判例検索β > 平成24年(わ)第1701号
住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂
事件番号平成24(わ)1701
事件名住居侵入,強盗殺人,強盗殺人未遂
裁判年月日平成27年12月15日
法廷名名古屋地方裁判所
裁判日:西暦2015-12-15
情報公開日2017-10-13 01:34:12
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主文
被告人を死刑に処する
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

A(当時45歳)及びその妻であるB(当時36歳)の反抗を抑圧して金品を強取しようと企て,甲及び乙と共謀の上,平成10年6月28日午後4時30分頃,愛知県碧南市a町b丁目c番地d所在のA方に,甲及び乙とともに,強盗の目的でその玄関から侵入し,その頃,同所において,2名の子供とともに在宅していたBに対し,手でその口を塞ぎ,静かにするよう申し向け,甲及び乙とともに動静を見張るなどの暴行脅迫を加えて,その反抗を抑圧し,さらに,同日午後8時過ぎ頃から同日午後11時23分頃までの間に,Bに対し,殺意をもって,甲又は同人及び乙の両名が,その首にひも様のものを巻き付けて強く絞めるなどして,その頃,同所において,Bを窒息により死亡させて殺害した上,その頃,同所において,同人所有の現金約6万円を強取し,引き続き,Aの帰宅を待ち,翌29日午前1時頃,同所において,帰宅したAに対し,殺意をもって,被告人が単独で,又は被告人が甲若しくは乙とともに,その首にひも様のものを巻き付けて強く絞めるなどして,その頃,同所において,Aを窒息により死亡させて殺害した上,その頃,同所において,同人所有の鍵束1個,金庫1個及びブレスレット1本を強取した,

第2

C(当時69歳)の反抗を抑圧して金品を強取しようと企て,住居侵入,強盗について甲と共謀の上,平成18年7月20日午後零時20分頃,名古屋市e区f町g番地所在のC方に,甲とともに,強盗の目的で建設会社の従業員を装ってその玄関から侵入し,その頃,同所において,Cに対し,その顔にガムテープ様のものを巻き付けるなどした上,単独で,又はCの殺害についても甲と共謀して,殺意をもって,Cの頸部をひも様のもので強く絞め付けるなどしてその反抗を抑圧し,同人所有の現金約2万5000円及び耐火金庫等12点(時価合計約38万円相当)を強取したものの,同人に入院加療56日間を要する両肩関節運動障害等の傷害を負わせるにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。
(事実認定の補足説明)
第1
1
判示第1の事実(第1事件)について
争点等

第1事件の主たる争点は,①被告人と甲及び乙との間に強盗目的でBを殺害する共謀があったか,②被告人らのAに対する行為態様とAに対する殺意があったかである。
争点①について,検察官は,被告人らの計画内容やBが殺害された前後の被告人らの行動等に照らして,強盗目的でBを殺害する共謀があり,それは,被告人がBの殺害を甲に指示し,甲らがこれを承諾していたことから一層明らかであると主張する。これに対し,弁護人は,Bの殺害は,甲らが勝手にしたことであり,また,強盗の機会に行われたものともいえないと主張する。
争点②について,検察官は,被告人がAの首をロープ様のもので強く絞めて殺害したのであって,殺意があったと主張するのに対し,弁護人は,Aの顔にバスタオルを掛けて目や口をふさごうとしたが,バスタオルが首に掛かるなどしてAが死亡してしまったのであって,殺意はなかったと主張する。
2
前提となる事実関係
関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,弁護人及び被告人も格別争って
いない。
犯行に至る経緯
被告人は,平成10年5月頃,兄から,その経営する会社名義で購入した車のローン代金の支払を強く求められ,また,消費者金融等からの借金を抱え,これらの債務を弁済する資金を必要としていた。被告人は,閉店後のぱちんこ店から現金を強奪することを企て,甲を誘い入れた。被告人は,ぱちんこ店を幾つか回り,P店に目を付けた。被告人は,甲とともに,ビニールひもや軍手等を準備し,強盗の機会をうかがったが,複数の従業員が残っており,実行には至らなかった。被告人は,その後,同店の営業部長であったAを尾行し,その自宅を突き止めた上,電話帳でA方の電話番号を調べ,アンケート調査を装って電話をかけて家族構成を調べるなどした。また,被告人は,乙も誘って仲間に引き入れた。被告人は,A方でAを待ち伏せてAからP店の鍵を奪い,同店内の現金を盗み出すという計画を立て,これを実行することにした。A方への侵入
被告人らは,同年6月28日,乙の自動車(以下乙車ともいう。)でA方に向かい,その付近に同車を止めた。同日午後4時30分頃,被告人らは,A方に無施錠の玄関から侵入した。現場に指紋を残さないよう軍手等をはめていたが,いずれも覆面やマスク等で顔を隠すことはしていなかった。Bの殺害とA方の金品の奪取
被告人は,侵入後,直ちに2階(なお,同階は,主として夫婦の寝室,子供の寝室,遊び部屋の3室から成る。)に行き,寝室のベッド上に下着姿でくつろいでいたBを見付けると,その口を軍手をはめた手で塞ぎ,静かにするように言った。被告人は,Bとともに1階に下りた。A方1階は,東側ほぼ中央に玄関があり,その前の廊下の南側突き当たりに台所,その東側にリビング,同廊下の北側突き当たりに和室があり,同廊下の西側に南から順にトイレ,洗面所,浴室がある。被告人及び甲は,主に和室でBと過ごし,乙は,被告人に言われて主にリビングで長男D,次男Eの兄弟と過ごした。Bは,途中,被告人らに夕食のほか,酒やつまみを提供した。Bが夕食の仕度をするため台所に向かうと,被告人も付いていくなどした。被告人らは,Bとともに飲食したが,軍手等ははめたままだった。なお,Bは,同日午後8時過ぎ頃,A方にかかってきた電話に応答した。
被告人は,その後,乙車を移動させるなどと言ってA方を出た。被告人がA方を出ている間に,Bは首を絞められて窒息死した。被告人は,A方に戻り,Bの死亡を知った。被告人は,間もなく,甲及び乙に対し,居宅内を物色するように言い,被告人らは手分けして金目の物を探した。乙がBの財布を見付け,中にあった現金約6万円を3人で等分した。被告人は,Bの死体が横たわったまま放置されていた和室内を物色し,押し入れ内にあった金庫を見付けた。さらに,被告人は,同日午後11時23分頃,Bの生存を偽装するため,A方固定電話を使用して電話をかけた。
Aの殺害等
被告人らは,Bの死体を和室に放置したまま,Aの帰宅を待った。Aは,翌29日午前1時頃に帰宅し,間もなくBの死体を発見した。Aは,すぐに2階に行き,寝ていたDを起こし,

お母さんが死んでいるかもしれないから,110番する。

などと言って1階に下りた。そして,リビングに向かう途中,洗面所に隠れていた被告人らに襲われ,窒息死した。
被告人らは,Aから鍵束を奪い,その腕からブレスレットも奪った。さらに,和室で発見した金庫を持ち出して奪った。
犯行後の行動
被告人らは,飲食に使用した食器類等を持ち去ったほか,BとAの死体をAが使用する自動車のトランクに押し込み,高浜市内の団地内に車ごと放置した。そして,被告人らは,乙車でP店へ行き,被告人と甲が,Aから奪った鍵で出入口を開けて侵入しようとしたが開けることができず,同店内の現金を盗むことを諦めた。
3
Bの殺害についての共謀があったか(争点①)について上記のとおり,被告人は,Bが殺害された時にA方にいなかったのであるから,被告人がA方を出るまでに甲及び乙との間でBを殺害することを共謀したといえるかについて検討する。なお,甲は,公判廷において,被告人にBの殺害を依頼された旨供述しており,これは,Bの殺害について被告人らの間に共謀があったことを直接的に示す証拠であるが,検察官も,必ずしも共謀の存在の立証を甲の上記供述に依拠しているわけではないので,甲の上記供述はひとまず置いて,関係する諸事情から検討することにする。
まず,関連する事実として,そもそも,甲と乙を犯行に誘い入れ,A方への強盗計画を立て,犯行を主導したのは,被告人であるということがある。つまり,上記認定のとおり,被告人は,A方に侵入して直ちに強盗に着手し,乙に対しDとEのいるリビングにとどまるように言い,Bが殺害された後,甲と乙に室内を物色するように言い,A方を出た後,Aから奪った鍵を持ってP店に出向いた。終始自ら率先して犯行に及んでおり,Bが殺害される場面こそ,現場にいなかったものの,それ以外の犯行遂行過程においては,常に甲及び乙と行動を共にしていた。このような被告人主導の犯行において,甲又は乙が被告人のあずかり知らないところでBを殺害することは,何か突発的な事態が生じたのでもない限り考えにくい。
次いで,被告人らがA方に侵入してからBを殺害するまでの状況から,Bが殺害されるに至った経緯に関して検討してみる。
被告人らの計画は,P店店内の現金を盗むことを最終的な目的とし,その前提として,A方で帰宅したAからP店の鍵を奪うというものであった。しかし,被告人らは,Aが深夜に帰宅することを知っていたのに,夕方にA方に侵入した。A方は,駐車場に水上バイクが置かれているなど,裕福な生活をうかがわせる外観であった。そして,被告人らは,Bが殺害された後,間もなく室内の物色を始めて,B所有の現金を奪っている。これらの事情からすると,金欲しさにぱちんこ店の現金を盗む計画をしていた被告人らが,A方にある金品を強取の対象として想定していなかったとは考えられない。被告人らは,A方内の金品を奪うことをも目的としていたと認められる。
そして,被告人は,上記認定のとおり,A方に侵入すると直ちに,寝室にいたBの口を塞いで静かにするように言った。無防備な状況で,突如2階の寝室内まで侵入してきた見知らぬ男性からこのような行為をされれば,抵抗することができないのが通常であり,Bもそのような状態に陥ったといえる。Bは,その直後に,甲及び乙も自宅に侵入していることを知り,当時自宅には8歳と6歳の子供たちもいたのであるから,なおさらである。
Bが置かれていた状況について,弁護人は,Bが危機感を持っておらず,その後も抵抗することなく,被告人らと飲食を共にするなどして過ごしたと主張し,被告人も,Bに対してAの知人であるとか,やくざに追われているなどと説明し,納得してもらったかのように供述する。しかし,Aの知り合いが,断りなく自宅に上がり込み,口を塞いで静かにするように言い,その後も軍手等をはめたまま過ごすという異様な行動をするはずがない。Bが被告人らのうそを信じたとは到底考えられない。Bのその後の行動は,自分と幼い子供二人がそれぞれ被告人らの監視下にあり,逃げ出して助けを求めるなど,被告人らの意に反するような行動をとることができないという状況で,自分や子供たちに危害が及ぶことを何とか回避したいと考えながら,被告人らに話を合わせるなどして気丈に振る舞っていたとみて間違いない。Bは,被告人らが少なくとも何らかの犯罪を目的として自宅に侵入したことを認識していたというべきである。
こうして見ると,被告人がBの口を塞いだ時点で,被告人らは,A方の金品を強奪することをも目的とする強盗に着手したといえる。また,その後,被告人らがB,D及びEと過ごしていたのは,Bらが警察などに通報したり,逃走したりしないように監視する目的であったと考えられる。反面,被告人らは,侵入後数時間にわたってBらと過ごし,Bに顔や体格等の特徴を把握されてしまった。Aの帰宅時間が次第に近づき,そのままではAとBの二人に対応しなければならなくなるという状況を踏まえて,被告人らには,Bの抵抗を排除して強盗を遂行するため,そして,犯行の発覚を防ぐため,Bを殺害する動機が生じていたと考えるのが合理的である。この動機は,被告人ら3人に共通するものと理解できる。
改めて,被告人がA方を出ていた間に突発的な事態が起きた可能性について
人が戸外に出たとしても,なお二人の男が居宅内にいるのであるから,Bが何らかの行動を起こすことは考えにくい。甲は,相当量の飲酒をしたと思われるが,Bに対し,乱暴するような行動に出た形跡はなく,その他,証拠上,Bの殺害前に,Bと甲又は乙との間で殺害の契機となり得るようないさかいがあったことをうかがわせる具体的な事情は全くない。仮にそのような事情があれば,甲又は乙がA方に戻った被告人に直ちに何が起こったかを説明するであろうが,そのような説明がされたことをうかがわせる事情は何もない。
そうすると,何か突発的な事態が生じたことによって,甲らがBの殺害を決意した可能性は極めて低く,弁護人及び被告人が主張するように,甲と乙が被告人のあずかり知らないうちにBを殺害したということは考えられないといってよい。
さらに,Bが殺害された後の被告人の行動を見ると,被告人がBを殺害した甲らをとがめたり,被告人らがもめたりすることはなかった。そればかりか,甲らに室内を物色するように言い,自らBの死体の横たわる和室を物色するなどしている。被告人は,Bの殺害が予期せぬ出来事であったとすれば当然にとるはずの行動をとらず,むしろその状態を冷静に利用して,強盗の目的を遂げるための行動に出ている。
以上検討したところを整理して,Bの殺害について被告人と甲及び乙との間に共謀があったかどうかについてみると,まず,Bの殺害は,被告人主導の強盗の過程で行われたものであって,被告人がA方を出ていた間に突発的な事態が起きた可能性は乏しく,被告人のあずかり知らないところで甲や乙によって勝手に行われたとは考えられないというべきであり,このことは,被告人には甲,乙とも共通するB殺害の動機があったこと,Bが殺害された後,被告人がBの殺害が想定外ではなかったことをうかがわせる行動をとっていることからも,十分に裏付けられているといえる。そうすると,被告人は,A方を出るまでの間に,甲又は乙と話し合うなどして,Bを殺害することを了解していたものと認められる。
このことは,被告人が,検察官による弁解録取の際,乙車を取りに行く前に,Bを殺害することについて甲と乙と何らかの話をしたように思う旨,任意に供述していることとも符合する。
よって,被告人と甲及び乙との間でBの殺害について共謀があったと認められ,被告人にはBに対する強盗殺人罪が成立する。
ところで,上述したように,甲は,公判廷において,被告人から

乙と一緒に奥さんを殺しといてくれ。

とBの殺害を依頼された旨供述している。真実であれば,共謀の事実をより顕著に示すものといえる。
しかし,甲の公判供述は,後述するとおり,事実と異なる内容を述べる部分があり,自分の責任を軽減させようとする意図がうかがえる。上記の供述は,被告人がB殺害を甲に一方的に指示したとも理解できる内容であり,甲が自分の責任を軽減させるために虚偽を述べている可能性が否定できないので,高い信用性は認められない。
甲らがBを殺害した態様について検討しておく。Bの死体を司法解剖した医師Xの公判供述によれば,その死因は窒息死としか特定できない。この点に関する証拠は,甲がBの首にひもを巻き付け,甲と乙がそれぞれひもの端を持って引っ張り合ったという甲の公判供述のみである。上記のとおり,甲の供述には信用し難い部分があるが,甲自身がBの首をひも様のもので絞めた旨の供述は,甲にとって不利益な事実を認める内容であり,あえて虚偽を述べたとは考え難く,司法解剖の所見とも矛盾しないことからすれば,乙が殺害に関与したか否かはさておき,甲がひも様のものでBの首を絞めて殺害したという限度では信用できるので,その限りで認定することとする。
4
Aに対する殺意の有無等(争点②)について
医師Xの公判供述によれば,Aの死因は頸部圧迫による窒息死と考えられる。死体頸部に索状痕を認めることはできないが,死体の腐敗が進行したためとも考えられるので,ビニールや綿といった比較的柔らかい素材のひも様のものやタオルで首を絞められたとしても矛盾はない。また,頸部を圧迫して人を死亡させるには,気道及び頸動脈を閉塞させるような強い力で,3分以上首を絞め続ける必要がある。
次に,犯行状況の一部を目撃したDの供述を見ると,Aが殺害された際の状況について,Dの捜査段階の供述は,Aに起こされて,Aの後に付いて1階に下りると,Aは,洗面所付近の廊下で,洗面所付近から出てきた男に押されて,壁に頭を打ちながら倒れ,男のうち一人がAに乗った。別の男がAの腕等を持ち,もう一人は,玄関の方にいた。玄関の方にいた男は,ピンクの手袋をはめていた。Aは,このやろうなどと言って抵抗していた。というものである。なお,Dは,リビングで一緒にテレビを見ていた男がピンクの手袋をはめていたとも供述している。
また,Dの公判供述は,この状況について,Aから少し遅れて1階に下りると,Aは,廊下で1人の男に背中から羽交い締めにされており,その後,押し倒されて,壁で頭を打った。そして,羽交い締めの男とは別の男に馬乗りになられた。この馬乗りになった男は,大きめの体格の男だった。その男が何をしていたか,何を手に持っていたかは分からない。最初二人で,途中から3人になったような気がするが,もう一人の男は,洗面所の辺りにいて,見ていたと思う。というものである。捜査段階の供述は,事件から約8日後,当時8歳のDが記憶を率直に述べたもので,表現の適切さに留意すべきであるが,内容に不自然,不合理な点もないから,基本的に信用できる。そして,公判供述は,記憶が断片的で曖昧なところがあるが,約17年前のことであるから,やむを得ないし,むしろ,記憶にない点は,その旨はっきりと述べ,現在より事件当時の記憶の方が正しいと思うとも率直に述べている。捜査段階の供述内容と比べると,Aに対する行為に加わっていない男がいた位置が異なる嫌いがあるが,玄関の方と洗面所の前辺りとはさして違いがあるわけではない。また,公判供述には,捜査段階の供述には見られない羽交い締めとか馬乗りといった表現が使われているが,当時8歳のDにそれらの表現をすることが難しかったとみれば,相違するとまではいえない。
そうすると,Dの上記各供述は,大きな変遷はなく,おおむね符合しており,少なくとも互いに矛盾しない範囲では十分に信用できるというべきである。そして,それによれば,ピンクの手袋をはめていた男(公判供述では洗面所の辺りにいた男)は乙と推認でき,さらに,被告人と甲の体格差に照らすと,Aの上に乗っていた男が被告人で,腕等を持っていたのは甲であると推認できる。Aに対する行為態様について更に検討すると,甲は,公判廷で,被告人がAに馬乗りになって,ひも様のものでAの首を絞めた,自分はその様子を被告人の後方に立って見ていた,その時乙がどこにいたのか分からないと供述する。しかし,Dの供述によれば,甲は,Aを羽交い締めにし,あるいは,その腕等を持つなどして,Aに襲いかかったものと認められる。しかし,甲は,自分は見ていただけであるなどと,これを否定する供述をしており,自己の責任を軽減させようとする意図がうかがえる。甲の供述は,被告人が馬乗りになったという限度ではDの供述と整合的であるが,被告人が一人でAの首を絞めたという核心部分の供述まで信用することはできない。
被告人は,Aが死亡するに至った経緯について,次のように供述した。Aの目や口を塞ぐため顔にバスタオルを掛けようと,バスタオルを両手で,自分の肩幅くらいに広げてAの頭に振り下ろした。その際,被告人の肘がAの背中に当たり,Aが転倒し,被告人も覆いかぶさるように倒れた。Aが暴れたので抵抗を抑えようと,バスタオルを持った両手を交差させ,自分の手首の辺りをAの身体に当てて押さえ込んだ。被告人が右手に持っていたバスタオルの一端を,左方にいた共犯者が受け取り,これを引っ張った。二,三分するとAの力が一気に抜け,Aが死亡したことが分かった。しかし,そもそも,被告人が供述するような体勢で,しかも,抵抗を抑えようとしているにすぎないのに,人を窒息死させるような強い力で3分以上首を絞め続けてしまうことなどあり得ない。また,被告人は,捜査段階で検察官に対し,Aの首にビニールひもを巻き付けて絞めた後,その一端を甲か乙に渡して,それぞれ引っ張り,Aが絶命するまで絞め続けたと供述していた。また,警察官が準備した複数のひもを実際に手に取って確かめ,太さ,形状,材質及び感触から,A殺害に使用したひもとほぼ同じものと思うひもを選び出していた。この変遷の理由について,被告人は,起訴後,弁護人から差し入れられた捜査記録を見ていた際,トランク内に入れた死体に掛かっていたバスタオルの写真を見て,記憶が喚起されたという。しかし,被告人は,上記のように非常に具体的に,凶器がひもである旨供述していたのであり,それが真実バスタオルであったのなら,上記のようなことがあるまで記憶が喚起されなかったというのは不合理である。しかも,被告人らは,本件犯行の際,軍手等をはめたり,飲食の際に使用した食器類を運び出したりするなど,現場に痕跡を残さないための工夫をしていたのに,殺害に用いたバスタオルを,死体に掛けて放置するというのも,不自然である。
弁護人は,被告人らの計画上,AからP店の鍵を奪うだけではなく,同店の鍵の開け方,セキュリティシステムの解除方法等を聞き出すことが不可欠であり,Aを殺害してしまっては計画が頓挫してしまうのであるから,殺害を共謀したことはあり得ないと主張する。確かに,Aから上記のような情報を得た上で犯行に及ぶ方が,より成功しやすいであろう。しかし,被告人らは,Bの死体を和室に放置したままAの帰宅を待ち伏せした。AがBの死を知れば,容易に情報を得られないことは想像に難くないから,被告人らは,Aから鍵さえ奪えばどうにかなると安易に考えていたと思われ,これは,A方での犯行後,奪った鍵を持って現にP店に赴いたことにも表れている。
以上によると,被告人の供述は全く信用できない。
もっとも,被告人が捜査段階において,被告人がAの首をビニールひもで絞めた後,甲か乙とも一緒に,Aが絶命するまで絞め続けた旨供述していたことは,上述のとおりである。この供述は,被告人がAの首を絞めた際の両名の体勢やそれに至る行動が具体的でないものの,Aを殺害したことを認める被告人に不利益な内容であり,また,凶器については,相当具体的な供述をしていたことからすると,凶器の一端を甲又は乙も引っ張ったかどうかは不明であるが,被告人がビニールひものようなものでAの首を絞めたことは間違いないといえる。
以上によれば,被告人は,Aが首をひも様のもので3分以上強く絞められ,窒息死させられた際,Aに馬乗りになっていたと認められ,さらに,一人で,Aの首を絞めたか,あるいは,甲又は乙とともに首を絞めたかのいずれかであると認められる。人の首を3分以上強い力で絞めることは,人が死亡する危険性の高い行為であり,自ら少なくともその一部を行っていた被告人に殺意があったことは優に認められる。そして,Aの殺害について甲及び乙との共謀の存在に疑いを生じさせる事情もない。
第2
1
判示第2の事実(第2事件)について
争点等
検察官が当初設定した訴因(主位的訴因)の要旨は,次のとおりである。被告人は,甲と共謀の上,金品を強取する目的で,平成18年7月20日午後零時20分頃,建設会社の従業員を装って,C方にその玄関から侵入し,その頃,同所において,Cの顔にガムテープ様のものを巻き付けるなどした上,殺意をもって,同人の頸部をロープ様のもので強く絞めつけるなどしてその反抗を抑圧し,同人所有の現金約2万5000円及び耐火金庫等12点(時価合計約39万円相当)を強取したものの,同人に入院加療56日間を要する両肩関節運動障害等の傷害を負わせるにとどまり,殺害の目的を遂げなかったものであるが,甲においては,強盗の犯意を有するにとどまったものである。主位的訴因に係る検察官の主張は,要するに,被告人がCの首を絞めて殺害しようとしたというものであった。弁護人は,Cの首を絞めたのは甲で,被告人は甲がCの首を絞めるのを制止しており,殺意がないから,強盗致傷罪が成立するにとどまると主張した。
検察官は,事実認定に関する中間論告を経た後の平成27年11月27日,裁判所の勧告を受けて,予備的に次の訴因を追加する旨の訴因等の変更請求をし,裁判所はこれを許可した。
被告人は,甲と共謀の上,金品を強取する目的で,平成18年7月20日午後零時20分頃,建設会社の従業員を装って,C方にその玄関から侵入し,その頃,同所において,Cの顔にガムテープ様のものを巻き付けるなどした上,殺意をもって,被告人若しくは甲又は被告人及び甲の両名が同人の頸部をロープ様のもので強く絞めつけるなどしてその反抗を抑圧し,同人所有の現金約2万5000円及び耐火金庫等12点(時価合計約38万円相当)を強取したものの,同人に入院加療56日間を要する両肩関節運動障害等の傷害を負わせるにとどまり,殺害の目的を遂げなかったものである。第2事件の争点は,主位的訴因については,実質的に,検察官がその立証の柱に据える甲の公判供述の信用性であり,予備的訴因については,殺害の共謀の成否である。裁判所は,判示のとおり,甲に強盗殺人の犯意があったか否かまで確定することはできないが,被告人に強盗殺人未遂罪が成立することは認められると判断したので,その理由を説明する。
2
前提となる事実関係
関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,弁護人及び被告人も格別争っていない。

被告人は,平成16年頃,判示のC方が新築された際,その外壁工事に携わったことがあり,C方が高齢の女性の一人暮らしで,金銭的に余裕がありそうだと考えて,C方に強盗に入ることを甲に提案した。


C方の敷地は,北側で道路に接し,間口が狭く奥行きのある形状である。道路に接して駐車場があり,その南側が平屋建てのC方で,北西に玄関がある。玄関を入ると東側にリビングダイニングがある。その北側が寝室,南側が洋間となっており,玄関の南側には,順に台所,便所,洗面所及び浴室がある。洋間の南にはウッドデッキがある。寝室,リビングダイニング,洋間のそれぞれの間には,三枚引き戸等の間仕切りが設けられており,それらを(戸袋にしまうなどして)開けると3部屋がひと続きとなり,全体を見渡すことができる。事件当時も,間仕切りはほぼ開けられた状態であった。

被告人及び甲は,平成18年7月20日,甲の軽自動車(以下甲車ともいう。)でC方に向かい,その付近に同車を止めた後,同日午後零時20分頃,強盗の目的を秘し,C方の新築工事をした建設業者の名をかたり,定期点検を装ってC方にその玄関から侵入した。被告人は,ウッドデッキに出たり,浴室に入ったりして点検の振りをした後,終了を告げて玄関に向かった。Cは,被告人らを見送ろうとしたところ,玄関付近で脅迫され,寝室に連れて行かれて,ベッドに南向きに腰掛けさせられた。Cは,顔や首にガムテープを巻き付けられたが,目の手術をしたばかりなので目にガムテープを貼るのはやめてと言うと,甲が顔からガムテープを外した。


被告人は,各部屋を物色し,甲は,Cのそばに立ってCを見張った。甲は,Cに「ごめん。」などと言うことがあった。Cは,キャッシュカードの暗証番号を聞かれた記憶はないものの,娘が管理しているので分からないと言ったことがあった。被告人が金庫を見付け,それを座布団袋に入れた。その頃,被告人と甲との間で車を取ってこようかという会話があった。

甲は,駐車場所まで甲車を取りに戻り,同日午後零時40分過ぎ頃,C方の駐車場に同車をとめた。甲は,その後,C方に入らず,少なくとも四,五分は同車の運転席に座っていた。その後,被告人らは,C方から持ち出した金庫等を甲車に積み込み,C方から立ち去った。


Cは,被告人らが車を取ってこようかという会話をした後からC方を立ち去るまでの間に,首を絞められ,意識を失ったが,同日午後2時頃,寝室ベッド横の床に倒れた状態で意識を取り戻し,病院に搬送された。

Cの搬送先病院の主治医であった証人Yの公判供述によれば,Cが意識を失った原因は,Cが細いひも状のもので,かなり強い力により3分ないし5分程度の間,首を絞め続けられたためと認められる。また,搬送時のCの写真を見ると,頸部に横方向の索状痕が2本認められる。
3
主位的訴因について
検察官が主として依拠する甲の公判供述は,

甲が甲車を取りに行き,C方に戻ったところ,被告人は,ベッドに腰掛けているCの後ろで,ベッドに膝立ちになって,ロープでCの首を絞めていた。その後,被告人から,「何かまだしゃべってるから代わってくれ。

と言われた。Cは,既に死んでいる様子であったが,甲は,ベッドから床に倒れたCに馬乗りになり,その首を絞める振りをした。」というものである(以下(甲の)本件供述という。)。甲の本件供述は,甲にとって都合の良い内容であり,その信用性は,慎重に検討しなければならないところ,以下のとおり,甲の本件供述は,それのみに依拠してCを殺害しようとした態様を認定し得るほど高い信用性を認めることはできない。

まず,甲は,公判廷において,次のような供述もしている。すなわち,被告人は,点検の振りを終え,ベッドとリビングダイニングの間くらいの場所で,Cの顔をガムテープでぐるぐる巻きにした。自分は,それを見て,被告人がやろうとしているのが強盗だと分かった。包丁のことは記憶にない。しかし,Cは,この甲の供述とは明らかに異なる供述をしている。そこで,Cの供述の信用性を検討すると,公判廷で取り調べたCの供述は,①平成18年8月24日付け警察官調書一部写し,②平成24年11月15日付け実況見分調書一部写し(同月4日に実施された被害状況再現),③公判供述である(なお,Cは,いずれの供述機会においても,犯人の男二人を体格の違いから大きい方,小さい方と区別して供述しているところ,甲の公判供述によれば,被告人は甲よりも身長が10センチメートル以上高く,これは裁判所にも明らかな事実であるから,大きい方を被告人,小さい方を甲と認め,Cの供述を引用する際には,そのように言い換えることとする。)。これらを対比すると,①②の各供述内容は,おおむね同旨であり,詳細で具体的でもあるのに対し,③は全体的に曖昧で,①②で供述した内容について記憶にない旨述べる部分も多い。事件から③の供述をするまで約9年が経過していることなどを考えると,事件から1か月ほどで述べた内容を録取された①の方が,信用性が高いといえる。もっとも,Cは,意識を失った原因を含め,意識喪失前からの記憶が欠落しており(証人Yの公判供述によれば,首を絞められ酸欠状態に陥ったことにより,その前の記憶が失われる逆行性健忘という症状によるものと理解できる。),公判廷でも,①の作成当時は入院中で体調も万全とはいえず,今では供述をしたことさえ全く覚えていないなどと述べ,また,②の作成時も体調が悪かったと述べていることも考えると,①②の供述の信用性もなお慎重に評価する必要がある(特に,①では,甲からひものようなものを首に巻き付けられ,息ができなくなるくらいに絞められた,被告人が殺すなよと言ったと述べたが,③では,甲がひもを持っていたことは覚えているが,ひもを巻き付けられたかは覚えていないし,首を絞められたとしてもすぐに外されたと思う,被告人が殺すなよと言ったのは覚えていないと述べており,この部分は(甲に有利に,ひいては被告人に不利に)大きく変遷しているともいえる。)。
しかしながら,それでも,Cは,次の内容については,①から③まで一貫して供述している。すなわち,甲は,当初から紙袋を持っていた。被告人が点検を終えて,見送ろうとしたところ,甲は,玄関への通路に立ち塞がり,紙袋から出した包丁を脇腹に突き付けてきた。寝室に連れて行かれ,そこで,甲が,ガムテープを目や首に何重か巻いた。この供述は,その内容を見ても,甲が持っていた紙袋と関連付けて述べるなど,合理性がある上,甲に関して,他に,ガムテープを外してくれた,「ごめんな。」と言ったなど,甲に有利な内容の供述もしていることも考えると,信用性は高いというべきである。
そうすると,甲は,信用性の高いCの供述と異なり,包丁の突き付け行為を否定し,ガムテープを巻いたのも被告人の行為と述べていることになる。甲がそのような供述をする理由は,記憶の欠落,変容等も考えられないではないが,いずれにせよ,自己の責任を軽減させる方向に事実と異なる供述をしているとはいえるから,あえて虚偽を述べている可能性があり,本件供述の部分に関してもあえて虚偽を述べている疑いが払拭し得ない。

加えて,甲は,本件供述の場面について,捜査段階では,

被告人は,ベッドに腰掛けているCの正面に立って,その首を絞めており,甲の方を振り向いて,首を絞めるのを交代するように求めてきた,甲は,ベッドの上でCの首を絞める振りをした。

旨供述していた。この供述内容は,被告人の姿勢,Cとの位置関係,甲が首を絞める振りをした場所等の重要な点について,本件供述と異なっている。しかるに,このように供述を変えた理由については,単に思い出したと述べるだけである。甲の供述を前提にすると,甲は,被告人がCの首を絞めていることを知って相当に衝撃を受けたはずであるし,Cの首を絞める振りをしたということも印象に残る出来事のはずである。このような出来事について重要な点で大きく供述が変わるのは不自然である。ウ
甲の本件供述は,Cが重篤な状態に陥りながらも一命を取り留めたことを
よく説明する節もある。また,上記のとおり,甲が車を取りに行ってC方駐車場に同車をとめた後,四,五分運転席で座っていたことが認められ,これも甲の本件供述と整合するとみる余地がある。さらに,被告人が,主体的に犯行を行い,犯行発覚を強く恐れる行動に出ている事実経過や,他方,甲が,Cの目に貼ったガムテープを外したり,Cにごめんと言ったりしたことなど,Cを殺害する意図を有していなかったことをうかがわせる事情とも合うこと,第2事件について捜査が進展したのは,甲が告白したことを契機とすることも,甲の本件供述の信用性を高める方向に働く事情である。しかし,これらは,いずれも甲の供述どおりの事実関係でなくとも説明ができ,つじつまが合わないというわけではないから,甲の本件供述の信用性を積極的に裏付けるものとまではいえない(Cが一命を取り留めたのは偶然とも考えられ,四,五分の運転席での待機も,緊縛等をされていないCをそのままにして被告人が金庫等を運び出すのを待っているということ自体不自然との見方もできる。)。なお,検察官が捜査報告書によって甲供述の裏付けとして示した事情は,いずれも周辺事情にすぎず,甲の本件供述の信用性を高めるものとはいえない。

そうすると,ウで挙げた諸事情を考慮しても,上記ア,イの事情がある以
上,甲の本件供述の部分のみの信用性をさして高いものと認めることはできず,その供述に依拠して,その供述どおりの被告人に不利益な事実を認定することはできない。取り分け,甲が車を取りに出る前に,Cが首を絞められたとの合理的な疑いが払拭し得ないというべきである。
甲の本件供述を除けば,甲との間に殺害の共謀なく,被告人のみがCの首を絞めたとの事実関係を認めるに足りる証拠はなく,主位的訴因は認められない。4
予備的訴因について
Cが細いひも状のもので,かなり強い力により3分ないし5分程度の間,首を絞められる被害に遭ったことは,上記で認定したとおりである。人の首を3分ないし5分程度,強い力で絞めることは,人が死亡する危険性の高い行為であり,そのような行為をした者も当然そのことを認識していたと考えられ,殺人の実行行為に当たる。第2事件当時,C方には,Cのほか,被告人と甲しかいなかったから,そのいずれか又はその両名が殺人の実行行為をしたことになる。
この点,弁護人は,被告人の供述に基づき,Cの首を絞めたのは甲一人であり,その時,被告人に殺意はなかったと主張する。被告人の公判供述の内容は,被告人がC方リビングダイニングの西側壁に設置されているインターフォンを壊そうとしていたところ,バタンという音が聞こえ,音のした寝室の方に目を向けると,甲がCに馬乗りになって首を絞めていたので,被告人は何度もやめるよう言ったが,甲がやめようとしないので駆け寄ったところ,ようやく甲が手を緩めた,Cの様子から死んでいないことが分かり,ほっとしたというものである。
しかし,被告人は,バタンという音を聞いて,間もなく甲がCの首を絞めていることに気付き,それを制止したというのであるが,これは,Cが3分ないし5分程度の間,首を絞め続けられたという客観的に認められる事実と整合し難い(被告人と甲とがせいぜい数メートルしか離れていなかったことなどに照らすと,バタンという音がする前に,甲がCの首を相当時間絞めているのに気付かないはずがない。)。
また,被告人の供述は,余りに不自然である。Cが抵抗したり,逃げようとしたりしたという事情はうかがわれないのに,甲が突如として首を絞めるに至るのは,不可解である。被告人は,Cが逃げ出したんだろうと思ったとも供述するが,C方の構造や被告人が立っていた位置からすると,被告人がCの異変に気付かないはずがない。そもそも,被告人は,第2事件の頃,金銭を必要としており,C方に建設会社の従業員を装って侵入し,その後,強盗をするという計画を立てた上,これを実行したことは間違いない。これに対し,甲は,当初の脅迫の点を除いて,Cの目隠しとなるガムテープを外したり,物色行為に加わらずにCの動静を監視したりするなど,関与は消極的である。このような甲が,被告人の意に反して,Cの首を絞めることは考え難い。
さらに,被告人は,一旦C方を出た後,金庫をこじ開けたり,奪ったキャッシュカードでATMから金銭を引き出そうとしたりした後,再びC方に戻ろうとしたが,既に警察官が到着しており,引き返したと供述する。この点は,甲も同旨の供述をしており,供述するとおりの事実があったと認められる。被告人は,Cが生きていると認識していたと供述するが,そうであれば,C方に戻ることは,意識を取り戻したCや通報で駆け付けた警察官と鉢合わせしかねない危険な行動である。被告人は,Cが死亡していることを前提として行動していたとみるべきで,被告人の供述はこれとそぐわない。
以上の点に加えて,被告人は,時期は定かではないが(平成27年7月頃までとして違和感はないとも述べた。),甲がCの首を絞め,被告人自身もそれを手伝ったとの説明をしていた旨供述しているが,これを翻して甲が一人で絞めたなどと述べていることについて,合理的な理由を説明していない。したがって,被告人の公判供述は,信用することができない。
以上を総合すると,殺人の実行行為である首絞め行為を誰が行ったかについて,甲及び被告人の各供述をいずれも信用することができず,Cにも記憶がないから,被告人若しくは甲又は被告人及び甲の両名が行ったという各場合が考えられるということになる。なお,その行為に及んだ時点は,被告人及び甲の行動から,甲が車を取りに行く前であった可能性がより高いといえるが,その後であった可能性も否定できない。
そこで,各場合における被告人の刑事責任について更に検討すると,被告人又は被告人及び甲の両名が首を絞めた場合は,被告人に強盗殺人未遂罪が成立することは明らかである。
甲一人で絞めた場合のうち,甲が被告人との殺害の共謀なく一人で絞めた場合は,被告人に強盗致傷罪が成立するにとどまるから,その可能性があるか検討する必要がある。C方は,平屋建てで,事件当時,寝室,リビングダイニング及び洋間の間の各間仕切りはほぼ開かれていて,各部屋の全体を見渡すことができる状態になっていたから,被告人及び甲は,互いの行動を確認し,またCの動静も確認することができたと考えられる。そうすると,仮に甲が一人で,Cの首を絞める行為に及んだとしても,何らかの声や物音もするはずであるから,被告人がこれに気が付かないとは考えられない。そして,首を絞める行為は,3分ないし5分程度続いたのであるから,被告人は,これを制止しようと思えばできたはずであるのにそれをせず,甲が首を絞め続けるに任せたことになるし,甲においても自己の行動を被告人が制止しない以上,少なくとも自己の行動を容認していると考えたはずである。以上に反して,何らかの理由で,被告人が気付かないまま甲がCの首を絞め,あるいは,被告人の制止が効を奏しなかったという可能性は非常に考えにくい。仮に,そのような事情があれば,被告人にとって最も有利な場合であるから,被告人としては,そのまま供述すればよいのに,上述のとおり,被告人が被害の客観的状況とそぐわない不合理な供述しかしていない。また,被告人は,犯行の際には,インターフォンに被告人と甲がC方を訪れた際の様子が録画されている可能性を考えてこれを破壊したり,C方に置き忘れたC方外壁工事の手配書を取りに戻ったりするなど,自己と結びつく証拠が現場に残ることを恐れていたことがうかがわれる。他方,被告人は,C方の新築工事を行った元請の建設会社の従業員をかたって,C方に侵入し,覆面や変装をすることもなく,点検をする振りをした上,犯行に及び,その間,Cから顔を見られていた。そうすると,被告人において,犯行の発覚を防ぐため,Cを殺害する動機を有していたと考えられるから,仮に甲が一人でCの首を絞める行為に及んだとしても,それを容認することも,自然な流れともいえる。
以上によれば,仮に甲が一人でCの首を絞める行為に及んだとしても,被告人及び甲が黙示に意思を通じて,甲が3分ないし5分程度,Cの首を絞めるに任せたと認められ,被告人に,強盗殺人未遂罪の成立を認めることができる。なお,被告人が一人でCの首を絞めたとした場合,甲については,車を取りに行くためにC方を出ていた時間があり,上記のとおり,Cの殺害とは結び付きにくい行動をとったことも考えると,甲が公判廷で述べたとおり,被告人が,甲と共謀することなく,Cの首を絞めたという可能性もまた否定することはできない。
よって,被告人と甲との間の共謀に関しては,判示のとおり認定した。5
被害品について
被害品のうちネックレス1本,ピアス1組,ブレスレット1本,腕時計1本に
ついて,被告人は強奪したことを否認しており,その所在も明らかでない。しかし,Cは,公判廷において,上記4点について,それぞれの形状,材質等の特徴や購入場所,およその購入価格等を説明している。また,これらの被害品は,強奪されたことに争いのない他の被害品と同様に寝室の引き出し内で保管していたが,事件後に初めて帰宅した際になくなっており,盗まれたことが分かったとも供述している。Cの供述は,具体的かつ自然であり,信用性に欠けるところはない。
したがって,上記4点も被害品であると認められる。
(確定裁判)
1
事実
平成23年4月12日名古屋高等裁判所宣告
死体遺棄,営利略取,逮捕監禁,強盗殺人,窃盗未遂罪により無期懲役刑平成24年7月18日確定

2
証拠
前科調書

(法令の適用)


判示第1及び第2の各行為のうち,各住居侵入の点
いずれも刑法60条,130条前段
判示第1の行為のうち,各強盗殺人の点
被害者ごとに刑法60条,平成16年法律第156号附則3
条1項により同法による改正前の刑法240条後段
判示第2の行為のうち,強盗殺人未遂の点
刑法60条(ただし,強盗殺人又は強盗の範囲において),
243条,240条後段

科刑上一罪の処理
判示第1

刑法54条1項後段,10条(住居侵入とB及びAに対する
各強盗殺人との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,
以上を一罪として刑及び犯情の最も重いAに対する強盗殺人
罪の刑で処断)

判示第2

刑法54条1項後段,10条(住居侵入と強盗殺人未遂との
間には手段結果の関係があるので,一罪として重い強盗殺人
未遂罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第1の罪

死刑

判示第2の罪

無期懲役刑

併合罪の処理

刑法45条後段,50条,45条前段,46条1項本文(判
示第1の罪について死刑に処するので,他の刑を科さない)

訴訟費用の不負担

刑訴法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
本件は,被告人が,共犯者2名と共謀の上,強盗目的で民家に侵入して夫婦を
殺害した住居侵入,強盗殺人(第1事件)と,その約8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上,強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入,強盗殺人未遂(第2事件)の事案である。
検察官が死刑を求刑したことに鑑み,当裁判所は,死刑が究極のしゅん厳な刑であり,その適用は慎重にすべきことを踏まえ,公平性の観点にも意を払いつつ,過去の裁判例の集積から死刑の選択上考慮すべきと考えられる要素について十分な検討を加え,死刑の選択が真にやむを得ないといえるかどうかについて考察した。その上で,本件の量刑においては,取り分け,第1事件において強盗目的で2名の尊い生命を奪ったのみならず,約8年後,第2事件においてまたしても同種の強盗を敢行し,被害者の生命を奪おうとしたことに表れている被告人の人命軽視の程度が甚だしいことを重視して,刑を定めた。以下,その結論に至った理由をやや詳しく述べる。
2
第1事件においてまず考慮すべき点は,二人の尊い生命が失われたという結果
の重大性である。A夫婦は,当時8歳と6歳の息子二人とともに,幸せな家庭生活を送っていたが,日曜日の夕方,被告人らに突然自宅に侵入され,Bは,息子らとともに長時間にわたり監視され続け,強い緊張と恐怖を強いられた挙げ句,殺害された。また,Aは,ぱちんこ店の営業部長として多忙な日々を送っていたが,休日を前に帰宅すると,妻の無残な姿を目の当たりにし,息子らの無事を確認したのも束の間,不意に背後から襲われて殺害された。いずれも,息子らを案じながら,苦しみのうちに突然人生を絶たれたのであって,二人が感じた恐怖や絶望,無念の思いは察するに余りある。息子らは,突如両親を失い,その保護や愛情,そして生活の場をも根こそぎ奪われたのであって,その後の人生にも計り知れない影響を受けた。強盗殺人の事案で死亡した被害者が2名にも及ぶことは,失われた法益の甚大さに照らし,死刑選択の方向に大きく働く事情といえる。各殺害の態様は,いずれも首にひも様のものを巻き付けて数分間絞め続け,窒息死させたものである。強固な殺意に基づく冷酷かつ残忍な犯行態様であり,被告人らの生命軽視の態度が表れている。
犯行の動機を見ると,被告人は,自動車ローンや消費者金融からの借入金を返済するため,ぱちんこ店から高額の現金を盗もうと思い立ち,Aから同店の鍵を奪うとともにA方の金品をも狙った強盗を計画し,犯行に及んだ。そして,A方に侵入した後,犯行の遂行と発覚防止のためにBとAを次々と殺害した。強盗の動機,経緯自体身勝手で酌量の余地は全くないが,利欲的な動機から殺人に及んだことは,他人の生命を甚だ軽視したものといえる。
本件の量刑上軽視できない要素は,犯行の計画性,殊に殺害の計画性の有無である。被告人は,被害者方の下見や犯行に用いる道具の準備等をし,強盗については計画して臨んだといえる。しかし,事前にA夫婦を殺害することまで計画していたかどうかについては,当初から顔を隠していないこと,ひも様のものを用意しながら手足を縛るのに使用していないことなど,それを肯定する根拠となり得る事情が幾つか存在するものの,そう断じるには十分とはいえない。殺害の計画性があれば,生命侵害の危険性を高め,生命軽視の度合いも大きいといえるから,過去の裁判例が死刑の選択に当たってそのことを重視するのには相応の理由がある。その反面,これが認められないことは死刑回避の方向に働く事情といえる。しかし,Bの殺害は,上記のとおり,犯行の遂行と発覚防止のために,甲らと意思を通じて行ったものであって,偶発的なものではない。そして,Bの殺害後,その遺体が横たわる部屋も含めて室内を物色し,Bの現金を奪った。さらに,Aの帰宅まで時間的余裕があったのに,Aの殺害をも決意し,その帰宅直後に殺害し,Aから鍵束等を奪い,A方にあった金庫を運び出し,さらには鍵束を持って当初の計画どおりぱちんこ店に赴いた。Aの殺害も突発的,偶発的なものではない。被告人らは,事態の推移に応じて二人を次々と殺害し,それをも利用して冷徹に当初の強盗計画を遂行したのである。このような被告人らの行動には,生命軽視の態度が顕著に表れており,本件において殺害の計画性がなかったことは,必ずしも死刑を回避すべき決定的な事情とはいえない。
さらに,被告人が果たした役割を見ると,被告人が二人の共犯者を仲間に引き入れるなど強盗を主導したことは間違いないが,A夫婦の殺害を主導したかについては,これを認定し得るだけの証拠はなく,被告人が殺害の実行行為に関与したのもAに対してのみである。共犯による強盗殺人の事案において殺害を主導したり実行したりすることは,その生命軽視の度合いを示す事情として重要である。Bの殺害について,被告人がこれを主導したり実行したりしていないことは,非難の程度をある程度弱める方向に働く事情である。
総じて,殺害の計画性やBの殺害についての被告人の関与の程度等を考慮しても,第1事件の犯情は,極めて悪いというべきであり,遺族である息子らのしゅん烈な処罰感情は,当然の心情として理解できる。
3
第2事件においては,被害者は,死亡するには至らなかったが,強い力で3分
ないし5分もの間首を絞め続けられて意識を失い,重度の酸欠状態に陥って,その生命が重大な危険にさらされた。結果は重いといえる。殺意は強固で執ようかつ残忍な態様であり,非力な高齢女性に対する卑劣な犯行でもある。動機については,犯行を持ち掛けたのが共犯者か被告人かはさておき,被告人が金銭を得る目的で強盗に及んだことは明らかである。被害者を殺害しようとしたのも,犯行の遂行と発覚防止のためであって,やはり利欲的で身勝手極まりなく,酌量の余地はない。
計画性等について見ると,強盗については,建設会社の従業員を装うなど計画的で巧妙ともいえる。しかし,殺害の計画性については,被告人は,現場に痕跡を残さないための種々の行動に出ているのに,自分と結び付きかねない建設業者の名前をかたり,顔を隠すことなく被害者と対面したこと,ひも様のものを用意しながら被害者を縛っていないことなど,当初より被害者の殺害まで計画していたことを色濃くうかがわせる事情はあるものの,そう認めるには足りない。しかし,第2事件は,第1事件の共犯者のうちの一人と,第1事件同様に民家に押し入る強盗を企てて敢行したものである。第1事件でA夫婦を殺害した被告人らにとって,被害者方で強盗を行えば被害者の殺害行為に及ぶような事態が起こり得ることは容易に想定し得たはずである。にもかかわらず,被告人は,被害者方を犯行場所に選んで強盗を計画し,その実行を決意して主導的にそれを遂行した。このような被告人の人命軽視の態度には,最も強い非難が向けられるべきである。これは,殺人の実行行為を行ったのが甲一人であるという被告人にとって最も有利な場合を想定しても変わることはない。
4
各事件を総合すると,特に,2名の生命を奪い,1名の生命を脅かしたという
結果が極めて重大である上,いずれも,殺害の計画性こそ認められないものの,偶発的にではなく,強盗を遂行するために冷徹に各殺害行為に及んだといえるのであって,これらを繰り返した点で被告人の生命軽視の態度は甚だしい。本件各犯行の犯情は誠に重く,特に酌量すべき事情がない限り,死刑を選択することもやむを得ないというべきである。
5
そこで,死刑を回避すべきその余の事情があるかについて更に検討する。被告人は,本件各起訴から相当の年月が経過しているというのに,いずれの事
件についても,被害者らを殺害し,あるいは殺害しようとした事実を否認し,客観的事実に反する不合理な弁解をしており,いまだ自身の罪に向き合わず,反省は深まっていない。第1事件の遺族と第2事件の被害者に対し謝罪文をしたため,公判廷でも謝罪や反省の弁を述べ,また,現在受刑中の刑による作業報奨金として得た合計3万円や今後得られる作業報奨金を被害弁償金に充てると述べており,被害者らに対し謝罪の念を持ち始めたことがうかがわれるが,上記の反省の程度に鑑みれば,そのことを評価するにも限度があり,ましてやその責任の重大さからすれば,この点が刑の選択に影響するとは到底考えられない。そのほか,本件各犯行まで前科がなかったことなどを入れても,死刑の選択をためらわせる特に酌量すべき事情はない。
6
以上によれば,本件においては,死刑を選択することが真にやむを得ないとい
わなければならない。よって,主文のとおりの刑を定めた。
(求刑

死刑,弁護人の科刑意見

無期懲役刑)

平成28年1月15日
名古屋地方裁判所刑事第4部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

山石郎寺健太井野太美帆
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