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執行停止の申立て事件(本案:平成27年(行ウ)第337号建築確認処分等取消請求事件)
事件番号平成27(行ク)216
事件名執行停止の申立て事件(本案:平成27年(行ウ)第337号建築確認処分等取消請求事件)
裁判年月日平成27年6月24日
法廷名東京地方裁判所
判示事項建築基準法所定の指定確認検査機関が建築中のマンションについてした建築計画変更の確認処分の効力停止を求める近隣住民の申立てについて,行政事件訴訟法25条2項本文所定の「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とはいえないとされた事例
裁判要旨建築基準法所定の指定確認検査機関が建築中のマンションについてした建築計画変更の確認処分につき,同マンションで火災等が発生した場合に被害が及ぶとして,その効力停止を求める近隣住民の申立てについては,同マンションに倒壊や延焼を防止するために必要な耐火性能があり,消防設備が充実し,消防環境も整っており,隣接する建築物との位置関係等からも円滑な避難に支障が生じるとはいえないなど,判示の事情の下では,行政事件訴訟法25条2項本文所定の「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とはいえない。
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平成27年(行ク)第216号
(本案事件

執行停止の申立て事件

平成27年(行ウ)第337号

建築確認処分等取消請求事件)
文1
本件申立てをいずれも却下する。

2
申立費用は,申立人らの負担とする。

第1


申立て
相手方が平成27年6月15日建築確認番号第○号をもって行った建築確認処分の効力は,本案事件(平成27年(行ウ)第337号建築確認処分等取消請求事件)の判決が確定するまでこれを停止する。

第2

事案の概要
建築基準法(以下,単に「法」という。)所定の指定確認検査機関である相手方は,A株式会社(以下「A」という。)が,東京都港区αに共同住宅(以下「本件マンション」という。)の建築を計画し,建築確認申請をしたのに対し,平成26年1月14日付けで建築確認処分をした後,3回にわたる建築計画変更の確認処分を経て,平成27年6月15日付けで更に建築計画変更の確認処分(以下「本件処分」という。)をした(なお,本件マンションに係る建築計画の概要は,別紙建築計画目録記載のとおりである。)。
本件は,本件マンションの近隣に居住する申立人らが,本件処分には法52条2項,東京都建築安全条例4条及び都市計画法29条に違反する違法があると主張して,本件処分の取消し等を求める訴えを提起した上,これを本案として,本件マンションで火災等が発生した場合,円滑な消火活動や避難が困難となり,延焼等によって申立人らの生命,身体及び財産等に被害が及ぶことになるから,本件処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるなどと主張して,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,本案事件の判決が確定するまでの間,本件処分の効力の停止を求める事案である。
1
前提事実
一件記録によれば,以下の事実を一応認めることができる。
(1)

当事者
申立人ら
(ア)

申立人Bは,肩書住所地に所在する別紙物件目録記載1の建物(以
下「本件建物1」という。)を所有し,同所に居住している(疎甲36の1)。
(イ)

申立人C及び同Dは,肩書住所地に所在する別紙物件目録記載2の
建物(以下「本件建物2」という。)を共有し,同所に居住している(疎甲36の2)。
(ウ)

申立人Eは,肩書住所地に所在する別紙物件目録記載3の建物(以
下「本件建物3」という。)を所有し,申立人Fとともに,同所に居住している(疎甲36の3)。
(エ)

申立人G及び同Hは,肩書住所地に所在する別紙物件目録記載4の
建物を,申立人H及び同Eは,同目録記載5の建物(以下,同目録記載4の建物と併せて「本件建物4」という。)をそれぞれ共有し,申立人G及び同Hは,同所に居住している(疎甲36の4,36の5)。イ
相手方
相手方は,法に基づく建築物の確認・検査業務等を目的とする株式会社であり,法所定の指定確認検査機関である。

(2)

本件の経緯
相手方は,平成26年1月14日,Aの本件マンションに係る建築確認申請について,建築確認処分(確認済証番号・第○号)をした後,同年6月17日付けで建築計画変更の確認処分(確認済証番号・第○号)を,同年9月19日付けで建築計画変更の確認処分(確認済証番号・第○号)を,同年12月12日付けで,建築計画変更の確認処分(確認済証番号・第○号。以下「前処分」という。)をした(疎甲1)。

申立人らは,港区建築審査会に対し,上記アの建築確認処分及び各建築計画変更の確認処分について,審査請求をした。これに対し,港区建築審査会は,平成27年2月16日,平成26年12月12日付け確認処分に係る審査請求を棄却し,その余の確認処分に係る審査請求をいずれも却下する旨の裁決をした。(疎甲3)


申立人らは,平成27年3月25日,国土交通大臣に対し,上記イの裁決を不服として,再審査請求をした(疎甲29)。


申立人らは,平成27年6月2日,前処分には法52条2項,東京都建築安全条例4条及び都市計画法29条に違反する違法があると主張して,前処分の取消し等を求める訴え(本案事件)を提起した上,これを本案とし,本件マンションの工事は同年8月20日に完了予定なので緊急の必要性があるとして,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,本案事件の判決が確定するまでの間,前処分の効力の停止を求める旨の申立てをした。

相手方は,平成27年6月15日,本件マンションに係る建築計画変更の確認処分をした。本件マンションに係る建築計画の概要は,別紙建築計画目録記載のとおりである。(疎甲1)


申立人らは,平成27年6月18日,本案事件について,前処分の取消しを求める訴えを本件処分の取消しを求める訴えに変更する旨の訴えの変更をするとともに,本件マンションの工事は同月30日に完了予定なので緊急の必要性があるとして,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,本案事件の判決が確定するまでの間,本件処分の効力の停止を求める旨の本件申立てをし,上記エの効力停止の申立てを取り下げた。

(3)

本件マンションの状況
本件マンションの敷地(以下「本件敷地」という。)は,都市計画法所定の都市計画区域にあり,都市計画において,市街化区域,準防火地域,第2種高度地区,第1種中高層住居専用地域と定められている(疎甲1)。イ
本件マンションの1階の平面図や,本件建物1,本件建物2,本件建物3及び本件建物4(以下,併せて「本件各建物」という。)と本件マンションの位置関係は,別紙図面記載のとおりである。また,本件マンションの敷地は,幅員4.85mから5.36mの北側の道路(以下「本件北側道路」という。),幅員4mの西側の道路(以下「本件西側道路」という。),幅員5mの東側の道路(以下「本件東側道路」という。)及び幅員4mの南側の道路に接しており,これらの道路はいずれも法42条所定の道路である。(疎甲2,疎乙1)

2
当事者の主張
申立人らの主張は,別紙「執行停止申立書」(写し)記載のとおりであり,相手方の主張は,別紙「意見書」(写し)記載のとおりである。

第3
1
当裁判所の判断
「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)といえるか否かについて
(1)

申立人らは,本件マンションで火災等が発生した場合,円滑な消火活動
や避難が困難となり,延焼等によって申立人らの生命,身体及び財産等に被害が及ぶことになるから,本件処分により生ずる「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」旨主張する。そこで,以下,この点について検討する。(2)

建築物の防火に関する法令の定めについて
法は,準防火地域(2条21号参照)内においては,地階を除く階数が4以上である建築物又は延べ面積が1500㎡を超える建築物は耐火建築物としなければならない旨定めている(62条1項)。ここに,耐火建築物とは,①その主要構造部(壁,柱,床,はり,屋根又は階段をいい,建築物の構造上重要でない部分を除く。法2条5号参照)が,耐火構造であること又は政令(建築基準法施行令(以下,単に「施行令」という。)108条の3参照)で定める技術的基準に適合するものであり,②その外壁の開口部で延焼のおそれのある部分(法2条6号参照)に防火戸その他の政令(施行令109条参照)で定める防火設備を有するという基準に適合する建築物をいい(法2条9号の2),耐火構造とは,壁,柱,床その他の建築物の部分の構造のうち,耐火性能(通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造,れんが造その他の構造で,国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう(法2条7号)。そして,施行令107条は,上記耐火性能に関する技術的基準について,主要構造部分の非損傷性,壁及び床の遮熱性,外壁及び屋根の遮炎性を定めている。
また,法は,準防火地域内の建築物の屋根の構造は,市街地における火災を想定した火の粉による建築物の火災の発生を防止するために屋根に必要とされる性能に関して建築物の構造及び用途の区分に応じて政令(施行令136条の2の2参照)で定める技術的基準に適合するもので,国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない旨定め(63条),また,建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に,防火戸その他の政令(施行令109条参照)で定める防火設備を設けなければならない旨定めている(64条)。このように,法及び施行令は,準防火地域内において,一定の規模を有する建築物は,火災においても,構造耐力の低下による倒壊や延焼を防止するために必要な性能を有する耐火建築物としなければならないものとし,また,建築物の規模にかかわらず,建築物の屋根は火の粉による火災の発生を防止するために必要とされる性能を有し,延焼のおそれのある外壁の開口部には防火設備を設けなければならないものとすることにより,建築物内部からの火災に対する防火を図るとともに,近隣の建築物への延焼を防止し,火災が拡大することの防止を図っている。

なお,以上のような防火設備の設置が求められる「延焼のおそれのある部分」について,法2条6号は,隣地境界線,道路中心線又は同一敷地内の2以上の建築物相互の外壁間の中心線から,1階にあっては3m以下,2階以上にあっては5m以下の距離にある建築物の部分をいう旨定めている。
上記規定は,建築物の延焼は,二つの建築物の相対的な位置によって決まるものであり,通常の木造建築物の火災時における火熱を基準にして,その火熱源からの距離に応ずる対隣壁の受ける火熱を想定して定められたものであり,現在又は将来において,隣地境界線に接近して建築物が建築される場合,道路(幅員が極めて狭い場合もあり得る。)の向かい側に建築物が建築される場合,同一敷地内に2以上の建築物が近接して建築される場合も想定して,隣地境界線,道路中心線又は同一敷地内の2以上の建築物相互の外壁間の中心線からの距離を基準としているものと解され,1階と2階以上において距離が異なっているのは,火炎が上方に広がる性質を有することによるものといえる。

(3)

本件について
上記(2)においてみた建築物の防火に関する法令の定め等を踏まえ,本件
マンションの火災の際の倒壊や延焼の危険性,周辺住民の避難可能性等について検討するに,一件記録によれば,以下の事実を一応認めることができる。ア(ア)

本件マンションの耐火性能,本件各建物との位置関係等
本件敷地は,都市計画において準防火地域と定められているところ,
本件マンション(地上5階建て,延べ面積8716.40㎡)は,法2条9号の2所定の耐火建築物として設計され,上記(2)において見た建築物の防火に関する法令の規定に沿って建築されているほか,各戸が防火区画として仕切られているなど,倒壊や延焼を防止するために必要な耐火性能を有しているといえる(前記前提事実,疎乙1,4,27~30)。
また,本件マンションと本件各建物との位置関係についてみるに,本件敷地の西側には,テラス,植栽,車寄せ等が設けられており,本件マンションの外壁から本件西側道路までの距離が5mを超えている上,本件西側道路は4mの幅員を有し,本件建物1及び本件建物2の外壁も本件西側道路から数m離れていることがうかがわれるから,本件マンションと本件建物1及び本件建物2の間の距離は9mを優に超えていると一応認められる(前記前提事実,疎甲15,16,19,26,35,疎乙1)。加えて,本件建物1(昭和56年新築)及び本件建物2(平成元年新築)は,いずれも,鉄筋コンクリート造りの3階建てで,延べ面積が500㎡を超え1500㎡以下の建築物であるから(前記前提事実,疎甲36の1,36の2),これらの新築当時の法62条1項によれば,耐火建築物又は簡易耐火建築物として建築されたものであることがうかがわれる。他方,別紙図面記載のとおり,本件敷地の北側には,車路や機械式駐車場が設けられており,本件マンションの外壁から本件北側道路までの距離が12mを超えている上,本件北側道路は5m前後の幅員を有し,本件建物3及び本件建物4の外壁も本件北側道路から数m離れていることがうかがわれるから,本件マンションと本件建物3及び本件建物4の間の距離は17mを優に超えていると一応認められる(前記前提事実,疎甲26,35,37,疎乙1)。
そして,本件マンションの外壁は,四周の道路の道路中心線から5m以内に存在せず(疎甲4,乙1,27~30),「延焼のおそれのある部分」(法2条6号)がないことに鑑みると,本件マンションと本件各建物の現在の位置関係を前提とする限り,本件マンションから出火があったとしても,それが本件各建物に延焼する具体的なおそれがあるとまではいえない。
(イ)

本件マンションの消防設備及び消防環境等
本件マンションは,消防法17条1項所定の防火対象物たる共同住宅
(消防法施行令6条,別表第1(5)ロ参照)として,同施行令7条に基づき,消火設備,警報設備及び避難設備が設置されるものとして計画されており,具体的には,消火設備として,消化器(1階に10本,2階から5階までに各8本),消火ホース付きの屋内消火栓(1階に3箇所,2階から5階までに各4箇所)及び屋内消火栓に繋がる消火水槽等が設置され,警報設備として,多数の自動火災報知器及び非常警報ベル等が設置されるほか,機械式駐車場には,移動式粉末消火設備(3台)が設置されるものとして計画されている(疎乙5~9)。なお,消火設備に関しては,本件敷地に連結送水管用双口送水口(2箇所)が設置され,同送水口と各階の屋内消火栓とを結ぶ連結送水管が本件マンションの各階を通じて設置され,3階から5階までの屋内消火栓(各2箇所)には放水口を別途設けるものとして計画されているため,消防隊員は上記放水口を利用して消火活動を行うこともできる(疎乙8)。警報設備に関しても,住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示基準において,自住戸火災時及び他住戸等火災時につき,それぞれ最高等級である等級4を取得するものとされている(疎乙7,26)。
また,本件敷地は,I消防署及び同署J出張所から,いずれも直線距離1kmの範囲内に所在しているから,消防車及び消防隊員が比較的短時間で到着することができるといえる(疎甲30)。そして,本件敷地は,四周が幅員4m~5mの道路に囲まれており,西側に主要な出入口があるほか,東側にも出入口が設けられているため,消防隊員は,本件西側道路及び本件東側道路のいずれからも,本件敷地に入り,消火活動を行うことができ,消防車(ポンプ車やはしご車の幅員は2.5m以下である。疎乙10)についても,四周の道路に駐車することができるほか,本件敷地の西側の車寄せ部分や北側の車路に駐車して,消火活動を行うこともできる(疎乙1)。さらに,ポンプ車による消防活動は,一般に,水槽付きポンプ車によって直ちに対象物に放水を行うほか,消防水利(消火栓・防火水槽等)の近くにポンプ車を駐車させ,消防水利とポンプ車を繋ぎ,ポンプ車で水圧を加え,その水をホース(ポンプ車1台当たり,200mのホースを備えており,ポンプ車を追加することにより,ホースを更に延長することもできる。)で送水し,直接対象物に放水し,又は連結送水管に接続して消火活動を行うものであるところ,本件敷地の東側にある「K」の敷地付近に消防水利が存在するため,これを利用して消火活動を行うことができる(疎乙19~25)。
さらに,I消防署長は,本件マンションの計画が法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定で建築物の防火に関するものに違反しないものであると認め,建築確認処分に対する同意(法93条参照)を与えている(疎乙4)。
(ウ)

以上の事情に鑑みると,本件マンションは耐火建築物として必要な
耐火性能を備え,消防設備や警報設備も充実し,消防環境も整っているといえるから,本件マンションで火災が発生したとしても,本件各建物に延焼が及ぶ具体的な危険性があるとまではいえない。

また,仮に本件マンションにおいて火災が発生したとしても,申立人らのうち,本件建物1及び本件建物2に居住する者は,本件西側道路を通って北方又は南方のいずれの方向にも避難することができ,本件建物3及び本件建物4に居住する者は,本件北側道路を通って西方又は東方のいずれの方向にも避難することができるのであるから(疎甲2),本件マンションが建築されたとしても,災害時の避難に具体的な支障が生じるとはいえない。

以上に述べたところに鑑みると,本件マンションが建築された後,本件マンションで火災等が発生した場合に,円滑な消火活動や避難が困難となり,延焼等によって申立人らの生命,身体及び財産等に被害が及ぶことについて,これを一応認めるに足りる疎明はないといわざるを得ない。
(4)

申立人らの主張について
これに対し,申立人らは,本件敷地は,東京都建築安全条例4条によれば幅員6m以上の道路に,法52条2項によれば最低でも幅員4.82mの道路と接しなければならないにもかかわらず,本件敷地は幅員4mの本件西側道路(前面道路)にしか接していないのであり,このように接道要件を満たさない本件マンションにおいて火災等が発生した場合には,円滑な消火活動や避難が困難になる結果,道路一本を挟んだ距離にある本件各建物を所有し,居住している申立人らの生命等に被害が及ぶ旨主張する(相手方は,かかる違反はない旨主張している。)。
しかしながら,仮に,申立人らが主張するとおり本件マンションが法52条2項及び東京都建築安全条例4条2項に違反しているとしても,既に検討したところを左右するものではないというべきである。
すなわち,東京都建築安全条例4条2項や法52条2項の規定は,建築物に火災その他の災害が発生した場合に,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制することをもその目的に含むものと解されるが,建築密度,建築物の規模等を規制することにより,建築物の敷地上に適度な空間を確保し,もって,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つこともまた目的とするものであるというべきであるから,当該建築物が上記各規定に違反していたとしても,それだけで直ちに具体的な延焼の危険が生じるものとはいえない。
そして,法及び施行令は,火災による建築物の倒壊及び延焼の防止については,上記(2)においてみた建築物の防火に関する規定を置いているのであるから,具体的な延焼の危険性の有無については,当該建築物の耐火性能や消防設備,消防環境,隣接する建築物等の位置関係等の諸般の事情から判断するのが相当であるところ,本件各建物に対する具体的な延焼の危険性について疎明がないことは,先に述べたとおりである。
仮に,申立人らの主張を前提としても,法52条2項との関係では,本件西側道路の幅員が82cm不足している(容積率192.43%の建築物を建築するためには,幅員4.82mの道路に接道しなければならないにもかかわらず,本件西側道路は幅員が4mしかない。)というものであり,東京都建築安全条例4条2項との関係では,本件マンションの高さが34cm超過している(建築物の高さが15mを超えてはならないにもかかわらず,本件マンションの高さは15.34mである。)というものであるところ,具体的な延焼の危険性との関係において,これらの違反の程度によって違反がない場合と比して有意な違いが生じることについては具体的な疎明がない。
なお,申立人らは,阪神・淡路大震災等における火災の発生状況や消防活動の困難性等に関する疎明資料(疎甲46~56)を提出するが,かかる規模の大震災によって広範囲に多数の火災が発生する場合,消火活動の困難性等の問題が生じるのは,本件マンションに限られるものではない(かえって,木造建築物など耐火性能の低い建築物の消火を優先すべき事態が想定される。)。
したがって,上記違反の点に関する申立人らの主張を前提としても,前記(3)の判断が左右されるとはいえない。

また,申立人らは,本件敷地周辺の広域避難場所は,本件敷地の北方にあるLであるため,本件マンションの住民は,火災や地震等の災害が発生した場合には,主要な出入口が集中する本件西側道路を北上し,目黒通り方面に向かって避難することになるが,申立人らをはじめ大勢の住民や園児が避難に押し寄せるため,幅員4mの本件西側道路における円滑な避難が不可能となる旨主張する。
しかしながら,疎明資料(疎甲2,30,38)によれば,本件敷地周辺の広域避難場所は,本件敷地の北方にあるLだけでなく,東方にMがあること,本件敷地の四周はいずれも道路に囲まれ,各道路から更に四方に通じる道路が存在しており,火災等の災害時に,本件北側道路及び本件西側道路の交差点から目黒通りに通じる道路(以下「本件北西道路」という。)が唯一の避難道路となるものではないこと,本件マンション(81戸)の住民は,主要な出入口が存在する本件西側道路を通って北方又は南方のいずれの方向にも避難することができるほか,本件敷地の東側にある出入口から本件東側道路に出て避難することもできること,本件北側道路及び本件西側道路はいずれも4m以上の幅員を有しており,本件北西道路も4m程度の幅員を有していることがうかがわれるから,上記住民等が徒歩で避難する場合には,いずれの道路も十分な幅員を有しているといえることが一応認められる。したがって,本件マンションが建築されることにより,本件西側道路における円滑な避難に支障が生じるとはいえないから,この点に関する申立人らの主張を採用することはできない。

申立人らは,本件敷地に期間約72年の地上権が設定されて本件マンションが建築されていることから,火災や地震等の際に避難が困難となることで生命等が危険にさらされる期間が70年間にも及ぶことになる旨主張する。
しかしながら,既に述べたところによれば,本件マンションの建築により,火災や地震等の際に避難が困難となり,申立人らの生命等が危険にさらされることを一応認めるに足りる疎明はない上,仮に本件マンションが法に違反する建築物であるとすれば,建築基準法9条1項の規定に基づく除却命令等の対象となる余地もあるのであるから,この点に関する申立人らの主張を採用することはできない。

なお,申立人らは,最高裁判所平成21年(行フ)第2号同年7月2日第一小法廷決定において,建築工事が続行されて建築物が完成すると,その倒壊,炎上等により,重大な損害が生ずるおそれがあるとして,建築確認処分の効力停止を命じた原審東京高等裁判所の判断を是認しているなどとして,本件においても重大な損害が認められるべきである旨主張する。しかしながら,重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,処分の内容及び性質をも勘案するものとされているところ(行政事件訴訟法25条3項),これは,当該処分の内容及び性質に照らして,その執行等を停止することにより申立人以外の者に対していかなる影響が生じ得るかをも考慮しつつ,上記判断をすることを求める趣旨のものと解される。そして,上記事案においては,東京高等裁判所に係属した本案事件の判決において建築確認が取り消された後に同裁判所にされた効力停止の申立てを認容したものであり,上記本案判決によれば効力停止を受ける側の利益を保護する必要に乏しいとの認識を踏まえつつ,重大な損害を生ずるおそれがあるとの判断がされたものと理解する余地もあるところであって,いずれにせよ,本件とは事案を異にするものである。また,申立人らが挙げる他の裁判例は,いずれも具体的事情を検討の上で,建築確認の効力停止の申立てを却下しているものである。
したがって,申立人らの上記主張は,採用できない。

(5)

以上によれば,本件処分によって生ずる「重大な損害を避けるため緊急
の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)ということはできない。2
よって,本件申立ては,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これらをいずれも却下することとし,主文のとおり決定する。平成27年6月24日
東京地方裁判所民事第51部

裁判長裁判官

小林
裁判官

徳井
裁判官

堀内宏司真元城
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