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遺族補償年金等不支給決定処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成23年(行ウ)第178号)
事件番号平成25(行コ)211
事件名遺族補償年金等不支給決定処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成23年(行ウ)第178号)
裁判年月日平成27年6月19日
法廷名大阪高等裁判所
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平成27年6月19日判決言渡
平成25年(行コ)第211号

遺族補償年金等不支給決定処分取消請求控訴事件

主文1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨
主文同旨

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,被控訴人の妻(地方公務員)が,公務により精神障害を発症し,自殺したため,被控訴人が地方公務員災害補償基金大阪府支部長(以下「処分行政庁」という。)に対し,地方公務員災害補償法(以下「地公災法」という。)32条1項に基づき,遺族補償年金の支給請求をするとともに,地公災法47条1項2号の福祉事業として支給される遺族特別支給金,遺族特別援護金及び遺族特別給付金の支給申請をしたところ,処分行政庁から,いずれも不支給とする旨の決定(以下「本件各不支給決定」という。)を受けたため,上記処分の取消しを求める事案である。
原審は,被控訴人の請求を全部認容し,本件各不支給決定を取り消した。控訴人は,上記判断を不服として控訴した。

2
前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,又は証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。)。(1)

関係法令の定め
地公災法の定める遺族補償について
(ア)

地公災法31条
同条は,「職員が公務上死亡し,又は通勤により死亡した場合におい
ては,遺族補償として,職員の遺族に対して,遺族補償年金又は遺族補償一時金を支給する。」と規定している。
(イ)

地公災法32条1項,同法附則7条の2第2項及び同法32条3項同条1項本文は,「遺族補償年金を受けることができる遺族は,職員
の配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹であって,職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとする。」旨規定している(災害補償制度における遺族補償の受給要件として上記のように設けられることのある,死亡職員・労働者の収入によって生計を維持していたものであることを要するとの要件を,「生計維持要件」
以下
という。。

同項ただし書は,「妻以外の者にあっては,職員の死亡の当時次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。」旨規定し,「夫,父母又は祖父母については,60歳以上であること(1号)。」,「子又は孫については,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること(2号)。」,「兄弟姉妹については,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること
(以下,
上記に当たることを単に
「1
8歳未満である」といい,上記に当たらないことを単に「18歳以上である」ということがある。)又は60歳以上であること(3号)。」,「上記1号ないし3号の要件に該当しない夫,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹については,総務省令で定める障害の状態にあること(4号)。」とそれぞれ規定している。
なお,上記「60歳以上であること」との要件については,地公災法附則7条の2第2項において,平成2年10月1日から当分の間,55歳以上60歳未満の場合には遺族補償年金を受けることができる遺族に該当する旨の特例が定められており,当該特例は現在も継続している(地公災法32条1項及び同法附則7条の2第2項を併せて,以下「地公災法32条1項等」という。)。
また,地公災法32条3項は,「遺族補償年金を受けるべき遺族の順位は,配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹の順序とし,父母については,養父母を先にし,実父母を後にする。」と規定している。(ウ)

地公災法36条
同条1項は,「遺族補償一時金は,次に掲げる場合に支給する。」と
規定し,同項1号は「職員の死亡の当時遺族補償年金を受けることができる遺族がいないとき。」,同項2号は「遺族補償年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において,他に当該遺族補償年金を受けることができる遺族がなく,かつ,当該職員の死亡に関し既に支給された遺族補償年金の額の合計額が当該権利が消滅した日において前号の場合に該当することとしたときに支給されることとなる遺族補償一時金の額に満たないとき。」と規定している。
(エ)

地公災法37条
同条1項は,「遺族補償一時金を受けることができる遺族は,職員の
死亡の当時において次の各号の一に該当する者とする。」と規定し,各号において,「1

配偶者,2

職員の収入によって生計を維持してい

た子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹,3

前2号に掲げる以外の者で,

主として職員の収入によって生計を維持していた者,4

第2号に該当

しない子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹」と規定する。そして,同条2項は,遺族補償一時金を受けるべき遺族の順位につき,同条1項各号の順序とする旨規定している。

地公災法に基づく遺族特別支給金,遺族特別援護金及び遺族特別給付金について
地公災法47条1項柱書は,「基金は,被災職員及びその遺族の福祉に関して必要な次の事業を行うよう努めなければならない。」と規定し,同項2号は,「被災職員の療養生活の援護,被災職員が受ける介護の援護,その遺族の就学の援護その他の被災職員及びその遺族の援護を図るために必要な資金の支給その他の事業」と規定している。
このような福祉事業の一環として,地方公務員災害補償基金業務規程(以下「業務規程」という。乙1)において,遺族特別支給金(同規程29条の7),遺族特別援護金(同規程29条の9)及び遺族特別給付金(同規程29条の13)の支給要件等が定められているところ,これらは,いずれも遺族補償年金又は遺族補償一時金の受給権者に対して支給するものとされている。

国家公務員法及び地方公務員法の定め
(ア)

国家公務員法93条は,次のとおり規定している。
1項

職員が公務に基き死亡し,又は負傷し,若しくは疾病にか
かり,若しくはこれに起因して死亡した場合における,本人
及びその直接扶養する者がこれによって受ける損害に対し,
これを補償する制度が樹立し実施せられなければならない。

2項

前項の規定による補償制度は,
法律によってこれを定める。

同法94条は,「前条の補償制度には,次の事項が定められなければならない。」旨定めている。
・・・
3号

公務上の負傷又は疾病に起因する職員の死亡の場合におけ
るその遺族又は職員の死亡当時その収入によって生計を維持
した者の受ける損害に対する補償に関する事項

(イ)

地方公務員法45条は,次のとおり規定している。
1項

職員が公務に因り死亡し,
負傷し,
若しくは疾病にかかり,
若しくは公務に因る負傷若しくは疾病により死亡し,若しく
は障害の状態となり,又は船員である職員が公務に因り行方
不明となった場合においてその者又はその者の遺族若しく
は被扶養者がこれらの原因によって受ける損害は,補償され
なければならない。
2項

前項の規定による補償の迅速かつ公正な実施を確保する
ため必要な補償に関する制度が実施されなければならない。

3項

前項の補償に関する制度には,次に掲げる事項が定められ
なければならない。
・・・
4号

職員の公務上の負傷又は疾病に起因する死亡の
場合におけるその遺族又は職員の死亡の当時その
収入によって生計を維持した者の受ける損害に対
する補償に関する事項

4項

2項の補償に関する制度は,
法律によって定めるものとし,
当該制度については,国の制度との間に権衡を失しないよう
に適当な考慮が払われなければならない。

(2)

本件訴訟に至る経緯
A(以下「亡A」という。)は,昭和51年4月,大阪府教育委員会に教員として採用され,平成8年4月以降,堺市立B中学校において教諭として勤務していたが,平成10年10月18日,自殺により死亡した。亡Aの夫であった被控訴人(昭和22年2月11日生)は,亡Aの死亡当時,51歳であった。


処分行政庁は,平成22年4月23日,亡Aの自殺を公務上の災害と認定した。


被控訴人は,平成22年6月2日付けで,処分行政庁に対し,地公災法32条1項に基づき遺族補償年金の支給請求をするとともに,同法47条1項2号の福祉事業として支給される遺族特別支給金(業務規程29条の7),遺族特別援護金(同規程29条の9)及び遺族特別給付金(同規程29条の13)の支給申請をした(遺族特別支給金,遺族特別援護金及び遺族特別給付金を併せて,「遺族特別支給金等」
以下
ということがある。。


処分行政庁は,平成23年1月5日付けで,被控訴人に対し,上記ウの遺族補償年金の支給請求及び遺族特別支給金等の支給申請につき,いずれも不支給とする旨の決定(本件各不支給決定)をした。
本件各不支給決定のうち遺族補償年金に係る不支給決定(以下「遺族補
償年金に係る本件不支給決定」という。)は,被控訴人は,亡Aの夫であるところ,亡Aが死亡した平成10年10月18日当時,51歳であったことから,地公災法32条1項ただし書1号が定める要件(60歳以上であること)に該当せず,また,その特例である同法附則7条の2第2項が定める要件(55歳以上60歳未満であること)にも該当しないことを理由とする(要するに,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件として定める年齢要件を充たさないことを理由とする)ものである。また,本件各不支給決定のうち遺族特別支給金等に係る不支給決定(以下「遺族特別支給金等に係る本件不支給決定」という。)は,遺族特別支給金等は遺族補償年金の受給権者に該当することを支給要件とするところ,被控訴人の遺族特別支給金等の支給申請は遺族補償年金の支給請求に併せてなされたものであるが,被控訴人は上記遺族補償年金支給請求については不支給と決定されたから,被控訴人は遺族補償年金の受給権者に該当しないことを理由とするものである。(甲3)

被控訴人は,本件各不支給決定のうち遺族補償年金に係る不支給決定につき,平成23年1月26日付けで地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会に対し審査請求をしたが,同支部審査会は3か月を経過しても裁決をしなかった。
被控訴人は,平成23年4月28日付けで,地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,3か月を経過しても裁決をしなかった。
被控訴人は,平成23年10月29日,本件訴訟を提起した。
(3)

なお,
亡Aの死亡当時,
その収入によって生計を維持していた遺族として,

夫である被控訴人及び子2人がいたが,被控訴人は,亡Aの死亡当時51歳であり,地公災法32条1項等の定める受給要件に該当しなかった。また,子2人は,いずれも「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること」との受給要件(地公災法32条1項ただし書2号)に該当しなかった。その結果,地公災法によれば,遺族補償年金を受けることができる遺族がいないことから,同法36条,37条に基づき,配偶者である被控訴人が遺族補償一時金の受給権者となる。また,被控訴人が遺族補償一時金の支給請求をし,支給される場合,被控訴人は,遺族特別支給金等の受給権者となる。
3
争点
地公災法32条1項は,遺族補償年金の受給要件に関し,職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた配偶者について,妻については,受給資格年齢を設けず,年齢を問わず遺族補償年金を受給できるものとして定めているのに対し,夫については,60歳以上(同法附則7条の2第2項により55歳以上)との年齢要件を定めており(以下「地公災法32条1項等の定める年齢要件」という。),遺族補償年金の受給要件について妻と夫とを区別している(以下「本件区別」という。)。地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反するか。また,市民的及び政治的権利に関する国際規約26条,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約3条に違反するか。

第3

争点に関する当事者の主張
1
被控訴人の主張
(1)

地公災法の定める遺族補償年金の性格
地公災法の定める遺族補償年金は,基本的に災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有するものである。その根拠は,次のとおりである。(ア)

地公災法の制定経緯等
労働基準法上の災害補償
労働災害補償の出発点というべき規定は,労働基準法(以下「労基法」という。)第8章「災害補償」である。
市民法の原則では,労働災害(労働者が労務に従事したことによって被った死亡,負傷,疾病)における使用者による補償は,労働者が使用者に対して損害賠償責任を追及することによって実現されるが,この責任追及において,過失責任の原則がとられているので,労働者又はその遺族は使用者の過失の立証を要求される。しかしながら,労働関係上の危険を内包した企業活動によって利益を得ている使用者に当然に損害の補償を行わせ,
労働者を保護すべきであるとの考えから,
労災補償制度が立法化されることとなり,労基法第8章「災害補償」の規定が定められた。そこでは,市民法の原則を修正し,療養補償,休業補償,障害補償,遺族補償,葬祭料,打切補償などの規定が設けられ,使用者の無過失責任が定められるとともに,損害賠償額の定額化(賠償の範囲について全部塡補ではなく塡補の範囲に上限を設け定型化すること)が図られている。このように,災害補償は,使用者の指揮命令下で業務に従事している労働者に業務に内在する危険により人身損害が生じた場合において,使用者が負う無過失責任を基礎とする損害補償責任を定型化したものである。
労基法において,遺族補償は,遺族に対し平均賃金の千日分の補償をする(同法79条)と定められ,同法施行規則42条1項は,遺族補償の受給権者について,配偶者と定めるのみで,夫,妻による,すなわち性別による差別的な取扱いはしていない。
損害賠償制度を前提として,使用者の過失責任を無過失責任に修正し,損害賠償額の定額化を図った労災補償制度において,何ら男性(夫),女性(妻)という理由で異なった取扱いをする理由を導き出せないからであり,労基法の定める労災補償制度において,性差を付けないことは当然の結果である。

労災保険法の定める遺族補償
労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)は,労基法と同じ昭和22年に制定された。原則として全ての使用者を保険に加入させ,労働災害につき労働者又はその遺族の救済を図っている。労災保険法は,労基法上の使用者の労働者に対する損害補償責任の実施を担保し,確実,公正かつ迅速に行うために,国が保険の管掌者となって災害補償保険を行うことを定めたものである。労基法に基づく使用者の災害補償責任の危険を分散するために,保険化されたもので,労働災害によって生じる損害を補償するものであることに変わりはない。したがって,制定当初の遺族補償について,妻,夫による給付の差別は行われていなかった。
労災保険法は,昭和40年の改正により,遺族補償年金が定められ(同法16条),遺族補償年金の受給要件について,妻については受給資格年齢が設けられないのに,夫については受給資格年齢が設けられた(同法16条の2)。上記改正に際して,このように妻と夫を差別したことは,災害補償制度に基づく支給金の損害補償という性格を無視したものである。損害補償とすれば,性別により違いを設ける合理性は何ら存在しないからである。
労災保険法において,上記改正が行われたが,なお,同法の定める遺族補償年金について,災害補償責任に基礎をおく損害補償としての法的性質は維持されているというべきである。

国家公務員法及び地方公務員法は,公務員について,前記前提事実(1)ウのとおり,公務災害によって生じた損害を補償する制度として,災害補償制度を法律によって定め実施しなければならない旨定めている。
地公災法は,
地方公務員法45条を受けて制定されたものである。
国家公務員法及び地方公務員法に基づく災害補償制度の趣旨目的
は,労基法に基づく災害補償制度と同様である。すなわち,労働関係(勤務関係)上の危険を内包した活動により生じた災害による労働者(公務員)
の負傷,
疾病等については,
その活動の帰属する事業主
(国,
地方公共団体)に無過失責任に基づき損害補償義務を負わせたものである。


したがって,地公災法の定める遺族補償年金は,災害補償責任としての損害補償を目的とするものである。

(イ)

地公災法1条の規定
地公災法1条は,「地方公務員等の公務上の災害(負傷,疾病,障害
又は死亡をいう。…)…に対する補償…の迅速かつ公正な実施を確保するため,…」と規定しており,地公災法は,地方公務員の使用者に当たる地方公共団体がその災害補償責任を,地公災法により設置された基金によって集団化して迅速,公正,確実に履行するために制定されたものである。
したがって,地公災法の定める遺族補償年金は,災害補償責任としての損害補償を目的とするものである。
(ウ)

地公災法の定める遺族補償年金の給付額が被災職員の収入額に基づ
き定められていること
地公災法の定める遺族補償年金の給付額は,被災職員の災害発生前における直近の給与締切日を基準とした過去3か月間の平均給与額に基づき決定されている。すなわち,被災職員の生前の収入額を基準としており,被災職員の逸失利益を基準としてその支給額は定められている。これは,地公災法の定める遺族補償年金の目的が損害補償であることを示すものである。
損害賠償との調整規定が置かれていること

(エ)

地公災法に次のとおり損害賠償との調整規定(地公災法58条1項,59条1項)が置かれていることからすれば,遺族補償(遺族補償年金及び遺族補償一時金)の性格は損害塡補(損害補償)であるというべきである。

地公災法58条1項は,地方公共団体が国家賠償法,民法その他の法律による損害賠償責任を負う場合において,地方公務員災害補償基金(以下「基金」ということがある。)が地公災法による補償を行ったときは,同一の事由については,地方公共団体は,その価額の限度においてその損害賠償責任を免れる旨定め,同条2項は,その場合において,補償を受けるべき者が同一の事由につき国家賠償法,民法その他の法律による損害賠償を受けたときは,基金は,その価額の限度において補償の義務を免れる旨定めている。


地公災法59条1項は,基金は,補償の原因である災害が第三者の行為によって生じた場合に補償を行なったときは,その価額の限度において,補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する旨定めており,同条2項は,その場合において,補償を受けるべき者が当該第三者から同一の事由につき損害賠償を受けたときは,基金は,その価額の限度において補償の義務を免れる旨定めている。

(オ)

これらのことからすれば,地公災法は,公務災害によって被災職員及びその遺族に生じた損害を補償することを目的とするものであることが明らかであり,地公災法の定める遺族補償(遺族補償年金及び遺族補償一時金)の目的は,損害補償であるといえる。
控訴人及び参加行政庁(以下「控訴人ら」という。)は,地公災法の定める遺族補償年金につき,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものである旨主張するが,そのように解すべきでないことは上記のとおりである。

以上のとおり,地公災法の定める遺族補償年金は,基本的に災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有するものである。

(2)

本件区別を設けた法令の違憲審査基準
最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁(以下「最高裁昭和57年判決」という。)は,社会保障制度の具体的な制度設計に関し立法府に広い裁量を認めた判例であるが,その基本的な性格が社会保障制度とは異なる法令について,立法府の広範な裁量を認めたものではない。
地公災法の定める遺族補償年金は,仮に一部社会保障としての性格を帯有するとしても,上記(1)のとおり,基本的に災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有するのであるから,遺族補償年金の制度設計について,それが社会保障制度であるとして立法府の広範な裁量が認められるとすることはできない。そして,上記のことからすれば,本件区別を設けた法令が憲法14条1項に違反するかについては,社会保障制度とは異なる法令についての違憲審査基準に基づき判断すべきであり,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反するものと解されることになる(最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁参照)。
上記のとおり,地公災法の定める遺族補償年金につき基本的に災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有するものであると解すると,遺族補償年金について夫と妻とで受給要件を差別する理由は全くない。本件区別は,損害補償としての性格を無視した受給権者の範囲設定をするものであり,遺族が夫(男性)であるか妻(女性)であるかによって遺族補償年金の受給要件を異にすることは,損害補償という遺族補償年金の趣旨目的との間に合理的関連性を有しない差別的取扱いであることが明らかである。したがって,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,合理的理由のない差別的取扱いであり,憲法14条1項に違反するというべきである。

仮に,地公災法の定める遺族補償年金につき基本的に損害補償の性格を有する旨の上記アの主張が認められないとしても,次のとおりである。憲法14条1項後段に列挙された事由の一つである性別により差別的取扱いを定める法令の場合,それが社会保障立法であるとしても,憲法14条1項に違反するか否かを判断するに当たっては,厳格な合理性の基準に基づき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反するものと解すべきであり,上記の合理的な根拠及び合理的関連性があることは,憲法14条1項に違反しないと主張する者において,これらを立証する責任を負うものと解すべきである。上記のとおり,憲法14条1項後段に列挙されている性別に基づく差別的取扱いを定める法令については,立法府に与えられた立法裁量は狭小であり,最高裁昭和57年判決の示した広い立法裁量は認められない。
そうすると,本件区別は,憲法14条1項後段に列挙された事由の一つである性別により遺族補償年金の受給要件について区別を設けるものであるから,上記のとおりの厳格な合理性の基準に基づき,地公災法32条1項等が本件区別を設けていることについて,憲法14条1項に違反するか否かを判断すべきものである。
(3)

本件区別は立法目的との関係において合理性がないこと
仮に,地公災法の定める遺族補償年金が「死亡職員の被扶養者の喪失した
被扶養利益を塡補してその生活を保護する」
(要保護者の被扶養利益の塡補)
という目的を有するものであり,社会保障的性格を有するとしても,遺族補償年金の受給要件について性別による差別的取扱いを設けている本件区別は,「要保護者の被扶養利益の塡補」という立法目的との間に合理的関連性が全く認められず,本件区別は,立法目的との関係において合理性がない。その根拠は,次のとおりである。

妻について「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」として本件区別を設けることは不合理であること
控訴人らは,
地公災法が制定された昭和42年当時の社会情勢としての,
生産年齢における労働力人口の男女の差,賃金の月平均額の男女の差といった統計データを挙げ,
「女性が就労しにくいこと,特に,妻については,
家庭責任がより重くかかっているため,一層,就労が困難であると考えられることに鑑み,年齢を問わずに,自ら稼働して自活することが困難なものとして一律に保護を図る目的で,遺族補償年金を支給することには合理性があった。」旨主張する。そして,控訴人らは,女性が男性に比べて労働力率が相当低いこと,雇用形態別の雇用者(労働者。以下同じ。)数の比較において女性の雇用者数に占める非正規の職員・従業員の割合が過半数を占めその割合が男性の約3倍であること,賃金額の男女差があること,専業主婦と専業主夫の割合に大きな男女差があること等の統計データを挙げ,現在の社会情勢に照らしても,一般的にみて,女性について独力で生計を維持することは困難であり,妻について,年齢にかかわらず,喪失した被扶養利益を塡補して特に保護することには合理性がある旨主張する。
しかしながら,妻について「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」と類型化することは不合理であるから,妻について上記類型に当たるとして本件区別を設けることには合理性が認められない。その根拠は,次のとおりである。
(ア)

社会情勢の変化により合理性を失っていること
平成23年版厚生労働白書は,「社会保障の検証と展望」と題して社会保障制度を検証する中において,「国民皆保険・皆年金を達成する前後から現在に至るまでの間に,人口,雇用を巡る情勢,経済状況,家族形態,社会生活は大きく変化している。」とし,雇用を巡る情勢の変化について,「昭和30年代の高度成長期には,企業は優秀で必要な労働力を確保するために,『終身雇用』『年功序列賃金』『企業別組合』といった日本型雇用慣行により主として男性労働者を正社員として処遇してきた。ところが,バブル経済崩壊後のグローバル経済により企業が人件費削減も含めたリストラに追い込まれ,労働者の処遇を見直してきた結果,日本型雇用慣行が変容し,非正規の男性労働者の割合が増加してきた。」などと分析している。そして,雇用者の変化の状況について,「これまでは男性の正社員が中心であったが,女性の社会進出等により女性雇用者が増加している。男性と女性の雇用者の比率は,昭和34年には男性雇用者が女性の2.5倍程度であったが,平成19年には男性は女性の1.3倍程度になっている。」,「昭和57年から平成19年の間の変化をみると,正規の職員・従業員の数はあまり増加しておらず,男女とも雇用者の増加分はほとんど派遣社員,契約社員,パート,アルバイト等の非正規雇用となっている。」などとしている。こうした情勢の変化を受けて,上記白書は,「社会保障制度においても,男性が正規職員として安定的に就業しているという前提は,見直さざるを得なくなっている。」と指摘している。そして,上記白書は,「社会保障制度は,専業主婦世帯が一般的であることを想定して構築されてきた部分がある。」とし,「昭和55年には,男性世帯雇用者と無業の妻からなる世帯(いわゆる専業主婦世帯)が1114万世帯であったのに対して,雇用者の共働き世帯が614万世帯であった。しかし,雇用者の共働き世帯は増加を続ける一方,専業主婦世帯は減少を続け,1990年代に雇用者の共働き世帯が専業主婦世帯を上回った。平成22年において,共働き世帯が1012万世帯に増える一方,専業主婦世帯は797万世帯にまで落ち込んでいる。」などとしている。
また,平成24年版厚生労働白書は,「とりわけ1990年代以降の国内外の社会情勢の変化の中で,これまでの社会保障が前提としていた日本の社会の構造は,大きく変化した。特に,日本型雇用システムは,経済のグローバル化,国際競争の激化や産業構造の変化への適応を迫られた結果,給与水準の比較的低い非正規雇用の労働者が労働者全体の3分の1を超えるなど,企業における就業形態が多様化し,従来のような生活保障機能は低下傾向にある。また,いわゆる性別役割分業の意識が薄れ,女性の社会進出が進む中で,専業主婦が育児や介護を担うというロールモデルは既に限界となっているともいわれている。」としている。
また,平成23年版男女共同参画白書は,「労働力人口に女性が占める割合は,昭和63年に4割を超え,平成22年には42.0パーセントとなっている。」,「女性雇用者の勤続年数には長期化傾向が見られる。平成22年の雇用者のうち,女性の平均年齢は39.6歳,平均勤続年齢は8.9年であった。男性は平均年齢42.1歳,平均勤続年数13.3年となっている。」などとしている。
平成23年における労働力率(生産年齢(15歳から64歳まで)の人口に占める労働力人口(就業者及び完全失業者の総数)の割合)をみると,男性84.5パーセントに対し,女性63パーセントであるが,前年からの変化をみると,男性が0.3ポイント低下しているのに対し,女性に低下はない。そして,昭和43年から平成25年まで(45年間)を比較すると,女性の労働力率は54.1パーセントから65.0パーセントになり,10.9ポイント上昇したのに対し,男性の労働力率は84.8パーセントから84.6パーセントと,ほぼ横ばいの推移である。このように,労働力率における男女間の格差は縮小傾向にある。
完全失業率をみると,平成10年は,男性4.2パーセント,女性4.0パーセントであり,同年以降,男性が女性よりも完全失業率が高い状態で推移し,平成22年には,男性5.4パーセント,女性4.6パーセントとなり,差が広がった。
男女の賃金について,昭和45年と平成25年を比較すると,平均所定内給与(月額)は,昭和45年には,男性6万0100円,女性3万3700円であったが,平成25年には男性32万6000円,女性23万2600円となっている。男性の賃金を100としたときの女性の賃金は,この間,56.1から71.3となって賃金格差が15.2ポイント小さくなっているのであり,男女の賃金格差は,顕著な縮小が認められる。

上記aによれば,①女性の社会進出が進んだ結果,1990年代に雇用者の共働き世帯が専業主婦世帯を上回り,平成22年には,共働き世帯が1012万世帯であるのに対し,専業主婦世帯は797万世帯にとどまり,大きく下回っていること,②労働力率及び賃金額における男女間の格差は縮小傾向にあること,③完全失業率をみると,平成10年以降,
男性が女性よりも高い状態で推移し,
平成22年には,
男性5.4パーセント,女性4.6パーセントであり,0.8ポイントの差に広がったことが明らかである。したがって,夫が死亡した場合における妻につき「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」とすることは不合理である。
また,上記aによれば,夫が死亡した場合に「妻が自活能力を欠くに至る可能性」や「妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性」は確かに一定程度生じ得るが,逆に妻が死亡した場合に「夫が自活能力を欠くに至る可能性」や「夫が独力で生計を維持することができなくなる可能性」が生じ得ることも否定できない。したがって,「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」といえるか否かについて,妻と夫を区別することは不合理である。
そうすると,本件区別は,地公災法制定当時は一定の合理性を有していたとしても,同法が制定された後,40年以上の期間が経過し,その間,社会情勢が変化したことにより,その合理性は失われたといわざるを得ない。
なお,控訴人らは,本件区別の合理性を判断するに当たっては,遺族補償一時金のほか生活保護等の他の社会保障制度による救済等も考慮すべきである旨主張するが,本件で問題となるのは,地公災法の定める遺族補償年金の受給要件について,妻については年齢にかかわらず遺族補償年金が支給されるのに,夫については地公災法32条1項等の定める年齢要件を充たさない限り遺族補償年金が支給されず,支給額が低い遺族補償一時金が支給されるにとどまることの合理性の有無であるから,夫について遺族補償一時金が支給されることや他の社会保障制度があることは,上記合理性を根拠付けるものではない。(イ)

性別役割分業の結果生じた社会的実態は妻につき要保護性を認める
根拠とすることができないこと
確かに,今なお女性の就業割合は男性に比べて低く,女性の雇用者数に占める非正規雇用の割合が高く,男女間の賃金格差もいまだ解消されずに存在している事実が社会的実態として認められる。
しかしながら,こうした社会的実態は,夫が働き妻が家事育児を担うという性別役割分業の結果生じたものである。性別役割分業は,性差別的就労・家庭状況であり,解消されるべき課題である。社会的に存在した性差別的就労・家庭状況である性別役割分業の結果生じた社会的実態を根拠として,遺族補償年金の受給要件に係る本件区別の合理性を認めるならば,それは,性別役割分業による就労・家庭状況を是認し固定化することになるから,性別役割分業の結果生じた社会的実態は,これを遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設ける根拠とすることはできない。
したがって,上記社会的実態に基づき妻について要保護性があるとして本件区別を設けることは,合理的根拠が全くない。

本件区別は被保険者である妻に対する差別となること
(ア)

被保険者である妻に対する差別的取扱い
遺族補償年金のモデルとなった遺族厚生年金の目的は,「労働者の老
齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」とされている(厚生年金保険法1条)。
そして,被保険者が死亡したときに給付される遺族年金の具体的な目的については,「一家の中心たる働き手が死亡した場合に,遺族の生活の安定を図るため遺族年金を支払い」,また,「遺族厚生年金制度があることにより,被保険者は身近な親族の将来についての心配を軽減することができ,それが被用者としての就業の安定と福祉の向上に寄与する」と説明されている(厚生省年金局年金課他編「厚生年金保険法解説」社会保険法規研究会)。
地公災法の定める遺族補償年金も,被扶養利益の塡補という点からは,同様の趣旨であると考えてよいはずである。この趣旨に照らしたとき,本件区別は,次のとおり,職員である妻に対する不当な差別であるといえる。
(イ)

地公災法32条1項が前提とする,性別役割分業どおりの職員の夫
が死亡する場合,夫は将来についての心配を軽減され,それによる被用者としての就業の安定と福祉の向上を享受する一方,遺族である専業主婦の妻は,生計維持を趣旨とする遺族補償年金の受給資格を得ることにより,夫の死亡後も生活の安定を図ることができる。すなわち,職員である夫は,死亡した場合,遺族である妻に対して,遺族補償年金を残すこと(受給させること)ができる。
ところが,職員の妻が死亡する場合には,妻は,限られた場合を除き,夫に遺族補償年金を残すことができない(夫は遺族補償一時金を受給できるにとどまる。)。そうすると,生前において,遺族補償年金により夫の将来についての心配を軽減し,それにより被用者としての就業の安定と福祉の向上を享受するということが困難である。すなわち,職員である妻は,死亡した場合,遺族である夫に対して,限られた場合を除き,遺族補償年金を残すこと(受給させること)ができない。これは,職員である妻に対する不当な差別である。

本件区別は男女共同参画社会の形成の推進という国家基本政策と整合性を有しないこと
(ア)

平成11年に男女共同参画社会基本法が成立した。同法は,その前
文において,「社会のあらゆる分野において,男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である。」と規定するところ,同法4条は,「男女共同参画社会の形成に当たっては,社会における制度又は慣行が,性別による固定的な役割分担等を反映して,男女の社会における活動の選択に対して中立でない影響を及ぼすことにより,男女共同参画社会の形成を阻害する要因となるおそれがあることにかんがみ,社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。」と規定する。同条の趣旨としては,「この規定には,直接的に男女共同参画社会の形成を目指す制度だけでなく,社会のあらゆる制度や慣行を対象として男女共同参画の視点を反映させていく考えが背景にある。税制,社会保障制度,賃金制度等男女の活動や生活に大きな影響を与えるものについては,男女の社会進出や家族,就労形態の多様化,諸外国の動向等も踏まえつつ,男女共同参画社会の形成という観点からも広く議論されることが期待される。」と説明されている。
(イ)

このように,わが国は,21世紀の目指すべき社会として男女共同
参画社会を掲げ,現在,女性の就労状況の改善や男女格差の縮小,また,男性の子育て参加促進を含むワーク・ライフ・バランスを課題と位置づけ,様々な施策を行ってきている。いずれも,性別役割分業の解消を目指すものである。
本件区別について,かかる国家目標,基本政策との整合性をみると,本件区別により,妻が死亡した場合に夫に遺族補償年金を残せないということは,
日常的な妻の就業や就業継続の意欲に対して抑制的に作用し,
また,死亡という万一の場合に遺族補償年金を残せるのが夫だけであるということは,夫婦で共に生計維持の責任を分担し,家事育児にも積極的に関わろうとする夫の選択に対しても抑制的に作用することになる。そうすると,本件区別は,男女共同参画社会の形成の推進という国家目標,基本政策に照らし,全く整合性を有しないというべきである。このことからすれば,本件区別は,「要保護者の被扶養利益の塡補」という立法目的との間に合理的関連性が全く認められないことが明らかである。

性別による差別的取扱いを内容とする制度を是正する法改正等がみられること
近年,男性,夫に対して差別的取扱いがなされてきた制度を是正する法
改正等がみられる。例えば,①生活保護の生活扶助基準の男女差別を廃止したこと(昭和60年4月),②児童扶養手当の支給対象を母子世帯に限定せず父子世帯にも拡張したこと(平成22年7月までは母子家庭には支給されていたが父子家庭には支給されていなかった児童扶養手当が,平成22年8月からは父子家庭に対しても支給されるようになったこと(平成22年法律第40号),③労災保険に関し外貌の障害程度についての男女の区別を違法とする判決が確定し見直しが行われたこと(平成23年2月1日,男女で差がつけられていた外貌の醜状障害に関して,労災保険法施行規則別表第1に定められた障害等級表について,国・園部労基署長(障害等級男女差)事件の京都地裁平成22年5月27日判決(労働判例1010号11頁・確定)に基づき見直しが行われ,「著しい外貌醜状」は,男女いずれも7級の障害等級となった。),④国民年金法において,遺族基礎年金の支給対象について母子家庭だけでなく父子家庭にも支給することとする法改正が行われたこと(平成24年8月)がある。これらは,本件区別が不合理であることを裏付けるものである。
(4)

上記(3)のとおり,本件区別は立法目的との関係において合理性がない。し
たがって,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反し無効である。
(5)

市民的及び政治的権利に関する国際規約26条並びに経済的,社会的及び
文化的権利に関する国際規約3条に違反すること

わが国は,昭和54年に,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)及び経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)を批准し,社会権規約については昭和54年条約第6号として,自由権規約については昭和54年条約第7号としてそれぞれ公布された。
自由権規約は,その実施機関として,人権委員会を規定し(28条),社会権規約は,その実施機関として,経済社会理事会を規定し(16条),各実施機関において締約国からの条約の履行状況の報告を受け審査し,各規約に関する「一般的意見」を表明し,規約の履行の確保が目指されている。
自由権規約については,規約上の権利が侵害されたと訴える個人が実施機関(人権委員会)に通報する個人通報制度を定めた選択議定書が発効しており,人権委員会において個人からの通報を受理して審議し,それに関する「見解」を表明し,締約国に必要な措置を講じるよう求めるなどしている。そして,個人通報制度において,多くの事例が審理され,実施機関の解釈が積み重ねられている。わが国は,度重なる人権委員会からの勧告にもかかわらず,いまだ自由権規約の上記選択議定書を批准していないので,締約国内の個人が個人通報制度を利用することはできないが,国内における規約上の権利の解釈においては,これらの実施機関の解釈に従って判断がなされなければならない。

自由権規約26条は,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定する。
そして,人権委員会が1989年(平成元年)に採択した一般的意見18は,差別であるか否かの判断基準について,「基準が合理的であり,かつ客観的である場合であって,かつまた,本規約の下での合法的な目的を達成するという目的で行われた場合には,処遇の差異は必ずしも全て"差別"を構成するわけではない」とする(甲49)。
人権委員会のこの一般的意見における合理性の基準は,従来わが国において広範な立法裁量が認められてきた分野についても厳格に解釈されており,それは,自由権規約26条が争われた個人通報事例(①自由権規約26条違反が認定された既婚女性の失業手当受給要件に関する個人通報事例,②自由権規約26条違反が認定された寡夫の年金受給要件に関する個人通報事例)における人権委員会の見解に現れている。人権委員会における合理性の基準は,極めて厳格であり,差別が社会保障分野に関する事項であることや,差別の解消にあたり財政的影響があること,男性が生計の担い手である場合が多いといった社会の実情については,合理性を認める理由にならないとして,立法裁量を明確に否定している。
また,社会権規約3条は,「この規約の締約国は,この規約に定めるすべての経済的,社会的及び文化的権利の享有について男女に同等の権利を確保することを約束する。」と規定するところ,同条は司法機関における即時適用が可能と解される。


したがって,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,自由権規約26条及び社会権規約3条に違反し無効である。
以上によれば,被控訴人につき地公災法32条1項等の定める年齢要件を
(6)

充たさないとしてなされた遺族補償年金に係る本件不支給決定は,違法であるから,取り消されるべきである。また,被控訴人につき遺族補償年金の受給権者に該当しないとしてなされた遺族特別支給金等に係る本件不支給処分は,いずれも違法であるから,取り消されるべきである。
2
控訴人らの主張
地公災法の定める遺族補償年金の性格

(1)

地公災法の制定経緯等

(ア)

労基法,労災保険法及び国家公務員災害補償法の制定経緯
労基法は昭和22年4月に制定された。労基法の制定により,災害補
償についても,従来の鉱業法,工場法及び労働者災害扶助法により定められていた労働者の災害扶助制度を災害補償として一元化し,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡に対し,使用者が無過失責任を負うことを明確化したものである。
そして,労基法の制定と同時に,業務上の災害発生に際し,使用者の一時的補償負担の緩和を図り,労働者に対する災害補償を迅速かつ確実に行うため,国が使用者から保険料を徴収し,災害補償保険を経営するという労災保険法が制定された。
その後,昭和26年には,国家公務員災害補償法(以下「国公災法」という。)が制定され,国家公務員の災害補償に関する法制度が整備されるに至った。
(イ)

地公災法の制定経緯
一方,地方公務員は,昭和22年の新憲法及び地方自治法の施行に伴
い,都道府県の官吏等から都道府県吏員(地方公務員)に身分が切り替えられ,災害補償に関しては,民間労働者と同様,労基法,労災保険法,船員法及び船員保険法の適用を受けることとなった。
しかしながら,その後,災害補償に関する条例を制定した一部の地方公共団体に属する職員を除き,地方公務員の総数の約8割を占めていた非現業職員の大部分は,最低限度の補償を定めた労基法の適用を受けるのみであったことから,その給付水準は,現業職員に適用される労災保険法に基づく給付水準に比べて低く,同一の地方公共団体に属する地方公務員の間でも補償内容に不均衡が生じていた。
また,民間労働者の災害補償制度を定めた労災保険の制度は,昭和30年のけい肺病対策を契機として,労災保険制度における災害補償の年金化が進められ,特に,昭和40年の法改正により年金制度の大幅な導入が行われ,そのため,非現業の地方公務員と,現業の地方公務員及び民間労働者との間の不均衡は一層著しいものとなった。
そして,昭和41年には,国公災法が改正され,労災保険と同様の年金化が行われ,これにより,地方公務員と国家公務員との間においても不均衡が生じることとなった。このような地方公務員の災害補償の状況等に鑑み,
地方公務員の災害補償制度を統一的に整備することとなった。
そして,昭和42年に地公災法が制定された。
(ウ)

地公災法の定める遺族補償と労災保険法及び国公災法の定める遺族
補償
遺族補償については,災害補償の一つとして,労基法,労災保険法,さらには国公災法においても規定されていたところである。そして,地公災法の遺族補償を含む災害補償制度は,地方公務員について,国家公務員及び民間労働者の災害補償制度の改正に応じた補償内容の改善を図るとともに,その補償の迅速かつ公正な実施を確保するため,労災保険法,国公災法に追随して,これらを踏まえた上で,労災保険法,国公災法の規定を取り入れる形で,制定されたものである。
したがって,地公災法の定める遺族補償の性格は,労災保険法及び国公災法が定める遺族補償の性格と異なるところはない。
遺族補償等の年金化

(エ)

労災保険法の改正
労災保険法においては,昭和40年の改正により,それまで一時金
を支給するものとされていた遺族補償が年金化され,また,障害補償についても同様に年金化された
(以下
「遺族補償等の年金化」
という。。

そして,労災保険法は,遺族補償等の年金化に伴い,遺族補償年金の受給者にふさわしい者として,受給資格のある遺族を,労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し(生計維持要件。他方で,遺族補償一時金については,生計を維持していた者に限定されないものとした(同法16条の7)。),さらに,妻以外の者については,一定の年齢に該当する者又は一定の障害の状態にある者を生計自立の能力がない者とみて,それらの者の被扶養利益の喪失を塡補することを目的として,同法16条の2が規定されたものである(乙5-399頁)。

国公災法の改正
国公災法についても,昭和41年の改正により遺族補償等の年金化
が行われ,これに伴い,労災保険法の上記改正と同様の趣旨から,国公災法16条が規定された(乙6-294頁。なお,同改正においては,労災保険法と異なり,妻以外の遺族の受給資格年齢につき18歳未満の者又は55歳以上の者とされた。)。国公災法の上記改正は,従来,遺族補償は,一時金のみであったものを,社会保障制度審議会に対して諮問を行い,同審議会の答申を得た後,改正を行い,年金制を導入することとし,遺族補償年金及び遺族補償一時金の2本立ての制度としたものであり,その趣旨は,補償を効率的に行うためには,補償を必要とする期間,補償を必要とする者に必要な補償を行うのが最も適切であると考えられたからである。そして,年金制を大幅に導入することによって,補償における社会保障的な要素が強まったとされている。(丙8-13・14・18頁)

地公災法の制定
このような労災保険法及び国公災法における遺族補償等の年金化に
係る法改正(以下「遺族補償等の年金化に係る改正」という。)を受け,昭和42年に制定された地公災法においても,遺族補償は年金として支給することが原則とされた。
上記a及びbのとおり,労災保険法及び国公災法において,遺族補償等の年金化に伴い,遺族補償年金の受給権者を定める法改正がされたところ,これを受け,地公災法においても,既に労災保険法及び国公災法において定められていた規定を取り入れ,これらの法改正と同様の規定である地公災法32条1項を規定したものである。なお,制定当時の同条項は,国公災法と同様に,妻以外の遺族の受給資格年齢を18歳未満の者又は55歳以上の者としていたが,昭和60年に改正がされた。すなわち,昭和60年当時,民間企業においては60歳定年制が普及し,
公務員についても同年から60歳定年制が実施され,
一般に子等による扶養を必要とすると考えられる年齢が60歳以上となったこと,労災保険法等の他の公的年金制度における遺族の年金受給資格年齢についても60歳以上とされていたことなどから,地公災法32条1項につき,妻以外の遺族の年金受給資格年齢を,従来の18歳未満又は55歳以上から,18歳未満又は60歳以上とする改正がされたものである。

地公災法の定める遺族補償は損害補償の性格と社会保障の性格を併有すること
(ア)

地公災法1条の規定から明らかなように,地公災法における災害補
償制度は,地方公務員が公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。)又は通勤による災害を受けた場合に,当該地方公務員又はその遺族に対して補償を行い,これらの者の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものである。
地公災法に基づく災害補償制度は,地方公共団体の職員がその職務を遂行するに当たって受けた身体的損害について,地方公共団体が使用者として負っている無過失責任に基づき,当該職員が被った損失を塡補するものであり,使用者と被用者との関係を律する労働法上の理念に基づく特殊な損失補償の性格を有する制度であるが,他方,業務上又は公務上の死亡,負傷又は疾病等に対し,経済的補償の措置を講ずる制度であり,稼得能力を喪失した被災者及びその遺族の生活保障を図ることをも目的としているという意味で,社会保障制度の一環といえる。それは,損害賠償的性格を有する社会保障制度であるが(なお,遺族補償(遺族補償年金及び遺族補償一時金)についていうと,その目的は,職員が公務上死亡した場合に,職員の遺族がこれによって受けた損害を補償し,遺族の生活の保護を図ることにある(丙9-49頁)。),制度上,各種の年金制度を導入しつつあることから,社会保障制度の一環としての性格をますます強めてきているといえる。
(イ)

社会保障制度の性格についてみると,地公災法においては,遺族補
償年金,
障害補償年金及び傷病補償年金などの保険給付が年金化され
(地
公災法25条1項),各種の年金や一時金にスライド制が導入され(同法2条9項,36条2項2号),被災職員及びその遺族の福祉に関して必要な所定の事業等(福祉事業)を行うように努めなければならない旨定められている(同法47条)。福祉事業として遺族特別支給金等を支給する趣旨は,
遺族補償制度のみでは死亡した職員の遺族の生活の安定,
福祉の維持向上を必ずしも十分に図り得ない面があると考えられることから,遺族に対する弔慰,生活擁護等を目的として,遺族補償年金又は遺族補償一時金に加えて支給されるものである。
このように,地公災法の災害補償制度は,損害賠償を超える内容,種類の各種給付や福祉事業を創設し,使用者の災害補償責任を前提としない諸領域にも保険事業を拡大していることからすれば,地方公務員及びその遺族の保護と福祉の増進を目的とする社会保障制度の性格を有するといえる。

地公災法の定める遺族補償年金は社会保障制度の性格を有すること
(ア)

遺族補償年金の受給要件を定める規定の趣旨
地公災法32条1項は,遺族補償年金の受給要件について定めている
ところ(前記前提事実(1)ア(イ)),かかる規定の趣旨は,遺族補償年金が,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであることから,遺族の範囲を職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し,
さらに,
死亡職員の収入によって生計を維持していた者のうち,
一般的に就労が困難であり自活可能でないものについて遺族補償年金を支給することとして,これらの者の被扶養利益の喪失を塡補しようとすることにある。そのため,地公災法32条1項は,当該職員の死亡によって自活能力を欠くことになると思われる遺族を類型的に定め,それにより,遺族補償を年金として支給するのにふさわしい者を受給資格者として定めているのである。
(イ)

遺族補償年金の受給権消滅事由を定める規定の趣旨
地公災法34条1項は,遺族補償年金を受ける権利は,その権利を有する遺族が,
「死亡したとき
(1号),
」「婚姻をしたとき
(2号),

「直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき
(3号)」,
「離
縁によって,死亡した職員との親族関係が終了したとき(4号)」,「子,孫又は兄弟姉妹については,18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき(職員の死亡の時から引き続き総務省令で定める障害の状態にあるときを除く。5号)」,「総務省令で定める障害の状態にある夫,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹については,その事情がなくなったとき(夫,父母又は祖父母について職員の死亡の当時60歳以上であったとき,…ときを除く。6号)」のいずれかに該当するに至ったときは,消滅する旨定めている。

かかる規定の趣旨は,遺族補償年金が,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活の保護を図ることを目的とすることから,受給権者が被扶養利益の喪失について塡補を要しない状態又は生計自立の能力を持つべき状態になったときは,受給資格を消滅させるべきであるとの考えからである。地公災法の定める遺族補償年金は,遺族に対して必要な期間,必要な補償を行うことにより,その生活の安定を図るとの観点から,被扶養利益の喪失状態が存続する限り支給することとしたものであり,このことは,災害補償制度が,稼得能力を喪失した被災者及びその遺族の生活の保護を図るという社会保障制度の側面を有していることから導き出されるものである。

(ウ)

遺族補償等の年金化は,社会保障の最低基準に関する条約を踏まえ
たものであること
上記ア(エ)のとおり,労災保険法における遺族補償等の年金化に伴い,国公災法においても昭和41年の改正により遺族補償が年金化され,これらを受けて昭和42年に制定された地公災法においても,遺族補償は年金として支給することが原則とされた。このような災害補償における保険給付の年金化は,国際労働機関(以下「ILO」という。)が昭和27年に採択した社会保障の最低基準に関する条約(以下「102号条約」ということがある。)を踏まえたものである。地公災法が遺族補償についてその被扶養利益の喪失状態が継続する限り年金を支給して塡補することとするとの考え方は,社会保障の最低基準を定めたILOの102号条約の考え方に整合するものである。
他の法令による給付との調整

(エ)

地公災法附則8条1項
同法附則8条1項は,「年金たる補償の額は,当該補償の事由となった障害又は死亡について政令で定める法令による年金たる給付が支給される場合には,…この法律の規定…による年金たる補償の年額に,当該年金たる補償の種類及び当該法令による年金たる給付の種類に応じ,同一の事由により労災保険法の年金たる保険給付と他の法令による年金たる給付とが支給されるべき場合に同法の年金たる保険給付の額の算定に用いられる率を考慮して政令で定める率を乗じて得た額(その額が政令で定める額を下回る場合には,当該政令で定める額)」とする旨規定している。
これは,同一の事由により,地公災法による年金たる補償と厚生年金保険法等の給付とが併給される場合の調整を,地公災法による公務災害補償給付の側において行う場合について規定したものである。

地方公務員等共済組合法99条の8(平成24年法律第63号による改正前のもの)
同法99条の8は,「公務等による遺族共済年金については,地公災法の規定による遺族補償年金又はこれに相当する補償が支給されることとなったときは,これらが支給される間,その額のうち,その算定の基礎となった平均給与月額の1000分の2.466に相当する額に300を乗じて得た額に相当する金額の支給を停止する。」旨規定している。
これは,遺族共済年金が支給される場合に,組合員が公務等による傷病により死亡した場合には,その遺族に公務災害補償として地公災法による遺族補償年金等が支給される場合が多いことから,同法による遺族補償年金又はこれに相当する支給を受けることとなったときは,これらが支給される間,一定額の遺族共済年金の支給を停止するというものである。

調整規定の趣旨
このように他の法令による給付との調整規定が設けられている趣旨
は,地公災法における災害補償給付が,広い意味での社会保障給付の一環をなすものであることから,同一の原因によって生じた事故に対し,災害補償給付と他の社会保障給付とが重複する場合にはその重複を調整する必要があることにある(丙1-424頁)。
(オ)

したがって,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡によ

り扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであり,社会保障制度の性格を有するというべきである。
(2)

本件区別を設けた法令の違憲審査基準
遺族補償年金の性格に照らし広範な立法裁量が認められること
上記のとおり,遺族補償年金は,遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,その生活を保護することを目的とする社会保障制度である。
憲法25条の規定の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄である。そして,憲法25条の規定の要請に応えて制定された法令(社会保障立法)について憲法14条1項違反の問題を生じ得るのは,当該法令において,受給者の範囲,支給要件,支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをした場合に限られるというべきである(最高裁昭和57年判決参照)。地公災法の遺族補償の受給要件を定めるについては,労働文化や労働市場の動向ないし今後のすう勢,これと家族構成の傾向やすう勢との関係といった社会における諸事情を,長期的展望の下で考慮することが必要不可欠である。仮に,夫について受給資格年齢を設けることなく遺族補償年金を給付することを検討するに当たっては,その給付費用が主として地方公共団体及び地方独立行政法人の負担金によって賄われる(地公災法49条1項)基金の財政事情を無視することができない。また,国民から徴収した税金を原資としてなされる公務員に対する災害補償制度という性質上,公務員の被扶養者が喪失した被扶養利益の塡補の程度に対する国民一般の意識や価値観も念頭に置く必要がある。
このような地公災法の目的及び制定経緯や,遺族補償の目的及びその制度設計に社会における諸事情の考慮が必要不可欠であることなどに照らすと,遺族補償に係る制度設計については,立法府に広い裁量が認められるというべきである。
したがって,地公災法の定める遺族補償に関する法令につき憲法14条1項に違反するか否かの審査をするについては,最高裁昭和57年判決の判断枠組みが当てはまるものであり,憲法14条1項違反の問題を生じ得るのは,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをした場合に限られるというべきである。

これに対し,被控訴人は,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,性別による差別的取扱いを定めるものであるとして,その合憲性を判断するに当たっては,厳格な合理性の基準によるべきである旨主張する。
しかしながら,地公災法32条1項等は,遺族補償年金の受給要件につき,父母間,祖父母間,又は兄弟と姉妹の間においては区別を設けておらず,あくまで,妻と夫との間の自活能力の差異という社会的実態に鑑みて定型的差異を設けているものであり,単純に性別によって区別しているものではないから,そもそも,被控訴人の主張は前提を誤るものである。また,被控訴人の主張は,社会保障立法における立法府の裁量権を極めて狭く解釈するものであり,最高裁昭和57年判決の示した判断基準に反する。
本件区別には合理性があり,地公災法32条1項等が本件区別を設けてい
(3)

ることは憲法14条1項に違反するものではないこと

地公災法制定当時において,本件区別に合理性があったこと
地公災法32条1項は,遺族補償年金の受給要件を規定するところ,そ
の趣旨は上記(1)ウのとおりである。
昭和42年当時の社会情勢についてみると,生産年齢の人口に占める労働力人口(就業者及び完全失業者の総数)の割合(労働力率)につき,男性が82.6パーセント,女性が52.2パーセントと大きな差があり,賃金額を比較しても,月平均額として男性は4万2800円であり,女性は2万1700円で,倍近い格差がみられた。
このような社会情勢において,女性が就労しにくいこと,特に,妻については,家庭責任がより重くかかっているため,一層,就労が困難であると考えられることに鑑みて,死亡職員の妻について,死亡職員の収入によって生計を維持し,扶養されていたものであることを前提に,年齢を問わずに,自ら稼得して自活することが困難なものとして,喪失した被扶養利益を塡補して保護を図る目的で,遺族補償年金を支給することには合理性があったというべきである。

現在の社会情勢に照らしても,本件区別には合理性があること
(ア)

地公災法32条1項は,
遺族補償年金の受給要件を規定するところ,

その趣旨は上記(1)ウのとおりである。
そして,今日における社会情勢等に照らしても,以下のとおり,一般的に,女性の就業形態,獲得賃金等に照らし,男性に比して恵まれているとはいえず,特に,配偶者がいる女性についてはこれが顕著であり,家事や子育てをするという家庭責任の比重をみても,依然として女性に重くかかっているのであり,一般的にみて,妻については,いまだ独力で生計を維持することが困難な状況にあるといえる。このことからすれば,妻について,受給資格年齢を設けることなく,喪失した被扶養利益を塡補して生活の保護を図るため遺族補償年金を支給することには合理性が認められるというべきであって,少なくとも,このような立法措置を講じたことが何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いといえないことは明らかである。

総務省統計局の労働力調査(平成22年)
(a)

労働力率の比較
生産年齢
(15歳から64歳まで)
の人口に占める労働力人口
(就

業者及び完全失業者の総数)の割合(労働力率)をみると,女性63.1パーセント(生産年齢の人口は4031万人,労働力人口は2544万人),男性84.8パーセント(生産年齢の人口は4082万人,労働力人口は3461万人)であり,男女間に大きな開きがある。
そして,配偶関係別に女性の労働力率をみると,未婚者63.4
パーセント,有配偶者49.2パーセント,死別・離別者29.5パーセントであり,有配偶者及び死別・離別者に占める労働力人口の割合は半数を切っている。
このように,現在においても,女性(特に,配偶者を有し,又は,配偶者と死別・離別した者)の労働力率は,男性よりも相当低いということができる。
雇用形態別の雇用者数の比較

(b)

次に,男女の雇用者数を雇用形態別にみると,①女性では,正規の職員・従業員1046万人(46.2パーセント),非正規の職員・従業員1218万人(53.8パーセント)であるのに対し,②男性では,正規の職員・従業員2309万人(81.1パーセント),非正規の職員・従業員539万人(18.9パーセント)である。
このように,女性は,雇用者数に占める非正規の職員・従業員の
割合が過半数を占め,その割合は男性の約3倍である。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査(平成22年)
一般労働者(常用労働者のうち,短時間労働者以外の者)の賃金額(きまって支給する現金給与額(月額))を男女別に比較すると,以下の調査結果が得られている。

女性

(正社員・正職員)

26万1800円

(正社員・正職員以外)

18万0900円


男性

(正社員・正職員)
(正社員・正職員以外)

37万1200円
25万0900円

国税庁の民間給与実態統計調査(平成22年)
この調査においても,平均給与は,男性が年額約507万円であるのに対し,
女性が年額約269万円であり,
著しい格差が生じている。


国勢調査における家事のみを行っている夫(男性),妻(女性)の比較
(a)

国勢調査においては,夫婦のうち片方が家事のみを行っている割

合(片方が就業しているかどうかまでは区別していない。)について,年齢階層別に集計している。ここで示される数値は,平たくいえば,いわゆる専業主婦又は専業主夫の集計値である。
(b)

地公災法は,夫について59歳までを独力で生計を維持する能力

があるものとして捉えているところ,平成22年度国勢調査における集計値について,20歳から59歳までの年齢階層につき家事のみしている妻(女性)及び家事のみしている夫(男性)の人数をみると,女性は690万4800人,男性は5万6200人であり,家事のみしている男性の人数は,家事のみしている女性の人数の約0.8パーセントにすぎない。
(イ)

このように,今日においても,①女性(特に,配偶者を有している
か,配偶者と死別又は離別した者)については,男性に比べて労働力率が相当低いこと,②女性の雇用者数に占める非正規雇用の職員・従業員の割合が男性よりも高く,男女間の賃金格差もいまだ大きいこと,さらには,③家庭責任をかかえた女性の方が男性よりも多いことなどに照らすと,専業主婦世帯において夫が死亡した場合はもちろんのこと,共働き世帯において夫が死亡した場合においても,妻が自活能力を欠くに至る可能性は高い。これに対し,妻が死亡した場合,夫が自活能力を欠く可能性は相対的に低い。そうすると,夫が死亡した場合,妻について,遺族補償年金の支給により特にその生計を維持する必要性が高いことは明らかであって,専業主夫世帯や共働き世帯において妻が死亡した場合とは事情が大きく異なっている。
また,本件区別について合理性を判断するに当たっては,地公災法が遺族補償一時金を支給することとしているほか,生活保護制度等の他の社会保障制度の存在についても併せて考慮すべきである。すなわち,地公災法は,遺族補償年金の支給を受けることができる遺族がいないときなど,遺族補償年金の支給がされないときは,同法36条により遺族補償一時金が支給されることとしている。そして,仮に,職員に扶養されている夫が,当該職員の死亡によって自活能力を欠くことになった場合としても,生活保護制度等による補助を受けることができることになっている。
したがって,地公災法32条1項が,妻についてのみ,例外的に受給資格年齢を設けずに遺族補償年金の受給権者としている本件区別は,今日においても合理性があるというべきであり,「本件区別は,社会情勢の変化により合理性を失っている。」旨の被控訴人の主張は,失当である。
なお,今日の社会情勢において,自活能力の有無に応じて遺族補償年金の受給要件を定めるについては,受給者の稼得能力に応じた受給要件を新たに設けるといった方法によることも,論理的には当然考え得るところである。しかしながら,遺族補償年金に係る制度設計については,立法府に広い裁量が認められ,様々な方法のうちいずれを採用するかといった選択決定についても,専門技術性を有する立法府の広範な裁量にゆだねられているのであるから,ほかの制度設計の方法が考えられることをもって,直ちに本件区別の合理性が否定されるものではない。ウ
被控訴人の「本件区別は被保険者である妻に対する差別となる。」旨の主張に対し
被控訴人は,遺族である夫に低い給付内容にとどまる遺族補償一時金の
み支給されることは,被保険者である死亡した妻にとって不利益であるから,この点からしても,本件区別は被保険者である妻を不当に差別するものである旨主張する。
しかしながら,遺族補償は,被扶養利益の喪失を塡補することを目的として,
受給要件を満たす遺族に対し,
遺族補償を給付する制度であるから,
このような制度の目的に照らすと,遺族に対し,遺族補償年金ではなく遺族補償一時金が支給されることが,死亡した職員にとっての「不利益」であると評価する余地はないというべきであり,また,死亡した職員が,遺族に対し遺族補償一時金ではなく遺族補償年金を残したいとの思いを有していたとしても,そのような死亡した職員の主観は,遺族補償制度において保護されるべき対象とはいえない。したがって,被控訴人の上記主張は失当である。

被控訴人の「本件区別は男女共同参画社会の形成の推進という国家基本政策と整合性を有しない。」旨の主張に対し
被控訴人は,地公災法32条1項が,「妻の就業や就業継続」及び「夫
が家事等を積極的に分担すること」について,夫婦の意欲や合意形成過程に抑制的に作用する旨主張するが,上記規定と,被控訴人のいう「作用」との因果関係は明らかでない。
被控訴人の上記主張は,十分な根拠に基づかないものであり,失当である。

被控訴人は,「性別による差別的取扱いを内容とする制度を是正する法改正等がみられる。」として,本件区別はこれと相容れないもので不合理である旨主張する。
しかしながら,他の社会保障制度について地公災法の遺族補償年金と同
列に論ずることは適当でない上,そもそも社会保障について,誰を受給権者と定めるかは,立法府に広範な裁量が認められる事柄であるから,他の社会保障制度において,受給権者の範囲,支給要件等について法改正したからといって,
それは立法裁量の問題であって,
改正措置を講じたことが,
社会保障制度である遺族補償年金における本件区別の合理性を否定する根拠となるものではない。
したがって,
被控訴人の上記主張は失当である。

被控訴人の主張は,論理的ではない上,結論の妥当性を有しないこと
(ア)

被控訴人は,社会情勢の変化により今日の社会的実態においては,
妻について「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」
として本件区別を設けることは不合理である旨主張する。
しかしながら,仮に,被控訴人の主張するとおりの社会的実態があるとすれば,妻は相応の自活能力を有するに至ったことになるから,自活能力を欠く者に対する生活保障をその本質とする,遺族補償年金を受給する必要性はむしろ低下したといわざるを得ない。したがって,被控訴人主張の上記事実は,妻について,妻以外の者と同様の受給資格年齢を設けるべきという結論を導く理由とはなっても,夫について地公災法32条1項等の定める年齢要件をなくすとの結論を導く理由とはならないものである。
(イ)

本件区別の趣旨は,妻について,より手厚く保護して,その生活の
安定や福祉の向上を図り,
実質的平等を図るため,
受給要件を緩和して,
遺族補償年金を支給するというものである。実質的平等を図るための立法措置が,かえって形式的平等に反するなどとして憲法違反とされるのであれば,社会保障行政において,実質的平等を図るための諸施策を採ることについて消極的にならざるを得ないのであり,妥当でない。(4)

したがって,本件区別は,制定当時も今日においても合理性が認められ,
何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということはできないから,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反するものではない。
(5)

被控訴人の「地公災法32条1項等が本件区別を設けていることは,自由
権規約26条及び社会権規約3条に違反する。」旨の主張は争う。本件区別は,合理性が認められるから,地公災法32条1項等が本件区別を設けていることは,自由権規約26条及び社会権規約3条に違反するものではない。(6)

以上のとおり,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本
件区別を設けていることは,
憲法14条1項に違反するものではなく,
また,
自由権規約26条及び社会権規約3条に違反するものではないから,地公災法32条1項等にのっとってなされた本件各不支給決定は適法である。第4
1
当裁判所の判断
前記前提事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。)。
(1)

災害補償とは,狭義には,雇用関係を前提とする被用者の労働災害,すな
わち業務上又は公務上の負傷,疾病,障害又は死亡という専ら身体上の損害に対して,本人又はその遺族に補償を行うことを目的とするものである。前記前提事実(1)ウのとおり,昭和22年に制定された国家公務員法及び昭和25年に制定された地方公務員法は,公務員について,公務災害によって生じた損害を補償する制度(災害補償制度)を法律によって定め実施しなければならない旨定めている。
(2)

労基法,労災保険法及び国公災法の制定経緯
労基法は,戦後,新憲法が施行され各種法制の再編成が行われる過程で,
新しい時代に即応する労働保護法の制定が要求され,昭和22年4月に制定された。労基法は,災害補償についても,従来の鉱業法,工場法及び労働者災害扶助法により定められていた労働者の災害扶助制度を災害補償として一元化し,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡に対し,使用者が無過失責任を負うことを明確化し,第8章「災害補償」の規定を定めた。労基法は,これにより,使用者の指揮命令下で業務に従事している労働者が業務に内在する危険により人身損害を受けた場合において,使用者が負う無過失責任を基礎とする損害補償責任(補償の範囲を定型化したもの)を定めたものである。
そして,労基法の制定と同時に(昭和22年4月),業務上の災害発生に際し,労働者に対する災害補償を迅速かつ確実に行うため,国が使用者から保険料を徴収し,災害補償保険を経営するという労災保険法が制定された。労災保険法は,労基法の定める使用者の災害補償責任を担保するための保険制度である。
その後,昭和26年には,国公災法が制定され,国家公務員の災害補償に関する法制度が整備されるに至った。
(3)

地公災法の制定経緯
一方,地方公務員は,昭和22年の新憲法及び地方自治法の施行に伴い,
都道府県の官吏等から都道府県吏員(地方公務員)に身分が切り替えられ,災害補償に関しては,民間労働者と同様,労基法,労災保険法,船員法及び船員保険法の適用を受けることとなった。
しかしながら,その後,災害補償に関する条例を制定した一部の地方公共団体に属する職員を除き,地方公務員の総数の約8割を占めていた非現業職員の大部分は,最低限度の補償を定めた労基法の適用を受けるのみであったことから,その給付水準は,現業職員に適用される労災保険法に基づく給付水準に比べて低く,同一の地方公共団体に属する地方公務員の間でも補償内容に不均衡が生じていた。
また,民間労働者の災害補償制度を定めた労災保険の制度は,昭和30年のけい肺病対策を契機として,労災保険制度における災害補償の年金化が進められ,
特に,
昭和40年の法改正により年金制度の大幅な導入が行われ
(遺
族補償等の年金化),そのため,非現業の地方公務員と,現業の地方公務員及び民間労働者との間の不均衡は一層著しいものとなった。
そして,昭和41年には,国家公務員の災害補償制度を定めた国公災法が改正され,労災保険と同様の遺族補償等の年金化が行われ,これにより,地方公務員と国家公務員との間においても不均衡が生じることとなった。このような地方公務員の災害補償の状況に鑑み,国家公務員及び民間労働者の災害補償制度の改正に即応した補償内容の改善を図るとともに,その補償を迅速かつ確実に行うため,地方公務員の災害補償制度を統一的に整備することとなり,昭和42年に地公災法が制定された。(乙4-13頁~18頁)(4)

労災保険法及び国公災法における遺族補償等の年金化
労災保険法においては,昭和40年の改正により,それまで一時金を支給するものとされていた遺族補償が年金化され,また,障害補償についても同様に年金化された(遺族補償等の年金化)。
これは,労働災害により障害を負った労働者及び死亡した労働者の遺族に対し,必要な期間,必要な補償を行うという見地から,障害を負った労働者及び死亡した労働者の遺族に対する保険給付については,原則として年金制を採用することによって,その生活の安定を図ることを目的としたものである(丙3-11頁)。
上記改正前の労災保険法の遺族補償は,一時金のみが定められ,受給権者につき労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定しておらず,また,一定の年齢に該当すること(年齢要件),一定の障害の状態にあること(障害要件)をいずれも受給要件として定めていなかったが,上記改正により遺族補償年金が創設され(遺族補償等の年金化),遺族補償は遺族補償年金及び遺族補償一時金の2種類とされ,そのうち,遺族補償年金については,受給資格のある遺族を,労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し(生計維持要件),さらに,妻以外の者については,一定の年齢に該当すること(年齢要件)又は一定の障害の状態にあること(障害要件)が受給要件として定められた(上記改正後の労災保険法16条の2)。一方,遺族補償一時金については,遺族補償年金を受けることができる遺族がいないときなど遺族補償年金の支給がされないときに,遺族補償一時金が支給される仕組みとされ,従前の遺族補償と同様,受給権者につき労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定されず,年齢要件及び障害要件は,受給要件として定められなかった(上記改正後の労災保険法16条の6・7)。(乙5-399頁)

また,国公災法についても,昭和41年の改正により遺族補償等の年金化(遺族補償については遺族補償年金の創設)が行われたことに伴い,労災保険法の上記改正と同様,国公災法16条が規定された(乙6-294頁。なお,同改正においては,労災保険法と異なり,妻以外の遺族の受給資格年齢につき18歳未満の者又は55歳以上の者とされた。)。国公災法の上記改正は,従来,遺族補償は,一時金として支給されるのみであったものを,社会保障制度審議会に対して諮問を行い,同審議会の答申を得た後,改正を行い,年金制を導入することとし,遺族補償年金及び遺族補償一時金の2本立ての制度としたものであり,年金制の導入は,遺族に対し,必要な期間,必要な補償を行い,その生活の安定を図ることを目的とするものである。(丙8-13・14・18頁)


このような労災保険法及び国公災法における遺族補償等の年金化に係る改正を受け,昭和42年に制定された地公災法においても,遺族補償として,上記改正において遺族補償年金の受給要件を定める規定と同様の規定である地公災法32条1項が規定された(なお,制定当時の同条項は,国公災法と同様に,妻以外の遺族の受給資格年齢を18歳未満の者又は55歳以上の者としていたが,昭和60年に改正がされた。すなわち,昭和60年当時,民間企業においては60歳定年制が普及し,公務員についても同年から60歳定年制が実施され,一般に子等による扶養を必要とすると考えられる年齢が60歳以上となったこと,労災保険法等の他の公的年金制度における遺族の年金受給資格年齢についても60歳以上とされていたことなどから,地公災法32条1項につき,妻以外の遺族の遺族補償年金受給資格年齢を,従来の18歳未満又は55歳以上から,18歳未満又は60歳以上とする改正がされたものである(乙4-416頁・417頁)。)。
上記のとおり,地公災法は,地方公務員について,国家公務員及び民間労働者の災害補償制度を定めた法律の制定及び改正に即応し,補償内容の改善を図るとともに,その補償を迅速かつ確実に実施するため,労災保険法及び国公災法に追随し,これらを踏まえた上で,これらの規定を取り入れる形で,制定されたものである。
2
地公災法の定める遺族補償年金の性格について
(1)

前記前提事実,前記1の事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨
によれば,次のとおり認定判断することができる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。)。

地公災法の制定経緯等
(ア)

労災保険法及び国公災法における遺族補償等の年金化に係る改正の
趣旨
昭和40年ないし41年に遺族補償等の年金化に係る改正がなされるまでは,労災保険法(昭和22年制定)及び国公災法(昭和26年制定)が定めていた遺族補償(一時金を支給するもの)は,労働者・職員が業務上又は公務上の死亡,
負傷又は疾病によって人身損害を受けた場合に,
使用者が無過失責任に基づき,当該労働者・職員又はその遺族に対し,その損害を補償することを目的とするという災害補償の一環であり,その性格は損害補償であったというべきである。そのため,上記改正前の労災保険法及び国公災法が定める遺族補償は,受給権者につき労働者・職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定する旨の定めがなく,また,一定の年齢に該当すること(年齢要件),一定の障害の状態にあること(障害要件)をいずれも受給要件として定めていなかった。
そうしたところ,労災保険法及び国公災法において,労働災害・公務災害により障害を負った労働者・職員及び死亡した労働者・職員の遺族に対し,必要な期間,必要な補償を行ってその生活の安定を図るという見地から,年金制が導入され(遺族補償等の年金化に係る改正),上記改正により創設された遺族補償年金については,
受給資格のある遺族を,
労働者・職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し(生計維持要件),さらに,妻以外の者については,一定の年齢に該当すること(年齢要件)又は一定の障害の状態にあること(障害要件)が受給要件として定められた
(労災保険法16条の2,
国公災法16条)

一方,遺族補償一時金については,遺族補償年金を受けることができる遺族がいない場合など遺族補償年金の支給がされないときに,遺族補償一時金が支給される仕組みとされ,従前の遺族補償と同様,受給権者につき労働者・職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定されず,また,年齢要件及び障害要件は,受給要件として定められなかった。このことからすれば,上記改正は,扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とする社会保障制度として遺族補償年金を創設し(遺族補償年金の上記受給要件は,上記趣旨目的に照らし,遺族補償年金を支給するのにふさわしい者を受給資格者として定めたものと解される。),そのような社会保障給付である遺族補償年金を支給するのにふさわしい者として定められた遺族(受給資格者に当たる遺族)がいない場合など遺族補償年金の支給がされないときに,遺族補償一時金が支給される仕組みとし,遺族補償一時金の支給により損害補償を図ったものと解すべきである。
したがって,労災保険法及び国公災法において遺族補償等の年金化に係る改正により創設された遺族補償年金は,基本的に社会保障制度の性格を有するものと解される。
(イ)

そうすると,前記1の地公災法の制定経緯に照らせば,地公災法の
定める遺族補償(遺族補償年金及び遺族補償一時金)の性格は,労災保険法及び国公災法の定める遺族補償
(遺族補償年金及び遺族補償一時金)
の性格と異なるところはないと解されるから,地公災法の定める遺族補償年金は,労災保険法及び国公災法の定める遺族補償年金と同様,基本的に社会保障制度の性格を有するものというべきである。

社会保障の最低基準に関する条約の趣旨
上記のとおり,昭和40年の労災保険法における遺族補償等の年金化に
伴い,国公災法においても昭和41年の改正により遺族補償等が年金化され,これを受けて昭和42年に制定された地公災法においても,遺族補償等は年金として支給することが原則とされたのであるが(同法32条1項,36条1項。前記前提事実(1)ア),このような災害補償における保険給付の年金化は,国際労働機関(ILO)が昭和27年に採択した社会保障の最低基準に関する条約(102号条約。丙4)を踏まえたものである。すなわち,102号条約36条1項は,「労働不能,永久的なものとなるおそれのある所得能力の全部喪失若しくはこれに相当する身体機能の喪失又は扶養者の死亡については,給付は,…の要件に適合するように算定される定期金とする。」として,扶養者である労働者が死亡した場合,その保険給付については定期金,つまり年金とする旨規定している。また,102号条約32条(d)及び36条1項は,扶養者が,業務に起因する事故又は所定の職業病により死亡し,その結果として寡婦又は子が被る扶養の喪失に対しては,業務災害給付として,定期金を支給する旨規定し,同条約38条は,かかる給付は,給付事由が存在する間,支給する旨規定している。
わが国は,上記のとおり労災保険法が改正された昭和40年当時,102号条約を批准するに至ってはいなかったものの,国会における議論からも,上記改正は102号条約を踏まえてなされたものであるといえる(丙5-9頁,丙6-215・268頁)。
これらのこと及び前記1の事実からすれば,労災保険法及び国公災法が遺族補償等の年金化に係る改正により遺族補償年金を創設し,地公災法が労災保険法及び国公災法の定める遺族補償年金に係る規定と同様の規定により遺族補償年金を定めた趣旨は,社会保障の最低基準を定めたILOの102号条約の上記規定と同様の趣旨に基づくものであると解するのが合理的である。

遺族補償年金の受給要件を定める規定及び遺族補償年金の受給権消滅事由を定める規定の趣旨

(ア)

遺族補償年金の受給要件を定める規定の趣旨
地公災法32条1項は,遺族補償年金の受給要件について,次のとおり定めている。


死亡職員の配偶者,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹であ
ること



職員の死亡の当時,その収入によって生計を維持していたも
のであること



職員の死亡時に,

夫,父母又は祖父母については,60歳以上であること


子又は孫については,18歳に達する日以後の最初の3月
31日までの間にあること


兄弟姉妹については,18歳に達する日以後の最初の3月
31日までの間にあること又は60歳以上であること


上記ⅰないしⅲに該当しない夫,子,父母,孫,祖父母又
は兄弟姉妹については,総務省令で定める障害の状態にある
こと

かかる規定の趣旨は,遺族補償年金が,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであることから,受給権を有する遺族の範囲を職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し,さらに,死亡職員の収入によって生計を維持していた者のうち,「一般に独力で生計を維持することが困難であるもの」に対して遺族補償年金を支給することにより喪失した被扶養利益を塡補してその生活を保護することとしたものである。すなわち,妻,60歳以上の夫,父母又は祖父母,18歳未満の子又は孫,18歳未満又は60歳以上の兄弟姉妹,総務省令で定める障害の状態にある夫,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹について,「一般に独力で生計を維持することが困難である」と考えられることから,遺族補償年金の支給を受けるのにふさわしい者として類型的に定めたものと解される。
このように,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡により
扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものというべきである。

これに対し,前記前提事実(1)アのとおり,遺族補償一時金については,①職員の死亡当時遺族補償年金を受けることができる遺族がないときに所定の遺族補償一時金を支給し,また,②遺族補償年金の受給権者が失権した場合において,他に遺族補償年金を受けることができる遺族がなく,既に支給された遺族補償年金の合計額が上記①の金額に満たないときにその差額を支給する旨定められている(地公災法36条)。遺族補償一時金は,死亡した職員に扶養されていなかった遺族や働き盛りの遺族しかいないなど,遺族補償年金の受給資格がある遺族が全くいない場合や,遺族補償年金の支給が開始されたものの,遺族補償年金の受給権者が早期に年金を受ける権利を失ったために,遺族補償一時金の額より年金の支給累計額が少ない場合に限って支給される仕組みとなっている。そして,遺族補償一時金制度は,上記①において,職員の遺族であっても,所定の要件を満たさない場合は遺族補償年金が支給されないことになるため,遺族補償年金の支給対象とならない遺族に対する調整措置を講じたものであり,上記②において,遺族補償年金の短期失権者に対する遺族補償給付の最低保障措置を講じたものである。このように,遺族補償一時金は上記の場合に支給されるものであることから,地公災法37条1項は,遺族補償一時金の受給権者につき職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定しておらず,その受給要件として,遺族補償年金の受給要件とされている「妻以外の遺族に係る年齢要件又は障害要件」のいずれも要しないものとしている。これらのことからすれば,地公災法の定める遺族補償のうち,遺族補償一時金は,遺族補償等の年金化に係る改正前に労災保険法及び国公災法において定められていた遺族補償と同様,基本的に損害補償の性格を有するというべきであるが,この遺族補償一時金の受給要件との違いからしても,遺族補償年金の目的は,上記bのとおりに解するのが相当である。
(イ)

遺族補償年金の受給権消滅事由を定める規定の趣旨
地公災法34条1項は,遺族補償年金を受ける権利は,その権利を有する遺族が次のいずれかに該当するに至ったときは,消滅する(ただし,受給権者に失権事由が生じた場合であっても,同順位者がなく後順位者があるときは,次順位者に遺族補償年金が支給(転給)される。)旨定めている。


死亡したとき(1号)



婚姻をしたとき(2号)


直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき(3号)



離縁によって,
死亡した職員との親族関係が終了したとき
(4
号)



子,孫又は兄弟姉妹については,18歳に達した日以後の最
初の3月31日が終了したとき(職員の死亡の時から引き続き
総務省令で定める障害の状態にあるときを除く。5号)



総務省令で定める障害の状態にある夫,子,父母,孫,祖父
母又は兄弟姉妹については,その事情がなくなったとき(夫,
父母又は祖父母について職員の死亡の当時60歳以上であった
とき,…を除く。6号)


かかる規定の趣旨は,遺族補償年金が,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活の保護を図ることを目的とするものであることから,受給権者が被扶養利益の喪失について塡補を要しない状態,又は生計自立の能力を持つべき状態になったときは,受給権を消滅させることとしたものである(なお,これらのうち,婚姻をしたとき,直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったときについては,生計維持の新たな単位(新たな配偶者・養親の生計維持関係)に組み入れられ,もはや遺族としてその生活を保護する必要性が消滅したと考えられるものである。)。
このように,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡により
扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものというべきである。

上記アないしウによれば,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであり,基本的に社会保障制度の性格を有するというべきである。
(2)

これに対し,被控訴人は,「地公災法の定める遺族補償年金は,基本的に
災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有するものである。旨主張し,」
その根拠として,
「①地公災法の制定経緯等
(前記被控訴人の主張(1)ア(ア))

②地公災法1条が「地方公務員等の公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。…)…に対する補償…の迅速かつ公正な実施を確保するため,…」と規定していること(同(イ)),③地公災法の定める遺族補償年金の給付額が被災職員の収入額に基づき定められていること(同(ウ)),④地公災法に損害賠償との調整規定(地公災法58条1項,59条1項)が置かれていること(同(エ))」を挙げる(被控訴人の主張(1))。
しかしながら,上記①については,地公災法の制定経緯等からすれば,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであり,基本的に社会保障制度の性格を有すると解すべきことは,上記(1)アのとおりである。
上記②については,地公災法1条は,同法の目的について,「この法律は,
地方公務員等の公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。…)…に対する補償…の迅速かつ公正な実施を確保するため,地方公共団体等に代わって補償を行う基金の制度を設け,その行う事業に関して必要な事項を定めるとともに,その他地方公務員等の補償に関して必要な事項を定め,もって地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」と規定しているのであるから,社会保障は同法の目的に含まれるというべきである。のみならず,地公災法においては,遺族補償年金,障害補償年金及び傷病補償年金などの保険給付が年金化され
(同法25条1項)

各種の年金や一時金にスライド制が導入され(同法2条9項,36条2項2号),被災職員及びその遺族の福祉に関して必要な所定の事業等(福祉事業)を行うように努めなければならない旨定められている(同法47条)のであり,同法は,損害補償を超える内容,種類の各種給付や福祉事業を創設し,使用者の災害補償責任を前提としない諸領域にも保険事業を拡大しているといえる。これらのことからすれば,地公災法の定める制度には,職員及びその遺族の保護と福祉の増進を目的とする社会保障制度が含まれることは明らかであり,地公災法1条の規定は,地公災法の定める遺族補償年金の性格についての上記(1)の判断を左右するものではない。
また,上記③及び④については,当該規定は,遺族補償年金の受給要件のように受給権の発生の有無に関わるものではないことからすれば,地公災法の定める遺族補償年金は従たる性格として災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を併有するというべきであり,損害補償の性格は従たるものにとどまると解するのが相当であるから,遺族補償年金の性格についての上記(1)の判断を左右するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
3
本件区別を設けた法令の違憲審査基準について
(1)

前記2(1)エのとおり,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡によ
り扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであり,基本的に社会保障制度の性格を有するというべきである。それは,基本的に憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障制度の一環であるといえる。
ところで,憲法25条は,いわゆる福祉国家の理念に基づき,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきこと(1項)並びに社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきこと(2項)を国の責務として宣言したものであるが,同条1項は,国が個々の国民に対して具体的現実的に上記のような義務を負うことを規定したものではなく,・
同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものであると解すべきである。そして,憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは,極めて抽象的・相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,上記規定を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって,憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも,同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲,支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条1項違反の問題を生じ得るというべきである(最高裁昭和57年判決,最高裁昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁,最高裁平成17年(行ツ)第246号同19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2345頁参照)。
(2)ア

これに対し,被控訴人は,「地公災法の定める遺族補償年金は,仮に一
部社会保障としての性格を帯有するとしても,基本的に災害補償責任に基礎をおく損害補償の性格を有する。」として,「遺族補償年金の制度設計について,立法府の広範な裁量が認められるとすることはできず,本件区別を設けた法令が憲法14条1項に違反するかについては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反することになる。本件区別は,損害補償としての性格を無視した受給権者の範囲設定をするものであり,損害補償という遺族補償年金の趣旨目的との間に合理的関連性を有しない差別的取扱いである。」旨主張する(被控訴人の主張(2)ア)。しかしながら,地公災法の定める遺族補償年金は,前記2のとおり,その損害補償という性格は従たるものにとどまり,基本的に社会保障制度の性格を有するというべきであるから,被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。

被控訴人は,「憲法14条1項後段に列挙された事由の一つである性別により差別的取扱いを定める法令の場合,それが社会保障立法であるとしても,立法府に与えられた立法裁量は狭小であり,その憲法14条1項の適合性を判断するに当たっては,前記被控訴人の主張(2)イのとおり,厳格な合理性の基準に基づき,憲法14条1項に違反するかどうかを判断すべきである。」旨主張する。
しかしながら,憲法25条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられていることは上記(1)のとおりであり,そのことからすれば,立法府が,憲法25条の趣旨を実現するために社会保障制度を設けるに当たり,社会保障給付の必要性の有無・程度に関し国民各自に性別により事実上の差異が存する場合に,受給権者の範囲,支給要件,支給金額等につき上記の事実上の差異に相応して何らかの区別を設ける立法措置を講じるか否か,講じるとして具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定をするについても,同様に,立法府の広い裁量にゆだねられていると解することが憲法25条の趣旨に適うものというべきである。そうすると,憲法25条の趣旨を実現するために創設された社会保障制度上の法令が受給権者の範囲,支給要件,支給金額等につき区別を設けることは,それが著しく合理性を欠き,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるといえる場合に,憲法14条1項に違反するものと解すべきである。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
4
地公災法32条1項等が本件区別を設けていることは憲法14条1項に違反するか
前記1ないし3及び証拠(後掲のもの)によれば,次のとおり認定判断することができる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。)。
(1)

前記2(1)エのとおり,地公災法の定める遺族補償年金は,職員の死亡によ
り扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであり,基本的に社会保障制度の性格を有するというべきである。したがって,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,それが著しく合理性を欠き,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いである場合に,憲法14条1項に違反することになると解される。
(2)

前記2(1)ウのとおり,地公災法32条1項は,遺族補償年金の受給要件に
ついて定めているところ,その趣旨は,遺族補償年金が,職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであることから,受給権を有する遺族の範囲を職員の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者に限定し,さらに,死亡職員の収入によって生計を維持していた者のうち,「一般に独力で生計を維持することが困難であるもの」に対して遺族補償年金を支給することにより喪失した被扶養利益を塡補してその生活を保護することとしたものである。そして,妻以外の遺族(夫,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹)については,一定の年齢(60歳以上若しくは18歳未満)に該当する場合又は一定の障害の状態にある場合に,「一般に独力で生計を維持することが困難である」と考えられるのに対し,上記各場合のいずれにも該当しない者については,「一般に独力で生計を維持することが困難である」とは考えられないことから,上記各場合のいずれかに該当することを要する旨の受給要件を定めたものである。
一方,妻については,一般的に就労が困難であることが多く,就労している労働者においても,男女間の賃金格差が大きく,女性は男性と比べて著しく賃金が低いという事情が認められ,社会的実態として,その年齢にかかわらず,職員である夫の収入により生計を維持しており,夫の死亡により,妻が独力で生計を維持することが困難となる場合が多いと考えられたことから,年齢を問わず「一般に独力で生計を維持することが困難である」と考えられるとして,遺族補償年金の受給要件として年齢要件を設けず,年齢を問わず遺族補償年金を受給できるとしたものである。
(3)

地公災法制定当時における合理性について
地公災法が制定され同法32条1項の規定が設けられた昭和42年当時の
社会情勢についてみると,生産年齢の人口に占める労働力人口(就業者及び完全失業者(就業したいと希望し求職活動をしており,仕事があればすぐ就くことができるが,仕事に就いていない者)の総数)の割合(労働力率)につき,男性が82.6パーセント,女性が52.2パーセントと大きな差があり(乙8-1頁),賃金額を比較しても,月平均額(きまって支給する現金給与額)につき,男性は4万2800円,女性は2万1700円であり,2倍近い格差がみられた(乙9-136頁)。
当時の社会情勢については,女性の就労が困難であることが多く,特に,妻については,家庭責任がより重くかかっているため,一層就労が困難であったと考えられる上,男女間の賃金格差も大きく,女性は男性と比べて著しく賃金が低いという事情があったと認められ,これらの事情からすれば,当時の社会情勢の下において,妻について,年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めて,遺族補償年金を受給できるものとするが,夫については,年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難である」とは認められないとして,「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認められる一定の年齢に該当する場合に遺族補償年金を受給できるものとし,遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けることについて,合理性を欠くものであったとはいえない。
今日における合理性

(4)

男女の労働力率の比較

(ア)

生産年齢(15歳から64歳まで)の人口に占める労働力人口(就
業者及び完全失業者の総数)の割合(労働力率)を男女間において比較すると,次のとおりである。
本件各不支給決定がなされた前年である平成22年において,生産年齢の人口に占める労働力人口の割合(労働力率)は,男性が84.8パーセント
(生産年齢の人口は4082万人,
労働力人口は3461万人)
であるのに対し,女性は63.1パーセント(生産年齢の人口は4031万人,労働力人口は2544万人)であり,男女間に約20ポイントの開きがある(乙11-2・3頁)。
そして,配偶関係別に女性の労働力率をみると,未婚者63.4パーセント,有配偶者49.2パーセントであり,有配偶者に占める労働力人口の割合は半数を切っている(乙11-3頁)。
(イ)

上記(ア)によれば,今日においても,女性(特に,配偶者を有する者)
の労働力率は,男性よりも相当低いということができる。

男女の賃金額の比較
(ア)

雇用者数に占める非正規雇用の職員・従業員の割合の比較
平成22年において,男女の労働者数を雇用形態別にみると,①男性
では,正規の職員・従業員2309万人(81.1パーセント),非正規の職員・従業員539万人(18.9パーセント)であるのに対し,②女性では,正規の職員・従業員1046万人(46.2パーセント),非正規の職員・従業員1218万人(53.8パーセント)である(乙11-15頁)。
このように,女性は,雇用者数に占める非正規の職員・従業員の割合が過半数を占め,その割合は男性における非正規職員・従業員の割合の約2.8倍(53.8パーセント÷18.9パーセント)である。厚生労働省の賃金構造基本統計調査に基づく比較

(イ)

平成22年において,一般労働者(常用労働者のうち,短時間労働者以外の者)の賃金を男女別に比較すると,以下の調査結果が得られている(乙11-25・26頁。なお,「きまって支給する現金給与額」とは,労働契約等であらかじめ定められている支給条件及び算定方法によって,
その年の6月分として支給される現金給与額をいう
(乙
13-2頁)。)。

男性

(正社員・正職員)
きまって支給する現金給与額(月額)

37万1200円

(正社員・正職員以外)
きまって支給する現金給与額(月額)

25万0900円

女性

(正社員・正職員)
きまって支給する現金給与額(月額)

26万1800円

(正社員・正職員以外)
きまって支給する現金給与額(月額)

18万0900円

そうすると,上記統計によれば,一般労働者における男女間の賃金格差(男性を100とした場合の女性の賃金額)は,「正社員・正職員」については,71(26万1800円÷37万1200円×100≒71)であり,「正社員・正職員以外」では,72(18万0900円÷25万0900円×100≒72)となるのであるが,上記の一般労働者は,短時間労働者(パートタイム労働者)が除かれていること,上記(ア)のとおり,女性は,雇用者数に占める非正規の職員・従業員の割合が過半数を占め,その割合は男性における非正規職員・従業員の割合の約2.8倍であることからすれば,労働者の全体において,男女の平均的な賃金額を比較すると,女性の賃金額は,男性の賃金額の7割を下回ると考えるのが合理的である。
(ウ)

国税庁の民間給与実態統計調査に基づく比較
この調査は,
民間事業所における年間の給与の実態を,
給与階級別,
事業所規模別,企業規模別等に明らかにして,併せて,租税収入の見積もり,租税負担の検討及び税務行政運営等の基本資料とすることを目的としているもので,幅広い事業規模の事業所を調査対象としている(乙14-1頁)。


この調査によれば,平成22年において,平均給与(1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与)は,男性が年額約507万円であるのに対し,女性が年額約269万円であり(乙14-10頁)上記統計によれば,

民間事業所における男女間の賃金格差
(男
性を100とした場合の女性の賃金額)は,53.1(269万円÷507万円×100)である。

(エ)

上記(ア)ないし(ウ)によれば,今日において,女性は,雇用者数に占
める非正規雇用の割合が50パーセントを超えており,その割合は男性における非正規雇用の割合の3倍近いこと,そして,女性は男性と比べて賃金が低く,女性の賃金額は男性のそれの概ね6割以下であることが認められ,男女間の賃金格差は大きいといえる。

家事のみを行っている妻と家事のみを行っている夫の比較
(ア)

昭和55年には,男性世帯雇用者と無業の妻からなる世帯(専業主
婦世帯)が1114万世帯であったのに対して,雇用者の共働き世帯が614万世帯であったが,その後,雇用者の共働き世帯は増加を続ける一方,専業主婦世帯は減少を続け,平成9年以降,雇用者の共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになった。
平成22年において,雇用者の共働き世帯は1012万世帯であるのに対し,専業主婦世帯は797万世帯である。上記の専業主婦世帯の数が,専業主婦世帯及び共働き世帯の合計数に占める割合は約44パーセント(797万世帯÷(797万世帯+1012万世帯))である。なお,平成24年において,専業主婦世帯は787万世帯である。(甲5-13頁,甲18-81頁)
(イ)

国勢調査は,我が国の人口の状況を明らかにするため,ほぼ5年ご
とに行われており,調査区を設定し,調査員が世帯ごとに調査票を配布して行うものである(乙15)。
国勢調査においては,
夫婦のうち片方が家事のみを行っている割合
(片
方が就業しているかどうかまでは区別していない。)について,年齢階層別に集計している。ここで示される数値は,平たくいえば,いわゆる専業主婦又は専業主夫の集計値である。
平成22年度国勢調査における集計値について,20歳から59歳までの年齢階層につき家事のみしている妻(女性)と家事のみしている夫(男性)の人数をみると,妻は690万4800人であるのに対し,夫は5万6200人であり(乙16),家事のみしている妻の人数は,家事のみしている夫の人数の約123倍(690万4800人÷5万6200人)である。

上記アないしウによれば,今日において,①女性(特に,配偶者を有する者(妻))は,男性に比べて労働力率が相当低いこと,②女性は,雇用者数に占める非正規雇用の割合が50パーセントを超えており,その割合は男性における非正規雇用の割合の3倍近いこと,③男女間の賃金格差が大きく,女性の賃金額は男性のそれの概ね6割以下にすぎず,女性は,男性と比べて賃金が著しく低いこと,④専業主婦世帯数は,従前から減少し続け,共働き世帯数より下回っているものの,なお787万世帯(平成24年当時)ないし797万世帯(平成22年当時)存在するところ,平成22年国勢調査に基づき20歳から59歳までの年齢階層につき家事のみしている妻(専業主婦)と家事のみしている夫(専業主夫)の人数を比較すると,家事のみしている妻の人数は,家事のみしている夫の人数の100倍を大きく超えているのであり,専業主婦の世帯数は,専業主夫の世帯数よりはるかに多いことが認められ,これらに照らせば,夫が死亡した場合,専業主婦世帯において夫が死亡した場合はもちろんのこと,共働き世帯において夫が死亡した場合においても,妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性は高いというべきである。これに対し,妻が死亡した場合に,夫が独力で生計を維持することができなくなる可能性は,上記の妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性と比較して著しく低いというべきである。
これらの事情からすれば,今日の社会情勢の下においても,妻については,年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めて,遺族補償年金を受給できるものとするが,夫については,年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難である」とは認められないとして,「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認められる一定の年齢に該当する場合に遺族補償年金を受給できるものとする旨の遺族補償年金の受給要件に係る区別を設けた本件区別は,合理性を欠くということはできない。
(5)

以上によれば,本件区別は,合理性を欠くとはいえず,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということはできない。そうすると,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反しないというべきである。
(6)ア

被控訴人の主張(3)ア(ア)(社会情勢の変化により合理性を失っている
こと)について
(ア)

被控訴人は,夫が死亡した場合における妻につき「一般に独力で

生計を維持することができないものであり要保護性がある」とすることは不合理である旨主張し,その根拠として,①女性の社会進出が進んだ結果,平成9年以降,雇用者の共働き世帯が専業主婦世帯を上回り,平成22年には,共働き世帯が1012万世帯であるのに対し,専業主婦世帯は797万世帯にとどまり共働き世帯の数を大きく下回っていること,②労働力率及び賃金額における男女間の格差は縮小傾向にあること,③完全失業率をみると,平成10年以降,男性が女性よりも高い状態で推移し,平成22年には,男性5.4パーセント,女性4.6パーセントであり,0.8ポイントの差に広がったことを挙げる。
しかしながら,上記①については,上記(4)ウのとおり,専業主婦世帯数は,従前から減少し続け,平成9年以降共働き世帯数より下回っているものの,なお787万世帯(平成24年当時)ないし797万世帯(平成22年当時)存在するのであり,専業主婦世帯の数は,専業主夫世帯の数の100倍を大きく超えていることからすれば,専業主婦世帯の状況は,むしろ,今日においても,労働力率及び賃金について存在する上記の男女間の格差の状況とともに,夫が死亡した場合における妻につき「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めることの合理性を基礎付けるものであり,上記のとおり認めることの合理性を否定する根拠となるものではない。
上記②については,今日において,夫が死亡した場合における妻につき「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めることが合理性を有するか否かを判断するに当たり重要なことは,今日において,労働力率及び賃金額における男女間の格差があるか否かということ及び上記格差の程度であるから,今日において上記のとおり労働力率及び賃金額における男女間の格差が歴然として存在する以上,その格差が縮小傾向にあることは,妻につき「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めることの合理性を否定する根拠となるものではない。
上記③については,完全失業率における男女間の差異(平成22年において,男性5.4パーセント,女性4.6パーセントであり,0.8ポイントの差があること)は,わずかな違いにすぎず,上記(4)エの判断を左右するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ)

被控訴人は,「夫が死亡した場合に「妻が独力で生計を維持する

ことができなくなる可能性」は確かに一定程度生じ得るが,逆に妻が死亡した場合に「夫が独力で生計を維持することができなくなる可能性」も生じ得る。」として,「一般に独力で生計を維持することができないものであり要保護性がある」といえるか否かについて,妻と夫を区別することは不合理である旨主張する。
しかしながら,上記(4)エのとおり,夫が死亡した場合に,妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性は高いのに対し,妻が死亡した場合に,夫が独力で生計を維持することができなくなる可能性は,上記の妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性と比較して著しく低いというべきであり,そうである以上,その配偶者が死亡した場合において「一般に独力で生計を維持することが困難である」と認めるか否かについて,妻と夫を区別することを不合理であるということはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

被控訴人の主張(3)ア(イ)(性別役割分業の結果生じた社会的実態は妻につき要保護性を認める根拠とすることができないこと)について被控訴人は,「今日において存在する社会的実態(女性の就業割合は男性に比べて低く,女性の雇用者数に占める非正規雇用の割合が高く,男女間の賃金格差も存在するという社会的実態)は,夫が働き妻が家事育児を担うという性別役割分業の結果生じたものである。性別役割分業は,性差別的就労・家庭状況であり,解消されるべき課題であるところ,性別役割分業の結果生じた社会的実態を根拠として,遺族補償年金の受給要件に係る本件区別の合理性を認めるならば,それは,性別役割分業による就労・家庭状況を是認し固定化することになる。」などとして,本件区別には合理的根拠が全くない旨主張する。
しかしながら,上記(4)エのとおりの社会的実態(①女性(特に,配偶者を有する者(妻))は,男性に比べて労働力率が相当低いこと,②女性は,雇用者数に占める非正規雇用の割合が高いこと,③男女間の賃金格差が大きく,女性は,男性と比べて賃金が著しく低いこと,④専業主婦の世帯数は,専業主夫の世帯数よりはるかに多いことなどを内容とするもの)がある場合,立法府が,地公災法において社会保障制度である遺族補償年金を創設し,遺族補償年金の支給を受けるのにふさわしい者として「一般に独力で生計を維持することが困難である」といえる遺族を類型化して受給権者として定めるに当たり,遺族である妻について,遺族である夫と同様に一定の年齢に該当すること(年齢要件)を受給要件として設けるか否かを適切に判断するためには,上記社会的実態を十分考察する必要があることは明らかであり,上記社会的実態が性別役割分業によって生じたものであるからといって,これを考慮することなく年齢要件を受給要件として設けるか否かを判断するというのは不合理である。そして,上記社会的実態があることからすれば,本件区別は合理性を欠くとはいえないことは,上記(4)エで説示したとおりであり,このように判断することが「性別役割分業による就労・家庭状況を是認し固定化することになる」などと解すべき理由はない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

被控訴人の主張(3)ウ(本件区別は被保険者である妻に対する差別となること)について
被控訴人は,「本件区別により,職員である夫は,死亡した場合,遺族である妻に対して遺族補償年金を残すこと(受給させること)ができるのに対し,職員である妻は,死亡した場合,限られた場合を除き,遺族である夫に対して遺族補償年金を残すこと(受給させること)ができない。したがって,本件区別は,職員である妻に対する不当な差別である。」として,地公災法32条1項等が本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかしながら,地公災法の定める遺族補償年金は,前記2(1)エのとおり,
職員の死亡により扶養者を失った遺族の被扶養利益の喪失を塡補し,遺族の生活を保護することを目的とするものであって,基本的に社会保障制度の性格を有するものである。そうすると,遺族補償年金は,職員である夫又は妻が,死亡した場合に遺族である妻又は夫に対して「遺族補償年金を残すこと(受給させること)」を法的利益として保障するものではないのであるから,死亡した場合に遺族である妻又は夫に対して遺族補償年金を残すことができるか否かについて,職員である夫と職員である妻とで差異があるとしても,それは法的利益の保障範囲に差異があるとはいえず,法的取扱いの区別には当たらない。そうすると,被控訴人主張に係る上記差異があることは,地公災法32条1項等が本件区別を設けていることについて,憲法14条1項に違反するといえる根拠となるものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

被控訴人の主張(3)エ
(本件区別は男女共同参画社会の形成の推進という
国家基本政策と整合性を有しないこと)について
被控訴人は,「本件区別により,妻が死亡した場合に夫に遺族補償年金
を残せないということは,日常的な妻の就業や就業継続の意欲に対して抑制的に作用し,また,死亡という万一の場合に遺族補償年金を残せるのが夫だけであるということは,夫婦で共に生計維持の責任を分担し,家事育児にも積極的に関わろうとする夫の選択に対しても抑制的に作用することになる。したがって,本件区別は,男女共同参画社会の形成の推進という国家基本政策(男女共同参画社会基本法により定められたもの)と整合性を有しない。」として,本件区別は合理性を有しない旨主張する。そこで検討すると,
平成11年に制定された男女共同参画社会基本法は,
その前文において,「社会のあらゆる分野において,男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である。」と規定し,同法4条は,「男女共同参画社会の形成に当たっては,社会における制度又は慣行が,性別による固定的な役割分担等を反映して,男女の社会における活動の選択に対して中立でない影響を及ぼすことにより,男女共同参画社会の形成を阻害する要因となるおそれがあることにかんがみ,社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。」と規定するところである。
しかしながら,本件区別により被控訴人主張に係る抑制的な作用が社会において生じているか否か,生じている場合におけるその具体的状況・程度等は明らかでない。したがって,被控訴人主張に係る男女共同参画社会の形成という国家基本政策は,本件区別について合理性を欠くとはいえない旨の上記(4)エの判断を左右するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

被控訴人の主張(3)エ
(性別による差別的取扱いを内容とする制度を是正
する法改正等がみられること)について
被控訴人は,「近年,男性,夫に対して差別的取扱いがなされてきた制
度を是正する法改正等(①生活保護の生活扶助基準の男女差別の廃止,②児童扶養手当の支給対象を母子世帯に限定せず父子世帯にも拡張したこと,③労災保険に関し外貌の醜状障害に係る障害等級についての男女の区別をなくしたこと,④国民年金法における遺族基礎年金の支給対象について母子家庭だけでなく父子家庭にも支給することとしたこと)がみられる。」として,これらは本件区別が不合理であることを裏付けるものである旨主張する。
しかしながら,法令の定める法的取扱いの区別が憲法14条1項に違反するか否かは,当該法令の趣旨目的が何であるのかを個別具体的に検討して判断すべきものであるから,地公災法の定める遺族補償年金と,その趣旨目的が上記遺族補償年金とは異なる他の法制度を同列に考えるべき理由はない。のみならず,前記3のとおり,そもそも社会保障制度を設けるに当たって,受給権者の範囲,受給要件等をどのように定めるかは,立法府の広い裁量にゆだねられている事柄であるから,他の社会保障制度を設ける法令において,受給権者の範囲,受給要件等について法改正をしたからといって,それは上記立法政策上の裁量の範囲における改訂措置とみるべき場合が多いのであり,上記法改正があったことは,改正前の当該法令が設けていた法的取扱いの区別につき,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるといえる根拠となるものではない。
そうすると,性別による区別を設けていた他の法令等について区別を廃止する法改正等がなされたことをもって,本件区別が不合理であることを裏付けるものであるといえないことは明らかであり,被控訴人の上記主張は採用することができない。
5
地公災法32条1項等が本件区別を設けていることは自由権規約26条及び社会権規約3条に違反するか
自由権規約26条は,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる
(1)

差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定し,社会権規約3条は,「この規約の締約国は,この規約に定めるすべての経済的,社会的及び文化的権利の享有について男女に同等の権利を確保することを約束する。」と規定する。また,社会権規約9条は,福祉国家の理念に基づき,「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定し,同規約2条1は,締約国において「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めている。(当裁判所に顕著な事実)
(2)ア

被控訴人は,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本
件区別を設けていることは自由権規約26条及び社会権規約3条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,社会権規約9条は「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定しているが,その社会保障についての権利の具体的内容を定めていないのであり,同規約2条1が締約国において「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めていることからも明らかであるように,同規約9条は,締約国において,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,上記権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではないというべきである(前掲最高裁平成元年3月2日第一小法廷判決参照)。そうすると,社会権規約9条が社会保障についての権利を認める旨定めている趣旨は,憲法25条の定めるところと異なるものではないというべきである。
そして,自由権規約及び社会権規約の各規定を解釈するに当たっては,福祉国家の理念に基づき社会権規約9条が定められていることと調和するように解釈すべきこと,福祉国家の理念に基づき締約国が社会的立法により社会保障制度を設けるに当たっては,厳格な形式的平等を図るのではなく,福祉国家の理念に合致した実質的平等を図る必要があり,そのために立法府に広い裁量が認められるべきであることからすれば,自由権規約26条及び社会権規約3条は,憲法25条の趣旨を実現するための立法措置が設けている法的取扱いの区別についての憲法14条1項に係る違憲審査基準につき前記3で判示したところを否定する趣旨であるということはできない。
そうすると,
前記4(5)のとおり,
本件区別は,
合理性を欠くとはいえず,
何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということはできないのであるから,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,自由権規約26条及び社会権規約3条に違反しないというべきである。

これに対し,被控訴人は,上記アの主張の根拠として,「自由権規約については,規約上の権利が侵害されたと訴える個人が実施機関(人権委員会)に通報する個人通報制度を定めた選択議定書が発効しており,人権委員会において個人からの通報を受理して審議し,それに関する「見解」を表明し,締約国に必要な措置を講じるよう求めるなどしている。人権委員会が採択した「一般的意見」は,差別であるか否かの判断基準について,「基準が合理的であり,かつ客観的である場合であって,かつまた,本規約の下での合法的な目的を達成するという目的で行われた場合には,処遇の差異は必ずしも全て"差別"を構成するわけではない」としているところ,人権委員会のこの「一般的意見」における合理性の基準は,従来わが国において広範な立法裁量が認められてきた分野についても厳格に解釈されており,それは,自由権規約26条が争われた個人通報事例における人権委員会の「見解」に現れている。人権委員会における合理性の基準は,極めて厳格であり,差別が社会保障分野に関する事項であることや,差別の解消にあたり財政的影響があること,男性が生計の担い手である場合が多いといった社会の実情については,合理性を認める理由にならないとして,立法裁量を明確に否定している。」との点を挙げる。
しかしながら,人権委員会が表明した「一般的意見」や「見解」は法的拘束力を有しないものであるから(なお,選択議定書については,わが国はその批准も行っていない。),被控訴人が挙げる「一般的意見」や「見解」は,上記アの判断を左右するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
第5

結論
以上によれば,地公災法32条1項等が遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けていることは,憲法14条1項に違反するものではなく,また,自由権規約26条及び社会権規約3条に違反するものでもないというべきであり,本件各不支給決定のうち,遺族補償年金に係る本件不支給決定が,被控訴人につき地公災法32条1項等の定める年齢要件を充たさないことを理由として上記不支給決定をしたことについて,違法はなく,また,遺族特別支給金等に係る本件不支給決定が,被控訴人につき遺族補償年金の受給権者に該当しないことを理由として上記不支給決定をしたことについても,違法はないというべきである。そうすると,処分行政庁が被控訴人に対してした本件各不支給決定に違法はないというべきであり,被控訴人が本件各不支給決定の取消しを求める請求は,いずれも理由がなく棄却すべきところ,これを認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,被控訴人の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

志田博文
裁判官

下野恭裕
裁判官

井田宏
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