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生活保護費返還決定処分取消請求事件
事件番号平成25(行ウ)22
事件名生活保護費返還決定処分取消請求事件
裁判年月日平成25年8月29日
法廷名名古屋地方裁判所
判示事項外国人に対する生活保護に係る保護費返還決定の行政処分性
裁判要旨生活保護法がその適用対象を日本国籍を有する者に限定していることは,その文言や同法が制定された沿革等に照らし明らかであり,「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知)により,一定範囲の外国人については同法に基づく生活保護に準じた生活保護の措置が執られているが,同通知は法律の委任を受けて定められたものではないから,同通知によって行われる生活保護の給付や返還に関する措置はあくまでも行政措置として行われるものにすぎず,外国人に対する生活保護に係る保護費返還決定は,権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
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平成25年8月29日判決言渡
平成25年(行ウ)第22号

生活保護費返還決定処分取消請求事件

主文1
本件訴えを却下する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
名古屋市α区社会福祉事務所長が平成24年6月18日付けで原告に対してした生活保護法63条に基づく保護費返還決定を取り消す。

第2

事案の概要

1
本件は,
名古屋市α区において生活保護を受給していた外国人である原告が,同区社会福祉事務所長から平成24年6月18日付けで保護費返還決定(以下「本件決定」という。)を受けたことから,本件決定は抗告訴訟の対象である行政処分に該当すると主張して,その取消しを求める事案である。
2
関係法令等の定め

(1)生活保護法の定め

生活保護法1条は,「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。」と規定し,同法2条は,「すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。」と規定している。


生活保護法63条は,「被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と規
-1-

定している。
(2)通達等の定め

「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「昭和29年通知」という。乙1)は,一項本文において,「生活保護法第1条により,外国人は法の適用対象とならないのであるが,当分の間,生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと。」と規定している。

イ「外国籍の方からの生活保護法による保護申請に対する応答について」(平
成22年10月22日厚生労働省社会・援護局保護課審査係長事務連絡。以下「平成22年事務連絡」という。乙2)は,1項及び2項において,「①外国籍の方からの生活保護法による保護申請に対しては,外国籍の方には同法上の権利が認められないことを理由として,同法に基づく却下処分を行う必要があり,かつ,不服申立て等ができる旨を教示しなければならない。その上で,②昭和29年通知に基づく行政措置の対象となりうる方かどうかを判断し,保護決定又は却下決定を行うことになる。①の却下処分に対しては審査請求ができるが,審査の対象となるのは,却下通知書に記載する『生活保護法第1条に規定する国民による申請ではなく,
保護の要件を満たさない』
という事項についてのみである。②の行政措置に関する内容は審査請求の対象外である。」旨を定め,3項において,「『外国籍の方に対する保護の変更等』についても,上記1及び2の趣旨を踏まえて適切に対応する。」旨定めている。
3
前提事実(当事者間に争いがない事実及び掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定することができる事実)

(1)原告は,大韓民国国籍を有する外国人である。
(2)原告は,名古屋市α区に居住していたところ,同区社会福祉事務所長から,
-2-

平成23年12月12日から生活保護を開始する旨の通知を受け,昭和29年通知に基づく行政措置として,生活保護の措置を受けるようになった。なお,上記通知の書面(乙4)には,「日本国籍を有しない方については,昭和29年通知に基づく行政措置の決定であるため,審査請求及び取消訴訟を提起することはできない」旨が明記されていた。
(3)原告は,精神障害者保健福祉手帳2級を取得し,平成24年3月分から障害者加算を受けた。
(4)その後,原告は,名古屋市α区から同市β区に転居したが,原告の生活保護を管理することとなった同区社会福祉事務所長は,原告の精神障害は原告自身が薬物を使用した結果として生じたものであるため,障害者加算の要件を満たさず,原告に支払われた平成24年3月ないし5月分の障害者加算の保護費合計4万7670円(以下「本件保護費」という。)は算定の誤りであったと判断した。
そこで,同社会福祉事務所長は,平成24年6月18日付けで,本件保護費4万7670円の返還に関して本件決定(○天民第○号)をし,これを原告に通知した。(甲4,乙5)
(5)本件決定の通知書(甲4)は,別紙のとおりであり,「生活保護法第63条に基づく保護費の返還について(通知)」という表題で,「生活保護法63条の規定に基づき返還額を4万7670円と決定した」
旨が記載されている一方,
「日本国籍を有しない方については,昭和29年通知に基づく行政措置の決定であるため,審査請求及び取消訴訟を提起することはできない」旨が明記されていた。
4
争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件決定の処分性(本案前の争点),②本件決定の適法性(本案の争点)であり,これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。
(1)本件決定の処分性(本案前の争点)

-3-

(原告の主張)

憲法で保障される健康で文化的な最低限度の生活は,普遍的に保障される性質のものであって,憲法25条,14条,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)2条2項,9条,11条1項に照らすと,外国人も,日本国民と同様に,生活保護を受ける権利及び生活保護法の適用を受ける法的権利を有する。
したがって,外国人に対する生活保護について行政庁のなす決定には処分性が当然に認められる。仮に生活保護について外国人の不服申立ての途が閉ざされると,その保障は実質を伴ったものとはいえず,憲法25条,14条に違反する。


本件決定は,通知による措置という形を採っているが,実質的には生活保護法の適用と同視すべきであるから,その個別具体的な運用に不服がある場合には,訴訟によりその適否を争い得ると解すべきである。
また,昭和29年通知は,日本国との平和条約(いわゆるサンフランシスコ平和条約)の発効に伴い,法の欠缺を補うために代替措置として講じられたものであり,遅くとも昭和57年1月の難民の地位に関する条約の発効以降においては,生活保護法の補完的な立法措置としての性質が確立したものというべきである。


生活保護行政における実務の運用では,保護の決定や生活保護法63条に基づく保護費の返還についての通知の際に,日本国民に対する生活保護と全く同様の内容での決定や通知がされている。


以上によれば,本件決定は,取消訴訟の対象となる行政処分に当たる。
(被告の主張)

生活保護法に基づく保護を受ける者は,同法1条の規定の文言や同法の制定の際の沿革に照らし,日本国籍を有する者に限られており,外国人は同法の適用対象とはされていない。

-4-


生活に困窮する外国人は,昭和29年通知に基づき,生活保護法による生活保護と同様の給付を受けることができるものとされているが,これは,行政上の措置(以下「行政措置」という。)であり,法律上の権利として保障されたものではないから,行政措置に対して不服申立てや取消訴訟を提起することはできない。給付の返還請求についても同様の取扱いがされており,本件決定は,生活保護法63条を適用してしたものではなく,同条に準じて行政措置の一つとして行われたものである。


以上によれば,本件決定は,取消訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

(2)本件決定の適法性(本案の争点)
(原告の主張)

生活保護法における障害者加算は,国民年金法の障害基礎年金の条項を準用するという取扱いがされており,本件についても同法69条の支給要件を準用して判断されたが,生活保護法における障害者加算と国民年金法の障害基礎年金とは,その制度趣旨が異なるから,これを機械的に準用するのは相当でない。すなわち,年金制度には,自ら障害の原因を作り出した者には給付をする必要はないという自己責任の考え方が入らざるを得ないが,生活保護制度は,受給者の過失や来歴に関係なく,最低生活を普遍的に保障すべきことを企図する性質のものである。したがって,本件決定において,国民年金法69条に依拠して,障害者加算の要件を満たさないと判断したことは,違法であり,原告には,障害者加算に係る本件保護費を返還すべき義務はない。


生活保護法63条は,本件のように,保護費が行政庁の誤りによって本来の金額より多く支払われた場合に適用されるものではない。このような場合には,民法703条及び地方自治法施行令159条に基づいて返納の処理がされるべきである。それにもかかわらず,本件決定が,生活保護法63条の
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適用により保護費の返還を求めていることには,手続的な瑕疵がある。ウ
本件においては,行政庁が原告に対して障害者加算の決定により公的見解を表示し,原告は,その障害者加算が適法であると信頼して,本件保護費を受給し生活費として費消したところ,
上記決定に反する返還請求がされため,
不利益を受けたものである。原告にとって,上記障害者加算を否定する決定がされることなど予測不可能であったから,上記信頼に基づいて本件保護費を受給したことについて帰責性は認められない。
したがって,行政庁が本件決定により本件保護費の返還を求めることは,信義則に違反する。


原告は,障害者加算分について別途取り分けて貯金していたわけではないから,事後的に返還請求をされた場合には,最低生活費の中から返還に応じることになる。したがって,本件決定が,行政の過誤によって支払われた本件保護費を返還するよう求めることは,最低生活を保障した憲法25条の趣旨に反する。


以上によれば,本件決定は,違法である。

(被告の主張)
原告の主張は争う。
第3
1
当裁判所の判断
本件決定の処分性(本案前の争点)について

(1)抗告訴訟の対象となる行政処分(行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。

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(2)昭和21年制定の旧生活保護法1条は,「この法律は,生活の保護を要する状態にある者の生活を,国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく,平等に保護して,社会の福祉を増進することを目的とする。」と規定し,その適用範囲を日本国民に限定していなかったが,日本国憲法制定後の昭和25年5月4日に施行された現行の生活保護法は,1条において,「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。」とし,2条において,「すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。」と規定しているのであって,その文言や,旧生活保護法が廃止されて現行の生活保護法が制定された沿革等に照らし,生活保護法がその適用対象を日本国籍を有する者に限定していることは明らかである。
もっとも,昭和29年通知は,「生活保護法第1条により,外国人は法の適用対象とならないのであるが,当分の間,生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行う」旨を定め,一定範囲の外国人については,生活保護法に基づく生活保護に準じた生活保護の措置が執られているけれども,
昭和29年通知は,
法律の委任を受けて定められたものではないから,昭和29年通知によって行われる生活保護の給付や返還に関する措置は,あくまでも行政措置として行われるものにすぎないというべきである。
(3)ところで,前記前提事実によると,原告は,大韓民国国籍を有する外国人であり,平成23年12月12日から,昭和29年通知に基づく行政措置として生活保護の措置を受け,平成24年3月分からは障害者加算を受けていたが,その後,同年6月18日付けで本件決定を受け,同年3月分ないし5月分の障害者加算に係る本件保護費の返還を求められたというのであるから,原告に対
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する生活保護の措置や本件保護費の返還に関する本件決定は,生活保護法に基づき行われたものではなく,昭和29年通知に基づく行政措置として行われたものにすぎないといわざるを得ない
(このことは,
本件決定の通知書において,
「日本国籍を有しない方については,昭和29年通知に基づく行政措置の決定であるため,
審査請求及び取消訴訟を提起することはできない」
旨が明記され,
本件決定の前提となる原告に対する生活保護開始決定にも,昭和29年通知に基づく行政措置の決定であることが明記されていたことからも,明らかである。)。
そうすると,本件決定は,「権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」ではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。したがって,本件訴えは不適法である。
(4)これに対し,原告は,憲法25条,14条,A規約2条2項,9条,11条1項に照らすと,外国人も,生活保護を受ける権利及び生活保護法の適用を受ける法的権利を有するとした上で,本件決定について処分性が否定されて取消訴訟を適法に提起できないとすると,外国人に対する生活保護が実質を伴ったものとはいえなくなり,憲法25条,14条に違反する旨主張する。しかしながら,原告の援用する憲法やA規約の規定は,直接個々の個人に対して即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではなく,制定された生活保護法によって初めて具体的権利が付与されることになるところ(最高裁昭和39年(行ツ)第14号同42年5月24日大法廷判決・民集21巻5号1043頁,最高裁昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁参照),生活保護法がその適用対象を日本国外
籍を有する者に限定していることは,
前記(2)で説示したとおりであるから,
国人が生活保護法の適用を受ける旨の原告の上記主張は,その前提を欠くというほかはない。そして,本件決定が生活保護法に基づくものでないことは,前示のとおりであるから,生活保護法が憲法に適合するかどうかによって,本件
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決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するかどうかが左右されるものではない。
なお,本件決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない以上,本件決定は,原告の本件保護費の返還義務を形成し又はその範囲を確定するものでないことはいうまでもない。原告が本件保護費を被告に返還すべき義務を負うかどうかは,被告の原告に対する不当利得返還請求権の有無によって決せられる問題であり,原告は,被告から本件保護費の返還請求を受けたとしても,法律上の原因の存在や,善意の受益者該当性,現存利益の不存在等を主張して返還義務を争うことができるのであるから,本件決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないからといって,原告の権利利益の救済の実効性に欠けるところはない。
以上によれば,本件決定について行政処分として取消訴訟を適法に提起することができないという点を捉えて憲法25条,14条に違反するなどという原告の主張は,採用することができないことは明らかである。
2
結論
以上の次第で,本件決定は行政処分ではなく,その取消しを求める本件訴えは不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部

裁判長裁判官

福井章代

裁判官

笹本哲朗

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裁判官

平野佑子

-10-

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