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所得税更正処分取消等、所得税通知処分取消請求控訴事件・同附帯控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成19年(行ウ)第50号等)
事件番号平成24(行コ)8等
事件名所得税更正処分取消等,所得税通知処分取消請求控訴事件・同附帯控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成19年(行ウ)第50号等)
裁判年月日平成25年1月24日
法廷名名古屋高等裁判所
判示事項アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき,無限責任を負うジェネラル・パートナー及び原則として出資額を限度とする有限責任を負うリミテッド・パートナーから組成された事業形態であるリミテッド・パートナーシップ(LPS)が,我が国の租税法上の法人に該当しないとされた事例
裁判要旨アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき,無限責任を負うジェネラル・パートナー及び原則として出資額を限度とする有限責任を負うリミテッド・パートナーから組成された事業形態であるリミテッド・パートナーシップ(LPS)につき,外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かは,基本的には,当該外国の法令の規定内容から,その準拠法である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否かにより判断されるべきであるが,諸外国の法制・法体系は様々で,我が国の「法人」概念に相当する概念が諸外国において形成されるに至った沿革や背景事情等も多様であり,当該外国の法令の規定内容をその文言に従って形式的に見るだけでは,当該外国の法令において当該事業体を法人とする(当該事業体に法人格を付与する)旨が規定されているのかどうか直ちに判別できない場合もあるから,より実質的な観点から,当該事業体を当該外国法の法令が規定する内容を踏まえて我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものといえるかどうかを検証する必要があり,この点が肯定されて初めて,我が国の租税法上の法人に該当するとした上,同州改正統一リミテッド・パートナーシップ法がこれに準拠して組成されたLPSを法人とする旨を定めたものと解することはできず,また,同法の規定するLPSの成り立ち,組織,運営及び管理等の内容に着目して実質的に見ても,前記LPSは,我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものということはできないとして,前記LPSは,我が国の租税法上の法人に該当しないとした事例
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平成25年1月24日判決言渡
平成24年(行コ)第8号,第37号

所得税更正処分取消等,所得税通知処分取

消請求控訴事件・同附帯控訴事件
主文1
本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人P1の負

担とする。
事実及び理由
以下,文中に記載するもののほか,原判決別紙2略称一覧表記載のとおり,略称を用いる(ただし,原判決(同一覧表を含む。)に,「原告」とあるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを「控訴人」とそれぞれ読み替える。)。第1
1
当事者の求めた裁判
控訴人
(控訴の趣旨)
(1)

原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)

刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした被控訴人P1の平成1
4年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額された後のもの)のうち総所得金額5245万7039円,還付金の額に相当する税額872万9535円を超える部分の取消を求める訴えを却下する。
(3)

その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(4)

訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人P1の附帯控訴の趣旨に対する答弁)
(1)
(2)
2
本件附帯控訴を棄却する。
附帯控訴費用は被控訴人P1の負担とする。

被控訴人ら

(控訴の趣旨に対する答弁)
(1)

本件控訴をいずれも棄却する。

(2)

控訴費用は控訴人の負担とする。

(被控訴人P1の附帯控訴の趣旨)
(1)

原判決主文第1項を取り消す。

(2)

原判決主文第2項のうち,原判決別紙1取消処分目録記載2(1)を次のと
おり変更する。
「(1)

刈谷税務署長が平成17年2月25日付けでした被控訴人P1の平
成14年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分」
(3)
第2

訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。

事案の概要

1(1)

被控訴人P2,被控訴人P1及び承継前の原審C事件原告P3(以下
「亡P3」という。)は,外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に準拠して組成されるリミテッド・パートナーシップ)が行った米国所在の中古住宅の貸付(本件各不動産投資事業)に係る所得が,所得税法26条1項所定の不動産所得に該当するとして,その減価償却等による損金と他の所得との損益通算をして所得税の申告又は更正の請求をした。
(2)

これに対し,当該所得は不動産所得に該当せず,損益通算を行うことは
できないとして,

名古屋中村税務署長は,被控訴人P2に対し,
(ア)

平成17年2月15日付けで,被控訴人P2の平成13年分の所得
税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分,
(イ)

同日付けで,被控訴人P2の平成14年分の所得税の更正処分及び
過少申告加算税賦課決定処分

(ウ)

同日付けで,被控訴人P2の平成15年分の所得税の更正処分及び
過少申告加算税賦課決定処分
(エ)

平成18年6月26日付けで,被控訴人P2の平成16年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(オ)

平成19年6月12日付けで,被控訴人P2の平成17年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

刈谷税務署長は,被控訴人P1に対し,
(ア)

平成17年2月25日付けで,被控訴人P1の平成14年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(被控訴人P114年分通知処分)
(イ)

同月28日付けで,被控訴人P1の平成14年分の所得税の更正処

(ウ)

同日付けで,被控訴人P1の平成15年分の所得税の更正処分及び
過少申告加算税賦課決定処分
(エ)

平成18年6月26日付けで,被控訴人P1の平成16年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(オ)

平成19年6月11日付けで,被控訴人P1の平成17年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

千種税務署長は,亡P3に対し,
(ア)

平成17年2月25日付けで,亡P3の平成13年分の所得税の更
正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
(イ)

同日付けで,亡P3の平成14年分の所得税の更正処分及び過少申
告加算税賦課決定処分
(ウ)

同日付けで,亡P3の平成15年分の所得税の更正処分及び過少申
告加算税賦課決定処分
(エ)

平成19年2月22日付けで,亡P3の平成16年分の所得税に係
る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
(オ)

同年6月19日付けで,亡P3の平成17年分の所得税に係る更正
の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
をした。
(3)

本件は,


被控訴人P2が,控訴人に対し,
(ア)

上記(2)ア(ア)ないし(ウ)の各更正処分(いずれも平成20年5月
14日付け更正処分により減額されたもの)のうち被控訴人P2が認める総所得金額及び税額を超える部分の取消
(イ)

上記(2)ア(ア)ないし(ウ)の各過少申告加算税賦課決定処分の取消
(ウ)

上記(2)ア(エ)及び(オ)の各通知処分の取消

を求めた事案(A事件,E事件)

被控訴人P1が,控訴人に対し,
(ア)

主位的に上記(2)イ(ア)の通知処分の取消,予備的に上記(2)イ(イ)
の更正処分(平成20年5月14日付け更正処分により減額されたもの)のうち被控訴人P1が認める総所得金額及び税額を超える部分の取消
(イ)

上記(2)イ(ウ)の更正処分のうち被控訴人P1が認める総所得金額
及び税額を超える部分の取消
(ウ)

上記(2)イ(ウ)の過少申告加算税賦課決定処分の取消

(エ)

上記(2)イ(エ)及び(オ)の各通知処分の取消

を求めた事案(B事件,D事件)

亡P3の相続人でC事件における訴訟承継人である被控訴人P4が,控
訴人に対し,

(ア)

上記(2)ウ(ア)ないし(ウ)の各更正処分のうち被控訴人P4が認め
る総所得金額及び税額を超える部分の取消
(イ)

上記(2)ウ(ア)ないし(ウ)の各過少申告加算税賦課決定処分の取消
(ウ)

上記(2)ウ(エ)及び(オ)の各通知処分(いずれも平成21年6月2
3日付け更正処分により減額されたもの)の取消
を求めた事案(C事件,F事件)
である。
2
原審は,被控訴人P1の請求のうち被控訴人P114年分通知処分の取消
を求める訴えについては,訴えの利益がなく不適法であるとして却下すると共に,本件各不動産賃貸事業から生じた損益は被控訴人らの不動産所得に該当するものであるから,当該所得と他の所得との損益通算を認めない本件各処分は違法であるとして,被控訴人P2及び被控訴人P4の請求並びに被控訴人P1のその余の請求をいずれも認容した。そこで,これを不服とする控訴人(原審被告)が本件控訴に及び,被控訴人P1も附帯控訴をした。
3
本件における関係法令等の定め,前提事実(当事者間に争いのない事実等),
税額等に関する当事者の主張,争点及び当事者の主張は,以下のとおり付加訂正し,次項(第4項)に当事者双方の当審における補充主張を,次次項(第5項)に控訴人の当審における新たな主張(新たな争点等)を付加するほかは,原判決「第2

事案の概要」の2ないし6に記載のとおりであるから,これを

引用する。
(1)

原判決8頁4行目から5行目に「241万4900ドル」とあるのを,
「241万4900米国ドル(以下,単に「ドル」という。)」と改める。(2)

原判決9頁7行目から8行目に「537万米国ドル(以下,単に「ド
ル」という。)」とあるのを,「537万ドル」と改める。
(3)

原判決20頁22行目「額等は,」の次に,「下記控訴人の当審におけ
る新たな主張(新たな争点等)に係る部分及び」を付加する。

(4)

原判決20頁24行目「本件の争点」の次に,「(当審における新たな
主張に係る争点を含む。)」を付加する。
4
当審における補充主張
控訴人の当審における補充主張は,別紙2「控訴人の当審における補充主
張」記載のとおりであり,被控訴人らの当審における補充主張は,別紙3「被控訴人らの当審における補充主張」のとおりである。
5
当審における新たな主張(新たな争点等)
当事者双方の当審における新たな主張は,別紙4「当審における新たな主
張」のとおりである。
第3

当裁判所の判断

1
本案前の争点(本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性・B事件)につい

当裁判所も,原判決同様に,同一年分の所得税について更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と申告納税額を増額する更正処分が併存する場合には,訴訟上通知処分は増額更正処分に吸収されたものとして,増額更正処分のみが訴訟の対象となると解されるから,被控訴人P1の被控訴人P114年分通知処分の取消を求める訴え(主位的請求)については,訴えの利益がなく不適法として却下すべきであり,被控訴人P114年分更正処分につき不服申立てを経ることなく本件予備的追加的変更に係る訴え(被控訴人P1平成14年分更正処分の取消訴訟)を提起したことについては,通則法115条1項3号の正当な理由があるから適法であり,かつ,出訴期間の遵守に欠けるところもないと判断するが,その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「第3

当裁判所の判断」の1(原判決29頁17行目から32頁8行

目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決30頁3行目に「通知処分は増額更正処分に吸収され」とあるの
を,「適法に増額更正処分についての取消訴訟が提起された場合には訴訟上
通知処分は増額更正処分に吸収されたものとして」と改める。
(2)

原判決30頁5行目「所得税についても,」の次に,「下記のとおり適
法に被控訴人P114年分更正処分の取消を求める訴え(本件予備的追加的変更に係る訴え)が提起されているのであるから,」を付加する。(3)

原判決31頁5行目に「当裁判所」とあるのを,「原審裁判所」と改め
る。
(4)

原判決31頁19行目「得ない。」の次に,以下のとおり付加する。
「控訴人は,本件では通知処分(平成17年2月25日付け)と増額更正処分(同月28日付け)が3日間の短い間隔で相次いでされており,双方に不服申立てをすることが,一方にのみ不服申立てをすることに比べて特に負担が大きくなるとは思われないと主張する。しかし,被控訴人P1は,上記(原判決引用)のとおり,当初から一貫して本件不動産賃貸事業(P)から生じる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,両処分が極めて近接した日に相次いでなされたことを考慮すると,1つの判断に基づいた実質的に1つの処分を2つの不服申立てで争わなければならないと判断すること自体納税者には極めて困難であり,2つの不服申立てが必要である旨の適切な教示が行われたとも認められないにもかかわらず,被控訴人P114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由でその訴えを不適法なものとすることは,納税者である被控訴人P1にあまりにも酷に過ぎるものである。」
(5)

原判決32頁4行目末尾に,次のとおり付加する。

「控訴人は,通知処分と更正処分とは別個独立の処分であり,双方につき適法な不服申立てを経て取消訴訟が提起されるまでは,両処分が併存し,それぞれが不服申立ての対象となるのであるから,上記の出訴期間についても別個に進行すると解すべきであると主張するが,上記(原判決引用)のとおり
訴訟上は通知処分が更正処分に吸収されたものとすべき関係にあり,被控訴人P114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由でその訴えを不適法なものとすることは,納税者である被控訴人P1にあまりにも酷に過ぎるとの理は,行政事件訴訟法上の出訴期間についても同様であり,被控訴人P114年分更正処分の取消を求める訴えは,被控訴人P1通知処分の取消を求める訴えが提起された時から既に提起されていたものと同視するのが相当である。」
2
本案の争点(本件各処分の適法性=所得税法69条1項に基づく損益通算の
可否・全事件)について
当裁判所も,原判決同様に,本件各不動産賃貸事業から生じた損益は被控訴人らの不動産所得に該当するものであるから,当該所得と他の所得との損益通算を認めない本件各処分は違法であると判断するが,その理由は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「第3

当裁判所の判断」の2及び3(原判決

32頁9行目から61頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決36頁8行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。



控訴人は,上記基準①(当該外国の法令の規定内容から,その準拠法で
ある当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否か)について,これを法人該当性の考慮要素の一つとすることはともかく,原則としてこれを満たさなければ我が国の租税法上の法人に該当しないとするのは,我が国の法人概念をゆがめる可能性があり,相当でない旨主張する。すなわち,どのような団体にどのような権利義務を付与するかは,各国の立法政策の問題であり,法人と翻訳される外国の概念が我が国の法人の概念と同一であるとは限らないから,我が国で法人法定主義が定められているからといって,外国の事業体についても,その組成の準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨規定されていることを法人
該当性を判断するための第一の基準とするのは相当とはいえず,仮にこの基準によると,外国の法令の規定内容いかんによって,我が国の法人と同様の権利能力を有する事業体が法人として扱われず,逆に,我が国の法人の有する権利能力を有さない事業体を法人として扱うことになりかねず,公平の原則に反するし,法人法定主義が採用されていない法制下では,我が国の租税法上の法人として扱われる事業体がまったく存在しないこととなりかねず,極めて不合理な結果を招来するおそれがあるというのである。しかし,租税法上は,法人,人格のない社団及び組合(任意組合)という事業体が規定されているところ,この各々について内国のものと外国のものがパラレルに規定されているという関係にある。すなわち,法人,人格のない社団及び組合という概念自体は,内国のものであろうと外国のものであろうと,共通かつ同一の概念であるべきであることが法令の規定上明らかであるといえる。そして,我が国の法人については,人格のない社団及び組合との区別については法人法定主義が採用されており,内国法人であるか否かは形式的判断により判断されるのであるから,外国の法人についても,第一次的には,内国法人と同じく,準拠法上の法人格の有無という形式的判断により判断するのが論理的帰結である。控訴人が主張するように,外国の法制度の多様性を理由に我が国の租税法の構造と異なる法人の解釈を採用することは,かえって我が国の法人の概念をゆがめる可能性があり,相当でない。なお,仮に控訴人が主張するように,法人法定主義が採用されていない法制下の国で,その国の法律を準拠法とする事業体が法人格を準拠法上付与されないため我が国では法人として取り扱われないということがあったとしても,念のため上記基準②(当該外国の法令が規定する内容を踏まえて,当該事業体が我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうか)を用いて当該事業体が実質的にみて我が国の租税法上の法人と同様に損益の帰属すべき
主体として設立が認められたものといえるか否かについて検証する上,さらにその事業体が最高裁昭和39年10月15日判決(民集18巻8号1671頁)が示した権利能力なき社団の4要件を満たす限りは,外国の人格のない社団として取り扱われることになると解されるのであるから,人格のない社団を法人とみなして課税するという我が国の租税法上課税上の不都合が起きることは考えられず,控訴人が主張するような極めて不合理な結果を招来するおそれはない。
また,控訴人は,上記基準②について,租税法の規定や課税実務上の取扱い等を根拠として,法人該当性について,損益の帰属主体として設立が認められたものを法人とするといった基準を導き出すことはできないと主張する。すなわち,法人税法は,法人を内国法人と外国法人に区分した上で,「法人税について,納税義務者,課税所得等の範囲,税額の計算の方法,申告,納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるもの」(法人税法1条)であるにすぎず,法人に損益が帰属することを前提として法人税が課されているからといって,上記基準②のように「損益の帰属すべき主体として設立が認められたもの」を法人とするとの趣旨を導くことはできないというのである。つまり,損益は,一般に,私法上の権利義務に基づいて発生するものであるから,それが誰に帰属するかを判断するためには,前提として当該損益を生み出す私法上の権利義務が誰に帰属するかをみる必要があるところ,通常,取引に係る損益を構成する収入や支出は,当該取引に関する債権債務と表裏一体の関係にあるので,ある事業体と構成員との関係において,当該事業体が,その構成員と区別された独自の財産を有し,独立した権利義務の主体となるのであれば,その事業体に属する事業を営むことにより生じる利益や損失は,当然に当該事業体に帰属するから,あえて損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうかを基準として定立する
必要はないし,むしろ,このような基準を定立することは,法人の概念を不当に狭めるものになり相当ではない。また,任意組合が法人税の納税義務者とならないのは,組合財産はその構成員の共有(合有)であって,組合自身が権利義務の帰属主体とならないからであるし,実質所得者課税の原則は,課税物件の帰属について「名義と実体,形式と実質が一致しない場合」に問題になるものであるから,実質所得者課税の原則を定める各規定を根拠に,法人該当性の判断基準として上記基準②を導くことはできないというのである。
しかし,上記基準②は,租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義(憲法84条)や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当であること(いわゆる借用概念)を大前提として,上記基準①をあくまでも基本とすることとした上で,諸外国の法制・法体系が様々であることを考慮して,さらに上記(原判決引用)のような法人,法人格のない社団及び任意組合等に係る課税関係の分析・観察から,租税法律主義の要請に応えるためにより的確に法人の意義を認識できるよう導き出されたものなのであるから,控訴人の上記批判は当たらない。
したがって,原判決は「租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当である」と判示しながら,そこで示した基準は,私法上の法人の概念である「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という概念から離れて,独自に法人の概念を規定した上で定立しているものであり相当でないとの控訴人の批判も当を得ないものである。」
(2)


原判決36頁25行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。
なお,控訴人は,上記控訴人主張に係る基準①ないし③について,「自
然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という私法上の法人の概念の意義から導き出されたもので,租税法上も私法上の概念と同義と解すべきであるという借用概念の考え方と整合する上,ある事業体が上記基準①ないし③を満たし,我が国の法人と同様の権利義務の帰属主体であるということになれば,当該事業体は,通常,損益ないし所得の帰属主体となり,法人税の課税対象となる属性を有するといえるから,判断基準としても必要かつ十分なものであると主張する。しかし,法人に該当しないことが明らかな任意組合又は人格のない社団(権利能力なき社団)についても上記基準①ないし③を満たすことからすると,上記基準①ないし③は,法人と法人ではない団体(事業体)とを区別する基準としては機能し得ないものである。すなわち,例えば任意組合についてみると,民法668条,676条,677条等の趣旨によれば,組合財産は,特定の目的(組合の事業経営)のために各組合員個人の他の財産(私有財産)と離れて別に一団を成して存する特別財産(目的財産)であり,その結果,この目的の範囲においては,ある程度の独立性を有し,組合員の私有財産と混同されることはないと解される(大審院昭和11年2月25日判決(昭和9年(オ)第3066号・民集15巻4号281頁)等)し,任意組合に権利義務を生じさせる法律行為の名義として任意組合自体や任意組合代表者名義を用いることが許容されており(厳格な要式性が求められている手形行為につき大審院大正14年5月12日判決(大正13年(オ)第1109号・民集4巻256頁)等),任意組合であっても民事訴訟法29条により訴訟上の当事者能力を認めることができると解されている(最高裁第三小法廷昭和37年12月18日判決(昭和34年(オ)第130号・民集16巻12号2422頁)等)のである。
また,我が国の私法上の法人であれば,我が国の租税法上損益の帰属主体となることが予定されているといえるが,権利義務の主体として取引行
為を行い,財産及び債権債務の帰属主体となる存在であるからといって,必ずしも損益の帰属主体となるとは限らないことについては,匿名組合(商法535条ないし542条)や問屋(同法551条ないし558条)等の例を見ても明らかであるから,外国の法令に準拠して組成された事業体が,その外国法制の下で,上記要件を備えているとしても,当然に損益主体となるとは限らないのであり,仮に当該事業体が上記基準①ないし③を満たしたとしても我が国の法人と同様の事業体ということはできず,上記基準①ないし③は判断基準として相当ではない。」(3)

原判決45頁17行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。



控訴人は,日米租税条約3条1項(f)は,「法人」(company)とは,
「法人格を有する団体」(anybodycorporate)又は「租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体」(anyentitythatistreatedasabodycorporatedfortaxpurposes)をいうと規定するところ,この規定については,「あるエンティティが両締結国で同様に『課税上法人格を有する団体として取り扱われるエンティティ』である場合には,条約の特典を享受する資格について差異が生じないので相互主義の精神からみても問題はないが,一方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱い,他方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱わない場合には,条約上の法人になるのかどうかという問題を残し,相互主義の観点から条約の特典を享受する資格が両締結国間で異なるという実質的に不平等な取決めになるおそれがある。これは,法人について国際的に共通の概念が確立されず,条約上の定義が一種の不確定概念とされたまま国内法への委任が行われていることから生ずる問題である」が,このように,「法人」の意義については,国際的に共通の概念が確立されていないのであるから,日米租税条約中の「company」が「法人」,「partnership」が「組合」と翻訳され,同条約においては「法人以
外の団体」に「partnership」を含むとされているとしても,そのことと米国の「partnership」の中に我が国の法人に該当するものがあると解することとは,矛盾するものではない旨主張する。
しかし,上記(原判決引用)のとおり,一般に,租税条約は,各締結国の租税法規やその前提となる私法上の法制度が異なることを考慮した上で,各締結国の公用語によりそれぞれ正文が作成されるものであり,租税条約の正文で同一概念を指すものとして用いられた各締結国の公用語による概念は,特段の事情がない限り,同義であると解するのが相当であり,日米租税条約において米国の「partnership」という概念が我が国における租税法上の「法人」には含まれないことはその文言の対応関係から明らかなのであって,上記特段の事情の存在もうかがわれないのであるから,控訴人の上記主張は当たらない。
また,控訴人は,民法36条1項(現民法35条1項)は,「外国法人は,国,国の行政区画及び商事会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。」と規定しているところ,同項による「認許」とは,「外国法人が我が国において活動する場合,その活動より生じる権利義務に関して,その外国法人に権利義務の主体たること,すなわち,法人格を認めることであると解され」ており,日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約(昭和28年条約第27号)22条3項は,「この条約において「会社」(英文では「companies」)とは,有限責任のものであるかどうかを問わず,また,金銭的利益を目的とするものであるかどうかを問わず,社団法人(「corporations」),組合(「partnerships」),会社(「companies」)その他の団体(「otherassociations」)をいう。いずれかの一方の締約国の領域内で関係法令に基づいて成立した会社
(「companies」)は,当該締約国の会社(「companies」)と認められ,
且つ,その法律上の地位を他方の締約国の領域内で認められる。」と規定しており,「partnerships」も「companies」に含まれるものとされている旨主張する。
しかし,民法36条の「認許」は,外国法人が,その設立準拠法上法人格を有することを前提に,係る外国法人の法人格を我が国で承認することを意味するものであるから,「条約による認許」が,設立準拠法上法人格を認められていない事業体を外国法人として認許するものではない。また,上記友好通商航海条約は,「相互に有利な通商関係を助長し,相互に有益な投資を促進」する目的で,最恵国待遇,内国民待遇の原則を基礎として締結されたものであって(同条約前文),そのため同条約上の「会社」(companies)は「国民」(nationals)と一対となる概念として位置付けられ,法人格の有無を問わずに自然人以外の事業体一般を広く包摂しているものと解されるから,同条約22条3項後段の規定は,「社団法人」(「corporations」)は社団法人として,「組合」(「partnerships」)は組合として認められ,その法律上の地位を認められることを述べているに過ぎず,設立準拠法上法人格を認められていない「組合」
(「partnerships」)が同項の規定によって外国法人として認許されるとするものではないから,控訴人の上記主張は当たらない。
さらに,控訴人は,本件各LPS同様デラウェア州法を準拠法として組成されたリミテッド・パートナーシップであるP5は,外国法人(外国会社)として登記されている(乙A全103の1,2)が,これは,無限責任社員と有限責任社員とで構成され,かつ,その営む事業の種類が限定されない州LPS法に基づき設立されたリミテッド・パートナーシップは,旧商法上の合資会社に最も類似すると認められることから,会社法の外国会社に該当し得るものであるとして,我が国において認許される外国法人に含まれるからであると主張する。しかし,会社法上の「外国会社」につ
いては,設立準拠法上法人格が認められない団体をも含む点で民法上の「外国会社」よりも広い概念であると解されるから,上記主張は失当であり,結局,上記認定が左右されるものではない。」
(4)

原判決52頁4行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。



控訴人は,「いかなる持分も所有しない」(州LPS法701条)との
文言を上記(原判決引用)のように限定して解釈することには無理があり,本件各LPSは,現にその名義で売買契約を締結して本件各建物を取得し,本件各建物の所有者として登録されているのであるから,財産の所有に関して,本件各LPSが任意組合の持ち得ない権利能力を有していることは明らかである旨,また,モリス回答書は,州LPS法701条は強行規定であって,個別のLPS契約により同条を修正することはできないという見解を示した上で,パートナー間の対内的関係に限ってパートナーがLPS財産に固有の権利を有することに意味がある場合といった極めて限定的な条件の下では,パートナー間の合意が有効とされる可能性もあるだろうという推測を述べつつ,現実にはそのような取扱いをすることに意味はないとしているもので,特定のLPS財産に対してパートナーに特定の持分を認める余地があると述べたものではない旨主張する。
しかし,控訴人は,本件各LPSが独立した所有権の帰属主体となることを強調するが,本件各LPSの準拠法である州LPS法は,イギリス法を継承し受容した結果,コモン・ロー上の権原(legaltitle)とエクイティ上の権原(equitabletitle)の2つの概念を有し,州LPS法において両者が併存しているとされているところ,控訴人の上記主張はこのことを無視している点で失当であるといわざるを得ない(甲A全101,126)。コモン・ロー上の権原を州LPS法の701条に従ってLPSに帰属させることと,本件LPS契約の4.5条によりパートナー間でエクイティ上の権原を持分割合に応じて認識することとは,何ら矛盾するものではない
(アレン教授第2意見書(甲A全124),ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151)参照)。本件各LPSは,州LPS法の701条に従い,第三者との関係において,コモン・ロー上の権原がLPSに帰属するとされている一方で,本件LPS契約の4.5条により,パートナー相互間では,エクイティ上の権原が合有的に共同所有されていると解されるのである。したがって,本件各LPSは,対外的には一定の範囲内で構成員とは別個に権利を取得したり義務を負担したりするような法的取扱いが認められるが,他方,特定のLPS財産について,パートナーが合法的な共同所有者になる余地を残している点で,我が国の私法(租税法)上の法人とは異なる法律効果が許容されており,我が国の私法(租税法)上の「法人」と同義であるということはできない。
また,控訴人は,州LPS法201条(a)は,リミテッド・パートナーシップを設立するためにはリミテッド・パートナーシップ証明書に所定の事項を記載して州務長官登録局に登録するものとすると定め,同条(b)は,「リミテッド・パートナーシップは,リミテッド・パートナーシップ証明書が最初に州務長官登録局に登録された時点,あるいはリミテッド・パートナーシップ証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立されるものとし,いずれの場合においても,本項の要件を完全に満たすものでなければならない。本章に基づき組織されたリミテッド・パートナーシップは,独立した法的主体となり,その独立した法的主体としての地位はリミテッド・パートナーシップ証明書のリミテッド・パートナーシップによる解除まで継続する。」と規定しており(乙A全25),州LPS法201条に規定するリミテッド・パートナーシップ証明書を州務長官登録局に登録することは,我が国で会社の設立登記が成立要件とされ(会社法49条,579条),その他の法人においても一般に設立登記が成立要件とされているのと同様に,パートナーシップがリミテッド・パートナーシップとして
認められるための要件,すなわち成立要件と解される。そして,本件各LPSが契約のみによって成立するものではなく,州LPS法の規定に従って公的機関に登録することによって初めて成立するものであることは,州LPS法によって構成員と別個の独立した法的地位,すなわち我が国でいう法人格を付与する旨が規定されていることを支える根拠の一つである旨主張する。
しかし,LPS証明書が提出されたのみでリミテッド・パートナーシップ契約が締結されていないときには,リミテッド・パートナーシップは組成されないとされる(甲A全23,乙A全75)一方,リミテッド・パートナーシップ契約が締結されていれば,LPS証明書が提出されていなくても,契約当事者間はもとより,対第三者との関係においても,リミテッドパートナーシップの存在は認められると解されている(甲A全23,130)。LPS証明書の提出がリミテッド・パートナーシップの組成に必須の要件ではないことは明らかというべきであるから,控訴人の上記主張は当たらない。」
(5)

原判決56頁13行目末尾に,次のとおり付加する。

「控訴人は,ラムザイヤー意見書(甲A全123)のパートナーシップ内の損益配分がパートナーシップ契約に従って自動的に行われるという部分は,損益の配分方法を述べているにすぎないとみるべきであって,損益が事業体に一旦帰属した上で構成員に割り当てられることと何ら矛盾するものではないし,チェック・ザ・ボックス制度において選択がない場合は構成員課税とするという意味で構成員課税の方が原則的形態とされているとしても,このことをもって,損益が構成員に直接帰属することが私法上の原則であると認める根拠とするのは論理に飛躍がある旨主張する。しかし,米国において,法人と類似性を有する事業体は「団体」として事業体課税に服するといういわゆる「法人類似性基準」から法人類似性を判断する基準であるキントナー
規則(1960年)を経て1997年にチェック・ザ・ボックス制度ができるまで,私法上,パートナーシップの事業により生じた損益が各パートナーに直接帰属するという原則自体が変更されたことは一度もなく,損益が構成員に直接帰属することは私法上の原則であると解されているのであるから,控訴人の上記主張は当たらない(ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151)参照。)」
(6)

原判決57頁1行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。



控訴人は,そもそも,私法上,取引から生ずる損益は,基本的に当該取
引の当事者,すなわち当該取引に係る権利義務の主体となる者に帰属するのであって,本件各LPS契約の条項,すなわち各パートナーの合意によっても,権利義務の主体である本件各LPSに損益が法的に一旦帰属しなかったことにすることはできず,パートナーは,本件各LPSに一旦帰属した損益を契約に基づく割合と方法により分配を受けるにすぎないというべきであり,本件各LPS契約における損益の割当てに関する条項は,この本件各LPSに帰属した損益の割当て(配分)を定めたものと解するほかないのであって,配分方法が各パートナーの合意(契約)により定められている以上,個別の具体的な配分時に機関決定がないとしても何ら不合理なものではないし,その意味で損益の配分が「自動的」に行われるとしても,それは上記の合意に基づくものであり,当該損益が本件各LPSに一旦帰属することを否定する根拠にはならない旨主張する。
しかし,我が国の有限責任事業組合においても,当事者間の損益分配を合意により自由に定められるものとされており(有限責任事業組合契約に関する法律33条,同法施行規則36条),権利義務主体である組合の構成員について損益分配の割合をゼロとすれば,その損益帰属主体性を否定する取扱いも可能であるとされているように,権利義務の帰属と損益の帰属とは論理的には別の概念であって,両者の帰属主体にずれが生じること
は当然あり得ることであるから,控訴人の上記主張は当を得ないものである。控訴人がその主張を裏付けるものとして提出するゲーゲン教授の鑑定意見書(乙A全109の2)の「リミテッド・パートナーシップが得た所得は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。リミテッド・パートナーシップに拠出された資産及びリミテッド・パートナーシップが購入した資産は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。」という記述にいう「所得」については,「現金を持っていること」の意に解するのが相当であり,上記認定判断を左右するものではない(ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151参照))。
結局,米国の私法上,パートナーシップは,権利義務能力や訴訟当事者能力の存在が認められた以後においても,構成員間の契約に基づいて組成される「集合体」としての本質が損なわれることはなく,その損益が直接構成員に帰属するとの扱いも一貫して維持されているのであるから,パートナーシップである本件各LPSにおいても,州LPS法及び本件LPS契約に照らし,損益がLPSに一旦帰属すると考えるべき理由はなく,上記認定判断(原判決引用)は何ら左右されない。」
(7)


原判決60頁8行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。
なお,控訴人は,昭和39年最判及びその後の判例等を検討すると,上記(原判決引用)の4要件は,すべて独立して厳格に満たされることが要求されるものではなく,むしろ社団性認定のための指標であり,各要件相互の関係で柔軟に解釈され得るものと解されるところ,上記(原判決引用)の諸要素を総合すると,本件各LPSは構成員と独立した団体としての実質を有しており,人格のない社団の4要件を満たすと認めるに十分である旨主張するが,本件各LPSについては上記(原判決引用)のとおり,人格のない社団として認めるにつき重要な要素を複数欠いており,人格の
ない社団として認められるものではないから,控訴人の上記主張は当たらない。」
(8)

原判決61頁4行目冒頭から末尾までを,次のとおり改める。



控訴人は,本件各LPSは,仮に構成員課税の対象となる事業体である
としても,その財産が構成員の共有とならず,当該財産に係る権利義務が構成員に帰属しない点で,民法上の任意組合を原型とする事業体とは異なるから,その事業から生じる所得について直ちに任意組合と同様の取扱いをすることは許されず,その所得の性質は,構成員ごとに個別具体的な事実関係に照らして判断されるべきものである。そして,被控訴人ら投資家は,本件各建物について貸主となり得る権利・権原を有しておらず,本件各建物を貸し付けているという実態は認められないことからすると,本件各LPSから被控訴人ら投資家に割り当てられる損益は,出資ないし投資の対価の性質を有するものとして雑所得に該当するものであるから,本件各損失は,被控訴人ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失に該当せず,他の所得と通算することはできないものである旨主張する。
しかし,構成員課税とは,我が国の法人税法上納税義務のない事業体における損益が直接構成員に帰属することの帰結としての課税であるから,法令に別段の定めがない限り,事業体の事業活動から生じる損益に係る所得の認識時期,所得区分,所得金額の計算等については,その所得の起因となる損益(構成員に直接帰属している損益)を生じさせた当該事業体の事業活動の内容及び性質に基づいて決定されるべきである。
なぜなら,平成17年度税制改正で創設された措置法41条の4の2の規定は,任意組合及び投資事業有限責任組合,並びに外国におけるこれらに類する事業体(同条2項1号),すなわち構成員課税が行われる場合の規律として,特定組合員のうち重要業務の執行の決定に関与等しない者や特定受益者が事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する場合におい
て,一定の不動産所得の損失の金額については,これを生じなかったものとみなす規定であるところ,この規定は,かかる規定が存在しないとした場合には,構成員について「事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する」こととされるのが所得税法上の取扱いであることを前提として立法されたものであることが明らかであるからである。つまり,同条は,不動産事業を含む,事業体の事業活動に係る損益により生じた所得が,その内容に対応した所得分類のまま構成員に直接帰属することを前提として,事業への関与に乏しい構成員について不動産所得の金額の計算上生じた損失を他の所得の金額と通算すること(所得税法69条1項)を否定する別段の定めなのであり,このような規定の存在は,所得税法自体が,事業体(任意組合に限定されない,法人課税をなし得ない事業体一般を指す。)による事業から生じた所得について構成員課税を行う場合には,所得区分等について完全なパススルー課税がなされるべきこと(つまり,構成員に不動産所得の金額の計算上損失が生じること)を示しているのである。この理を明確化して納税者の予測可能性を高めるために,法人にも人格のない社団にも該当しない事業体の典型例である任意組合に関しては,本件組合通達が定められている(甲A全144)。本件組合通達の36・37共-19は,「任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(括弧内略)に係る利益の額又は損失の額は,当該任意組合等の利益の額又は損失のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。」などと規定しているが,これは上記の論理的な帰結を定めたものであると解することができる。また,本件組合通達の36・37共-20は,課税上の便宜のために,所得の認識時期,所得の金額計算について簡易な計算方法を認めるものであるが,ここでも,所得の種類については,簡易な計算方法の場合であっても任意組合自身の事業活動の性質に従うという考え方が維持されている。これら本件組合通達
の内容は,構成員課税が,事業体に損益が帰属するのではなく構成員に直接損益が帰属する場合の取扱いであることを前提とした解釈を示しているということができる。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)以上からすれば,外国の事業体が法人又は人格のない社団に該当しない場合,法令に別段の定めがない限り,事業体を構成する個々の構成員に完全なパススルー課税がされるのが原則であることは,我が国租税法の明文上明らかというべきである。
なお,控訴人は,本件各LPSにおいて,リミテッド・パートナーは本件各LPSの特有財産である本件各建物に持分を有していない上,本件各不動産賃貸事業における一切の権原は本件各GPのみが有しており,リミテッド・パートナーは,不動産賃貸事業の経営に何ら参画しておらず,本件各GPとともに不動産賃貸事業を営んでいるという実態はないのであるから,リミテッド・パートナーが本件各LPSから割り当てられる利益又は損失は,匿名組合契約に基づいて匿名組合員に分配される損益と同様に,出資・投資の対価の性質を有するというべきであり,この点からも,被控訴人ら投資家が本件各LPSから割り当てられる損益に係る所得は不動産所得に該当せず,雑所得に該当するというべきである旨主張する。しかし,匿名組合は,「組合」の名称こそあるが,あくまで匿名組合員と営業者との間の内部的な関係であって,匿名組合員と営業者とが,それぞれから独立した存在である新たな事業体を組成してその事業を行うものではない。本件各LPSは匿名組合であるとは認められないから,本件匿名組合通達(所得税基本通達36・37共-21)は上記法令の別段の定めには当たらず,控訴人の上記主張は失当である。
また,控訴人は,本件LPS(C)に投資していた者のうちの相当数が,本件各LPS契約の契約期間中に投資対象建物のキャピタルゲインを事実上放棄する契約を締結していることも,被控訴人ら投資家に所有者として
本件各建物を第三者に貸し付けているという実体がなかったことを示している旨主張するが,本件不動産投資事業(C)が,キャピタルゲインの獲得を目的とするものであり,被控訴人らが同事業に参加した時点において通常の不動産投資事業であったことは,その契約内容からみて明らかであり,このことは,後に本件オプション契約が締結されたことによって変容するものではないから,上記認定判断は何ら左右されない。」
(9)

原判決61頁6行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

「(5)

計算上の損失金額が出資額を超えている場合に,その損失全額につ
いて必要経費に該当するとして損益通算することができるか否か(新たな争点)

不動産所得の金額は,総収入金額から必要経費を控除して計算され
る(所得税法26条2項)ところ,同法37条1項は,「その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」と規定している。また,同法69条1項は,「総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序により,これを他の各種所得の金額から控除する。」と規定している。
控訴人は,所得税法は,純資産増加説を採用しており,すべての個人の純資産の増加をもたらすものはその担税力を増加させるものとして包括的に所得概念を捉えているから,純資産の減少により担税力の
減殺要因となる所得を生ずるのに直接かつ通常必要とされる経費(確定的金銭の支出もしくは物の給付)を必要経費として課税所得の計算上控除することとしたものといえるとして,無限責任を負う構成員と有限責任を負う構成員が存在する事業体の場合,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上することは認められず,当該構成員に割り当てられた損失のうち,当該構成員の投下資本(出資額)を超える部分については,当該構成員の各種所得の金額の計算上収入から控除される必要経費に該当しない旨主張する。
しかし,上記所得税法の規定によれば,不動産所得の必要経費については,「別段の定め」がない限り,減価償却費も支払利子も必要な費用としてその全額が必要経費となるものとされていること,また,不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額が,給与所得や事業所得の金額と通算可能であることは,条文上明らかである。租税法律主義,課税要件明確主義が妥当する租税法においては,所得計算の原則と例外は明確に定められなければならず,特に,法令が明文で「別段の定め」を要求している場合,あるいは,法令が個別に除外規定を置いて例外を設けている場合には,その反対解釈として,解釈によってこれらが規定されたのと同じ結論を導くことはできないと解すべきである。上記所得税法37条1項の「別段の定め」あるいは同法69条1項に対する除外規定なくして,控訴人が主張するように有限責任であることを根拠として,所得税法の明文に反して出資額を限度とする取扱いをすることはできないから,控訴人の上記主張は理由がない。

控訴人は,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上する
ことは認められないという考え方は,国税庁長官が発出した平成10年10月21日付け課審4-20ほかによる「中小企業等投資事業有限責任組合契約に係る税務上の取扱いについて」と題する通達(平成
10年通達。乙A全105)において,中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号)に基づく組合が,基本的には民法上の任意組合と法的性質を同じくしつつも,無限責任組合員からなる民法上の任意組合とは異なり,無限責任組合員と有限責任組合員からなる組合であることを考慮して,「当該組合の収入金額,支出金額,資産,負債等をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法」の場合(グロスで分配される場合),有限責任組合員については,「負債については分配割合に応じた額から有限責任組合員が負担しない部分(出資の額を超えた損失分)を控除した額を計上する」とされており,有限責任組合員については出資の額を限度として負債(及びこれに対応する損失)額の計上が認められ,無制限に必要経費を計上することはできないこととされていることに明らかにされている旨主張する。
しかし,租税法律主義,課税要件明確主義からすれば,通達をもって上記「別段の定め」に当たると解することはできないのであり,上記通達は,未公開企業への株式投資等限られた投資活動しかできなかった中小企業等投資事業有限責任組合が,平成16年の法改正によって初めて金銭債権の保有や金銭の貸付が可能になり,これに付随して不動産の売買,賃貸借又はその媒介等が可能になったことから,中小企業庁からの照会に応えた個別通達であるところ,仮に同通達が違法なものではないとみるとしても,中小企業等投資事業有限責任組合の有限責任組合員についての極めて限定されたものであると解するのが相当である。同通達をもって上記控訴人が主張するような考え方が明らかにされたものとみることはできない。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)

なお,平成17年度税制改正において,所得税法37条1項に対す
る「別段の定め」である有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例(措置法27条の2),及び,同法69条1項の除外規定である特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例(措置法41条の4の2)の2つの規定(本件各損失利用制限規定)が創設されたこと(甲A全16,146,147)は,上記アを裏付けるものであるし,同改正の立案担当者による解説(甲A全147)に平成10年通達についての言及が全くないことは上記イを裏付けるものであるということができる。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)
控訴人は,措置法41条の4の2は,専ら組合員の組合事業への関与の度合いに着目し,不動産所得を生ずべき任意組合等の事業に係る個人の組合員の組合損失を対象として,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,出資の額を超える部分の損失のみならず,その出資の範囲内において負担する損失も含めて,これをないものとみなす措置を定めたものであり,有限責任の構成員についてその負担する責任(出資)の範囲を超えた部分を必要経費へ算入することは認められないという,所得税法の解釈から当然に認められる取扱いを前提としてもなお,当時顕在化していた「いわゆる航空機リースに関する任意組合の事業をはじめ,組合の事業から生ずる損失を利用して節税を図る動き」を防止するためには,無限責任を負う任意組合の組合員も含め,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,当該特定組合員の出資の額を含めて損失をないものとみなす必要があるという政策的判断がされたことから設けられた規定であり,また,措置法27条の2は,それまで我が国には存在しなかった「組合員全員に有限責任制を付与し,経営(業務執行)への全員参加による共同事業性を確保するとともに,柔軟な損益分配を認める等の措置を講じる有限
責任事業組合(いわゆる日本版LLP)制度」が創設されたことから,これに伴う「税制面の対応として」,平成17年度税制改正において,「適正な課税関係の構築の観点から新たに設けられた規定であり,いわゆる構成員課税とされる事業体において,有限責任の構成員と無限責任の構成員がいる場合には,有限責任の構成員が負担する責任(出資)の範囲を超えた損失は,無限責任の構成員が負担することとなるので,所得税法の解釈として,組合事業上の損失のうち出資の額を超えない部分のみが,当該有限責任組合員の所得の計算上,必要経費として認められることになるが,有限責任事業組合の場合は,構成員課税を適用しつつ,組合員の全員が有限責任とされていることから,組合員全員の出資を超えた損失が生じた場合における各組合員の必要経費への算入額や必要経費に算入されなかった組合損失額の翌年度以降の繰越し計算(調整出資金額の計算)などを具体的に明らかにする必要があったためこれらの点を措置したものであるから,上記アの控訴人の主張と何ら齟齬しない旨主張する。
しかし,上記所得税法37条1項の「別段の定め」あるいは同法69条1項に対する除外規定なくして,控訴人が主張するように有限責任であることを根拠として所得税法の明文に反する取扱いをすることはできないことは,上記アに述べたとおりであるから,控訴人の上記主張は当を得ないものである。
控訴人が引用する最高裁判所第二小法廷平成24年1月13日判決は,本件とは事案を異にするものであって,控訴人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから,結局,無限責任を負う構成員と有限責任
を負う構成員が存在する事業体の場合,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上することは認められず,当該構成員に割り当て
られた損失のうち,当該構成員の投下資本(出資額)を超える部分については,当該構成員の各種所得の金額の計算上収入から控除される必要経費に該当しない旨の控訴人の主張は理由がなく,被控訴人らについて有限責任であることを理由に必要経費に算入すべき金額が制限される理由はない。
したがって,本件各建物に係る収入金額及び必要経費として計上することのできる数額は,被控訴人らそれぞれが確定申告,修正申告又は更正の請求をした額である(上記「税額等に関する当事者の主張」(原判決引用))。」
3
以上によれば,AないしF各事件に対する原判決の判断は相当であり,本件
控訴及び附帯控訴は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部

裁判長裁判官

渡辺修明
裁判官

榊原信次
裁判官

末吉幹和
別紙2

第1

控訴人の当審における補充主張

被控訴人P114年分更正処分の取消請求に係る訴えは不適法であり,こ
の場合,被控訴人P114年分通知処分の取消を求める訴えの利益は失われないこと(本案前の争点)
1
通知処分と増額更正の関係について
原判決は,同一年分の所得税について通知処分と増額更正処分が併存する場合は,通知処分が増額更正処分に吸収され,後者のみが訴訟の対象となると判示するところ,原判決が,いつの時点で吸収されると解しているのか必ずしも明確でないが,取消訴訟の提起前の段階から当然に吸収され,常に通知処分取消請求は訴えの利益を欠くという趣旨であれば,以下に述べるとおり,相当ではない。
通知処分と増額更正は,あくまで別個独立の処分であり,処分の理由も異なるのであるから,実体法上当然に一方が他方に吸収されるものではない。通則法90条及び104条が,通知処分と増額更正がいずれも不服申立ての対象となることを前提として,併合審理等に関する規定を設けていることからしても,取消訴訟の提起に至る前の段階においては,通知処分と増額更正が併存することは明らかである。したがって,両処分の確定を妨げるためには,それぞれ不服申立てを経た上,出訴期間内に取消訴訟を提起するか,訴えの変更により取消請求を追加する必要がある。すなわち,両処分は,双方とも適法な不服申立てを経て取消訴訟が提起された場合に初めて,審判の矛盾・抵触を避けるため,通知処分が増額更正に包摂され,訴訟上吸収されると解されるのであって,両処分が併存した段階で直ちに吸収される関係になるものではない。原判決は,通則法が通知処分と増額更正をいずれも不服申立ての対象としていることを看過し,増額更正の取消訴訟が適法に提起されたか否かにかかわらず,更正処分のみが訴訟の対象となるとしている点で相当ではない。そして,
次に述べるとおり,本件においては,被控訴人P114年分更正処分の取消請求は,不服申立てを経ておらず,また,出訴期間を徒過していることから不適法であって,適法に取消訴訟が提起されていないのであるから,被控訴人P114年分通知処分は,被控訴人P114年分更正処分に吸収されず,なお別個独立した処分として存在し,取消訴訟の対象となる(訴えの利益がある)のである。
2
被控訴人P114年分更正処分に対し不服申立てを経ていないことに通則法115条1項3号の正当な理由は認められないこと
原判決は,①被控訴人P1は,当初から一貫して,本件不動産賃貸事業(P)から生ずる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,被控訴人P114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由で,その訴えを不適法なものとすることは,被控訴人P1に酷に過ぎること,②本件予備的請求に係る訴えを適法なものと扱うことによって,司法審査に先立ち課税庁に処分の適否につき見直しの機会を与え,紛争の自主的な解決を図り,大量的かつ回帰的にされる課税処分について訴訟の氾濫を防ぐなどといった不服申立て前置の趣旨を損なうおそれはないことを根拠に挙げて,被控訴人P114年分更正処分に対し不服申立てを経ていないことについて通則法115条1項3号の正当な理由があると認められると判示する(原判決31頁)。
しかしながら,上記①については,本件では通知処分(平成17年2月25日付け)と増額更正処分(同月28日付け)が3日間の短い間隔で相次いでされていて,双方に不服申立てをすることが,一方にのみ不服申立てをすることに比べて特に負担が大きくなるとは思われず,他に被控訴人P1において被控訴人P114年分更正処分に対し不服申立てをすることを妨げるような客観的事情の存在は何らうかがわれない。それにもかかわらず,不服申立ての前置
を経ていないことが形式的な理由であるとして,訴えを不適法なものとすることが酷に過ぎるというのは,そもそも不服申立前置制度の意義を軽視しているといわざるを得ず,相当ではない。
また,上記②についても,被控訴人P114年分更正処分の理由及び内容(船舶リース事業で発生した損失を不動産所得に合算することを否認したもの)と被控訴人P114年分通知処分の理由及び内容(不動産賃貸事業で発生した損失を不動産所得に合算することを否認したもの)とは異なるのであるから,紛争の自主的な解決を図り訴訟の氾濫を防ぐという不服申立前置主義の趣旨に照らして,それぞれの処分について不服申立手続を執ることが要請されていたというべきである。
したがって,上記①②を根拠として通則法115条1項3号の正当な理由があると認められるとした原判決の判示は誤りというほかなく,本件で被控訴人P114年分更正処分に対し不服申立てを経ていないことにつき正当な理由があると認められるような事情は存在しない。
3
本件予備的請求は行政事件訴訟法14条1項及び2項の出訴期間を徒過していること
原判決は,原判決第3の1(2)(原判決30及び31頁)で認定した事実関係の下においては,被控訴人P114年分更正処分の取消を求める訴えは,被控訴人P114年分通知処分の取消を求める訴えが提起された時から既に提起されていたものと同視するのが相当であり,出訴期間の遵守に欠けるところがないものと解すべきであると判示する(原判決32頁)。
しかしながら,上記判示は結論を示すだけにとどまっているところ,原判決のように,通知処分と増額更正が併存する場合は増額更正のみが取消訴訟の対象となると解するのであれば,単に被控訴人P1において対象を誤って訴訟を提起したものにすぎないというほかないのに,いかなる理由で上記のとおり同視することができるのか,その判断を導く根拠は不明である。

通知処分と更正処分とは別個独立の処分であり,双方につき適法な不服申立てを経て取消訴訟が提起されるまでは,両処分が併存し,それぞれが不服申立ての対象となるのであるから,上記の出訴期間についても別個に進行すると解すべきである。また,各処分ごとに不服申立手続に関する教示がされていることからすると,納税者の不利益になるともいえない。
そうすると,通知処分の取消訴訟を提起したことをもって,更正処分の取消訴訟を提起したものとみなすことはできないのであり,出訴期間の遵守に欠けるところはないとする原判決の判示は根拠がないものといわざるを得ない。本件予備的請求に係る訴えが追加提起された時点で被控訴人P114年分更正処分がされた日(平成17年2月28日)から1年が経過しており,行政事件訴訟法14条1項及び2項の出訴期間を徒過していることは明らかであって,徒過したことについて正当な理由があると認められるような事情は存在しない。4
まとめ
以上のとおり,被控訴人P114年分更正処分の取消を求める本件予備的請求に係る訴えは,適法な不服申立手続を経ておらず,また,出訴期間を徒過していることから不適法であり,却下されるべきである。そして,この場合,被控訴人P114年分通知処分はなお別個独立した処分として存在するのであるから,その取消を求める訴えの利益は失われない。
したがって,本件主位的請求に係る訴えを却下し,本件予備的請求を認容した原判決の判断は誤りといわざるを得ない。

第2
1
本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当すること
外国の事業体の法人該当性の判断は控訴人主張の基準によるべきこと
(1)

控訴人主張の法人該当性の判断基準は民法の解釈から導き出された相当
なものであること

我が国において,「法人」は,民商法等の私法において用いられている
概念であり,租税法には独自に法人そのものを定義付ける規定はない。そのような場合,租税法上の「法人」の意義については,「別意に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合は別として,それを私法上におけると同じ意義に解するのが,法的安定性の見地からは好ましい」(金子宏「租税法(第十六版)」111頁)。このように,我が国の租税法上の「法人」の意義も,専ら私法の一般法である民法の解釈から導き出されるべきであるというのが法解釈の基本であって,まず,この点を再度確認する必要がある。
そして,我が国の民法の解釈において,法人とは「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」(我妻榮「新訂民法総則」45頁,林良平ほか編「新版注釈民法(2)」1頁)をいうと解されており,団体については,その構成員の個人財産と区別された独自の財産を有することや,その名において権利義務の帰属主体となり得ることが重要な要素となるものと解される。

我が国では,法人法定主義(民法33条)が採用されているので,我が
国の団体が法人に該当するか否かは形式的に判断することができるが,外国においては,法人法定主義が採用されているとは限らないし,法人法定主義が採用されているとしても,そこで法人とされる団体が我が国の法人と同等の能力を有するとは限らないから,外国の事業体が我が国の私法上の法人に該当するか否かを,その組成の準拠法である当該外国の法令によって形式的に判断することはできない。そして,法人制度の内容がそれぞれの国家の価値判断に基づく立法政策の問題であることを踏まえれば,外国の事業体が我が国の租税法上(私法上)の法人に該当するか否かを判断するに当たっては,我が国の法人に付与されている権利能力の内容と,当該事業体が有する権利能力の内容とを比較して,当該事業体が我が国の法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否かという実質的な観点
から判断するほかない。
これを実体法的に見れば,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有すること(控訴人基準①),②その名において契約を締結し,その名において権利を取得し,義務を負うなど独立した権利義務の帰属主体となり得ること(控訴人基準②)が基準となるし,手続法的には,③その権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得ること(控訴人基準③)が基準となるものであって,当該事業体がこれらの控訴人基準①ないし③の能力を全て有するか否かに基づいて判断するのが相当である(星野英一「民法論集第1巻」270,271頁参照)。
(2)

控訴人基準に法的根拠がないとする原判決の誤り


これに対し,原判決は,控訴人基準①ないし③の点について,「いずれ
も法人格が付与されることによって認められる法人の属性にすぎず,これらを満たせば法人に該当するというその立論に法的な根拠はないといわざるを得ない。殊に,独立した権利義務の主体となることが認められるのが正に法人なのであるから,法人該当性の判断基準として上記②の基準を掲げるのは,それ自体基準として不合理であるといわなければならない。」とした上,「外国の事業体についてのみ,その準拠法上の法人格の有無という画一的な基準によることなく,個別具体的な実質判断を行うこととなり,内国法人の場合の判断基準と相違する結果となるから,法的安定性の観点からも許容できない」と判示する(原判決36頁)。

しかしながら,上記(1)のとおり,控訴人基準①ないし③は,「自然人
以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という私法上の法人の概念の意義から導き出されたもので,租税法上も私法上の概念と同義と解すべきであるという借用概念の考え方と整合する上,ある事業体が,控訴人基準①ないし③を満たし,我が国の法人と同様の権利義務の帰属主体であるということになれば,当該事業体は,通常,損益ないし所得の帰
属主体となり,法人税の課税対象となる属性を有するといえるから,判断基準としても必要かつ十分なものである。そして,この基準によれば,我が国において法人に認められる権利能力と同じ内容の権利能力が認められている外国の事業体について,我が国の租税法上これを等しく法人として取り扱うことになり,課税実務において法的安定性や公平な取扱いを確保することに資するといえる。
したがって,外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かを判断するに当たっては,控訴人基準①ないし③に基づいて判断するのが相当であって,それを否定した原判決は誤りである。
2
原判決が示す法人該当性の判断基準が相当ではないこと

(1)

原判決が示す判断基準について
原判決は,我が国の租税法上の法人を「その準拠法によって法人とする
(法人格を付与する)旨を規定されたものをいう」とした上で,外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かについては,基本的には,①当該外国の法令の規定内容から,その準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否か(以下「原判決基準①」という。)により判断されるべきであるが,さらに,より実質的な観点から,②当該外国の法令が規定する内容を踏まえて,当該事業体が我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうか(以下「原判決基準②」という。)を検証する必要があると判示する。しかしながら,原判決は,「租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当である」(原判決35頁)と判示しながら,そこで示した原判決基準①及び②は,私法上の法人の概念である「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という概念から離れて,独自に法人の概念を規定した上で定立しているものであり,
相当ではない。
また,実質的にみても,以下に述べるとおり,原判決基準①及び②は,法人概念を不当に狭めるものであって,相当ではないというべきである。(2)

組成の準拠法である外国の法令によって法人とする旨規定されているこ
とを基準とすることが相当ではないこと
原判決は,我が国が法人法定主義を採用していること(民法33条)及び民法36条にいう「外国法人」が外国の法令に準拠して法人として成立した団体をいうと解されることから,原判決基準①を導いたものと考えられる。しかしながら,前記1(1)イで述べたとおり,どのような団体にどのような権利義務を付与するかは,各国の立法政策の問題であり,法人と翻訳される外国の概念が我が国の法人の概念と同一であるとは限らない。我が国の法人と同様の権利能力を有する団体が外国の法令では法人とする旨規定されていない可能性もあるし,逆に,我が国の法人の有する権利能力を持たない団体が外国の法令では法人とする旨規定されている可能性も否定できない。また,そもそも外国で法人法定主義が採用されているとは限らず,法令によって法人格を付与する旨規定された団体が存在しないこともあり得る。そうすると,我が国で法人法定主義が採用されているからといって,外国の事業体についても,その組成の準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨規定されていることを法人該当性を判断するための第一の基準とするのは相当とはいえない。仮に,この基準によると,外国の法令の規定内容いかんによって,我が国の法人と同様の権利能力を有する事業体が法人として扱われず,逆に,我が国の法人の有する権利能力を有さない事業体を法人として扱うことになりかねず,公平の原則に反する。その上,法人法定主義が採用されていない法制下では,我が国の租税法上の法人として扱われる事業体が全く存在しないこととなりかねず,極めて不合理な結果を招来するおそれもある。

なお,原判決は,「損益の帰属すべき主体として設立が認められたもの」という原判決基準②を追加することにより,上記のような不合理を回避しようとするようであるが,そのこと自体,組成の準拠法である外国の法令の規定内容によって法人格を付与されているか否かといった形式的基準を基準とすることが相当でないことを示すものといえる。
また,民法36条は,外国法人が我が国において法人として活動することを認める要件を定めた規定であって,外国で活動する団体に対し,我が国の租税法上,それを「法人」と解して課税が可能か否かを判断するために必要となる「法人」自体の意義を明らかにする規定ではないから,同条の規定や解釈を根拠としては,外国の事業体が法人に該当するか否かの判断基準を導くことも相当ではない。
したがって,原判決基準①は,これを法人該当性の考慮要素の一つとすることはともかく,原則としてこれを満たさなければ我が国の租税法上の法人に該当しないとするのは,我が国の法人概念をゆがめる可能性のあるものであり,相当ではない。
(3)

損益の帰属すべき主体として設立が認められたことを基準とするのは相
当ではないこと

原判決は,原判決基準①に加えて,実質的にみて損益の帰属すべき主体
として設立が認められたものといえるか否かという基準(原判決基準②)を定立している。これは,原判決が,法人や人格のない社団等(法人税法3条により,同法の適用においては法人とみなされる。)については,その事業(取引)の損益が事業体に帰属することを前提としてその所得に法人税が課される一方,任意組合のように法人や人格のない社団等に該当しない事業体については構成員課税が行われているのは,事業の損益の帰属主体となり得る実体の有無が異なるためであると解していることによるものと思われる。そして,原判決は,実質所得者課税の原則(所得税法12
条,法人税法11条)に鑑みても,ある事業体が法人税の納税義務者になるか否かの実質は,当該事業体がその事業の損益の帰属主体となり得る実体を有するか否かにあると指摘した上で,我が国の租税法は,法人が損益の帰属すべき主体として設立が認められたものであることから,これを法人税の納税義務者としたものと解しているようである(原判決33,34頁)。

このように,実質的基準を併せて定立しなければならないこと自体,基
準として相当か否かという問題があるが,その点をおいても,以下に述べるとおり,我が国の租税法上の法人の概念の解釈として,損益の帰属主体として設立が認められたものであることに殊更着目し,これを法人該当性の判断基準とすることは,根拠に乏しいものといわざるを得ない。(ア)

法人税法の規定から法人の意義を導き出すことはできないこと
原判決は,法人税法の規定を引用し,そこから,法人には事業の損益
により構成される所得が帰属することを前提としてその所得に対する法人税が課されると判示する(原判決32頁)。
しかし,法人税法は,法人を内国法人と外国法人に区分した上で,「法人税について,納税義務者,課税所得等の範囲,税額の計算の方法,申告,納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるもの」(法人税法1条)であって,いかなる存在(事業体)が法人に該当するかという法人概念を導く根拠となるものではない。
したがって,法人には損益が帰属することを前提として法人税が課されているからといって,原判決基準②のように「損益の帰属すべき主体として設立が認められたもの」を法人とするとの趣旨を導くことはできない。
そもそも,損益は,一般に,私法上の権利義務に基づいて発生するも
のであるから,それが誰に帰属するかを判断するためには,前提として当該損益を生み出す私法上の権利義務が誰に帰属するかをみる必要がある。
すなわち,通常,取引に係る損益を構成する収入や支出は,当該取引に関する債権債務と表裏一体の関係にある。そこで,ある事業体と構成員との関係において,当該事業体が,その構成員と区別された独自の財産を有し,独立した権利義務の帰属主体となるのであれば,その事業体に属する事業を営むことにより生ずる利益や損失は,当然に当該事業体に帰属する。換言すれば,権利義務の帰属主体であれば,通常,当然に損益ないし所得の帰属主体となり,法人税等の税が課されるのであるから,権利義務の帰属主体であることさえいえれば,所得の帰属主体となり得る実体を有するといえるはずであり,あえて損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうかを基準として定立する必要性はないものである。むしろ,このような基準を定立することは,法人の概念を不当に狭めるものになり,相当ではない。
この点については,平成22年大阪地裁判決も,「ある事業体が「権利義務の主体となることのできるもの」であり,その事業活動において,その名において財産を取得し,法律行為を行い,債権を有し債務を負うのであれば,その事業活動に伴う損益も当然に当該事業体に帰属する」(乙A全101・42頁)と判示するところである。
(イ)

任意組合についての課税関係から法人の意義を導き出すことはでき
ないこと
原判決は,任意組合の事業に係る利益等の帰属時期やその額の計算については,所得税法及び法人税法上の明文規定はないものの,組合に対して法人税は課されず,当該組合の事業の損益が構成員に帰属することを前提として,その構成員に所得税又は法人税が課されているとした上,
「人格のない社団等と任意組合のような法人及び人格のない社団等のいずれにも該当しない事業体とは,いずれも実質的にはその構成員の財産とは別個独立の財産を有すると解されるものでありながら,事業の損益の帰属主体となり得る実体の有無が異なるため,法人税の納税義務者になるか否かの結論を異にするものと解される」と判示する(原判決33頁)。
しかしながら,任意組合が法人税の納税義務者とならないのは,組合財産はその構成員の共有(合有)であって,組合自身が権利義務の帰属主体とならないからである。原判決が,任意組合も法人と同じ意味で構成員の財産と別個独立の財産を有すると解しているのであれば,その解釈は誤っており,相当ではない。
(ウ)

実質所得者課税の原則は法人の意義と関係がないこと

原判決は,「事業の収益の実質的な帰属主体に課すとする実質所得者課税の原則(所得税法12条,法人税法11条)に鑑みても,ある事業体が法人税の納税義務者になるか否か(括弧内省略)の実質は,当該事業体がその事業の損益の帰属主体となり得る実体を有するか否かにある」と判示する(原判決33頁)。
しかしながら,所得税法12条及び法人税法11条が規定する実質所得者課税の原則は,所得の帰属者について名義人と収益を享受する者とが食い違う場合に,その所得は後者の所得とするというものである(注解所得税法研究会編「四訂版注解所得税法」137頁参照)。上記各規定のうち所得税法12条についてみると,同条は,資産から生ずる収益が帰属するとみられる者が単なる名義人であって,その者以外の者がその収益を享受する場合があり得ることを前提に,そのような場合は,収益は,これを享受する者に帰属するものとして所得税法を適用することを規定したものであり,これを受けて,所得税基本通達12-1では,
そのような場合に,その収益を享受する者が誰であるかは,その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであるとの取扱いを定めているのである。
このように,実質所得者課税の原則は,課税物件の帰属について「名義と実体,形式と実質とが一致しない場合」に問題になるものである(金子・前掲租税法160,161頁参照)。したがって,同原則は,原判決のいう「ある事業体が法人税の納税義務者になるか否か」を判断する場面で基準となるような原則ではなく,実質所得者課税の原則を定める上記各規定を根拠に,法人該当性の判断基準として,原判決基準②のような損益の帰属主体として設立が認められたものといった基準を導くことはできない。

以上のとおり,原判決の指摘する租税法の規定や課税実務上の取扱い等
を根拠として,法人該当性について,損益の帰属主体として設立が認められたものを法人とするといった基準を導き出すことはできないのであるから,原判決基準②は,法人該当性の判断基準として相当ではないというべきである。
3
原判決基準の本件各LPSへの当てはめにも誤りがあること

(1)

はじめに
原判決は,本件各LPSは,原判決基準①及び②のいずれにも該当せず,
我が国の租税法上(私法上)の法人に該当しないと判示した。
前記2で詳述したとおり,外国の事業体が我が国の租税法上(私法上)の法人に該当するか否かの判断基準として,原判決基準①及び②を用いることは相当でないが,その点をおくとしても,以下に述べるとおり,原判決基準の本件各LPSに対する当てはめにおいて,原判決の判示には誤りがある。(2)

組成の準拠法である外国の法令により法人とする旨規定されているとい
えるか否かについて


原判決の説示内容
原判決は,日米租税条約の規定内容から,我が国の租税法上の「法人」
という概念に相当する米国の概念は「company」,我が国の租税法上の「法人格を有する」という概念に該当する米国の概念は「corporate」であり,他方,米国の「entity」という概念は我が国の租税法上の「団体」という概念に相当し,米国の「partnership」という概念は「組合」を意味し,我が国の租税法上の「法人」に含まれないと判示する。また,米国の財務省規則や連邦民事訴訟上の規定内容を根拠として,「米国の他の法令においても,法人をコーポレーション(corporation),インコーポレイティド(incorporated)やボディ・コーポレート(bodycorporate)とし,法人格のない団体の典型としてパートナーシップ(partnership)が掲げられている」(原判決46頁)とも判示する。その上で,州LPS法に基づき組成されたLPSが独立した法的主体(separatelegalentity)となる旨の規定(同法201条(b))について,組成の準拠法である外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否か(原判決基準①)という観点で検討し,①日米租税条約の規定内容や「separatelegalentity」の米国内の法律における用法,②州LPS法の制定経緯等によれば,同法に基づき組成されたLPSは,本質はパートナー間の契約関係であって,コーポレーションとは別個の機能を有するものと解されること,③我が国の租税法(私法)上の法人とは異なる法律効果を許容されていること等を指摘して,「separatelegalentity」は,構成員とは別個の「団体」であることを示す概念であるが,その団体は,法人ではないにもかかわらず,事業体理論に基づき,対外関係等の一定の範囲内で構成員とは別個に権利を取得したり義務を負担したりするような法的取扱いが認められるという我が国には存在しない概念であるとして,少なくとも,我が国の租税法(私法)上の法人とは同一の概念であるとは認められない
と判示している(原判決44ないし52頁)。

日米租税条約や米国の法令の規定から形式的な観点で判断するのは相当
ではないこと
(ア)

原判決も引用する日米租税条約3条1項(f)は,「法人」

(company)とは,「法人格を有する団体」(anybodycorporate)又は「租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体」(anyentitythatistreatedasabodycorporatedfortaxpurposes)をいうと規定するところ,この規定については,「あるエンティティが両締結国で同様に『課税上法人格を有する団体として取り扱われるエンティティ』である場合には,条約の特典を享受する資格について差異が生じないので相互主義(引用者注:外国人に対し,その外国人の本国で自国人が同様の権利を与えられることを条件として権利を認める主義)の精神からみても問題はないが,一方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱い,他方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱わない場合には,条約上の法人になるのかどうかという問題を残し,相互主義の観点から条約の特典を享受する資格が両締結国間で異なるという実質的に不平等な取決めになるおそれがある。これは,法人について国際的に共通の概念が確立されず,条約上の定義が一種の不確定概念とされたまま国内法への委任が行われていることから生ずる問題である。」(本庄資「国際課税の理論と実務[第3巻]租税条約」・乙A全第102号証53,54頁)とされている。
このように,「法人」の意義については,国際的に共通の概念が確立されていないのであるから,日米租税条約中の「company」が「法人」,「partnership」が「組合」と翻訳され,同条約においては「法人以外の団体」に「partnership」を含むとされているとしても,そのことと米国
の「partnership」の中に我が国の法人に該当するものがあると解することとは,矛盾するものではない。
(イ)

また,民法36条1項は,「外国法人は,国,国の行政区画及び商
事会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。」と規定している。同項にいう「認許」とは,「外国法人がわが国において活動する場合,その活動より生じる権利義務に関して,その外国法人に権利義務の主体たること,すなわち,法人格を認めることであると解され」ており(前掲新版注釈民法(2)194頁),「わが民法は,一定種類の外国法人は,いずれの国の法人であるかを問わず,概括的に認許することにしている」(同195頁)ところ,「条約による外国法人の認許としては,わが国と諸外国との間に締結されている通商航海条約が挙げられる」(同196頁)とされている。
そこで,日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約(昭和28年条約第27号)をみると,同条約22条3項は,「この条約において「会社」(英文では「companies」)とは,有限責任のものであるかどうかを問わず,また,金銭的利益を目的とするものであるかどうかを問わず,社団法人(「corporations」),組合(「partnerships」),会社(「companies」)その他の団体(「otherassociations」)をいう。いずれか一方の締約国の領域内で関係法令に基づいて成立した会社
(「companies」)は,当該締約国の会社(「companies」)と認められ,且つ,その法律上の地位を他方の締約国の領域内で認められる。」と規定しており,「partnerships」も「companies」に含まれるものとされている。
そして,本件各LPSと同様に,デラウェア州法を準拠法として組成されたリミテッド・パートナーシップであるP5が,外国法人(外国会
社)として登記されている実例もある(乙A全103の1,2)。この点,我が国の会社法2条2号は,外国会社を,外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって,会社(株式会社,合名会社,合資会社又は合同会社をいう。同条1号)と同種のもの又は会社に類似するものをいうと定義している。この規定については,「日本法は伝統的に,合名会社や合資会社に対しても迷わず法人格を認めてきたが,それは日本法の特徴である。諸外国では,会社でありながら法人格がないものが少なくない。2号の外国会社の定義は,外国会社であるか否かを判断する際に,日本の株式会社・合名会社・合資会社・合同会社と同種かこれらに類似するものでさえあれば,日本においても外国においても法人格が認められるか否かは問わないことを明らかにした」ものと説明されている(奥島孝康ほか編「新基本法コンメンタール会社法1」23頁)。すなわち,無限責任社員と有限責任社員とで構成され,かつ,その営む事業の種類が限定されない州LPS法に基づき設立されたリミテッド・パートナーシップは,旧商法上の合資会社に最も類似すると認められることからして,会社法の外国会社に該当し得るものであり,我が国において認許される外国法人に含まれることになる(現行民法35条1項)。
さらに,米国の租税法の一般的なケース・ブックである,AdrianA.Kragen,JohnK.McNulty,“FederalIncomeTaxation,VolumeTwo,TaxationofCorporations,Shareholders,PartnershipsandPartners”ThirdEdition(1981)(連邦所得税第2巻:会社,株式,パートナーシップ及びパートナーに対する課税・第3版,乙A全106)では,「THECORPORATIONASASEPARATEENTITY」(独立した法的主体としての会社)という表題で,「corporation」の性質や租税法上の意義,課税上の取扱い等について説明されており(乙A全106・19頁部分以下,
訳文2ないし8頁),原判決が「団体」に相当すると判示した「entity」の概念には,「corporation」(会社)も含まれるものとされている。また,同書では,パートナーシップの課税上の取扱いについて説明した部分において,「独立した法的主体(separateentity)として課税対象となる会社(corporations)の一部は,パートナーシップと同じように導管(conduit)として課税されることを選択できるようになった。」と説明されている(乙A全106・747頁部分,訳文11頁)。ここでも,「separateentity」が「corporation」を含む概念として使われており,構成員とは独立した主体を表すものと考えられる。
(ウ)

そうすると,原判決の指摘するような日米租税条約や米国の法令の
規定ぶりを根拠として,「partnership」が我が国の私法上の法人に該当しないと判断することはできないというべきである。米国の
「partnership」の中にも我が国の私法上の法人に該当するものがあり得るのであり,それは,当該「partnership」が有する実質的な権利能力の内容等に照らして個別具体的に判断すべきものである。

「separatelegalentity」のとらえ方についての原判決の判断方法が相当で
はないこと
控訴人も,「separatelegalentity」という文言のみを根拠として,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当すると主張しているものではない。すなわち,仮に原判決基準①から法人該当性の有無を判断するとしても,州LPS法201(b)における「separatelegalentity」については,同条項で「本章に基づき組織されたLPSは,独立した法的主体(separatelegalentity)となり,その独立した法的主体(separatelegalentity)としての地位は,当該LPSのLPS証明書が解除されるまで継続する」(原判決39頁)と規定されているのであるから,まず,その規定の文言から読み取れるとおりの解釈を行うのが基本となる。その上で,同法により設立され
たリミテッド・パートナーシップに対して,法的主体として具体的にどのような権利義務が付与されているのかを検討して,法人格を付与する旨の規定といえるか否かを判断すべきものと思われる。したがって,原判決のように,一般に「法人」と訳されている用語が「corporation」等であり,「separatelegalentity」はこれらと同じ概念として使用されていないといった形式的な観点から法人該当性を判断することは,相当でないというべきである。

州LPS法により設立されたLPSに我が国の租税法上の法人と異なる
法律効果が許容されているという原判決の判示が誤りであること
(ア)

原判決は,パートナーが特定のLPS財産に対していかなる持分も
所有しない旨規定する州LPS法701条について,LPSの特有財産については,①パートナーが共同所有者となり得るとする余地があり,また,②パートナー間の合意により州LPS法201条(b)及び701条の規定の適用を排除してこれと異なる法律効果を生じさせることを許容する余地が残されているとして,我が国の租税法上(私法上)の法人とは異なる法律効果を許容するものというべきであると判示する(原判決50ないし52頁)。
(イ)

原判決がLPSの特有財産についてパートナーが共同所有者となり
得る余地があるとする根拠として挙げるのは,州LPS法が準用する1999年改正前の州GPS法1525条(a)に,パートナーが特定のパートナーシップ財産につき他のパートナーとの共同所有者である旨の規定があったが,同改正後の州GPS法203条は,パートナーシップの資産がパートナーの個人資産ではない旨を規定しており,州LPS法にはこれらのような明文規定が存在しないことである(原判決50頁)。しかしながら,州LPS法が州GPS法を準用しているといっても,その意味するところは州LPS法の固有の規定と矛盾しないように解釈され
るべきである。パートナーが特定のLPS財産に対して持分を有しない旨の明文の規定が州LPS法701条にあることや,現に本件各LPSが契約当事者となって本件各建物の売買契約を締結するとともに,米国の登録所に本件各建物の所有者として登録されていること(乙A全5,38,57ないし60)からすれば,州GPS法203条のような明文規定がなくとも,本件各LPSがその特有財産について構成員であるパートナーとは独立した所有権の帰属主体となることは明らかである。原判決は,任意組合の組合員による組合財産の持分の処分や分割請求が禁止ないし制限されている(民法676条)のと同様に,州LPS法701条の規定は,パートナーが特定のLPS財産に対する持分の処分や分割請求等を禁止する趣旨の規定であると解する余地があるとも判示する(原判決51頁)。しかし,そもそも「いかなる持分も所有しない」(原判決42頁)という文言の規定をそのように限定して解釈することには無理がある。本件各LPSは,現にその名義で売買契約を締結して本件各建物を取得し,本件各建物の所有者として登録されているのであって,財産の所有に関して,本件各LPSが任意組合の持ち得ない権利能力を有していることは明らかである。原判決の説示は,この明白な事実関係を看過又は軽視して,殊更本件各LPSを任意組合と同様に解しようとするものであり,相当ではない。
(ウ)

さらに,パートナー間の合意により特定のLPS財産に対する持分
の所有について異なる法律効果を生じさせることを許容する余地があるとする点について,原判決は,モリス回答書(乙A全80)を根拠としている。しかし,モリス回答書は,まず,「デラウェア州の裁判所が『集合体理論』をパートナーシップの財産の所有権に適用すると第三者に影響を及ぼすと判断した場合には,同裁判所は,デラウェア州LPS法の§17-201(b)及び§17-701が,パートナーシップ契約で
の修正を認めない強制的な規定であると判断する公算が高いといえます。」(乙A全80・訳文5頁)として,州LPS法201条(b)及び701条が原則として強行規定である旨指摘した上で,これらの規定について,「第三者には関係なく,全パートナー間のみの関係において,修正することができると決定することは考えられます。我々は,デラウェア州裁判所が財産所有権の取扱いを二分する方法を適用した事例を知りませんし,かつ全パートナーたちがかかる取扱い方法から実現される重要なメリットについても承知しておりません。」(同訳文6頁)と指摘するにとどまっている。これによれば,モリス回答書は,州LPS法701条は強行規定であって,個別のLPS契約により同条を修正することはできないという見解を示した上で,パートナー間の対内的関係に限ってパートナーがLPS財産に固有の権利を有することに意味がある場合といった極めて限定的な条件の下では,パートナー間の合意が有効とされる可能性もあるだろうという推測を述べつつ,現実的にはそのような取扱いをすることに意味はないとして,その可能性を否定しているものと解される。このように,前後の文脈を正しく読み取れば,モリス回答書は,特定のLPS財産に対してパートナーに特定の持分を認める余地があると述べたものではないと解されるのであるから,原判決はモリス回答書の記載内容を誤解しているといわざるを得ない。
この点,平成22年大阪地裁判決も,「前後の記載内容を全体としてみれば,モリス回答書は,内部関係に限定して701条が修正されるという考え方について否定的な見方を示していることは明らかである。」と判示している(乙A全101・47頁)。
(エ)

この点は,LPS法解説書(ルバロフとアルトマンによるデラウェ
アのリミテッド・パートナーシップ)でも,「デラウェア州リミテッド・パートナーシップにおけるパートナーシップ持分は,動産である」,
「パートナーシップ持分は,リミテッド・パートナーシップの損益に対するパートナーの持分,及びリミテッド・パートナーシップ資産の分配を受ける権利を意味することを認識することが重要である」,「このように,パートナーの損益に対する持分及び分配を受ける権利が,パートナーの動産を構成している」とし,「パートナーシップ持分の動産としての性格付けは,パートナーにとって重要な法的意味を持つ。例えば,不動産のみからなるリミテッド・パートナーシップの資産に対して,パートナーシップ持分を持つパートナーは,当該パートナーシップの不動産に対する持分を持たない。当該パートナーは,当該不動産に係るパートナーシップの損益について比例配分による持分権を有し,また,当該不動産に係るパートナーシップの資産の分配を受ける権利を有する動産としてのパートナーシップ持分を有する。このように,デラウェア州リミテッド・パートナーシップのパートナーは,特定のパートナーシップ財産に対する持分を持たない。リミテッド・パートナーシップが所有する財産の種類に関わらず(不動産,動産,又はその混合),当該パートナーシップのゼネラル・パートナー及びリミテッド・パートナーは,特定のパートナーシップ財産に持分を持たない。」と説明されている(乙A全107・訳文1頁)。
さらに,LPS法解説書では,リミテッド・パートナーシップが所有する資産を現物でパートナーに分配する場合について,「パートナーが特定のパートナーシップ財産を受け取ることになる現物での分配にもかかわらず,かかる分配は特定のパートナーシップ財産に対する持分を有することと同じではない。分配がなされたら,当該分配された財産は,もはやパートナーシップ財産ではない。」と説明されている(乙A全107・訳文2頁)。
(オ)

被控訴人らは,アレン教授作成の2011年3月25日付け意見書
(甲A全124)に基づき,「各パートナーは,本件各LPSの資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当する不可分の持分を有する」という本件各LPS契約4.5条の条項は,「リミテッド・パートナーが本件各LPSの資産についてエクイティ上の所有権を有することを確認」するものであると主張する。
しかし,上記意見書は,州LPS法201条(b)について,「本章に基づき組成されたパートナーシップは,エンティティーであると規定しています。その結果,例えば,パートナーシップ自身の名義で財産を取得する能力を持つことになっています。」とした上,本件各LPS契約4.5条の条項について,「いかなる種類のものであれ,パートナーシップの債権者との関係におけるリミテッド・パートナーの権利について規定するものではありません。同条は,ジェネラル・パートナー又は業務執行パートナーとリミテッド・パートナーの間の関係を定めたものです。同条の主な目的及び効果は,これらの種類の異なるパートナー間で,パートナーシップ財産をエクイティ上(equitably)所有するのはリミテッド・パートナーであること,及びジェネラル・パートナーが,パートナーシップ及びその財産を管理するために授与された幅広い権限を行使する際に忠実義務を負う相手方は,リミテッド・パートナーであることを規定することです。」,「本法(州LPS法701条)が存在する以上,第4.5条が,本リミテッド・パートナーシップ契約の他の多くの規定と同じく,リミテッド・パートナーに対して,それがいかなるものであっても,パートナーシップの特定の財産に対する所有権の要素や性質を持たせることを意図していなかったことは,極めてはっきりしています。リミテッド・パートナーは,共同でも単独でも,パートナーシップの特定の財産又は全部の財産につき,売却も,譲渡も,所有することさえできません。」,「リミテッド・パートナーが,第三者との関係で
パートナーシップの特定の財産につき,所有権を持っているかのような徴表を有していると言うことは,一切できません。」と述べている。そして,本件各LPS契約4.5条の起案者の意図として,州LPS法701条で禁止されている「特定の財産に対する所有権を設定することを意図していたとは考えられず」,州LPS法及び本件各LPS契約によりジェネラル・パートナーに委任されている「パートナーシップの全体の財産に対する支配権又は管理権」を「設置することを意図していたとも考えられない」ことからして,「パートナーシップ財産をパートナーシップが行う事業に供したことにより生じる利益及び損失に対する集合的な権利(acollectiveright)を認知することを意図していたというのが,最も適切な解釈であると考えます。」と述べている(甲A全124・訳文2及び3頁)。
そうすると,アレン教授も,モリス意見書と同様に,特定のLPS財産に対してパートナーに特定の持分を認める余地があると述べたものではないと解されるのであり,被控訴人らのいう「エクイティ上の所有権」は,パートナーが合有的な共同所有者となり得ることを意味するものとは解されない。
(カ)

そして,本件各LPS契約4.5条の条項は,各パートナーが本件
各LPSの資産全体に対して出資割合に応じた不可分の持分(パートナーシップ財産をパートナーシップが行う事業に供したことにより生じる利益及び損失に対する集合的な権利)を有することを示すにすぎず,本件各LPSの特定の資産に直接の持分を有することを定めたものではないと解すべきであり,そうすると,強行規定である州LPS法701条の規定と何ら矛盾するものではなく,整合的に理解することが可能である(乙A全69参照)。

州務長官登録局への登録がLPSの成立要件とされていること

(ア)

州LPS法201条(a)は,リミテッド・パートナーシップを設立
するためにはリミテッド・パートナーシップ証明書に所定の事項を記載して州務長官登録局に登録するものとすると定め,同条(b)は,「リミテッド・パートナーシップは,リミテッド・パートナーシップ証明書が最初に州務長官登録局に登録された時点,あるいはリミテッド・パートナーシップ証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立されるものとし,いずれの場合においても,本項の要件を完全に満たすものでなければならない。本章に基づき組織されたリミテッド・パートナーシップは,独立した法的主体となり,その独立した法的主体としての地位はリミテッド・パートナーシップ証明書のリミテッド・パートナーシップによる解除まで継続する。」と規定している(乙A全25・訳文15頁,原判決39頁)。
この規定について,LPS法解説書では,「デラウェア州リミテッド・パートナーシップは,デラウェア州改訂統一リミテッド・パートナーシップ法に従って設立されたエンティティでなければならない。パートナーシップ契約はデラウェア州リミテッド・パートナーシップの基礎であるが,デラウェア州リミテッド・パートナーシップを設立するためには,すべてのゼネラル・パートナーは,リミテッド・パートナーシップ証明書に署名し,当該証明書をデラウェア州務長官登録局に登録しなければならない。したがって,デラウェア州リミテッド・パートナーシップを設立するには,適切に署名され,登録されたリミテッド・パートナーシップ証明書が必要となる。」と解説されている(乙A全75・訳文1頁)。
(イ)

また,米国の法律百科事典であるジュリスプルーデンス(アメリカ
ン・ジュリスプルーデンス第2版)でも,「リミテッド・パートナーシップは,ゼネラル・パートナーシップと異なり,略式の合意で設立する
ことはできず,構成員のステータスを黙示で確定させることもできない。というのは,リミテッド・パートナーシップの創設は制定法の要求事項を順守しなければならない正式かつ公的な手続だからである。リミテッド・パートナーシップの設立を認めている制定法に基づく保護を求める者は,当該制定法を順守しなければならず,リミテッド・パートナーシップの成立は,法令を順守しているか否かに左右される場合がある。したがって,当事者にリミテッド・パートナーシップを設立する意図があっても,その当事者が設立に関する制定法の要求事項を順守していなければ意味がない。」,「統一リミテッド・パートナーシップ法の1976年及び2001年改訂法は,リミテッド・パートナーシップが成立する時期について,証明書が提出された時であると明記している。ただし,それは,内容及び執行に関する要求事項が実質的に満たされていることを条件とする。当該証明書は,リミテッド・パートナーシップの設立に関する制定法の前提条件であり,当該証明書が提出されるまでは,パートナーシップはリミテッド・パートナーシップとして成立しない。」と説明されている(乙A全87・訳文17及び18頁)。
そして,同様に米国の法律百科事典であるコーパス・ジューリス・セクンダムでも,「制定法に基づきリミテッド・パートナーシップを設立する第1の必要条件は,所定の証明書を作成し提出することである。改訂統一リミテッド・パートナーシップ法においては,リミテッド・パートナーシップの存在は,同法の他の規定ではなく,リミテッド・パートナーシップ証明書を要求する制定法が順守されているか否かのみにより決定される。」(§408・乙A全108・訳文13頁部分),「証明書の提出は,リミテッド・パートナーシップを設立するための制定法における重要な手続である。証明書の提出と記録は,一般に制定法により規制されている。制定法の要求事項が実質的に順守されている場合,リ
ミテッド・パートナーシップはパートナーシップ証明書を該当する登録局に提出した時,又はリミテッド・パートナーシップ証明書にそれより後の設立の日付が記載されていれば,その後の日付の時点で設立される。」と説明されている(§412・乙A全108・訳文18頁部分)。(ウ)

以上のとおり,州LPS法201条に規定するリミテッド・パート
ナーシップ証明書を州務長官登録局に登録することは,パートナーシップがリミテッド・パートナーシップとして認められるための要件,すなわち成立要件と解される。
我が国では,会社の設立登記は成立要件とされており(会社法49条,579条。なお,旧商法57条,旧有限会社法4条も同様。),登記が創設的効力を有する(江頭憲治郎・株式会社法第3版104及び105頁参照)。その他の法人についても,一般に,設立登記が成立要件とされている(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律22条,163条,弁護士法30条の9,34条,公認会計士法34条の9,宗教法人法15条,私立学校法33条,労働組合法11条,農業協同組合法63条,消費生活協同組合法61条等)。これに対し,法人でないものについては,一定の事項を登記すべきこととされていても,一般に,登記が成立要件とはされず,対抗要件とされている(有限責任事業組合契約に関する法律8条,投資事業有限責任組合に関する法律4条等)。
そうすると,本件各LPSが契約のみによって成立するものではなく,州LPS法の規定に従って公的機関に登録することによって初めて成立するものであることは,州LPS法によって構成員と別個の独立した法的地位,すなわち我が国でいう法人格を付与する旨が規定されていることを支える根拠の一つということができる。

まとめ
以上のとおり,「separatelegalentity」であっても我が国の租税法上の法
人と異なる法律効果が認められる余地があるという原判決の判示は,根拠がないというべきである。
むしろ,州LPS法により設立されたLPSには,「独立した法的主体」(separatelegalentity,州LPS法201条(b))として地位が与えられ,「州LPS法若しくはその他の法律又は当該LPSのパートーナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限(当該LPSの事業,目的,活動の実行,促進及び達成のために必要又は好都合な権限や特権を含む。)を保有し,それを行使することができる」(州LPS法106条(b))と規定されていることは,本件各LPSが,その名において付与された法的権限を行使し得る独立の権利義務の主体であり,かつ,既に見たとおり構成員の財産とは独立した財産を保有していることを端的に示すものである。それゆえ,控訴人の基準による場合はもとより,原判決基準①によっても,本件各LPSが組成の準拠法である外国の法令によって法人とする旨が規定されているとみることも十分可能というべきである。
(3)

損益の帰属主体として設立が認められたものといえるか否かについて

原判決の説示内容
原判決は,次の諸点を指摘して,本件各LPSの損益は州LPS法に基
づく本件各LPS契約上,総額(グロス)ベースでパートナーに直接帰属することが予定されているとしている(原判決56頁)。
すなわち,原判決は,その判断の根拠として,①ジェネラル・パートナーの権限や責任等については,1999年改正前の州GPS法に準拠したパートナーシップのパートナーと同様,事業の運営・遂行に関与する平等の権利があり,パートナーシップの債務についての連帯責任を負う一方,リミテッド・パートナーは原則としてLPSの事業の経営管理に関与せず,LPSの債務を弁済する責任も負わないこと,②州LPS法の主眼は契約
自由の原則及びパートナーシップ契約の執行可能性に最大限の効果を与えることとされ,1999年改正前の州GPS法が広く準用されていること,③州LPS法101条(13)において,LPSの損益に対し各パートナーが保有する持分をパートナーシップ持分として認め,州LPS法503条において,LPSの損益は,パートナーシップ契約の規定に従い,パートナー間で割当てが行われるとされていることを挙げている。また,原判決は,上記③の点に関して,州LPS法上,LPSの損益をパートナーに帰属させる方法についてパートナーが完全な契約上の自由を有すると解されていること,本件各LPS契約において,会計年度の利益及び損失は所定の割合で各パートナーに割り当てられるとされていること,米国の連邦課税上,チェック・ザ・ボックス規則(事業体課税を受けるか構成員課税を受けるかを選択することができる制度)によって,コーポレーションとしての課税(事業体課税)の選択がない場合には,デフォルト・ルール(権利不行使の場合の原則形態へのみなし原則)として,パートナーシップとしての課税(構成員課税)を選択したものとみなされていること,ラムザイヤー意見書(甲A全123)に,パートナーシップ内の損益配分はパートナーシップ契約書に従って自動的に行われるものであり,米国の租税法上,チェック・ザ・ボックス制度が導入される以前から,パートナーシップの事業活動により発生した損益が各パートナーの損益になるという私法上の原則に従って,パートナーシップが納税主体とされていなかったと指摘されているとした上で,本件各LPSの損益は,州LPS法に基づく本件各LPS契約上,総額(グロス)ベースでパートナーに直接帰属することが予定されていると結論づけている(原判決54ないし56頁)。

連帯責任(無限責任)を負う構成員の存在などは,損益が構成員に直接
帰属することの根拠とはならないこと
原判決が指摘する上記①の点は,本件各LPSが,州LPS法や本件各
LPS契約により付与された全ての権限及び特権等を有するとされている一方,その構成員であるジェネラル・パートナーは,事業の運営・遂行に関与する平等の権利を有し,パートナーシップの債務について連帯責任(無限責任)を負うことから,その関係をもって損益が構成員に直接帰属することを支える一つの根拠としているようにも読める。
しかしながら,本件各LPSと本件各GPのように,事業体と連帯責任(無限責任)を負う構成員との関係は,我が国の旧商法における合資会社とその構成員である無限責任社員との関係にもみられるところである。そして,事業体の構成員が無限責任を負うか否かは,事業体の債権者が事業体の財産に加えて構成員固有の財産に対しても責任を追及していけるか否かという問題にとどまるのであって,そこから当然に事業体の損益が連帯責任(無限責任)を負う構成員に直接帰属すると解されるものではない。したがって,連帯責任(無限責任)を負うジェネラル・パートナーが存在するからといって,本件各LPSが損益の帰属すべき主体として設立が認められたことを否定する根拠となるわけではない。
また,原判決が指摘する上記②の点,すなわち,州LPS法の主眼は契約自由の原則及びパートナーシップ契約の執行可能性に最大限の効果を与えることであるとの点も,そのことが直ちに本件各LPSが損益の帰属主体として設立が認められたことを否定する事情となるものではない。ウ
損益が構成員に割り当てられる旨の州LPS法の規定は,損益が構成員に直接帰属することを意味するものではないこと

(ア)

原判決が指摘する上記③の点は,州LPS法503条の規定と本件
各LPS契約の条項によれば,本件各LPSの損益は,自動的に各パートナーに配分されることから,各パートナーに直接帰属するものと解しているようである。
(イ)

しかしながら,そもそも,取引から生じる損益は,権利義務の帰属
主体であるところの当該取引の当事者にまず帰属するものである。そして,本件では,本件各LPSは,本件各不動産賃貸事業に係る賃貸借契約を締結し,これに基づき本件各建物を賃貸することによって,契約の相手方である賃借人から賃貸料収入を受領しており(乙A全6,39,原判決11ないし13頁),この場合,当該賃貸料収入を受領する権利を有し,同権利を行使することができる者になるのは事業体としての本件各LPS自身であるから,当該賃貸料収入(及び必要経費)は本件各LPSに帰属するというべきである。
この点は,本件各LPS契約においても,本件各LPSは,不動産の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分をする権限を有するのみならず,金員を借り入れ,負債証書を発行するなどして債務を負担するなどの権限を有するとされており(1.3条,原判決別紙5・23頁),それらの法律行為により生ずる債権及び債務が本件各LPSに帰属する固有の権利及び義務であることからして,本件各LPSがその事業により生じた損益の帰属主体となることを予定しているというべきである。
したがって,州LPS法503条及び本件各LPS契約における損益の割当てに関する条項(4.7条,4.8条,4.12条,原判決別紙5・27及び28頁)は,控訴人が主張するとおり,いずれも事業体であるリミテッド・パートナーシップに帰属した損益をパートナーに割り当てる方法を定めているものであって,当該損益が,事業体の取引相手から,リミテッド・パートナーシップを介さずに「直接」パートナーに帰属することを定めたものと解することはできないというべきなのである。
そもそも,私法上,取引から生ずる損益は,基本的に当該取引の当事者,すなわち当該取引に係る権利義務の主体となる者に帰属するのであ
って,本件各LPS契約の条項,すなわち各パートナーの合意によっても,権利義務の主体である本件各LPSに損益が法的に一旦帰属しなかったことにすることはできず,パートナーは,本件各LPSに一旦帰属した損益を契約に基づく割合と方法により分配を受けるにすぎないというべきである。本件各LPS契約における損益の割当てに関する条項は,この本件各LPSに帰属した損益の割当て(配分)を定めたものと解するほかないのである。なお,配分方法が各パートナーの合意(契約)により定められている以上,個別の具体的な配分時に機関決定がないとしても何ら不合理なものではない。その意味で損益の配分が「自動的」に行われるとしても,それは上記の合意に基づくものであり,当該損益が本件各LPSに一旦帰属することを否定する根拠にはならない。
このような解釈は,米国におけるパートナーシップ課税の専門家であるカリフォルニア大学バークレー校法科大学院教授マークP.ゲーゲン(以下「ゲーゲン教授」という。)の鑑定意見書(乙A全109の2)からも裏付けられる。すなわち,ゲーゲン教授は,「リミテッド・パートナーシップの独立した法主体の地位は米国私法の下で大きな意義を有する。独立した法主体として,リミテッド・パートナーシップは不動産の購入・販売,契約の締結,及び法的責任を負う権限を持つ。更に重要なことには,リミテッド・パートナーシップの債権者は,リミテッド・パートナーシップが負った債務の支払いについて,リミテッド・パートナーシップ及び,多くの場合は法人(コーポレーション)であるそのジェネラル・パートナーのみに注意を払えばよい。リミテッド・パートナーシップが得た所得は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。リミテッド・パートナーシップに拠出された資産及びリミテッド・パートナーシップが購入した資産は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。パー
トナーは,パートナーシップ資産の持分を譲渡する権利を持たない。」とし,リミテッド・パートナーは「普通株を保有する法人(コーポレーション)の株主と同様である」と指摘した上で,「P6(引用者注:本件LPS(C))はこれらすべての特徴を持つ。」と結論付けている(乙A全109の2・訳文4及び5頁)。
(ウ)

なお,原判決は,ラムザイヤー意見書の記載内容を指摘するが,そ
のうち,パートナーシップ内の損益配分がパートナーシップ契約に従って自動的に行われるという部分は,損益の配分方法を述べているにすぎないとみるべきであって,損益が事業体に一旦帰属した上で構成員に割り当てられることと何ら矛盾するものではない。
また,米国の租税法上,チェック・ザ・ボックス制度の導入以前から,パートナーシップの事業活動により発生した損益が各パートナーの損益となるという私法上の原則に従ってパートナーシップが納税主体とされていなかったという点についてみると,ラムザイヤー意見書の該当部分は,「米国の租税法上,パートナーシップ(又はリミテッド・パートナーシップ)は,納税主体ではありません。むしろ,パートナーシップの事業活動により発生した損益は,各パートナーの損益となります。パートナーシップが所得に対して納税することは全くなく,各パートナーが納税するということです。」と述べ,これに続けて,「私法上,パートナーシップの損益がパートナーシップ契約書に従ってパートナーに配分されるということは明らかです。そして,米国租税法は,この私法上の原則に従っているわけです。このような理由で,パートナーシップではなくパートナーが納税主体とされているのです。」と記載されている(甲A全123・訳文2及び3頁)。
上記記載の前半部分は,米国における構成員課税の課税関係を述べているものにすぎない。米国における課税関係が日本での課税関係まで拘
束する根拠にならないことは後記エのとおりであるが,チェック・ザ・ボックス制度の下で構成員課税を選択できるからといって,当然に私法上も損益が各パートナーに直接帰属するということはできない。
上記記載の後半部分については,リミテッド・パートナーシップの事業により生じた損益がパートナーシップを介さず各パートナーに直接帰属することが,チェック・ザ・ボックス制度の導入以前からの私法上の原則であるとされていたというのであれば,何らその根拠が示されておらず,説得力に欠けるというべきである。原判決は,チェック・ザ・ボックス制度において,選択がない場合は構成員課税を選択したものとみなされることも併せ指摘しているが,課税関係を定める同制度において,選択がない場合は構成員課税とするという意味で構成員課税の方が原則的形態とされているとしても,このことをもって,損益が構成員に直接帰属することが私法上の原則であると認める根拠とするのは論理に飛躍があるといわざるを得ない。
この点につき,米国の租税法の一般的なケース・ブックであるPaulR.McDaniel,MartinJ.McMahon,Jr.,DanielL.Simmons,“FEDERALINCOMETAXATIONOFBUSINESSORGANIZATIONS”ThirdEdition(1999)(乙A全104)では,チェック・ザ・ボックス制度が採用される前の状況について,「LLC,リミテッド・パートナーシップのいずれもがコーポレーションと共通する多くの特徴を有する。事業組織のこれらの形態がコーポレーションに類似していることは,これらの事業組織がパートナーシップとして課税されるべきか,あるいはコーポレーションとして課税されるべきかという問題を生じさせた。内国歳入法は,コーポレーション税が州法の下での「コーポレーション」という組織のみならず,セクション7701条(a)(3)に定義されたアソシエーションという組織にも適用されると規定しているが,「アソシエーション」
という制定法上の定義は特に役立つというわけではない。したがって,裁判所や内国歳入庁は,長年にわたり訴訟や行政活動を通して,アソシエーションという定義に取り組むことを強いられたのである。」(乙A全104・訳文1頁)と記載されている。
上記記載によると,リミテッド・パートナーシップが法人として課税されるか否かが大きな法律上の問題点であったというのであるから,損益が各パートナーに直接帰属することが私法上の原則であったとは考えられず,ラムザイヤー意見書の記載は根拠のないものというべきである。また,ゲーゲン教授も,「1997年に現在のチェック・ザ・ボックス制度が導入される以前は,あるエンティティが米国租税法の下でcorporationとして扱われるべきかどうか,数多くの議論があり,1997年のチェック・ザ・ボックス制度が導入される以前につくられたリミテッド・パートナーシップにおいては,米国の租税法上でcorporationとして扱われたケースがあった。したがって,チェック・ザ・ボックス制度が導入される以前は,連邦租税法上,リミテッド・パートナーシップが常にpartnershipとして各パートナーが納税義務者となるものと取り扱われていたわけではなく,corporationとしていわゆる権利義務の主体と認定され,納税義務者として扱われていたことも事実である。多くの教科書がこの説明を記述している。我々のこの理解は正しいか。」(乙A全109の1・訳文3枚目4(1))という質問事項に対して,「1997年より前の米国連邦税法に関するあなたの理解は正しい。1997年より前は,特定の公的及び法的な観点から,法人またはパートナーシップに近似していると見なされるかにより,リミテッド・パートナーシップはパートナーシップあるいは法人(コーポレーション)(法的には法人と同等に団体課税)として課税されていた。」(乙A全109の2・訳文6頁),「実際に,1997年より前は,納税者にとって,パートナー
シップの区分の認定の為に法的意見を得ることは一般的であった。」(同訳文8頁)と述べている。
さらに,東京国税局長において,デラウェア州のリミテッド・パートナーシップに係る取引損益の帰属について,P7弁護士事務所に鑑定(調査)を依頼したところ,デラウェア州のリミテッド・パートナーシップは,自己の名によって契約を締結し,自己の名によって資産を取得して所有する権限を有する構成員とは別個独立の法主体であることから,LPSの所得は当該LPSの資産であり,州LPS法上,LPSの所得がパートナーに帰属する旨の規定は存在しないという回答を得た(乙A全110)。
これらによっても,チェック・ザ・ボックス制度の導入以前は,リミテッド・パートナーシップが法人として課税されるか否かが大きな法律上の問題点であったというのであるから,損益が各パートナーに直接帰属することが私法上の原則であったとは考えられず,ラムザイヤー意見書の記載は根拠のないものというべきである。
(エ)

したがって,損益の割当てに関する州LPS法の規定及び本件各LP
S契約の条項の存在から,本件各LPSが損益の最初の帰属主体にならないとはいえず,本件各LPSが損益の帰属すべき主体として設立されたとは認められないともいえない。

米国における課税関係から損益が各パートナーに直接帰属するとはいえ
ないこと
原判決が摘示するように,本件各LPSの米国租税法上の取扱いは,チェック・ザ・ボックス制度により,事業体課税を受けるか構成員課税を受けるかを選択することができるところ,本件各LPSは,明示的な選択を行っていないため,構成員課税を選択したものとみなされている(原判決18及び19頁)。

しかし,本件各LPSの営む事業から生じた損益が米国の租税法上どのように取り扱われるかによって,私法上の損益の帰属先や我が国の所得税法上の取扱いが直接影響されることはない。
米国においては,チェック・ザ・ボックス制度の導入以前は,法人課税の対象となる事業体に該当するか否かを,キントナー規則と呼ばれる6つの基準に基づき個々の事業体ごとに判断するという取扱いが行われていたが,その認定が極めて煩雑かつ複雑であったため,結局,法人としての課税を受けるか否かを事業体自体の選択に委ねることとしたものである(甲A全31・水野忠恒「租税法〔第3版〕」313及び314頁参照。同「租税法〔第5版〕」336及び337頁も同旨)。これによれば,チェック・ザ・ボックス制度の導入以前は,米国においても個々の事業体の私法上の性質が課税上の判断に影響を与えていたとみられるが,同制度の採用により,米国租税法上は,個々の事業体が法人課税の対象となる事業体に該当するか否かを判断する必要がなくなったため,その対象となる事業体における取引損益の私法上の帰属を問題とする実益や必要性はなくなったと考えられる。しかし,依然として取引損益が一旦は事業体に直接帰属するか否かという問題は法理論の問題として存在しているのであり,ある事業体に係る損益につき構成員課税が選択されているからといって,私法上の損益の最初の帰属先がどこになるのかの判断が左右されるものではない。取引により生じた損益が,最初に当該事業体に帰属するのか,直接構成員に帰属するのかは,当該取引により発生する権利義務が誰に帰属するかによって決せられるのである。
したがって,本件各LPSの取引損益に係る米国租税法上の取扱いが構成員課税であり,本件各LPS契約にそのことを前提とする規定があるとしても,本件各LPSの損益が直接パートナーに帰属することを意味するものではない。


損益の帰属先は我が国の法令に基づき判断されるべきであること
原判決は,「州LPS法に準拠して組成されたLPSは,実質的に見て
も,パートナー間の契約関係を本質として,その事業の損益をパートナーに直接帰属させることを目的とするもの」と解されるとも判示する(原判決56頁)。
しかし,ある外国の事業体の組成の準拠法である当該外国の法令において,当該事業体が,我が国の私法上の法人と同様に権利義務の帰属主体となるにもかかわらず,契約等により損益の帰属主体とならないことが認められているとしても,それは,あくまで当該外国における租税法上の取扱いにすぎないものであり,そのような取扱いの差異によって,我が国における私法上の損益の帰属先の判断やそれに基づく課税上の取扱いが影響を受けると解するのは相当ではない。損益の帰属先について我が国における課税上の取扱いを定める場面では,我が国の法令の解釈に基づき判断されるべきである。
特に,本件各LPS契約は,建物の賃貸により利益を得ることを目的とするものではなく,建物の減価償却費等の必要経費を損失として計上して損益通算をすることにより租税負担の軽減を図ることのみを目的とする租税回避スキームであることに照らせば,租税回避のために,我が国において認められていない権利義務の帰属主体と損益の帰属主体とを分離させる契約をしているというほかない。そのような契約によって生じた仕組みを前提とする米国における租税法上の取扱いによって,我が国における所得税法上の取扱いが影響を受けると解する合理性は何ら認められない。カ
アレン教授の意見も損益が各パートナーに直接帰属するという趣旨を述
べているものとは解されないこと
(ア)

被控訴人らは,前記アレン教授作成の意見書(甲A全124)によ
れば,本件各LPS契約4.5条は,本件各LPSの事業により生じた
損益が,パートナーシップ財産のエクイティ上の所有者であるリミテッド・パートナーに直接帰属することを確認する規定である旨主張する。(イ)

しかしながら,既に述べたとおり,上記意見書のいう「エクイティ
上の所有者」は,本件各LPSの個別の財産に対して特定の持分を有するとか,合有的な共同所有者となることを意味するものとは解されない。また,上記意見書も,本件各LPS契約4.5条は,各パートナーはリミテッド・パートナーシップの特定財産に対していかなる持分も所有しない旨の州LPS法701条の規定と矛盾するものではないとした上で,パートナーシップの損益については,パートナーシップの持分に従ってその配分を要求する権利をリミテッド・パートナーに与える規定であるなどと述べている(甲A全124・訳文3頁27行目ないし4頁3行目参照)。そうすると,アレン教授の意見も,本件各LPS契約4.5条が,リミテッド・パートナーに本件各LPSの損益が直接帰属するという趣旨を述べていると解することはできない。

まとめ
以上のとおり,本件各LPSの損益が総額(グロス)ベースでパートナ
ーに直接帰属するという原判決の判示は根拠がなく,むしろ,本件各LPSが固有の権利義務に基づき営む本件各不動産賃貸事業から生じた損益は,本件各LPSにまず帰属するものであるから,原判決基準②によっても,本件各LPSは,我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体と認められるというべきである。

第3

本件各LPSが我が国の租税法上の法人でないとしても,人格のない社団等
に該当すること
1
原判決は,租税法上の人格のない社団等については,民事実体法における権利能力のない社団と同義であるとした上で,州LPS法及び本件各LPS契約
の内容等によれば,本件各LPSは,団体として,構成員による意思決定のための内部組織を備えているとはいえず,また,団体としての組織を備えていない以上,本件各LPS契約の定めをもって,その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているということもできないから,人格のない社団に該当しないと判示する(原判決58ないし60頁)。
2
しかしながら,人格のない社団(権利能力のない社団)に該当するための要件は,原判決も判示するとおり,①団体としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,④その組織により,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることである(昭和39年最判)。
これを本件各LPSについてみると,①本件各GPとリミテッド・パートナ
ーからなる事業体であって構成員は特定されており,本件各LPS契約によれば,本件各LPSの管理及び運営に関する独占的権限は本件各GPに付与され(2.1条),これに基づき本件各GPが事業体としての意思決定を行い,本件各LPSを代表して法律行為を行っており,リミテッド・パートナーには本件各GPを解任する権限が認められている(2.6条)のであって,団体としての組織を備えていると認められる。また,②上記のとおり,本件各LPSの事業体としての意思決定は,管理及び運営に関する独占的権限を有する本件各GPに委ねられているが,これは本件各LPS契約における構成員の合意によるものであり,本件各LPS契約によれば,本件各GPは,パートナーシップ持分の80パーセントを超える持分を有するリミテッド・パートナーの賛成により解任される(2.6条)のであるから,多数決の原則が行われている。さらに,③本件各LPS契約においては,ゼネラル・パートナーの解任(2.6条),リミテッド・パートナーの脱退(6.1条),リミテッド・パートナーシップ持分の譲渡(7.2条)についての規定があり,構成員の変更にもかか
わらず団体そのものは存続する。そして,④上記①及び②のとおり,本件各LPSの構成員全員の合意により,本件各GPが本件各LPSを代表して業務執行を行っており,その解任についての規定も存在すること,本件各LPSは,本件各建物を所有するなど構成員の個人財産と区別された独自の財産を有し,本件各GPが当該財産の管理を行っていること,本件各LPS契約において,費用の支払(3.1条ないし3.4条),資本の利用(4.4条),損益の割当て及び分配(4.6条ないし4.8条),パートナーシップの終了及び清算(8条),会計及びパートナーへの報告(9条)について定められており,これらを含む本件各LPS契約の内容は,ジェネラル・パートナー及びリミテッド・パートナーの持分の過半数の同意で修正することができる(10.2条)とされていることなどからして,代表の方法や財産の管理等団体としての主要な点も確定しているということができる。
なお,昭和39年最判及びその後の判例等を検討すると,上記の4要件は,すべて独立して厳格に満たされることが要求されるものではなく,むしろ社団性認定のための指標であり,各要件相互の関係で柔軟に解釈され得るものと解される。上記の諸要素を総合すると,本件各LPSは構成員と独立した団体としての実質を有しており,人格のない社団の4要件を満たすと認めるに十分である。
3
したがって,本件各LPSは,仮に租税法上の法人に該当しないとしても,租税法上の人格のない社団に該当するというべきである。そうすると,人格のない社団は法人とみなされ(法人税法3条),租税法上は法人と同様に独立した損益の帰属主体となるから,本件各不動産賃貸事業に係る収益及び費用は本件各LPSに帰属することとなるので,本件各損失は,被控訴人ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失に当たらず,他の所得との間で損益通算することはできない。

別紙3

第1

被控訴人らの当審における補充主張

主位的請求を却下し予備的請求を適法とした原判決の判断が違法とする控訴
人の主張に対する指摘等
1
控訴人の主張の概要
控訴人は,(1)通知処分と増額更正は,あくまで別個独立の処分であり,処
分理由も異なるものであるから,実体法上当然に一方が他方に吸収されるものではないこと,(2)通則法90条及び104条が,通知処分と増額更正がいずれも不服申立ての対象となることを前提として,併合審理等に関する規定を設けていることからも,取消訴訟提起の前段階では,通知処分と増額更正は併存することは明らかであること,(3)両処分が双方とも適法な不服申立てを経た上で取消訴訟が提起された場合に初めて,審判の矛盾・抵触を避けるため,訴訟上通知処分が増額更正に吸収されると主張する。
その上で,控訴人は,(4)本件訴訟においては,被控訴人P114年分更正処分等につき適法に取消訴訟が提起されていないのであるから,被控訴人P114年分通知処分は被控訴人P114年分更正処分等に吸収されず,なお別個独立した処分として存在し,取消訴訟の対象となると主張する。2
控訴人の主張は,いずれにせよ被控訴人P1の訴えを認容すべきという内容
であること
通知処分と増額更正が行われた場合に,納税者が先行する通知処分だけを争って通知処分が取り消された場合,「通知処分を取り消す旨の判決が確定すれば,税務署長は,後の増額更正の有無にかかわらず,判決に従って総額的に正しい税額の確定行為としての減額更正を行うこととな」ることは,裁判例も認めるところである(乙Aロ3・14頁)。控訴人も,平成21年5月12日付け意見書で「通知処分を取り消す旨の判決が確定すると,それは申請を棄却した処分を取り消したものであるから,税務署長は,取消判決の拘束力により,
その判決の理由中の判断に従って総額的に正しい税額の確定行為として減額更正を行うべきことになり(行政事件訴訟法33条2項),総額的に正しい税額の確定を認める権利の侵害は回復されることになるので,ここに通知処分の取消を求める訴えの利益が認められる。」としてこの見解に賛同している。したがって,上記1の控訴人の主張は,平成21年5月12日付け意見書と併せて理解すれば,要するに,「納税者は先行する通知処分だけを争ってもよいし,通知処分及び更正処分の両方を争ってもよい」という内容である。これを本件訴訟にあてはめれば,本案が認められる場合は,予備的請求が適法であり訴訟係属が認められるのであれば予備的請求を,予備的請求が不適法であり訴訟係属が認められないのであれば主位的請求を認容するべきであるというものであり,いずれにせよ,被控訴人P1の訴えを認容すべきという内容である。被控訴人P1としても,主位的請求が認容されれば目的が達せられるので,予備的請求が適法であるか否かという点を除き,控訴人の上記主張内容及び結論を積極的に争うものではない。
3
控訴人の主張は根拠に乏しいこと
上記2で述べたとおり,被控訴人P1としても,予備的請求が適法であるか
否かという点を除き,控訴人の上記主張内容及び結論を積極的に争うものではない。もっとも,控訴人の上記1の(1)ないし(4)の主張は根拠に乏しいことは一応指摘しておく。
まず,(1)及び(3)の,取消訴訟提起の前段階では,実体法上通知処分と増額更正は併存するが,取消訴訟が提起されると通知処分が訴訟上増額更正に吸収されるという主張は,実体法と訴訟法を混同した主張であり,技巧的に過ぎると思われる。端的に,取消訴訟提起の前後を問わず,通知処分と増額更正は併存すると解する方が一貫していると思われる。
また,控訴人が(2)の根拠として引用する通則法90条は,関連する複数の処分が存在する場合に,ある処分が審査請求段階に,ある処分が異議段階にあ
ると相互に矛盾した判断が生じるため,異議段階にある処分を審査請求があったものとみなすという規定にすぎず,実体法上通知処分と増額更正が併存するか否かについて直接の結論を与えるものではない。仮に実体法上通知処分が増額更正に吸収されるのであれば,そもそも同条の適用の余地はないからである。同様に,控訴人が引用する同法104条も,異議審理庁又は国税不服審判所長が複数の不服申立てを併合審理「できる」という一般論を定めたものにすぎず,やはり通知処分と増額更正が併存するか否かについて直接の結論を与えるものではない。

第2
1
通則法第115条1項3号の「正当な理由」があること
控訴人の主張の概要
原判決は,(1)被控訴人P1は,当初から一貫して,本件不動産賃貸事業
(P)から生じる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,被控訴人P114年分更正処分等につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由で,その訴えを不適法なものとすることは,被控訴人P1に酷に過ぎること,(2)予備的請求に係る訴えを適法なものと扱うことによって,司法審査に先立ち課税庁に処分の適否につき見直しの機会を与え,紛争の自主的な解決を図り,大量的かつ回帰的にされる課税処分について訴訟の氾濫を防ぐ等の不服申立て前置の趣旨を損なうおそれはないと判断した(原判決31頁)。
控訴人は,(1)の判示については,被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等が3日間の短い間隔で相次いで出されており,一方のみ不服申立てをすることに比べて特に負担が大きくなるとは思われず,被控訴人P1において被控訴人P114年分更正処分等に対し不服申立てを妨げるような客観的事情の存在は何らうかがわれず,それにもかかわらず訴えを
不適法なものとすることが酷というのは,不服申立て前置の意義を軽視している,(2)の判示については,被控訴人P114年分更正処分等の理由及び内容と被控訴人P114年分通知処分の理由及び内容は異なるのであるから,紛争の自主的な解決を図り訴訟の氾濫を防ぐという不服申立て前置主義の趣旨に照らして,それぞれの処分について不服申立て手続を執ることが要請されていたと主張する。
2
控訴人の主張は抽象論を展開するのみであること
しかしながら,以下のとおり,控訴人は「正当な理由」という,まさに個
別・具体的な事実関係の積み重ねが問題となる争点につき,抽象論を展開するのみであり,被控訴人P1が原審から主張する事実関係や,原判決が詳細に認定した事実関係に何ら反論できていない。
被控訴人P114年分通知処分は平成17年2月25日金曜日に,被控訴人P114年分更正処分等は開庁日としては翌日にあたる平成17年2月28日月曜日になされている。すなわち,被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等は,刈谷税務署の連続する開庁日という極めて近接した日に相次いでなされたものである。
また,被控訴人P114年分通知処分は,被控訴人P1が本件LPS(P)を通じてした米国不動産事業から生じた損失(以下「本件米国不動産事業損失」という。)について,刈谷税務署長が所得税法上の損益通算を認めず,被控訴人P1がした更正の請求に理由がない旨を判断したものである。次に被控訴人P114年分更正処分等は,同じく本件米国不動産事業損失(及び被控訴人P1がこれとはまったく無関係に行っていた船舶リース事業で発生した損失)について,刈谷税務署長が所得税法上の損益通算を認めず,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたものである。すなわち,被控訴人P1の本件米国不動産事業損失について所得税法上の損益通算を認めない,との理由は,被控訴人P114年分通知処分及び被控訴人P114年分更正処分等に
共通している。
したがって,被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等とは,一つの判断に基づいた実質的に一つの処分であると評価できる。そのため,被控訴人P114年分通知処分を争うことは被控訴人P114年分更正処分等をも争うということに等しいというべきである。被控訴人P1は,当初から一貫して,本件不動産賃貸事業(P)から生じる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたという原判決の認定は,極めて正確に事実関係を捉えているといえる。
これに対して控訴人は,被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等は,3日間の短い間隔で相次いでされていて,双方に不服申し立てをすることが,一方にのみ不服申し立てをすることに比べて特に負担が大きくなるとは思われないなどと主張する。しかし,一方で控訴人は被控訴人P114年分更正処分等の理由及び内容と被控訴人P114年分通知処分の理由及び内容は異なると主張しており,むしろ短期間に二つの処分理由及び内容が異なる処分を争う必要があるのであれば,被控訴人P1にとって負担が相当に重かったという帰結になるはずであり,特に負担が大きくなるとは思われないという主張には説得力がない。
また,控訴人は,他に不服申立てを妨げるような客観的事情の存在はうかがわれないなどと論難するが,具体的な事情は一切挙げておらず,その内容は,抽象論でしかない。一つの判断に基づいた実質的に一つの処分を二つの不服申立てで争わなければならないと判断すること自体納税者には極めて困難である。また,上記第1の2で述べたとおり,控訴人は,「納税者は先行する通知処分だけを争ってもよいし,通知処分及び更正処分の両方を争ってもよい」という解釈を採用しているのであるから,当の控訴人自体が二つの不服申立てで争わなければならないなどとは考えていないのであり,にもかかわらず納税者には
二つの不服申立てで争うべきであった(それをしなかったことは法の不知にすぎない)などと求めることは異常というほかない。
3
被控訴人P1に「正当な理由」を認めても不服申立て前置の趣旨に反するも
のではないこと
また,控訴人は,紛争の自主的な解決を図り訴訟の氾濫を防ぐという不服申立て前置主義の趣旨に照らして,それぞれの処分について不服申立て手続を執ることが要請されていたなどと述べるが,その主張は要するに被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等は異なる行政処分であるという一般論を述べているに過ぎず,その内容は,抽象論でしかない。国税通則法が「正当な理由」という例外を認めているのは,まさに個別・具体的な事実関係を考慮することを求めているのであって,控訴人の反論は,事実関係を争うものでない以上,そもそも反論になっていない。
本件の事実関係として,国税不服審判所は,被控訴人P114年分通知処分に係る審査請求事件において,被控訴人P114年分更正処分等を併せ審理の上,被控訴人P1の審査請求を棄却している(国税不服審判所平成19年1月22日裁決・被控訴人P1に係る甲ロ3の1)。また,被控訴人P1と同じく本件LPS(P)を通じてした米国不動産事業から生じた損失や,これと同種の本件LPS(C)を通じてした米国不動産事業から生じた損失について,損益通算を認めない処分(更正処分又は更正の請求に理由がない旨の通知処分),これに対する審査請求を棄却する裁決が,多数,しかも各年分について出ている。さらに,控訴人は,控訴審に至ってもなお,結局被控訴人P114年分更正処分等に対する刈谷税務署長や国税不服審判所長の判断が変更される余地があったのか,即ち異議申立や審査請求によって具体的に結論の変更の余地があったのかという最も根本的な問題については一切反論していない。むしろ,そのような余地がなかったことは暗に認めているというべきである。かかる結果に鑑みれば,本件米国不動産事業損失について所得税法上の損益
通算を認めないことにつき,刈谷税務署長や国税不服審判所長の判断が変更される余地は,結局はまったくなかったと言える。このような事実関係のもとで,紛争の自主的な解決を図り訴訟の氾濫を防ぐという不服申立て前置主義の趣旨などいう主張をしても,もはや詭弁でしかない。
4
被控訴人P1は制度の欠陥によって困難を強いられており,そのことがまさ
に「正当な理由」を基礎付ける個別事情であること
そもそも,明確な条文がなく,条文の解釈も判例上定まっておらず,取消訴訟を提起して判決が確定するまで,納税者にとっていかなる争訟を行うべきかが分からないという状況が発生すること自体,制度の欠陥が存在することを示していることは明らかである。当然のことながら,後記第3の2で述べるとおり,これは教示制度が適切に機能していないことも意味する。
原判決が,被控訴人P1が,当初から一貫して,本件不動産賃貸事業(P)から生じる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,被控訴人P114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由で,その訴えを不適法なものとすることは,被控訴人P1に酷に過ぎると判断したことは,まさにこの制度の欠陥を直視し,争う意思を明示した納税者をその欠陥を理由にして犠牲にすることは許されないと考えたからにほかならない。
この点からも,被控訴人P1に「正当な理由」があることは明らかである。
第3

行政事件訴訟法14条1項及び2項の各ただし書の「正当な理由」があるこ
と1
原判決の判示と控訴人の主張の概要
原判決は,通則法115条1項3号の「正当な理由」が認められる上記第2
の1で述べた事実関係の下においては,被控訴人P114年分更正処分等の
取消を求める訴えは,被控訴人P114年分通知処分の取消を求める訴えが提起された時から既に提起されていたものと同視するのが相当であると判示した(原判決32頁)。
控訴人は,原判決について,ほとんど意味のある反論をしていないが,(1)通知処分と更正処分は別個の処分であるから出訴期間も別個に進行すると解するべきである,(2)各処分ごとに不服申立手続に関する教示がされていたので納税者の不利益はないと主張する。
2
控訴人は「正当な理由」という,まさに個別・具体的な事実関係の積み重ね
が問題となる争点につき,抽象論を展開するのみであり,被控訴人P1が原審から主張する事実関係や,原判決が詳細に認定した事実関係に何ら反論できていないこと
しかしながら,被控訴人P114年分通知処分と被控訴人P114年分更正処分等が形式的に別の行政処分であることは明らかであり,問題は後者に前者が吸収されるか否かであって,原判決が吸収されると解している以上,それが元々別の行政処分であるなどと言っても,あまりに空虚である。被控訴人P114年分通知処分を争う意思を示すことは被控訴人P114年分更正処分等をも争う意思を示すことであるという被控訴人P1の主張に対し何らの反論にもなっていない。
また,控訴人は教示を行ったと主張するが,原判決(30頁)の採用した解釈のように,「被控訴人P114年分更正処分等に被控訴人P114年分通知処分が吸収されるので,被控訴人P114年分更正処分等を争う必要がある」などという教示はしていないし,また控訴人が主張する「納税者は先行する通知処分だけを争ってもよいし,通知処分及び更正処分の両方を争ってもよい」という前提の教示もしていない。
したがって,本件訴訟が確定していない現在,被控訴人P1としては,被控訴人P114年分通知処分を受けた当時から現在に至るまで,結局何が正し
い争訟の方法であるのかにつき教示を受けていないのである。
このような状況において,原判決が認定しているとおり,被控訴人P1が,当初から一貫して,本件不動産賃貸事業(P)から生じる損失は被控訴人P1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,被控訴人P114年分更正処分等につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由で,その訴えを不適法なものとすることは,被控訴人P1に酷に過ぎるのであり,行政事件訴訟法上の出訴期間についても,同様に考えるのが相当である。

別紙4

第1
1
当審における新たな主張

控訴人の主張
本件各損失は被控訴人ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失に当たらな
いこと
(1)

原判決の説示内容
原判決は,我が国の租税法においては,ある事業体が法人に該当せず,かつ,人格のない社団等にも該当しない場合には,当該事業体の行う事業活動から生じた損益について構成員課税が行われるところ,本件各LPSは,法人及び人格のない社団等のいずれにも該当しないのであるから,被控訴人ら投資家が本件各LPSを通じて行った事業活動から生じた損益については,構成員課税が行われるとした上で,本件各LPSが行った本件各不動産賃貸事業により本件各受託銀行を介して被控訴人ら投資家に直接帰属することとなった損益は,本件各建物を第三者に賃貸することによって生じたものであることから,当該損益にかかる所得は被控訴人ら投資家の不動産所得に該当すると判示した(原判決60,61頁)。

(2)

原判決の所得区分の判断は誤っていること
そもそも,我が国の所得税法は,所得をその源泉ないし性質によって10種類に区分しているところ,これは,所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って,公平負担の観点から,各種の所得について,それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め,また,それぞれの態様に応じた課税方法を定めているものである。したがって,ある所得が所得税法に規定されるいかなる所得に該当するかは,当該所得の性質や発生の態様に係る事実関係に基づき,それを所得税法が規定した各種所得の意義及び当該規定の趣旨に照らして判断すべきことになる。仮に,外国の事業体の事業活動から生じた損益について構成員課税が行われると
しても,構成員が当該事業を行っているといえるか否かは別問題であるから,当然に当該事業の内容・性質に対応して所得区分が決定されるものではない。

本件各LPSは,自ら契約当事者となって本件各建物の売買契約を締結
し,本件各建物の所有者として登録されており,構成員である各パートナーの個人財産とは区別された独自の財産として本件各建物を所有している。そして,自ら契約当事者となって,本件各土地賃貸借契約を締結して本件各土地を賃借し,本件各不動産の管理契約を締結してその管理を委託し,本件各建物の賃貸借契約を締結して本件各建物を第三者に賃貸している(原判決11ないし13頁)。
他方で,本件各LPSの構成員であるリミテッド・パートナーは,パートナーシップ持分を有するにすぎず,本件各LPSの個別の財産に対して直接の持分を有するものではない(州LPS法701条)。また,本件各LPS契約において,本件各LPSの管理及び運営については,本件各GPに独占的に権限又は権利が付与されており,リミテッド・パートナーは,本件各LPSの管理又は運営に参加してはならず,いかなる事項に関しても,本件各LPSの名前で行為する権限又は権利を有さないとされている(2.1条)。これらによれば,本件各LPSの構成員であるリミテッド・パートナーは,本件各建物の所有権を有しているとは認められず,本件各建物の貸主となり得るその余の権利・権原を有しているとも認められない。
そうすると,本件各不動産賃貸事業を営む者,すなわち,本件各建物を借主に使用収益させ,それによって対価を得ている者は,本件各LPSであり,その構成員であるリミテッド・パートナーが本件各建物を貸し付けているとはいえない。

そして,不動産所得は不動産の貸付けによる所得をいうところ(所得
税法26条1項),上記のとおり,本件各建物の所有者や本件各賃貸借契約の当事者が本件各LPSであり,リミテッド・パートナーは貸主となり得る権利・権原を有していないことなどの事実関係に照らすと,被控訴人ら投資家が本件各建物を貸し付けているという実態は認められない。したがって,被控訴人ら投資家が本件各LPSから割り当てられる利益又は損失は,不動産の貸付けによる所得,すなわち不動産を使用収益させることに対する対価としての性質を有するものとはいえず,不動産所得に当たらないのである。
本件各LPSにおいては,本件各不動産賃貸事業における入居者の選定や入居条件の決定,本件各建物の売却交渉や売却先の選定など,不動産経営に関する一切の権限は本件各GPのみが有しており,リミテッド・パートナーは何ら具体的な経営には参画しておらず,そこには不動産を経営するという実態はない。そもそも,リミテッド・パートナーシップという制度そのものが,パススルーにより米国国内における法人段階の課税を排除し,持分の流動性を高めるとともに,出資金額を責任限度として利益の配当を受けることができるようにして,投資家から事業資金を集め易くしたものであって,この場合には,言わば小口の株式投資と同様の機能を営んでおり,リミテッド・パートナー自身が事業を営んでいる実態はない。このような観点からしても,事業体から利益の配分を受けた場合は,投資に対する配当とみるのが相当である。

本件各損失に任意組合の課税関係を適用することはできないこと
(ア)

原判決は,被控訴人ら投資家が本件各LPSを通じて行った事業活
動から生じた損益について構成員課税が行われることから,任意組合等と同様の課税関係を適用し,本件各LPSの営む事業(本件各不動産賃貸事業)の性質に対応して,当該損益に係る所得が被控訴人ら投資家の不動産所得に該当すると判断したものと考えられる。

しかしながら,我が国の任意組合,投資事業有限責任組合,有限責任事業組合といった,民法上の任意組合を原型とする事業体は,「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約する」契約により成立し(民法667条),その事業用財産や事業上の成果として取得した財産は組合員の共有(合有)であり(民法668条),事業体の債務は組合員各自の債務となる。このように,民法上の任意組合を原型とする事業体は,事業体の財産の共同所有性及び各構成員の共同事業性という特質を有することから,これらの事業体の構成員課税における所得区分は,事業体の営む事業の内容・性質に対応するものとなる。
そうすると,我が国に存在しない性質を有する外国の事業体の構成員の課税関係は,当該所得の性質や発生の態様に係る事実関係に基づき判断すべきところ,当該事業体について上記の任意組合等と同様の取扱いを行うことができるか否かを判断する際は,財産の共同所有性及び各構成員の共同事業性を有するか否かが重要な要素になると解すべきである。仮に当該事業体が我が国の租税法上の法人及び人格のない社団等のいずれにも該当せず,独立の納税義務者に該当しないとしても,直ちに我が国の任意組合や投資事業有限責任組合と同様に取り扱われるということにはならない。原判決は,本件各LPSが我が国の任意組合等と同様の法的性質を有するか否かを検討することなく,構成員課税であることから直ちに任意組合等と同様の課税関係が当てはまると判断したのであれば,この点の判断は誤っている。
(イ)

このことは,匿名組合については任意組合と異なる取扱いがされて
いることからも裏付けられる。
すなわち,我が国において,出資者から事業資金を集め,事業から生じた利益を分配する契約を結んでいる場合に,その契約が民法上の組合契約か商法上の匿名組合契約かが問題となることがあるが,このような
契約において,財産の共同所有性や共同事業性を欠く場合には,民法上の組合契約ではなく,商法上の匿名組合契約が成立していると認められる(名古屋地裁昭和60年3月25日判決・税務訴訟資料144号741頁〔その控訴審である名古屋高裁昭和61年7月16日判決・税務訴訟資料153号119頁,その上告審である最高裁昭和63年10月13日第一小法廷判決・税務訴訟資料166号131頁で維持〕,東京地裁平成19年6月22日判決・訟務月報54巻9号2130頁〔その控訴審である東京高裁平成19年10月30日判決・訟務月報54巻9号2120頁で維持〕参照)。
そして,こうした匿名組合契約に基づき匿名組合員に分配される損益は,匿名組合員が営業者の事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど当該事業を共同経営していると認められるような場合を除けば,出資・投資の対価という側面が強く,その所得区分は雑所得であると解される(前掲東京地裁平成19年6月22日判決,所得税基本通達36・37共-21参照)。
これを本件各LPSについて見ると,リミテッド・パートナーは本件各LPSの特有財産である本件各建物に持分を有していない上,本件各不動産賃貸事業における一切の権限は本件各GPのみが有しており,リミテッド・パートナーは,不動産賃貸事業の経営に何ら参画しておらず,本件各GPとともに不動産賃貸事業を営んでいるという実態はないのであるから,リミテッド・パートナーが本件各LPSから割り当てられる利益又は損失は,匿名組合契約に基づいて匿名組合員に分配される損益と同様に,出資・投資の対価の性質を有するというべきである。
したがって,この点からも,被控訴人ら投資家が本件各LPSから割り当てられる損益に係る所得は不動産所得に該当せず,雑所得に該当するというべきである。


被控訴人ら投資家が本件各建物を所有する実態がないことは本件オプシ
ョン契約からも明らかであること
(ア)

被控訴人ら投資家に所有者として本件各建物を第三者に貸し付けて
いるという実態がなかったことは,以下に述べるとおり,本件LPS(C)に投資していた者のうちの相当数が,本件各LPS契約の契約期間中に投資対象建物のキャピタルゲインを事実上放棄する契約を締結していることからも明らかである。
被控訴人ら投資家のほか,本件と同種事案である大阪高等裁判所平成○年(行コ)第○号事件の控訴人ら及び東京高等裁判所平成○年(行コ)第○号事件の被控訴人ら(いずれも各原審における原告であり,原審において訴えを取り下げた1名を含む。)の中で,本件LPS(C)に投資していた15名のうち少なくとも9名は,平成17年6月30日に,本件GP(C)との間で,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーである受託銀行において,本件GP(C)に対し,本件GP(C)の希望する時点で,本件建物(C)の価格上昇にかかわりなく,P8銀行に開設されたエスクロー口座に振り込んだ金額と同額である1口当たり20万ドルで各パートナーシップ持分の全てを売却するという内容の契約(本件オプション契約)を締結していた(乙A全2,乙A全74別紙4,乙A全111)。
そして,上記9名は,平成19年2月5日に,本件GP(C)に本件オプション契約に基づきパートナーシップ持分を取得する権利を行使されたことで,1口当たり20万ドルの支払を受けたのみで各パートナーシップ持分を本件GP(C)に譲渡し,本件LPS契約(C)から脱退したものと認められる(乙A全74別紙2ないし4)。
(イ)

被控訴人らの主張によれば,本件建物(C)は,平成19年2月2
1日に取得時価格の約2.48倍に相当する9600万ドルで第三者に
売却されているところ,これを「投資効果シュミレーション(C)」に当てはめると,1口2000万円の投資に対する最終分配金は100万8385ドル(1ドル100円換算で1億0083万8500円)になっており,本件不動産投資事業(C)は,現実にキャッシュフローベースで見て投資額以上の分配金を得られる事業であったとされている。そうすると,上記9名は,本件建物(C)が売却される直前にパートナーシップ持分を譲渡し,多額の最終分配金を享受する権利を失ったことになる。
本件オプション契約が締結された平成17年6月には,本件建物
(C)は売却予定年である平成19年(乙A全16)を2年後に控えていたところ,当時,米国の不動産市況は相当の活況を呈しており(乙A全82・2及び3頁参照),本件建物(C)についても相当額の価格上昇による利益(キャピタルゲイン)が見込まれていたものといえる。それにもかかわらず,本件LPS(C)に投資していた者のうち相当数が,本件オプション契約を締結することで,当初の投資額と同額の1口当たり20万ドルと引き換えに,同契約を締結しなければ得られるであろうキャピタルゲインを事実上放棄したものであり,被控訴人らの主張によれば,現に1口当たり1億円余りの最終分配金を放棄した結果となっている。
(ウ)

一般に,不動産投資事業において,所有者としての主たる収益権能
が発揮されるのはキャピタルゲインの分配時であり,被控訴人らも,本件各不動産賃貸事業は「ヴァリューアップ型不動産投資事業」であり,建物の売却益によるキャッシュフローベースの分配金の獲得を目指して出資した旨主張している。それにもかかわらず,本件LPS(C)に投資していた者のうち相当数が,相当程度見込まれた売却益を一方的に放棄する本件オプション契約を一様に締結し,取得できることが相当な蓋
然性をもって予測できた最終分配金をあえて放棄していることからすれば,所有者として本件各建物の収益権能に関心を持っていたものとは認められない。
加えて,本件スキーム(C)は,我が国の税法上,法定耐用年数の全部を経過した中古の木造賃貸用住宅の耐用年数が簡便法によれば4年とされていることから,不動産所得の計算において短期間に減価償却費を計上できることを利用し,税務計算上,不動産所得に損失を計上させ,他の所得と損益通算させて課税所得を圧縮させることを目的としたものである。そして,本件不動産賃貸事業(C)は,平成12年12月19日に開始し,リミテッド・パートナーには,組合計算書により,我が国の税務上,平成13年から平成16年までの4年にわたり毎年18万1847ドルないし18万3532ドルの多額の減価償却費が割り当てられた(本判決別表2-2「減価償却費」欄参照)。しかるに,本件LPS(C)に投資していた者のうち相当数が,このように我が国の税法上,本件建物(C)につき多額の減価償却費を計上できる4年が経過した直後である平成17年6月に本件オプション契約を締結しているのである。この点からみても,被控訴人ら投資家は,当初から売却益による収益には関心がなく,専ら建物の減価償却費等の必要経費を損失として計上することで租税負担の軽減を図ることを目的として投資したものと考えるのが相当である。
以上のことからも,被控訴人ら投資家が本件各建物の所有権を有さず,所有者として本件各建物を第三者に対して貸し付けているという実態がなかったことは明らかである。
(エ)

これに対し,被控訴人らは,本件オプション契約は,投資環境の変
化に伴い,投資家がそれぞれの置かれた投資状況や経済状況等を判断し,投資額のみでも回収を確実にしておきたいと判断して締結したものであ
るなどと主張している。
しかし,既に述べたとおり,本件オプション契約は,本件GP(C)に対し1口20万ドルでパートナーシップ持分を買い取る権利を一方的に与えるものであり,その権利を行使するか否かは本件GP(C)の判断に委ねられており,上記金額でパートナーシップ持分が買い取られることをリミテッド・パートナーに保証するものではない。したがって,本件GP(C)は,本件建物(C)を高額で売却できることとなり,そのままリミテッド・パートナーに最終分配金を支払うよりも1口20万ドルで被控訴人ら投資家のパートナーシップ持分を買い取った方が有利であると判断すれば上記オプションを行使すればよいし,本件建物(C)を高額で売却することができず,リミテッド・パートナーに支払うこととなる最終分配金が1口当たり20万ドルを下回る見通しであれば,上記オプションを行使せずに最終分配金を支払うという判断も可能となるものであった。そうすると,投資額のみでも確実に回収するために本件オプション契約を締結した旨の被控訴人らの主張は,そもそも客観的事実に反するものである。
加えて,被控訴人らは,キャッシュフローベースの収益獲得を目指して投資したとしながら,その契約期間中に売却益を放棄する内容の本件オプション契約を締結するに至った理由について,投資環境の変化に伴い投資状況や経済状況等を判断したといった抽象的な説明しかできていない。このことからも,被控訴人ら投資家が,実際に不動産が生み出す収益に関心を持っていたものとは到底認められないというべきである。カ
まとめ
以上に述べたとおり,本件各LPSは,仮に構成員課税の対象となる事
業体であるとしても,その財産が構成員の共有とならず,当該財産に係る権利義務が構成員に帰属しない点で,民法上の任意組合を原型とする事業
体とは異なるから,その事業から生じる所得について直ちに任意組合と同様の取扱いをすることは許されず,その所得の性質は,構成員ごとに個別具体的な事実関係に照らして判断されるべきものである。そして,被控訴人ら投資家は,本件各建物について貸主となり得る権利・権原を有しておらず,本件各建物を貸し付けているという実態は認められないことからすると,本件各LPSから被控訴人ら投資家に割り当てられる損益は,出資ないし投資の対価の性質を有するものとして雑所得に該当するものであるから,本件各損失は,被控訴人ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失に該当せず,他の所得と通算することはできないものである。
そして,本件各損失が被控訴人ら投資家の雑所得の計算上生じた損失に該当するとした場合,本件各係争年分のうち,本訴において控訴人が主張する税額等に影響がある年分に係る被控訴人ら投資家の総所得金額及び税額は,本判決別表1-1-1ないし1-3-2の表中「控訴人の予備的主張額」欄記載のとおりとなる(なお,被控訴人P2の平成16年分〔別表1-1-3〕並びに被控訴人P1の平成16年分〔別表1-2-3〕及び平成17年分〔別表1-2-4〕については,更正の請求以前の確定した総所得金額及び税額が控訴人主張額を上回らない。また,本件各係争年分のうち,被控訴人P2の平成13年分及び平成17年分並びに亡P3の平成13年分,平成15年分及び平成17年分については,本訴において控訴人が主張する税額等と同額となる。)。
したがって,原判決は,少なくとも,①本判決別表1-1-1ないし1-3-2記載の各年分(ただし,被控訴人P2の平成16年分〔別表1-1-3〕並びに被控訴人P1の平成16年分〔別表1-2-3〕及び平成17年分〔別表1-2-4〕を除く。)については,上記「控訴人の予備的主張額」欄記載の各税額を下回って被控訴人らの請求を認容した範囲において取消を免れず,②上記①以外の各年分については,課税処分が結果
として適法であることになるから,被控訴人らの請求を認容した部分の全部が取消を免れない。すなわち,被控訴人P2の平成14年分(別表1-1-1)を例に挙げると,原判決は,所得税の更正処分(納付すべき税額617万5900円)のうち修正申告(納付すべき税額マイナス203万6972円)を超える部分と過少申告加算税の賦課決定処分(82万1000円)の全部を取り消したが,当該取消部分のうち,控訴人主張額(納付すべき税額615万1400円,過少申告加算税の額81万8000円)との差額部分(納付すべき税額については615万1400円を超えない部分を取り消した部分,過少申告加算税については81万8000円を超えない部分を取り消した部分)は取り消されるべきである。
2
原判決は所得金額の算定においても誤っていること
(1)

仮に本件各LPSについて構成員課税が行われ,本件各不動産賃貸事業
から生じた損益に係る所得が不動産所得に当たるとしても,原判決は,計算上の損失の金額が出資額を超えている場合にも,その損失全額について損益通算することができるという結論を導いている点において,以下に述べるとおり,誤りがあるというべきである。
(2)

必要経費の意義
不動産所得の金額は,総収入金額から必要経費を控除して計算される(所得税法26条2項)ところ,所得税法37条は,「その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」と規定している。
そして,「必要経費(necessaryexpense)とは,所得を得るために必要な
支出のことである。課税の対象となる所得の計算上,必要経費の控除を認めることは,いわば投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けることにほかならず,原資を維持しつつ拡大再生産を図るという資本主義経済の要請に添うゆえんである。そのため,いずれの国の所得税制度においても,必要経費の控除が認められており,所得税は,原則として純所得(netincome)を対象として課されている。我が国でも,不動産所得・事業所得・山林所得及び雑所得の金額の計算上,必要経費の控除が認められており,その他の所得についても,投下資本の回収にあたる部分は課税の対象から除外されている。」(金子・前掲租税法252,253頁)と説明されている。
すなわち,所得税法は,純資産増加説を採用し,すべての個人の純資産の増加をもたらすものはその担税力を増加させるものとして,包括的に所得概念を捉えていることから,純資産の減少により担税力の減殺要因となる所得を生ずるのに直接かつ通常必要とされる経費(確定的金銭の支出もしくは物の給付)を,必要経費として課税所得の計算上控除することとしたものといえる。
一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するか否かの判断基準が問題となった最高裁判所平成24年1月13日第二小法廷判決も,「所得税法は,23条ないし35条において,所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し,それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ,これらの計算方法は,個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解される。一時所得についてその所得金額の計算方法を定めた同法34条2項もまた,一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨のものであり,同項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除することとしたのは,
一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解される」として,担税力に着目して所得概念を捉え,これを前提に,「所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには,それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解するのが相当である。」と判示している。
そうすると,不動産所得に係る必要経費についても,個人の純資産を減少させ,その担税力を減殺させるものであることを前提とするものというべきである。
(3)

有限責任の構成員は無制限に必要経費を計上できるものではないこと上記の必要経費の意義に照らすと,無限責任を負う構成員と有限責任を負
う構成員が存在する事業体に生じた損益について,仮に構成員課税が行われるとした場合,各種所得の金額の計算上必要経費に計上することができる金額の範囲は,個々の構成員の責任の範囲によって異なるものと解すべきである。
すなわち,事業から生じた損失を割り当てられた構成員が,その損失を無制限に必要経費に計上することができるのは,出資額を超えて事業体の債務(負債)に対して責任を負い,そのことにより純資産が減少することとなる無限責任の構成員に限られるべきである。
これに対して,出資の額を超えて債務を負わないような有限責任の構成員の場合は,たとえ事業体全体の負債が資産を超えてマイナスになっている状態であっても,資産と負債を合わせた事業体の財産に対する当該構成員の持分に相当する価額は零が限度であってマイナスになることはなく,出資の額を超えて純資産が減少することはないのであるから,無制限に必要経費を計上することはできないというのが論理的な帰結となる。
そうすると,ある事業体が,有限責任の構成員に持分割合等に応じた損失
を割り当てたとしても,有限責任の構成員においては,出資の額を超えて債務(負債)を負うことはないことからすると,その割り当てられた損失のうち,当該構成員の投下資本(出資額)を超える部分については,当該構成員の各種所得の金額の計算上収入から控除される必要経費に該当せず,課税上考慮する必要はない。
このように,事業体が債務超過(負債が資産を超過している状態)の場合において,構成員の課税所得の計算上必要経費を無制限に計上できるか否かは,各構成員の責任の範囲によって決まるのであり,特に,有限責任の構成員については,無制限に必要経費を計上することは認められない。なお,このような考え方は,国税庁長官が発出した平成10年10月21日付け課審4-20ほかによる「中小企業等投資事業有限責任組合契約に係る税務上の取扱いについて」と題する通達(乙A全105。以下「平成10年通達」という。)において明らかにされている。同通達では,中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号)に基づく組合が,基本的には民法上の任意組合と法的性質を同じくしつつも,無限責任組合員からなる民法上の任意組合とは異なり,無限責任組合員と有限責任組合員からなる組合であることを考慮して,「当該組合の収入金額,支出金額,資産,負債等をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法」の場合(引用者注:グロスで分配される場合),有限責任組合員については,「負債については分配割合に応じた額から有限責任組合員が負担しない部分(出資の額を超えた損失分)を控除した額を計上する」とされており,有限責任組合員については出資の額を限度として負債(及びこれに対応する損失)額の計上が認められ,無制限に必要経費を計上することはできないこととされている。
(4)

本件各損失のうち必要経費に算入する金額は出資の金額を限度とすべき
であること


州LPS法303条(a)は,リミテッド・パートナーは,リミテッド・
パートナーとしての権利や権限の行使に加えて当該事業の経営管理に関与している場合を除き,リミテッド・パートナーシップの債務を弁済する義務を負うものではないと規定している(原判決40頁)。また,本件各LPS契約では,契約,不法行為その他により生じたかを問わず,本件各LPSの負債,債務及び義務は本件各LPSの単独の負債,債務及び義務であり,リミテッド・パートナーは,リミテッド・パートナーであるという理由のみで本件各LPSの負債,債務及び義務について個人的に義務を負わないとされている(1.5条,原判決別紙5・24頁)。
このように,リミテッド・パートナーである被控訴人ら投資家は,有限責任の構成員であり,出資額を超えて本件各LPSの債務(負債)について責任を負うものではなく,実際に,出資額を超えて損失を負担することはなかった。

本件各不動産賃貸事業についてP9証券が作成した資料(乙A全14な
いし16)を見ると,本件各LPSは,投資家の出資金に加えて融資により資金を調達することで(投資家においては少額の出資で)高額の建物を取得することができ(乙A全14・10ないし12頁参照),減価償却費の計算において,日本の法制度であるいわゆる簡便法(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条)を適用して,不動産賃貸事業開始当初の4年間という短期間に,必要経費に計上することにより,多額の損失額を作出し(乙A全14・8頁参照),これを他の課税所得から差し引くことによって,本来の所得税額を減少させるという租税負担減少の利益を受けることができる旨説明されている(乙A全14・5及び6頁,乙A全15・2及び3頁)。
そして,租税負担減少の利益が生ずる主たる要因は,既に述べたとおり,多額の減価償却費の計上による損失額の作出であるところ,減価償却費の
算定の基礎となる本件各建物の取得資金の約90パーセントが融資によるものである(本件建物(P)の取得価格(636万6500ドル(乙A全38))のうち融資金額(537万ドル(乙A全47))の占める割合は約84パーセント,本件建物(C)の取得価格(3863万8400ドル(乙A全5))のうち融資金額(241万4900ドル(乙A全21)と3285万ドル(乙A全22)の合計(3526万4900ドル)の占める割合は約91パーセントである。)。
ところが,リミテッド・パートナーである被控訴人ら投資家は,上記の融資について弁済義務を負うものではなく,仮に,本件各建物の価格が売却時に下落していたため,本件各LPSの資産で融資の弁済ができなくなったとしても,出資額を超えて何らかの負担をすることはなかった。そして,本件各LPSの受ける融資はリミテッド・リコース・ローン(乙A全14・9頁参照)であり,仮に建物の売却時において不動産価格が下落していたとしても,当該不動産価格をもって金融機関により清算され,当該不動産価額を超える借入金の残高について弁済義務を負うことはないとされているため,本件各LPSが価格下落による損失を負担することはなく,本件各LPSの資産で融資の弁済ができなくなるという事態は生じない構造となっており,有限責任である被控訴人ら投資家はもとより,無限責任のゼネラル・パートナーにおいても弁済責任を負うことはなかった。ウ
以上のとおり,リミテッド・パートナーは,有限責任の構成員であり,出資額を超える負債について責任を負うものでもなく,実質的に借入金元本を弁済することもなかったのであるから,本件各損失のうち,所得税法上の必要経費に算入すべき金額は,パートナーシップの出資の金額を限度とし(ただし,パートナー持分に相当する額が設立当初の出資の額から減少しているときは,当該持分に相当する金額を限度とする。),それを超える損失の額についてまでも,被控訴人ら投資家の必要経費に算入するこ
とはできないと解すべきである。
(5)

措置法41条の4の2及び27条の2の各規定の存在は,控訴人の主張する解釈と何ら矛盾するものではないこと

被控訴人らの主張
被控訴人らは,平成17年度税制改正において設けられた措置法の規定について,①措置法41条の4の2は,「構成員の有限責任性には着目せず,他方,その対象として『外国における・・類する契約』も対象とすることが明記されている」こと,これに対して,②措置法27条の2は,「有限責任事業組合の構成員の有限責任性に着目したものではあるが,反面有限責任事業組合のみを対象とし,『外国における・・類する契約』は対象とされていない」ことを挙げ,「2つの損失利用制限規定を対比したとき,構成員の有限責任性に着目した後者の規制では,『外国における・・類する契約』は明示的にその対象から除外されていたといえる。」と主張する。その上で,被控訴人らは,「このように,平成17年度税制改正においても,有限責任組合員であることを根拠として一般的に必要経費の算入を制限する制度は導入されていないのであるから,ましてや,同改正前において,控訴人の主張する租税上の効果が適法であったはずはない。控訴人の主張によると,平成17年度税制改正において措置法27条の2が,適用対象を有限責任事業組合のみに限りかつ新規に創設されたことの説明が一切つかない。」と主張する。


措置法41条の4の2について
しかしながら,措置法41条の4の2は,平成17年度税制改正に関する政府税制調査会の答申において,組合事業から生じる損失を利用した租税回避行為を防止するため適切な対応措置を講じる必要性について指摘がなされたことを受けて創設されたものであり(甲A全16・155頁),「不動産所得を生ずべき任意組合等の事業に係る個人の組合員の組合損失
をないものとみなす措置」を講じたものである(甲A全16・154頁)。租税回避行為を防止するための措置としては様々な方法が考えられるところ,措置法41条の4の2は,被控訴人らも指摘するとおり「構成員の有限責任性には着目せず」,専ら組合員の組合事業への関与の度合いに着目し,不動産所得を生ずべき任意組合等の事業に係る個人の組合員の組合損失を対象として,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,出資の額を超える部分の損失のみならず,その出資の範囲内において負担する損失も含めて,これをないものとみなす措置を定めたものである。このように,措置法41条の4の2は,有限責任の構成員についてその負担する責任(出資)の範囲を超えた部分を必要経費へ算入することは認められないという,所得税法の解釈から当然に認められる取扱いを前提としてもなお,当時顕在化していた「いわゆる航空機リースに関する任意組合の事業をはじめ,組合の事業から生ずる損失を利用して節税を図る動き」(甲A全16・154頁)を防止するためには,無限責任を負う任意組合の組合員も含め,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,当該特定組合員の出資の額を含めて損失をないものとみなす必要があるという政策的判断がされたことから設けられた規定である。したがって,同条の存在は,控訴人の主張と何ら齟齬するものではない。

措置法27条の2について
次に,措置法27条の2は,それまで我が国には存在しなかった「組合
員全員に有限責任制を付与し,経営(業務執行)への全員参加による共同事業性を確保するとともに,柔軟な損益分配を認める等の措置を講じる有限責任事業組合(いわゆる日本版LLP)制度」が創設されたことから,これに伴う「税制面の対応として」,平成17年度税制改正において,「適正な課税関係の構築の観点から,①有限責任事業組合契約法上,組合員個々が主体となって自ら事業を行う仕組みが確保されていること等を踏
まえ,組合員を納税義務者とし,組合段階では課税しないこととするとともに,②組合員全員の有限責任性を踏まえ,組合員が税務上計上できる組合損失の額を組合員の出資額の範囲内に限ることとする等の措置を講じることと」して,新たに設けられた規定である(甲A全147・137及び138頁)。
すなわち,いわゆる構成員課税とされる事業体において,有限責任の構成員と無限責任の構成員がいる場合には,有限責任の構成員が負担する責任(出資)の範囲を超えた損失は,無限責任の構成員が負担することとなるので,所得税法の解釈として,組合事業上の損失のうち出資の額を超えない部分のみが,当該有限責任組合員の所得の計算上,必要経費として認められることになる。しかし,有限責任事業組合の場合は,構成員課税を適用しつつ,組合員の全員が有限責任とされている(出資額を超える部分の損失を負担する無限責任組合員が存在しない。)ことから,組合員全員の出資を超えた損失が生じた場合における各組合員の必要経費への算入額や必要経費に算入されなかった組合損失額の翌年度以降の繰越し計算(調整出資金額の計算)などを具体的に明らかにする必要があったため,措置法27条の2がこれらの点を措置したものである。
したがって,措置法27条の2の規定も,有限責任組合員の場合は,所得税法の解釈として,出資の額を超えない部分のみが所得の計算上必要経費として認められることを当然の前提として,立法されたものであるから,上記控訴人の主張と何ら齟齬するところはない。

まとめ
以上のとおり,控訴人の主張は,措置法41条の4の2及び27条の2
の各規定と整合的に理解できるものであり,被控訴人らが主張するように「控訴人の主張によると,平成17年度税制改正が,措置法27条の2が適用対象を有限責任事業組合のみに限りかつ新規に創設されたことの説明
が一切つかない。」などということはない。したがって,上記各規定に関する被控訴人らの上記主張は失当である。
(6)

本件各LPSについて構成員課税が行われ,本件各不動産賃貸事業から
生じた損益が不動産所得に当たるとした場合の税額

必要経費として計上できる金額の計算方法
上記のとおり,本件各LPSのリミテッド・パートナーは有限責任の構成員であり,出資額を超える負債について責任を負うものでもなく,実質的に借入金元本を弁済することもなかったのであるから,本件各損失のうち,所得税法上の必要経費に算入すべき金額は,パートナーシップの出資の金額を限度とし(ただし,パートナー持分に相当する額が設立当初の出資の額から減少しているときは,当該持分に相当する金額を限度とする。),それを超える損失の額についてまでも,被控訴人ら投資家の必要経費に算入することはできないと解すべきである。
そうすると,本件各LPSの事業から生じた損失のうち,被控訴人ら投資家の各年の所得金額の計算上,必要経費に算入することができる金額は,①その年に終了する計算期間満了の時までの出資の価額の合計額と,②その前年までに本件各LPSの事業から生じた損益の合計額との合計額(いわば持分期首残高)が限度となり,持分期首残高が零を下回る場合には,既に被控訴人ら投資家の責任の上限である出資額の全額に相当する損失の割当てを受けており,仮に本件各LPSの事業から更に損失が生じたとしても,被控訴人ら投資家が当該損失を現実に負担することはないのであるから,その年に必要経費に算入できる金額はないものとなる。


被控訴人ら投資家の出資の価額
被控訴人ら投資家は,P9証券との間で各ファイナンシャル・アドバイザリー契約(乙A全第1号証,第34号証。それぞれ「本件アドバイザ
リー契約(C)」,「本件アドバイザリー契約(P)」という。)を締結するとともに,P9証券に対し,取得関連費用を含め投資金額を1口20万ドルとする本件不動産投資事業(C)又は同事業(P)への参加を申し込んだ(乙A全2,35)。
そして,被控訴人P1は本件不動産投資事業(P)に,被控訴人P2及び亡P3は本件不動産投資事業(C)にそれぞれ出資しているところ,その出資口数は,亡P3が2口で,その余は1口であった。
被控訴人ら投資家は,本件不動産投資事業(C)又は同事業(P)に投資するため,P8銀行との間で本件各信託契約を締結し,これに基づいて同銀行に開設されたエクスロー口座に[a]1口20万ドルの現金資産を拠出した。
ところで,本件各LPS契約において,リミテッド・パートナーである被控訴人ら投資家は,[b]本件LPS契約(C)においては1口当たり12万0591.67ドル,本件LPS契約(P)においては1口当たり8万7733.33ドルを,それぞれ「資本出資」として出資するものとされている(本件各LPS契約4.2条,「別紙A」)。
しかし,本件各LPSの第1期目の事業年度終了後に作成された組合決算書を見ると,リミテッド・パートナーの1口当たり出資額は,[c]本件LPS(C)については14万4839ドル(「P6第1期

組合

決算書(税務申告参考用)」(乙A全112)8枚目「P6組合員持分計算書(一口当り)」の「有限責任組合員」の「組合員拠出金」欄参照),本件LPS(P)については15万2000ドル(「P10

第1期

決算書(一口組合員税務申告用)」(乙A全52)9枚目「P10
組合

借対照表(一口当り)」の「有限責任組合員」の「組合員持分」欄参照)となっている。
上記のとおり,リミテッド・パートナーである被控訴人ら投資家が上記
エクスロー口座に拠出した1口当たり20万ドル(上記[a])のうち,各種費用を控除した金額が被控訴人ら投資家の出資として本件各LPSに拠出されたものと考えられるところ,その金額については,本件各LPS契約に規定された金額(上記[b])と第1期目の組合決算書に記載された金額(上記[c])に齟齬があるが,被控訴人ら投資家は,本件係争年分について,本件各LPSの組合決算書(本件LPS(C)につき乙A全27,28,32,33,61。本件LPS(P)につき乙A全49,50,52,113)に基づき確定申告をしている。また,金額の大きい組合決算書記載の金額(上記[c])を出資額とする方が被控訴人らに有利ともなる。
そこで,被控訴人ら投資家の必要経費として算入可能な金額を算定するに当たり,本件各LPS契約締結時における被控訴人ら投資家の出資の価額は,上記[c]の組合決算書記載の金額(本件LPS(C)については1口14万4839ドル〔邦貨に換算すると1623万6452円〕,本件LPS(P)については1口15万2000ドル〔邦貨に換算すると2016万2800円〕。邦貨への換算は,いずれも本件各LPS契約締結時における外国為替の売買相場の仲値〔乙A全114の1,2〕による。)であるものとする。
そして,本件各LPS契約において,リミテッド・パートナーである被控訴人ら投資家は,契約締結時における上記[b]の「資本出資」を除いて,本件各LPSへの追加出資をする必要はないとされている(本件各LPS契約4.3条)。実際,本件各係争年分を通じて本件各LPSの出資口数に変動はなく,被控訴人ら投資家が追加出資をした事実は認められない。

本件LPS(C)に出資した者について
既に述べたとおり,本件各LPSの事業から生じた損失のうち,被控訴人
ら投資家の各年の所得金額の計算上,必要経費に算入することができる金額は,①その年に終了する計算期間満了の時までの出資の価額の合計額と,②その前年までに本件各LPSの事業から生じた損益の合計額との合計額(以下「持分期首残高」という。)が限度となり,持分期首残高が零を下回る場合には,その年に必要経費に算入できる金額はないものとなる。
そこで,本件LPS(C)について,その組合決算書(乙A全27,28,32,33,61,112)に基づき,本件各係争年分におけるリミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高を見ると,本判決別表2-1のとおりとなる(「被控訴人らのパートナーシップ持分」の「①持分期首残高」欄)。
これによれば,本件LPS(C)に係る係争年分の1期目である平成13年分について,リミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高(すなわち平成12年12月31日現在の持分価額)は13万0558ドル(邦貨に換算すると1469万6532円)である。したがって,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーである被控訴人P2及び亡P3が本件各LPSの事業から生じた損失として割当てを受けた金額のうち,平成13年分の所得金額の計算上,必要経費に算入することができる金額は,出資1口当たり1469万6532円までとなり,これを上回る部分は損益通算の対象とすることができないこととなる。
そして,翌年の平成14年分について,リミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高は▲4万8578ドル(邦貨に換算すると▲707万5657円)とマイナスになっており,その後平成17年分まで持分期首残高がプラスに転じる年分は見られない。そうすると,被控訴人P2及び亡P3が,本件LPS(C)の事業から生じた平成14年分から平成17年分の損失として割当てを受けた金額は,同人らの所得金額の計算上,必要経費に算入することはできず,損益通算の対象とすることはできない。
具体的には,被控訴人P2び亡P3が,本件各係争年分において本件各不動産賃貸事業から生じた損失として申告した金額のうち,本判決別表4の「P11(C)」の「損益通算の対象とすることができない金額」欄記載の各金額が,損益通算することはできない金額となる。

本件LPS(P)に出資した者について
次に,本件LPS(P)について,その組合決算書(乙A全49,50,
52,113)に基づき,本件各係争年分におけるリミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高を見ると,本判決別表3-1のとおりとなる(「被控訴人らのパートナーシップ持分」の「①持分期首残高」欄)。これによれば,本件LPS(P)に係る係争年分の1期目である平成14年分について,リミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高は2016万2800円である。したがって,本件LPS(P)のリミテッド・パートナーである被控訴人P1が本件LPS(P)の事業から生じた損失として割当てを受けた金額のうち,平成14年分の所得金額の計算上,必要経費に算入することができる金額は,出資1口当たり2016万2800円までとなり,これを上回る部分は損益通算の対象とすることができないこととなる。
そして,翌年の平成15年分について,リミテッド・パートナーの出資1口当たりの持分期首残高は▲19万1480円とマイナスになっており,その後平成17年分まで持分期首残高がプラスに転じる年分は見られない。そうすると,被控訴人P1が,本件LPS(P)の事業から生じた平成15年分から平成17年分の損失として割当てを受けた金額は,同人の所得金額の計算上,必要経費に算入することはできず,損益通算の対象とすることはできない。
具体的には,被控訴人P1が,本件各係争年分において,本件各不動産賃貸事業から生じた損失として申告した金額のうち,本判決別表4の「P12
(P)」の「損益通算の対象とすることができない金額」欄記載の各金額が,損益通算することはできない金額となる。

まとめ
以上に述べたとおり,仮に本件各LPSについて構成員課税が行われ,本
件各不動産賃貸事業から生じた損益が不動産所得に当たるとしても,有限責任構成員であるリミテッド・パートナーの地位にある被控訴人らについては,割当てを受けた損失のうち出資額を超える部分を必要経費に計上することはできないから,本件各損失の全部を被控訴人らの不動産所得の計算上生じた損失として損益通算することを認めた原判決は,所得金額の算定においても誤っている。
そして,被控訴人らが割当てを受けた損失の額について,その出資額の範囲内で不動産所得の計算上必要経費に計上した場合の総所得金額及び税額は,本件LPS(C)に出資した被控訴人P2及び亡P3の平成13年分が本判決別表5-1及び5-3の表中の各「控訴人の予備的主張額」欄記載のとおりとなり,本件LPS(P)に出資した被控訴人P1の平成14年分が本判決別表5-2の表中の「控訴人の予備的主張額」欄記載のとおりとなる(なお,本件各係争年分のうち,上記以外の年分に係る金額については,損失を必要経費に計上することはできないので,本訴において控訴人が主張する税額等と同額となる。)。
したがって,原判決は,少なくとも,①本判決別表5-1ないし5-3記載の各年分について,上記「控訴人の予備的主張額」欄記載の各税額を下回って被控訴人らの請求を認容した範囲において取消を免れず,②上記以外の各年分については,本件各損失による損益通算を認めなかった課税処分が結果として適法であることになるから,被控訴人らの請求を認容した部分の全部が取消を免れない。すなわち,被控訴人P2を例に挙げると,①平成13年分(別表5-1参照)については,原判決は,所得税の更正処分(納付す
べき税額573万7700円)のうち修正申告(納付すべき税額マイナス213万4745円)を超える部分と過少申告加算税の賦課決定処分(78万7000円)の全部を取り消したが,当該取消部分のうち,控訴人主張額(納付すべき税額33万7200円,過少申告加算税の額24万7000円)との差額部分(納付すべき税額については33万7200円を超えない部分を取り消した部分,過少申告加算税については24万7000円を超えない部分を取り消した部分)は取り消されるべきであり,②平成14年分ないし平成17年分については,原判決は,課税処分を取り消した部分の全部が取り消されるべきである。

第2
1
被控訴人らの主張
被控訴人らが申告した損失は不動産所得の計算上生じた損失に当たること原判決は,「我が国の租税法においては,ある事業体が法人に該当せず,人
格のない社団等にも該当しない場合には,当該事業体の行う事業活動から生じた損益について,構成員課税が行われる」こと,「本件各LPSは,法人及び人格のない社団等のいずれにも該当しないのであるから,原告〔被控訴人〕らが本件各LPSを通じて行った事業活動から生じた損益については,構成員課税が行われること」を判示した(原判決60頁)。
加えて原判決は,「前記認定の州LPS法によれば,本件各LPSが行った本件各不動産賃貸事業により〔略〕原告〔被控訴人〕らに直接帰属することとなった損益は,本件各建物を第三者に賃貸することにより生じたもので〔略〕あるから,原告〔被控訴人〕らの〔略〕不動産所得に該当する」と判示した(原判決60頁,61頁)。
これに対し控訴人は,本件各損失は不動産所得の計算上生じた損失に該当しないこと等を主張しているが,その言わんとすることは,結局,本件各LPSから被控訴人らに割り当てられる損益は,出資・投資の対価としての性質を有
するものとして雑所得に該当する,というものである。
控訴人のかかる主張は,畢竟,かかる損益が本件各LPSに一旦帰属した後で構成員に(出資・投資の対価として)分配されるとの趣旨をいうものと解されるところ,これは,本件各LPSが行った本件各不動産賃貸事業から生じる損益が構成員である原告〔被控訴人〕らに直接帰属するとの原判決の認定(原判決60頁)に真っ向から反する前提を置いた議論というほかなく,法人該当性の判断で決着のついた損益帰属に関する議論を所得区分の議論において蒸し返すものでしかないから,その一事をもって失当というべきである。控訴人の主張が成り立たないことは,以上述べたことから既に明らかであるが,なお念のため,控訴人が,(ア)構成員課税であることから直ちに任意組合等と同様の課税関係が当てはまるものではない,(イ)本件各LPSの構成員に配賦される損益は,匿名組合契約に基づいて匿名組合員に分配される損益と同様に,出資・投資の対価たる性質を有する,(ウ)本件オプション契約の内容に照らすと被控訴人らに所有者として本件各建物を第三者に貸し付けている実態がない,等と主張しているので,控訴人の上記主張に理由がないことを順に明らかにする。
2
我が国の租税法上,構成員課税が行われる場合の課税原則は所得税法基本通
達36・37共-20にも定められている完全なパススルーと解されること控訴人は,原判決が,本件各LPSが我が国の任意組合等と同様の法的性質を有するか否かを検討することなく,構成員課税であることから直ちに任意組合等と同様の課税関係が当てはまると判断したのであれば,この点の判断は誤っていると主張する。
しかし,以下に述べるとおり,外国の事業体が法人又は人格のない社団に該当しない場合,法令に別段の定めがない限り,事業体を構成する個々の構成員に完全なパススルー課税がされるのが原則であることは,我が国租税法の明文上明らかである。そして,所得税基本通達36・37共-20(文脈により関
連する通達規定を含み,以下,「本件組合通達」という。)が定める構成員課税の場合の取扱いは,ある事業体が我が国の法人及び人格のない社団のいずれにも該当せず,当該事業体の行う事業活動から生じた損益について構成員課税が行われる場合の原則的な取扱いでもあって,我が国の法人及び人格のない社団のいずれにも該当しない本件各LPSについても,その構成員であるリミテッド・パートナーに直接帰属する損益に係る所得の区分は,本件各LPSの事業の内容・性質に直接対応して不動産所得に区分されるというべきである。(1)

外国の事業体が法人又は人格のない社団に該当しない場合,事業体を構成する個々の構成員に課税がされることは,我が国租税法の明文上明らかであること


我が国で事業体(人の集合体であり,事業を行うもの)自体に対する課税が行われることが明文上規定されているのは法人又は人格のない社団のみであり,そのどちらにも該当しない事業体が法人税の納税義務者とはなり得ないことについては誰にも異論がないはずである。そして,原判決も判示するように(原判決33頁),そもそも法人及び人格のない社団が,法人税法上納税義務者とされているのは,その事業から生じる損益の帰属主体たる実体が認められることに着目してのことである。
これに対して,法人でも人格のない社団でもないその他の事業体(その典型例が民法上の組合である。)の場合には,構成員を納税義務者として当該損益に係る所得に課税するという構成員課税がなされるが,これは損益が事業体に帰属せず,構成員に直接帰属することの当然の帰結である。換言すると,構成員課税とは,我が国の法人税法上納税義務者とされていない事業体における損益が,直接構成員に帰属することの帰結としての課税であるから,法令に別段の定めがない限り,事業体の事業活動から生じる損益に係る所得の認識時期,所得区分,所得金額の計算等については,その所得の起因となる損益(これが構成員に直接帰属している損益である。)を生
じさせた当該事業体の事業活動の内容及び性質に基づいて決定されるべきこと(つまり,完全なパススルー課税がなされるべきこと)は論理的に当然の帰結である。

法人税法にも所得税法にも,構成員課税のあり方,内容について積極的に定める明文の規定はないが,以下のとおり所得に関する租税法規全体を通観すれば,上記帰結が採用されていることを見て取ることができる。すなわち,平成17年度税制改正で創設された措置法41条の4の2の規定は,任意組合及び投資事業有限責任組合,並びに外国におけるこれらに類する事業体(同条2項1号),すなわち構成員課税が行われる場合の規律として,特定組合員のうち重要業務の執行の決定に関与等しない者や特定受益者が事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する場合において,一定の不動産所得の損失の金額については,これを生じなかったものとみなす規定であるところ,この規定は,かかる規定が存在しないとした場合には,構成.....
員について「事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する」こととされるのが所得税法上の取扱いであることを前提として立法されたものであることが明らかである。つまり,同条は,不動産事業を含む,事業体の事業活動に係る損益により生じた所得が,その内容に対応した所得分類のまま構成員に直接帰属することを前提として,事業への関与に乏しい構成員について不動産所得の金額の計算上生じた損失を他の所得の金額と通算すること(所得税法69条1項)を否定する別段の定めなのである。このような規定の存在は,所得税法自体が,事業体(任意組合に限定されない,法人課税をなし得ない事業体一般を指す。)による事業から生じた所得について構成員課税を行う場合には,所得区分等について完全なパススルー課税がなされるべきこと(つまり,構成員に不動産所得の金額の計算上損失が生じること)を示している。


この理を明確化して納税者の予測可能性を高めるために,法人にも人格の
ない社団にも該当しない事業体の典型例である任意組合に関しては,本件組合通達が定められている。本件組合通達の36・37共-19は,まさに上記の論理的な帰結を定めたものであり,本件組合通達の36・37共-20は,課税上の便宜のために,所得の認識時期,所得の金額計算について簡易な計算方法を認めるものであるが,ここでも,所得の種類については,簡易な計算方法の場合であっても任意組合自身の事業活動の性質に従うという考え方が維持されている。これら本件組合通達の内容は,まさに構成員課税が,事業体に損益が帰属するのではなく構成員に直接損益が帰属する場合の取扱いであるという理解を踏まえた,論理的に理にかなった解釈を示しているというべきである。そして,さらに重要なことは,法人税法及び所得税法上そのような解釈が論理的に導ける以上,構成員課税において,事業体の事業活動によって所得の性質を判断するというルールを変更するには,その変更が所得の認識時期に関するものであれ,所得区分に関するものであれ,所得金額の計算に関するものであれ,別段の規定,すなわち法令の規定が必要であるという点である。
平成17年度税制改正による本件各損失利用制限規定の創設は,まさにその別段の規定の創設にほかならない。
(2)

本件組合通達は,外国における任意組合に類するものの構成員の所得についてもその適用が予定されていたこと
平成17年改正前には,現行所得税基本通達36・37共-19(注)1に相当する規定はなく(甲A全15),したがって本件組合通達が外国における任意組合(民法667条により組成されるもの)に類するものの構成員の所得に適用されることについて明文の規定はなかった。
しかし,平成17年改正によって現行所得税基本通達36・37共-19(注)1が規定され(甲A全18),外国における,任意組合契約,投資事業有限責任組合契約,有限責任事業組合契約に類するものにより成立する事
業体が本件組合通達の対象であったことが改めて明らかにされた(創設や適用範囲の拡大ではない)。
また,平成17年度税制改正によって創設された措置法41条の4の2(特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例)についての立案担当者による解説においても,外国における任意組合契約,投資事業有限責任組合契約,有限責任事業組合契約に類する契約の例として,「米国における〔略〕リミテッド・パートナーシップ契約(事業の経営を担い,無限責任を負う一人以上のゼネラル・パートナーと事業の経営には参加しないで,出資の範囲内で有限責任を負う一人以上のリミテッド・パートナーから成るパートナーシップ)」が想定されている(甲A全16・156頁,157頁)。同規定自体は創設規定であるが,特例の対象となる組合契約の範囲については,新たに拡大する等の解説は一切なく,そうすると,従前の「組合」の範囲を確認した上で,これらの「組合」が特例の対象となることを明らかにしたというべきである。
以上の点を踏まえると,平成17年改正前であっても,本件組合通達は,外国における任意組合に類するものの構成員の課税の方法についてもその適用が予定されていたということができる。
(3)我が国に存在しない性質を有する外国の事業体の構成員の所得について本件組合通達と同様の取扱がなされるべきこと
これに対して控訴人は,我が国に存在しない性質を有する外国の事業体の構成員の課税関係には,直ちに我が国の任意組合や投資事業有限責任組合と同様に取り扱われるということにはならない,と主張する。
しかしながら,本質的なこととして強調されるべきは,上記(1)で述べたとおり,ある事業体が損益帰属主体としての実質を欠き,法人課税の納税義務者とされない場合には,構成員に直接損益が帰属するものとして構成員課税が採用されており,そのような構成員課税においては,本件組合通達でも
示されているように,当該事業体の事業活動の内容及び性質に基づいて構成員に直接帰属した損益に係る所得の課税関係を判断するというのが我が国の法人税法,所得税法の解釈として論理的であるという点であり,かかる理解と軌を一にする原判決の結論は正当である。したがって,法令に別段の定めがない限り,任意組合ではない構成員課税される事業体の事業活動から生じる損益に係る構成員課税の課税ルールも,結局は,本件組合通達に定められるところと同じルールによることになるのである。そして,平成17年度税制改正前には,そのような別段の規定は存在していなかったことは明らかである。
控訴人は,本件各LPSが直ちに我が国の任意組合や投資事業有限責任組合と同様に取り扱われるということにはならない,すなわち本件組合通達は適用されないと主張するが,その主張は,構成員課税がなされるべき本件各LPSにおいて,完全なパススルーによる課税がなされるべきではない理由にはならない。なぜならば,本件組合通達に定められている内容は,民法上の任意組合に固有のルールではなく,まさに法人課税の対象として納税義務者とはされない事業体の場合の構成員課税のルールとして法令が採用している原則から論理的に解釈上導かれる内容(所基36・37共-19)を原則とし,それに納税者の便宜のために簡易な方法(所基36・37共-19)を認めるという趣旨のものであって,当時の租税法令の解釈として,本件組合通達の内容と異なる構成員課税のルールを導くことは論理的にできないからである。
3
匿名組合契約の匿名組合員に対する課税関係は,本件各LPSの構成員の課税関係と全く関係がないこと
控訴人は,匿名組合契約に基づく匿名組合員の課税関係を引き合いに,リミテッド・パートナーは,不動産賃貸事業の経営に何ら参画しておらず,本件各GPとともに不動産賃貸事業を営んでいるという実態はないから,被控訴人ら
リミテッド・パートナーが本件各LPSから割り当てられる損益は,匿名組合員に分配される損益と同様,出資・投資の対価の性質を有する,と主張する。(1)

所得税基本通達36・37共-21(文脈により関連する通達規定を含み,
以下,「本件匿名組合通達」という。)の定めは,匿名組合に関する特則と理解すべきこと

しかし,本件匿名組合通達(甲A全15,18)は,匿名組合が,あく
まで匿名組合員と営業者との間の内部的な関係であって,匿名組合員と営業者とが,それぞれからは独立した存在である新たな事業体を組成してその事業を行うものではない(あくまで営業者の事業であって,匿名組合の事業ではない)ことから,この点に着目して特別な規定を置いたものにすぎない。すなわち,匿名組合は「組合」の名称こそあるが,任意組合のような事業体ではない。課税関係についても,営業者である法人又は個人に匿名組合事業の損益が直接帰属することには私法上何の疑義もなく,逆に構成員である匿名組合員にかかる損益が直接帰属することはないという点についても,私法上何の疑義もない(甲A全144・372頁)。すなわち,匿名組合の課税関係というのは,構成員課税の適用場面ではないのである。
匿名組合については,匿名組合営業者から,匿名組合員に分配する利益の額は,当該事業の必要経費の額に算入する,いわゆるペイスルー課税が採用されているが(所得税基本通達36・37共-21の2),これは,たとえば特定目的会社について配当について損金算入を認めるという手当が租税特別措置法67条の14でなされているが,特定目的会社のこの課税が構成員課税の適用場面ではないのと同じ意味で,構成員課税の適用場面ではないのである。匿名組合通達は,このように事業体課税とは異なる課税を行うという前提のもと,匿名組合契約に基づく配当(分配金)が雑所得になることを注意的に記載しただけにすぎないと解される。したがっ
て,本件各LPSが匿名組合に該当することが積極的に立証されない限り,本件各LPSから割り当てられる損益について本件匿名組合通達が定める方法により処理することはできない。

本件匿名組合通達自体,「匿名組合員が当該匿名組合契約に基づいて営
業者の営む事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合」を例外としている。これは,(任意)組合事業としての実態があるときは,そもそも事業体が構成されており,匿名組合の成立が認められないので,本件匿名組合通達の適用はないとの考え方を明らかにしたものである。
(2)

本件各LPS契約は,任意組合契約としての性質を有する契約であり,匿名組合契約とは全く異なっていること
上記(1)で述べたとおり,本件各LPS契約が民法上の任意組合契約に該当するか否かにかかわらず,本件各LPSの事業活動から生じる損益はその構成員に直接帰属するものとして構成員課税がなされるべきであり,その構成員課税は,まさに上記(1)で述べた理由により,任意組合における構成員課税のルールを定めた本件組合通達と同じ考え方でなされるべきであるが,念のためにいうと,本件各LPS契約は,民法上の任意組合契約としての性質を全て具備する契約であり,匿名組合契約とは全く異なっているから,このような実質的な観点から見ても,本件各LPSの事業活動の損益について,その構成員に対して任意組合と同様のルールで構成員課税がなされるのは当然である。

4
被控訴人らには所有者として不動産事業を営む実態があったこと
上記2及び3で述べたことからすれば,控訴人の主張にかかわらず,本件各
LPSが行った本件各不動産賃貸事業により生じた損益は被控訴人らに直接配賦され,その所得区分も,本件各LPSが行った事業の内容・性質に直接対応して不動産所得に該当する,と判示した原判決の認定・判断を修正する余地は
全く認められない。
不動産所得については,もともと業務への関与度合いに関係なく認められる特質があり,このことは既に公定解釈となっているから,被控訴人らが所有者として本件各建物を第三者に貸し付けていないとしても,不動産所得該当性を認めるには何ら支障がない。業務への関与度合いが不動産所得該当性を決定するわけではないことは,上記2(1)で述べたとおり,租税特別措置法41条の2の2が,「平成18年以後の各年」における不動産所得について,事業執行への関与度合いにより損失計上を否定していること,すなわち,それまでは事業執行への関与が乏しいことをもって不動産所得の損失計上が制限されることはなかったことを前提としていることからも根拠づけられるものである。また,そもそも,不動産所得を生じるために,不動産の所有権を有している必要があるわけでもないし,被控訴人らは共同事業を行う目的で組成された本件各LPSの財産についての受益的所有者であるから(甲A全151・ラムザイヤー教授第2意見書・脚注6(4頁,訳文4頁)),不動産所得に与る地位を有することに異論を差し挟む余地もない。
しかし,控訴人が本件各LPSにおける事業の実態を誤解していることに鑑み,念のため,被控訴人ら及び本件各LPSにおける不動産事業の実態について,以下のとおり再説する。
(1)本件各LPSが行った本件各不動産投資事業は,通常の不動産投資事業であったこと
本件不動産投資事業(C)は,キャピタルゲインの獲得を目的とするものであり,被控訴人らが同事業に参加する時点において,本件建物(C)が値上がりして売れた場合の実現利益に対して,何らの制約もなくかかる利益を享受し,逆に値下がりして売れた場合の実現損失に対しても,何らの補償なくかかる損失を負担することが約束されていたということであり,通常の不動産投資事業であったことは明らかである。本件不動産投資事業(P)も同
様である。
(2)

オプション契約の締結によって本件各不動産投資事業の性質が変容するものではないこと
本件オプションは,被控訴人らが本件不動産投資事業(C)に参加した当初から本件GP(C)に付与されていたものでも,付与が予定されていたとか企図されていたというものでもなく,本件不動産投資事業(C)に参加後の投資環境の変化に伴い,事後的に,被控訴人らの一部が本件GP(C)との間で本件GP(C)と個別かつ新規契約として本件オプション契約を締結した結果付与されたものにすぎない。一部の被控訴人らが事後的な投資環境の変化に対応する意図で本件オプション契約を締結したことによって,本件LPS契約(C)の内容が当初に遡って変更され,本件不動産投資事業(C)が通常の不動産投資であるという性質を失うことになるなどということも,契約法理上あり得ない。加えて,本件不動産投資事業(P)については,オプション契約は締結されず,オプションも付与されていない。
(3)

控訴人は本件オプション契約の内容を誤解していること
本件オプション契約の内容は,次のとおりである(乙A全111)。なお,以下の「本件LP(C)」とは,本件LPS(C)の構成員であるリミテッド・パートナーのことを指す。


本件GP(C)は,売却条件(SaleCondition),売買条件(Pledge
Condition),終了条件(TerminationCondition)のいずれかが生じたときは,契約当事者たる本件LP(C)から,リミテッド・パートナーシップ権益(LPInterest)の全部を購入する排他的権利(本件オプション)を有する(本件オプション契約1.1条)。


本件GP(C)は,契約当事者たる本件LP(C)に対し,本件オプシ
ョン契約締結次第,20,000ドルの権利金(Premium)を支払う(本件オプション契約1.2条)。



本件GP(C)が本件オプションを行使し,リミテッド・パートナーシ
ップ権益が本件GP(C)に譲渡されたときは,本件GP(C)は,契約当事者たる本件LP(C)に対し,購入価格(PurchasePrice)として,200,000ドルを支払う(本件オプション契約1.3条)。
つまり,本件オプション契約の締結により,契約当事者たる本件LP(C)は,投資1口(200,000ドル)の10%にあたる20,000ドルのオプション料(権利金)を得ることができたのであり,10%の利得は投資の成果としては一定の水準にあると考えられるが,控訴人の主張は,意図的か否か,このことに全く触れておらず「キャピタルゲインを事実上放棄」などと主張するので,まずこの点を指摘しておく。
本件オプション契約を締結した投資家は,本件不動産投資事業(C)に参加後の投資環境の変化(概ね平成17年2月頃から,日本の課税当局から,本件各LPSは法人であり損益通算は認められないとの,全くもって不当な理由で更正処分がされ始めたことを含む。)に伴い,投資元本を早期かつ確実に回収し,かつ,上記更正処分の取消を求めて税務争訟手続を行う(そのためには専門家に委任する報酬を用意する必要もある。)必要に迫られていた。本件オプション契約は,このような状況を前提に,本件GP(C)と交渉した結果締結されたものであり,契約締結と同時に投資1口あたり20,000ドルのオプション料を受領し,かつ,本件GP(C)による本件オプションの行使により投資元本相当額である投資1口(200,000ドル)を受領する地位を確定させることは,本件不動産投資事業(C)を取り巻く当時の投資環境(上記日本の課税当局の課税処理方針を含む。)に照らして,十分適正なものと認められる。
(4)

小括
以上より,被控訴人らに,本件各LPSを通じて不動産事業を営む実態があったことは明らかである。

5
まとめ
以上のとおり,被控訴人らが損失として申告した,本件各不動産賃貸事業に
より生じた損失が不動産所得の計算上生じた損失に該当しないという控訴人の主張には理由がないことは明らかである。
したがって,控訴人が主張する税額計算については,これを認否する必要がないと考えるが,念のため,被控訴人らは,控訴人が主張する税額計算については,全て争う。

第2

有限責任であることを理由に必要経費に算入すべき金額が制限される理由は
ないこと
1
控訴人の主張は,控訴人の価値判断を反映した立法論にすぎないこと控訴人は,被控訴人らが出資の価額を限度とする有限責任しか負わないこと
を理由に,被控訴人らに生じた各損失のうち不動産所得の計算上必要経費に算入すべき金額は出資の額を限度とすべきであり,出資の額を超えた損失を計上し,損益通算の対象とすることは認められないとの主張を,新たに展開している。
しかしながら,以下に述べるとおり,控訴人の上記主張,及びこれを前提とする上記の課税関係は,幾重にも明文の規定を無視した全く根拠のない主張であり,出資額を超えて損失を計上することは不当であるという,控訴人の価値判断を反映した立法論でしかなく,およそ採用に値しない。
2
控訴人は所得税法の明文に反する主張をしていること

控訴人の主張は,本件各LPSのした本件各不動産事業について損失が生じていることを認めつつ,本件各LPSのリミテッド・パートナーである被控訴人らが,かかる損失を不動産所得の計算上必要経費に算入することは,有限責任を理由に出資の額に制限されると論じるものである。しかしながら,控訴人は,かかる制限が認められる根拠となる条文その他
法令上の根拠を何ら示していない。それもそのはずで,以下のとおり,控訴人の主張を根拠付けるような法令の規定は一切存在しない。

すなわち,所得税法37条1項は,不動産所得の計算上必要経費に算入す
べき金額を「別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」と定義しており,「別段の定め」がない限り,同項に掲げる費用を必要経費に算入することを制限することは認められない。つまり,不動産所得の必要経費については,「別段の定め」がない限り減価償却費も支払利子も全て必要経費となることは条文上明らかであって,例えば,措置法41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)が,必要経費に算入した金額のうち,土地等を取得するために要した負債の利子の額を特に問題としているのは,同条のような「別段の定め」を置かない限り,支払利子は全額不動産所得の必要経費に算入できるからに他ならない。このことからしても,ある一定の場合に「別段の定め」はなくても「必要経費に算入することが制限される」などという主張には,およそ説得力がないことは明らかである。

また,不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額と給与所得や事業所得
の金額とが通算可能であることは所得税法69条1項により明らかであり,明文による除外規定がなければ例外を設けることはできない。
このことは,前記措置法41条の4が,一定の負債の利子の額に相当する所定の損失の金額は,「所得税法第69条第1項(損益通算)の規定〔略〕の適用については,生じなかったものとみなす。」と定めて当該損失を同項が適用対象となる損益から除外するという形で規定されていることからも明らかである。ここからも,ある一定の場合には法令に除外規定が定められて
いなくても「損失の金額は生じなかったものとみなす」ことができるなどという主張が誤りであることは明らかである。

もとより租税法律主義,課税要件明確主義が妥当する租税法においては,
所得計算の原則と例外は明確に定められなければならず,特に,法令が明文で「別段の定め」を要求している場合は,又は法令が個別に除外規定を置いて例外を設けている場合は,その反対解釈として,解釈によってこれらが規定されたのと同じ結論を導くことなど到底許されない。

したがって,控訴人が「被控訴人らに生じた各損失のうち不動産所得の計
算上必要経費に算入すべき金額は出資の額を限度とすべき」と主張するのであれば,所得税法37条1項に対する「別段の定め」又は同法69条1項に対する除外規定をその主張の根拠として示すことが不可欠である。にもかかわらず,控訴人は,この「別段の定め」又は除外規定を何ら挙げることなく,有限責任であることを根拠として,不動産所得の計算上必要経費に算入すべき金額を制限しようとしており,所得税法の明文に反する取扱いをすべきとの主張であるから,この点だけを見ても,控訴人の主張がおよそ成立し得ないものであることには,疑問を差し挟む余地がない。3
控訴人が主張する課税関係は,平成17年度税制改正で「創設」されたもの
であること
控訴人が主張する課税関係が,立法なくして実現し得ないものであることは,下記で定義する本件各損失利用制限規定が平成17年度税制改正によって「創設」されたという経緯からしても明らかである。
平成12年7月政府税調中期答申において,既に「マンションなどを借入金により購入してこれを貸し付け,利払費や減価償却費を計上することにより,不動産所得の損失を生じさせ,これを給与所得や事業所得から損益通算により控除することにより節税を図る動きが見られます」という指摘がなされていたが(甲A全146・118ないし120頁),この節税を不当とする価値判断
を背景として,不動産事業について発生する減価償却費や支払利子を必要経費に算入して不動産所得の損失を計上し,これを損益通算等により利用することを認めない,という課税関係が,平成17年度税制改正により一部実現された。すなわち,平成17年度税制改正は,組合員たる個人につき,2つの損失利用制限規定を創設している。一つは「特定組合員の不動産所得に係る損益通算..
等の特例の創設」(措置法41条の4の2)で,「業務執行に関与しない組合員につき,不動産所得の計算上生じた損失の金額は,これを生じなかったものとみなす」という損失制限規定であり,上記2で述べた同法69条1項の除外規定である(甲A全16・154頁以下)。もう一つは,「有限責任事業組合..
の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例の創設」(措置法27条の2)で,「有限責任事業組合の組合員につき,組合事業から生じた損失が出資額を超える時は,当該超える金額は必要経費に算入しない」という規制であり,上記2で述べた所得税法37条1項に対する「別段の定め」である(甲A全147・「平成17年版

改正税法のすべて」137頁以下。以下,これらの2

つの規定を「本件各損失利用制限規定」という。)。
このうち前者(措置法41条の4の2)は,平成17年度税制改正に関する政府税制調査会の答申において,組合事業から生じる損失を利用した節税による税負担の軽減の動きに対応してかかる節税を封じる必要性について指摘がなされたことを受けて創設されたものであり(甲A全16・155頁),立案担当者の解説においても,「近年,いわゆる航空機リースに関する任意組合の事業をはじめ,組合の事業から生ずる損失を利用して節税を図る動きが顕在化しており〔略〕,減価償却費や借入金利子を計上することによって創出した組合損失を組合員に帰属させ,組合員の他の所得を圧縮して税負担の軽減を実現させているケースが見受けられ」ることから,これに対応するために設けられたことが明記されている(甲A全16・154頁)。
また後者(措置法27条の2)は,「有限責任事業組合制度の創設に伴う税
制面の対応として,〔略〕組合員全員の有限責任性を踏まえ,」必要経費に算入すべき金額を制限して「組合員が税務上計上できる組合損失の額を組合員の出資額の範囲内に限ることとする等の措置を講じ」たものであり(甲A全147・137頁,138頁),有限責任事業組合契約に関する法律の施行日(平成17年8月1日)に合わせて創設されたものである。控訴人が引用する平成10年通達(乙A全105)は,有限責任を理由として税務上計上できる損失の額を出資の額の範囲内に限るという内容のものであったが(なお,その適法性及び射程範囲について争うことは後述6(イ,ウ)のとおり。),立案担当者による解説(前掲甲A全147)には,平成10年通達への言及が全くなく,このことからも,この後者の規制が平成17年度税制改正によって創設されたものであることが分かる。
これら本件各損失利用制限規定が創設されたことは,仮に課税当局において不動産所得の必要経費や損失に所得税法37条1項や同法69条1項を適用するべきではないという価値判断が是とされたとしても,租税法律主義の下では,法令の根拠がないにもかかわらず,かかる価値判断を実現するために,適用されるべき条文を適用せずに課税を行うことは許されず,法令を適用することにより当初想定されなかった課税当局の価値判断に沿わない結果が生じた,あるいは生じることになったとしても,それを改めるには立法による対処が必要であるということをよく表している。また,これら本件各損失利用制限規定が「創設」規定であることは,多数の文献で言及されている(甲A全153・中里教授第2意見書・第2項)。
このように,平成17年度税制改正において本件各損失利用制限規定が「創設」されたことは,同改正前は,事業を営む組合の構成員について,必要経費に算入すべき金額を制限し,あるいは不動産所得の損失として計上できる金額を制限して控訴人が主張する課税関係を実現することはおよそ不可能であったこと(だからこそ,法令を改正して規制を創設したこと)を如実に示している。
これに対して,控訴人の上記主張は,本件各損失利用制限規定が本件各更正処分に係る所得税の納税義務の成立当時において立法されていなかったにもかかわらず,「有限責任しか負わない組合員につき,出資の額を超えた経費を必要経費に算入して不動産所得の損失を計上して,これを損益通算の対象とすることは認めない」という租税上の効果を,所得税法上の根拠なく主張するものであって,およそ採用に値しない。
そもそも,平成17年度税制改正以前において,不動産投資によって得た損益を他の種類の所得と損益通算することによる租税負担の軽減は,立案担当者には,合法的な「節税」と理解されていたのである。これは,平成17年度税制改正において導入された本件各損失利用制限規定が「創設的」な立法と解される所以でもある。しかるに,控訴人は,本件各LPS契約は「建物の減価償却費等の必要経費を損失として計上して損益通算をすることにより租税負担の軽減を図ることのみを目的とする租税回避スキームである」となどと主張している。これは,「節税」を「租税回避」と強弁するものであって,本件各処分の本質が,明文の根拠なき否認であることがここから透けて見えるが(甲A全153・中里教授第2意見書・第1項5),そのような否認は,本来違法であって許されないことは言うまでもない。
4
平成17年度税制改正ですら有限責任組合員一般に対する損失利用制限規定
を定めたものではないこと
上記3で述べたとおり,平成17年度税制改正は本件各損失利用制限規定を創設したが,ここで注目すべきは,次の点である。
すなわち,「特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例の創設」(前掲措置法41条の4の2。甲A全16)は,構成員の有限責任性には着目せず,他方,その対象として「外国における・・類する契約」も対象とすることが明記されている。これに対して,「有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例の創設」(前掲措置法27条の2。甲A全147)は,
有限責任事業組合の構成員の有限責任性に着目したものではあるが,反面有限責任事業組合のみを対象とし,「外国における・・類する契約」は対象とされていないのである。
言うまでもなく,「外国における・・類する契約」には,「米国における〔略〕リミテッド・パートナーシップ(事業の経営を担い,無限責任を負う一人以上のゼネラル・パートナーと事業の経営には参加しないで,出資の範囲内で有限責任を負う一人以上のリミテッド・パートナーから成るパートナーシップ)」が含まれる(甲A全16・156頁,157頁)のであるが,2つの損失利用制限規定を対比したとき,構成員の有限責任性に着目した後者の規制では,「外国における・・類する契約」は明示的にその対象から除外されていたといえる。
このように,平成17年度税制改正においても,有限責任組合員であることを根拠として一般的に必要経費の算入を制限する制度は導入されていないのであるから,ましてや,同改正前において,控訴人の主張する租税上の効果が適法であったはずはない。控訴人の主張によると,平成17年度税制改正において措置法27条の2が,適用対象を有限責任事業組合のみに限りかつ新規に創設されたことの説明が一切つかない。
5
平成17年度税制改正による必要経費の計上制限は米国の税制を参考に規定
されたものであり,それまで日本にはこのような制限は存在しなかったこと本件各損失利用制限規定が「創設」規定であることは,平成17年度税制改正がモデルとした米国においても,不動産事業について発生する減価償却費や支払利子を必要経費に算入して不動産所得の損失を計上し,これを利用するスキームを制限することは,立法によって初めて実現したものであり,日本でもこれを参考にして立法がなされたという事実からも裏付けられる。すなわち,米国では,パススルー事業形態であるパートナーシップを利用し,減価償却費や支払利息を計上するいわゆるタックス・シェルターが問題となっ
ていた。とりわけ,いわゆるクレイン事件米国連邦最高裁判決によって,有限責任によって減価償却費の計上が制限されないとの実務が定着したことから,ノンリコースローンによる有限責任を享受しつつ,減価償却控除を受けるタックスシェルター商品が流行することになった。こうしたタックスシェルターは,社会的に批判を浴び,そのような租税回避行為を存続させるべきではないとの声が高まったため,これに応える形で,米国議会は,1976年,税法(米国内国歳入法)を改正して,納税者が経済的リスクを負担しない投資から生じた損失の計上を納税者が実際に経済的リスクを負う額に制限する規制(At-RiskRule。アット・リスク・ルール)を導入したが,導入当初は,不動産事業には適用されなかった。その後1986年には,税制改革法により,At-RiskRuleの適用範囲が不動産所得に拡大されるとともに,実質的に業務執行に参加していない受動的な活動から生じた損失を他の能動的所得と損益通算することを制限する規制(PassiveActivityLossRule。パッシブ・アクティビティ・ロス・ルール)が導入されたことで,不動産投資を目的とするタックスシェルターは大きな打撃を蒙ることになった。このように,米国では,立法によって損失の計上を制限したことで初めて,パートナーシップを利用して減価償却費や支払利息を計上するタックスシェルターを有効に規制することに成功したのである(以上につき,甲A全148・伊藤公哉「アメリカ連邦税法(第4版)」488ないし501頁。)。このような米国議会の対応は,租税法律主義に則った,タックスシェルターに対する対処法の正道と評価できる。
平成17年度税制改正で創設された本件各損失利用制限規定の内容は,米国の上記各規制に沿ったものであり,また,問題意識も共通であることから,米国の制度を参考に制定されたものといえる(前掲税制調査会答申(甲A全146)において,租税回避行為への対応策として参照されている。)。すなわち,平成17年度税制改正は,米国のかかる経緯を参考として,立法により,不動産事業にかかる減価償却費や支払利子を必要経費に算入して不動産所得の損失
を計上し,これを利用することを制限したものであり,立法なくしてかかる制限はなし得なかったことを当然の前提としていたのである(以上につき,甲A全153・中里教授第2意見書・第4項)。
6
平成10年通達は必要経費に算入すべき金額を制限する根拠とはならないこ

アこれに対して,控訴人は,有限責任を理由として税務上計上できる損失の額を出資の額の範囲内に限る考え方は,平成10年通達において明らかにされていると主張している。
イしかし,これまで述べてきたとおり,控訴人が「被控訴人らに生じた各損失のうち不動産所得の計算上必要経費に算入すべき金額は出資の額を限度とすべき」と主張するのであれば,所得税法37条1項に対する「別段の定め」又は同法69条1項に対する除外規定という租税法令の明文規定に依拠するほかない。そして,通達は法令ではないのであるから,通達を根拠とする控訴人の主張は主張自体失当というほかない。控訴人は通達が法令ではないことを誰よりも理解しているはずであり,法令の解釈が問題となっている訴訟で通達を根拠として挙げることがいかに的外れなものであるかは言うまでもない。それにもかかわらず通達を挙げざるを得なかったということは,法令の根拠が必要であるにもかかわらずかかる法令の根拠がないことを自認しているに等しい。なお,仮に平成10年通達が,明文の規定がないにもかかわらずこれらの「別段の定め」又は除外規定があることと同じ課税を行うことを定めていたのであれば,同通達に沿った課税は端的に違法である(甲A全153・中里教授第2意見書・第5項)。

また,この点を措くとしても,平成10年通達は,中小企業庁計画部長
が,中小企業等投資事業有限責任組合の有限責任組合員が,出資総額を超える損失の額の分配を受けた場合,その会計処理(損失の額の計上方法)について国税庁課税部長に照会し,これに回答した結果を了知させるために発出
されたものであり,かかる発出経緯からも明らかなとおり,当時の中小企業等投資事業有限責任組合(中小未公開企業への株式投資等限られた投資活動しかできず,平成16年の法改正によって初めて,金銭債権の保有や金銭の貸付が可能になり,これに付随して不動産の売買,賃貸借またはその媒介等が可能になった。甲A全149・篠原倫太郎「投資事業有限責任組合法の改正の概要」17ないし21頁)を念頭に置いた,極めて限定的な事例に係る事例判断を示したものにすぎないというべきである。つまり,平成10年通達は,「外国における・・類する契約」としてデラウェア州法上のLPS契約が存在することも,デラウェア州法上のLPSが不動産事業を行い得ることも,有限責任しか負わないその構成員(リミテッド・パートナー)がLPSから不動産事業から生じた損失の配賦を受けかかる損失を不動産所得の計算上必要経費に算入することがあり得ることも,全く念頭に置いていなかったものであることは明らかというべきであり,「有限責任を理由として税務上計上できる損失の額を出資の額の範囲内に限る考え方は,平成10年通達において既に明らかにされている」という控訴人の主張は,その前提を欠き失当である。
エイ及びウで述べたことは,平成17年度税制改正の際に,平成10年通達の存在が一顧だにされていなかったことからも明らかである。すなわち,平成17年度税制改正において,「有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例」(措置法27条の2)が創設されたことは前記3で述べたとおりであるが(甲A全147),この規定は「創設」されたものであって,平成10年通達を改正してその適用範囲を有限責任事業組合契約に基づく有限責任組合員に拡大するといった措置は取られていない。そればかりか,租税法立案担当者による解説においても,まるで「創設」された法令とは一切無関係であるかのように全く言及されていない(甲A全147)。これは,平成10年通達など初めから存在しなかったかのような扱い
であり,その意味するところは,平成10年通達が,(当然のことであるが)法令そのものではなく,したがって中小企業等投資事業有限責任組合の有限責任組合員に対する平成10年通達に従った過去の課税の正当性は疑わしかったところ,平成17年度税制改正と関連付けることで注目を浴び,過去の課税が争われる可能性を惹起するおそれがあったことから,敢えてその射程範囲を中小企業等投資事業有限責任組合の有限責任組合員について照会された事例についてのものであったと整理せざるを得なかったことを意味するように思えてならない。
オ以上より,控訴人が援用する平成10年通達は,そもそも法令ではないからこれを根拠にすること自体失当であり,かつ法令の根拠がないまま極めて限定された範囲の事例判断を示したものにすぎないから,同通達の考え方を,本件各LPSのリミテッド・パートナーである被控訴人らが計上した損失に及ぼし,「税務上計上できる損失の額を出資の額の範囲内に限る」ことは,到底許されるものではない。
7
控訴人は必要経費の意義を取り違えていること
ここまでで見たとおり,「有限責任しか負わない組合員につき,出資の額を
超えた損失を計上し,損益通算の対象とすることは認めない」という控訴人の考え方は,所得税法の明文に反するものであり,かつ,平成17年度税制改正によって「創設」された本件各損失利用制限規定を同改正前からあったものとして適用しようとするものであって,全く根拠を欠くものである。控訴人は,かかる無理筋の見解を正当化するため,金子宏・東京大学名誉教授の著書(『租税法』)を引用した上で,「所得税法は,純資産増加説を採用し」ているから,「不動産所得に係る必要経費についても,個人の純資産を減少させ,その担税力を減殺させるものであることを前提とする」,「出資の額を超えて純資産が減少することはない」リミテッドパートナーは,「無制限に必要経費を計上することはできない」などと,必要経費の意義について自説を
展開している。
しかし,控訴人の主張は,金子名誉教授が「投資の元手」である原資への課税を避けるという趣旨で必要経費を説明していることを,いつの間にか,“「純資産の減少」があったといえる部分だけを必要経費として課税所得の計算上控除すべきである”との結論にすり替えるものであって不当である。控訴人は,かかるすり替えによって,本来それぞれの事業にとって必要な費用といえるかどうかで判断すべき必要経費該当性を,貸借対照表に記載される静的な純資産額の数字に基づいて判断すべきものと誤導し,所得税法の予定しない処理を(そもそも条文に反する以上正当足り得ないが)正当化しようとしていると言わざるを得ない。
すなわち,控訴人が金子名誉教授の著書から引用した部分は,最新版(第17版)では257頁,258頁部分であるが(甲A全150),この部分にもあるとおり,必要経費の控除を認める意義は,「投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避け」て「原資を維持しつつ拡大再生産を図る」こと,すなわち,最初に投資された金額に課税しないことで,二重の課税をかけることを防ぎ,合理的な投資活動を制約しないことにあると理解できる(1億円を投資して1億2千万円のリターンを得た場合に,1億円を控除せずリターンの全額に課税した場合に,投資しなければ課税されなかった1億円にも課税を受けることで結果的に赤字となってしまうことを想起されたい。最初に投資する1億円が手持ち資金であろうと借入金であろうと,あるいはその組合せであってもこの理は同じである。)。
金子名誉教授は,かかる理解のもと,控訴人が引用した箇所に続けて,「ある支出が必要経費として控除されうるためには,それが事業活動と直接の関連をもち,事業の遂行上必要な費用でなければならない」と述べておられる。逆にいえば,事業活動と直接の関連をもち,事業の遂行上必要な費用といえる場合には,その部分は投資活動の原資であって,所得税法その他で例外規定がな
い限り,必要経費として控除を認めなければならないというのが,所得税法上の基本的な考え方である。(控訴人が引用する最高裁平成24年1月13日判決も,このような基本的な考え方に立って,収入と直接の関連を持つというための要件を判示したものであって,同判決の判示内容と有限責任性は何ら論理的な因果関係を持たない。)
だからこそ,その基本的な考え方に特定の価値判断をもって例外を設け必要経費の控除を制限する場合には,所得税法37条1項に対する「別段の定め」又は同法69条1項に対する除外規定を定めることが要求されているのである。よって,控訴人の主張は,必要経費が原資の保護を目的として,投資額と事業活動の関連性を元に判断されるという租税法の確立した理解を踏まえないものであって,控訴人が税法の根本的な理解を欠いていることを如実に示すものというべきである。
そして,被控訴人らが本件各LPSを通じて行う米国における不動産事業については,減価償却費と支払利息は,まさに金子名誉教授のいう「直接の関連をもち,事業の遂行上必要な費用」の要件を満たすものであるから,必要経費に該当することは明白である。
よって,本件において,減価償却費と支払利息を不動産所得の計算上必要経費に算入することが,いかなる意味においても,「別段の定め」又は除外規定としての法令の明文の規定なく有限責任を理由として制限される謂われは全くない。
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まとめ
以上より,控訴人による,有限責任を理由として必要経費の算入が制限され
るという主張は,所得税法の明文からして,本来は立法なくして採り得ず,実際に立法で初めて導入された制限が,法令上の根拠なくして当然に妥当するという,租税法の解釈論として成り立たないものであって,必要経費の理論的な判断としてもおよそ正当性を欠くものであるから,かかる主張が認められる余
地はない。
したがって,控訴人が主張する税額計算については,これを認否する必要がないと考えるが,念のため,被控訴人らは,控訴人の主張2(6)アないしオで主張する税額計算については,持分期首残高(別表2ないし4)の計算を含め,全て争う。

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