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所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第725号)
事件番号平成24(行コ)421
事件名所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第725号)
裁判年月日平成25年5月29日
法廷名東京高等裁判所
判示事項シンガポール共和国において設立された外国法人の株式を保有する者に対し,前記法人が租税特別措置法(平成17年法律第21号による改正前又は平成18年法律第10号による改正前)40条の4第1項の特定外国子会社等に当たるとして,前記法人の課税対象留保金額を前記保有者の総収入金額の額に算入してされた,所得税の更正処分のうち確定申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分が,いずれも違法とされた事例
裁判要旨シンガポール共和国において設立された外国法人の株式を保有する者に対し,前記法人が租税特別措置法(平成17年法律第21号による改正前又は平成18年法律第10号による改正前。以下同じ)40条の4第1項の特定外国子会社等に当たるとして,前記法人の課税対象留保金額を前記保有者の総収入金額の額に算入してされた,所得税の更正処分のうち確定申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき,同項の適用除外の要件を定める同条4項にいう「主たる事業を行うと認められる事業所,店舗,工場その他の固定施設を有している」といえるためには,当該特定外国子会社等が,主たる事業の業種や形態に応じた規模の固定施設を賃借権等の正当な権原に基づき使用していれば足り,固定施設を自ら所有している必要はなく,また,同項にいう「その事業の管理,支配及び運営を自ら行っている」といえるためには,前提として,事業を行うために必要な常勤役員及び従業員が存在していることが必要であり,かつ,特定外国子会社等の株主総会及び取締役会の開催,役員としての職務執行,会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所等を総合的に勘案し,特定外国子会社等の業務執行に関する意思決定及びその決定に基づく具体的な業務の執行が親会社等から独立して行われていると認められるか否かについて判断することが必要であるとした上,前記法人は同項の要件を全て満たさないとはいえないから,その課税対象留保金額は前記保有者の雑所得の金額に算入されないとして,前記各処分をいずれも違法とした事例
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平成25年5月29日判決言渡
平成24年(行コ)第421号所得税更正処分取消請求控訴事件
主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)において設立されたA

PTE

LTD(以下「A社」という。)の発行済株式総数7800

株のうち7799株を保有する被控訴人が,甲府税務署長から,A社は租税特別措置法(以下「措置法」という。)40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当し,外国子会社合算税制の適用があるとして,A社の課税対象留保金額に相当する金額を被控訴人の雑所得の総収入金額に算入することを前提に,平成16年分から平成18年分まで(以下「本件各係争年分」という。)の各所得税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたため,A社は外国子会社合算税制の適用除外要件を満たすから,本件各処分は違法であると主張して,控訴人に対し,本件各更正処分(ただし,被控訴人主張の総所得金額及び納付すべき税額を超える部分又は被控訴人主張の総所得金額を超え同主張の還付金の額に相当する税額を下回る部分)及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
-1-

したがって,本件の争点は,A社が措置法40条の4第4項(ただし,平成17年法律第21号による改正前は,同条3項。以下同じ。)所定の外国子会社合算税制の適用除外要件のうちの(1)特定外国子会社等が,
その本店又は主た
る事務所の所在する国又は地域において,その主たる事業を行うに必要と認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有していること(以下,この適用除外要件を「実体基準」という。)を満たすか否か,及び(2)その特定外国子会社等が,その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において,その事業の管理,
支配及び運営を自ら行っていること
(以下,
この適用除外要件を
「管
理支配基準」という。)を満たすか否かである。
原判決は,A社の事業が受注発注という形態による小規模な卸売業であることに照らすと,A社が使用していたB

PTE.LTD.(以下「B社」という。)

のレンタルオフィススペース及びA社のシンガポール在住の取締役であるCの専用執務室並びにD

Pte

Ltd(以下「D」という。)の倉庫スペースは,

A社の事務所及び倉庫としては必要な規模と考えられ,A社は,その事業を行うために十分な固定施設を有していた(すなわち,実体基準を満たしていた)と認められ,また,A社の経営上重要な事項に関する意思決定及び会計帳簿書類の作成・保管を含む日常的な業務の遂行は,いずれもC及びEら営業担当者により行われていて,A社は,独立した法人としてその事業の管理・支配及び運営を自ら行っていた(すなわち,管理支配基準を満たしていた)と認められるから,以上によれば,A社は,措置法40条の4第4項の適用除外要件を全て満たすことになるとして,控訴人の本件各係争年分の雑所得の金額にA社の課税対象留保金額を含めずに控訴人の本件各係争年分の納付すべき税額を算出し,本件各更正処分は,上記のとおり算出した納付すべき税額を上回る部分について,いずれも違法であり,本件各賦課決定処分は,過少申告による納税義務違反の事実があるとの前提を欠き,いずれも違法であるとして,被控訴人の請求をいずれも認容した。このため,これを不服とする控訴人が本件控訴を申
-2-

し立てた。
2
「関係法令の定め」,「前提事実」,控訴人の主張する「本件各処分の根拠及び適法性」及び「争点に関する当事者の主張の要旨」は,次の3のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1から3まで及び5に記載(原判決の別紙1から別紙3まで及び別表1から別表11までを含む。)のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決6頁17行目の「後記4の争点」を「後記5の争点」に,9頁1行目の「設けられている」を「設けられていること」に,28頁8行目の「B社ら」を「B社から」に改める。

3
当審における控訴人の主張
(1)

外国子会社合算税制の適用除外要件の主張立証責任について
①外国子会社合算税制の適用除外要件を定める措置法40条の4第4項
は,同条第1項の例外として規定されていること,②タックスヘイブンに所在する子会社等が配当を全く又はわずかしか行わず,留保所得を蓄積しているところに税の回避を推認し得るという考え方からすれば,適用除外要件の充足については,
納税者において主張立証する必要があると考えられること,
③課税庁にとって,国外に所在する子会社等の実態を把握することは困難であるのに対し,納税者は,子会社等の実態を容易に把握することができること,④同条第6項は,納税者に適用除外要件を満たしていることを明らかにする書類その他の資料の保存を要求していることからすれば,適用除外要件に関しては,納税者が主張立証責任を負っていると解すべきである。(2)

適用除外要件のうちの実体基準について
特定外国子会社等が「賃借権等の正当な権原に基づき固定施設を使用して
いる」というためには,その賃貸借契約等の中で少なくとも使用することができる場所や施設が特定されており,その契約期間においては,排他的かつ独占的にその施設等を継続的に使用することができる権原を有し,かつ,当
-3-

該施設を実際に主たる営業のために使用していることが必要である。しかるに,①B社のレンタルオフィススペースについては,常に特定のスペースがA社のために排他的又は独占的に確保されているとは認められないこと,②Cは,A社平成15年12月期(A社の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度をいい,以下,他の事業年度についても,同様の表現をする。),A社平成16年12月期及びA社平成17年12月期(以下,これらの事業年度を併せて,「A社各事業年度」という。)において,A社及びB社と法人の住所を同じくする15社ないし19社の役員を兼務しており,原判決が認定した専用の執務室というのは,このような多数の会社の役員を兼ねるCのB社内における執務室にすぎず,A社が,その固有の執務のために,排他的又は独占的に当該執務室を有し,かつ,当該執務室を実際にA社の主たる事業のために使用しているとは認め難いこと,③A社は,通常,製品を製造場所から得意先に直接出荷しているから,原判決が認定した倉庫も,製品の保管倉庫としての実態を伴っているとはいえないことから,A社は,その事業に必要な固定施設を有していたとは認められない。したがって,A社は,実体基準を満たしていない。
(3)

適用除外要件のうちの管理支配基準について
Cは,シンガポールにおいて多数の会社の役員を兼務していたから,多数
の会社の日常的な業務を兼務しながらA社の全ての業務を責任と権限をもって担当することは,客観的に不可能であり,また,Eら営業担当者に対してA社の業務について全般的な指揮監督をしていたとは認め難く,重要事項の決定,新規顧客の開拓などを責任をもって担当していたともいえない。A社の主たる事業は,卸売業であり,その業務の中心は,仕入れ及び販売等の営業全般にあるところ,仕入れについては,仕入れ先であるF株式会社(以下「F社」という。)の専務取締役(平成20年5月以降は,代表取締役社長)であり,A社の取締役でもある被控訴人が,あらかじめ日本において行った
-4-

包括的な意思決定に従って進められ,販売についても,被控訴人が,日本において,あらかじめ物流や商流の道筋をつけた上で,包括的な指示を出し,その後,A社から業務委託を受けたB社の従業員であるEらが,被控訴人による包括的な指示の範囲内で,取引先を管理していたにすぎない。このように,A社の卸売業に係る業務の管理,支配及び運営については,被控訴人が日本において行っていたというべきであり,A社が,シンガポールにおいて,その主たる事業である卸売業を自ら管理,支配及び運営をしていたとは認められない。
したがって,A社は,管理支配基準を満たしていない。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は,次の2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3

争点に対する判断」に記載(原判決の

別紙4及び別表2から別表4までを含む。)のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決35頁3行目から4行目の「,原告本人調書3頁」を削り,同頁6行目及び45頁9行目から10行目の「本人調書」をいずれも「被控訴人本人調書」に,35頁7行目及び48頁1行目の「C調書」をいずれも「C証人調書」に,44頁10行目の「本件増資の」を「本件増資を」に,同頁25行目から最終行の「指示を受けた」を「指示をした」に改め,50頁4行目の「契約書作成の目的は」の次に「,本件業務委託契約の存在及び本件業務委託契約に基づく業務委託料の金額を明らかにすることにあり,」を加え,同頁12行目の「可能性が高い」を削り,52頁16行目の「満たしているものと認められる」を「満たしていないとは認められない」に改め,56頁21行目の末尾に行を改めて「したがって,A社は,管理支配基準を満たしていないとは認められない。」を加える。
2
当審における控訴人の主張に対する判断

-5-

(1)

外国子会社合算税制の適用除外要件の主張立証責任について


控訴人は,措置法40条の4の条文の構造,国外に所在する子会社等の
実態を把握することの難易性等から,
同条4項の適用除外要件に関しては,
納税者が主張立証責任を負っていると解すべきであると主張する。しかしながら,措置法40条の4第4項において,同条1項の規定は,4項が規定する場合に該当するときは,適用しないとされているからといって,これを,4項の要件が充足されたときに1項の規定は適用しないと解すべきなのか,あるいは,4項の要件が充足されないときに1項の規定を適用すると解すべきなのかは,条文の構造だけからでは決められない。また,外国子会社合算税制については,タックスヘイブンに所在する子会社等が配当を全く又はわずかしか行わず,留保所得を蓄積しているところに税の回避を推認し得るという考え方がその根底にあるとしても,「別個の法人格を有する外国法人の所得を株主の所得に算入するような措置は極めて異例なものといえる」(甲3。乙15も,同じ文献である。)とも評されていることからすれば,税の回避を推認し得るということが,適用除外要件の充足を納税者において主張立証する必要があるということに直ちに結び付くものではない。
すなわち,
本来合算されるべきものであれば,
適用除外要件があることによって合算を免れるということになろうが,本来合算されるべきでないものであれば,
適用除外要件がないことによって,
初めて合算が許されるということになろう。
さらに,国外に所在する子会社等の実態の把握についても,もともと,税金訴訟では,納税者側の事情が主張立証の対象となることが多い(国の事情や純然たる第三者の事情が主張立証の対象となることは,通常は,想定されない。)のであるから,主張立証責任を決めるに当たって,証拠への近さは,あまり重視すべきではないと考えられる。その上,本件において,控訴人が,「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防
-6-

止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定」の情報交換を定めた条項(以下「本件情報交換条項」という。)に基づき,シンガポール税務当局から情報を収集したように,国には,外国との間の租税条約や租税協定によって,相手国の税務当局を通じて納税者の国外の子会社等の情報を収集する手段が用意されている。
したがって,
課税庁にとって,
国外に所在する子会社等の実態を把握することが困難であるとはいい難い。
そして,措置法40条の4第6項が,納税者に適用除外要件を満たしていることを明らかにする書類その他の資料の保存を要求しているとしても,そのことは,税金訴訟における主張立証責任と直接関係はない。イ
控訴人は,過少申告加算税を課さない旨を定めた国税通則法の規定の主張立証責任に関する裁判例及び居住用財産の譲渡所得の特別控除を定めた措置法の規定の主張立証責任に関する裁判例を挙げて,これらの裁判例では納税者に主張立証責任があるとされているから,外国子会社合算税制の適用除外要件についても,納税者に主張立証責任があると解すべきであると主張するが,前者の制度は,後者の制度とは,その趣旨,条文の構造等を異にしており,参考にできるものではない。かえって,控訴人が適用除外要件のうちの管理支配基準の解釈を明らかにするために提出した裁判例(乙60,63)は,管理支配基準を充足していないこと(より正確にいえば,「管理支配基準を充足していないことの評価根拠事実」)の主張立証責任は国にあるとの前提で主張整理を行っている。
また,控訴人は,浅妻章如教授の「租税特別措置法40条の4第3項CFC税制適用除外要件中の実体基準・管理支配基準に関する意見書」(乙68)を提出し,その中には,立証責任に触れる部分があるが,その内容は,
「CFC税制に関する立証責任について確定的なことは言いにくいが,規定の構造に照らしても証拠との距離に照らしても,通常の課税要件の立
-7-

証責任・・・と比べると,本件の適用除外要件の立証責任は,幾分か納税者側に厳しい負担を配分することとなる・・・ものと思われる。」というにとどまり,感想の域を出ないものである。これに対し,甲16(今村隆著「課税訴訟における要件事実論」170頁)では,課税取消訴訟におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用除外要件について,乙60の裁判例を基に,「適用除外要件-管理支配基準の評価根拠事実」(より正確にいえば,「適用除外要件-管理支配基準を充足していないことの評価根拠事実」)を抗弁と説明している。
このように,乙60,63の裁判例及び甲16の文献からは,実務では,国に外国子会社合算税制の適用除外要件を充足していないことの主張立証責任を課していることが明らかである。

(2)

したがって,
当審における控訴人の主張(1)は,
採用することができない。
適用除外要件のうちの実体基準について


控訴人は,特定外国子会社等が「賃借権等の正当な権原に基づき固定施
設を使用している」というためには,使用することができる場所や施設が特定され,排他的かつ独占的にその施設等を継続的に使用することができる権原を有すること等が必要であるところ,①B社のレンタルオフィススペースは,特定性や排他性・独占性の要件を欠き,②Cの専用執務室は,排他性・独占性及びA社のために実際に使用しているとの要件を欠き,③Dの倉庫は,製品の保管倉庫としての実態がないから,A社は,その事業に必要な固定施設を有していたとは認められず,したがって,実体基準を満たしていないと主張する。
そこで,「賃借権等の正当な権原に基づき固定施設を使用している」との意義につき,使用することができる場所や施設が特定され,排他的かつ独占的にその施設等を継続的に使用することができる権原を有すること等が必要であるかどうかはさておき,これらの要件が必要であるとして,控
-8-

訴人が主張する上記①から③までの点について,以下,順次検討する。イ
まず,B社のレンタルオフィススペースについてみると,A社各事業年度に該当する平成15年1月1日から平成17年12月31日までの間において,B社は,シンガポールのα

Streetにあるビル(以下「旧ビル」

という。)に本社及びレンタルオフィスを置き(乙39,49),A社は,そのレンタルオフィス内の机1台分のオフィススペースを賃借していた(引用に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(5)ア)が,A社が賃借していたオフィススペースが特定されていなかったり,A社が排他的かつ独占的に当該スペースを使用することがなかったとの事実をうかがわせる証拠はない。
控訴人は,B社は,レンタルオフィススペースにおける机の数を超える数の法人に対して同スペースを賃貸しており,同スペースを日単位又は時間単位で賃貸する事業も行っていたから,A社は特定のオフィススペースを賃借しているものではなく,排他的又は独占的にA社の賃借スペースが継続して確保されているものでもなかったと主張する。しかしながら,控訴人が上記主張の根拠とする乙58の1は,1枚目のTOPICSの日付から分かるとおり,平成23年6月28日以降のB社のホームページであり,B社は,平成19年7月頃,本社及びレンタルオフィスを旧ビルからβWayにあるビル(以下「新ビル」という。)に移転している(乙39,69)のであるから,乙58の1は,旧ビルにおけるレンタルオフィススペースの形態を明らかにするものではない。また,仮に,B社がレンタルオフィススペースにおける机の数を超える数の法人に対して同スペースを賃貸したり,一部に日単位又は時間単位で賃貸する事業を行っていたとしても,平成12年の設立時からA社各事業年度に至るまで年単位でオフィススペースを賃借し,今後も賃借することが想定されるA社に対する賃貸場所が,特定されず,移動していたとは,およそ考えられない。控訴人は,
-9-

乙53(平成19年7月1日付け業務委託契約書)の賃料とB社の平成24年時点の日貸しの賃料との比較も主張するが,いずれも,A社各事業年度とは時期が違い,場所も違うのであるから,この比較を基にA社が賃借していたオフィススペースが排他的又は独占的ではなかったといえるものではない。
なお,甲1(異議決定書)には,被控訴人が本件各処分の取消しを求めてした異議申立てに係る調査において,
被控訴人が,
調査担当職員に対し,
「(A社の)机の場所はB社によって管理され固定されていない。」と申述したとの記載があるが,乙39(聴取書)及び乙50(調査報告書)には,上記の内容の記載はなく,甲24(被控訴人の陳述書)には,調査担当官から,
使用する机1台分のスペースはどうやって決まるのかと聞かれ,
どのスペースが割り当てられるかはB社が指定したと答えただけであるとの記載があるから,甲1の上記部分を記載のとおりに理解することはできない。
控訴人は,上記以外にも,①Cが原審における証人尋問で示したA社のオフィススペースの場所とCが平成24年11月にシンガポール税務当局の調査官に示したA社のオフィススペースの場所とが異なるから,A社各事業年度におけるA社のオフィススペースの場所も特定されていなかったとか,②B社と業務委託契約を締結してオフィススペースを賃借している他の会社から控訴人が平成25年1月に聴取したところによると,同社のオフィススペースの場所は特定されていないから,B社は,一般的に,オフィススペースを賃貸する際に,その場所を明確に特定していないとも主張する。しかしながら,上記のとおり,B社は,平成19年7月頃に本社及びレンタルオフィスを旧ビルから新ビルに移転しているのであって,Cがシンガポール税務当局の調査官に示したというA社のオフィススペースの場所は,平成24年11月時点の場所(新ビルにおける場所)であると
-10-

考えられること,そして,平成25年1月に控訴人が聴取したという他の会社の例を一般化することも,相当でないと考えられることからすれば,上記①及び②の事実があるからといって,A社各事業年度においては旧ビルにあったB社のレンタルオフィスにおけるA社のオフィススペースが特定されていなかったとは推認することができない。
また,控訴人は,Eが,甲14(陳述書)において,A社からの受託業務のみならず,B社が受託した韓国関連の商社業務も行っていたと陳述記載していることから,当該机がA社の専用の机やスペースであったとみることはできないとも主張するが,B社とA社との間でオフィススペースの賃貸借が合意されていた以上,Eの仕事の内容によって賃貸借の内容が変質するものではない。
さらに,控訴人は,室内のレイアウトからして,Eが業務を行っていたのは,レンタル用のスペースではなく,B社の執務室にあったE自身に割り当てられた机であり,A社のオフィススペースは業務のために使用されていなかったとも主張する。しかしながら,上記主張は,訴訟の最終盤になって出てきた全くの推測に基づく主張である。
そうすると,B社のレンタルオフィススペースについて,A社の賃借スペースが特定されていなかったとか,A社の賃借スペースとして排他的又は独占的に確保されていなかったとか,EがA社の業務のために使用していなかったなどの控訴人の主張は,いずれも採用することができない。ウ
次に,Cの専用執務室についてみると,当該執務室は,B社の業務やCが取締役を兼務する会社(乙66(平成24年12月10日付け調査報告書)によれば,Cが役員に就任していた会社は,B社とA社を除き,平成15年度末には14社,平成16年度末には16社,平成17年度末には18社に及ぶが,各会社の業務にどの程度携わっていたかは明確ではない。)の業務のほか,A社の職務の遂行のためにも使用されていた(引用
-11-

に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(5)イ)。
控訴人は,Cの専用執務室がA社のみならず他の多くの会社の役員としての執務にも使用されていたのでは,A社が排他的又は独占的に執務室を有し,A社の業務を主に遂行するために当該執務室を「固定施設」として独立して使用していたとは認め難く,また,Cが,B社の専用の執務室でA社の業務を行っていても,B社とA社との賃貸借契約に基づくものではないから,正当な権原に基づき「固定施設」を使用しているとの要件も欠くと主張する。
しかしながら,特定外国子会社等の役員が他の会社の役員を兼務すること自体は,何ら禁じられていないところ,役員を兼務する会社の所在地が同一である場合には,役員としての執務室が複数になることは現実的ではない。この場合,当該執務室が物理的な場所としては一つの部屋であったとしても,その部屋で当該会社の業務を独立して行っているとみることができる限り,観念的には,その部屋は,各会社の個々の執務室としての性格を持つとみるべきである。上記認定のとおり,Cは,その専用執務室で,A社の職務の遂行を独立して行っていたとみることができるのであるから,その限りでは,当該執務室は,他の者との関係で,排他的かつ独占的な執務室であり,A社の職務の遂行のため独立して使用されているということができ,したがって,また,その使用は,正当な権原に基づくものであるということができる。

さらに,Dの倉庫についてみると,甲29(D作成のA社宛て請求書)は,「倉庫料,出入庫手数料」の請求書であるから,甲29によれば,平成15年1月から6月までの間に,
A社は,
F社から仕入れた製品につき,
Dを乙仲として使い,通関業務を代行してもらったほか,Dの倉庫に製品を保管していたことが認められる。上記の請求回数及び請求額からして,保管を依頼したものが会社の書類であったとは解されない。

-12-

したがって,A社は,Dと契約し,Dのシンガポール国内にある倉庫内にA社が取り扱う精密機械部品の保管場所を確保し,必要なスペースを賃借していた(引用に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(6))のみならず,A社各事業年度において,Dの倉庫を製品の保管場所として使用していたということができる。
乙67の2(本件情報交換条項に基づくシンガポールの税務当局からの回答文書)には,Dのディレクターが,「DはA社が輸入した製品を保管していない。」と回答したとの記載があるが,乙67の2の作成日からして,この事情聴取は,平成24年11月にされたものであり,Dのディレクターの上記回答が平成15年1月から平成17年12月までのことを念頭に置いたものであるかは,甚だ疑問である。そして,上記のとおり倉庫料の記載のある請求書があることも踏まえれば,
乙67の2の上記記載は,
A社がA社各事業年度においてDの倉庫を製品の保管場所として使用していたとの上記認定を左右するものではないというべきである。

以上によれば,特定外国子会社等が「賃借権等の正当な権原に基づいて固定施設を使用している」との意義につき,特定性,排他性,独占性等の要件が必要であるとの控訴人の主張を前提としたとしても,A社が実体基準を満たしていないとは認められないから,
当審における控訴人の主張(2)
は,採用することができない。

(3)

適用除外要件のうちの管理支配基準について
控訴人は,Cは,多数の会社の役員を兼務していたから,A社の全ての業
務を担当することは客観的に不可能であり,新規顧客の開拓などを担当していたともいえず,A社の仕入れ及び販売は,被控訴人が日本で行った包括的な意思決定に従って,Eら営業担当者が行っていたにすぎない(すなわち,A社の卸売業に係る業務の管理,支配及び運営は,被控訴人が日本において行っていた)から,A社は管理支配基準を満たしていないと主張する。加え
-13-

て,控訴人は,CがA社から役員報酬を受け取っていなかったことは,A社において重要な権限を有しておらず,日常的な業務を担当していなかったことの証左であり,
Cが資金管理権限を有していたとは考え難いとも主張する。
しかしながら,被控訴人が当審で提出した甲26(A社の取扱製品に関する月次粗利益レポート)によれば,A社が平成17年1月から6月までの間に行った取引をみても,各製品についての粗利益率には,大きなばらつきがある
(例えば,
同年1月の取引では,
粗利益率の高いもの
(41.
9162%)
と低いもの(マイナス12.5645%)とで,50ポイント以上も差がある)ことが認められるから,A社の取扱製品の取引条件については,A社の営業担当者と仕入先又は販売先との間で個別の交渉が行われていたことがうかがわれる。
さらに,
被控訴人が当審で提出した大部の書証である甲27
(A
社が販売先に発行した製品の販売代金の請求書及びその月次一覧)及び甲28(A社が仕入先から受領した製品の仕入代金の請求書及び梱包明細書並びに請求書の月次一覧)によれば,平成17年1月から6月までの間でも,A社は,合計297件の販売取引を行い,合計69件の仕入れを行ったことが認められるが,A社の取引は,顧客から受注を得て,F社ほか1社に対して発注し,出来上がった製品を顧客に納入するという受注発注の形式で行われていた(引用に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(3))のであるから,上記のとおり多数の販売取引があったということは,それだけ,A社の営業担当者が販売先と交渉をしていたことを意味するというべきである。そして,
甲30(A社のF社やD宛てのデビット・ノート(請求書))によれば,平成17年1月から6月までの間において,A社の取扱製品について,不良品であるとのクレーム,製品の発送間違い,仕様変更の申出等,多種の非定型な事態が発生していたことが認められるから,A社の営業担当者がこれらの事態の解決に当たったことが推認される。
以上のA社の取扱製品についての通常の販売及び仕入れに関する交渉やク
-14-

レームへの対応等をA社の営業担当者が行うに当たっては,当然,シンガポールにおいてこれを指揮監督する人物を必要としたものと考えられ,その人物としては,Cしか考えられない。
したがって,上記の各書証は,Cが,A社の営業担当者に対する指揮監督を行い,日常的な営業活動や顧客からのクレーム対応,売掛債権の督促・回収などの業務を執行していたとの認定(引用に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(9)イ)を十分裏付けるものである。
また,甲31(米ドル口座及び日本円口座の入出金一覧),甲32(銀行口座入出金明細書等)及び甲33(他行送金・行内振替のサマリーレポート)によれば,
Cが,
A社の経理や銀行取引及び為替管理を含む資金管理を行い,
米ドル口座,日本円口座,SGD口座の各残高を把握しつつ,各種の支払をチェックして承認するなどし,通常の取引については,無制限の権限を有していたこと(引用に係る原判決「事実及び理由」の第3の2(9)イ)も裏付けられる。
このようにみると,Cが多数の会社の役員を兼務していたからといって,CがA社の全ての業務を担当することが客観的に不可能であるとはいうことができないし,CがA社から役員報酬を受け取っていなかったことは,上記の認定に影響を及ぼすものではない。
そもそも,控訴人は,原審の敗訴判決を受けるや,本件情報交換条項に基づき,シンガポール税務当局に対し情報収集を依頼したものである(乙67の1)が,本件では,平成15年1月から平成17年12月までのA社の実態が問題になっているにもかかわらず,平成24年時点での情報の収集にとどまっているのであって,そのことだけでも,乙67の2(回答文書)の証拠価値は,薄いものといわざるを得ない。しかも,既に触れたとおり,B社は,平成19年7月頃に本社及びレンタルオフィスを旧ビルから新ビルに移転しており,事務所の面積及びレイアウトも,本件で問題となっている時点
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とは異なっている。また,Cについては,原審で証人尋問が行われているところ,その後に被控訴人側の立会いがないままCから事情を聴取しても,その証拠価値は,薄いというべきである。さらには,B社と取引があるといっても,
A社との類似性があるかないかも分からない別の会社の事情
(乙70)
をもって,A社の場合も同じであろうなどと推認することはできない。控訴人は,原判決の「A社においては,経営上重要な事項に関する意思決定及び会計帳簿書類の作成・保管を含む日常的な業務の遂行は,いずれもA社の取締役であるC及びEら営業担当者により行われていた」との認定(56頁16行目から19行目まで)を種々非難するが,この認定を否定する有効な証拠を,結局,提出することができなかったのである。
したがって,当審における控訴人の主張(3)も,採用することはできない。3
以上によれば,被控訴人の請求はいずれも理由があり,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第17民事部

裁判長裁判官

原優
裁判官

江口
とし子

裁判官

本田能
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