判例検索β > 平成25年(わ)第736号
監禁、強盗殺人、死体遺棄被告事件
事件番号平成25(わ)736
事件名監禁,強盗殺人,死体遺棄被告事件
裁判年月日平成26年12月2日
法廷名広島地方裁判所
裁判日:西暦2014-12-02
情報公開日2017-10-13 01:34:30
戻る / PDF版
主文
被告人を懲役10年に処する
未決勾留日数中220日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,A,B,C,D,E及びFと共謀の上,
第1

平成25年6月28日午前4時10分頃,広島市a区b町c番d号所在の医院東側駐車場において,同所に駐車中の普通乗用自動車3列目後部座席にGを乗車させ,被告人及び前記6名が前記Gの両脇等に乗車して同車を発進させ,その頃から同日午前5時40分頃までの間,広島県呉市e町所在のHの北東約750メートル付近市道上に至るまで,同人を前記3列目後部座席に乗車させたまま同車を疾走させるなどし,その間,同人が同車内から脱出することを不能にし,もって同人を不法に監禁

第2

同日午前4時10分頃から同日午前5時頃までの間,同県内を走行中の前記自動車内において,前記Gに対し,その顔面及び腹部等を多数回殴打し,その顔面等にたばこの火を数回押し付け,その身体に馬乗りになって押さえ付けるなどの暴行を加え,その後,同人の手提げバッグ内に現金及びキャッシュカードが在中していることを認めるや,前記第1記載の犯行及び前記暴行により反抗を抑圧されている同人から現金等を強取するなどしようと企て,同日午前5時頃,同県内を走行中の同車内において,同人に対し,その身体を押さえ付ける暴行を継続したまま,どうせ死ぬのだから財布などはもういらないだろう,キャッシュカードの暗証番号を言ったら許してやるなどの趣旨の発言をし,キャッシュカードの暗証番号を教えなければ更なる暴行を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人から,同人所有又は管理の現金約4万4000円及び同人名義のキャッシュカード等在中の前記バッグ1個(時価合計不詳)を強取するとともに,同キャッシ
ュカードの暗証番号を聞き出し,同人名義の預金口座から預金の払戻しを受け得る地位を取得し,もって財物を強取するとともに財産上不法の利益を得た上,その頃から同日午前5時40分頃までの間,同県内を走行中の同車内において,同人に対し,その身体を押さえ付ける暴行を継続し,さらに,同日午前5時40分頃,前記第1記載の市道上において,同車から降車させた同人に対し,多数回にわたり,その顔面及び腹部等を拳で殴り,足で蹴るなどの暴行を加え,引き続き,同市道の南方約27メートル付近山道上に同人を連行し,同日午前6時頃,同所において,前記B及び被告人が前記Gを殺害することについて暗黙のうちに意思を通じ,殺意をもって,被告人において前記Bが前記Gの頸部を絞める際に同人の足を押さえ付け,さらに,順次,同人の頸部を両手で強く絞め付け,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し第3

前記第2記載の犯行に引き続き,前記第2記載の山道上において,前記Gの死体を同山道東側斜面に投棄した上,同死体をそのまま放置して立ち去り,もって死体を遺棄し

たものである。
(証拠の標目)

(公訴棄却の主張に対する判断)
弁護人は,本件では①被害者の死亡時期に関する鑑定嘱託書謄本を家庭裁判所に送付しなかった点が少年審判規則8条1項,2項に反し,②当該鑑定書が作成されたのに公訴提起をした点が少年法45条5号ただし書,42条1項に反する違法があり,公訴提起手続が無効であるから,公訴棄却すべきであると主張する。しかしながら,①の点は,鑑定書作成前の嘱託書謄本のみを家庭裁判所に送付しても実体判断に影響しないから,これが違法とはいえないし,②の点は,結局被害者の死亡時期についての検察官による証拠評価を論難するに過ぎないから,
これにより公訴提起手続が違法となる余地はない。弁護人の主張は採用できない。(事実認定の補足説明)
第1

被告人が被害者の足を押さえ付けた行為の有無
被告人は,Bが被害者の首を絞めている際に足を押さえ付けたことはないと主張している。
この点,A及びCは,Bが被害者の首を絞めている際に,被告人が被害者の足を押さえているのを目撃したと供述している。Cについては,Bが被害者の首を絞めている際の被害者の顔の表情について具体的に供述している。Cには被告人に不利な虚偽供述をする動機が認められない。Aと供述が一致している点もその信用性を高める事情である。両者の供述は信用できる。被告人は,前記のとおりこれを否定するが,その記憶が事件当時から連続したものであるかも判然とせず,その供述の信用性は乏しい。
よって,被告人が足を押さえ付けた事実を認めることができる。

第2

被告人が被害者の首を絞めた行為の有無
被告人は,Bが被害者の首を2回絞めた後,被告人自身が首を絞めた事実
はないと主張する。
しかし,被告人が首を絞めたことは,被害者の首の骨を折ったとの被告人自身の事後の発言に符合する。Bは本件後ほどなく警察に出頭しているから,BとAとが被告人が首を絞めたことについて通謀して虚偽供述を行ったとは考えられず,両者の供述の一致はその信用性を相互に高める。Bは捜査段階において被害者の首を絞めたのがCであると供述していた時期があったと認められるが,記憶喚起後は一貫した供述をし,記憶が喚起された時点においても被告人に不利な内容の虚偽供述をする動機が見当たらない。両者の供述は信用できる。
これに対して,被告人は,最後に首を絞めたのはAである旨を供述する。しかしながら,被告人の記憶自体の問題は第1に検討したことと同じである
上,Aが首を絞めたとすると,前記の被告人の事後の発言や,その後のAの発言と符合しない。よって,被告人の供述は信用できない。
したがって,被告人が首を絞める行為があったと認められる。
第3

被害者の死亡時期
弁護人は,被告人が被害者の首を絞めていたとしても,それは被害者の死亡後であると主張する。
この点,Bは,2度目の絞首行為を終えて手を離したときに被害者の胸が上下していた旨を供述している。Bは,馬乗りの状態で被害者の状態を体感したと考えられるから,誤りのおそれは小さい。さらに,B,被告人,Aのいずれもこの段階で,被害者の生存を前提に振る舞い,被告人も実際に絞首行為に出ているということは,被害者がまさに生存していたからと考えるのが自然である。この段階で被害者が死亡していたことをうかがわせる事情も見いだせない。そうすると,被告人による絞首行為の前の時点で被害者が生存していたと認められる。I医師の証言は,上記の認定を排斥するものではない。

第4

被告人の責任能力
弁護人は,被告人が本件犯行当時,広汎性発達障害や解離等の影響によって,心神耗弱であったと主張する。そこで,この点について当裁判所の判断を示す。
被告人の精神鑑定を実施したJ鑑定人及び被告人の主治医であったK医師によれば,被告人は広汎性発達障害をもち,境界知能であったことが認められる。
もっとも,被告人は,fへ向かう道中の高速道路の料金所を通過する際に,他の共犯者に平静を装うよう指示し,Bがカッターナイフで被害者を刺すと言うと,返り血が飛ぶからという理由でこれを制止するなど,状況に応じ目的にかなった言動をしている。被害者を殺害した後は,被害者の遺体を山道
から斜面に投棄し,帰路を事故を起こした道と別の道にするよう提案するなど,自らの行為の違法性も十分に認識している。前記の発達障害等の影響により善悪を判断する能力が著しく減退していたとは認められない。また,J鑑定人によれば,被告人は,幼少期の実父からの被虐待歴により暴力に対して情緒的な拒否反応を起こす力が弱く,これに加えて障害に起因する被告人の他者への共感性が低いことの影響で暴力に対する躊躇がなくなっているというのであるから,行動制御能力への一定の影響は考えられるが,前記の被告人の言動に照らすと,その能力の減退の程度が著しいとは認められない。
他方,K医師は,本件犯行当時被告人が解離状態であり,これが責任能力に影響した可能性を指摘するものの,被告人はBの依頼に応じて被害者の足を押さえ付け,近づく共犯者を制止し,自ら首を絞めるなど,積極的に行動をしており,その他解離の症状であるところの意識が曇るような状態をうかがわせる証拠は存しない。
よって,被告人が,本件犯行当時,善悪を判断し,それに従って行動する能力が著しく減退していなかったものと認めた。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は,刑法60条,220条に,判示第2の所為は,同法60条,240条後段に,判示第3の所為は,同法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪については所定刑中無期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の罪について無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さず,なお平成26年法律第23号附則2条本文により同法による改正前の少年法51条2項を適用して被告人を懲役10年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中220日をその刑に算入することとし,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(家庭裁判所への移送に関する主張に対する判断)
弁護人は,少年法55条により,事件を家庭裁判所に移送すべきであると主張している。この点について,当裁判所の判断を示す。


本件の中核的な犯罪は,強盗殺人事件,すなわち,被告人が,殺意をもって,被害者を殺害した事件である。被告人は殺害場所では,絞首する共犯者のために被害者の足を押さえ付け,共犯者に対して絞首の態様について助言するなどした。その後自ら絞首行為を行い,被害者を絶命させるに至った。


他方で,被告人が本件犯行を決意した背景には,前記の被虐待歴等による影響がある。このような意思決定に対する被虐待歴等の影響の点は被告人に有利に考慮すべきであると判断した。また,本件犯行を主導的に行ったのは共犯者であり,被告人はこれに追従したところがある。



しかしながら,上記⑵で指摘した事情は,前記の本件犯行の悪質性や被告人の果たした役割の大きさを前提にすると,量刑上で考慮されるべきものに含まれるとしても,被告人に対して保護処分を選択することが社会的に許容されるとの評価を導くものとまでは言えない。
よって上記⑴⑵を総合すると,被告人に対して刑罰ではなく保護処分を選択することが社会的に許容されるとはいえないのであり,保護処分を選択することが被告人の改善,更生にとって有効であることの当否を検討する余地はなく,事件を家庭裁判所に移送することはしないと判断した。

(量刑の理由)
被告人らによる犯行のうち被害者殺害にかかる部分の態様及び被告人の関与の程度は(家庭裁判所への移送に関する主張に対する判断)項⑴記載のとおりであり,それに先行して,被害者を監禁して山中に連行した上複数人で暴行を加えた態様もか烈である。被害者の遺体を無造作に投棄した点も量刑上無視できない。その遺族が被告人に対して峻厳な処罰感情を抱いているのも犯行態様の悪質さを示すものである。

他方で,
(家庭裁判所への移送に関する主張に対する判断)項⑵で検討したとおり,死体遺棄の際を除けば,本件一連の犯行を主導していた共犯者に追従して行動していた側面が強く,全体としてみると従属的な立場であったといえる。前記の意思決定に対する被虐待歴等の影響や,被告人の犯意の形成や現実に担った役割の従属性の各点は,いずれも被告人に有利に考慮すべきであるが,酌量減軽を相当とする事情にまではあたらないと判断した。
以上の次第で,本件事案の性質等に照らし,無期懲役刑を選択するが,少年法51条2項を適用して刑を緩和し,その最下限の刑に処するのが相当と考えた。
(検察官の求刑)
懲役10年
(弁護人の意見)
公訴棄却又は家庭裁判所への移送
平成26年12月5日
広島地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

伊藤
裁判官

河村寿宜信細
裁判官

田裕司
トップに戻る

saiban.in