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地位確認等請求事件
事件番号平成25(ワ)3690
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成27年4月24日
法廷名大阪地方裁判所
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平成27年4月24日判決言渡
平成25年(ワ)第3690号

地位確認等請求事件

主1文
原告の被告A証券株式会社に対する訴えの内,
本判決確定の日の翌日から
毎月20日限り36万7566円の支払を求める部分を却下する。
2
被告A証券株式会社及び被告B証券株式会社は,原告に対し,連帯して,150万円及びこれに対する平成25年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,これを3分し,その1を被告A証券株式会社の,その1を被告B証券株式会社の,その余を原告の負担とする。

5
この判決の第2項は仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
請求
原告が被告A証券株式会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあること
を確認する。
2
被告A証券株式会社は原告に対し,平成25年4月以後毎月20日限り,36万7566円を支払え。

3
被告A証券株式会社及び被告B証券株式会社は,原告に対し,連帯して,200万円及びこれに対する平成25年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

本件は,被告A証券株式会社(以下「被告A証券」という。)から被告B証券株式会社(以下「被告B証券」という。)に出向して同社で営業業務に従事していた原告が,被告B証券への転籍同意書に署名押印したが転籍の合意は成立していない又は無効であるなどとして,被告A証券に対し,労働契約に基づき,労働
者たる権利を有する地位にあることの確認及び転籍後の平成25年4月以降の賃金の支払を求めるとともに,被告B証券に出向した後,上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったが,これらの行為は,被告らが共謀して行ったものであるとして,共同不法行為に基づき,被告A証券及び被告B証券に対し,連帯して,慰謝料200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年5月25日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実
当事者間に争いのない事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。

(1)当事者

被告ら
被告らは,ともにCを親会社とするグループ会社であり,いずれも有価
証券の売買,金融商品の取引及びその媒介等を主たる事業とする株式会社である。Cの被告A証券に対する株式保有率は100%,被告B証券に対する株式保有率は95.73%である。(甲1,2,乙16,26)イ
原告
原告は,平成10年4月1日に被告A証券に入社し,平成24年10月1日に被告B証券に出向し,同日以降同社において営業業務に従事した者である。

(2)原告の経歴

原告は,大学院を卒業した直後の平成10年4月,被告A証券に入社し,債券のトレーディング,システム企画,リサーチ等の業務に従事し,平成23年6月にはコンプライアンス部に所属していた。


原告は,同年7月,人事部付となり,営業店への配置転換の準備として1か月間研修を受け,同年8月,被告A証券D支店に配属となり,個人顧客
を対象とする証券業務に従事した。なお,原告はD支店において営業業務を行うまで同業務に従事した経験はなかった。
(3)被告A証券における原告の賃金(甲11の1ないし3)

被告A証券における原告の賃金は月給制であり,
基本給34万9000円,
昼食手当7500円であり,その他,月により金額は異なるが,超過勤務手当,持株会・財形・ミリオン奨励金が支給されている。支払方法は,毎月末日締め,当月20日払である(ただし,超過勤務手当を除く)。

平成25年1月から同年3月まで賃金支給額は,以下のとおりである。平成25年1月

36万9258円

平成25年2月

37万2110円

平成25年3月

36万1330円

(4)出向の内示及び転籍同意書への署名押印

平成24年9月21日頃,原告は,同年10月1日付けで被告B証券に
異動との内示を受けた。

同年9月28日,原告は,被告A証券人事部人事一課副部長兼C人事部
副部長E(以下「E副部長」という。)と面談し,同年10月1日から被告B証券に出向(以下「本件出向」ともいう。)となり大阪で研修が行われること,半年後の平成25年4月1日から被告B証券に転籍(以下「本件転籍」ともいう。)となることなどの説明を受け,同年4月1日付けで被告B証券に転籍することに同意する旨の転籍同意書(乙6。以下「本件同意書」という。)に署名押印した。
(5)被告B証券への出向

原告は,平成24年10月1日,営業本部付課長代理として被告B証券
に出向し(本件出向),営業本部付課長代理となり,同日から被告B証券F本店において研修を受けた。(乙11)

原告は,
同年11月12日付けで被告B証券F本店営業部
(以下
「営業部」

という。)に本配属となった。被告B証券の営業業務には,新たに口座を開設し,金融商品等の取引を始めてもらうために,金融商品の案内や各種金融サービスを提案し,新規顧客に投資勧誘等を行う新規顧客開拓業務と,既に被告B証券において口座開設をしており,過去に金融商品等の取引がある既存顧客に対し,金融商品の案内や各種金融サービスを提案して,さらなる取引の拡大を図る,あるいは,既存顧客からの注文依頼や問い合わせ等に対応する業務があるところ,原告は,同月13日より外交による新規顧客開拓業務のみに従事した。

営業部は,被告B証券F本店2階にあり,同フロアのレイアウトは別紙1のとおりである。原告の席は,別紙2のとおりであり,同年10月1日から同年11月12日までは営業部室内に,営業部に本配属された翌13日からは旧第二営業部室内に,平成25年3月26日からは営業部室内にあった。
(甲3,乙23の各枝番,弁論の全趣旨)

(6)コンプライアンス部への異動
原告は,同年11月1日付けで,営業部からコンプライアンス部営業管理課(本店駐在)に異動した。(甲34)
2
争点及び当事者の主張

(1)本件転籍の有効性
(被告A証券の主張)

本件転籍について三者合意が成立していること

(ア)原告が,平成24年9月28日,本件同意書に特段異議を述べることもなく署名押印したことに争いはない。そして,原告が署名押印した本件同意書には,「下記の条項を了承のうえ,転籍することに同意します」と記載されており,条項として,「転籍先

B証券株式会社」,「転籍年月日

平成25年4月1日付」,「転籍後の賃金,退職金,労働時間,休日,
休暇,福利厚生等の労働条件は,すべて転籍先の就業規則等に定めるところによる」,「転籍先の就業規則を遵守し,かつGグループの一員であることを常に自覚し,Gグループの発展と繁栄のために尽力する」などが記載されていた。
加えて,被告A証券は,原告に対し,本件同意書への署名押印を求める前に,転籍時に被告A証券より通常の退職金とともに,被告A証券と被告B証券との間で想定される年収の処遇格差1年分に相当する退職慰労付加金についても支給される旨説明していることから,原告においては,当然,転籍が,被告A証券との間の労働契約を終了させた上で,被告B証券との間で新たに労働契約を成立される性質のものであることを十分に認識し得たのであり,その上で転籍に合意したものであることは明らかである。
また,被告A証券は,原告に対し,本件転籍後,被告B証券において勤務した場合の役職(課長代理),級号,処遇(給与,退職金,賞与),業務内容(営業業務となる見込みであること),勤務場所(出向時には被告B証券株式会社F本店となり,研修を経て本配属となること)など,可能な範囲で転籍後の主要な労働条件についても説明を行っており,本件転籍後の実際の労働条件とも齟齬はない。
以上から,本件転籍について被告らと原告との間で合意が成立していることは明らかである。
(イ)原告は,本件同意書の宛名が被告A証券のみになっていることから,本件同意書に署名押印したことをもって被告B証券を含めた三者合意は未だ成立していない旨主張するが,被告らは,ともにCを親会社とするグループ会社であり,本件転籍がそのようなグループ会社間で行われたものであることからも,当然,原告から転籍同意を得る前提として,被告A証券と被告B証券との間において,原告の転籍に関する労働条件等の調整を行
い,合意が形成されていることは明らかである。その上で,転籍元である被告A証券は,原告との転籍同意に関する手続について,事前に,転籍先である被告B証券から一任されているのであるから,本件同意書の宛名が転籍元である被告A証券のみであっても,三者合意が成立していることは明らかである。
(ウ)原告は,本件転籍の直前である平成25年3月27日の時点で,被告A証券に対する退職願の作成,提出を依頼されたことからすれば,平成24年9月28日の段階では本件転籍について未だ確定的な合意には至っていない旨主張するが,そもそも転籍に伴って退職願を取得する趣旨は,主として転籍後の連絡先を把握する点にある(証人E22頁~23頁)。つまり,
被告A証券では,
通常の退職の場合も,
転籍により退職する場合も,
当該退職願に「退職後の連絡先」を記入してもらうことで,退職後の連絡先を管理していることから,その趣旨で退職願への記入を依頼したにすぎない。このことは,退職願の記入個所を摘示したサンプルにおいて,押印のほか,記入日,退職後の連絡先のみ記入するよう指示していることからも明らかである。
(エ)よって,本件転籍について三者合意が成立していないとする原告の主張には理由がない。

錯誤・詐欺には該当しないこと
原告は,本件同意書4項に「今後もGグループ内での出向・転籍を命ずることがある」と記載されていたため,諾否の自由のない命令であると誤信させられ,十分な検討期間も与えられず,転籍同意書に署名押印をしたのであるから,錯誤及び詐欺に該当すると主張する。
しかしながら,本件同意書は,その表題からも,また,「下記の条項を了承のうえ,転籍することに同意します。」との記載からも,本件転籍について原告の個別同意を求める文書であることは明らかであり,原告自身,
そのことを当然に認識した上で署名押印をしている。
原告が,仮に,本件同意書4項を見て,本件転籍が諾否の自由のない命令であると誤信したというのであれば,転籍同意書という表題や「下記の条項を了承のうえ,転籍することに同意します。」との記載との関係について,本件転籍は命令なのか同意なのか,同意しないことはできるのか,同意しなければどうなるのかといった点を確認してしかるべきところ,そのような質問をしたという事実は全くない(原告本人57頁)。
加えて,原告は,過去にグループ会社間において複数回にわたり出向となっているが,被告A証券は,命令として行われる出向の場合,同意書への署名押印を求めておらず,また,当然のことながら,退職金や退職慰労付加金も支給しておらず,原告としても,同意書への署名押印を求められた,あるいは,退職金や退職慰労付加金の支給を伴う人事異動は本件転籍の際が初めてである。そのことからも,本件転籍が,命令ではなく,個別同意によって行われたものであることは,原告も当然に認識していたといえる。
それにもかかわらず,原告は,持ち帰って検討したいなどといった発言は一切しておらず,また,E副部長より,質問の機会が与えられたにもかかわらず,特段質問することなく,その場で署名押印をしているのである(原告本人56~57頁)。
以上から,原告の錯誤及び詐欺の主張にはいずれも理由がない。

結論
本件転籍は有効であるから,原告と被告A証券との間の労働契約は既に終了している。したがって,原告の被告A証券に対する地位確認請求は理由がない。
また,本件転籍が有効である以上,原告は,平成25年4月1日以降,被告A証券から賃金の支払を受ける権利を有していない。

(原告の主張)

三者合意は成立していないこと

(ア)原告の合意は存しないこと
原告は本件同意書に署名押印したが,これは転籍命令を受けてこれに従うというものにすぎず,契約における合意には該当しない。したがって,原告は本件転籍に合意していない。
本件同意書には表題に同意という文言が入っているが,4項の「今後もGグループ内での出向・転籍を命ずることがある」との記載がいみじくも説明しているように,この書面自体本件転籍が命令であることを示している。本件転籍は,被告A証券から被告B証券というGグループ内での転籍であり,また5項は「転籍先の就業規則を遵守し,かつGグループの一員であることを常に自覚し,Gグループの発展と繁栄のために尽力する」ことを求め,転籍先でもGグループに所属していることが強調され,3項は「当社在籍中における当社就業規則第87条各号(制裁)に該当する行為が発覚した場合,転籍先が同社の就業規則に照らし厳重に処罰するものとする」として転籍によっても被告A証券在籍中の非行の責任追及は遮断されない,としている。
要するに本件転籍は,Gグループ内での異動であり,転籍同意書の宛名である被告A証券が原告に命令するものである。現に原告はそのように受けとめてその命令に従うとの趣旨で署名押印をしたものである。(イ)被告B証券と原告との合意が欠けている
本件転籍の場合,原告は被告A証券を退社し,また被告B証券との間で雇用契約を締結するとの合意が必要となる。すなわち,被告B証券は原告との間の労働契約締結について使用者として意思表示をすることになる。この意思表示は当然のことながら被告B証券から原告に表示されなければならない。

被告A証券は,被告A証券と被告B証券との間で本件転籍について合意したと主張しているが,実際そのような合意がなされたという証明はなく,被告B証券の意思表示が原告になされたものではないから意味がない。
被告A証券は,原告に面談した被告A証券のE副部長が予め被告B証券から権限の委譲を受けたとも主張しているが,仮にそのような事実があったとしてもそれは被告両者の内部関係に関するものであり,原告に対する意思表示にかかわるものではなく法的に無意味な主張である。仮に代理権の授与と善解したとしても,代理行為は「代理人がその権限内において本人のためにすることを示」すことが必要である(民法99条1項)。しかしE副部長は,被告B証券から権限の委譲ないし代理権限の授与があったとか,代理権限を行使するなどは一切原告に伝えていない。
本件同意書には,被告B証券は当事者として記載されておらず,代理権についても記載されていないのであるから,相手方である原告が,E副部長が別法人である被告B証券の代理権限を有し,被告B証券のため意思表示をすることを知ることができたということもできない。
被告A証券は,原告が本件同意書に署名押印したことをもって原告が被告A証券を退職する合意が成立したと主張するものとも思われるが,本件は転籍であるから,被告A証券の退職と被告B証券の採用(労働契約締結)がセットになって初めて意味がある。被告B証券との間で労働契約が成立していない以上,これを前提とする被告A証券の退職の合意は効力が発生していないことになる。また被告A証券としても退職手続は,後日原告に退職願を作成提出させることを予定していた。しかし被告はこの退職願を提出していない。この点からしても原告は被告A証券の従業員たる地位を失っていない。

(ウ)自由意思に基づく同意は存在しない
本件転籍は,原告が15年間にわたって勤務してきた被告A証券の従業員としての地位を失うものである。転籍先の被告B証券の年収は約100万円減少し,転籍後一年分のみは填補されるものの,基本的にこの年収は退職するまで続くことが予測される甚大なものである。このような不利益をともなう転籍の合意については原告の自由な意思に基づいてなされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが求められる(最高裁一小平成14年2月18日判決・労働判例866号14頁)。
原告は,理由も告げられず印鑑を持参するように告げられ,転籍同意書なる書面を突然示され,わずか十数分の説明で署名押印を求められた。原告には諾否の自由があるとは告げられておらず,上記の書面には命令であることを示す文言まである。この署名押印が転籍についての合意とみるとしても,上記のように原告に対して重大な不利益をもたらすものであり,原告の自由な意思に基づいてなされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは到底いい難いのである。
(エ)まとめ
被告の主張する転籍の合意なるものは,原告は業務命令に従う趣旨で本件同意書に署名押印したものであり,転籍についての原告の合意は不存在であること,転籍先の被告B証券の意思表示が原告に対してなされていないこと,仮に合意であるとしても自由な合意であるとは言い難いことのいずれからしても効力がない。
したがって,原告は被告A証券の従業員たる地位を有している。

錯誤無効

(ア)原告は,被告B証券への異動発表後にE副部長と面談した際,E副部長から,半年間の研修名目の出向及びその後の転籍を所与の決定事項として
通告されたのであり,原告が質問をしても「今急にいわれてもわからないことでしょうから,
また質問してください」
とその場での質問を封じられ,
半年後は勤務地が被告A証券本社から離れることになるので「今,転籍同意書にサインしてくれ」と言われた。このため原告は,被告B証券への出向及び転籍は,原告に諾否の自由のない業務命令であると誤解して,その誤解に基づいて本件同意書にサインをした。被告B証券は,被告A証券と比べてはるかに規模も小さく,また年収も100万円以上の減収となるから,諾否の自由があるならば,転籍に同意するはずもない。
(イ)原告は,被告に諾否の自由がないと誤信して本件同意書に署名押印したのであり,仮にこれが動機の錯誤であるとしても,被告A証券はこの動機を知っていたのであるから,被告A証券を退社して被告B証券に入社するという転籍の意思表示は,錯誤による意思表示であり,無効である。ウ
詐欺取消し
また,被告A証券が,原告に対して,諾否の自由がないものとして,本件同意書に署名押印させたことは,原告に誤った情報を伝えて,これによる原告の誤解に乗じてサインさせたものであるから,詐欺に該当する。よって,原告は,転籍の意思表示は被告A証券の詐欺による意思表示として,民法第96条1項により取り消す。


結論

(ア)地位確認について
以上のとおり,本件転籍に関する三者合意は成立していないか,成立していたとしても無効であるから,原告と被告A証券との間の労働契約は終了していない。よって,原告は被告A証券に対し労働契約上の権利を有する地位にある。
(イ)未払賃金請求について
被告A証券における原告の賃金は月給制で,毎月末日締め,当月20日
払であった(ただし,超過勤務手当を除く)。平成25年1月から同年3月まで平均賃金は36万7566円であるから(甲11の1ないし3),原告は,平成25年4月以降も,被告A証券から毎月36万7566円の支払を受ける権利がある。
(2)不法行為
(原告の主張)

研修終了後に放置されたこと
原告は,平成24年10月1日に被告B証券F本店に赴任し,2週間の研修予定で,同日から同月12日までの間,同時期に被告B証券に出向,転籍となったH部長とともに研修を受けた。H部長は,同月15日に異動の内示を受け,被告B証券I支店に赴任したが,原告は,同年11月12日に被告B証券F本社営業部に配属となるまで1か月以上放置された。被告らは,同日まで研修があったと主張し,その証拠として同月9日付けの研修プログラム(乙9)を提出しているが,原告には交付されていないし,上記研修プログラムによっても,同年10月15日以降はレポートの提出などがあったのみである。なお,上記研修プログラムには,毎日朝9時から「社内LAN,○等確認」との記載があるが,これについては同月12日までの間に2回にわたって研修を受けており,同月15日以降は,日常のルーティンとして社内LANなどを確認してメールチェックをしていたにすぎず,研修といえるものではなかった。


他の営業部員から隔離されたこと

(ア)追い出し部屋
原告は,平成24年11月12日付で営業部に配属され,同月13日から営業業務に従事した。原告は,研修時は営業部室で勤務していたが,同月14日から旧第二営業部室での勤務を強いられ,平成25年3月26日,ようやく営業部室に移された。

新しい職場に移ってきた以上,早くその同僚上司と接触し,様々な慣行なども覚え,職場になじむことが重要であることはいうまでもない。にもかかわらず,被告B証券は,上記のように原告を旧第二営業部室に長期間にわたって隔離し,他の社員らとの接触を遮断した。同室には原告が一人いるだけで,上司が指導に来ることがあるのみである。また,旧第二営業部室の机や椅子は営業部のそれと比べ,明らかに劣っている。
被告らは,旧第ニ営業部室をいわゆる追い出し部屋として利用していたのであり,原告に対する嫌がらせであることは明らかである。
(イ)情報アクセスの遮断
原告は,営業部の営業部員がアクセスすることができる共有フォルダにアクセスすることができなかった。原告が旧第二営業部室から営業部室に移った後も,原告は共有フォルダに接続することができなかった。被告らは,共有フォルダに対するアクセスを認めなかった理由について合理的な説明をすることができていない。
(ウ)朝会等への参加拒否
本店では朝8時半から9時ころまで朝会が開催されていたが,原告が追い出し部屋(旧第二営業部室)に入れられている間,原告に参加させなかった。また,コンプライアンスに関するルール情報の周知徹底を目的とするコンプライアンス会議には全営業員及び全管理課員が参加していたが,原告には同会議にも参加させなかった。セミナー,職場の歓迎会,忘年会にも原告は参加できなかった。本店営業部の連絡網においてすら,原告のみ,他の社員と直接連絡をとることがないようにされていた。

年次有給休暇取得を拒否されたこと
原告は平成24年11月13日,被告B証券のJ本店長らに5日間の年次有給休暇(以下「年休」という。)の取得を申請をしたが,翌14日,J本店長は,時季変更権を行使することなくこれを拒否した。さらに被告
B証券のK人事担当執行役員(以下「K執行役員」という。)から「会社に貢献していないものが年休を取得するとは何事だ。お前の立場を考えろ,お前に年休を取得する権利はない」との嫌がらせの発言があった。同月16日にK執行役員から「1日だけ有休を認める。そのため,もう一度休日の同月23日東京に行って帰ってくるのであれば新幹線代金は出す」との電話があったが,原告は,被告B証券から承認がないまま,同月16日に,同月19日から同月22日まで年休を取得することを通知して年休を4日間取得した。年休取得を否定する根拠はなく,また,1日で東京から大阪への引越しをできるはずもないから,J本店長らの対応は,原告を退職させるための明らかな嫌がらせである。

退職を強要する発言があったこと

(ア)平成24年10月5日,原告が研修担当の教育研修部の社員にクリアファイルの交付を求めたところ,被告B証券L専務取締役(以下「L専務」という。)は,「お前の評判は知っている。いつやめてもいいんだぞ,B証券にしがみつくことはないんだ」と露骨に退職の強要をしてきた。(イ)同月16日,原告は,被告A証券の本社で,E副部長と面談したが,E副部長は,原告が研修時間中に休憩時間と勘違いして講師に話しかけたことをとりあげて,真面目でないと,原告を叱責した。
翌17日,原告がK執行役員に上記面談の報告をしたところ,同人は,原告に対し「B証券まで転勤させられ,そろそろ辞めてもいいんじゃないか」と発言した。K執行役員は,原告に関する情報をE副部長から受けていたようであり,同人らは一体となって原告に退職を求め続けていたのである。
(ウ)平成25年1月22日,原告は,被告B証券株式会社本店に出張してきたE副部長に呼び出され「お前の悪名が社内で知れ渡っている。お前を受け入れるところなんてどこにもないんだ」と述べて,重ねて退職を強要
した。
(エ)このように,被告B証券の上司及びE副部長から原告に対し,継続して退職を強要する発言がなされた。

新規顧客開拓業務のみ1年間従事させたこと
被告B証券は,平成24年11月13日から平成25年10月31日までの約1年間,原告に対し,既存顧客を与えず,訪問による新規顧客開拓業務のみに従事させた。いわゆる飛び込み訪問による新規顧客開拓であり,最も効率の悪い顧客開拓方法である。予め電話をかけ,あるいはダイレクトメールを発して見込みのありそうな顧客を訪問するという方法も,被告B証券は認めなかった。
被告B証券の平成26年4月入社の新入社員は,会社から提供されたリストを使い,
電話営業やダイレクトメールの送付を予めしている。
原告は,
既に1年間,被告A証券D支店で営業活動を行い,11件の新規口座も獲得している経験者であるから,原告に対しては,より投資の可能性が高い既存顧客も与えて,その経験の活用を図るべきことは当然であるにもかかわらず,被告B証券は,原告に対し,上記のとおり,極めて非合理な対応をした。


1日100件の訪問など不合理な業務指示を受けたこと
平成24年11月14日,原告は,被告B証券のM副本店長から1日100件訪問するようにとの指示を受けた。これは営業活動初日の指示であり,原告の勤務の実績を見た上での指示ではない。原告はA証券D支店では予め電話をかけ顧客になりそうな人を探し出してから訪問していたが,朝すぐに外回りに出て午後4時半まで帰るな,電話営業やダイレクトメールはするなとの指示であった。これは明らかに実行不可能であり,露骨に嫌がらせの姿勢を顕示するものである。
1日7時間を訪問に充てるとしても420分であり,1件当たりの訪問
時間は約4分であるから,次の顧客への移動時間も含めれば100件訪問するだけでも絶対に不可能であろう。ましてや顧客開拓が目的であるから,少しでも脈があるとみれば話し込み,相手の反応を見ながら話を進めることになる。訪問相手に契約の見込みがあればあるほど訪問件数は減ることになる。逆に言えば,顧客と話し込むという活動をまったく認めないのがこの指示である。この指示は,原告を営業戦力としては期待していない,疲弊してつぶれるまで営業活動に回れという,嫌がらせ姿勢を如実に示したものである。

口座開設の拒否

(ア)原告は,被告らによる露骨な嫌がらせにもかかわらず,新規顧客獲得のため努力を重ね,2名の新規取引希望者を獲得し,取引開始のために必要な口座を開設しようとしたが,以下のとおり,被告らはいずれについても口座開設を拒否し,原告の新規顧客開拓の成果を一切認めなかった。(イ)N氏
原告は,平成25年3月にN氏に対し営業を行い,その結果,N氏は,同月23日に被告B証券と取引を行うための口座開設に必要な保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を作成し,これらの書類は翌週に被告B証券営業管理課に到着している。しかし,被告B証券は,これらの書類を2か月間放置した後,同年5月14日にN氏に返送して,口座の開設を拒否した(甲25)。
被告らは,原告の顧客の口座開設拒否により,原告の営業の成果を否定しようとしたのである。
(ウ)O氏
同年4月11日,原告は,紹介によりO氏と面談し,同人が日本株取引の意向を有していることを確認し,同月12日,O氏は,被告B証券本店に来店し,口座開設のための必要書類を作成した。取引を開始するには口
座を開設する必要があるが,その前提として,上司が顧客属性確認のために顧客宅へ訪問して面談を行うことになる。そのため,同月15日,原告は,J本店長らに口座開設手続のためO氏宅への訪問を依頼したが,拒否された。
被告らは,O氏宅への訪問を拒否した理由につき,紹介者の属性の確認ができていないことを挙げているが,同月15日に訪問の依頼を拒否した際には,そのような理由は全く述べておらず,金融商品取引法40条が定める適合性の原則からも必要とされるものではなく,被告B証券の新規口座開設時確認書の書式にも紹介者の属性を記載する欄はないなど,現実の実務で問題とされている事項ではない。
被告B証券による口座開設拒否は,正当な理由があるとは到底いい難く,原告を退職させるための嫌がらせに他ならない。

結論
上記各嫌がらせは,退職勧奨として許される限度をはるかに超えた違法なものであるから不法行為である。

(被告らの主張)

研修終了後に放置されたとの主張について
被告B証券では,営業員となることを予定した出向・転籍社員の具体的
な配属については,研修期間中の状況から,その者の人物評価を行うなどして,具体的な配属先の店舗等の調整を行うことも多いため,出向・転籍社員に対して行う研修の期間は,2週間程度が基本ではあるものの,配属先や配属時期の調整などにより,状況に応じて,1カ月程度延長される事例というのもよくあることであった。
そして,原告についても,研修期間は,当初平成24年10月1日から同月15日までを予定していたが,原告の研修中その他の勤務態度に問題があったため,配属の調整が難航し,同年11月9日まで延長したという
経緯である。
しかしながら,延長した研修期間においても,原告に対して研修を実施しており,そのことは原告も認めるところであって,放置したという事実は存在しない。
以上から,原告に対し,研修期間中に嫌がらせ目的で放置したという事実は全く存在しない。

他の営業部員から隔離されたとの主張について

(ア)原告が営業部に本配属された当時,出向社員としてF本店営業部にて新規顧客開拓業務に従事していた出向社員者が原告1名のみであったことから,結果的に,旧第二営業部室を原告1名で利用することになったが,これは,単にこれまでの慣行に基づいて旧第二営業部室を利用したところ,たまたま原告1名であったにすぎず,意図的に原告を旧第二営業部室に隔離したというものではなかった。
加えて,原告が,旧第二営業部室を利用する時間は,1日当たり2時間から3時間程度であり,それ以外は外交により事業所外で勤務していたこと,旧第二営業部室と営業部室を自由に行き来でき,実際にもそのようにしていたこと,原告が労働組合を通じて執務場所の変更を初めて被告B証券に要求したが,その後,速やかに営業部室に執務場所を移していることからすれば,被告B証券が,原告の執務場所を旧第二営業部室としたことが原告に対する嫌がらせを目的に実施されたものではなく,不法行為に該当するものでないことは明らかである。
(イ)原告が,旧第二営業部室を執務場所としていた期間,朝会やコンプライアンス会議に出席させなかったことについても,執務場所が異なることから積極的に参加させなかったにすぎず,嫌がらせを目的に行ったものでもない。加えて,コンプライアンス会議については,原告についても議事録を閲覧することで周知徹底していたのである。

(ウ)社内ネットワークについても,特段営業業務上必要性がない作成ファイルの保管場所の一つである共有フォルダがたまたま接続されていなかっただけで,そのほかの営業業務上必要とされる主要なシステム,情報には接続されていたことから,これも,原告に対する嫌がらせを目的に他の営業員との接触を遮断したという事情にはなりえない。
(エ)以上から,原告が嫌がらせ目的と主張するいずれの事情も,不法行為に該当するものでないことは明らかである。

年休取得を拒否されたとの主張について
被告B証券は,原告からの年休取得の申請に対し,原告が営業部に本配属となって間もないこと,申請された年休が,休日を併せると合計10日間の休日・休暇になるところ,転居のためにそれだけの日数を必要とする合理的な説明はなかったことなどから,幾度か再考を促したが,年休の取得を拒否してもいないし,時季変更権を行使してもいない。あくまで,被告B証券において,交通費を2回分負担するなどの提案をしながら,再考を促したにすぎないのである。
それにもかかわらず,原告は,「Pです。有給休暇の期間につきまして調整させていただいておりましたが,双方合意できずという結果になりました。結果として以下の期間を有給休暇とさせていただきます。11月19日(月)~11月22日(木)よろしくお願い致します。」との内容のメールを送信し(乙7),同メールに記載された時季に実際に年休を取得しているのであるから,被告B証券が,原告に対し,嫌がらせ目的で年休の取得を認めなかったという事実は全く存在しない。


退職を強要する発言があったとの主張について

(ア)平成24年10月5日のL専務とのやり取り
原告は,被告B証券に赴任した当日である平成24年10月1日,L専務に対し,K執行役員同行の下で着任の挨拶をしていたにもかかわらず,
その後,L専務と廊下で二度ほどすれ違った際,L専務を無視して通り過ぎたことがあった。
その後,原告は,同月5日午後4時ころ,L専務が教育研修部の部屋で部員と打合せを行っていたところ,突如現れて,部員に対し,唐突に「クリアファイルをもらえませんか」と述べた。これに対し,L専務は,あまりの非礼に驚きつつも,打合せ中であることを伝え,「廊下ですれ違ったときに会釈すらできないようでは社会人として失格である」,「社会人としての良識をもち,B証券のルールを守りなさい」,「B証券に入ってこれから頑張っていこうとするなら,気持ちを入れ替え,前向きに真剣に取り組みなさい」,「社会人としてマナーにこころがけ,挨拶ぐらいしっかりしなさい」などと礼儀をわきまえるよう咎めたところ,原告は,謝罪の言葉もなく,顎を突き出して無言のまま睨みつけた。
そのため,L専務は,「私を誰かわかっているのか」と述べたところ,原告は,
「あ,L」と呼び捨てて,なおもL専務を睨みつけた。L専務は,再度,
「社会人としてわきまえて行動するように」
と注意したが,
原告は,
返事もせずに自席へ戻った。
(イ)同月17日のK執行役員とのやり取り
原告は,同17日,K執行役員から,「お前の評判は知っている。いつやめてもいいんだぞ」といった発言を受けたと主張するが,そもそもK執行役員は,当日,原告と会っておらず,その前後においても,そのような発言は一切行っていない。
(ウ)平成25年1月22日のE副部長とのやり取り
E副部長は,平成25年1月22日,被告B証券F本店にて原告と面談した。
面談において,E副部長は,従前,原告が退職する意向をほのめかしていたことから,原告に対し,その意向を確認したところ,退職の予定はな
いとの回答であった。そのため,被告B証券において勤務していくことを前提に,平成24年10月16日の面談を踏まえて,会釈や挨拶等の基本的な礼儀作法を日常的に行うこと,上司等から受けた指示に対して一生懸命取り組むこと,被告B証券においても周囲の従業員に対して常に謙虚な言動で接することの約束を守っているかを確認し,被告A証券として新たな配属先の確保が困難な中,被告B証券が原告の出向,転籍を受け入れてくれたことを十分理解して,今後もこれらを守っていくよう指導した。しかしながら,E副部長は,原告の主張する「お前の悪名が社内で知れ渡っている。お前を受け入れるところなんてどこにもないんだ」といった発言はしていない。
(エ)まとめ
以上のとおり,原告は,E副部長やK執行役員らから退職を強要された旨主張するが,そのような事実は全く存在しない。

嫌がらせ目的で新規顧客開拓業務のみに従事させられたとの主張について
これまでに営業経験やスキルが十分とはいえない原告に対し,当初,新規顧客開拓業務のみに従事させたのは,そもそも新規顧客開拓業務が,既存顧客への営業業務とともに重要な営業業務の一つとして位置づけられる上,新規顧客開拓業務に従事することが,営業経験の乏しい営業員の経験やスキルを積むためにも,また,当該営業員の営業スキルを把握する上でも有用であって,
研修としての意味合いをも有するからである。
そのため,
原告に限らず,これまでの新入社員及び出向・転籍社員の営業員についても,当初,一定期間,新規顧客開拓業務のみに従事してもらい,営業経験やスキルに則して徐々に既存顧客を割り振るという運用が採られていたことなどに鑑みれば,被告B証券において,原告に対し,新規顧客開拓業務のみに従事するよう指示したことは,合理的な業務指示であって,ことさ
ら原告に対して嫌がらせ目的で行ったものでもないことは明らかである。この点,新規顧客開拓業務に従事してもらう一方で,既存顧客を割り当てることもできたとの反論が想定されるが,そもそも,新入社員や原告を含む出向・転籍社員についても,あくまで一定期間(出向・転籍社員については概ね6か月程度)に限定して新規顧客開拓業務に従事してもらい,その後,営業経験やスキルに則して徐々に既存顧客を割り当てることを予定していたのであって,将来においても既存顧客を割り当てないという方針が決定していたものではない。
そして,原告については,原告の責めに帰すべき事由により,被告B証券において,原告の営業経験やスキルを,原告のSFA(日報)上,その他の報告からは全く把握できず,さらには,J本店長以下上司からの業務指示に対しても従わず,反抗的な態度に終始したため,顧客とのトラブルリスク等に鑑み,既存顧客を与えることが困難となり,結果的に,平成25年11月1日付でコンプライアンス部営業管理課(本店駐在)に異動となるまでの約1年間,既存顧客を割り振ることができなかったにすぎないのである。
以上から,被告B証券が,原告に対し,平成24年11月12日から平成25年10月31日までの間,既存顧客を割り当てずに新規顧客開拓業務にのみ従事させたことは,何ら嫌がらせ等の目的は存在せず,不法行為に該当するものでは全くない。

嫌がらせ目的で1日100件の外交訪問目標など不合理な業務指示を受けたとの主張について
M副本店長が,原告に対して行った1日100件の外交訪問件数の目標指示は,原告のSFAやノート上の営業報告において,外交訪問数が少なく,かつ,全く顧客タッチができていない,また,どのような営業方法を取っているのかも不明な状況に鑑みて,顧客タッチができないのであれば,
まずは外交訪問数を増やそうという趣旨でなされたものであり,あくまで目標であって,それを厳守するよう命じたこともなければ,目標に達成しないことをもって何らかのペナルティを課したこともない。加えて,当然のことながら,見込顧客が新規口座開設や金融商品の取引に関心を示すなどして,それにより勧誘説明に一定の時間を割くことがある。そのような対応はむしろ望ましいものであって,そのような勧誘説明もせず,徒に目標件数を達成するよう顧客訪問することを指示したというものでも決してない。
また,
この外交訪問100件には,
資料等を郵便ポストなどに投函する,
いわゆるポストインも含まれていることから,見込顧客とのコミュニケーションが全く取れず,門前払いされるようなケースのみであった場合には,実際に外交訪問を100件行うことは現実的にも可能である。この点,原告自身のノート(甲21)1頁目左側には,原告が営業業務に従事するようになった当初である平成24年12月2日の午後1時30分以降,午後4時ころに帰社したと想定した場合,午後3時30分ころまで外交訪問を行っていたものと考えられるが,その間の約2時間において40件から50件の外交訪問とポストインを行ったと記載されている。このことからも,1日100件の外交訪問の目標自体が達成可能であることは明らかである。一方で,原告は,SFA(乙20)からも明らかなとおり,一貫して1日当たり30件程度の外交訪問しかしておらず,目標件数に達するよう努力した形跡は皆無である。
したがって,1日100件の外交訪問の目標指示は,原告の外交訪問の状況やSFAの入力状況からすれば,必ずしも不合理ではなく,また,原告は,かかる目標指示を特段意識せず,一貫して決して多いとはいえない件数の外交訪問を自身のペースで行ってきたことからすれば,かかる目標指示によって不当に心理的・身体的負荷を課せられたという事情も存在し
ない。よって,かかる目標指示が原告に対する嫌がらせ目的として不法行為に該当することはありえない。

嫌がらせ目的で口座開設依頼を不当に拒否されたとの主張について証券会社においては,見込顧客の新規口座開設を行うに当たっては,原則として,当該見込顧客を担当する営業員が,自ら当該見込顧客の属性を把握し,インサイダー取引や脱税目的の仮名・借名口座,反社会的勢力との取引,高リスク商品の販売に伴うトラブルなどの防止,回避に努めなければならない。
そして,営業員は,新規口座開設に当たって,自主的に,あるいは,上司からの指示に従って,上司に報告,連絡,相談を行い,顧客属性上問題ないか確認し,また,場合によって同行依頼するなどして,口座開設するに至るのが通常である。
しかるに,原告は,N氏について,事前に上司に報告,連絡,相談をすることなく,口座設定申込書,本人確認書類を作成し,そのまま管理課に提出しており,その後,J本店長から,上司に報告,連絡,相談するよう指示を受けたにもかかわらず,かかる指示を認識しながら,一切の報告,連絡,相談をしなかった。さらには,M・Q両副本店長から,N氏についての報告等を求められても,その報告等を怠った。その結果,やむなく,管理課R次長が,原告に対し,口座開設の処理ができないN氏の保護預り口座設定申込書,本人確認書類を本人に返却すべきか意向を確認したところ,原告は,それに対し,特段の異議も述べず,同意したため,口座開設に至らなかった。
また,O氏についても,原告が,J本店長らに同行依頼した際,Q副本店長から,「知り合いの紹介ということであるが,知り合いとはだれか」という紹介者の属性確認の質問に対し,「知り合いです」の一点張りで,具体的な属性について報告,説明することを拒み続け,その後,原告自ら
がO氏に口座開設ができない旨伝えたことから,口座開設に至らなかった。N氏,O氏いずれの口座開設の件も,原告が,当該見込顧客や詳細者の属性を上司に報告,説明しなかったか,できなかったことに起因するものであり,上司からは幾度もその報告等を求めたのであるから,被告B証券には何らの落ち度もなく,不法行為に該当するものでないことは明らかである。
(3)被告A証券の不法行為責任
(原告の主張)
被告B証券において原告が営業に従事するようになってからも,
原告を隔離
する,既存顧客を与えない,日中席にいることを禁じ,電話営業をさせず,1日100件の顧客訪問を命ずるなどの嫌がらせを重ね,
ようやく原告が口座取
引を開設できる新規顧客を確保したとき,今度は,その口座開設そのものを拒否するなどきわめて不合理な嫌がらせがなされた。平成24年10月1日,被告B証券S代表取締役副社長は研修の一環として講和を行ったが,その際,原告他1名の業務内容についてC人事部から指示がきていることを明らかにしており,また,E副部長はC人事部の副部長も兼任している。よって,被告B証券による一連の嫌がらせは,
被告A証券とその関連会社である被告B証券と
が意思を通じて,原告を退職させるために行ってきたことは明らかである。よって,被告B証券及び被告A証券は,一連の嫌がらせにより原告が被った精神的損害に対する損害賠償を連帯して支払う義務がある。
(被告A証券の主張)
本件出向・転籍は,いずれもリテール顧客を対象とした営業部門であることから,
本件出向・転籍は,
Gグループによる平成23年当時の配置転換施策
(ミ
ドル・バック部門から営業部門への人員シフト)の一環としてなされた人事異動とは異なる。本件出向・転籍は,従前にも頻繁に行われてきたグループ会社間での通常の人事異動の一つであって,被告B証券における営業員の補充・強
化という目的と,
被告A証券における原告の営業員として活躍できる新たな就
業機会の提供,それによるグループ会社内での雇用の維持・確保という目的とが合致してなされたものである。
このように,本件出向・転籍自体,Gグループ内で原告の雇用の維持・確保を図るという側面があり,
退職に追い込むという目的とはむしろ正反対の位置
付けである。
そして,出向期間中,原告に関する人事権,業務命令権,日常的な労務指揮権は出向先の被告B証券が有しており,出向元の被告A証券は有しておらず,出向元である被告A証券は,
出向社員である原告の勤務状況等の報告を被告B
証券から受けるにとどまる。
被告A証券では,出向期間中の原告に対して,2回の面談と年休取得に関するやり取りにおいて関与したが,面談は,今後原告が被告B証券において勤務していくことを前提に,一般的な内容の助言・指導を行ったに留まり,年休についても,原告の希望に則して,2回分の往復交通費の負担について,被告B証券との間で調整したに留まる。
したがって,原告が出向期間中に行った研修の内容や期間,本配属時の配属先や職種,そこでの具体的な業務内容や執務場所,日常的な指揮命令系統などについては,全て被告B証券が,自らの判断と責任で決定したものであり,そこに被告A証券が関与する余地はない。
また,被告A証券は,本件出向時,被告B証券に対し,不当な偏見・予断につながるおそれのある原告に関する人物評価等の具体的な情報は何ら提供していない。
加えて,被告A証券は,出向期間中,被告B証券に対し,原告の業務内容や就労環境について是正を要請し,あるいは,本件出向を解除すると判断すべきような具体的な事情について,被告B証券から報告を受けておらず,また,知り得ることも困難であったといえる。

このように,被告A証券が,被告B証券との間で,明示ないし黙示の共謀の下,原告を退職させるために一連の嫌がらせ行為を行ったという事実はなく,また,
被告B証券に対し,
そのような嫌がらせ行為を行うよう教唆したことも,
幇助したこともないことから,
民法719条1項及び2項いずれの共同不法行
為にも該当しないことは明らかである。
(4)損害
(原告の主張)
原告は,
被告B証券でも他に例がないと思われる1日100件の新規顧客訪問,午後4時半まで帰社禁止という理不尽な指示を受け,電話営業も,ダイレクトメールも用いない,
飛び込み訪問による新規顧客開拓業務に一年間も従事
させられた。お前は必要ない,やめてしまえ,と露骨に敵意と排除意思を示す会社において,
このような過酷な業務に長期間従事を強いられてきたのである。
原告は,このような執拗かつ強烈な嫌がらせ,退職強要に対して,負けまいとして立ち向かっていたが,
平成24年12月上旬には退職を考えて被告A証
券人事部に申し伝えており,さらに,平成25年1月末には体調を崩すなど,原告が受けた精神的苦痛は極めて甚大である。
原告の受けた精神的苦痛に対す
る慰謝料は200万円を下回ることはない。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3
1
当裁判所の判断
訴えの利益
原告は被告A証券に対し,本判決確定後についても毎月の賃金の支払を命ず
る判決を求めているが,労働契約上の地位の確認と同時に将来の賃金を請求する場合には,地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務提供の受領を拒否してその賃金請求権の存在を争うことが予想されるなど特段の事情が認められない限り,賃金請求中判決確定後に係る部分については,予め請求する
必要がないと解される。本件においては上記特段の事情を認めることはできないから,本判決確定後の賃金請求は訴えの利益がなく不適法である。2
本件転籍の有効性

(1)認定事実
当事者間で争いのない事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。

E副部長は,
転籍元である被告A証券の人事部人事一課の人事副部長とし
て被告A証券の従業員に関する人事関連業務を管掌しており,親会社である株式会社Cの人事副部長として,転籍先である被告B証券の人事関連業務を担当していた。

(乙14ないし16,証人E1頁)。

E副部長は,被告B証券の人事部長の地位を有するK執行役員との間で,本件転籍についての事前の調整を行い,本件転籍について被告A証券と被告B証券との間で合意した。また,Gグループでは,転籍同意を得る手続は,転籍先の会社が転籍元の会社に一任する運用であったことから,K執行役員はE副部長に原告から転籍同意を得る手続を一任した。(証人E1ないし3頁,証人K4,5頁)
なお,原告は,被告A証券と被告B証券との間で本件転籍にかかる合意は成立していない旨主張しているが,転籍元と転籍先が合意しないまま転籍の内示をするとは考え難く,転籍先である被告B証券が本件転籍について反対していたことを窺わせる事情もないから,上記原告の主張は採用することができない。


平成24年9月21日頃,原告は,被告A証券から平成24年10月1日付けで被告B証券に異動との内示を受けた。


同月28日,原告は,E副部長と面談した。E副部長は,原告に対して,被告B証券に当初6か月間出向となり,その後,転籍となることを予定し
ていることなどを説明し,さらに,「転籍に関する諸手続きについて」と題する文書(甲4の1)及び「B証券転籍に伴う処遇試算について」と題する文書(甲4の2)を資料として示し,転籍後の被告B証券における給与等の処遇及び被告A証券に続けて在籍した場合に想定される収入との差額を退職慰労付加金で補填すること並びに転籍に伴って必要となる社会保険,退職金等に関する諸手続の説明を行った。
(甲4の各枝番,証人E4ないし6頁,原告本人55,56頁)

上記エの説明の後,E副部長は,原告に対し,本件同意書を示して署名,押印するよう求め,原告は,特段異議を述べることなく本件同意書に署名押印した。


原告が署名押印した本件同意書には,
「下記の条項を了承のうえ,転籍す
ることに同意します」と記載されており,条項として,「転籍先
株式会社」,「転籍年月日

B証券

平成25年4月1日付」,「転籍後の賃金,

退職金,労働時間,休日,休暇,福利厚生等の労働条件は,すべて転籍先の就業規則等に定めるところによる」,「転籍先の就業規則を遵守し,かつGグループの一員であることを常に自覚し,Gグループの発展と繁栄のために尽力する」などと記載されている。

平成25年3月27日,被告B証券は,原告に対し,転籍のために必要な書類として退職願などの書類を交付し,作成及び提出を求めた。

(甲3,9,10)
(2)転籍合意の成否

平成24年9月28日,E副部長は,原告に対し,被告B証券に当初6か月間出向となり,その後転籍となることを予定していることなどを説明した上で,原告に対し,本件同意書に署名押印するよう求め,原告はこれに応じている。本件転籍は,平成25年4月1日に原告が被告A証券を退社するとともに被告B証券に入社することを内容とするものであるから,E
副部長はその旨の申込みをし,原告はこれを了承して同内容の合意が成立したことになる。被告B証券は,平成25年3月27日に原告に対して転籍のために必要な書類として退職願などの書類を交付し,作成及び提出を求めているが,本件転籍についての合意自体は平成24年9月28日に成立しているから,原告が退職願などの書類を作成しなかったことは本件転籍の効力を妨げるものではない。
また,原告は業務命令に従う趣旨で本件同意書に署名押印したのであるから,転籍についての合意は不存在であると主張しているが,本件同意書の内容に従った法律効果が発生することに同意しているのであるから,転籍の合意は成立しており,原告がどのような認識の下で合意することに至ったかは,錯誤の問題にすぎない。

そして,E副部長は,被告B証券との間で事前に調整をした上で原告に対し本件転籍についての同意を求めていること,被告A証券の人事関連業務だけでなくグループ本社の人事副部長として被告B証券の人事関連業務も担当していたこと,転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであり両社が個別に原告に合意を求める類の合意ではないことからすると,E副部長は,被告B証券を代理して本件転籍に係る意思表示を行う権限を有していたことが認められるから,E副部長と原告との間に成立した本件転籍にかかる合意の効力は,被告A証券だけでなく,被告B証券に対しても,その効果が帰属する。したがって,原告が本件同意書に署名押印したことにより,本件転籍につき三者間で合意が成立したものと認めるのが相当である。


これに対し,原告は,仮にE副部長に被告B証券を代理して転籍の申込みを行う権限があったとしても,本件同意書の名宛人は被告A証券のみであり,また,E副部長は原告に被告B証券のために行うことを示していないから被告B証券にはその効果が帰属しない旨主張しているものと解される。
しかし,転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであるから,E副部長が被告A証券のためだけではなく被告B証券のためにも同意を求めていることは当該合意の性質上明らかである上,商人である会社による労働契約の締結は,特段の反証のない限りその営業のためにするものと推定されるから商行為であり(商法503条),E副部長が本人である被告B証券のためにすることを示さないでこれをした場合であっても,被告B証券に対してその効力を生ずるから(商法504条本文),被告B証券のために行うことの顕名がなくとも,被告B証券に合意の効果は帰属する。
よって,上記原告の主張は採用することができない。

また,原告は,最高最一小平15年12月18日判決を指摘しつつ,被告B証券に転籍することにより年収が減ることになるから,本件転籍についての同意には,原告の自由な意思に基づいてなされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが求められるとした上で,上記合理的な理由が客観的に存在しないから,同意は存在しない旨主張している。しかし,上記最高最判決は,既発生の賃金債権を放棄する意思表示の効力を肯定するには,それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確でなければならないとして,労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由の有無を検討したものであり,本件では既発生の賃金債権の放棄が問題となっているのではないから,事案を異にする。もちろん,使用者と労働者との力関係を考慮すれば,本件においても同意の認定は慎重に行うべきではあるが,本件では転籍に関する同意は書面でなされているから原告の意思表示は明確である。よって,原告の上記主張も採用することができない。


以上によれば,原告,被告A証券及び被告B証券の三者間で,本件転籍にかかる合意が成立している。

(3)錯誤無効

原告は,被告B証券への転籍は,原告に諾否の自由のない業務命令であ
ると誤解して,その誤解に基づいて本件同意書に署名押印したものであるから,原告による本件転籍に同意するとの意思表示は錯誤により無効であると主張している。

しかし,本件同意書は,表題に「転籍同意書」,本文の初めに「下記の
条項を了承のうえ,転籍することに同意します。」と記載されているから,原告が同意することが転籍の前提となっていることは原告にも容易に分かり得る。原告は,本件同意書の第4項に「今後もGグループ内での出向・転籍を命ずることがある」と記載されていることやE副部長から決定事項として伝えられたことから諾否の自由がないものと思ったとも主張しているが,他方で,本件同意書には「同意書」「転籍することに同意します」とも記載されているのであるから,本件同意書に「転籍を命ずることがある」との文言が記載されていることを根拠として,原告が諾否の自由がないと誤信したとの事実を認定することはできず,他に原告が諾否の自由がないものと誤信したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

加えて,仮に原告が諾否の自由がないものと誤信していたとしても,諾否の自由についての誤信は動機の錯誤にすぎず,その動機が表示されていたとも認められない。


よって,原告の錯誤無効の主張は採用することができない。

(4)詐欺取消
原告は,被告A証券が誤った情報を伝えたため,諾否の自由がないものと誤信して本件同意書に署名押印したのであるから,詐欺による意思表示であり,これを取り消す旨主張しているが,前記(3)で述べたところによれば,被告A証券による欺罔行為があっとは認められないし,
原告が諾否の自由がないも
のと誤信したとの事実を認めるに足りる証拠もないから,
詐欺取消の主張も採

用することができない。
(5)まとめ
以上によれば,原告,被告A証券及び被告B証券の三者の間で,本件転籍にかかる合意が有効に成立しており,原告と被告A証券との間の労働契約は,平成25年3月31日をもって終了しているから,
原告の被告A証券に対する
労働契約上の権利を有することの確認請求及び平成25年4月以降の賃金の支払を求める請求は,いずれも理由がない。
3
不法行為

(1)認定事実
当事者間で争いのない事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。

D支店での営業業務

(ア)被告A証券では,平成23年頃から,収益改善策の一環として,管理部門から営業部門に人員を配置転換する人事政策が実施され,約400名の社員を支店営業その他に配置転換し,新たに支店に配属された約200名のうち約100名が研修生として営業等の研修を受けた。
(イ)営業経験のなかった原告も,平成23年7月,人事部付となり,営業店への配置転換の準備として1か月間研修を受け,同年8月,被告A証券D支店に配属となり,個人顧客を対象とする証券業務に従事し,新顧客開拓業務及び既存顧客への営業業務を行っていた。(甲3)
(ウ)原告のD支店在籍時の営業実績は,別紙3記載のとおりである。イ
本件出向後の研修

(ア)原告は,平成24年10月1日,被告B証券に出向し(本件出向),同日から被告B証F本店において研修を受けた。
(イ)原告は,同月12日に外務員の更新資格試験を受験することになっていたが,試験当日,「本人確認書類」を持参しないまま現れたため,受験で
きなかった。
(ウ)研修期間は,同月1日から同月15日までの予定であり,原告と同時期にGグループから被告B証券に出向し,共に研修を受けていたH部長は,同日に研修を修了してI支店に本配属となった。(甲13)
(エ)E副部長は,被告B証券のK執行役員より,研修中の原告の勤務態度について報告を受け,かかる報告を踏まえて,同月16日,原告と面談を行い,勤務態度等について注意・指導を行った。
(オ)原告は,同月17日から翌11月9日まで,別紙4記載のとおり,社内LAN○等確認,ビデオ研修,レポートの作成提出等を行った。(乙9,原告本人58,59頁)

営業部に本配属後の配席

(ア)原告は,同月9日,被告B証券F本店営業部に本配属されるとの内示を受け,同月12日付で本配属となった。
(イ)営業部は,被告B証券本店2階にあり,同フロアのレイアウトは別紙1のとおりである。被告B証券本店の原告を除く営業部員の席は,営業部室(別紙1の「営業部」と記載された部屋)に置かれており,原告の席も原告が被告B証券に出向した同年10月1日から同年11月12日までは営業部室内に置かれていた(別紙2「H24.10.1~

P代理」と記

載されている場所)。
(ウ)営業部室内には使用していない席もあったが,原告が営業部に本配属された日の翌日である13日頃からは,原告の席は,同じく被告B証券本店の2階にある旧第二営業部室
(別紙1の
「第二営業部」
と記載された部屋)
に移された(原告の席は別紙2の「H24.11.13~

P代理」と記

載された場所)。(甲3,40,乙23の各枝番)
(エ)
旧第二営業部室には,
ロの字の形に長机とその周りにパイプいすがあり,
長机の上に原告用のパソコンが1台と電話が数台置かれており,原告が同
室を使用している当時,同室を使用しているのは原告だけであった。(甲12の各枝番)
(オ)原告は,T(以下「本件組合」という。)に加入し,本件組合は,平成25年2月4日頃,被告A証券及び被告B証券に対し,原告が本件組合に加入し,支部を結成した旨通知するとともに,団体交渉の申し入れを行った。(甲5)
(カ)同月18日及び同年3月11日,本件組合は,被告A証券及び被告B証券と団体交渉を行い,原告の席を営業部の部屋に移すことなどを要求した。(キ)平成25年3月26日,被告B証券は,原告の席を旧第二営業部室内から営業部室内に移した
(別紙2の
「H25.26」
3.
と記載された場所)

(乙23の2)

営業部における原告の処遇

(ア)営業部では,午前8時半前後から朝会が実施されており,原告を除く営業部員が全員出席していたが,原告は,同人の席が旧第二営業部室内から営業部室内に移るまで1度も参加を求められなかった。
(甲40,証人J25,26頁,原告本人8頁)
(イ)被告B証券では,コンプライアンスにおけるルールや情報を全営業員,全管理課員に漏れなく周知徹底することを目的として毎月1回コンプライアンス会議を実施しており,営業部に所属する従業員が全員参加していたが,原告については,同人の席が営業部室内に移るまではコンプライアンス会議に参加させなかった。
(甲18,26,27,40,証人J26頁,原告本人8頁)
(ウ)平成24年11月19日時点での営業部の連絡網では,J本店長が部長及び次長3名(以下「部長等」という。)に連絡し,部長等から順次1名ずつ次の営業部員に連絡することとされているが,原告は他の営業部員から連絡を受けるのではなく,
J本店長が直接連絡することとされていた。
(甲

28)
(エ)被告B証券では,情報漏えいを防止するため,情報を保存する場合にはファイルサーバーに保存しなければならないとされており,営業部員はファイルサーバー内にある営業部の共有フォルダの中にフォルダを作成してそこにファイルを保存するなどして情報を管理していたが,原告の席が営業部室内に移ってからも,原告が使用していたパソコンからは,営業部の共有フォルダにアクセスすることができないようになっていた。(甲22,30の各枝番,40,乙28,証人J24頁,原告本人8頁)(オ)その他,原告は,営業部の歓迎会や忘年会にも呼ばれなかった。(原告本人9頁)

新規顧客開拓業務

(ア)被告B証券のM副本店長は,平成24年11月14日頃,原告に対し,原告の業務は外交による新規顧客開拓業務であり,飛び込みで1日100件訪問することを目標とすることを指示し,同月28日,訪問の際の参考資料として,他の営業社員が従前訪問した訪問先の名前,住所,顧客の反応,契約可能性のランク等が記載された顧客タッチ状況表(甲13)を交付した。
(甲13,乙28,証人J18,22頁,原告本人9頁)
(イ)なお,原告は,営業部に本配属となってから平成25年10月末まで新規顧客開拓業務のみを行っており,既存顧客の担当は与えられなかった。(証人J15頁,原告本人10頁)
(ウ)原告が入力したSFAは,顧客を訪問して対応した時刻の始めと終わりの時刻を記載する「対応時刻(自~至)」欄には,始めの時刻と終わりの時刻が同一になっており,各顧客の対応時刻が10分間隔で記載されている。また,顧客に対する提案内容を記載する「提案内容」欄には顧客の住所等が記載されているのみで提案内容は記載されていない。さらに,「成
否・見込」欄には「断り」「その他」などとの記載のみで,具体的な顧客の反応などは全く記載されておらず,「顧客ニーズ」欄は空欄のままであった。(乙20)
(エ)J本店長,M副本店長及びQ副本店長は,原告に対し,「成否・見込」欄には門前払い,他証券,銀行で既に取引しているなど,断られた内容を記載するようになどと注意指導していたが,原告の記入方法は改善されなかった。(乙20,28,証人J10,11頁)
(オ)平成25年5月1日及び同月8日,J本店長,M副本店長及びQ本店長は,原告と面談し,午後4時30分頃までは外交訪問をすること,SFAへの入力につき,顧客と何を話したのか,何を提案したのかを具体的に記載し,対応時刻は実際の時刻をできる限り正確に入力することを注意指導したが,原告はほとんど改善しなかった。
(甲16,乙20,28,40,証人J11頁,原告37,38頁)カ
年休取得

(ア)原告は,平成24年10月1日から大阪に赴任しているが,営業部に配属する辞令があった同年11月12日まで,ビジネスホテルに宿泊していた。
(イ)原告は,同月13日,被告B証券のJ本店長及びM副本店長に対し,東京から大阪への転居を理由として,同月16日及び同月19日から22日までの年休の取得を申請した。なお,同年11月23日(金)は祝日であったため,
かかる年休を取得した場合,
10日連続休となるものであった。
(ウ)同月14日,原告とJ本店長,M副本店長との間で面談が行われ,J本店長が,再度,1か月の研修期間を終えて本店配属の辞令が出たばかりで10連休となる年休を取得することについて再考するよう求めた。(エ)原告は,同月21日午後5時ころ,K執行役員,J本店長に対し,「Pです。有給休暇の期間につきまして調整させていただいておりましたが,
双方合意できずという結果になりました。結果として以下の期間を有給休暇とさせていただきます。11月19日(月)~11月22日(木)よろしくお願い致します。」との内容のメールを送信した。(乙7)
(オ)被告B証券は,かかる原告の年休申請を受理し,原告は,11月19日から同月25日まで休暇を取得した。

口座開設

(ア)新規の顧客が被告B証券において取引を行うためには,口座を開設することが必要であり,口座開設には,保護預り口座設定申込書及び本人確認書類の受入れ,本人確認記録の作成,本人確認,顧客自宅での訪問面談確認等が必要であるとされていた。なお,被告B証券が作成したコンプライアンスマニュアル(甲24)では,紹介者が既存顧客か否かによって自宅確認の要否の判断が異なるとされているが,紹介者の属性確認については特段の言及はない。(甲24,弁論の全趣旨)
(イ)N氏の案件

平成25年3月22日,原告は,N氏と面会して口座開設のために手続等について説明し,同人は,同月26日,被告B証券管理課に,口座開設のために必要な書類である保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を提出した。(甲25,32,40,乙28)


同月28日,
原告は,
本人の属性確認のためにN氏の自宅を訪問した。
同日,J本店長は,原告に対し,口座開設については担当部長と相談するよう指示した。(乙31の1)


原告は,上記指示を受けたにもかかわらず,担当部長に対してN氏の口座開設について報告ないし相談をしなかった。

(原告本人44,45頁)

同年5月14日,被告B証券は,N氏に対し,保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を返却した。(乙28)

(ウ)O氏の案件

平成25年4月11日,原告は,O氏と面会し,同人から日本株取引を行う意向のあることを聞き,同人に対して,被告B証券における口座開設のための手続等を説明した。
(甲14,40,乙28,31の2)


翌12日,O氏は,被告B証券本店に来店し,口座開設に必要な保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を作成提出した。
(甲14,23,40,乙28,31の3)


原告は,同月15日,J本店長に対し,O氏の属性確認のために同人の自宅への訪問を依頼したところ,J本店長は,原告に対し,Q副本店長に相談するよう述べた。(甲14,40,乙28)


Q副本店長は,原告に対し,O氏は誰から紹介された者であるのかを確認したところ,原告は知人からの紹介であるとのみ答えるだけで,具体的に誰から紹介を受けたのかを答えなかった。Q副本店長は,紹介者の属性が不明であること,
日本株取引は手数料収入が少ないことを理由
として,O氏の自宅へ訪問することを拒否した。
(甲14,15,40,証人J29頁,原告本人12,48頁)

(2)研修終了後に放置されたとの主張について

原告は,
平成24年10月1日に被告B証券F本店に赴任し2週間の研修
を受けたが,研修終了後同年11月12日に営業部に本配属との内示を受けるまで被告に放置されたと主張している。


確かに,
研修期間は平成24年10月1日から同月15日までの予定であ
り,原告と一緒に研修を受けていたH部長は同日のI支店に配属されているのに対し,原告については,同年11月12日まで内示がなく,営業部本配属後の被告B証券の原告に対する対応からすると,上記対応が原告に対する嫌がらせであるとの疑念もあり得るところである。


しかし,K執行役員は,原告の本配属が遅れた理由につき,原告の研修期間中の態度がよくなかったり,レポートがいい加減であったり,資格更新研修でも本人確認書類を忘れるなど問題があったからであると述べている(証人K6頁)。
原告は,同年10月16日にE副部長から研修を受ける態度が不真面目であるとして注意指導を受けていること,本人確認書類を持参しなかったため外務員の更新資格試験を受験することができなかったことなどからすると,原告の研修態度に問題があったことは否定し難いから,上記K執行役員の供述の信用性を否定することはできない。


加えて,
同年10月17日から翌11月9日まで別紙4記載のとおりの研
修が行われており,当初予定していた研修期間と比較してビデオ研修等の自主的な研修が主体ではあるが,原告が全く放置されていたともいえない。

以上によれば,
被告らが嫌がらせのために原告を研修終了後放置したとの
事実を認めるに足りる証拠はない。

(3)他の営業部員からの隔離について

原告の席は,
営業部に本配属となる平成24年10月12日までは他の営
業部員と同じく営業部室内にあったが,その翌日である同月13日からは,営業部室内には空いている席があるにもかかわらず,一人だけ旧第二営業部室内に移動させている。原告は研修期間を終了して営業部に本配属になったのであるから,他の営業部員とも協力して業務を行うことができるよう配置する必要がある。しかも,原告が営業業務に従事したのはD支店がはじめてであり,他の営業部員の仕事のやり方等を見聞きして業務に必要なスキルを取得するとともに,被告B証券としても,原告に対して積極的に指導していく必要があるのであるから,営業部への本配属を機に営業部室内にあった原告の席を誰もいない別の部屋に移すというのは極めて不自然である。

しかも,原告が旧第二営業部室内で使用している机や椅子は,一般に会議で使用される長机やパイプ椅子であり,与えられたパソコンからは営業部員が業務上の情報を保存している共有フォルダに接続することができないようになっており,他の営業部員が全員参加している朝会やコンプライアンス会議には原告のみ出席させず,営業部の歓迎会や忘年会にも原告は呼ばれず,営業部の連絡網においても他の営業部員は順次他の営業部員に連絡することになっているのに,原告はJ本店長が直接連絡することになっているのであるから,被告B証券が原告を,できるだけ他の営業部員から隔離しようとしていることは明らかであり,およそまともな処遇であるとはいい難く,上記被告B証券の対応は,原告に対する嫌がらせであると評価せざるを得ない。

J本店長は,原告の席を旧第二営業部室に移動させたことにつき,新規顧客開拓業務に専念してもらう環境を提供することで,空室となっていた旧第二営業部室を有効利用するためであると説明している
(乙28・12頁)

しかし,営業部員の業務は新規顧客開拓業務だけではなく,既存顧客に対する営業も重要である上,原告に行わせていた飛び込みによる新規顧客開拓によって契約に至ることは困難であり,通常は,既存顧客からの紹介により新規顧客を開拓するというのであるから(証人J43,44頁),原告のみを別室に隔離して飛び込みの営業のみに専念させることにどれほどの意義があるのか疑わしい。また,会議にも使用することができる一室を原告に専有させることが何故部屋の有効活用と言えるのかも疑問である。被告らは,原告は,旧第二営業部室のみならず,営業部室にも自由に行き来しており,他の従業員との接触を遮断され隔離されていたことはない旨主張しているが,原告の営業部室への入室記録(乙12)によれば,朝に一回営業部室に入室しただけの日も多く,一人だけ部屋が異なること自体,通常とは明らかに異なる取扱いであるから,営業部室への入室が禁止され
ていなかったことをもって,上記アの認定を否定すべき事情とはいい難い。その他,朝会やコンプライアンス会議に参加させなかったこと,原告のパソコンから共有フォルダにアクセスすることなどについても,合理的な説明はないから,上記のとおり,原告に対する嫌がらせであると認めるのが相当である。
(4)年休取得について

原告は,平成24年11月13日にJ本店長及びM副本店長に対し,同月16日及び同月19日から22日までの年休の取得を申請しているところ,原告は,J本店長らが嫌がらせ目的で違法に年休取得を拒否した旨主張している。


しかし,
J本店長らは原告に対して10連休となる長期の休暇を取ること
について再考は求めているものの,最終的には原告の年休取得を認めているのであるから,年休取得を拒否したということはできない。
また,原告が,東京から大阪への引越作業のために10連休という長期の休暇を取る必要まであったとは考え難く,年休の取得が権利であるとはいえ,新しい部署に配属された直後に長期の休暇を取ることについては新しい業務に対する意欲を疑わせるものであるから,再考を求めたこと自体が社会的相当性を逸脱する行為であるとまで評価することはできない。

そうすると,被告B証券が同時期に上記(3)のような嫌がらせを行っていたことを考慮しても,年休取得の申請に対して再考を求めたこと自体が嫌がらせであり不法行為に当たると評価するに足りない。

(5)新規顧客開拓業務について

原告は,
平成24年11月12日に営業部に本配属となってから翌年10
月末までの約1年近くの間,専ら飛び込みでの新規顧客開拓業務のみ行うよう指示されており,かつ,上司であるM副本店長らから,1日100件訪問することを目標とすることを指示されている。


新規顧客開拓業務への専従について

(ア)J本店長は,原告を新規顧客開拓業務に専念させた理由につき,原告は営業経験が乏しいことから,経験を積み営業上の基本的なスキルを身につけるためであると述べているところ(証人J2頁),営業活動を行うには商品に関する知識を身につけるとともに,顧客とのコミュニケーション能力を向上させる必要があることから,そのために新規顧客開拓業務の経験を積むことが有用であるは確かである。
(イ)しかし,飛び込みでの営業活動によって契約の締結に至ることは1%もなく(証人J44頁),多くは門前払いにされるというのであるから(同4頁),飛び込み訪問による営業活動を続けることによって向上することのできる能力に限界があることは明らかである。また,被告B証券の営業業務には,新規顧客開拓業務だけではなく,既存顧客に対する営業活動もあるのであり,しかも,新規顧客開拓業務についても,既存顧客を有している営業部員は,飛び込みでの営業ではなく既存顧客からの紹介により行うというのであるから(証人J43頁),実際に営業部員として活躍することを求めるのであれば,既存顧客に対する営業活動についても行わせてしかるべきである。しかも,原告は,営業業務の経験が少ないとはいえ,D支店において約1年間営業業務を従事していたのであるから,少なくとも飛び込みによる営業活動のみを1年近くも行わせることに合理的な理由があるとは認められない。
(ウ)
原告が営業部に配属された時期の前後に入社した新卒社員と比較しても,平成24年4月に入社した新卒社員には,研修後営業業務を開始した当初から既存顧客の担当を割り当てており(甲38,39,J16,17頁),平成25年4月に入社した新卒社員には7月に営業部に配属されて9月又は10月に既存顧客の担当を割り当てている(甲35ないし37,証人J17頁)。営業業務に全く従事したことのない新卒社員についても当初
から既存顧客を割り当てているか,新規顧客開拓業務のみに従事させたとしても2,3か月程度であるから,これとの比較からも,原告に対する対応が不合理であることは明らかである。
(エ)これに対し,J本店長は,原告が新規顧客開拓のみに従事している期間が約1年と長期に及んでいる理由につき,営業活動を開始してから原告と面談するなどして同人の適性を確認するために原告とコミュニケーションを積極的に取ろうとしたが,それが全くできない状況であったため長期に及んだ旨述べている(証人J18頁)。
しかし,被告B証券は原告に対して上記(3)のような対応を続けていたのであるから,J本店長らが原告に対し,積極的にコミュニケーションをとろうとしていたとは考え難く,上記J本店長の証言は採用することができない。
(オ)また,J本店長は,原告に対しては従前の訪問結果等が記載された顧客タッチ状況表を提供しており,原告はこれを元に営業活動を行うことができる環境にあったので,いわゆる飛び込みのみの営業活動に限定したものではないと述べている(乙28・6頁)。
しかし,原告に交付した顧客タッチ状況表に記載されている顧客は,ほとんどが投資を行う意思がない者であるであるから,同表が交付されたことにより原告の営業活動が容易になったとは認められない。
(カ)以上によれば,被告B証券が約1年にわたり新規顧客開拓業務にのみ従事させたことは原告に対する嫌がらせであると認めるのが相当である。ウ
訪問件数について

(ア)M副本店長は,原告に対し,飛び込みで1日100件訪問することを目標とすることを指示しているところ,新規顧客開拓の件数を増やすためには訪問件数を増やす必要があることは確かであるから,1日の訪問件数を目標として掲げること自体が不合理であるとはいえない。

(イ)しかし,午前9時から午後4時30分まで社外に出て営業活動を行うとしても,休憩時間を1時間とすると営業活動に充てることのできる時間は6時間30分であり,その間に100件訪問するには1件当たり3分54秒で訪問しなければならない。しかも,移動時間等も必要であるから,1件当たりの訪問にかけることのできる時間はさらに短くなる。新卒社員が新規顧客開拓業務を行う場合の1日の訪問件数は4,50件程度であるから(乙18,証人J44頁),1日の訪問件数100件という目標は,相当にハードルが高い目標である。
J本店長は,門前払いやポストインを含めれば1日に100件訪問することは可能であると述べているが(証人J13頁),新規顧客開拓あるいは顧客とのコミュニケーション向上のために重要であるのは,新卒社員に対する指導においても顧客と話をする件数(タッチ件数)を増やすように指導していることからも明らかなとおり(乙18・2枚目),訪問件数それ自体よりも顧客と話をすることができた件数であり,顧客と話をすることができる件数が多くなれば1日100件訪問するとの目標を達成することは困難となるが,ポストインや門前払いが多くなければ達成することができないような訪問件数を設定することに合理的な理由があるとは認められない。
(ウ)上記のとおり,飛び込みで1日100件訪問するようにとの指示に合理的な理由があるとは認められないこと,J本店長は,原告以外の社員には1日100件訪問するよう指示したことはないと述べていること(証人J20頁)及び被告B証券が上記(3)で述べたように原告に対する嫌がらせを行っていることを考慮すると,被告B証券が原告に対し飛び込みで1日100件訪問するよう指示したことは,原告に対する嫌がらせであると評価するのが相当である。
(6)退職を強要する発言があったとの主張について


原告は,L専務,K執行役員及びE副部長から,前記第2の2(2)原告の主張エ記載のとおりの違法な退職勧奨を受けたと主張し,本件において同旨の供述をしている(甲3,原告本人18頁)。


上記(3)及び(5)のとおり,原告が営業部に配属となってからのJ本店長らの原告に対する対応は原告に対する嫌がらせであると認められ,かかる対応は,原告を退職に追い込むことを目的とするものであると推認できること,原告が平成24年12月上旬に被告A証券に対して退職を考えていると伝えていること(証人E8,9頁)からすると,原告の上司らが原告に対して退職を勧める趣旨の発言をした可能性は十分あり得るところである。


しかし,
SFA(乙20)の記載に照らしても原告が真面目に営業活動を行っていたとは認められないにもかかわらず,原告は本件訴訟において真面目に営業活動をしていた旨強弁していること(原告本人63頁)などからすると,原告が,被告らの対応がより悪質であることを強調するために事実を誇張している可能性はある上,L専務らによる退職強要に関する原告の供述は,いずれの者の発言についても断片的であり,どのような話の流れで退職を強要する趣旨の発言がなされたのかが明確でないから,原告の供述も全面的に信用することができない。


そうすると,
原告が主張するとおりの発言があったとの疑いはあるものの,
かかる事実を認めるに足りる証拠はない。

(7)口座の開設拒否について

N氏の件

(ア)原告の営業活動の結果,N氏は,平成25年3月25日,被告B証券管理課に対し,口座開設のために必要な,保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を提出し,同月28日には原告が本人の属性確認のためにN氏の自宅を訪問しているが,その後,N氏の口座開設の手続は進められず,同
年5月14日に被告B証券はN氏に口座開設に必要な書類を返却している。
(イ)原告は,N氏の口座開設の手続が進まなかったのは,被告B証券が原告に対する嫌がらせ目的でN氏の口座開設の処理を放置した旨主張している。
しかし,N氏に関する口座開設の手続が進まなかったのは,原告が同年3月28日にJ本店長から担当部長に相談するよう指示されていたにもかかわらず,原告が担当部長に対して,N氏の口座開設につき報告をしなかったためであるから,被告B証券が原告に対する嫌がらせのためにN氏の口座開設手続を放置したと断ずることはできない。
(ウ)
もっとも,
J本店長は,
N氏の案件については,
原告が顧客属性の把握,
自宅確認等を行わず,
上司への同行要請もなかったため,
原告の了承の上,
書類をN氏に返却したと述べているが
(乙28・15頁,
証人J14頁)

原告は同日にN氏の自宅訪問を行っており,また,顧客情報に関する原告の調査が不十分なのであれば,その点を指摘して追加の調査をさせれば足りるのに,新規の顧客を獲得する機会を失う上,取引を希望する者からの信用を損ねる危険があるにもかかわらず,追加の調査を指示することなく,口座開設のための資料をN氏に返却するというのは不合理である。前記(3),(5)のとおり,被告B証券が原告に対して嫌がらせを行っていたことも考慮すると,少なくとも,N氏が提出した口座開設のための書類を返却したことは,原告に対する嫌がらせであると認めるのが相当である。

O氏の件

(ア)原告の営業活動により,O氏は,平成25年4月11日に口座開設に必要な書類を被告B証券に提出し,原告はJ本店長及びQ副本店長に対してO氏の属性確認のために同人の自宅を訪問するよう依頼しているが,Q副
本店長はこれを拒否したため,O氏は口座開設をすることができなかった。(イ)J本店長は,O氏の自宅訪問を行わなかった理由につき,Q副本店長が紹介者の属性について確認したところ,原告は「知り合いです」と繰り返すのみで,具体的な説明をしなかったため,自宅確認に同行しなかった旨述べている(乙28・14頁,証人J13,14頁)。
確かに,新規顧客の口座開設を認めるか否かを判断するに当たっては,取引希望者の属性を確認することが必要であり,紹介者が誰かということも取引希望者本人の属性を推測するための一事情であるということができるから,Q副本店長が原告に対して紹介者が誰かを確認したこと自体は正当な業務上の行為であるということができる。
しかし,紹介者が誰かということは取引希望者の属性そのものではなく,コンプライアンスマニュアルにも紹介者の属性を確認することが必須であるとはされていないし,飛び込みでの新規顧客開拓業務自体,全く紹介のない者とも取引を行う可能性があるということが前提である上,取引希望者と面談する際に聴取することも可能な情報であるから,取引希望者本人に面会するまでもなく口座開設をしないとの対応は厳格に過ぎる。以上に加え,前記(3)及び(5)で述べた被告B証券の原告に対する対応に照らすと,被告B証券がO氏の口座開設を拒否したのは,原告に対する嫌がらせであると認めるのが相当である。
(8)まとめ
以上によれば,被告B証券が,旧第二営業部室内に原告の席を設けるなどして原告を隔離したこと,約1年にわたり新規顧客開拓業務に専従させ,1日100件訪問するよう指示したこと,
原告の営業活動により取引を希望した者の
口座開設を拒否したことは,原告に対する嫌がらせであり,不法行為に該当する。
4
被告A証券の不法行為責任

(1)上記3で述べた被告B証券の原告に対する不法行為は,原告を退職に追い込むための嫌がらせであると認められるところ,E副部長は,原告が被告B証券で行っている業務の内容について報告を受けており(証人E26頁),平成2
5年1月22日には原告と面談もしているのであるから(証人E9頁),被告B証券の原告に対する対応を認識していたことが認められる。
そして,
原告は平成24年10月1日から被告B証券において勤務しているものの,平成25年4月1日に転籍するまでは被告A証券の社員であること,新規顧客開拓業務に専従させることについてはE副部長からも原告に説明していること(乙28・3頁)から,被告B証券が原告を退職に追い込むための嫌がらせを被告A証券と何ら相談することなく行っていたとは考え難い。加えて,被告らは,原告は,被告A証券入社以来,間接部門を中心に多数の部署において様々な業務に従事していたが,
期待される役割を果たせず,
また,
業務に取り組む姿勢や勤務態度等に問題があり,D支店に配転となった後は,営業業務に従事することとなったが,
当該部署でも同様の結果であったなどと
主張しているのであるから(被告ら答弁書14頁),被告A証券には原告を退職に追い込む動機があることが認められる。
以上によれば,被告B証券は,被告A証券の了解を得た上で,原告に対する嫌がらせを行っていたものと認めるのが相当である。
(2)そうすると,被告A証券は,被告B証券と共同して原告に対して嫌がらせを行ったものであり,共同不法行為責任を負う。
5
損害
被告らの原告に対する嫌がらせは,原告を他の社員から隔離し,ひたすら実績のほとんど上がらない新規顧客開拓業務のみ行わせるものであり,しかも,組織的かつ長期にわたって行われているから,態様は悪質である。一時は退職を考えるなど原告の受けた精神的損害は小さくない。そうすると,原告の勤務態度に問題がなかったとはいえないことなどを考慮しても,原告の精神的損害
を填補するための慰謝料は150万円が相当である。
第4

結論

以上によれば,被告A証券に対して本判決確定後の賃金の支払を求める訴えは不適法であるからこれを却下し,被告A証券及び被告B証券に対して不法行為に基づき損害賠償の支払を求める部分については,150万円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるからこれを認容することとし,その余の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり,判決する。

大阪地方裁判所第5民事部

裁判官

中島崇
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