判例検索β > 平成23年(行ウ)第181号
分限免職処分取消等請求事件
事件番号平成23(行ウ)181
事件名分限免職処分取消等請求事件
裁判年月日平成27年3月25日
法廷名大阪地方裁判所
戻る / PDF版
平成27年3月25日判決言渡
平成23年(行ウ)第181号

分限免職処分取消等請求事件

主文
1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
京都社会保険事務局長が平成21年12月25日付けで原告P1,同P2,
同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同P8,同P9及び同P10に対してした各分限免職処分をいずれも取り消す。
2
社会保険庁長官が平成21年12月25日付けで原告P11及び同P12に
対してした各分限免職処分をいずれも取り消す。
3
被告は,原告らに対し,各100万円及びこれに対する平成21年12月3
1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
社会保険庁(以下「社保庁」という。)の職員として,京都社会保険事務局
(以下,地方社会保険事務局を「社保局」という。)又はその管轄区域内の社会保険事務所(以下「社保事務所」という。)において勤務していた原告らは,平成22年1月1日に,日本年金機構法(以下「機構法」という。)に基づき日本年金機構(以下「機構」という。)が設立され,社保庁が廃止されたことに伴い,任命権者(処分権者)である社保庁長官又は京都社保局長(以下「社保庁長官等」という。)により,平成21年12月25日付けで,国家公務員法(以下「国公法」という。)78条4号(「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」)に基づき同月31日限りで分限免職する旨の各処分(以下「本件各処分」といい,各原告に対する処分を「本件処分」ともいう。)を受けた。本件は,原告らが,本件各処分は,国公法78条4号の要件に該当せず,仮に同号の要件に該当するとしても,民間における整理解雇4要件を満たしていないから,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであると主張して,本件各処分(ただし,人事院判定において分限免職処分が取り消された原告P13,同P14及び同P15(以下「原告P13ら3名」という。)に係るものを除く。)の取消しを求めるとともに,社保庁長官等が本件各処分をしたことが国家賠償法(以下「国賠法」という。)上の違法行為に該当すると主張して,被告に対し,同法1条1項に基づき,慰謝料各100万円及びこれに対する違法行為後の日である平成21年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1
関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙2「関係法令の定め」のとおりである。
2
前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

(1)当事者等

原告らの官職
原告らは,本件各処分当時,社保庁職員として,それぞれ下記の官職及
び職務の級(行政職俸給表(一)におけるもの。以下同じ。)にあった。記
原告P1

京都社保局運営課業務管理室年金審査第二係主任,3級

原告P2

京都社保局下京社会保険事務室社会保険徴収専門官,3級

原告P3

舞鶴社保事務所相談専門官,3級

原告P4

舞鶴社保事務所国民年金調査官,3級

原告P13

京都南社保事務所業務課長,4級

原告P11

舞鶴社保事務所総合相談室長,5級

原告P14

京都社保局運営課業務管理室年金審査第一係主任,3級

原告P12

京都南社保事務所総合相談室長,5級原告P5
原告P6

上京社保事務所業務課業務第二係長,3級

原告P15

上京社保事務所業務課長,4級

原告P7

京都社保局総務課社会保険調査官,3級

原告P8

上京社保事務所徴収課長,4級

原告P9

上京社保事務所年金専門官,3級

原告P10

京都社保局運営課業務管理室年金審査第一係主任,3級

上京社保事務所庶務課庶務係長,3級

原告らの任命権者(処分権者)
社保庁は,厚生労働省(以下「厚労省」という。)の外局であり(厚労
省設置法25条1項,国家行政組織法3条),社保庁職員であった原告らの任命権者(処分権者)は社保庁長官であった(国公法55条1項,61条)。
ただし,原告P11及び同P12を除く原告ら13名については,国公法55条2項に基づき,京都社保局長に任命権(処分権)が委任されていた。
(弁論の全趣旨)

原告らの懲戒処分歴
原告らのうち,原告P3,同P4,同P11及び同P9(以下「原告P
3ら4名」という。)には懲戒処分歴がなく,その余の原告P1以下11名(以下「原告P1ら11名」という。)には,次の懲戒処分歴がある。(ア)原告P1(乙B1の2)
原告P1は,平成16年3月に合計3回,業務外の目的で被保険者の情報について閲覧を行ったこと(以下「業務外閲覧」という。)等を理由に,京都社保局長から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(イ)原告P2(甲A214,B2の1,乙B2の2)a

原告P2は,平成12年11月から平成17年1月までの間,社保
庁長官の許可を得ることなく職員団体の業務に専ら従事し給与の支給を受け続けたこと(以下「無許可専従」という。)を理由に,京都社保局長から,平成20年9月3日付けで,国公法82条1項各号に基づき,2か月間俸給の月額の10分の2を減給する懲戒処分を受けた。b
原告P2は,上記懲戒処分の取消訴訟を提起したが,京都地方裁判
所(以下「京都地裁」という。)は,平成23年9月28日,上記懲戒処分は適法であるとして,同原告の請求を棄却する旨の判決をした。原告P2は,同判決に対して控訴及び上告をしたが,いずれも棄却された。
(ウ)原告P13(甲A220,乙B5の2及び7)

原告P13は,P16労働組合(以下「P16」という。)P17
支部の支部長の立場にあった際,原告P2による無許可専従を惹起させたことを理由に,京都社保局長から,平成20年9月3日付けで,国公法82条1項1号に基づき,2か月間俸給の月額の10分の2を減給する懲戒処分を受けた。

原告P13は,上記懲戒処分について審査請求をし,人事院は,平
成23年9月1日,原告P13が原告P2による無許可専従を惹起させた事実を認めるに足りる証拠はないとして,上記懲戒処分を取り消す旨の判定をした。
(エ)原告P14(乙B7の2)
原告P14は,平成16年1月及び同年3月に合計6回の業務外閲覧等を理由に,京都社保局長から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(オ)原告P12(乙B8の2)
原告P12は,自らに交付された業務カード(以下,単に「カード」という。)の管理が不十分であったため(以下「カード管理懈怠」という。),平成16年7月に2回,同カードを使用して他の職員による業務外閲覧が行われたことなどを理由に,社保庁長官から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,1か月間俸給の月額の10分の1を減給する懲戒処分を受けた。
(カ)原告P5(乙B9の2)
原告P5は,カード管理懈怠により,平成16年8月及び同年9月に各1回,同カードを使用して他の職員による業務外閲覧が行われたことなどを理由に,京都社保局長から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,1か月間俸給の月額の10分の1を減給する懲戒処分を受けた。
(キ)原告P6(乙B10の2)
原告P6は,カード管理懈怠により,平成16年4月及び同年10月に合計3回,同カードを使用して他の職員による業務外閲覧が行われたことなどを理由に,
京都社保局長から,
平成17年12月27日付けで,
国公法82条1項1号及び2号に基づき,1か月間俸給の月額の10分の1を減給する懲戒処分を受けた。
(ク)原告P15(乙A96,A100,B11の2)

原告P15は,平成9年11月から平成12年10月までの間の無
許可専従を理由に,
京都社保局長から,
平成21年7月31日付けで,
国公法82条1項各号に基づき,2か月間俸給の月額の10分の2を減給する懲戒処分を受けた。

原告P15は,上記懲戒処分の取消訴訟を提起したが,大阪地方裁
判所は,平成26年2月24日,上記懲戒処分は適法であるとして,同原告の請求を棄却する旨の判決をし,大阪高等裁判所(以下「大阪高裁」という。)は,同年10月1日,原告P15の控訴を棄却する旨の判決をした。(ケ)原告P7(乙B12の2及び8)
原告P7は,平成20年12月の業務外閲覧(ただし,対象は元職員2名)等を理由に,京都社保局長から,平成21年3月11日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。(コ)原告P8(乙B13の2)
原告P8は,平成16年3月に1回の業務外閲覧等を理由に,京都社保局長から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(サ)原告P10(甲B15の15,乙B15の2,原告P10本人)a
原告P10は,カード管理懈怠により,平成16年5月及び同年7
月に各1回,同カードを使用して他の職員による業務外閲覧が行われたことなどを理由に,京都社保局長から,平成17年12月27日付けで,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。

原告P10は,
上記懲戒処分について審査請求をしたが,
人事院は,

平成20年7月29日,同処分を承認する旨の判定をした。
原告P10は,上記懲戒処分の取消訴訟を提起しなかった。
(2)社保庁の廃止に至る経緯等

社保庁においては,平成16年3月,国民年金保険料の未納情報等に関
する個人情報の漏洩が疑われる事例が報道され,これをきっかけに,業務外閲覧をした社保庁職員が多数存在することが判明し,同時期に,業者からの物品の授受等の国家公務員倫理法に違反する行為も判明した。これらの業務外閲覧等については,多数の社保庁職員に対し,懲戒処分又は矯正措置が行われた。(甲A51,A222,乙A1の2,弁論の全趣旨)イ
平成16年8月,内閣官房長官の下に「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」が設置された。平成17年5月に上記有識者会議が取りまとめた「社会保険庁改革の在り方について(最終取りまとめ)」は,公的年金制度の運営と政府管掌健康保険(以下「政管健保」という。)の運営を分離した上で,それぞれ新たな組織を設置し,それぞれの事業の運営を担わせることが適当であるとし,
公的年金の運営主体については,
年金事業に特化した組織とした上で,
徴収を始めとする業務全般について,政府が直接に関与し,明確かつ十全に運営責任を果たす体制を確立することが必要であるとし,政管健保の運営主体については,国とは切り離された全国単位の公法人を保険者として設立して事務を実施させることが適切であるとした。
(なお,以下では,主に公的年金の運営主体について記載するところ,後記(7)のとおり,政管健保については,社保庁の廃止に先立って平成20年10月1日に設立された非公務員型法人である全国健康保険協会
(以下
「協
会」という。)が実施することとなった。)

平成17年6月,厚生労働大臣(以下「厚労大臣」という。)の下に「社
会保険新組織の実現に向けた有識者会議」が設置された。
同年12月に上記有識者会議が取りまとめた「組織改革の在り方について」は,社保庁を廃止して,新組織(国家行政組織法に定める特別の機関)を設立すべきとした。

平成18年3月,厚労省は,社保庁を廃止し,厚労省に特別の機関(職
員は公務員の身分を有する。)として「ねんきん事業機構」を設置することなどを内容とする「ねんきん事業機構法案」を国会に提出した。しかし,上記法案の審議中に,国民年金保険料の不適正免除等が社会問題となり,同年12月,同法案は審議未了のまま廃案となった。

その後,社保庁の改革については,与党年金制度改革協議会(以下「与
党協議会」という。)において議論された。平成18年12月に与党協議会が取りまとめた「社会保険庁改革の推進について」は,社保庁を廃止・解体し,新たな非公務員型の公的新法人を設立すること,年金新法人の発足に当たり,その職員は社保庁を一旦退職した後,第三者機関の厳正な審査を経て再雇用すること,外部からの採用も積極的に行い,これまでの職場体質を一掃することなどの考え方を示した。

平成19年3月,厚労省は,社保庁を廃止して,公的年金業務等を行う
機構を設立することなどを内容とする日本年金機構法案
(以下
「機構法案」
という。)を国会に提出した。
機構法は,同年6月30日に成立し,同年7月6日に公布され,附則の一部の規定を除き,平成22年1月1日から施行された。
(3)機構法における社保庁職員の取扱い

機構法においては,機構の設立時に,社保庁職員が法律上当然に機構職
員となる旨の規定(以下,同様の規定を「職員承継規定」という。)は設けられなかった。
なお,機構職員は,公務員としての身分を有せず(機構法20条),機構は,非公務員型法人である。

機構法においては,政府が,政府管掌年金又は経営管理に関し専門的な
学識又は実践的な能力を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者の意見を聴いた上で(附則3条3項),機構の設立に際して採用する職員の数その他の機構職員の採用についての基本的な事項等について,基本計画を定め(同条1項,2項),厚労大臣が任命する設立委員が,基本計画に基づき,機構職員の労働条件及び採用基準を定めることとされた(附則5条1項,2項)。
そして,設立委員は,社保庁長官を通じ,社保庁職員に対し,機構職員の労働条件及び採用基準を提示して,機構職員の募集を行い,社保庁長官は,機構職員となることに関する社保庁職員の意思を確認し,機構職員となる意思を表示した者の中から,当該採用基準に従い,機構職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して設立委員に提出するものとされた(附則8条1項,2項)。
その上で,上記名簿に記載された社保庁職員のうち,設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって機構法の施行の際現に社保庁職員であるものは,機構の成立の時において,機構職員として採用されることとなった(附則8条3項)。なお,設立委員は,機構職員の採否を決定するに当たっては,人事管理に関し高い識見を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者のうちから厚労大臣の承認を受けて選任する者からなる会議の意見を聴くものとされた(附則8条5項)。
(4)機構職員の採用等に関する議論の経緯

年金業務・組織再生会議での議論
(甲A222,乙A7,A66の1及び2,弁論の全趣旨)

(ア)平成19年8月,機構法附則3条3項に基づき,国・地方行政改革担当大臣の下に,学識経験者から構成される「年金業務・組織再生会議」(以下「再生会議」という。)が設置された。
再生会議における議論の中で,再生会議が社保庁に対して要請した服務違反行為調査により,無許可専従をした職員及びこれに関与した管理職員が相当数存在することが明らかになった。その後,これらの無許可専従をした職員等に対しては懲戒処分がされた。
(イ)平成20年6月に再生会議が取りまとめた「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本的方針について(最終整理)」(以下「最終整理」という。)は,機構に求められる組織体制,業務の外部委託推進についての基本的考え方,職員採用についての基本的考え方及び機構の必要人員数等についての検討結果を示した。(ウ)最終整理は,
公的年金業務への信頼を損ねた職員の取扱いとして,
「過
去に懲戒処分や矯正措置などの処分を受けた者については,その処分を機構の職員としての採否を決定する際の重要な考慮要素とし,処分歴や処分の理由となった行為の性質,処分後の更生状況などをきめ細かく勘案した上で,採否を厳正に判断すべきである」,「特に国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から,懲戒処分を受けた者は機構の正規職員には採用すべきでない」,「懲戒処分を受けた者についても,有期雇用職員として採用することは可能であるが,この場合にあっても,採用基準を定め,審査会における公正かつ厳格な審査を経るべきである」,「有期雇用職員として採用された機構の職員についても,その能力や実績に応じ,本人の希望により,雇用期間満了後に正規職員として採用される道が開かれるべきである。しかし,過去に懲戒処分を受けた者については,機構の有期雇用職員としての採用後,業務に精励し,意欲と能力が実証された場合にあって,正規職員への採用を行おうとするときは,機構において第三者による公正かつ厳格な採用審査を行うべきである」とした。
また,最終整理は,外部人材の積極採用について,業務の円滑な移行のため,機構の業務に必要な知識や経験を有する社保庁職員の活用は必要としても,機構がサービスの質の向上を図りつつ,効率的で公正,透明な業務運営を行える,国民から信頼される組織として再生するため,民間人はもとより,他省庁の職員も含め外部から優れた能力を有する人材を積極的に採用することが必要であるとした上で,機構の必要人員数について,機構の設立時点の人員数を総数1万7830名程度とし,うち1万0880名程度を正規職員,6950名程度(社保庁職員により担われている業務のうち,機構設立後に削減が予定されている業務量におおむね相当する人員数1400名程度を含む。を有期雇用職員とし,)正規職員1万0880名のうち,おおむね1000名程度については,外部から人材を採用することが適当であるとした。
さらに,最終整理は,「機構の設立に際し,機構への採用を希望しても,一定数の社会保険庁の職員は不採用になることが見込まれる。厚生労働省及び任命権者である社会保険庁長官は,退職勧奨,厚生労働省への配置転換など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うべきである。また,官民人材交流センターの活用も図るべきである」とした。イ
政府による基本計画の決定(乙A8)

(ア)平成20年7月29日,政府(内閣)は,機構法附則3条に基づき,再生会議が取りまとめた最終整理を踏まえ,「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」(以下「本件基本計画」という。)を閣議決定した。
本件基本計画は,機構の組織体制,業務の外部委託推進についての基本的考え方,職員採用についての基本的考え方及び機構の必要人員数等を内容とするものであった。
(イ)本件基本計画は,職員採用についての基本的考え方として,「国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から,懲戒処分を受けた者は,機構の正規職員及び有期雇用職員には採用されない」,「機構がサービスの質の向上を図りつつ,効率的で公正,透明な業務運営を行える,国民から『信頼』される組織として再生するため,民間人はもとより,他省庁の職員も含め外部から優れた能力を有する人材を積極的に採用する」とした。
また,本件基本計画は,機構の必要人員数について,機構の設立時点の人員数を総数1万7830名程度とし,うち1万0880名程度を正規職員,6950名程度(社保庁職員により担われている業務のうち,機構設立後に削減が予定されている業務量におおむね相当する人員数1400名程度を含む。)を有期雇用職員とし,正規職員1万0880名のうち,おおむね1000名程度については,外部から人材を採用するが,応募状況等を踏まえ,その採用数の拡大を検討するとした。
さらに,
本件基本計画は,
社保庁職員からの機構職員の採用に当たり,
機構に採用されない職員(以下「不採用職員」という。)については,「退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」とした。
(5)設立委員による採用基準の策定等(乙A9,A10の1)

平成20年11月,
厚労大臣に任命された学識経験者である設立委員は,

日本年金機構設立委員会(以下「設立委員会」という。)を組織した。イ
同年12月22日,設立委員会は,機構法附則5条2項及び8条1項に
基づき,機構職員の労働条件及び採用基準(以下,この採用基準を「本件採用基準」という。)を定めるとともに,社保庁長官に対してこれを提示し,機構職員の募集を行った。

本件採用基準は,社保庁職員からの採用に当たって,「懲戒処分を受け
た者は採用しない。なお,採用内定後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,内定を取り消す。また,採用後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,
機構において,
労働契約を解除する」
とした。
(6)設立委員会による機構職員の採用等

社保庁職員に対する意向調査等

(ア)平成20年10月から同年11月にかけて,社保庁は,厚労省と共同して,社保庁職員全員に対し,厚労省への転任及び機構への採用等の希望を把握するため,職員意向準備調査票(以下「準備調査票」という。)に基づく意向準備調査(以下「本件準備調査」という。)を実施した。(イ)平成20年12月24日,社保庁は,設立委員会から本件採用基準が提示されたことを受け,社保局に対し,同基準を職員全員に配付するよう通知した。
(ウ)平成21年1月,社保庁は,社保庁職員全員に対し,機構及び協会(以下「機構等」という。)への採用並びに厚労省への転任等の希望を確認するため,職員意向調査票(以下「意向調査票」という。)に基づく意向調査(以下「本件意向調査」という。)を実施した。

社保庁長官による名簿提出
平成21年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果及び人事記
録に基づき,機構職員となることを希望した者1万1132名の中から,懲戒処分歴保有者14名を本件採用基準に合致しないとして除外し,機構職員となるべき者1万1118名を選定し,設立委員会に対して名簿を提出した。(甲A194の1,乙A14)

機構職員の採用内定

(ア)平成21年5月19日,設立委員会により選任された学識経験者で組織される日本年金機構職員採用審査会(機構法8条5項。以下「採用審査会」という。)は,上記名簿とともに提出された書類の審査を行った上で,面接をすることが必要と判断した者の面接審査を行い,機構職員としての採否を設立委員会に報告した。
(イ)同日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,上記名簿に登載された者のうち,正規職員として9613名,准職員として358名の採用を内定し,28名を不採用,残りの1119名を保留等(採否の判定を保留する者182名,退職又は退職予定者44名,協会の内定予定者40名,厚労省転任予定者852名,名簿提出後に本件採用基準を満たさなくなった者1名)とした。
(甲A194の1及び2,A196,乙A15)
同年6月25日,社保庁は,設立委員会が上記採用内定をしたことを受け,これを内定を受けた社保庁職員に伝達した。(乙A36の2)なお,准職員とは,社保庁職員により担われている業務のうち,機構設立後に削減が予定されている業務量におおむね相当する人員数1400名程度について,期限を定めて雇用される職員をいい,正規職員と比べると,労働条件の点で,①労働契約の期間について,機構設立当初が1年で,契約更新時には3年以内とされ,契約更新回数が2回を限度とされていること,②異動について,一定地域内に限定され,転居を伴う異動を命じられることはないこと,③管理職への登用について,年金事務所長等の管理職等に登用されることはないこと,④退職手当について,正規職員の50%となることが相違する。(乙A16)
(ウ)同年10月8日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,健康状態を理由として採否を保留していた社保庁職員161名について,正規職員として59名,准職員として78名の採用を内定し,24名を不採用とした。
(エ)同年7月28日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から正規職員として1078名の採用を内定した。
同年10月8日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から准職員の募集に応募した5975名について,准職員として970名の採用を内定した。
同月28日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から,管理職(正規職員)として49名の採用を内定した。

機構職員の追加募集等

(ア)平成21年5月19日,設立委員会は,社保庁長官に対し本件採用基準を示して,准職員の1次追加募集を行った。
同年10月8日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の1次追加募集に応じた160名について,准職員として154名の採用を内定し,6名を不採用とした。(イ)同年12月1日,設立委員会は,社保庁長官に対し本件採用基準を示して,准職員の2次追加募集を行った。
同月17日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の2次追加募集に応じた61名について,准職員として60名の採用を内定し,1名を不採用とした。

設立委員会による機構職員の内定者数
上記の経緯による機構職員の内定者は,合計1万2419名(正規職員
1万0799名及び准職員1620名)であり,そのうち,①社保庁職員からの内定者が1万0322名
(正規職員9672名及び准職員650名)

②外部(民間)からの内定者が2097名(正規職員1127名及び准職員970名)であった。
(7)協会の設立等

政管健保業務の移管
社保庁が行っていた政管健保(健康保険組合の組合員でない被用者の健
康保険)業務については,健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律83号。以下「健康保険法改正法」という。)により,非公務員型法人である協会が設立され,同業務を実施することとなった。

社保庁長官による名簿提出

(ア)協会職員については,厚労大臣が任命した設立委員が提示する採用基準に従って社保庁長官が作成した名簿に記載された社保庁職員から,設立委員が採用することとされた(健康保険法改正法附則15条)。(イ)厚労大臣に任命された設立委員は,全国健康保険協会設立委員会(以下「協会設立委員会」という。)を組織した。
平成19年10月25日,同委員会は,協会職員の労働条件及び採用基準(以下,この採用基準を「協会採用基準」という。)を定め,同基準において,社保庁職員からの職員について,「懲戒処分を受けた者及び社会保険庁の改革に反する行為を行った者については,その内容等を踏まえ,勤務成績及び改悛の情を考慮して,可否を厳正に判断するものとする」とした。
(ウ)協会設立委員会は,協会の必要人員数について約2100名とし,社保庁職員から約1800名,外部(民間)からの採用や民間・国等からの出向により約300名を確保することとした。
(エ)平成20年4月14日,社保庁長官は,社保庁職員全員に対する意向調査において協会を第1希望とした4156名を優先し,協会採用基準に従い,協会の人事方針への賛同の有無,人事評価結果,健康状態,業務経験及び懲戒処分歴に照らし,1800名の名簿を作成して協会設立委員会に提出した。(乙A27の1,A28)
社保庁長官は,上記名簿を作成した際,懲戒処分歴保有者について,懲戒処分の量定と勤務成績に応じて,他の職員よりも一定以上高い水準の評価がされている者を選定し,上記1800名には,減給の懲戒処分歴保有者9名及び戒告の懲戒処分歴保有者62名の合計71名が含まれていた。(乙A27の1)

協会職員の採用内定

(ア)平成20年4月14日,協会設立委員会は,社保庁長官から提出された名簿に記載された1800名全員について採用を内定した。
(イ)平成20年4月3日及び同年9月3日,協会設立委員会は,外部(民間)からの正規職員として,合計271名の採用を内定した。

協会の設立
平成20年10月1日,協会が設立され,上記1800名の社保庁職員
は,社保庁を退職して協会職員となった。

協会職員の追加募集(ア)社保庁が行っていた船員保険業務については,雇用保険法等の一部を改正する法律(平成19年法律30号。以下「雇用保険法改正法」という。)による船員保険法の改正によって,平成22年1月から協会が行うこととなった。
(イ)平成20年12月25日,協会は,機構設立委員会が同月22日に決定した本件採用基準において,懲戒処分を受けた者は採用しないとされたことを踏まえ,協会採用基準における社保庁職員からの採用に関する部分について,「懲戒処分を受けた者は採用しない。なお,採用内定後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,内定を取り消す。採用後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,協会において,労働契約を解除する」と改めた(以下,改正後の協会採用基準を「改正協会採用基準」といい,本件採用基準と併せて「本件各採用基準」という。)。(甲A194の1,乙A33の1)
(ウ)同日,協会は,社保庁長官に対し,改正協会採用基準を示し,約40名の協会職員の募集を行い,平成21年2月16日までに協会職員となる者の名簿を提出するよう求めた。
(エ)平成20年12月26日,社保庁は,協会から改正協会採用基準が提示されたことを受け,社保局に対し,同基準を職員全員に配付するよう通知した。
(オ)平成21年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果及び人事記録に基づき,協会職員となることを希望した者3077名の中から,懲戒処分歴保有者6名を改正協会採用基準に合致しないとして除外し,協会職員となるべき者3071名を選定し,協会に対して名簿を提出した。(甲A194の1,A195,乙A35)
(カ)同年6月25日,社保庁は,協会が上記名簿から45名の採用を内定したことを受け,これを内定を受けた社保庁職員に伝達した。(8)社保庁職員に対する分限免職処分等ア
平成21年12月時点で社保庁職員であった1万2566名のうち,1
万0069名が機構に,45名が協会にそれぞれ採用され,1293名が厚労省及び他府省(以下「厚労省等」という。その内訳は,厚労省に1284名,金融庁に1名及び公正取引委員会(以下「公取委」という。)に8名)に転任し,631名が勧奨により,3名が自己都合によりそれぞれ退職した(以下,勧奨による退職を「勧奨退職」という。)。

その結果,原告らを含む525名については,機構等への採用や厚労省
等への転任がされず,退職勧奨にも応じなかったため,社保庁長官等により国公法78条4号に基づく分限免職処分を受けた。
上記525名のうち,懲戒処分歴のある者は251名で,懲戒処分歴のない者は274名であった。

上記分限免職処分を受けた社保庁職員に対しては,国家公務員退職手当
法5条に基づき,自己都合退職や勤続25年未満の勧奨退職者に比べて割増しされた退職手当が支給された。
なお,上記分限免職処分を受けた525名のうち401名は,退職勧奨を受け入れない理由として,退職手当が割増しされる制度の適用を希望した旨を回答していた。(乙A36の1)
(9)原告らに対する本件各処分等

本件意向調査の結果等

(ア)原告らのうち,懲戒処分歴のない原告P3ら4名は,平成21年1月に実施された本件意向調査において,機構等への採用を希望しなかった。また,原告P3ら4名は,平成21年7月に実施された職員意向追加調査票(以下「追加調査票」という。)に基づく職員意向確認追加調査(以下「本件追加調査」という。)において,機構の准職員の追加募集への応募を希望しなかった。(イ)原告らは,平成21年2月10日から同月16日にかけて,それぞれ1回ずつ10分から15分程度で,厚労省近畿厚生局(以下,単に「近畿厚生局」という。)の面接官による同厚生局への転任面接(以下「本件転任面接」という。)を受けた。
(乙A38,B1の7,B2の7,B3の6,B4の6,B5の8,B6の6,B7の7,B8の6,B9の7,B10の7,B11の7,B12の7,B13の7,B14の6,B15の7,弁論の全趣旨)原告らは,本件転任面接の結果,いずれも近畿厚生局に転任されなかった。

本件各処分
社保庁長官等は,平成21年12月25日付けで,原告らに対し,同月
31日をもって分限免職する旨の本件各処分をした。
機構法の施行により平成21年12月31日をもって社保庁が廃止されたことにより,同法附則73条1項に基づき,本件各処分は厚労大臣がしたものとみなされる。

本件各処分に対する審査請求等
原告ら(原告P14を除く。)は平成22年1月18日に,原告P14
は同年2月25日に,本件各処分の取消しを求めて,人事院に対する審査請求をした。
原告らは,上記審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がないとして,平成22年7月23日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)エ
原告らに対する人事院判定(以下「本件各人事院判定」という。)
(ア)人事院は,平成25年10月9日,原告P1,同P2,同P3,同P4,同P11,同P12,同P5,同P6,同P7,同P8,同P9及び同P10に対し,「分限免職回避に向け,社会保険庁及び厚生労働省は,処分直前まで種々の取組を行ったと認められるが,新規採用を相当数行ったこと,他府省による受入れは,金融庁及び公正取引委員会以外の府省については行われず,同庁及び同委員会による計9人と限定的なものにとどまっていること,暫定定員を活用しなかったこと,各般の取組の開始時期が遅かったこと等,取組には不十分な点も認められ,少なくとも公務部門における受入れを一部増加させる余地はあったと認められる。しかし,その増加は限定的なものであり,そのような状況の下で,請求者については,本件処分を取り消すべき特段の事情は認められず,また,社会保険庁の廃止に伴う同庁に属する職の廃止は,法第78条第4号に規定する官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することから,処分者が,請求者について法第78条第4号に該当するとしたことを違法,不当とすることはできない」との理由で,本件処分を承認する旨の判定をした。
(乙B1の8,B2の8,B3の7,B4の7,B6の7,B8の7,B9の8,B10の8,B12の8,B13の8,B14の7,B15の8)
(イ)人事院は,平成25年10月9日,本件処分後に人事院判定により懲戒処分が取り消された原告P13に対し,「懲戒処分を受けたことを前提に社会保険庁長官により機構職員となるべき者として選定されず,名簿に登載されなかったことにより,機構に採用される機会を失したまま行われた本件処分を維持することは妥当性を欠くことから,本件処分は取り消すことが相当である」との理由で,本件処分を取り消す旨の判定をした。(甲A220,A249)
また,人事院は,平成25年10月9日,原告P14及び同P15に対し,「分限免職回避に向け,社会保険庁及び厚生労働省は,処分直前まで種々の取組を行ったと認められるが,新規採用を相当数行ったこと,他府省による受入れは,金融庁及び公正取引委員会以外の府省については行われず,同庁及び同委員会による計9人と限定的なものにとどまっていること,暫定定員を活用しなかったこと,各般の取組の開始時期が遅かったこと等,取組には不十分な点も認められ,少なくとも公務部門における受入れを一部増加させる余地はあったと認められる。そうした中,地方厚生(支)局等に転任候補者として選考された職員と同等の評価を受けたと認められる請求者を処分者が分限免職処分に付したことは,人事の公平性・公正性の観点から妥当性を欠き,請求者のその余の主張については判断するまでもなく,取り消すことが相当と認められる」との理由で,本件処分を取り消す旨の判定をした。
(甲A250,A251)
原告P13ら3名は,上記各判定を受け,原告P13ら3名に対する本件処分の取消しを求める訴えを取り下げた。(顕著な事実)
3
争点

(1)本件各処分の国公法78条4号の要件該当性
(2)本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無。具体的には,以下の各点である。

民間の整理解雇と同様の判断枠組みの適否


分限免職の必要性の有無


分限免職処分を回避するために努力すべき義務(以下「分限回避義務」
という。)履行の有無
(ア)分限回避義務の主体
(イ)分限回避義務の範囲
(ウ)分限回避義務の履行状況

人員選定(以下「人選」という。)の合理性の有無


誠実な説明・協議義務等の履行の有無

(3)本件各処分の国賠法上の違法性及び社保庁長官等の過失の有無等4
争点に関する当事者の主張

(1)争点(1)(本件各処分の国公法78条4号の要件該当性)について(被告の主張)

廃職を生じた場合に該当すること

(ア)本件各処分は,法律改正(機構法附則による国家行政組織法及び厚労省設置法の改正)に基づき,社保庁という「官制」が「改廃」され,これにより社保庁の全ての職の
「廃職」
が生じたためにされたものである。
(イ)本件においては,社保庁の全ての職が廃止されたことに伴い,その全職員が分限免職処分の対象となり得たが,社保庁長官等や厚労大臣等による分限免職処分を回避するための措置
(以下
「分限回避措置」
という。

等によって,分限免職処分対象者が最終的に525名にとどまったものであるから,社保庁職員の一部に「過員」を生じた場合には該当しない。(ウ)したがって,本件は官制の改廃により廃職が生じた場合に該当するから,本件各処分は国公法78条4号の要件を満たすものである。

国公法78条4号を適用すべき場合であること

(ア)政府は,懲戒処分歴保有者を機構から排除し,分限免職処分に追い込むといった方針は有していなかった。
そして,国の行政機関が行ってきた業務を公法人に担わせるに当たって,職員承継規定を設けるか否かは,専ら立法政策の問題であり,政府の方針に基づくものではない。
(イ)また,機構法に職員承継規定が設けられなかったのは,新たな非公務員型の法人である機構を創設し,公的年金制度に対する国民の信頼を確保する目的によるものであり,上記規定を設けなかったことも,上記目的との関係で必要かつ合理的な措置であった。

小括
したがって,本件各処分は国公法78条4号の要件に該当する。(原告らの主張)ア
廃職を生じた場合に該当しないこと

(ア)憲法25条及び15条に基づき,国公法74条1項,75条,78条及び人事院規則11-4第2条等が国家公務員の身分保障を定めている趣旨からすれば,同法78条4号は,当該国家公務員が従事していた職務そのものがなくなったり,現存の職員数に比して業務量が減少して,当該職務に従事する職員の人員削減の必要が生じたりした場合を指すというべきである。
(イ)本件においては,社保庁は廃止されたが,社保庁が行っていた公的年金業務は機構にそのまま承継されており,社保庁職員が従事していた職務がそのまま存続しているから,「廃職」には該当しない。
なお,機構の発足に当たっては,民間から1000名以上もの職員が新たに採用されており,人員削減の必要性はなかったから,「過員」にも該当しない。
本件のような場合も「廃職」又は「過員」に該当するとすれば,国家公務員を分限免職するためには,当該国家公務員が所属する部門を公法人化して業務委託すれば足りることになり,国家公務員の身分保障の趣旨は無に帰する。
(ウ)公務の一部を民営化したり,業務委託したりする場合には,当該公務に従事していた職員は形式的に「過員」となる。しかし,例えば,「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(以下「公共サービス改革法」という。)48条や「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(以下「行革法」という。)45条2項は,職員の雇用を確保するための措置を義務付けている。
このように,公務の一部が公法人や民間業者に委ねられる場合であっても,そのことを理由に,当該公務に従事していた職員の雇用を奪うことを正当化することはできない。(エ)したがって,本件は,国公法78条4号の「廃職」が生じた場合に該当しない。

国公法78条4号を適用すべき場合でないこと

(ア)従前,国の機関の業務が独立行政法人等の公法人に移管される際は,職員承継規定が設けられていたが,社保庁の業務を引き継ぐ機構については,職員承継規定が設けられず,設立委員会による職員採用方式が採られた。
これは,国民の公的年金に対する信頼回復(以下,単に「信頼回復」ということがある。)の観点から,懲戒処分歴保有者を機構から排除し,分限免職処分に追い込むという政府の方針に基づくものである。
しかし,信頼回復という目的と分限免職処分という手段の間には関連性がないし,上記目的のために職員を分限免職することは,国公法78条4号の制度趣旨から外れるものであって,同号の要件を満たさないというべきである。
なお,信頼回復の観点からの機構の設立と社保庁の廃止は,同一の立法によりされたものであり,社保庁職員が機構に承継されず,懲戒処分歴保有者が機構から排除され,外部から1000名もの大量採用がされたのは,全て信頼回復のための本件基本計画に基づくものであるから,結局,原告らは,信頼回復のために本件各処分を受けたものと評価すべきである。
(イ)いわゆる年金記録問題や,公的年金制度に対する信頼の崩壊は,公的年金制度創設以来のずさんな管理政策や政府の年金政策によるものであって,末端の社保庁職員の責任によるものではない。しかし,信頼回復をめぐる政府,与党,再生会議及び国会の議論において,年金記録問題を始めとする年金行政失敗の全責任が末端の社保庁職員にあるかのような政治的雰囲気が作られ,原告らを含む社保庁職員が責任を取らされる形で分限免職されたものである。
本来,信頼回復のためには,確実な年金給付の実現とそのための人員確保が必要であって,原告らを含む経験豊富な職員の活用が求められており,懲戒処分歴保有者の機構への不採用及び分限免職という方針は,信頼回復の方向性に逆行するものである。実際にも,現在,機構においては,システム開発や外部委託等による人員削減という方針は破綻しており,日常業務にも支障を来している状況になっている。
(ウ)したがって,本件は,国公法78条4号を適用すべき場合ではない。(2)争点(2)(本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について
(原告らの主張)

判断枠組み
国公法が定める国家公務員の身分保障及び厳格な分限規定は,憲法25
条の生存権保障に基づくものであり,国公法78条2号及び3号に基づく分限免職処分においてすら,特に厳密,慎重であることが要求されるのであるから,職員の側に落ち度の全くない同条4号に基づく分限免職処分においては,更に厳密,慎重であることが要求される。
そして,民間の整理解雇と国公法78条4号に基づく分限免職は,いずれも組織の縮小や廃止等に伴い,個々の労働者に何らの帰責事由が存在しないにもかかわらず,その意に反して離職させる点において共通している。また,国公法78条4号は,官制の改廃による廃職を生じた場合に分限免職をしなければならないという義務規定とはなっていないところ,これは,憲法及び法律に基づく分限回避義務が尽くされているか否かが極めて重要であるからである。
そうすると,国公法78条4号に基づく分限免職については,最低でも民間における整理解雇4要件を満たすべきであり,これを満たさない分限免職処分は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。

分限免職の必要性の有無

(ア)機構が従来と同一の業務を継続していくためには,その業務に精通した経験豊富な職員を必要としており,社保庁職員の希望者全員を採用しない理由はなかったにもかかわらず,社保庁から機構への移行に当たり,社保庁職員からの採用が制限され,あえて外部から1000名以上もの職員が採用されている。
(イ)信頼回復という目的からしても,原告らの分限免職は全く必要がないものであり,目的と手段との間に関連性もないから,このような目的に基づく本件各処分には必要性がなかった。
また,信頼回復の内容も,当初は業務外閲覧等の業務上の問題を中心とするものであったにもかかわらず,途中から,末端の社保庁職員には全く責任のない年金記録問題にすり替わり,原告らが年金記録問題の責任を取らされる形で本件各処分を受けており,このように信頼回復の内容がすり替わっている以上,本件各処分には必要性がなかった。
(ウ)したがって,本件においては,分限免職の必要性はなかった。ウ
分限回避義務履行の有無

(ア)分限回避義務の主体

憲法15条及び国公法98条2項によれば,国家公務員の使用者は,
国民全体又はこれを代表する政府であり,任用行為により,国と個々の職員の間に公務員関係が生じる。そして,国家公務員は,使用者である国民全体又は政府に対して,生存権を主張することができ,その一形態として,分限回避措置を求める権利を有している。

実際にも,これまで政府は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)解体の際や,行革法に基づく国家公務員の純減の際に,内閣総理大臣等を本部長とする組織を立ち上げ,府省の垣根を超えた転任を強力に推進するなどして,政府全体として分限回避義務を果たしてきている。c
また,本件基本計画においても,分限回避義務の主体を社保庁長官
等に限るような記載はなく,むしろ政府全体で分限回避措置を採るために,分限回避義務の主体が明示されていない。

仮に任命権者のみが分限回避義務を負うとすると,転任の可能な単
位が小さい行政機関の職員ほど,分限回避措置が採られないことになり,結果において著しい不平等が生じるし,そもそも任命権者のみが分限回避義務を負うと解すべき法的根拠はない。

したがって,本件において,分限回避義務を負っているのは政府全
体である。
なお,本件各人事院判定は,政府全体が分限回避義務を負うと認めていない点において不当ではあるが,少なくとも社保庁を外局に持つ厚労大臣も分限回避義務を負っていたとしている。
(イ)分限回避義務の程度,時的範囲及び内容

分限回避義務の程度

(a)

公務員の身分保障が憲法25条及び15条を基礎とするもので

あることからすれば,政府は,国家公務員に対して非常に高い水準の分限回避義務を負っている。
本件においても,本件基本計画は,
「分限免職回避に向けてできる
限りの努力を行う」としているところ,ここにいう「できる限り」とは,
法律上最大限を意味するから,このような分限回避義務が尽くさ
れずにされた分限免職処分は,
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用
したものとして違法なものとなる。
(b)

そして,国会及び政府は,国家公務員の身分保障の観点から,国鉄を解体した際,行革法に基づき国家公務員を減員する際,及び公共サービス改革法に基づき公共サービスを民間業者に行わせる際などに,分限回避措置を採っている。
国公法27条が平等原則を規定し,
同法74条以下及び人事院規則
11-4第2条が国家公務員の身分保障及び公正・平等な取扱いを定めていることからすれば,平等原則の観点から,政府は,国家公務員に対する分限免職処分をする際,
過去に国会及び政府が採ったのと同
等の分限回避措置を採らなければならない。

政府が分限回避義務を負う時的範囲

(a)

平成18年3月10日の時点での分限回避義務
同日,機構法の基となる「ねんきん事業機構法案」が国会に提出さ
れたが,この頃,与党を中心に社保庁からの転任については,職員承継規定を設けず,
懲戒処分歴保有者を中心に分限免職処分をすること
が視野に入れられていた。
同法案は同年中に廃案となったが,この頃から,社保庁職員を排除しようとする動きがあったから,
内閣,
厚労大臣及び社保庁長官等
(以
下「内閣等」という。)は,分限回避措置を採るべきであった。この時点で速やかに同措置を採っていれば,
新卒者の採用時期が毎年8月
であることから,
平成19年度の厚労省等の新卒採用枠を分限免職処
分の回避のために利用することができた。
(b)

平成19年3月13日の時点での分限回避義務
同日,機構法案が国会に提出されたが,同法案は,社保庁職員排除
の意図を徹底する内容となっていたから,内閣等は,この時点から分限回避措置を採るべきであった。
この時点で速やかに分限回避措置を採っていれば,
新卒者の採用時
期が毎年8月であることから,
平成20年度の厚労省等の新卒採用枠を分限免職処分の回避のために利用することができた。(c)

平成19年7月6日の時点での分限回避義務
同日,機構法が公布され,社保庁職員が当然には機構に承継されな
いことが確定したから,
遅くともこの時点が内閣等の分限回避義務の
起点となる。
この時点で速やかに分限回避措置を採っていれば,
新卒者の採用時
期が毎年8月であることから,
平成20年度の厚労省等の新卒採用枠
を分限免職処分の回避のために利用することができた。
(d)

平成20年6月30日の時点での分限回避義務
同日,再生会議が最終整理を公表し,従前から与党が主張していた
懲戒処分歴保有者排除の方針がほぼ固まったから,
内閣等が分限回避
措置を採らなければ手遅れになる可能性が高かった。
この時点で速やかに上記措置を採っていれば,
新卒者の採用時期が
毎年8月であることから,
平成21年度の厚労省等の新卒採用枠を分
限免職処分の回避のために利用することができた。
(e)

平成20年7月29日の時点での分限回避義務
同日,本件基本計画が閣議決定され,政府は社保庁職員を分限免職
に追い込む施策を打ち出した。
しかし,この時点で速やかに分限回避措置を採っていれば,新卒者の採用時期が毎年8月であることから,
平成21年度の厚労省等の新
卒採用枠を分限免職処分の回避のために利用することができた。
(f)

平成22年度中の分限回避義務
内閣等は,
本件各処分を受けた原告らの身分を平成22年1月以降

もつなぎ止めておくことによって,
同年4月の新規採用又は同年度中
の途中採用につなげることが可能であったから,
少なくとも同年度中
の分限回避義務を免れない。c

内閣等の分限回避義務の内容

(a)

内閣の分限回避義務
内閣は,分限回避義務の履行として,最低でも,①権限を積極的に
行使して,
組織替えの際に職員が新組織に円滑に移行することができ
る仕組みを作ること,②府省を超えた転任について,各府省の退職者の把握,
新規採用の抑制の指示等による空き定員の把握,具体的な転
任のあっせん,
転任時期の調整等の転任に関する統合調整,③総務省を通じての地方公共団体への受入れの仲介・あっせん,④法律の施行日を調整することで,転任の可能性を広げること(本件では,機構法の施行日を国家公務員の定年退職時期と合わせて平成22年4月1日とすること)
,⑤新組織への職員の円滑な移行や転任を妨げるような作為(例えば,閣議決定によって懲戒処分歴保有者を一律不採用にしたり,
新組織の定員を過剰に削減したり,外部からの過剰な採用や
正規職員の非正規職員への置き換え等により余剰定員を作り出したりすること)を行わないことが求められていた。
(b)

厚労大臣の分限回避義務
厚労大臣は,分限回避義務の履行として,最低でも,①社保庁職員
受入れのために,採用抑制や空き定員の活用等により,労働部門も含め,自らの定員枠を最大限に利用すること,②内閣と協議した上,監督権等を適切に行使して,機構等への採用,厚労省等への転任を有機的に結び付け,
社保庁職員が円滑に新組織や厚労省等に移行すること
ができるようにすること,③内閣と調整して,国家公務員雇用調整本部(以下「雇用調整本部」という。)を通じた他府省からの職員受入れを実施しないことが求められていた。
(c)

社保庁長官等の分限回避義務
社保庁長官等においては,分限回避義務の履行として,最低でも,①職員の意向を丁寧に聴取して,職員の新組織への移行が遺漏なく行
われるようにするとともに,厚労省等への転任について,確保された枠と職員のマッチング(組合せ)を行うこと,②新組織への移行や転任枠を併せても希望職員数に満たない場合は,
人事院規則11-4第
7条2項に基づき,厚労大臣とも協議しながら,分限免職処分の候補者を公平な基準に基づいて選定することが求められていた。
(ウ)分限回避義務の履行可能性

定員枠の確保可能性
分限免職処分となった社保庁職員525名のうち,
分限免職を望まな

かった者は,原告らを含む124名であったところ,機構発足時の欠員数は471名(厚労省からの出向者147名を含む。)で,平成22年5月末までに退職した109名も含めれば580名の定員枠が空いていた。
そして,
政府と機構が連携して,厚労省等に懲戒処分歴保有者を転任
させ,機構に採用される資格を有する者を機構等に採用させれば,現状のままでも,124名はおろか,525名分の定員枠を確保し,分限免職処分を回避することができた。
また,厚労省は,新規採用の抑制や空き定員の活用によって,分限免職処分を回避するために更なる定員枠を確保し,分限免職処分を回避することができた。

平成19年度の定員枠

(a)

厚労省は,平成19年度中に,202名(うち追加採用73名)

を新規採用し,雇用調整本部経由で他府省から29名を受け入れた。国の行政機関における新規採用の内定は毎年8月に出されるが,
厚労省は,平成20年4月の新規採用を抑制することはなく,平成19年4月の新規採用者数129名よりも99名も多い228名を新規採用した。(b)

国家公務員Ⅱ種及びⅢ種全体で,平成19年度に3284名が新

規に採用されている。

平成20年度の定員枠

(a)

厚労省は,
平成20年度中に,
373名
(うち追加採用145名)

を新規採用し,雇用調整本部経由で他府省から43名を受け入れた。(b)

同年度中に厚労省を退職した職員は609名であり,これらの定

員枠も分限回避措置の対象とされなければならなかったが,
そのよう
な位置付けは一切されなかった。
特に,本件基本計画の閣議決定以降の追加採用においては,懲戒処分歴保有者を優先させる必要があったが,そのような考慮はされず,平成18年度の88名及び平成19年度の73名と比べて追加採用者数が145名と大幅に増加した。
(c)

平成21年度の新規採用を抑制して,社保庁職員が転任すること

ができる枠を確保する必要性が高かったにもかかわらず,厚労省は,平成20年8月の内定決定時にそのような配慮をすることなく,
平成
21年4月に158名もの新規採用をした。
(d)

社保局が実施していた保険医療機関等に対する指導・監督等の事

務の移管に伴い,平成20年10月1日,553名が社保庁から厚労省に転任されたが,懲戒処分歴保有者を優先させる配慮はされなかった。
(e)

平成21年1月に実施された本件意向調査の結果,
機構希望者が

1万1132名,協会希望者が3071名,厚労省への転任希望者が6017名,退職希望者等が1416名となった。この結果を見れば,機構への採用手続を先行させなければ,厚労省への転任による分限免職処分の回避が困難になる上,機構に必要な職員を確保することができないことが容易に予想されたはずである。しかし,社保庁と厚労省は,6017名全員を厚労省への転任希
望対象として,機構職員の採用に優先して(少なくとも相互に関係なく並行して)手続を行うという方針を改めなかった。
(f)

協会設立委員会は,平成20年4月3日及び同年9月3日に,外

部(民間)から合計271名を採用することを内定しており,この数をもっと抑えれば,分限免職処分の回避につなげることができた。(g)

同年7月29日の本件基本計画の閣議決定により,社保庁と比べ

て,定員が機構単体で2235名削減される見込みとなり,懲戒処分歴保有者を厚労省等に優先的に転任させなければ,
平成21年末に分
限免職処分になることが明確になった。
また,本件基本計画では,民間から1000名程度採用することも定められており,分限免職処分対象者が増加することとなった。
(h)

同年夏,
厚労省は,平成21年度の定員として3万8959名を

要求したが,査定の結果,655名の減員となった。社保庁職員の分限免職処分を回避するためには,厚労省の定員確保は極めて重要であったにもかかわらず,政府はそのような姿勢を見せることはなかった。
(i)

国家公務員Ⅱ種及びⅢ種全体で,
平成20年度に3508名が新

規に採用されている。

平成21年度の定員枠

(a)

厚労省は,平成21年度中に195名(うち追加採用は37名)

を新規採用し,雇用調整本部経由で他府省から63名を受け入れた。(b)

同年度における厚労省の欠員数は,
同年6月末で382名であり,

これに新規採用者数195名(うち158名が4月採用)を併せた合計577名を社保庁からの転任者で充てれば,分限免職処分を回避することができた。また,同年12月末の厚労省の欠員数は106名となっていると
ころ,追加採用者数及び他府省からの受入数を除けば,厚労省は,同年6月末以降,
休職者・
出向者の復帰等で170名以上を補充し,
意図的に転任者の受入可能数を減少させたものと考えられる。
(c)

同年5月18日に社保庁職員から厚労省への転任者が内定した

が,この過程において,懲戒処分歴保有者が優先されることはなかった。
(d)

同月29日,厚労省は,公共職業安定所(以下「ハローワーク」

という。)の任期付職員304名を公募しており,この304名の定員増についても,社保庁職員の分限免職処分回避のために活用すべきであった。
(e)

社保庁からの年金記録確認業務の移管に伴い,
総務省年金記録確

認第三者委員会(以下「第三者委員会」という。)に252名の定員措置がされたが,社保庁職員からの転任数は162名にとどまっており,
残りの90名についても社保庁職員を充てるべきであった。
(f)

都道府県労働局が転任を受け入れた社保庁職員は,
66名にとど

まった。このうち,新規採用抑制等による採用は,約30名にすぎなかった。厚労省の労働関係の部局は,社保庁職員の分限免職について全く他人事であり,全ての過程において分限回避義務の履行に向けて何の積極性も発揮しなかった。
(g)

厚労省全体で最終的に1284名の社保庁職員を受け入れたう

ち,新規採用抑制等による転任はわずか116名にすぎなかった。(h)

厚労省には,平成21年度予算で,残務整理要員として,平成2

2年3月までの113名分の定員が確保されており,この定員枠を社保庁職員の分限免職処分対象者に充てていれば,分限免職処分を回避することは十分できた。(i)

機構発足に先立ち,
機構に300名程度の欠員が生じていたため,

厚労省は,業務支援のために147名の職員を出向させていたが,当該出向者分の定員を欠員扱いせず,その穴埋めをするため,非常勤職員採用という定員外の措置を採った。
そして,厚労省は,平成21年12月に非常勤職員を公募し,社
保庁職員から152名及び民間から112名の合計264名が非常勤職員として採用された。厚労省が264名もの非常勤職員を採用したことは,厚労省の業務を遂行するための人員が大幅に不足していたことを示すものであり,この不足分を出向者の欠員補充という形で補っていれば,分限免職処分を回避することは十分できた。それにもかかわらず,厚労省が非常勤職員の採用をしたことは,最も確実な分限免職処分回避のための枠をあえて活用しなかったものといわざるを得ない。
(j)

厚労省の欠員は,平成22年3月末において,機構出向者147

名及び残務整理定員113名を除いて48名であり,
この定員枠も,
分限免職処分対象者に充てられるべきであった。
(k)

平成21年7月,厚労省及び社保庁は,他府省への社保庁職員の

受入れを要請しているが,これらは,雇用調整本部による府省間横断的な転任ではなく,実効性の乏しい方法であった。
(l)

社保庁から京都社保局に対して,
京都府下の他府省の出先機関を

回るように指示があったのは,
同年8月11日以降のことであった。
この時期は,次年度の新規採用の採用はほぼ決まっており,他府省が転任を受け入れる余地がほとんどなく,手遅れであった。
京都社保局は,各府省の出先機関等に対して社保庁職員の採用を
求める文書を送付したが,時期は同月以降であり,そもそも訪問していない出先機関もあり,出先機関からは採用を表明する返答もなかった。また,京都社保局は,他の出先機関等に対して期限を切った回答を求めたり,
複数回の訪問をして督促したりしなかったため,
何の実効性もなかった。
(m)

同年7月28日,設立委員会は,外部(民間)から1078名を

採用することを内定し,同年10月28日には,外部(民間)からの追加募集分として49名の採用を内定したが,この数をもっと抑えれば,分限免職処分の回避につなげることができた。
(n)

同年11月末頃までに,
社保庁職員のうち機構への採用を辞退し

た者が百数十名おり,その後も辞退者が続き,同年12月末までに約100名の社保庁職員が機構への採用を辞退した。その結果,平成22年1月1日の機構の発足時に,正規職員は324名の欠員が生じていた。しかし,正規職員の追加採用は行われなかったし,その可否の検討すらしなかった。
(o)

国家公務員Ⅱ種及びⅢ種全体で,
平成21年度に3656名が新

規に採用されている。

平成22年度の定員枠

(a)

残務整理定員113名分を活用すれば,平成22年度の新規採用

の定員枠を社保庁職員の転任のために活用することもできた。
(b)

平成22年度中に厚労省に新規採用されたのは436名であり,

そのうち追加採用されたのは248名であった。厚労省は,この追加採用において,分限免職処分者を「かつて職員であった者」(人事院規則8-12第18条1項2号)として選考採用することもなかった。
(c)

厚労省は,
平成22年度に雇用調整本部経由で他府省から20名

を受け入れた。(d)

国家公務員Ⅱ種及びⅢ種全体で,
平成22年度に3832名が新

規に採用されている。
(エ)分限回避義務の履行状況

内閣の分限回避義務違反
内閣には,
①本件基本計画を閣議決定することにより,懲戒処分歴保
有者が機構に採用される途を完全に閉ざしたこと,②社保庁職員に対して雇用調整本部を活用しなかったこと,③府省を超えた転任の統合調整を怠ったこと,④地方公共団体への受入れの仲介・あっせんを行わなかったこと,⑤機構法の施行日をあえて平成22年1月1日にしたこと,⑥平成22年度以降に社保庁職員であった者を各府省が採用するよう決定しなかったことという分限回避義務違反が存在した。b
厚労大臣の分限回避義務違反
厚労大臣には,
①定員枠の最大限まで社保庁職員を受け入れなかった
こと,②機構等に対する監督権を適切に行使して,社保庁職員が円滑に機構等や他府省に採用又は転任することができるようにしなかったこと,③雇用調整本部を経由した他府省からの職員受入れを制限しなかったことという分限回避義務違反が存在した。
なお,厚労大臣は,厚労省の非常勤職員の募集をしているが,社保庁職員以外からの募集もしており,分限回避措置にはなっていないし,そもそも有期雇用職員への採用では,分限回避義務を果たしたことにはならない。

社保庁長官の分限回避義務違反
社保庁長官には,①内閣,厚労省等及び地方公共団体に対する働き掛
けが不十分であったこと,②確保された機構等や厚労省の定員枠と社保庁職員のマッチングが不十分であったことという分限回避義務違反が存在した。なお,社保庁長官は,各社保局に,地方社会保険事務局職員再就職等支援室(以下「地方再就職支援室」という。)を設置したが,社保庁職員に対する同支援室の周知すら十分に行わなかった。また,地方再就職支援室は,始めから公務職場への転任は困難であるとして,官民人材交流センター(以下「官民センター」という。)を通じた民間企業へのあっせんを第一とし,国家公務員としての身分を保障しようとする姿勢はなかった。そして,官民センターは完全に機能不全に陥っており,分限回避措置に値するものではなかった。

京都社保局長の分限回避義務違反
京都社保局長には,①京都社会保険事務局職員再就職等支援室(以下
「本件支援室」という。)における対応がおざなりであったこと,②他府省や地方公共団体への受入要請や欠員の確認が不十分であったこと,③職員団体の提案や要請を真剣に検討して,分限回避措置を採らなかったことという分限回避義務違反が存在した。

小括
以上のとおり,
内閣等は,本件各処分に当たって分限回避義務を果た

していない。

人選の合理性の有無

(ア)人選の在り方

人事院規則11-4第7条4項は,国公法78条4号に基づく分限
免職処分の対象者を公正に選定すべき旨を定めており,分限免職処分に当たっては,公正な人選が行われなければならない。
具体的には,公平かつ合理的な人選を行うために,勤務成績,勤務年数に加えて,個々の職員の収入状況,家族構成,健康状態,妥当な再就職先の確保状況等の事情を十分に考慮しなければならない。
そして,
このような事情を考慮することなく,公平かつ公正にされなかった分限免職処分は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。

また,処分権者が裁量権を行使するに当たり,考慮すべき事項を考
慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して処分をした場合には,当該処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。
具体的には,
上記aの勤務成績等のように考慮すべき事項を考慮しな
かったり,懲戒処分歴,成績に基づかない事情及び精神疾患の発病のような考慮すべきでない事項を考慮したりしてされた分限免職処分は違法となる。
(イ)人選の不合理性

人選がされなかったこと
社保庁の廃止に伴う分限免職処分においては,
人事院規則11-4第

7条4項に基づく人選基準が定められることはなく,厚労省への転任や機構等への採用がされなかった社保庁職員は,自動的に分限免職処分とされた。

近畿厚生局への転任手続が不公正であったこと
本件転任面接において,面接官は,当該転任が分限回避措置として位
置付けられているとの認識を有していなかったから,このような転任手続が適正な人員を選定するという観点から行われたものでないことは明らかである。
また,近畿厚生局への転任対象者の選定基準は,面接者の主観的判断に基づくものであっただけでなく,面接者が独断で評価基準を細分化するなど,客観的・統一的な基準も設けられていなかった。そして,本件転任面接は,わずか10分程度の時間で実施されたものであったし,本来は評価の対象とすべきではない準備調査票の記載を主観的な評価の対象としていた。さらに,本件転任面接においては,対象者の成績,家族状況・収入状況,及び準備調査票の特記事項欄の記載のように考慮すべき事項を考慮せず,準備調査票の記載内容,準備調査票の記載誤り・乱筆,精神疾患,年次有給休暇(以下「年休」という。)の取得日数,及び懲戒処分に対する不服申立てのように考慮すべきでない事項を考慮した上で,対象者に対する不適正な評価がされ,これに基づく転任手続がされた。

機構への採用手続が不公正であったこと
機構への採用手続において,
社保庁職員に対して機構への採用に関す

る説明が行われなかっただけでなく,本件採用基準は公平・公正なものではなく,病気休職者を殊更不利益に扱う不公正なものであった。d
協会への採用手続が不公正であったこと
協会採用基準及び改正協会採用基準
(以下
「協会採用基準等」
という。


は,懲戒処分歴のある社保庁職員を殊更不利益に扱うものであるだけでなく,社保庁職員にこれらの基準が周知されていなかった。

小括
以上のとおり,
本件各処分においては,人事院規則11-4第7条4

項に基づく公正な人選が行われなかった。

誠実な説明・協議義務等の履行の有無

(ア)適正手続の要請

国公法78条4号に基づく分限免職処分に当たっては,憲法31条
が保障する適正手続の観点から,分限免職処分の時期・規模・必要性,分限回避義務に関連して,各府省の欠員状況とその活用,他府省への転任に関する基準,雇用調整本部を活用しない合理的理由,新規採用抑制の内容,厚労省への転任に関する基準や転任手続の内容,機構の欠員状況,地方再就職支援室の設置及び支援の内容,分限免職処分対象者の人数等について告知がされ,収入状況や家族状況,転職の意向等について聴聞がされなければならない。

また,職員の勤務条件の最たるものである分限免職処分は,当然に
職員団体との交渉事項に該当するところ,適正手続を保障し,分限免職処分が職員団体加入による不利益取扱いに該当しないためには,職員団体との協議の実施が不可欠である。
本件においては,分限免職処分の時期・規模・必要性,分限回避義務に関連して,各府省の欠員状況とその活用,他府省への転任に関する基準,雇用調整本部を活用しない合理的理由,新規採用抑制の内容,厚労省への転任に関する基準や転任手続の内容,機構の欠員状況,地方再就職支援室の設置及び支援の内容,分限免職処分対象者の人数等が交渉の対象となり,政府は,これらの点に関する職員団体からの質問に対して誠実に回答及び説明をして,協議義務を尽くす必要があった。
(イ)説明・協議義務違反等
本件各処分に当たり,原告らに対して,上記の各事項について,納得することができるような説明や協議は一切行われなかった。
また,政府は,職員団体に対し,本件基本計画の内容を繰り返すだけの紋切り型の回答をし,具体的な取組についての回答をすることもないという不誠実な対応に終始した。
このように,政府は,本件各処分に当たり,誠実な説明・協議義務等を怠っている。

原告らの個別事情
原告らに現れた分限回避義務違反,人選の不合理性及び誠実な説明・協
議義務違反の事実は,別紙3「個別事情に関する原告ら主張」記載のとおりである。キ
まとめ
以上によれば,本件各処分は違法であるから,本件各処分(人事院判定
で取り消された原告P13ら3名に対するものを除く。)はいずれも取り消されるべきである。
(被告の主張)

判断枠組み

(ア)国公法78条に基づく分限免職処分については,①分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいて分限免職処分を行った場合,②考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合,③その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合,④合理的な範囲での分限回避義務を怠った場合のように,処分権者が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り,違法となる。
国家公務員の分限免職処分は,民間の整理解雇とはその趣旨及び目的が異なり,国公法及び人事院規則(以下「国公法等」という。)並びに過去の判例等において,分限免職処分が許容される具体的範囲やその合理性・相当性の判断基準が明示されているから,整理解雇の4要件を考慮して判断する必要はなく,適切でもない。
(イ)本件においては,社保庁の廃止による全ての職の廃止という分限事由は,法律の改正によるものであるから,分限事由を生じさせたことについて,社保庁長官等による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を観念することはできない。
また,本件各処分は,機構への採用や厚労省への転任等がされず,退職勧奨にも応じなかった者について一律に行われたものであるから,社保庁長官等による人選も観念することができない。したがって,本件各処分については,上記①から③までは問題とならず,上記④に該当するか,すなわち,分限回避義務を履行するに当たって,(ア)転任等が比較的容易であったのにそれを怠ったか否か,(イ)国公法27条,74条,108条の7及びこれらを受けた人事院規則の趣旨に照らして平等かつ公正に行われなかった否かのみが問題になる。イ
分限回避義務の履行について

(ア)分限回避義務の主体

社保庁職員に対する任命権(処分権)は,社保庁長官及びその委任
を受けた社保局長に独立的かつ終局的に帰属するから,本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無は,任命権者(処分権者)である社保庁長官等について判断されるべきである。
したがって,本件においては,社保庁長官等がその与えられた権限に照らして行い得る活動の範囲内において分限回避義務を尽くしたかどうかが問題となり,社保庁長官等が左右し得ない事情や,他の行政機関等の分限回避義務履行の有無は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無に関する判断に影響を与えない。

国鉄民営化の際の再就職促進対策は,具体的な法律の定めに基づき
行われたものであり,このような立法を経ることなく,任命権者以外に当然に分限回避義務が発生することはないし,国鉄民営化の際に再就職促進対策が講じられたからといって,本件においても当然に政府全体が社保庁職員の分限回避義務を負うことにもならない。
また,行革法に基づく雇用調整本部を利用した国家公務員の純減は,全府省を対象として,定員の純減及び転任を段階的に行うものであって,社保庁職員の分限免職処分回避のための取組とは趣旨,目的等が全く異なるから,行革法の規定に基づき,政府全体が分限回避義務を負っているとはいえない。さらに,
本件各人事院判定は,本件各処分の妥当性について判断した
にすぎず,厚労大臣の努力が不十分であれば,本件各処分が違法となると認めたものとはいえない。
(イ)分限回避義務の程度,時的範囲及び内容

分限回避義務の程度及び内容

(a)

社保庁長官等がその権限内で行うことができた分限回避措置は,

①社保庁職員の再就職又は退職に当たっての意向又は希望を再三にわたって丁寧に聴取し,設立委員会の要請により,その募集内容を周知するとともに,
機構職員への採用を希望する社保庁職員のうち本件
採用基準を満たす者の名簿を作成して提出すること,
②厚労省を含む
各府省に対し,
可能な限り社保庁職員を受け入れるよう要請するとと
もに,その募集内容を周知すること,③そのほか,年金相談センター等の職員,
機構の准職員,厚労省の非常勤職員等の募集内容を周知し
たり,地方公共団体に受入要請をしたり,官民センターやハローワークの利用を周知したりすることに限られていた。
(b)

過去に国会や政府が一定の雇用確保措置等を講じてきたのは,各

事例における個別具体的な事情に基づくものであって,
全く事情の異
なる本件各処分について,
社保庁長官等が過去の措置と同様の水準で
の分限回避義務を尽くさなければならないとはいえない。

分限回避義務の時的範囲

(a)

本件各処分の分限事由である官制の改廃による廃職が生じるこ

とが確定したのは,機構法が公布された平成19年7月6日であり,それ以前の段階において,
社保庁長官等が分限回避義務を負うことは
ない。
そして,
機構法には,
職員承継規定は設けられていなかったものの,
同法附則3条は,
機構への業務の引継ぎや機構の設立に際して採用する職員の数や採用条件等について,政府が基本計画を定めることを求
めており,
同法附則8条は,機構職員の採用基準が示されることを前
提として,
社保庁職員の機構における採用の方法等について規定して
いる。このように,機構法も,機構における社保庁職員の採用に関する事項や社保庁職員のその後の任免に関する事項については,
政府に
よる基本計画の策定を待って対処することを当然に予定していた。(b)

また,機構法に基づき,平成20年7月29日に本件基本計画が

閣議決定されるまでは,
社保庁職員が機構に採用されるか否かといっ
た具体的な方向性は明らかでなかったから,
社保庁長官等が具体的な
分限回避措置を採るべき義務は発生していなかった。
(ウ)分限回避義務の履行状況

社保庁長官等は,自らの権限の及ぶ範囲内において,可能な限りの
分限回避義務を履行した。すなわち,社保庁長官等は,その自己の権限の及ぶ範囲内において,社保庁職員の意向又は希望等を丁寧に聴取し,機構等の募集内容の周知並びに採用基準を満たす職員の名簿の作成及び提出を適正に行った上,各府省や地方公共団体等への社保庁職員の受入要請及び募集内容の周知等を可能な限り行った。
また,社保庁長官等は,これらの分限回避措置を採るに当たって,恣意的な取扱いをせず,全ての社保庁職員について,平等かつ公平に行った。

機構等への職員承継規定が設けられなかったのは,専ら国会の立法
裁量の問題であるし,懲戒処分歴保有者が機構に採用されないことや機構の採用数等は,機構法附則3条に基づき閣議決定された本件基本計画により決定されたものであり,これらについて社保庁長官等は権限を有していなかった。
他府省への転任についても,
懲戒処分歴保有者を優先的に他府省に転任させるべき法的根拠がないだけでなく,これを行えば他の社保庁職員との間に不公正が生じることになるし,そもそも社保庁職員を受け入れるか否かは,各府省の任命権者が決定する事項であって,社保庁長官等は,他府省の官職への任命について何らの権限も有していなかった。

社保庁長官等以外の政府や厚労大臣の取組等は,本件各処分がされ
た当時の状況という事情にすぎず,本件各処分の適法性に影響を及ぼさない。
ただし,厚労大臣は,本省内部部局の既定定員枠,退職不補充による欠員の定員枠及び新たに行う年金業務に伴い増加した定員枠を活用して,業務内容に応じた人員確保という合理的な数の範囲内で,可能な限りの社保庁職員を転任により受け入れたほか,非常勤職員として社保庁職員を採用している。
なお,113名の残務整理定員は,飽くまで残務を処理するため暫定的に確保したものであり,その後,残務の円滑な処理の必要性等の合理的な理由により当該定員を利用しなかったものである。
この残務整理定
員を使って,
平成22年1月から同年3月末まで国家公務員の身分を引
き継ぎ,
同年4月以降に他府省へ配置転換するということも考えられな
くはないが,
同月以降について,他府省から社保庁職員を受け入れる旨
の申出がなかったため,
このような残務整理定員枠を用いて社保庁職員
を受け入れることはできなかった。また,同年4月の厚労省の新規採用定員枠は188名であったところ,この定員枠は,厚労省が,行革法に基づく定員削減を実施しなければならない上,
社保庁職員の受入れのた
めに,
平成21年12月末日までに欠員不補充等の措置を講じなければ
ならないという状況において,組織の年齢構成,組織体制維持のための新卒者採用の必要性等の諸般の事情を考慮し,
新卒者を採用すべき必要最小限度の定員数として決定し,
同年8月頃に採用予定者の内定をした
ものであり,
この内定を取り消すなどしてまで,社保庁職員の転任枠を
確保することは,
採用予定者との関係における法的観点からも極めて困
難であった。
政府や厚労大臣は,
社保庁職員の機構等への採用や厚労省等への転任
を実施するに当たり,適正な採用基準又は転任基準に基づいて,平等かつ公正にこれを実施しており,各人の希望に応じた分限回避義務も履行している。
そして,原告らは,いずれも厚労省の正規職員を希望したが,平等かつ公正な手続による書類審査及び面接審査を経た評価に基づき,限りある転任数の枠内で転任の可否が適正に判断された結果,いずれも転任がかなわなかったものである。

以上によれば,原告らを含む525名について,結果として,分限
免職処分を回避することができなかったことは,やむを得ない結果というべきであって,社保庁長官等により行われた原告らに対する本件各処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできない。

分限免職の必要性について
本件各処分における分限事由は,法律改正による社保庁の廃止及びこれ
に伴う全ての職の廃止であり,これらは国会が行ったものであるから,社保庁長官等による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を論じる余地がない。なお,国の行政機関が行ってきた業務を公法人に担わせるに当たって,職員承継規定を設けるか否かは,専ら立法政策の問題である。そして,職員承継規定を設けなかったことは,非公務員型法人を創設し,公的年金制度に対する国民の信頼を確保するという目的との関係で必要かつ合理的な措置であった。エ

人選の合理性について

(ア)人事院規則11-4第7条4項は,その規定ぶりからして,専ら国公法78条4号のうち,過員を生じた場合に関するものであり,廃職を生じて当該官職に就いていた職員全員が分限免職処分の対象となり得る場合を想定したものとは解されない。
ただし,廃職を生じた場合においても,分限免職処分をするに先立って同処分を回避する努力をする際,同法74条及び同規則7条4項の趣旨に従って公正に行うことが要請されていると解される。
(イ)原告らが金融庁及び公取委への転任の対象とされなかったのは,金融庁及び公取委が示した採用条件に適合しなかったからであり,社保庁長官等が原告らを不平等・不公正に取り扱ったものではない。
(ウ)また,そもそも社保庁長官等は,機構等への採用や厚労省への転任について権限を有しなかったし,機構等への採用基準・審査は適正・公平なものであり,厚労省による転任候補者に対する面接審査も適正・公平に行われている。

説明・協議義務等について

(ア)国家公務員に対する分限免職処分については,行政手続法(以下「行手法」という。)の適用はなく,告知・聴聞の機会の付与は手続的要件とされていないし,憲法31条を直接の根拠として,告知・聴聞の手続が必要となるともいえない。
(イ)そして,本件各処分に至る過程においては,社保庁職員に対し,必要な都度,各種の情報提供が行われるとともに,複数回にわたる意向調査や説明等が行われているから,防御権が違法に制限されたともいえない。また,社保庁長官等及び厚労大臣は,社保庁の廃止に当たり,社保庁の廃止や職員に対する分限免職処分一般に関する事項について,職員団体との間で複数回の交渉を行っている。(ウ)したがって,社保庁職員及び職員団体への説明や協議が不十分であったとはいえない。

まとめ
以上によれば,本件各処分については,社保庁長官等による裁量権の範
囲の逸脱又はその濫用は認められないから,いずれも適法なものというべきである。
(3)争点(3)
(本件各処分の国賠法上の違法性及び社保庁長官等の過失の有無等)について
(原告らの主張)

社保庁長官等は,本件各処分に至るまでの期間において,分限免職処分
を回避するために考慮すべき事情を厳密,慎重に考慮するとともに,考慮すべきでないことを考慮してはならず,適正な認識や評価を行い,分限回避回避義務を尽くした上でなければ,分限免職処分をしてはならない義務を負っていた。
しかし,社保庁長官等は,本件各処分に至るまでの期間において,分限免職を回避するために考慮すべき事情を厳密,慎重に考慮せず,一方で考慮すべきでないことを考慮し,誤った認識や評価に基づいて,本件各処分をしたものである。
したがって,社保庁長官等による本件各処分は,国賠法1条1項の適用上,原告らに対する違法行為に該当するものである。

社保庁長官等は,原告らに対する分限回避義務が果たされていないこと
を知り,又は容易に知り得たにもかかわらず,原告らに精神的損害が発生することが当然に予想される本件各処分をしたのであるから,社保庁長官等には,上記違法行為をしたことについて少なくとも過失がある。ウ
原告らは,別紙4「損害に関する原告ら主張」記載のとおり,違法な本
件各処分により,職を奪われるとともに,現在の年金行政の行き詰まりに責任があるかのように扱われ,計り知れない精神的苦痛を被ったところ,これに対する慰謝料は各100万円を下らない。
(被告の主張)

人事院の判定により取り消された原告P13ら3名に対するものも含め,
本件各処分は適法であるから,国賠法1条1項の適用上違法となることはないし,社保庁長官等に過失はない。

第3
1
原告らの損害については争う。

当裁判所の判断
争点(1)(本件各処分の国公法78条4号の要件該当性)について
(1)関係法令の定め並びに前提事実(1)及び(9)によれば,原告らは,社保庁職員であったところ,機構法附則70条及び72条による国家行政組織法及び厚労省設置法の改正によって社保庁が廃止されたことに伴い,社保庁の全ての官職が廃止されたため,
本件各処分を受けたものであることが認められる。
そうすると,本件各処分は,官制の改廃により廃職が生じた場合においてされたものであるから,国公法78条4号の要件を満たすものというべきである。
(2)これに対し,原告らは,国公法等が国家公務員の身分保障を定めている趣旨からすれば,同法78条4号は,当該国家公務員が従事していた職務そのものがなくなった場合等を指すというべきであり,本件のような場合も「廃職」に該当するとすれば,国家公務員を分限免職するためには,当該国家公務員が所属する部門を公法人化して業務委託すれば足りることになり,国家公務員の身分保障の趣旨は無に帰する旨主張する。

そこで検討するに,本件においては,従前,国家行政組織法及び厚労省
設置法に基づき社保庁が政府管掌年金事業等を所掌していたところ,機構法の制定等により,社保庁が廃止され,非公務員型の法人である機構等が同事業等を担うことになったものであり,公的性格を有する同事業等そのものは存続しているものということができる。イ
しかしながら,国民主権原理を採用する憲法は,行政の民主的統制の観
点から,行政が担うべき事務の範囲及び内閣の下に置かれる行政組織の仕組みについて,国権の最高機関たる国会の立法により定めるべきものとしていると解され(1条,66条1項,73条4号参照),それを担う公務員についても,全体の奉仕者であると定めた上で,国民がその選定罷免権を有すると定めている(15条1項,2項)。そして,それを受けて国家行政組織法は,内閣府以外の国の行政機関の組織を法律で定めるものとした上(3条),行政機関の職員の定員に関する法律(以下「総定員法」という。)で常勤の職員の定員の総数の最高限度を定めた上,定員については政令に委任し,国公法は,上記のとおり,行政組織の変動に応じて国家公務員を分限免職することができると定めているのである
(78条4号)

そうすると,公的事務を国家公務員に担わせるか,それともそれ以外の者に担わせるかについても,国民の代表者たる国会の立法により定められるべきものと解される。
確かに,国家公務員は,労働基本権の制約に対する代償として,憲法上の生存権保障の趣旨から,国公法において制度上整備された身分保障を受けているものの,同法は,上記のとおり,国民主権原理に基づく行政の民主的統制という憲法上の要請に基づき,行政組織の変動に関しては,廃職・過員が生じた場合に限り分限免職処分をするという限度で国家公務員の身分保障をしているにとどまり,その範囲を超える身分保障を憲法が国家公務員に保障しているものとは解されない。
また,原告らの主張によれば,法改正により行政機関が公法人化されたことに伴って当該行政機関の官職が廃止された場合であっても,国公法78条4号の「廃職」に該当せず,当該官職にあった国家公務員に対する分限免職処分をすることができないことになるが,上記のとおり,憲法が国家公務員に対してこのような身分保障を与えていると解することはできないから,同号に規定する「廃職」の意義について原告らが主張するような解釈を採ることはできない。
したがって,国公法78条4号に基づく分限免職処分をすることができる場合について,当該国家公務員が従事していた職務そのものがなくなった場合等に限定すべき理由はなく,本件のように,従前行政機関が行っていた公的事務を国家公務員以外の組織に担わせる場合であっても,当該事務を職務としていた官職が廃止されることになる以上,任命権者は同号に基づく分限免職をすることができるというべきである。そして,国公法等に基づく国家公務員の身分保障の趣旨については,分限免職処分をするに当たっての任命権者の裁量権行使の違法性を判断する際に考慮すべきものというべきである。

以上によれば,原告らの上記主張は採用することができない。

(3)また,原告らは,社保庁から機構への移行に当たり,希望者全員を採用しない理由はないにもかかわらず,その採用を制限して,外部から1000名以上の職員を採用した上,機構法に職員承継規定が設けられなかったのは,国民の公的年金に対する信頼回復の観点から,懲戒処分歴保有者を機構から排除し,分限免職処分に追い込むという政府の方針に基づくものであり,分限免職の必要性はなかったし,このような信頼回復という目的で社保庁職員を分限免職することは国公法78条4号の制度趣旨から外れるものであって,同号の要件を満たさない旨主張する。

しかしながら,仮に,機構が採用を希望する社保庁職員全員を採用した
り,機構法に職員承継規定が設けられたりしたとしても,それらの者は機構法の施行時に法律上当然に国とは別の法人格を有する機構の職員となる結果,その際に国の行政機関の職員としての地位とともに国家公務員としての身分をも喪失するのであるから(前提事実(3)ア),機構が希望者全員を採用しなかったり,上記規定が設けられなかったりしたことは,原告らが機構職員の地位を取得することができなかったことに関する違法性を基礎付ける事情とはなり得ても,同じく国家公務員の身分を喪失させる効果を有する本件各処分(分限免職処分)の違法性を根拠付ける事情になるとはいい難い。
この点を措くとしても,
関係法令の定め及び前提事実(2)に加え,(乙
証拠
A4,A5)によれば,機構が採用を希望する社保庁職員全員を採用しなかったのは,外部から優れた能力を有する人材を積極的に採用するためであり,機構法に職員承継規定が置かれなかったのは,機構の業務にふさわしくない社保庁職員が漫然と機構に移ることを防ぐため,第三者機関による厳正な採用審査を経た上で,社保庁職員を機構職員として採用することとされたことによるものと認められる。そして,上記(2)イのとおり,国の行政機関が担っていた事務を公法人に担わせることにした場合に職員承継規定を設けるか否かについては,立法裁量に属するものであることをも勘案すれば,国民の公的年金に対する信頼回復を図る観点から,国会が機構法に上記規定を置かなかったことや,新たに発足する機構が,外部からの人材を積極的に採用する方針を採った結果,採用を希望する社保庁職員全員を採用しなかったことについて,これが不合理なものであって,本件各処分の違法をもたらすものとはいえない。
なお,原告らは,機構法の制定による社保庁の廃止及びその際に職員承継規定が設けられなかったという立法行為が憲法に違反する旨の主張はしていないし,仮にその旨の主張があったとしても,上記で述べたことからすれば,このような立法行為が直ちに憲法に違反するものと解することはできない。

また,前提事実(8)及び証拠(甲A194の1,乙A1からA8まで)に
よれば,政府において,懲戒処分歴を有する社保庁職員を分限免職処分とする目的で,国会に提出した機構法案に職員承継規定を設けなかったとは認め難く,むしろ,懲戒処分歴を有していたために機構等に採用されなかった社保庁職員のうち291名は,厚労省に転任されて分限免職処分を受けておらず,分限免職処分となった社保庁職員のうち過半数は懲戒処分歴を有しなかったことが認められる。
そうすると,政府において,国民の公的年金に対する信頼回復の観点から,懲戒処分歴を保有する社保庁職員を分限免職処分に追い込むといった目的を有していたとは認められない。

さらに,前提事実(1)及び(4)によれば,政府は,機構法附則3条に基づ
いて策定した本件基本計画において,懲戒処分歴を有する社保庁職員は機構の正規職員及び有期雇用職員には採用されない旨を定め,これにより,懲戒処分歴を有する原告P1ら11名は,機構職員に採用される可能性がなくなり,事実上,同原告らに対する本件処分につながったことが認められる。
しかしながら,まず,政府が本件基本計画に上記定めを設けたことは,機構職員の地位を取得することができなかったことに関する違法性を基礎付ける事情とはなり得ても,機構職員への採用と同じく国家公務員の身分を喪失させる効果を有する本件各処分の違法性を根拠付ける事情になるとはいい難いことは,上記アで述べたとおりである。
この点を措くとしても,前提事実(2)及び(4)のとおり,社保庁については,業務外閲覧,業者からの物品授受等の国家公務員倫理法違反,国民年金保険料免除等の不適正事務処理,及び無許可専従等の不祥事が生じ,これに対して多数の社保庁職員に対する懲戒処分や矯正措置が行われるという状況を受けて,公的年金業務を担う組織の改革について政府内で議論され,最終的に,機構法により,同業務を営む新たな非公務員型法人として機構が設立され,社保庁が廃止されたことが認められる。そして,前提事実(1)のとおり,原告P1ら11名は,本件各処分の時点で,業務外閲覧をしたこと,カード管理懈怠により業務外閲覧を引き起こしたこと,無許可専従をしたこと又は無許可専従を惹起したことによる懲戒処分歴を有していたものである。この点,社保庁が取り扱う公的年金に対する国民の信頼が失われたことについては,他にいわゆる年金記録問題の存在がその原因の一つであり,同問題の発生の責任は社保庁職員のみに帰することができないものであったとしても,原告P1ら11名を含む社保庁職員による上記の業務外閲覧等もまた,国民の公的年金業務に対する信頼を失わせる原因の一つとなったことは否定することができない。
また,上記イのとおり,機構法に職員承継規定が置かれなかったのは,機構の業務にふさわしくない社保庁職員が漫然と機構に移ることを防ぐため,第三者機関による厳正な採用審査を経た上で,社保庁職員を機構職員として採用することとされたことによるものであるところ,機構法附則3条3項に基づき設置され,学識経験者から構成される再生会議は,懲戒処分歴を有する社保庁職員について,公正かつ厳格な審査を経た上での有期雇用職員への採用の可能性は残したものの,国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から,正規職員には採用すべきでないとの内容の最終整理を示している(前提事実(4))。そして,政府は,最終整理が示された後の与党での議論を踏まえ,懲戒処分歴を有する社保庁職員について,有期雇用職員としても採用しないこととして,本件基本計画の閣議決定をしたものである(甲A29,A30,A194の1)。
これらの事実によれば,社保庁による公的年金業務については国民の信頼を損ねる事態が生じていたことなどから,信頼回復のために機構法が制定されたところ,政府は,同法に基づき設置された学識経験者の意見及び与党での議論を踏まえた上で,本件基本計画を策定したものということができる。そうすると,政府が,多数の社保庁職員に対して業務外閲覧等を理由とする懲戒処分等がされている状況下において,国民の公的年金制度に対する信頼回復を図る目的で,公的年金業務を担う新たな組織である機構を設立するに当たって,懲戒処分歴を有する社保庁職員を機構職員として採用しないという方針を採り,これを内容とする本件基本計画を閣議決定したことについては,上記目的の達成という観点からして,一定の必要性と合理性を肯定することができ,少なくとも,機構法附則3条が,政府に対し,基本計画において機構職員の採用についての基本的事項を定める権限を付与した趣旨を逸脱するものであったり,懲戒処分歴を有する社保庁職員を不公正・不平等に取り扱ったりするものとはいえないから,政府が本件基本計画を閣議決定したことが本件各処分の違法をもたらすものということはできない。
なお,原告らは,経験豊富な社保庁職員を機構職員として採用しなかった結果,機構の日常業務に支障を来している旨主張するが,仮にそうであったとしても,このような本件各処分後の事情は,本件各処分の適法性に影響を及ぼすものではないというべきである。

この点,原告らは,原告P1ら11名が懲戒処分を受けていたことにつ
いて,これらの懲戒処分が違法であるか,少なくとも懲戒処分歴があることを理由として分限免職処分とすることは,二重処分に該当して違法である旨主張する。
しかしながら,前提事実(1)及び弁論の全趣旨によれば,原告P13に対するものを除き,原告P1ら11名に対する懲戒処分は,いずれも裁判所又は権限ある行政機関により取り消されていないことが認められるから,これらの処分の効力を否定することはできないし,原告P13に対するものも含め,上記の懲戒処分に重大かつ明白な瑕疵があり,無効なものであると認めるに足りる主張立証も存在しないから,原告らの上記主張は採用することができない。また,上記(1)で述べたとおり,本件各処分は,機構法の制定により社保庁が廃止されたことに伴い,社保庁の全ての官職が廃止されたために行われたものであって,原告P1ら11名が懲戒処分歴を有することを理由としてされたものではないから,原告らの上記主張は前提が欠けるものである。さらに,実質的に,原告P1ら11名が懲戒処分歴を有していたことが本件各処分につながったものと見るとしても,分限処分と懲戒処分とでは,その趣旨,目的が異なるものであって,分限処分に当たって,懲戒処分歴が考慮されたとしても,直ちに二重処分の違法があるということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。

また,前提事実(1),(6),(7)及び(9)によれば,原告P3ら4名につい
ては,懲戒処分歴がなく,機構等への採用を希望することが可能であったにもかかわらず,機構等に採用されることを希望せず,厚労省等への転任もされなかったため,本件処分に至ったものであることが認められる。そうすると,機構が採用を希望する社保庁職員全員を採用しなかったり,機構法に職員承継規定が設けられなかったりしたこと,更には本件各採用基準により懲戒処分歴保有者が機構等に採用されなかったことは,そもそも原告P3ら4名に対する本件処分の違法性を基礎付けるものとはなり得ないというべきである。

したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(4)以上によれば,本件各処分は,国公法78条4号の要件に該当するものというべきである。
2
争点(2)(本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)に
ついて
(1)判断枠組みについて

国公法78条所定の分限制度は,公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の観点から,同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに,公務員の身分保障の見地から,その処分権限を発動し得る場合を限定したものと解される。また,同条は,その規定ぶりからして,任命権者に対し,同条4号に規定する事由が存在する場合においても,分限免職処分をするか否かについての裁量権を認めているものと解される。
なお,この点,原告らは,同条が4号の場合に分限免職処分を義務付ける文言になっていないことを根拠に高度な分限回避義務が導かれる旨の主張をしているが,上記文言は,飽くまでも裁量権の有無やその内容・程度を判断する一つの考慮要素となるにすぎない。
そして,
国公法78条に規定する分限免職処分については,
同法27条,
74条1項及び108条の7並びに人事院規則11-4第2条及び第7条4項に基づき,平等原則,公正基準及び不利益取扱い禁止に違反してはならないというほかは特段の法令上の制約は存在せず,同法78条各号の要件を満たす場合には,これらに違反しない限り,任命権者は分限免職処分をすることができるのが原則である。
しかしながら,国公法78条4号に基づく分限免職処分は,被処分者には何ら責められるべき事由がないにもかかわらず,その意思に反して免職という重大な不利益を課すものであるとともに,上記のとおり,任命権者には同処分をするか否かについての裁量権が認められていることからすれば,任命権者において,同処分を回避することが現実に可能であるにもかかわらず,同処分を回避するために努力すべき義務(分限回避義務)を履行することなく同処分をした場合には,当該処分は,任命権者が有する裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして,違法なものになるというべきである。

これに対し,原告らは,国公法78条4号に基づく分限免職処分は,組
織の縮小や廃止等に伴い,個々の労働者に何らの帰責事由が存在しないにもかかわらず,その意に反して離職させる点において,民間における整理解雇と共通しているから,同処分については,最低でも民間における整理解雇4要件を満たすべきである旨主張する。
しかしながら,いわゆる整理解雇4要件(4要素)は,労働契約関係における解雇権濫用法理(労働契約法16条)にその基礎を有するものであって,上記1(2)イで述べたとおり,憲法の規定する行政の民主的統制の要請を受けた国公法に基づく任用関係にある国家公務員に適用する基礎を欠くものである(同法22条1項参照)。
また,実質的に考えても,整理解雇4要件(4要素)とは,一般に,①人員削減の必要性,②解雇回避努力の有無,③人選の合理性,④手続の妥当性を総合的に考慮して,解雇権濫用の有無を判断するという判断枠組みを指すところ,国公法78条4号に規定する分限免職処分においては,同法自体が,同号に規定する場合には,①の人員削減の必要性が存在することを法定しているものといえるし,③の人選の合理性及び④の手続の妥当性についても,それぞれ同法78条及びこれを受けた人事院規則11-4第7条4項や同法89条等による定めが存在するから,同法78条4号に基づく分限免職処分について,整理解雇4要件(4要素)に基づいてその違法性を判断することが適切であるとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

また,原告らは,平等原則の観点から,国家公務員に対する分限免職処
分をするに当たっては,国鉄を解体した際,行革法に基づき国家公務員を減員する際,及び公共サービス改革法に基づき公共サービスを民間業者に行わせる際などと同等の分限回避措置を採らなければならない旨主張する。しかしながら,国公法78条4号に該当する事由が生じた場合,分限回避義務の履行として,どのような分限回避措置を採ることができたかや,それらの措置を現実にどの程度講じるべきであるかは,その時々の個別具体的な事情によって異なるべきものであるところ,国鉄民営化,行革法に基づく減員又は公共サービス改革法に基づく取組等と,本件における社保庁の廃止とでは,その根拠法令や取り巻く状況が異なっており,このように事情の異なる事例と同様の措置を講じなかったからといって,本件各処分が直ちに平等原則に違反するものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(2)分限回避義務の主体について

上記(1)で述べたとおり,
国公法78条4号に基づく分限免職処分につい
ては,任命権者において,同処分を回避することが現実に可能であるにもかかわらず,分限回避義務を履行することなく同処分をした場合に,任命権者が有する裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法なものになるというべきである。
そうすると,
上記の分限回避義務の履行の有無については,
任命権者が,
その法令上の権限に照らして可能な分限回避措置を採ったか否かという観点から判断するのが原則である。


一方,本件においては,前提事実(4)によれば,政府が機構法附則3条に基づいて閣議決定した本件基本計画は,
不採用職員について,
「退職勧奨,
厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」
としているところ,
本件基本計画は,
再生会議が取りまとめた最終整理を踏まえて策定されたものであり,同最終整理においては,「厚生労働省及び任命権者である社会保険庁長官は,退職勧奨,厚生労働省への配置転換など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うべきである。また,官民人材交流センターの活用も図るべきである」とされていることが認められる。
そうすると,
本件基本計画は,
任命権者である社保庁長官等のみならず,
厚労大臣に対しても,厚労省への転任を含め,分限免職処分の回避に向けてできる限りの努力をすることを求めているものと認めるのが相当であり,厚労大臣は,内閣の一員として,閣議決定された本件基本計画に基づき,上記努力をすべき義務(分限回避義務)を負っていたものということができる。
そして,原告らに対する任命権者である社保庁長官等において,厚労大臣が上記分限回避義務を怠っているにもかかわらず,これを履行するよう促すなどせずに,漫然と国公法78条4号に基づく分限免職処分をした場合には,社保庁長官等が分限回避義務を履行することなく同処分をしたものとして,同処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものになるというべきである。

これに対し,原告らは,国家公務員の使用者は国民全体又はこれを代表する政府であり,これまで政府は,国鉄解体や行革法に基づく国家公務員の純減の際に政府全体として分限回避義務を果たしてきており,本件基本計画も政府全体で分限回避措置を採るために分限回避義務の主体を明示していないから,本件において分限回避義務を負っているのは政府全体である旨主張する。

(ア)確かに,国家公務員については,任命権者による任用行為により,国と当該国家公務員との間に権利義務関係が生じることになり,その意味では,国家公務員の使用者は国又は政府全体であるということも可能である。
しかしながら,上記1(2)イで述べたことからすれば,憲法は,行政組織を担う公務員の選定方法(任命権を有する機関等)も国会の立法により定めるべきものとしていると解されるのであり,それを受けて,国公法は,国家公務員関係の発生根拠となる任命権を終局的かつ独立的に各府省の長に与え,ある任命権者の任命権は,他の任命権者の任命権の対象となる官職には及ばないという制度を採用しており(55条1項),分限免職処分についても,それぞれの任命権者が処分権限を有し,国又は政府が処分権限を有しているわけではない(61条,78条)。そうすると,国公法78条4号に基づく分限免職処分をするに当たって履行されるべき分限回避義務について,任命権者にとどまらず,国又は政府が同義務を負っていると解することは,上記国公法の制度と整合しないし,上記のように解するべき十分な法的根拠が存在するともいえない。
(イ)それどころか,国公法78条4号に基づく分限免職処分について,政府全体が分限回避義務を負っていると解した場合,「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」
に該当しても,
総定員法1条1項に規定する政府全体の定員の総数の最高限度に満つるまで,転任による分限回避義務の履行が可能となることから,国公法78条4号の「廃職」による分限免職処分はあり得ず,上記定員の総数の最高限度を超える「過員」を生じた場合に限って分限免職処分ができることになり,同号の明文規定に反することになる。
(ウ)また,証拠(甲A12,乙A61)によれば,政府は,国鉄解体や行革法に基づく国家公務員の純減の際に,政府全体の取組として,府省間での転任等を行ってきたことが認められるものの,これらは,上記(1)ウで述べたとおり,その時々の個別具体的事情に基づくものであって,国公法78条4号に基づく分限免職処分について,政府全体が分限回避義務を負っていることを示すものとはいえない。
(エ)さらに,本件基本計画が,不採用職員については,「退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」とのみ記載しており,分限回避義務の主体を明示していないことについては,本件基本計画が最終整理を踏まえて策定されたものであり,そこに例示された取組の内容が最終整理において例示された取組の内容と同一であり,配置転換(転任)先も厚労省のみが明示されていること(前提事実(4))に照らせば,本件基本計画も,最終整理と同様に,分限回避義務の主体が厚労大臣及び任命権者たる社保庁長官等であることを前提とするものと理解するのが自然であるし,政府において,本件基本計画を閣議決定するに当たり,政府全体が分限回避義務を負うとの認識を有していたことをうかがわせる証拠も存在しない。
(オ)したがって,政府全体が分限回避義務を負っていることを前提とする原告らの主張は,前提が欠けるものであって,これを採用することができない。

また,原告らは,仮に任命権者のみが分限回避義務を負うとすると,転任の可能な単位が小さい行政機関の職員ほど,分限回避措置が採られないことになり,結果において著しい不平等が生じる旨主張する。
しかしながら,国公法は,任命権者(同法55条2項に基づき機関の長から任命権の委任を受けた者も含む。)が有する法律上の権限の大小にかかわりなく,任命権者に対して同法78条4号に基づく分限免職処分をする権限を与えているところ,当該任命権者が法律上採り得る分限回避措置が限定されていることを根拠に,政府全体が分限回避義務を負うと解することはできないし,政府全体が分限回避義務を負うと解すると国公法78条4号の明文規定に反することになることは,上記ウ(イ)で述べたとおりである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(3)分限回避義務の時的範囲について

原告らは,政府において,「ねんきん事業機構法案」が国会に提出され
た平成18年3月10日以降,少なくとも平成22年度中まで,分限回避義務を負っていた旨主張する。イ

しかしながら,平成19年7月6日に機構法が公布されるまでは,社保
庁の廃止という本件各処分における分限事由は何ら決定されていなかったのであるから,同日以前の時点において,原告らに対する任命権者である社保庁長官等が分限回避義務を負っていたということはできない。ウ
一方,機構法の上記公布によって,平成22年4月1日までに社保庁が
廃止されるとともに,社保庁職員は当然に機構職員となるのではないことが明らかになっていたものということができる(同法附則1条,8条)。しかしながら,機構法は,職員承継規定を設けなかったものの,機構職員の多くが社保庁職員から採用されることを想定しており(附則8条),その職員の採用についての基本的事項は,学識経験者の意見を聴いた上で,政府が基本計画において定めるものとされていたものである
(附則3条)

そうすると,機構法の公布時には,社保庁職員のうち,不採用職員や,機構職員の募集に応募せず,厚労省等への転任を希望する者がどの程度生じるかは全く明らかでなく,これを具体的に想定することも困難であったと考えられるから,この時点において,社保庁長官等において,現実的な分限回避措置を採ることは困難であって,社保庁長官等が具体的な分限回避義務を負っていたということはできない。

以上によれば,社保庁長官等及び厚労大臣が分限回避義務を負うのは,
本件基本計画が閣議決定され,機構職員の必要人数や,懲戒処分歴保有者が機構職員に採用されないという機構職員採用についての基本的考え方が明らかになった平成20年7月29日以降であるというべきである。なお,原告らは,本件各処分がされた後である平成22年度中も分限回避義務が存在する旨主張するが,本件各処分後の事情が本件各処分の適法性に影響することはないから,原告らの上記主張は採用することができない。
したがって,本件基本計画が閣議決定された平成20年7月29日以前及び本件各処分がされた平成21年12月25日以降における分限回避措置に関する原告らの主張は,前提が欠けるものであって,これを採用することができない。
(4)認定事実
以上で述べた観点から,本件各処分について,任命権者(処分権者)である社保庁長官等が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといえるかについて検討するに,前提事実に加え,証拠(項目ごとに掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

社保庁長官による取組

(各項目に掲記するもののほか,前提事実(6),(7),甲A188の1,A189の1,A190の1,A191の1,A192の1,乙A97,証人P18,弁論の全趣旨)
(ア)機構等への採用(乙A12,A16,A20,A93)

平成20年10月から同年11月にかけて,社保庁は,厚労省と共
同して,社保庁職員全員に対し,厚労省への転任及び機構への採用等の希望を把握するため,準備調査票に基づく本件準備調査を実施した。b
平成20年12月24日及び同月26日,社保庁は,設立委員会及
び協会から本件各採用基準が提示されたことを受け,社保局に対し,同基準を職員全員に配付するよう通知した。
同月24日及び同月26日,社保庁は,社保局に対し,本件各採用基準を同月末日までに各職員に配付するとともに,本件各採用基準が社保庁LAN掲示板にも掲載してあることを周知すること,平成21年1月9日に全国社会保険事務局長等事務打合せ(以下「本件事務打合せ」という。)を開催する旨を連絡した。
同日,社保庁は,本件事務打合せにおいて,社保局長及び同局総務課長等に対し,本件各採用基準及び本件意向調査の実施について説明し,同月16日までに,全職員に対してこれらを周知するよう指示した。上記の指示に基づき,社保庁職員に対しては,本件各採用基準の配付及び本件意向調査の実施に関する説明が行われた。

平成21年1月,社保庁は,社保庁職員全員に対し,機構等への採
用及び厚労省への転任等の希望を確認するため,意向調査票に基づく本件意向調査を実施した。

同年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果及び人事記録
に基づき,機構職員となることを希望した者1万1132名の中から,懲戒処分歴保有者14名を本件採用基準に合致しないとして除外し,機構職員となるべき者1万1118名を選定し,設立委員会に対して名簿を提出するとともに,協会職員となることを希望した者3077名の中から,懲戒処分歴保有者6名を改正協会採用基準に合致しないとして除外し,協会職員となるべき者3071名を選定し,協会に対して名簿を提出した。

同年5月19日,採用審査会は,社保庁長官から提出された名簿及
び書類の審査を行った上で,面接をすることが必要と判断した者の面接審査を行い,機構職員としての採否を設立委員会に報告した。
同日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,上記名簿に登載された者のうち,正規職員として9613名,准職員として358名の採用を内定し,
28名を不採用,
残りの1119名を保留等とした。
また,協会は,
社保庁長官から提出された名簿及び書類の審査を行っ
た上で,同名簿に登載された者のうち,45名の採用を内定した。同年6月25日,社保庁は,設立委員会及び協会が上記採用内定をしたことを受け,これを内定を受けた社保庁職員に伝達した。

同年10月8日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,健
康状態を理由として採否を保留していた社保庁職員161名について,正規職員として59名,准職員として78名の採用を内定し,24名を不採用とした。

同年5月19日,設立委員会は,社保庁長官に対し本件採用基準を
示して,准職員の1次追加募集を行った。
同年6月26日,社保庁は,社保局に対し,機構等への採用も厚労省への転任もされない社保庁職員(以下「支援対象職員」という。)のうち,本件採用基準を満たす者について,機構の准職員の1次追加募集に関する説明をするよう指示し,この指示に基づき,該当する職員に対する説明が実施された。
同年10月8日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の1次追加募集に応じた160名について,准職員として154名の採用を内定し,6名を不採用とした。

同年12月1日,設立委員会は,社保庁長官に対し本件採用基準を
示して,准職員の2次追加募集を行った。
同日,社保庁は,社保局に対し,支援対象職員のうち,本件採用基準を満たす者について,機構の准職員の2次追加募集に関する説明をするよう指示し,この指示に基づき,該当する職員に対する説明が実施された。
同月17日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の2次追加募集に応じた61名について,准職員として60名の採用を内定し,1名を不採用とした。

上記の経緯による機構職員の内定者は,合計1万2419名(正規
職員1万0799名及び准職員1620名)であり,そのうち,社保庁職員からの内定者は,1万0322名(正規職員9672名及び准職員650名)であった。
(イ)厚労省への転任要請(甲A194の1,乙A12,A36の2,A37,A76)a
平成21年1月9日,社保庁総務部総務課長(以下「社保庁総務課長」という。)は,厚労省大臣官房人事課長(以下「厚労省人事課長」という。)に対し,本件基本計画において,不採用職員について分限免職を回避するための努力を尽くす必要があるとされていることなどから,厚労省への転任者の選考に当たっては,経験,勤務実績,面談結果等を踏まえて総合的な判断の下で積極的に採用するとの立場から選定をするよう依頼するとともに,厚労省の新規採用及び欠員補充に当たって,不採用職員からの転任について検討するよう依頼した。

同日,社保庁が実施した本件事務打合せにおいて,厚労省は,同省への転任は,本件意向調査で同省への転任を第1希望とした者から,書類審査及び面接審査の結果等を総合的に勘案して審査した上で決定する旨を説明し,その後,社保局長又は同局総務課長等から,社保庁職員に対しても同様の説明が行われた。


本件意向調査において,社保庁職員のうち6017名が厚労省への転任を第1希望とし,これらの者全員について面接審査が行われた。同年6月25日,社保庁は,厚労省が同月22日までに1265名の転任を内定したことを受け,これを内定を受けた社保庁職員に伝達した。
その後,社保庁は,厚労省が転任の追加内定をした都度,これを内定を受けた社保庁職員に伝達し,最終的に,1284名(そのほか15名が内定を辞退した。)の社保庁職員に対し,厚労省への転任の内定を伝達した。

(ウ)地方再就職支援室の設置等(乙A30の1及び2)
平成21年6月24日,社保庁は,社保庁職員から機構等への採用者及び厚労省への転任者が内定した結果,支援対象職員については,同年12月31日時点で国公法78条4号に基づく分限免職処分となる可能性があることから,分限免職処分回避のための取組として,社会保険庁職員再就職等支援対策本部を設置し,同本部の下に,社会保険庁職員再就職等支援室(以下「再就職支援室」という。)を設置するとともに,各社保局に地方再就職支援室を設置することとした。
(エ)他府省への転任要請
(乙A42,A43の1及び2,A44,A91,A92)

平成21年7月8日,厚労省人事課長は,各府省人事管理官会議幹事会において,各府省の人事担当課長等に対し,支援対象職員の転任による受入れについて協力要請をした。
平成21年7月9日から同年8月20日にかけて,社保庁総務課長は,支援対象職員の他府省への転任を実現するため,全府省の人事担当課長を往訪し,社保庁長官名義の要請書に基づき,各府省の事務次官等に対し,支援対象職員の受入れを要請した。


また,社保庁は,各都道府県に所在する各府省の地方支分部局等に対して直接に受入れを要請するため,各府省の人事当局に対し,各府省の地方支分部局等への要請の可否を確認し,その結果,各府省の地方支分部局等において採用権限を有し,支援対象職員の受入れを要請することについての了解を得られた地方支分部局等に対して,受入れを要請することとした。
そして,平成21年8月11日及び同月31日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,上記の確認の結果,直接,受入れを要請してよい旨の回答が得られた各府省の地方支分部局等に対して受入れを要請するよう連絡した。


上記の受入要請の結果,公取委及び金融庁から,受入れの回答があったが,その他の府省(厚労省は除く。)からは,受入要請に応じる旨の回答はなかった。具体的には,公取委から,①受入数は5名程度まで,②対象年齢は20歳代後半から40歳代半ばまで,③勤務地は東京,④業務の内容は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被疑事件の審査等,⑤勤務成績が優秀であり,同法違反被疑事件の審査等を行うに必要な能力を有する者(事務所調査業務又は事務所の滞納処分業務の経験がある者)との条件が示された。社保庁は,公取委への転任者が5名と少数であること,勤務地が東京とされていることを踏まえ,社保庁本庁,社会保険業務センター,東京及び神奈川の両社保局に所属する支援対象職員から,11名の候補者を選定して,その名簿を公取委に提出した。
また,金融庁から,①受入数は1名,②対象年齢は30歳前後の係長クラス,③勤務地は東京,④資金運用等の金融関連業務の経験者又はIT関係の知識を有する者,⑤人物的にしっかりしている者との条件が示された。社保庁は,同本庁及び社会保険業務センターに所属する支援対象職員から,4名の候補者を選定して,その名簿を金融庁に提出した。
上記各名簿に基づき,公取委及び金融庁による面接等が実施され,公取委に8名,金融庁に1名の転任が内定した。
(オ)雇用調整本部の活用の打診(甲A194の1,A197)

平成18年12月,与党協議会が社保庁を廃止することなどを内容とする「社会保険庁改革の推進について」を取りまとめた後,社保庁は,厚労省とともに,雇用調整本部に対し,社保庁の廃止に伴う社保庁職員の転任について,同本部の枠組みを活用することを要請した。これに対し,雇用調整本部から,同本部を利用しての転任は,同年6月に国の行政機関の定員の純減を行うこととして閣議決定された事項に基づく取組であり,同取組において,社保庁の廃止に伴う職員の転任を扱うことは,趣旨において全く異なり,不可能である旨の回答があった。

平成20年10月,本件基本計画が閣議決定されたことから,厚労省人事課長及び参事官は,雇用調整本部の総務参事官に対し,社保庁の廃止に伴う社保庁職員の転任に関して,同本部の枠組みを活用することができるか否かについて再度確認するとともに,平成22年度における同本部による厚労省に対する転任の受入れを免除してほしいことを要請した。
同年11月,厚労省及び社保庁は,雇用調整本部に対し,同本部の枠組みの活用の可否について確認するとともに,平成22年度において,同本部による厚労省への転任の受入れを免除してほしいことを要請した。
しかし,雇用調整本部は,同月,同本部を活用することは不可能であるとともに,厚労省のみを特別扱いすることはできず,制度の趣旨に基づき,転任の受入れをしてもらう旨の回答をした。

(カ)地方公共団体への採用要請(甲A196,乙A46)

平成21年7月3日,社保庁は,全国知事会,全国市長会及び全国町村会に対し,地方公共団体において,欠員補充等のため採用予定がある場合などには,支援対象職員の選考採用について検討してほしい旨を文書により要請し,社保局からも,各地方公共団体に対し,同旨の要請をした。


しかし,地方公共団体からの受入れの回答はなかった。

(キ)官民センターの活用
(乙A32の1,A46,A47の1から3まで)

平成20年12月31日以降,各府省による職員の再就職のあっせんが禁止され(国公法106条の2第1項),国家公務員の再就職支援については,内閣府に設置された官民センターが一元的に行うことになった(同法18条の5から7まで)。

社保庁は,支援対象職員の再就職のため,官民センターにおける再就職のあっせんを活用した。具体的には,社保庁が同センターのシステムに支援対象職員の氏名等の基本情報を入力し,同職員がインターネットを通じて同システムにアクセスし,詳細な人材情報及び再就職希望を登録することとされた。
そして,人材情報等を登録した支援対象職員のうち,官民センターによる支援を希望する者について,社保庁が同センターに対して支援依頼を行った。社保庁は,再就職を希望する支援対象職員に対し,同センターに人材情報等を登録することが必要であることを説明し,その登録を促した。


また,社保庁は,関係団体等を訪問し,官民センターへの求人情報の登録を要請した。


支援対象職員のうち348名が官民センターによる支援を受け,108名が同センターのあっせんにより再就職した。

(ク)ハローワークの活用(乙A48)
平成21年7月3日,社保庁は,厚労省に対し,ハローワークを活用して求職活動を行う支援対象職員に対する支援を要請し,厚労省は,各都道府県労働局長に対し,同職員の再就職支援に協力するよう通知した。同月13日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,上記支援要請について通知した。
(ケ)厚労省の非常勤職員への採用(乙A36の1,A50の1及び2)平成21年12月8日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,地方厚生局(地方厚生支局を含む。以下同じ。)において,200名から250名の非常勤職員を公募していることを支援対象職員に情報提供するよう通知した。
支援対象職員のうち192名が上記非常勤職員に応募し,152名が採用された。
(コ)退職勧奨の活用(乙A30の1,A51の1及び2,A52)a
平成21年6月24日,社保庁は,社保局に対し,支援対象職員か
ら,勧奨があれば応じたい旨の意思表示がある場合,勤続年数(年齢)にかかわらず,勧奨退職を認める旨を通知し,これに基づき,支援対象職員に対する説明がされた。

同年12月7日以降,社保庁は,支援対象職員に対し,退職勧奨を
した上で,勧奨退職するか,分限免職処分により退職するか,自己都合で退職するかの意思確認をするとともに,それぞれの場合の退職手当の額についても説明した。

京都社保局長による取組

(各項目に掲記するもののほか,甲A188の2,A189の3,A190の2,A191の2,乙A98,弁論の全趣旨)
(ア)本件支援室の設置(乙A30の1及び2)
平成21年6月24日,京都社保局は,社保庁の指示により,局長,P19次長及びP20課長から成る本件支援室を設置した。
(イ)他府省への転任の要請
(乙A43の1及び2,A77の1,A78の1及び2)

平成21年7月,社保庁の指示により,京都社保局は,所管地区所在の法務省の地方支分部局等(京都府所在の地方法務局,刑務所,少年刑務所及び拘置所)への要請に係る担当事務局とされ,大阪社保局が,総務省,経済産業省,国土交通省の地方支分部局等(近畿管区行政評価局,近畿総合通信局,近畿経済産業局,近畿地方整備局及び近畿運輸局)への受入要請に係る担当事務局とされた。これを受けて,京都社保局は,京都地方法務局,京都刑務所,京都拘置所及び京都医療少年院に対して,大阪社保局は,近畿管区行政評価局,近畿経済産業局,近畿総合通信局,近畿運輸局及び近畿地方整備局に対して,それぞれ,支援対象職員の転任による受入れを要請した。

京都社保局は,京都労働局及び京都行政評価事務所に対しても,支援対象職員の転任による受入れを要請した。

(ウ)地方公共団体への採用要請(乙A77の1)

京都社保局は,京都府市長会を通じて京都府所在の各市に対して支援対象職員の選考採用を要請するとともに,京都市及び京都府に対して個別に要請した。


しかし,要請先の各地方公共団体からは,上記の受入要請に応じる旨の返答はなかった。

(エ)官民センターの活用(乙A47の1,A77の2)

京都社保局は,企業年金連合会近畿地方協議会厚生年金基金部会京滋福支部,P21,京都府国民年金基金,P22病院,P23,P24,P25,P26,P27,P28共済組合及びP29労働

金庫P30支店等の民間企業法人等を順次訪問して,官民センターへの企業登録の開拓を図った。

官民センターを利用して再就職した社保庁職員108名のうち,京都社保局職員は3名であった。


厚労大臣が実施した取組

(各項目に掲記するもののほか,甲A192の2から4まで,A193の2,乙A99,証人P31,弁論の全趣旨)
(ア)定員枠の確保(甲A202,乙A40,A45の1から3まで,A82)a
厚労省は,総務省等の査定官庁に対する平成21年度組織・定員要
求において,社保庁の廃止に伴い,厚労省が新たに行うこととなった年金業務(事業管理部門の業務,社会保険審査官等の業務,船員保険業務,年金記録)に伴う定員増及び第三者委員会に出向させる定員の合計706名が認められ,そのうち598名について,社保庁職員を転任により受け入れた(残りの定員のうち,年金業務に係る18名は国家公務員Ⅰ種採用職員が配置され,第三者委員会に係る90名は他府省からの出向者が配置された。)。

厚労省は,平成21年度の既定定員のうち,社保庁から出向を受け
ていた570名の定員については,そのまま社保庁職員を転任により受け入れた。

厚労省は,平成18年度から平成20年度までの国家公務員Ⅱ・Ⅲ
種試験合格者の平均新規採用者数333名に対して,平成21年度における新規採用者数を195名に抑えた。また,平成21年度中に退職等により生じた欠員をできる限り補充しないこととした。
これにより,厚労省は,最終的に,平成21年12月末日において,106名の欠員を確保した(定員数2万7695名に対し,在職者数は2万7589名。)。

以上により,厚労省は,社保庁の廃止に伴い,定員増の枠内で598名及び既定定員の枠内で686名の合計1284名の社保庁職員を転任により受け入れた。

(イ)厚労省への転任
(甲A66,A188の3から6まで,A189の2及び4,A190の3及び4,A191の3及び4,A193の1,A194の1,A195,A196,A199,A231,乙A38,A39,A41,A53,A79)a
平成21年1月1日,厚労省は,社保庁の廃止に伴って厚労省及び
地方厚生局に転任する職員の選考等の事務を円滑に処理するため,事務次官,厚生労働審議官,大臣官房長,総括審議官及び人事課長等から成る厚生労働省職員等選考会議を設置した。
そして,
厚労省は,本件意向調査において厚労省を第1希望とした6
017名から,1284名(そのほか15名が内定を辞退した。)を厚労省への転任候補者として内定した。
社保庁職員を厚労省に転任するに当たっては,
厚労省本省に493名
及び地方厚生局に791名の合計1284名を転任数とし,1級から8級の職員について,それぞれ級別に,厚労省本省及び地方厚生局ごとに転任数が定められ,この定員と級の枠内において,厚労省又は地方厚生局への転任がされた。

厚労省による転任候補者の選考については,
書類審査
(準備調査票,
人事記録,出勤簿,休暇簿,健康診断書,勤務評価資料,処分関係資料の審査)及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任予定数及び転任先の職務の内容に基づいて転任の可否が判断された。厚労省への転任面接のうち,社保庁本庁,社会保険業務センター及び社会保険大学校の職員に対するものは,厚労省において,社保局及びその管轄区域内の社保事務所の職員に対するものは,各地方厚生局において,それぞれ実施されたところ,面接評価に偏りが生じることがないよう,統一された面接要領(以下「面接要領」という。)が設けられた。


面接を担当する面接官は,事前に被面接者に係る準備調査票,人事記録,出勤簿,休暇簿,健康診断書,懲戒処分・矯正措置の状況,人事評価書を審査し,その結果,面接において確認すべき留意事項がある場合は,面接の際,上記留意事項を確認して面接評価における判断材料の一つとしていた。
また,
近畿厚生局においては,
より子細な面接評価を実施するため,
準備調査票を審査する際,面接票に「意向準備調査票の記載状況等評価」
という評価欄を設け,準備調査票の記載状況を,A:丁寧に記載,意向,熱意が伝わる,B:特段なし(普通),C:熱意が伝わらない(記載誤り,乱筆等)という3段階で評価し,面接評価における判断材料の一つとしていた。

面接要領において,面接審査は,被面接者1名に対しておおむね10分前後を目安に行われ,
被面接者の人柄及び性向等について評定し,
転任者が就くことが予想される官職への適否を判定することを目的とするものであり,
その判定は5段階の評価基準
(A:是非任用したい,
B:任用したい,C:任用してもよい,D:任用には多少疑問がある,E:任用不可)に従って評定するものとされていた。
なお,近畿厚生局においては,このAからEまでの評価のうち,C評価
(任用してもよい)
に評価が集中することが予想されたことから,
円滑な選考を実施するために,Cランクを上,中,下に区分し,より細分化した評定をした。
評定に当たっては,面接要領において,「志望動機の確認

※本人

の希望に反していないか」,「異動可能な範囲の確認(広域以外の場合は将来的な可否を確認)」,「希望分野の確認(保険医療指導監査部門,年金部門)」,「懲戒処分の確認(処分を受けた者は,改悛の情を確認)」,「労働関係部門への希望の有無及び船員保険担当経験の有無」,
「書類の確認で留意点があった事項」,
「健康状態の確認」
等を確認することとされた。
面接官は,上記事項を参考に,被面接者の人柄及び性向等を総合的に評価して,転任者が就くことが予想される官職への適否の判定として,AからEまでの評価基準に従い,評定をした。

面接要領においては,被面接者1名に対して面接官2名(総務管理官,
総務課長,
健康福祉課長及び指導養成課長等)
で行うこととされ,
面接官と被面接者が特別な関係(親族,友人,知人等)にある場合には面接官を交代し,また,社保庁人事グループの者は面接官にしないこと,面接の留意事項として,質問に当たっては,面接時間に極端な長短が生じないようにすること,評定及び判定に当たっては,面接票の項目ごとに評価の視点等を参考にしながら評定をするとともに,先入観や評価の厳しさの偏り等による誤差が生じないようにすることが定められていた。


近畿厚生局においては,平成21年2月2日から同月27日にかけて,
合計10名の面接官が2名ずつのチームを組んで,
1061名
(そ
のうち,京都社保局及びその管轄区域内の社保事務所の職員は,原告らを含む140名)について,被面接者ごとに10分から15分程度の時間で面接を実施した。
近畿厚生局においては,
同年3月19日,
転任者選考会議において,
級別に設定された転任数に基づき,転任面接の評価等を踏まえ,合計123名の転任者(1級が12名,2級が27名,3級が28名,4級が20名,5級が26名,6級が10名)が決定された。
なお,近畿厚生局においては,新たに欠員予定が生じるなどしたため,追加で8名の内定者が決定され,最終的に,131名の社保庁職員が同局に転任した。

(ウ)残務整理定員の確保

平成20年8月,厚労省は,平成21年度の組織・定員要求において,社保庁の廃止後に生じる職員の人事記録等の移管,退職手当の支給,同年12月分の超過勤務手当の支給や社保庁が行った調達・契約案件の残務整理及び出納整理,国有財産の承継事務等を処理するための残務整理定員を要求し,平成22年1月から同年3月までの暫定定員として,合計113名の定員が認められた。
上記残務整理定員の要求に当たっては,仮に,他府省が,通常の人事異動の時期である平成22年4月1日付けであれば社保庁職員を転任により受け入れることが可能となった場合に備え,同年1月1日から同年3月31日までの間,国家公務員としての身分を保有させておくための一時的な定員を確保するという意図もあった。

しかし,その後,社保庁廃止後の残務の内容が具体化するにつれ,残務整理に要する期間が短い業務(平成22年3月31日までの対応が不要な業務)が多数存在することが明らかになったほか,社保庁廃止時点で実際に当該業務に従事していた職員が,同廃止後の残務整理をそのまま担当することが円滑な事務処理に不可欠であると判断されたため,残務整理は,厚労省年金局,地方厚生局及び機構職員が対応することとなった。
また,社保庁による要請に対し,他府省による平成22年4月期での転任受入れの回答はなかった。


そのため,厚労省は,残務整理定員を利用することはなかった。

(エ)非常勤職員の募集(乙A36,A50の1及び2)
平成21年12月1日,厚労省は,支援対象職員に対する雇用確保の一方策として,非常勤職員を200名から250名程度公募した。支援対象職員のうち192名が上記非常勤職員に応募し,152名が採用された。
(5)分限回避義務の履行の有無について

上記認定事実によれば,
原告らに対する任命権者である社保庁長官等は,平成20年7月29日に本件基本計画が閣議決定された後,①同年10月及び同年11月,雇用調整本部に対し,同本部の枠組みの活用を要請したこと,②同年12月24日及び同月26日に設立委員会及び協会から本件各採用基準が提示されたことを受け,同基準を社保庁職員全員に対して配付するなどして,その内容の周知を図るとともに,懲戒処分歴を有するために本件各採用基準を明らかに満たさない職員のみを除外して,設立委員会及び協会に対して名簿を提出し,機構の准職員が追加募集された際には,職員に対して同募集の内容を説明するなどしたこと,③厚労省に対して,社保庁職員の転任を要請したこと,④平成21年6月24日,支援対象職員を支援するため,再就職支援室及び地方再就職支援室を設置するとともに,他府省への転任や地方公共団体への採用を要請したこと,⑤官民センターへの企業登録の開拓を図るとともに,支援対象職員に対し,同センターやハローワークを活用しての再就職を促したり,厚労省の非常勤職員の公募の情報提供をしたりしたほか,勤続年数(年齢)にかかわらず,退職手当の割増しが受けられる勧奨退職を認めることとしたことが認められる。また,上記認定事実によれば,厚労大臣は,平成20年7月29日に本件基本計画が閣議決定された後,①同年8月頃に採用を内定する平成21年度の新規採用数を抑制するとともに,同年度中に生じた欠員をできる限り補充しないこととして,同年12月末の時点で106名の空き定員を確保したこと,②社保庁の廃止に伴う定員増及び既定定員(上記空き定員を含む。)を利用して,合計1284名の社保庁職員を転任により受け入れたこと,③平成21年度組織・定員要求において,平成22年4月に社保庁職員が他府省に転任する際にも利用することが可能な113名の残務整理定員を確保したこと,④平成21年12月,支援対象職員の雇用確保のため,非常勤職員を公募したことが認められる。
そして,前提事実(8)によれば,社保庁長官等及び厚労大臣による分限回避措置により,平成21年12月時点で社保庁職員であった1万2566名のうち,1万0069名が機構に,45名が協会にそれぞれ採用され,厚労省に1284名,金融庁に1名及び公取委に8名がそれぞれ転任し,631名が勧奨退職により,3名が自己都合により退職することになり,原告らを含む525名(そのうち401名は,分限免職処分により退職手当が割増しされる制度の適用を希望していた。)について,分限免職処分を受けたことが認められる。

本件においては,前提事実(3)及び(4)並びに証拠(乙A45の1から3
まで)によれば,機構法には職員承継規定が設けられず,本件基本計画において,懲戒処分歴保有者は機構職員に採用されず,おおむね1000名程度が外部(民間)から機構に採用されることとなったことから,機構職員に採用されず,社保庁の廃止に伴って分限免職処分となる社保庁職員が相当数生じることが想定されたものの,閣議決定に基づく定員の純減や雇用調整本部を通じての転任の取組がされている中で,他府省による社保庁職員の受入れは非常に困難な状況にあったものと認められる。
このような状況の下で,社保庁が廃止され,その全職員が分限免職処分の対象たり得たところ,社保庁長官等及び厚労大臣が,上記のような各種の分限回避措置を採り,これが一定の成果を上げた結果,分限免職処分をされた者は最終的に525名(そのうち401名は,分限免職処分により退職手当が割増しされる制度の適用を希望していた。)にとどまったものであり,任命権者である社保庁長官等において,上記525名の分限免職処分をも回避することが現実に可能であったとは直ちにいえず,社保庁長官等及び厚労大臣による分限免職処分を回避するための努力が不十分であったともいえない。

これに対し,原告らは,定員枠の活用による分限回避義務の履行可能性
について主張するところ,そのうち,本件基本計画の閣議決定後において厚労大臣及び社保庁長官等が採るべき分限回避措置としては,①厚労省に懲戒処分歴保有者を転任させ,それに伴い厚労省に転任することができなかった者について,機構発足時に欠員となっていた定員枠等を活用すること,②雇用調整本部経由での他府省からの受入れ中止,③平成20年における厚労省の追加採用分の定員の活用,④平成21年4月の新規採用158名の抑制,⑤平成21年度途中での欠員枠の活用,⑥平成21年5月のハローワークの任期付職員の定員増の活用,⑦第三者委員会の定員活用,⑧厚労省の労働部門の定員活用,⑨残務整理定員の活用,⑩厚労省から機構への出向者分の定員活用を主張するものと解される。
なお,厚労大臣及び社保庁長官等は,機構等による採用,他府省への転任や他府省の採用抑制について権限を有しないから,これらの要請を行ったにもかかわらず,それらが実現しなかったことをもって,厚労大臣及び社保庁長官等に分限回避義務違反があったと評価することはできない。(ア)上記①について
原告らは,機構発足時の欠員数が471名で,平成22年5月末までに退職した109名も含めれば580名の定員枠が空いていたから,政府と機構が連携して,厚労省を含む各府省に懲戒処分歴保有者を転任させ,機構に採用される資格を有する者を機構に採用させれば,525名分の定員枠を確保し,分限免職処分を回避することは可能であった旨主張する。
しかしながら,社保庁長官等及び厚労大臣において,懲戒処分歴を有しない者に比べて,これを有する者を優先的に厚労省等に転任させる義務を負っていたとはいえないし,そもそも懲戒処分歴保有者を優先するということは,平等取扱い及び公正基準の観点からも問題があるといわざるを得ない。
また,機構法上,機構職員の採用について権限を有するのは設立委員会であり,社保庁長官等や厚労大臣は,これについて何ら権限を有しないから,上記のような手段によって分限免職処分を回避することが現実的に可能であったとも直ちにいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(イ)上記②について
原告らは,厚労大臣において,雇用調整本部経由での他府省からの受入れを中止すべきであった旨主張する。
しかしながら,認定事実ア(オ)及び証拠(乙A45の1及び2,A83,A86)によれば,雇用調整本部を活用しての府省間転任については,閣議決定に基づいて行われていた取組であり,厚労省においても,同閣議決定に基づき,同本部が決定した人数を他府省から受け入れることを義務付けられていたところ,厚労省は,平成20年10月及び同年11月,同本部に対して,平成22年度の転任の受入れを免除してほしい旨の要請をしたものの,これが受け入れられなかったことが認められるから,厚労大臣において,同本部経由での他府省からの受入れを中止することが現実的に可能であったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ)上記③について
原告らは,厚労大臣は,本件基本計画の閣議決定後,厚労省における追加採用の際,懲戒処分歴保有者を優先させる必要があった旨主張する。しかしながら,上記(ア)で述べたとおり,懲戒処分歴保有者を優先させるべきであったということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。
(エ)上記④について
原告らは,平成21年4月の新規採用数である158名を抑制すべきであった旨主張する。しかしながら,証拠(甲A197,A199,A202,証人P31)によれば,厚労省は,それぞれの組織の年齢階層別人員数に偏りが生じないようにし,約950か所に及ぶ厚労省の各組織・機関の将来を担っていく人材の確保・育成のために最低限必要な人数として,平成20年4月の228名より相当少ない158名を平成21年4月に採用したものと認められる。
そして,厚労省において,新規採用数を上記158名よりも抑制するとともに,当該抑制部分の定員を平成22年1月1日の機構法施行まで欠員のまま維持していたとしても,業務の円滑な運営や人材の確保・育成という観点から支障が生じなかったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(オ)上記⑤について
原告らは,平成21年6月末における厚労省の欠員数は382名であり,これに新規採用者数195名(うち158名が4月採用)を併せた合計577名を社保庁からの転任者で充てれば,分限免職処分を回避することができ,また,同年12月末の厚労省の欠員数は106名となっているところ,追加採用者数及び他府省からの受入数を除けば,厚労省は,休職者・出向者の復帰等で170名以上を補充し,意図的に転任者の受入可能数を減少させたものと考えられる旨主張する。
しかしながら,証拠(乙A89)及び弁論の全趣旨によれば,厚労省の欠員数が平成21年6月末日に382名に増加し,同年12月末に106名に減少したのは,平成20年末のいわゆるリーマンショックを受けて,ハローワークの人員体制を緊急で強化する必要が生じ,平成21年5月29日に成立した補正予算により,時限的措置として,304名の定員増措置が講じられたものの,これらの職員の採用が同年7月1日に行われたことから,当該304名の定員が欠員として計上されたために欠員数が増加し,その後,上記職員の採用が行われたため欠員数が減少したことによることが認められ,社保庁職員を転任することができる欠員が存在したということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(カ)上記⑥について
原告らは,平成21年5月のハローワークの任期付職員の定員304名増についても,社保庁職員の分限免職処分回避のために活用すべきであった旨主張する。
しかしながら,証拠(甲A197,A241,乙A89)及び弁論の全趣旨によれば,上記304名の任期付職員は,平成20年末のいわゆるリーマンショックを受けて,ハローワークの人員体制を緊急で強化するために補正予算で講じられた定員措置であり,任期付職員であって即戦力としての専門性が要求され,かつ,社保庁廃止以前に要員を緊急で確保する必要があったことから,社保庁職員の転任に用いることはできなかったものと認められる。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(キ)上記⑦について
原告らは,社保庁からの年金記録確認業務の移管に伴って第三者委員会に認められた252名の定員のうち,社保庁職員が転任したのは162名にとどまっており,残りの90名についても社保庁職員が転任されるべきであった旨主張する。
しかしながら,証拠(乙A81)及び弁論の全趣旨によれば,第三者委員会は,公正な第三者の立場で独立して年金記録を確認する組織であり,その職員全員を社保庁職員からの転任者とすることは,第三者委員会の中立性・公正性を確保するために望ましくないと考えられたため,他府省からも一部の者が出向することとされたものと認められる。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。(ク)上記⑧について
原告らは,厚労省の労働部門における社保庁職員の転任が66名にとどまり,そのうち新規採用抑制等による採用は60名にすぎず,社保庁職員に対する分限回避義務の履行に向けて何の積極性も示さなかった旨主張する。
しかしながら,厚労省の労働部門において,業務の円滑な遂行に支障を来すことなく,更なる新規採用抑制等をして,より多くの社保庁職員を受け入れることが可能であったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(ケ)上記⑨について
原告らは,厚労省に認められていた113名の残務整理定員を活用すべきであった旨主張する。
しかしながら,認定事実ウ(ウ)によれば,上記定員については,平成22年4月1日付けでの他府省への社保庁職員の受入れのために用いることも想定されていたものの,実際には,同日付けで社保庁職員を受け入れる他府省は存在しなかったことから,上記定員は用いられなかったことが認められる。
また,証拠(甲A199,A202)及び弁論の全趣旨によれば,厚労省は,平成22年4月1日に188名の新規採用をしたものであるところ,この188名については,厚労省が,行革法に基づく定員削減を実施しなければならない上,社保庁職員の受入れのために,平成21年12月末日までに欠員不補充等の措置を講じなければならないという状況において,それぞれの組織の年齢階層別人員数に偏りが生じないようにし,約950か所に及ぶ厚労省の各組織・機関の将来を担っていく人材の確保・育成のために最低限必要な人数として決定し,同年8月頃に採用予定者の内定をしたものであることが認められる。そして,厚労省において,新規採用数を上記188名よりも抑制したとしても,業務の円滑な運営や人材の確保・育成という観点から支障が生じなかったと認めるに足りる証拠はない。
したがって,平成22年1月から同年3月までの間について残務整理定員を活用することによって,同年4月に他府省又は厚労省に社保庁職員を転任させることができたとはいえないから,原告らの上記主張は採用することができない。
(コ)上記⑩について
原告らは,厚労省が機構に対する業務支援のために出向させていた147名の欠員を活用すべきであった旨主張する。
しかしながら,上記の147名は,機構からの要請を受けて業務支援のために一時的に出向していたものであるから,出向終了後に出向者を厚労省に復帰させるためには,147名分の欠員を維持しておく必要があったものと考えられ,この欠員枠を社保庁職員の受入れに充てることが可能であったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

以上によれば,社保庁長官等において,本件各処分をするに当たり,現
実に可能な分限回避義務の履行を怠ったり,また,厚労大臣が分限回避義務の履行を怠っているのを漫然と放置したりしたということはできず,社保庁長官等が本件各処分をしたことが裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできない。
(6)人選の合理性について

原告らは,本件各処分に当たり,人事院規則11-4第7条4項に基づ
く人選基準が定められなかっただけでなく,近畿厚生局への転任手続及び機構等への採用手続が不公正であったから,公正な人選が行われなかった旨主張する(ア)しかしながら,関係法令の定め並びに前提事実(8)及び(9)によれば,機構法の施行により社保庁が廃止されたことによって,全ての社保庁職員が分限免職処分の対象となり得たところ,大多数の社保庁職員は,社保庁が廃止されるまでの間に,機構等における採用,厚労省への転任等又は官民センターを活用した民間企業等への再就職をしたり,退職勧奨に応じて退職をしたりしたことによって分限免職処分の対象とはならなくなったが,これらの職員以外の525名の社保庁職員については,一律に分限免職処分とされたものであり,複数の候補者の中から分限免職処分の対象とする者の選定がされたものではないから,人事院規則11-4第7条4項を適用する前提が欠けるものというべきである。
(イ)一方,国公法27条及び74条1項並びに人事院規則11-4第2条及び第7条が平等原則及び公正基準を定めていることからすれば,任命権者は,同法78条4号に基づく分限免職処分をするに当たっての分限回避義務を履行する際,職員に対して平等かつ公正な取扱いをすべき義務を負っているというべきであり,原告らが人選の不合理性として主張する事情については,この趣旨において捉えることが可能である。(ウ)まず,近畿厚生局への転任手続について検討する。

認定事実ウ(イ)によれば,厚労省への転任は,転任を受け入れる定
員枠及び職務の級の制約がある中で,厚労省を第1希望とした6017名の社保庁職員について,書類審査及び面接審査に基づき,特に面接審査については,被面接者の人柄及び性向等について評定し,転任者が就くことが予想される官職への適否を判定する目的で行われたものであるところ,この面接は,面接要領に基づき,全国統一的に行われたものであり,その実施態様や内容が不公正・不平等であったとは認められない。b

これに対し,原告らは,本件転任面接について,面接官が,厚労省
への転任が分限回避措置として位置付けられているとの認識を有していなかったから,このような転任手続が適正な人員を選定するという観点から行われたものでないことは明らかである旨主張する。
しかしながら,認定事実ウ(イ)によれば,面接官は,面接要領に基づき,転任者が就くことが予想される官職への適否を判定することを目的として,原告らに対する本件転任面接を実施したことが認められるところ,上記のとおり,約6000名の転任希望者の全員を受け入れるだけの定員枠は厚労省に存在しない以上,転任希望者の選別が必要となるだけでなく,被面接者は,厚労省に転任した場合,転任先での職務に従事することになるのであるから,公務能率の維持という観点からすれば,上記の目的で本件転任面接がされたことも必要かつ合理的なものであったということができる。
そして,
面接官が,厚労省への転任が分限回避措置として位置付けら
れているとの認識を有していなかったとしても,そのことのみで直ちに本件転任面接が不平等・不公正なものとなるとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

また,原告らは,本件転任面接の時間が短時間であったことや準備
調査票の記載を評価の対象にしたことが不公正である旨主張する。しかしながら,認定事実ウ(イ)によれば,厚労省は,面接要領に基づき,面接時間について,被面接者1名当たりおおむね10分前後という時間を一律に決めて実施していたものであり,原告らに対してのみ不平等な扱いをしていたとは認められない上,約6000名から約1300名を上記面接等で選定したことをも併せ考慮すれば,面接時間の長さのみをもって本件転任面接が不公正であったということはできない。また,認定事実ウ(イ)によれば,近畿厚生局においては,本件転任面接に当たって,準備調査票の記載内容等も評価の対象としていたことが認められるところ,上記記載内容等も転任者が就くことが予想される官職への適格性を計る指標となり得るものであるから,面接評価に当たっての判断材料の一つとしたとしても不公正であるとはいえない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

さらに,原告らは,原告P4,同P6及び同P7について,公務災
害である精神疾患を発病しており,このような公務災害により療養中の者を分限免職処分の対象者とすることは許されない旨主張する。しかしながら,
上記原告らは,いずれも公務災害の認定請求すらして
おらず(甲B4の3,弁論の全趣旨),同原告らの精神疾患が公務災害に該当するものと認めるに足りる証拠はない。
また,近畿厚生局への転任に当たっては,転任者が就くことが予想される官職への適否を判定する必要があったといえるから,原告らの健康状態も評価の対象とすることが不合理であったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

また,原告らは,原告P3及び同P4が夫婦共に分限免職処分とな
ったことが不合理である旨主張する。
しかしながら,
たまたま配偶者が社保庁職員であるからといって,近
畿厚生局への転任に当たって優遇すべき理由はないし,そもそも原告P3及び同P4は,夫婦共に,機構等への応募も可能であったにもかかわらず,機構等への採用を希望せず,厚労省等への転任のみを希望した結果,いずれも転任が認められず,夫婦共に分限免職処分に至ったものであるから,同処分についてはやむを得なかったものといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。(エ)次に,機構等への採用手続について検討する。a
原告らは,社保庁職員に対して,機構への採用に関する説明が行わ
れなかったり,協会採用基準等が周知されなかったりした旨主張する。しかしながら,認定事実ア(ア)及び証拠(乙A12)によれば,社保庁職員に対しては,本件採用基準及び機構の労働条件が書面で配付されるとともに,社保庁LAN掲示板にも掲載され,本件意向調査に当たっては,社保庁職員に対して,本件採用基準及び本件意向調査の実施に関する説明も行われていることが認められる。
また,前提事実(7),認定事実ア(ア)及び証拠(乙A12,A23の1及び2,A34)によれば,社保庁は,協会職員の募集及び追加募集の際,社保庁職員に対し,協会採用基準等を周知したものと認められる。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らは,本件採用基準は病気休職者を殊更に不利益に取り扱うも
のであった旨主張する。
しかしながら,証拠(乙A10の1,A12)によれば,本件採用基準では,心身の故障により長期にわたって休職中の者であっても,回復の見込みがあり,長期的に見て職務遂行に支障がないと判断される健康状態であれば,機構に採用される可能性はあり,また,機構の労働条件においても,一定期間の病気休暇及び病気休職の制度が存在したことが認められるから,本件採用基準が病気休職者を殊更に不利益に取り扱うものであったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らは,協会採用基準等が懲戒処分歴のある社保庁職員を殊更不
利益に扱うものであった旨主張する。
しかしながら,上記1(3)で述べたところによれば,国民の信頼回復の観点から,協会採用基準等が,懲戒処分歴のある社保庁職員に対して厳格な採用基準を設けたことも不合理であるとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

以上によれば,社保庁長官等及び厚労大臣が,社保庁職員に対する分限
回避措置を採るに当たって,不平等又は不公正な取扱いをしたものということはできない。
(7)説明・協議義務について

原告らは,国公法78条4号に基づく分限免職処分に当たっては,適正
手続の観点から,被処分者に対する告知及び聴聞並びに職員団体との誠実な協議がされなければならないが,本件各処分に当たっては,原告らが納得することのできるような説明や誠実な協議は行われなかった旨主張する。イ
しかしながら,国家公務員に対する分限免職処分には行手法の適用はな
いところ(同法3条1項9号),国公法上,同処分については,処分の事由を記載した説明書の交付(89条)のみが手続要件とされており,被処分者に対する告知及び聴聞の機会の付与並びに職員団体との協議は,その手続要件とされていないし,憲法31条に基づき,これらの手続が求められるものとも解されない。
そうすると,本件各処分に当たって,上記の被処分者に対する告知及び聴聞並びに職員団体との誠実な協議がされなかったとしても,本件各処分が違法なものとなるとはいえない。

また,
この点を措くとしても,
前提事実(6)及び(9),
認定事実アに加え,

証拠(乙A64,B1の5,B2の5,B3の4,B4の4,B5の5,B6の4,B7の5,B8の5,B9の5,B10の5,B11の5,B12の5,B13の5,B14の4,B15の5)及び弁論の全趣旨によれば,社保庁長官等は,原告らを含む社保庁職員に対し,必要な都度,各種の情報提供を行うとともに,複数回にわたりその再就職又は退職に関する意向調査や必要な説明等を行うとともに,社保庁の廃止に当たり,社保庁の廃止,職員に対する分限免職処分一般に関する事項及び分限回避措置等について,職員団体との間で説明及び協議を行っていることが認められる。

したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(8)まとめ
以上によれば,社保庁長官等が本件各処分(原告P13ら3名に対するものを除く。)をしたことについて,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるということはできないから,これらの処分はいずれも適法なものというべきである。
3
争点(3)(本件各処分の国賠法上の違法性及び社保庁長官等の過失の有無等)
について
(1)上記1及び2で述べたとおり,本件各処分(原告P13ら3名に対するものを除く。)は適法であるから,社保庁長官等がこれをしたことが国賠法上の違法行為に該当しないことは明らかである。
(2)この点,前提事実(9)によれば,原告P13ら3名に対する本件処分については,人事院判定において取り消されていることが認められるところ,京都社保局長がこれらの処分を行ったことが国賠法上の違法行為に該当するかについて検討する。

まず,原告P13について見るに,前提事実(1)及び(9)によれば,人事
院は,懲戒処分を受けたことを前提に同原告は機構に採用される機会を失したところ,後に当該懲戒処分が取り消されたことから,同原告に対する分限免職処分を維持することは妥当性を欠くとして,同処分を取り消したものであることが認められる。
しかしながら,前提事実(1)及び(9)によれば,京都社保局長が原告P13に対して分限免職処分をした時点では,同原告に対する上記懲戒処分はいまだ取り消されていなかったことが認められるし,上記懲戒処分が重大かつ明白な瑕疵を有する無効なものであると認めるに足りる主張立証は存在しない。
そうすると,平成21年12月25日の時点では原告P13に対する懲戒処分は外見上有効に存在したものであるから,京都社保局長が同原告に対して本件処分をしたことが,職務上の注意義務に違反するものとして,国賠法上の違法行為に該当するということはできない。

また,原告P14及び同P15についてみるに,前提事実(1)及び(9)に
よれば,人事院は,社保庁及び厚労省の分限免職回避に向けた取組には不十分な点も認められ,少なくとも受入れを一部増加させる余地はあったところ,地方厚生局への転任候補者として選考された職員と同等の評価を受けたと認められる上記原告らに対する本件処分は,人事の公平性・公正性の観点から妥当性を欠くとして,同処分を取り消したものであることが認められる。
しかしながら,上記人事院判定は,原告P14及び同P15に対する本件処分が妥当性を欠くものであったと判断しているものであって,同処分が違法であると判断したものではないところ,本件転任面接を含む近畿厚生局への転任手続が不平等・不公正なものであったとはいえないことは上記2(6)のとおりである。また,京都社保局長が上記原告らに対して本件処分をすることが妥当でないことを認識し又は認識し得たにもかかわらず,本件処分をしたといった事情は認められない。
そうすると,京都社保局長が上記原告らに対し本件処分をしたことが,職務上の注意義務に違反するものとして,国賠法上の違法行為に該当するということはできない。

したがって,京都社保局長が原告P13ら3名に対する本件処分をした
ことが国賠法上の違法行為に該当するとはいえない。(3)以上によれば,社保庁長官等の過失の有無及び原告らの損害について検討するまでもなく,原告らの被告に対する国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
4
結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第5民事部

中垣内

健治
裁判官

馬場俊宏
裁判官

笹井三佳
裁判長裁判官
別紙2
関係法令の定め
1
国公法
(1)27条(平等取扱の原則)
すべて国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われ,人種,信条,性別,社会的身分,門地又は第38条第5号に規定する場合を除くの外政治的意見若しくは政治的所属関係によって,差別されてはならない。
(2)55条(任命権者)(平成26年法律22号による改正前のもの。以下,同条につき同じ。)

1項
任命権は,法律に別段の定めのある場合を除いては,内閣,各大臣(内閣総理大臣及び各省大臣をいう。以下同じ。),会計検査院長及び人事院総裁並びに宮内庁長官及び各外局の長に属するものとする。これらの機関の長の有する任命権は,その部内の機関に属する官職に限られ,内閣の有する任命権は,その直属する機関(内閣府を除く。)に属する官職に限られる。ただし,外局の長に対する任命権は,各大臣に属する。


2項
前項に規定する機関の長たる任命権者は,その任命権を,その部内の上級の職員に限り委任することができる。この委任は,その効力が発生する日の前に,書面をもって,これを人事院に提示しなければならない。

(3)61条(休職,復職,退職及び免職)
職員の休職,復職,退職及び免職は任命権者が,この法律及び人事院規則に従い,これを行う。
(4)74条(分限,懲戒及び保障の根本基準)

1項
すべて職員の分限,懲戒及び保障については,公正でなければならない。イ
2項
前項に規定する根本基準の実施につき必要な事項は,この法律に定めるものを除いては,人事院規則でこれを定める。

(5)75条(身分保障)1項
職員は,法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ,その意に反して,降任され,休職され,又は免職されることはない。
(6)78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
職員が,次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは,人事院規則の定めるところにより,その意に反して,これを降任し,又は免職することができる。
1号

人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして,勤務実績がよくない
場合
2号

心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合
3号

その他その官職に必要な適格性を欠く場合

4号

官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

(7)89条(職員の意に反する降給等の処分に関する説明書の交付)1項職員に対し,その意に反して,降給し,降任し,休職し,免職し,その他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い,又は懲戒処分を行おうとするときは,その処分を行う者は,その職員に対し,その処分の際,処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。
(8)108条の7(不利益取扱いの禁止)
職員は,職員団体の構成員であること,これを結成しようとしたこと,若しくはこれに加入しようとしたこと,又はその職員団体における正当な行為をしたことのために不利益な取扱いを受けない。2

国家行政組織法(平成19年法律109号による改正前のもの)
(1)3条(行政機関の設置,廃止,任務及び所掌事務)

1項
国の行政機関の組織は,この法律でこれを定めるものとする。


2項
行政組織のため置かれる国の行政機関は,省,委員会及び庁とし,その設置及び廃止は,別に法律の定めるところによる。


3項
省は,内閣の統轄の下に行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし,委員会及び庁は,省に,その外局として置かれるものとする。

4項
第2項の国の行政機関として置かれるものは,別表第一にこれを掲げる。
(2)4条
前条の国の行政機関の任務及びこれを達成するため必要となる所掌事務の範囲は,別に法律でこれを定める。
(3)6条
委員会の長は,委員長とし,庁の長は,長官とする。
(4)10条(行政機関の長の権限)
各省大臣,各委員会の委員長及び各庁の長官は,その機関の事務を統括し,職員の服務について,これを統督する。
(5)別表第一(第3条関係)
省庁
厚生労働省
3
委員会
中央労働委員会

社会保険庁

厚生労働省設置法(平成19年法律109号による改正前のもの。以下「厚労省設置法」という。)
(1)4条(所掌事務)厚生労働省は,前条の任務を達成するため,次に掲げる事務をつかさどる。74号

児童の心身の育成及び発達に関すること。

94号

健康保険事業に関すること。

95号

政府が管掌する船員保険事業に関すること。

98号

政府が管掌する厚生年金保険事業に関すること。

99号

政府が管掌する国民年金事業に関すること。

102号

社会保険労務士に関すること。

109号

所掌事務に係る国際協力に関すること。

110号

政令で定める文教研修施設において所掌事務に関する研修を行う
こと。

111号

前各号に掲げるもののほか,法律(法律に基づく命令を含む。)
に基づき厚生労働省に属させられた事務

(2)25条1項
国家行政組織法第3条第2項の規定に基づいて,厚生労働省に,社会保険庁を置く。
(3)26条(長官)
社会保険庁の長は,社会保険庁長官とする。
(4)27条(任務)
社会保険庁は,全国健康保険協会が管掌する健康保険の事業のうち健康保険法の規定により社会保険庁長官が行う業務に関する部分,政府が管掌する船員保険事業,厚生年金保険事業及び国民年金事業並びに児童手当事業のうち拠出金の徴収に関する部分を適正に運営することを任務とする。
(5)28条(所掌事務)
社会保険庁は,前条の任務を達成するため,第4条第1項第74号(児童手当法(昭和46年法律第73号)の規定による拠出金の徴収に関する部分に限る。)に掲げる事務,同項第94号(全国健康保険協会が管掌するもののうち健康保険法の規定により社会保険庁長官が行う部分に限る。)に掲げる事務,第95号,
第98号及び第99号に掲げる事業
(政府が管掌するものに限る。

の実施に関する事務並びに同項第102号及び第109号から第111号までに掲げる事務をつかさどる。
(6)29条(地方社会保険事務局)

1項
社会保険庁に,地方支分部局として,政令で定める数の範囲内において,地方社会保険事務局を置く。


2項
地方社会保険事務局は,社会保険庁の所掌事務を分掌する。

(7)30条(社会保険事務所)1項
地方社会保険事務局の所掌事務の一部を分掌させるため,所要の地に,社会保険事務所を置く。
4
機構法
(1)1条(目的)
日本年金機構は,この法律に定める業務運営の基本理念に従い,厚生労働大臣の監督の下に,厚生労働大臣と密接な連携を図りながら,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業(以下「政府管掌年金事業」という。)に関し,厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定に基づく業務等を行うことにより,政府管掌年金事業の適正な運営並びに厚生年金保険制度及び国民年金制度(以下「政府管掌年金」という。)に対する国民の信頼の確保を図り,もって国民生活の安定に寄与することを目的とする。
(2)2条(基本理念等)1項
日本年金機構は,その業務運営に当たり,政府管掌年金が国民の共同連帯の理念に基づき国民の信頼を基礎として常に安定的に実施されるべきものであることにかんがみ,政府管掌年金事業に対する国民の意見を反映しつつ,提供するサービスの質の向上を図るとともに,業務運営の効率化並びに業務運営における公正性及び透明性の確保に努めなければならない。
(3)3条(法人格)
日本年金機構(以下「機構」という。)は,法人とする。
(4)19条(職員の任命)
機構の職員は,理事長が任命する。
(5)20条(役員及び職員の地位)
機構の役員及び職員(・・・(略)・・・)は,刑法(明治40年法律第45号)その他の罰則の適用については,法令により公務に従事する職員とみなす。(6)27条(業務の範囲)1項
機構は,第1条の目的を達成するため,次の業務を行う。
1号

厚生年金保険法第100条の4第1項に規定する権限に係る事務,同法第100条の10第1項に規定する事務,同法第79条第1項各号に掲げる事業及び同条第2項に規定する運用並びに同法第100条の11第1項に規定する収納を行うこと。

2号

国民年金法第109条の4第1項に規定する権限に係る事務,同法第109条の10第1項に規定する事務,同法第74条第1項各号に掲げる事業及び同条第2項に規定する運用並びに同法第109条の11第1項に規定する収納を行うこと。

3号

前2号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。

(7)附則1条
この法律は,平成22年4月1日までの間において政令で定める日から施行する。ただし,次の各号に掲げる規定は,当該各号に定める日から施行する。1号

附則第3条から第6条まで,第8条・・・(略)・・の規定

(8)附則3条(基本計画)公布の日


1項
政府は,社会保険庁長官から厚生労働大臣及び機構への業務の円滑な引継ぎを確保し,政府管掌年金事業の適正かつ効率的な運営を図るため,機構の当面の業務運営に関する基本計画(以下この条及び附則第5条第2項において「基本計画」という。)を定めるものとする。


2項
基本計画は,次に掲げる事項について定めるものとする。
1号

機構が自ら行う業務と第31条第1項の規定により委託する業務との区分,委託先の選定に係る基準その他の業務の委託の推進についての基本的な事項

2号

機構の設立に際して採用する職員の数その他の機構の職員の採用についての基本的な事項


3項
政府は,第1項の規定により基本計画を定めようとするときは,あらかじめ,
政府管掌年金又は経営管理に関し専門的な学識又は実践的な能力を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者の意見を聴くものとする。

(9)5条(設立委員等)

1項
厚生労働大臣は,設立委員を命じて,機構の設立に関する事務を処理させる。


2項
設立委員は,基本計画に基づき,機構の職員の労働条件及び機構の職員の採用の基準を定めなければならない。

(10)附則7条(機構の成立)
機構は,この法律の施行の時に成立する。(11)附則8条(職員の採用)ア
1項
設立委員は,社会保険庁長官を通じ,その職員に対し,機構の職員の労働条件及び機構の職員の採用の基準を提示して,機構の職員の募集を行うものとする。


2項
社会保険庁長官は,前項の規定によりその職員に対し,機構の職員の労働条件及び機構の職員の採用の基準が提示されたときは,機構の職員となることに関する社会保険庁の職員の意思を確認し,機構の職員となる意思を表示した者の中から,当該機構の職員の採用の基準に従い,機構の職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して設立委員に提出するものとする。

3項
前項の名簿に記載された社会保険庁の職員のうち,設立委員から採用する旨の通知を受けた者であってこの法律の施行の際現に社会保険庁の職員であるものは,機構の成立の時において,機構の職員として採用される。

5項
設立委員は,機構の職員の採否を決定するに当たっては,人事管理に関し高い識見を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者のうちから厚生労働大臣の承認を受けて選任する者からなる会議の意見を聴くものとする。

(12)附則70条(国家行政組織法の一部改正)
国家行政組織法
(昭和23年法律第120号)
の一部を次のように改正する。
別表第一厚生労働省の項及び別表第二中「社会保険庁」を削る。
(13)附則第72条
厚生労働省設置法の一部を次のように改正する。
目次中「第4章

外局

第1節

設置(第25条)
第2節

社会保険庁

第1款

任務及び所掌事務(第26条-第28条)

部局(第29条・第30条)
「第4章

第3節

第2款

地方支分

中央労働委員会(第31条)」を

中央労働委員会(第25条)」に改める。(以下略)

(14)附則73条(処分,申請等に関する経過措置)1項
この法律(・・・(略)・・・)の施行前に法令の規定により社会保険庁長官,地方社会保険事務局長又は社会保険事務所長(・・・(略)・・・)がした裁定,承認,指定,認可その他の処分又は通知その他の行為は,法令に別段の定めがあるもののほか,この法律の施行後は,この法律の施行後の法令の相当規定に基づいて,
厚生労働大臣,
地方厚生局長若しくは地方厚生支局長又は機構
(・・・略)

・・・)
がした裁定,承認,指定,認可その他の処分又は通知その他の行為とみなす。5
人事院規則11-4(職員の身分保障)(平成26年人事院規則1-62による改正前のもの。以下同じ。なお,ここでいう「法」とは国公法を指す。)(1)2条
いかなる場合においても,法第27条に定める平等取扱の原則,法第74条に定める分限の根本基準及び法第108条の7の規定に違反して,職員を免職し,又は降任し,その他職員に対して不利益な処分をしてはならない。(2)7条4項(本人の意に反する降任又は免職)
法第78条第4号の規定により職員のうちいずれを降任し,又は免職するかは,任命権者が,勤務成績,勤務年数その他の事実に基づき,公正に判断して定めるものとする。
以上
別紙3
個別事情に関する原告ら主張

第1
1
原告P1について
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯

原告P1は,
高校卒業後,
国家公務員を目指してP32専門学校に通い,
国家公務員Ⅲ種試験を受験し合格した。
原告P1が公務員になろうとした理由は,原告P1の父が社保事務所の職員として勤務していた影響が大きい。原告P1は,父親の仕事ぶりを見て育ったこともあり,
高校生の頃には,
公務員を目指すことを決めていた。
原告P1は,特定の人のためでなく,不特定多数の国民のために働き,働いた分の対価をもらうという公務員の仕事に大きな魅力を感じていた。高額ではないが,安定した収入が得られることも,公務員の魅力の一つであった。


原告P1は,国家公務員Ⅲ種試験に合格後,京都社保局のほか,大阪労働局,兵庫労働局,兵庫社保局,大阪社保局,大阪税関,大阪航空局等から面接の問合せを受けた。また,当時,原告P1は,大阪府行政職職員,郵政省外務職職員に内定していた。
このような中で,原告P1は,一番国民に身近で国民と接する機会も多く,国の社会保障制度の根幹を担う社保事務所で勤務することが一番良いのではないかと考え,最終的に日頃より父の仕事ぶりを見て知っていた社保事務所で勤務することを選択した。

(2)家族構成
原告P1は,妻との二人家族である。
2
社保庁での職歴等(1)採用
原告P1は,平成5年4月1日に採用され,京都西社保事務所庶務課に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)
3
勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・被保険者からの信頼

原告P1は,平成5年4月1日に採用されて以来,16年9か月間にわたって,年金業務に従事してきた。原告P1は,健康保険給付,年金給付・相談,適用,保険料徴収等の様々な分野の業務経験を有し,平成19年9月1日からは係長に昇進して京都南社保事務所年金給付課に配属され,無遅刻・無欠勤で真面目に勤務し,課の中心的な役割を担ってきた。

原告P1がこれまでに担当してきた業務は,健康保険給付,年金給付・相談,適用,保険料徴収等の社会保険業務全般に及び,同原告は,常に真面目に,課の中心的な役割を担って,無遅刻・無欠勤で現場の最前線において業務に精通してきた。
特に,原告P1は,京都南社保事務所年金給付課の係長として審査と給付の実務に携わっていた頃,例えば遺族年金の請求が本妻と内妻の双方からあった場合等の特殊な調査手法や判断が要求される場面においても,知識や経験を活用して円滑に処理を行った。
また,
原告P1は,
離婚に伴う年金分割等の新たな制度が導入された際,
制度の概要や処理手順について理解を深めた上で,業務の混乱をできる限り収め,円滑に処理をすることができるよう心配りをしてきた。
そのため,原告P1は,同僚や上司から度々相談を受けるなど,職場内の信頼を得ていた。


原告P1は,社保庁に入庁以来,職場の草野球チームのメンバーとして京都府内の野球リーグ戦にも積極的に参加するなど,職場の仲間との交流,
親睦活動にも協調性を持って関わっていた。

京都社保局において,平成18年2月,「国民年金保険料の不正免除」問題が発覚した。これは,国民年金保険料の未納率の悪化が話題になったときに,市町村から提供されていた所得情報を利用し,被保険者の承諾を得ないまま免除処理を行って,納付率の向上を図ったというものである。主導して行ったのは幹部職員であり,原告P1は,これに関与していなかったが,その対応のために,遅くまで事務処理に当たり,帰宅することができたのが深夜になったこともある。その後,原告P1は,被保険者への謝罪と制度説明のため,
休日や夜間を問わず被保険者の自宅を訪問した。
つらい毎日であったが,原告P1は,訪問した被保険者に丁寧に説明することにより,理解を求め,ときには感謝されることもあり,年金業務の大切さを痛感した。

(2)年金記録問題への対応

平成19年初めから,国会で年金記録問題が大きく取り上げられるようになり,同年5月25日の衆議院厚生労働委員会における安倍晋三総理大臣(当時)の発言により,社保庁及び社保事務所に年金記録を確認しにくる国民が一気に増加した。
原告P1は,担当課である年金給付課の職員として,毎日30名から50名もの被保険者の対応に当たってきた。原告P1は,午前8時30分に出勤し,窓口が開設されている午後7時まで窓口対応を行い,その後に通常業務を行っていたため,毎晩午後8時や午後9時まで残業をしており,遅いときは残業が午後10時を超えることもあった。担当課の職員が次々と心労や過労で病気退職して人員不足に陥っていく中,原告P1は,自ら率先して出勤し,当初の危機を何とか回避することができた。


その後も,原告P1は,年金記録問題に先頭に立って対応し,本来の年金給付業務だけでなく,年金記録照会業務も積極的に支援した。原告P1は,業務に対する積極的な姿勢から,困ったときに頼りにされることも多く,宇治年金相談センターへの年金記録相談の休日出勤を急遽依頼されることや,「ねんきん特別便」窓口の臨時対応を依頼されることもしばしばであった。
また,原告P1は,「ねんきん特別便」の記録訂正後の年金額計算作業について,高度な年金の知識が必要だったので,被保険者に少しでも早く支給をしたいという思いから,休日出勤も積極的に行った。原告P1は,年金記録問題という異常事態において頼りにされる存在であった。ウ
平成20年度上期における原告P1の人事評価は,能力評価・実績評価共にB(役職階層に期待される能力を有し,役職階層に期待される実績を上げた。)であった。

4
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P1は,機構等への採用,厚労省又は他府省への転任を希望した。原告P1は,官民センターに登録すれば,公務への道が閉ざされるのではないかと考えて登録しなかった。
(2)手続の経過と結果

原告P1の志望
原告P1は,本件準備調査において,第1希望を厚労省本省とし,本件意向調査において,
第1希望を厚労省本省等とし,
本件追加調査において,
他府省及び厚労省を希望した。


本件転任面接

(ア)原告P1は,平成21年2月,本件転任面接を受けたが,面接時間は10分弱とごく短時間であった。その結果,原告P1は,Cマイナス2という評価を受けた。(イ)本件転任面接は,AからEまでの5段階で評価が行われることになっており,近畿厚生局は「任用しても良い」というC評価について上中下の3段階を付けるよう指示していた。しかし,原告P1の面接官は,自分の判断で,Cの中にプラス5から4を上,プラス3から1を中,マイナス1から5を下とする面接要領にない基準を設けてふるい分けを行っていた。面接官は,そのようなふるい分けを行いながら,プラス3と4を分ける評価基準はないとしており,基準のない恣意的評価であった。(ウ)また,原告P1は,「コミュニケーションについてどのように取よろしいと思いますか」という質問に対し,「普段からの話,対話が重要」と答え,「近畿厚生局に採用されたときに自分としてどのようなことができますか」
という質問に対し,
「職場の意見を反映することができる」
と答えるなど,積極的な回答を行ったにもかかわらず,それらはほとんど評価されず,Cマイナス2という評価を受けた。
(エ)さらに,原告P1の面接官は,なぜ上記のような10段階評価を行ったのかについて,「当然,面接する上で,採用する人数等はあるだろうと思いますので,そこはある程度の振り分けは必要ではないかと思いました」と述べており,適性のある者全てを採用するのでなく,採用が限られることを最初から想定して振り分けを行ったことを認めている。他の面接官も,近畿厚生局への転任が分限回避措置であるという認識はなく,近畿厚生局の業務を適正円滑かつ効率的に運営するために必要な職員を選考するという認識しかなかった旨述べている。

厚労省不採用後の経緯

(ア)原告P1は,平成21年6月25日,厚労省への転任がかなわず,それ以降,転任希望を一貫して提出しているにもかかわらず,京都社保局幹部からは,
「ハローワークには行ったのか」,
「公務職場への転任は,
お願いの挨拶は行ってみたが,無理だった,今後も恐らく無理だよ」,「有期雇用の街角年金相談センターでの勤務はどうか」,「今週中に官民センターへ登録して」などと言われるなど,およそ転任のために真摯な努力が尽くされたとはいえない状態だった。
(イ)原告P1は,平成21年8月頃,京都社保局幹部から,「有期雇用の街角相談センターに空きがあるので面接を受けないか」と言われたが,日給が1万円から1万2000円くらいで収入が激減することや,有期雇用では,家のローンや家族の生活を考えると,将来設計を立てられないことから断った。
(ウ)京都社保局のP19次長は,平成21年8月5日から同年12月10日までの間,原告P1と一度も接触すらしなかった。
P19次長は,同年5月以降,京都労働局,京都行政評価事務所,京都地方法務局,京都刑務所,京都拘置所等に対して,欠員状況を聞いて欠員があった場合には受入れの検討を要請したとのことであるが,それぞれ一度要請に行ったきり,その後は連絡を待っていただけであった。その結果,京都法務局には,同年12月時点で3名の欠員があったにもかかわらず,
P19次長はそうした事実を全く把握すらしていなかった。
(エ)平成21年12月1日には,厚労省の非常勤職員の募集があったが,原告P1は,収入が激減し,2年3か月の有期雇用にすぎないことから申込みをしなかった。
当時,京都社保局幹部が,勧奨退職と分限免職の場合での退職手当の金額を伝えに来て,どちらの退職を選択するのか聞きにきた。これに対し,原告P1は,公務職場への転任を希望し続けている以上,分限免職も勧奨退職も自分で選択することではないと明確に回答した。
(オ)京都社保局長は,「公務の職場は難しい」の一点張りで,何ら実のある取組をした形跡もないままに,
原告P1に対して分限免職処分をした。
分限免職処分後は,京都社保局から原告P1に対する就職のあっせん又は連絡等は一切ない。5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行
原告P1は,機構への採用又は厚労省等への転任を希望してきたが,機構に採用を拒否され,厚労省等への転任もされなかった。原告P1は,上司から,「ハローワークには行ったのか」,「公務職場への転任は,お願いの挨拶は行ってみたが無理だった,今後も恐らく無理だよ」などとにべもない話をされただけで,まともに転任の努力が尽くされた形跡はない。原告P1に対して民間の再就職先があっせんされたこともない。
このような事実に照らせば,原告P1に対して分限回避義務が尽くされたとはいえない。
(2)人選の不合理性

原告P1は,
平成5年4月1日に採用されて以来,
16年間にわたって,
年金業務に従事してきた。
原告P1は,健康保険給付,年金給付・相談,適用,保険料徴収等様々な分野の業務経験を有し,平成18年5月11日に係長に昇進して,京都南社保事務所年金給付課に配属され,無遅刻・無欠勤で真面目に勤務し,課の中心的な役割を担ってきた。
原告P1は,上記年金給付課の係長として審査と給付の実務に携わっていた当時,例えば遺族年金の請求が本妻と内妻の双方からあった場合等の特殊な調査や判断が要求される場面でも円滑に業務を遂行してきた。また,
原告P1は,離婚に伴う年金分割等の新たな制度が導入された際も,制度に関する正確な知識に基づいて円滑な業務処理に努め,同僚や上司から度々相談を受けるなど,職場内の信頼も厚かった。


原告P1は,平成20年10月1日以降,京都社保局の年金審査第二係主任として勤務していたが,一番請求書の多い京都南社保事務所を担当していた。原告P1の当時の仕事ぶりは,「真面目が服を着ているような人間」といわれるほどで,誠実に業務に取り組んでいた。その結果,京都南社保事務所のサービススタンダード(年金の請求を受けてから一定期間内に処理することができた数値)は,原告P1が担当になってから改善し,90%を超えるようになった。原告P1が分限免職になったことについて,京都社保局の上司も,「信じられないですね。このように仕事ができる人が分限免職になること自体が信じられないです。あっていいのかというふうに思っています」と述べるほどである。

以上の事実に照らせば,原告P1には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。

(3)懲戒処分歴を考慮すべきでないこと
原告P1は,平成17年12月27日付けで,業務外閲覧を理由として,戒告の懲戒処分を受けた。これは,著名人の年金記録を見たというものであるが,件数もわずかであり,閲覧した情報を何らかの目的に流用したといった事情も認められない。
原告P1の業務外閲覧は必ずしも重大な違法行為とまではいえないし,これについては既に懲戒処分がされているから,上記懲戒処分を理由に分限免職とすることには二重処分の違法がある。
(4)説明・協議義務違反
職員団体との交渉もないままに本件処分がされている上,原告P1は,具体的な免職理由の告知や弁解聴取の機会も一切与えられないままに,書面の郵送の方法により本件処分が告知されており,手続上も不備があることは明らかである。
(5)小括
したがって,原告P1に対する本件処分は違法である。第2

原告P2について

1
入庁経緯

大学進学を希望していた原告P2が,大学へ進学せず,公務員になろうと考えた理由は,混沌とした不安定な世情の下で,公務員であれば一生働き続けられる身分であることに魅力を感じ,公務員試験に合格した機会を生かそうと考えたためである。


原告P2は,国家公務員Ⅲ種試験に合格後,京都社保局のほか,大阪航空局,大阪地方検察庁や京都大学事務職員等の面接を受けた。
この中で,原告P2は,人に奉仕することで得られる喜びを感じるには,一番国民に身近で,国民と接する機会も多く,国の社会保障制度の根幹を担う社保事務所で勤務することが一番ふさわしいと強く思い,最終的に社保事務所で勤務することを選択した。

2
社保庁での職歴等
(1)職歴(略)
(2)昇任(略)

3
勤務態度
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事業所からの信頼

原告P2の担当してきた業務は,国民年金業務課を除く全般に及び,原告P2は,現場の最前線において業務に精通してきた。
原告P2は,適用業務(健康保険・厚生年金保険)に関する事業所加入促進事業において,制度の重要性や事業主の社会的責務を訪問先で丁寧に語り,法人設立以来長きにわたり加入に消極的だった50名規模の加入促進重点対象事業所について,説得・指導を続けて加入させるなどの成果を上げ,公務特有の受動的な業務だけではなく,外に打って出る業務に精力的に取り組んできた。


また,原告P2は,職員団体の役員にとどまらず,職場の親睦会の幹事等も積極的に務めるなど,職場の仲間と積極的に関わり,様々な形で頼りにされる存在であった。原告P2が最後に担当していた徴収課の保険料収納業務における滞納事業所の事業主から,同原告に対する本件処分への怒りや疑問の声が寄せられるなど,同原告は,国民から信頼される業務を行ってきた。

平成19年初頭から,国会において,年金記録問題が大きく取り上げられるようになり,
社保事務所で年金記録を確認する国民が一気に増加した。
こうした状況の中で,原告P2は,担当課でない徴収課の職員でありながらも自ら率先して出勤し,下京社保事務所では,予想を上回る来訪者があったが,要員不足の危機を回避することができた。
その後も,原告P2は,年金記録問題における特別対応が担当課を超えて割り振られる中で,先頭に立って対応し,本来の徴収業務だけでなく年金記録照会業務においても後輩の指導に当たった。
原告P2は,業務に対する積極的な姿勢から,困ったときに声を掛けられることも多く,社保事務所長から名指しで,年金記録相談の休日出勤を依頼されたり,「ねんきん特別便」窓口の臨時対応を依頼されたりすることもしばしばであった。また,原告P2は,年金記録における報酬改ざん問題に関し,社保事務所長自らが年金受給者宅へ出張する際に随行を命じられるなど,年金記録問題という異常事態においても頼りにされる存在であった。


このように,原告P2は,入庁以来22年間,一貫して社会保険業務及び職場組織に重用され,年金業務から排除される理由は見当たらない
(2)職員団体歴
原告P2は,採用と同時にP33労働組合に加入し,業務の効率化や国民サービスの向上を目指して活動してきた。原告P2は,同労働組合34支部青年部委員及び部長,34支部執行委員,同支部書記次長を歴任した後,平成12年11月から平成20年10月まで同支部(平成12年4月からは,組織変更によりP16P17支部)書記長の立場にあった。平成20年10月以降は,P16P17支部書記次長であった。
(3)懲戒処分歴
原告P2は,平成20年9月3日付けで,減給の懲戒処分を受けた。原告P2は,上記懲戒処分の取消訴訟を提起したが,京都地裁及び大阪高裁により,不当に請求が退けられ,最高裁判所においても上告棄却されている。しかし,原告P2に対して行われた上記懲戒処分は不当であり,少なくとも京都地裁及び大阪高裁は,懲戒処分に引き続いてされた本件処分についていずれも疑問を呈している。
4
分限免職処分時の身分,職務内容,給与等
原告P2の本件処分時の身分は,下京社保事務所徴収課の社会保険徴収専門官であり,給与は平成21年分が668万1777円であった。

5
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P2は,知識・経験や業務に対する意欲等を発揮することができる年金業務へ従事することを希望するとともに,公務員として職務を全うすることも希望した。
原告P2は,平成20年11月に実施された本件準備調査において,機構を第1希望として回答した。
その後,平成21年1月に実施された本件意向調査において,厚労省への転任を第1希望としなければ,厚労省への転任面接すら受けさせないという方針が職員に伝えられた。また,機構等による懲戒処分歴保有者の一律不採用方針が示されたことから,原告P2は,失職を回避するため,やむなく厚労省への転任を第1希望として回答した。
(2)手続の経過と結果ア

厚労省への転任

(ア)原告P2は,平成21年2月に本件転任面接を受けたが,10分から15分程度の短いものだった。
原告P2は,志望動機について,公務の本旨・趣旨を外さないように国民の権利を保障していくため,一生懸命仕事をしていきたいと説明した。また,原告P2は,異動可能な範囲として,通勤可能な範囲で近畿ブロック内であれば勤務することができると回答し,年金の経験を生かせる分野を希望すると,年金業務に対する思いを語った。
しかし,
面接官は,
当該面接を分限回避措置の一環と認識しておらず,
分限免職処分に関する人事院規則の存在も知らない状態であった。また,
面接官は,評価の基準については絶対評価としながら,何らの客観的基準も存在しないという極めて不合理な指示を受けて面接に当たっていた。そして,人事院の公平審査において,面接官は,面接票の各記載について,覚えていない,自分が書いたものではない,確認のために書いただけであるなどという不誠実な証言を繰り返し,意向調査票についても作成の前提となる事項について誤解をしていることが明らかになった。面接官は,いかなる基準により,原告P2の評価を行ったのか明らかにしなかった。
(イ)原告P2は,厚労省への転任について採否の通知を受けておらず,平成21年6月下旬,京都社保局のP20総務課長(以下「P20課長」という。)から,支援対象職員になったので官民センターに登録するよう連絡があり,不採用の事実を知った。

機構への採用拒否

(ア)原告P2は,下京社保事務所長及びP20課長に対し,懲戒処分歴保有者が機構の採用手続に向けた書面を提出した場合,どのような取扱いを各機関で行うのか質問した。その質問に対する回答は,提出された書類は,京都社保局の段階では排除せず,そのまま社保庁へ届けるとの内容であった。
(イ)こうした採用に向けた手続の中で,原告P2は,平成21年2月16日にP20課長から,社保庁長官が作成した名簿に原告P2の名前が登載されなかった旨告げられた。

その後の就職あっせん等とそれに対する対応

(ア)原告P2は,平成21年6月26日,P20課長と面談し,本件支援室の設置及び官民センターへの登録方法について説明を受けた。その場で原告P2からは,以前社保事務所長を通じて伝えているとおり,退職することなく,年金業務に携わりたいという意向を再度伝えた。
(イ)原告P2は,官民センターへの登録について,民間企業への就職が決まれば,同時に退職することが条件となっており,それ自体が退職を受け入れることを意味すると考えて登録しなかった。
(ウ)また,原告P2は,違法な懲戒処分を理由に不採用となることは理由がなく,その当然の結果として分限免職処分を受ける理由もないと考えたことから,官民センターに登録しなくとも,分限回避義務を果たすように要望した。
その後,原告P2は,P20課長から,P21が募集する宇治年金相談センター職員を希望するかの意向を確認されたが,勧奨退職を前提としたあっせんであったことから,自ら退職を希望することはできないと返答した。
原告P2は,P20課長に対して当局として使用者の責任を果たすよう求めたが,P20課長はこれに応じなかった。
(エ)原告P2は,厚労省の非常勤職員について,身分が不安的な期間雇用であるとともに収入が激減することから,応募を見送った。

本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応本件処分後,原告P2に対し,何らの就職あっせんもなかった。6
本件処分の違法性
(1)懲戒処分歴を考慮すべきでないこと
原告P2は,違法な懲戒処分のために,名簿に登載されず,本件処分を受けたものであって,二重処分に当たる。
上記懲戒処分について審理した京都地裁及び大阪高裁も,懲戒処分を適法とする不当な判断をする一方で,判決理由中において,懲戒処分に引き続いてされた本件処分に疑問を呈し,この点は本件処分の可否に関する訴訟において審理・判断されるべきであるとしている。
(2)分限回避義務の不履行
原告P2に対する分限回避措置は事実上全く行われなかった。
(3)人選の不合理性
本件転任面接における人選は,人事院規則を無視し,成績主義に基づかない不合理なものであった。
(4)小括
したがって,原告P2に対する本件処分は違法である。

第3
1
原告P3について
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯

原告P3は,子供の頃から,親に,人の役に立つ仕事ができ,経済的に安定している公務員になるように言われ続けて,公務員を目指すようになった。原告P3は,高校3年生だった昭和61年に公務員試験を受験したが失敗し,民間企業に勤務したものの,諦めきれず働きながら勉強し,再度受験して昭和62年に合格した。
原告P3は,最初に社保庁から面接を受けないかと声を掛けられ,面接を受けたところ合格したので,そのまま入庁することに決めた。イ
原告P3は,公務職場で働いてみて,人のためになりこつこつやれるこの仕事は自分の性格に合っていると思い,公務員になって良かったと思っている。

(2)家族構成
原告P3の夫は原告P4であり,
不当にも夫婦共に分限免職処分を受けた。
2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P3は,昭和63年4月1日に採用され,中京社保事務所国民年金業務課に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態
(1)原告P3は,中京社保事務所国民年金業務課に配属された後,京都西社保事務所や舞鶴社保事務所等で業務を行い,その間,健康保険業務や年金業務に関するほぼ全ての係を担当し,豊富な知識と経験を蓄えてきた。(2)原告P3は,与えられた仕事を常に真面目に着実にこなしており,新しい部署への異動時には連日のように仕事のことが夢に出てきたほどである。特に,年金記録問題の発覚後,総合窓口業務に就いた際,原告P3は,土日や夜間も来客者の相談に応対しており,超過勤務手当さえ払われておらず,過労から体調不良になったことも少なくない。
(3)原告P3がこのように仕事に邁進した理由としては,平成17年当時のP35社保庁長官(以下「P35長官」という。)が,「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言をしており,業務に励めば,安心して社会保険業務の職場で働き続けられると信頼していたこともあった。
また,平成19年8月,P35長官の呼び掛けで,年金記録問題の責任を感じての寄付と称して,個々の職員が夏期賞与の1割を国庫に返納させられた。原告P3は,庶務課長から,「6万6000円」と金額の記載された納付書を渡され,社保庁職員へのバッシングの中,断ることができない国民の目があったため,半強制的に納付手続を行っている。
4
本件処分に至る経過と本件転任面接
(1)分限免職に至る経緯

進路選択に関する希望とその理由
原告P3は,性に合っており,やりがいもある公務員の仕事を続けたいと思うとともに,最後の職が来客対応でストレスが非常に強く,民間でこのような仕事に就けば,夫のように自分も病気になってしまうと思ったため,公務職場への転任を希望した。夫の病状が不安定であるため,せめて安定した仕事に就いて夫を支えたいとの思いもあった。


手続の経過と結果

(ア)原告P3は,平成21年2月10日,本件転任面接を受けたが不採用となった。原告P3は,まさか本件処分を受けるとは思っておらず,国家公務員である以上身分保障があるので職を断たれることはなく,過去の事例からいっても転任は必ずされるものと思っていた。
(イ)その他就職あっせんと呼べるようなものは一切なく,原告P3は,本件転任面接後,平成21年6月26日に行われた京都社保局幹部との面談において,最初から公務職場への転任は厳しいということを懇々と聞かされた。
その後も,原告P3は,「職安に行ったか?」と聞かれ,「行っていません」と答えると,「一度行ってみたら厳しい状況が分かるはず」と冷たく言い放たれたり,市役所等へ頭下げに行ったけどあかんかった」「
とあっさり告げられたりした。京都社保局幹部には,公務職場へ転任することができるよう努力した形跡はなく,最初から諦めている様子であった。(ウ)平成21年11月17日,京都社保局幹部が,舞鶴社保事務所の分限免職対象者に面談するという名目で何の予告もなく突然来所し,そこでも「職安に行ったか?」と聞かれ面談が行われたが,原告P3は,勧奨退職の場合と分限免職の場合の退職手当の額を提示され「どちらを希望しますか」と聞かれただけであった。
京都社保局幹部には,同年12月31日まで1か月半もあるにもかかわらず,
本件処分を回避するために何とかしようという姿勢は全くなく,
退職が当然といった態度であり,その後,連絡さえないまま,同月28日,本件処分の辞令が交付された。
(エ)また,原告P3は,公務員としての転任を希望していたことと,とりあえず数字の上で分限免職者を減らしたいという政府の意図が明白で,契約期間終了後は無責任に放り出されると考えたため,機構の准職員や厚労省の非常勤職員への応募もしていない。
なお,原告P3は,公務職場への転任を希望していたため,官民センターへの登録はしていない。
(オ)原告P3は,夫婦共に分限免職処分を受けているが,家族の状況や双方が分限免職になった場合の影響等について一切聞き取りがされていない。夫である原告P4の病状に関しても同様であり,平成21年1月に行われた本件意向調査の際,意向調査票に「夫が鬱病にて通院治療中」と記載したにもかかわらず,現在の病状や転職による病状への影響の有無等について質問が行われることはなかった。
本件意向調査も含め,原告P3に対して幾度となく意向調査が行われたが,
「特に転任に対して具体的に仕事内容等を示してほしい。」,
「職
種については,今までの知識や経験をなるべく生かせるところで事務系の仕事に就きたいです」,「もう少し具体的な話が聞きたい」という質問に対して返答があったり,説明やあっせん等が行われたりしたことはなかった。また,原告P3は,追加調査票にはEメールアドレスの記入欄があり,個別に案内があると思い記入したものの,やはり何の連絡もなかった。

本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
本件処分後の就職あっせんと呼べるようなものは全くなかった。

(2)本件転任面接が適正に行われていないこと

原告P3に対して行われた本件転任面接は,わずか15分程度であった。そもそも面接官には,
当該面接が分限回避措置の一環であるとの認識がなく,
単に必要な人員を確保するという観点から行われたにすぎないものであった。また,「意向準備調査票の記載状況等評価」は,「いい答えにしろ悪い答えにしろ一応書かれていた」ということでB評価になっているが,客観的基準に基づく判断ではなく,面接官の主観的判断によるものであった。

面接官は,通勤範囲が限定されていることを重視して評価を行ったとするが,そのような取決めがあったわけではなく,面接官が独自に判断したものであった。原告P3は,本件転任面接において,
「希望分野」として「医療」
の分野で働きたいと意欲を示し,「努力のみ」であると,どんな仕事であっても真剣に取り組む姿勢を見せているにもかかわらず,そのような点は全く評価されていない。かえって,「おとなしい」,「人見知りする!」などと原告P3の能力とは関係のないことをマイナスに評価していることがうかがわれる。


また,
配偶者の病気や配偶者も分限免職となる可能性があることは,
本来,
分限免職を回避すべき必要性を高める要素として適正に評価しなければならない。しかし,配偶者の病気については「夫のことを考えると余り通勤に時間を掛けられない」とマイナス評価の根拠としており,本来は分限免職を回避すべき事情の一つとして考慮しなければならないにもかかわらず,逆に転任を否定する理由とされてしまっている。さらに,分限免職による影響の重大性を判断するためには,他に所得を得ている者がおり,
生計を維持することができるかどうかも重要な要素となる。
原告P3の配偶者は,
同じく分限免職の対象となり得る原告P4であるから,
このような事情も,
本件処分を回避すべき一つの大きな事情である。
しかし,
面接官は配偶者に関する事情を考慮の対象としておらず,全く配慮を行っていない。

原告P3は,率先して他の者より多めに窓口に出るなど,職場の同僚からも信頼されていた。
仕事の遂行にも間違いがなく正確で,
経験豊富であった。
しかし,こうした勤務態度については全く質問されることはなく,評価されることもなかった。


以上のように,原告P3に対して行われた本件転任面接は,面接官の主観的判断のみによって結論が出され,かつ考慮すべき事情を考慮せず,考慮すべきでない事情を考慮したものであるから,適正に行われたとは評価し得ないものであった。

5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P3は,性に合っていることと,安定した仕事に就いて病状の不安定な夫を支えたいとの思いから公務職場を希望したが,ごく短時間の形式的な本件転任面接のみで,厚労省等への転任がされなかった。
本件転任面接では,職員の採否を決めるに当たって必ず確認すべき人事評価に関する質問もなく,
客観的基準によらない主観的判断がされており,
また,鬱病である夫を持つことへの配慮も,夫婦共に分限免職となるおそれのあることに対する配慮もなかった。
これらの事情からすれば,本件転任面接が適正に行われたものでないことは明らかであるし,そもそも同面接は分限回避措置の一環という位置付けがされていなかった。イ

原告P3は,その後も公務職場を希望したが,京都社保局幹部との面談では,転任は厳しいということを聞かされるばかりで,転任先が探された形跡はなく,就職先のあっせんと呼べるものも一度もなかった。
かえって,分限免職処分まで1か月半もあったにもかかわらず,勧奨退職の場合と分限免職の場合の退職手当の額の提示という,退職を当然の前提とした提案がされるなど,京都社保局幹部の対応は不誠実極まりないものであった。
京都社保局幹部には分限を回避するために何かしようという姿勢は全くなく,退職が当然といった態度であった。


このような事実に照らせば,原告P3に対する分限回避義務が履行されたとはいえない。

(2)人選の不合理性

原告P3は,昭和63年4月1日に社保庁に採用されて以後21年間,健康保険業務や年金業務に真面目に取り組んできた。
人事評価も常に高く,
年金記録問題発覚後は超過勤務手当さえない状況で土日や夜間も来客の相談に応じており,過労とストレスから体調不良となることも少なくなかった。
これらの事実に照らせば,原告P3には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。


常に国民のために真面目に働いてきた原告P3には,
懲戒処分歴はなく,
このことからも分限免職をすることは許されない。
原告P3が,平成22年10月以降,機構の業務を外部委託によって行っていた職に雇用されていることからも,同人が能力を有していることは明らかである。


また,夫である原告P4も同じく社保庁職員であり,両人への影響が余りにも大きいことから,夫婦共々分限免職とすることは許されないというべきである。しかも,両人は共に懲戒処分歴はなく,常に真面目に業務に取り組んできたのであるから,両人共に分限免職とすることは許されることではない。

何より,原告P3には,年金業務等の加重なストレスと長時間労働から鬱病となり,本件処分時点で病気療養中であった夫がいる。
このように公務災害である精神疾患を発病した者については,使用者である国(政府)が雇用を継続し,家族が路頭に迷うことのないよう責任を持つべきであり,病気療養中に夫婦共々分限免職することは許されない。社保庁長官等は,原告P4に鬱病を発病させておきながら,何の責任も取らず,同人を精神的にも経済的にも支えていかなければならない原告P3をも分限免職としたのであり,その無責任さはとりわけ強く非難されなければならない。
原告P3は,本件意向調査の際,意向調査票に「夫が鬱病にて通院治療中」と記載しており,社保庁長官等はその現状を認識していたにもかかわらず,現在の病状や転職による病状への影響の有無等について一切配慮することなく本件処分をしている。


以上のとおり,原告P3を分限免職の対象者とすることは許されない。
(3)説明・協議義務違反
京都社保局幹部は,原告P3に対し,分限免職に関し説明らしい説明をしたことは一切ない。
京都社保局幹部は,官民センターの資料も「見ておいて」と言って渡しただけで何の説明もしておらず,機構の正規職員や准職員の労働条件についても単に資料を渡しただけで,原告P3の特性に配慮した上でどのようにすれば同人の雇用を継続することができるかという観点から説明を行ったことはなかった。
また,
官民センター等について説明し,
登録を勧めたこともない。
それどころか,京都社保局幹部は,原告P3に対し,分限免職を所与の前提として,勧奨退職の場合と分限免職の場合の退職手当の額の提示を行うなど,分限免職を強硬に推し進めている。
以上からすれば,説明・協議義務違反は明らかである。
(4)小括
したがって,原告P3に対する本件処分は違法である。
第4
1
原告P4について
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯
原告P4は,親も安心させることができ,経済的に安定していており,営利企業よりも社会に貢献できるという理由で公務員を目指し,1次試験に合格した。
原告P4は,1次試験に合格後,最初に奈良食糧庁の2次試験と面接を受けた。当時の食糧庁の採用は1名で,2次試験の競争率が10倍前後もあったが,農業政策への強い熱意もあったことから2次試験の合格を果たした。しかし,原告P4は,社保庁の2次試験の面接の際に「年金がこれからの世の中で社会福祉の重要な仕事になる」という話を熱心にされ,社保庁の仕事に魅力を感じるようになった。2次試験の合格発表は社保庁から一番に来たため,原告P4は,社保庁を選ぶか奈良食糧庁を選ぶか大いに迷ったが,熱心な話をされたことから社保庁に決めた。
その後,他府省からの誘いも多くあったが,社保庁に決めたことからいずれも断った。
奈良食糧庁も現在はなくなっているが,旧食糧庁の職員はみな他府省に転任され,分限免職にはなっていない。原告P4は,奈良食糧庁を選んでいれば分限免職にはならなかったのであり,たまたま社保庁を選んだために分限免職となってしまった。
(2)家族構成原告P4の妻は,同じく社保庁職員であり,同時に分限免職となった原告P3であり,不当にも夫婦共々分限免職となった。
2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P4は,平成3年4月1日に採用され,京都南社保事務所会計課に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事務所・国民からの信頼

原告P4は,採用後,京都西社保事務所や舞鶴社保事務所に配属されて業務を行い,その間,健康保険業務や年金業務に関するほぼ全ての係を担当し,豊富な知識と経験を蓄えてきた。


国民年金の記録を1か月でも間違えれば,当人にとっては生涯にわたり年間約1700円を受給できなくなるという大きな問題であるため,原告P4は,一つのミスもしないよう細心の注意を払って業務を行った。一方,
国民や未納者からの風当たりは強く,
原告P4は,
電話で
「死ね」

「ゴキブリ」,「税金泥棒」など誹謗中傷を受ける中,国民のために現在の生活と将来の年金を守るという信念から,何とかモチベーションを維持していた。
原告P4は,国民の年金受給額に直接影響する年金の資格取得日や資格喪失日等の記録調査では,宙に浮いた年金記録を本人と結び合わせて統合するため,担当する国民の氏名,生年月日,会社名等の個人情報と記録上の不正確な記載を細かく対照し,その当時の同期入社の社員や勤務先の証言等を最大限引き出すなど,細々とした届出や転記の誤りを探し出し,1か月分でも年金を多く受給してもらえるよう奮闘した。ウ

原告P4がこのように仕事に邁進した理由としては,国民のためにという思いがあったのはもちろんであるが,平成17年当時のP35長官が,「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言をしており,業務に励めば安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼していたこともあった。

(2)公務災害である鬱病を発病していたこと

原告P4は,平成19年3月に舞鶴社保事務所国民年金業務課国民年金調査官となったが,窓口対応や年金管理というプレッシャーとストレスの強い激務であるにもかかわらず,仕事の方法について十分な指導もなく,マニュアルを読む時間も与えられず,厳しいストレスを感じるようになった。
原告P4は,入力業務の傍ら電話対応も行っており,社保庁に対する目がとりわけ厳しい情勢の中,電話口で激しく糾弾されることも少なくなかった。


原告P4は,連日午後10時まで働き,土日もサービス出勤して国民年金の年度末報告を行っており,過労から,平成19年5月7日には電話応対のため受話器を取ろうとした手が震えだし,途中で意識が薄れて通話ができない状態になるなど体調を崩すようになった。
原告P4は,体が動かなくなり,精神科を受診した結果,同年6月1日に医師に抑鬱状態と診断され,同月4日から同年8月31日までと,平成20年7月11日から同年8月31日までの間,それぞれ病気休職した。原告P4は,本件処分時にはいまだ病気療養中で,週3回は昼から病休を取り,週2回は全日勤務をするという状態であり,復帰に向けて懸命に努力している状態であった。


このように,原告P4が鬱病を発病したのは過重なストレスと長時間労働による過労のためであり,公務災害にほかならない。4

本件処分に至る経過と本件転任面接
(1)分限免職に至る経緯

進路選択に関する希望とその理由

(ア)原告P4は,本件準備調査では,厚労省を第1志望,機構への移籍を第2志望にしていたものの,機構に採用されても病気が原因で解雇されることが予想されたため,機構の志望を断念せざるを得なかった。なぜなら,平成20年12月に提示された機構の労働条件では,機構は設立後に正規職員を110名削減する計画で,就業規則の中に,解雇事由として「精神又は身体の故障により,業務の遂行に支障があると機構が判断したとき」という既定があったり,病気休職の上限は90日とされ,休職明けに最初に出勤した日から6か月以内に再度休職したときは休職期間を通算する旨の規定があったりしたため,
原告P4のように,
病気休職のために勤務成績が悪い者が真っ先に解雇される可能性が高かったからである。
(イ)原告P4は,公務職場への単願で不採用となるとは思っていなかったし,そのような説明もなかった。

手続の経過と結果

(ア)原告P4は,公務の職場への転任について,平成21年6月26日に行われた舞鶴社保事務所での面談の際,P19次長から「他の職場を探してきます」と言われたものの,約1か月後「職安に行ったか」と開口一番言われ,「他府省にも頭下げに行ったがあかんかった」とあっさり告げられた。
原告P4は,
公務の職場を探してほしい旨を伝えたものの,
「難しい」
と言われるばかりで電話すらもらえず,その後も突然呼び出され「職安に行ったか」などと聞かれるばかりで,何の連絡もなかった。
(イ)原告P4は,同年7月29日,P19次長から,転任先として税務署はどうかという話を受けた。また,京都社保局幹部は,同年11月17日午後,舞鶴社保事務所の分限免職対象者に面談するという名目で何の予告もなく突然来所したが,原告P4は,鬱病治療のため病気休暇を取得していて,不在であったため,面談は行われなかった。
そして,妻の原告P3の面談の際,同人に対し,原告P4について勧奨退職の場合と分限免職の場合の退職手当の額を提示され,「どちらを希望しますか」と伝言があっただけである。
原告P4は,そもそも直接説明を受けないことについて了承したことはないし,原告P3を通じて何らかの意向を示したこともない。もちろん,整理退職を希望するなどと述べたこともない。
(ウ)原告P4は,夫婦共々分限免職になっているが,家族の状況や双方が分限免職になった場合の影響等について,一度たりとも聞き取りは行われていない。
原告P4の病状についても同様であり,本件意向調査の際,意向調査票に「1年8か月前に鬱病にかかり現在通院治療中です。病気が悪化して長期欠勤になったら即解雇されずに頑張ったら何度でも少しずつ元どおり正常になりたいことができる勤務先を希望します」(注:原文のまま)と記載したにもかかわらず,現在の病状や転職による病状への影響の有無等について質問されることは一切なかった。
機構の就業規則の定めについても,説明するどころか,むしろ触れないでおこうという雰囲気であった。
本件意向調査も含め,原告P4に対して幾度となく意向調査が行われたが,
説明やあっせん等が行われたりしたことは一度たりともなかった。ウ
本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
原告P4に対する就職先のあっせんと呼べるようなものは,一度もなかった。平成22年1月に機構から准職員の募集要項が来たが,准職員は7年経てば雇止めになる上,正規職員よりも更に待遇が悪く,病気を持った者は雇止めになる可能性が極めて高かった。
(2)本件転任面接が適正に行われていないこと

原告P4は,近畿厚生局への転任を単願し,平成21年2月10日に本件転任面接を受けたが,わずか15分程度のおざなりなものであった。

近畿厚生局の面接官には,本件転任面接が分限回避措置の一環であるとの認識がなく,本件転任面接は,単に必要な人員を確保するという観点から行われたにすぎなかった。また,「意向準備調査票の記載状況等評価」については,原告P4の記載がないというだけでC評価になっている。しかし,そのような取決めが事前に面接官の間で行われていたわけではなく,面接官が独自に主観的に判断したものであった。


原告P4は,客観的基準に基づかない抽象的な理由でE評価とされた。原告P4は,本件転任面接において,
「希望分野」として「何でもやってみる」
とやる気を示し,「22年1月までには身体を戻したい」と復帰への意欲も示しているにもかかわらず,そのような点が全く評価されなかった。

また,原告P4の病気や配偶者も分限免職となる可能性のあることについては,本来,分限免職を回避すべき必要性を高める要素として適正に評価しなければならない。しかし,原告P4の病気について,
「一つのポイント」,
「通院をされているということで・・・(略)・・・難しいんではないか」とマイナスの評価をしている。
さらに,本件処分による影響の重大性を判断するためには,他に所得を得ている者がおり,生計を維持することができるかどうかも重要な要素となるが,面接官は,配偶者に関する事情を考慮の対象としておらず,むしろ意図的に避けて,全く配慮を行っていない。


原告P4は,職場の同僚からも信頼され,仕事も早く,上司にとっても非常に助かる存在であったが,こうした勤務態度については全く質問されることはなく,評価されることもなかった。

以上のように,原告P4に対する本件転任面接は,面接官の主観的判断のみによって結論が出され,考慮すべき事情を考慮せず,考慮すべきでない事情を考慮したものであるから,適正に行われたとは評価し得ないものであった。

5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P4は,機構等を希望しても,病気を理由に遠からず解雇されることが容易に予想されたため公務職場を希望したが,形式的な短時間の面接のみで,厚労省等に転任されなかった。
本件転任面接では,職員の採否を決めるに当たって必ず確認すべき人事評価に関する質問もなく,
客観的基準によらない主観的判断がされており,
また,鬱病への配慮も,夫婦共に分限免職となるおそれのあることに対する配慮もなかった。
これらの事情からすれば,本件転任面接が適正に行われたものでないことは明らかであるし,そもそも同面接は分限回避措置の一環という位置付けがされていなかった。


原告P4は,その後も公務の職場を希望し続けたものの,「職安に行ったか」などと言われるばかりで,転任先が探された形跡は一切なく,就職先のあっせんと呼べるものも一度もなかった。
かえって,原告P4に対し,勧奨退職の場合と分限免職の場合の退職手当の額の提示という,退職を当然の前提とした提案がされるなど,京都社保局の対応は不誠実極まりないものであった。
しかも,平成21年11月17日,原告P4があらかじめ病気休暇を申請し休暇中であることは容易に把握することができたにもかかわらず,わざわざ同人が休暇中の時間に舞鶴社保事務所を訪れ,同人の了解を得ることなく原告P3に説明をしており,原告P4の意向を直接本人に確認することもしていない。

このような事実に照らせば,原告P4に対する分限回避義務が履行されたとはいえない。

(2)人選の不合理性

原告P4は,平成3年4月1日に社保庁に採用されて以後18年間,健康保険業務や年金業務に常に真面目に取り組んできた。人事評価も常に高く,何よりも国民のため,少しでも年金受給額が増えるよう,宙に浮いた年金記録を照合し結び合わせる作業の丁寧さと根気の良さには定評があった。
以上の事実に照らせば,原告P4には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。


原告P4は,常に国民のために真面目に働き,懲戒処分歴はなく,このことからも分限免職をすることは許されない。


妻である原告P3も同じく社保庁職員であり,両人への影響が余りにも大きいことから,夫婦共に分限免職とすることは許されない。
しかも,両人は,共に懲戒処分歴はなく,常に真面目に業務に取り組んできたのであるから,両人とも分限免職とすることは許されない。

何より,原告P4は,年金業務等の加重なストレスと長時間労働から鬱病となり,本件処分時には病気療養中であった。このように公務災害である精神疾患を発病した者については,使用者である国(政府)が責任を持って雇用を継続すべきであり,復帰に向け懸命に努力しているときに無情にも分限免職することは許されない。
このことは,業務上災害による療養中の解雇を禁じた労働基準法(以下「労基法」という。)19条1項の趣旨からも明らかである。オ

社保庁長官等は,原告P4に鬱病を発病させ,他の職場への転職を不可能にしておきながら,何の責任も取らず,民間であれば解雇の禁じられる病気療養中に,妻である原告P3共々分限免職としたのであり,その無責任さは厳しく断罪されなければならない。
しかも,社保庁長官等は,本件意向調査で鬱病の事実を認識しているにもかかわらず,現在の病状や転職による影響等について一切配慮することなく本件処分をしており,人選の不合理性は極めて顕著である。


以上のとおり,原告P4を分限免職の対象者とすることは許されない。
(3)説明・協議義務違反

社保庁長官等は,原告P4に対し,本件処分について説明らしい説明をしたことはない。社保庁長官等は,官民センターの資料も「見ておいて」と言って渡しただけで何の説明もしておらず,機構の正規職員や准職員の労働条件についても,単に資料を渡しただけで,原告P4の特性に配慮した上でどのようにすれば同人の雇用を継続することができるかという観点から説明を行ったことはなかった。


それどころか,社保庁長官等は,分限免職を所与の前提とした退職手当の額の提案すら,原告P4に対して直接行っていない。


以上からすれば,社保庁長官等の説明・協議義務違反は明らかである。
(4)小括
したがって,原告P4に対する本件処分は違法である。
第5
1
原告P13について
入庁経緯
原告P13は,公務員の仕事は利益を追求する民間企業とは違い,国民の奉仕者として,国民・住民の暮らしを守り,法に基づき事務を執行していくやりがいのある仕事であると考え,社保事務所に昭和55年6月1日付けで就職した。2

社保庁での職歴等
(1)職歴(略)
(2)昇任(略)

3
勤務態度
(1)真面目な勤務状況

社保事務所の仕事は,健康保険や年金という国民生活に密着した仕事であり,原告P13は,適用・徴収・給付といずれの業務にもやりがいを感じ,真面目に取り組んできた。


原告P13は,最初に配属された徴収課において,健康保険・厚生年金の保険料の増減を計算して納入告知書を作成・発送し,収納する事務をしていた。原告P13は,最初は先輩に助けてもらいながら仕事を覚え,1年後には次の新規採用の職員に教えたり,援助したりしながら,正確に事務を進めることの重要性や公務員としての役割や仕事の基本を学んでいった。


原告P13は,異動した適用課では,事業所から提出される健康保険・厚生年金の資格確認事務,
標準報酬月額の決定事務,
被扶養者の認定事務,
厚生年金期間の回答事務,日雇特例被保険者に係る資格関係事務を行っていた。適用課では,事業主や事業所の事務担当者,社会保険労務士と話し合いながら業務を進めるため,法律の知識や解釈・運用について熟知することが必要であった。


原告P13は,健康保険給付課では,私傷病による休業補償の傷病手当金や健康保険給付金の決定・支払事務を行っていた。給付金の決定においては,申請者の過去の病歴やレセプトの確認,医療機関への問合せ,審査医師との協議等があり,
不正受給の疑いがあれば実地調査等も行っていた。


原告P13は,
年金給付課では,
窓口で来訪者の年金見込額計算や老齢・
生涯・遺族年金裁定請求書の受付を行う年金相談等をしていた。年金は長期間給付を受けるため,窓口での十分な説明と正確な書類の受付,慎重な審査が必要な業務であった。

原告P13は,いずれの業務でも大きなミスもなく,他の課員と協力して,事務を円滑に進め,昭和56年に導入されたオンライン化の実施時・その後の業務拡大時・システムの更新時には,業務処理要領を読み込み課員の先頭に立って正確な処理が行えるように努めてきた。


原告P13は,平成12年には国民年金業務課長となり,同課の事務を企画立案し,課員を指導していくとともに,社保庁のモットーである「3S:親切・迅速・正確」を常に念頭に置いて,他課と連携しながら業務を実施していくことに努力してきた。
原告P13は,国民年金業務課では,無年金者を発生させないため,市区町村と協力し,資格の適用・保険料収納・保険料免除の事務を行っていた。原告P13は,当時は,一般業務をこなしつつ,無年金者となりそうな者を集中的に電話・訪問し,年金受給権の確認と今後の納付勧奨・免除制度の説明を行うことに力を入れてきた。
しかし,平成16年から,社保庁改革が始まり,「国民年金の収納率の向上」,「期限を決めて処理を完了させるサービススタンダード」,「成績主義賃金・評価制度導入」の導入で事業運営が厳しくなった。同時に,厚労省・社保庁の年金積立金の無駄遣いや年金記録問題が大きく広がる中で,窓口や電話で相談者や事業所から叱責を受けるようなった。


原告P13は,年金給付課長のときには,係員や窓口担当者が手に負えなくなると対応を代わり,苦情の内容を聞き対応していた。
原告P13は,「自分としてはこれまで一生懸命,手を抜くことなく業務に取り組んできた。卑屈になることはない。今後も一生懸命頑張ることで今は怒っている方も分かってもらえる」との気持ちで,長い場合には半日にもわたり苦情を言われたが,どれだけ長くとも,厳しい話であっても対応し,多くの者と話をした。原告P13は,来訪者を怒らせたまま帰すことなく納得してもらえるように努め,係員にも激励をし,「苦情を言われてもきちんと対応する力」を着けるよう指導もしてきた。
こうした状況の中で,業務量が増え,少しのミスも許されない緊張感の中,病気休職や退職者も続発した。補充職員も代替アルバイトも雇用されない中で,原告P13は,職員・非常勤職員の士気を維持して業務を進めていくことに取り組んできた。

平成16年から5年間,特に平成19年からの3年間は異常な状況であった。
原告P13は,
平成18年6月に業務二課長に配置換えになったが,
その後,業務一課・二課の職員,ベテランの非常勤職員の退職が相次ぎ,代わりにアルバイトは入るものの,事業所調査等の職員でないとできない仕事は任せられず,課長や職員がカバーしていた。
ねんきん特別便が始まって以降,他課の応援を得ながら業務課が中心となって記録問題の申請書類を処理していたが,欠員状態と書類の多さに処理が追いつかず,原告P13は,連日午後10時,11時まで仕事をし,休日も出勤せざるを得ず,連続42日出勤するなどして対応し,過労死の危険を感じていた。
原告P13は,「公務員としての責任」,「組織の中での自分の役割」を考え,できる限りの努力をしてきた。

(2)取り消された懲戒処分歴

原告P13は,「平成12年11月から平成14年9月まで,P16労働組合P17支部の支部長の立場であったが,支部役員に就任すると,専ら職員団体の業務に従事することになることを知りながら,支部長として職員に対し,支部役員になることを依頼し,このことが無許可専従を惹起させたものである」との理由で,平成20年9月3日付けで,減給の懲戒処分を受けた。イ
原告P13は,上記懲戒処分は事実に基づかず違法であるとして,同年10月29日,人事院への審査請求を行い,平成21年2月27日には,京都地裁に同処分の取消しを求めて提訴した。


平成23年9月1日,人事院は,上記懲戒処分を取り消す判定をした。人事院の判定書は,「P13請求者がP2請求者に対して支部役員になることを依頼し,その依頼によりP2請求者の無許可専従行為をじゃっ起させたとの処分者の主張を認めるに足りる十分な証拠はない。
したがって,
P13請求者のその余の主張については判断するまでもなく,本件処分は取り消すことが相当と認められる」と判断し,そもそも処分者の調査結果を前提としても懲戒処分が違法であるとしており,同処分の重大な違法は明白である。
このような懲戒処分を強行した社保庁の意図が,原告P13を機構から排除することであったことは明らかである。

4
本件処分時の身分,職務内容,給与等
原告P13は,本件処分時,京都南社保事務所業務課長として,社会保険適用事業所からの資格・報酬関係等届け書の処理の統括を行いながら,年金記録関係調査の実務責任者をしており,年収は788万2444円であった。
5
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由

違法な懲戒処分により機構への採用の機会が奪われたこと

(ア)原告P13は,
平成20年11月に実施された本件準備調査において,
厚労省への転任を希望しながら,道半ばの状態では業務を放り出せないとの思いから,余白に機構での勤務を第1希望としている旨記載した。また,原告P13は,準備調査票の特記事項には,全ての職員の就労先の確保を求めるとともに,当時,非常勤職員に対する説明がなかったことから,同職員の雇用継続を求める記載を行った。原告P13は,平成21年1月に実施された本件意向調査には,やはり年金業務を続けたいという熱意から,原告P13は,機構への採用を希望する回答を行い,同時に厚労省への転任を希望した。
(イ)原告P13は,懲戒処分を理由として,社保庁から提出される機構への採用希望者名簿に掲載されなかった。
しかし,懲戒処分は違法なものとして取り消されており,原告P13は,違法な懲戒処分を理由として,機構への採用の途を閉ざされたものである。もし社保庁廃止前に懲戒処分が取り消されていれば,原告P13が機構に採用されていたことは,
経歴・成績からいって間違いはない。

違法な選別がされた本件転任面接

(ア)原告P13は,P20課長に,「機構に採用されないのであれば,せめて,公務員として残りたい」と伝えた。
(イ)その後,原告P13は,本件転任面接を受けたが,15分ほどの短いものであった。
面接では,原告P13は,志望動機について,機構への採用が閉ざされており,小さい子供のためにも転任をしたいと説明した。また,原告P13は,夫婦が共働きであり,子供が中学生になるまでは,自宅から通勤することができる範囲であれば,通勤可能であると回答した。原告P13は,厚労省の労働部門への希望の有無について,同部門の業務についても積極的に取り組む意向があり,年金と雇用保険との調整業務の経験もあり,一定の知識を有することを説明した。
原告P13は,健康状態は良好であり,山積する業務について部下と相談しながら,部下の仕事も手伝いながら,業務全体に停滞がないように頑張っていると説明した。
(ウ)しかし,そもそも面接官は,本件転任面接が分限回避義務の一環であるとの認識もなく,分限免職処分における人事院規則の存在も知らずに面接を行っていた。
面接官は,原告P13が準備調査票において,厚労省本省で希望する業務分野について選り好みをせずに転任への熱意を示しているところ,これに対して理由欄が空欄であることの一事をもって熱意がないという独自の主観的評価を加えており,Cの下の評価をした理由についても何ら説明ができていない。
また,面接官は,労働者の権利である年休の取得日数を判断資料としたり,懲戒処分をマイナスに評価したりした。
業務全体の停滞を避けるために部下の業務まで引き受けている点についても,病気休職の職員や他課に応援に出している職員もおり,連日の残業が避けられないという当時の異常事態ともいえる社保庁の現場において,課長として係員の業務を手伝いながら来訪者に迷惑を掛けないように取り組んできたことを話したにもかかわらず,これを指導力不足としてマイナスに評価している。
(エ)このように原告P13に対する本件転任面接は,
適正にされなかった。
(2)その後の就職あっせん等とそれに対する対応

原告P13は,
追加調査票に職員の雇用に責任を持ってほしいと記載し,
公務員でなくても公務に携わることを考え,京都府や府下自治体等の公務職場で自分の経験が生かせる職場を探してほしいと依頼した。
P20課長からは,市町村を含めて転任先を探す準備をしているとの回答があったが,当局からは地方公共団体等の公務職場についても何ら紹介はなかった。


原告P13は,官民センターについて,P20課長から就職先である民間企業の登録がほとんどないと聞いており,
業務により多忙を極めており,
同センターのパンフレットを読み込んだり,面接等の就職活動をしたりする時間はとてもなかったため,登録を後回しにしていた。そうしたところ,平成21年7月には,国民年金保険料不正免除処理で処分を受けた京都社保局運営課長が,退職して厚生年金基金の職場に移るという出来事があった。原告P13は,P20課長に対し,官民センターを通じて転任先のない職員にあっせんされるべき職場が,幹部に不公平に割り当てられたことに抗議したが,P20課長は仕方がないと言って取り合わなかった。原告P13は,当局のこうした態度に不信を感じ,自分がなぜ分限免職にならなければならないのか全く納得がいかなかった。ウ
本件支援室から原告P13に対する再就職に関する情報提供は,平成21年12月中旬に,ハローワークの登録情報が3回に分けて50件程度が手渡されただけであった。中には35歳以下が対象となる求人情報や通勤困難な和歌山県西牟婁郡α町の求人情報も含まれており,何ら個別的な対応をしていないことは明らかだった。
また,同月に示された厚労省の非常勤職員の募集は,雇用期間が最高2年3か月であり,給与も半分以下に大幅減額というものであり,応募はしなかった。


そして,失職した平成21年12月末以降は,全く就職のあっせんはなかった。
原告P13は,平成22年1月末,機構が准職員を400名募集していることを知って応募した。機構には大量の欠員があり,業務に支障が出ていたが,原告P13は,懲戒処分歴を理由に採用されなかった。

6
本件処分時の生活状況
本件処分により,原告P13は,看護師をしている妻の収入に支えられながら,専業主夫として中学校3年生,小学校5年生の子育て・家事をする生活になった。こうした家族状況について,本件処分前もその後も何ら聴取されることはなかった。7

人事院判定と復職
平成25年10月24日,人事院は,原告P13に対する本件処分を取り消す判定を行った。
原告P13は,復職先として,機構への出向を希望し,同年12月1日から上京年金事務所お客様相談室で業務を始めた。

8
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P13は,豊富な経験を持ち,長時間労働にも耐えながら,国民の年金を守るために誠心誠意取り組んできた。
原告P13が従事していた年金記録問題の解決には,この問題を担当する職員の経験の蓄積が極めて重要である。簡単な記録統合は進んでいるものの,多数の記録についてはいまだ持ち主が判明していない。また,別人の年金記録が混入していたり,年金記録が途中から記載されていなかったり,混乱した状態にあり,解決のためには問題を熟知した原告P13のような職員が必要である。


原告P13は,違法なものとして取り消された懲戒処分を理由として,機構への名簿に登載されず採用の機会を奪われ,最も重要な分限回避の取組である機構での採用から違法に排除されており,分限回避義務が尽くされたとはいえない。
人事院判定では,「機構に採用される機会を失したまま行われた本件処分を維持することは妥当性を欠くものと認められる」と判断しており,妥当性がなくなる根拠は,機構への職員名簿に登載しなかったことが重大な分限回避義務違反であるからとしか説明することができない。
そして,このことは他の懲戒処分歴のある原告らにも同様に当てはまることであり,少なくとも原告らには,「国民の年金制度に対する信頼回復のため」として,機構から排除されるべきほどの重大な懲戒処分を持つものは一人もいない。現に,原告P13も,懲戒処分が取り消される前である平成25年4月から同年11月まで,宇治年金相談センターの相談員として窓口年金相談業務をしており,国民の信頼回復と年金業務からの排除との間に何らの関連性もないことは明らかである。
(2)小括
したがって,原告P13に対する本件処分は違法なものであった。第6

原告P11について

1
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯

原告P11は,父親が京都市職員として,京都市動物園の飼育係を約20年勤めた後,南区役所,P36,及びP37の経理担当職員として勤務している仕事ぶりを見て育ったこともあり,高校生の頃から公務員になることを志望していた。
その動機は,特定の企業や人の利益のために働くのではなく,不特定多数の国民・市民のために働き,その働きに応じた対価を受け取るという公務員の仕事に,大きな魅力を感じたことにある。


原告P11は,昭和51年12月,国家公務員初級試験に合格し,京都工業繊維大学の事務職,
宮内庁,
京都大学等から面接の申入れを受けたが,
京都府民生労働部国民年金課の採用面接を受け,昭和52年6月1日,同課庶務係に新規採用となった。

(2)家族構成
原告P11の妻は,
本件処分当時から現在まで,
京都地裁に勤務している。
原告P11には,3人の息子がおり,本件処分当時,長男は大学4年生,二男は私立大学の1年生,三男は公立高校の1年生であった。
2
社保庁での職歴等(1)採用
昭和52年6月1日,京都府民生労働部国民年金課庶務係に採用された。(2)職歴(略)
(3)昇任(略)
3
勤務実態
(1)豊富な業務知識と経験
原告P11は,昭和52年6月1日以来,厚生年金保険の徴収課を除いて年金業務に関するほぼ全ての業務に携わり,
豊富な知識と経験を蓄えてきた。
社保局を含めて京都府下全ての社保事務所において勤務し,社保庁職員の中でも,年金業務の分野だけで20年以上担当した職員は原告P11のほか数少なく,特に国民年金の給付業務については精通してきた。
(2)年金未納問題等に対する責任者・エキスパートとしての対応と重責ア
原告P11は,年金未納問題,年金不正免除問題,年金記録問題と,社保庁が次々と国民的非難の対象となった平成14年から平成20年までの間,管轄する地域が広く,住民も多いため京都で最も多忙といわれる京都南社保事務所の責任者的立場に配属されていた。
年金業務に関して長年の経験を有する原告P11には,当然ながら多大な業務が集中した。


平成14年,国民年金保険料の収納業務の市町村への機関委任事務が廃止となり,社保事務所に業務が移行したことに伴って,保険料収納がらみのトラブルが頻発した。年金未納問題が発覚した平成15年頃から,昼間の庁舎内は電話が常に鳴っている状態で,1本電話が終わっても,また次の電話に出なければならず,業務をすることができる状態ではなかった。必然的に,職員は残業を余儀なくされたが,当局からは残業規制を指示されているため,残業規制のかからない,原告P11を含む管理職に負担がのしかかった。原告P11自身も,管理職である以上,職員が一人でも残っていれば先に帰宅することはできないと考えており,毎晩,深夜まで帰宅できない日々が続いた。

平成17年2月,社保庁への批判が集まる中で,いわゆる「のぞき見」といわれる業務外閲覧を理由とする懲戒処分が全国規模でされた。当時,京都の社保事務所を視察したP35長官は,社保庁の信頼回復に向けて,「
あえて重い処分とした」,「皆さんが頑張れば大丈夫」という旨の発言を行った。当時は,厚労大臣の下の有識者会議において社会保険新組織に関する考え方が示された時期であったが,上記発言を聞いた原告P11は,業務を頑張れば,安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼していた。


平成18年に国民年金の不正免除が問題となってからは,免除対象者の自宅を一軒一軒回って免除申請意思の有無を確認するよう当局からの指示があり,原告P11は,夜間・休日を問わず意思確認に奔走させられた。同時期に,土日及び夜間の開庁も開始され,原告P11の夜間や休日の出勤は更に増していった。


原告P11の本件処分時の身分は,
舞鶴社保事務所総合相談室長であり,
舞鶴のような小規模事務所の場合,次長の役職がなく,相談室長が次長も兼任することになっている。
そのため,舞鶴社保事務所での原告P11は,窓口の総括,年金給付・適用関係業務の総括という相談室長としての業務のほか,社会保険委員会関連業務等,社保事務所次長としての対外的業務をも担当し,活躍していた。


以上のとおり,特に平成14年以降の原告P11の業務内容は,正に社保庁の信頼回復のための最前線での戦いであった。

(3)懲戒処分歴
原告P11は,懲戒処分を受けたことがない。4

本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P11は,
公務員として勤務を続けることを強く志望していたところ,
平成20年11月に実施された本件準備調査では,第2希望まで書くようにとの指示があったが,厚労省,機構等,退職以外に選択肢がなかった。そこで,準備調査票の裏面に,「他府省配転に関する希望,選択肢がないのは理解できない」と記載した。
また,意向調査票において,機構等への採用を希望しなかったのは,公務員としての職務を最後まで全うしたいとの強い思いからであった。(2)手続の経過と結果

本件転任面接

(ア)平成21年2月,原告P11は,本件転任面接を受けたが,15分程度で終了し,極めて形式的なものであった。すなわち,厚労省を選んだ理由や全国異動の可否,健康状態,希望職種等を簡単に聞かれたのみであった。
(イ)面接官は,原告P11の「準備調査票の記載状況評価」についてCの評価をしているが,その理由は,準備調査票の希望する業務の「理由」に「特に無し(不明)」と書いている点がおかしいというものである。しかし,面接において特に確認を行うこともなく,「書いてないより悪い」という面接官の主観的な気持ちだけでC評価とされた。
(ウ)また,面接官は,原告P11について,「予定する業務に対する適正評価」について,Cの下の評価をしているが,特記事項欄の記載は「新しい業務に対する姿勢が弱い。
はきはきしていない」
というものであり,
そこでは,原告P11の豊富な業務知識や経験については何ら評価されていない。
面接官は,「業務というよりは,厚生局の一員となって円滑に効率的に業務を進めてもらえる方」という極めて抽象的な基準により,単なる印象だけに基づいて,予定された採用人数に振り分けるための評価しか行っていない。
(エ)このような本件転任面接を適正に行われたと評価することはできない。イ
厚労省不採用後の経過

(ア)平成21年6月頃から数回,京都社保局のP19次長及びP20課長が舞鶴社保事務所に来所し,職員の進路に関する意向調査等のための面談を行った。
原告P11は,P19次長から,厚労省への転任名簿に登載されない見込みであることを聞かされた。P19次長は,「他府省も当たっているが,定員削減が言われている中,他府省の受入れは難しい。欠員が出ない限り当てはないよ」と発言するなど,原告P11が機構を希望していない時点で,
既に分限免職が決まっているかのような口ぶりであった。
P19次長自身,懲戒処分歴を有しており,当局の方針によれば機構に採用され得ない立場にあったため,他職員の進路について真剣に検討していない雰囲気が感じられた。
また,原告P11は,P19次長に対し,他府省への再就職支援を要請したものの,P19次長から具体的な要請先や再就職支援の状況に関する具体的説明がされたことはなかった。
(イ)機構の准職員への募集等が行われていたようではあるが,舞鶴社保事務所長は,原告P11に対し,機構の准職員及び厚労省の非常勤職員の募集について,「応募せえへんやろうと思うけど一応言っとくわ。ホームページで確認しておいて」と立ち話をしただけである。
(ウ)同年11月17日午後,突然P20課長が舞鶴社保事務所に来て,分限免職対象者に対する面談を行った。
原告P11に対する面談も行われたが,P19次長から「ちゃんと職探ししているか」というような質問や,退職を前提として,共済から借り入れている住宅ローンの清算方法について聞かれただけで,具体的に原告P11の進路や,就職先あっせん等の話はされなかった。
P20課長からは,任意退職しないかという退職勧奨も行われたが,その際,「任意退職とすることで何かメリットがあるのか」という質問をしたが,原告P11は勤務年数が長く退職手当の金額も何ら変わることがなく,何のメリットもないということであった。原告P11が,退職勧奨に応じない旨回答したところ,P20課長からは分限免職しかないと言われた。しかし,原告P11は,分限免職を含めて自ら社保庁を退職する気持ちは全くない旨答えた。
5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行
原告P11は,他府省を含めた正規の国家公務員として働き続けることを強く希望したにもかかわらず,本件転任面接が極めて形式的な短時間のものであったことを含め,同原告の雇用を確保するための分限回避義務は全く履行されなかった。
(2)人選の不合理性
原告P11は,過重な業務の中でも,国民の社保庁に対する信頼回復のため,年金業務の知識を生かし職員の先頭に立って,日々の業務をこなし続けてきた。一連の年金問題により地に落ちた国民の社保庁への信頼を,1日でも早く回復するため,最も知力と労力を割いたのは,間違いなく原告P11のような現場の職員である。特に,原告P11は,年金業務の経験が20年以上と,他職員に比して格段に長く,30代のうちから管理職の立場で責任を果たしてきた人物であり,機構で最も活躍し得る人物の一人である。原告P11には,懲戒処分歴すらなく,分限免職にしなければならない理由は何一つとして見当たらない。(3)説明・協議義務違反
社保庁長官等が,原告P11に対し,分限免職に関して説明らしい説明をしたことは一切なかったため,原告P11は,本件処分の通知を受ける最後の最後まで分限免職になることを実感することさえできなかった。平成21年11月の面談において,他府省を含む公務職場への転任可能性がないことや分限免職となる可能性が高いことについて納得のいく説明がされ,機構の正規職員としての打診等を受けていたとすれば,原告P11がこれを希望した可能性は高いが,そのような説明は一切されなかった。(4)小括
したがって,原告P11に対する本件処分は違法である。
第7

原告P14について

1
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯
原告P14が就職に当たり最も重視したのが,一生働き続けられる職場ということであった。それゆえ結婚や出産ということがあっても働き続けることができる公務の職場を志望し勉強に励んだ。
原告P14は,国家公務員Ⅲ種試験を受験し合格した。合格後,原告P14は,数多くある公務の中でも,全ての人間が迎える老後になくてはならない年金業務を是非やってみたいと思うようになり,最初に内定を得たのが社保庁だったこともあり,入庁を決意した。
(2)家族構成
原告P14は,夫と中学生と小学生の子供二人の4人家族で,夫と共働きである。
原告P14の夫は同じく社保庁職員だったが,現在,機構職員として勤務している。

2
社保庁での職歴等(1)職歴(略)
(2)昇任(略)
3
勤務実態
(1)原告P14は,採用以来14年にわたって,京都府内各地の社保事務所及び京都社保局において,常に真面目に無遅刻・無欠勤で勤務してきた。その間,原告P14は,健康保険給付,年金給付・相談,適用等様々な分野の業務経験を積んできた。迅速な事務処理の遂行や,丁寧かつ適切な窓口対応には定評があった。例えば,厚生年金の裁定を担当していたとき,3号被保険者非該当期間の長い専業主婦や永住外国人等一見受給要件を満たさないようなケースでも,職歴等の丁寧な聞き取り調査により,受給にこぎつけるなど,加入者の立場に立った業務遂行に努力してきた。
(2)原告P14は,本件処分時である平成21年12月段階における京都西ブロックのサービススタンダードについて,平均数値を大きく上回る90%以上の達成率を築く役割を担った。業務処理の適正さや迅速性,目標達成度には自信がある。
(3)こうした知識や経験の豊富さを買われて,原告P14は,同僚や上司からも度々相談を受けたり,
他の社保事務所職員からも電話等で相談を受けたり,
年金実務の未経験職員に対する教育指導を任されたりしていた。
平成20年度上期の原告P14の人事評価は能力評価
・実績評価共にB
(役
職階層に期待される能力を有し,役職階層に期待される実績を上げた。)である。
(4)原告P14は,平成17年12月27日に業務外閲覧により戒告処分を受けたが,その後も,「真面目に頑張れば雇用は継続される」というP35長官の話を信じて,夜間延長や土日の開庁という特別体制が敷かれる下,休日出勤や長期間のサービス残業を積極的に行ってきた。とりわけ,平成19年5月に年金記録問題が大きな社会問題となった際には,窓口及び電話による問合せや苦情が殺到する中,窓口業務や記録調査の支援等に積極的に従事した。
当時,二人の子供がまだ幼かったため,週に1,2回は定時で帰るようにしていたが,それ以外の日は決まって,少なくとも午後8時30分までは残業していた。当時の原告P14が,しばしば,同じく社保庁職員だった夫と連絡を取り合って調整をした上,進んで残業を引き受けていた姿が上司の目にもとまっている。
4
本件処分に至る経過と本件転任面接
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P14は,今までの経験で得た知識や経験を生かせる機構を希望していたが,懲戒処分歴保有者のため希望できないと言われた。そのため,原告P14は,機構に採用されないのであれば,厚労省か他府省への転任勤務を希望した。これは,自分が培った知識や経験を生かしながら,働き続けるにはそれしかないと考えたからである。
(2)手続の経過と結果

機構
原告P14は,平成21年1月頃,機構に応募したが,すぐに京都社保局のP20課長から電話があり,懲戒処分歴保有者のため名簿に載せられないと言われ,応募を受け付けてもらえなかった。


厚労省等への転任

(ア)原告P14は,機構への道を閉ざされたため,やむなく厚労省への転任を希望し,本件転任面接を受けたが,面接は5分足らずで終わり,平成21年6月25日に不採用になった。
(イ)原告P14は,他府省への転任希望を提出したが,その後,他府省への転任についての具体的な手続は何ら行われなかった。
また,同年8月頃,京都社保局のP19次長は,公務職場への転任を強く希望する原告P14に対し,「ハローワークに行きなさい」,「公務職場にはお願いに行ってみたが転任受入は無理だった,これからも無理」,「街角年金相談センターでの勤務はどうか」,「公務職場への転任の可能性は限りなく0%に近い」などと言い放った。その冷たい言い方に,原告P14は,とてもショックを受けた。

官民センターへの登録

(ア)原告P14は,平成21年7月頃,P20課長から電話で,官民センターの登録手続等について話されたが,わずか5分程度のやり取りだった。
P19次長は,同年8月頃,原告P14が官民センターに登録をしていなかったことについて,職を探してるのに何で登録をしいひんねや」「
などときつい口調でなじった。原告P14は,その言い方に少なからぬショックを受けたし,なぜそのように冷たい言われ方をしなければならないのかと悔しい思いも味わった。
そのようなことを言われたこともあって,
原告P14は,
同年8月頃,
やむなく官民センターに登録した。しかし,原告P14は,当局が本当に親身になってくれているのかと疑問に思い,公務職場への転任は絶望的な状況にあると感じた。
(イ)なお,同年12月1日になって,厚労省での非常勤職員への募集があったが,2年3か月の有期雇用である点,収入が激減する点から,多額の住宅ローンや家族の生活を考えると,原告P14にとって受け入れられる条件のものではなかったため,応募しなかった。
(ウ)原告P14は,同年11月頃,官民センターのあっせんにより民間の病院の事務職募集について面接を受けた。年収350万円くらいになると説明を受けていたが,同年12月半ば頃,不採用となった。
(エ)また,同年12月頃になると,事務局からの募集案内がメールでのみ送りつけられるようになり,口頭での案内や説明はされなくなった。(3)本件転任面接が適正に行われていないこと

原告P14は,本件転任面接の結果,Cプラス3と評価されたが,面接の内容は,志望動機や仕事への意欲等についてのわずか5分ほどの抽象的なやり取りのみで,同原告が豊富な業務知識や経験を有すること,年金業務への情熱等については全く聞いてもらえなかった。また,原告P14の家庭状況等についても何ら確認はされなかった。


さらに,原告P14の場合,面接票の「懲戒処分・矯正措置の状況」欄には「懲戒(目的外閲覧)」と記載されているが,それは事実ではなかった。また,「意向準備調査票の記載状況等評価」については何らの評価もされていないし,面接票の記載だけ取り上げても,実施された面接のずさんさが浮き彫りとなっている。


このように,原告P14について行われた本件転任面接は,面接官の主観的判断のみによって結論が出されるなど,適正に行われたとは評価し得ないものであった。

(4)本件処分後の就職あっせん等とその対応
平成22年1月初め,P20課長から連絡があり,官民センターへの事務を近畿厚生局に引き継ぐとの連絡があったので,原告P14は近畿厚生局の係長に挨拶の電話を入れた。しかし,その後,近畿厚生局からの連絡や,メールや書面での求人情報の提供等は一切なかった。
原告P14は,同年2月頃,官民センターのあっせんにより,民間の病院の事務職募集について面接を受けた。しかし,労働条件について,時給約850円のパートで,しかも純粋な事務職ではなくヘルパーのような業務もしなければならないなど,当初の説明と食い違っていたことが判明したため,原告P14は同年3月末にこれを断った。
5
本件処分の違法性(1)分限回避義務の不履行

原告P14は,機構への採用か,それが難しい場合は厚労省等への転任を一貫して希望してきた。機構への採用及び厚労省への転任はほとんどまともな検討もなしに拒否され,他府省への転任についても,上司から「ハローワークに行った方がいい」,「公務職場への転任は,お願いの挨拶は行ってみたが,無理だった,今後も恐らく無理だよ」などとにべもない返事を聞かされるばかりで,まともに転任の努力が尽くされた形跡はない。

また,原告P14は,「公務職場へ転任できる可能性は0%までとは言わないまでも限りなく0%に近い」と言われたため,やむなく官民センターに登録した。しかし,同センターからのあっせんは2か所だけで,結局就職には至らなかった。


以上の経緯に照らせば,原告P14に対して分限回避義務が履行されたとはいえない。

(2)人選の不合理性
原告P14は,
平成7年1月1日に採用されて以来,
14年間にわたって,
年金業務に従事してきた。原告P14は,健康保険給付,年金給付・相談,適用等様々な分野の業務に就き,常に真面目に無遅刻・無欠勤で勤務してきた。
原告P14は,
事務処理の迅速さや窓口対応の丁寧さでは定評があった。
また厚生年金の裁定を担当していたときは,例えば,3号被保険者非該当期間の長い専業主婦や永住外国人等一見受給要件を満たさないようなケースでも,職歴等の丁寧な聞き取り調査により,受給にこぎつけるなど,加入者の立場に立った業務遂行に努力してきた。こうした知識や経験の豊富さを買われて,同僚や上司からも度々相談を受けるなど,原告P14は周囲から多大な信頼を得ていた。
以上の事実に照らせば,原告P14には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。(3)懲戒処分歴を考慮すべきでないことア
原告P14は,平成17年12月27日,業務外閲覧により戒告処分を受けた。平成16年中に著名人数名の加入記録を端末装置で閲覧した行為が記録されていることが根拠とされた。


しかし,
上記閲覧は,
原告P14の身に覚えのないものであった。
当時,
加入記録の検索・閲覧をする場合には,端末装置に自分のカードを挿入して操作するところ,一旦挿入したカードをそのままの状態にして離席する職員も多く,同じカードが挿入され続けた状態で引き続き他の職員らが次々と端末装置を操作することが常時行われており,本件も,原告P14のカードが挿入された状態で他の職員が閲覧をしたものと思われた。またそうしたことは上司も知った上で黙認されていた。なぜなら,一旦カードを抜いてしまうとそれまで閲覧していた照会画面が消えてしまい,また,端末を再起動させるために時間を要するなど,円滑な窓口・電話対応に支障が出るためである。したがって,当時は,閲覧者が原告P14であると端末上に記録されていても,実際に閲覧したのが同原告であるとはいえなかった。


原告P14は,平成17年3月10日頃,育児休暇中に,事実確認のための調査票が送られてきたため,同原告は身に覚えがないと記載して返送した。原告P14は,同月7日に出産しており,出産の3日後にそのような書類が届いたことにショックを受けた。その後,上司から電話がかかってきた際も,原告P14は身に覚えがないとはっきり述べた。しかし,原告P14の主張は受け入れられることなく,育児休業中の平成17年12月に戒告処分を受けた。


原告P14は,
自宅まで懲戒処分を伝えに来た下京社保事務所長に対し,
閲覧行為には全く身に覚えがなく,ちゃんと調査を尽くしてほしいと言ったが,聞き流されるような感じで受け止めてもらえず悔しい思いを味わった。しかも,処分説明書には,原告P14が業務外閲覧の自己申告調査において,閲覧をしていないと回答したことを上司の職務上の命令に背き虚偽の報告を行ったものと決め付けて処分事由に挙げているが,やっていないものをやっていないと弁明したことが処分事由となるなら,弁明の機会の保障は画餅に帰すというべきであり,手続的違法は明白である。

原告P14は,上記懲戒処分に対する審査請求をしなかった。それは,P35長官が,「社保庁の信頼回復に向けて,あえて重い処分とした」,「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という発言をしたため,今後,業務を頑張れば安心して社会保険業務の職場で働き続けることができるものと信頼し,まさかこの処分によって後に職を失うことになるとまでは考えもしなかったためである。
しかし,原告P14は,所長に対し,はっきりと業務外閲覧をしていないことだけは当局に伝えてほしい」申し入れている。当時,業務外閲覧を行ったことのある職員のうち,上司からの聞き取り調査に対し業務外閲覧を否認した者は,それ以上の調査をされることなく,懲戒処分に至らない文書又は口頭による厳重注意を受けたのみで,かつ,社保庁廃止後も機構に採用されている者が少なからずいる。このようなずさんな調査により,正直に回答した者だけが懲戒処分を受けて分限免職されるのは,著しい不平等である。まして,原告P14の場合,全く身に覚えがないことを何度も訴えたにもかかわらず,嘘つき扱いされて,カードの管理責任ではなく業務外閲覧の責任で懲戒処分を受けたのであり,余りにもずさんな処分である。


したがって,上記懲戒処分を理由として原告P14を分限免職の対象者とすることはできない。

(4)説明・協議義務違反職員団体との交渉もないままに本件処分がされている上,原告P14に対して具体的な免職理由の告知や弁解聴取の機会も一切与えられないままに,平成21年12月29日に書面の郵送の方法により本件処分が告知されており,手続上も不備があることは明らかである。
(5)まとめ
したがって,原告P14に対する本件処分は違法なものであった。第8

原告P12について

1
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯
原告P12は,7人兄姉の5人が公務員,兄姉の配偶者全て公務員であるという環境に育ち,堅実な職業であるという印象から,高校在学中の昭和47年の夏に公務員試験を受けた。
原告P12は,国家公務員試験初級に合格し,当時の大蔵省に採用が決まっていたが,近畿全域への異動が原則であった。その後に,当時の京都府民生労働部保険課より面接の連絡を受け,生まれ育った京都で仕事をすることができることから,社保庁への入庁を選択した。
(2)家族構成と収入状況
原告P12には,同じく社保庁勤務の妻と長女がおり,妻は,機構に採用されたが,平成23年2月末に退職した。

2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P12は,昭和48年5月1日,下京社保事務所庶務課庶務係に採用された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態(1)豊富な業務知識と経験,国民の信頼回復のために奮闘ア
原告P12は,上記2記載のとおり,昭和48年の入庁以来,各地の事務所等に配属されて業務を行い,副長や次長,総合相談室長等を歴任してきた。
その間,
原告P12は,
社会保険に関するほぼ全ての業務を担当し,
年金及び健康保険の適用や給付に関する窓口業務を中心に,豊富な知識と経験を蓄えてきた。
特に,原告P12は,在職中の約26年間のほとんどの期間を,厚生年金・健康保険の事業所,被保険者の適用関係,年金給付(窓口での年金相談等)に費やしており,社保庁職員のうち3割ほどが従事する年金給付関係,
中でも相談等に応じるのが困難な特殊な年金
(障害年金,
遺族年金等)
にも精通してきた。


社保庁が,年金未納問題,年金不正免除問題,年金記録問題等次々と国民的非難にさらされる中,原告P12は,平成19年9月,京都南社保事務所業務次長に異動となった後,午前7時の出勤時には既に市民が来所しており,午前8時半の始業時には,事務所内に50名以上いる来所者に対して,正に息をつく間もなく対応してきた。
原告P12は,平成20年10月1日,所内の配置換えにより総合相談室長となり,休日相談や夜間相談にも先頭に立って対応し,卓越したコミュニケーション能力を生かして激しさを増す市民からのいわれなきバッシングをも柔軟に受け止め,市民の立場に立ったきめ細やかな対応により,当事者より感謝されることも少なくなかった。
原告P12は,豊富な経験と知識を生かして,当時ただでさえ多忙を極めていた他の職員の数倍といっても過言ではない仕事量をこなし,社保庁が年金記録問題等より失った国民の信頼回復のために,最前線で奮闘してきた。

(2)懲戒処分歴原告P12は,平成17年12月27日,カード管理懈怠により減給処分を受けた。その理由は,原告P12のカードを利用して業務外閲覧を行った職員がいたとして,カードの管理責任及び業務外閲覧を惹起させた責任を問うものであった。しかし,原告P12が業務外閲覧を行った事実がないことはもちろん,行為者が特定されていないにもかかわらず,その者が行った業務外閲覧についてカードの管理責任のみならず業務外閲覧を惹起させた責任を問うことは不当であり,懲戒処分としては行き過ぎである。
原告P12が,上記懲戒処分に納得できないながらもこれを受け入れたのは,P20課長(当時は主幹)より,「頼むわ(自認書に)判子押して」,「悪いけども,これちょっとだけカットあるけどそれで終わりやから」などと処分を受け入れるよう説得され,かつ,当該処分を受け入れることが分限免職等の不利益につながるとは全く思っていなかったからである。当時,そのような可能性についての説明はされていないことはもちろんのことである。4
本件処分に至る経過
(1)原告P12は,年金及び健康保険の適用や給付に関する窓口業務を中心に豊富な知識と経験を生かす職場として,当初,機構への採用を第1希望としたが,懲戒処分歴のある者は機構に一切採用しないとの方針により,候補者名簿に登載されなかった。そこで,原告P12は,厚労省の採用面接を受けるためには,希望順位を第1希望に変更せざるを得なかったが,極めて形式的・恣意的な面接を経て,厚労省にも転任されなかった。
(2)原告P12は,平成21年2月,京都南社保事務所において,面接を受けたが,時間にして10分弱程度の形式的なものであった。
原告P12は,志望の動機,異動可能範囲,希望職種等を確認され,質問に応じて,
上記懲戒処分の不当性を訴えた。
面接官は,
原告P12について,
「予定する業務に対する適正評価」について,Cの下の評価をしているが,その具体的理由について全く答えることができず,「厚生労働行政をやっていく中で適正があるか見させていただいた」などとするものの,その基準たるや,絶対評価であるとしながらも,統一的な基準はなく,結局のところ,面接官自身が「一緒に働くのにいいな」といった極めて主観的な基準に基づき,評価を行っている。そこには,不当な懲戒処分により本人が熱望する機構への採用がかなわない原告P12にとって,分限免職を回避し,その身分を保障するための重大な評価を行っているとの認識はなかった。
このような面接について,
適正に行われたものと評価することはできない。
(3)厚労省への転任がされなかった後,原告P12は,意向調査票の用紙を受領しておらず,また同票提出後改めて再就職支援等の相談をするとの意思を示したこともない。また,原告P12が,平成21年8月,京都南社保事務所長から,診療報酬支払基金の募集案内の説明を受けた事実はなく,宇治年金相談センターについての連絡がされたのは同月のことであった。さらに,P20課長が,平成21年12月,原告P12に対し,厚労省の非常勤職員の募集について説明したこともない。
5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行
原告P12は,年金及び健康保険の適用や給付に関する窓口業務を中心に豊富な知識と経験を生かす職場として,当初,機構への採用を第1希望としたが,懲戒処分歴のある者は機構に一切採用しないとの方針により,候補者名簿に登載されなかった。そこで,厚労省の採用面接を受けるためには,希望順位を第1希望に変更せざるを得なかったが,極めて形式的・恣意的な面接を経て,厚労省にも採用されなかった。
その後,原告P12に対しては,官民センターや労働条件の悪い年金相談センターの採用情報の提供しかされておらず,およそ分限回避義務が履行されたとはいえない。
(2)人選の不合理性原告P12は,豊富な業務知識と経験を有し,国民の社保庁に対する信頼回復のため奮闘してきた。
年金に関する法規は年々改正が繰り返されており,
年金相談に回答するには,相談の対象となる加入期間中の法改正に対応した法規の適用を的確に行う必要があり,
長年の経験と豊富な知識を必要とする。
したがって,長年,年金や保険業務の適用・給付業務に従事し,最も社保庁に対する批判が高まり,組織解体を間近に控えて業務が集中する京都南社保事務所の総合相談室長として年金相談について統括する立場にあった原告P12を機構から排除し,本件処分をする合理的理由は全くない。(3)説明・協議義務違反
原告P12に分限免職に関する説明がされたのは本件処分の直前であり,それまでの採用情報の提供は退職勧奨にすぎなかった。
(4)小括
したがって,原告P12に対する本件処分は違法である。
第9
1
原告P5について
入庁経緯と家族構成
(1)入庁経緯
原告P5が公務員を目指した理由は,
父母とも公務員であったこともあり,
公平,公正,安定,国民全体の奉仕者という理念に感銘し,魅力を感じたからである。原告P5は,2年間,猛勉強して国家公務員試験を突破し,社保庁に配属された。
(2)家族構成
原告P5は,妻との二人家族である。

2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P5は,平成6年4月1日に社保庁に入庁し,当時の中京社保事務所国民年金業務課に配属された。(2)職歴(略)
(3)昇任(略)
3
勤務実態
(1)業務への精通,同僚・上司からの信頼
原告P5は,国民年金の適用や収納,厚生年金・健康保険の適用や健康保険給付,年金給付といろいろな分野の業務に就き,業務責任を常に持ち,利用者に対しても親切丁寧な対応を心掛けてきた。
例えば,原告P5は,厚生年金の分野において,事業所の適用要件の判断基準,
新規適用事業所の添付書類,
過去の記録調査の手法等について,
また,
国民年金の分野において,免除申請の特例要件,未納者対策,保険料口座振替手続における処理,還付金の決定事務,DV被害者対策としての年金番号変更の取扱い等,細かい知識と経験が必要とされる実務にそれぞれ精通していた。原告P5は,これらの点について上司からの相談も常時受けるなど,係内外の職員から,業務上の厚い信頼を得ていた。
原告P5は,京都社保局運営課業務管理室年金審査第一係では,主任として年金の給付の審査や決定を基本に,係内外の仕事の調整,年金記録問題に係る事務処理等を率先して行ってきた。
(2)職場での評価

原告P5の仕事ぶりについて,京都社保局業務管理室年金審査第二係係長は,「彼も非常に真面目で,人一倍年金業務が好きなんです。色んなものの調べものをしたり率先してやってくれました。この案件を調べてくれるかと言ったら,分かりましたとすぐに調べてくれるという熱心な人でした」,「私が残っていてもですね,私は舞鶴をしていたんですが,舞鶴は地域柄,年金事務所に請求書を持っていくのではなくて,事務センターに直接郵送してこられるお客様が多くてですね。お客様の請求書は当然不備などがあるわけなんですが,けれども私自身がお客様と直接話すケースが多かったんですが,昼間は電話が余りつながりませんから,夜残業して,よく記録のこととかですね問合せをしていました。そこまで熱心にしていました」等と高く評価していた。

また,原告P5は,平成21年度に,毎月500件から600件ぐらいの処理をしており,迅速な年金審査業務に大きく貢献していた。


平成20年度上期の原告P5の人事評価は,能力評価がA(役職階層に期待される能力を上回った。),実績評価がB(役職階層に期待される実績を上げた。)であった。

4
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P5は,機構に移行するか,そうでなければ一貫して公務の職場を希望してきた。
それは,原告P5が,公平,公正,安定,国民全体の奉仕者という公務員の理念に感銘し,魅力を感じて,猛勉強をして国家公務員となった以上,その途を全うしたいと願ったからである。
(2)手続の経過と結果

原告P5の志望
原告P5は,平成20年11月1日に実施された本件準備調査では,第1希望を厚労省本省とし,平成21年1月1日に実施された本件意向調査では,機構,協会及び厚労省本省を希望し,本件追加調査では,第1希望を厚労省,第2希望を官民センター,第3希望をその他(機構)とした。

本件転任面接

(ア)原告P5は,懲戒処分歴保有者は機構に採用しないという政府の方針に基づき,機構に採用されなかった。
原告P5は,平成21年2月,本件転任面接を受けたが,それは形式的で簡単なわずか5分程度のものであり,同年6月,転任しない旨の通知がされた。(イ)原告P5は,上記面接で,Cマイナス2という評価を受けたが,人事院の公平審理において,面接官は,面接において客観的な基準がなくほとんど主観で評価したことを認める証言をした。上記面接官によると,AからEまでの5段階で評価が行われることになっており,近畿厚生局は「任用しても良い」というC評価について上中下の3段階を付けるよう指示したが,同面接官は,自分の判断で,Cの中にプラス5から4を上,プラス3から1を中,マイナス1から5を下とする面接要領にない基準を設けてふるい分けを行った旨証言した。しかし,そのようなふるい分けを行いながら,プラス3と4を分ける評価基準はないと証言しており,基準のない恣意的評価であることを認めている。
また,このような10段階評価を行った理由について,面接官は「当然,面接する上で,採用する人の人数等はあるだろうと思いますのでそこはある程度の振り分けは必要ではないかと思った」と証言した。つまり,適性のある者全てを採用するのでなく採用が限られることを最初から想定していたのである。また,他の面接官も,近畿厚生局への転任が分限免職回避のためであるという認識はなく,同厚生局の業務を適正円滑かつ効率的に運営するために必要な職員を選考するという認識しかなかった旨証言している。
(ウ)原告P5の面接票には,同原告が「目的外閲覧」(業務外閲覧)により懲戒処分を受けた旨記載されているが,
同原告は業務外閲覧ではなく,
他の職員が原告P5のカードが挿入された状態のときに業務外閲覧をしたことについて,カードの管理責任を問われたものであり,このような重要事項について誤った記載があることが見過ごされたままで,この面接が実施されたことは不当である。

厚労省不採用後の経緯(ア)原告P5は,他の公務の職場への転任についても,担当者から,常に「話はしているが無理,難しい」との言葉ばかりで,本当に親身に相談にのってもらったことはなかった。
原告P5は,P20課長から,官民センターへの登録を強要され,平成21年7月頃,「登録しない者は知らない」とまで言われたため,公務の職場への転任を希望しつつも,やむを得ない場合は民間への転職もあり得ると思い,同月頃,一応登録した。
しかし,
官民センターからは,
一度のあっせんもされなかった。
また,
原告P5が,P20課長に聞いても,官民センター登録されている企業の詳細情報について,詳しくは答えられないと言われるなど,まともな支援は受けられなかった。
(イ)原告P5は,平成21年12月の緊急対策の厚労省の臨時職員の募集についても,見通しの全く立たない不安定な2年3か月の有期雇用へのあっせんであったため応募しなかった。
(ウ)原告P5に対しては,P20課長が,電子メールで2,3回,ハローワークの求人情報程度の情報を送ってきた以外,具体的な再就職支援はほとんど何も行われなかった。その電子メール情報も,新聞配達や和歌山の牛乳配達等,およそ原告P5の経歴や能力,希望等を考慮したものとはいい難いものであった。
結局,平成21年12月の本件処分の直前に,P20課長は,原告P5に対し「あなたの再就職支援については,ほとんどできていない」と言い放つような状況であった。

本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
原告P5は,本件処分後,当局からのあっせん又は連絡等を一切受けていない。

5
本件処分の違法性(1)分限回避義務の不履行
原告P5は,機構への採用か厚労省等への転任を希望していたが,機構については採用を拒否され,厚労省についても曖昧な選定理由でわずか5分程度の形式的な面接が行われただけで転任を拒否された。他府省については何らのあっせんも行われていない。
原告P5は,官民センターに登録して,民間への再就職支援も求めたが,同センターからは結局一度のあっせんもなく,同センターに登録されている企業の詳細情報すら教えてもらえないなど,結局まともな支援は受けられなかった。
このような事実に照らせば,原告P5に対して分限回避義務が尽くされたとはいえない。
(2)人選の不合理性
原告P5は,平成6年4月1日に社保庁に採用されて以来,15年間,年金業務に従事してきた。
その間,原告P5は,国民年金の適用や支払,厚生年金・健康保険の適用や健康保険給付,年金給付等に従事し,多様な業務経験を経てきた。厚生年金の分野においては,事業所の適用要件の判断基準,新規適用事業所の添付書類,過去の記録調査の手法等について,国民年金の分野においては,免除申請の特例要件,未納者対策,保険料口座振替手続における処理,還付金の決定事務,DV被害者対策としての年金番号変更の取扱いなどについて,細かい知識と経験が必要とされる実務に精通し,上司からの相談もしばしば受けるなど,その実務能力と内外の職員からの信頼は極めて高かった。以上の事実に照らせば,原告P5には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。
(3)懲戒処分歴を考慮すべきでないこと
原告P5は,平成17年12月27日付けで減給の懲戒処分を受けているが,これは,同原告自身が業務外閲覧を行ったものではなく,同原告のカードが端末機器に挿入された状態で,他の職員が業務外閲覧をしたという軽微事案にすぎないし,それについては既に懲戒処分がされており,これを理由に免職とすることには二重処分の違法がある。
したがって,上記懲戒処分を理由として原告P5を分限免職の対象者とすることはできない。
(4)説明・協議義務違反
職員団体との交渉もないままに本件処分がされている上,原告P5に対し具体的な免職理由の告知や弁解聴取の機会も一切与えられないままに,専ら書面の郵送の方法により本件処分が告知されており,手続上も不備があることは明らかである。
(5)小括
したがって,原告P5に対する本件処分は違法である。
第10
1
原告P6について
入庁経緯
原告P6は,利益を追求する企業ではなく,国民の全てに公平に利益をもた
らす公共サービスに魅力を感じて公務員を志望した。
原告P6は,社保庁から連絡があり面接に赴いたところ,すぐ決めてくれるのであれば採用するとの話であり,社保庁における年金業務や健康保険業務をやってみたいと思い,内定を最初にもらえたこともあって社保庁に入庁した。2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P6は,平成4年4月1日に採用され,京都府福祉部保険課庶務係に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)3

勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事業所からの信頼

原告P6は,
平成4年4月1日,
京都府福祉部保険課庶務係に採用され,
同年7月1日に京都西社保事務所適用課適用第一係に配属されて以降,17年半もの長きにわたって,府内各地の社保事務所で業務を行ってきた。

原告P6は,適用課では,健康保険や厚生年金保険の加入・喪失,報酬改定の指導・調査・処理,
適用事業者の届出漏れや新規適用事業者の指導・
調査,健康保険の扶養者認定の指導・調査・処理等の業務に従事した。業務第一課は,
適用課と健康保険給付課が統合してできた課だったため,
原告P6は,従来の適用課の業務に併せて健康保険給付の仕事も受け持つことになった。
原告P6は,国民年金業務課では,保険料収納計画の企画・立案,未納者への納付催促・強制徴収,被保険者の加入,喪失の指導・調査・処理等の業務に従事し,年金給付課では,老齢・遺族・障害各基礎年金,厚生年金の給付審査・調査・処理,窓口年金相談業務等に従事し,庶務課では,職員の給与・手当支払処理,出勤状況の管理,休暇等福利厚生の管理,健康給付金や国民年金給付金,
保険料還付金の支払処理等の業務に従事した。


以上のとおり,原告P6は,徴収課を除く全ての課の業務を経験してきた。
原告P6は,係長に昇任してからは,一般職員を統括して指導していくとともに,部下の考えや要望を酌み取り,上司である課長に進言して業務を円滑に行えるようにした。


国会議員の年金記録問題が社会的に大問題となったとき,原告P6は国民年金業務課に所属しており,窓口や電話で批判の声を浴びせられながらも真摯に対応した。また,原告P6は,保険料を未納している者を戸別訪問した際,国会議員も払っていないのになぜ自分が払わなければならないのかと詰め寄られることも度々あったが,丁寧に説明をして保険料を払ってもらった。
また,年金保険料不正免除処理問題が生じたときには,原告P6は,自分の担当外であったが,職員全員の問題だと認識して積極的に取り組み,2,3週間にわたって,休日,夜間を問わず戸別訪問に駆け回り,1日に20軒くらいは戸別訪問した。原告P6は,届出を受理することなく免除の承認通知を行ったことについて,経過を説明して謝罪し,改めて国民年金制度の理解を求め,給付が困難であれば免除制度があるから免除申請するようにと説明して免除届の受理に奔走した。

このように,原告P6が,自らの仕事のみならず他の仕事も含めてこつこつと真面目にしていたことについては,同じ上京社保事務所で勤務していた者も認めている。
原告P6は,在職中,市民と直接触れあう機会が多かったが,常に相手の立場を考えながら誠実に業務を行ってきて,市民に感謝されることも少なからずあった。
例えば,健康保険出産給付金を受け取れないと思っていた者が相談に来たとき,よく話を聞いてみると請求可能ではないかと判断して受付をし,支払まで無事完了したときに感謝してもらった。また,老齢年金の請求をした者に関して,最初に相談を聞いたときには受給権はないと判断せざるを得なかったが,会話をする中で過去の勤務歴を思い出してもらって加入期間を判明させ,無年金者から年金受給者になることができたときに,感謝してもらった。さらに,障害年金の請求をした者について,複雑な傷病についてスムーズに初診を確定し,請求に至ることができ,感謝してもらった。
このように,原告P6は,市民から感謝の言葉をもらうことで,仕事に対して大いにやりがいを感じていた。(2)懲戒処分歴

原告P6は,平成17年12月27日,他の職員がカードを使って業務外閲覧をしたために,カード管理懈怠を理由として,減給処分を受けた。その内容は,平成16年4月26日に政治家を2名分,同年10月15日に著名歌手を1名分の閲覧が記録されているとのことだった。


同年4月26日の閲覧については,原告P6のカードによって行われたが,この頃は,業務遂行を迅速に行うために,比較的長時間席を立つ場合を除いてカードを端末に挿したままにしておくことが常態化していた。原告P6のカードも恐らく端末に挿したままだったため,それを利用して誰でも記録を閲覧することができる状況にあったものと思われる。
当時,国民年金未納問題で政治家や著名人の未納が批判され,個人情報漏洩が話題になっていた時期であり,原告P6は,記録閲覧に注意していた時期だったので同原告自身はそのような閲覧はしていない。
そもそも,閲覧禁止の内規が制定されたのは平成16年5月末であるから,この閲覧行為は内規違反にも当たらないものであった。


また,同年10月15日の閲覧については,可搬型のノートパソコンに挿し込まれたカードによって行われた。可搬型のノートパソコンは3,4台あり,カードも同数あったが,このカードは庶務課の金庫に保管されており,朝早く来た者が庶務課を通してカードを受け取って可搬型のノートパソコンに挿し込み,最後に帰る者がカードを庶務課に返していた。このカードのパスワードは共通であり,職員なら誰でも記録を閲覧することが可能であった。
すなわち,このカードは庶務課が管理しているもので,原告P6が管理しているものではなかった。しかし,払出簿に責任者を記載する必要があったところ,たまたま同日に現場の第一の責任者である課長と第二の責任者である調査官が不在であったため,現場に残っていた職員の中で一番立場が上である係長の原告P6が責任者とされた。責任者といっても,
係長である原告P6には課長のように決裁権もなく,
普段の業務も肩書のない他の職員と同じ業務であった。
社保事務所長が,原告P6を含めて国民年金業務の職員全員に聞き取り調査を行ったが,全員業務外閲覧をしていないと回答した。その結果,たまたま同日の責任者となった原告P6が懲戒処分を受けざるを得ないことになった。同日に課長や調査官がいたら,原告P6は懲戒処分を受けずに済んだ。

原告P6は,初めての部署の庶務係長に異動したところであり,仕事も不慣れであったため,審査請求をすると管理職である所長や庶務課長と気まずくなり,仕事の助言も受けにくくなって業務が思うように遂行することができなくなると不安を覚えたことから,審査請求をしなかった。また,その頃,京都の社保事務所を視察したP35長官が,「社保庁の信頼回復に向けて,あえて重い処分とした」,「皆さんがこれから一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言を行い,原告P6は,この発言を聞いて,業務を頑張れば安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼した。まさか,4年後にこのことが原因で職を失うことになるとは思いもしなかった。


以上のとおり,原告P6の懲戒処分は,同年4月26日の閲覧については内規制定以前の行為であり,同年10月15日の閲覧については管理責任を問われる筋合いのないものであって,いずれの閲覧についても,懲戒処分自体が不当なものであった。

(3)休職

原告P6は,業務外閲覧を疑われた平成17年,京都社保局舞鶴事務所長と中京社保事務所長からそれぞれ3回程度事情聴取を受けた。舞鶴事務所長からは,「他の職員は認めていない。君が認めないのなら,他の職員のせいにして,他の職員を信用していないことになる」
と問い詰められた。
また,中京社保事務所長からは,「カードの管理責任が不十分だったのは間違いないだろう」と問い詰められた。こうして,原告P6は,懲戒処分をやむなく受けるような状況に追い込まれ,平成17年12月27日に減給処分を受けた。

また,原告P6は,平成17年10月に京都社保局舞鶴事務所から中京社保事務所に異動となり,初めて庶務会計業務を担当することになった。原告P6は,この慣れない業務を一人で担当することになり,朝庁舎の鍵が開く頃に出勤して,夕方5時以降も残って仕事をするなど,勤務時間が長くなった。


このように,原告P6は,強い精神的負荷が掛かる公務上の出来事及び長時間勤務によって,
平成18年2月3日に鬱病と診断されたものであり,
原告P6の精神疾患発病は,公務災害にほかならない。
その後,原告P6は,通院しながら勤務を継続していたが,国民年金保険料の不適正免除処理問題が発生したため,隣の課である国民年金業務課の応援も行うようになり,業務量が自然に増大していった。原告P6が上司に対して,自らの病気に配慮してほしいと申し出ることができる状況ではなかった。


原告P6は,懸命に業務に励んできたが,政府のその場しのぎの現場への責任転嫁により,努力しても報われないという思いが募り,平成19年5月頃から休みがちになった。原告P6は,1か月単位で出勤と欠勤を繰り返していたが,職場に迷惑が掛かることもあり,平成20年4月1日から休職することになった。
原告P6は,休職期間中,職場復帰のためのリハビリとして,図書館で過ごしたり,病院のデイケアに通って作業をしたりして過ごしていたが,かかりつけの医師に職場復帰可能との診断をもらって復職したのは,平成21年12月1日であった。社保庁廃止まで1か月しかなかったが,原告P6は,元々職場復帰の強い意志を持っており,また,休職のまま分限免職になるというのは心残りであり,同僚と一緒に社保庁最後の職場を迎えたいという思いが強くあったことから,復職したものである。
4
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P6は,
今までの経験で得た知識を生かせる機構や協会が希望だった。
しかし,原告P6は,平成19年5月から1か月単位で休みがちであり,協会の情報について何の連絡も受けなかったため,面接も受けられなかった。また,原告P6は,懲戒処分歴があるため機構を希望することはできないと言われた。そのため,原告P6には,厚労省に応募するしか選択肢がなかった。
(2)手続の経過と結果

本件意向調査
原告P6は,平成20年11月に実施された本件準備調査,平成21年1月に実施された本件意向調査のいずれについても,厚労省への転任を第1希望とした。


本件転任面接
原告P6は,平成21年2月に本件転任面接を受けたが,この面接では病気のことばかり聞かれ,わずか10分程度で終了した。
原告P6は,同年6月,所長からの電話で,厚労省に転任されなかったと伝えられた。


本件処分に至るまでの経緯

(ア)原告P6は,平成21年9月頃,P20課長から宇治年金相談センターで相談員を募集しているという情報をもらった。P20課長は,飽くまで非公式の打診なのでホームページを見て応募するようにと言ったので,原告P6は,同センターのホームページを確認した上で履歴書を送付した。
原告P6は,このままでは分限免職になるとの思いから採用面接を受けたが,自分が休職中であるという情報が伝わっていたようで,結局不採用だった。
ただでさえ,
募集人数が3,
4名という厳しい条件の中で,
病気休職中であるという不利な情報が事前に伝えられ,社会保険労務士5名の面接官に自分が精神の病気の人だという目で見られて,結局不採用となったため,原告P6は,大変惨めでむなしい思いを抱いた。(イ)原告P6は,平成21年12月に職場に復帰した後,やむを得ず官民センターへ登録した。最初は,登録することによって公的機関へ転任させない理由ができるのではないかという不信感から登録しなかったものの,分限免職の現実が近づくにつれ,無職無収入になる不安感から登録したが,
就職先のあっせんは全くなかった。
それどころか,
原告P6は,
「独身なら食べていこうと思えば何とでもなるさ」などと言われ,自らの責任など全く感じていない当局の態度に驚きを隠せなかった。
(ウ)厚労省の非常勤職員への応募も選択肢としてあったが,当局からはペーパーによる情報提供のみで具体的な働き掛けもなく,最長2年3か月の有期雇用ではとても不安だったため,原告P6は応募しなかった。また,原告P6は,機構の准職員も懲戒処分歴がない者しか採用しないと聞いていたので希望しなかった。

本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
原告P6は,P20課長(当時は京都南年金事務所長)から電話で,「再
就職支援を近畿厚生局に引き継がなければならないのだが今後も支援を希望するか」と問合せがあったので,希望すると返答した。しかし,近畿厚生局のあっせんは,労働基準局やハローワークの非常勤職員というハローワークでも取得できる情報が文書で3回程度来ただけであった。原告P6は,ハローワークの非常勤職員に応募して面接を受けたが,結果は不採用だった。
原告P6は,近畿厚生局から,平成22年3月末をもって情報提供は終了するが今後も引き続き支援を求めるかと尋ねる書面が届いたので,支援を求めると記載して返送したが,その後何の連絡もなかった。
(3)本件転任面接の不適正

原告P6は,面接票の「意向準備調査票の記載状況等評価」について,C評価となっている。そもそも,準備調査票を評価の対象とすること自体不当なことであるが,それを措くとしても,準備調査票を見ると,記載誤りや乱筆等は全く見られない。それどころか,これまでの業務経験を踏まえて,「都道府県労働局を希望します」と記載しており,熱意が十分感じられるものとなっている。
ところが,近畿厚生局への転任の適否を見る面接だからという理由でC評価を付けている。


また,面接票の「Ⅱ

面接の記録」における「懲戒処分の確認(処分を

受けた者は,改悛の情を確認)について,「不十分」と判断されている。しかし,原告P6が受けた懲戒処分は不当なものであったのであり,原告P6は,懲戒処分について質問されたことに対し,「処分については今でも納得していません。しかし,今後の仕事に対しては前向きな気持ちで頑張っていこうと思います」
と答えている。
この原告P6の応答に対して,
懲戒処分の実態を全く知らない面接官が,改悛の情が「不十分」と判断している。

さらに,面接において,原告P6が質問を受けた内容は,終始,病気で休職していることに関するものであり,勤務成績や家族状況に関するものは一切なかった。本来,休職していたことについては,分限免職を回避すべき必要性を高める要素であるにもかかわらず,面接票に「鬱」,「休職中」と記載してマイナス要素と捉え,E評価としている。
一方,人柄,性向等についての具体的基準はなく,総合評価の細かい区分の具体的基準もなかった。また,面接後に他の面接官との調整も行われず,面接官の主観のみで総合評価が付けられた。

そもそも,面接官は,この面接が分限回避のために行われるべきものという説明を事前に受けておらず,その認識すら有していなかった。

以上のとおり,原告P6に対して行われた本件転任面接は,適正に行われたとは全く評価し得ないものだった。

5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P6は,たった1度わずか10分程度の本件転任面接により,厚労省に転任されなかった。当該面接では,原告P6の休職のことばかり質問され,採否を判断するに当たって本来確認すべき勤務成績や家族状況等については一切質問がなかった。また,実態も分からないまま,懲戒処分に対する改悛の情について「不十分」と判断したり,休職していたことをマイナス評価したりするなど,「適正に行われた」とは全く評価し得ない面接だったのである。
しかも,そもそも分限回避措置の一環という位置付けはされていなかったのであるから,本件転任面接を同措置の一つと見ることはできない。

原告P6は,厚労省に転任されないことが分かってから,宇治年金相談センターの採用募集の情報提供以外に,
具体的な支援を一切受けなかった。
また,原告P6は,復職後,無職無収入になる不安からやむを得ず官民センターに登録したが,就職先のあっせんは全くなかった。


以上の事実に照らせば,分限回避義務が尽くされたとはいえない。(2)人選の不合理性ア
原告P6は,17年半もの長きにわたって京都府内各地の社保事務所で業務を行い,豊富な経験,知識を蓄えてきたし,常に相手の立場を考えながら誠実に業務を行ってきたことから,市民の方々に感謝の言葉をもらうことも度々あった。
以上の事実に照らせば,原告P6には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。


原告P6は,カード管理懈怠を理由として減給処分を受けているが,この処分は,そもそも原告P6の責任かどうかも疑わしい理由に基づくものであり,処分自体不当である。同処分が妥当だとしても,原告P6は,既に懲戒処分を受けているのであるから,これを理由に分限免職とすることは一事不再理の原則に反する。
したがって,上記懲戒処分を理由として原告P6を分限免職の対象とすることはできない。


何より,原告P6は,強い精神的負荷が掛かる公務上の出来事及び長時間勤務が原因で精神疾患を発病し,本件処分の時点では,職場復帰してからまだ1か月しか経過していなかった。このように公務災害に遭った者については,責任を持って雇用を継続すべきであり,復帰間もない者を無情にも分限免職することは許されない。このことは,業務上災害による療養中の解雇を禁じた労基法19条1項の趣旨からも明らかである。


以上のとおり,原告P6を分限免職の対象者とすることは許されない。
(3)説明・協議義務違反
原告P6は,本件処分に関して説明らしい説明を一切受けていない。また,社保庁長官等は,他の公的機関を希望する原告P6に対して,本件支援室や官民センターの説明をするにとどまり,他の公的機関に関する説明は一切しなかった。厚労省非常勤職員の募集についても資料のコピーが机の上に置かれていただけで,意思確認や説明は一切なかった。原告P6の特性に配慮した上で,どのようにすれば同人の雇用を継続することができるかという観点から説明がされたことは一度もなかった。さらに,職員団体との交渉も全く行っていない。
以上からすれば,社保庁長官等の説明・協議義務違反は明らかである。(4)小括
したがって,原告P6に対する本件処分は違法である。
第11
1
原告P15について
入庁経緯
原告P15は,定年まで安定して働き続けながら,国民のための業務に従事
したいと考え,国家公務員を志望して勉強に励んだ。原告P15は,国家公務員初級試験を受験し,合格を知ったときは,これで上記希望が実現できると思い,家族共々嬉しさに包まれた。
原告P15は,京都府保険福祉部から採用面接を行う旨の連絡を受け,健康保険や年金の業務は,国民の生活・健康の直接的な保持に携わるものであり,自らの前記志望を実現できると考え,上記面接に応募して,内定を得た。2
社保庁での職歴等
(1)職歴(略)
(2)昇任(略)

3
勤務態度
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事業所からの信頼

原告P15の担当してきた業務は,庶務と年金支払を除く全般に及び,現場の最前線において業務に精通してきた。適用業務(健康保険証作成,厚生年金加入手続)に関する事業所に対する調査・指導業務においては,適切な処理により事業所からの信頼が厚く,原告P15に対する本件処分については,事業所からも,驚きや怒りの声が寄せられた。イ

機関委任事務の廃止に伴い,国民年金事務が平成14年4月1日から地方から国へ移管したことによって,国民年金保険料の収納率が下落した。これについて,社保庁より厳しい指導が入る最中の平成15年10月1日付けで,
原告P15は,
上京社保事務所国民年金業務課長に配属となった。
同配属後は,連日,所長と打合せを行いながら,国民年金保険料の納付向上のための事業運営に励んできた。


平成16年7月,民間からP35長官が就任し,民間手法の業務の効率化と業績アップを目的とした「緊急メッセージ」が出された。原告P15は,
更なる国民年金保険料の納付率向上に向けた
「アクションプログラム」
と題する日々報告に,連日,夜遅くまで取り組んできた。


平成17年12月,
社保庁への批判が集まる中で,
いわゆる
「のぞき見」
といわれる業務外閲覧を理由とする懲戒処分が全国規模でされた。当時,京都の社保事務所を視察したP35長官は,社保庁の信頼回復に向けて,「
あえて重い処分とした」「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言を行った。当時は,厚労大臣の下の有識者会議において社会保険新組織に関する考え方が示された時期であったが,上記発言を聞いた原告P15は,業務を頑張れば,安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼した。


その直後の平成18年2月,京都社保局において「国民年金保険料の不正免除」問題が発覚した。原告P15は,その対応のために,休日にも呼出しを受けて,深夜遅くまで事務所で待機を求められ,帰宅することができたのが翌朝の3時頃になったこともある。その後,原告P15は,被保険者への謝罪と制度説明のため,休日や夜間を問わず被保険者の自宅を訪問し,訪問した被保険者から「年金はもらえないと思っていたのに,年金受給につながるとは本当に嬉しい。訪問してもらってよかった」などと感謝されることもあり,苦労も忘れ,本当に社保庁職員であって良かったと感じるとともに,自らの職責の重要さを再確認した。カ
原告P15は,平成19年3月1日付けで,上京社保事務所業務第二課長に配属され,厚生年金保険適用業務と加入事業所の調査業務の総括的役割を担当することになったが,その直後の同年5月,年金記録問題が大きな社会問題となった。当時は,連日300名以上の来訪者があったことから,原告P15は,所定勤務時間内は来訪者対応に集中し,開庁時間終了後に一般業務や派遣職員(年金記録問題解決のための夜間要員として当局が採用した)の指導を行うなど,夜間・休日を返上して,献身的に業務を遂行した。
原告P15は,年金記録調査について独自のノウハウ(①古い記録の調査に関する検索のテクニックや勤務先・所属部署・年代の調査方法,②年金受給の可能性がある対象者に対するフォロー調査等)を開発・蓄積してきたが,年金記録問題についてのNHKのテレビ取材が行われた際,上記ノウハウが評価されて,所長から取材に対する説明を担当するよう指示された。原告P15からの取材に基づき全国ネットのニュースで報道された内容は,社保事務所職員が,過去の厚生年金記録調査を真摯かつ懸命に遂行している姿を平易に伝えるものであり,国民からの信頼回復に資するものであった。
原告P15は,上京社保事務所において厚生年金記録の調査確認業務の中心となり,来訪者への対応,他の職員へ指導,また,
「ねんきん特別便」
の窓口対応のために委託した社会保険労務士のサポート等に,その知識・経験,前記ノウハウ,指導力を存分に発揮し,職員や社会保険労務士からの信頼も厚かった。


以上のとおり,原告P15は,全体の奉仕者としての憲法上の職責に立脚し,独自のノウハウの開発・蓄積等の研鑽に励み,誠実さと責任感を持って,夜間・休日の返上も惜しまず,担当業務を遂行し続けてきたものであって,特に,本件処分直前の平成19年3月1日以降は,上京社保事務所の業務第二課長及び業務課長として,同事務所の円滑な組織運営と進捗管理に尽力していた。
(2)職員団体歴
原告P15は,採用と同時にP33労働組合に加入し,業務の効率化や国民サービスの向上を目指して活動してきた。同労働組合青年部常任委員,34支部執行委員,同支部書記次長を歴任した後,平成9年11月から平成12年10月まで同支部(平成12年4月からは,組織変更によりP16P17支部)書記長の立場にあった。平成12年11月以降は,P16P17支部副支部長であった。
(3)懲戒処分歴
原告P15は,平成21年7月31日付けで,京都社保局長から減給処分を受けた。その理由は,下京社保事務所年金専門官又は社会保険給付専門官であった平成9年11月から平成12年10月までの間において,社保庁長官の許可を得ることなく,職員団体の業務に従事し,また,その間,給与の支給を受け続けたというものであるが,この懲戒処分は違法である。(4)本件処分時の身分,職務内容,給与等
本件処分時の身分は,上京社保事務所の業務課長であり,原告P15の給与は,平成21年分が773万3067円であった。
4
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P15は,前記の知識・経験・ノウハウ・組織運営や進捗管理能力等を発揮する業務を希望するとともに,公務員として職務を全うすることも希望した。
(2)手続の経過と結果

厚労省への転任(ア)全職員に対し,平成20年11月に実施された本件準備調査及び平成21年1月に実施された本件意向調査において,原告P15は,公務員として職務を全うしたいとの希望により,いずれも厚労省への転任を第1希望として回答した。平成21年2月に面接がなされたが,10分から15分程度の短時間のものにすぎなかった。
(イ)面接において,原告P15は,公務員として働き続けたいこと,高校受験を控える子供のために通勤可能な範囲での転任を希望すること,厚労省内の労働部門についても異動する意思があること,船員保険担当経験があること,
高齢者福祉の部門があればその仕事にも関心があること,
業務外閲覧については他人が行ったのぞき見に対する管理責任を問う行き過ぎた処分があったと感じていること,不適正免除に関しては現場の反対の声を押し切って実施されたため問題になっており,より丁寧な方法が採られなかったことを踏まえて残念な問題であることなどを話した。しかし,面接官は,当該面接を分限回避義務の一環として認識しておらず,分限免職処分における人事院規則の存在も知らない状態で面接をしていた。また,「声が大きい」,「礼がない」など,業務に一切関係ない事項で判断していた。
また,原告P15が熱意ある回答や準備調査表の記載要領に沿って回答しているにもかかわらず,準備調査票に「厚労省以外の公務労働であっても就労を継続したい」旨の記載があったことのみをもって,熱意がないと不当に評価した。さらに,面接官は,原告P15が分限免職になる可能性があることを認識せずに,準備調査票の記載を評価したと述べており,評価の不当性は明らかである。
さらに,業務外閲覧や不適正免除に関する原告P15の上記回答についても,これらの詳細を知らずにバッシングを内容とする新聞報道等による誤った知識のみで評価を加えるなど,面接官は適正な評価をし得る立場になかった。改悛の情を評価するとされている懲戒処分に関する事項について,面接官に懲戒処分の経緯についての正確な知識がないことは極めて問題である。
(ウ)このように原告P15に対する本件転任面接が適切にされたとはいえず,原告P15は,平成21年6月,上京社保事務所の所長から転任されなかったという連絡を受けた。

機構への採用

(ア)原告P15は,平成21年1月に実施された全職員に対する本件意向調査において正規職員を希望した。原告P15は,社保庁によって,機構職員となるべき者として選定され,同庁が同年2月Ⅰ6日に設立委員会に提出された名簿に登載された。
(イ)機構の募集要項においては,懲戒処分がない職員でも,訓告等の処分がある職員にはレポートを提出することを義務付け,当該職員の役職が事務所課長以上の場合は面接も実施することになっていた。しかし,原告P15については,その当時において,処分歴が全くなかったにもかかわらず,面接を受けるようにという指示がされ,特異な取扱いが行われた。原告P15は,同指示に従って面接を受けたが,面接官も疑問を抱き,「処分歴がないのに,なぜ面接を受けたのか?」と,事情の分からない同原告に対して質問を行うような状況だった。
(ウ)同年6月25日,機構が採用を内定した職員に通知がされたが,原告P15に対しては,採用保留とされた。
その後,同年7月31日付けで減給処分がされ,同年10月14日に原告P15は,P19次長とP20課長から,減給処分を理由に,機構職員として採用しない旨の通告を受けた。
(エ)以上の特異な面接,減給処分,不採用通告,本件処分という経過は,機構職員となるべき資格を有する原告P15を何としても排除しようとする露骨かつ違法な目的と,その目的達成のための既成事実作りが行われてきた事実を示している。

その後の就職あっせん等とそれに対する対応

(ア)上記の不採用通告以降,原告P15に対する分限回避措置は,全く行われなかった。不採用の通告日に官民センターへの登録をするように言われ,同センター等に関する極めて一般的・抽象的な説明がされただけであった。不採用通告から同年末まではわずかな期間しかなく,実質的には自己努力で就職活動を行えという内容であり,原告P15は,その無責任極まりない態度に怒りを禁じ得なかった。
(イ)その後は,平成21年12月中頃に一度だけP19次長による面談が行われただけであり,同面談でも上記と同様の説明が繰り返されたにすぎなかった。それ以外の連絡は全くなかった。
(ウ)原告P15は,機構の名簿に登載されたにもかかわらず違法な減給処分を理由に不採用となることは理由がないし,その当然の結果として分限免職処分を受ける理由もないと考えたことから,官民センターには登録せず,社保庁長官等が使用者としての分限回避責任を果たすように要望したが,当局は応じなかった。
(エ)厚労省の非常勤職員については,身分が不安的な期間雇用であるとともに収入が激減することから,応募を見送った。
(オ)機構に不採用となった以降も,原告P15は,年金記録問題解決のため,時間外はもとより休日の窓口対応にも積極的に関わり,その職責を果たしてきた。

本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
本件処分が取り消されるまで何らの連絡もなく,原告P15は,文字通りの使い捨ての扱いを受けた。

(3)人事院判定と復職平成25年10月24日,人事院は,原告P15に対する本件処分を取り消す判定を行い,同原告は,同年12月1日から近畿厚生局京都事務所で業務を始めた。しかし,原告P15は,違法な懲戒処分を理由として,約30年間行ってきた厚生年金や国民年金の業務から今なお排除され,これまで経験のない医療保険の業務に従事することになり,多大な努力を強いられている。
5
本件処分の違法性
(1)懲戒処分の違法性
原告P15の優れた知識・経験・ノウハウ,組織運営や進捗管理能力,指導力,ノウハウの開発・研鑽に励む積極性,旺盛な勤務意欲,誠実で責任感ある勤務態度からすれば,原告P15が機構職員となるべき者として選定され,名簿に登載されたのは当然であった。
しかし,原告P15は,違法な懲戒処分のために,機構に不採用となり,分限免職処分を受けたものである。原告P15に対する懲戒処分は,同処分の対象となる行為が終わってから9年近くもの期間が経過しており,同原告が,減給処分の対象期間の終期(平成12年10月)の翌年の平成13年10月1日に6級に昇任し,同年11月1日に京都社保局舞鶴事務所の業務第一課長として配属されるなど,その後も順調に昇任し,職場からも信頼されて業務を遂行してきた中で,正に機構からの排除を目的として行われたものだった。
(2)分限回避義務の不履行
原告P15は,機構への採否が不当に保留されたため,平成21年10月14日になって初めて,支援対象職員となったことを告げられており,他の職員に見られるような形だけの分限回避措置も採られなかった。
(3)人選の不合理性
本件転任面接においては,社保庁において生じていた様々な問題について何ら正確な事情を知らない面接官が,原告P15の懲戒処分に対する回答に不当なマイナス評価を加えており,人選の不合理性は顕著である。(4)小括
したがって,原告P15に対する本件処分は違法なものであった。第12
1
原告P7について
入庁経緯と家族構成

(1)入庁経緯

原告P7は,高校3年生のとき,国家公務員試験と並行して大学受験にも取り組んだが,国家公務員初級試験には合格したものの,大学受験は失敗に終わった。原告P7は,幼少の頃から,親の金銭的苦労を目の当たりにしてきており,高校卒業後は親に金銭的な負担は掛けたくないという思いから,就職することを決意し,昭和59年3月20日頃,京都府福祉部保険課の面接を受け,採用されるに至った。


原告P7が国家公務員に魅力を感じたのは,職業の安定性という面もあるが,何より民間企業で利益優先の仕事をするよりも国民の利益となる仕事がしたいという思いが強かったからである。
原告P7が公務の中で社会保険分野を選択したのは,健康保険や年金という国民生活の基幹部分を担う分野であることから,よりやりがいがあると感じたためである。

(2)家族構成
原告P7は,妻との二人家族である。
2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P7は,昭和59年4月1日に採用され,京都府福祉部保険課庶務係に配属された。
(2)職歴(略)(3)昇任(略)
3
勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事務所・国民からの信頼

原告P7は,採用以来25年以上にわたって,京都府内各地の社保事務所及び京都社保局で業務に従事してきた。その間,原告P7は様々な業務経験を積んできた。
原告P7は,年金業務を遂行する上で,被保険者の不利益とならないよう,処理の正確性を常に心掛けていた。原告P7の正確かつ適切な業務処理には職場でも定評があり,上司や同僚から質問や相談が数多く寄せられていた。


原告P7は,平成3年11月1日からしばらく,上京社保事務所適用課適用第一係の係長として,船員保険を一人で担当していた。船員保険制度は,健康保険,年金,失業保険,労災等様々な制度が入り混じっており,社会保険行政の中でも特に複雑な分野であって,同制度に精通している職員も限られているところ,原告P7は日々研鑽を重ねながら適切に業務をこなしていった。


原告P7は,平成9年に年金専門官に昇任し,当時は社会保険行政の制度が大きく変容するとともに経過措置の取扱いが増すなど業務量が大幅に増えた時期であったところ,
その在職中,
率先して現場の混乱を収めつつ,
年金相談等にも機敏に対応してきた。


原告P7が下京社保事務所業務第二課に異動した後,当時の課長とその後任の課長が相次いで病気休職する事態が発生し,原告P7が課長代理として業務に奔走していた時期があった。当時,原告P7は,滋賀県長浜市の実家から通勤していたが,帰りはいつも午後9時30分過ぎの最終電車で,実家の最寄り駅に着くのは午後11時くらいだった。


原告P7は,職場環境の変化にも進んで対応し,与えられた職務に対して責任感を持って真面目に取り組んでいた。(2)休職
原告P7は,平成20年5月29日から同年9月30日までの間,及び平成21年7月1日から本件処分に至るまでの間は,鬱病の病気療養のため休職している。原告P7は,一旦復帰したが,症状の悪化により再び休職を余儀なくされている。
これは,年金制度の変容による業務量の増加や,年金相談窓口対応で強いられる過度の緊張やストレスの連続等が,精神疾患の症状を悪化させる要因となっていたもので,公務災害にほかならない。
(3)懲戒処分歴
業務外閲覧を行ったことのある職員のうち,上司からの聞き取り調査に対し上記閲覧を否認した者は,それ以上の調査をされることなく,懲戒処分に至らない文書又は口頭による厳重注意を受けたのみであり,社保庁廃止後も機構に採用されている者が少なからずいる。
このようなずさんな調査により,
正直に回答したものだけが懲戒処分を受けて分限免職されるのは,著しい不平等である。
また,原告P7が分限免職とされる一方,懲戒処分歴保有者の一部が厚労省に採用されているが,これについても基準が不明確で,かつ不平等な扱いである。
4
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P7は,懲戒処分歴保有者は機構職員に応募することができないということを知らされ,近く原告P7に対する懲戒処分が予定されていたことから,厚労省又は他府省への転任を希望した。これは,原告P7に,民間ではなく,国家公務員として働き続けたいという思いがあったためである。(2)手続の経過と結果ア

原告P7は,平成21年1月に実施された本件意向調査では厚労省を希望し,本件転任面接を受けたが,同年6月26日,P20課長から,採用者名簿には登載がない旨の電話連絡を受けた。


原告P7は,同年7月に実施された本件追加調査の時点において,他の公務職場へのあっせんは非常に厳しいと聞いていたことなどから見込みが全くないと思い,官民センターの登録・あっせんを優先順位1とし,厚労省への転任を優先順位2とした。
原告P7は,同年8月11日頃,P20課長から電話で「公務員としての職種は何がいいのか」との問合せがあったので,これに対して「何でもいい」と答え,続けて「刑務官はどうか」と聞かれたので,了解する旨返事をした。
しかし,それから1週間ほど経ってから,原告P7は,「欠員がない」との連絡を受けた。これに先立ち,P20課長ほか本件支援室のメンバーらは,京都刑務所等の他府省機関へ転任の要請をしているが,今後欠員が出たら連絡をしてもらう旨の要請しかしておらず,それ以上に何ら積極的な働き掛けや調査等は一切していない。


その後も,
P20課長から原告P7に対して,
電話連絡が数回あったが,
官民センターへの登録がされていないこと,及び同登録を直ちに行うように告げるにとどまる内容であり,他の公務職場への転任等に関する具体的な内容の提示は全くなかった。


同年12月11日になって,京都社保局から郵送で,近畿厚生局の非常勤職員募集の案内が届いたが,2年3か月の有期雇用であり,収入も激減するので,原告P7にとって検討に値する内容ではなかった。

(3)官民センターの登録
原告P7は,平成21年7月に官民センターの登録を希望したものの,正式な登録手続は行っていない。原告P7は,同年8月頃になって,P20課長が電話連絡をしてきた際,登録に必要なアドレス及びIDとパスワードを教えてもらったが,教えてもらったアドレスが誤っていたために,ウェブ上のログイン画面にたどり着くことができず,結果として登録することができなかった。
そのため,原告P7は,担当者に対し,教えてもらったアドレスでは登録することができない旨を電話で伝えたが,その後の対応はなく,原告P7が官民センターに登録されるには至らなかった。
(4)本件転任面接が適正に行われていないこと

原告P7の面接を行った近畿厚生局の面接官は,
面接票の特記事項に
「病
気のことを言われなければ普通と変わらず」,「しかしながら・・・やっていけるか疑問は残る」と記載するなど,本件転任面接における原告P7の受け答えには何ら違和感を覚えなかったにも関わらず,評価をするに当たって原告P7が鬱病を発病していることを過度に考慮している。面接官は,原告P7の抱える精神疾患が公務災害の可能性があることを認識しながら,最終的にD(任用には多少疑問がある)の評価を下した。本来,原告P7が鬱病を発病して通院加療中であることは,分限免職を回避すべき必要性を高める要素として適正に評価しなければならない点である。しかし,面接官は,原告P7の病気の存在について,「ネックになるんではないか」と消極的に評価し,転任を否定する主たる理由に挙げている。


また,面接官の評価は,AからEの5段階評価を分ける客観的基準も,C評価をさらに上中下の3段階に細分化して評価を分ける客観的基準もない中で,形式的な書類審査と,志望動機や仕事への意欲等についてのわずか10分程度の時間内における抽象的なやり取りのみを材料にしてされたものである。少なくとも,原告P7が豊富な業務知識や経験を有することを詳細に聞き取った形跡はない。さらに,原告P7の家庭状況等についても何ら確認をしていない。ウ
このように,原告P7について行われた本件転任面接は,面接官の主観的判断によって結論が出され,考慮してはならない事情を考慮したものであるから,適正に行われたとは評価し得ないものであった。

(5)本件処分後の就職あっせん等とその対応

平成22年3月15日,P20課長(当時は京都南年金事務所長)から原告P7に電話があり,「再就職支援を近畿厚生局に引き継がなければならないのだが今後も支援を受けるか」との問合せがあり,同原告は今後も支援を受けたい旨返答した。


しかし,近畿厚生局のあっせんは,意向調査や具体的説明もなく,ハローワークの求人票が3回程度(8件程度)郵送されただけであった。求人票の内容は,いずれも1年の有期雇用で給与は月額10万円前後という不安定かつ劣悪な労働条件の職場であった。


その後,原告P7には,近畿厚生局総務課から,同年4月5日付けで,情報提供は同年3月末をもって終了する旨の文書が届いたのみであり,それ以降は何の連絡も受けていない。

5
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P7は,機構への採用を求めるとともに,それが困難な場合でも厚労省等への転任を希望していた。
原告P7は,平成21年8月11日頃,当時の上司から「刑務官はどうか」との打診を受けたため,了解する旨返答したが,1週間後に「欠員がない」という理由で転任は認められなかった。


また,民間への再就職について,原告P7は,同年7月から鬱病により休職していたため,官民センターへの登録ができなかったが,それについて適切な援助がなされないままに放置された。民間への再就職支援については,平成22年3月頃に,
近畿厚生局から幾つかの情報提供があったが,
いずれも1年の有期雇用で給与は月額10万円前後という不安定かつ劣悪な労働条件の職場ばかりであった。
このような事実に照らせば,原告P7に対して分限回避義務が履行されたとはいえない。
(2)人選の不合理性

原告P7は,昭和59年4月1日に採用されて以来,24年以上にわたって,年金業務に従事してきた。
その間,原告P7は,様々な業務経験を積んできたが,平成3年11月1日からは,上京社保事務所適用課適用第一係の係長として,社会保険行政の中でも特に複雑な分野である船員保険を一人で担当して,的確に業務を遂行していた。原告P7は,平成9年には専門官に昇進するなど,年金業務に精通した優れた職員であった。
このような事実に照らせば,原告P7には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。


原告P7は,本件処分当時,病気療養中であったが,年金制度の変容による業務量の増加や年金相談窓口対応で強いられる過度の緊張やストレスの連続等がその症状を悪化させたものである。
このように公務災害である精神疾患を発病した者については,使用者である国(政府)が責任を持って雇用を継続すべきであり,復帰に向け懸命に努力しているときに分限免職処分をすることは許されない。
このことは,
業務上災害による療養中の解雇を禁じた労基法19条1項の趣旨からも明らかである。
社保庁長官等は,原告P7が長期間にわたって鬱病を発病していることを認識していたにもかかわらず,現在の症状や転職による影響等について一切配慮することなく本件処分をしており,この点においても人選の不合理性は極めて顕著である。(3)懲戒処分を考慮すべきでないこと
原告P7は,平成21年3月11日に業務外閲覧を理由として,懲戒処分を受けた。これは,元同僚の再就職先を知りたかったために,その者の年金記録を見たという軽微な事案であるし,それについては既に懲戒処分がされており,これを理由に免職とすることは一事不再理の原則に反する。したがって,上記懲戒処分を理由として原告P7を分限免職の対象者とすることはできない。
(4)説明・協議義務違反
原告P7は,本件処分について説明らしい説明を受けたことはなかった。また,原告P7の特性や置かれた状況に配慮した上で,どのようにすれば同人の雇用を継続することができるかという観点から説明がされたことは一切なかった。
以上からすれば,社保庁長官等の説明・協議義務違反は明らかである。(5)小括
したがって,原告P7に対する本件処分は違法である。
第13
1
原告P8について
入庁経緯と家族構成

(1)入庁経緯

原告P8が公務員を志望したのは,親が経済状態の浮沈が激しい自営業者であったため,経済的に安定している公務員に魅力を感じ,また,誰かのために何かをする,しかも特定の企業や特定の個人ではなく全体に奉仕することに惹かれたからである。
原告P8が多くある官庁の中から,社保庁を選んだのは,採用面接の連絡が社保庁から最初にあり,また,医療保険や年金という業務の内容について説明を受けて,国民の生活に密着している仕事であり一生の仕事としてやりがいのある仕事だと思ったからである。イ
原告P8は,実際に社保庁の業務の中で,問題を解決し感謝されることなどを通じて,
自分の仕事が世の中の役に立っているということを実感し,
やりがいを感じていた。

(2)家族構成
原告P8は,妻,大学生の長男及び長女の4人家族である。
2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P8は,昭和60年2月に京都府福祉部保険課庶務係に配属された。(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態
(1)豊富な業務知識と経験

原告P8は,約24年10か月の長きにわたって,健康保険・厚生年金適用,健康保険・厚生年金徴収,レセプト審査,年金給付及び国民年金業務等のほぼ全ての社会保険業務を経験している。
このような業務経験から,
原告P8は,現在でも即戦力として現場に戻ることが可能である。

原告P8は,入庁以来,常に誠実に責任を持って業務を遂行してきた。原告P8は,年金相談の来訪者に感謝の電話・手紙をもらったことも一度や二度ではなく,中には,亡くなるまで毎年年賀状を送ってくれた人もおり,これは,同原告が誠実に仕事に取り組んできたことを示すエピソードである。


原告P8は,平成19年3月1日付けで,上京社保事務所徴収課長となり,徴収業務においても常に住民サービスを心掛け業務を遂行してきた。徴収課の主な業務は,滞納処分であり,住民サービスとはかけ離れた業務のように思われがちであるが,原告P8は,厳しい経営状態にもかかわらず,何とかやりくりをして保険料を納付する大多数の事業主が不公平感を持たないためにも公平な徴収を行うことが使命であり,ひいては制度の根幹を担う保険料収入の安定的な確保につながると考え,業務を遂行してきた。
原告P8は,社保庁から示された徴収業務に係る平成19年度から平成21年度までの3年間に達成すべき目標である「行動計画」についても,1年目に達成し,保険料収納率の伸び率は全国312社保事務所で常に上位だった。
原告P8が,上京社保事務所徴収課長に就いた当時は,同事務所の収納率は,京都の中でも特に悪かった。具体的には,他の社保事務所では,24か月以上の滞納事業所数は1桁から多くても10件程度であり,全滞納事業所数でも100件程度であったのに対し,上京社保事務所では,24か月以上の滞納事業所数だけで90件から100件という状況であった。原告P8が徴収課長になって以降の2年間に,このような状況が劇的に改善され20件まで減少した。当時の上京社保事務所長が所持していたデータによると,この収納率の伸び率は,全国の312事務所中で3位から5位と相当上位に位置するものであった。

このような徴収業務が増える中で,原告P8は,徴収に関する実務的な知識に詳しくなり,保険料徴収業務の総括的存在である京都社保局の特別徴収専門官や厚労省京都労働局の徴収担当者から,滞納処分についての相談や疑義照会を受けるようになるまでになった。


しかも,このような改善は,以下のような困難な状況の中で達成されたものであった。
上京社保事務所徴収課長に配属された直後の平成19年5月,年金記録問題が大きな社会問題となり,上京社保事務所には連日300名以上の来訪者があった。社保庁からは,記録問題の解決を最優先業務とし,通常業務の一部は中断や延期とする旨の指示があった。しかし,原告P8の所属する徴収課の業務については,何ら中断や延期とする指示はなかった。原告P8及び徴収課職員は,社保庁の指示のとおり,連日,所定勤務時間内は年金記録問題の来訪者対応に集中した。来訪者の多くは,自身の将来の年金に不安を感じての来所であったが,中にはマスコミの報道等により,社保庁職員は「国賊」,「悪人」,「国民の敵」であるという前提で苦情・暴言を述べる来訪者もいた。しかし,原告P8は,そのような来訪者に進んで対応し相手の理解が得られるよう努力した。そのような来訪者の年金記録の回復と理解が得られ,
謝意の言葉を述べて辞去したときには,
原告P8は,年金記録の回復はもとより,また一つ信頼が取り戻せたと喜びを感じた。
本来の一般業務である徴収業務については,社保庁から業務の中断や延期の指示が出ていないため,時間外に対応するしか方法がなく,開庁時間終了後や休日に自主的に出勤し,夜間・休日を返上することにより対応した。
これは,徴収業務をおろそかにすれば,保険料収納率の低下を招くのは明らかであり,たとえ年金記録問題が早期に解決されたとしても,収納率の低下や納期内に納付している多くの事業主の不公平感が新たな問題となり,その解決には更なる時間が必要になると考えたためである。
原告P8は,こうした連日の残業により,休日の自主出勤を含まない毎月の超過勤務が70時間から80時間に及んだ。もっとも,原告P8は,管理職であったため,超過勤務手当は支給されず,課員の超過勤務手当も削減され数時間分しか支給されなかった。

原告P8のこの成果は正当に評価され,本件処分前の人事評価は,SやAという非常に高いものであった。

(2)原告P8は部下や上司から厚い信頼を得ていたア

このような厳しい状況にもかかわらず,
原告P8は,
部下たちから,
「課
長(原告P8)と一緒に仕事をして,仕事の面白さを初めて理解した」,「別の係になっても一緒に仕事がしたい」といった発言が寄せられた。また,民間から登用された上京社保事務所長からは,「(原告P8の)業務に対する姿勢は職員の鑑だ。その姿勢が課員はおろか事務所全体にも良い影響を与えている」という旨の発言を受け,原告P8は,おもはゆく感じつつも大いに励まされ,より一層業務に邁進した。
このような原告P8の業務に対する熱心な姿勢は,徴収課全体に良い影響を与え,原告P8の部下には,業務実績評価においてSやA評価の者が続出した。原告P8自身も,5期連続でA以上の評価で,本件処分直前の評価はSであった。


以上のとおり,原告P8は,全体の奉仕者としての憲法上の職責に立脚し,業務に必要な知識の蓄積等の研鑽に励み,誠実さと責任感を持って,夜間・休日の返上も惜しまず,家庭サービスも投げうって担当業務に献身し続けてきたものであって,特に,本件処分直前の平成19年3月1日以降は,上京社保事務所の徴収課長として,同事務所の円滑な組織運営,進捗管理及び部下の育成に尽力していた。

4
懲戒処分に至る経緯
(1)原告P8は,平成17年12月27日,業務外閲覧を行ったとして戒告処分を受けた。これは,平成16年3月26日,その数日前に逝去した著名人の氏名を窓口端末装置で検索した行為に対するものであった。
平成17年夏,当時の原告P8の配属先である京都社保局事務センターへP20課長(当時は主幹)が訪れ,原告P8に対して業務外閲覧に関するヒアリングが行われた。
P20課長がある著名人の名を読み上げ,
閲覧したか否かを問いただした。
原告P8にはその著名人を検索し閲覧したという確かな記憶はなかったが,その著名人は閲覧行為日の数日前に逝去しており,閲覧行為日当時,勤務先である京都南社保事務所徴収課内の何人かで話題になったこともあり,恐らく,その中の誰かが閲覧したのではないかと考えた。
原告P8がP20課長に「閲覧行為者が判明しなかった場合はどうするのですか。」と尋ねたところ,「誰が閲覧したのか分かるまで徹底して調査を行う」との回答があった。まず,処分ありき,誰かを必ず処分する,最終的には誰かを犯人に仕立て上げるという雰囲気であった。
原告P8は,自分がP20課長にその著名人が課内で話題になったことを話すことで同僚たちを裏切ることになるのではないか,また,上記のように同僚や部下から厚い信頼を得ており,同僚や部下をかばうことでより一層の信頼を得たいとの思いもあり,閲覧したような気がする旨の発言を行った。P20課長から閲覧行為に係る確認が再度行われ,原告P8は,恐らく閲覧したのは自分だと思いますと自認し,ヒアリングは終了した。
(2)原告P8は,賞与の減額や昇給延伸のペナルティはあるものの,職を失うことになるとは考えもしなかったため,戒告処分に対する審査請求をしなかった。
また,その頃,京都の社保事務所を視察したP35長官が,「社保庁の信頼回復に向けて,あえて重い処分とした」,「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言を行った。原告P8は,この発言を聞いて,業務を頑張れば安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼した。5
本件処分時の身分,職務内容,給与等
原告P8の本件処分時の官職は,上京社保事務所徴収課長であり,事業所の社会保険料の調査決定・滞納処分を課員と行うとともに,業務の総括をしていた。給与は,平成21年分が782万5418円であった。妻は,自営の学習塾を開いていたが,原告P8の本件処分等の心労から体調を崩し,平成23年2月に休業をし,その後,同年9月に契約社員として就職し,貿易事務の仕事に携わっている。6
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由
原告P8は,平成21年1月の本件意向調査の際に,当時の配属先の上京社保事務所の所長に呼ばれ,懲戒処分歴保有者は社保庁が作成する採用名簿に氏名が載せられることはなく,機構等に採用されることはないので希望はしないようにとの指示を受け,このことについては京都社保局のP19次長から強い指示があったので,
くれぐれも希望はしないようにと念を押された。
原告P8は,自分の将来や家族の生活のことを考えると不安は尽きなかったが,上記指示に従い,機構等を希望しなかった。原告P8は,新しい組織への採用を門前払いされた以上,
自分や家族の生活を守る道は一つしかなく,
厚労省等への転任を希望した。
(2)手続の経過と結果

原告P8は,平成20年11月に実施された本件準備調査及び平成21年1月に実施された本件意向調査において,公務員として職務を全うしたいとの希望により,いずれも厚労省への転任を第1希望として回答した。

原告P8は,同年2月,本件転任面接を受けたが,面接時間は10分程度であり,広域異動は可能か,長時間の残業があるが健康状態はどうかといった形式的な内容のみであった。
原告P8の面接票からは,書類確認上,戒告処分を受けたこと以外に問題は見当たらないこと,「意向準備調査票の記載状況等評価」がAであること,志望は厚労省であること,全国転勤が可能であること,これまで経験をしてきた年金部門での勤務を希望していること,懲戒処分について反省の弁を述べていること,健康状態が良好であることなど,積極的に評価されるべき事情が多く読み取れる。
一方,マイナス評価としては,声が小さい,元気がない,若干反応が遅い,ポイント外れた回答があるなど,業務に対する適性とはおよそ関係ないか,面接官の主観に左右される事情ばかりである。
しかし,原告P8の予定する業務に対する適性は,C下(中)(1)と低い評価になっている。
この評価の基準について,面接官は,人柄,性向等について具体的基準はない,総合評価の細かい区分の具体的基準もない,面接後に面接官の主観を排除するための調整等も行われていないなどと述べ,実際の面接の際にも,事前に受けていた説明とは異なる基準で準備調査票を評価していたと述べており,要するに,長年の経験という曖昧なものに依拠をした面接官の主観で評価がされている。

このような不公平・不公正な面接によって判断をされた結果,原告P8は厚労省に転任することができなかった。
原告P8は,同年7月1日,P20課長から呼び出され,要支援者となったことが告げられ,官民センターへの登録についての手続のパンフレットを渡されたが,それ以上の詳細な説明はなかった。原告P8は,民間企業へ就職する気はなく,公務の職場を希望することを伝えたが,とりあえず,官民センターへ登録するよう指示された。しかし,原告P8は,民間企業へのあっせんを第一とする支援対策への不信感と業務繁忙のため時間が取れないことから登録をしなかった。


原告P8は,同年8月6日,上京社保事務所長から未登録の理由について確認され,滞納処分の準備等に追われており,本当の未登録理由の説明に割く時間がなく,業務繁忙のため時間がない旨を回答した。
原告P8は,同月10日,再度,上京社保事務所長から未登録の理由について確認された。原告P8は,自分の希望は飽くまでも公務の職場である,官民センターに登録することで,公務への転任が絶たれてしまうのではないか,登録することで実質的に自分への支援が完了してしまうことになるのではないかと不安を感じている旨回答したところ,同所長はその場で,
P20課長に電話をして原告P8の回答内容を報告した。
原告P8は,
途中で所長と電話を交代し,P20課長へ同様の回答をしたところ,これから事務所へ行き直接会って説明するとのことだった。
原告P8は,業務繁忙のため時間がないと断ったが,行って話をすると有無も言わせぬ調子だったので,やむなく了承した。

後刻,P20課長が来所し,厚労省等への転任について次のとおり説明があった。
①総務省(第三者委員会等)は東京に人事権があるので無理。②厚労省の地方労働局は京都労働局に人事権はなく,近畿ブロック全体の人事権を大阪労働局が持っているので無理。
③公務員の給与は高すぎる。(官民センターのあっせんによる)民間なら年間300万くらい。
④とにかく懲戒処分を受けた者は全員登録してほしい。⑤(支援の対象となったことは)決まってしまったこと。どうしようもない。
⑥街角相談センターには登録したか。


原告P8は,このような説明に憤懣やるせない気持ちになったものの,自分の希望は飽くまでも公務職場への転任であるが,ここまで登録を強く勧めるのならば,好条件の職場があるのではと気を取り直し,官民センターの企業登録数を尋ねたが,P20課長の回答は0件だった。
企業登録数は0件であるが,とりあえず登録するようにと執拗に指示があったので,原告P8は,やむなく形式的に登録だけは行う意向を伝えたところ,P20課長は,「それでは,勧奨(退職)を受けるということでよいと…」とつぶやきながら手元の書類にメモした。原告P8は,このままでは公務の職場への転任の努力も行われないまま,年末の社保庁廃止を迎えてしまうと危惧し,登録の約束はしたものの行わずにいた。キ
原告P8は,同年9月2日,P20課長から電話を受け,「登録まだやな」と督促された。同月9日に官民センターの担当者と委託業者の面接があるので受けるようにと指示があった。
原告P8は,P20課長に対し,登録するつもりも面接を受ける気もないと伝えると,それでもなお執拗に要請があるため,やむなく了承したところ,至急登録するように指示された。原告P8は,この頃から,本件支援室との面談等に精神的重圧を感じるようになり,何らかの事前情報により本件支援室からの連絡があると予想される日は,不安にさいなまれ出勤することに苦痛を感じるようになった。
同月4日,
原告P8は,
総務課長から,
登録についての督促を受けたが,
同月9日の面接は官民センターのスケジュールが合わず同月15日に変更になったと伝えられ,至急登録するよう念を押された。
同月15日,原告P8は,P20課長へ電話し,登録はまだしていないこと,民間へのあっせんを受ける気はないので本日の面接は受けない旨伝えたところ,相手方も時間と場所を取ってくれているので,とりあえず話だけは聞いてほしいと執拗に要請された。原告P8は,面談日当日のキャンセルはビジネスパーソンとしてやってはいけないことだと無理やり自分自身に言い聞かせ,やむなく了承した。


原告P8は,面接において,第一に公務を希望していること,P20課長から聞いている年収300万円程度では生活することができないためあっせんを受けるつもりはないと伝えた。念のために登録企業から提示されている一般的な給与の額はどの程度なのか確認したところ,やはり300万円程度とのことだった。30分程度の面談の間,官民センターの担当者から具体的なあっせんの提示や質問はほとんどなく,原告P8が主張する現在の生活実態や公務を希望する理由等に聞き入るのみだった。ケ
原告P8は,同年10月2日,P19次長から電話を受け,登録について督促された。現在,1医療機関の登録があるが,事業規模や給与面等については知らないし知っていても言えない,恐らく300万円程度とのことだった。その金額では生活を維持することはできず,官民センターによる民間企業へのあっせんを受けるつもりはない旨回答した。
原告P8は,「この流れは決まってしまったこと。今更どうしようもない。このままだと,分限免職になり,来年には年収300万どころか無職になってしまうんやで。どうするんや」と言われたため,訴訟も視野に入れている旨伝えたところ,「勝てる見込みはあるの。とにかく登録を考えてください」と言われた。


原告P8は,同月14日,P19次長とP20課長から,次のとおり言われた。
①公務の職場は定員を削減しているので厳しい。
②官民センターは3か所の医療機関が登録している。医療機関の規模や名称等は分からない。給与は300万程度,多少プラスアルファはあるかもしれないが,(現在の給与の)現状維持は無理。
③公務員の給与は高すぎる。
④登録してあっせんを受けるのが最善,最後通告的なものと考えてほしい。
⑤明日には結論が欲しい。
原告P8の希望は,飽くまでも公務の職場への転任であったため,答えに窮していると「今,初めて言う話やない!」とP20課長が声を荒げ,P19次長が「まあ,まあ」となだめた。
当初から原告P8が示している公務への転任という意向は一切酌んでもらえないばかりか,なじられ,原告P8は,自分が犯罪者にされたような気持ちになり,半ば自暴自棄に公務の職場に残れないのであれば,このまま分限免職になっても構わない旨伝え面談は終了した。サ
原告P8は,同年12月10日,社保事務所長から退職についての考えを聞かせてほしいと言われ,勧奨退職を希望するのか分限免職を希望するのか,厚労省が非常勤職員を募集しているが応募する意思はあるか等の質問と併せ,先日ハローワークの求人情報が事務局から来ていたが,要らないだろうと思い伝えなかったとの話があった。
原告P8は,民間企業への就職は一切考えていないことと公務に残れないのであれば分限免職もやむを得ないこと,また審査請求は無論のこと訴訟も辞さないこと,厚労省の非常勤職員は給与額が大幅に減少することや有期雇用であり今後の生活の見通しを立てることが困難なため応募する意思はないことを伝えた。
この面談以降,本件支援室からの接触は一切なかった。こうして責任を持った分限回避措置が講じられることなく年末を迎え,原告P8は職を失うに至った。

(3)本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
本件処分後,当局からのあっせん又は連絡等は一切ない。
7
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行
原告P8は,厚労省への転任に応募したが,たった1度10分程度の面接を受けただけで厚労省等に転任されることもなかった。
社保庁長官等は,公務を希望する原告P8に対し,執拗に官民センターへの登録を勧めるのみで,就職先の具体的なあっせん等を全く行わなかった。これでは,分限回避義務を尽くしたとはいえない。
(2)人選の不合理性
また,原告P8は,約24年11か月もの長きにわたってほぼ全ての社会保険業務に就き,業務に対する造詣は深く,事業運営上の貢献・寄与も大きかった。業務実績評価においても5期連続でA以上の評価で,最後の評価はSだった。
原告P8は,常に誠実に相手の立場で責任を持って業務を遂行してきたことから,年金相談のお客様に感謝やお礼の電話・手紙をもらったことも一度や二度ではない。
以上の事実に照らせば,原告P8には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。
(3)懲戒処分歴を考慮すべきでないこと
原告P8は,平成17年12月27日,業務外閲覧を理由として戒告処分を受けているが,この処分は,内規で禁止される以前の閲覧行為について,同僚をかばうために明確な記憶もないまま自認した結果受けたものにすぎず,同処分自体不当である。
仮に懲戒処分が妥当だとしても,原告P8は既に同処分を受けているのであるから,これを理由に免職とすることは一事不再理の原則に反する。したがって,上記懲戒処分を理由として原告P8を分限免職の対象とすることはできない。
(4)説明・協議義務違反
さらに,職員団体との交渉もないまま本件処分がされており,手続上も不備があることは明らかである。
(5)小括
したがって,原告P8に対する本件処分は違法である。
第14
1
原告P9について
入庁経緯
原告P9は,高校卒業後大学進学を目指して浪人生となったが,浪人生活が
長くなった。そのうち,大学には金が掛かるし,そろそろ親を安心させたい,そのためには給料よりも身分を安定させたいと考え,国家公務員を志望したところ,無事合格を果たすことができた。原告P9は,たまたま同級生が社保庁に入庁していたので,浪人中に社保庁における仕事内容について聞いていた。そこで,原告P9は,社保庁の面接を受けたところ,帰宅後に採用するとの話を聞き,社保庁に入庁することに決めた。
2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P9は,平成3年1月1日に採用され,京都西社保事務所徴収課徴収係に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事業所からの信頼

原告P9は,19年もの長きにわたって京都府内の社保事務所で業務を行ってきた。その間,国民年金の保険料徴収等の業務を除いて,健康保険業務や年金業務に関わる全ての係を回り,豊富な業務知識・経験を蓄えてきた。


原告P9は,個人又は企業の利益ではなく,国民に対しての奉仕者という立場に立って公務員としての職を全うしてきた。
原告P9は,在職中,職場において,どの係の仕事においても上司からの信頼を得てきた。
原告P9は,部下からの相談も多く,積極的に対応してきた。部下が電話で苦情対応する際には,横について,まずは自分で解決するように誘導するなど,職業教育にも取り組んできた。
原告P9は,年金相談について,過去に納付した記録等を基に年金を支給することから,記録の係との連絡が必要な場合が多々あったが,その調整役等も担い,円滑な業務執行に貢献してきた。
来所した市民に対しても,
個人情報に関しての取扱い,プライバシーの保護を念頭に法律に基づいた業務を遂行してきた。また,年金制度に対して苦情を言いたい受給者が電話や窓口に現れたときも,誤解を解いて納得してもらえるように,時間を掛けて丁寧に説明するよう努めてきた。
原告P9は,
相談業務に従事していたとき,
土曜日の窓口もあったため,
喉を痛めても出勤したことがあり,喉の痛みが悪化して入院せざるを得なくなった。しかし,職員が減らされた時期でもあったので長く休むことができず,原告P9は完治しないまま職場に復帰した。
なお,原告P9の人事評価は一貫してBだった。これは,原告P9が従事していた年金相談業務は数字で業績が表れる業務ではないため,特にマイナス評価される事由がなければ一律B評価が付けられる部署であったからである。逆にいえば,一貫してB評価だったということは,原告P9にはマイナス評価される事由が何もなかったということである。
原告P9は,世間では公務員削減,業務の民営化という声が増大してきているが,公務でしかできないのだからそれをきっちり行うという誇りを持って業務を行ってきた。
(2)懲戒処分歴
原告P9は,これまで一切懲戒処分を受けたことがない。
4
本件処分時の身分,職務内容,給与等
原告P9は,分限免職時,上京社保事務所の総合相談室で年金専門官を勤めていた。年金専門官は,室長,課長の次の地位に当たり,係長や一般職員,嘱託社員等を指導していた。
原告P9の給与は,平成21年分が582万1332円であった。原告P9は,本件処分時,一人暮らしだった。

5
本件処分に至る経過(1)進路選択に関する希望とその理由

原告P9は,社保庁の廃止が決定された際,公務で行わず民営化することは営利目的になりかねないとあきれ果てると同時に,年金相談は公務だからこそできるとの思い,自分自身の公務員という身分が取り消されるということに納得できるものではないこと,行政機関の定員削減等においては他の公務職場への転任が行われる実態もあることから,当然との思いを持って,公務職場での勤務を希望した。


原告P9は,社保事務所長から,官民センターへの登録もしてはどうかと言われたが,公務員に絞っていると伝えた。
厚労省の非常勤職員については,書類提出締切りが迫っていたことから一旦応募したが,公務としての道ではなかったことから面接を辞退した。
(2)手続の経過と結果

原告P9は,平成21年2月13日,近畿厚生局への転任の面接を受けたが,
時間は10分程度で,
同原告の希望や能力を簡単に聞いて終わった。
面接はこの1回だけであり,面接者に対する評価について具体的な基準などなく,面接官自身が分限回避措置として行う認識すら有さないというずさんな手続であった。
また,面接官は,丁寧な字で整理して記入されている原告P9の準備調査票に対し,同原告が北海道ブロックの勤務を希望しているが,そうでないならば自宅から通勤できるところに越したことはない旨を記載していることなどについて,整合性がないなどと,極めて恣意的な評価を行い,低評価をしている。


原告P9は,平成21年6月,厚労省への転任はかなわなかったが,説明に来たP19次長に
「今後も公務員として希望し続ける。
努力願います」
と伝えた。原告P9は,他の公務職場への転任を国の努力・責任で最大限行っていくとの明言があったことから,望みを持って社保庁廃止までの残期間勤めてきた。しかし,原告P9に対する公務の仕事の紹介は,非常勤の仕事のほかは,最後までされなかった。
原告P9は,公務員として転任されることはなく,本件処分で職を失ったが,受皿の問題もあるから仕方ないと自分に言い聞かせることとした。ウ
しかし,実際には,雇用調整本部が内閣に設けられており,政府と全府省を挙げて他の公務職場への転任が行われており,平成21年度においても,300名以上の国家公務員の転任が行われていたという事実,更にはその枠から社保庁職員だけ除外されていることを知ったとき,最大限の努力どころか一番身近に行える努力さえ行われていなかったことや疎外されたことに対し怒りを覚え,不当極まりないとの思いを強く抱いた。
(3)本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
原告P9は,本件処分後,就職あっせん等を一切受けていない。
6
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行

原告P9は,厚労省への転任に応募したが,厚労省等に転任されることもなかった。
原告P9が受けた本件転任面接はたった1回で,しかもその時間はわずか10分程度である。しかも,面接官は,その面接が分限回避措置の一環として行われることの認識すら有しておらず,面接には,採用のための具体的基準も定められていなかった。
面接官は,準備調査票が丁寧に記載されているかの点も評価の対象にしていたと述べながら,丁寧な字で整理して記入されている原告P9の準備調査票を積極評価せず,また,同原告が勤務地は全国どこでも良いが,希望することができるなら北海道ブロック勤務を,そうでないならば自宅から通勤できるところに越したことはないと述べていることなどにつき,整「
合性がない」などと,極めて恣意的な評価を行い,低評価をしている。イ
また,社保庁長官等は,公務員としての勤務継続を明確に希望している原告P9に対し,公務職に就労させることについての交渉努力をすることもなかった。


これでは,分限回避義務を尽くしたとはいえない。

(2)人選の不合理性

原告P9は,19年もの長きにわたって京都府内の社保事務所で業務を行い,豊富な経験,知識を蓄えてきたし,上司が行う業務を依頼されるなど上司からの信頼を得て,部下からの相談にも積極的に対応してきた。

しかも,原告P9は,懲戒処分歴もなく,国民の奉仕者としての立場から誠実に業務を遂行してきた。


以上の事実に照らせば,原告P9には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。

(3)説明・協議義務違反
原告P9に対する本件処分についても,職員団体との交渉もないまま同処分がされており,手続上の不備があることは明らかである。
(4)小括
したがって,原告P9に対する本件処分は違法である。
第15
1
原告P10について
入庁経緯
原告P10が公務員を志望したのは,両親が公務員であり勧められたことも
あるが,自らも経済的,身分的に安定している点に魅力を感じたことや,民間企業で利益優先の仕事をするよりも公務員として国民の利益となる仕事がしたかったからである。
原告P10は,公務員試験の結果が出る前に,社保庁から連絡があったので面接を受けた。原告P10は,その場で合格となり,もう他は受けてくれるなと言われ,他にも幾つか連絡をもらったが,最初に合格を出してくれた社保庁に入庁することに決めた。2
社保庁での職歴等
(1)採用
原告P10は,平成4年1月1日に採用され,京都南社保事務所適用課適用第一係に配属された。
(2)職歴(略)
(3)昇任(略)

3
勤務実態
(1)豊富な業務知識・経験と同僚・事業所からの信頼

原告P10は,平成4年1月1日に社保庁に入庁して以来,18年もの長きにわたって,厚生年金・健康保険の適用業務,健康保険給付業務,会計業務,年金給付業務,国民年金適用業務,保険料収納業務と様々な社会保険分野の業務に就き,常に真面目に,課の中心的な役割を担って業務に責任を持ちつつ,無遅刻・無欠勤で勤務してきた。
原告P10は,平成19年に京都社保局保険課業務管理室に併任となった際,ねんきん特別便業務の開始に向けた年金記録の事前整備を1か月半の間で集中的に行わなければならないという業務のための,即戦力となる優秀な職員として選抜された。
最後の配属先となった庶務課では,原告P10は,庶務課長が欠員で,係長が病気休職している中,総務関係業務以外にも年金記録問題に係る事務処理,窓口対応等を率先して行い,土日の開庁日にも積極的に対応し,一人でも多くの被保険者の年金記録を回復しようと職責以上の業務をこなしてきた。


原告P10は,上司,同僚や部下等職員からの信頼も厚く,日々多くの相談,アドバイス等を行っており,社会保険行政の事業運営に十二分に貢献をしてきた。人事評価においても,A又はBの評価を受けており,他の職員と比べても勤務成績は劣っていない。
(2)懲戒処分歴

原告P10は,平成17年12月27日,他の職員が同原告に配付されたカードを使用して2件の業務外閲覧(①平成16年5月14日に「P38」,②同年7月5日に「P39」)を行ったため,カード管理懈怠により,その行為を惹起させたとして戒告処分を受けた。
カードは,朝早く来た者が庶務課を通して受け取り,各課長の脇机の引き出しに保管し,
端末機を使用する際,
各個人がカードを取り出していた。
引き出しは施錠されておらず,誰でも自由にカードを取り出せる状態であった。また,カードは各自に割り当てられていたが,パスワードがなく,誰のカードでも使用することができ,他人のカードを使うことが常態化しており,個人にカードの管理責任を問うことができる状況ではなかった。

上記2件の業務外閲覧と思われる履歴については,原告P10自身が行ったものではない。

(ア)上記①の閲覧については,誰でも自由に別の者のカードを使用することができる状況で,原告P10以外の者が同人のカードを用いて業務外閲覧を行ったものである。また,平成16年5月14日の時点では,カードを使った業務外閲覧を禁止する内規は制定されていなかった。(イ)上記②の閲覧を行った者は,原告P10ではなく,P40という職員である。原告P10は,同人のカードを使ってP40が上記②の閲覧をしている場面を見ている。当時,原告P10は,「P39」という名前の役者がいることすら知らなかった。
P40は,平成17年3月頃に社保庁の全職員に対し業務外閲覧について自己申告するよう求められた際,自ら上記②の閲覧を行ったことを自己申告している。しかも,業務外閲覧についての調査に際しては,P40は上記②の閲覧につき,「好奇心で見た」と,動機も含めて明確に業務外閲覧を行ったことを認めている。
しかし,カードの閲覧履歴記録からは,P40のカード履歴には上記②の閲覧の記録はなく,原告P10のカード履歴に上記②の閲覧の記録が残されていた。また,P40のカード履歴からは,「P41」,「P42」,「P43」,「P44」,「P45」,「P46」,「P47」と数多くの有名人の業務外閲覧が認められた。
このように,上記②の閲覧は,P40が上記②の閲覧を行ったことを認めていること,P40自身のカードの履歴には上記②の閲覧の記録がないこと,原告P10のカードの履歴には上記②の閲覧の記録があること,原告P10において,P40が同原告のカードを用いているところを目撃していることから,同原告が行ったものではなく,P40が行ったものであるとしかいいようがない。
(ウ)このように,上記②の閲覧については,原告P10が行ったものではないため,
同原告はこの点について当局に対して調査を求めた。
しかし,
当局は,
P40に対し口頭での事実確認を行ったのみで,
調書も作らず,
P40が原告P10のカードを使っての業務外閲覧を否定すると,それ以上の調査は何も行わなかった。
すなわち,P40は,上記②の閲覧を認めたものの,自分のカード履歴にはその記録がないことを知った後,原告P10のカードを用いた閲覧を認めた場合,平成16年6月に業務外閲覧についての内規ができた後に業務外閲覧を行ったことを認めてしまうことになるので,業務外閲覧を行ったのは調査対象期間より前の時期のことであると,供述内容を変遷させた。
その結果,原告P10は,カード管理懈怠を理由に懲戒処分を受けることになった。一方,P40は,上記②の閲覧とは別件で業務外閲覧を行ったということで,矯正措置を受けているが,上記内規が制定される以前の閲覧だったという理由で,懲戒処分は受けていない。
(エ)原告P10は,上記懲戒処分に対し審査請求を申し立てたが,P40が原告P10のカードを用いた閲覧を否定したため,原告P10の審査請求を棄却する人事院判定がされた。
当時,社保庁では,業務外閲覧に関する懲戒処分において,他の者に自分のカードを使って業務外閲覧をされた場合で,他の職員が特定できた場合は,実際に閲覧した職員を処分し,カードを使われた者は処分しないという取扱いになっていた。すなわち,上記内規が出されてから唯一原告P10のカード履歴に残されていた上記②の閲覧が,P40が行ったものであると認定されれば,原告P10は,懲戒処分を受けることはなかった。
しかし,原告P10は,実際に業務外閲覧を行った者がP40である蓋然性が極めて高いにもかかわらず,P40が否定しているという理由だけで,自身では行っていない業務外閲覧につき懲戒処分を受けた。原告P10は,P40が上記②の閲覧を行ったのは調査対象期間より前の時期のことであると供述内容を変遷させた点について,人事院に対し,P40のカード履歴を遡って調べてほしい旨を申し出た。しかし,人事院は,その点を調査することなく,審査請求を棄却した。
仮に原告P10が上記懲戒処分に対して取消訴訟を提起し,P40のカード履歴を過去に遡って精査したならば,同処分は取り消されていた蓋然性が極めて高い。

上記審査請求に対する判定書が原告P10に届いたのは,平成20年7月29日又は同月30日頃である。その直後に,懲戒処分歴保有者を機構職員の採用対象から外すという本件基本計画が閣議決定された。
原告P10は,自身が行っていないことが明らかな業務外閲覧につき懲戒処分を受け,審査請求を行っても判断が覆らなかったところに,このような閣議決定がされ,余りの不条理に,驚き信じられない気持ちで一杯になった。当時の原告P10は,非常にショックが大きく,P40が認めなければ結局は駄目だとの思いが強かったため,取消訴訟を起こす気にはなれなかった。

上記のような経過でされた原告P10に対する懲戒処分は,そもそも無効であるというべきである。また,カードの管理責任を問題にするにしても,その頃京都の社保事務所を視察したP35長官が,「社保庁の信頼回復に向けて,あえて重い処分とした」とコメントしているとおり,単なる内部規定違反にしては処分の量定が重すぎるというべきである。その後の社会保険料延滞金の不適正な減免問題においては,明らかな法令違反にもかかわらず矯正措置にとどまっており,著しく公平性を欠いているといわざるを得ない。
少なくとも,上記懲戒処分について,原告P10を機構の採用から外す理由とすることは,極めて不合理であるというべきである。
そして,原告P10は,P35長官が,「皆さんが一生懸命頑張れば大丈夫」という旨の発言を行ったことから,業務を頑張れば安心して社会保険業務の職場で働き続けられるものと信頼していた。

4
本件処分時の身分,職務内容,給与等
原告P10は,本件処分時,上京社保事務所庶務課社会保険調査官として,庶務・会計業務全般を担当していた。
原告P10の給与は,平成21年分が583万1203円であった。原告P10は,両親と3人暮らしであり,両親の年金収入月額は20万余りである。

5
本件処分に至る経過
(1)進路選択に関する希望とその理由ア

原告P10は,
厚労省又は他府省等への転任及び機構への採用を希望し,
協会にも希望を出していたが,連絡のないまま採用者が決められていた。過去に行政機関が民営化や独立行政法人化等の組織改編をした場合,職員の雇用を継続してきたことや,定員削減においても,雇用調整本部の下で他府省への転任によって公務員の身分と雇用を確保してきていることからすれば,原告P10の希望は妥当なものである。


原告P10は,機構の採用基準として懲戒処分歴のある職員等を一律不採用にすることが閣議決定されていることは知っていたし,当時の社保事務所長より機構を希望しないようにとの話もあった。
しかし,原告P10は,今まで培ってきたスキルや経験を最も生かせる選択だと思ったこと,懲戒処分歴を受けたことを理由に採用基準から外すことは二重処分に相当して違法であり,この選別採用を基本とする社保庁廃止の在り方が著しく公平性を欠いていると思ったこと,自身に対する懲戒処分自体が不当であることから,抗議の意思表示のつもりで,機構への採用を希望した。

(2)手続の経過と結果

原告P10は,平成21年2月13日,本件転任面接を受けた。上記面接の時間は10分程度で,
原告P10の希望や能力を簡単に聞いて終わり,
面接はこの1回だけであった。
この面接は,面接者に対する評価について具体的な基準などなく,面接官自身が分限回避措置として行う認識すら有さないという,極めてずさんな手続であった。そして,面接官は,P40が原告P10のカードを用いて業務外閲覧を行った件で懲戒処分を受けたことにつき,同原告が処分に納得いかない旨を述べ,カードの管理については「脇が甘かった」と反省の弁を述べていることをもって低評価をしている。
このように,面接官面接による原告P10への評価は,極めて恣意的であり,かつ,二重処罰を積極的に行おうとしたものといえる。結局,原告P10の厚労省等への転任はなく,機構職員となるべき者の名簿にも名前が登載されなかった。

原告P10は,官民センターについて,度重なる上司からの指示があったことに加えて,厚労省への転任も厳しい状況だと聞かされていたので,平成21年の夏頃にやむを得ず登録した。
原告P10は,平成21年9月頃に一度,官民センターの職員及び同センターが業務委託をしていると思われる民間業者と面談したが,原告P10の希望や生活状況等を聞き取るのみで,具体的なあっせん等の話は何もなく,その後も同センターからのあっせんは一切なかった。
本件支援室の担当者であるP20課長は,原告P10が官民センターに登録されている企業の詳細情報について尋ねても「詳しくは,答えられない」の一点張りであった。また,他の公務職場への転任の話はどうなっているのかと尋ねると,「お願いに行ってみたが,難しい,恐らく無理」と答え,さらに,「ハローワークへは行っているか?」,「宇治の街角相談センターで募集があるが,応募したか?」と言い出す始末であった。他には,同年12月に入って,ハローワークの求人情報が事務所長経由で渡された程度で,最後まで具体的なあっせんの提示はなかった。
また,原告P10は,平成21年12月に緊急対策として厚労省の臨時職員の募集があった際,社保事務所長より近畿厚生局のホームページを印刷したものを渡されたが,雇用条件が2年3か月の有期雇用であり,その後更新されない上に報酬も大幅に減少するもので,とても今後の生活の見通しが立つものではなく,単なる分限免職処分の先送りとしか思えなかったので応募しなかった。

(3)本件処分後の就職あっせん等とそれに対する対応
本件処分後の就職あっせん等とそれに対する京都社保局及び官民センターからのあっせん,連絡等は一切なかった。6
本件処分の違法性
(1)分限回避義務の不履行
原告P10は,厚労省への転任に応募したが,極めてずさんな内容の10分程度の面接をたった1度受けただけで,厚労省等に転任されなかった。面接官は,分限回避措置として面接を行う認識すらなかった。
また,原告P10は,官民センターに登録したが,具体的な就職先のあっせん提示は一切なかった。
そうすると,分限回避義務が尽くされたとはいえない。
(2)人選の不合理性
原告P10は,18年もの長きにわたって様々な社会保険分野の業務に就き,常に真面目に,課の中心的な役割を担って業務に責任を持ちつつ,無遅刻・無欠勤で勤務してきた。
原告P10は,上司,同僚や部下等職員からの信頼も厚く,社会保険行政の事業運営に十二分に貢献をしてきたことから,人事評価においても,A又はBの評価を受けてきた。
以上の事実に照らせば,原告P10には,能力,経験及び人格等の面で分限免職を相当とする事情は認められない。
(3)懲戒処分歴を考慮すべきでないこと
原告P10は,平成17年12月27日,カード管理懈怠を理由として戒告処分を受けているが,この懲戒処分は,先に述べたとおり,そもそも不十分かつ恣意的な聞き取り調査に基づくものであり,処分自体違法である。原告P10は,審査請求の棄却と懲戒処分歴保有者を機構職員の採用対象から外すという本件基本計画に著しいショックを受け,取消訴訟を提起しなかったものの,取消訴訟を提起したならば,懲戒処分は取り消されていた蓋然性が非常に高い。そうすると,原告P10は,機構職員への採用を拒否されるいわれもないし,懲戒処分歴について面接でマイナス評価されるいわれもない。また,原告P10は既に処分を受けているのであるから,これを理由に免職とすることは違法な二重処分である。
したがって,上記懲戒処分を理由として原告P10を分限免職の対象とすることはできない。
(4)説明・協議義務違反
職員団体との交渉もないまま本件処分がされており,手続上も不備があることは明らかである。
(5)小括
したがって,原告P10に対する本件処分は違法である。
以上
別紙4
損害に関する原告ら主張

第1
1
本件各処分により原告らが受けた精神的苦痛
原告P1について
(1)原告P1は,本件処分当時,老齢年金の審査・決定等の業務に従事し,その年収は約550万円であり,自営で理髪店を営んでいる妻と二人暮らしであったが,妻の年収は手取りで130万円に満たないほどであった。原告P1は,残高約3000万円の住宅ローンを毎月8万円(年2回の賞与月は各23万円)返済していかなければならない。
(2)原告P1は,転職先を見つけることができ,P48組合の事務員として勤務しているが,年収は約400万円と大幅に低下し,人生設計を狂わされ,慣れない仕事でストレスを感じている。

2
原告P2について
(1)本件処分当時の原告P2の家族は,専業主婦である妻,中学校3年生の長女,中学校1年生の長男,小学校3年生の二男であった
原告P2は,本件処分後,平成22年2月中旬からハローワークに求職者登録し,同年4月7日から運送会社でトラック運転手として同月30日まで時給750円で働いた。原告P2は,同年5月以降,P49の自主共済制度の事務職員に転職し一定の収入を得ている。
(2)原告P2の家族は,家族で唯一の収入を得てきた同原告に対する本件処分によって,今後に対する多大な不安を抱えながらの生活を余儀なくされた。例えば,長女は,高校進学を直前に控えた中学校3年生であり,私立高校も併願で受験したものの,経済的に必ず公立高校に合格しなければならないというプレッシャーを受けることになった。
また,原告P2の長男も,中学校で,両親から話を聞いて,「なぜ,この職業を選んだか?」というレポートを作成する宿題が出された際,同原告に気を遣い,両親に隠して,幼少から通っている英語教室の先生に話を聞くなど,多大な心労が掛かっていた。
(3)一家の生活を支える父親に対する理不尽な本件処分は,原告P2のみならず,その家族に対しても大きな精神的負担を与えており,こうした負担を子供たちが受けたことは,一家の生活を支えるべき立場にある同原告にとって重大な精神的苦痛となった。
このような精神的苦痛は,本件処分が取り消されても慰謝されるものではない。
3
原告P3について
(1)原告P3は,
本件処分により,
年間526万円強であった収入がなくなり,
夫である原告P4も同時に分限免職となったため,鬱病が再発し通院治療中の夫を支えながら,貯金を取り崩しつつ何とかアルバイトを探して生活している状態である。
原告P3の職は安定しておらず,平成22年10月から平成23年3月までは機構の業務である年金記録の全件照合の仕事を行うなどして,月収10万円から13万円での転職を繰り返している。
(2)原告P3は,夫婦共に本件処分の対象となっていることが考慮されず,求めた情報も提供されることがなく,本件処分回避に向けた当局の姿勢が全く見えず,不安は日々増大していった。原告P3は,このような不安感を抱えたまま,本件処分を受け,家計の収入が途絶えることになった。
(3)原告P3は,ずさんな本件処分によって,夫婦の蓄えを取り崩さざるを得ず,
人生設計も大きく狂わされ,
不安定な立場で将来の心配をしながらの日々
を強いられている。
このような原告P3の精神的苦痛は甚大であり,本件処分が取り消されるだけで慰謝されるものではない。4

原告P4について
(1)原告P4は,本件処分により,年間500万円弱あった収入がなくなり,妻である原告P3も同時に分限免職となったため,貯金を取り崩しつつ,同原告のアルバイト収入に頼りながら何とか生活している状態である。(2)原告P4は,本件処分による精神的ストレスにより,快方に向かっていた鬱病が再び悪化し,本件処分後しばらくは神経内科に通院せざるを得なくなり,現在も,以前のように就労することができる状態ではない。
(3)原告P4は,鬱病の発病や夫婦共に対象となっていることについて検討されることも,要望した情報の提供が行われることもなく本件処分となった。このようなずさんな手続によって本件処分を受けたことによって受けた原告P4の精神的苦痛は,本件処分が取り消されるだけでは償えない。とりわけ,原告P4は,鬱病の点について何ら考慮されることなく本件処分を受け,先の見えない不安定な立場に置かれたことで,その症状が悪化して大きな精神的苦痛を被った。

5
原告P13について
(1)原告P13は,平成20年9月3日付けで懲戒処分,平成21年12月25日付けで本件処分をそれぞれ受け,平成25年12月1日付けで職場に復帰するまでの約5年3か月間,精神的・経済的な不安を抱えながら生活することを強いられた。
(2)原告P13は,それまで誠心誠意取り組んできた年金業務から排除され,本件処分の取消しを求める審査請求及び裁判をすることを余儀なくされた。原告P13は,この5年間,家族にも多大な心配や心労を掛けており,上記各処分によって同原告が受けた精神的な苦痛は非常に大きいから,上記各処分が取り消されたことにより慰謝されるものではない。

6
原告P11について
(1)原告P11は,本件処分により,年間約850万円であった収入がなくなり,平成25年11月まで,妻の年間約600万円の収入のみで生活してきた。家計全体では,本件処分以前に比べて4割程度の収入となった。(2)原告P11の長男は,平成24年8月に,契約職員から正社員になったばかりであり,次男は,同年3月に大学を卒業し,1年間就職浪人をした後,平成25年4月から京都市内の幼稚園で保育士として勤務している。三男は平成24年3月に専門学校を卒業し,大阪市内で一人暮らしをしながらパティシエの仕事をしているが,長時間労働の上,低賃金のため,経済的に援助する必要があるときもある。
そのため,原告P11の家族全員の生活は決して楽ではなく,何とか赤字を出さずにきているものの,まとまった出費があると赤字となる。(3)原告P11は,平成25年11月中旬から,機構から委託されてP50が運営する宇治年金センターにおいて,年金相談窓口業務の契約職員として勤務しているが,年度末までの契約でありその後は更新されたとしても1年契約の不安定な状態である。
原告P11は,同センターに勤務するまでは,家事をしながら妻に代わって買物に行くなどしていたが,平日昼間などは近所の人の目が気になり,電車でスーツ姿のサラリーマンを見かけるなどすると,「なぜ自分はこんなことしているのだろう?」と,精神的につらい毎日を過ごしてきた。7
原告P14について
(1)原告P14は,
本件処分当時,
主に年金支給の決定の処理に携わっていた。
原告P14の年収は520万2469円であり,その夫が499万8218円であったが,本件処分によって,夫婦の収入は半減した。
(2)原告P14は,本件処分後,平成22年4月1日から,契約社員として働き始めた。しかし,時給は900円で,フルタイムで働いても月の収入は12万円ほどにしかならなかった。
原告P14には子供が二人おり,夫とともに公務員として一生働くことを前提として購入した住宅のローンについて,毎月約10万円ずつ平成40年5月まで返済しなければならなかったが,収入が激減したため,子供の貯金まで取り崩して生活することを余儀なくされた。そのような生活の中で,原告P14は,出口が見えないつらさを味わった。
(3)原告P14は,平成25年10月24日,本件処分を取り消す人事院判定を受け,同年12月1日からは,京都七条公共職業安定所で勤務している。しかし,原告P14は,懲戒処分歴があるため,機構職員として,生きがいを感じて頑張ってきた年金業務に従事することができず,本件処分が取り消されたことで,全てが帳消しになるわけではない。
また,本件処分に至る過程で原告P14が受けた仕打ちに対しても,何ら補償されていない。
8
原告P12について
(1)原告P12は,本件処分により無職となり,主に妻の収入だけで生活することとなった。原告P12と同じく社保庁に勤務していた妻は,機構に採用されたが,平成23年2月末に退職した。
原告P12は,妻と二人住まいで,ほぼ無収入で生活し,近所の事業所において,繁忙期のみ時給1000円で1日2時間から3時間勤務し,1か月に約3万円前後の収入を得ている。
(2)原告P12は,
特に年金分野について,
豊富な業務知識と経験を生かして,
国民の社保庁に対する信頼回復のため奮闘してきた。また,原告P12は,長年,年金や保険業務の適用・給付業務に従事し,最も社保庁に対する批判が高まり,組織解体を間近に控えて業務が集中する京都南社保事務所の総合相談室長として,年金相談を統括する立場にもあった。
(3)そのため,原告P12は,本件処分後,年金の職場に戻りたい一心で,同処分が違法なものであることを訴えてききた。
しかし,原告P12は,平成26年4月17日に61歳の誕生日を迎え,本件処分が取り消されたとしても,年金の職場及び公務員としての地位に戻ることはできなくなった。
9
原告P5について
(1)原告P5は,本件処分当時,年金給付の審査や決定を基本に,係内外の仕事の調整,年金記録問題に係る事務処理等の業務に従事していた。原告P5は,妻との二人暮らしで子供はおらず,家賃約6万円のアパートで生活していた。原告P5の年収は550万円程度で,同原告と同じく社保庁に勤務していた妻(現在は機構に勤務)は,年収450万円程度であったが,同原告が職を失ったため,世帯の収入は半減した。
(2)原告P5は,平成23年7月1日から,吹田市役所国民年金課の非常勤職員として働くようになったが,年収300万円弱で本件処分時の約半分強である上,平成24年4月からは,同市の財政が非常事態との理由で減額された。
また,原告P5は,賃貸住宅で生活し続けるのに限界があったため,今までの家賃額程度で返済可能な中古の住居を購入したが,妻に支給されていた住宅手当がなくなり,家計が圧迫されている。
(3)原告P5は,公務員としての将来設計が大きく狂ってしまい,ストレスや不安を感じる日々である。
なお,原告P5は,本件処分後,退職手当約660万円を振り込むので振込先口座を通知するようにとの連絡を受けたが,同処分を認めることはできないので,受取を拒否している。

原告P6について
(1)原告P6は,両親,妹との4人家族である。原告P6の父は平成22年3月から,母は平成21年7月から,それぞれ年金を受給しており,2か月に1回振り込まれる年金額は,二人併せて約31万5000円である。妹は,正社員で,毎月の手取りが約16万5000円である。これらの収入のみでは4人の生計は成り立たないため,原告P6の貯金を切り崩しながら生活している。
(2)原告P6は,現在も心療内科に通院中であるが,平成21年12月に職場復帰して以降,体調は小康状態を保っており,仕事をすること自体に支障はない。原告P6は,本件処分を受けてから,郵便局で1か月,地方公共団体で3か月勤務したが,支障なく仕事をこなした。
もっとも,原告P6は,このような非正規の職には就けても,正規職に就くことはなかなかできず,現在無職である。公務員の事務経験のみの職歴では,いかなる職種でも未経験者となり,40代で仕事を見つけることは極めて困難である。
原告P15について
(1)原告P15は,平成21年7月31日付けで懲戒処分,同年12月25日付けで本件処分を受け,平成25年12月1日付けで職場に復帰するまでの約4年3か月間,精神的・経済的な不安を抱えながら生活することを強いられた。
原告P15は,それまで誠心誠意取り組んできた年金業務から排除され,上記各処分の取消しを求める審査請求及び裁判をすることを余儀なくされた。(2)本件処分当時の原告P15の家族構成は,
会社員の妻,
大学2年生の長男,
中学校3年生の二男であった。
原告P15は,平成22年1月以降の1年間,無職で家事を行いつつ,人事院に対する審査請求の準備作業を行い,
その後,
平成23年1月1日から,
P51の書記として採用され,
月額約13万円の給与にて生計を立てていた。
原告P15は,贅沢を控え,子供の学費等のために必死で働いた。(3)原告P15は,この4年3か月間,家族にも多大な心配や心労を掛けており,違法な上記各処分によって原告P15が受けた精神的苦痛は非常に大きく,これは本件処分が取り消されたことにより慰謝されるものではない。(4)一家の生活を支える父親に対する理不尽な本件処分は,原告P15のみならず,家族に対しても大きな精神的負担を与えており,こうした負担を子供たちが受けたことは,一家を支えるべき立場にある同原告にとって重大な精神的苦痛となった。
例えば,原告P15に対する本件処分を知った中学校の先生は,高校入試を控える同原告の二男を心配して声を掛けたが,二男は,先生に心配を掛けまいと人事院に対して審査請求をした旨の新聞記事の切り抜きを学校に持っていった。
原告P15の長男は,大学卒業後の勤務先で転勤をした際,アパートを借りることとなり,同原告が保証人となった。保証人となるのには年収を記入しなければならないところ,当時,原告P15は,労働組合の書記をしていて年収が200万円弱であったが,長男の年収は300万円と記載されており,同原告は,非常に惨めな思いをした。また,原告P15は,アパートを借りることができるか心配になり,長男に申し訳ない思いを伝えたところ,長男は「大丈夫やろ」と笑顔で励ましてくれた。
原告P15は,こうした子供たちの言動に励まされもしたが,子供たち自身にとっても将来を決める大事な時期に,同原告自身のことで子供たちに心配を掛けることになった。
(5)また,原告P15は,平成25年10月に本件処分を取り消す旨の人事院判定を受け,同年12月から近畿厚生局京都事務所に復職した。しかし,原告P15の配属先は,同原告が約30年間行ってきた年金業務ではなく,全く未知の世界である医療保険の業務であるため,多大な努力を強いられている。
(6)原告P15が受けたこのような精神的苦痛は,本件処分が取り消されたことによって慰謝されるものではない。
原告P7について(1)本件処分当時,原告P7の妻は専業主婦であったため,同原告の収入が家族の生計を支えていた。
本件処分当時の原告P7の年収は,
病気療養のために休職中であったため,
430万8589円であった。
(2)原告P7は,平成23年4月,ビルメンテナンスの会社に就職し,現在も同社に勤務しているが,日給8000円,月15万円程度の収入しか得られない。原告P7は,日勤・夜勤の2交代制で,夜勤の場合は午後2時から翌朝午前10時まで拘束されるなど,低収入かつ過酷な労働条件の中,生活を維持するため懸命に働いている。
なお,原告P7の妻は,現在,不整脈を患い,心療内科にも通院しているなど,外に出て働きに出ることが困難な状況にある。原告P7の月15万円程度の収入で,夫婦の生活と月約5万円の住宅ローン(残年数20年)の支払をしている。
原告P8について
(1)原告P8は,
平成22年2月上旬にハローワークで求職申込手続をした際,
たまたま求人募集をしていた国民健康保険組合へ応募し,面接を経て同年4月1日から同組合の職員として勤務している。
原告P8は,同組合の業務について,社保庁勤務時に培った経験がある程度生かせるが,やはり健康保険法と国民健康保険法では勝手の違う部分もかなりあり,勉強の毎日を送っている。
(2)原告P8の給与は,京都府職員の給与規定に準じており,前歴加算として従前の勤務年数のみカウントされ,昇任・昇格による昇給部分は勘案されないため,年収が社保庁在籍時と比べて約45%減少し,妻の収入と併せても3割減となっている。
原告P8は,大学生の子供2名の授業料等の捻出に苦慮しており,生活は非常に厳しい状況である。(3)将来が不透明な状況は家庭にも影を落としており,原告P8が厚労省に転任することができないと判明した平成21年6月以降は,家庭内でいさかいが絶えず,暗く陰鬱な状況に陥っている。
鹿児島にいる大学生の長男は,頻繁に電話等で連絡をしてくるなど,遠く離れながらも実家の状況を案じている。自宅から大学に通う長女は,家庭内で両親が常にもめている状況に,板挟みになりつらい思いをしている。原告P9について
(1)原告P9は,本件処分後,平成22年7月から平成23年3月までの有期嘱託職員として大阪市に勤務し,同年8月から,ハローワークで探した民間企業に勤務したが,収入は社保庁職員の頃の半分となり,その後,同企業も退職した。
(2)原告P9は,現在,東京において厚生年金基金に勤務しているが,年収は350万程度と,本件処分時の6割程度である。
原告P9は,妻と二人暮らしで,妻にはパートで月7万円ほどの収入があり,家賃月額8万5000円程度の賃貸物件に暮らしているが,現在厚生年金基金の職場がなくなりそうな話も出ており,いつ収入がなくなるかの不安が常につきまとっている生活を送っている。

原告P10について
(1)原告P10は,
現在,
無職無収入のため,
貯金を取り崩して生活しており,
退職手当も供託している。原告P10は,このような状態で生活を維持することができるのか全く見通しが立たず,不安を抱えながら日々の暮らしを送っている。
(2)原告P10に対する懲戒処分がされた当時,社保庁は,自分のカードが業務外閲覧に使用されたとしても,実際に業務外閲覧を行った者が誰なのかが明らかになった場合には,懲戒処分を行わない運用をしていた。
そして,業務外閲覧の調査記録や,P40の自己申告内容からして,原告P10のカードを使って実際に業務外閲覧を行っていた者がP40であると十分に推認することができた。それにもかかわらず,京都社保局長は,原告P10に対して懲戒処分をし,人事院も同処分を取り消さなかった。人事院判定後,原告P10が気を落とすことなく懲戒処分の取消訴訟を提起していれば,同処分が取り消されていた蓋然性は極めて高かった。
(3)原告P10は,このようなずさんな手続・事実認定によってされた懲戒処分歴があることを理由に,機構で就労する機会を奪われ,本件処分を受けるに至っている。
原告P10の受けた仕打ちは不条理極まりなく,その精神的苦痛の大きさは甚だしい。
第2
1
精神的苦痛は本件各処分の取消しによっては慰謝されないこと
原告らは,本件各処分により職を奪われたことにより,同処分後,長期間にわたり経済的に困難な生活を余儀なくされている。
すなわち,原告らは,本件各処分により収入がなくなり,特に,夫婦そろって本件処分を受けた原告P3及び同P4と,妻が専業主婦である原告P7の経済的損失は甚大である。家族に収入がある原告らも,家計収入の減少により,家族全員が経済的に困難な生活を余儀なくされることとなった。
再就職をすることができた原告らも,多くは不安定,低収入な非正規雇用や将来の安定を望めない職業に就くしかなく,
収入の減少を免れた者はいないし,
慣れない仕事によるストレスも大きい。原告らも,公務員として立てていた生活設計及び将来設計の変更を余儀なくされた。
このような経済的に困難な生活状況が,本件各処分後,実に5年間も継続したことによって受けた精神的苦痛は計り知れない。

2
また,本件各処分そのものによって受けた精神的損害も甚大である。すなわち,原告らは,違法な本件各処分により,職を奪われただけでなく,今日の年金行政の行き詰まりの責任を負うものかのように扱われたことによって,計り知れない精神的苦痛を被った。原告P13,同P14,同P6及び同P10の例に顕著に見られるとおり,本件各処分を受ける要因となった懲戒処分そのものが違法なものである。懲戒処分を理由に機構職員となることができなかった者にとって,このような違法な懲戒処分により,分限免職となることなど予想もしなかった。そのため,懲戒処分歴により機構への採用もかなわず,最終的に本件処分を受けたことに対する憤りや,同処分によって受けた精神的打撃は筆舌に尽くし難い。また,
本件処分が原告らの家族や家族関係に落とした影は決して小さくなく,その影響は,原告らの子供たちにまで及んでいる。そして,家族に多大な精神的負担を与えたことに対する原告ら自身の精神的苦痛は一層大きく,深刻である。
3
原告らが受けた上記のような精神的苦痛は,回復し難いものであり,本件各処分が取り消され,給与相当額の支払がされることのみによって,慰謝されるものではない。
以上
トップに戻る

saiban.in