判例検索β > 平成26年(わ)第396号
住居侵入、激発物破裂、建造物侵入、現住建造物等放火、現住建造物等放火未遂、窃盗被告事件
事件番号平成26(わ)396
事件名住居侵入,激発物破裂,建造物侵入,現住建造物等放火,現住建造物等放火未遂,窃盗被告事件
裁判年月日平成28年3月11日
法廷名札幌地方裁判所
裁判日:西暦2016-03-11
情報公開日2017-10-13 01:34:06
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主文
被告人を懲役18年に処する
未決勾留日数中460日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

被告人は,別紙(注:略)記載のとおり,平成25年11月27日午後0時51分頃から同年12月2日午後0時17分頃までの間,4回にわたり,札幌市a区b条c丁目d番e号A店ほか3か所において,商品として陳列されていた同店チーフBほか3名管理の年賀はがき約1912枚(販売価格合計約19万5352円)を窃取した。

第2

被告人は,札幌方面北警察署(以下北警察署という。)に所属する警察官が行った前記窃盗事件等への捜査に対する不満等から,同署及び同署に所属する警察官らへの恨みを募らせ,

1
平成26年1月27日午前9時25分過ぎ頃から同日午前9時30分頃までの間,同区f条g丁目h番i号所在の北警察署南側駐車場において,同所に駐車中の同署職員C使用の普通乗用自動車(所有者D株式会社)後部付近の雪面にブタンを主成分とするガスが入ったカセットガスボンベ(内容量約250グラム)3本,着火剤及びろうそく等を置き,これに火を放ち,燃え上がった炎の熱により,その頃,前記ガスボンベ内のガスを膨張させて同ガスボンベのうち2本を順次破裂させるとともに,破裂させたガスボンベ中のガスに引火させてこれを爆発させ,よって,前記自動車のリアバンパ等を損壊(損害見積額20万4992円)するとともに,人の生命・身体及び財産に危害が生じるおそれのある危険な状態を発生させ,もって公共の危険を生じさせ,

2
同区j条k丁目l番m号所在の店長Eが看守し,現に多数の客らがいるF店(鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付2階建,床面積合計21731.19平方メートル)を焼損する目的で,同年2月20日午後4時45分頃,同店内に1階正面出入口から侵入し,同日午後5時10分頃から同日午後5時17分頃までの間,同店2階靴売場において,ブタンを主成分とするガスが入ったカセットガスボンベ(内容量約250グラム)2本及びコットン等を入れたビニール袋の上に固形燃料等を載せたものを商品陳列棚の奥に置き,これに火を放ち,同店を焼損しようとしたが,天井に設置されたスプリンクラーが作動して放水を行ったことなどにより,同棚に陳列されていた商品及びその紙箱等を焼損させたにとどまり,その目的を遂げず,
3
激発物を破裂させる目的で,同年3月18日午後3時40分頃から同日午後4時30分頃までの間,同区n条o丁目p番q号所在のG店店長Hが看守する同店立体駐車場に同駐車場入口から自己が使用する普通乗用自動車を運転して侵入した上,同駐車場の3階部分に駐車中のI使用の普通乗用自動車(所有者株式会社J)後部付近の床面にブタンを主成分とするガスが入ったカセットガスボンベ(内容量約250グラム)2本及び着火剤等を置き,これに火を放ち,燃え上がった炎の熱により,同日午後4時30分頃,前記ガスボンベ内のガスを膨張させて同ガスボンベ2本を順次破裂させるとともに,同ガスボンベのガスに引火させてこれを爆発させ,よって,前記自動車のリアバンパーアッセンブリー等を損壊(損害見積額55万6200円)するとともに,人の生命・身体及び財産に危害が生じるおそれのある危険な状態を発生させ,もって公共の危険を生じさせ,

4
同区r条s丁目t番u号所在の店長Kが看守し,現に多数の客らがいるL店(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建,床面積6344.43平方メートル)を焼損する目的で,同月27日午後5時40分頃から同日午後5時55分頃までの間,同店のトイレ内に侵入し,同トイレの男子用トイレの大便用個室に,ブタンを主成分とするガスが入ったカセットガスボンベ(内容量約250グラム)5本及び着火剤等を置き,これに火を放つとともに,その熱により前記ガスボンベ内のガスを膨張させて破裂させた上,同ガスボンベのガスに引火させてこれを爆発させ,それらの火を同トイレの壁などに燃え移らせ,よって,同店の男子トイレ及びトイレ共用部を焼損(焼損床面積合計約34.75平方メートル)し,
5
激発物を破裂させる目的で,同年4月3日午後11時30分過ぎ頃から同日午後11時44分頃までの間,同区v条w丁目x番y号所在の現に人が住居に使用する警察公宅(鉄筋コンクリート造亜鉛メッキ鋼板葺4階建,延べ床面積合計868.24平方メートル)に北側出入口から侵入し,1階階段踊り場において,ブタンを主成分とするガスが入ったカセットガスボンベ(内容量約250グラム)5本及び着火剤等をビニール袋に入れて置き,着火剤に点火して火を放ち,燃え上がった炎の熱により,その頃,前記ガスボンベ内のガスを膨張させて同ガスボンベのうち3本を順次破裂させるとともに,同ガスボンベのガスに引火させてこれを爆発させ,よって,前記警察公宅北側出入口の引き戸の窓ガラス等を損壊(損害額合計33万6528円相当)し,もって激発物を破裂させて現に人が住居に使用する建造物を損壊した。

(証拠の標目)

(事実認定の補足説明)
1
弁護人は,判示第2の1ないし5の事実記載の各事件(以下,時系列順に第1ないし第5事件という。)につき,被告人は犯人ではないと主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,以下に検討する。

2
被告人が作成した画用紙メモについて


平成26年4月28日に被告人方から,被告人が画用紙に記載したメモ(以下画用紙メモという。)が押収されているところ,これには第1ないし第5事件において使用されたカセットガスボンベ(以下,単にガスボンベという。)の商品名や製造メーカー又は販売店を表すと思われる記載があり,これらの記載は,第1ないし第5事件の各事件で実際に犯行に使用されたガスボンベの商品名等と一致していた(なお,第3事件については,画用紙メモにMM2メーカーと記載されているが,実際に犯行に使用された2
つのメーカーのガスボンベを両方販売している店舗は北海道内ではMのみであり,この点において一致している。)。


第1ないし第5事件において使用されたガスボンベのうち,第4事件で使用された5本のガスボンベ,及び,第5事件で使用されたもののうち2本のガスボンベは,一見しただけでは商品名等を把握できない程度に焼け焦げた状態で発見されているところ,警察がこれらの焼け焦げたガスボンベの商品名等を把握したのは画用紙メモが被告人方から押収されたよりも後の時点であったから,少なくともこれらの焼け焦げたガスボンベの商品名等は,画用紙メモが作成された時点では,犯人以外の人物には報道等によっても知り得ない事実といえる。


そうすると,被告人は,犯人以外には知り得ない事実を画用紙メモに記載しているのであり,この事実は,被告人が犯人であることを強く推認させるものといえる。

3
犯行声明文について


北警察署や報道機関宛てに送付又は遺留された5通の犯行声明文(以下,送付又は遺留された時系列順に犯行声明文1ないし5という。)は,①犯行声明文が送付又は遺留された時点では警察すら把握していなかった犯行現場に遺留された物品や犯行に使用されたガスボンベの種類及び本数と一致する記載がされていたことや,②犯行声明文の作成者が第1ないし第5事件を起こしたことを伝える内容であったこと,③全て同一の種類のノート片や封筒が使用されていたことなどからすると,第1ないし第5事件の犯人である同一人物が作成したものと認められる。



そして,被告人方の寝室の押入れの布団の間からは,犯行声明文1ないし5が記載されたノート片が切り離されたと認められるノート,犯行声明文1ないし5を作成し,送付又は遺留する際に使用されたと認められる封筒,ゴム印,テンプレート,のし袋,及び,テーピングテープなどのほか,犯行声明文5の続きの番号が付された書きかけの犯行声明文が発見,押収されている。また,犯行声明文5には北警察署に所属する10名の警察官の姓が記載されており,被告人が作成した画用紙メモには13名の姓が記載されていたところ,そのうち8名の姓が一致していた。それらの姓の警察官が異なる部署に所属していることや,8名の姓には特に多いとはいえないような姓も含まれていることからすれば,このような一致が起きる確率は低く,犯行声明文5は,画用紙メモと同じく被告人が作成したものと考えられる。
さらに,犯行声明文4は平成26年4月4日午後4時56分頃に北警察署警察官Nが同署南側駐車場内で発見しているが,その直前に被告人が同署を訪れており,被告人には犯行声明文4を置いておく機会があったといえる。これに対し,弁護人は,犯行声明文4を前記日時頃に発見したという証人Nの証言は信用できないと主張する。しかし,同人の証言内容に不自然な点は認められず,北警察署付近を巡回していたとする時刻が同署に設置された防犯カメラの映像によって裏付けられてもいる。なお,同防犯カメラの映像によれば,同人は,同署前の歩道から犯行声明文4を目撃した後,急いで遺留場所に向かった様子は見られないが,目撃当初は不審物とは認識していなかったというのであり,そのことは犯行声明文が置かれていた状況に照らして不自然ではない。そうである以上,同人は,置かれていた物が不審物であるとは認識していなかったのであるから,急いで遺留場所に向かわなかったとしても不自然とは言えない。
さらに,弁護人は,発見時から約1か月後に作成された供述調書において巡回場所や発見場所に関して異なった供述がされていたと主張するが,そうであったとしても,いずれも記憶の混同やささいな間違いに過ぎないのであって,前記Nの証言の信用性を損なうものではない。したがって,同人の証言は信用することができる。
以上の事実からすれば,被告人が犯行声明文1ないし5を作成したと認めることができ,そのことは被告人が犯人であることを強く推認させるものといえる。
4
被告人の弁解について


これに対し,被告人は,被告人方から押収された犯行声明文作成に使用された道具や書きかけの犯行声明文等は,平成26年3月13日に真犯人と思しき人物によって被告人方に投函されたものであり,また,画用紙メモは,被告人が犯人を推理しようと考えをまとめるために,そのとき一緒に投函されたコピー用紙に記載された内容を画用紙に転記したものであると弁解し,弁護人もこれと同様の主張をしている。



しかし,犯行声明文には平成26年3月17日以降の北警察署の人事に関わる情報や,同月27日以降に発生した,第4事件で被害にあった者のコメントに関する記載や,第5事件の犯行時に前を歩いて帰宅する公宅居住者がいたこと(第5事件直前に帰宅する居住者がいたことは証拠により認められる。)についての記載があるから,被告人の弁解を前提にすると,前記コピー用紙にも同様の記載があったことになる。また,書きかけの犯行声明文には同年4月に放送されたテレビニュースの報道における出演者の発言を受けた内容が記載されている。いずれの記載内容もコピー用紙や書きかけの犯行声明文が投函されたという同年3月13日の時点では知り得ないものであり,予測することも到底困難なものであるから,被告人の弁解は客観的な事実に反している。また,真犯人が別に存在したと仮定しても,被告人が他人から恨まれていたような事情をうかがわせる証拠はなく,真犯人が被告人を罪に陥れようとする理由もうかがわれないから,被告人の弁解は合理性を欠いている。さらに,第1ないし第5事件という重大事案の犯行に関する不審物が自宅に投函されたというのに,過去の窃盗事件に関して気まずかったなどという理由で警察に通報せず,不安に思わせたくないなどという理由で家族にも相談しなかったという被告人の弁解は不自然であり,説得的なものではない。加えて,被告人は犯人を推理するためにコピー用紙の内容を転記して画用紙メモを作成したとも弁解するが,被告人が警察に通報もせず,独自に犯人を推理することについての説得的な理由もない。
そして,被告人が真犯人によって投函されたものの,被告人方から押収されていないと弁解するコピー用紙の記載内容は,警察にとって被告人と犯行とを結び付ける重要な証拠となり得るものであるから,仮に警察が被告人の自宅を捜索した時に発見したのであれば,あえてこれを隠す必要がないし,警察が2回にわたって被告人の自宅を捜索しても発見できなかったのであるから,もともと存在しなかったと考えるのが自然である。


以上からすると,被告人の前記弁解は到底信用することができず,これに基づく弁護人の主張も採用できない。

5
第2事件の犯行現場に遺留されたガスボンベに付着していた紙片について⑴

第2事件の犯行現場に遺留された2本のガスボンベのうち1本に付着していた5カと記載された紙片は,被告人方から押収された新聞紙面にあった剥離痕と形状が一致し,重ね合わせると整った文面となるものであった。このことは,犯行現場に遺留されたガスボンベ等で構成される激発物が被告人方で組み立てられたものであること,ひいては,被告人が第2事件の犯人であることを強く推認させる事実といえる。
この点につき,弁護人は,

新聞紙面の剥離痕との一致の有無に関する鑑定

の資料とされた紙片が実際に犯行現場に遺留されたガスボンベに付着していた紙片ではない可能性があるとか,

警察が被告人方に剥離痕のある新聞紙面を

持ち込んだ可能性があるなどと主張する。
犯行当日に,犯行現場の遺留物を解体して見分した警察官である証人Oは,解体作業中には同紙片の存在に気付かなかったと供述しているが,同解体作業中に撮影された写真にはガスボンベに同紙片が付着している状況が写っていること,同紙片が湿潤し,ガスボンベにすす等が付着しており,比較的小さな同紙片を見落としたとしても不自然ではないことからすれば,同紙片を見落としたとする同人の証言は信用することができ,犯行当日に同紙片がガスボンベに付着していたことが認められる。
そして,ガスボンベの指紋鑑定等を行った警察官である証人Pは,指紋鑑定を始める前に観察した時点で紙片の付着には気付いていたが,同紙片が剥がれるものとは思わず指紋鑑定を優先させたところ,同紙片が剥がれ落ちたなどと鑑定状況について供述しているが,その供述内容に不自然な点はなく,同人の供述も信用できる。そうすると,ガスボンベに付着していた紙片と鑑定に用いられた紙片とは同一であると認められる。
また,

犯行現場に遺留されたガスボンベに付着した紙片と同じ形状の剥離
痕のある新聞紙面を用意することは極めて困難であるから,弁護人が主張するような,警察が被告人方に同紙片と整合する剥離痕のある新聞紙面を持ち込んだ可能性は考え難い。
以上から,弁護人の前記主張は採用できない。
6
被告人に犯行の機会があったことについて


第1事件について

被告人は,第1事件が発生した平成26年1月27日の午前9時28分頃に北警察署の駐車場に到着し,同日午前9時30分頃に北警察署の1階で受付を済ませているところ,被告人が駐車した位置,ガスボンベ等が置かれた場所及び北警察署の庁舎までの距離関係からすれば,被告人の歩行速度が弁護人の主張する時速4キロメートル程度であったとしても,被告人には数十秒間の激発物を仕掛ける時間的な余裕があったといえるから,被告人には第1事件の犯行の機会があったといえる。イ

弁護人は,同時刻頃に北警察署の駐車場に駐車中の車内でテレビドラマを見ていた証人Qが不審な人物が横切るのを見ていないと供述している点などを指摘し,被告人が激発物を仕掛けた犯人であれば目撃者がいないはずはないと主張する。しかし,テレビドラマを見ていた前記Qが被告人の姿を見逃した可能性は否定できないし,犯行現場の残焼物からガスボンベ等が白いビニール袋に入れてあったと推測されるところ,被告人が白いビニール袋に入れてある物を運んでいたとしても,それを見た者が被告人を不審人物であると認識する可能性は高いものではない。


また,弁護人は,激発物に火をつけてから爆発するまでの時間が,3分台が2回,4分台が1回,8分台が1回という結果になった再現実験について,爆発までの時間を短くしようと作為を施した不合理なものであると主張する。しかし,そもそも同再現実験は,爆発の約7分前に北警察署駐車場に車を止めた被告人に犯行が可能かどうかを確かめるために行われたものであるから,何ら不合理な点はない。



第2事件について

第2事件が発生した店舗の防犯カメラには,火災が起きる前に犯行現場である2階靴売場付近に向かい,犯行現場で天井付近まで上がる炎が目撃される直前に2階から1階に下りる被告人の姿が写っており,被告人には第2事件の犯行の機会があったといえる。


弁護人は,防犯カメラの映像を根拠に,被告人が激発物を仕掛けたのであれば,被告人が左手に所持していたレジ袋が2階から1階に降りる際により小さくなっていたはずであると主張するが,防犯カメラの映像は不鮮明であって,この映像を根拠にレジ袋の大小を判別することはできない上,被告人が激発物をショルダーバッグに入れていた可能性も否定できないから,弁護人の主張は採り得ない。



第3事件について被害店舗付近の防犯カメラの映像によれば,被告人は,第3事件発生時の前後に被害店舗付近を自車で走行しており,被告人には第3事件の犯行の機会があったといえる。


第4事件について

被害店舗の駐車場に設置された防犯カメラの映像によれば,被告人は,第4事件発生時の前後に被害店舗の駐車場内を自車で走行しており,被告人には第4事件の犯行の機会があったといえる。


弁護人は,防犯カメラの映像には被告人が車から降りた形跡がないし,女性である被告人が男子トイレに侵入したのだとすれば,誰も気付かないはずはないなどと主張する。
しかし,上記防犯カメラは45秒で360度回転しながら周囲を撮影するものであって常に全方向を撮影しているものではない上,被害店舗の駐車場全てを鮮明に撮影できるものではないから,被告人が駐車して降車した場面が防犯カメラに映っていない可能性がある。
また,ガスボンベが破裂したときに男子トイレ内にいたRの供述によれば,男子トイレを利用している者は少なかったことが認められるし,被害店舗のトイレの入り口付近が混雑していた状況もうかがわれないから,誰にも気付かれずに被告人が男性トイレに侵入することが不可能であったとはいえない。


第5事件について
北警察署に設置された防犯カメラの映像等によれば,被告人は,第5事件発生の前後に警察公宅付近を自車で走行しており,被告人には第5事件の犯行の機会があったといえる。



なお,被告人は,第4及び第5事件につき,真犯人と思しき人物に投函されたコピー用紙の記載から犯行を推理して真犯人を突き止めようと事件現場を見に行ったなどと弁解するが,前述のとおり,被告人が真犯人を突き止めるべき必要性はないし,そもそも,コピー用紙自体が存在しなかったと認められるのであるから,被告人の弁解は前提を欠くものといわざるを得ない。⑺

そうすると,被告人は2か月余りの間に発生した第1ないし第5事件の全ての事件について犯行当時現場付近にいたことになるが,経験上このようなことが偶然起こり得るものとは考えられず,この事実は被告人が第1ないし第5事件の犯人であることを強く推認させるものといえる。

7
被告人の動機の有無について


犯行声明文の記載内容や,第1及び第5事件が北警察署又は警察の官舎を狙った事件であること,第2ないし第4事件も北警察署管内で発生していることからすれば,第1ないし第5事件の犯人の犯行の動機は,北警察署及びS巡査を含む同署に所属する警察官らに対する恨みによるものと認められる。


そして,被告人は,判示第1の窃盗事件につき北警察署の捜査員による捜査を受けているが,その過程では,被告人方の捜索の際に,S巡査が被告人の隠していた万引きした年賀はがきを発見したり,被告人が用を足す際にトイレのドアが閉まらないように足を挟んだりしたなどの事実があった。また,被告人の供述を前提としても,引き当たり捜査の際の被告人の言動について同署のT巡査部長から注意されたり,盗んだ記憶のない店舗に連れて行かれて執ように追及されたことがあった。さらに,被告人が北警察署や北海道警察本部に対して窃盗事件の捜査が遅れていることについて苦情を申し入れたこともあった。これらの事情からすれば,被告人には,北警察署及びS巡査を含む同署に所属する警察官らに対する恨みの感情を抱いてもおかしくない経緯があったというべきであり,第1ないし第5事件の犯行の動機がなかったとはいえない。

8
その他の弁護人の主張について
弁護人は,①被告人には激発物を作成する能力がない,②被告人が逮捕された後にも札幌市近郊でガスボンベを用いた爆発事件が発生しているなどとも主張して,被告人が犯人ではないと主張する。しかし,①ガスボンベを加熱すれば爆発する危険があるということは常識といえるし,犯行に使用された激発物の構造も専門的な知識がなくとも考え付くことが可能な比較的単純なものである。また,第1ないし第5事件で犯行に用いられた物品自体は日常的に手に入るものであるから,被告人に激発物を作成する能力がないという弁護人の主張は前提を欠くものといわざるを得ない。また,②被告人が逮捕された後に発生したガスボンベを用いた爆発事件の犯人と,第1ないし第5事件の犯人とが同一であるといえるほどの証拠はなく,むしろ使用されたガスボンベの数量など,手口等において違っている点もうかがわれる。そうすると,これらの後発の事件が第1ないし第5事件の犯行を模倣したものである可能性も十分に考えられるから,同様の事件が発生していることは,被告人が犯人であることの推認を覆す事情とはならない。9
結論
以上検討したとおり,被告人が犯人であることを強く推認させる複数の事実があり,その推認を妨げる事情もないところ,このような事実が存在することは,被告人が第1ないし第5事件の犯人でなければ説明することができないものであるから,被告人が第1ないし第5事件の犯人であると認定した。
(法令の適用)


判示第1の各行為

いずれも刑法235条

判示第2の1の行為

同法117条1項後段,110条1項

判示第2の2の行為
建造物侵入の点

同法130条前段

現住建造物等放火未遂の点

同法112条,108条

判示第2の3の行為
建造物侵入の点

同法130条前段

激発物破裂の点

同法117条1項後段,110条1項判示第2の4の行為
建造物侵入の点

同法130条前段

現住建造物等放火の点

同法108条

判示第2の5の行為
住居侵入の点

同法130条前段

激発物破裂の点

同法117条1項前段,108条

科刑上一罪の処理
判示第2の2ないし5の各罪

刑法54条1項後段,10条(判示第2の2の罪
につき重い現住建造物等放火未遂罪の刑で,判示第
2の3及び5の各罪につき重い激発物破裂罪の刑で,
判示第2の4の罪につき重い現住建造物等放火罪の
刑で,それぞれ処断)

刑種の選択
判示第1の罪

いずれも懲役刑を選択

判示第2の2,4,5の各罪

いずれも有期懲役刑を選択

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯
情の最も重い判示第2の4の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入

刑法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
まず,ガスボンベに関する事件についてみると,駐車場の歩道に近い場所や,多数人が集まる営業中の大型店舗,深夜の時間帯で多数人が在室する共同住宅において,いずれも複数本のガスボンベを爆発させることを企図した犯行であり,その場に居合わせた人の生命・身体等に危険を及ぼし得る,極めて危険性の高いものである。被告人は,事前にガスボンベと可燃物とを組み合わせた物を作るなどして計画的に犯行に及んでいる上,わずか2か月余りの間に5件の犯行を連続して行っただけでなく,事件を起こすにつれて,ガスボンベの本数を増やしたり,爆発とともに多数の画びょうや釘を飛び散らせるなどして犯行の危険性を高めており,かなり悪質な犯行である。
一連の犯行によって生じた財産的損害は高額であるし,第4事件では,焼損面積も小さいものではなく,負傷者をも生じさせている。事件現場に居合わせた人々に強い恐怖感を与えただけでなく,限定された範囲で次々に起こる事件が報道されて周辺住民を大きな不安に陥れたことも容易に想像できる。そうすると,一連の犯行による結果は非常に重大なものというべきである。
被告人は,北警察署に対する恨みの感情から一連の犯行に及んでいるところ,具体的にどのような事情でそのような感情を抱いたのかは明らかではないが,同署の捜査の過程に非難されるべき事情は見当たらず,被告人の感情はまさに逆恨みというほかない。そして,個人的なそのような感情から警察関係施設で犯行に及んだだけでなく,無関係の店舗や多くの人々を巻き込んでいるのであって,このことは強く非難されるべきである。
次に,窃盗事件についてみると,陳列棚から年賀はがきを根こそぎ全部窃取するという大胆な犯行を短期間に繰り返しており,悪質な犯行というほかなく,被害店舗に与えた財産的損害も大きい。また,金銭的に困っていたにせよ,切羽詰まった状況とまではいえないのであって,それにもかかわらず換金目的で万引きを行ったことは,強い非難を免れない。
これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は,燃料を使用した怨恨を動機とする現住建造物等放火罪の事案の中でもまれに見るほど重い部類に属するというべきである。
そして,被告人は,ガスボンベに関する事件について不合理な弁解をしていて,反省する態度は全く見られず,そのきっかけとなった窃盗事件についても反省が深まっているとはいえない。また,被告人の法廷における言動からは警察に対する恨みが今なお根深いことがうかがえ,再犯の可能性もそれなりに認められる。これらの事情も考慮すると,被告人の刑については長期間の服役が相当であり,主文のとおり刑を定めた。
(検察官

矢崎正子,仲戸川武人,伊丹直彰

国選弁護人
(求刑

各出席

中村憲昭(主任),皆川洋美(副主任)

各出席)

懲役20年)

平成28年3月11日
札幌地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

田㞍
裁判官

今井理
裁判官

貝阿彌

健克已
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