判例検索β > 平成24年(行コ)第138号
損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成23年(行ウ)第86号)
事件番号平成24(行コ)138
事件名損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成23年(行ウ)第86号)
裁判年月日平成25年2月27日
法廷名大阪高等裁判所
判示事項不法行為をした職員に対する地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償の請求が信義則に反して許されないとされた事例
裁判要旨介護給付費財政調整交付金算定のための国への報告に際して第1号被保険者の所得段階別の人数を誤ったことにより,国から市に対して交付される同交付金が本来の金額よりも少額となったとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,前記報告につき過失のある専決権者及び実務担当者に対して損害賠償を請求することは,当該実務担当者の過失が,上部団体から誤りを誘引するような文書送付を受けるという予想外の立場に置かれた際に,その記載内容を無条件に信じることなく,その不適切部分を発見して,正しい事務処理をなすべき義務を全うできなかったというものであって,一般的な職務怠慢とは様相を異にするものであること,市の前記団体に対する依存度の大きさ,前記交付金算定の事務に取り組む組織上の態勢等の問題点が構造的な背景事情として存在し,当該実務担当者でなくとも前記誤りを犯しかねなかった側面があること,市にはリスクを抱えた職員の処遇,過誤の予防,損失の分担のための配慮や対策がされているとはいえないことなど判示の事情の下では,信義則に反して許されない。
戻る / PDF版
平成25年2月27日判決言渡
平成24年(行コ)第138号

損害賠償請求控訴事件

主文1
原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

3
訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨
主文と同旨

第2

事案の概要
本件は,平成21年度介護給付費財政調整交付金算定のための国への報告(以下「本件報告」という。)に際し,和泉市が,第1号被保険者の所得段階別の人数を誤ったことにより,国から和泉市に対して交付される介護給付費財政調整交付金が本来交付されるべき金額よりも少額となったため,その差額相当の損害を被ったとして,和泉市の住民である被控訴人が,控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,本件報告に関する専決権者である補助参加人A及び実務担当者である補助参加人Bに対し,不法行為による損害賠償として1560万1000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求をすることを求めた事案である。
原審は,被控訴人の請求のうち控訴人に補助参加人らに対し1092万0700円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求をすることを求める限度で認容し,その余を棄却したため,控訴人が敗訴部分を不服として控訴した。

1
法令等の定め,前提事実,主たる争点及び主たる争点に対する当事者の主張
は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり当審における被控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2,3,第3及び第4のとおりであるから,これを引用する。
2
原判決の補正
(1)

4頁8行目の「丙1」の前に「本件報告当時の補助参加人Bの地位につ
き,」を,同13行目の末尾に「その具体的な算定方法は,「介護保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」に定められている。また,国は,第1号被保険者の所得段階別の被保険者数等の数値・係数等を把握するため,都道府県を通じて各市町村に,上記数値・係数を報告するよう求めることとされている。」を,同14行目の「大阪府」の次に「(以下「府」ということがある。)」をそれぞれ加える。
(2)

5頁3行目の「同年」を「平成22年」に,同7行目の「同月」を「平
成22年2月」に,同13行目の「同年」を「平成22年」にそれぞれ改め,同22行目の「(甲9)」及び同23行目から同24行目にかけての「(弁論の全趣旨)」をいずれも削除する。
(3)

6頁1行目の「監査請求」から同3行目の「(甲2)」までを「地
方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行ったところ,同監査委員は,同年4月28日付けで監査請求を棄却した」に改め,同15行目から16行目にかけての「求めること」の次に「(以下「4号請求」ということがある。)」を加える。
(4)

8頁8行目の「前年度比較表」を「平成21年度諸係数等の対前年
度比較表」に改める。
3
当審における被控訴人の補充主張
(1)

本件控訴について
地方自治法96条1項12号の趣旨からすれば,控訴人は,本件控訴につ
いて和泉市議会の議決による授権を要するものというべきところ,当該議決
を経ていないから,控訴代理人に対する訴訟委任は無効であり,本件控訴は棄却されるべきである。
すなわち,地方自治法96条1項12号が普通地方公共団体が当事者である訴えの提起にその議会の議決を必要とした立法趣旨は,当該訴えが当該地方公共団体の権利義務に重大な影響を及ぼすおそれがあるので,その議会の議決を経て,その事件について当該団体の意見,方針を決定すべきものとしたことにある。4号請求の訴訟は,損害賠償請求,不当利得返還請求,賠償命令をせよという請求の訴えであり,このような請求をする権限のある者を被告としなければならないことから,本件訴訟においては,形式的には和泉市の執行機関である控訴人を被告としているものの,その実質からすれば,本件訴訟の被告は普通地方公共団体である和泉市であるというべきである。そして,4号請求の訴訟の第一審判決で執行機関が敗訴した場合に,その判決を受け入れるか控訴を選ぶかは,当該執行機関が属する普通地方公共団体の権利義務に大きく影響することに加えて,普通地方公共団体の議会の法的性格や権限等をも考慮すれば,4号請求の訴訟の一審判決に対して上訴を提起する場合には,法律上は何ら規定はないものの,地方自治法96条1項12号を実質的に解して,当該議会の議決を必要とすべきである。そうすると,控訴人が本件控訴に当たって和泉市議会の議決を経ていないことは明らかであるから,民事訴訟法55条所定の授権を欠き,控訴人の訴訟代理人に対する訴訟委任は無効であり,本件控訴は棄却されるべきである。
(2)

補助参加人Bの過失について
1号被保険者の報告に関する大阪府の文書(甲4)の図示部分に紛らわし
い記載はあるものの,国の分類基準に基づいて報告しなければならないことは,国からの交付金を算定するための資料を提供するという本件報告の目的に照らして自明であり,上記文書の入力上の注意欄(4)にも国の6段階の区分に従って入力するよう明示されている。また,上記図示部分の入力欄への
入力がそのまま国の6段階別の所得段階別被保険者数につながることも入力後の図示部分の表示から明らかである。そうであるにもかかわらず,補助参加人Bは漫然と入力を行い結果的に誤ったものであるから,過失は免れない。地方公共団体独自の所得段階区分は国の6段階の中を細分化したにすぎないもので,8段階にしたことの影響などあり得ない。
控訴人は,補助参加人Bが大阪府からの平成21年12月15日付の注意喚起のメール(甲5)を見ていないと主張するが,補助参加人B以外の他の者がメールを開封したという証拠はなく,上記メールの件名が「(補足情報)【大阪府→財政調整交付金ご担当者様】介護給付費財政調整交付金の諸係数等調の提出について(依頼)」となっていることから,補助参加人B以外の者が上記メールを開くとは極めて考えにくい。
(3)

補助参加人Aの過失について
本件報告がなされたのは,補助参加人Bが本件諸係数の報告業務を初めて
担当した年度であり,新たに8段階に区分した年度でもあるから,補助参加人Aは管理者として殊更注意深くチェックすべきであり,これを怠った補助参加人Aの過失は免れない。
(4)

補助参加人らの重過失について
仮に職員への損害賠償請求で当該職員らの重過失が要件であるとしても,
本件では補助参加人らに重大な過失が存在する。すなわち,当初の誤った報告についてはともかく,その後の度重なる報告数値のチェックの要請(特に前年度との比較,甲6の3・4)に真面目に対応すれば誤りを容易に発見できたにもかかわらず,補助参加人らは真摯に対応しなかったため結果的に交付金が過少となったものであり,これを単なる過失とは到底評価できず,故意に近い重大な過失と判断すべきである。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前記第2の1引用に係る原判決「事実及び理由」第2の3(前提事実,前記第2の2による補正後のもの)に加え,証拠(各項掲記の他,甲11,丙1,2,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。(1)

調整交付金算定のための諸係数の調査依頼
和泉市を含む大阪府内の各市町村及び広域連合(以下「府内各市町村等」
という。)の介護給付費財政調整交付金については,年度毎に,府の福祉部高齢介護室介護支援課(以下「府介護支援課」という。)が,府内各市町村等に対し,その算定のための諸係数の調査を依頼し,その提出資料の様式や記載方法を指定するなどの指導をして報告書類を提出させ,これらを取りまとめた上で国に報告を上げ,国から府内各市町村等がその交付を受ける扱いとなっていた。
府介護支援課の課長は,平成21年12月14日,府内各市町村等の介護保険担当課(室)長に対し,文書で提出期限を平成22年1月12日と定めて,平成21年度の介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べを実施した上でその報告(本件報告)を上げるよう依頼した(以下,上記文書を「本件報告依頼文書」という。)。同依頼文書には,「例年,実績報告(又はそれ以降)の段階で給付費の支給額や第1号被保険者数等の数値の誤りが散見されますので,くれぐれも間違いのないよう入念なチェックをお願いします。※変更交付申請と事業実績報告を年度内に同時に行われることとなっているため,年度を越えての追加交付は行われません(数値の誤りにより交付不足が生じても年度を越えての追加交付は行われません。)のでご留意ください。」との記載があった。(甲3の2)
(2)

第1号被保険者数等の数値・係数等の所得段階別の把握
本件報告に先立つ調査において,第1号被保険者数等の数値・係数等は所
得段階別に把握することになっているが,国ではこれを6段階に分類しているのに対し,和泉市では平成21年度からその6段階を細分化して府内各市
町村等の相当数の市町村と同様に8段階に分類していた(具体的には,国の第5段階<合計所得金額が200万円未満>は和泉市の第5段階<合計所得金額が125万円未満>及び第6段階<合計所得金額が125万円以上200万円未満>に該当し,国の第6段階<合計所得金額が200万円以上>は和泉市の第7段階<合計所得金額が200万円以上450万円未満>及び第8段階<合計所得金額が450万円以上>に該当する。)ことから,本件報告に際しては,和泉市の分類に基づく数値を国の分類に応じた数値に置き換える必要があった。なお,和泉市では平成20年度までは府内各市町村等の相当数の市町村と同様にその所得段階を7段階に分類していた(具体的には,国の第6段階が和泉市の第6,第7段階に該当していた。)が,平成21年度からその所得段階を上記のように1段階増加させ8段階にしたものであった。
(3)

所得段階別第1号被保険者数の提出様式の記載
本件報告依頼文書には,国の6段階の所得段階別分類を細分化した所得段
階別分類を採用している府内各市町村等が被保険者数を国の所得段階別に置き換えるための提出様式として,様式1の2「第1号被保険者数」と題する文書(甲4,以下「本件様式」という。)が添付され,その上段の欄には,被保険者数に関する国の所得段階別分類による入力欄と府内各市町村等の所得段階別分類による入力欄の対応関係について,府内各市町村等が所得段階を6段階以上に細分化し基準額を第4段階に設定し介護保険法施行令附則9条,11条により設定する特例を同段階に設けている場合(府内各市町村等のうち和泉市を含む相当数の市町村等はこれに該当する。)は,国の第1段階から第5段階までと普通地方公共団体の第1段階から第5段階までとがそのまま対応し,国の第6段階と普通地方公共団体の第6段階以上が対応する趣旨を矢印で図示する部分(以下「本件様式の図示部分」という。)があったが,一方で,その下段の「入力上の注意(4)」欄には,「所得段階別第1
号被保険者数の考え方については,次によること。(別紙の厚生労働省事務連絡より)・平成21年4月1日(賦課期日)における標準的な所得段階(6区分)別の第1号被保険者数を記入すること。」との記載部分(以下「本件様式の入力上の注意(4)欄」という。)があった。(甲4,20)本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分は,国の6段階の所得段階別分類を細分化した府内各市町村等のうち,国の第6段階のみを細分化したに止まる市町村等についてはそのまま当て嵌まる内容の記載となっていたものの,国の第5段階及び第6段階をそれぞれ細分化した和泉市を含む相当数の市町村等については(国の第5段階と当該市町村等の第5,第6段階とが対応し,国の第6段階と当該市町村等の第7,第8段階とが対応する関係上)そのまま当て嵌まらない内容の記載となっており,仮に当該市町村等が同図示部分の指示どおりに従って入力すると,第5,第6段階の被保険者数の数値が誤って計上されることになる体裁となっていた。
(4)

補足情報と称するメール送信
府介護支援課では,府内各市町村等に対する本件報告依頼文書の送付後ま
もなく,府内の一部の市町村等から,本件様式の図示部分の入力方法に関する記載に誤りがあるのではないかとの指摘を受け,同図示部分の記載内容がそのまま当て嵌まらない所得段階別分類を採用している市町村等にも本件様式を送付していることに気付き,同依頼文書送付の翌日である平成21年12月15日午後8時44分,府内各市町村等の介護給付費財政調整交付金担当者宛に,件名を「(補足情報)【大阪府⇒財政調整交付金ご担当者様】介護給付費財政調整交付金の諸係数等調の提出について(依頼)」とする電子メール(以下「本件補足情報メール」という。)を送信した。
本件補足情報メールには,本件報告依頼文書に添付した本件様式の所得段階別被保険者数の第5段階及び第6段階の記載に当たっては,本件様式の入力上の注意(4)欄の記載に従って,合計所得金額が200万円未満の所得段
階の人数を第5段階に,200万円以上の所得段階の人数を第6段階に記載するよう求め,例示として,第5段階を合計所得金額125万円未満,第6段階を合計所得金額125万円以上200万円未満,第7段階を合計所得金額200万円以上400万円未満,第8段階を合計所得金額400万円以上と設定している場合を挙げ,この場合は,第5,第6段階の人数を第5段階へ,第7,第8段階の人数を第6段階へ記載するよう求める旨の記載があったが,本件様式の図示部分の記載内容が,一部の市町村等については,その採用に係る所得段階別分類の次第では,そのまま当て嵌まらない場合があり,仮に当該市町村等が同図示部分の指示どおりに従って入力すると,第5,第6段階の被保険者数の数値が誤って計上されることになる体裁となっていることを端的に指摘する旨の記載はなかった。(甲5)
(5)

和泉市高齢介護室
補助参加人A
補助参加人A(昭和29年11月25日生)は,昭和48年4月1日和泉市の職員となり,平成20年4月1日和泉市生きがい健康部高齢介護室(以下「市高齢介護室」という。)の室長兼介護保険課長に就任し,専決権限を有する者として,同年度の介護給付費財政調整交付金算定のための報告事務の決裁に関わり,同年12月には同年度第4回介護保険運営協議会における第1号被保険者の所得段階別区分を従来の第1段階から第7段階までの7段階から1段階増やして前記(2)のとおり第1段階から第8段階までとする旨を含む高齢者保健福祉計画及び介護保険事業計画の骨子案等について決裁しており,本件報告について専決権限を有していた。(甲20,丙4)


補助参加人B
補助参加人B(昭和44年9月12日生)は,平成3年4月1日和泉市の職員となり,平成21年4月1日市高齢介護室介護保険グループ担当主
査に就任し,今回初めて介護給付費財政調整交付金算定のための事務に関与することとなり,本件報告事務を担当した。(丙5)

人員配置等
市高齢介護室は,平成21年当時,介護保険課と高齢支援課の2課で構成され,介護保険課の担当職員は,室長である補助参加人A,室主幹1名,介護保険グループ担当主査である補助参加人B,同グループ係員4名,認定審査グループ担当主査1名,同グループ係員3名,非常勤職員2名,臨時職員3名の合計16名であり,高齢支援課の担当職員は合計12名であった。


パソコン
市高齢介護室においては,室長(補助参加人A),課長,室主幹及び主査4名(補助参加人Bを含む。)の合計7名に対し,それぞれ専用パソコン1台宛が付与され,その他に室内の職員であればだれでも操作することができる室専用のパソコン2台が設置されていた。


メールの閲覧等
市高齢介護室宛に送信されてきたメールは,室内の9台のパソコンのどれからでも開封ないし閲覧をすることができるようになっていた。送信されてきたメールについては,一度誰かが開封・閲覧すると,以後はどのパソコンにも「開封済み電子メール」として表示される仕組みになっていたため,その表示だけからでは,開封した職員が担当職員でなかった場合,そのメールの内容が担当職員に正しく伝達されたのか否かが分からないままになったり,当該メールに係る事務が既に処理されたものとの誤解が生じたりするおそれがあるとして,市高齢介護室においては,和泉市役所内の各部局や,大阪府その他外部の関係諸団体等から市高齢介護室宛にメールが送信されてきた場合には,誰でも操作することができる室専用の2台のパソコンのみを使って開封することとし,開封した職員が当該
メールに係る事務の担当職員でない場合は必ず担当職員に当該メールの内容を伝達することが申し合わせ事項とされていた。

市高齢介護室における本件補足情報メールの扱い
府介護支援課から本件報告依頼文書が届いた翌日夜には,前記(4)の本件補足情報メールが市高齢介護室にも送信されていたが,補助参加人Bは,同メールの内容を認識していなかった(補助参加人Bが同メールを開封閲覧したかどうかについては争いがあり,この点については後記2に説示するとおりである。)。同メールは市高齢介護室において受信後開封され,同室のパソコンには「開封済み電子メール」として表示されていたが,同室の誰が開封したのか,その後の調査によっても判明していない。

和泉市における介護保険に関する事務等の実情
和泉市においては,他の府内各市町村等と同様,介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べに関する事務を含めて,介護保険に関する事務や関係法令の内容の把握等については,その複雑さのゆえもあって,府介護支援課からの通知や交付資料あるいは指導ないし研修等に依拠して処理している実情にあり,市高齢介護室においては,独自に介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べの報告等介護保険に関する事務に関する事務規程や注意点の指摘あるいはマニュアル等といったものは作成しておらず,これまでは府介護支援課からの指導や提供資料等に依拠しこれに忠実に従うことによってこれらの事務処理を行ってきており,特段の誤りも支障も生じることはなかった。

(6)

本件報告
補助参加人Bは,府介護支援課からの本件報告依頼文書を受け,これに添
付された本件様式の図示部分に従って本件報告案を作成することとなったが,今回初めて介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べの事務を担当したこともあり,従来の和泉市の事務担当者と同様,府介護支援課の指導
や提供資料等を疑うことなく,また,本件補足情報メールの内容を認識することもなく,同課から送付されてきた本件様式の図示部分の記載が和泉市の所得段階別分類に当て嵌まらない内容であることに気が付かなかった。そのため,補助参加人Bは,平成22年1月19日,本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分の記載内容に従って,所得段階別の第1号被保険者数の和泉市の第5段階の人数のみを国の第5段階に,和泉市の第6ないし第8段階の人数を国の第6段階に記載して,所得段階別の被保険者数の和泉市から国への置換えを行い,これを前提に誤った内容の本件報告案を作成し(以下「本件過誤」という。),決裁の伺いを立て,補助参加人Aは,同月20日これを決裁したが,本件過誤には気付かなかった。(甲22)和泉市は,平成22年1月20日,大阪府に対し,本件報告に係る書類を提出した。
(7)

確認依頼
府介護支援課は,平成22年1月22日,府内各市町村等の財政調整交付
金担当者宛に,提出された本件報告の財政調整交付金算定のための諸係数の内容について訂正がないかどうかを確認し,報告期限を同月27日として電子メールで回答するよう求める旨,注意事項として,今回の確認の結果が最終報告となり,厚生労働省で全国平均値等の算出作業にとりかかるため,期限後の修正報告は一切受け付けることができない旨の電子メール(以下「本件確認依頼メール」という。)を送信した。なお,同メールには,厚生労働省作成の府内各市町村等の平成21年度諸係数等の対前年度比較表(以下「対前年度比較表」という。)が添付されており,これには,和泉市の同年度の人数が平成20年度と比べると,第5段階では3467人減少し,第6段階では4069人増加している旨の記載があった。しかし,同メールには,本件補足情報メールのときのように,本件様式の図示部分の記載内容が,一部の市町村等については,その採用に係る所得段階別分類の次第では,その
まま当て嵌まらない場合があり,仮に当該市町村等が同図示部分の指示どおりに従って入力すると,第5,第6段階の被保険者数の数値が誤って計上されることになる体裁となっていることを端的に指摘する旨の記載はなく,また,後記(11)のように,8段階の所得段階別分類を採用している市町村の中に,国の所得段階別分類への置換えに誤りがあるケースがあった旨を具体的に紹介するような記載もなかった。(甲6の1ないし4)
(8)

訂正がない旨の報告
補助参加人Bは,本件確認依頼メールを受けたが,本件報告依頼文書に添
付された本件様式の図示部分の記載が和泉市の所得段階別分類に当て嵌まらない内容であることに思い至らず,また,対前年度比較表の和泉市の第5段階と第6段階の平成20年度と平成21年度の増減状況に特段注目することもなく,自ら作成した本件報告案の本件過誤に係る所得段階別の被保険者数の和泉市から国への置換えに問題があること自体に気付かないまま,その置換えを前提に諸係数の確認を行い,本件報告に訂正個所がないとの認識の下に,平成22年1月25日,訂正個所がない旨回答するについての決裁伺いを立て,補助参加人Aは,その旨の決裁をした。(甲23)
和泉市は,平成22年1月25日ころ,大阪府に対し,上記訂正がない旨の報告に係る書類を提出した。
(9)

再確認依頼
府介護支援課は,平成22年2月17日午前10時56分,府内各市町村
等の財政調整交付金担当者宛に,提出された本件報告の財政調整交付金算定のための諸係数の内容について,再度訂正の有無を確認し,報告期限を同日午後5時までとして電子メールで回答するよう求める旨,注意事項として,誤りがない場合は報告の必要がない旨,本来は先月(同年1月27日)期限提出の確認結果報告を最終の数値としているが,当該措置は本年度に限ったものである旨の電子メール(以下「本件再確認依頼メール」という。)を送
信した。しかし,同メールには,本件確認依頼メールと同様,本件様式の図示部分の記載内容が,一部の市町村等については,その採用に係る所得段階別分類の次第では,そのまま当て嵌まらない場合があり,仮に当該市町村等が同図示部分の指示どおりに従って入力すると,第5,第6段階の被保険者数の数値が誤って計上されることになる体裁となっていることを端的に指摘する旨の記載はなく,また,後記(11)のように,8段階の所得段階別分類を採用している市町村の中に,国の所得段階別分類への置換えに誤りがあるケースがあった旨を具体的に紹介するような記載もなかった。(乙7)(10)

不報告
補助参加人Bは,本件再確認依頼メールの送信を受けたが,前記(8)のと
おり本件確認依頼メールを受けた際と同様の理由により,本件報告における本件過誤に気付かないまま,諸係数の再確認を行い,訂正個所がないとして,補助参加人Aに対してその旨上申した。
これを受けて,和泉市は,本件報告には誤りがないとの認識の下に,大阪府に対し,本件再確認依頼メールに応じた訂正の報告をしなかった。(11)

再々確認依頼
府介護支援課は,平成22年2月23日午後2時30分,府内各市町村等
の財政調整交付金担当者宛に,本件報告における所得段階別被保険者数の「第5段階」,「第6段階」欄の記載に当たり,合計所得金額が200万円未満の人数を「第5段階」欄に,合計所得金額が200万円以上の人数を「第6段階」欄にそれぞれ記載すべきところを誤って記載している事例があった旨,提出済みの所得段階被保険者数に誤りがないか改めて確認をして,誤りがあった場合は至急報告を願いたい旨,報告期限を同日午後4時とする旨,誤りの具体例として,前記(4)と同様の各市町村等の第5段階から第8段階までに該当する合計所得金額を挙げ,その第5,第6段階の人数を国の「第5段階」欄に,各市町村等の第7,第8段階の人数を国の「第6段階」
欄にそれぞれ記載すべきところを,誤って各市町村等の第5段階の人数を国の「第5段階」欄に,各市町村の第6ないし第8段階の人数を国の「第6段階」欄にそれぞれ記載していたケースがあった旨の電子メール(以下「本件再々確認依頼メール」という。)を送信した。(甲7の1)
(12)

誤りの認識
補助参加人Bは,本件再々確認依頼メールの送信を受け,所得段階別の被
保険者数の府内各市町村等から国への置換えに関する誤りの具体例の記載を見て,直ちに提出済みの和泉市の本件報告の内容にも上記誤りの具体例の記載と同様の誤りがあることを認識し,補助参加人Aにその旨報告するとともに,正しい数値を計算し直し,府介護支援室に対し,報告期限の平成22年2月23日午後4時までに,和泉市の本件報告の内容に同メールが指摘するとおりの誤りがあったとして,正しい所得段階別の人数を報告し直した。本件再々確認依頼メールを契機として,本件報告に関しては,和泉市以外にも大阪市をはじめとする府内6市3町に同様の誤りがあったことが明らかになった。
(13)

誤りによる損失試算額
府介護支援課は,平成22年2月23日,本件報告において誤りのあった
和泉市を含む府内7市3町について,正しい被保険者数を報告していた場合の平成21年度普通調整交付金の金額を平成22年2月22日付け老発0222第1号厚生労働省老健局長通知(乙8)に基づいて試算をしたところ,下記①欄のとおりとなり,本件報告による誤った数値を前提とした場合の試算額(下記②欄のとおり)と比較すると,下記③欄のとおり差額が出た。和泉市の場合の試算額は,誤った数値を前提とすると1億8691万8000円であるのに対し,正しい数値を前提にすると2億3892万3000円となり,その差額は5200万5000円であった。(甲19,乙8,10)記
市町村

②同(誤)

③差額(マイナス)

大阪市

9,281,605,000

8,491,681,000

789,924,000

河内長野市

148,486,000

98,162,000

50,324,000

松原市

208,344,000

160,802,000

47,542,000

和泉市

238,923,000

186,918,000

52,005,000

箕面市

88,349,000

48,432,000

39,917,000

摂津市

10,043,000

10,043,000

泉南市

96,597,000

74,545,000

22,052,000

島本町

29,486,000

19,362,000

10,124,000

豊能町

563,000

563,000

忠岡町
(14)

①交付金額(正)

44,350,000

38,344,000

6,006,000

善処の要請
府介護支援課の課長及び大阪市介護保険担当課の課長は,平成22年2月
24日,厚生労働省介護保険計画課に対し,和泉市を含む府内7市3町の本件報告の誤った部分に係る正しい数値による調整交付金の再計算について善処を要請したが,厚生労働省介護保険計画課からは,平成21年度での再算定はできない旨,平成22年度の交付金での調整についても現行の仕組みでは無理である旨の回答があった。(甲7の2,8,11)
(15)

一部善処
前記(14)の回答後も,大阪府,和泉市を含む府内7市3町は,国に対し,
本件報告の誤った部分について正しい数値による調整交付金の再計算について善処を要請し続け,その結果,国から,平成22年6月7日付け老発0607第1号厚生労働省老健局長通知により,上記誤った数値による調整交付金額の正しい数値によるそれとの不足分のうち7割が交付されることとなり,和泉市には,上記(13)の差額(不足)額5200万5000円のうち7割相当である3640万4000円(500円以上の端数は1000円に切り上
げ。介護保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令9条)が交付された。(甲9,10)
その後も,大阪府,和泉市を含む府内7市3町は,国に対し,正しい数値による調整交付金の再計算について善処を要請し続けている。
2
認定の補足
被控訴人は,前記第2の1引用に係る原判決「事実及び理由」第4の2(原告の主張)(2)イ及び前記第2の3(2)後段のとおり,補助参加人Bが本件報告依頼文書の送付の翌日に府介護支援課から送信されてきた本件補足情報メール(甲5)を開封閲覧した旨主張するが,控訴人は,上記引用に係る原判決「事実及び理由」第4の2(被告の主張)(2)イのとおり,これを否定している。この点に関しては,前記1(4)のとおり,同メールが府介護支援課から送信されたのは午後8時44分であり,同メールに係る担当職員というべき補助参加人Bがその時間帯に勤務していたことを認めるに足りる証拠はなく,また,同メールが「財政調整交付金ご担当者様」となっていたとはいえ,前記1(5)オのとおり,市高齢介護室宛の大阪府等からのメールは,同室の誰でも操作することができる同室専用の2台のパソコンのみを使って開封することができることになっており,開封した職員が当該メールに係る事務の担当職員でない場合は担当職員に当該メールの内容を伝達する旨の申し合わせがあるものの,この場合,開封した職員が上記伝達を失念すると,担当職員が当該メールの内容を知らないままになるが,同室において,そのような失念の場合の対策や,その防止のための二重チェック等の態勢構築の措置が講じられていた形跡は証拠上見当たらず,現に,本件補足情報メールを誰が開封したのか,その後の調査によっても判明していないことは前記1(5)カのとおりである実情からすると,補助参加人Bが同メールを開封しない間に,代わってこれを開封した同室の担当外の職員が補助参加人Bに対してその内容を伝達することを失念した可能性の存在を否定することはできず,他に補助参加人Bが同メールを開封閲覧した
ことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の上記主張は認めることができない。
3
争点1(本案前の主張)について
控訴人の主張を採用することができないことは,原判決「事実及び理由」第5の2のとおりであるから,これを引用する。

4
争点2(補助参加人Bの過失又は重過失の有無)について
(1)

過失の存否
前記1認定の事実によれば,補助参加人Bは,市高齢介護室主査としての
職責上,本件報告の事務担当者として,介護保険法等の諸規定や府介護支援課からの依頼の趣旨に沿って,同課の指導助言等に従い,財政調整交付金算定に係る諸係数の調査,積算,書類作成等を適正に実施すべき義務を負っていたものというべきであり,同課からの本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分は,前記1(3)のとおり,府内各市町村等のうち和泉市を含む相当数の市町村等についてはその採用する所得段階別分類に当て嵌まらない内容になっており,当該市町村等においてこれに従って本件様式に入力すると誤った数値が計上され,いわば誤りを誘引する体裁になっていたとはいえ,本件様式の入力上の注意(4)欄は,概括的で抽象的な表現ながら和泉市の所得段階別の被保険者数を国の6段階に正しく置き換えて記入するよう求めていたのであるから,予断を排除して本件様式の全体をよく注意して読めば,同図示部分が和泉市にとっては当て嵌まらない記載になっていることを発見することができたはずであり,職責上発見すべきであったといえる(現に,前記1(4)のとおり,同依頼文書の送信後翌日までに,府内各市町村等の一部の市町村等からは,府介護支援課に対し,同図示部分の入力方法に関する記載に誤りがあるのではないかとの指摘がなされている。)。また,その後も,前記1(7)のとおり,府介護支援課から,本件様式の図示部分の問題点(和泉市を含む府内各市町村等の相当数の市町村等にとって
は誤りを誘引する記載になっていること)を端的に指摘するものではなく,いわば概括的で抽象的な注意喚起を促すものにすぎなかったとはいえ,本件報告の諸係数の内容に訂正がないかどうか諸係数に関する対前年度比較表を添付してその確認を求める旨の本件確認依頼メールの送信を受けた上に,さらに,前記1(9)のとおり,同課から同様に本件再確認依頼メールの送信を受けたのであるから,所得段階別の被保険者数の和泉市から国への置換えに誤りがないかどうかを含めて,予断や思込みを排除してよく注意して再調査点検をし,本件報告における本件過誤を発見し,その正確な数値を把握して訂正の報告をすべきであったといえる。
ところが,補助参加人Bは,これを怠り,前記1(6),(8),(10)のとおり,府介護支援課の指導や提供資料等を疑うことなく,本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分に和泉市に当て嵌まらない,いわば誤りを誘引する記載があるなどとは思いもよらず,本件様式の入力上の注意(4)欄の記載内容との関連や,本件確認依頼メールに添付の対前年度比較表の被保険者数の増減の点にも特段注目することなく,同図示部分の記載内容について再点検をすることもなく,漫然と本件過誤に至り,また,その訂正の機会をも逸した過失があるものというべきである。
なお,被控訴人は,前記第2の1引用に係る原判決「事実及び理由」第4の2(原告の主張)(3)及び前記第2の3(4)のとおり,補助参加人Bに重過失があった旨主張するが,上記過失の内容や後記(3)の諸事情に照らすと,これをもって重過失と評価することは到底できない。他に重過失の存在を首肯させるような事実は証拠上見当たらない。
(2)

賠償又は求償における信義則
使用者は,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接
損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の
業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し上記損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきであるところ(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁),この理は,普通地方公共団体とその職員との関係にも当て嵌まるものと解するのが相当である。
(3)

信義則上相当と認められる限度
過誤の誘引
補助参加人Bに本件過誤に関して過失があることは前記(1)のとおりである。しかし,他方,和泉市における本件過誤が発生したことの端緒は,前記1認定の経緯からすれば,府介護支援課が府内各市町村等に送付した本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分には,前記1(3)のとおり,和泉市を含む相当数の市町村等にとって当て嵌まらない,いわば誤りを誘引するような記載が存在したことにあるのは明らかである。本件様式には,上記のように記載内容に問題のある同図示部分のほか,問題のない同入力上の注意(4)欄も存したが,同図示部分の方は,矢印による図示という極めて具体的なもので,一見分かりやすい体裁になっていたのに対し,同入力上の注意(4)欄の方は,概括的で抽象的な記述にすぎず,両者の印象度には大差があるものというべきことからすると,自然と補助参加人Bの注意が,同図示部分の方に集中し,同入力上の注意(4)欄の方に対しては削がれたといった事情もあったものと推認される。このことは,本件報告において和泉市と同様の誤りを犯した大阪市を含む6市3町の担当職員らについても同様であったものと解される。


是正のための連絡不十分
さらに,府介護支援課は,本件様式の図示部分に上記の問題点があるこ
とに気付いた後に,本件補足情報メールを送信し,同メールには,所得段階を8段階に分けている特定の市町村の事例を挙げて,当該事例の市町村の第5,第6段階の人数を国の第5段階の欄に,同市町村の第7,第8段階の人数を国の第6段階の欄に記載するよう求める旨の記載がなされていたものの,それは,同図示部分を特定してその問題点(和泉市を含む相当数の市町村等にとって当て嵌まらない,いわば誤りを誘引する記載があること)を端的に指摘するものではなかったことは,前記1(4),4(1)のとおりであり,現に,同メールが送信されたのに,府内各市町村等のうち和泉市と大阪市とをはじめとする合計7市3町が同図示部分の問題点に気付かなかったことは,前記1(12)のとおりである。また,その後に同課から府内各市町村等に送信された本件確認依頼メールや本件再確認依頼メールには,本件補足情報メールに記載されていたような特定の市町村の事例を挙げてその所得段階の国の所得段階への記載方法に触れた趣旨の記載もなく,単に抽象的に訂正個所がないかどうか確認ないし再確認を求める趣旨の内容であったところ,例えば,同課が上記各メールを送信するに際して,最初から,端的に同図示部分をコピーして特定の市町村等にとっては誤りを誘引する記載部分に正しい矢印を朱書きするなどして,その問題点をわかりやすく指摘した文書を添付するとか,改めて国と府内各市町村等の双方の所得段階別分類の対応関係について正確な矢印を付した図を送付し直すとか,あるいは本件再々確認依頼メ-ルのような所得段階別の被保険者数の府内各市町村等から国への置換えに関する誤りの具体例を記載する等の措置をとっていれば,同図示部分の問題点は直ちに一目瞭然に府内各市町村等に伝わったものとも考えられるが,そうしなかったために,結局,せっかく同図示部分の問題点に気付きながら,その是正のための府内各市町村等への連絡が不十分な結果に終わったものといわざるを得ず,そのことも,和泉市を含む相当数の市町村等において本件再々確認依頼メール受
信の時点まで本件報告上の誤りが是正されないまま推移した事態の大きな要因となったものというべきである。

執務態勢等
その上,前記1(1)のとおり,府内各市町村等の介護給付費財政調整交付金の算定に関しては,府介護支援課が,府内各市町村等に対し,その諸係数の調査を依頼し,その提出資料の様式や記載方法を指定するなどの指導をして報告書類を提出させ,これを取りまとめたうえで報告を上げる扱いとなっており,また,前記1(5)キのとおり,和泉市においては,他の府内各市町村等と同様,介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べに関する事務等介護保険に関する事務や関係法令の内容の把握等については,その複雑さのゆえもあって,府介護支援課からの通知や交付資料あるいは指導ないし研修等に依拠して処理している実情にあり,市高齢介護室においては,独自に介護給付費財政調整交付金算定のための諸係数等調べの報告等介護保険に関する事務に関する事務規程や注意点の指摘あるいはマニュアル等といったものは作成しておらず,これまでは府介護支援課からの指導や提供資料等に依拠しこれに忠実に従うことによってこれらの事務処理を行ってきており,特段の誤りも支障も生じることはなかったなど,その依存度は大きかったといえるほか,前記1(12)のとおり,和泉市以外にも大阪市を始めとする府内6市3町に本件過誤と同様の誤りがあったことなどからすると,和泉市を含む相当数の市町村等には,財政調整交付金に係る執務環境において,府介護支援課からの送付文書に誤りがないかどうかを含めて厳正にチェックしてゆく態勢が組織として確立していたとはいい難いところであり,このことも,本件報告における本件過誤の発生やその是正の遅れの大きな要因になったものというべきである。

職員の処遇,過誤の予防,損失の分担に対する配慮等
ところで,普通地方公共団体における事務の中には本件報告のように多
額の交付金に関係する事務も存し,このような事務を担当する職員にとっては,その事務上の過失により当該普通地方公共団体に損失が生じた場合,その過失が些細なものであっても損失が莫大な金額になれば,損害賠償や求償の場面においてその支払能力をはるかに超える負担を抱える事態もあり得,いわば経済的な破綻をも含めたリスクに常時曝されていることになるといえるにもかかわらず,和泉市においては,職員である補助参加人らがそのリスクに見合う処遇を受けていることを首肯させるような事情は証拠上見当たらない上に,前記ウのとおりの和泉市における介護給付費財政調整交付金算定のための事務に関する府介護支援課に対する依存度の大きさ,自らそのための事務規程やマニュアル等すら作成していない事実のほか,前記2のとおり,市高齢介護室宛のメールについて開封した職員が当該メールに係る事務の担当職員でない場合は担当職員に当該メールの内容を伝達する旨の申し合わせはあるものの,開封した職員が伝達を失念した場合の対策やその防止のための二重チェック等の態勢構築の措置が講じられていた形跡がなく,現に本件補足情報メールの開封者が調査しても判明していないなどの事実等に照らすと,日常的に本件過誤のような事態が発生することの予防に格別の配慮をしていたとはいい難いことに加えて,通常の職員の支払能力をはるかに超える損害賠償等の経済的負担の分散のために何らかの措置や対策を講じている形跡も証拠上見当たらない。オ
小括
以上のとおり,補助参加人Bに本件過誤について過失があるとしても,その発端は,府介護支援課からの本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分の和泉市にとっては当て嵌まらない記載内容にあり,その過失は,本来ならば信頼し指導助言を仰ぐべき上部団体からいわば誤りを誘引するような文書の送付を受けるという予想外の立場に置かれた際に,職責上,その記載内容を無条件に信じることなく,その不適切部分を発見して,
正しい事務処理をなすべき義務を負っていたのに,これを全うできなかったという内容のものであって,一般的な職務怠慢などといった事例とは明らかに様相を異にするものであること,和泉市の介護給付費財政調整交付金算定のための事務における府介護支援課に対する依存度の大きさ,同事務に取り組む組織上の態勢等の問題点が,本件過誤における構造的な背景事情として存在するものといえ,補助参加人Bでなくても,その立場になれば誰でも犯しかねなかった側面があったといえる(現に,他にも大阪市を含む6市3町においても担当職員らが同様の過誤を犯している。)こと,また,和泉市にはリスクを抱えた職員の処遇,過誤の予防,損失の分担のための配慮や対策がされているとはいえないこと,その他諸般の事情に照らすと,このような状況下においては,損害の公平な分担という見地からすれば,和泉市ないしその執行機関である控訴人が,補助参加人Bに対し,本件過誤に係る損害の賠償を請求すること自体信義則に反し,許されないものというべきである。
5
争点3(補助参加人Aの過失又は重過失の有無)について
(1)

過失の存否
前記1認定の事実によれば,補助参加人Aは,市高齢介護室長としての職
責上,本件報告に関する専決権者として,介護保険法等の諸規定や府介護支援課からの依頼の趣旨に沿って,同課の指導助言等に従い,財政調整交付金算定に係る諸係数の調査,積算,書類作成等を行う事務担当者である補助参加人Bからの決裁伺いに当たっては,適正にその事務内容を点検の上決裁すべき義務を負っていたものというべきであるところ,補助参加人Bが起案した本件報告案を点検するに当たり,前記4(1)と同様の理由で,本件過誤を発見すべきであったのに,これを怠り,これを見逃して決裁をした過失があるものというべきである。
なお,被控訴人は,前記第2の1引用に係る原判決「事実及び理由」第4
の3(原告の主張)及び前記第2の3(4)のとおり,補助参加人Aに重過失があった旨主張するが,上記過失の内容や後記(3)の諸事情に照らすと,これをもって重過失と評価することは到底できない。他に重過失の存在を首肯させるような事実は証拠上見当たらない。
(2)

賠償又は求償における信義則
前記4(2)と同様

(3)

信義則上相当と認められる限度
補助参加人Aに本件過誤に関して過失があることは前記(1)のとおりであ
るが,前記4(3)のとおり,補助参加人Bと同様の理由により,補助参加人Aについても,損害の公平な分担という見地から,和泉市ないしその執行機関である控訴人が,本件報告の誤りに係る損害の賠償を請求すること自体信義則に反し,許されないものというべきである。
なお,補助参加人Aは,本件報告に関する専決権者であり,補助参加人Bの上司として,その決裁伺いに基づいて決裁する立場にあるが,そのことが,格別上記判断を左右するものといはいい難く,他にこれを左右するような事由は証拠上見当たらない。
6
当審における被控訴人の補充主張について
(1)

本件控訴について
被控訴人は前記第2の3(1)のとおり主張するが,地方自治法96条1項
12号は「普通地方公共団体がその当事者である訴えの提起」に係る規律であるのに対し,本件は,普通地方公共団体である和泉市の執行機関である控訴人(和泉市長)が訴え提起後において第1審判決に控訴する局面であるから,同号の規律の適用対象に該当しないことは明らかであり,被控訴人の主張を踏まえて検討しても,同号の規定の存在を根拠として,本件控訴について控訴人が和泉市議会の議決を経ることを要するものとは解されない。被控訴人の上記主張は採用の限りではない。

(2)

補助参加人Bの過失について


被控訴人は前記第2の3(2)前段のとおり主張するところ,本件過誤について補助参加人Bに過失があることは,前記4(1)のとおりであるが,そうであるからといって,和泉市ないしその執行機関である控訴人が,補助参加人Bに対し,本件過誤に係る損害の賠償を請求すること自体信義則に反し,許されないものというべきであることは,前記4(3)のとおりであり,被控訴人の上記主張を踏まえて再検討しても,上記認定判断は左右されない。


被控訴人は前記第2の3(2)後段のとおり主張するところ,この点に関しては,前記2に説示したとおり,補助参加人Bが府介護支援室から送信された本件補足情報メールを開封閲覧したとは認め難いところであり,上記開封閲覧を前提に被控訴人Bの過失を論じることはできない。被控訴人の上記主張に鑑み証拠関係を検討しても,上記認定判断は左右されない。
(3)

補助参加人Aの過失について
被控訴人は前記第2の3(3)のとおり主張するところ,補助参加人Aの過
失については,前記5(1)のとおりであるが,そうであるからといって,和泉市ないしその執行機関である控訴人が,補助参加人Aに対し,本件過誤に係る損害の賠償を請求すること自体信義則に反し,許されないものというべきであることは,前記5(3)のとおりである。被控訴人の上記主張を踏まえて再検討しても,上記認定判断を左右するには足りないものというべきである。
(4)

補助参加人らの重過失について
被控訴人は前記第2の3(4)のとおり主張するが,補助参加人らに重過失
があったとはいえないことは,前記4(1)末段,5(1)末段のとおりである。本件補足情報メールを補助参加人Bが開封閲覧したとは認め難いことは前記2のとおりであり,本件確認依頼メール及び本件再確認依頼メールの各内容
が当初の本件報告依頼文書に添付された本件様式の図示部分の誤りを誘引する記載の是正の連絡として不十分であったことは,前記4(3)イのとおりであるほか,前記1(12)のとおり,大阪市をはじめとする6市3町において,これら各メールの送信を受けたにもかかわらず,本件報告における誤りを犯していることに鑑みても,補助参加人らに本件過誤について重過失があったとは到底いえない。なお,本件確認依頼メールに添付された対前年度比較表には,和泉市の被保険者数の数値が平成21年度は平成20年度に比べると,第5段階では3467人減少し,第6段階では4069人増加している旨の記載があったことは,前記1(7)のとおりであるが,これに注目しなかったことをもって直ちに重過失があったとはいえないところであり,他に重過失の存在をうかがわせるような事情も証拠上認められない。
第4

結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,被控訴人の請求を一部認容した原判決は,その限度で不当であり,本件控訴は理由がある。よって,原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

西延正平薫井和徒
(原裁判等の表示)
主1文
被告は,被告補助参加人A及び同Bに対し,連帯して1092万0700円及びこれに対する平成23年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告の負担とし,補助参加によって生じた費用は,これを10分し,その7を被告補助参加人らの負担とし,その余を原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
被告は,被告補助参加人A(以下「補助参加人A」という。)及び同B(以下
「補助参加人B」といい,補助参加人Aと併せて「補助参加人ら」という。)に対し,連帯して1560万1000円及びこれに対する平成23年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
第2

事案の概要

1
事案の骨子
本件は,和泉市が行う平成21年度介護給付費財政調整交付金算定のための国への報告(以下「本件報告」という。)に関し,第1号被保険者の所得段階別の人数を誤って報告したことによって,国から和泉市に対して交付される介護給付費財政調整交付金が本来交付されるべき金額よりも少額となる損害を被ったとして,和泉市の住民である原告が,和泉市長に対し,当該報告に関する専決権者である補助参加人A及び実務担当者である補助参加人Bに対して不法行為に基づき損害賠償請求することを求めた住民訴訟である。

2
法令等の定め
(1)

介護保険法122条

1項

国は,介護保険の財政の調整を行うため,第1号被保険者の年齢階級別の分布状況,第1号被保険者の所得の分布状況等を考慮して,政令で定めるところにより,市町村に対して調整交付金を交付する。
2項

前項の規定による調整交付金の総額は,各市町村の前条1項に規定する介護給付及び予防給付に要する費用の額(同条2項の規定の適用がある場合にあっては,同項の規定を適用して算定した額。次項において同じ。)の総額の100分の5に相当する額とする。

3項

毎年度分として交付すべき調整交付金の総額は,当該年度における各市町村の前条1項に規定する介護給付及び予防給付に要する費用の額の見込額の総額の100分の5に相当する額に当該年度の前年度以前の年度における調整交付金で,まだ交付していない額を加算し,又は当該前年度以前の年度において交付すべきであった額を超えて交付した額を当該見込額の総額の100分の5に相当する額から減額した額とする。

(2)

介護保険の国庫負担金の算定等に関する政令1条の2
1項

介護保険法122条1項に規定する調整交付金は,普通調整交付金及び特別調整交付金とする。

2項

普通調整交付金は,厚生労働省令で定めるところにより,次に掲げる事項の市町村間における格差による介護保険の財政の不均衡を是正することを目的として交付する。

1号

当該市町村における第1号被保険者の総数に対する当該市町村に
係る第1号被保険者のうち75歳以上である者の割合

2号

当該市町村における介護保険法施行令38条1項各号に掲げる区
分ごとの第1号被保険者の分布状況

3項

特別調整交付金は,災害その他特別の事情がある市町村に対し,厚
生労働省令で定めるところにより交付する。
4項

特別調整交付金の総額は,介護保険法第122条2項に規定する調整交付金の総額から2項の規定により各市町村に対して普通調整交付金として交付すべき額の合計額を控除して得た額とする。

5項

3項の規定により各市町村に対して特別調整交付金として交付すべき額の合計額が前項に規定する特別調整交付金の総額に満たないときは,その満たない額は,厚生労働省令で定めるところにより,普通調整交付金として交付するものとする。

3
前提事実(争いのない事実又は証拠上容易に認定できる事実。なお,争いのない事実には認定根拠を付さない。また,書証番号は特記のない限り枝番号を含む。以下同じ。)
(1)

当事者等


原告は,和泉市の住民である。


被告は,和泉市の市長であり,同市の執行機関である。


補助参加人Aは,本件報告当時,和泉市のいきがい健康部高齢介護室長の地位にあった者であり,本件報告に関する専決権限を有する者である。

補助参加人Bは,本件報告当時,同室介護保険グループ主査の地位にあった者であり,本件報告事務を担当した者である(丙1)。

(2)

本件報告に至る経緯
介護に要する費用のうち5パーセントは,国から各市町村に対し,調整交付金として,市町村の保険料の格差を是正するために交付されるものとされており,その額は,75歳以上の高齢者の加入割合及び第1号被保険者の所得の分布状況に応じて調整して決定するものとされている。

大阪府内の市町村は,平成21年12月14日,国から大阪府を通して,平成21年度の調整交付金算定のための諸係数の調査依頼(甲3,4)を受けた。


国は,第1号被保険者の所得段階を6段階に分類しているのに対し,和泉市は,平成21年度から,国の第5段階及び第6段階をそれぞれ2段階に細分化し,8段階に分類していた。具体的には,和泉市の第5及び第6段階は,国の第5段階に該当し,和泉市の第7及び第8段階は,国の第6段階に該当する。和泉市は,国の分類に基づく数値を報告する必要があった。


和泉市は,平成22年1月20日,大阪府に対し,調整交付金算定のための諸係数等調べを提出した(本件報告)。補助参加人Bは,提出書類中,所得段階別の第1号被保険者数の記載において,第5段階の欄に和泉市の第5段階の人数のみを記載し,第6段階の欄に和泉市の第6から第8段階までの人数を記載した報告書を作成し,補助参加人Aは当該報告書を決裁した。


補助参加人Bは,同年2月23日,大阪府から,被保険者数を誤った事例がある旨の指摘(甲7の1)を受け,本件報告の内容に誤りがあったことに気付いた。和泉市を含め,大阪府内の10市町が同様の誤りをしていた。


大阪府は,同月24日,厚生労働省に対し,府内の10市町の報告内容に誤りがあったことを通知した。
誤った報告をした10市町の代表者は,同月26日,厚生労働省を訪問し,正しい数値に基づいて調整交付金の交付額を算定するよう要請した。和泉市は,同年3月1日,国に対し,大阪府を通して第1号被保険者数の正しい数値に基づく報告を行った。


国は,同年4月7日,和泉市に対し,本件報告に基づき算定された普通調整交付金である1億8691万8000円を交付した。


国は,平成21年度に交付決定された普通調整交付金の額が,平成21年度内に介護保険の財政又は介護保険事業の安定的な運営に影響を与える
場合その他のやむを得ない特別の事情の原因となる事由(以下「特段の事由」という。)により,見直せば交付されるであろう額に満たなかった保険者を対象として,交付決定された普通調整交付金の額と特段の事由により,見直せば交付されるであろう額との差額(以下「特別追加所要額」という。)の10分の7以内の額を平成22年度特別調整交付金として交付することとし(甲9),平成23年4月18日,和泉市に対し,普通調整交付金の不足分の7割相当額として3640万4000円を交付した(弁論の全趣旨)。
(3)

監査請求
原告は,平成23年3月7日,和泉市監査委員に対し,本件報告により調
整交付金が少なくなったことについて損害賠償を求めて監査請求(甲1)を行ったところ,同監査委員は,同年4月28日付けで監査請求を棄却した(甲2)。
(4)

本件訴訟提起(顕著な事実)
原告は,平成23年5月10日,本件訴訟を提起した。

第3

主たる争点

1
本件請求が住民訴訟の対象となるか否か(本案前の主張)

2
補助参加人Bについての過失又は重過失の有無

3
補助参加人Aについての過失又は重過失の有無

4
損害発生の有無及びその数額

5
過失相殺の適否

第4

主たる争点に対する当事者の主張

1
争点1(本案前の主張)について
(被告の主張)
地方自治法242条の2第1項4号に基づき損害賠償請求をすることを求めることができるのは,当該職員が財務会計行為について損害賠償責任を負う場
合に限られると解すべきであるところ,本件で問題になっている行為は,和泉市が国に対し,第1号被保険者数等を報告する行為であり,財務会計行為には該当しないから,住民訴訟の対象とはならず,本件訴訟は却下されるべきである。
(原告の主張)
地方自治法242条の2第1項4号にいう財産には,地方公共団体が有する損害賠償請求権も当然に含まれ,当該損害の発生が財務会計行為を原因とするか,非財務会計行為を原因とするかは問わないと解すべきであるから,被告の主張は失当である。
2
争点2(補助参加人Bについての過失又は重過失の有無)について(原告の主張)
(1)

地方自治法243条の2が適用される職員については,その職務を行う
に当たり萎縮し消極的となることなく,積極的に職務を遂行することができるよう配慮する趣旨で,損害賠償を負う場合を故意又は重過失ある場合に限定している。これに対し,同条が適用されない職員については特に定めがないから,民法の規定によることとなるのであり,軽過失で足りるというべきである。国家賠償法1条2項は,公務員の第三者に対する加害行為について,国又は公共団体が賠償をした場合の民法の特則であるから,本件に類推適用の余地はない。
(2)ア

介護保険を担当している職員であれば,和泉市の所得区分の第5及び
第6段階が国の所得区分の第5段階に,和泉市の所得区分の第7及び第8段階が国の所得区分の第6段階に対応することは了知していて当然の事柄である。被告は,大阪府からの説明図に誤りがあったと主張するけれども,説明図には,第6段階の欄に「第6段階以上」と記載してあったため,誤りを誘引した可能性はあるものの,他方で,入力上の注意として,「平成21年4月1日(賦課期日)における標準的な所得段階(6区分)別の第
1号被保険者を記入すること」との記載があることからすると,大阪府の説明図が全くの誤りともいえない。府内の自治体の中には,大阪府に対し,大阪府の入力指示が紛らわしい旨連絡しているところもあるのである。そもそも,国の6段階と和泉市の8段階の対応関係の判断は,国や大阪府の指導がなければ処理できないような事項ではない。
補助参加人Bが,漫然と作業をしたことから誤った報告をしたものであり,同人には過失がある。

さらに,補助参加人Bは,平成21年12月15日付け大阪府からの注意喚起のメールを見ていなかったと主張するが,開封した旨申し出た職員もおらず,根拠に乏しいものであり,否認する。仮に補助参加人Bがメールを見ていないとしても,当該メールの件名が「(補足資料)【大阪府→財政調整交付金ご担当者様】介護保険財政調整交付金の諸係数等の調の提出について」となっており,補助参加人Bが読まなければならないメールであることは当然判断できることであるから,仮に開封のマークがついていたとしても,当該メールを確認することは職務として当然しなければならないことであって,確認しなかったからといって過失が否定されるものではない。また,大阪府からの再度の確認メールにおいてチェックを依頼されており,同メールに添付された前年度比較表に記載された前年度の第1号被保険者数の分布と比較すれば,報告の誤りは容易に発見可能であったから,いずれにせよ補助参加人Bには過失がある。


被告は,平成22年3月1日に正しい数値を報告しているにもかからず,国が違法な対応をしたと主張するけれども,調整交付金は,各自治体の財政状況を把握し,それを元に限られた財源を公平に配分することが必要なものであることから,交付金額の決定前の一定の時期に各自治体からの諸数値を確定する必要がある。そうすると,国が報告期限を定め,それ以降の修正には応じないとの対応をとることには合理性がある。本件報告の報
告期限は,当初平成22年1月27日であり,一度延長されて同年2月17日となったものであり,被告の報告は期限後になされたものであり,これをもって過失がないという主張は失当である。
(3)

なお,補助参加人Bの過失は重過失に当たるから,仮に重過失を要する
としても,補助参加人Bは責任を免れない。
(被告の主張)
(1)

地方自治法243条の2が適用されない職員の賠償責任が認められるの
は,当該職員に故意又は重過失がある場合に限られるというべきである。すなわち,地方自治法243条の2第1項に規定されている職員について,損害賠償責任を負う要件が故意又は重過失に限定されているところ,その職務の内容や性質等を比較しても,それ以外の職員とで要件を異なるものとすることに合理性は見いだせない。また,国家賠償法1条2項において,加害職員に求償義務を負わせる場合を故意又は重過失があるときに限っており,その趣旨は,職員が安んじて職務にまい進できるように配慮することにあることから,地方自治体に対する損害賠償責任を負う範囲についても,同様に解すべきである。
(2)

仮に,補助参加人Bが損害賠償責任を負う要件が軽過失で足りるとして
も,以下の事情によれば,補助参加人Bには軽過失もない。

補助参加人Bは,平成21年度から本件報告業務を担当していたものであるが,大阪府からの説明図に依拠して報告文書を作成したところ,大阪府の説明図に誤りがあったために,誤った報告をしてしまったものである。介護保険に関する事務や関係法令の内容は複雑であるため,全て大阪府からの通知,交付資料や研修に依拠して行っているのが実情である。本件報告は,和泉市の介護保険料段階を8段階の多段階制とした後の初めての報告であり,より全面的に大阪府からの資料に依拠していた。大阪府からの資料の内容に疑義を抱いて業務をするのは通常あり得ず,非現実的であり,
結果として誤った報告をしたことはやむを得ない。

補助参加人Bは,平成21年12月15日付けの大阪府から注意喚起のメールを見ていない。同メールは,他の職員が開封したものであり,本来であれば,メールを見た職員が,補助参加人B又は補助参加人Aに対してメールをプリントアウトして渡すこととなっていたにもかかわらず,何らの連絡もなかったものである。高齢介護室へ送付されるメールは多量に存することから,メールを全て確認することは困難であり,補助参加人Bが大阪府からの注意喚起のメールを見ていないことをもって,補助参加人Bに過失があるとはいえない。また,その後のメールにおいても,補助参加人Bは,所得区分の対応関係は,大阪府からの資料に忠実に処理しているという認識があったため,誤りがあるとは思いもよらなかったものであり,原告の指摘する入力上の注意についても,他の項目と混在する態様で一般的な注意事項が記載されているのみで,所得区分の対応関係についての注意を指すことに気付くのは極めて困難である。そうすると,このメールをもって,補助参加人Bが,対応関係の誤りについて認識しなかったことに,過失はない。


さらに,和泉市は,平成22年3月1日に正しい数値を報告しており,国が正しい報告数値に基づき調整交付金を算定することは時間的に十分可能であったにもかかわらず,国が正しい数値に基づく介護給付費財政調整交付金の算定を違法に拒否したものである。

3
争点3(補助参加人Aについての過失又は重過失の有無)について(原告の主張)
補助参加人Bの過失において主張したのと同様,補助参加人Aについても,大阪府からの確認メール等から,例年数値誤りが散見されることから,入念なチェックを依頼されていることは十分認識できたものであって,前年度比較表も点検せず,担当者の報告誤りを漫然と見逃したことには過失がある。
(被告の主張)
本件報告当時は,所得区分の記載について大阪府や近隣の市から問題提起された事実はなく,補助参加人Bが大阪府からの資料に忠実に基づいて本件報告を行っていたことから,補助参加人Aがこれについて疑いを持つ余地はなかった。
また,前記のとおり,和泉市が平成22年3月1日に正しい数値を報告したにもかかわらず,国が正しい数値に基づく介護給付費財政調整交付金の算定を違法に拒否したものである。
以上から,補助参加人Aには過失がない。
4
争点4(損害発生の有無及びその数額)について
(原告の主張)
(1)

当初より正しい数値を報告していれば,和泉市に対し,2億3892万
3000円の調整交付金が交付されていたところ,誤った報告をしたため,1億8691万8000円の普通調整交付金及びこれらの金額の差額の7割が特別調整交付金として交付されるにとどまったものであるから,和泉市は,差額の1560万1000円を損害として被ったというべきである。(2)

被告は,未だ損害が発生していないとするが,一部誤った報告に基づく
とはいえ,国において調整交付金の額を決定しており,しかも誤報告の原因は和泉市職員の確認不十分にあることに照らせば,さらに調整交付金を交付する義務が国に残存しているものではない。国が特別調整交付金として不足分の7割を交付したことは,これ以上国からの交付はしないとの意思を示したものと見るべきであって,和泉市に損害が発生しているというべきである。和泉市が当初から正しい数値を報告していた場合の調整交付金の額が判明しないのは被告主張のとおりであるが,誤った報告をした自治体への調整交付金の不足額が国全体の調整交付金の予算規模に占める割合はわずかであることから,原告主張の金額の損害を被ったと認定することに何らの問題もな
い。損害の立証が極めて困難というのであれば,民事訴訟法248条に基づき損害を認定すべきである。
(被告の主張)
(1)

和泉市は,厚生労働省に対し,現在も,正しい数値に基づく調整交付金
を交付するよう要請を継続している。国は,市町村等から報告を受けてから長くても1週間程度あれば,調整交付金の交付割合等を再計算することが可能である。よって,国は,正しい数値に基づいて調整交付金を交付することが可能であり,かつ本来その義務があるというべきであるから,和泉市には未だ損害が発生していない。
(2)

和泉市が当初から正しい数値を報告していた場合の調整交付金の額は,
各市町村が正しい数値を報告していた場合の調整率等の数値を厚生労働省が算定しない限り判明しないものである。原告が主張する損害額は,誤った報告に基づき厚生労働省において算定された調整率等の数値と,和泉市における正しい第1号被保険者数の数値を用いて算定した金額であるから,和泉市が本来交付を受けるべき調整交付金の正確な額を示したものではなく,結局損害額は不明であり,確定していない。
仮に損害が発生しているとしても,それは,本来であれば国が正しい数値に基づいて調整交付金を和泉市に対して交付すべきところ,和泉市が,国側との妥協によって,不足額の7割の特別調整交付金の交付を受けることとしたため発生したものであるから,補助参加人らの行為との間には相当因果関係が認められない。
5
争点5(過失相殺の適否)について
(被告(補助参加人ら)の主張)
(1)

仮に損害との因果関係が認められるとしても,それは和泉市が妥協策を
取り決めたことによるものであるので,過失相殺を主張する。また,本来であれば国が正しい数値に基づいて調整交付金を和泉市に対して交付すべきも
のであって,厚生労働省は,和泉市の損害発生を防止する措置をなし得る立場にあり,しかも措置をしないことに正当な理由がないのであるから,そのために発生ないし拡大した損害に対しては,自己の行為以外の事情に起因する損害発生又は拡大を理由に,過失相殺を主張することができると解すべきである。
(2)

加えて,和泉市高齢介護室では,同室宛ての電子メールは,室専用の2
台のパソコンにおいて開封すること及び当該メールを開封した者がその事務の担当者でない場合には,開封した者は担当の職員に対しメールの存在及び内容を伝達することが申し合わせとして定められていたにもかかわらず,メールを開封した職員が補助参加人A又は補助参加人Bに伝達することを怠ったことからも,過失相殺を主張する。
(3)

補助参加人らは,介護保険に関する事務が非常に複雑であって,大阪府
の指導に従って事務処理を行った結果,誤った報告をしてしまったものであるところ,これは大阪府から不適切な指示が出されていることも含め,和泉市の調整交付金に関する数値の調査及び報告についての事務処理体制が不備であったためであるから,過失相殺をすべきである。
(原告の主張)
(1)

被告は,過失相殺を主張するが,厚生労働省が不足額の7割の特別調整
交付金を交付することとしたのは,過誤のあった自治体に対する救済策であって,和泉市が妥協策をとりまとめたと評価すべきものではない。(2)

また,メールを第三者が開封したとの事実があったとしても,メールを
開封した職員は被害者側の者に当たらないし,メールを見なかった補助参加人らの過失の重大さに照らすと,当該職員に過失はない。厚生労働省が損害発生に起因したとする点についても,厚生労働省が被害者側の者とみなせないことは明らかであって,過失相殺の対象とはならない。
(3)

被告は,和泉市の事務処理体制に不備があったとも主張するが,本件報
告の誤りは,補助参加人Bの認識の誤りと報告後の対応のずさんさ及び補助参加人Aが適切なチェックを欠いたことによるものであって,和泉市の事務処理体制に問題があったものではない。
第5
1
当裁判所の判断
認定事実
上記前提事実に加え,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)

大阪府福祉部高齢介護室介護支援課(以下「府介護支援課」という。)
の課長は,平成21年12月14日,府内各市町村及び広域連合の介護保険担当課(室)長に対し,提出期限を平成22年1月12日と定めて,調整交付金算定のための諸係数の調査を依頼した(甲3の2)。
上記依頼文書には,「例年,実績報告(又はそれ以降)の段階で給付費の支給額や第1号被保険者数等の数値の誤りが散見されますので,くれぐれも間違いのないよう入念なチェックをお願いします。※変更交付申請と事業実績報告を年度内に同時に行われることとなっているため,年度を越えての追加交付は行われません(数値の誤りにより交付不足が生じても年度を越えての追加交付は行われません。)のでご留意下さい。」との記載がある。(2)

前記(1)の依頼に基づき,所得段階別の第1号被保険者数を府に報告する
際に用いる提出様式(甲4)は,入力項目の欄が6か所あり,それぞれ「第1段階」「第2段階」「第3段階」「第4段階」「第5段階」「第6段階以上」と記載されていたため,所得段階を6段階よりも細分化している自治体においては,第1段階から第5段階までの被保険者数をそのまま第1段階から第5段階までの欄にそれぞれ記入し,第6段階以上の被保険者数を第6段階の欄に記入すべきとしているとも読める紛らわしい体裁となっていた。他方,同様式の下部には,入力上の注意として「(4)所得段階別第1号被保険者数の考え方については,次によること。(別紙の厚生労働省事務連
絡より)・平成21年4月1日(賦課期日)における標準的な所得段階(6区分)別の第1号被保険者数を記入すること。」との記載がある(甲4)。(3)

府介護支援課のCは,平成21年12月15日,大阪府内の各市町村及
び広域連合の介護給付費財政調整交付金担当者に対し,前記(2)の提出様式中の第5及び第6段階の記載に関し,合計所得金額が200万円未満の所得段階の人数を第5段階に,200万円以上の所得段階の人数を第6段階に記載するよう指示する電子メールを送信し,国の定める分類よりも細分化している市町村(和泉市もこれに含まれる。)は,国の分類に基づく数値を報告するよう注意喚起する旨のメールを送信した(甲5)。
(4)ア

補助参加人Bは,平成21年4月に和泉市高齢介護室(以下「市高齢
介護室」という。)の介護保険グループ主査となったものであり,前記(1)の報告事務を行うのは本件報告が初めてであった(丙1,5,証人A)。

補助参加人Aは,本件報告に当たって,数値の転記ミスがないか等は点検したものの,第1号被保険者数の第5分類と第6分類への入力内容が適切であるか否かについては点検しなかった(証人A)。

(5)

府介護支援課は,平成22年1月22日,府内の各市町村及び広域連合
の財政調整交付金担当者に対し,前記(1)の報告内容について,報告期限を同月27日として,訂正の有無を確認して報告するよう依頼した。同文書には,今回確認した結果が最終報告となり,期限後の修正報告は一切受け付けることができない旨記載されており,厚生労働省作成に係る前年度比較表などが添付されていた。前年度比較表の和泉市の欄には,平成21年度と平成20年度とを比較すると,第5段階の人数が3467名減少している一方,第6段階の人数は4069名増加している旨記載されていた(甲6)。(6)ア

和泉市は,同月25日頃,府に対し,前記(5)の確認依頼につき,修正
がない旨報告した(甲23,丙2,証人A)。


補助参加人Aは,修正がない旨の報告について決裁を行う際,前記前年度比較表を確認しなかった(証人A)。

(7)

府介護支援課は,平成22年2月17日,府内の各市町村及び広域連合
の財政調整交付金担当者に対し,前記(1)の報告内容について,同日中に再度訂正の有無を確認し,訂正がある場合には報告するよう依頼した。依頼文書中には,訂正を反映する措置は本年度に限ってのものである旨記載されていた(甲6,乙7)。
(8)

府介護支援課は,同月23日,府内の各市町村及び広域連合の財政調整
交付金担当者に対し,前記(1)の報告内容について,第1号被保険者数の第5段階及び第6段階の記載に誤りがある事例があったとして,再度確認して,誤りがあった場合には報告するよう依頼した(甲7)。
補助参加人Bは,同日,本件報告の誤りに気付き,直ちに大阪府に対してその旨報告した(丙1,2)。
(9)

府介護支援課の課長及び大阪市介護保険担当課長は,同月24日,厚生
労働省介護保険計画課に対して善処を依頼したが,厚生労働省の担当者は,平成21年度での再算定はできない,平成22年度の交付金での調整についても現行の仕組みでは無理であると回答した(甲7,8,11)。(10)ア

大阪府は,同月23日,第1号被保険者数を誤って報告した府内10
市町が正しい報告をした場合の平成21年度普通調整交付金の金額を平成22年2月22日付け老発0222第1号厚生労働省老健局長通知(乙8)に基づき算定した。上記算定では,和泉市において,正しい数値を報告していた場合の交付額は2億3892万3000円であり,本件報告に基づく交付金額との差額は5200万5000円であった(甲19,乙10)。

国が交付する平成22年度特別調整交付金額の基準となる特別追加所要額の算定に当たっては,上記局長通知に基づき行うこととされ(甲9),
和泉市に対しては,上記5200万5000円の7割相当額である3640万4000円(500円以上の端数は1000円に切り上げ。介護保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令9条)が交付された。
(11)ア

市高齢介護室は,平成21年当時,介護保険担当と高齢支援担当の2
課体制であり,介護保険の担当職員は,室長である補助参加人A,室主幹1名,介護保険グループ担当主査である補助参加人B,同グループ係員4名,認定審査グループ担当主査1名,同グループ係員3名,非常勤職員2名,臨時職員3名の合計16名であり,高齢支援の担当職員は合計12名であった(丙1)。

市高齢介護室には,補助参加人らを含む7名に専用のパソコン各1台が付与され,その他に室内の職員であれば誰でも操作することができる室専用のパソコンが2台設置されていた(丙1)。


市高齢介護室宛てに送信された電子メールは,室にある9台のパソコンのどれからでも開封及び閲覧することができた(丙1)。


市高齢介護室においては,和泉市役所内の各部局や,大阪府その他外部の関係諸団体等から市高齢介護室宛てに電子メールが送信された場合には,2台の室専用のパソコンのみを使って開封すること及び開封した職員が当該メールに係る事務の担当職員でない場合は,必ず担当職員に当該メールの内容を伝達することが申合せ事項とされていた(丙1,証人A)。
(12)

和泉市においては,調整交付金算定のための諸係数の報告に関し,その
注意点やマニュアルといったものを独自に作成しておらず,府から提供される資料や府の指導に依拠して事務処理を行っていた(証人A)。
2
争点1(本案前の主張)について
(1)

地方公共団体が第三者に対して有する不法行為に基づく損害賠償債権は
地方公共団体の財産であり(地方自治法237条1項,240条1項),その行使を怠っている場合には,財産の管理を怠るものとして(同法242条
1項),怠る事実に係る相手方に損害賠償の請求をすることを求める住民訴訟を提起することが可能である(同法242条の2第1項4号)。そして当該訴訟において追及する相手方や債権の発生原因である不法行為の内容については,何ら限定はないと解される。
そうすると,地方公共団体に対して不法行為責任を負う相手方が当該地方公共団体の職員である場合にも,不法行為の内容を問わず,住民訴訟の対象とすることができると解すべきである。
(2)

これに対し,被告は,地方自治法242条の2第1項4号に基づき損害
賠償請求をすることを求めることができるのは,当該職員が財務会計行為について損害賠償責任を負う場合に限られると解すべきであると主張する。しかし,不法行為の主体が当該地方公共団体の職員であるからといって,住民訴訟の対象をその損害賠償債権の発生原因となった行為が財務会計行為である場合に限る理由はない。被告の上記主張は,違法な財務会計行為に基づく当該職員に対する請求と怠る事実に係る相手方に対する請求を混同するものであって,採用できない。
(3)

本件は,地方公共団体の職員である補助参加人らを,不法行為に基づく
損害賠償債権の管理を怠る事実に係る相手方として,提起されたものであり,適法な住民訴訟である。
3
争点2(補助参加人Bの過失又は重過失の有無)について
(1)

被告は,地方自治法243条の2が適用されない職員についても,同条
に準じ,又は国家賠償法1条2項を類推適用して,職員が責任を負う場合を故意又は重過失がある場合に限るべきであると主張する。
しかしながら,地方自治法243条の2が適用される職員について責任を負う場合を限定する趣旨は,同条所定の事務を行う職員については,その職務の特殊性に鑑み,職務を行うに当たり萎縮し消極的となることなく,積極的に職務を遂行することができるよう特に配慮することにあると解される。
そうすると,同条が適用されない職員については,軽過失がある場合に免責されると解することは相当ではなく,原則どおり民法の規定が適用されると解すべきである。また,国家賠償法1条2項は,公務員の第三者に対する加害行為について,国又は公共団体が賠償をした場合の求償権について民法の特則を定めたものであるから,地方公共団体の職員が自己の所属する地方公共団体に対して損害賠償責任を負う場合にこれが類推適用されると解すことはできない。
よって,地方自治法243条の2が適用されない職員は,民法に従い,軽過失があるにとどまる場合であっても,不法行為責任を負うと解するのが相当である。
(2)

そこで検討するに,前記認定事実によれば,補助参加人Bは,本件報告
において,第1号被保険者数の記載を誤ったものであるところ,国の分類基準に基づいて報告すべきことは,国からの交付金を算定するための資料を提供するという本件報告の目的に照らして自明のことであるばかりか,報告書の提出様式にも注意事項として「(4)所得段階別第1号被保険者数の考え方については,次によること。(別紙の厚生労働省事務連絡より)・平成21年4月1日(賦課期日)における標準的な所得段階(6区分)別の第1号被保険者数を記入すること。」という記載があり,国の分類基準に基づいて報告すべきことが明示されていることに加え,和泉市においては,平成21年度から第1号被保険者の所得段階を細分化し,国の分類基準と異なる段階を採用したのであり,分類基準を細分化して以降最初の報告であったのであるから,国の分類基準と市の分類基準との対応関係に特に注意すべきであったといえる。
これらの事情に照らすと,補助参加人Bは,報告内容が正確なものとなっているかについて十分な注意を払わなかったため,本件報告において,第1号被保険者数の記載を誤ったものであるといわざるを得ない。

さらに,府介護支援課から平成22年1月22日に送信されたメールに添付されていた前年度比較表には,和泉市において,平成21年度の第1号被保険者数が,平成20年度と比較して第5段階の人数が3467名減少していた一方,第6段階の人数は4069名増加している旨記載されていたのであり,第1号被保険者数の所得分布がこれだけ変化するのは不自然であり,その原因を検討すれば,本件報告の誤りに気付くことも十分可能であったにもかかわらず,誤りに気付くことはなかったというのである。
以上によれば,補助参加人Bには,本件報告の誤りについて過失があるといわざるを得ない。
(3)

これに対し,被告は,本件報告に当たっては大阪府からの資料等に全面
的に依拠しており,大阪府の資料に誤りがあったことが原因であるから過失がないなどと主張する。しかし,そもそも市の責任において行うべき事務について,府に全面的に依拠してきたことは免責の理由たり得ない上,府の資料についても,「第6段階以上」と記載されていたことから,誤りを誘発しやすい不適切な記載があったとはいえるものの,上記の事情に照らすと,不適切な点に気付くことなく誤った報告をしてしまったことがやむを得ないとは到底いえない。被告の主張は,採用することができない。
4
争点3(補助参加人Aの過失又は重過失の有無)について
(1)

補助参加人Bについて判断したのと同様,補助参加人Aについても,軽
過失があるにとどまる場合にも不法行為責任を負うと解するのが相当である。(2)

上記認定事実によれば,補助参加人Aは,本件報告についての専決権者
であり,補助参加人Bの報告内容が適切であるかについて点検した上で決裁をすべき立場にあったと認められる。そして,大阪府から第1号被保険者数について誤りが散見されている旨注意喚起されており,和泉市において分類基準を細分化して以降最初の報告であったのであるから,補助参加人Aは,所得段階別の入力が適切にされているかを点検すべきであり,また,前年度
比較表を見て再点検をすべき注意義務があったというべきである。そうであるところ,補助参加人Aは,国の分類基準と和泉市の分類基準との対応関係が適切なものであるか否かを点検しなかった上,前年度比較表を見ていないというのである。そうすると,補助参加人Aは,漫然と本件報告の誤りを見逃したものといわざるを得ず,見落としたことについて過失があるといわざるを得ない。
(3)

これに対し,被告は,補助参加人Bについてと同様,大阪府からの資料
に誤りがあったことが誤報告の原因と主張するが,争点2に対する判断と同様,補助参加人Aの過失を否定することはできない。被告の主張は,採用することができない。
5
争点4(損害発生の有無及びその数額)について
(1)

上記認定事実によれば,和泉市は,本件報告に誤りがあったことによっ
て,1億8691万8000円の普通調整交付金と,3640万4000円の特別調整交付金の合計2億2332万2000円の調整交付金の支給を受けたにとどまったことが認められる。一方,和泉市が当初から正しい報告をしていた場合,大阪府の試算のとおり,仮に大阪府の10市町村が正しい報告をしたとすれば,少なくとも2億3892万3000円の普通調整交付金を受け取ることができたと認められる。当初から和泉市及びその他の市町村が正しい報告をした場合,調整率等の数値が異なる可能性はあるものの,その値は明らかではなく,国が特別調整交付金額の基準となる特別追加所要額の算定に当たって,上記大阪府の試算と同じく,平成22年2月22日付け厚生労働省老健局長通知(乙8)の調整率等によっていたことからしても,上記大阪府の試算による普通調整交付金を取得できたものと認めるのが相当であり,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると,和泉市は,少なくとも2億3892万3000円の交付金を受け取ることができたのであるから,これと実際に受領した2億2332万
2000円との差額である1560万1000円の損害を被ったと認められる。
(2)ア

これに対し,被告は,調整交付金を受領できないことが確定していな
いので,損害が発生していないと主張する。
しかしながら,補助参加人らが当初の報告期限に正しい数値を報告していれば,和泉市は少なくとも2億3892万3000円の調整交付金を平成22年4月7日頃までに受け取ることができたと認められるのであり,同日に交付を受けた普通調整交付金の金額がそれよりも下回ったことをもって,既に損害が発生したものと認められるのであって,被告の主張は採用できない。なお,その後の特別調整交付金の交付は,上記のとおり,当初の普通調整交付金の不足額をもって損害が発生したと認められることから,いわば損害の一部回復と評価すべきものである。

また,被告は,調整交付金の受領額が少ない金額となったのは,正しい金額に基づく交付が可能であるにもかかわらず,国が不当な対応をし,和泉市において妥協をしたためであるとして,補助参加人らの行為と損害との間には因果関係がないとも主張する。
しかし,国は,全国の市町村等から第1号被保険者数等の報告を求め,その年齢階級別の分布状況や所得の分布状況等を考慮して,調整交付金の金額を定める必要があり,一市町村の報告の誤りが全体の調整交付金の金額に影響を与えるものであることに照らすと,一定の報告期限を定め,その後の修正を認めないとすることも合理性が認められる。そして,期限後の修正を認めないことが各市町村等に対して事前に繰り返し周知されていたことも考慮すると,国が正しい数値に基づく調整交付金の再算定を拒否したことは,因果関係を切断する事情には当たらないというべきである。よって,被告の主張は,採用することができない。

6
争点5(過失相殺の適否)について

(1)

まず,被告は,損害が発生したのは和泉市が妥協策を取り決めたことに
よるものであると主張するけれども,前記のとおり,補助参加人らが誤った報告をしたことによって,正しい数値を報告した場合に比べて普通調整交付金の交付額が少額となったことによって損害が発生しているのであって,和泉市の誤報告判明後の対応が損害発生ないし拡大に寄与したとは認められない。
また,本件報告の誤りに気付いた後に,損害の回復を図ろうとして和泉市が行った行為に,過失があるということはできない。
(2)

次に,被告は,本来であれば国が正しい数値に基づいて調整交付金を和
泉市に対して交付すべきものであって,厚生労働省は,和泉市の損害発生を防止する措置をなし得る立場にあり,しかも措置をしないことに正当な理由がないとも主張する。しかし,国ないし厚生労働省と被告とが社会通念に照らして一体であるとはいえないから,国ないし厚生労働省の行為をいわゆる被害者側の過失として捉えて過失相殺の事由とすることはできない。(3)

また,被告は,和泉市高齢介護室においては,同室宛ての電子メールは,
室専用の2台のパソコンにおいて開封すること及び当該メールを開封した者がその事務の担当者でない場合には,開封した者が担当の職員に対しメールの存在及び内容を伝達することが申合せとして定められていたにもかかわらず,大阪府からの注意喚起のメールを開封した職員が補助参加人A又は補助参加人Bに伝達することを怠ったことをもって,過失相殺をすべきと主張する。
しかしながら,補助参加人らが上記メールに目を通したにもかかわらず本件報告の誤りに気付かなかった可能性も否定できず,補助参加人ら以外の職員が当該メールを開封し,補助参加人らへの伝達を怠ったことを認めるに足りる証拠はない。
(4)

補助参加人らは,和泉市における本件報告の事務処理体制に不備があっ
たと主張する。
上記認定事実によれば,和泉市だけでなく,大阪府の10市町が和泉市と同じく誤った報告を行っており,大阪府の提出様式が紛らわしいものであり,そのことも,補助参加人らが本件報告において事務処理を誤った一因であるといえるところ,和泉市においては,大阪府からの資料や指示に依拠して職員に事務処理を行わせており,上記以外に独自に過誤防止のための措置を講じていなかったと認められる。
そうであれば,本件報告の誤りについて,補助参加人らにその責任があるとしても,大阪府からの指示等に従うだけで他に過誤防止のための措置を何ら講じていなかった和泉市が,補助参加人らに対し,その損害全額の支払を請求することは,公平を失するものがあるといわざるを得ない。損害の公平な分担の観点からは,府からの指示に不適切な点があり,和泉市においてもその指示に従った事務処理をさせていたことを捉えて,被害者側の過失と評価して過失相殺の規定を類推適用すべきである。そして,上記に認定した諸事情に照らすと,和泉市に生じた損害の3割を減額することが相当である。そうすると,上記減額後の損害額は,1092万0700円となる。(5)

したがって,争点5に関する被告(補助参加人ら)の主張は,上記の限
度で理由がある。
7
結論
以上によれば,原告の請求は,主文記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

栢田野明内謙志分宏和
トップに戻る

saiban.in