判例検索β > 平成22年(行ウ)第123号
事件番号平成22(行ウ)123
裁判年月日平成25年3月7日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 宅地造成等規制法17条1項に基づく改善命令により命ぜられた改善措置に係る代執行に要した費用の納付命令の取消訴訟において同改善命令の違法を主張することの可否
2 宅地造成等規制法17条2項に基づく宅地所有者等以外の者に対する改善命令又は都市計画法81条に基づく是正措置をとることなくされた宅地造成等規制法17条1項に基づく宅地所有者に対する改善命令が違法とはいえないとされた事例
裁判要旨1 宅地造成等規制法17条1項に基づく改善命令により命ぜられた改善措置に係る代執行に要した費用の納付命令を受けた者は,同改善命令が重大かつ明白な瑕疵により無効なものであるというような事情が存しない限り,同納付命令の取消訴訟において,同改善命令の違法を主張することはできない。
2 宅地造成等規制法17条2項に基づく宅地所有者等以外の者に対する改善命令又は都市計画法81条に基づく是正措置をとることなくされた宅地造成等規制法17条1項に基づく宅地所有者に対する改善命令につき,同法及びその関係法令の内容や,同条2項に基づく改善命令が同条1項に基づく改善命令を補充するものであること等に鑑みると,同条2項に基づく改善命令をすることができたこと等は同条1項に基づく改善命令の処分要件の充足の有無に何らの影響も及ぼすものではない上,処分行政庁が改善命令の対象となった土地に災害の発生のおそれを生じさせたとはいえず,仮にその責任を負うとしても自ら是正措置を実施せずに前記改善命令をしたことが信義則又は同法17条の趣旨に反するともいえないこと等からすれば,前記改善命令が違法とはいえないとした事例
戻る / PDF版
平成25年3月7日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成22年(行ウ)第123号

納付命令処分取消請求事件
主文

1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
処分行政庁が平成21年3月19日付けで原告に対してした納付命令(○多建開一第○号)を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,不動産の売買,土木建築工事の設計等を業とする特例有限会社である原告が,都市計画法上の開発行為等をして宅地とした上で分譲することを目的として,八王子市所在の土地を買い受けたところ,同土地から土砂が流出する災害が発生したことにより,東京都知事から権限の委任を受けた処分行政庁による宅地造成等規制法17条1項の規定に基づく改善命令を受け,さらに,これにより命ぜられた改善措置を実施しなかったことにより,行政代執行法3条3項の規定に基づく代執行がされた結果,処分行政庁から平成21年3月19日付けで同法5条の規定に基づく納付命令(以下「本件納付命令」という。)を受けたため,処分行政庁が上記土地の南側隣地の所有者に対してした都市計画法29条1項の規定に基づく開発行為等の許可及び上記改善命令はいずれも違法無効な処分であり,本件納付命令はそれらの違法性を承継し違法であるなどと主張し,処分行政庁の所属する東京都を被告として,本件納付命令の取消しを求める事案である。

1
法令の定め
本件に関係する法令の定めは別紙(関係法令の定め)のとおりである。なお,
同別紙の中で定めた用語の意義は,以下の本文中においても同一であるものとする。
2
前提事実(顕著な事実,争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者等
原告は,不動産の売買,土木建築工事の設計,施工及び請負等を業とする特例有限会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律3条2項)である。


処分行政庁は,地方自治法156条1項,東京都建築指導事務所設置条例(昭和46年東京都条例第104号)1条の規定に基づいて設置された建築指導事務所の長であり,同条例3条,東京都建築指導事務所長委任規則(昭和46年東京都規則第260号)11号,23号ないし25号の規定に基づいて東京都知事から都市計画法29条1項の規定による許可に関する事務,宅地造成等規制法8条1項の規定による許可に関する事務,同法13条の規定による工事完了の検査及び検査済証の交付に関する事務並びに同法17条の規定による改善命令に関する事務の委任を受けているものである。

(2)

原告による土地の取得
原告は,平成18年11月16日,都市計画法4条12項の開発行為等を
して宅地とした上,分譲することを目的として,A株式会社(以下「A」という。)から八王子市α所在の×番1の土地(地目山林,地積4589㎡。以下「本件土地」という。)を買い受けた。(甲4)
(3)

原告の前々主による隣地の開発行為等
原告の前々主による隣地の取得
B株式会社(以下「B」という。)は,平成16年8月26日,C株式会社から八王子市α所在の旧×番1の土地(地目山林,地積6251㎡)
を買い受けた。Bは,平成17年9月5日,上記土地を北側の高地である本件土地と南側の低地である旧×番3の土地(地目山林,地積1662㎡。以下「本件先行開発地」という。)とに分筆し,同月24日,Aに対し,本件土地を売り渡した。本件先行開発地はその南側の境界線が八王子市の市道に接しており,本件土地はその西端の幅員約5mの通路部分で同一の市道に接している。(甲3,4,13,乙10)

本件先行開発地の開発行為等の許可
Bは,平成18年4月12日,処分行政庁から本件先行開発地について都市計画法29条1項の規定に基づく開発行為の許可及び宅地造成等規制法8条1項(平成18年法律第30号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づく宅地造成に関する工事の許可(以下,これらの許可を併せて「本件開発許可等」という。)を受けた。BとD株式会社(以下「D」という。)は,同月24日,本件先行開発地の売買契約を締結し,Dは,本件先行開発地について同日売買を原因とする所有権移転仮登記を経由した。(甲3,10)


本件開発許可等の工事完了の検査
Bは,処分行政庁に対し,本件先行開発地について都市計画法36条1項の規定に基づく工事完了の届出をした。Bは,平成18年8月15日,同条2項及び宅地造成等規制法12条1項(平成18年法律第30号による改正前のもの。同項は同改正後の13条1項に相当する。)の規定に基づく工事完了の検査を受け,同月22日,処分行政庁から都市計画法36条2項及び宅地造成等規制法12条2項(上記改正前のもの。同項は同改正後の13条2項に相当する。)の規定に基づく検査済証の交付を受けた。(甲10)


Dによる本件先行開発地の分譲
Dは,平成18年8月16日,本件先行開発地を八王子市α所在の×番
3の土地(地目山林,地積1.31㎡)と×番4ないし13の各土地とに分筆し,同月30日,これらの土地について上記イの仮登記に基づいて同年4月24日売買を原因とする所有権移転本登記を経由した。Dは,平成19年3月16日から同年8月28日までの間に,上記×番4ないし13の各土地のうちの9筆を分譲し,各購入者に×番3の土地の持分10分の1ずつを譲渡した。Bは,同年10月16日,Dから上記各土地の残余の1筆である旧×番13の土地(地目宅地,地積211.48㎡。同土地は本件先行開発地の西端の部分である。)及び×番3の土地の持分10分の1を買い受け,平成20年4月16日,原告に対し,これらの土地及び持分を売り渡した。原告は,同年6月5日,旧×番13の土地を×番13の土地(地目宅地,地積180.12㎡)と×番14の土地(同土地は旧×番13の土地の西端の部分である。)とに分筆した上,同月27日,×番13の土地を売り渡し,購入者に×番3の土地の持分10分の1を譲渡した。(甲3,14,15)
(4)

本件土地における災害の発生
平成20年8月29日,前日からの豪雨により本件土地で土砂崩れが起き,
本件土地から流出した土砂により本件先行開発地の建物の一部が倒壊するなどの被害が生じた(以下「本件災害」という。)。
(5)

原告に対する改善命令
処分行政庁は,平成20年9月2日付けで,宅地造成等規制法17条1項
の規定に基づき,原告に対し,本件土地について,土砂の流出防止(土砂の搬出),がけ面の保護,擁壁等の設置,排水施設の設置,その他必要な改善措置の実施(履行期限平成21年1月末日。ただし,土砂の流出防止及びがけ面の保護については平成20年9月9日)を命ずる改善命令(以下「本件改善命令」という。)をしたが,原告は,本件改善命令により命ぜられた改善措置を実施しなかった。(甲1)

原告は,平成20年9月9日,東京都知事に対し,本件改善命令についての審査請求をしたが,東京都知事は,平成21年1月21日,審査請求を棄却する旨の裁決をした。原告は,本件改善命令の取消しを求める訴えは提起していない。
(6)

本件改善命令の代執行
処分行政庁は,本件土地においては更なる土砂の流出等の災害の発生のお
それが切迫しているため,改善措置の急速な実施について緊急の必要があり,行政代執行法3条1項及び2項に規定する手続をとる暇がないとして,平成20年9月12日,同条3項の規定に基づき,同条1項及び2項の手続を経ないで代執行(以下「本件代執行」という。)に着手した。(乙5)処分行政庁は,平成20年9月15日から平成21年1月22日までの間に,本件改善命令に係る改善措置のうち八王子市長による避難勧告の解除に必要な工事である土砂の流出防止(土砂の搬出)及びがけ面の保護ほかの工事を実施し,その費用として9527万2800円を支出した。(乙2ないし4,6ないし8)
(7)

本件代執行に要した費用の納付命令
処分行政庁は,平成21年3月19日付けで,行政代執行法5条の規定に
基づき,原告に対し,本件代執行に要した費用の徴収について,9527万2800円を同年4月8日までに納付することを命ずる本件納付命令をした。(甲2)
本件納付命令に係る納付命令書には,次のとおりの記載がある。
「行政代執行に要した費用の徴収について,行政代執行法5条の規定に基づき,下記のとおり納付を命じます。

代執行の内容

実施場所

東京都八王子市α×番1

実施時期

平成20年9月15日から平成21年1月2

2日まで
請求内容

平成20年9月2日付○多建開一第○号で命
令した改善措置のうち避難勧告の解除に必要
な工事

納入義務者

神奈川県愛甲郡β×番1
有限会社E

納付命令額
納付期限
(8)

代表取締役F

9527万2800円
平成21年4月8日」

原告は,平成21年5月15日,東京都知事に対し,本件納付命令につ
いての審査請求をしたが,東京都知事は,同年9月16日,審査請求を棄却する旨の裁決をした。原告は,同月17日,裁決書の謄本の送達を受け,裁決があったことを知った。
(9)
3
原告は,平成22年3月16日に本件訴えを提起した。

争点
本件の争点は,①

本件納付命令は本件開発許可等又は本件改善命令の違法

性を承継するか否か(争点1),②

本件開発許可等の適否(争点2),③

本件改善命令の適否(争点3),④

処分行政庁は原告による改善措置の実施

を妨げたか否か,仮にそうであるとしてそのことにより本件納付命令は違法となるか否か(争点4),⑤

本件納付命令には納付を命ずる金額の過大等の瑕

疵があるか否か(争点5)である。
4
当事者の主張の要旨
(1)

争点1(本件納付命令は本件開発許可等又は本件改善命令の違法性を承
継するか否か)について
(原告)
本件納付命令は,本件先行開発地に対する災害の防止のために本件土地の
所有者である原告に対してされた本件改善命令に原告が従わなかったことから,行政代執行法3条3項の規定に基づいてされた代執行の費用の納付を命ずるものである。本件納付命令はこのようなものであるから,その適否を判断するには,その前提となった本件改善命令の適否が問題となり,本件改善命令の適否を判断するには,それが本件先行開発地に対する災害の防止のためにされたものであるから,本件開発許可等の適否についても検討しなければならない。
(被告)
本件納付命令と本件開発許可等及び本件改善命令とは法的にも事実上も別個独立の処分であり,本件納付命令が本件開発許可等又は本件改善命令の違法性を承継する関係にはない。原告は,本件改善命令については既にその違法性を争う機会が与えられているのであり,本件開発許可等又は本件改善命令の違法性を本件訴えで争わせる必要性は認められないばかりか,これを争わせることとなれば法的安定性を著しく害することは明らかである。本件開発許可等又は本件改善命令の違法性は本件納付命令の違法性を構成しないものである。
(2)

本件の事実経過について

(原告)
本件の事実経過は次のとおりである。

Bは,平成17年1月頃までに,本件先行開発地だけではなく本件土地においても実質的な開発行為をし,本件先行開発地から切り出した約6000㎥の土砂をもって本件土地に盛土をした。Bは,本件土地の法面処理をしたところ,本件土地は盛土であるから,都市計画法及び宅地造成等規制法によれば,法面の勾配は30度以下とし,幅員1.5m以上の犬走を設置しなければならないにもかかわらず,そのようにしなかった。

Bは,平成17年8月18日,本件先行開発地の開発行為等の許可につ
いて処分行政庁の開発指導第1課開発第2係の係員であったGに相談し,Gは,同月19日,本件先行開発地の現地調査をした。

Bは,処分行政庁に対し,本件土地が切土であることを前提に本件先行開発地の開発行為等の許可の申請をし,処分行政庁は,本件土地が切土であることを前提に本件開発許可等をした。Gは,Bが平成18年5月26日に開催した近隣住民に対する説明会及び本件開発許可等の工事完了の検査に立ち会った。


原告の前代表者であり実質的経営者であるFは,本件土地を買い受けるに先立ち,Gに対し,本件土地は切土であるか盛土であるかを確認したところ,Gは,本件土地は切土であると明言した。原告は,その説明を信じて,本件土地を買い受けた。


原告は,平成18年12月頃,本件土地について都市計画法及び宅地造成等規制法の規定に基づく開発行為等の許可の申請をする準備を始め,本件土地の近隣住民に対する挨拶回りをしたところ,本件土地は盛土であると聞かされた。原告は,平成19年1月頃,G及び同人の上司で処分行政庁の開発指導第1課開発第2係の係長であったH(以下,同人とGとを併せて「Gら」という。)に対し,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出るとともに,必要な行政上の措置を求めた。

原告は,平成19年3月頃,Gから本件土地の完成図面(Bに対する検査済証の交付の際に作成されたもの)の写しの交付を受け,これを利用して作成した図面をもって危険防止のための盛土の搬出の方法及び法面の勾配や犬走りの是正の方法を提案したが,Gらは,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが絶対に必要であるとして,原告の提案を受け入れず,また,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要であるとした。


原告は,直ちに,本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置しようとしたが,Gらは,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であるとしたため,原告は,隅切りを設置すべく,平成20年4月16日,Bから本件先行開発地の一部を買い受けた。


原告は,近隣住民に対する説明会を開催したほか,本件土地の開発行為等の許可の申請に必要な図面を作成したり,土砂の搬出をするのに必要な資金,人員,機材,処分先の確保をしたりし,本件土地の開発行為等の許可の申請の準備をした。


平成19年9月頃,降雨により本件土地に亀裂が入った。Gらは,原告に対し,本件土地をブルーシートで覆うように指導し,原告は,本件土地の全面をブルーシートで覆い,その後,数回にわたりブルーシートの補修作業をした。


原告は,平成20年11月19日に,処分行政庁から本件代執行に係る工事の概要を聞かされたが,具体的な説明は受けておらず,また,その費用については説明を受けていない。

(被告)
本件の事実経過は次のとおりである。

Gは,Bによる本件先行開発地の開発行為等の際に,本件土地の目視確認をしたが,本件土地において1mを超える盛土など開発行為に当たる行為がされていると認めることはできなかった。


Bは,平成18年5月26日に,近隣住民に対する説明会を開催したところ,Bがその際にした「本件土地に盛土はしておらず,抜根の跡を埋めてならしたにすぎない。」という説明には一定の合理性があった。

Gは,本件開発許可等の工事完了の検査の際にも,本件土地の目視確認をしたが,これは許可の対象である擁壁の強度及び安全性を判断するためのものであり,これにより本件土地に盛土がされていることを知ることは
できなかった。

Gが原告に対し本件土地は切土であると明言したことはない。そもそも,本件土地が切土であるか盛土であるかは,買主である原告が自らの責任において売主や近隣住民に確認すべき事柄であり,処分行政庁に確認するような事項ではない。


原告がGらに対し,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することについて相談し,盛土の搬出の方法等を提案したのは,平成19年の初めのことではなく,同年10月のことであり,その態様も原告から申し出たものではない。


処分行政庁は,平成19年9月10日,八王子市から本件土地の斜面に亀裂が入っている旨の連絡を受けた。Gらは,同月14日,原告に連絡をしたところ,原告は,同月18日以降,処分行政庁に相談に来た。Gらは,本件土地の斜面に複数の亀裂が入っていたことから,原告に対し,当面の措置として本件土地の斜面をブルーシートで覆った上,早急に改善策を提案するように指導した。


Gらは,原告から,平成19年10月2日に,本件土地の防災計画案の提示を受け,同月17日には,本件土地の開発行為等の許可について相談を受けた。Gらは,原告に対し,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要であると指導したが,緊急に行うべき土砂の搬出に開発行為等の許可を受けることが必要であるとしたことはない。


原告は,本件改善命令の後である平成20年9月10日,処分行政庁に対し,資金不足等を理由に処分行政庁において改善措置を実施することを求める書面を提出したため,被告は,同月12日,八王子市との間で行政代執行事務の実施に関する基本協定及び同事務の実施に関する工事の委託契約を締結し,八王子市は,同日,有限会社I(以下「I」という。)と
の間で工事請負契約を締結した。

Iは,平成20年9月15日から平成21年1月22日までの間に,本件改善命令に係る改善措置のうち土砂の流出防止及びがけ面の保護ほかの工事を実施した。処分行政庁は,本件土地に盛土がされていることを,平成20年11月頃にIの報告を受けて初めて認識したのであり,本件改善命令の時点では認識していなかった。本件土地に盛土がされた時期及び原因は現在も明らかではない。


処分行政庁の開発指導第1課の課長であったJは,平成20年11月19日,原告に対し,本件土地から土砂を搬出し,排水設備を仮設するなどの応急の処置をする旨の説明をした。Jは,同年12月8日,同月15日及び平成21年1月21日にも,本件代執行に係る工事の内容及びその実施状況並びにそれに要する費用について説明した。Jは,本件納付命令がされた後である同年3月25日にも,原告に対し,本件納付命令が納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等について説明した。

(3)

争点2(本件開発許可等の適否)について

(原告)

本件土地が切土であることを前提とした本件開発許可等の違法
処分行政庁は,本件先行開発地の開発行為と同時に本件土地の実質的な開発行為がされ,本件先行開発地から切り出された大量の土砂をもって本件土地に盛土がされていることを知っていたか,又は容易に知り得たにもかかわらず,本件土地が切土であることを前提に本件開発許可等をしたのであり,本件開発許可等は都市計画法に照らし違法無効なものである。

本件土地を許可の対象としなかった本件開発許可等の違法
処分行政庁は,本件先行開発地の開発行為と同時に本件土地の実質的な開発行為がされ,本件先行開発地から切り出された大量の土砂をもって本件土地に盛土がされていることを知っていたか,又は容易に知り得たにも
かかわらず,本件土地を開発行為等の許可の対象とすることなく本件開発許可等をしたため,本件土地については工事完了の検査はされなかった。本件土地は盛土であり,その法面の勾配等が基準に適合しておらず,災害の発生のおそれを有していたから,開発行為等の許可の対象とされていれば,工事完了の検査で是正されていたはずであるが,処分行政庁が本件土地を開発行為等の許可の対象とすることを怠ったため,上記危険が見逃された。本件開発許可等は都市計画法及び宅地造成等規制法に照らし違法無効なものである。
(被告)

原告の主張アについて
本件土地については,平成19年10月まで,原告から開発行為等の許可に関する具体的な相談はなかったのであり,処分行政庁は,本件開発許可等の時点では,本件土地が切土であるか盛土であるかについて知るものではなかった。


原告の主張イについて
開発行為等の許可は当該土地の開発行為等をする権原を有する者からの申請がなければすることができないのであり,本件土地の開発行為等をする権原を有する者からの申請がないのに,本件土地を開発行為等の許可の対象とすることはできない。

(4)

争点3(本件改善命令の適否)について

(原告)

Bに改善命令をするか,又は処分行政庁自らが改善措置を実施することなく,原告に改善措置を命じた本件改善命令の違法
(ア)

宅地造成等規制法17条は,都道府県知事は宅地所有者等に対し改
善命令をすることができる旨を定める(1項)とともに,宅地所有者等以外の者に対しても改善命令をすることができる旨を定めている(2
項)ところ,本件土地が災害の発生のおそれを有するに至ったのはBが本件先行開発地から切り出した土砂をもって本件土地に盛土をするという違法な開発行為をしたことが原因であるから,処分行政庁は,同項の規定により,Bに対し改善命令をすべきであった。そうであるにもかかわらず,処分行政庁は,ただ本件土地の所有者であるというだけで,原告に対し本件改善命令をしたのであって,本件改善命令は同項に照らし違法無効なものである。
本件のように,専ら宅地所有者等以外の者の行為により災害の発生のおそれが生じた場合には,そのおそれの発生に最も責任があり,かつ,そのおそれの除去に関して最も効果のある者に対し改善命令をすることが求められるのであって,他の者の行為により災害の発生のおそれが惹起された宅地所有者等に対し改善命令をすることは,宅地造成等規制法の趣旨に照らし相当ではない。
(イ)

処分行政庁は,本件土地が盛土であることを知っていたか,又は容
易に知り得たにもかかわらず,本件土地を開発行為の許可の対象とすることなく,それを放置したまま本件開発許可等をし,さらに,原告に対し本件土地は切土であると明言して本件土地を取得させたのであるから,本件土地に災害の発生のおそれを生じさせた責任を負うものとして,都市計画法81条の規定に基づく権限を適切に行使し,自ら改善措置を実施すべきであった。そうであるにもかかわらず,処分行政庁は,ただ本件土地の所有者であるというだけで,原告に対し本件改善命令をしたのであって,本件改善命令は災害を防止する権限を行使しなかった処分行政庁が信義則に反してしたものであり,宅地造成等規制法17条の趣旨に照らし違法無効なものである。
国又は公共団体の公務員による権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨目的やその権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,
その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となる(最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)ところ,本件先行開発地から切り出した土砂をもって本件土地に盛土をすることは災害の発生のおそれが大きい行為であるから,処分行政庁は,本件土地の安全性を確保し災害を防止するため,その権限を適切に行使する義務を負っていたものである。イ
違法な開発行為を前提とする本件改善命令の違法
本件改善命令は,Bによる違法な開発行為により開発された本件先行開発地を守るためのものであるから,この点からも違法のそしりを免れない。

相当な猶予期限を付けなかった本件改善命令の違法
宅地造成等規制法17条1項は,改善命令は相当の猶予期限を付けてすべき旨を定めているが,本件改善命令は,6000㎥にも及ぶ土砂の搬出等の猶予期限をわずか7日間として物理的に不可能な期限を定めているのであり,同項に違反するものである。

(被告)

原告の主張アについて
(ア)

本件改善命令は,宅地造成等規制法17条1項の規定に基づいてさ
れた適法なものである。同条2項に該当する事実は,同条1項の規定により宅地所有者等に対し改善命令をすることを妨げない。宅地の安全性の確保は所有者等の義務であって,同条2項は,危険作出の原因者が明らかな場合にその者に対しても改善命令をすることができる旨を定めるものにすぎず,原因者に改善命令をすべきとするものではないのはもちろん,原因者を特定することなく宅地所有者等に改善命令をすることは
できないとするものでもないから,Bに対し改善命令をしたか否かは,いかなる意味においても本件土地の所有者である原告に対してされた本件改善命令の違法性を基礎付けない。
(イ)

処分行政庁は,本件土地に盛土がされていることを,平成20年1
1月頃にIの報告を受けて初めて認識したのであり,本件改善命令の時点では認識していなかったものであるし,そのことを容易に知り得たものでもない。また,宅地造成等規制法は,処分行政庁自らが改善措置を実施することを何ら要請するものではない。

原告の主張イについて
本件改善命令は,本件土地から流出した土砂により本件先行開発地の建物の一部が倒壊するなどの被害が生じたことから,そのおそれを除去するために発せられたものであり,それ以外の理由はなく,原告の主張は失当である。


原告の主張ウについて
本件改善命令に付けられた土砂の搬出等の猶予期限は二次災害の発生のおそれを除去するため必要不可欠な応急措置を実施する期限であり,更なる土砂の流出により近隣住民に被害が及ぶことを一刻も早く防止する必要があったという本件の緊急性に鑑みれば,7日間という期限は十分なものであって,何ら違法ではない。

(5)

争点4(処分行政庁は原告による改善措置の実施を妨げたか否か,仮に
そうであるとしてそのことにより本件納付命令は違法となるか否か)について
(原告)
原告は,本件土地が盛土であると知ってから,災害を未然に回避するため種々の改善措置を実施しようとしたが,処分行政庁は,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが絶対に必要で
ある,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要である,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であるなどとして,原告が改善措置を実施することを妨げた。処分行政庁が原告に対し本件土地の開発行為等の許可を受けること等を指導したことは違法であり,このような事情は本件納付命令の違法事由となる。
(被告)
原告が災害を未然に回避するため改善措置を実施しようとしたこと,処分行政庁がこれを妨げたことはない。原告は,処分行政庁に対し,本件土地の開発行為等の許可について相談していたものであり,改善措置を実施することについて相談していたものではない。原告は,本件土地の開発行為等の許可を受けようとしていたものであるから,処分行政庁が開発許可基準に従って幅員6mの道路の設置等を求めたことは何ら違法な妨害行為ではなく,原告の主張は失当である。
(6)

争点5(本件納付命令には納付を命ずる金額の過大等の瑕疵があるか否
か)について
(原告)

納付を命ずる金額が過大であるという本件納付命令の違法
処分行政庁が本件代執行により本件土地から搬出した土砂の量は6000㎥にすぎないのであり,本件納付命令が納付を命ずる9527万2800円という金額は余りにも過大である。上記土砂の搬出は1㎥当たり3500円,総額2000万円で実施することができるものであり,本件納付命令は違法である。


算出根拠や内訳等を示さないという本件納付命令の違法
納付命令において納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等を示すことは,処分の内容の適正を担保するために最低限必要なことであり,行政代執行
法5条に含意されるものであると解される。また,適正手続の保障を定める憲法31条の趣旨は行政手続にも適用され,納付命令についても告知聴聞の機会が与えられなければならない以上,納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等を示すことは適正手続の保障によりされなければならないものである。ところが,処分行政庁は,原告の求めにもかかわらず,上記アの金額の算出根拠や内訳等を一切示さなかったため,原告は,その金額がどのようなものであるのかを判断することができなかったのであり,本件納付命令は原告に納付を命ずる金額の適否の判断の機会を与えていない点からも違法である。
(被告)

原告の主張アについて
本件納付命令が納付を命ずる9527万2800円は,本件改善命令に係る改善措置のうち八王子市長による避難勧告の解除に必要な工事である土砂の流出防止及びがけ面の保護ほかの工事を実施したことにより実際に要した費用であるところ,その額は被告の積算基準及び設計単価表に基づいて積算した適正な金額である。


原告の主張イについて
行政代執行法は,納付命令において納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等を提示することについては何ら定めておらず,本件納付命令において納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等を提示しなかったからといって,同法に違反しない。行政手続法13条は,不利益処分における聴聞弁明の機会の付与について定めているが,同条2項4号は,一定の額の金銭納付を命ずる不利益処分をしようとするときについては聴聞弁明の機会の付与の規定は適用されない旨を定めているところ,本件納付命令は上記不利益処分に該当するのであり,処分行政庁が原告に対し聴聞弁明の機会を付与しなかったことは何ら違法ではない。また,処分行政庁は,原告に対し,本件
代執行に係る工事の内容及び費用について説明し,本件納付命令の後に直ちにその内容を説明する機会を設けている。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件納付命令は本件開発許可等又は本件改善命令の違法性を承継するか否か)について
(1)

違法性の承継について
行政事件訴訟法3条2項の行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
は,いわゆる公定力を有し,権限を有する機関によりそれが取り消されるまでは,その名宛人はもちろん,第三者や他の機関も,その効力を否定することができないものである。そのため,法令上先行の処分の存在を前提として後行の処分がされる関係にある場合に,後行の処分の取消訴訟において先行の処分の違法性を後行の処分の取消事由として主張することができるか否かといういわゆる違法性の承継の問題については,たとえ先行の処分に違法性があるとしても,取消判決等によりその公定力が排除されない限りは,原則として,その違法性はその存在を前提としてされる後行の処分には承継されず,後行の処分の取消訴訟において先行の処分の違法性を後行の処分の取消事由として主張することは許されないものと解されるが,例外的に,先行の処分と後行の処分とが同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成し,相結合して一つの法律効果の発生を目指しているものであるときは,先行の処分と後行の処分とは密接不可分な関係にあり,一連の処分の法律効果は後行の処分に留保されているということができることから,違法性の承継が肯定され,取消判決等により先行の処分の公定力が排除されていなくとも,後行の処分の取消訴訟において先行の処分の違法性を後行の処分の取消事由として主張することが許されるものというべきである(最高裁平成17年(行ヒ)第397号同20年9月10日大法廷判決・民集62巻8号2029頁における近藤裁判官補足意見,最高裁平成21年(行ヒ)第145号同年
12月17日第一小法廷判決・民集63巻10号2631頁参照)。なお,法令上先行の処分の存在を前提として後行の処分がされる関係にある場合において,先行の処分が,重大かつ明白な瑕疵により無効なものであるときや,取消判決等により取り消されるなどしたときは,後行の処分の前提となるべき先行の処分はそもそも有効に存在しないこととなるから,後行の処分が先行の処分の違法性を承継するか否かについて検討するまでもなく,後行の処分の取消訴訟において先行の処分が有効に存在しないことを後行の処分の取消事由として主張することが許されることとなる。
(2)

本件開発許可等又は本件改善命令と本件納付命令との間の違法性の承継
について
これを本件についてみるに,都市計画法29条1項の開発行為の許可,宅地造成等規制法8条1項の宅地造成に関する工事の許可及び同法17条1項の改善命令は,いずれも,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であり,公定力を有するものであるところ,行政代執行法5条の納付命令は,同法2条の代執行に要した費用の徴収のためにされるものであるから,開発行為の許可若しくは宅地造成に関する工事の許可の違法性又は改善命令の違法性が納付命令に承継されるものであるためには,それらの違法性が納付命令に先行する代執行に承継されるものでなければならない。

本件開発許可等と本件納付命令との間の違法性の承継について
改善命令は,宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合においてされるものであり(宅地造成等規制法17条1項),また,改善命令に係る代執行は,改善命令により命ぜられた擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことについて義務者がこれを履行しない場合においてされるものであって(行政代執行
法2条),いずれも,当該宅地又は関係する土地につき開発行為の許可や宅地造成に関する許可が有効に存在するか否かにかかわらず,当該宅地を放置するときは宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるなど上記の処分要件が充足されている限りは,適法にすることができるものである。このように,改善命令及びこれに係る代執行は,そもそも開発行為の許可又は宅地造成に関する工事の許可の存在を前提としてされるものではないのであって,これらの許可の違法性は改善命令又はこれに係る代執行に承継されるものではないし,これらの許可が有効に存在しないことが改善命令又はこれに係る代執行の取消事由となるものでもないというべきである。そうすると,代執行と納付命令との間の違法性の承継が肯定されるか否かにかかわらず,納付命令の取消訴訟において開発行為の許可若しくは宅地造成に関する工事の許可の違法性又はこれらの許可が有効に存在しないことを納付命令の取消事由として主張することはできないこととなる。
したがって,本件代執行と本件納付命令との間の違法性の承継が肯定されるか否かにかかわらず,本件納付命令の取消訴訟において本件開発許可等の違法性又は本件開発許可等が有効に存在しないことを本件納付命令の取消事由として主張することはできないものというべきである。

本件改善命令と本件納付命令との間の違法性の承継について
次に,改善命令とこれに係る代執行との間の違法性の承継についてみるに,改善命令に係る代執行が,改善命令により命ぜられた擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことについて義務者がこれを履行しない場合においてされるものであることは,上記アのとおりであって,改善命令に係る代執行は,改善命令が有効に存在しない場合には適法にすることができないものであるということができる。そして,そうであるとすると,改善命令に係る代執行は,改善命令の存在を前提としてされるもの
であることになるのであって,改善命令が,重大かつ明白な瑕疵により無効なものであったり,取消判決等により取り消されるなどして,有効に存在しないことになれば,改善命令に係る代執行は違法となり,さらに,代執行と納付命令との間の違法性の承継が肯定されるならば,納付命令の取消訴訟において改善命令が有効に存在しないことを納付命令の取消事由として主張することが許されることとなる。
これとは別に,仮に,改善命令と代執行とが同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成し,相結合して一つの法律効果の発生を目指しているものであるということができるのであれば,改善命令の違法性が代執行に承継され,さらに,代執行と納付命令との間の違法性の承継が肯定されるならば,納付命令の取消訴訟において改善命令の違法性を納付命令の取消事由として主張することが許されることとなる。しかし,改善命令は,いわゆる法律行為的行政行為のうち私人に対し特定の作為を命ずる命令的行為である下命であり,宅地所有者等に対し擁壁等の設置若しくは改造又は地形若しくは盛土の改良のための工事を行う義務を課するという法律効果を有するものであるところ,行政上の下命は,私人に対しそれが課した義務の履行を強制するという法律効果を当然に有するものではなく,その義務の履行確保のためには下命の根拠規定とは別個の法令上の根拠を必要とするのであって,行政代執行法の規定に基づく代執行は,その別個の法令上の根拠に基づく行政上の義務の履行確保の手段の一つにほかならない。そして,代執行は,行政上の代替的作為義務を課せられた者がその義務を履行しない場合に,行政庁が,自らその作為をし,又は第三者をしてこれをさせ,その費用を義務者から徴収するものであり,行政上の下命等による代替的作為義務の賦課の事実にその義務の不履行という事実が加わったときに初めて発動されるものであって(その義務が義務者自らにより履行されれば代執行はされないこととなる。),義務者に課せられた代
替的作為義務を変容し,当該義務者に対し行政庁又は第三者による代替執行を受忍しその費用を負担する義務を新たに課するという法律効果を有するものである。そうすると,改善命令に係る代執行は,改善命令の法律効果に基づくものではなく,改善命令の根拠規定とは別個の法令上の根拠に基づくものであり,改善命令による義務の賦課の事実にその義務の不履行という事実が加わったときに初めて発動されるものであるということとなるのであって,改善命令と代執行とは同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成しているものであるということはできないこととなるし,また,改善命令は,宅地所有者等に対し擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行う義務を課するという法律効果を有するものであるのに対して,改善命令に係る代執行は,この義務を変容し,宅地所有者等に対し行政庁又は第三者による代替執行を受忍しその費用を負担する義務を新たに課するという法律効果を有するものであり,一連の処分の法律効果が後行の処分に留保されているということはできないこととなるのであって,改善命令と代執行とは相結合して一つの法律効果の発生を目指しているものであるということもできないこととなる。したがって,改善命令の違法性は代執行には承継されないものというべきであり,代執行と納付命令との間の違法性の承継が肯定されるか否かにかかわらず,納付命令の取消訴訟において改善命令の違法性を納付命令の取消事由として主張することは許されないこととなる。このように解しても,改善命令があれば,その名宛人である宅地所有者等にはその通知がされるのであるから,改善命令の適否を争う不服申立てや訴え提起の機会は十分に与えられているということができるのであり,手続的保障に欠けるものではない(本件においても,前提事実(5)のとおり,原告は,平成20年9月9日,東京都知事に対し,本件改善命令についての審査請求をし,平成21年1月21日,東京都知事から,審査請求を棄却する旨の裁決を受けている。)。
以上によれば,本件改善命令の違法性は本件代執行には承継されないのであって,本件代執行と本件納付命令との間の違法性の承継が肯定されるか否かにかかわらず,本件納付命令の取消訴訟において本件改善命令の違法性を本件納付命令の取消事由として主張することは許されないものというべきである。また,本件改善命令が取消判決等により取り消されるなどしたという事情はうかがわれないから,本件改善命令が重大かつ明白な瑕疵により無効なものであるというような事情が存しない限りは,本件改善命令が有効に存在しないことにはならない。
(3)

以上のとおり,本件開発許可等が違法であり若しくは有効に存在しない
ため又は本件改善命令が違法であるため本件代執行が違法となるということはできないから,これらの事由を本件納付命令の取消事由として主張することはできず,また,本件改善命令が重大かつ明白な瑕疵により無効なものであるというような事情が存しない限りは,本件改善命令が有効に存在しないため本件代執行が違法であることを本件納付命令の取消事由として主張することはできないということとなる。そこで,以下においては,後記2で本件の事実関係について認定した上,後記4で本件改善命令の適否についてそれが無効なものであるか否かという観点から検討することとする。
2
認定事実
(1)

前提事実に加えて,証拠(甲5ないし9,12ないし15,17ないし
21,23,乙1ないし7,9ないし13,証人G,同F及び同Jの各証言)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。ア
Bによる本件先行開発地の開発行為等
(ア)

Bによる本件先行開発地の開発行為
Bは,平成16年8月26日,都市計画法4条12項の開発行為等を
して宅地とした上,分譲することを目的として,八王子市α所在の旧×番1の土地を買い受けた後,平成17年9月5日,北側の高地である本
件土地と南側の低地である本件先行開発地とに分筆し,同月24日,Aに本件土地を売り渡すまでの間に,本件先行開発地の区画形質の変更をし,本件先行開発地から切り出した相当量の土砂をもって本件土地に盛土をした。Bは,本件土地の法面処理をしたところ,本件土地の法面の勾配は30度以下ではなく,幅員1.5m以上の犬走も設置されていなかった。(甲5ないし9,12,17ないし19,証人F)
(イ)

本件開発許可等
Bは,平成17年8月18日,本件先行開発地の開発行為等の許可に
ついて処分行政庁の開発指導第1課開発第2係の係員であったGに相談し,Gは,同月19日,本件先行開発地の現地調査をした。Bは,平成18年4月12日,処分行政庁から本件先行開発地について本件開発許可等を受けた。Bは,本件土地が切土であることを前提に本件先行開発地の開発行為等の許可の申請をし,処分行政庁は,本件土地が切土であることを前提に本件開発許可等をしたものである。(乙9,証人G)(ウ)

Bによる住民説明会の開催
近隣住民から,Bが本件先行開発地から出た土砂を本件土地に盛って
いるのではないかという苦情が出たため,Bは,平成18年5月26日に,近隣住民に対する説明会を開催し,Gはこれに立ち会った。Bは,その際に,「本件土地に盛土はしておらず,抜根の跡を埋めてならしたにすぎない。」と説明し,Gは,本件土地の目視確認の結果を踏まえるとこの説明には一定の合理性があったことから,これを信じ,本件土地は切土であると考えていた。(乙9,証人G)
(エ)

本件開発許可等の工事完了の検査
Bは,平成18年8月15日,工事完了の検査を受け,同月22日,
処分行政庁から検査済証の交付を受けたところ,Gは,これに立ち会った。Gは,この際にも,本件土地の目視確認をしたが,これにより本件
土地に盛土がされていることを知ることはできなかった。(乙9,証人G)
Bが処分行政庁に提出した「間知ブロック積No2,3擁壁展開図」と題する図面には,本件先行開発地と本件土地との間の間知ブロック擁壁の背面土(本件土地の土)が切土であるものとして記載されており,被告が上記工事完了の検査を踏まえて平成18年9月6日に作成した本件開発許可等に係る開発登録簿には,本件先行開発地と本件土地との間の間知ブロック擁壁の断面図として,背面土が切土の場合に用いられる型式の間知ブロック擁壁の断面図が記載されている。(甲21,乙10)イ
原告による本件土地の取得
原告は,平成18年11月16日,都市計画法4条12項の開発行為等をして宅地とした上,分譲することを目的として,Aから売買代金1600万円で本件土地を買い受けた(原告は,この売買代金を金融業者からの借入れで賄った。)。原告の前代表者であり実質的経営者であるFは,本件土地を買い受けるに先立ち,Gに対し,本件土地は切土であるか盛土であるかを確認したところ,Gは,本件土地は切土であると述べた。(甲18,証人F)


原告による本件土地の開発行為等の許可についての相談
(ア)

原告による許可の相談と盛土搬出への協力の依頼
原告は,平成18年12月頃,本件土地の開発行為等の許可の申請を
する準備を始め,本件土地の近隣住民に対する挨拶回りをしたところ,本件土地は盛土であると聞かされた。原告は,平成19年1月頃,本件土地の開発行為等の許可についてGらに相談し,併せて,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出るとともに,行政上の支援を求めた。原告は,本件土地の開発行為等については自らの負担をもってする意思を有していたものの,緊急に本件土地から土砂
を搬出するなどの改善措置については自らの負担をもって実施する意思も能力も有しておらず,本件土地からの土砂の搬出を実現するためには行政上の支援を受けるなどすることを必要としており,かつ,本件土地を買い受けるに先立ち,Gから本件土地は切土であると聞かされた経緯があるため,行政の積極的な支援を期待していたものである。(甲18,乙9,13,証人G,同F,同J)
(イ)

原告による再度の相談と盛土搬出の方法の提案
原告は,平成19年3月頃,本件土地の開発行為等の許可についてG
らに相談し,併せて,危険防止のための盛土の搬出の方法及び法面の勾配や犬走りの是正の方法を提案したところ,Gらは,本件土地は切土であると考えていたこともあり,「本件土地の安全性は原告が本件土地の開発行為等の許可を受け開発行為等をすることによりいずれは確保されることとなるから,現時点において緊急に本件土地から土砂を搬出することを認める必要はない。」旨の判断をし,この判断に基づき,危険防止のための盛土の搬出の願い出及び行政上の支援の求めに対しては,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが必要であると指導し,本件土地の開発行為等の許可についての相談に対しては,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要であると指導した。(甲12,18,乙9,13,証人G,同F,同J)
(ウ)

原告による本件土地の開発行為等の許可の申請の準備
原告は,本件土地の西端の通路部分を利用して本件土地から市道に通
ずる幅員6mの道路を設置しようとしたが,Gらは,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であるとしたため,原告は,隅切りを設置すべく,Bに依頼し,本件先行開発地の西端の部分を買い戻してもらい,平成20年4月16日,Bから同土地を買い受けた。原告
は,そのほかにも本件土地の開発行為等の許可の申請の準備をした。(甲13ないし15,18,乙9,13,証人G,同F,同J)
(エ)

本件土地における亀裂の発生と処分行政庁の指導
平成19年9月10日頃,近隣住民から八王子市に対し,本件土地の
土砂が滑落し,その斜面には亀裂が入っている旨の申出があり,八王子市は,処分行政庁に対し,その旨の連絡をした。Gらは,上記(イ)と同様に,「本件土地の安全性は本件土地の開発行為等の許可により確保されることとなるから,緊急に本件土地から土砂を搬出することを認める必要はない。」旨の判断に基づき,原告に対し,当面の措置として本件土地の斜面をブルーシートで覆い雨水の浸透を防止した上,早急に改善策を提案するように指導するにとどめ,緊急に本件土地から土砂を搬出するように指導することまではしなかった。原告は,本件土地の斜面をブルーシートで覆った上,同年10月2日,本件土地の防災計画案の提示をし,同月17日には,本件土地の開発行為等の許可についてGらに相談した。(甲18,乙9,11ないし13,証人G,同F,同J)エ
本件災害の発生
平成20年8月28日から同月29日にかけて,関東地方で局所的な大雨が発生し,八王子市における両日の総雨量は220.5mm,1時間の最大雨量は63mmと記録的な豪雨となった。そのため,同日,本件土地で土砂崩れが起き,本件土地から流出した土砂により本件先行開発地の建物の一部が倒壊するなどの被害が生じ,八王子市長は,近隣住民に対し,災害対策基本法60条1項の規定に基づく避難勧告をした。(甲19,乙13,証人J)


本件改善命令
処分行政庁は,平成20年9月2日付けで,原告に対し,本件土地について,土砂の流出防止(土砂の搬出),がけ面の保護,その他必要な改善
措置の実施(土砂の流出防止及びがけ面の保護の履行期限は同月9日)を命ずる本件改善命令をしたが,原告は,本件改善命令により命ぜられた改善措置を実施せず,同月10日,処分行政庁に対し,資金等を確保することができないとして,処分行政庁において改善措置を実施することを求めた。(乙1)

本件代執行
(ア)

被告と八王子市との間の協定等の締結
処分行政庁は,本件土地においては更なる土砂の流出等の災害の発生
のおそれが切迫しているため,改善措置の急速な実施について緊急の必要があり,行政代執行法に規定する手続をとる暇がないとして,原告に代わり本件土地の緊急防災工事を実施することとした。被告は,平成20年9月12日,地元公共団体である八王子市との間で行政代執行事務の実施に関する基本協定及び同事務の実施に関する工事の委託契約を締結し,八王子市は,同日,Iとの間で工事請負契約を締結した。(乙2ないし4,13,証人J)
(イ)

本件代執行の実施に関する通知
処分行政庁は,平成20年9月12日付けで,原告に対し,「行政代
執行について」と題する書面を送付し,災害の発生のおそれが切迫しているため,改善措置の急速な実施について緊急の必要があり,行政代執行法に規定する手続をとる暇がないことから,同法の規定に基づく手続を経ないで本件代執行をすることとしたことと,それに要した費用は同法の規定により原告から徴収することになることとを通知した。(乙5)
(ウ)

Iによる本件代執行に係る工事の実施
Iは,平成20年9月15日から平成21年1月22日までの間に,
本件改善命令に係る改善措置のうち八王子市長による避難勧告の解除に
必要な工事である土砂の流出防止(土砂の搬出)及びがけ面の保護ほかの工事を実施した。Iは,本件土地の地質調査を実施し,平成20年11月,その結果の報告書を提出したところ,この報告書は,本件土地について,過去に斜面崩壊等により堆積した上部に平成16年から平成17年にかけて盛土が実施されており,今回の崩壊は新しい盛土部分で発生した可能性が高いとするとともに,本件土地に盛土されていた土は周辺一帯の土を掘削した発生土であると考えられるとしており,また,本件災害の発生機構について,雨水が集まりやすい谷部周辺に暗渠排水や湧水処理等の適切な処理がされていなかったことや,記録的な集中豪雨により,盛土内の地下水位が急激に上昇し,土塊に浮力が発生するなどして,ルーズな盛土の表層部分に崩壊が発生したと考えられるとしている。処分行政庁は,本件土地に相当量の盛土がされていること,及び,その盛土はBがしたものである可能性が高いことを,このIの報告を受けて初めて認識した。(甲19,乙13,証人J)
(エ)

本件代執行の終了に関する通知
処分行政庁は,平成21年1月29日付けで,原告に対し,「行政代
執行の終了について」と題する書面を送付し,本件代執行が終了したことと,それに要した費用は行政代執行法の規定により原告から徴収することになることとを通知し,同年3月19日,八王子市に対し,本件代執行に関する事務の委託契約代金として9527万2800円を支払った。(乙6,7)

原告に対する説明
処分行政庁の開発指導第1課の課長であったJは,平成20年11月以降,数回にわたり,原告に対し,本件代執行に係る工事の内容及びその実施状況並びにそれに要する費用について説明し,平成21年3月19日付けで本件納付命令がされた後である同月25日にも,原告に対し,本件納
付命令が納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等について説明した。(乙13,証人J)

その後の事情
その後も,本件土地からは土砂が流出したところ,原告は,それに対する安全対策を講じようとしなかった。そのため,処分行政庁は,被告の負担において本件土地の安全対策を講ずることとし,原告は,平成24年4月24日付けで,処分行政庁に対し,本件土地において被告の負担で緊急安全対策を実施することに同意する旨の書面を提出した。(甲20,証人F,同J)

(2)

事実認定の補足説明
上記(1)ア(ア)のBによる盛土について
被告は,GはBによる本件先行開発地の開発行為等の際に本件土地の目視確認をしたが,1mを超える盛土など開発行為に当たる行為がされていると認めることはできなかったと主張する。
しかし,甲第5号証ないし第8号証,第17号証,第19号証(平成16年から平成20年までの間の各1月に撮影された本件先行開発地及び本件土地の航空写真等)によれば,平成16年1月から平成17年1月までの間に,本件先行開発地及び本件土地において,樹木の伐採,土砂の切り出し等の区画形質の変更がされたと認めることができるところ,Iによる本件土地の地質調査の結果の報告書が,本件土地に盛土されていた土は周辺一帯の土を掘削した発生土であると考えられるとしていることは,上記(1)カ(ウ)のとおりであり,このことによれば,本件土地の盛土は本件先行開発地から切り出した土砂をもってされたものであると推認することができる。そして,上記期間にそのような行為をした者としてはその当時宅地分譲を目的として本件先行開発地及び本件土地を所有していたBであると考えるのが自然であることにもよれば,上記(1)ア(ア)のとおり,Bは,
本件先行開発地の区画形質の変更をし,本件先行開発地から切り出した相当量の土砂をもって本件土地に盛土をしたと認めることができる。イ
上記(1)イのGの回答について
被告は,Gが原告に対し本件土地は切土であると明言したことはなく,そもそも,本件土地が切土であるか盛土であるかは,買主である原告が自らの責任において売主等に確認すべき事柄であり,処分行政庁に確認するような事項ではないと主張する。
しかし,甲第18号証(F作成の陳述書)及び証人Fの証言の中には,原告の実質的経営者であるFは,本件土地を買い受けるに先立ち,Gに対し,本件土地は切土であるか盛土であるかを確認したところ,Gは,本件土地は切土であると述べたとする記載又は供述がある。そして,これらの記載及び供述に,①

原告は,不動産の売買,土木建築工事の設計,施工

及び請負等を業とする特例有限会社である(前提事実(1)ア)から,処分行政庁が,本件先行開発地と本件土地との間の間知ブロック擁壁の背面土(本件土地の土)が切土であるか盛土であるかに関する情報を保有している可能性があることを認識していたと認めることができること,②
Gは,

Bが平成18年5月26日に開催した近隣住民に対する説明会に立ち会った際に聞いたBの説明を信じ,本件土地は切土であると考えていたこと(上記(1)ア(ウ)),③

Bが処分行政庁に提出した図面及び被告が工事

完了の検査を踏まえて同年9月6日に作成した本件開発許可等に係る開発登録簿には,本件土地の土が切土であるものとする記載又は本件土地の土が切土であることを前提とする断面図の記載があり,処分行政庁は,本件土地が切土であることを前提に本件開発許可等をしたものであること(上記(1)ア(イ)及び(エ))をも併せ考えれば,乙第9号証(G作成の陳述書)及び証人Gの証言の中の反対趣旨の記載又は供述にかかわらず,上記(1)イのとおり,原告の前代表者であり実質的経営者であるFは,本件土
地を買い受けるに先立ち,Gに対し,本件土地は切土であるか盛土であるかを確認したところ,Gは,本件土地は切土であると述べたと認めることができる。

上記(1)ウ(イ)及び(ウ)のGらの指導について
原告は,Gらに対し,専ら危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出るとともに,必要な行政上の措置を求めたにもかかわらず,Gらは,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが絶対に必要である,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要である,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であると指導した旨を主張する。
しかし,原告が,開発行為等をして宅地とした上,分譲することを目的として,本件土地を買い受けたものであって,その売買代金を金融業者からの借入れで賄ったことは,上記(1)イのとおりであり,このことによれば,原告は,早期に資金を回収すべく,速やかに本件土地の開発行為等の許可を受けることを希望していたものであると推認することができることに加えて,上記(1)ウ(ア)のとおり,原告は,平成18年12月頃には,本件土地の開発行為等の許可の申請をする準備を始めていたものであることにもよれば,上記(1)ウ(ア)のとおり,原告は,平成19年1月頃,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出た時には,既に,本件土地の開発行為等の許可についてGらに相談していたものであると認めることができる。また,原告が,本件改善命令により命ぜられた改善措置を実施せず,平成20年9月10日,処分行政庁に対し,資金等を確保することができないとして,処分行政庁において改善措置を実施することを求め,その後も,本件土地からは土砂が流出したところ,原告は,それに対する安全対策を講じようともせず,平成24年4月24
日付けで,処分行政庁に対し,本件土地において被告の負担で緊急安全対策を実施することに同意する旨の書面を提出したことは,上記(1)オ及びクのとおりであり,このことによれば,上記(1)ウ(ア)のとおり,原告は,本件土地の開発行為等については自らの負担をもってする意思を有していたものの,緊急に本件土地から土砂を搬出するなどの改善措置については自らの負担をもって実施する意思も能力も有していなかったものであると推認することができる。そして,これらのことと,乙第9号証,第13号証(J作成の陳述書)及び証人G,同Jの各証言の中の記載又は供述とによれば,上記(1)ウ(ア)ないし(ウ)のとおり,原告は,平成19年の初め,本件土地の開発行為等の許可についてGらに相談し,併せて,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出るとともに,行政上の支援を求めたが,自らの負担をもって緊急に本件土地から土砂を搬出するなどの改善措置を実施する意思も能力も有しておらず,本件土地からの土砂の搬出を実現するためには行政上の支援を受けるなどすることを必要としており,かつ,本件土地を買い受けるに先立ち,Gから本件土地は切土であると聞かされた経緯があるため,行政の積極的な支援を期待していたものであり,Gらは,本件土地の安全性は本件土地の開発行為等の許可により確保されることとなるから,緊急に本件土地から土砂を搬出することを認める必要はない旨の判断に基づき,危険防止のための盛土の搬出の願い出及び行政上の支援の求めに対しては,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが必要であると指導し,本件土地の開発行為等の許可についての相談に対しては,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要である,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であると指導したものであると認めることができる。


上記(1)キのJの説明について
原告は,平成20年11月19日に,処分行政庁から本件代執行に係る工事の概要を聞かされたが,具体的な説明は受けておらず,また,その費用については説明を受けていないと主張する。
しかし,処分行政庁が,本件代執行において,原告に対し,その実施に関する通知及びその終了に関する通知をし,本件代執行をすることとしたこと又は本件代執行が終了したことと,それに要した費用は原告から徴収することになることとを告知していることは,上記(1)カ(イ)及び(エ)のとおりであり,このことによれば,処分行政庁は,原告に対し,本件代執行の内容及びその費用について説明しようとする態度を取っていたものであると認めることができる。乙第13号証及び証人Jの証言の中の記載又は供述に,上記のことをも併せ考えれば,甲第18号証及び証人Fの証言の中の反対趣旨の記載又は供述にかかわらず,上記(1)キのとおり,Jは,平成20年11月以降,数回にわたり,原告に対し,本件代執行に係る工事の内容及びその実施状況並びにそれに要する費用について説明し,平成21年3月19日付けで本件納付命令がされた後である同月25日にも,原告に対し,本件納付命令が納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等について説明したと認めることができる。

3
争点2(本件開発許可等の適否)について
原告は,処分行政庁が,本件土地が切土であることを前提に本件開発許可等をしたものであること,及び,本件土地を開発行為等の許可の対象とすることなく本件開発許可等をしたものであることを理由に,本件開発許可等は違法無効なものであると主張し,そのことを理由に本件納付命令が違法で取り消されるべきである旨主張する。
(1)

違法性の承継との関係について
しかし,改善命令並びにこれに係る代執行及び納付命令は開発行為の許可
又は宅地造成に関する工事の許可の存在を前提としてされるものではないのであって,これらの許可の違法性は改善命令並びにこれに係る代執行及び納付命令には承継されないものであることはもちろん,これらの許可が重大かつ明白な瑕疵により無効なものであったとしても,そのことが改善命令並びにこれに係る代執行及び納付命令の取消事由となるものではないことは,前記1(2)アのとおりである。
(2)

宅地造成等規制法17条の趣旨との関係について
これを実質的にみても,これらの許可の違法性が改善命令又はこれに係る
代執行及び納付命令に承継されると解するならば,違法な開発行為の許可又は宅地造成に関する工事の許可がされた場合にそれに基づいてされた土地の区画形質の変更又は宅地造成に関する工事を是正するためにされた改善命令又はこれに係る代執行及び納付命令もまた違法であるということとなり,このように解したのでは,宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合において,擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことを命ずることにより,災害の防止を図ろうとする宅地造成等規制法17条の趣旨に反し,ひいては,宅地造成に伴い崖崩れ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において,宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行なうことにより,国民の生命及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に寄与するという同法の目的(1条)の達成を妨げることとなるのであって,このような解釈は著しく不相当なものというべきである。(3)

そうすると,本件開発許可等が違法無効なものであるか否かについて検
討するまでもなく,原告の上記主張は失当であることとなる。
4
争点3(本件改善命令の適否)について

(1)

原告は,本件土地が災害の発生のおそれを有するに至ったのはBが本件
先行開発地から切り出した土砂をもって本件土地に盛土をするという違法な開発行為をしたことが原因であるから,処分行政庁は,宅地造成等規制法17条2項の規定により,Bに対し改善命令をすべきであったものであり,そうであるにもかかわらず,処分行政庁は,ただ本件土地の所有者であるというだけで,原告に対し本件改善命令をしたのであって,本件改善命令は同項に照らし違法無効なものであると主張する。

宅地造成等規制法17条2項の趣旨について
宅地造成等規制法17条の趣旨が,宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合において,擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことを命ずることにより,災害の防止を図ろうとするものであることは,上記3(2)のとおりであるところ,同条2項は,上記の場合において,宅地所有者等以外の者の宅地造成に関する不完全な工事その他の行為によって災害の発生のおそれが生じたことが明らかであり,その行為をした者に上記の擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事の全部又は一部を行わせることが相当であると認められ,かつ,これを行わせることについて当該宅地所有者等に異議がないときは,その行為をした者に対して,上記の工事の全部又は一部を行うことを命ずること(宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすること)ができるものとすることにより,同条1項の宅地所有者等に対する改善命令を補充し,もって災害の防止を図るという同条の上記趣旨を十全なものとしようとしたものであると解される。


宅地所有者等に対する改善命令の処分要件について
宅地造成等規制法17条1項の規定は,宅地所有者等に対する改善命令
の処分要件として,「宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合において」と定めるにとどまり,同条2項の宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができることを宅地所有者等に対する改善命令の消極的な処分要件とする定めや,宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができないことを宅地所有者等に対する改善命令の積極的な処分要件とする定めは,同法及びその関係法令を精査するも見当たらない。このことに加えて,同項の宅地所有者等以外の者に対する改善命令が同条1項の宅地所有者等に対する改善命令を補充するものであることは,上記アのとおりであることをも考慮すると,宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができることや,これができないことは,宅地所有者等に対する改善命令の積極的又は消極的処分要件のいずれでもないと解されるのであり,宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができたことや,宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができなかったと認めることができないことは,宅地所有者等に対する改善命令の処分要件が充足されているか否かについて何らの影響も及ぼすものではないというべきである。

そうすると,Bに対する改善命令をすることができたことや,Bに対する改善命令をすることができなかったと認めることができないことは,本件改善命令の適否には基本的に影響を及ぼさないものというべきであり,Bに対し改善命令をせずに本件改善命令をしたことの違法をいう原告の上記主張は失当であることとなる。
なお,原告は,専ら宅地所有者等以外の者の行為により災害の発生のおそれが生じた場合には,そのおそれの発生に最も責任があり,かつ,そのおそれの除去に関して最も効果のある者に対し改善命令をすることが求め
られるとも主張するが,宅地造成等規制法17条の趣旨が,擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことを命ずることにより,災害の防止を図ろうとするものであることは,上記3(2)のとおりであって,同条の規定に基づく改善命令は,国民の生命及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に寄与するという行政目的を達成するためにされるものであり,災害の発生のおそれを生じさせた者の責任を追及することを目的としてされるものではなく,改善命令を発するに当たって,そのような者が誰であるかを究明して,その者に対して改善命令をすることが要求されているものでないことは,同条2項の文言からも明らかである。もっとも,同条が,2項において,1項の宅地所有者等に対する改善命令の処分要件を加重した処分要件の下で補充的に宅地所有者等以外の者に対する改善命令をすることができるものとしつつ(上記ア),宅地所有者等に対する改善命令について,宅地所有者等以外の者に対する改善命令に先んじてされるべきものとはしていないことによれば,都道府県知事(都道府県知事から権限の委任を受けた行政庁を含む。以下同じ。)は,改善命令の相手方の選択について,合理的な裁量を付与されていると解されるところ,宅地所有者等以外の者が宅地造成に関する不完全な工事その他の行為によって災害の発生のおそれを生じさせたことが明らかであって,都道府県知事が,その事情について十分に認識し,宅地所有者等に対する改善命令と,当該宅地所有者等以外の者に対する改善命令とのいずれをもすることができた場合に,宅地所有者等以外の者に対する改善命令をせずに,宅地所有者等に対する改善命令をしたことが,都道府県知事に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということができる場合も,およそあり得ないとまでいうことはできないが,①

処分行政庁が,本件土地に相

当量の盛土がされていること,及び,その盛土はBがしたものである可能性が高いことを初めて認識したのは,Iによる本件土地の地質調査の結果
の報告書が提出された平成20年11月のことであることは,上記2(1)カ(ウ)のとおりであり,処分行政庁は,本件改善命令の当時には,本件土地にされている盛土はBがしたものである可能性が高いことを確定的には認識していなかったものである(処分行政庁には,当時,同条2項にいう「宅地所有者等以外の者の宅地造成に関する不完全な工事その他の行為によって災害の発生のおそれが生じたことが明らかであ」ると認めるべき認識はなかった。)ことに,②

仮に本件土地にされている盛土はBがした

ものであるとしても,そのような関係の清算は,事後的に,本件土地の所有者である原告において原因者であるBに対し求償をすることによって行われるのが原則であり,改善命令の段階で,処分行政庁において,本件災害の原因者を究明した上,改善命令をすべきものであるということはできないことをも併せ考えれば,本件において,処分行政庁が,Bに対する改善命令をせずに,原告に対する改善命令をしたことが,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないものというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)

原告は,処分行政庁は本件土地が盛土であることを知っていたか,又は
容易に知り得たにもかかわらず,それを放置したまま本件開発許可等をし,原告に対し本件土地は切土であると明言して本件土地を取得させたのであるから,本件土地に災害の発生のおそれを生じさせた責任を負うものとして,都市計画法81条の規定に基づく権限を適切に行使し,自ら改善措置を実施すべきであったものであり,そうであるにもかかわらず,処分行政庁は,ただ本件土地の所有者であるというだけで,原告に対し本件改善命令をしたのであって,本件改善命令は信義則に反するものであり,宅地造成等規制法17条の趣旨に照らし違法無効なものであると主張する。

処分行政庁と本件災害との関わりについて

しかし,処分行政庁が本件土地に相当量の盛土がされていることを初めて認識したのはIによる本件土地の地質調査の結果の報告書が提出された平成20年11月のことであることは,上記2(1)カ(ウ)のとおりであり,処分行政庁が,本件土地が盛土であることを知っていたか,又は容易に知り得たにもかかわらず,それを放置したまま本件開発許可等をしたことは,これを認めるに足りる証拠がない。また,原告の前代表者であり実質的経営者であるFが,本件土地を買い受けるに先立ち,Gに対し,本件土地は切土であるか盛土であるかを確認したところ,Gは,本件土地は切土であると述べたことは,前記2(1)イのとおりであるが,このことのみをもって,処分行政庁が事実に反する説明をすることによって原告に本件土地を取得させたということはできないし(仮に原告がGの回答を重視して本件土地を取得したものであるとしても,Gは,行政サービスの一環として,その職務上当時認識していた事実を回答したにすぎないのであり,社会通念に照らし,この回答にその内容が客観的事実と合致することを法的に保証するまでの強い効力が備わっているということはできないものといわざるを得ない。),処分行政庁が本件土地に災害の発生のおそれを生じさせたということもできないものというべきである。

本件改善命令が信義則に反し又は宅地造成等規制法17条の趣旨に違反するものであるかについて
上記アによれば,処分行政庁が本件土地に災害の発生のおそれを生じさせた責任を負うものであるということはできないのであって,原告の上記主張はその前提を欠くものである。また,仮に処分行政庁が本件土地に災害の発生のおそれを生じさせた責任を負うものであるとしても,そのために処分行政庁が宅地造成等規制法17条1項の規定に基づいて原告に対してした本件改善命令が違法となるとするならば,宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されてお
らず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合において,擁壁等の設置等又は地形等の改良のための工事を行うことを命ずることにより,災害の防止を図ろうとする同条の趣旨に反し,ひいては,宅地造成に伴い崖崩れ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において,宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行なうことにより,国民の生命及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に寄与するという同法の目的(1条)の達成を妨げることとなるのであって,このことによれば,仮に処分行政庁が本件土地に災害の発生のおそれを生じさせた責任を負うものであるとしても,そのために被告に国家賠償法上の責任が生ずることとなる可能性があることは格別,本件改善命令が信義則に反するものであるとか宅地造成等規制法17条の趣旨に照らし違法であるということはできないものというべきである。

そうすると,処分行政庁が自ら改善措置を実施せずに本件改善命令をしたことの違法をいう原告の上記主張は失当であることとなる。
なお,原告は,行政庁による権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法とされる場合に関する判例を引用し,処分行政庁は,本件土地の安全性を確保し災害を防止するため,その権限を適切に行使する義務を負っていたものであるとも主張する。しかし,処分取消しの訴えの審判の対象である処分の違法性とは,当該処分の根拠法規が定める処分要件の不充足を意味するものであるのに対して,同項にいう違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいうものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)ところ,原告の引用に係る判例は,いずれも,権限の行使について行
政庁に裁量権が付与されている場合において,行政庁による権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,当該権限の不行使は上記職務上の法的義務に違背するものとして同項の適用上違法となる旨を判示したものであり,そのような場合に,根拠法規が定める処分要件を満たしていることを理由にされる別個の処分が違法となるか否かについて触れるものではなく,本件にこれらの判例を引用するのは適切でないものというべきである。
(3)

原告は,本件改善命令はBによる違法な開発行為により開発された本件
先行開発地を守るためのものであるから,この点からも違法のそしりを免れないと主張する。
しかし,仮に違法な開発行為等により開発され又は造成された宅地であるとしても,災害から保護されなくてもよいものではなく,宅地造成に伴い崖崩れ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において,宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行なうことにより,国民の生命及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に寄与するという宅地造成等規制法の目的(1条)及び同法17条の改善命令の趣旨からすれば,違法な開発行為等により開発され又は造成された宅地に対する災害を防止するためにされたものであることを理由として改善命令が違法となることはないものというべきである。そうすると,仮に本件先行開発地がBによる違法な開発行為により開発されたものであるとしても,本件先行開発地に対する災害を防止するためにされたものであることを理由として本件改善命令が違法となることはなく,原告の上記主張は失当であることとなる。
(4)

原告は,6000㎥にも及ぶ土砂の搬出等の猶予期限をわずか7日間と
して物理的に不可能な期限を定めている本件改善命令は,改善命令は相当の猶予期限を付けてすべき旨を定める宅地造成等規制法17条1項に違反する
ものであると主張する。
しかし,処分行政庁が本件土地に相当量の盛土がされていることを初めて認識したのはIによる本件土地の地質調査の結果の報告書が提出された平成20年11月のことであることは,上記2(1)カ(ウ)のとおりであり,処分行政庁は,本件改善命令の当時には,本件土地に盛土がされているか否かや,本件土地から搬出すべき土砂の量がどれだけあるのかを確定的には認識していなかったものである。そして,そうであるとすると,本件改善命令に付けられた猶予期限は,そのような前提の下で付けられたものであり,原告が本件土地からの土砂の搬出等に着手した後に,本件土地には期限内に搬出することが不可能なほどの量の盛土がされているなど期限内に義務を履行することができない事情が存することが明らかになった場合には,その期限が変更され得るものであることが含意されていたということができるのであって,このような猶予期限は,改善命令は相当の猶予期限を付けてすべき旨を定める宅地造成等規制法17条1項に違反するものではないというべきである。原告の上記主張は失当である。
(5)

以上によれば,本件においては,本件改善命令が重大かつ明白な瑕疵に
より無効なものであるというような事情を認めることはできないから,本件改善命令が有効に存在しないため本件代執行が違法であるということはできず,そのことを理由として本件納付命令に取消事由があるということもできないものというべきである。
5
争点4(処分行政庁は原告による改善措置の実施を妨げたか否か,仮にそうであるとしてそのことにより本件納付命令は違法となるか否か)について原告は,本件土地が盛土であると知ってから,災害を未然に回避するため種々の改善措置を実施しようとしたが,処分行政庁は,本件土地から土砂を搬出するためには本件土地の開発行為等の許可を受けることが絶対に必要である,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員
6mの道路を設置することが必要である,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であるなどとして,原告が改善措置を実施することを妨げたのであって,処分行政庁が原告に対し本件土地の開発行為等の許可を受けること等を指導したことは違法であり,このような事情は本件納付命令の違法事由となると主張する。
(1)

処分行政庁は原告による改善措置の実施を妨げたか否かについて
しかし,上記各指導のうち,本件土地から土砂を搬出するためには本件土
地の開発行為等の許可を受けることが必要であるという指導は,危険防止のための盛土の搬出の願い出及び行政上の支援の求めに対してされたものであるが,本件土地の開発行為等の許可を受けるためには本件土地から市道に通ずる幅員6mの道路を設置することが必要である,上記道路を設置するためには隅切りを設置することが必要であるという指導は,本件土地の開発行為等の許可についての相談に対してされたものであることは,上記2(1)ウ(ア)ないし(ウ)及び(2)ウのとおりであり,幅員6mの道路又は隅切りを設置することに係る指導について,原告が改善措置を実施しようとしたのに対してされたものであるということはできないものというべきである。また,上記各指導のうち,本件土地の開発行為等の許可を受けることに係る指導についても,原告は,上記願い出及び支援の求めに当たり,本件土地の開発行為等については自らの負担をもってする意思を有していたものの,緊急に本件土地から土砂を搬出するなどの改善措置については自らの負担をもって実施する意思も能力も有しておらず,本件土地からの土砂の搬出を実現するためには行政上の支援を受けるなどすることを必要としており,かつ,本件土地を買い受けるに先立ち,Gから本件土地は切土であると聞かされた経緯があるため,行政の積極的な支援を期待していたものであることは,上記2(1)ウ(ア)ないし(ウ)及び(2)ウのとおりであり,原告が(自らの費用と責任をもって主体的に)改善措置を実施しようとしたのに対してされたもの
であるということはできないものというべきであるし,さらに,Gらが,本件土地の安全性は本件土地の開発行為等の許可により確保されることとなるから,緊急に本件土地から土砂を搬出することを認める必要はない旨の判断に基づき,上記指導をしたものであることは,上記2(1)ウ(ア)ないし(ウ)及び(2)ウのとおりであり,処分行政庁が,原告が改善措置を実施することを妨げたということもできないものというべきである。
(2)

処分行政庁の原告の願い出に対する対応により本件納付命令は違法とな
るか否かについて
そして,行政代執行法5条の規定に基づいてされた納付命令について,法の一般原理である信義則の法理の適用等により,それを違法なものとして取り消すことができる場合があるものとしても,原告が,自らの負担をもって緊急に本件土地から土砂を搬出するなどの改善措置を実施する意思も能力も有しないまま,行政の積極的な支援を期待して,危険防止のため本件土地から盛土を搬出することを認めるように願い出たところ,処分行政庁が,本件土地の安全性は本件土地の開発行為等の許可により確保されることとなるから,緊急に本件土地から土砂を搬出することを認める必要はない旨の判断に基づき,原告の願い出には応じなかったという事実があるからといって,本件納付命令が信義則の法理の適用等により違法となるということはできないものというべきである。
(3)

そうすると,処分行政庁が原告による改善措置の実施を妨げたことによ
る本件納付命令の違法をいう原告の上記主張は失当であることとなる。なお,平成19年9月10日頃,近隣住民から八王子市に対し本件土地の斜面に亀裂が入っている旨の申出があり,八王子市は,処分行政庁に対し,その旨の連絡をしたところ,Gらは,従前と同様の判断に基づき,原告に対し,当面の措置として本件土地の斜面をブルーシートで覆い雨水の浸透を防止した上,早急に改善策を提案するように指導するにとどめ,緊急に本件土
地から土砂を搬出するように指導することまではしなかったことは,前記2(1)ウ(エ)のとおりであり,その後,本件災害が発生したことを踏まえると,上記時点において緊急に本件土地から土砂を搬出するように指導していれば本件災害は防止することができたものであり,本件災害はGらの指導が適切さを欠いたことから発生したものであるということもできないものとまではいえない。しかし,本件災害の発生の直接の原因となった降雨が,関東地方で発生した局所的な大雨であり,八王子市における2日間の総雨量は220.5mm,1時間の最大雨量は63mmと記録的な豪雨であったことは,前記2(1)エのとおりであり,このことによれば,本件災害はその発生を予測することが必ずしも容易ではなかったものであると認めることができることからすると,Gらが上記のとおり指導するにとどめた事実があるからといって,本件納付命令が信義則の法理の適用等により違法となるということはできないものというべきである。
6
争点5(本件納付命令には納付を命ずる金額の過大等の瑕疵があるか否か)について
(1)

納付を命ずる金額について
原告は,本件納付命令が納付を命ずる9527万2800円という金額は
余りにも過大であり,処分行政庁が本件代執行により実施した土砂の搬出は総額2000万円で実施することができるものであると主張する。しかし,処分行政庁が本件代執行により実施した土砂の搬出が総額2000万円で実施することができるものであることについては,証拠が全くない。そして,乙第8号証(八王子市作成の変更執行伺書)によれば,本件代執行に係る工事である土砂の流出防止(土砂の搬出)及びがけ面の保護ほかの工事の費用を被告の積算基準及び設計単価表に基づいて計算すると,その金額は合計9556万1550円となると認めることができるところ,乙第13号証及び証人Jの証言によれば,本件土地は,市道に接している通路部分の
幅員が狭く,しかも急勾配であるため,土砂運搬用のダンプが通路部分までしか入ることができないものであり,本件代執行に係る工事は,通路部分まで小型の運搬具を使用して土砂を運搬した上でダンプに積載する必要があるなど,手間の掛かるものであったと認めることができるのであり,このことに加えて,原告が,本件納付命令が納付を命ずる金額の一般的な過大をいうのみで,いかなる費目の金額がどのように過大であるかという具体的な主張及び立証を一切していないことをも考慮すると,上記金額は本件代執行に係る工事の費用として適正な範囲を超える金額ではないものであると認めることができる。そうすると,その金額の範囲内にある本件納付命令が納付を命ずる金額(9527万2800円)は適正な金額であると認めることができることとなる。
(2)

納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等の提示について
原告は,処分行政庁が原告の求めにもかかわらず,本件納付命令が納付を
命ずる金額の算出根拠や内訳等を一切示さなかったため,その金額がどのようなものであるのかを判断することができなかったのであり,本件納付命令は原告に納付を命ずる金額の適否の判断の機会を与えていない点からも違法であると主張する。

納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等の提示について
処分行政庁の開発指導第1課の課長であったJが,平成20年11月以降,数回にわたり,原告に対し,本件代執行に係る工事の内容及びその実施状況並びにそれに要する費用について説明し,平成21年3月19日付けで本件納付命令がされた後である同月25日にも,原告に対し,本件納付命令が納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等について説明したことは,上記2(1)キのとおりであり,このことによれば,処分行政庁は,原告に対し,本件納付命令が納付を命ずる金額の算出根拠や内訳等を示したものであると認めることができるのであって,原告の上記主張はその前提を欠
くものである。

聴聞弁明の機会の付与について
仮に原告の上記主張が聴聞又は弁明の機会の付与を欠くことをいうものであるとしても,行政代執行法の中には,聴聞弁明の機会の付与についての定めが置かれておらず,また,行政手続法13条1項は,不利益処分をしようとする場合の聴聞弁明の機会の付与について定めているが,同条2項4号は,一定の額の金銭の納付を命ずる不利益処分をしようとするときは前項の規定は適用されない旨を定めているところ,行政代執行法5条の規定に基づく納付命令は,一定の額の金銭の納付を命ずる不利益処分に該当するのであって,行政庁が,納付命令をしようとする場合に,聴聞弁明の機会の付与をしなければならないものとする法令上の根拠は存在しない。したがって,処分行政庁が,本件納付命令をするに当たり,原告に対し,聴聞弁明の機会の付与をしなかったことは,何ら違法ではないものというべきである。


不利益処分の理由の提示について
また,仮に原告の上記主張が不利益処分の理由の提示の不備をいうものであるとしても,行政手続法14条1項本文が,行政庁は,不利益処分をする場合には,その名宛人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならないと定めているのは,行政庁の判断の慎重と合理性とを担保してその恣意を抑制するとともに,不利益処分の理由を名宛人に知らしめて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであると解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきであるかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該不利益処分の根拠法令の規定内容,当該不利益処分に係る審査基準の内容等,当該不利益処分の性質及び内容,当該不利益処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきであるが,同項本文の上記のような趣旨に鑑みれば,処分通知書に
記載する理由は,原則として,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該不利益処分がされたかを名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと解すべきである(最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁,最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号327頁参照)。
これを本件についてみると,本件納付命令に係る納付命令書には,根拠法条として行政代執行法5条の規定が記載された上,本件代執行の実施場所,実施時期及び請求内容が記載されていたことは,前提事実(7)のとおりであって,このことによれば,本件納付命令の理由の提示は,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件納付命令がされたかを名宛人である原告においてその記載自体から了知し得るものであったということができ,本件納付命令は行政手続法14条1項の不利益処分の理由の提示の規定に違反するものではないものというべきである。
7
本件納付命令の適法性について
原告は,上記1ないし6で検討した点のほかには,本件納付命令の違法を主張していないところ,本件納付命令からは,その余の違法をうかがうこともできない。したがって,本件納付命令は適法な処分というべきである。
第4

結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

川神


裁判官

内野俊夫

裁判官

日暮直子

(別紙)
関係法令の定め

1
宅地造成等規制法の定め
(1)

8条(宅地造成に関する工事の許可)
宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事については,造成主は,当該工事に着手する前に,国土交通省令で定めるところにより,都道府県知事の許可を受けなければならない。(1項)

都道府県知事は,前項の許可の申請に係る宅地造成に関する工事の計画が次条の規定に適合しないと認めるときは,同項の許可をしてはならない。(2項)


都道府県知事は,1項の許可に,工事の施行に伴う災害を防止するため必要な条件を付することができる。(3項)
(1項ないし3項につき,平成18年法律第30号による改正前のもの)
(2)

9条(宅地造成に関する工事の技術的基準)
宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事は,政
令(その政令で都道府県の規則に委任した事項に関しては,その規則を含む。)で定める技術的基準に従い,擁壁又は排水施設の設置その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければならない。(1項)
(平成18年法律第30号による改正前のもの)
(3)

12条(工事完了の検査)
造成主は,8条1項の工事を完了した場合においては,国土交通省令で定めるところにより,その工事が9条1項の規定に適合しているかどうかについて,都道府県知事の検査を受けなければならない。(1項)

都道府県知事は,前項の検査の結果工事が9条1項の規定に適合してい
ると認めた場合においては,国土交通省令で定める様式の検査済証を造成主に交付しなければならない。(2項)
(1項及び2項につき,平成18年法律第30号による改正前のもの)(4)

17条(改善命令)
都道府県知事は,宅地造成工事規制区域内の宅地で,宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず,又は極めて不完全であるために,これを放置するときは,宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合においては,その災害の防止のため必要であり,かつ,土地の利用状況その他の状況からみて相当であると認められる限度において,当該宅地又は擁壁等の所有者,管理者又は占有者に対して,相当の猶予期限を付けて,擁壁等の設置若しくは改造又は地形若しくは盛土の改良のための工事を行うことを命ずることができる。(1項)


前項の場合において,同項の宅地又は擁壁等の所有者,管理者又は占有者(以下この項において「宅地所有者等」という。)以外の者の宅地造成に関する不完全な工事その他の行為によって前項の災害の発生のおそれが生じたことが明らかであり,その行為をした者(その行為が隣地における土地の形質の変更であるときは,その土地の所有者を含む。以下この項において同じ。)に前項の工事の全部又は一部を行わせることが相当であると認められ,かつ,これを行わせることについて当該宅地所有者等に異議がないときは,都道府県知事は,その行為をした者に対して,同項の工事の全部又は一部を行うことを命ずることができる。(2項)

2
行政代執行法の定め
(1)

2条(代執行)
法律(法律の委任に基く命令,規則及び条例を含む。以下同じ。)により
直接に命ぜられ,又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代ってなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合,他の手段によってその履行を確保することが困難であり,且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは,当該行政庁は,自ら義務者のなすべき行為をなし,又は第三者をしてこれをなさしめ,その費用を義務者から徴収することができる。
(2)

3条(戒告,通知)
前条の規定による処分(代執行)をなすには,相当の履行期限を定め,その期限までに履行がなされないときは,代執行をなすべき旨を,予め文書で戒告しなければならない。(1項)


義務者が,前項の戒告を受けて,指定の期限までにその義務を履行しないときは,当該行政庁は,代執行令書をもって,代執行をなすべき時期,代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知する。(2項)


非常の場合又は危険切迫の場合において,当該行為の急速な実施について緊急の必要があり,前2項に規定する手続をとる暇がないときは,その手続を経ないで代執行をすることができる。(3項)

(3)

5条(費用の徴収)
代執行に要した費用の徴収については,実際に要した費用の額及びその納
期日を定め,義務者に対し,文書をもってその納付を命じなければならない。
トップに戻る

saiban.in