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納税の猶予不許可処分取消請求事件
事件番号平成23(行ウ)71
事件名納税の猶予不許可処分取消請求事件
裁判年月日平成25年4月26日
法廷名名古屋地方裁判所
判示事項1 国税通則法46条2項に基づく消費税等の納税猶予申請に対する不許可処分の取消請求が,認容された事例
2 処分要件充足性有無の判断の基礎となる証拠資料
裁判要旨1 国税通則法46条2項に基づく消費税等の納税猶予申請に対する不許可処分の取消請求につき,同納税猶予制度は納税者の救済のための例外的な制度であるという趣旨や,納税の猶予の要件等に関する同項の規定内容に鑑みれば,その許否を税務署長等の裁量的判断に委ねているものと解すべきであるが,「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(昭和51年6月3日付け徴徴3−2,徴管2−32国税庁長官通達)において納税者間の負担の公平を図るために画一的な数値的基準が設けられている部分について,その定めが合理性を有するものである場合には,税務署長等の判断が当該基準に合致しないときは,当該基準によらないことについて合理的な理由がない限り,裁量権の範囲の逸脱があると評価することが相当であるとした上,前記通達第2章第1節1(3)ニ(イ)が一定の数値的な基準をもって同項4号該当性を判断することとしていることは合理性を有するところ,同(イ)に該当し,事業につき著しい損失を受けたと認められるにもかかわらず,税務署長がした同号に該当する事実が認められないとの判断は,前記基準に合致しないものであり,当該基準によらないことについて合理的な理由もないから,その判断には裁量権の範囲の逸脱があるとして,前記請求を認容した事例
2 一般に,処分要件充足性の有無は,処分時において処分要件に該当する事実が客観的に存在していたかどうかによって決せられるものであり,その判断の基礎となる証拠資料は,特段の定めのない限り,行政庁が処分時に認識していたものに限られない。
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平成25年4月26日判決言渡
平成23年(行ウ)第71号

納税の猶予不許可処分取消請求事件

主1文
処分行政庁が原告P1に対し平成21年7月8日付けでした,平成19年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税38万4600円のうち14万円並びに平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税37万0300円の合計51万0300円についての納税の猶予の不許可処分を取り消す。

2
原告P2及び原告P3の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,被告に生じた費用の3分の1と原告P1に生じた費用を被告の負担とし,被告に生じたその余の費用と原告P2及び原告P3に生じた費用を原告P2及び原告P3の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

1
主文第1項と同旨

2
処分行政庁が原告P2に対し平成21年7月8日付けでした,平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税34万7800円のうち18万円についての納税の猶予の不許可処分を取り消す。
3
処分行政庁が原告P3に対し平成21年7月8日付けでした,平成16年分の所得税11万0900円のうち1万5000円,平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税15万9300円のうち3万7000円,平成19年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税12万9200円のうち9200円並びに平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税12万8300円の合計18万9500円についての納税の猶予の不許可処分
を取り消す。
第2

事案の概要
本件は,原告らが,それぞれ処分行政庁に対し,消費税等について,国税通則
法(以下「通則法」という。)46条2項に基づき,納税の猶予の申請をしたところ,処分行政庁から,いずれも平成21年7月8日付けで申請を不許可とする処分を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
1
関係法令等の定め

(1)通則法46条2項は,「税務署長等は,同項各号のいずれかに該当する事実がある場合において,その該当する事実に基づき,納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは,その納付することができないと認められる金額を限度として,納税者の申請に基づき,1年以内の期間を限り,その納税を猶予することができる。」旨規定し,同項4号において「納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと」を,同項5号において「前各号の一に該当する事実に類する事実があったこと」をそれぞれ掲げている(同項の全文は,別紙「関係法令等」記載1のとおりである。また,同項の納税猶予の申請手続について,国税通則法施行令15条2項は,別紙「関係法令等」記載2のとおり定めている。)。
(2)国税庁長官が発出した通達である昭和51年6月3日付け徴徴3-2,徴管2-32「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(以下「猶予取扱要領」という。甲全1)は,通則法46条2項4号にいう「事業につき著しい損失を受けた」とは,納税の猶予の始期の前日の前1年間(以下「調査期間」という。)の損益計算において,調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものであるとし(第2章第1節1(3)ニ(イ)),また,同項5号にいう「前各号の一に該当する事実に類する事実があ
ったこと」,具体的には「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実(同項3号又は4号に類する事実)」とは,「下請企業である納税者が,親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと,その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けたこと」(同節1(3)へ(ハ))などをいうものとしている(猶予取扱要領のうち,本件に関係する部分は,別紙「関係法令等」記載3のとおりである。)。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む。)

(1)当事者

原告P2は,愛知県津島市内において,「P4」の屋号で,料理飲食業を営む個人事業者である。


原告P1は,愛知県津島市内において,「P5」の屋号で,鉄工業を営む個人事業者である。


原告P3は,愛知県弥富市内において,「P6」の屋号で,家電小売業を営む個人事業者である。

(2)本件各処分の経緯等

原告P2について
(ア)原告P2は,平成21年3月13日,処分行政庁に対し,平成20年分の所得税の確定申告書(乙A1)並びに平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税(以下「平成20年分の消費税・地方消費税」といい,他の課税期間についても同様の呼称を用いる。)の確定申告書(乙A2)を提出した。これによって,原告P2の平成20年分の所得税3万9400円及び平成20年分の消費税・地方消費税34万7800円の納税義務が確定した。
(イ)原告P2は,平成21年3月30日,処分行政庁に対し,前記(ア)の平
成20年分の消費税・地方消費税のうち納期限内に納付した16万7800円を控除した18万円について,平成21年4月1日を始期とする納税の猶予の申請(以下「本件申請A」という。)をした。
本件申請Aに係る納税の猶予申請書(乙A3)には,納税の猶予を受けようとする理由として,「国税通則法等。46条第2項5号に該当。ここ数年,売上げと利益が減少している為」と記載されていた。
(ウ)原告P2は,平成21年5月25日,津島税務署を訪れ,納税の猶予申請についての説明及び請願書(乙A4),平成11年分から平成20年分までの年間の売上げ,仕入れ(ただし平成11年分ないし平成15年分の仕入れを除く。)及び所得の各金額を年分ごとに記載したとする書面(乙A5)並びに現在納付能力調査表(乙A6)を提出した。
(エ)処分行政庁は,平成21年7月8日,原告P2に対し,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,本件申請Aを不許可とする処分(以下「本件処分A」という。)をし,これを同原告に通知した。(甲A2,乙A7)
(オ)原告P2は,平成21年7月28日,処分行政庁に対し,本件処分Aの全部の取消しを求めて異議申立てをしたが,処分行政庁は,同年10月28日,同異議申立てを棄却する旨の決定をした。(乙A8,9)
(カ)原告P2は,平成21年11月27日,国税不服審判所長に対し,本件処分Aの全部の取消しを求めて審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成22年11月18日,同審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲A3,乙A10)

原告P1について
(ア)原告P1は,平成20年3月13日,平成19年分の消費税・地方消費税の確定申告書(乙B1)を提出した。これによって,原告P1の平成19年分の消費税・地方消費税38万4600円の納税義務が確定した。
(イ)原告P1は,平成21年3月13日,平成20年分の所得税の確定申告書(乙B2)及び平成20年分の消費税・地方消費税の確定申告書(乙B3)を提出した。これによって,原告P1の平成20年分の消費税・地方消費税37万0300円の納税義務が確定した。
(ウ)原告P1は,平成21年3月30日,処分行政庁に対し,前記(ア)の平成19年分の消費税・地方消費税のうち既に納付した24万4600円を控除した14万円及び前記(イ)の平成20年分の消費税・地方消費税37万0300円の合計51万0300円について,平成21年4月1日を始期とする納税の猶予の申請(以下「本件申請B」という。)をした。本件申請Bに係る納税の猶予申請書(乙B4)には,納税の猶予を受けようとする理由として,「国税通則法第46条第2項第4,5号に該当やむを得ない事由により売上げの減少のため

平成20年12月から利益

が半減ないし赤字のため」と記載されていた。
(エ)原告P1の妻は,平成21年5月25日,津島税務署を訪れ,納税の猶予申請についての説明及び請願書(乙B5),平成19年10月から平成20年4月まで及び同年10月から平成21年4月までの各月別の売上げ,経費及び所得の各金額を記載したとする書面(乙B6)並びに現在納付能力調査表(乙B7)を提出した。
(オ)処分行政庁は,平成21年7月8日,原告P1に対し,通則法46条2項4号及び5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,本件申請Bを不許可とする処分(以下「本件処分B」という。)をし,これを同原告に通知した。(甲B2,乙B8)
(カ)原告P1は,平成21年7月28日,処分行政庁に対し,本件処分Bの全部の取消しを求めて異議申立てをしたが,処分行政庁は,同年10月28日,同異議申立てを棄却する旨の決定をした。(乙B9,10)(キ)原告P1は,平成21年11月27日,国税不服審判所長に対し,本件
処分Bの全部の取消しを求めて審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成22年11月18日,同審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲B3,乙B11)
(ク)原告P1は,平成23年5月19日に本件訴訟を提起した後,平成24年10月2日の第1回弁論準備手続期日から同年11月13日の第2回弁論準備手続期日までの間に,津島税務署職員に対し,売上及び経費に関する帳簿及び原資料(領収書,預金通帳,出金伝票等)を提示し,同職員の確認を受けた上,これを踏まえて前記(エ)の書面(乙B6)を訂正・補充した自主計算書(甲B19)及び前記(エ)の現在納付能力調査表(乙B7)を訂正した現在納付能力調査表(甲B20)を本件訴訟の証拠として提出した。その結果,原告P1の平成19年11月から平成20年3月までの利益金額が86万7282円,同年11月から平成21年3月までの損失金額が181万1734円であり,通則法46条2項4号に該当する事実が存在することは同原告と被告との間で争いがなくなった。(弁論の全趣旨)

原告P3について
(ア)原告P3は,平成17年3月15日,処分行政庁に対し,平成16年分の所得税の確定申告書(乙C1)を提出した。これによって,原告P3の平成16年分の所得税11万0900円の納税義務が確定した。
(イ)原告P3は,平成19年3月13日,処分行政庁に対し,平成18年分の消費税・地方消費税の確定申告書(乙C2)を提出した。これによって,原告P3の平成18年分の消費税・地方消費税15万9300円の納税義務が確定した。
(ウ)原告P3は,平成20年3月13日,処分行政庁に対し,平成19年分の消費税・地方消費税の確定申告書(乙C3)を提出した。これによって,原告P3の平成19年分の消費税・地方消費税12万9200円の納
税義務が確定した。
(エ)原告P3は,平成21年3月13日,処分行政庁に対し,平成20年分の所得税の確定申告書(乙C4)及び平成20年分の消費税・地方消費税の確定申告書(乙C5)を提出した。これによって,原告P3の平成20年分の消費税・地方消費税12万8300円の納税義務が確定した。(オ)原告P3は,平成21年3月30日,処分行政庁に対し,前記(ア)の平成16年分の所得税のうち既に納付した9万5900円を控除した1万5000円,前記(イ)の平成18年分の消費税・地方消費税のうち既に納付した12万2300円を控除した3万7000円,前記(ウ)の平成19年分の消費税・地方消費税のうち既に納付した12万円を控除した9200円及び前記(エ)の平成20年分の消費税・地方消費税12万8300円の合計18万9500円について,平成21年4月1日を始期とする納税の猶予の申請(以下「本件申請C」という。)をした。
本件申請Cに係る納税の猶予申請書(乙C6)には,納税の猶予を受けようとする理由として,「国税通則法第46条第2項5号に該当

大型店

との競合で商品の値引きと消費税相当分の値引きにより売り上げ減少して利益が減ったため」と記載されていた。
(カ)原告P3は,平成21年5月25日,津島税務署を訪れ,納税の猶予申請についての説明及び請願書(乙C8),平成12年分から平成20年分までの年間の売上げ,仕入れ,期首在庫,期末在庫,経費及び所得の各金額を年分ごとに記載したとする書面(乙C9)並びに現在納付能力調査表(乙C10)を提出した。
(キ)処分行政庁は,平成21年7月8日,原告P3に対し,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,本件申請Cを不許可とする処分(以下「本件処分C」という。)をし,これを同原告に通知した。(甲C2,乙C11)

(ク)原告P3は,平成21年7月28日,処分行政庁に対し,本件処分Cの全部の取消しを求めて異議申立てをしたが,処分行政庁は,同年10月28日,同異議申立てを棄却する旨の決定をした。(乙C12,13)(ケ)原告P3は,平成21年11月27日,国税不服審判所長に対し,本件処分Cの全部の取消しを求めて審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成22年11月18日,同審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲C3,乙C14)
3
争点及び当事者の主張
本件の争点は,原告らに対して納税の猶予を不許可とした本件各処分が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるか否かであり,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。

【原告らの主張】
(1)通則法46条2項4号及び5号の解釈

通則法46条2項4号に関する猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)は,納税猶予の要件として「調査期間の損益計算において,基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じている」という数値的な基準を設けているが,このような画一的な基準を設けることは,行政裁量の余地を封じ,納税者の実情に鑑みた柔軟な納税猶予制度の運用(猶予取扱要領第1章総則1)を妨げるものであるから,通則法の規定に照らして合理性を有しない。

仮に,通則法46条2項4号に関する猶予取扱要領の定めが通則法の規定に照らして合理性を有するものであったとしても,同号にいう「損失」とは,損益計算において損失が生じている(赤字である)ことを意味するのではなく,基準期間の「特前所得」(特別控除前所得。事業専従者給与控除額及び青色申告特別控除額を控除する前の所得金額のことをいう。以下同じ。)と調査期間の「特前所得」とを比較し,後者が前者よりも減少していることをいうと解すべきである。したがって,猶予取扱要領第2章第1節1
(3)ニ(イ)本文は,基準期間の「特前所得」から調査期間の「特前所得」への減少幅が基準期間の「特前所得」の2分の1を超える場合のことをいい,同括弧書きは,基準期間前1年間の「特前所得」から基準期間の「特前所得」が減少している場合であって,その減少幅よりも,基準期間の「特前所得」から調査期間の「特前所得」への減少幅が大きい場合のことをいうことになる。これと異なり,被告が主張するように,同号にいう「損失」とは損益計算において損失が生じていることをいうと解するならば,同号は所得税について一切機能しない結果となるから,このような解釈は,不当である。ウ
仮に,被告の主張するように通則法46条2項4号にいう「損失」が赤字を意味するとしても,損益計算に当たって用いられる「利益金額」は,「特前所得」から,家計調査年報における実支出額(総務省統計局による全国の1世帯当たりの消費支出と非消費支出の合計額)を差し引いた金額をいうと解すべきである。すなわち,猶予取扱要領は,法人を念頭に置いて規定されていると解されるところ,法人が役員報酬,従業員の給与,事務所の賃料等の経費を差し引くのと同様に,原告らのような個人事業主においては,収入から自己や家族の生活に必要な費用を差し引いた上で納税資金を捻出することになるから,法人との均衡を考慮すれば,「特前所得」から実支出額を差し引いた金額が現実の「利益金額」となる。そして,本件で指標とすべき実支出額は,家計調査年報によれば,平成19年につき491万6592円(1か月当たり40万9716円/月×12か月),平成20年につき499万6980円(1か月当たり41万6415円×12か月)となる。

また,通則法46条2項5号に関する猶予取扱要領の定めに関しては,納税者の実情に鑑みて個別具体的に妥当な納税猶予の判断を可能にするような解釈をすべきである。すなわち,猶予取扱要領は,通則法46条2項5号該当事実について,同項4号該当事実のような数値的基準を明示しておらず,単に「従前に比べ」というだけで,同項4号における「直前の1年間」とい
うような限定を付していない。これら諸点に照らすと,ある程度幅のある期間において,ある程度の売上げ又は利益の減少があれば,通則法46条2項5号に該当するというべきである。
(2)本件各処分の違法性

本件処分Aについて
(ア)原告P2の売上げは,平成18年2113万5060円,平成19年1956万8820円,平成20年1841万2650円,「特前所得」は,平成18年389万4840円,平成19年306万8802円,平成20年270万6248円であり,いずれも2年続けて減少している。平成20年の売上げは,平成13年の売上げ2815万9870円に比べて約1000万円も減少し,平成20年の「特前所得」は,平成14年の「特前所得」538万8000円に比べて5割程度まで減少している。そして,その原因は,競合店の進出による競争激化や飲酒運転の取締り強化に伴う酒類の売上げ低下にあり,原告P2の責めに帰すことができないやむを得ないものである。
以上に加え,原告P2は,平成17年に初めて消費税の納税義務者となったものであること,原告P2の世帯に最低限必要な生活費(生活保護基準による。)は,年額167万2080円と算出されること,原告P2は,事業資金の借入金について,平成19年及び平成20年に年額約480万円の返済を要したことをも考慮すると,原告P2は,その事業につき著しい損失を受け,又はこれに類する事実があったというべきであり,通則法46条2項4号及び5号に該当する(猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ハ)所定の「納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けた」ときに当たることからも,通則法46条2項5号該当性は明らかである。)。

(イ)仮に,被告の主張するように通則法46条2項4号にいう「損失」が赤字を意味するとしても,前記(1)ウに従って損益計算をすると,原告P2には,平成19年においては184万7790円の損失(特前所得306万8802円-実支出額491万6592円=-184万7790円),平成20年においては229万0732円の損失(特前所得270万6248円-実支出額499万6980円=-229万0732円)が生じている。そうすると,原告P2は,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)所定の「調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき」に当たり,通則法46条2項4号に該当する。
(ウ)以上によれば,原告P2は,通則法46条2項4号及び5号に該当し,納税の猶予の要件を充足していたものであり,それにもかかわらず納税の猶予を許可しなかった本件処分Aには,裁量権の範囲を逸脱した違法がある。

本件処分Bについて
(ア)原告P1の「特前所得」は,平成19年449万5002円,平成20年438万3267円であって,減少している上,平成20年の上記金額は,平成14年の「特前所得」610万3038円に比べると,3分の2程度まで減少している。
そして,その原因は,賃料の増加や注文主からの単価の切下げ及び受注の減少にあり,原告P1の責めに帰すことができないやむを得ないものである。
以上に加え,原告P1は,平成17年に初めて消費税の納税義務者となったものであること,原告P1の世帯に最低限必要な生活費(生活保護基準による。)は,年額244万6200円と算出されるが,原告P1はその基準を下回る苦しい生活状況にあったこと,原告P1は,事業資金の借入金について,平成20年は年額約315万円の返済を要したことをも考
慮すると,原告P1は,その事業につき著しい損失を受け,又はこれに類する事実があったというべきであり,通則法46条2項4号及び5号に該当する(猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ハ)所定の「納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けた」ときに当たることからも,通則法46条2項5号該当性は明らかである。)。
(イ)仮に,被告の主張するように通則法46条2項4号にいう「損失」が赤字を意味するとしても,原告P1については,いわゆるリーマン・ショックの影響により,平成20年11月1日以降,P7株式会社からの加工注文数が激減したものであり,この事実は,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)なお書きに規定された「損失発生の原因となるような事実」に該当し,その発生日の特定もできる。そうすると,調査期間のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間(以下「修正調査期間」という。)である同月から平成21年3月までの期間と,基準期間のうち修正調査期間に対応する期間(以下「修正基準期間」という。)である平成19年11月から平成20年3月までの期間を比較して,同節1(3)ニ(イ)該当性について判定することが可能である。
これを前提として前記(1)ウに従って損益計算をすると,原告P1は,修正基準期間においては39万5864円の利益(特前所得244万4444円-実支出額204万8580円=39万5864円。なお,実支出額は1か月当たり40万9716円×5か月により算出。),修正調査期間においては191万2944円の損失(特前所得16万9131円-実支出額208万2075円=-191万2944円。なお,実支出額は1か月当たり41万6415円×5か月により算出。)が生じている。そうすると,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)所定の「調査期間の損益計算において,基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると
認められる場合」に当たるから,通則法46条2項4号に該当するというべきである。
(ウ)仮に,原告P1の通則法46条2項4号該当性について被告主張の算定方法によったとしても,修正調査期間(平成20年11月から平成21年3月まで)の損益計算において,修正基準期間(平成19年11月から平成20年3月まで)の利益金額86万7282円の2分の1を超えて181万1734円の損失が生じているから,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)所定の場合に当たり,通則法46条2項4号に該当する。なお,被告は,本件処分Bがされた後に提出された資料に基づいて猶予該当事実の有無を判断すべきではない旨主張するが,民事訴訟の原則どおり,事実審の口頭弁論終結時までに提出された資料に基づき猶予該当事実の有無を判断することに何ら問題はない。原告P1は,猶予該当事実を主張立証するための十分な資料を提出して納税の猶予を申請したし,その際には,津島税務署の担当者からそれ以上具体的な資料の提出を求められることはなかった。原告P1が本件訴訟で提出した補充的な資料を申請段階で提出しなかったのは,それ以上の資料提出は不必要であると考えたためにすぎない。
(エ)以上によれば,原告P1は,通則法46条2項4号及び5号に該当し,納税の猶予の要件を充足したものであり,それにもかかわらず納税の猶予を許可しなかった本件処分Bには,裁量権の範囲を逸脱した違法がある。ウ
本件処分Cについて
(ア)原告P3の「特前所得」は,平成18年216万8919円,平成19年151万8429円,平成20年144万7369円であり,減少が続いている。また,原告P3の平成18年ないし平成20年の売上げ(平成18年1924万0094円,平成19年2010万9594円,平成20年2082万2939円)は,平成12年,平成13年や平成17年の
売上げ(平成12年3544万1761円,平成13年3372万4997円,平成17年2544万6967円)に比べて大幅に減少している。そして,その原因は,競合店の進出による競争激化にあり,原告P3の責めに帰すことができないやむを得ないものである。
以上に加え,原告P3は,平成15年までは消費税の納税義務者であったが,平成16年には消費税の納税義務者ではなくなり,平成17年に再び消費税の納税義務者となったものであること,原告P3の世帯に最低限必要な生活費(生活保護基準による。)は,年額165万1560円と算出されること,原告P3は,事業資金の借入金について,平成19年は年額約420万円の返済を要したことをも考慮すると,原告P3は,その事業につき著しい損失を受け,又はこれに類する事実があったというべきであり,通則法46条2項4号及び5号に該当する(猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ハ)所定の「納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けた」ときに当たることからも,通則法46条2項5号該当性は明らかである。)。
(イ)仮に,被告の主張するように通則法46条2項4号にいう「損失」が赤字を意味するとしても,前記(1)ウに従って損益計算をすると,原告P3は,平成19年においては339万8163円の損失(特前所得151万8429円-実支出額491万6592円=-339万8163円),平成20年においては354万9611円の損失(特前所得144万7369円-実支出額499万6980円=-354万9611円)が生じている。そうすると,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)所定の「調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき」に当たり,通則法46条2項4号に該当する。
(ウ)以上によれば,原告P3は,通則法46条2項4号及び5号に該当し,
納税の猶予の要件を充足したものであり,それにもかかわらず納税の猶予を許可しなかった本件処分Cには,裁量権の範囲を逸脱した違法がある。【被告の主張】
(1)通則法46条2項4号及び5号の解釈等

納税の猶予の許否の判断に係る裁量権
通則法46条2項は,納税の猶予の申請をした納税者に納税の猶予を許可するか否かを税務署長等の裁量的判断に委ねていると解するのが相当であり,納税の猶予を許可しない処分が違法と評価されるのは,当該処分をした税務署長等の判断に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に限られるというべきである。
そして,猶予取扱要領の定めが合理性を有するものであることなどに照らすと,納税の猶予の許否に関する税務署長等の判断がその定めに従ってされたものである限り,当該税務署長等の判断は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとの評価を受けることはないというべきである。


通則法46条2項4号及び5号該当性の判断方法
通則法46条2項4号に関する猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)は,納税猶予の要件として「調査期間の損益計算において,基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じている」という数値的な基準を設けているところ,ここでいう「損失」とは,いわゆる赤字,純損失(欠損)を意味するものである。
通則法46条2項5号(3号又は4号類似)の判断基準を定めた猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘには,「損失」に類する事実として「売上の減少」((ロ)及び(ハ))が掲げられているところ,この「売上の減少」の判断は,4号の場合と同様に,調査期間と基準期間の売上金額を比較する方法によるのが相当である。


判断の基礎資料

納税の猶予制度の特徴や,納税の猶予申請に対して質問検査権に関する国税徴収法141条の適用がないことなどに鑑みると,税務署長等において納税の猶予の要件充足の有無を的確に判断するためには,第一義的には,納税の猶予を受けようとする納税者自身が,猶予該当事実を証する資料を提出するなどして,自ら積極的に当該事実の存在を明らかにすることが要請されているというべきであり,税務署長等は,処分時までに納税者から提出された資料の範囲内で許否の判断をすれば足りるというべきである。
(2)本件各処分の適法性

本件処分Aについて
(ア)原告P2が提出した資料によっては,調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の損益計算を行うことができないし,仮に,原告P2が主張する平成20年の「特前所得」に基づき判断したとしても,同年において原告P2の事業について著しい損失は発生していないから,原告P2について,通則法46条2項4号に該当する事実は認められない。
また,原告P2が提出した資料によっては,調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)と基準期間(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の売上金額の比較をすることができないし,仮に,原告P2の主張する平成19年及び平成20年の売上金額に基づき判断したとしても,この間の売上金額の減少率は5.9%にすぎないから,原告P2について,通則法46条2項5号に該当する事実は認められない。
(イ)以上によれば,本件処分Aは,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められず,適法である。


本件処分Bについて
(ア)原告P1が本件処分Bまでに提出した資料によっては,調査期間(平成
20年4月1日から平成21年3月31日まで)の損益計算を行うことができないし,仮に,原告P1が主張する平成20年の「特前所得」に基づき判断したとしても,同年において原告P1の事業について著しい損失は発生していないから,原告P1について,通則法46条2項4号に該当する事実は認められない。
また,仮に,原告P1が本件処分Bまでに提出した資料に記載された調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)及び基準期間(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の売上金額に基づき判断したとしても,この間の売上金額の減少率は16.4%にとどまるから,原告P1について,通則法46条2項5号に該当する事実は認められない。
(イ)前記(1)ウに照らすと,本件訴訟において,本件処分Bまでに原告P1から提出された資料のみを前提としてその適法性を判断すべきであり,訴訟段階になって猶予該当事実を基礎付けるような資料が事後的に提出されたとしても,それにより処分行政庁が第1次判断権の行使として行った本件処分Bの適法性が左右されるべきではない。原告P1は,本件訴訟が相当程度進行した段階で,猶予該当事実の有無を判断するために必要な帳簿等の資料を提出したものであり,これらの資料に記載された原告P1の個別の事情は,処分行政庁にとっては,本件処分B当時には全く知り得なかった事情である。また,原告P1は,自己の支配領域内にある上記資料を秘匿し,処分行政庁に当該資料を把握させないまま,あえて処分を誤らせる目的で本件処分Bに至らせたものである。したがって,本件訴訟提起後に提出された上記資料によって本件処分Bを違法ということはできない。(ウ)以上によれば,本件処分Bは,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められず,適法である。

本件処分Cについて

(ア)原告P3が提出した資料によっては,調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の損益計算を行うことができないし,仮に,原告P3が主張する平成20年の「特前所得」に基づき判断したとしても,同年において原告P3の事業について著しい損失は発生していないから,原告P3について,通則法46条2項4号に該当する事実は認められない。
また,仮に,原告P3が提出した資料に記載された調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)及び基準期間(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の売上金額に基づき判断したとしても,この間の売上金額はむしろ97万6738円増加しているから,原告P3について,通則法46条2項5号に該当する事実は認められない。(イ)以上によれば,本件処分Cは,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められず,適法である。
第3
1
当裁判所の判断
税務署長等の納税の猶予の許否の判断について

(1)税務署長等の裁量権について
通則法46条2項が規定する納税の猶予の制度は,納税者の救済のため,例外的に,納税者がその財産につき災害を受けたこと等により国税を一時に納付することができないと認められる場合において,その納付することができないと認められる金額を限度として,納税者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,その国税の一部又は全部の納税を猶予するというものである。このような制度の趣旨や同項の定める納税猶予の要件等に鑑みると,同項は,納税の猶予の申請をした納税者に納税の猶予を許可するか否かを税務署長等の裁量的判断に委ねていると解するのが相当であるから,納税の猶予を許可しない処分が違法と評価されるのは,当該処分をした税務署長等の判断に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に限られるというべきである。
(2)猶予取扱要領の定めについて

前記(1)のとおり,納税の猶予の許否については,税務署長等の裁量的判断に委ねられているものであるけれども,納税者間の負担の公平を図り,税務行政の適正妥当な執行を確保するためには,一定の基準ないし運用方針に基づいて,納税の猶予の許否の判断がされることが望ましいところであり,猶予取扱要領は,このような趣旨の下に定められたものと解される。このような猶予取扱要領が定められた趣旨に鑑みると,猶予取扱要領の定めが合理性を有するものである場合には,納税の猶予の許否に関する税務署長等の判断がその定めに従っている限り,その判断は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとの評価を受けることはないというべきである。
他方,猶予取扱要領の上記趣旨を前提にすると,猶予取扱要領において納税者間の負担の公平を図るために画一的な数値的基準が設けられている部分について,その定めが合理性を有するものである場合には,税務署長等の判断が当該基準に合致しないときは,当該基準によらないことについて合理的な理由がない限り,裁量権の範囲の逸脱があると評価することが相当である。


そこで,次に,本件で問題となる通則法46条2項4号及び5号(4号類似)該当性の判断についての猶予取扱要領の定めをみることとする。(ア)通則法46条2項4号該当性の判断について

猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)は,通則法46条2項4号にいう「事業につき著しい損失を受けた」とは,調査期間の損益計算において,調査期間の直前1年間である基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものとする旨定めている。
通則法46条2項4号にいう「損失」とは,その文理に照らし,事業に
係る損益計算において損失(いわゆる赤字)が生じていることを意味するものと解されるところ,同項の納税の猶予の制度が納税者に対する例外的な救済措置であることや,同号が単なる損失ではなく「著しい損失」と限定していることに加え,同項5号が「前各号の一に該当する事実に類する事実」と規定しており,同項1号ないし4号に該当しない場合でも同項5号に該当する余地が残されていることを考慮すれば,猶予取扱要領が上記のような数値的な基準をもって同項4号該当性を判断することとしていることは,合理性を有するものということができる。

これに対し,原告らは,猶予取扱要領が上記のような数値的に画一的な基準を設けていることは,通則法の規定の趣旨に反する旨主張する。しかしながら,納税者間の負担の公平を図るためには,画一的な基準を定めることはやむを得ないところであり,通則法46条2項4号に該当しない場合であっても,同項5号に該当するものとして納税の猶予が認められる余地が残されていることを考えれば,猶予取扱要領の上記の定めが通則法の規定の趣旨に反するものということはできない。


また,原告らは,通則法46条2項4号にいう「損失」とは,損益計算において損失が生じていることを意味するものではなく,基準期間の「特前所得」と調査期間の「特前所得」とを比較し,後者が前者よりも減少していることをいうと解すべきである旨主張する。
しかしながら,「事業につき著しい損失を受けた」という通則法46条2項4号の文言からみて,同号にいう「損失」が前年と比較したときの所得の減少を意味すると解するのは困難であり,原告らの主張は採用することができない。原告らは,同号の「損失」を損益計算において損失が生じていることであると解するならば,同号は所得税について一切適用されない結果となり不当である旨主張するが,同項は国税一般についての納税の猶予の要件等を定めたものであって,そのうち同号の規定が所得税の納税
について適用の余地がないからといって,消費税等の納税については適用の可能性がある以上,何ら不当なことではない。

さらに,原告らは,通則法46条2項4号にいう「損失」とは,損益計算において損失が生じていることを意味するとしても,その損益計算に用いる「利益金額」については,「特前所得」から,家計調査年報における実支出額を差し引いた金額と解すべきであるなどと主張する。
しかしながら,原告らの主張は,法文上何ら根拠がなく,独自の見解というべきものであって,採用することができない。


以上のとおり,通則法46条2項4号の解釈適用に関する原告らの主張は,いずれも採用することができない。

(イ)

通則法46条2項5号該当性の判断について
猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘは,通則法46条2項5号該当事実のうち,同項3号又は4号該当事実に類する事実,すなわち,「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」とは,「おおむね次に掲げる事実をいう」として,「(イ)納税者の経営する事業に労働争議があり,事業を継続できなかったこと」,「(ロ)事業は継続していたが,交通,運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路工事若しくは区画整理等による通行路の変更等により,売上減少等の影響を受けたこと」,「(ハ)下請企業である納税者が,親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと,その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けたこと」,「(ニ)納税者がやむを得ない理由により著しい損失(事業に関するものを除く。)を受けたこと」の各事実を掲げている。これらの事実は,いずれも同項3号又は4号該当事実に類する事実と評価することができるから,猶予取扱要領の上記の定めの内容は,相当なものであって合理性を有するというべきである。


猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ロ)及び(ハ)には,上記のとおり,納税者が売上げの減少の影響を受けたことが掲げられているが,これらは,「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」として掲げられたものであるから,そこでいう「売上げの減少」とは,単に従前に比べて売上げが減少したというだけでは足りず,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったことをいうものと解するのが相当である。
また,このような売上げの減少があったか否かは,事柄の性質上,一定の期間を設けて判断するのが相当であるところ,猶予取扱要領が「事業につき著しい損失を受けた」といえるかどうかを判断する際に用いている調査期間(納税の猶予の始期の前日前1年間)及び基準期間(調査期間の直前の1年間)という期間設定の方法は,上記のような売上げの減少があったか否かを判断する上でも適切なものであり,基本的には,これによって判断するのが相当である。


これに対し,原告らは,猶予取扱要領が,通則法46条2項5号該当事実について,同項4号該当事実のような数値的な基準を明示していないことなどから,売上げの減少の程度や判断の期間についてある程度の幅をもって判断すべきである旨主張する。
しかしながら,原告らの主張が,売上げの減少の程度について,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大なものでなくとも,通則法46条2項5号該当事実に当たるとする趣旨のものであるならば,同号の趣旨に反することは明らかであるから,そのような主張は採用することができない。また,上記のような売上げの減少があったか否かを判断する期間は,前示のとおり,基本的には猶予取扱要領が用いている調査期間及び基準期間によるのが相当であり,これによらずに任意の期間設定を認めることは,納税者の恣意的な期
間設定を許す結果となり,納税者間の公平を害するものとして相当ではないというべきである。前記a,bで判示したことと異なる趣旨をいう原告らの主張は,採用することができない。
2
本件各処分について
以上説示したとおり,通則法46条2項4号及び5号該当事実に関する猶予取扱要領の定めは,合理性を有するものと認められるので,以下においては,これを前提に,本件各処分の適法性について検討する。
なお,前記前提事実(2)ア(イ),イ(ウ),ウ(オ)のとおり,原告らは,いずれも申請に係る納税の猶予の始期を平成21年4月1日としているから,納税の猶予の要件該当性を判断する基礎となる調査期間は平成20年4月1日から平成21年3月31日までであり,基準期間は平成19年4月1日から平成20年3月31日までとなる。

(1)本件処分Aについて

原告P2は,自身の平成20年の「特前所得」は270万6248円であると主張する一方,調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)において損失が生じたことについて主張立証しないから,仮に原告P2の主張する事実関係を前提としても,原告P2について,通則法46条2項4号に該当する事実があるということはできない。


また,原告P2は,自身の平成19年の売上金額は1956万8820
円,平成20年の売上金額は1841万2650円であると主張する一方,基準期間及び調査期間の売上金額について主張立証しないところ,平成20年の売上金額は,平成19年の売上金額に比較して,5.9%(=115万6170円÷1956万8820円)減少しているにすぎない。
そうすると,原告P2の主張する事実関係を前提としても,平成20年の売上金額を平成19年の売上金額と比較して,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上
げの減少があったということはできず,調査期間において,そのような重大な売上の減少があったと認めるに足りる証拠はない。そして,原告P2の主張する他の諸事情を考慮してみても,原告P2について,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する事実があったということはできない。ウ
以上によれば,原告P2については,猶予該当事実が認められず,これと同旨の処分行政庁の判断は,合理性を有する猶予取扱要領の定めに従ってされたものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
したがって,本件処分Aは適法である。

(2)本件処分Bについて

前記前提事実に証拠(甲B3,16,19,20)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア)原告P1の営む事業については,いわゆるリーマン・ショックの影響により,平成20年11月1日以降,得意先であったP7株式会社からの加工注文数が激減した。
(イ)原告P1は,その事業について,平成19年11月から平成20年3月までの期間において86万7282円の利益を生じ,同年11月から平成21年3月までの期間において181万1734円の損失を生じた。(ウ)原告P1は,平成21年3月30日,平成19年分の消費税・地方消費税として14万円,平成20分の消費税・地方消費税として37万0300円の合計51万0300円の国税の納税義務を負っており,処分行政庁に対し,納税の猶予の申請書を提出して,同金額について本件申請Bをした。
(エ)原告P1は,平成21年3月31日時点で,上記納付すべき国税51万0300円の全額を一時に納付する資金を有していなかった。
(オ)原告P1は,通則法46条1項の相当な損失を受けた場合の納税の猶予
の適用は受けていなかった。
(カ)原告P1は,自宅については,住宅ローンに関し抵当権を設定しており,余剰価値がなく,他に,上記51万0300円の担保とするのに適当な財産を有していなかった。

前記アで認定した事実によると,原告P1については,平成20年11月に猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)なお書き所定の損失原因が発生したものであり,平成20年11月から平成21年3月までの修正調査期間の損益計算において平成19年11月から平成20年3月までの修正基準期間の利益金額86万7282円の2分の1を超えて,181万1734円の損失が生じたものである。そうすると,原告P1は,同節1(3)ニ(イ)に該当し,その事業につき著しい損失を受けたと認められ,通則法46条2項4号の猶予該当事実があったというほかはない。また,同節1(3)ニ(イ)の定めは,納税者間の負担の公平を図るために画一的な数値的基準を設けたものとして合理性を有するものであるところ,処分行政庁が原告P1について通則法46条2項4号に該当する事実が認められないとした判断は,この基準に合致しないものであり,当該基準によらないことについて合理的な理由もないから,その判断には裁量権の範囲の逸脱があるといわざるを得ない。そして,原告P1は,①上記のとおり通則法46条2項4号に該当する事実に基づき,②納付すべき国税51万0300円を一時に納付することができかったと認められ,③納税の猶予の申請書を提出しており,④同条1項の規定(相当な損失を受けた場合の納税の猶予)の適用を受ける場合でなく,⑤担保の提供はなかったが,納付すべき国税は50万円(同条5項ただし書参照)を僅か1万0300円超えるものであるところ,その担保に供すべき財産を有しておらず,担保を徴することができない特別の事情(同項ただし書)があるといえるから,納税の猶予の要件を満たすというべきである。

もっとも,上記猶予該当事実は,原告P1が本件処分Bの後,本件訴訟が
相当程度進行した段階で提示・提出した証拠により認定できるに至ったものであるところ,被告は,税務署長等は,処分時までに納税者から提出された資料の範囲内で納税の猶予の許否を判断すれば足りるのであって,本件訴訟において本件処分Bがされた後に猶予該当事実を基礎付けるような資料が提出されたとしても,それにより処分行政庁が第1次判断権の行使として行った本件処分Bが違法となることはない旨主張する。
しかしながら,一般に,処分要件充足性の有無は,処分時において処分要件に該当する事実が客観的に存在していたかどうかによって決せられるものであり,その判断の基礎となる証拠資料は,特段の定めのない限り,行政庁が処分時に認識していたものに限られるわけではない。本件のように,納税者からの申請に対する応答処分として授益処分がされる場合であっても,客観的に申請を許可すべき要件を満たしていた場合には,行政庁がそれを認識し得たか否かにかかわらず,客観的には申請が許可されるべき筋合いであったということができるから,特段の事情がない限り,不許可処分を取り消して是正することが事理に適うというべきであり,法もこれを当然の前提としているものと解される。
この点に関し,被告は,①納税の猶予が,期間内納付の例外として一定の要件を満たした納税者を保護するための授益処分であり,納税者からの申請に対する応答処分として制度設計されており,納税者の申請を待たなければ猶予すべきか否かを知ることができないから,納税の猶予を受けようとする納税者自身が積極的に猶予該当事実を証する資料を提出することが要請されているというべきである,②納税の猶予申請に対しては質問検査権に関する国税徴収法141条の適用がない,③処分行政庁にとっては,本件訴訟段階で提出された資料に記載された事実は,本件処分B当時には全く知り得なかったものである,④納税の猶予申請に対する不許可処分をした後でも,猶予該当事実に関する資料に基づき原処分の見直しをしなければならないとする
と,将来にわたって同不許可処分が確定せず,法的安定性が著しく害されるなどとし,訴訟段階で提出された資料によっては処分の適法性が左右されることはないと主張する。
しかしながら,納税の猶予制度については,法令上,判断資料を限定するような規定は見当たらず,申請時に提出された書面のみによって形式的な審査をするような審査構造制度になっているものでもなく,かえって,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(ロ)なお書きでは,「納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には,納税者からの聞き取りを中心にする等その状況に応じ,妥当と認められる方法により利益金額又は損失金額を算定して差支えない。」と定められ,「納税者からの聞き取り」による資料を判断の基礎とすることができることが前提とされている。納税の猶予制度に関し,納税者自身の積極的な資料提出が要請されていたり,国税徴収法141条に規定されているような質問検査権がないとしても,それのみでは,処分の取消訴訟における判断資料が処分時までに納税者から提出された資料に限定されることには当然には結び付かず,上記①及び②の点をもって,前記一般原則を覆すような特段の事情ということはできない。
上記③の点については,結果として違法な処分をした処分行政庁の帰責性を否定する一事情にはなるとしても,現に存在する証拠によって客観的に処分の要件充足の有無を認定することが許されないとする根拠や,処分が客観的に適法であったことの根拠とはなり得ない。
上記④の点については,行政処分の取消訴訟において常に生じ得る問題にすぎず,行政処分の法的安定性については出訴期間の制限等によっても図られているから,客観的に納税が猶予されるべき筋合いであったにもかかわらず本件処分Bを取り消さない理由にはなり得ない。
したがって,被告の主張は,採用することができない。


また,被告は,原告P1が,自己の支配領域内にある資料を秘匿し,処分行政庁に当該資料を把握させないまま,あえて処分を誤らせる目的で本件処分Bに至らせたとも主張する。しかしながら,納税の猶予を希望する者が,その許可を受けるのに有効な資料を有していながら,わざわざ不許可処分を受けるためにその資料を秘匿するなどということは通常は考え難いところであり,本件申請Bから本件処分Bに至るまでの間,原告P1が「あえて処分を誤らせる目的」を有して行動したと認めるに足りる証拠はない。そして,本件全証拠によっても,原告P1が本件訴訟において提出した資料を本件申請Bの際に提出しなかったことが信義則に反するとまでいえるような事情も認められない。


以上によれば,本件処分Bには,裁量権の範囲の逸脱した違法があるというべきである。

(3)本件処分Cについて

原告P3は,自身の平成20年の「特前所得」は144万7369円であると主張する一方,調査期間(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)において損失が生じたことについて主張立証しないから,仮に原告P3の主張する事実関係を前提としても,原告P3について,通則法46条2項4号に該当する事実があるということはできない。


また,原告P3は,自身の平成19年の売上金額は2010万9594
円,平成20年の売上金額は2082万2939円であると主張する一方,基準期間及び調査期間の売上金額について主張立証しないところ,上記平成20年の売上金額は,上記平成19年の売上金額に比較して,増加している。
そうすると,原告P3の主張する事実関係を前提としても,平成20年の売上金額を平成19年の売上金額と比較して,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上
げの減少があったということはできず,調査期間において,そのような重大な売上の減少があったと認めるに足りる証拠はない。そして,原告P3の主張する他の諸事情を考慮しても,原告P3について,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する事実があったということはできない。

以上によれば,原告P3については,猶予該当事実が認められず,これと同旨の処分行政庁の判断は,合理性を有する猶予取扱要領の定めに従ってされたものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
したがって,本件処分Cは適法である。

第4

結論
以上の次第で,本件処分Bは違法であるから,その取消しを求める原告P1の
請求は理由があり,本件処分A及び本件処分Cはいずれも適法であるから,その取消しを求める原告P2及び原告P3の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部

裁判長裁判官

福井章代

裁判官

笹本哲朗

裁判官

山根良実
(別紙)
関係法令等
1
国税通則法
46条1項
税務署長(第43条第1項ただし書,第3項若しくは第4項又は第44条第1項(国税の徴収の所轄庁)の規定により税関長又は国税局長が国税の徴収を行う場合には,その税関長又は国税局長。以下この章において「税務署長等」という。)は,震災,風水害,落雷,火災その他これらに類する災害により納税者がその財産につき相当な損失を受けた場合において,その者がその損失を受けた日以後1年以内に納付すべき国税で次に掲げるものがあるときは,政令で定めるところにより,その災害のやんだ日から2月以内にされたその者の申請に基づき,その納期限(納税の告知がされていない源泉徴収による国税については,その法定納期限)から1年以内の期間(第3号に掲げる国税については,政令で定める期間)を限り,その国税の全部又は一部の納税を猶予することができる。
1号

次に掲げる国税の区分に応じ,それぞれ次に定める日以前に納税義務
の成立した国税(消費税及び政令で定めるものを除く。)で,納期限(納税の告知がされていない源泉徴収による国税については,その法定納期限)がその損失を受けた日以後に到来するもののうち,その申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの

《省略》


《省略》

2号

その災害のやんだ日以前に課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係
る消費税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもののうちその申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの
3号

予定納税に係る所得税その他政令で定める国税でその納期限がその損
失を受けた日以後に到来するもの
46条2項
税務署長等は,次の各号の一に該当する事実がある場合(前項の規定の適用を受ける場合を除く。)において,その該当する事実に基づき,納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは,その納付することができないと認められる金額を限度として,納税者の申請に基づき,1年以内の期間を限り,その納税を猶予することができる。前項の規定による納税の猶予をした場合において,同項の災害を受けたことにより,その猶予期間内に猶予をした金額を納付することができないと認めるときも,また同様とする。
1号

納税者がその財産につき,震災,風水害,落雷,火災その他の災害を
受け,又は盗難にかかったこと。
2号

納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり,又は負傷し
たこと。
3号

納税者がその事業を廃止し,又は休止したこと。

4号

納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。

5号

前各号の一に該当する事実に類する事実があったこと。

46条5項
税務署長等は,第2項又は第3項の規定による納税の猶予をする場合には,その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならない。ただし,その猶予に係る税額が50万円以下である場合又は担保を徴することができない特別の事情がある場合は,この限りでない。

2
国税通則法施行令
15条1項
法第46条第1項(納税の猶予)の規定による納税の猶予を受けようとす
る者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国税局長,税務署長又は税関長に提出しなければならない。
1号

納付すべき国税の年度,税目,納期限及び金額

2号

前号の金額のうち当該猶予を受けようとする金額

3号

財産の種類ごとの損失の程度その他の被害の状況

4号

当該猶予を受けようとする期間

15条2項
法第46条第2項又は第3項の規定による納税の猶予を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国税局長,税務署長又は税関長に提出しなければならない。
1号

前項第1号,第2号及び第4号に掲げる事項

2号

当該猶予を受けようとする理由

3号

分割納付の方法により当該猶予を受けようとする場合には,その分割
金額及び当該金額ごとの猶予期間
4号

猶予を受けようとする金額が50万円を超える場合には,提供しよう
とする法第50条各号(担保の種類)に掲げる担保の種類,数量,価額及び所在(その担保が保証人の保証であるときは,保証人の氏名及び住所又は居所)その他担保に関し参考となるべき事項(担保を提供することができない特別の事情があるときは,その事情)
5号

法第46条第3項の申請をやむを得ない理由によりその国税の納期限
後にする場合には,その理由

3
昭和51年6月3日付け徴徴3-2,徴管2-32「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(各国税局長及び沖縄国税事務所長宛て国税庁長官通達)第1章総則1
国税の徴収に当っては,画一的な取扱いを避け,納税者の個別的,具体的な
実情に即応した適正妥当な徴収方法を講ずることが必要である。
特に,納税者から,その納付すべき国税につき即時に納付することが困難である旨の申出等があった場合には,その実情を十分調査し,納税者に有利な方向で納税の猶予等の活用を図るよう配意する。
第2章第1節1

納税の猶予の要件

(1)要件
通常の納税の猶予を認めることができるのは,次に掲げる要件のすべてに該当する場合である。

納税者に猶予該当事実があること。


猶予該当事実に基づき,納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること。


納税者から納税の猶予の申請書が提出されていること。


相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受ける場合でないこと。

原則として,納税の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること。

(2)《省略》
(3)猶予該当事実
「猶予該当事実」とは,次に掲げる事実をいう。

《省略》


《省略》


《省略》


納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(通則法第46条第2項第4号)。
(イ)「事業につき著しい損失を受けた」とは調査日(納税の猶予の始期の前日をいう。以下この節において同じ。)前1年間(以下この項において「調査期間」という。)の損益計算において,調査期間の直前の1年間
(以下この項において「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものとする。
なお,調査期間以内において,例えば,購入予定の資材の高騰,在庫商品の価額の下落,取引先の都合による売買契約の解除等の損失発生の原因となるような事実(季節変動等による恒常的なものを除く。以下この項において「損失原因」という。)があり,当該事実の発生した日(損失原因が継続的に発生していたような場合には,最初にその事実が生じたと認められる日)の特定ができる場合には,その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額(損失が生じている場合には,損失金額)のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して上記の判定を行っても差支えない。
(注)

猶予期間の始期については,この節3の(1)《猶予期間》を参照す
る。
(ロ)(イ)に該当するかどうかの判定に当っては,調査期間及び基準期間のそれぞれについて仮決算を行うこととなるが,調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算期間が終了している場合には,その期間の損益計算の結果を基に,前記の利益金額又は損失金額を推計して差支えない。
なお,納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には,納税者からの聞き取りを中心にする等その状況に応じ,妥当と認められる方法により利益金額又は損失金額を算定して差支えない。
(ハ)(イ)及び(ロ)の損失の認定に当って,徴収上弊害があると認められるとき
は,資金計算上の立場から所要の調整を行っても差支えない。

《省略》


納税者に事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があったこと(通則法第46条第2項第5号(第3号又は第4号類似))。
「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」とは,おおむね次に掲げる事実をいう(通則法基本通達第46条関係12の(2)参照)。(イ)納税者の経営する事業に労働争議があり,事業を継続できなかったこと。
(ロ)事業は継続していたが,交通,運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路工事若しくは区画整理等による通行路の変更等により,売上減少等の影響を受けたこと。
(ハ)下請企業である納税者が,親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと,その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けたこと。
(ニ)納税者がやむを得ない理由により著しい損失(事業に関するものを除く。)を受けたこと。

(4)猶予該当事実と納付困難との関係

「猶予該当事実に基づき納付することができない」とは,納税者に(3)
《猶予該当事実》に掲げる事実があったことにより,資金の支出又は損失があり,その資金の支出又は損失のあることが国税を一時に納付することができないことの原因となっていることをいう。

「国税を一時に納付することができない」(以下「納付困難」という。)とは,納税者に納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと,又は資金があっても,それによって一時に納付した場合には,納税者の生活の維持若しくは事業の継続に著しい支障が生ずると認められることをいう。こ
の場合において,納付困難であるかどうかは,第7章第2節《現在納付能力調査》に定める現在納付能力調査に基づいて判定する。
(5)納税の猶予の申請
納税者が納税の猶予を受けようとする場合には,所要の事項を記載した納税の猶予申請書(様式1)を税務署長(国税局長及び沖縄国税事務所長を含む。以下同じ。)に提出しなければならない(通則法第46条第2項,通則令第15条第2項)。
(注)

通常の納税の猶予の申請期限,納税の猶予の申請書に記載すべき事項及び添付書類については,第4章第1節《猶予許可等に関する事務手続》に定めるところによる。

(6)相当な損失を受けた場合の納税の猶予との関係
「相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受ける場合でないこと」とは,(5)《納税の猶予の申請》の申請に係る国税につき,現に相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受けていない場合をいう。
なお,相当な損失を受けた場合の納税の猶予を受けている納税者が被害に基因して,その納税の猶予期間内に当該猶予に係る税額の全部又は一部を納付することができないと認められるときは,この章の定めにより,通常の納税の猶予を受けることができる(通則法第46条第2項柱書後段)。
(注)

相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受けていない場合であって,当該猶予の適用を受けることができると認められるときは,その納税の猶予の申請を行うよう指導するものとする。

(7)担保の提供及び徴取

担保を徴する場合
税務署長は,納税の猶予をする場合には,次のロに掲げる場合を除き,納税の猶予に係る国税の額に相当する担保を徴取しなければならない(通則法第46条第5項本文)。この場合において,納税の猶予に係る国税につき,
滞納処分により差押えた財産があるときは,その担保の額は,納税の猶予をする国税の額から差押えた財産の価額(当該財産の価額のうち,国税への充当見込額に限る。)を控除した額を限度とする(通則法第46条第6項)。(注)

《省略》

担保を徴しないことができる場合
次のいずれか一に該当する場合には,担保を徴しないこととして差支えない。
(イ)納税の猶予に係る税額が5万円(50万円)以下である場合(通則法第46条第5項ただし書)
(ロ)担保を徴することができない特別の事情がある場合(通則法第46条第5項ただし書)
「担保を徴することができない特別の事情」とは,おおむね次に掲げる場合をいうものとする(通則法基本通達第46条関係14)。

通則法第50条各号《担保の種類》に掲げる担保を有していない場合

担保を徴することにより,事業の継続又は生活の維持に著しい支障を与えると認められる場合

(ハ)納付委託に係る有価証券の提供により,納税の猶予に係る国税につき担保の提供の必要がないと認められるに至った場合(通則法第55条第4項)
上記の「必要がないと認められるに至った場合」とは,納付委託を受けた証券の取立てが最近において特に確実であって,不渡りとなるおそれが全くないため,委託に係る国税が確実に徴収できると認められるとき等をいうものとする(徴収法基本通達第152条関係5参照)。
(ニ)納税の猶予に係る税額が比較的少額で,かつ,納税者の納税の誠意及び資力の状況等から判断して,担保を徴しないこととしても徴収上支障のないことが明らかであると認められる場合


《省略》

第2章第1節3
(1)

納税の猶予をする期間

猶予期間
納税の猶予をする期間は,1年以内で,納税の猶予の対象となる国税を納付
することができると認められる最短期間とする(通則法基本通達第46条関係7)。この場合における猶予期間の始期は,納税の猶予の申請書に記載された日とする。ただし,その日を不適当と認めるときは,別にその始期を指定することができるものとする(通則法基本通達第46条関係8)。
なお,具体的な猶予期間及び猶予期間中における毎月の納付予定金額等については,第7章第3節《見込納付能力調査》に定める見込納付能力調査の結果を基に定めるものとする。
(注)

猶予期間の始期は,猶予該当事実が生じた日前にさかのぼることができないことに留意する。

《以下省略》

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