判例検索β > 平成27年(行コ)第77号
懲戒処分取消等請求控訴事件
事件番号平成27(行コ)77
事件名懲戒処分取消等請求控訴事件
裁判年月日平成27年12月4日
法廷名東京高等裁判所
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平成27年12月4日判決言渡
平成27年(行コ)第77号懲戒処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第94号)
主文
1第1審原告らの本件各控訴及び第1審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。2第1審原告らの本件各控訴に係る控訴費用は第1審原告らの,第1審被告の本件各控訴に係る控訴費用は第1審被告の各負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1第1審原告らの控訴の趣旨
(1)原判決中,第1審原告らの敗訴部分を取り消す。
(2)

東京都教育委員会が,別紙2「懲戒処分等一覧表」記載の番号1,3な
いし5,7ないし12,15,17ないし21,29,33,35ないし37,39,41,48及び49の各第1審原告に対して,上記「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記載の各日付で行った戒告処分をいずれも取り消す。(3)

第1審被告は,第1審原告らに対し,別紙2「懲戒処分等一覧表」の
「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第1審被告の控訴の趣旨
(1)

原判決中,第1審原告P1,同P2,同P3,同P4及び同P5につき,
第1審被告の敗訴部分を取り消す。
(2)

上記各取消部分に係る第1審原告P1,同P2,同P3,同P4及び同
P5の各請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1本件は,都立学校(高等学校又は養護学校)の教職員であり,又は教職員であった第1審原告らが,平成18年11月から平成21年4月までの間に都立学校で行われた卒業式,入学式及び創立周年記念式典(以下「卒業式等」という。)において,国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又はピアノ伴奏すること(以下「起立斉唱等の行為」又は「起立斉唱等」という。)を命ずる各所属校校長の職務命令に従わなかったこと(以下「本件不起立等」という。)を理由として,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)から受けた地方公務員法(以下「地公法」という。)29条1項に基づく別紙2「懲戒処分等一覧表」記載の各懲戒処分は,第1審原告らの思想及び良心の自由を侵害するなど違憲,違法なものであると主張して,上記各処分の取消しを求めるとともに,上記各処分により精神的苦痛を被ったとして,都教委の設置者である第1審被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(一つの懲戒処分ごとに慰謝料50万円及び弁護士費用5万円)及びこれに対する平成22年4月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,都教委が別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記載の各日付で,番号2,6,13,14,16,22ないし28,30ないし32,34,38,40,42ないし48及び50の各第1審原告に対してした同一覧表の「処分内容」欄記載の減給処分又は停職処分(ただし,番号48-1欄記載の懲戒処分を除く。)をいずれも取り消し,上記各第1審原告のその余の請求及びその余の第1審原告らの請求をいずれも棄却したため,第1審原告ら及び第1審被告がそれぞれの敗訴部分を不服として控訴をした。
2前提となる事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,3のとおり当審における第1審原告らの主張を,4のとおり当審における第1審被告の主張をそれぞれ付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び2,「第3

争点に対する当事者の主張」に記載のとおりであるか

ら,これを引用する(ただし,4頁1行目の「平成15年度卒業式」を「平成15年度入学式」に,原判決別紙5「処分歴一覧表」の「12
原告P3」

(1)の1行目の「平成14年4月5日」を「平成14年4月9日」にそれぞれ改める。)。
3当審における第1審原告らの主張
(1)本件通達及び本件各職務命令の目的について
本件通達及び本件各職務命令の目的は,国旗・国歌に対する敬意の表明を,教師を介して生徒に強制する,あるいは自然なものとして生徒に刷り込むという刷り込み式愛国心教育にある(甲B93)。
(2)憲法19条違反の有無について
ア国旗・国歌に対する起立斉唱等の行為は,国旗・国歌という国家シンボルに対する敬意の表明そのものにほかならず,これを強制することは思想及び良心の自由に対する直接的制約である。
イ起立斉唱等の行為の性質は,第1審原告らの主観を基準として判断し,第1審原告らの歴史観や世界観に反する外部的行為と捉えるべきである。ウ思想及び良心の自由に対する制約を直接的制約と間接的制約に分け,間接的制約について必要性,合理性の基準を用いることは,厳格な違憲審査基準を回避することにつながり妥当ではない。第1審原告らの思想及び良心の自由に対する制約については,精神的自由の違憲審査に用いられる厳格な基準によるべきである。
エ仮に,本件通達及び本件各職務命令が,第1審原告らの思想及び良心の自由に対する間接的制約にとどまるものであり,比較衡量論に基づいて違憲審査をするにしても,本件通達の発出前に不起立等によって卒業式等の円滑な進行が妨害された事実はなく,本件通達の発出を正当化する立法事実はないこと,本件通達及び本件各職務命令の真の目的は,生徒らに対する刷り込み式愛国心教育及びこれに反対する教職員の排除にあることからすれば,憲法19条に違反する。
(3)憲法20条違反の有無について
ア「君が代」は,戦前の大日本帝国憲法下において,国家神道の祭神として崇拝されていた天皇をたたえる歌として歌われてきたものであり,現在も歌詞や旋律が戦前と変わらない以上,宗教的意義を有する。また,儀式的行事における儀式的所作であっても,宗教的意味合いをもつ行為は存在し得るから,国歌斉唱が社会的儀礼として多くの国民に受け入れられている行為であるとしても,「君が代」に宗教的意義があることに変わりはない。したがって,「君が代」の斉唱を強制する本件通達及び本件各職務命令は,憲法20条に違反する。
イ信教の自由に対する制約については,その違憲審査基準として厳格な基準を用いるべきである。仮に,本件通達及び本件各職務命令が第1審原告らの信教の自由に対する間接的制約にとどまるものであり,比較衡量論に基づいて違憲審査をするにしても,本件通達の発出前に不起立等によって卒業式等の円滑な進行が妨害された事実はなく,本件通達の発出を正当化する立法事実はないこと,本件通達及び本件各職務命令の真の目的は,生徒らに対する刷り込み式愛国心教育及びこれに反対する教職員の排除にあることからすれば,憲法20条に違反する。
(4)

教師の専門職上の自由の侵害による憲法13条,23条,26条違反の
有無について
ア卒業式等の式典は,学習指導要領上の特別活動として位置付けられている教育活動であるから,授業と同様に,教師の専門職上の自由が強く保障される必要があるところ,卒業式等における国旗掲揚等の方法を詳細に指示命令する本件通達及び本件各職務命令は,教師による創意工夫と創造的,弾力的な教育内容の決定の余地を完全に奪い,教師の専門職上の自由を侵害する。
イ画一的な起立斉唱等の指導は,「子どもが適切な教育を受ける権利」を侵害し,教師の「子どもが適切な教育を受ける権利を実現するために必要な範囲内での自由」を侵害する。
(5)国際条約違反の有無について
自由権規約,自由権規約委員会の一般的意見や最終意見,児童の権利に関する条約及びILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告は,いずれも本件の解釈の指針とすべきである。そして,本件通達は,国旗・国歌を強制する点で,自由権規約及び自由権規約委員会の一般的意見等に違反し,子どもの人権を侵害する点で,児童の権利に関する条約に違反し,教師に対し一律の画一的な教育方法を強制する点で,ILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告に違反している。また,第1審原告らは,生徒の自由や人権を保障するという教師としての責務を果たすため,児童の権利に関する条約違反の職務命令にあえて違反したのであるから,その違反を違法評価すべきではない。(6)国家シンボルの強制そのものの違憲性の有無について
卒業式等における起立斉唱等の行為は,国際的な儀礼の場と異なり,儀式的行事における儀礼的所作とはいえず,国旗・国歌を尊重する態度を表明する行為と評価されるものである。そして,国旗・国歌に対する尊重の態度をとるかどうかは,国民の自律的な判断に委ねられるべきであり,公権力がそのような態度をとることを国民に義務付けることは,公権力が介入の許されない事項について国民に義務を課すものとして,憲法の理念である立憲主義に反する。
(7)憲法94条,地方自治法14条1項違反の有無について
ア本件通達は,本件実施指針に従わない教員に校長が職務命令を出すことを当然の前提としており,実質的にみれば,教員に起立斉唱等の行為を義務付けるものであり,国旗国歌法を逸脱しているから,憲法94条,地方自治法14条1項に違反する。
イ学習指導要領の国旗国歌条項は大綱的基準にすぎず,教員に対し,卒業式等における起立斉唱等の行為を義務付けることは許されないところ,本件通達は,これらの義務を教員に負わせており,学習指導要領の大綱的基準を逸脱しているから,憲法94条,地方自治法14条1項に違反する。(8)国旗国歌条項の法的拘束力の有無について
学習指導要領の国旗国歌条項は,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」と規定しているだけであり,また,大綱的基準にとどまるものでなければならず,起立斉唱等の行為を義務付けることは許されないから,本件通達及び本件各職務命令の根拠となるものではない。儀式的行事の具体的な在り方や内容は各学校が決めるべきであり,本件通達及び本件各職務命令が国旗国歌条項を根拠に起立斉唱等の行為を強制することは許されない。(9)教育基本法16条1項違反の有無について
ア学習指導要領上の特別活動の一つにすぎない卒業式等における国旗掲揚等の方法は,各学校が創意工夫に基づいて生徒の自主的,実践的活動を助長するよう決定しなければならないものであり,国旗掲揚等の方法を詳細に定める本件通達及び本件実施指針は,学校の創意工夫や生徒の自主的,実践的活動を阻害するもので,教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たる。
イ都教委が,その管理権(地教行法23条5号)に基づき,教育活動全般に関し,指導,助言にとどまらず具体的な命令を行うことは,教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たり許されないが,本件通達及び本件実施指針は教育活動に関する具体的な命令というべきものであり,上記「不当な支配」に当たる。
(10)

平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条
(改正後の同法51条)違反の有無について
国旗・国歌に関し,生徒に一方的,一面的な指導教育をすることが許されないことは,通常授業の場面だけでなく,すべての教育場面に妥当する。そして,教師が,内心の自由について生徒に説明することを禁じられ,卒業式等において起立斉唱等を強要されている姿を生徒に示すことは,生徒自身が一律かつ画一的に起立斉唱等を強制されていることと同義であり,本件通達が定める起立斉唱等の方法が唯一無二のものであるとして,生徒に一方的かつ一面的な指導教育をしていることにほかならない。したがって,本件通達及び本件各職務命令は,平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条(改正後の同法51条)に違反する。
(11)地方自治法14条2項,2条16項,2条2項違反の有無について本件通達は,法令に特別の定めがないのに,条例によらずに義務を課し権利を制限するものであり,地方自治法14条2項に違反する。また,都教委は,本件通達を刷り込み式愛国心教育のために発出したものであり,地教行法23条5号の管理権限を逸脱し,法令に違反して事務処理をしたものであるから,本件通達は,地方自治法2条2項,同条16項にも違反する。(12)本件各処分の手続的違法の有無について
本件各処分は,第1審原告らの思想及び良心の核心部分を直接的に否定する行為であり,第1審原告らの精神的被害は大きく,また,本件各処分のうち最も軽い戒告処分であっても,各種の重大な不利益が伴うこと,他方,本件各処分により達成しようとする公益の内容は,卒業式等の進行の秩序の維持にとどまり,第1審原告らの本件不起立等により具体的に卒業式等の進行に支障が生じたことはなく,本件各処分の緊急性も認められないことからすれば,本件各処分については,憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶというべきであるが,本件各処分に当たっては,適正手続の保障の要請を実質的に満たすような弁解,防御の機会が与えられていない。
また,本件では,第1審原告らの思想及び良心の自由に関わる微妙な法的問題が争点となっているのであるから,弁護士の立会いによる援助を受ける権利が保障されるべきである。
(13)本件各処分における裁量権の逸脱,濫用の有無について
ア教師が起立斉唱等をする姿を生徒に示すことは,生徒自身に一律かつ画一的に起立斉唱等を強制することと同義であり,生徒の学習権を侵害する。したがって,起立斉唱等が国旗・国歌についての適正な指導であることを前提に本件不起立等に対してした本件各処分は,裁量権を逸脱,濫用するものである。
イ懲戒処分によって第1審原告らが被る昇給延伸等の不利益は,第1審被告の定めた給与制度や人事制度上,懲戒処分を受けた場合に当然に予定されたものであり,懲戒処分と不可分一体の関係にあるものとして,懲戒処分を科すか否かを判断するに当たって当然に考慮されなければならない。したがって,第1審原告らが被る昇給延伸等の不利益を考慮せずにした本件各処分は,裁量権を逸脱,濫用するものである。
ウ戒告と減給以上の処分とを峻別する考え方は,不合理である。
エ処分取消訴訟の対象となる「処分の事由」は「処分説明書」に書かれている「処分の事由」に限定されるべきである。処分権者が処分時に非違行為の存在を認識していればよいというのでは,訴訟になって後出しの主張を幅広く許すことになり,防御権の侵害は著しく,許されない。
(14)国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求について
ア本件通達については,従前から思想及び良心の自由との関係で懸念が示されていた。それにもかかわらず,都教委は,本件不起立等に対する処分を機械的に累積加重して行ったのであるから,裁量権の逸脱,濫用は明らかである。
イ停職処分は,懲戒処分の中でも特に過酷で,不利益の程度が極めて大きいものであるにもかかわらず,第1審原告P3に対し,機械的に累積加重して停職処分を行ったのであるから,裁量権の逸脱,濫用は明らかである。また,減給処分や戒告処分も不利益の程度は大きく,機械的に累積加重して各処分を行った都教委には裁量権の逸脱,濫用がある。
4当審における第1審被告の主張(本件各処分における裁量権の逸脱,濫用の有無について)
第1審原告P1,同P2,同P3,同P4,同P5の5名については,本件通達発出前の非違行為に対する懲戒処分の存在及び生徒への特段の働きかけの存在等,単なる不起立行為とは評価できない事実が存在するのであり,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することについての相当性を基礎付ける具体的な事情がある。したがって,上記5名に対して別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記載の各日付でした懲戒処分は取り消されるべきではない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,都教委が別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記載の各日付で,番号2,6,13,14,16,22ないし28,30ないし32,34,38,40,42ないし48及び50の各第1審原告に対してした同一覧表の「処分内容」欄記載の減給処分又は停職処分をいずれも取り消し,上記各第1審原告のその余の請求及びその余の第1審原告らの請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,次項のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」の1及び2に説示するとおりであるから,これを引用する(ただし,71頁13行目の「本件起立行為等」を「卒業式等における起立斉唱等の行為」に改める。)。
2当審における当事者の主張に対する判断
(1)本件通達及び本件各職務命令の目的について
第1審原告らは,本件通達及び本件各職務命令の目的は,国旗・国歌に対する敬意の表明を,教師を介して生徒に強制する,あるいは自然なものとして生徒に刷り込むという刷り込み式愛国心教育にある(甲B93)と主張する(前記第2の3(1))。
しかしながら,本件通達の発出に至る経緯については,前記引用に係る原判決の「第2

事案の概要」中の1(3)ア及びイ(原判決3頁12行目冒

頭から6頁1行目末尾まで)に説示のとおりであり,都教委は,平成9年及び平成10年当時,都立学校における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率が全国の公立高等学校の中で1番目ないし2番目に低かったことから,学習指導要領に基づいた国旗・国歌の指導を求める平成10年実施指針を発出したり,平成10年実施指針に基づき卒業式等を実施することを命ずる平成11年通達を発出したりするなどし,その結果,平成12年度卒業式から国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は100パーセントとなったものの,国旗を掲揚した三脚を舞台袖の見えない所に置く,国歌斉唱時に教員が起立しないなどの実態があり,また,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式において,平成10年実施指針で定められた方針どおりに国旗掲揚等を行った都立学校は全体の半分にも満たず,依然として国歌斉唱時に起立をしない教員がいるなどの実態があった。前記引用に係る原判決の「第4当裁判所の判断」中の2(7)イ(原判決82頁19行目冒頭から83頁3行目末尾まで)に説示のとおり,学習指導要領の国旗国歌条項は,国際化の進展に伴い,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるとともに,児童・生徒が,将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくためには,国旗・国歌に対する一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることが重要であり,また,卒業式等は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気の中で,新しい生活の展開への動機付けを行い,学校,社会,国家など集団への所属感を深める上でよい機会となるものであるという意義を踏まえて定められたものである。本件通達は,都立学校における国旗掲揚,国歌斉唱の実施が前記のような実態であったことから,学習指導要領の国旗国歌条項に基づく国旗掲揚,国歌斉唱の指導を一層改善,充実するために,発出されたものと認められる。第1審原告らがその主張を裏付ける証拠として提出したP6の意見書(甲B93)は,本件通達のもう一つの隠された目的は,国旗国歌ひいてはそれらによって象徴される国家に対する敬愛を刷り込むものであるとするが,採用できない。したがって,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(2)憲法19条違反の有無について
第1審原告らは,①国旗・国歌に対する起立斉唱等の行為は,国旗・国歌という国家シンボルに対する敬意の表明そのものであり,これを強制することは思想及び良心の自由に対する直接的制約である,②起立斉唱等の行為の性質は,第1審原告らの主観を基準として判断し,第1審原告らの歴史観や世界観に反する外部的行為と捉えるべきである,③思想及び良心の自由に対する制約を直接的制約と間接的制約に分け,間接的制約について必要性,合理性の基準を用いることは妥当でなく,本件では精神的自由の違憲審査に用いられる厳格な基準によるべきである,④仮に,本件通達及び本件各職務命令が思想及び良心の自由に対する間接的制約にとどまるものであり,比較衡量論に基づいて違憲審査をするにしても,本件通達の発出を正当化する立法事実はなく,本件通達及び本件各職務命令の真の目的は,生徒らに対する刷り込み式愛国心教育及びこれに反対する教職員の排除にあるから,憲法19条に違反する旨主張する(前記第2の3(2)アないしエ)。
しかしながら,上記①については,前記引用に係る原判決の「第4

裁判所の判断」中の2(1)(原判決70頁6行目冒頭から72頁17行目末尾まで)で説示したとおり,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであって,特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,第1審原告らの有する歴史観や世界観を否定することと不可分に結びつくものではないから,思想及び良心の自由を直接的に侵害する行為とはいえない(なお,起立斉唱等の行為が思想及び良心の自由に対する間接的な制約となる場合があることは,前記引用部分で説示したとおりである。)。
また,上記②については,主観を基準として判断し,当該思想ないし信条を有する者が自己の思想及び良心を侵害する外部的行為であるという思想ないし信条を持ち,そのことを主張するだけでその行為を強制されない自由が一般的に認められるとすれば,秩序の維持が困難となって社会が成り立たないことになるから,外部的行為の強制が思想及び良心を侵害するかどうかの判断は,その行為を一般的,客観的に見て,どのような性質の行為として外部から認識されているかを判断して行うのが相当というべきである。
さらに,上記③については,思想及び良心の自由は,それが内心にとどまる限り,絶対的に保障されるべき自由であるが,思想及び良心の自由が外部的行為として現れ,他の社会規範等と抵触する場合は,思想及び良心の制約が問題とならざるを得ず,制約に対する合憲性の判定方法も,制約が直接的か間接的かといった制約の態様の違いによって異なるというべきである。
そして,上記④については,本件通達及び本件各職務命令が教師の思想及び良心の自由に対する間接的制約となる面はあるものの,本件通達及び本件各職務命令は,関係法令等の規定の趣旨に沿い,国旗掲揚等の実施のより一層の改善,充実を図る目的で発出されたことは前記引用部分で説示したとおりであり,また,地方公務員の地位の性質や職務の公共性に鑑み,教育上の行事にふさわしい秩序の確保や式典の円滑な進行を図るために発出されたものであって,その目的及び内容並びに制約の態様等を総合的に衡量すれば,制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。
以上によれば,第1審原告らの上記主張はいずれも採用できない。(3)憲法20条違反の有無について
ア第1審原告らは,「君が代」は現在でも宗教的意義を有しており,国歌斉唱が社会的儀礼として多くの国民に受け入れられているとしても,「君が代」に宗教的意義があることに変わりはないから,「君が代」の斉唱を強制する本件通達及び本件各職務命令は,憲法20条に違反する旨主張する(前記第2の3(3)ア)。
しかしながら,本件通達が発出された当時,都立学校の卒業式等において,国歌斉唱として「君が代」を斉唱することは広く実施されており,全国の公立高等学校においては,従来から「君が代」の斉唱が広く実施されていたのである(乙2の1)から,「君が代」の斉唱やピアノ伴奏は,卒業式等の儀式的行事において通常想定されている儀式的所作の一つということができ,前記引用に係る原判決の「第4

当裁判所の判断」中の2

(2)(原判決73頁23行目冒頭から74頁22行目末尾まで)に説示のとおり,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作に当たる行為ということができるのであって,それを超えて宗教的意味合いをもつ行為であるということはできない。また,第1審原告らが,本件通達及び本件各職務命令によって,その信仰に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動を求められることとなり,その限りにおいて信教の自由についての間接的な制約となる面があるとしても,その制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められることも,前記引用部分で説示したとおりである。そうすると,「君が代」の斉唱を指示する本件通達及び本件各職務命令が憲法20条に違反するとは認められず,第1審原告らの上記主張は採用できない。
イまた,第1審原告らは,信教の自由に対する制約については,その違憲審査基準として厳格な基準を用いるべきであり,仮に,本件通達及び本件各職務命令が信教の自由に対する間接的制約にとどまるものであり,比較衡量論に基づいて違憲審査をするにしても,本件通達の発出を正当化する立法事実はなく,本件通達及び本件各職務命令の真の目的は,生徒らに対する刷り込み式愛国心教育等にあるとして,憲法20条に違反する旨主張する(前記第2の3(3)イ)。
しかしながら,信教の自由に対する制約の合憲性の判定方法が制約の態様の違いによって異なることは,思想及び良心の自由の場合と同様というべきであり,また,前記説示のとおり,本件通達の発出を正当化する事実は認められるから,上記主張も採用できない。
(4)

教師の専門職上の自由の侵害による憲法13条,23条,26条違反の
有無について
ア第1審原告らは,卒業式等の式典は,学習指導要領上の特別活動として位置付けられている教育活動であるから,授業と同様に,教師の専門職上の自由が強く保障される必要があり,卒業式等における国旗掲揚等の方法を詳細に指示命令する本件通達及び本件各職務命令は,教師による創意工夫と創造的,弾力的な教育内容の決定の余地を完全に奪い,教師の専門職上の自由を侵害する旨主張する(前記第2の3(4)ア)。
教師は,教育活動を担う専門職として,その教育において,一定の範囲の裁量を有するところ,本件通達及びその別紙である本件実施指針は,前記引用に係る原判決の「第2

事案の概要」中の1(3)イ(原判決4頁6

行目冒頭から6頁1行目末尾まで)に説示のとおりであり,卒業式等における国旗掲揚等の方法を相当程度具体的に定め,これに沿った卒業式等の実施を命じるものであり,この限りにおいて教師の裁量を制限するものといえる。しかしながら,前記説示のとおり,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであるから,卒業式等の式典が学習指導要領上の特別活動として位置付けられている教育活動であるとしても,これを授業と同列に論じることは相当でない。また,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと」と規定している(前記引用に係る原判決の「第2

事案の概要」の1(2))

ところ,教員や生徒,保護者や来賓等多数の者が参列する集団的行事である卒業式等の式典は,厳粛さが特に要求される儀式的行事であり,これにふさわしい秩序を確保し,統一的な進行を図るため,国旗掲揚等の方法を一律に定め,これを実施することは儀式としての性質上必要なことというべきであるから,学習指導要領に沿った教育指導を行うべき教師としては,自らが考える卒業式等の在り方いかんにかかわらず,学習指導要領の国旗国歌条項に沿って儀式的行事として決定された内容に従った卒業式等の実施に協力する義務がある。このことは,教師の専門職上の自由の侵害とはいえないし,教育活動における教師の裁量を不当に制約するものともいえない。以上のように解したとしても,本件通達及び本件実施指針に定められていない事柄については,教師による自主的工夫の余地は制限されておらず,弾力的な実施が可能であるから,教師の裁量の余地は残されているといえる。したがって,本件通達及び本件各職務命令は,第1審原告らの教師としての専門職上の自由を侵害するものとは認められず,第1審原告らの上記主張は採用できない。
イまた,第1審原告らは,画一的な起立斉唱等の指導は,「子どもが適切な教育を受ける権利」を侵害し,教師の「子どもが適切な教育を受ける権利を実現するために必要な範囲内での自由」を侵害する旨主張する(前記第2の3(4)イ)。
しかしながら,前記説示のとおり,国旗国歌条項の制定趣旨は,生徒等に国旗・国歌に対する一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることなどを目的として,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を求める点にあり,また,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと」と規定しており,厳粛さが特に要求される儀式的行事である卒業式等での画一的な起立斉唱等の指導は,これらの趣旨に沿うものであること,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであり,特定の思想を持つことを強制するものではないことからすれば,画一的な起立斉唱等の指導が「子どもが適切な教育を受ける権利」を侵害するとみることは困難であり,教師の「子どもが適切な教育を受ける権利を実現するために必要な範囲内での自由」を侵害するともいえない。したがって,第1審原告らの上記主張も採用できない。
(5)国際条約違反の有無について
第1審原告らは,自由権規約,自由権規約委員会の一般的意見や最終意見,児童の権利に関する条約及びILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告は,本件の解釈の指針とすべきであり,本件通達は,いずれの国際条約にも違反している旨主張し,また,第1審原告らは,教師として生徒の自由や人権を保障するという責務を果たすため,児童の権利に関する条約違反の職務命令にあえて違反したのであるから,その違反を違法評価すべきではない旨主張する(前記第2の3(5))。
しかしながら,本件通達及び本件各職務命令が憲法19条,20条に違反するものでないことは前記説示のとおりであり,本件通達及び本件各職務命令が自由権規約に反するとはいえず,第1審原告らが主張する自由権規約委員会による一般的意見や最終意見によっても,結論は左右されない。また,前記説示のとおり,本件実施指針に定められていない事柄については,教員や生徒による自主的工夫の余地があり,弾力的な実施が可能であるから,本件通達は,卒業式等の実施方法について各学校の裁量の余地を残しているといえ,本件通達及び本件実施指針に基づいて国旗・国歌の指導を行うことが生徒の自由や人権を侵害するとはいえない。したがって,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(6)国家シンボルの強制そのものの違憲性の有無について
第1審原告らは,卒業式等における起立斉唱等の行為は,儀式的行事における儀礼的所作とはいえず,国旗・国歌を尊重する態度を表明する行為と評価されるものであり,公権力が国旗・国歌に対して尊重の態度をとることを国民に義務付けることは,公権力が介入の許されない事項について国民に義務を課すものとして,立憲主義に反する旨主張する(前記第2の3(6))。しかしながら,卒業式等における起立斉唱等の行為が,国旗・国歌を尊重する態度を表明する面を含むとしても,そのことによって儀式的行事における儀礼的所作であることが否定されるわけではない。また,前記引用に係る原判決の「第4

当裁判所の判断」中の2(1)(原判決71頁9行目冒頭か

ら72頁15行目末尾まで)に説示のとおり,本件通達及び本件各職務命令は,教育上の特に重要な節目となる卒業式等の儀式的行事において,教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図る目的で発せられたものであり,目的に合理性があるといえ,その内容も,一般的,客観的に見て儀式的行事における儀礼的所作と外部から認識される起立斉唱等の行為を求めるものであって,教師の思想及び良心の自由や信教の自由に対する間接的制約となる面はあるものの,その制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるのである。しかも,前記説示のとおり,教師の専門職上の自由を侵害するものでもない。そうすると,卒業式等における起立斉唱等の行為は,国旗・国歌に対する敬意を表明する面を有しているものの,このことから直ちに公権力が介入の許されない事項について国民に義務を課したものとみることはできず,これらの行為を命ずる本件通達及び本件各職務命令が立憲主義に反するともいえない。したがって,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(7)憲法94条,地方自治法14条1項違反の有無について
ア第1審原告らは,本件通達が,本件実施指針に従わない教員に校長が職務命令を出すことを当然の前提としており,実質的にみれば,教員に起立斉唱等の行為を義務付けるものであり,国旗国歌法を逸脱しているから,憲法94条,地方自治法14条1項に違反する旨主張する(前記第2の3(7)ア)。
本件通達は,「国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教職員に周知すること」としており(乙14の3),本件通達の発出に当たり,校長が教員に対して職務命令を発出することが当然の前提とされていたものと認められる。しかしながら,前記引用に係る原判決の「第4
当裁判所の判断」中の2(6)(原判決81頁8行目冒頭から82頁9
行目末尾まで)に説示のとおり,本件通達は,国旗国歌法に基づくものではなく,特別活動のうちの儀式的行事について「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定め,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定める学習指導要領を受け,地方公共団体の教育委員会に認められた地教行法23条5号の権限に基づいて定められたものである。したがって,本件通達及び本件各職務命令が教員に起立斉唱等の行為を指示することが国旗国歌法を逸脱しているとはいえず,憲法94条,地方自治法14条1項に違反するとは認められないから,第1審原告らの上記主張は採用できない。
イまた,第1審原告らは,学習指導要領の国旗国歌条項が大綱的基準にすぎず,教員に卒業式等における起立斉唱等の行為を義務付けることは許されないところ,本件通達は,これらの義務を教員に負わせており,学習指導要領の大綱的基準を逸脱するとして,憲法94条,地方自治法14条1項に違反する旨主張する(前記第2の3(7)イ)。
しかしながら,前記説示のとおり,国旗国歌条項の制定趣旨は,生徒等に国旗・国歌に対する一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることなどを目的として,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を求める点にあることからすれば,国旗国歌条項については,単に国旗掲揚及び国歌斉唱をすれば足りるという趣旨と解することはできず,通達等で卒業式等における起立斉唱等の方法を定めることを許容しているというべきである。このように解しても,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであり,教師の専門職上の自由を侵害するものではないこと,本件通達及び本件実施指針に定めがない事柄については,学校による自主的工夫の余地が残されていることからすれば,国旗国歌条項が大綱的基準であることに反することはないといえる。そうすると,本件通達が教員に起立斉唱等の行為を義務付けるものであるとしても,学習指導要領の大綱的基準を逸脱するとはいえず,憲法94条,地方自治法14条1項に違反するとは認められないから,第1審原告らの上記主張も採用できない。
(8)国旗国歌条項の法的拘束力の有無について
第1審原告らは,学習指導要領の国旗国歌条項は,その文言や大綱的基準としての性質から,本件通達及び本件各職務命令の根拠となるものではなく,儀式的行事の具体的な在り方や内容は各学校が決めるべきであり,本件通達及び本件各職務命令が国旗国歌条項を根拠に起立斉唱等を強制することは許されない旨主張する(前記第2の3(8))。
学習指導要領は,その内容が教育の自主性尊重,教育における機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準を定めるものとして,法的拘束力を有するものである(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁)が,国旗国歌条項が通達等で卒業式等における起立斉唱等の方法を定めることを許容していることは,前記説示のとおりである。そうすると,本件通達及び本件各職務命令が国旗国歌条項を根拠とするものと解したとしても,学習指導要領が大綱的基準であることに反するとはいえず,本件通達及び本件各職務命令が国旗国歌条項を根拠に起立斉唱等の方法を定めることは許容されているというべきであるから,第1審原告らの上記主張は採用できない。(9)教育基本法16条1項違反の有無について
ア第1審原告らは,学習指導要領上の特別活動の一つにすぎない卒業式等における国旗掲揚等の方法は,各学校が創意工夫に基づいて生徒の自主的,実践的活動を助長するよう決定しなければならず,国旗掲揚等の方法を詳細に定める本件通達及び本件実施指針は,学校の創意工夫や生徒の自主的,実践的活動を阻害するもので,教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たる旨主張する(前記第2の3(9)ア)。
しかしながら,前記説示のとおり,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであり,生徒に特定の思想のみを教えることを教師に強制するものではないこと,卒業式等において国旗掲揚の方法等を一律に定めておく必要性があり,他方,学校による自主的工夫の余地も残されていることからすれば,本件通達及び本件実施指針が国旗掲揚の方法等を細部にわたって定めていることから直ちに学校の創意工夫や生徒の自主的,実践的活動を阻害するものとみることは困難というべきである。したがって,第1審原告らの上記主張は採用できない。
イまた,第1審原告らは,都教委が,その管理権(地教行法23条5号)に基づき,教育活動全般に関し具体的な命令を行うことは,教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たり許されないが,本件通達及び本件実施指針は教育活動に関する具体的な命令というべきものであり,上記「不当な支配」に当たる旨主張する(前記第2の3(9)イ)。
しかしながら,教育に対する行政権力の不当,不要の介入が排除されるべきであることは当然であるとしても,許容される目的のために心要かつ合理的と認められる介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても許されると解するのが相当であり(前掲最高裁昭和51年5月21日大法廷判決),地方公共団体が設置する教育委員会が教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,公立学校を所管する行政機関として,その管理権に基づき,学校の教育課程の編成や学習指導等に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,適正かつ許容される目的のために必要かつ合理的と認められる範囲内において,具体的な命令を発することもできると解される。そして,前記認定に係る本件通達が発出された経緯によれば,学習指導要領に基づく卒業式等を実施するよう改善,充実を図るという本件通達の目的には合理性があり,これを実現するために卒業式等における国旗掲揚の方法等を定める通達を特に発すべき必要性もあったと認められる。また,前記説示のとおり,本件通達が教師の思想及び良心の自由を侵害するものとは認められず,教師に対し国旗・国歌について一方的に特定の思想を生徒に教え込むことを強制するものではなく,教師としての専門職上の自由を侵害するともいえないのである。以上によれば,本件通達及び本件実施指針が教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たるとは認められず,第1審原告らの上記主張も採用できない。
(10)

平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条
(改正後の同法51条)違反の有無について
第1審原告らは,国旗・国歌に関し,生徒に一方的,一面的な指導教育をすることが許されないことは,通常授業の場面だけでなく,すべての教育場面に妥当するとした上で,教師が,内心の自由について生徒に説明することを禁じられ,卒業式等において起立斉唱等を強要されている姿を生徒に示すことは,本件通達が定める起立斉唱等の方法が唯一無二のものであるとして,生徒に一方的かつ一面的な指導教育をしていることにほかならないから,本件通達及び本件各職務命令は,平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条(改正後の同法51条)に違反する旨主張する(前記第2の3(10))。
しかしながら,国旗国歌条項の制定趣旨が,生徒等に国旗・国歌に対する一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることなどを目的として,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を求める点にあり,画一的な起立斉唱等の指導は,この制定趣旨に沿うものであること,卒業式等における起立斉唱等の行為は,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであり,特定の思想を表明するものではなく,内心の自由を含む思想及び良心の自由を侵害するものではないことは,いずれも前記説示のとおりである。したがって,本件通達及び本件各職務命令が画一的な起立斉唱等の指導を指示していることから直ちに平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条(改正後の同法51条)に違反するとは認められず,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(11)地方自治法14条2項,2条16項,2条2項違反の有無について第1審原告らは,本件通達は,法令に特別の定めがないのに,条例によらずに義務を課し権利を制限するものであり,地方自治法14条2項に違反し,また,都教委は,本件通達を刷り込み式愛国心教育のために発出したものであり,地教行法23条5号の管理権限を逸脱し,法令に違反して事務処理をしたものであるから,本件通達は,地方自治法2条2項,同条16項にも違反する旨主張する(前記第2の3(11))。
しかしながら,本件通達が第1審原告らの権利義務を制限するものでないこと,本件通達が刷り込み式愛国心教育という目的で発出されたとは認められないことは,いずれも前記説示のとおりである。したがって,本件通達が地方自治法14条2項,2条2項,同条16項に違反するものとは認められず,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(12)本件各処分の手続的違法の有無について
第1審原告らは,本件各処分には憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶというべきであるが,本件各処分に当たっては,適正手続の保障の要請を実質的に満たすような弁解,防御の機会が与えられておらず,また,第1審原告らには弁護士の立会いによる援助を受ける権利が保障されるべきである旨主張する(前記第2の3(12))。
しかしながら,行政手続法3条1項9号は,公務員又は公務員であった者に対しその職務又は身分に関してされる処分について,告知,聴聞の機会を与える規定の適用を除外しており,告知,聴聞の機会を与えなければならないものではない上,聴聞に関する一切の行為をすることができる代理人を選任できる旨を定めた行政手続法16条の適用はなく,事情聴取に弁護士の立会いを認めなければならないものではない。また,処分に先立つ事実確認のための事情聴取に,憲法31条の要請する適正手続の保障が及ぶ余地があるとしても,事実関係の確認のための事情聴取において,弁護士の立会いを求めることが憲法31条によって当然の権利として認められるものではない。本件各処分については,前記引用に係る原判決の「第2事案の概要」中の1(5)(原判決6頁18行目冒頭から8頁2行目末尾まで)に認定のとおり,第1審原告らに対して事前に事情聴取が行われており,実質的に告知と弁明の機会が与えられていたというべきであり,また,弁護士の立会いが認められなかったために事情聴取に応じなかった者についても,告知,弁明の機会自体は与えられたのであるから,本件各処分の手続は公正かつ適正に行われたと認められる。したがって,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(13)本件各処分における裁量権の逸脱,濫用の有無について
ア第1審原告らの主張に対する判断
(ア)第1審原告らは,教師が国旗に向かって起立斉唱する姿を生徒に示すことは,生徒に一律かつ画一的に国旗に向かって起立斉唱することを強制することと同義であり,生徒の学習権を侵害するとして,都教委による本件各処分は裁量権を逸脱,濫用するものである旨主張する(前記第2の3(13)ア)。
子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家の介入,例えば,誤った知識や特定の思想を一方的に子どもに植えつけるような内容の教育が許されないことは当然である。しかしながら,卒業式等における起立斉唱等の行為は,前記説示のとおり,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであり,特定の思想を持つことを強制するものではなく,誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるものでもない。また,国旗国歌条項が,生徒等に国旗・国歌に対する一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることなどを目的とするものであり,学習指導要領は,儀式的行事について「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと」と規定しているのであり,卒業式等の式典における起立斉唱等の指導は,これらの趣旨に沿うものである。したがって,教師が起立斉唱等をする姿を生徒に示すことが子どもの学習権を侵害するとはいえず,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(イ)また,第1審原告らは,懲戒処分によって第1審原告らが被る昇給延伸等の不利益は,懲戒処分を科すか否かを判断するに当たって当然に考慮されなければならず,第1審原告らが被る昇給延伸等の不利益を考慮せずにした本件各処分は,裁量権を逸脱,濫用するものである旨主張し,また,戒告と減給以上の処分とを峻別する考え方は不合理であるとも主張する(前記第2の3(13)イ及びウ)。
公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
本件各職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものである(最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁等)のに対して,本件不起立等は,教員や生徒,保護者や来賓等多数の者が出席する重要な学校行事である卒業式等において行われた教員による職務命令違反であり,地方公務員としての地位や職務の性質に沿わない行為であるとともに,その結果として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響を否定することができない。したがって,本件各職務命令に違反する本件不起立等は,軽微な非違行為であるとか,形式的な非違行為であるということはできない。
第1審被告の地方公務員に対する懲戒処分のうち,戒告処分は最も軽い処分であって,戒告処分自体による経済的不利益はなく,処分を受ける者に対する不利益は相対的に小さい。戒告処分によって,昇給延伸や勤勉手当への影響はあり,平成18年の規則改訂によって従前よりその影響が大きくなったことが認められるが,これは戒告処分自体による不利益ではないし,懲戒処分である以上,一定の不利益が及ぶことはやむを得ない。そうすると,上記のとおり,本件不起立等は,軽微な非違行為であるとか,形式的な非違行為であるということはできないから,本件各職務命令の違反に対して行われた本件各処分は,本件不起立等の動機,原因が第1審原告ら個人の歴史観ないし世界観等に由来するものであることや,本件不起立等によって卒業式等の実際上の進行に支障がなかったことを考慮しても,懲戒権者の裁量権の行使に逸脱,濫用があったと認めるのは困難である。
他方,減給や停職処分は,法律上の不利益として一定期間,給与そのものが直接減額ないし不支給とされるのみならず,期末手当,退職金,年金等への影響も大きく,多大な不利益を伴うものである上,本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると,本件不起立等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立等の前後における態度等に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである(最高裁平成24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁)。
以上によれば,戒告処分による昇給延伸や勤勉手当への影響等を考慮しても,戒告処分をした都教委に裁量権の逸脱,濫用は認められず,また,戒告処分とこれより重い減給以上の処分とで,処分選択の際に要求される慎重さの程度に差があることはやむを得ないものというべきであり,第1審原告らの上記主張は採用できない。
(ウ)なお,第1審原告らは,処分取消訴訟の対象となる「処分の事由」は「処分説明書」に書かれている「処分の事由」に限定されるべきである旨主張するが(前記第2の3(13)エ),前記引用に係る原判決の「第4当裁判所の判断」中の2(14)(原判決95頁5行目冒頭から96頁11行目末尾まで)に説示のとおりであり,上記主張は採用できない。イ第1審被告の主張に対する判断
(ア)第1審被告は,第1審原告P1,同P2,同P3,同P4,同P5の5名については,本件通達発出前の非違行為に対する懲戒処分の存在及び生徒への特段の働きかけの存在等,職務命令違反の単なる不起立行為とは評価できない事実が存在するのであり,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することについての相当性を基礎付ける具体的な事情が存するから,上記5名に対する処分は取り消されるべきではない旨主張する(前記第2の4)。
(イ)前記説示のとおり,職務命令に違反する不起立等に対する懲戒処分において,戒告処分を超えて減給以上の重い処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立等の前後における態度等に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。そうすると,上記5名に対する減給又は停職の懲戒処分が懲戒権者の裁量の範囲内のものであるかを判断するに当たっては,上記具体的事情の有無について検討する必要があるので,以下では,上記5名の不起立等につき,上記具体的事情の有無を個別に検討する。
a第1審原告P1(別紙2「懲戒処分等一覧表」記載番号2-1ないし2-3)について
(a)処分歴等について
第1審原告P1(以下「P1」という。)は,都立P7高校に勤
務していたところ,平成17年度入学式(平成17年4月7日)における国歌斉唱の際にはピアノ伴奏するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,入学式終了後及びその翌日の校長による事実確認に対し,「回答しません」と述べて回答を拒否し,都教委による平成17年4月14日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C2の1ないし
3)。
都教委は,P1に対し,同年5月27日付けで戒告処分をした。
P1は,同年7月21日に服務事故再発防止研修(基本研修)を
受講したが,受講後に提出した受講報告書に「質問できなかったのでわかりません。」と記載するなどした(乙C2の7)。
なお,P1は,前任校である都立P8高校において平成17年3
月12日に行われた平成16年度卒業式に来賓として出席したが,来賓挨拶の際,「いろいろな強制のもとであっても,自分で判断
し,行動できる力を磨いていってください。」旨発言し,同年7月20日,都立P7高校の校長から,上記来賓挨拶は来賓としてふさわしい発言ではない旨の指導を受けた(乙C2の4ないし6)。
(b)

平成19年3月5日付け減給10分の1,1月の処分(別紙2

「懲戒処分等一覧表」記載番号2-1)について
P1は,都立P7高校の創立30周年記念式典(平成18年11
月18日)における国歌斉唱の際にはピアノ伴奏するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,式典終了後の校長からの事実確認に対し,回答を拒否するとともに,都教委による平成18年12月14日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C2の8ないし10)。
都教委は,P1に対し,平成19年3月5日付けで減給10分の
1,1月の処分をした。
(c)

平成19年3月30日付け減給10分の1,3月の処分(別紙

2「懲戒処分等一覧表」記載番号2-2)について
P1は,都立P7高校の平成18年度卒業式(平成19年3月9
日)における国歌斉唱の際にはピアノ伴奏するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,P1は,卒業式終了後の校長からの事実確認に対し,「お答えしません」と述べて回答を拒否するとともに,都教委による平成19年3月19日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C2の11ないし13)。
都教委は,P1に対し,平成19年3月30日付けで減給10分
の1,3月の処分をした。
P1は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年10月4
日に基本研修を,同年11月19日に専門研修を受講したが,違法な職務命令によって懲戒処分を受けたなどと発言するとともに,課題として提出した報告書や受講後に提出した受講報告書に,本件通達が違憲,違法なものであるなどと記載した(乙C2の14ないし17)。
(d)

平成21年3月30日付け減給10分の1,6月の処分(別紙

2「懲戒処分等一覧表」記載番号2-3)について
P1は,都立P7高校の平成20年度卒業式(平成21年3月6
日)における国歌斉唱の際にはピアノ伴奏するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,P1は,卒業式終了後の校長からの事実確認に対し,「お答えできません」と述べて回答を拒否するとともに,都教委による平成21年3月23日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C2の18ないし20)。
都教委は,P1に対し,平成21年3月30日付けで減給10分
の1,6月の処分をした。
b第1審原告P2(別紙2「懲戒処分等一覧表」記載番号25)について
(a)処分歴等について
第1審原告P2(以下「P2」という。)は,都立P9高校に勤
務していたところ,平成15年度卒業式(平成16年3月12日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式終了後の校長による事実確認に対し,「黙秘する」と述べて回答を拒否し,都教委による平成16年3月23日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C25の1ないし3)。
都教委は,P2に対し,同年3月31日付けで戒告処分をした。
P2は,同年8月2日に服務事故再発防止研修(基本研修)を受
講したが,受講後に提出した受講報告書には,本件通達及び校長の職務命令は違憲,違法であり,現在係争中なので所感を述べることは差し控える旨記載した(乙C25の4)。
なお,P2は,都立P9高校の平成17年度卒業式前日の予行に
おいて,生徒の前で,「明日の卒業式で国歌斉唱があるけれど,憲法19条は全ての人に思想・良心の自由を保障しています。歌いたい生徒は堂々と立って歌ってください。歌いたくない,又は立ちたくない生徒がいれば,自分の良心に従ってくれて結構です。」との発言を行い,卒業生14名のうち11名が国歌斉唱時に起立しなかった。これにより,P2は,平成18年6月12日,都教委の指導部長から厳重注意を受けた(乙C25の5ないし9)。
(b)

平成19年3月30日付け減給10分の1,1月の処分(別紙

2「懲戒処分等一覧表」記載番号25)について
P2は,都立P9高校の平成18年度卒業式(平成19年3月1
2日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式終了後の校長からの事実確認に対し,「知りません。ここで一切答える必要はな
い。違憲な職務命令を出したということが私には問題」と述べて回答を拒否し,都教委による平成19年3月22日の事情聴取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C25の10ないし12)。
都教委は,P2に対し,平成19年3月30日付けで減給10分
の1,1月の処分をした。
P2は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月23
日に基本研修を,同年9月13日に専門研修を受講したが,課題として提出した報告書には,「都教委は都立学校の教育にたいする自らの不当な支配を真摯に反省し,自らを厳正に処分するべきであ
る。」,「私の行為は「重大な瑕疵のある」職務命令に従わなかったものであり,いかなる意味でも「信用失墜行為」にはあたらな
い。」,「都教委は憲法98条にも明確に違反しているのであ
る。」などと記載し,受講後に提出した受講報告書には「通り一遍の説明で,何ら得ることはない。」,「説諭者の話しは,昨年の判決を無視し,都教委の行為を全く正当なものとする前提の上に立ったものであり,説得力に欠けていた。」などと記載した(乙C25の13ないし16)。
c第1審原告P3(別紙2「懲戒処分等一覧表」記載番号28-1及び2)について
(a)処分歴等について
①第1審原告P3(以下「P3」という。)は,都立P10養護学校に勤務していたが,平成13年度の入学式において,「君が
代やめて」及び「日の丸君が代やめてください」などの文言をブ
ラウスに手書きし,このブラウスを着用して式に臨み,平成13
年度の卒業式において,国旗掲揚,国歌斉唱に反対する旨を表示
する図柄をブラウスに手書きし,このブラウスを着用して式に臨
んだ(乙C28の1及び2)。これらの行為について処分は受け
なかった。
②平成14年11月6日付け戒告処分について
P3は,都立P10養護学校の平成14年度入学式(平成14
年4月9日)において,ブラウスの右胸に縦約10cm,横約1
5cmの黒の枠を,また,その枠内の中央に直径約3cmの塗り
つぶした赤い丸を描き,この絵柄に向かって左上から右下方向に
黒色の斜線を入れた模様を手書きするとともに,背中に直径約2
0cmのハートの絵柄に鎖を描いた模様等を手書きし,このブラ
ウスを着用して入学式に臨んだ。校長は,P3に対し,ブラウス
の上に上着を着用するよう職務命令を発出したが,P3は,これ
に従わず,上着を着用しなかった。その後,P3は,校長の事情
聴取に応じなかったほか,「申し入れ書」を校長に提出する等の
抗議をした(乙C28の3ないし6)。
都教委は,P3に対し,同年11月6日付けで戒告処分をし
た。
③平成16年4月6日付け減給10分の1,1月の処分についてP3は,都立P10養護学校の平成15年度卒業式(平成16
年3月24日)において起立斉唱するよう校長から職務命令を受
けたが,これに従わなかった。また,卒業式後の校長による事実
確認を拒否し,都教委による平成16年4月5日の事情聴取につ
いても,弁護士の同席を要求し,これを拒否した(乙C28の1
0ないし12)。
都教委は,P3に対し,同月6日付けで減給10分の1,1月
の処分をした。
P3は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年8月2
日に基本研修を,同月30日に専門研修を受講したが,課題とし
て提出した報告書に自己の見解を記載するとともに,受講後に提
出した受講報告書には「不起立は憲法を尊重する教育公務員とし
て,違法な職務命令に従えなかったからだ。違法な服務研修に抗
議する」,「憲法19条を侵す職務命令および根拠となる200
3.10.23通達のみなおしが求められる。」などと記載した
(乙C28の13ないし17)。
(上記減給10分の1,1月の処分は,P3に対する本件各処
分の後に,確定判決により取り消された。)
④平成17年3月31日付け減給10分の1,6月の処分について
P3は,都立P10養護学校の平成16年度卒業式(平成17
年3月24日)において起立斉唱するよう校長から職務命令を受
けたが,これに従わなかった。また,卒業式後の校長による事実
確認を拒否し,都教委による平成17年3月28日の事情聴取に
ついても,弁護士の同席を要求し,これを拒否した(乙C28の
18ないし20)。
都教委は,同月31日,P3に対し,減給10分の1,6月の
処分をした。
P3は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月2
1日に基本研修を,その後,専門研修を受講したが,課題として
提出した報告書には「上司の職務命令は,憲法,教育基本法な
ど,最高位の法令違反であり,違法な職務命令に従う義務はあり
ません。」,「問題点は,都教委がアイヒマン化していることで
す。反省されたし」などと記載し,受講後に提出した受講報告書
には「反省する内容なし質問させて下さい。」とのみ記載した
(乙C28の21ないし23)。
(上記減給10分の1,6月の処分は,P3に対する本件各処
分の後に,確定判決により取り消された。)
(b)

平成19年3月30日付け停職1月の処分(別紙2「懲戒処分

等一覧表」記載番号28-1)について
P3は,平成17年4月に都立P11養護学校へ異動し,同校
の平成18年度卒業式(平成19年3月22日)において起立斉
唱するよう校長から職務命令を受けたが,卒業式当時の職員朝会
において「職務命令には従えない。一部の人から強制されること
はおかしい。私は立てません。」と発言するとともに,上記職務
命令に従わなかった。また,卒業式後の校長による事実確認に対
し,「私に不利になることは話さない。弁護士の立会いでなけれ
ば話しません。」と述べて回答を拒否し,都教委による平成19
年3月23日の事情聴取についても,弁護士の同席を要求し,こ
れを拒否した(乙C28の24ないし26)。
都教委は,同月30日,P3に対し,停職1月の処分をした。
P3は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月2
3日に基本研修を,同年9月10日に専門研修を受講したが,課
題として提出した報告書には「私の行為は服務事故ではありませ
ん。」,「私の不起立はそもそも懲戒処分に該当しません。」な
どと記載し,受講後に提出した受講報告書には「10.23通達
に基づく職務命令は違法違憲です。」などと記載した(乙C28
の27ないし30)。
なお,P3は,上記停職処分の停職期間中,「校門出勤闘争」
と称して都立P11養護学校の校門前で,支援者らとともに,
「君が代強制反対」などと記載した表示を掲げるとともに,職員
や保護者らにチラシを配布するなどした(乙C28の31)。
(c)

平成21年3月31日付け停職3月の処分(別紙2「懲戒処分

等一覧表」記載番号28-2)について
P3は,都立P12特別支援学校(都立P11養護学校が平成
20年4月1日から校名を変更した。)の平成20年度卒業式
(平成21年3月23日)において起立斉唱するよう校長から職
務命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式後の校長
による事実確認を拒否し,都教委による平成21年3月26日の
事情聴取についても,弁護士の同席を要求し,これを拒否した
(乙C28の32ないし35)。
都教委は,同月31日,P3に対し,停職3月の処分をした。
P3は,同年7月21日に服務事故再発防止研修を受講した
が,受講に当たり提出した受講前報告書には「東京都教育委員会
による2003年10月23日通達の発出が原因であり,すべて
の理由である。」,「10.23通達の撤回を求める。」,「私
としては,自己の処分について何ら反省するべき点はない。」な
どと記載し,受講後に提出した受講報告書には「反省すべき何も
のもない。」などと記載した(乙C28の36ないし39)。
なお,P3は,上記停職処分の停職期間中,都立P12特別支
援学校の校門前に「日の丸君が代強制反対,停職3ヶ月処分反
対」と表示した横断幕を立てて,チラシを配布している(乙C2
8の40及び41)。
d第1審原告P4(別紙2「懲戒処分等一覧表」記載番号32)について
(a)処分歴等について
①平成16年3月31日付け戒告処分について
第1審原告P4(以下「P4」という。)は,都立P13高校
に勤務していたところ,平成15年度卒業式(平成16年3月1
0日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から職務
命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式終了後の校
長による事実確認に対し,「お答えする必要はありません」と述
べて回答を拒否し,都教委による平成16年3月25日の事情聴
取においても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙
C32の1ないし3)。
都教委は,P4に対し,同月31日付けで戒告処分をした。
P4は,同年8月9日に服務事故再発防止研修(基本研修)を
受講したが,受講後に提出した受講報告書には,「現在係争中な
ので,この件についての記述は留保します。」とのみ記載した
(乙C32の4)。
なお,P4は,都立P13高校の平成16年度卒業式直前の授
業で,生徒に対し,内心の自由に触れ,卒業式で立つ,立たな
い,歌う,歌わないは生徒一人一人の判断の問題であるといった
趣旨の発言等を行い,平成17年5月30日,都教委の指導部長
から厳重注意を受けた(乙C32の5,乙C54)。
②平成18年3月31日付け減給10分の1,1月の処分について
P4は,都立P13高校の平成17年度卒業式(平成18年3
月10日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から
職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式終了後
の校長による事実確認に対し,特に言うことはない旨述べて回答
を拒否し,都教委による平成18年3月22日の事情聴取におい
ても,弁護士の同席を要求し,事情聴取を拒否した(乙C32の
6ないし8)。
都教委は,P4に対し,同月31日付けで減給10分の1,1
月の処分をした。
P4は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月2
1日に基本研修を,同年9月11日に専門研修を受講したが,研
修課題の報告書には,職務命令が違憲,違法である旨の記載を
し,受講後に提出した受講報告書には「このような研修を受けな
ければならない理由はいっさいない」とのみ記載した(乙C32
の9ないし11)。
(上記減給10分の1,1月の処分は,P4に対する本件各処
分の後に,確定判決により取り消された。)
(b)

平成19年5月25日付け減給10分の1,6月の処分(別紙

2「懲戒処分等一覧表」記載番号32)について
P4は,平成18年4月に都立P14高校に異動したところ,
同校の平成19年度入学式(平成19年4月11日)における国
歌斉唱に際し起立斉唱するよう校長から職務命令を受けたが,こ
れに従わなかった。また,入学式後の校長による事実確認に対
し,「弁護士同席でなければ何も言うことはありません」と述べ
て回答を拒否し,都教委による平成19年4月18日の事情聴取
についても,弁護士の同席を要求し,これを拒否した(乙C32
の12ないし14)。
都教委は,P4に対し,同年5月25日付けで減給10分の
1,6月の処分をした。
P4は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月2
3日に基本研修を,同年9月10日に専門研修を受講したが,研
修課題の報告書には,職務命令が違憲,違法である旨の記載を
し,受講後に提出した受講報告書には「違憲,違法な職務命令に
従わなかったことによってなされた処分についての研修を受ける
理由は全くない。」,「このような研修を受講しなければならな
いいかなる理由もない。」などと記載した(乙C32の15ない
し18)。
e第1審原告P5(別紙2「懲戒処分等一覧表」記載番号43)について
(a)処分歴等について
①平成16年3月31日付け戒告処分について
第1審原告P5(以下「P5」という。)は,都立P15高校
に勤務していたところ,平成15年度卒業式(平成16年3月1
6日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から職務
命令を受けたが,これに従わなかった。また,都教委による平成
16年3月25日の事情聴取において,「理不尽な職務命令には
従う必要はありません。」などと述べるとともに,事情聴取書へ
の署名,押印を拒否した(乙C43の1ないし3)。
都教委は,P5に対し,同月31日付けで戒告処分をした。
P5は,同年8月2日に服務事故再発防止研修(基本研修)を
受講したが,受講後に提出した受講報告書には「この研修は何の
ために行われたのだろう?」,「こうした研修を行うことが法治
国家で認められていいのだろうか。」,「質問,応答が認められ
ない研修があっていいのだろうか?」などと記載した(乙C43
の4)。
②平成17年3月31日付け減給10分の1,1月の処分について
P5は,都立P15高校の平成16年度卒業式(平成17年3
月17日)における国歌斉唱の際には起立斉唱するよう校長から
職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,都教委による
平成17年3月24日の事情聴取において,「10.23通達が
明らかに憲法違反,法令違反,教育基本法に違反している」など
と述べるとともに,事情聴取書への署名,押印を拒否した(乙C
43の5ないし7)。
都教委は,P5に対し,同月31日付けで減給10分の1,1
月の処分をした。
P5は,服務事故再発防止研修の受講を命ぜられ,同年7月2
1日に基本研修を,同年9月13日に専門研修を受講したが,研
修課題の報告書には,本件通達や職務命令が憲法,法令に違反す
る旨の記載をしたほか,データ送付を求め,「この質問,及びデ
ータ送付に関する要請を無視するようであれば,9月13日の
“研修”の場において,徹底的に追求するので,その覚悟を持た
れんことを。」などと記載し,受講後に提出した受講報告書に
は,自己の見解や研修に対する批判等を記載した(乙C43の8
ないし11)。
なお,P5は,平成16年度卒業式の前日のホームルームにお
いて,生徒に対し,内心の自由に触れ,国旗・国歌に対して自分
の考えで行動してよいといった趣旨の発言等を行い,平成17年
5月27日,都教委の指導部長から厳重注意を受けた(乙C43
の12ないし15)。
(上記減給10分の1,1月の処分は,P5に対する本件各処
分の後に,確定判決により取り消された。)
(b)

平成20年3月28日付け減給10分の1,6月の処分(別紙

2「懲戒処分等一覧表」記載番号43)について
P5は,平成17年4月に都立P16高校に異動したところ,同
校の平成19年度卒業式(平成20年3月12日)において国歌斉唱時に起立斉唱するよう校長から職務命令を受けたが,これに従わなかった。また,卒業式後の校長による事実確認に対し,「東京都の教育行政は間違っている。」などと述べて回答を拒否し,また,都教委による平成20年3月19日の事情聴取についても,「全く責任を感じておりません。」,「10.23通達及びそれにもとづく校長の職務命令は明らかに憲法違反,教育基本法違反である」旨述べた(乙C43の16ないし18)。
都教委は,P5に対し,同年3月28日付けで減給10分の1,
6月の処分をした。
(ウ)以上の認定事実によれば,上記5名の第1審原告らに対する減給又は停職の懲戒処分は,同種の非違行為が再びされた場合に加重するという都教委の量定の方針に従ってされたものと認められるが,上記各処分の対象となった不起立等は,卒業式等の式典の進行を積極的に妨害する行為ではなく,卒業式等の運営や進行に具体的な支障を来した事実も認められないこと,上記5名の第1審原告らの中には,処分歴の対象となった不起立等や本件の不起立等に関する事情聴取や再発防止研修に拒否的で,反省の態度が見られない者もいるが,これらの行為は,必ずしも研修の実施を積極的に妨害するものではなく,具体的な支障を来したものではなかったと認められる。
P1についてみると,本件各処分前の平成17年4月7日の入学式の職務命令違反,本件各処分等の対象である平成18年11月18日の創立30周年記念式典,平成19年3月9日の卒業式,平成21年3月6日の卒業式における各職務命令違反は,いずれもピアノ伴奏の職務命令に従わなかったものである。これによって国歌斉唱時のピアノによる伴奏ができなくなるとしても,国歌斉唱時に起立斉唱をしないという職務命令違反と違反の程度に差異はないというべきであって,積極的に卒業式等を妨害したとはいえない。平成17年3月12日の他校の卒業式における来賓挨拶は明示的に国歌斉唱時の不起立等について述べたものではなく,服務事故再発防止研修においても積極的な妨害行為はない。職務命令違反が繰り返されているが,いずれも積極的な妨害とはいえないから,加重事由として重視するのは相当でない。
P2についてみると,本件各処分前の平成16年3月12日の卒業式における職務命令違反,本件各処分等の対象である平成19年3月12日の卒業式における職務命令違反は,いずれも国歌斉唱時の不起立等であり,積極的に卒業式を妨害したものではない。平成17年度卒業式前日の生徒に対する発言は,国歌斉唱時の不起立等に言及するものであり,生徒に対する影響もあったとみられることからすれば軽視することはできないが,積極的な妨害とまではいえず,服務事故再発防止研修においても積極的な妨害行為はない。職務命令違反が重なっているが,いずれも積極的な妨害ではないから,加重事由として重視するのは相当でない。
P3についてみると,本件各処分前の平成14年4月9日の入学式における職務命令違反は,メッセージをこめたブラウスの着用行為であって職務命令に反対する意思を表示するものであるが,積極的に入学式を妨害したとまではいえず,その後の平成16年3月24日の卒業式,平成17年3月24日の卒業式における各職務命令違反,本件各処分等の対象である平成19年3月22日の卒業式,平成21年3月23日の卒業式における各職務命令違反は,いずれも国歌斉唱時の不起立等であり,積極的に卒業式を妨害したものではない。平成13年度入学式及び卒業式におけるメッセージが入ったブラウスの着用は積極的な妨害とまではいえず,処分を受けてもいない。服務事故再発防止研修において積極的な妨害行為はなく,停職期間中のチラシ配布等の行為は,学校外での行為であって重視するのは相当でない。職務命令違反が多数繰り返されているが,いずれも積極的な妨害ではないから,加重事由として大きく重視するのは相当でなく,平成16年3月24日の卒業式,平成17年3月24日の卒業式における各職務命令違反に対する減給処分はいずれも確定判決により取り消されていることに鑑みると,減給処分に相当する非違行為があったとして加重事由とすることも相当でない。
P4についてみると,本件各処分前の平成16年3月10日の卒業式,平成18年3月10日の卒業式における各職務命令違反,本件各処分等の対象である平成19年4月11日の入学式における職務命令違反は,いずれも国歌斉唱時の不起立等であって,積極的に卒業式等を妨害したものではない。服務事故再発防止研修においても積極的な妨害行為はない。職務命令違反が繰り返されているが,いずれも積極的な妨害ではないから,加重事由として重視するのは相当でなく,平成18年3月10日の卒業式における職務命令違反に対する減給処分は確定判決により取り消されていることに鑑みると,減給処分に相当する非違行為があったとして加重事由とすることも相当でない。
P5についてみると,本件各処分前の平成16年3月16日の卒業式,平成17年3月17日の卒業式における各職務命令違反,本件各処分等の対象である平成20年3月12日の卒業式における職務命令違反は,いずれも国歌斉唱時の不起立等であって,積極的に卒業式を妨害したものではない。平成16年度卒業式前日の生徒に対する発言は,国旗・国歌に言及するものであるが,卒業式における国歌斉唱の積極的な妨害とはいえず,服務事故再発防止研修においても積極的な妨害行為はない。職務命令違反が繰り返されているが,いずれも積極的な妨害ではないから,加重事由として重視するのは相当でなく,平成17年3月17日の卒業式における職務命令違反に対する減給処分は確定判決により取り消されていることに鑑みると,減給処分に相当する非違行為があったとして加重事由とすることも相当でない。
以上に加え,減給や停職の処分が,一定期間,給与の不支給や教育活動の停止をもたらす重大な不利益を伴うものであることや,毎年度2回以上の卒業式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくことも併せ考慮すると,上記の第1審原告らについては,過去の非違行為やこれによる懲戒処分等の処分歴,不起立等の前後における態度等を考慮しても,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から減給又は停職の処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情があったとは認め難いというべきである。そうすると,上記第1審原告らに対してされた減給又は停職の処分は,処分の選択が重きに失するものとして社会通念上著しく妥当を欠き,懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。したがって,第1審被告の上記主張は理由がない。
(14)国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求について
ア前記説示のとおり,第1審原告らに対する本件各処分のうち戒告処分については,その処分に何ら違法な点はないから,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
イ他方,前記説示のとおり,第1審原告らに対する本件各処分のうち減給処分及び停職処分は,懲戒権者である都教委に与えられた裁量権の範囲を超えるものとして違法であり,取り消されるべきものである。
この点,第1審原告らは,本件通達及び本件各職務命令について従前より思想及び良心の自由との関係で懸念が示されており,また,減給処分や停職処分は,懲戒処分の中でも不利益の程度が大きいものであるにもかかわらず,都教委が,本件不起立等に対する処分を機械的に累積加重して行ったのは,裁量権の逸脱,濫用に当たる旨主張する(前記第2の3(14))。
しかしながら,行政処分が違法であるからといって,直ちに国家賠償法1条1項所定の違法が肯定されるわけではなく,その違法が肯定されるのは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限られるものと解され(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁),また,国家賠償法1条1項所定の公務員の故意・過失については,法令の解釈につき異なる見解が対立して疑義を生じており,よるべき明確な判例学説がなく,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても一応の論拠が認められる場合に,公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに当該公務員に過失があったとすることはできないと解される(最高裁昭和46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁,最高裁昭和49年12月12日第一小法廷判決・民集28巻10号2028頁)。そして,本件において,都教委が第1審原告らの一部について本件不起立等について減給以上の懲戒処分を選択したのは,前記説示のとおり,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受けた処分歴があるにもかかわらず,再び同様の非違行為を行ったためであるところ,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合には,その非違性の程度は,後者の方が重いことは明らかであるから,その場合に定型的に処分を加重するという基本方針自体は不合理とはいえない。また,前記説示のとおり,本件不起立等は必ずしも軽微な非違行為であるとはいえない上,本件各処分の当時において,再度の不起立等に対して減給以上の懲戒処分を選択することが懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものであるとの見解が一般的であったとも認められない。これらの事情に照らすと,都教委が過去の処分を加重した処分をしたことが,それぞれの処分当時において懲戒権者に課された職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできず,また,その判断に過失があったということもできないから,第1審原告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
3よって,原判決は相当であり,第1審原告らの本件各控訴及び第1審被告の本件各控訴はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第21民事部

裁判長裁判官

中西
裁判官

鈴木正弘
裁判官

瀬田浩久茂
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