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設立認可処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第754号)
事件番号平成24(行コ)306
事件名設立認可処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第754号)
裁判年月日平成25年9月25日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 都市再開発法11条1項に基づく市街地再開発組合の設立認可について,当該市街地再開発組合の事業の施行に起因する大気汚染による健康被害等の権利侵害を受けると主張する施行区域の周辺住民らが,同設立認可の取消しを求める訴えにつき,前記住民らの原告適格が否定された事例
2 都市再開発法11条1項に基づく市街地再開発組合の設立認可について,当該市街地再開発組合の事業の施行により景観利益を侵害されると主張する施行区域の周辺住民らが,同設立認可の取消しを求める訴えにつき,前記住民らの原告適格が否定された事例
裁判要旨1 都市再開発法11条1項に基づく市街地再開発組合の設立認可について,当該市街地再開発組合の事業の施行に起因する大気汚染による健康被害等の権利侵害を受けると主張する施行区域の周辺住民らが,同設立認可の取消しを求める訴えについて,市街地再開発組合の事業の施行区域の周辺に居住する住民のうち,当該組合の事業の施行に起因して相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭並びに日照阻害,風害等の公害に準ずる環境破壊による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接に受けるおそれのある者は,当該市街地再開発組合の設立認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものといえるが,前記市街地再開発事業に関する都市計画の内容及び地区組合の事業計画の内容に照らして,前記住民らがこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがある事実は認められないとして,前記住民らの原告適格を否定した事例
2 都市再開発法11条1項に基づく市街地再開発組合の設立認可について,当該市街地再開発組合の事業の施行により景観利益を侵害されると主張する施行区域の周辺住民らが,同設立認可の取消しを求める訴えについて,市街地再開発組合の設立認可の根拠法令である都市再開発法及び都市計画法の規定は,第一種市街地再開発事業の施行区域に近接する地域内に居住しその良好な景観の恵沢を日常的に享受している不特定多数の者が有する景観利益についても環境影響評価等の手続を通じて適正な配慮がされるようにすることも,その趣旨及び目的とするものであるとした上,両法の関係法令である景観法の規定に基づいて景観行政団体が策定した景観計画において,良好な景観の形成に関する方針及び良好な景観の形成のための行為の制限に関する事項のうちの規制又は措置の基準が詳細かつ具体的に定められているのであれば,その定めから,第一種市街地再開発事業に関する都市計画の決定をするに当たって保護すべき景観の内容,場所的又は空間的な範囲,保護の方法態様等が具体的にうかがわれ,都市再開発法及び都市計画法並びにその関係法令の規定が,不特定多数の者の景観利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することができることとなるが,都の特別区が策定した景観計画には,前記市街地再開発事業の施行区域を含む区域に適用される良好な景観の形成のための行為の制限に関する事項のうちの規制又は措置の基準が定められているものの,これらは,いずれも第一種市街地再開発事業に関する都市計画の決定をするに当たって保護すべき景観の内容,場所的又は空間的な範囲,保護の方法態様等が具体的にうかがわれるほどには詳細かつ具体的なものではないとし,そのほかの規定に照らしても,違法な市街地再開発組合の事業の施行に起因する景観の破壊による被害を受けないという利益については,都市再開発法及び都市計画法の規定が,施行区域の周辺に居住する個々の住民に対して,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないとして,前記住民らの原告適格を否定した事例
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平成25年9月25日判決言渡

平成24年(行コ)第306号設立認可処分取消請求控訴事件
主文1
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
東京都知事が平成22年6月30日をもってしたα第二地区市街地再開発組合の設立認可を取り消す。

第2

事案の概要
事案の概要(略語は新たに定義しない限り原判決の例による。以下本判決に
おいて同じ。)
1
本件は,東京都知事(処分行政庁)が,都市再開発法第3章の規定により行われる第一種市街地再開発事業であるα地区第一種市街地再開発事業(本件市街地再開発事業)
の施行者であるα第二地区市街地再開発組合
(第二地区組合)
の設立発起人がした同組合の設立認可の申請に対し,平成22年6月30日,都市再開発法11条1項の規定に基づき,設立認可(本件設立認可)をしたため,本件市街地再開発事業の施行区域の周辺住民などである第1審原告ら141名
(控訴人ら31名を含む。が,

本件設立認可は都市再開発法16条3項,
17条2号の規定に違反する違法な処分であり,また,本件市街地再開発事業に関する都市計画決定は違法であり,それを前提とする本件設立認可は違法であると主張し,
処分行政庁の所属する東京都
(被控訴人)
を第1審被告として,
本件設立認可の取消しを求めた事案である。

2
原審は,第1審原告らは,本件設立認可の取消しを求めるにつき法律上の利
益を有するものではないから,本件各訴えはいずれも不適法なものというべきであるとして,本件各訴えをいずれも却下した。
原判決に対して,控訴人ら31名が控訴したが,その余の第1審原告らは控訴を提起しなかった。
当裁判所も,原審と同じく,控訴人らは本件設立認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものではなく,控訴人らの本件各訴えはいずれも不適法なものであると判断した。
3
法令の定め,前提事実,争点及び当事者の主張の要旨は,次のとおり改め,後記4のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2

事案の概要」1~4(原判決1頁末行~55頁13行目。

別紙2(ただし,後記(1)~(3)のとおり改める。)及び3を含む。)に記載のとおりであるからこれを引用する。
(1)原判決別紙2の108頁8行目~9行目の「東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成14年東京都条例第127号による改正前のもの。以下同じ。)」を「東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。
平成14年東京都条例第127号による改正前のもの。
本件条例③」
本件条例③)
と改める。
(2)原判決別紙2の109頁3行目の「象事業」を「対象事業」と改める。(3)原判決別紙2の119頁末行に改行の上,次のとおり加える。「7

東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの。本件条例①)本件条例①
本件条例

(1)2条(定義)
この条例において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1ないし4号は省略)


関係地域

事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で

当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として,第13条第1項の規定により知事が定める地域をいう。(5号)

(6号は省略)


許認可等

法令又は条例に基づく許可,認可,特許,免許,指示,命令,

承認,確認,届出の受理その他これらに類する行為又は都市計画法(昭和43年法律第100号)
の規定による都市計画の決定
(変更を含む。
以下同じ。

をいう。(7号)

許認可権者

許認可等の権限を有する者をいう。(8号)

(2)9条(評価書案の作成)
事業者は,対象事業を実施しようとするときは,知事があらかじめ定める環境影響評価に係る技術上の指針(以下「技術指針」という。)に基づき,当該対象事業の実施が環境に及ぼす影響について調査等を行い,規則で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した環境影響評価書案(以下「評価書案」という。)及びその概要(以下「評価書案等」という。)を作成し,規則で定める時期までに知事に提出しなければならない。(1項)ア
(1号ないし3号は省略)


調査の結果(4号)


環境に影響を及ぼす地域並びに環境に及ぼす影響の内容及び程度(5号)

環境の保全のための措置(6号)


環境に及ぼす影響の評価(7号)


対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれのある地域(8号)


(9号は省略)

(3)10条(予測及び評価の項目)
前条第1項の規定により行う予測及び評価の項目は,
大気汚染,
水質汚濁,
土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭,日照阻害,電波障害その他の公害,植物,動物その他の自然環境,史跡,文化財その他の歴史的環境,景観等について,既に得られている科学的知見に基づき予測及び評価を行うことが可能なもののうちから選択するものとする。
(4)12条(評価書案等の送付等)
知事は,第9条第1項の規定による評価書案等の提出があったときは,遅滞なく,その写しを当該評価書案に記載されている同項第5号に掲げる地域を管轄する特別区の区長又は市町村長に送付するとともに,評価書案等の提出があった旨を当該対象事業に係る許認可権者に通知しなければならない。(5)13条(関係地域の決定)
知事は,前条の規定により評価書案等を送付した特別区の区長及び市町村長の意見を聴いたうえ,当該対象事業に係る関係地域を,規則で定める期間内に定めなければならない。(1項)
(6)20条(公聴会の開催等)
知事は,第16条の縦覧期間を経過した後,第9条第1項の規定により提出された評価書案の内容について都民の意見を聴くため,公聴会を開催しなければならない。(1項)
8
東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成12年東京都条例第179号による改正前のもの。本件条例②)本件条例②
本件条例

(1)2条(定義)
この条例において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1ないし4号は省略)


関係地域

事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で

当該対象事業の実施が環境に影響を及ぼすおそれがある地域として,第23条第1項の規定により知事が定める地域をいう。(5号)

(6ないし8号は省略)

(2)10条(環境影響評価の項目)
環境影響評価の項目は,公害の防止,生活環境,自然環境,歴史的環境,人と自然との豊かな触れ合い,環境への負荷等について,規則で定めるもののうちから選択するものとする。
(3)22条(評価書案の作成)
事業者は,調査計画書(調査計画書を修正したときは,修正した調査計画書)に基づき,対象事業の実施が環境に及ぼす影響について調査等を行い,規則で定めるところにより,
次に掲げる事項を記載した環境影響評価書案
(以
下「評価書案」という。)及びその概要(以下「評価書案等」という。)を作成し,規則で定める時期までに知事に提出しなければならない。ア
(1号ないし5号は省略)


評価項目ごとに環境に及ぼす影響の内容及び程度(6号)


(7号ないし10号は省略)

(4)28条(公聴会の開催等)
知事は,第25条の縦覧期間を経過した後,第22条の規定により提出された評価書案の内容について都民の意見を聴くため,公聴会を開催しなければならない。(1項)
(5)30条(評価書案に係る審査意見書の作成等)
知事は,
第24条の規定による諮問について審議会の答申を受けたときは,第22条の規定により提出された評価書案について,次に掲げる事項を勘案して,環境の保全の見地から審査し,その結果に基づく意見を記載した審査意見書を作成しなければならない。(1項)(以下省略)
(6)31条(評価書の作成)
事業者は,前条第2項の規定による審査意見書の送付を受けたときは,第22条の規定により作成した評価書案について,当該審査意見書並びに第29条第3項において準用する第16条第1項の意見書及び第29条第3項において準用する第17条第1項の求めに応じて提出された関係区市町村長の意見に基づき検討を加え,規則で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した環境影響評価書(以下「評価書」という。)及びその概要(以下「評価書等」という。)を作成し,知事に提出しなければならない。

第22条各号に掲げる事項(1号)


前号に掲げる事項のうち,当該評価書案を修正したものについては,その経過(2号)


(3号~6号は省略)

(7)32条(評価書についての公示,縦覧等)
知事は,前項の規定による公示をしたときは,前条の規定により提出された評価書等の写しを,関係区市町村長,当該対象事業に係る許認可権者及び第14条の規定により調査計画書の写しを送付した隣接県知事等に送付しなければならない。(2項)
(8)33条(許認可権者への要請)
知事は,前条第2項の規定により評価書等の写しを許認可権者に送付するときは,当該許認可権者に対し,当該対象事業の実施についての許認可等を行うに際して当該評価書の内容について十分配慮するよう要請しなければならない。
(9)65条(都市計画に定められる対象事業に関する特例)
対象事業が都市計画法の規定により都市計画に定められる場合においては,第9条から第31条までに規定する手続のうち事業者に係る手続(中略)については,同法の規定により当該都市計画を定める者(中略)が事業者に代わるものとして,当該都市計画の決定をする手続(中略)と併せて行うものとする。(1項本文)
9
東京都環境影響評価条例施行規則(昭和56年東京都規則第134号。平成11年東京都規則第35号による改正前のもの。本件規則①)本件規則①
本件規則

(1)5条(評価書案等の作成等)
条例第9条第1項の規定による環境影響評価書案(以下「評価書案」という。)及びその概要(以下「評価書案等」という。)の作成は,別表第3に掲げる評価書案等の構成基準に基づき行わなければならない。(1項)評価書案等の提出は,環境影響評価書案等提出書(別記第1号様式)に添付して行わなければならない。(2項)
(2)7条(関係地域を定める期間)
条例第13条第1項の規則で定める期間は,条例第9条第1項の規定により提出された評価書案等を受理した日の翌日から起算して30日間とする。(1項)
東京都環境影響評価条例施行規則(昭和56年東京都規則第134号。平成12年東京都規則第181号による改正前のもの。本件規則②)本件規則②
本件規則

(1)5条(環境影響評価の項目)
条例第10条に規定する環境影響評価の項目は,大気汚染,悪臭,騒音,振動,低周波音,水質汚濁,土壌汚染,地盤沈下,地形・地質,水文環境,植物・動物,日照阻害,電波障害,風害,景観,史跡・文化財,触れ合い活動の場,廃棄物,温室効果ガスその他知事が定める項目とする。
(2)27条(評価書の作成等)
条例第31条の規定による評価書の作成は,技術指針及び別表第7に掲げる評価書の構成基準に基づき行わなければならない。(1項)
評価書等の提出は,環境影響評価書等提出書(別記第11号様式)に添付して行わなければならない。(2項)」
(4)原判決7頁1行目の「東京都環境影響評価条例22条」を「本件条例①9条1項及び本件規則①5条2項」と改める。
(5)原判決7頁4行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「東京都知事は,平成10年8月13日,本件条例①13条1項及び本件規則①7条1項に基づき,計画建物による日照阻害,電波障害及び景観の影響を考慮して,その影響の及ぶ範囲を包括する町丁域とし,世田谷区長の意見を聴いて,関係地域を決定した(乙32)。」
(6)原判決7頁5行目~6行目の「東京都環境影響評価条例28条1項」を「本件条例①20条1項」と改める。
(7)原判決7頁10行目の「東京都環境影響評価条例31条」を「本件条例②31条及び本件規則②27条2項」と改める。
(8)原判決9頁20行目~21行目の「東京都環境影響評価条例23条1項」を「本件条例①13条1項及び本件規則①7条1項」と改める。(9)原判決20頁19行目及び20行目の「4m,約90m(新設)」をいずれも「幅員4m,延長約90m(新設)」と改める。
4
当審における当事者の主張

(1)控訴人らの主張

再開発事業の特性について
都市再開発事業は,建築物を整備するだけでなく,再開発事業地内及びその周辺の広範な道路網の整備をも重要な柱とする総合的開発事業であり,周辺環境に対して多様な形で広範かつ深刻な影響を及ぼすこととなる。本件市街地再開発事業により,幹線街路として放射○号線,補助○号線,補助○号線及び補助○号線が新設,拡幅などされる。さらに,区画街路として,○号ないし○号までの道路が,
新設,
拡幅などされる。
本件市街地再開発事業は,
東京都における民間再開発事業としては最も大きい11.2haに及ぶ巨大再開発であり,上記の道路整備事業も大規模なものである。そうすると,原判決が,都市再開発法による市街地再開発事業は,道路や都市高速鉄道のような都市施設の整備に関する事業とは異なり,その事業が施行されることにより整備される建築物又は建築敷地それ自体から相当範囲にわたる大気の汚染等が生ずることは通常考え難いとしたことは,誤りである。


関係地域について
東京都知事が,本件市街地再開発事業に関し,東京都環境影響評価条例に基づいて定めた関係地域は,知事自らが環境に影響を及ぼすおそれがある地域であると認めて指定した地域であるから,少なくとも上記関係地域に居住する控訴人らには,原告適格が認められるべきである。

圧迫感について
現代においては,圧迫感は,単なる主観的な不快感ではなく,形態率を用いた測定方法により,その数値化,客観化が可能となっているものである。そして,許容限界値を超えた圧迫感は,人間の精神,身体に重大な影響を及ぼすものであり,圧迫感を受けずに生活することは人間の人格的生存に不可欠である。
特に,控訴人A宅は,本件市街地再開発事業のβ街区の正面に位置しており,形態率で24%を超える数値が出ている。そうすると,控訴人Aに原告適格が認められるべきである。
また,
控訴人Aと同じγに居住する控訴人B,
控訴人C及び控訴人Dにも,住所地における日常生活で圧迫感の被害を受けるおそれがあることは明白であるから,原告適格が認められるべきである。さらに,このような圧迫感は,居住者のみならず,公共的な駅への通路,駅ビル周辺,交通広場,δ通りを通行する者全てに権利侵害を及ぼすから,来訪者全員にも原告適格があるというべきである。


洪水被害について
本件第一期事業では,6~7mという高さの人工地盤が建設されたが,このような人工地盤の建設は,本件市街地再開発事業の事業地に建設される建築物を洪水の被害から免れさせる一方,本件市街地再開発事業の事業地の貯水容量を大幅に減少させてしまうものであり,その分,本件市街地再開発事業の事業地の周辺の土地において,浸水時の水位が著しく上昇する。このように,本件第一期事業を含めた本件市街地再開発事業における人工地盤の建設は,周辺住民の浸水被害を拡大させるものであることは明らかである。さらに,本件市街地再開発事業は,巨大な地下建造物を建設するものであり,地下水の流動を阻害し,上流側の地下水位の上昇を招くおそれがある。オ
大気汚染について
本件市街地再開発事業の施行区域の周辺地域は,極めて自動車交通量の多い幹線道路に囲まれており,本件市街地再開発事業の施行前においても,住民らが測定した二酸化窒素濃度では,しばしばその環境基準を超える高い濃度が測定されていた。そのような地域に,環境影響評価書における開発交通量予測でも,1日当たり2万5400台と極めて大きな自動車交通の増加が想定されるというのであるから,本件市街地再開発事業によって,自動車排ガスによる大気汚染が,控訴人ら住民に健康被害を生ずるおそれを生ずるほどに悪化することは明白である。


風害について
平成23年4月,本件市街地再開発事業の施行区域の周辺住民の女性が,旧堤防が途切れる「ε」部分とζ駅改札口に向かう通路を結ぶδ通りの横断歩道上で,突風にあおられて転倒し,肩を骨折する重傷を負った。控訴人Aの自宅周辺では,本件第一期事業の施行後,ビル風により,外に飾ってある植木鉢などが飛んだり,衝立が倒れたり,屋根や雨樋などが風に吹き飛ばされて壊れる被害が出ている。また,本件市街地再開発事業地内の商店などでも,看板を重りで固定する等の強風対策をとることを余儀なくされている。
本件市街地再開発事業の施行者も,風害対策として,当初は予定していなかった防風ドアをガレリアに設置し,強風時には防風ドアを閉鎖している。また,防風ボードや風速計を設置し,更に保安員も配置している。本件市街地再開発事業による風害は,
世田谷区議会でも問題となっており,
複数の議員から,風害対策を求める質問がなされ,世田谷区も深刻に受け止めて答弁している。
本件第二期事業においては,地上137mの超高層ビルの建築が予定されており,周辺住民は,更に危険な風害の被害を受けるおそれがある。特に,世田谷区γ,η及びθ等に居住する住民は,本件市街地再開発事業地に極めて近接した周辺に居住し,居住家屋においても,日常的に風害の被害を受けるほか,生活の中で頻繁にζ駅改札口周辺,再開発ビル敷地沿いの道路を通行するので,その通行に転倒の危険が伴うという著しい身体,生命の安全に対する被害を受けるから,原告適格が認められるべきである。

景観について
原判決は,ι川及びλ並びにその周辺地域の景観について,「良好な風景として世田谷区の住民等から一般的に評価され,近接する地域内に居住する人々の歴史的又は文化的環境を形作り,豊かな生活を構成するものとして,一定の客観的価値を有するに至っているということができる。」として,景観利益を私法上の保護法益として認められるとしながら,行政法上の保護法益としては否定したが,このような判断は,行政事件訴訟法の解釈を誤り,これまでの判例にも違反するものである。景観利益が私法上保護される利益である以上,景観を保護する趣旨の関連する行政法規がある場合には,景観利益を行政事件訴訟法9条の保護利益として認めるべきである。

(2)被控訴人の主張

再開発事業の特性について
都市再開発法による市街地再開発事業は,道路の新設の事業や鉄道の建設事業とは異なり,環境影響評価法の対象事業とはされていない。市街地再開発事業は,一般的にみて,その施行区域の周辺の環境に著しい影響を及ぼすものではない。


関係地域について
本件市街地再開発事業について,東京都知事が定めた関係地域は,「環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域」として定められたものであり,関係地域内に居住する者であるからといって,「当該事業が実施されることにより健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者」に該当するわけではない。

圧迫感について
控訴人らは,控訴人ら各人の居住地と本件設立認可の対象である第二地区組合の事業の施行区域との位置関係(距離・方角など)すら明確にしておらず,控訴人らの主張は失当である。


洪水被害について
控訴人らが主張する水害被害は,既に完了している本件第一期事業を含めたものであり,本件第二期事業によるもの以外の影響も含められている。控訴人らは,本件設立認可の対象である第二地区組合の事業計画の内容(施行地区,設計の概要等)との関係において,被害を受けるおそれについて個別具体的に明らかにしていない。


大気汚染について
控訴人らの主張する大気汚染被害は,既に完了している本件第一期事業を含めたものであり,
本件第二期事業によるもの以外の影響も含められている。
控訴人らは,本件設立認可の対象である第二地区組合の事業計画の内容(施行地区,設計の概要等)との関係において,被害を受けるおそれについて個別具体的に明らかにしていない。


風害について
控訴人らは,本件第一期事業による風害の発生を主張して,控訴人らが本件第二期事業による更に危険な風害の被害を受けるおそれがあると主張するが,本件設立認可の対象である第二地区組合の事業計画の内容(施行地区,設計の概要等)との関係において,被害を受けるおそれについて具体的に明らかにしていない。


景観について
控訴人らは,行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益」と私法上保護に価する利益を混同している。
第3
1
当裁判所の
当裁判所の判断
当裁判所の判断は,次のとおり改め,当審における当事者の主張に対する判
断を後記2のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3
当裁

判所の判断」1(原判決55頁15行目~90頁4行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決63頁25行目「①

事業者は,」~65頁10行目を次のとおり

改める。
「①事業者は,対象事業を実施しようとするときは,当該対象事業の実施が環境に及ぼす影響について調査等を行い,環境に影響を及ぼす地域並びに環境に及ぼす影響の内容及び程度,環境に及ぼす影響の評価,対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれのある地域等を記載した環境影響評価書案(環境影響評価書案における予測及び評価の項目は,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭,日照阻害,電波障害その他の公害,植物,動物その他の自然環境,史跡,文化財その他の歴史的環境,景観等について,既に得られている科学的知見に基づき予測及び評価を行うことが可能なもののうちから選択するものとするとされている(本件条例①10条))を作成して東京都知事に提出しなければならず(本件条例①9条1項5号,7号,8号),東京都知事は,環境影響評価書案の提出があったときは,環境影響評価書案に記載されている環境に影響を及ぼす地域を管轄する特別区の区長又は市町村長に環境影響評価書案を送付し,当該特別区の区長及び市町村長の意見を聞いたうえ,事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域を関係地域として定め,環境影響評価書案に関する周知,意見並びに環境影響評価書案に係る審査意見書の作成の手続を執らなければならない(本件条例①12条,13条等),②事業者は,環境影響評価書案に係る審査意見書の送付を受けたときは,環境影響評価書案に検討を加え,環境影響評価書(環境影響評価書においては,評価項目ごとに環境に及ぼす影響の内容及び程度を記載することとされており(本件条例②31条1号,22条6号),その評価項目は,公害の防止,生活環境,自然環境,歴史的環境,人と自然との豊かな触れ合い,環境への負荷等について,規則で定めるもののうちから選択するものとされ(本件条例②10条),規則において,その項目が,大気汚染,悪臭,騒音,振動,低周波音,水質汚濁,土壌汚染,地盤沈下,地形・地質,水文環境,植物・動物,日照阻害,電波障害,風害,景観,史跡・文化財,触れ合い活動の場,廃棄物,温室効果ガスその他知事が定める項目と規定されている
(本件規則②5条))
。及びその概要書を作成し,
東京都知事に提出しなければならず(本件条例②31条),東京都知事は,環境影響評価書及びその概要の提出があったときは,その写しを当該対象事業に係る許認可権者(都市計画法の規定による都市計画の決定の権限を有する者もその一人である。本件条例②2条7号,8号)に送付し,当該許認可権者に対し,当該対象事業の実施についての許認可等を行うに際して当該評価書の内容について十分配慮するよう要請しなければならない(本件条例②32条2項,33条),③対象事業が都市計画法の規定により都市計画に定められる場合においては,上記環境影響評価の手続のうち事業者に係る手続については,同法の規定により都市計画を定める者が事業者に代わるものとして,当該都市計画の決定をする手続と併せて行うものとする(本件条例②65条1項本文)と規定している。」
(2)原判決79頁25行目「東京都環境影響評価条例10条」~80頁5行目「定めているところ,」を「本件条例①10条の規定は,環境影響評価書案における予測及び評価の項目に関し,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭,日照阻害,電波障害その他の公害,植物,動物その他の自然環境,史跡,文化財その他の歴史的環境,景観等について,既に得られている科学的知見に基づき予測及び評価を行うことが可能なもののうちから選択するものとすると定め,本件条例②10条の規定は,環境影響評価の項目に関し,公害の防止,
生活環境,
自然環境,
歴史的環境,
人と自然との豊かな触れ合い,
環境への負荷等について,規則で定めるもののうちから選択するものと定め,ここにいう「規則」である本件規則②5条の規定は,上記項目として,大気汚染,悪臭,騒音,振動,低周波音,水質汚濁,土壌汚染,地盤沈下,地形・地質,水文環境,植物・動物,日照阻害,電波障害,風害,景観,史跡・文化財,触れ合い活動の場,廃棄物,温室効果ガスその他知事が定める項目とすると定めているところ,」と改める。
(3)原判決81頁4行目~5行目の「東京都環境影響評価条例10条及び東京都環境影響評価条例施行規則5条」を「本件条例①10条又は本件条例②10条及び本件規則②5条」と改める。
(4)原判決84頁26行目「甲第111号証」~85頁初行「距離関係」を「甲第129号証の1及び2(世田谷区の地図で控訴人らの住所地に印を付したもの)により認められる本件市街地再開発事業の施行区域と控訴人らの居住地との距離関係(なお,控訴人Eは東京都江東区に居住しているため甲第129号証の1及び2には記載されていないが,他の控訴人らと比較して上記施行区域から更に遠方に居住していることは明らかである。)」と改める。(5)原判決87頁末行~88頁初行の「自然環境若しくは歴史的環境又は」を削除する。
(6)原判決89頁22行目「甲第111号証」~23行目「距離関係」を「甲第129号証の1及び2により認められる本件市街地再開発事業の施行区域と控訴人らの居住地との距離関係(なお,控訴人Eが他の控訴人らと比較して更に遠方に居住していることは前記のとおりである。)」と改める。2
当審における当事者の主張に対する判断

(1)再開発事業の特性について
控訴人らは,本件市街地再開発事業により,幹線街路として放射○号線,補助○号線,補助○号線及び補助○号線が新設,拡幅などされ,区画街路として,○号ないし○号までの道路が,新設,拡幅などされるなど,大規模な道路整備事業がなされること,本件市街地再開発事業が11.2haに及ぶ巨大再開発であることから,原判決が,市街地再開発事業について,道路や都市高速鉄道のような都市施設の整備に関する事業とは異なり,その事業が施行されることにより整備される建築物又は建築敷地それ自体から相当範囲にわたる大気の汚染等が生ずることは通常考え難いとしたことは,誤りであると主張する。
しかし,控訴人らは,本件第一期事業の内容も含めた道路の新設,拡幅等及び本件市街地再開発事業の規模を主張するものであって,これを採用することはできない。前記引用に係る原判決の前提事実(前記第2の3で改めた後のもの。以下同じ。)記載のとおり,本件第二期事業は,μ街区を対象とするものであり,その施行区域面積は3.1haにとどまるし,本件第二期事業における道路の整備は,幹線街路補助○号線について,幅員16.0m,延長約160mの新設を行うものにとどまる。また,都市再開発法による市街地再開発事業が,道路の新設の事業や鉄道の建設事業とは異なり,環境影響評価法の対象事業とはされていないこと等を考慮すると,市街地再開発事業について,道路や都市高速鉄道のような都市施設の整備に関する事業とは異なり,その事業が施行されることにより整備される建築物又は建築敷地それ自体から相当範囲にわたる大気の汚染等が生ずることは通常考え難いとした原判決は相当であり,控訴人らの主張は採用することができない。(2)関係地域について
控訴人らは,東京都知事が,本件市街地再開発事業に関し,東京都環境影響評価条例に基づいて定めた関係地域は,知事自らが環境に影響を及ぼすおそれがある地域であると認めて指定した地域であるから,少なくとも上記関係地域に居住する控訴人らには,原告適格が認められるべきであると主張する。
しかし,前記引用に係る原判決(前記1で改めた後のもの。以下同じ。)が説示するとおり,周辺住民に市街地再開発組合の設立認可の取消訴訟における原告適格を認めるためには,当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画の内容や市街地再開発組合の事業計画の内容に照らして,それらの内容が都市再開発法及び都市計画法の規定に違反することにより当該組合の事業の施行に起因して健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認められることを要するというべきであるが,東京都知事が定める関係地域は,本件条例①によれば,対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として定められるものであるから,関係地域内に居住する者であるからといって,当然に,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認めることはできない。
また,前記引用に係る原判決の前提事実に記載されたとおり,東京都知事は,計画建物による日照阻害,電波障害及び景観の影響を考慮して,関係地域を決定したのであるから,控訴人らが,本件設立認可により権利侵害が深刻になると主張する圧迫感,洪水被害,大気汚染及び風害との関係においては,
関係地域内に居住することは,
原告適格を基礎付ける根拠とはならない。
控訴人らが本件設立認可により権利侵害が深刻となると主張する景観利益の侵害については,上記のとおり関係地域を定める際に景観の影響が考慮されているが,後記(7)記載のとおり,景観の破壊による被害を受けないという利益については,都市再開発法及び都市計画法の規定が,施行区域の周辺に居住する個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないから,関係地域の決定において景観に影響があるとされた地域内に居住する者についても,景観利益の侵害を根拠に原告適格を認めることはできない。
そして,日照阻害については,控訴人らは,個々の控訴人ごとに生じる本件市街地再開発事業による日照阻害について,具体的な主張立証を行っていないから,日照阻害を根拠として原告適格を認めることもできない。以上のとおり,関係地域に居住する控訴人らに原告適格が認められるべきであるとの控訴人らの主張は,採用することができない。
(3)圧迫感について
控訴人らは,①圧迫感を受けずに生活することは人間の人格的生存に不可欠である,②控訴人A宅は,β街区の正面に位置しており,形態率で24%を超える数値が出ているから,控訴人Aには原告適格が認められるべきであり,控訴人Aと同じγに居住する控訴人B,控訴人C及び控訴人Dにも,原告適格が認められるべきであるなどと主張する。
しかし,①原判決が説示するとおり,圧迫感は,相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭という公害には含まれないものであり,その被害を反復,継続して受けた場合にその被害が人の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものであるとはにわかに認めることができず,公害に準ずる環境破壊に当たるものとも解されないから,
圧迫感を根拠として,
原告適格を肯定することは困難である。
また,証拠(甲58)によれば,控訴人A宅付近であるη×番8号付近においては,形態率で24パーセントを超える数値が出ていることが認められるが,これは,本件第一期事業の対象であるβ街区の業務棟(本件業務棟)を(本件業務棟)
対象建築物とする数値であり,本件第二期事業による建築物の圧迫感を予測するものではないから,これをもって控訴人Aの原告適格を認めることはできないし,控訴人Aと同じγに居住する控訴人B,控訴人C及び控訴人Dに原告適格を認めることもできない。
(4)洪水被害について
控訴人らは,本件第一期事業における人工地盤の建設によって,本件市街地再開発事業の事業地の周辺の土地における浸水時の水位が著しく上昇すると主張し,本件市街地再開発事業は,巨大な地下建造物を建設するものであり,地下水の流動を阻害し,上流側の地下水位の上昇を招くおそれがあるとも主張するが,本件第一期事業による影響自体は,本件第二期事業に関する本件設立認可の取消訴訟の原告適格を認める根拠とはならないし,本件市街地再開発事業の施行により帯水層に地下構造物が構築された後も,地下水はその周囲を回り込んで流れると推測され,地下水の遮断ないし流動阻害が生ずるおそれは少ないと認められることは原判決が認定,説示するとおりであり,控訴人らの主張を採用することはできない。
(5)大気汚染について
控訴人らは,本件市街地再開発事業の施行前においても,住民らが測定した二酸化窒素濃度では,しばしばその環境基準を超える高い濃度が測定されていたから,
自動車交通の増加が想定される本件市街地再開発事業によって,
大気汚染が控訴人ら住民に健康被害を生ずるおそれを生ずるほどに悪化することは明白であると主張する。
そして,甲第94号証によれば,平成17年6月,同年12月,平成18年6月及び同年12月に,「F」が実施した二酸化窒素濃度の測定の際,環境基準値である0.06ppmを超える結果が出た地点の存することが認められるが,同号証によれば,上記測定は簡易測定によるものであり,測定の精度が担保されていたと認めるに足りる証拠はなく,上記測定結果を直ちに採用することはできない。
また,証拠(甲90)によれば,本件環境影響評価においても,現地調査の測定地点のうち3地点において環境基準値を上回る二酸化窒素濃度が測定された日があったことを踏まえた上で,工事完了後は二酸化窒素濃度が環境基準値を下回ることが予測されており,本件市街地再開発事業の施行前に環境基準値を超える二酸化窒素濃度が測定された日があることが,直ちに,本件市街地再開発事業の施行後において,予測される二酸化窒素濃度が環境基準値を超えることを意味することにはならない。
本件全証拠を検討しても,個々の控訴人らの住居地との関係において,本件第二期事業の施行により大気汚染が健康被害を生ずるおそれを生ずるほどに悪化すると認めるに足りる証拠はなく,控訴人らの主張を採用することはできない。
(6)風害について

証拠(甲2,56,107,109,129の1,137の1,138の1,139,140,141,144~153,157の1~6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア)本件第一期事業の施行後,特に,β街区に建設された本件業務棟の南西側のδ通り沿い(ε付近からν付近。本件エリア
本件エリア
本件エリア)で,南寄りの風のとき
に強い風が吹き,厳しい風環境となっている。平成23年4月には,周辺住民の女性が,本件エリアに存する横断歩道上で,強風にあおられて転倒し,骨折する事故が発生した。
(イ)本件エリアでは,δ通り沿いに防風パネル,防風植栽,歩行補助用手摺の設置がされたほか,強い風の時に作動する回転灯が設置され,回転灯の下には「強い風の時回転灯が作動します。充分御注意ください。」との記載があり,強風への注意喚起がされている。
(ウ)本件市街地再開発事業の施行区域周辺の風対策については,世田谷区議会において取り上げられ,平成25年1月には,世田谷区に,「α地区風調査検討プロジェクト専門家会議」(専門家会議)が設置された。専門家(専門家会議)
会議における平成25年1月から同年3月までの会議の検討結果を同年5月の段階でとりまとめた報告書(甲157の6)によれば,本件エリアにおける厳しい風環境は,本件業務棟に吹き付けた風が風上側に大きな縦渦を形成し,土手の影響も加わって,前面道路の中央から対岸側で強い逆流(上空とは逆の風向,すなわち北寄りの風)となる一方,本件業務棟の西寄り部分では壁面に沿った強い東寄りの風を生じていると想定され,γεからζ駅に向かう歩行者にとっては,本件業務棟に向かい横断歩道付近に差し掛かると強い向かい風を受け,横断歩道を渡り切ろうとする付近から横風,そして駅に向かうと背からの風を受けることとなり,強風による単純な影響のみならず風向風速の変化により身体のバランスを崩しやすい等の影響を受けることになるとされている。上記報告書においては,本件エリアにおける更なる対策の検討もされているが,横断歩道上については,樹木などの障害物を置くことができず,歩行者動線を塞ぐこともできないので,強風時には,γ付近からζ駅に向かう場合には,駅の北側に回る迂回ルートをとること等が考えられるとされている。
また,上記報告書によれば,本件第二期事業においてμ街区の南寄りに建築される高層棟(本件高層棟)の南東側で,南寄りの風の時に強い風と(本件高層棟)
なる可能性が高く,本件高層棟の南側でも風速増加が考えられるとされている。もっとも,平成25年2月6日の専門家会議では,本件高層棟の幅が本件第一期事業により建築された建物より幅が狭いため影響が出にくい可能性もあるとの意見もあった(甲157の3)。そして,上記報告書によれば,本件第一期事業によって生じた厳しい風環境に対しては様々な対策が執られていること,本件第二期事業においては本件第一期事業の結果を受けた対応が検討されていることが認められ,本件高層棟の建築による風速増加への対策としては植栽が有効であるとされている。
(エ)控訴人A,控訴人B及び控訴人Dは,いずれも,世田谷区γ×番に居住しているところ,証拠(甲141)によれば,上記3名の住所地は本件エリアの南西側にある本件エリアと隣接する住宅地にあり,その住所地から最寄り駅であるζ駅に徒歩で向かう場合,ε又はνを通ってδ通りの横断歩道を横断する必要があると認められ,上記のとおり厳しい風環境となっている本件エリアを通る必要があると認められる。また,控訴人Cは,世田谷区γ××番3号に居住しているところ,証拠(甲141)によれば,控訴人Cの住所地は本件エリアの南方にあり,γ×番と比較すれば,本件エリアから離れた位置にあると認められるが,最寄り駅であるζ駅に徒歩で向かう場合には,結局,ε又はνを通ってδ通りの横断歩道を横断する必要があると認められ,上記のとおり厳しい風環境となっている本件エリアを通る必要があることに変わりはない。もっとも,証拠(甲2,157の6)によれば,本件高層棟は,μ街区の南寄りに建築され,δ通り沿いであってもμ街区の中では本件エリアから離れた位置に建築されることが認められるから,控訴人A,控訴人B,控訴人D及び控訴人Cがζ駅に徒歩で向かう場合,本件高層棟周辺を通る必要があるとは認められない。イ
上記アの事実によれば,本件第一期事業の結果,本件エリアにおいて,本件業務棟に起因する風害が生じているといわざるを得ず,控訴人A,控訴人B,控訴人D及び控訴人Cは,最寄り駅であるζ駅を利用する際に本件エリアを通る必要があるから,上記4名は本件第一期事業による風害の被害を受けているということができる。上記報告書においては,強風時にはγ付近からζ駅に向かう場合には駅の北側に回る迂回ルートをとることが考えられるとされているが,このような迂回を余儀なくされること自体が,風害による被害といえるから,迂回ルートがあるからといって風害の被害が生じていないということはできない。
しかしながら,本件設立認可は,本件第二期事業に係るものであるから,本件第一期事業によって生じた風害の被害を受けていることを根拠に,本件設立認可の取消訴訟の原告適格を認めることはできない。
また,上記アのとおり,本件第二期事業についても,本件高層棟の建築により,本件高層棟の南東側及び南側で,強い風となる可能性があることが指摘されているが,本件高層棟の幅が狭いことから影響が出にくい可能性もあるという見解もある上に,原判決が説示するとおり,本件環境影響評価においては,δ通り沿いの一部においては,風環境評価ランクが1から2に変化し,強い風が吹く頻度がやや多くなるが,住宅地,公園で許容される程度であり,その他の地域においては,現況の風環境とほとんど変化はないと評価していること(上記のとおり,本件エリアにおいては,本件第一期事業の施行により厳しい風環境となっており,予想外の風環境の変化が生じた可能性も否定できないが,厳しい風環境となったと認められる場所は一部に限られており,風環境の変化に係る本件環境影響評価全体の信用性を失わせるには足りないというべきである。),本件高層棟の建築により仮に風環境が悪化するとしても,植栽が有効な対策となるとされていること等を考慮すると,本件高層棟の建築により,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれが生じるとは直ちにはいえない。さらに,上記のとおり,控訴人A,控訴人B,控訴人D及び控訴人Cがζ駅を利用する際には本件高層棟の南東側ないし南側を通る必要はなく,本件全証拠によっても,上記4名が日常的に利用する施設等に向かう際に本件高層棟の南東側ないし南側を通る必要があると認めるに足りる証拠はない。また,上記のとおり,本件高層棟は本件エリアから離れた位置に建築されるのであり,本件高層棟の建築によって本件エリアにおける風環境が更に厳しいものになると認めるに足りる証拠はない。そうすると,仮に本件高層棟の建築により,その南東側及び南側で強い風となる可能性があるとしても,上記4名が風害を受けるおそれがあるということはできないし,その他本件第二期事業によって上記4名が風害を受けるおそれがあるということはできない。
なお,その余の控訴人らについても,日常的に利用する施設等に向かう際に,本件高層棟の南東側ないし南側を通る必要があると認めるに足りる証拠はなく,仮に本件高層棟の建築により,その南東側及び南側で強い風となる可能性があるとしても,本件高層棟の建築等の本件第二期事業によって風害を受けるおそれがあるということはできない。
以上によれば,控訴人らが風害を受けるおそれがあることを理由に,控訴人らに原告適格を認めることはできない。なお,第二地区組合が事案の解明のために求められた調査嘱託に応じなかったことは不適切な対応というべきであるが,そのことによって上記判断は左右されない。
(7)景観について
控訴人らは,景観利益が私法上保護される利益である以上,景観を保護する趣旨の関連する行政法規がある場合には,景観利益を行政事件訴訟法9条の保護利益として認めるべきであると主張する。
しかし,原判決が説示するとおり,行政事件訴訟法9条1項は,取消訴訟の原告適格について,「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴えは,当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができる。」と規定するところ,ここに当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。そして,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数の者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう「法律上保護された利益」に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するというべきであるから,
景観利益を根拠に取消訴訟の原告適格を肯定するためには,
当該処分を定めた行政法規が,景観利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される必要があり,景観を保護する趣旨のC連する行政法規がある場合には景観利益を行政事件訴訟法9条の保護利益として認めるべきであるとの控訴人らの主張は採用することができない。そして,違法な市街地再開発組合の事業の施行に起因する景観の破壊による被害を受けないという利益については,都市再開発法及び都市計画法の規定が,施行区域の周辺地域に居住する個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することができないことは原判決の説示するとおりであり,景観利益の侵害を根拠に控訴人らに原告適格を認めることはできない。第4

結論

よって,原判決は相当であるから,本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

福田剛久
裁判官

石橋俊一
裁判官

中野琢

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