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政務調査費返還命令処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成20年(行ウ)第114号、差戻し前の控訴審・東京高等裁判所平成21年(行コ)第2号、上告審・最高裁判所平成22年(行ヒ)第42号)
事件番号平成25(行コ)57
事件名政務調査費返還命令処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成20年(行ウ)第114号,差戻し前の控訴審・東京高等裁判所平成21年(行コ)第2号,上告審・最高裁判所平成22年(行ヒ)第42号)
裁判年月日平成25年6月20日
法廷名東京高等裁判所
判示事項区民であり区議会議員である者が区長から交付を受けた政務調査費から住民訴訟の提起及び遂行のためにした支出が違法又は不当な支出であるとしてされた政務調査費の一部の返還を命ずる処分の取消請求が,棄却された事例
裁判要旨区民であり区議会議員である者が区長から交付を受けた政務調査費から住民訴訟の提起及び遂行のためにした支出が違法又は不当な支出であるとしてされた政務調査費の一部の返還を命ずる処分の取消請求につき,当該返還に係る監査請求の手続において,前記区議会議員が,監査委員から説明を求められた監査対象事項について回答をしていること,前記監査結果において,区の定める使途基準に照らし,前記政務調査費を目的外に使用した理由を詳細に検討し,前記各支出が違法不当な支出であるとして,不当利得を返還する義務があると記載されていることからすれば,前記区議会議員は当該支出に係る前記処分の基礎となった事実関係及び適用法令を知ることができるものであり,前記処分を命ずる書面自体に根拠法令の記載がないことをもって,直ちに理由の提示がされていないということはできないとして,前記取消請求を棄却した事例
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平成25年6月20日判決言渡
平成25年(行コ)第57号

政務調査費返還命令処分取消請求控訴事件

主1文
目黒区長が被控訴人に対し平成19年5月1日付けでした平成17年度分政務調査費の一部の返還を命ずる処分を取り消した原判決のうち,10万7375円を超える金員の返還を命ずる部分を取り消した部分を取り消す。

2
前項により取り消した部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

3
訴訟の総費用は,これを5分し,その4を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨
主文同旨

第2
1
事案の概要
本件事案の概要

(1)

被控訴人は目黒区の区議会議員であり,
地方自治法
(平成20年法律第6

9号による改正前のもの。以下同じ。)100条13項の規定に基づく条例である目黒区政務調査費の交付に関する条例
(平成13年目黒区条例第5号。
平成18年目黒区条例第62号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)の規定により,平成17年度に204万円の政務調査費の交付を受けたところ,その中から被控訴人が提起した住民訴訟に関する費用を支出し,これを含めた収支報告書を目黒区議会議長に提出した。上記収支報告書中には,被控訴人が,①「住民訴訟テープ反訳」として3万1775円(以下「本件支出1」という。),②「住民訴訟証人尋問速記反訳」として7万5600円(以下「本件支出2」という。),③「住民訴訟控訴印紙代及高裁提出用切手」として2万8350円(以下「本件支出3」という。)の各支出に
-1-

政務調査費を用いた旨の記載がなされていた
(以下,
上記各支出を併せて
「本
件各支出」という。)。
(2)

地方自治法100条13項は,
普通地方公共団体は,
条例の定めるところ

により,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は条例で定めなければならないと定めており,これを受けて本件条例10条は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,当該政務調査費を別に定める使途基準に従って使用しなければならないと定めている。
これを受けた目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号による改正前のもの。)5条及び別表により定められた政務調査費使途基準(本件使途基準)は,調査研究費,資料作成費,広報費等9つの項目を挙げてその内容を定めている。このうち,調査研究費については「会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査・・・委託に要する経費」(調査委託費,交通費,宿泊費等)である旨,資料作成費の内容については,「会派又は議員が議会審議に必要な資料を作成するために要する経費」(印刷・製本代,原稿料等)である旨,広報費の内容について,「会派又は議員が行う議会活動及び目黒区政に関する政策等の広報活動に要する経費」(広報紙・報告書等印刷費,送料,交通費等)である旨を定めている。
(3)

目黒区監査委員は,
控訴人の住民による住民監査請求に基づき,
本件各支

出は,地方自治法,本件条例,本件使途基準等に照らし,政務調査費の使途として認められないものであるとして,目黒区長に対し,被控訴人に対して本件各支出の合計額である13万5725円を不当利得として返還するよう勧告した。目黒区長は,上記の監査結果を受けて,被控訴人に対し,目黒区政務調査費の交付に関する条例(平成19年目黒区条例第22号による改正
-2-

前のもの。)14条に基づき,平成19年5月1日付け「平成17年度分政務調査費の返還命令」と題する書面に,返還理由を「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」と記載して,被控訴人に対する平成17年度分の政務調査費のうち13万5725円の返還を命ずる処分をした(以下「本件処分」という。)。
2
本件訴訟の経過
(1)

被控訴人は,本件各支出が地方自治法,本件条例,本件使途基準等にのっ
とって適正になされたものであるから,本件処分は違法であるとして,その取消しを求めて東京地方裁判所に本件訴えを提起した。
原審は,本件各支出は本件使途基準の調査研究費に該当するものというべきであるから,被控訴人が本件各支出に政務調査費を用いたことが違法又は不当であるということはできないものであり,本件各支出が違法又は不当であるとしてなされた本件処分は違法であり取り消されるべきであるとして,被控訴人の請求を認容したため,控訴人がこれを不服として控訴した。(2)

差戻前控訴審も,
本件各支出は,
被控訴人の事務及び地方行財政に関する

調査研究に要する経費として,いずれも本件使途基準の調査研究費に該当するものであり,違法又は不当な支出であるということはできないとして控訴人の控訴を棄却したため,控訴人が上告した。
(3)

上告審は,
議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のために費用が支

出された場合には,当該支出は,本件使途基準の調査研究費の支出に該当しないが,住民訴訟を提起し追行する議員が,当該訴訟の提起及び追行を端緒として,その過程でその結果として取得した情報や資料を,当該訴訟の追行とは別途に,議会活動に関して,その基礎となる調査研究又は議会審議に必要な資料の作成や議会活動の広報等に用いるために費用が支出された場合には本件使途基準に適合しない支出であるとまではいえないと判断した。その上で,本件各支出のうち,本件支出3は,議員による住民訴訟の提起
-3-

及び追行それ自体のための費用であって,本件使途基準の調査研究費その他の支出に該当しないものであるとし,本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,これを取り消すべきものとした原審の判断には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,
原判決中,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2の合計額10万7375円を超える部分の取消請求に係る部分は破棄を免れないものであり,被控訴人が処分の手続上の違法事由として,本件処分の理由提示の不備も主張しているところ,この点に関して更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分につき本件を原審に差し戻すとした。一方,本件支出1及び本件支出2については,被控訴人の議員としての議会活動に関して,被控訴人の参加する質疑等の議会審議の参考に供する資料又はその議会活動の広報に供する資料を作成するために支出された費用として,本件使途基準の資料作成費又は広報費の項目に該当するとして,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,同部分を取り消すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができるとした。
そして,本件請求のうち,本件支出1及び本件支出2の合計額相当の10万7375円を超える金員の返還を命ずる部分の取消しを求める部分について原判決を破棄した上,上記破棄部分につき,本件を当庁に差し戻した。3
本件の争点
本件処分のうち,本件支出1及び本件支出2に係る部分は,上告が棄却されたことによって原審の判断が確定している。また,本件支出3に係る部分については,実体上の違法事由がないことについて上告審の判断が示されているため,本件の争点は,本件支出3に係る部分について,本件処分の手続上の違法(理由提示の不備)があるか否かである。

4
争点に対する当事者の主張

-4-

(1)

被控訴人の主張
目黒区行政手続条例14条は,行政庁は,不利益処分をする場合には,そ
の名宛人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならないと定めている。しかるに,本件処分書(甲3)には,処分の理由として,「平成17年度に交付した政務調査費について,平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から返還を請求することの勧告を受けたので,下記により平成17年度分の政務調査費の返還を命じます。」として,返還理由として「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため。」との記載があるだけで,不利益処分の理由を示したものとはいえず,根拠法令の記載もないから,目黒区行政手続条例14条に違反するものであり,違法である。
(2)

控訴人の主張
本件処分について根拠となる法令及び条文を明示すべき義務を定めた明文
はないから,根拠条文を示していないことが直ちに本件処分の違法をもたらすものではない。理由提示を求める趣旨・目的は,①処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること,②不服申立てに便宜を与えることにあるとするのが判例である。本件処分の理由提示は,上記①,②の趣旨に照らし相当であり,違法たりえない。
第3
1
当裁判所の判断
実体上の違法事由の有無について
住民訴訟の提起及び追行は,地方議会の制度とは別個独立の自己完結的な争訟制度を通じて地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を是正し又は予防することを目的とし,裁判所に対し法令と証拠に基づく法的判断を求めて請求の実現を図り攻撃防御を行う司法手続上の争訟活動を内容とする行為であり,客観的に見て,議会の審議能力の強化を図るために議会の議員活動の基礎となるものとして情報や資料を収集する調査や研究の
-5-

活動とは,本来の目的や性質を異にするものである。したがって,住民訴訟の提起及び追行は,それ自体としては,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的な関連性が認められないものであり,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のために費用が支出された場合には,当該支出は,本件使途基準の調査研究費の支出に該当しないものである。
本件支出3が,被控訴人において控訴を提起した住民訴訟に係る訴訟費用の支出であることは,原判決の「事実及び理由」第3の1(1)エに記載のとおりであり,そうすると,本件支出3は,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のための費用の支出であって,本件使途基準の調査研究費その他の項目の支出に該当せず,本件使途基準に適合しない支出である。したがって,本件処分のうち,本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分については,実体上の違法事由が存しないものであり,上記部分について,実体上の違法があるとした原審の判断は相当でない。
2
手続上の違法事由(理由提示)の有無について
本件訴えに至る経緯は,原判決の「事実及び理由」第2の3(2)に記載のとおりであり,上記事実によれば,目黒区監査委員は,控訴人の住民からの監査請求に基づき,目黒区長に対し,被控訴人に対して本件各支出の合計額である13万5725円を不当利得として返還請求することを勧告するとともに,この監査結果を公表したこと,目黒区長は,上記監査結果に基づき,被控訴人に対して,平成19年5月1日付け「平成17年度分政務調査費の返還命令」と題する書面に,返還理由を「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」と記載して,13万5725円の返還を命ずる本件処分をしたことが認められる。また,証拠(甲2)によれば,被控訴人は,上記監査請求の手続において,監査委員から監査対象事項について説明を求められ,
本件各支出が本件使途基準に該当する旨の回答をしていること,
上記監査結果において,本件使途基準に照らし,被控訴人が政務調査費を目的
-6-

外に使用した理由を詳細に検討し,本件各支出が違法・不当な支出であるとして,不当利得を返還する義務があると記載されていることが認められる。このような事実からすると,本件支出3に係る本件処分は,本件支出3が本件使途基準に照らし,被控訴人が政務調査費を目的外に使用したものであり,違法・不当なものであるとの理由でなされたものと認められるのであり,上記の経緯からすると,「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」との記載によって,被控訴人において,本件支出3に係る本件処分の基礎となった事実関係及び適用法令を知ることができるものと認められる。したがって,本件支出3に係る本件処分は,理由の提示について違法なものということはできない。
被控訴人は,本件支出3に係る本件処分が不利益処分の理由を示したものとはいえず,
根拠法令の記載もないから違法であると主張するが,
上記のとおり,
被控訴人において,本件支出3に係る本件処分の基礎となった事実関係及び適用法令を知ることができるものと認められるのであり,本件処分を命ずる書面自体に根拠法令の記載がないことをもって,直ちに理由の提示がなされていないものということはできない。
3
結論
以上によれば,本件支出3に係る本件処分は適法であって,その取消しを求める被控訴人の主張は理由のないものである。よって,本件処分を取り消した原判決のうち,本件支出3に係る部分を取り消した部分,すなわち,10万7375円を超える金員の返還を命ずる部分を取り消した部分を取り消し,同部分に係る被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。東京高等裁判所第10民事部

裁判長裁判官


-7-

尾隆司
裁判官

吉田尚
裁判官

森脇江
-8-

弘津子
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