示して支出内容に関する具体的説明を行う反証責任を負担すべきである(前記第2の3(2)イ(ア),ウ(イ)ないし(エ))と主張し,平成22年最高裁判決を援用する。(3)

そこで,まず①について検討するに,地方自治法(平成20年法律第6
9号による改正前のもの)100条13項は,普通地方公共団体が,条例をもって,政務調査費の交付制度を設けることを認め,同条14項は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員が,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出する責任を負うことを定めている。これらの規定の趣旨は,一方で,普通地方公共団体が,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,会派又は議員に対する調査研究費用の助成を制度化することを認め,他方で,政務調査費が公費によって賄われることから,その使途の透明性を確保しようとしたものと解される。
もっとも,地方自治法は,後者の要請をどのように実現するかにつき,あくまでも「条例の定めるところにより」「収入及び支出の報告書を議長に提出」すべきことを定めているにすぎず,具体的に報告すべき内容や程度については,各普通地方公共団体が実情に応じて制定する条例に委ねているので,政務調査費の使途がその趣旨・目的に反することを理由として返還を求められた場合の主張立証責任の分配は,あくまでも当該条例の定めに即して判断すべきであり,このことは,当該条例につき透明性確保への配慮が十分でないとの立法論としての批判があろうとなかろうと異なるものではない。しかるところ,本件条例(甲3)は,政務調査費の交付を受けた会派の代表者が「別記様式」による収支報告書を議長に提出しなければならず(5条1項),提出された収支報告書について5年間保存することを義務付け(8条1項),何人も閲覧を請求することができる(同条2項)と定めているものの,「別記様式」の収支報告書の支出の部には,「項目」,「支出額」,「備考」及び「合計」の各欄しか設けられておらず,個々の支出の金額や支出先,当該支出に係る調査研究活動を行った議員の氏名,当該活動の目的や内容等を具体的に記載すべきものとしていない。また,本件条例は,収支報告書に関する議長の調査権を定めている(6条)が,これについても,その具体的な調査方法等は本件条例及び本件規則(甲4)において定められていないので,どのような場合に,どのような方法で,どのような程度まで調査を行うかについては,基本的に議長の裁量に委ねられている(もちろん,同調査は,「政務調査費の適正な運用を期すため」のものであるから,出身会派以外の他会派に対する不当な圧力の手段として行われるべきものでない。)と解するほかない。
その趣旨は,先に引用した原判決(13頁17行目から22行目まで)が指摘するとおり,本来,調査研究活動は当該議員や会派の問題意識にのっとって実施されるべきものであり,場合によっては,執行機関や他会派との間で緊張関係を生ずることもあるので,その実効性を確保すべく,個々の政務調査費の支出金額,支出先等を逐一公にし,ひいては調査研究活動の全貌を明らかにすることまでは当該会派に義務づけることを控えるというものであると考えられる。
なお,本件規則は,会派に政務調査費に関する経理責任者を置くべきことと,当該経理責任者に対し,政務調査費の支出についての会計帳簿の調製義務と,領収書等の証拠書類の整理及び5年間の保管義務を課している(6条)が,これも,上記の趣旨に照らすと,当該会派の自律的規制を定めたにすぎず,議長による上記調査の対象となることはあっても,それ以外の者による調査の対象となることは予定されていないといわざるを得ない。そうすると,透明性確保の要請から,政務調査活動の秘匿性を考慮することなく,返還を求められた当該会派は領収書等の客観証拠を示して説明義務を果たすべきであるとの1審原告らの上記主張は,本件条例及び本件規則を前提とする限り(平成20年市条例1号による改正後の条例では,1件につき1万円以上の支出について,領収書等の証明書類の写しの添付や閲覧対象となることなどの改善措置が盛り込まれている。),採用することができない。
(4)

次に上記②について検討するに,引用した原判決の判示(15頁4行目
から12行目まで)のとおり,本来の趣旨・目的に反する使途に充てられた政務調査費の返還を求める請求権は,不当利得返還請求権の性質を有すると考えられるから,返還を求める側が,当該支出が法律上の原因を欠くこと,すなわち「市政に関する調査研究に資するために必要な経費」の支出に当たらないことの主張立証責任を負うべきである。ただ,その判断に必要な資料のほとんどが当該会派側に存在していることに照らすと,返還を求める側が,当該会派の支出が本来の使途及び目的に反する使途に充てられたことを推認させる外形的事実を主張立証した場合は,当該会派が,その推認を覆すべく,返還請求の対象となった政務調査費の支出が「市政に関する調査研究に資するために必要な経費」に当たることを主張立証すべきである。ところで,この解釈は,証拠の偏在による主張立証責任の負担の不均衡を緩和するためのものであるが,当該不均衡自体は本件条例及び本件規則の内容から生じたものであるから,主張立証責任の分配原則を変更するものではなく,あくまでも事実上の推定を適用ないし応用したものにすぎない。したがって,政務調査費の返還を求められた当該会派が,どの程度具体的かつ詳細に当該支出の内容を明らかにしなければならないかは,返還を請求する側がどの程度の証明力,説得力を伴う外形的事実を主張立証したかに関わることであり,本来の趣旨・目的に適した使途に充てられたのではないことについてかすかな疑いを生じたにすぎない場合であっても,常に当該会派が領収書等の証明書類を提出し,その支出状況を詳細に明らかにしなければならないという反証責任まで負わすことは相当でない。
上記(1)⑤で述べた準則で示した,返還を請求する側が「相応の根拠をもって」収支報告書の記載内容が正確でないことを主張立証し,政務調査費の支出が本来の趣旨・目的に沿ったものでないとの疑いを生じた場合という要件や,返還を求められた当該会派側が「政務調査活動の秘匿性の要請に抵触しない限度において」政務調査費の支出状況を明らかにすべきという効果は,このような趣旨のものと解すべきである。
2
平成16年度のAにおける政務調査費の会計処理状況について
(1)

平成16年度のAにおける政務調査費の処理状況は,原判決第3の2
(16頁8行目から18頁1行目まで)に判示したとおりであるところ,①政務調査費に関する経理責任者を務めていたJ委員長は,所属議員から月次報告書とこれに対応する領収書の提供を受け,前者については細目ごとの金額をパソコンに入力して集計していたが,本件規則6条2項所定の会計帳簿を調製しておらず,後者については,項目ごとにまとめて保管していたが,どの議員が提出したかについては特定できないこと,②Aは,当時病気療養中で政務調査活動ができなかったI議員にも450万円の政務調査費を支給したところ,1審原告らによる本件監査請求を受け,本件報告書のうち,支出項目「調査費」及び支出の「合計金額」をそれぞれ450万円減額した訂正願いを議長に提出するとともに,市長の返還命令に従って450万円を返還したこと,以上の問題点があったことは,本件監査請求に対する監査結果でも指摘されている(原判決5頁15行目から22行目まで)。
(2)

しかしながら,J委員長は,所属議員から月次報告書と領収書の提出が
あった場合,支出が政務調査費の使途基準に適合するか否かについて検討し,政務調査費として認められない支出があった場合には,その旨を当該議員に説明して領収書と報告書をいったん全部返還して,再提出させていること,判断が微妙な場合には,議員団長に相談を持ちかけて判断していたこと(団長への相談は平成16年度中に10回程度あった。),I議員への政務調査費は,経理責任者であるJ委員長の関与しないところでL議員から支払われたこと,以上の事実が認められ(丙10の2・4,証人J),これらによれば,J委員長は,パソコンへの入力によって紙ベースの会計帳簿の調製に代え得ると誤解していたことはあるものの,I議員に関わる部分を除いては,おおむね本件条例及び本件規則の趣旨に沿って会計処理を行っていたもので,本件報告書の訂正も,領収書がどの議員から提出されたのか特定できなかったため(本件規則6条2項は,経理責任者は領収書等の証拠書類を「整理」すべきことを定めているにすぎず,どのような方式,内容で整理すべきかについては触れるところがない。),便宜的に「調査費」から450万円全額を減額したにすぎないと認められる。したがって,以上の事実だけで訂正後の収支報告書の全体が正確性を欠き,そこに記載された全部の支出について本来の趣旨・目的に沿った使途に充てられなかった疑いが生じたと評価することは相当でない。
そうすると,当審において,補助参加人会派は,新たに当時のMに所属していた議員7名分の陳述書(丙35の1・6,36の1・7,37の1・5,38の1・3,39の1・2,40の1・7)を追加提出し,合計で3750万円分の政務調査費の概要を説明していることを別論としても,上記のような問題点があるからといって,I議員に対する支給分を超えて,収支報告書の全体について補助参加人会派に支出状況を明らかにすべき説明責任が生じたと判断するのは,上記の秘匿性の要請に対する配慮を欠くとの批判を免れず,まして,補助参加人会派が陳述書による説明責任を果たそうとしても困難な状況にあることを考慮することなく,結果的に陳述書の提出がなく,これに代わる支出状況についての説明がなかったからといって,かかる議員(元議員を含む。)に支給された政務調査費全部(1審段階で4500万円,当審で750万円)が本来の趣旨・目的に反する使途に充てられたとの事実上の推定を及ぼすことは,前記の主張立証責任の分配法則を実質的に変更するものであって,行き過ぎといわざるを得ない。
この点につき,1審原告らは,平成22年最高裁判決を援用するが,当該事案においては,議員らが,長年にわたる議員としての経歴を有しながら,引退間際になって,緊急の必要性がないにもかかわらず,パソコン等の手元に残る比較的高額な物品を初めて購入した,しかも,最後の議会の会期後に購入されたものも少なくないなどという,使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる具体的な事実の存在についての主張がなされており,本件に直ちに妥当するものとはいえない。
以上によれば,陳述書の提出がなかった議員に支給された政務調査費については基本的な説明責任が果たされていないとして,直ちにその全額を不当利得として返還すべきと判断するのは相当でなく,その可否は,あくまでも1審原告らが不適切な使途に充てられたことを推認させるに足りる具体的な外形的事実を主張立証できたかに掛かるというべきである。
3
会派外の政務調査活動への支出の可否について
(1)

1審原告らは,①本件条例1条は,「議会における会派」に支給すると
規定し,同2条が「会派に対して交付する」と規定していることからして,1条の「議員の調査研究に資する」との文言は,「会派の調査研究を行う職員の調査研究に資する」と読むべきであり,同条2項括弧書きは,会派の所属議員が1人であった場合であっても,交付対象は議員個人ではなく,これを「会派」とみなす旨述べた規定であり,②「政務調査費の交付に関する条例(例)及び同規程(例)関係資料集」(甲20)を援用して,名古屋市においても会派に交付された政務調査費の使途は会派の行う政務調査活動に限定されるべきであると主張する(前記第2の3(2)エ(イ)a①)。(2)

しかしながら,①については,原判決(20頁25行目から21頁8行
目まで)が判示するとおり,本件条例は「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部」として政務調査費を交付することと規定しており(1条),特に会派としての活動に限定する旨の規定はないこと,また,政務調査活動自体,必ずしも会派としての統制の下で行う必要があるものとはいえず,議員個々人の判断で行われても特に不都合は考えられないこと,本件条例は,「会派」には「所属議員が1人の場合を含む。」と規定して,1人会派に対しても交付をすることを定めていること(2条括弧書)などを考慮すれば,本件条例が政務調査活動の実施主体(換言すれば政務調査費の支出主体)を会派に限定していると判断することはできない。
また,②についても,「政務調査費の交付に関する条例(例)及び同規程(例)関係資料集」は,各都道府県における政務調査費の交付に関する条例等の策定準備作業が円滑に進められるよう,全国議長会が指針となる条例等を提示する目的で案として作成されたものにすぎないから,補助参加人会派が指摘するとおり,直ちに規範的根拠となり得るものではないし,名古屋市の本件条例や本件規則は,上記条例(例)等と異なり,「会派に係る政務調査費」と「議員に係る政務調査費」の2本立ての基準を採用しておらず,文言上も会派の政務調査活動に限定していないので,基本的構成に差異があるといわざるを得ない。
付言すれば,仮に支出主体を会派に限定したところで,個々の議員の発案に係る調査研究活動の企画に対して当該会派が承認し,その議員に実施を委嘱する手続を取るならば,当該活動の実施主体は会派といわざるを得ず,結局,上記の限定は実質的に意味を失うことになる。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
4
政治活動等と政務調査活動について
(1)

1審原告らは,支出対象の活動が明白な政治活動であり,あるいは別途
費用が支弁されるものである場合は,政務調査費で賄うことはできず,このような支出内容が含まれている場合には,支出額を按分し,政務調査費に賄われるべきでない部分の支出を違法とすべきであると主張する(前記第2の3(2)エ(イ)a②)。
(2)

しかしながら,原判決(20頁12行目から19行目まで)が判示する
とおり,議員は,地方自治法上,議決権,選挙権,監視権,意見表明権等広範な権限と職責を有しており(同法96ないし100条,125条,179条3項,180条2項,206条4項),これに応じて政務調査活動も広範にわたることが予定されているから,その活動の性質を厳格に論ずることが困難な場合がある。そして,議員の特定の活動が,政務調査活動と政治活動の性質を併せ持つ場合があることは否定できないから,その活動のための政務調査費を支出する場合,その活動が専らあるいは主として選挙で当選することを目的とする政治活動であることが明白な場合は格別,そうでないときは,その支出が本件規程に定める政務調査費の使途基準に合致している場合は,当該支出をもって違法ということは困難である。
なお,両者の性質を併せ持つ活動が行われた事案でも,政治活動を純粋な政務調査活動と分離することができ,かつ分離すれば当該支出額が減少することが高度の蓋然性をもって予想される場合は,1審原告らが主張するとおり,支出額を按分し,政務調査費に賄われるべきでない部分の支出を違法とすることも考えられないではないが,不当利得の法理に照らすと,このような場合に該当することは,返還を求める側において主張立証する責任があると解される。
したがって,政治活動の性格を併せ持つような活動に対する政務調査費の支出は違法であるとか,上記の要件の有無にかかわらず,直ちに支出額を按分すべきとの主張は採用できない。
5
交際その他の目的を有する支出について
(1)

1審原告らは,政治活動以外の交際その他の目的を有する支出について
も,政治活動に関する基準が該当し,F議員の歯科医師会の研修等への政務調査費47万4100円の支出は目的外支出であると主張する(前記第2の3(2)エ(イ)a③)。
(2)

しかしながら,歯科医師でもあるF議員は,市の政策の中でも保健・医
療・福祉・介護といった分野に特に関心が深く,それに関わる研修や集まりに積極的に参加し,最新情報の収集に努めるとともに,開催議題に関連する行政課題についてのF議員自身や所属会派の考え方を参加者へ説明し,これに対する意見,要望を聴取していたこと,それら会合の中には歯科医師会の集まり(選挙区であるα区関係者の集まりだけでなく,愛知県あるいは名古屋市といった広域対象の集まりもある。)も含まれているが,「介護保険制度の意見交換」「今後の歯科医師のあり方」「障害者歯科についての報告」等,介護や医療の政策決定に有益あるいは参考となる情報を得る場となっていたことが認められる(丙16の1・2,証人F)。
これらの会合への出席によって得た意見,要望等の中には,名古屋市だけで解決することが困難なものも含まれている可能性もあるが,だからといって市議会議員としての活動に全く無縁,無意味なものと断定できるものではないから,上記会合への参加が市政の政策策定のための調査研究活動の費用でないとはいえず,結局,使途基準に従った支出ではないとは認められない(按分すべき要件の存在も認められない。)。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
6
飲食費について
(1)

1審原告らは,①補助参加人会派が具体的な支出状況等を明らかにして
いない,②Aの共通経費を記録した過去の会計帳簿によれば,食堂やホテルでの会合とか,単価1500円以上の昼食弁当代など,政務調査活動との関係性が大いに疑われる昼食代や飲食代の支出が存在した,③平成14年度におけるAの共通経費中の懇談会費(会議費)のうち77.2%が目的外支出であったことが報告されているなどとして,補助参加人会派に不適切な飲食費の支出がなかったことの反証責任を負わすべきであると主張する(前記第2の3(2)エ(ウ))。
(2)

確かに,原判決(21頁12行目から22頁3行目まで)が判示すると
おり,飲食費の支出が政務調査活動の本来の趣旨・目的に沿った費用と認められるためには,当該活動が飲食を伴うことの必要性と相当性の各要件を充足することが求められるというべきであるが,だからといって,1審原告らにおいて,当該飲食費の支出が不適切なものであることあるいはこれを推認させる具体的な外形的事実を何ら主張立証することなく,単に補助参加人会派が具体的な支出状況等を明らかにしていないとの理由だけで,反証責任を負わすことは,不当利得における主張立証責任の分配法則からみて行き過ぎといわざるを得ない。
また,過去(平成14年度以前)におけるAの共通経費中に,必要性及び相当性の要件を欠く疑いのある飲食費の支出が存在したとしても,その後の年度においても,当然にこのような飲食費の支出がなされたと推認することはできず,同様に,共通経費中に不適切な飲食費の支出が存在したからといって,議員個人支給分にも同様の不適切な支出があったと推認することはできない。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
7
広報費について
(1)

1審原告らは,①広報費の支出は性質上政治活動としての意味合いが強
いものであるから,具体的な使途が明らかにされない場合には,政務調査費として不適切なものと推認すべきであり,②補助参加人会派の発行する「G」には,政務調査活動とは無関係な議員の後援活動の記事が含まれているから,少なくとも費用を按分して返還させるべきである旨主張する(前記第2の3(2)エ(エ))。
(2)

そこで検討するに,原判決(22頁7行目から19行目)が判示するよ
うに,議員の広報活動は,選挙民を主たる対象として,その時々の政治的,行政的課題についての自己の見解や活動内容を明らかにし,逆に選挙民等から示された反応や意見をその後の活動に反映させることにより,自分に対する支持や理解を取り付けることを主たる目的とするものであって,その多くが政治活動,後援活動としての性格を併有していることは否定できない。しかし,現代における政治的,行政的課題の相当部分は,最終的には主権者である有権者が示した意向に沿って取り組まれるべきものである上,その前提として有権者に対して様々な情報が提供され,適切な判断が形成される必要があることもいうまでもないから,議員の行う広報活動も,このような相互作用が全く期待できないようなものでない限り,議員の有する広範な職責を果たすために有益な調査研究活動に当たり,そのための費用は,政務調査費の本来の趣旨・目的に沿った支出でないとはいえない。したがって,補助参加人会派が広報費について具体的な使途を明らかにしないからといって,不適切な支出であると推認することはできない。
なお,補助参加人会派(及び平成16年度当時のA)が発行する「G」の多くには,原判決(22頁22行目から23頁11行目まで)が認定説示するように,各議員が議員として上げた実績を宣伝する内容の記事が掲載され,また,その一部には,後援会活動など政務調査活動と直接関連しない記事を掲載するものがあると認められる。しかし,上記のとおり,各議員が自らの活動実績を示して,それに対する選挙民の反応や意見を今後の活動に反映させることは本来の政務調査活動に反するものとはいえず,また,後援会活動に関する記事を掲載している「G」であっても,紙面全体に占める割合が一部(4分の1以下)にすぎないことに照らすと,これらの発行費用が政務調査費の本来の趣旨・目的に反するとまではいえないと判断するのが相当である。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
8
事務所借上げ費について
(1)

原判決が,B議員とD議員の事務所借上げ費合計114万円については
政務調査費の趣旨・目的に沿った支出といえないと判断したのに対し,補助参加人会派は,本件規程の定める使途基準に掲げられた「事務費」の内容である「事務用品・備品購入費・通信費等」は例示にすぎないから,これに例示されていないからといって事務所借上げ費が政務調査費に含まれないことには結びつかず,また,政務調査活動のために事務所が必要であることは当然である旨主張する(前記第2の4(2)イ,(3)エ(カ)a)。(2)

しかし,原判決(23頁16行目から24行目まで)が指摘するとおり,
本件規程があえて「事務費」の例示として事務所借上げ費を掲げていないことに照らすと,基本的に政務調査費の支出対象としては想定していないといわざるを得ない。
その実質的な理由としては,通常,事務所の賃借は,ある程度の期間にわたって行われ,そのための賃料も比較的高額になりがちであるところ,費用対効果の観点から,それだけの支出に見合うだけの成果を期待できるかについては不確実といわざるを得ないこと,このような空間は,後援会活動等,本来の政務調査活動と無関係な活動に利用されやすいこと(現に,補助参加人会派は,D議員が借上げた事務所を後援会活動に使用することがあったことを自認している。),そもそも,自宅以外の空間を恒常的に確保しなければ実施できない政務調査活動がどのようなものか想定し難いことなどが考えられる。
したがって,事務所を借り上げた議員が特定の政務調査活動を実施する上で,その空間を確保することが不可欠であるような特別の事情の存在を補助参加人会派が主張立証すればともかく,そうでなければ,事務所借上げ費の支出については,本来の趣旨・目的に沿った使途に充てられていないとの推認を免れないというべきである。
(3)

この点について,補助参加人会派は,当審において,①B議員は,政務
調査活動のため協力者や資料の保管場所として,自宅事務所の他の事務所が必要であった,②D議員は,資料の作成,整理等の場所を確保する必要があったなどと主張し(前記第2の4(3)エ(カ)b,c),これに沿うかのごとき内容の陳述書を提出している(丙42,43)。
しかしながら,B議員の掲げる理由は,後援会関係者の来訪する場所と政務調査活動関係者のそれとを分けたいと考えたこと,市役所関係者や関係団体の者を呼んで行う政務調査活動に専念できる環境が必要であったこと,自宅が最寄り駅から徒歩13ないし14分を要する場所にあったこと,政務調査活動に伴う各種資料の保管が必要であったことなどであり,D議員のそれは,議員本人又は事務員が常駐して住民が安心して電話をかけることができること,資料の作成,整理等の場所を自宅以外に確保する必要があったことなどにすぎず,1審原告らが指摘するとおり,自宅(事務所)と借り上げた事務所の状況,保管している資料の内容や量,政務調査活動の協力者・関係者の詳細など,借上げが政務調査活動の実施に不可欠であることをうかがわせる具体的な事情については何ら触れていないので,その信ぴょう性に疑問を抱かざるを得ない上,仮に主観的には借上げの必要性を感ずることがあったとしても,上記の推認を覆すに足りる反証には到底なり得ないといわざるを得ない。
なお,B議員とD議員のほか,N議員についても,事務所借上げ費合計180万円(1か月15万円)を政務調査費として請求しているところ,これについても,借上げが政務調査活動の実施に不可欠であることをうかがわせる具体的な事情については何ら明らかにされていない(丙36の1,7)ので,同金額の支出についても本来の趣旨・目的に沿った使途に充てられていないといわざるを得ず,結局,返還を求めるべき事務所借上げ費の合計は,294万円となる。
9
人件費等その他の経費について
(1)

1審原告らは,裁判例が,人件費全額について政務調査費を支出するこ
とを認めていないことを前提として,按分的な支出を認容する場合であっても,被雇用者の氏名等を明らかにするなど,会派又は議員側の具体的な主張,立証を必要としていると主張する(前記第2の3(2)エ(カ))。(2)

しかし,政務調査活動を実施するに当たり,常に議員が単独で取り組ま
ねばならないとはいえず,事柄によっては,専門的知見を有する者の助力を求めたり,あるいは大量のデータの分析・整理に他人の力を借り受ける必要が生ずることもあり得るところである。そして,このようにして雇用した者を特定して明らかにするだけで,政務調査活動の概要が推知されるおそれがあることは否定できないので,被雇用者の氏名等を明らかにしないことのみをもって,その人件費の支出が本来の趣旨・目的に沿った使途に充てられていないと推認することは相当でない。
すなわち,既述のとおり,政務調査費の返還請求をなす側において,一般的・外形的に不適切な支出であることの疑いを生じさせる個別具体的な事実や支出についての主張立証をして初めて返還を求められた会派に反証の負担が生ずると解するのが相当である。
(3)

この点につき,1審原告らは,①H議員によるアルバイト料は,その陳
述書(丙18の1)によっても政務調査活動との関連性が薄いので不適切な支出である,②アルバイトを雇用している他の21名の議員が,真に人件費を支出していると認定できたとしても,全額について支出を認めるのは不当である旨主張する。
そこで,まず①について検討するに,H議員は,平成16年度の政務調査活動として,「荒れる中学校の問題」「フットサル場の設置問題」「ホームレス問題」の3点を主たる課題に選定し,実態調査,関係者からの事情聴取,地元の住民らの意見の集約などに取り組んだこと,「荒れる中学校の問題」に係る調査のため,最大の協力者であるS団地福祉協議会会長Tとは,長期間にわたって週3回は意見・情報の交換を行ったほか,父兄,PTAの役員などから,毎日のように様々な情報が寄せられたことから,雇用したアルバイトは,H議員の不在の際の聞き取り等の応対,連絡調整,会合の設営,寄せられた意見,情報等の記録及び整理に従事していたこと,他の2つの課題についても,同様に,現地調査,関係者に対する聞き取り,関係する会合への参加,記録の作成保管,関係資料調査等の活動をH議員1人で行うことが困難であったため,業務全般の補助のためにアルバイトを使用したこと,アルバイトが従事していた主な政務調査活動の補助業務(丙18の5の2頁に掲載)のうち,ア(各種調査,資料作成),ウ(市政報告会に係る業務)は上記3つの課題に関するものが大半を占め,エ(中学校問題研究会等に関する業務)は「荒れる中学校の問題」に関するものが大半を占め,イ(広報紙「G」に関する業務)は原稿作成に係る各種補助業務,発送作業にアルバイトを従事させたこと,以上の事実が認められ(丙18の1・5・6),これらによれば,H議員は,政務調査活動の補助業務としてアルバイトを使用し,これに政務調査費を支出したといえる(「G」の発行が政務調査活動と無関係でないことは前記のとおりである。)から,H議員のアルバイト料の支払が本来の趣旨・目的に沿ったものでないとはいえない。
また,②についても,中京地区の中心都市としての位置づけ,その有する人口,面積や財政の規模,政令指定都市の資格などに照らすと,名古屋市が処理すべき事務,役割が広範囲にわたることは公知の事実であり,これに伴って議員の取り組むべき課題も膨大なものになる傾向は否定できないから,真摯に政務調査活動を展開しようとすれば,資料の収集,分析,整理や知見の獲得,政策の立案,提言などに大きなマンパワーの投入を余儀なくされる事態も十分に考えられる。このような場合,議員によるこれらの作業を補助する人物を雇用して,効率的かつ充実した調査研究活動を実施することは,まさに政務調査費の本来の使途と考えられ,現に,本件規程も,かかる趣旨から,別表において,「人件費」の項目の内容として「調査研究活動を補助する職員(臨時職員を含む。)を雇用する経費」と定めている。
しかるところ,平成16年度におけるA所属の多くの議員は,人件費のうち一定部分について政務調査費を充当し,その他の部分については政務調査費以外の費用を充てていること,人件費総額の全額に政務調査費を充てている議員についても,専ら政務調査活動の補助をさせるアルバイトや事務員の人件費であり,後援会活動や政治活動について補助作業が必要であったとしても,それは1年を通じてごく一部であったり,その補助作業を後援会のメンバーやその家族に無償で行わせたりするなど,各議員においてそれぞれ使途基準に従って対処をしていること,平成16年度,同17年度の政務調査費全体における人件費の占める割合について.Aより高い他会派が存在すること,以上の事実が認められる(丙10の5,11の3,12の2,13の4,14の8,15の2,16の3,17の6,18の5・6,19の3,20の3,21の4,22の2,35の6,36の7,37の5,38の3,39の2,40の7,42の2,43の2,44,45の1・2)。そうすると,人件費の支出が不適切な支出であるとの疑いを生じさせる個別具体的な外形事実の主張立証がない以上,その支出が本来の趣旨・目的に沿った使途に充てられていないと判断することはできず,按分による返還を命ずることも相当とはいえない。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
10

遅延損害金について
遅延損害金についての判断は,原判決25頁2行目の「4614万円」を
「294万円」と改めるほかは,原判決(25頁2行目から15行目まで)が判示するとおりである。
第4

結論
以上によれば,1審原告らの本訴請求は主文2項(1)の限度で理由があるから,
1審被告の控訴に基づき,これと一部異なる原判決を変更することとし,その余の控訴及び1審原告らの控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部

裁判長裁判官

加藤
裁判官

岡田
裁判官

達野幸雄治ゆき
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