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住居侵入、強盗強姦未遂、強盗致傷、強盗強姦、監禁、窃盗、窃盗未遂、強盗殺人、建造物侵入、現住建造物等放火、死体損壊被告事件
事件番号平成25(あ)1729
事件名住居侵入,強盗強姦未遂,強盗致傷,強盗強姦,監禁,窃盗,窃盗未遂,強盗殺人,建造物侵入,現住建造物等放火,死体損壊被告事件
裁判年月日平成27年2月3日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別決定
結果棄却
判例集等巻・号・頁刑集 第69巻1号99頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成23(う)1947
原審裁判年月日平成25年10月8日
判示事項被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の量刑が維持された事例
裁判要旨女性1名を殺害するなどした住居侵入,強盗殺人,建造物侵入,現住建造物等放火,死体損壊等のほか,その前後約2か月間に繰り返された強盗致傷,強盗強姦等の事案において,女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,また,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界があるのに,同女に係る事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等を強調して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役に処したものと解される原判決の刑の量定は,甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。
(補足意見がある。)
参照法条刑訴法381条,刑訴法397条1項,刑訴法411条2号
裁判日:西暦2015-02-03
情報公開日2017-10-17 13:51:04
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平成25年(あ)第1729号

住居侵入強盗強姦未遂,強盗致傷,強盗

姦,監禁窃盗窃盗未遂,強盗殺人建造物侵入,現住建造物等放火死体損壊被告事件
平成27年2月3日

第二小法廷決定

主文
本件各上告を棄却する
理由
検察官の上告趣意のうち,控訴審における審査の在り方に関する判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,判例違反をいう点を含め,実質は量刑不当の主張であり,弁護人遠藤直也,同村井宏彰の上告趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。検察官の所論に鑑み,本件量刑について,職権により判断する。
第1
1
事案の概要等
本件犯罪事実の要旨は,以下のとおりであり,全て被告人の単独犯として認
定されている。
(1)

(ア)

平成21年10月20日夜頃から翌21日未明頃までの間に,千葉
県松戸市内のマンションの当時21歳の女性方居室に侵入した上,帰宅した同女に対し,金品強取の目的で,同所にあった包丁を突き付け,両手首を緊縛するなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,金品を強取するとともに,殺意をもって,同女の左胸部を同包丁で3回突き刺すなどし,同女を左胸部損傷による出血性ショックにより死亡させて殺害し,(イ)

同月21日,合計3回にわたり,強取に係る
キャッシュカード等を使用した現金窃盗に及ぼうとし,うち1回は既遂,その余の2回は未遂に終わり,(ウ)

翌22日,15名が現に住居に使用する前記マンショ

ンに放火し,前記(ア)の女性の死体を焼損するなどして強盗殺人の犯跡を隠蔽しようと企て,前記居室内に侵入した上,死体付近に置かれた衣類等にライターで火を放ち,前記マンションの前記居室内を焼損するとともに,同女の死体を焼損した(以下これらを総称して松戸事件という。)。
(2)

松戸事件の前後約2か月間に,(ア)

んだもの3件,(イ)

民家等への住居侵入の上,窃盗に及

民家への住居侵入の上,当時76歳の女性に対して全治約3

週間を要し後遺症が残る傷害を負わせた強盗致傷,(ウ)

民家への住居侵入の上,

当時61歳の女性に対して全治約8週間を要し後遺症が残る傷害を負わせた強盗致傷,帰宅した当時31歳の女性に対して全治約2週間を要する傷害を負わせた強盗強姦監禁,さらに,強取に係るキャッシュカード等を使用した現金窃盗,(エ)当時22歳の女性に対して全治約2週間を要する傷害を負わせた強盗致傷,及び(オ)

民家への住居侵入の上でした当時30歳の女性に対する強盗強姦未遂の各犯
行に及んだ。
2
第1審判決が死刑を選択した量刑理由の要旨

本件を裁判員の参加する合議体で取り扱った第1審判決は被告人を死刑に処したが,その理由の要旨は,以下のとおりである。
すなわち,(ア)

松戸事件は,殺意が極めて強固で,殺害態様も執ようで冷酷非

情であり,放火も類焼の危険性が高い悪質な犯行であり,その結果が重大である。(イ)松戸事件以外の犯行も重大かつ悪質なものであり,殊に前記1(2)(イ)ないし(オ)の各犯行は,生命身体に重篤な危害を及ぼしかねず,被害者らが受けた被害も深刻である。(ウ)
累犯前科や同種前科の存在にもかかわらず,直近の服役を終え

て出所後3か月足らずの間に本件各犯行に及んだことは強い非難に値し,一連の犯行を短期間に反復累行した被告人の反社会的な性格傾向は顕著で根深い。(エ)

戸事件では殺害された被害者が1人であり,その殺害自体に計画性は認められないが,これらの点も,短期間のうちに重大事件を複数回犯しており,被告人の性格傾向にも鑑みると被害者の対応いかんによってはその生命身体に重篤な危害が及ぶ危険性がどの事件でもあったという事情を考慮すると,死刑回避の決定的事情とはいえない。(オ)被告人が反省を深めているとはいえず,更生可能性が乏しいといわざるを得ず,被害者らの処罰感情が極めて厳しい。以上のような事情に鑑みると,被告人の刑事責任は誠に重く,死刑をもって臨むのが相当である。
3
原判決が第1審判決を破棄して無期懲役に処した理由の要旨

原判決は,第1審判決を破棄し,被告人を無期懲役に処したが,その理由の要旨は,以下のとおりである。
すなわち,死刑は,窮極の峻厳な刑であり,慎重に適用すべきであることはいうまでもない。最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁(以下昭和58年判決という。)に示された死刑選択の際の考慮要素につき検討すると,松戸事件における被害女性の殺害行為は,いかなる意味においても計画的なものであるということはできない。松戸事件以外の事件は,人の生命を奪って自己の利欲等の目的を達成しようとした犯行ではなく,その重大悪質な犯情や行為の危険性をいかに重視したとしても,各事件の法定刑からして死刑の選択はあり得ない。前科を見ても,殺意を伴うものはなく,松戸事件のように人の生命を奪おうとまでした事件ではない。前記2(イ)(ウ)の事情中に死刑を選択すべき特段の要素は見当たらない。そして,殺害された被害者が1名の強盗殺人の事案において,その殺害行為に計画性がない場合には死刑は選択されないという先例の傾向がみられるところ,このような先例の傾向がある場合に,その傾向と異なる判断をするときには,死刑は慎重に適用すべきであるという観点からも,その合理的かつ説得力のある理由が示される必要がある。しかし,前記2(イ)(ウ)の事情があることを理由として,その傾向に沿った判断を排した上で死刑を選択し得るとすることは,合理的かつ説得力のある理由を示したものとは言い難い。松戸事件前後の強盗致傷,強盗強姦等の事件の犯情が重大,悪質,かつ危険であることなどを併せ考慮し,更に一般情状を十分に斟酌しても,本件で死刑を選択することが真にやむを得ないものとはいえず,第1審判決には,無期懲役と死刑という質的に異なる刑の選択に誤りがある。
第2
1
当裁判所の判断
被告人の量刑判断の中心となる松戸事件は,殺害の態様が被害女性の胸部を
包丁でほぼ続けざまに2回突き刺し,更に同女が死亡する直前又は直後に首を包丁で2回傷つけ,胸部を1回突き刺すというものであって,執ようかつ冷酷非情で強固な殺意に基づく犯行である。被害女性の死体を焼損して犯跡を隠蔽することを企て,マンションの被害女性方居室に放火した点も危険性が高く悪質である。松戸事件以外の犯行も重大,悪質なものであり,殊に前記第1の1(2)(イ)ないし(オ)の各犯行は,生命身体に重篤な危害を及ぼしかねず,被害者らが受けた被害も深刻である。被告人は,累犯前科のみならず,強盗致傷,強盗強姦の同種前科があるにもかかわらず,直近の服役を終えてから3か月足らずの間に本件各犯行に及んだ。松戸事件の被害女性の遺族及び松戸事件以外の事件の被害者らの処罰感情が極めて厳しいこと,被告人が反省を深めているとはいえないことも指摘できる。被告人の刑事責任は誠に重いというほかない。
2
しかしながら,刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の
法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。もとより,量刑に当たり考慮すべき情状やその重みは事案ごとに異なるから,先例との詳細な事例比較を行うことは意味がないし,相当でもない。しかし,前記のとおり,死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点からすると,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討しておくこと,また,評議に際しては,その検討結果を裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠である。このことは,裁判官のみで構成される合議体によって行われる裁判であろうと,裁判員の参加する合議体によって行われる裁判であろうと,変わるものではない。
そして,評議の中では,前記のような裁判例の集積から見いだされる考慮要素として,犯行の罪質,動機,計画性,態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等が取り上げられることとなろうが,結論を出すに当たっては,各要素に与えられた重みの程度・根拠を踏まえて,総合的な評価を行い,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて,前記の慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点をも踏まえて議論を深める必要がある。
その上で,死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があり,控訴審は,第1審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきである。3
このような観点から第1審判決をみると,第1審判決は,前記1と同旨の事
情を挙げており,その認定自体に誤りがあるとはいえない。また,殺害された被害者が1名の事案においても,死刑の選択がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない。しかしながら,第1審判決が死刑を選択した判断の根拠については,次のような疑問がある。
すなわち,殺害された被害者が1名の強盗殺人の事案において,自己の利欲等を満たす目的で人の生命を奪うことを当初から計画していなかった場合には,死刑でなく無期懲役が選択されたものが相当数見られる。これは,早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し,これに沿って準備を整えて実行した場合には,生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく,行為に対する非難が高まるといえるのに対し,かかる計画性があったといえなければ,これらの観点からの非難が一定程度弱まるといわざるを得ないからである。したがって,松戸事件が被害女性の殺害を計画的に実行したとは認められない事案であることは看過できない。また,殺害直前の経緯や殺害の動機を具体的に確定できない以上,その殺害態様の悪質性を量刑上重くみることにも限界があるといわざるを得ない。第1審判決は,その他の事情として,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,被告人の反社会的な性格傾向が顕著で根深いことを指摘するけれども,松戸事件以外の事件については,いずれも人の生命を奪おうとした犯行ではないこと,犯罪行為に相応しい責任の程度を中心としてされるべき量刑判断の中では,被告人の反社会的な性格傾向といった一般情状は,二次的な考慮要素と位置付けざるを得ないこと,被告人の前科にしても,人の生命を奪おうとまでした事犯はなく,無期懲役やこれに準ずる長期の有期懲役に処されたものもないことからすれば,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等をいかに重視しても,これらを死刑の選択を根拠付ける事情とすることは困難である。
以上のとおり,松戸事件が被害女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界がある事案であるのに,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等を強調して死刑を言い渡した第1審判決は,本件において,死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとはいえない。第1審判決を破棄して無期懲役に処した原判決は,第1審判決の前記判断が合理的ではなく,本件では,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断したものと解されるのであって,その結論は当審も是認することができる。したがって,原判決の刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に関連して,以下のとおり補足して私見を述べておきたい。1
まず,裁判員制度の趣旨と控訴審の役割について,次の点が指摘できよう。
本件は,第1審の裁判員裁判で死刑が宣告されたが,控訴審でそれが破棄され無期懲役とされた事件であり,これについては,裁判員裁判は刑事裁判に国民の良識を反映させるという趣旨で導入されたはずであるのに,それが控訴審の職業裁判官の判断のみによって変更されるのであれば裁判員裁判導入の意味がないのではないかとの批判もあり得るところである。
裁判員制度は,刑事裁判に国民が参加し,その良識を反映させることにより,裁判に対する国民の理解と信頼を深めることを目的とした制度である(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下裁判員法という。)第1条参照)。そして,死刑事件を裁判員制度の対象とすることに関しては,反対する意見も存するところであるが,死刑という究極の刑罰に対する国民の意見・感覚は多様であり,その適用が問題となる重大事件について国民の参加を得て判断することにより,国民の理解を深め,刑事司法の民主的基盤をより強固なものとすることができるのであって,国民の司法参加の意味・価値が発揮される場面でもある。
ところで,裁判員法の制定に当たり,上訴制度については,事実認定についても量刑についても,従来の制度に全く変更は加えられておらず,裁判員が加わった裁判であっても職業裁判官のみで構成される控訴審の審査を受け,破棄されることがあるというのが,我が国が採用した刑事裁判における国民参加の形態である。すなわち,立法者は,裁判員が参加した裁判であっても,それを常に正当で誤りがないものとすることはせず,事実誤認や量刑不当があれば,職業裁判官のみで構成される上訴審においてこれを破棄することを認めるという制度を選択したのである。その点については,米国の陪審制度の多くは事実認定についての上訴を認めないという形での国民参加の形態を持っているが,これとは異なるものである。もっとも,国民参加の趣旨に鑑みると,控訴審は,第1審の認定,判断の当否を審査する事後審としての役割をより徹底させ,破棄事由の審査基準は,事実誤認であれば論理則,経験則違反といったものに限定されるというべきであり,量刑不当については,国民の良識を反映させた裁判員裁判が職業裁判官の専門家としての感覚とは異なるとの理由から安易に変更されてはならないというべきである。そうすると,裁判員制度は,このような形で,国民の視点や感覚と法曹の専門性とが交流をすることによって,相互の理解を深め,それぞれが刺激し合って,それぞれの長所が生かされるような刑事裁判を目指すものであり(最高裁平成22年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・刑集65巻8号1285頁参照),私は,このような国民の司法参加を積み重ねることによって,長期的な視点から見て国民の良識を反映した実りある刑事裁判が実現されていくと信じるものである。
2
次に,本件で争点となった死刑という量刑の選択の問題については,次のよ
うに考える。死刑は,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳でやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,その適用は,慎重にかつ公平性の確保にも十分に意を払わなければならないのである。法廷意見は,死刑の選択が問題となり得る事案においては,その適用に慎重さと公平性が求められるものであることを前提に,これまでの裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討し,その検討結果を評議に当たっての裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠であるとしている。その意味するところは次のようなことであろう。すなわち,殺人という犯罪行為の特質やそれに対する死刑という刑罰の本質を見ると,圧倒的に重要な保護法益である生命を奪う殺人という犯罪行為に対する量刑上の評価としては,まず被害者の数が注目されるべきであり,死刑の選択上考慮されるべき重要な要素であることは疑いない(もっとも被害者の数を死刑選択の絶対的な基準のように捉えることは適切ではなく,最終的には他の要素との総合考慮によるべきものであることには注意が必要であろう。)。そのほか,生命という保護法益侵害行為の目的(動機)は,一般に,行為に対する非難の程度に関わるものであり,犯行の計画性は,生命侵害の危険性の度合いに直結するものであり,侵害の態様(執よう性・残虐性)等も究極の刑罰の選択を余儀なくさせるか否かの要素となることは,いずれも,これまでの裁判例が示してきたところである。さらに,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等も取り上げられ得る要素である。これらの各要素をどの程度重要なものとして捉えるかは,殺人という犯罪行為の特質や死刑という刑罰の本質という刑事司法制度の根本に関係するすぐれて司法的な判断・考察と密接に関係するものであり,これまでの長年積み上げられてきた裁判例の集積の中から自ずとうかがわれるところである。裁判官に求められるのは,従前の裁判官による先例から量刑傾向ないし裁判官の量刑相場的なものを念頭に置いて方程式を作り出し,これをそのまま当てはめて結論を導き出すことではなく,裁判例の集積の中からうかがわれるこれらの考慮要素に与えられた重みの程度・根拠についての検討結果を,具体的事件の量刑を決める際の前提となる共通認識とし,それを出発点として評議を進めるべきであるということである。このように,法廷意見は,死刑の選択が問題になった裁判例の集積の中に見いだされるいわば量刑判断の本質を,裁判体全体の共通認識とした上で評議を進めることを求めているのであって,決して従前の裁判例を墨守するべきであるとしているのではないのである。
このことは,裁判員が加わる合議体であっても裁判官のみで構成される裁判体であっても異なるところはない。
そして,裁判員を含む裁判体は,これらの共通認識を基にした上で,具体的事件で認定された犯罪事実等における前記各考慮要素を検討し,それらの総合考慮により非難可能性の内容・程度を具体的に捉え,結論として死刑か否かを決定するのであり,そこでは正に裁判員の視点と良識,いわゆる健全な市民感覚が生かされる場面であると考える。
3
さらに,次の点を指摘しておきたい。

本件各犯行については,法廷意見が述べるとおり,松戸事件を除けば,その前後の約2か月間に起こした他の女性5名に対する強盗致傷,強盗強姦等では,殺意を伴うものではなく,その犯行の重大悪質性等を重く見ても,死刑の選択を根拠付けるには足りないといえるので,結局,死刑の選択については,松戸事件をどう評価するかに係っている。
松戸事件は,死刑を選択する際の考慮要素の一つである殺害の計画性は認められない点が重要である。また,この事件だけ何故面識のない被害女性に対してこれほどまでの強固な殺意を抱き執ような殺害行為を行ったのかについては,殺害直前の経緯や殺害の動機がどうであったのかが問われるところであり,この点は,松戸事件の非難の程度に直接影響する重要な情状の一つである。しかしながら,本件ではこの点は明らかになっていないといわざるを得ない。そうすると,法廷意見が述べるとおり,死刑の適用には常に慎重さと公平性が求められることからすると,犯行態様が執ようで冷酷非情なものであるとしても,本件における前記の事情からすると,第1審が本件につき死刑の選択がやむを得ないものと認めた判断の根拠は合理的なものとは言い難いところである。
(裁判長裁判官

千葉勝美

裁判官

鬼丸かおる
裁判官

山本庸幸)

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