判例検索β > 平成25年(ワ)第19688号
地位確認等請求事件
事件番号平成25(ワ)19688
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成27年2月18日
法廷名東京地方裁判所
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平成27年2月18日判決言渡
平成25年(ワ)第19688号

地位確認等請求事件

主1文
被告は,原告に対し,246万3809円及びうち244万3930円に対する平成25年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

1
原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2
被告は,原告に対し,447万1043円及びうち439万9074円に対する平成25年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告は,原告に対し,平成25年8月以降,本判決確定の日まで,毎月21日(支払日が休日の場合はその前日)限り,48万8786円を支払え。
第2

事案の概要等
本件は,被告と雇用契約を締結して労務を提供していた原告が,被告がした諭旨解雇及び普通解雇がいずれも無効であると主張して,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに,雇用契約に基づく賃金請求権に基づき,諭旨解雇後の未払賃金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)

当事者
被告は,中等普通教育及び高等普通教育を行うことを目的とする学校法
人であり,東京都新宿区内に,男子校であるA中学校及びB高等学校(以下「本件学校」という。)を設置している(甲33,履歴事項証明書)。イ
原告(昭和50年4月23日生まれ)は,被告との間で雇用契約を締結した教員である(甲30)。

(2)

原・被告間の雇用契約の締結等
原告は,平成17年4月1日,被告との間で,原告が被告に対し,教員として労務を提供し,被告が原告に対し,支払期日を毎月21日(支払日が休日の場合はその前日)として,賃金を支払うことを内容とする,期間の定めのない雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

原告は,被告において,○科教諭や○部顧問等として稼働し,平成24年度は,B高等学校×年×組主任を務めていた(甲17)。


原告の平成24年9月分及び同月10月分の賃金は,次のとおりであった(甲6の1及び2)。
(ア)
(イ)


住宅手当

(ウ)
(3)

基本給

社会保険手当

46万1100円
1万8000円
9686円

原告の逮捕
原告は,平成24年9月20日(以下,平成24年の出来事については,年の記載を省略する。),東京都青少年の健全な育成に関する条例(昭和39年8月1日条例第181号。以下「都条例」という。)違反の被疑事実により,警視庁α警察署(以下「α署」という。)に通常逮捕された(以下「本件刑事事件」という。甲17,弁論の全趣旨)。


原告は,本件刑事事件について,C弁護士及び吉村健一郎弁護士(以下「吉村弁護士」という。)を弁護人に選任した(甲11,14)。

原告は,9月21日,東京地方検察庁に送致されたが,勾留請求されることなく,同日,釈放された。

(4)

被告による諭旨解雇
原告は,釈放された後,被告の常任理事であり,本件学校の副校長であるD(以下「D副校長」という。)と面会した(乙49)。


被告は,10月5日までに,被告の就業規則(甲3。以下「被告就業規則」という。)72条に基づき,調査委員会を設置し,被告の理事であり,法律顧問でもあるE弁護士ら5名に委員を委嘱した(乙10,50)。


被告は,10月24日,同月31日をもって,原告を諭旨解雇する旨の意思表示をし(以下「本件諭旨解雇」という。),その旨記載された懲戒処分通知書(甲1)が,同月29日頃までに,原告に到達した(弁論の全趣旨)。


平成25年5月19日付け退職証明書(甲2)に記載された本件諭旨解雇の理由(以下「本件諭旨解雇事由」という。)は,原告が「東京都青少年の健全な育成に関する条例第18条の6に違反する行為の容疑で逮捕・拘留され,その事実が当学校名と共に,新聞等によって広く社会に報道され,当学校に損害を与え,当学校の信用を傷つけた行為」が,被告就業規則75条10号の「故意又は重大な過失により,学校に損害を与え又は学校の信用を傷つけた時」に該当するというものであった(甲2,3)。
(5)

本件被疑事実についての不起訴処分
東京地方検察庁検察官は,平成25年3月28日,本件被疑事実について公訴を提起しない処分(嫌疑不十分)をし,原告に対し,同年4月15日付け不起訴処分告知書(甲4)でその旨を告知した。


東京地方検察庁検察官に対する調査嘱託の結果,原告を被疑者として発付された通常逮捕状別紙記載の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)の要旨が,「被疑者は,結婚その他正当な理由がないのに,4月5日ころ,(マスキング部分あり)方において,(マスキング部分あり)

歳)が1

8歳に満たない青少年であることを知りながら,単に自己の性的欲望を満たすために同人と性交し,もって青少年とみだらな性交を行ったものである。」というものであったことが判明した(甲10,調査嘱託の結果)。なお,都条例18条の6は,「何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」と規定し,同条例24条の3は,同条例18条の6の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨を規定している。
(6)

被告による普通解雇
E弁護士は,被告において,原告を平成26年10月26日をもって普通
解雇する(以下「本件普通解雇」という。)旨記載した同月26日付け準備書面(6)を原告訴訟代理人の脇田敬志弁護士にファクシミリ送信し,同準備書面は,同月27日に同弁護士に到達した。なお,上記準備書面は,同年12月3日の第3回口頭弁論期日において陳述された。(弁論の全趣旨)(7)

被告就業規則
被告就業規則(甲3)には,別紙1のとおり,懲戒に関する規定がある
(甲3)。
2
争点及び争点に関する当事者の主張
(1)

本件諭旨解雇の効力

(被告の主張)

本件諭旨解雇事由が存在すること
(ア)

原告の非違行為
原告は,4月2日,βでナンパした18歳未満の女性(以下「本件女
性」という。)をカラオケ店の個室に連れ込み,同個室で同女性の胸を触り,性行為を迫ったが,同女性が痛がったのでこれをやめたことを内容とする性交類似行為を行った(以下「本件非違行為」という。)。原告は,本件非違行為の際,本件女性が18歳未満であると認識して
おり,同女性と真剣な交際をしたことはなかったから,本件非違行為には,都条例18条の6違反の犯罪が成立する。
(イ)

本件諭旨解雇における非違行為の追加主張
平成26年9月3日の第2回口頭弁論期日に実施された原告本人

尋問の結果から,原告が4月2日に知り合った本件女性を,同月5日に,原告の自宅マンションに宿泊させ,同女性と性行為をしたこと(以下「本件非違行為2」といい,本件非違行為と併せて,「本件各非違行為」ということがある。)が判明した。原告は,本件非違行為2の際,本件女性が18歳未満であると認識しており,同女性と真剣な交際をしたことはなかったから,本件非違行為2には,都条例18条の6違反の犯罪が成立する。
被告は,本件非違行為2を,本件諭旨解雇事由の非違行為として追加主張する。本件非違行為2は,本件非違行為と密接に関連しているから,上記の追加主張ができる特段の事情がある。
(ウ)

本件非違行為2の追加主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとの
原告の主張について
被告は,原告がそれまで本件非違行為2を秘匿していたことから,事実関係を正確に把握することができず,より早い時期に上記の追加主張をすることができなかった。したがって,上記の追加主張は,時機に後れたものではなく,被告に故意又は重大な過失はない。
(エ)

原告が本件各非違行為を行ったことにより逮捕されたことが報道さ
れた結果,本件学校に損害を与え又は学校の信用を傷つけたものであり,本件諭旨解雇事由は存在する。

本件諭旨解雇に手続違反がないこと
査問の具体的な方法は,調査委員会の裁量に委ねられており,処分対象者に対し直接事情聴取を行うことは必ずしも求められていない。調査委員
会は,D副校長が原告に対し事情聴取を行い,原告が本件非違行為を認めているとの報告を受けたこと,調査委員会設置後に,E弁護士が,原告の代理人的な立場で活動していたC弁護士に対して事情聴取を行い,本件非違行為が都条例に違反するとの意見を得ていたことに加えて,原告が自発的に退職願を提出していたことから,原告に対し直接事情聴取を行う必要はないと判断した。
したがって,本件諭旨解雇に際し,調査委員会が原告に対する査問を行っていないとしても,調査委員会の裁量の範囲内のことであり,本件諭旨解雇に,被告就業規則72条1項ただし書が定める手続違反はない。ウ
本件諭旨解雇の処分量定が相当であること
本件各非違行為は,都条例18条の6に違反する犯罪であり,行為の重大性は明らかである。原告が逮捕されたことがマスコミ報道されたことにより,本件学校の信用や名誉が傷ついたという結果は重大である。本件学校には,生徒や保護者からの信用を失い,入学試験の志願者数が減少する等の損害が生じた。
原告は,本件諭旨解雇がされるまでに,辞表(乙9)及び退職願(乙11)を提出したほか,何らの反省も示していない。また,原告は,過去にも女性に対する問題を起こしており,今後も本件と同様のトラブルを起こす蓋然性が高い。
したがって,原告に対する懲戒処分としては,本来懲戒解雇が相当であるが,原告が自発的に退職願(乙11)を提出したことや,原告の将来等を考慮し,本件諭旨解雇の処分にとどめた。この処分量定は,東京都教育委員会が定める「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」(乙20)等にも合致する相当なものであり,原告も本件諭旨解雇を受け入れていた。

以上によれば,本件諭旨解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当であるから,権利を濫用したものとはいえず,有効である。
(原告の主張)

本件諭旨解雇事由が存在しないこと
(ア)

本件非違行為について
本件諭旨解雇事由は,本件非違行為につき,都条例18条の6違反の
犯罪が成立することを前提とするものである。
原告は,4月2日,17歳の本件女性に声をかけて,カラオケ店の個室に入ったことがあるが,同女性が19歳であると誤信しており,18歳未満であることを認識しておらず,同個室で同女性の胸を触ったことも,性行為を迫ったこともなかった。また,原告は,7月頃まで本件女性と真剣に交際を続けたから,原告がしたことは,都条例18条の6違反の犯罪となるものではない。
また,本件非違行為は,本件被疑事実と日時,場所及び態様を異にするものである。原告は,本件非違行為をしたことで逮捕されたものではなく,原告が逮捕されたことが報道された結果,本件学校に損害を与え又は学校の信用を傷つけたことがあるとしても,原告に「故意又は重大な過失」があるとはいえない。
(イ)

本件非違行為2の追加主張が時機に後れた攻撃防御方法であること被告は,本件諭旨解雇以前に,マスコミ報道等により本件非違行為2
を認識していたから,本件非違行為2の追加主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり,却下を求める。
(ウ)

本件非違行為2について
原告は,4月5日に,本件女性を原告の自宅マンションに宿泊させ,
性行為をした際,同女性が18歳未満であると認識しておらず,その後,女性と真剣な交際をしているから,原告がしたことが,都条例18条の6違反の犯罪となるものではない。本件被疑事実について不起訴処分がされたことは,そのことを裏付けるものである。

(エ)

したがって,本件諭旨解雇事由は存在しない。

本件諭旨解雇に手続違反があること
調査委員会は,原告に対する査問を行っておらず,本件諭旨解雇には,被告就業規則72条1項ただし書が規定する重大な手続違反がある。D副校長は,釈放された原告と,飲食店で飲酒しながら会話をしただけであり,事情聴取と評価できるような行為を行っておらず,原告の弁解が十分に聴取されたとはいえないし,原告の弁解が調査委員会に正確に報告され,調査に十分反映されたことはなかった。また,C弁護士がE弁護士に話した見解にも,一般的な刑事事件の見通しに過ぎない不正確な事実等が含まれていた上,C弁護士は,性交類似行為の態様の詳細については回答を拒否している。
調査委員会としては,マスコミ報道の内容,D副校長が聴取したとする原告の弁解及びC弁護士の見解に齟齬があったのであるから,原告を査問し,直接事情を聴取する必要があった。


本件諭旨解雇の処分量定が相当性を欠くこと
本件各非違行為が存在するとしても,本件諭旨解雇は処分として重きに失するものであり,相当性を欠く。原告が本件諭旨解雇を受け入れたことはない。


以上によれば,本件諭旨解雇は,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上も相当であるとはいえないから,権利を濫用したものであって,無効である。

(2)

本件普通解雇の効力

(被告の主張)

本件普通解雇には客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当であること
本件非違行為2において,原告は,本件女性の年齢を十分に確認するこ
となく,知り合ってから3日後に性行為に及んでおり,その後真剣な交際をしていない。原告に同女性と真剣な交際をする意図があったとしても,相応の社会経験を有する原告が,性行為について配慮を要する未成年の本件女性と性行為に及んだこと自体,極めて不適切かつ不注意なものであって,倫理的,道義的に非難されるべき行為であり,原告は,被告の教員としての資質を欠くものである。
争点(1)で述べた点に加えて,原告は,本件非違行為2を隠匿して虚偽の弁解をした上に,インターネット上に本件訴訟について虚偽の事実を掲示するなど,被告の信用や名誉を傷つける行為を行っており,そのことからも原告は,被告の教員としての資質を欠くといえる。
したがって,本件諭旨解雇が無効であるとしても,本件非違行為2に基づく本件普通解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当であるから,権利を濫用したものではなく,有効である。

本件普通解雇が時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張に対する反論は,本件諭旨解雇における本件非違行為2の追加主張のところで主張したとおりである。

(原告の主張)

本件普通解雇が時機に後れた攻撃防御方法であることは,本件諭旨解雇における本件非違行為2の追加主張のところで主張したとおりである。

本件普通解雇には客観的に合理的な理由がなく,社会通念上も相当でないこと
本件非違行為2は,都条例18条の6違反の犯罪ではなく,倫理的にも問題がないものであるから,生徒や保護者に不快感を与えるものではない。また,原告は,本件被疑事実について,嫌疑不十分を理由として不起訴処分を受けており,警察の逮捕及び報道が誤っていたのであるから,被告に生じたとする損害は容易に回復し得る。

原告は,本件について反省している。原告が過去に被告から指導等をされたことはなく,今後同様の行為を繰り返す可能性はない。加えて,原告の勤務態度が良好であり,○教諭及び○部顧問として実績を上げ,学年主任,生徒及び保護者から高い評価を得ていた。
被告は,教職員にセクシャル・ハラスメント等の規律違反があっても,その事実が公になっていない場合には懲戒あるいは普通解雇をしていないから,他の教職員との間の処分の均衡を欠く。
したがって,本件普通解雇は,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上も相当でないから,権利を濫用したものであって無効である。
(3)

原告が本件諭旨解雇後に賃金を請求することの可否

(原告の主張)

賃金額
本件諭旨解雇及び本件普通解雇はいずれも無効であるから,原告は,民法536条2項により,被告に対する賃金請求権を失わない。原告が本件諭旨解雇をされる前に支払を受けていた定額の住宅手当及び社会保険手当は,実質的に賃金と評価することができるから,本件諭旨解雇後の原告の賃金額は,基本給,住宅手当及び社会保険手当の合計額である月額48万8786円である。
したがって,別紙2原告主張遅延損害金計算書記載のとおり,原告の平成24年11月分から平成25年7月分までの未払賃金は,合計439万9074円であり,上記未払賃金の各支払日から平成25年7月19日までの遅延損害金の合計額は7万1969円である。


後記被告の主張ア及びイが時機に後れた攻撃防御方法であること
被告は,第2回口頭弁論期日前に,後記被告の主張ア及びイに係る事実を認識していたから,上記の被告の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり,却下を求める。


被告の主張ア及びイについて
(ア)

原告が本件諭旨解雇前に,被告に対する賃金請求権を放棄したとの
被告の主張について
原告が退職願(乙11)を提出するなどしたのは,原告がE弁護士から,退職しないと懲戒解雇されると脅されたからであって,原告の真意によるものではなく,原告が本件諭旨解雇前に,被告に対する賃金請求権を放棄したことはない。
(イ)

原告が被告に対する労務提供の意思及び能力を有していないとの被
告の主張について
原告は,不当な本件諭旨解雇によって,収入を失ったことから,やむなく本件学校とは別の高等学校に就職したものであり,収入も被告に勤務していた頃の半分以下である。原告は,被告への復職を強く希望しており,本件諭旨解雇及び本件普通解雇が無効であると判断された後に,同校を退職するつもりであるから,被告に対する労務提供の意思及び能力を有している。
(被告の主張)

原告が本件諭旨解雇前に,被告に対する賃金請求権を放棄したこと原告は,本件諭旨解雇前に,被告に対し,辞表(乙9)及び退職願(乙11)を提出したほか,給料は1円も要らないので退職の日付を平成25年3月31日にしてほしい旨を嘆願する手紙を送付したことにより,被告に対する賃金請求権を放棄した。


原告が被告に対する労務提供の意思及び能力を有していないこと
原告は,本件学校とは別の高等学校で,平成25年4月から常勤講師,平成26年4月から常勤専任講師として稼働し,同校の社会保険にも加入しており,被告に対する労務提供の意思及び能力を有していないから,被告に対する賃金請求権を有していない。


被告の主張ア及びイが時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張に対する反論
被告が,原告が本件学校とは別の高等学校で勤務しているとの不確定な情報を得たのは,第2回口頭弁論期日の直前であり,原告が氏名を変えて勤務をしていたから,被告は,原告であるか否かについて事実確認をすることができなかった。したがって,被告の主張ア及びイは,時機に後れたものではなく,被告に故意又は重大な過失はない。

第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実(第2の1記載の事実)のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)

原告が行った行為
原告は,4月2日午後7時頃,βの家電量販店の前で,面識のない17歳の本件女性に声をかけて,カラオケ店の個室に入った(甲17)。

原告は,4月5日,本件女性を原告の自宅マンションに宿泊させ,本件女性と性行為をした。原告は,本件女性と性行為をした後,本件女性の言動から,本件女性の年齢が17歳であることを知った。(甲17,原告本人尋問の結果(以下「原告」と表記する。)・3頁,19頁,28頁)。
(2)

原告が逮捕されてから第1回目の接見までの状況
原告は,9月20日,前記認定事実(1)イと同一の事実である本件被疑事実により,α署に通常逮捕された。原告から当番弁護士の派遣依頼を受けたC弁護士と,原告の知人であるマスコミ記者から弁護依頼を受けた吉村弁護士は,α署に赴き,原告の了解を得て,原告の弁護人を共同で受任した。(甲11,14,16,17,証人Cの証言・3頁,原告・30頁)

C弁護士と吉村弁護士(以下「C弁護士ら」ということがある。)は,9月20日,原告と1回目の接見をした。原告は,C弁護士らに対し,警
察官の取調べに対して,本件女性と性行為をしたこと,その際,本件女性が18歳未満であると認識していたこと,目的は性的欲求を満たすためであったことを供述し,その旨の自白調書が作成されたことを話し,本当は本件女性が18歳未満であることを認識しておらず,本件女性とは真剣な交際をしていたと弁解した。その一方で,原告は,4月5日に,本件女性と性行為をしたにもかかわらず,本件女性の陰部に○(液体のり)の容器を挿入しようとする性交類似行為をしたが,性行為はしていないとの虚偽の弁解をした。
原告は,C弁護士らに対し,本件学校に連絡を取り,原告が逮捕されたことなどを連絡して欲しい旨を依頼した。C弁護士らは,まずは,原告が勾留請求されないようにするための弁護人活動を行うこととし,本件刑事事件がマスコミ報道された場合に,被告において,原告が本件学校を退職済みである旨の対応を採ることができるように,辞表(乙9)を作成し,原告はこれに指印した。
(甲14,17,乙9,証人C・3頁,9頁,原告・3頁から6頁まで,24頁,25頁,29頁。なお,原告は,1回目の接見の際に,C弁護士らに対しても,本件女性と性行為をしたことを話したと供述し,陳述書(甲17)にはこれに沿う供述部分があるが,反対証拠の趣旨に照らして採用し難い。)
(3)

第1回目の接見から原告が釈放されるまでの状況
C弁護士らは,接見終了後に協議し,主として,C弁護士が本件学校との連絡等を担当し,吉村弁護士が検察官との折衝等を担当する旨の役割分担とした(甲16,証人C・4頁,原告・7頁)。


吉村弁護士は,帰宅後に裁判例を調査し,真剣な交際であれば,本件被疑事実について都条例18条の6違反の犯罪が成立しない可能性があることを確認した。そこで,吉村弁護士は,この点に関する原告の弁解を証拠
化するために聴取メモ(甲14)を作成し,9月21日午前1時58分頃,C弁護士に電子メール(甲15の1及び2)で送付した。(甲14,甲15の1及び2,甲23,証人C4頁,5頁)

C弁護士は,原告を勾留請求しないこと等を求める旨の検察官に対する申入書(甲18)を作成し,その中で,原告が犯行態様については一部否認しているものの,本件女性と性交類似行為をしたことを認めていること,原告が本件女性の電話番号や住所などの連絡先を知らないこと,原告が本件女性とは別の交際相手と同居しており,12月に入籍予定であることなどを指摘した。
C弁護士は,9月21日午前5時2分頃,上記申入書を吉村弁護士に電子メール(甲16)で送信したが,その際,吉村弁護士が本件刑事事件について無罪を争うことができると判断する場合には,上記の指摘を削除するよう依頼した。(甲14,16,18,証人C・5頁,6頁,18頁,19頁)


吉村弁護士は,9月21日午前中,単独で原告と2回目の接見をし,原告に対し,本件女性と真剣な交際をしていたのであれば,本件被疑事実が都条例18条の6違反の犯罪にならないことを説明した上で,原告が勾留請求されないようにするため,前日に原告が警察官にした,本件女性との交際が真剣なものではなく,性的欲求を満たすためであった旨の自白を,維持することを原告と確認した。(甲14,18,証人C・18頁・19頁)


C弁護士は,9月21日午前8時34分頃,本件学校に電話をかけて,D副校長に,原告が未成年者との性交類似行為をしたことを内容とする都条例違反の被疑事実で前日に逮捕され,本日,検察官が勾留請求をするか否か判断すること,吉村弁護士と弁護人を共同受任したこと,本件刑事事件が報道される可能性があり,このことで原告が本件学校に迷惑をかける
ことについて謝罪しており,作成済みの辞表(乙9)を提出する準備があることなどを連絡した(乙9,22,42,49,証人C・6頁,証人Dの証言・3頁,23頁,24頁)。

D副校長は,9月21日午前9時から開催された被告常務会(常任理事会。校長,D副校長,両教頭,事務長及び副事務長が出席)において,C弁護士からの上記連絡を報告した(乙38,乙43の1から5まで,乙44の1から6まで,乙49,証人D・4頁)。


D副校長は,E弁護士の助言を受け,9月21日午前11時46分頃,C弁護士に電話をかけ,原告が逮捕されたことが冤罪である可能性はないか尋ねた。これに対し,C弁護士は,原告と接見をした際,原告が本件女性と性交類似行為をしたことは認めたが,性行為まではしてないと弁解していたことから,原告の話を聞く限りでは,冤罪ということはないと思う旨を述べた。しかし,C弁護士は,本件被疑事実に関し,原告が本件女性の年齢を18歳未満であると認識しておらず,本件女性と真剣な交際をしていたとの原告の弁解を伝えなかった。(乙23,49,50,証人C・6頁から8頁まで,証人D・4頁,5頁,証人Eの証言・4頁)


9月21日の昼に開催された本件学校の臨時教職員会議において,本件刑事事件の概要及びマスコミ取材への対応方針が説明された(乙42,証人D・5頁)。


原告は,9月21日,東京地方検察庁に送致されたが,勾留請求されることなく,同日,釈放された。C弁護士は,同日午後5時頃,D副校長に電話をかけ,原告が勾留請求されることなく,釈放される見通しであること,今後,在宅捜査がされ,1,2か月で検察庁が結論を出す見込みであること,原告が釈放されたので,実名報道はされないと予想している旨を連絡した。原告は,釈放された後,C弁護士らに,辞表(乙9)を被告に送付しないように依頼した。(前記前提事実(3)ウ,甲14,17,乙3
1,42,証人C・9頁,原告・7頁,8頁)
(4)

原告が釈放された後,本件刑事事件がマスコミ報道されるまでの状況原告は,9月21日午後7時過ぎ頃,D副校長に電話をかけて面会を求め,新宿の飲食店で,同副校長及び原告の知人のマスコミ記者と1時間程度食事をした。原告らの席は個室ではなく,周囲にも別の客がおり,D副校長は,飲酒をしなかったが,原告は,ビールを飲んだ。
原告は,D副校長に対し,①本件女性をβでナンパした。本件女性は原告に年齢を伝えたと述べているが,高校生とは知らなかった,②本件女性は複数回の性行為があったと述べているが,性行為は1回もしていない。カラオケで本件女性の体(胸など)を触るぐらいのことはあったかもしれない,③本件女性は,原告の部屋に連れて行かれたと述べているが,一緒に遊びに行った場所はカラオケの個室である。その日は,原告の自宅マンションには同棲している女性がいた,④性行為を最後までできなかったのは,本件女性が痛がったため,途中で止めたからであるなどと,4月2日と同月5日の出来事について混乱のある弁解をした。
原告は,D副校長に対し,4月5日に本件女性と性行為をしたことを話すことはせず,「触っただけでも性交類似行為になるみたいですね」等と話すにとどまり,本件女性と真剣な交際をしていた旨の弁解をすることはなかった。
他方で,D副校長は,原告が本件学校の教員であるにもかかわらず,本件学校の生徒と同年代の本件女性を高校生であると知らなかったと弁解することに不自然さを感じたが,それ以上の追及をしなかった。(甲17,乙32,49,証人D・6頁から11頁まで,原告・8頁から10頁まで)

D副校長は,9月24日に原告からの聴取内容を「ご連絡(その3)」と題する文書(乙32)に取りまとめ,E弁護士にファクシミリ送付した(乙32,46から49まで,証人D・10頁から12頁まで,16頁,
18頁)。

9月24日昼に開催された本件学校の臨時教職員会議において,原告が釈放されたことが報告され,現時点では,本件刑事事件についてマスコミに取り上げられていないが,このことについての発言を控えて欲しい旨の要請がされた(乙32,42,証人D・11頁)。

(5)

本件刑事事件がマスコミ報道された後,調査委員会が設置されるまでの
状況

9月25日午前11時30分からのテレビ局のニュースで「B高等学校の37歳の男性教諭」が都条例違反の疑いで逮捕された旨の報道がされた。この報道では,原告が,4月に東京都文京区内の自宅マンションで,18歳未満と知りながら17歳の本件女性とみだらな行為をしたことを内容とする都条例違反の疑いがもたれており,原告は容疑を認めているとされた。(乙3,乙4の1,乙42)


上記の報道がされた後,他のマスコミでも,同様の報道がされたが,本件被疑事実に対する原告の認否に関して,容疑を認めているとしたもの(乙4の9,乙4の10中の3記事のうち2記事)のほか,容疑を大筋で認めているとしたもの(乙4の2から4,7,8,乙4の10中の3記事のうち1記事,乙11,12),容疑を一部否認しているとしたもの(乙4の5,6),認否を明らかにしないもの(乙4の13)があったが,その詳細は明らかではなかった。
また,インターネット上の掲示板サイトに,上記報道に関し,原告の実名が書き込まれるなどした(甲31,乙4の2から13まで)。


被告は,9月25日以降,上記の報道について,マスコミ対応に追われたほか,本件学校の保護者及び生徒,本件学校と留学派遣プログラムを実施している海外の高等学校に対して謝罪をし,インターネット上に開設する本件学校のホームページにも謝罪文書を掲載することを余儀なくされた
(乙5から7まで,乙40の1及び2,乙42)。

被告は,9月25日に開催された常務会で,原告の懲戒処分について,調査委員会を設置することを決定した(証人D・12頁)。


C弁護士は,9月26日頃,被告に対し,辞表(乙9)を送付し,同封した連絡文書(乙8)において,今後,本件女性との示談交渉を中心に,起訴猶予に向けた弁護活動を継続していく旨の意向を伝えた。これに対し,被告は,原告の処分が調査委員会で決定されるまでの間,辞表を預かることとし,C弁護士に対し預かり証を送付するとともに,原告の署名・押印のある退職願の提出を求めた。(乙8,9,33,42,45,49,証人C・9頁,14頁から16頁まで)


原告は,9月28日,D副校長と電話で話をし,吉村弁護士から本件女性が示談に応じる意向であると聞いており,示談ができれば不起訴となる公算が高いことを伝えた(乙25)。

(6)

調査委員会設置後,本件諭旨解雇までの状況
被告は,10月5日頃,E弁護士のほか,被告理事長が指名する本件学校関係者2名及び教職員組合委員長が推薦する組合関係者2名に委員を委嘱し,原告の懲戒処分について諮問した(乙10,49,50,証人E・5頁)。


10月10日に開催された第1回調査委員会では,被告就業規則,本件刑事事件に関する新聞報道の一部(乙4の5,8,9,11及び13)及び辞表(乙9)等が参考資料として提供され,これまでの状況等について説明がされた。E弁護士は,報道から推測される原告の非違行為の内容,D副校長からの報告内容を解説し,原告について都条例18条6違反の犯罪が成立するか否か,あるいは,本件刑事事件で原告が起訴されるか否かにかかわらず,原告のした行為が被告の就業規則に反するものであり,社会的信用を傷つけたことは十分に懲戒に該当するとの意見を述べた。(乙
4の5,8,9,11及び13,乙9,20,34,35,42,50,証人E・5頁,6頁,12頁,18頁,19頁,26頁,27頁)ウ
E弁護士は,第1回調査委員会終了後,C弁護士と電話で話をし,調査委員会が設置され,調査委員会の結果を被告理事会に報告し,10月末頃までに原告の懲戒処分を決定する予定であること,本件刑事事件が報道されたことから,原告を処分しないことは難しい旨を伝えた(甲19,乙50,証人C・9頁,10頁,証人E・6頁,7頁)。


原告は,C弁護士からの連絡を受けて,退職年月日を空欄とし,全文を自筆で書き,押印した退職願(乙11)を作成して被告に送付し,10月13日頃,同退職願が被告に到達した。原告は,C弁護士に対し,被告との間で,退職年月日を平成25年3月31日とする旨の交渉を依頼し,D副校長に対しても,上記の年月日を退職日とできるのであれば,賃金は1円もいらないなどと記載した手紙を送付した。(甲17,乙11,26,証人C・14頁,16頁,17頁,原告・11頁,12頁)


E弁護士は,10月18日,C弁護士に電話をかけ,調査委員会が設置されたので,本件刑事事件に関し事情聴取したいと告げて,事情聴取をした。C弁護士は,原告が本件女性と性交類似行為をしたことを認めているが,性行為をしていないことを話したが,それ以上の点は,弁護人として回答することができない旨を話した。
E弁護士は,原告の懲戒処分を決定するに当たり調査すべき事項としては,原告の否認の部分の特定及び本件女性との性行為又は性交類似行為の程度であると考えていたが,原告が本件女性の年齢を18歳未満であると認識していたか否か,あるいは,原告が本件女性と真剣な交際をしていたか否かについて,C弁護士に確認することはなかった。また,E弁護士は,C弁護士から,本件女性との性行為又は性交類似行為の程度を聴取することができたとして,原告から直接事情聴取をする必要がないと判断し
た。(乙50,証人C・9頁から11頁,17頁,21頁,証人E・7頁から9頁まで,15頁,16頁,23頁,24頁)

10月22日に開催された第2回調査委員会では,退職願(乙11)が参考資料として提供された。E弁護士は,C弁護士から事実確認をした内容として,原告は性行為をしていないと述べているが,本件女性は性行為をしたと述べていること,性行為又は性交類似行為をした場所について,原告は言葉を濁しているが,本件女性は原告の自宅であると述べていることを報告した。
調査委員会は,答申書(乙13)で,原告について諭旨解雇が相当であると答申した。その理由として,E弁護士の意見に従い,原告が都条例違反の容疑で逮捕されたことは,起訴されるか否かにかかわらず,本件学校の信用及び名誉を傷つけたことに加え,本件女性が未成年者であり,同年代の生徒を教育する本件学校の教員として,あってはならないことであるから,本来は懲戒解雇に値する行為であるが,原告が自発的に退職願を提出し,深く反省していると判断されること,37歳という将来のある年齢であることに鑑みて,懲戒処分を一段階免じて,諭旨解雇が相当であるとの結論に至ったとした。また,調査委員会が,原告から事情聴取を行わなかったことについて,E弁護士によるC弁護士からの事情聴取及び新聞報道等から,原告の違反行為は明白であると判断した旨を答申した。(乙13,36,37,50,証人E・9頁,10頁)


10月22日に開催された被告常務会(校長,D副校長,教頭,事務長及び副事務長が出席)には,被告理事長も出席し,答申書(乙13)のとおり,原告を同月31日付けで諭旨解雇とすることが全員一致で決定され,同月23日に開催された被告理事会及び評議員会で,その旨承認された(乙39,49,証人D・13頁)。


被告は,10月24日,本件諭旨解雇をし,その旨記載された懲戒処分
通知書(甲1)をC弁護士に宛てて発送した。同通知書は,同月25日,同弁護士に到達し,同月29日頃,原告に交付された。また,被告は,同月30日頃,原告に対し,退職金を支払った。(甲17,25,乙14,59,原告・13頁,弁論の全趣旨)
(7)

本件諭旨解雇後の状況
被告は,10月26日頃,原告に対し,退職手続書類(乙16から18まで)を送付し,これを受領した原告は,上記の各書面に必要事項を記入して返送した(乙16から18まで,乙49)。


原告は,11月5日,D副校長に電話をかけ,本件女性の供述が変遷していることから,検察官の取調べに対し,逮捕された際に認めていた内容を翻し,本件女性に対して何もしていないと弁解しており,不起訴処分となる可能性が非常に高いこと,不起訴処分がされた場合には本件学校に復職したいこと,それができないのであれば,本件諭旨解雇を撤回し,本件学校のホームページに訂正文を掲載することなどを求めるとともに,原告が調査委員会で査問されることなく,本件諭旨解雇とされたことに対する不満を述べた。これに対し,D副校長は,11月6日,原告と電話で話をし,本件諭旨解雇に係る決定が覆らないことを伝えた。(甲12の1,2,甲17,乙28,乙29の1及び2,乙49,証人D・14頁)


原告は,平成25年3月15日,平成22年から交際していた女性と婚姻して同女性の氏を称し,平成25年4月1日から,名について,本来と異なる漢字を用いて,本件学校とは別の高等学校において,常勤講師として勤務し,平成26年4月からは,常勤専任講師として勤務しており,同校の社会保険にも加入している。なお,原告は,同年7月29日に離婚し,その後,婚姻前の氏を称している。(甲29,30,32,乙51,乙52の1及び2,乙53,原告・15頁から18頁まで,31頁)


原告は,平成25年5月2日,被告に対し,被告の就業規則及び解雇理
由書等の送付を求めるとともに,退職願(乙11)の提出を取り消す旨を通知した(甲24の1及び2,乙11,19)。

原告は,平成26年9月3日の第2回口頭弁論期日において,4月5日に本件女性と性行為をしたこと,平成25年4月1日以降,本件学校とは別の高等学校で勤務していることを認める供述を初めてした(原告・3頁・15頁から19頁まで,28頁,31頁)。


被告は,平成27年1月28日,原告に対し,本件諭旨解雇の解雇予告手当として(本件諭旨解雇が無効である場合には,本件普通解雇の解雇予告手当として),39万1029円を振込送金した(乙60,弁論の全趣旨)。

2
争点(1)(本件諭旨解雇の効力)についての判断
(1)

本件諭旨解雇事由の存否について
被告は,本件非違行為には,都条例18条の6違反の犯罪が成立する旨主張する。しかし,本件非違行為は,本件被疑事実とは,日時,場所及び態様を異にする行為であり,本件諭旨解雇事由における都条例18条の6に違反する行為であると認めることはできない。したがって,この点に関する被告の主張は,前提を欠くものであるから,採用することはできない。

被告は,本件非違行為2には,都条例18条の6違反の犯罪が成立し,この行為を本件諭旨解雇事由の非違行為として追加主張する。
これに対し,原告は,本件非違行為2の追加主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下することを求める。しかし,前記認定事実(7)オによれば,原告は平成26年9月3日の第2回口頭弁論期日において,4月5日に本件女性と性行為をしたことを認める供述を初めてしたことが認められ(原告の陳述書(甲17)にも,原告が本件女性と性行為をしたことを直接認める供述部分はない。),被告が原告の上記供述に基づいて,平成26年10月26日付け準備書面(6)において,本件非違行為2の追
加主張をすることが,時機に後れたものであると評価することはできない。したがって,この点に関する原告の主張は,採用することはできない。もっとも,本件非違行為2の追加主張が時機に後れた攻撃防御方法には当たらず,本件非違行為と密接に関連しているから,上記の追加主張ができる特段の事情があるとしても,原告が4月5日に本件女性と性行為をした際に,本件女性が18歳未満であると認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
すなわち,原告は,9月21日に飲食店でD副校長と面会した際,本件女性が高校生とは知らなかったなどと弁解しているところ,D副校長は,そのような弁解に不自然さを感じたが,それ以上の追及をしておらず(前記認定事実(4)ア),E弁護士は,10月18日にC弁護士と電話で話をした際,原告が本件女性の年齢を18歳未満であると認識していたか否かについて確認をしていない(前記認定事実(6)オ)。また,本件刑事事件のマスコミ報道における本件被疑事実に関する原告の認否も必ずしも容疑を全面的に認めているとするものではなかった(前記認定事実(5)ア及びイ)ことからずれば,D副校長の供述及び「ご連絡(その3)」と題する文書(乙32),E弁護士の電話聴取報告(乙12)及びマスコミ報道(乙3,乙4の1及び9)から,原告が本件女性の年齢を18歳未満であると認識していたことを認めることはできないのであって,他にこのことを認めるに足りる証拠はない。東京地方検察庁の検察官が本件被疑事実について嫌疑不十分を理由として不起訴処分をしたこと(前記前提事実(5)ア)も,そのような事情を考慮したものとみることができる。
したがって,本件非違行為2には,都条例18条の6違反の犯罪が成立すると認めることはできないものであり,本件非違行為2の追加主張は,その前提を欠くものであるから,採用することができない。

以上の検討によれば,本件各非違行為が都条例18条の6違反の犯罪が
成立する旨の被告の主張を採用することはできないから,そのことを前提とする本件諭旨解雇事由は,その存在を認めることができない。
(2)

本件諭旨解雇の手続について
被告就業規則72条1項ただし書は,出勤停止以上の懲戒に該当すると判断されるときは,査問のため調査委員会を設ける旨を定める。この点,懲戒が,被告の懲戒権の発動として行われる不利益な処分であり,これが正当化されるためには,当該懲戒を受ける者に対し,特段の支障なき限り,弁明の機会が与えられる必要があるというべきであり,そのような観点からすれば,被告就業規則が定める調査委員会の査問は,特段の支障なき限り,原告に対して直接なされることを要求しているものと解するのが自然かつ妥当であると解される。


これを本件についてみると,調査委員会は,本件諭旨解雇に当たり,原告に対する査問を行っておらず,本件諭旨解雇には,被告就業規則72条1項ただし書が規定する手続違反があるというべきである。
これに対し,被告は,調査委員会が原告に対し直接事情聴取を行う必要はないと判断した旨主張する。しかし,D副校長が,9月21日に飲食店において,飲酒している原告から本件刑事事件に関する話を聞いたことをもって,そもそも,原告に対する事情聴取がされたと評価することはできない上,その聴取内容をみても,C弁護士がしたD副校長に対する連絡内容と異なる,本件女性が18歳未満であることを認識していなかった旨の具体的な弁解が含まれていたにもかかわらず,そのことが調査委員会において問題とされた形跡がない(前記認定事実(3)キ,同(4)ア)。また,E弁護士がしたC弁護士からの事情聴取も都条例18条の6の構成要件の主観面への配慮を欠くものである上,C弁護士は,原告が当時認めていたとする性交類似行為の内容についても回答を拒んでおり(前記認定事実(6)オ),原告の弁解が反映されたものと評価することはできない。
さらに,本件刑事事件のマスコミ報道における本件被疑事実に関する原告の認否は様々なものがあった(前記認定事実(5)ア及びイ)ことに照らせば,調査委員会が原告に対し直接事情聴取を行う必要はないと判断したことについて,本件諭旨解雇の手続面における相当性を認めることはできない。したがって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。ウ
加えて,被告が懲戒処分通知書(甲1)において,本件諭旨解雇事由における非違行為の内容を明らかにしておらず,本件訴訟で,当初,本件諭旨解雇事由として主張した本件非違行為が,本件被疑事実とは,日時,場所及び態様を異にする行為であったことからすれば,被告(調査委員会)は,本件諭旨解雇を決定する手続において,本件被疑事実自体を把握しておらず,原告が実際に行った行為を確定しないままに,本件諭旨解雇をしたことが強く推認され,そのことからも,本件諭旨解雇の手続面における相当性を認めることはできないというべきである。

(3)

小括
以上の検討によれば,本件諭旨解雇は,客観的に合理的な理由がなく,社
会通念上も相当であるということはできないから,権利を濫用したものであって,無効であるというべきである。
3
争点(2)(本件普通解雇の効力)についての判断
(1)

本件普通解雇が時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張につい

原告は,本件普通解雇が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下することを求めるが,この主張を採用することができないことは,本件諭旨解雇における本件非違行為2の追加主張のところで判断したとおりである。(2)

原告は,4月5日,本件女性を原告の自宅マンションに宿泊させ,本件
女性と性行為をしたことを内容とする本件非違行為2を自認しているところ(前記認定事実(1)イ),37歳の成人男性として相応の社会経験を有し,
本件学校の教員として,基本的かつ常識的な価値観を本件学校の生徒に教え,その模範となるべき立場である原告が,本件学校の生徒と同年代である17歳の本件女性と性行為に及んだことは,前記のとおり,原告において,本件女性が18歳未満であると認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,本件非違行為2について都条例18条の6に違反する犯罪が成立すると認めることができないとしても,他方で,原告が本件女性の年齢を十分に確認したことを認めるに足りる証拠もないことに照らせば,本件非違行為2は,極めて不適切で,倫理的,道義的に非難されるべきものであり,被告の教員としての適格を欠くことを示す行為であるというべきである。
これに対し,原告は,本件女性と真剣な交際をしていたと主張し,これに沿う供述をするとともに陳述書(甲17)にも同旨の供述部分があるが,原告が平成22年から交際していた女性と平成25年3月15日に婚姻しており(前記認定事実(7)ウ),D副校長に対して本件女性とカラオケに行ったことの根拠として,原告の自宅マンションには同棲している女性がいたと弁解していたこと(前記認定事実(4)ア),C弁護士が,検察官に対する申入書(甲18)中で,原告が本件女性の電話番号や住所などの連絡先を知らないことを指摘していることに照らしても,原告の上記供述及び供述部分を信用することができないのであって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。また,原告は,本件非違行為2は,都条例18条の6違反の犯罪ではなく,倫理的にも問題がないものであるから,生徒や保護者に不快感を与えるものではない旨主張するが,およそ採用することができない。(3)

そして,結果として不起訴処分となっているが,原告が本件非違行為2
を行ったこと自体は事実であり,そのことにより,原告が逮捕されたことがマスコミ報道され,被告がマスコミ対応に追われたほか,本件学校の保護者及び生徒等に謝罪をし,インターネット上に開設する本件学校のホームページにも謝罪文書を掲載することを余儀なくされている(前記認定事実(5)
ウ)。
これに対し,原告は,本件被疑事実について,嫌疑不十分を理由として不起訴処分を受けており,警察の逮捕及び報道が誤っていたのであるから,被告に生じたとする損害は容易に回復し得るとも主張する。しかし,原告が本件非違行為2を行ったこと自体は事実であり,一旦傷つけられた被告の信用や名誉を回復することは容易なものではないといえるから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
それにもかかわらず,原告は,インターネット上に,本件訴訟で被告に勝訴した等の虚偽の事実を掲示するなど(乙54の1及び2,乙55の1及び2,乙57の1から3まで),更に被告の信用や名誉を傷つける行為を行っており,原告が以前にも,当時交際していた20歳の女子大学生との別れ話を巡るトラブルとなり,女性の父親らしき者から被告に対して抗議と善処を求める手紙が送られるなど(乙1の1及び2),その行状について芳しくない側面もうかがわれる。このような原告が被告の教員としての適格を欠くことを示す事情も加味すれば,原告と被告との間の信頼関係は,本件雇用契約の継続を困難とする程度に破壊されていると評価するほかない。
(4)

原告は,被告が教職員にセクシャル・ハラスメント等の規律違反があっ
ても,その事実が公になっていない場合には懲戒あるいは普通解雇をしていないから,他の教職員との間の処分の均衡を欠く旨主張する。しかし,原告が主張するような事実関係が認めるに足りる的確な証拠はないから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(5)

そうすると,原告が本件諭旨解雇前に,辞表(乙9)及び退職願(乙1
1)を被告に自発的に提出し,インターネット上の記事についても,被告の指摘を受けて削除するなど(乙56),反省の態度を示していることや,これまで懲戒歴がなく,被告の教員や原告の教え子から,原告の復職を求める嘆願書(甲20,21,甲22の1から29まで)が提出されていることな
どの事情を考慮しても,本件普通解雇について,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上も相当でないということはできないから,権利を濫用したものであって,無効であるということはできないというべきである。(6)

以上の検討によれば,本件普通解雇は有効であり,本件普通解雇の意思
表示を記載した平成26年10月26日付け被告準備書面(6)が原告訴訟代理人に到達した同月27日から30日を経過した同年11月27日に,本件普通解雇の効力が生じたものと認められる。
4
争点(3)(原告が本件諭旨解雇後に賃金を請求することの可否)についての判断
(1)

本件諭旨解雇は無効であり,本件普通解雇は有効であることは前記説示
のとおりであり,原告は,民法536条2項により,本件諭旨解雇から本件普通解雇の効力が生ずるまでの賃金を請求することができる。そして,本件諭旨解雇後の原告の賃金額は,月額48万8786円であると認められる。(2)

ところで,原告が民法536条2項により,本件諭旨解雇後の賃金を請
求するためには,原告が被告に対する就労の能力及び意思を保持していることが必要であるところ,前記認定事実(7)ウのとおり,原告は,平成25年4月1日から,本件学校とは別の高等学校において,常勤講師として勤務し,平成26年4月からは,常勤専任講師として勤務しており,同校の社会保険にも加入していることが認められ,このことからすれば,原告は,被告が主張するとおり,平成25年4月1日の時点で,被告に対する就労の意思と能力を保持していたと認めることはできない。
これに対し,原告は,被告の上記主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下することを求める。しかし,前記認定事実(7)オによれば,原告は平成26年9月3日の第2回口頭弁論期日において,平成25年4月1日以降,本件学校とは別の高等学校で勤務していることを認める供述を初めてしたことが認められ,被告が原告の上記供述に基づいて,平成26年10月
26日付け準備書面(6)において,上記主張をすることが,時機に後れたものと評価することはできない。したがって,この点に関する原告の主張は,採用することはできない。
なお,被告は,原告が本件諭旨解雇前に,被告に対する賃金請求権を放棄したと主張する。しかし,この主張が訴訟を遅延させるものではなく,原告が主張するように時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきものであるとはいえないとしても,原告が本件諭旨解雇前に,被告に対し,辞表(乙9)及び退職願(乙11)を提出したほか,給料は1円も要らないので退職の日付を平成25年3月31日にしてほしい旨を嘆願する手紙を送付したことのみでは,原告が賃金請求権を放棄したと認めることはできない。したがって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。
(3)

以上の検討によれば,原告が本件諭旨解雇後に請求することができる賃
金は,平成24年11月21日支払期日分から平成25年3月21日支払期日分までの244万3930円及びこれらに対する各支払期日から同年3月21日までの確定遅延損害金1万9879円及び上記元金に対する同月22日から支払済みまでの遅延損害金となる。
5
結論
よって,原告の請求は主文1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第36部
裁判官

吉川健治
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