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損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)1985等
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成28年3月16日
法廷名東京地方裁判所
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平成28年3月16日判決言渡
平成25年(ワ)第1985号
平成26年(ワ)第22614号
主1
損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
損害賠償請求事件(以下「第2事件」という。)

被告らは,原告Aに対し,連帯して,2739万9620円及びこれに対する平成23年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,原告Bに対し,連帯して,2677万7500円及びこれに対する平成23年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告Cは,原告ら各自に対し,各140万8416円及びこれに対する平成24年2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4
被告Cは,原告ら各自に対し,各140万8416円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,これを7分し,その3を被告らの連帯負担とし,その2を原告Aの負担とし,その余を原告Bの負担とする。

7
この判決は,第1項から第3項までにつき,仮に執行することができる。事実及び理由

第1

請求

1(1)

被告らは,原告Aに対し,各自,4867万7147円及びこれに対す
る平成23年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)

被告らは,原告Bに対し,各自,4702万7147円及びこれに対す
る平成23年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1)

被告Cは,原告Aに対し,146万7671円及びこれに対する平成2
4年2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。(2)

被告Cは,原告Bに対し,146万7672円及びこれに対する平成2
4年2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。3(1)

被告Cは,原告Aに対し,146万7671円及びこれに対する本判決
確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(2)

被告Cは,原告Bに対し,146万7672円及びこれに対する本判決
確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要
訴訟物
原告らは,原告らの長男Dが自死したのは,Dの雇用主であった被告C,配置先又は出向先であった被告E,及び両社(以下「被告会社ら」ということがある。)の代表者であった被告Fの安全配慮義務違反によるとして,①被告C及び②被告Eに対しては民法415条又は709条に基づき,③被告Fに対しては同法709条又は会社法429条1項に基づき,各自,Dの父である原告Aに対する逸失利益,慰謝料,葬儀費用及び弁護士費用4867万7147円及びこれに対する不法行為後(その他の債権については催告前)である平成23年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,Dの母である原告Bに対する逸失利益,慰謝料及び弁護士費用4702万7147円及びこれに対する平成23年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,④被告Cに対し,Dの時間外労働手当として原告Aに対する146万7671円及びこれに対する支払日後である平成24年2月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,原告Bに対する146万7672円及びこれに対する支払日後である平成24年2月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,及び,⑤前記各時間外手当についての付加金及びこれに対するその支払を命じる判決確定日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
前提事実
(1)

Dと被告らとの関係等
原告らの長男Dは,平成13年6月から被告Cに雇用されコールセンタ
ーの業務等に従事した後,平成23年10月1日から被告Cに在籍したまま,被告Eのチョコレート販売事業に従事させる旨の人事異動の発令を受け(以下「本件異動」という。本件異動が被告C内部の1部門としてのチョコレート販売事業部門への配置転換なのか,被告Cに在籍したままチョコレート販売事業を目的とする被告Eに出向する在籍出向なのか,当事者間に争いがある。),以後,チョコレート販売事業の店舗管理,在庫管理等の業務に従事していた(甲5ないし8,弁論の全趣旨)。
被告Fは,被告Cの創業者であり,被告Cの代表取締役を務めていた(甲3の1・2,乙19,弁論の全趣旨)。被告Fは,平成23年6月30日,被告Eの代表取締役に就任し,本件異動中,その代表取締役を務めていた(甲4,乙19,弁論の全趣旨)。補助参加人G(以下「G」という。)は,平成23年10月24日から被告Eの取締役を務めていた(甲4)。
(2)

Dの死亡,労災認定
Dは,平成23年12月28日,被告ら肩書住所地の建物の非常階段に索
状物をかけて自ら縊死した(甲1,2)。Dには配偶者及び子はおらず,父原告A,母原告Bがその地位を相続により承継した(甲1)。
渋谷労働基準監督署(以下「渋谷労基署」という。)の調査官は,同年11月18日から12月17日までのDの時間外労働時間数は170時間05分であり「極度の長時間労働」に従事した事実が認められる等との調査復命書を作成し(甲17),渋谷労働基準監督署長は,Dの死亡は業務上の疾病によると認定した(甲22の1・2,弁論の全趣旨)。
(3)

労災保険給付
原告らは,労災保険給付として,遺族補償一時金として1629万800
0円,葬祭料97万7880円の支給を受けた(甲22の1・2)。(4)

時間外労働の基礎賃金―Dと被告Cとの雇用契約の内容
賃金は平成23年1月1日から同年6月20日まで月額30万円,同月21日から同年12月28日まで月額31万5000円で,当月20日締め,当月末日払であった(争いがない。)。


平成23年の1箇月平均所定労働時間は162時間(8時間×243日÷12=162時間)であり,同年1月1日から同年6月20日までの時間外労働の基礎賃金額は1851円(30万円÷162時間=1851円),同月21日から同年12月28日までは1944円(31万5000円÷162時間=1944円)であった(争いがない)。

3
争点及び当事者の主張
(1)

Dが亡くなったことについての損害賠償―被告らの責任原因

(原告らの主張)

被告らの安全配慮義務の根拠
(ア)

被告C及び被告E
Dの雇用主である被告C及び配置先ないし出向先である被告Eは,
その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負い,これを怠るときは民法415条又は同法709条に基づいてこれにより生じた損害を賠償する責任を負う。
被告Eは,実質的には被告Cの1部門であって被告会社らは一体であり,そのことは渋谷労基署に提出された被告Cの「使用者申立書」(甲61p2,以下「使用者申立書」という。)において被告Cが自認するところであるから,本件異動は被告C内部の配置転換であり,被告CはDに対し本件異動後も安全配慮義務を負う。また,本件異動が在籍出向であるとしても,被告Cの人事部がDの労働時間を把握し,Dの長時間労働を認識していたから,被告Cは,自らまたは被告EをしてDの業務負担軽減等の措置を講じさせる安全配慮義務を負う。被告EはDをそのチョコレート販売事業に従事させ使用する者としてDを使用していたから安全配慮義務を負う。
また,被告Eの取締役であり,Dの上司であったGにも安全配慮義務違反があり,被告C及び被告Eは民法715条に基づく責任を負う。(イ)

被告F
被告Fは,被告会社らの代表取締役として,被告会社らにおいて労働
者の生命健康を損なわない体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置をとる義務を負っていた。また,被告Fは,Dと同じフロアで勤務し,上司として直接指揮命令を行い,Dから支援の要請を受ける立場であったから安全配慮義務があり,これを怠るときは民法709条又は会社法429条1項に基づく責任を負う。

被告らの安全配慮義務違反の内容
(ア)

結論
被告Cは,Dに対し,本件異動により従前と異なる業務を命じ,店
舗管理や在庫・発注管理の業務,さらに,催事企画等や営業業務を担当させた上に,限界を感じたDの支援の要請も断り,さらには多々叱責を行うなどしてDを精神的に追い込み,発症前の平成23年12月には当時の被告の集計で200時間もの極度の長時間労働に従事させ,その結果,Dに精神障害を発症させ,Dを自死に追いやった。
そのことは,渋谷労基署の調査(甲17,61)でも明らかであるが,具体的経過は,以下のとおりである。
(イ)

本件異動時のDの担当業務,長時間労働
Dは,平成17年9月にHコールセンターのマネージャーとなってか
らは恒常的に月100時間を超える長時間時間外労働を余儀なくされ,本件異動以前から疲労が蓄積した状態であった。
本件異動後,Dは,被告Eの店舗の商品発注・在庫管理及び店舗運営を担当し,また,商品発注・在庫管理のためのシステムの新規構築も担当することとなった。
しかし,Dの担当業務は,前任者が管理しきれなかった未整備の業務であり,Dにとっても初めて担当する業務であったため,トラブルが頻発し,システムの新規構築が遅延して在庫管理業務の効率化が図れない状態の下で,委託業者のミスによるトラブルが重なった。
店舗運営に関して,Dは,店舗のスタッフ不足により店長と軋轢を生じて店長の業務の肩代わりを余儀なくされたり,新規出店の準備に追われたりしていた。在庫管理に関しては,前任者がやり残したデータ入力作業や各店舗へのパソコン設置作業等のため休日出勤等を余儀なくされた。平成23年11月になると,商品の包装・配送業務を委託していた業者のミス等により,商品の包装ミス,重要店舗での欠品,包材の不足等のトラブルが続発し,店舗との電話対応や業者との調整や上司への報告に相当の時間を要するようになった。この上,バレンタインの商品数量予測,新規出店のノベルティグッズ企画,年末年始の店舗のシフト作成,ギフトボックスや福袋の企画等の業務も指示されていた。
Dは,同年10月中旬頃,被告Fに対し,前任者をDのアシスタントとして付けてもらいたいと懇願したが,被告Fはこの申出を却下した。前記の業務のうち一部は被告FがDから引き取ったが,代表者である被告Fに自分の業務を引き取らせたことがDに精神的ダメージを与え,それ以上の助力を求めにくくさせた。被告Fによる業務軽減措置の提案は,平成23年11月のメールでの提案(乙1の1)以外は存在せず,その提案もDが応じにくい態様のものであり,Dに対する支援とは認められない。
その結果,Dは,別紙2の月別の表のとおりの長時間労働を余儀なくされた。なお,同表には記載していないが,平成23年10月16日から亡くなるまでDは休日を取得することなく連続勤務している。
(ウ)

被告F及びGからの叱責
Dは,本件異動後,担当業務のトラブルに関して被告FやGから繰り
返し叱責を受け,平成23年11月には退職届(甲11)をGに提出したことがあったが叱責された(甲36)。同月11日に,Dは被告Fから腹を殴られた(甲17)。同年12月には,店舗スタッフの求人広告のミス,店舗の人員不足対策の遅延,店長の病欠に関する連絡ミス,会議のメモを取らなかったミス等が相次ぎ,これらのことで被告F及びGからたびたび叱責を受けた(甲14,35,37)。特に,会議のメモの件では,被告Fから他の社員の前で執拗に叱責を受けた。
(エ)

Dの変調
Dは,もともとは弱音をはかないきちんとした性格であったが,平成
23年12月,亡くなる直前には,仕事の愚痴をこぼしたり,3日入浴しなかったと述べたり,交際相手との電話中に泣きだしたり,自席でPCに向かってぼんやりしたり,業務でも前記(ウ)のとおりミスが相次いだ。

被告らの安全配慮義務違反とDの死との因果関係
Dは,不慣れな業務,長時間労働及び叱責による極度の疲労が蓄積し,
これにより気分(感情)障害の精神障害を発症して,正常な判断が阻害されて自死に至ったので,被告らの安全配慮義務違反とDの死亡には相当因果関係がある。
(被告らの主張)

被告らが安全配慮義務を負う地位にないこと
(ア)

被告C
被告Cの人事部が被告Eの従業員の勤怠・労働時間を集計して給与計
算を行ったり,被告Cの内部に「I事業部」と称する部門があったりしたのは,被告Eではチョコレート販売事業以外が未整備で,直接従業員を雇用する労務環境と経理処理をする部門が整備されていなかったためである。労災認定の調査における使用者申立書(甲61)に被告Eが被告Cの1部門であったかのような記載があるのは被告Cが加入していた労災保険を利用できるように配慮した結果である。被告Cと被告Eの事業及び組織は区別されており,指揮命令系統は別であり,被告Cにおいて被告Eの事業に対し指揮命令できる部門はなく,被告CにはDの就労や被告Eの人員配置について何らの権限もなかったから,本件異動後のDの就労について安全配慮義務を負わせることは,被告Cに不可能を強いるものである。そして,被告Cが決めた本件異動はDの経験や意欲に照らして合理性がある。
したがって,被告Cは,雇用契約上の安全配慮義務も不法行為責任も負わない。
(イ)

被告E及び被告F
本件異動後は,被告Eの社長代行で現場責任者であるGが業務全体の指揮命令を行い,被告Fは,Gに被告Eの業務及びDの監督を委ねていた。そして,被告Fは,Dの業務を一部引き取り,その後もさらに一部を引き取る提案を行う等,負担軽減措置を行っており,必要な限度で安全配慮義務を履行していた。したがって,被告E及び被告Fには同義務違反はなく,あるとしてもGに次ぐ二次的なものである。

安全配慮義務違反の内容についての反論
(ア)

結論
被告Cが本件異動を命じたことは,Dの経験や意欲に照らして合理性
があり,被告らにはDの自死は予見不能であったから,責任を負わない。また,被告Cは,Dがコールセンターのマネージャーに昇格してからは管理監督者であるという認識でいたため,労働時間の管理を行っていないし,被告Eも同様である。被告Fは,後記のとおりDに業務軽減措置の申し出を行い,安全配慮義務を果たしている。
被告Cは,原告らが被告Cに対して訴訟を提起しないと明言したため(乙11),道義的な謝罪の念を伝え,Dが労災認定されるよう渋谷労基署の調査に協力し(甲17),その過程で,使用者申立書及び被告Fの報告書(甲14)が作成されたもので,客観的事実と異なる部分が含まれており証拠価値はない。また,渋谷労基署の認定にも事実と異なる部分がある。
(イ)

本件異動の相当性,業務の新規性
本件異動前,Dは,コールセンターのマネージャーだけではなく,新
規立上げのコールセンターのマネージャーやコンサルティング業務(業務改善)に従事した経験があり,スタッフ管理,シフト管理,求人業務,在庫発注(○による集計も含む)等の経験があった。Dは本件異動を打診されてこれを希望しており,本件異動は順当なステップアップとしてされたものである。
(ウ)

本件異動前の業務量
被告Cは,Dに加重な業務を強いたことはなく,コールセンター時代
の残業は,Dが業務上の必要がないのに自らの意思で担当業務とは別の業務を手伝っていたので,被告Cは残業を抑制するよう注意指導していた(乙4の2)。
(エ)

本件異動後の業務量
本件異動を始めた平成23年10月時点では,前任者が1人で行って
いた在庫管理・発注業務を,引継ぎを兼ねてDと前任者の2人で担当していた。前記業務のデータ入力は1日1時間もあれば足りる内容で,前任者がやり残した入力作業は2~3日分に過ぎなかった。当時は,店舗も4つのみで,スタッフ管理の問題も生じていなかった。在庫管理・発注業務のシステム構築は,システム設計のための要件定義をすることで足りた。したがって,同月の時点ではDの業務は過重であるとはいえなかったし,前任者を残すことで,Dが自己の職責を把握できないおそれ等もあった。同月中旬,Dから,被告Fに対し,Jを同月11月以降も残すよう申出があり,被告Fはこれを却下したが,前記からその判断は合理性がある。
同年11月,新店舗が開店してから,スタッフ不足によるトラブルが生じたが,スタッフ募集はDに従来経験がある業務であり,スタッフ不足はDの責任である。また,同月,商品の欠品等のトラブルが多数発生したが,委託業者のミスのみならず,Dの在庫確認・発注忘れのミスにも原因があった。また,被告Fは,効率化のため,店舗とのやりとりは電子メールでやるよう指示しており,Dが電話対応に追われていたとすれば,指示に反している。トラブルで業務が多忙になったのは,Dや委託業者の責任であり,被告らのコントロールすることができないトラブルが原因であるから,被告らの安全配慮義務を基礎づける事実とはいえない。
また,被告Fは,バレンタインデーの数量予測やノベルティ企画の業務をDから引き取り,平成23年11月には,在庫管理業務を引き取る旨を提案し(乙1),同月23日の宮崎出張の際にも同様の提案をしたが(甲15,被告F本人),Dがこれを断ったもので,被告Fは,Dの業務軽減の配慮を行っている。
(オ)

被告F及びGの叱責について
被告FがDを叱責したのは,発注忘れ,報告遅れ等のDのミスについ
てであり,委託業者のミスで叱ったわけではないし,業務上の合理的な範囲内のものであった。被告FがDの腹を殴ったことはなく,会議の席で執拗に叱責したこともない。平成23年12月23日には,被告Fは,Dを宮崎出張に同行し,ホテルで酒を酌み交わして労ったが,Dからは不満は聞かれなかった。
GからDへの叱責は知らない。
(カ)

Dの労働時間とその管理義務
別紙2の各月の表のうち,労働時間管理のカードシステムに基づき被
告Cが作成した文書(甲10の各号。以下「甲10」という。)に反する部分(黄色の部分)は否認する。Dは,休日出勤の際には記録しており,記録していない日に出勤はしていない。また,業務メールは自宅のパソコンからでも送信可能であり,作成に時間を要する内容のものではないから,Dの就労を裏付けるものではない。
被告Cでは,平成17年9月のマネージャー昇格以降,Dを管理監督者として扱い,割増賃金を支払わなくてよいとの認識で労働時間の管理を行っておらず,本件異動後も同様の取扱いをしたため,被告らは,Dの長時間労働について認識しておらず,これに基づく責任を負わない。(キ)

Dの変調について
亡くなる前,Dの様子が普段と異なっていたことはなく,被告らにお
いてDの自殺を予想することはできなかった。

被告らの安全配慮義務違反とDの死との因果関係
Dが亡くなる前に精神障害を発症したことは否認する。前記イ(エ)のとおり,被告Fは,Dの業務軽減のための申出を行ったのに,D自身がこれを断ったのであり,仮に,在庫管理システムの要件定義業務を被告Fが引き取っていれば,在庫管理の作業量やミスが減少して,Dの負担は軽減されていた。また,その他のトラブルは,Dや委託業者の責任により生じたもので,被告がコントロールできない事情による。したがって,被告らの行為とDの死との間に因果関係はない。
(2)

Dが亡くなったことについての損害賠償―原告らの損害額

(原告らの主張)

損害のまとめ
以下のとおり原告Aは4867万7147円,原告Bは4702万7147円が相当である。
(ア)

Dの死亡による逸失利益

4750万3905円

Dの死亡時(平成23年度)の年収は496万2000円(甲20)であり,本件がなければ67歳までの36年間就労が可能であった。Dは独身であったが,交際している女性がいて,平成23年8月にはその女性の実家を訪れて両親に挨拶する等していたのであるから遅くとも35歳までには婚姻する蓋然性があった。したがって,生活費控除率は,35歳までは50%,それ以降を40%とすべきである。よって,Dの死亡による逸失利益は,以下の式のとおり4750万3905円となる。式=496万2000円×[3.5460×0.5+(16.5469-3.5460)×0.6](イ)

死亡による慰謝料
Dの慰謝料は2800万円,原告ら固有の慰謝料は各500万円であ
る。
(ウ)

葬儀関係費用(原告A)

150万円

原告AはDの葬祭料を支出し,その損害としては150万円が相当である。
(エ)

弁護士費用
原告Aは442万5195円,原告Bは427万5195円が相当である。

損益相殺
労災保険給付を受けたことは認める。


過失相殺
前記(1)(原告らの主張)イ(イ)のとおり,被告Fによる業務軽減措置の提案は,乙1の1のメールに現れたもののみである。使用者は労働者からの積極的な業務軽減申し出が期待し難いことを前提とすべきであり,乙1の1のメールはDへの支援とは評価できない。また,平成23年11月以降のトラブルは,委託業者のミスが8,9割であり,イージーミスが生じたのは業務の過重な負荷による異常であり,被告の責任であるから,過失相殺として斟酌すべきではない。

(被告らの主張)

損害
原告ら主張の損害は争う。なお,Kとの交際は結婚を前提としたものではなく,Dが35歳までに婚姻していたとはいえない。


損益相殺
労災保険給付については損益相殺がされるべきである。


過失相殺
前記(1)(被告らの主張)イ(エ)のとおり,被告Fが提案した業務軽減措置の提案をDが断った行為,平成23年11月以降の在庫管理のトラブルの原因となったDのミスについては,被害者の過失として斟酌されるべきである。

(3)

割増賃金請求―平成23年1月から12月までの労働時間

(原告らの主張)
Dは,別紙2の月別の表のとおり就労し,これを集計すると別紙1の未払残業代請求目録のとおりとなる。
労働時間は,甲10及び労災認定の文書(甲17)に依拠したものである。ただし,黄色で表示した部分は,Dの業務関係メール(甲49の各号)から,前記各文書に関わらず,就労したと認めるべきである。
(被告らの主張)
別紙2の月別の表のうち,甲10に依拠した範囲は認め,その余は否認する。
第3
1
争点に対する判断
争点(1)―Dが亡くなったことについての損害賠償―被告らの責任原因について
(1)

後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる(被
告F本人,証人G及び同Kの供述・証言中,これに反する部分は後掲各証拠と対比して採用しない。)。

本件異動前のDの経験等
被告Cは,平成9年に当時大学生であった被告Fが設立し,以来,代表取締役を務めている会社であり,本件異動ころの中核事業は,コールセンター代行業務及びIT関連事業等であり,従業員は472名であった(甲3の1・2,甲25,甲61p2,乙19)。
Dは,大学在学中であった平成13年にアルバイトとして被告Cに雇用され,損害保険会社から受託したコールセンター受付等として勤務した後,大学卒業後の平成16年5月に正社員として雇用された(甲61p5,乙2)。正社員雇用後,Dは,損害保険会社から受託した事故受付のコールセンターに勤務し,翌年の平成17年からマネージャーに昇格し,損害保険会社から受託した一般相談のコールセンターの立上げ業務を行い,単独で当該センターの管理者となる経験等を経た。平成22年11月から被告Fとともにガス供給会社から受託したマニュアル整備業務を行い,被告Fから直接指導を受けた。また,平成23年3月からは損害保険会社から受託した震災対策コールセンターのマネージャーを務めた。(甲61p5,乙2,弁論の全趣旨)
平成23年10月1日から,Dは,被告Cから命じられて,Lというブランド名でのチョコレートの販売事業に従事した(本件異動)。イ
被告Eの事業内容,組織
被告Eは,平成22年,Mが,被告Fの支援を受けて設立した会社であり(甲4,6),本件異動ころ当時は米国企業であるLというブランド名でのチョコレートの販売を中核事業とする株式会社であった(甲5の1・2,甲7,乙19)。Mが代表者をしていた際には事業が円滑ではなかったため,平成23年6月30日,被告FがMから全株式を取得して同社の代表取締役に就任し,直接経営に当たることになった(甲4,6,乙19)。
本件異動がされた同年10月1日当時,被告Eでは,代表者被告Fの下に社長代行として取締役のGが配置され,その下に営業担当としてMを含む2名,ライセンス担当に1名,商品開発・広報に1名,パッケージ開発・店舗開発に2名,店舗管理・在庫管理に1名(本件異動後のDのポスト),菓子生産・菓子開発に2名が担当者として配置され,その下に各店舗の店長や店舗スタッフが配置されるという体制であった(甲4,6)。被告Eでは,企画した商品の生産は生産業者に委託しており,包材の生産も資材会社に委託し,商品の梱包・配送業務は倉庫会社(株式会社N。以下「N」という。)に外部委託していた(甲61p24)。


被告Cと被告Eの関係,被告Eへの出向者の取扱い
本件異動ころ当時,被告Eの事業であるチョコレート販売に関する売上げは被告Cの売上に計上されることはなく(乙20,21),収益(粗利)は被告Eが取得していた(乙19)。また,当時,被告Eの事業であるチョコレート販売に従事する従業員が,被告Cの事業に従事することはなく,代表者被告F及びその下の社長代行Gを上司として指揮命令を受ける関係となっており(甲6,7,乙16),被告Cから被告Eへ出向した者の給与は被告Cに支払義務があったが,支払をした額は被告Cから被告Eへの貸付けとして会計処理されていた(甲10の各号,乙19,被告F本人)。他方,本件異動ころ当時,被告Eは,被告Cが賃借している本店所在地と同じ建物の同じ仕切りのない一室を事業場として利用し(甲3の1,甲4,乙16,被告F本人),求人は被告Cのサイトを通じて行い(甲24,25,27),被告Eの従業員は全員被告Cとの間で雇用契約を締結した同社からの出向者のみであり(乙19),被告Eは労災保険に加入しておらず(乙22),被告Eへの出向者には被告Cの就業規則及び労使協定を適用し(乙19,22,23),被告Eは独自の人事・総務部門を持たないため,被告Eへの出向者の勤怠の確認,労働時間管理システムによって記録された労働時間の集計,これらに基づく給与計算及び給与支払の手配は被告Cの人事部の従業員が行っており(甲9,10の各号,甲17,28,乙19),被告Cの人事部では,被告Eへの出向者の労働時間の集計結果を把握していた(甲9,10の各号,甲17)。
(なお,渋谷労基署の調査に対する被告C作成の書面・使用者申立書(甲61p2~12)には,「被告Eのチョコレート部門は,平成24年1月か2月ころに被告Eに移管するまで被告Cの一部門であった。」旨の記載があるが,被告Cが被告Eの事業の売上を取得することはなく,被告Eの事業に従事する出向者が被告Cの事業に従事することもなかったことは,前記認定のとおりであり,このことからすれば,被告Eのチョコレート販売事業が,被告Cの一部門であったとはいえず,被告Cとは別個独立の法人である被告Eによる事業であったと認めるのが相当である。)

本件異動後のDの担当業務
本件異動は,平成23年4月から被告Eの店舗管理・在庫管理を担当していた新卒者であるJが業務を十分果たせていないため,被告Cでのコールセンターでのマネジメント実績のあるDを抜擢したもので,Dの同意の下行われたものであった(甲6,61p25,乙19)。
Dの担当とされた①店舗管理の具体的内容は,各店舗のスタッフの勤怠管理,新規採用(応募者面接含む)
,シフト管理,新人スタッフのマニ
ュアルの作成,運営マニュアルの作成,店舗の賃貸側(デパート等)担当者との連絡・調整,店舗管理に関する上司への連絡・報告等であり,②在庫管理の業務は,各店舗の販売実績・計画に合わせて50~60種類程度の商品の流通を管理することであり,各店舗の売上や在庫数等のデータ入力,各店舗の在庫数チェック,必要な商品の倉庫会社への発注,必要な商品数を確保するための生産業者及び資材業者への発注,在庫管理のシステム構築のための要件定義等の作業,在庫管理に関する上司への連絡・報告等であった(甲61p24,p25,乙6の各号,乙7,弁論の全趣旨(第1事件の訴状及び答弁書)。

Dに指揮命令する直接の上司はGであり,Gは,メール等で指示を行うほか,週3回程度事業場に出社して指示を行っていた(丙1,証人G)。
また,代表者の被告Fも,週1回のミーティングでDに指示を行うほか,業務にトラブルがあったときにDに指示を行っていた(甲61p15,p16,被告F本人p4,証人Gp5)
。Dの下には,各店舗の店長及びス
タッフが配置され,Dはこれらの者の上司という立場であった(甲61p6)
。Gは,被告Cのコンサルタントをしていた者で,被告Fから被告Eの経営に関与するよう依頼されてその取締役に就任した者であり,Dは,本件異動により初めてGの指導を受けることになった(乙19,甲61,丙1,証人G)


平成23年10月のDの業務の状況
(ア)

平成23年10月時点では,Dが管理すべき既存店舗は4店舗(O,
P,Q,R)であり,Dは引継ぎを兼ねて前任者のJとともに前記エの業務を担当していた(甲14,乙19)
。なお,翌月の11月1日にS,
同月15日にTで新規出店予定であったため,その求人作業・シフト作成作業も必要であった(乙19,弁論の全趣旨(第1事件の訴状・答弁書)。また,この時期,店舗側のミスで売上げが約7万円間違っている)
のをJが見過ごすといった事態があり,Gから対策の必要性が指摘されることがあった(甲40)

同月当時のDの業務の懸案は,今後の多店舗経営に備えて在庫管理システムを構築し在庫管理の手順を確立することと,前月の9月に開店した3店舗で不足気味であった人員体制を確立し,教育マニュアル・人事評価方法の整備を進めることであった(甲14p3,p10~11,乙19)

しかし,Dは,前記エに関する日常業務及び2店舗の新規出店準備等に追われ,在庫管理システムの構築作業には手が回らない状態であった(甲61,乙19)。
(イ)

Dは,引継ぎに不安がある等の理由により,G及び被告Fに対し,
同年11月以降もJ(同月1日以降はS店の店長に転出する予定であった。)を自分のアシスタントとして業務を手伝わせてほしい旨要望したが,被告FとGは協議の上,新卒者のJではできなかった業務をマネージャーとしての実績があるDに任せて推進させるのが本件異動の意図であるとして,Jは予定どおり11月から転出させ,必要があればDの業務にアシスタントを付ける旨を伝え,Dの要請を断った(甲14p12,甲35,49の4の1,甲61p26,乙5の2,乙19)。
Dは,同月末ころ,Gに対し,「本件異動後の業務は自分には無理であると思い,会社を辞めたいと思ったが,自分の父と話をして翻意した。」旨の話をしたことがあった(甲36,62)。

平成23年11月のDの業務の状況
(ア)

同月1日にSの店舗が,同月15日にTの店舗が新規出店した。こ
れらの店舗も含め,全6店舗で必要なスタッフの採用がされていなかった(甲14p9)。そのため,各店舗の店長及びスタッフが超過勤務せざるを得ない状態となり,店長及びスタッフがDに対して不満を抱くようになり,その結果,Dは店長及びスタッフに強く指導できないという状況になった(甲14p9)。
(イ)

Dは,前記11月中の2店舗の新規出店の準備のほか(甲42,4
3),翌月12月に新規出店予定のU店の求人作業,シフト作成,催事準備等も行う必要があった(弁論の全趣旨(第1事件の訴状・答弁書))。
(ウ)

同年11月6日ころには,商品の包装と配送を請け負っている業者
(N)による包装のミスにより主力商品が賞味期限前に乾燥しているという事態,同月18日ころには,同社による納品遅れによって店舗に主力商品の欠品が生じるという事態,同月24日には売れ行きが好調である大手催事場(V)で販売する商品の生産が間に合わないという事態,同月29日には1店舗において商品の包装材が欠品する事態がそれぞれ生じて,商品管理の責任者であったDは対応に追われた(乙19)。大手催事場向け商品の件や包装材の欠品の件は,販売計画に基づいて生産業者にあらかじめ生産ラインを押さえていなかったり,在庫に応じて資材業者に包装材の発注をしていなかったりといったDのミスによって生じており,DはF及びGから叱責を受けた(乙9の1・2,被告F本人)。同月22日,前記トラブルに関する打ち合わせで,Dの判断でNの来訪者を待たせた際にも,被告Fから強く叱責された(甲61p18,甲64p6,丙1,証人K,証人G,被告F本人。原告らは,「このとき,被告FがDの腹部を殴った。」旨主張し,これに沿う証拠(甲61p18,甲64p6,丙1,証人K,証人G)もあるが,被告Fはこれを否定しており,原告らの主張に沿う前記各証拠はいずれも伝聞によるものであり,かつ,殴った態様も定かではないから,採用するに足りない。)。
同年11月初めころ,Dに対して指示されていた翌年のバレンタイン商品の予想販売数量の算出及びU店のノベルティグッズの開発の業務ができていなかったため,同月上旬には被告Fがこれらの業務を引き取ることとなった(乙19,被告F本人)。
同月16日,Dに対して指示されていた在庫管理システム構築のための要件定義等の提案ができていなかったことから,Gは,被告Fと協議の上,Dに対し,希望が通るかどうかわからないが同業務の引き取りを希望するかを尋ねた(甲14,乙1の1・2,乙19)。これに対し,Dはやらせてほしい旨の返事をした(乙1の1・2)。
(エ)

同月18日,Dは,Gに退職届を出して退職を申し出たが,Gは,
Dに対し,会社に迷惑をかけているという理由ならば辞める必要はないし,異動をあてにしているのであれば甘い考えである旨を伝えたところ,Dは退職の申し出を撤回した(甲11,36,61p19,p27,甲64添付のメール,丙1,証人G)
。ただし,このDの退職申し出につ
いては,被告Fに明確に伝えられていなかった(甲36,丙1,証人G,被告F本人)


平成23年12月の状況
(ア)

同月6日,Dが作成した求人広告の原稿に募集する店舗とエリアが
欠けているというミスがあったため,被告F及びGはDを強く叱責した(乙19,甲64のメール)

(イ)

同月15日にはU店が開店し,被告Eの直営店舗は合計7店舗となったが,在庫管理システムの構築ができていなかったため,日常的な在庫管理は○により手動で行う状態であった(甲36p2,乙19,被告F本人)
。また,前月の11月から店舗全体が人員不足であったところ,
前月までに新規採用したスタッフが辞めてしまったため,さらに人員不足となり,人員不足に由来するトラブルが1~2回続き,Dは迷惑をかけた相手への謝罪等の対応に追われた(甲14p20,乙19,被告F本人)
。さらに,Nの配送ミスにより,店舗の商品が不足する事態も2
回程度あり,Dが対応した(甲8)

(ウ)

同月,Dは,業務のためにカプセルホテルに泊まる日が増えた(6
日,8日,13日,18日,20日,27日は,少なくともホテルに宿泊している。甲12,13)

同月上旬,被告Eの同僚のWに対し「仕事が楽しくない。「俺,うつ」
かも。
」と述べたり,被告Cの人事部職員Xに「もし俺が死んだら泣い
てくれる。
」と述べたり(甲61p16)
,同月12日,当時交際相手で
被告Cの社員であったKに対し,
「辞めたい」との文字を連続して記載
したメールを出したり(甲70の2)
,同月24日にKとの電話中,仕
事のため待ち合せに行けないかもしれない旨伝えた後,突然泣き出したりしていた(甲61p20)
。また,同月,Gは,Dがパソコンに向か
ってぼーとした状態で座っている姿を何度か見たことがあった(甲61p26)

(エ)

同月23日,Dは,宮崎市で開催されたイベントに出席する被告F
の出張に同行したが(甲14,16,乙19)
,同日未明及び翌24日
未明のGからのメールにより,店舗の人員配置に関して叱責と指示を受け(甲35)
,翌24日には東京に戻り,出社して業務を行った(甲1
0の15,甲61p20)
。同月23日及び24日のGの叱責には「実
現性の低いものをダラダラ書いて,
・・・意味のないものばかりで,お
前のアタマの中を見ているみたいだ」とか「結果や社長のご意見を必ず24日中にメールで報告しろ。
(というか,今の時点で俺宛てにメール
が来てないことが信じられない。」いった調子の記載も含まれていた)
(甲35)

同月26日及び27日,Gは,R店の店長が体調不良で倒れて欠勤した後のGへの報告や人員手配に関し,Dを強く叱責した(甲14p21,甲60p20)
。同月26日,Dは,Jと業務についてメールのやりと
りをしていた際,脈絡なく,
「もうだめかもしれません。
」旨のメールを
送り,Jを驚かせた(甲41)

翌27日,被告Fは,Dが会議中にメモを取っていなかったため,会議の席上で,これまでミスを重ねているのにメモを取っていない等として強い口調で叱責し,
「やる気がないなら,コールセンターに戻ればよ
い。しかし,戻ったら元の上司も困るだろう。
」旨の発言をした(甲1
4p21,甲37,甲60p16,被告F本人)
。その日,Dは,その
会議の議事録を作成したが,書き落としが多数あったため,同僚のWが補充した(甲61p16)

Dは,同日未明,Gから年末までの業務について8項目の指示を受け,同日昼ころこれに返信したところ,在庫管理の手法等に関してさらに指示を受けた(甲8)


亡くなった際の状況
Dは,平成23年12月27日夜間まで事業場で就労して,カプセルホテルに宿泊した(甲13,17)
。Dは,翌28日午前8時ころには出社
し,そのころ,交際相手のKに電話し,
「がんばれないんだ。
」旨伝えた後
(甲61p8)
,同日8時45分ころ,被告会社らの事業場のある建物の
非常階段に自ら索状物をかけて縊死した(享年31歳。甲2)



時間外労働の状況
平成23年1月から亡くなるまでのDの時間外労働については,別紙4の月別の表のとおりであった。つまり,Dは,本件異動前後の本件平成23年10月20日締めの1箇月は約69時間,本件異動後の同月11月20日締めの1箇月は約172時間(休日労働がうち約32時間)
,同年1
2月20日締めの1箇月は約186時間(休日労働がうち約24時間)の時間外労働に従事した。
被告会社らの事業場では,労働者が事業場に設置されたシステムにカードをかざしボタンを操作することで出勤時刻及び退勤時刻が記録されるシステムが設置されており,所定労働日に前記記録がない場合には,被告Cの人事部から労働者に確認が行われた(甲17,甲61p14)。この
方法で,被告Cの人事部が把握していた労働時間によれば,Dの時間外労働は,平成23年12月17日の直前1箇月が約170時間,同2箇月が約106時間,同3か月は約46時間であった(甲17のp26~28)。
(別紙4の労働時間の認定の理由について,以下のとおり補足説明する。まず,被告会社らの事業場での労働時間の管理の方法は,前記のとおりであるところ,その結果把握された記録(以下「システム等の記録」という。
)である甲10の1ないし14は,労働時間を計測する目的で,機械的な方法でその都度記録されたものか,労働日に近接した時期に労働者本人により申告されたものであるから,信頼するに値する。なお,2011年12月21日からDが亡くなるまでの7日間については,甲10の15の数値は不自然であり,被告Cが渋谷労基署に提出した記録による集計表(甲17)と合致しないことから,渋谷労基署に提出された記録をもってシステム等の記録であると認めて採用した。
次に,システム等による記録において始業時刻と終業時刻の記録がない日においてDが業務メールを送信した証拠があるときは,少なくとも,当該日の最も早いメール送信時刻から最も遅い送信時刻までは事業場に出勤し業務に従事していたと認め,その時間は使用者の指揮命令下にあった労働時間であると認定した。具体的には,別紙4の各月の表の年月日の左に☆印を付した日の欄に記載したとおりである(証拠とした業務メールは,枝番を含めて,甲49の3~6,甲49の8・9,甲49の11~13,甲49の18・19,甲49の23,甲49の32・33)
。その理由は,
前記業務メールは,事業場のパソコン以外からも送信可能であるものの,その内容からして事業場に出勤し業務に従事している際に送信したとみるのが自然である上,前記☆印を付した各日は被告会社らの所定休日であるため,Dがシステム等による記録をことさらさし控える理由があるといえ,Dが出勤の上,システム等による記録をさし控えたものと認めるべきだからである。なお,原告らは,Dは平成23年10月16日から亡くなるまで休日を取得することなく連続勤務しているとも主張するが,これを的確に裏付ける証拠(業務メール等)はないことから採用できない。
他方,システム等による記録がある日において,システム等による記録の始業時刻の前や終業時刻の後にDが業務メールを送信した証拠がある場合(甲49のその他の枝番。別紙2はこれによる。,には,その時刻に就)
労があったとはせず,システム等による記録によることとした。その理由は,前記業務メールは,事業場のパソコン以外から送信可能であるから,メールの存在のみをもって直ちにその時刻に事業場で業務に従事していたとまでは直ちに認められないからである。また,Dが,被告会社らの事業場の所定労働日である前記の日において,他の労働者の目もある中で,ことさら虚偽の記録をしたり,人事部に虚偽の報告をしたりする理由もないからである。

(2)

Dの自死の原因
本件異動により,Dは,それまで経験したことがない百貨店内等の店舗でのチョコレート販売事業における商品管理(物流管理)や店舗の人員管理等の仕事に従事したところ((1)ア,エ)
,当該事業自体,被告Fが代表
者に就任する経営刷新から3か月を経過したに過ぎず((1)イ,オ(ア)),
約50~60種類の商品を4店舗で販売する在庫管理をするにつき,コンピューターシステムによる在庫管理体制は構築できておらず,店舗スタッフの教育マニュアル等も作成されてなかった((1)イ,エ)
。本件異動の翌
月には2店舗,翌々月には1店舗の新規出店を予定していたため,Dは,店舗の人員管理の責任者として,その準備作業(人員の採用・教育等)をする必要があった上((1)オ(ア),カ(イ))
,新規出店後もコンピューターシ
ステムによる管理体制が構築できないままであったため,ほとんど手作業で合計7店舗の物流を管理しなければならなかった((1)カ(ウ),キ(イ)。)
さらに,本件異動の翌月から,商品の梱包・配送を委託していた業者のミスによる商品の欠品等のトラブルが多数回続いたため,Dは,商品管理の責任者としてその対応をする必要があり((1)カ(ウ)
,キ(イ),店舗スタ

ッフの採用不足によるトラブルも続いたため,店舗の人員管理の責任者としてその対応をする必要もあった((1)カ(ア),キ(イ))

これらの理由によって,Dは,本件異動前後の本件平成23年10月20日締めの1箇月は約69時間,本件異動後の同月11月20日締めの1箇月は約172時間(休日労働がうち約32時間)
,同年12月20日締
めの1箇月は約186時間(休日労働がうち約24時間)の時間外労働に従事した((1)ケ)


Dは,従来,弱音を見せない人当りのよい人物であったが(甲61p16,26)
,本件異動から約1箇月半を経過した平成23年11月には,
上司に辞表を提出して遺留され(カ(エ))
,本件2か月を経過した平成23
年12月には,同僚に「仕事が楽しくない。「俺,うつかも。

」と述べた
り,人事部の職員に「もし俺が死んだら泣いてくれる。
」と述べたり,交
際相手との電話中に仕事のことを話していて突然泣き出したり,上司の前でパソコンに向かってぼーとした状態で座っている姿が数回見られたり((1)キ(ウ),前任者と業務メールをやり取りしているときに,脈絡なく)
「もうだめかもしれません。
」旨のメールを送って相手を驚かせたり((1)
キ(エ))といった言動が見られた。また,同月初旬に求人広告に店舗とエリアの記載を忘れるという初歩的なミスをしたほか,同月中旬から下旬にかけて,店長が過労で倒れた件の報告・対応が不十分であったり,会議の際に自らが関わる業務のメモをとっていなかったり,議事録に漏れが多数あったり,ミスが目立っており,ミスが被告FやGに発覚した際には,亡くなる直前も含め,両名から強い叱責を受けていた((1)キ)
。亡くなった
日の朝には,交際相手に勤務先から電話し,
「がんばれないんだ。
」旨述べ
ていた((1)ク)


これらの経過からすれば,Dが,本件異動から約3か月後の平成23年12月28日自死したのは,自死の直前の約2か月,月172時間及び月186時間の時間外労働に従事して消耗した結果,虚脱感,愚痴,意欲低下,注意力低下といった症状を呈する気分障害等の精神障害を発病し(甲17の専門医の意見書参照)
,精神障害による注意力低下によりミスを多
発させ,ミスに関して叱責を受けることでさらに消耗して,前記精神障害の症状が進んだ結果,正常な認識をする能力及び正常な行為を選択する能力が著しく阻害され,自殺行為を思いとどまる抑制力が阻害された状態に陥り,自ら死を選んだものと認められる。
なお,発病日の直前1箇月におおむね160時間を超える時間外労働を行った場合,又は,発病日の直前2箇月に1箇月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が,通常その程度の労働時間を要するものであった場合,そのいずれか1つの場合に該当するときは,業務による心理的負荷が「強」とされ,発症した精神障害は労働者災害保障保険法による「業務上の疾病」と認定するというのが,精神医学会の最新の知見に基づく認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日基発1226号第1号。以下「労災精神障害認定基準」という。甲47,48参照)の基準である。このことからも,前記Dの発症経緯,自死にいたる経緯は,医学的根拠をもって裏付けられているといえる。
(3)

被告会社らの責任
本件異動の法的性質,被告会社らとDとの関係
(ア)

前記(1)イウのとおり,被告Eの事業であるLというブランド名での
チョコレート販売事業については,その売上げはすべて被告Eに計上されて収益(粗利)は被告Eが取得し,チョコレート販売事業の業務に従事する従業員は,被告Cからの出向者であったが,この出向者らはチョコレート販売事業にのみ従事しており,被告Cの事業に従事することはなく,前記出向者の給与は,被告Cが出向者に対して支払うが,支払った額はすべて被告Cからの被告Eに対する貸付けとされ,被告Cとの関係では被告Eが負担することとなっていた。
これらの事情からすれば,Lというブランド名でのチョコレート販売事業は,被告Cとは独立した会計及び人員により運営されていたというべきであり,同事業は被告Cの1事業部門であるとは認められず,被告Cとは別個の法人である被告Eの事業であると認めるのが相当である。そして,被告Eが独自の人事・総務部門を持たず,Cの人事・総務部門が前記出向者の勤怠の確認,労働時間の計算,給与計算等の業務をしていたことは,被告Eの事業に従事する従業員が被告Cが雇用する出向者であったためであり((1)ウ)
,被告Eの事業に従事する従業員が被告
Cからの出向者であったのは,被告Eがその事業(これには都内の百貨店等への複数出店を含む。(1)オ)を十分行うに足りる自己資本を持たず(同社の資本金は100万円。甲3)
,その資金は被告Cからの借入
れによっており,給与決裁ができる銀行口座も保有していなかったためであるから(乙19)
,このことをもって,被告Eが実質的に被告Cの
1事業部門であったと認めることはできない。
(イ)

前記(ア)からすれば,本件異動は,被告Cがその雇用している労働者
であるDを,被告Cに在籍のまま,他の企業である被告Eの従業員としてその事業の業務に従事させる在籍出向であったと解するのが相当であり,被告C内での配置転換であったとは認められない。
そして,労働者が出向先において役員以外の従業員となる在籍出向においては,出向先と労働者との間にも労働契約が締結され,出向先と労働者との間,出向元と労働者との間に二重の労働契約関係が成立するものと解するのが相当であるから(労働省昭和61年6月6日基発第333号参照)
,本件では,本件異動により,Dと被告Cにおける労働契約
関係に加え,Dと被告Eとの間にも労働契約関係が成立しているものと認められる。

被告Eの責任
(ア)

労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続する等して,疲
労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知の事実であるから,出向先である被告Eは,前記ア(イ)の在籍出向による労働契約関係に基づき,その事業遂行のため労働者を指揮命令下に置いて使用する者として,その使用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を労働契約上の付随義務として負う。
(イ)

本件では,出向先の被告Eは,そのチョコレート販売事業のために
Dを指揮命令下に置いて使用するに際し,Dの労働時間,業務の状況及びDの心身の健康状態を適切に把握し,労働時間が長時間に及ぶ等業務が過重であるときは,人員体制の拡充等の措置により,業務負担を軽減する措置を行う労働契約上の安全配慮義務があるところ,自死直前の約2箇月,Dに月172時間及び月186時間の時間外労働に従事させていたのに((1)ケ,(2)ア。なお,被告Cの人事部の集計によるとしても,自死直前の1箇月の時間外労働時間は約170時間であり((1)ケ),前
記(2)ウの労災精神障害認定基準による長時間労働により精神障害を発症する基準を優に満たしている。,Dに対し直接指揮命令を行っていた)
上司であるGは,被告Cの人事部がDの労働時間を把握していることを知っていたものの,Dの労働時間を全く把握しておらず,被告Eの代表者の被告Fに対して,Dの労働時間を報告したり,報告させたりする体制を整えることもなく(証人Gp3,p55)
,また,被告Eの代表者
としてDの業務についてGに指揮命令できる権限があり,かつ,Dにも業務の指揮命令を行うことがあった被告Fも((1)ウ,エ)
,Dの労働時
間を把握しておらず,Gやその他の従業員に対してDの労働時間を把握してその内容を報告するように指示したことはなかった(被告F本人p61)
。つまり,被告F及びGは,いずれも,Dが長時間の時間外労働
を行い業務が過重な状態であること把握しておらず,そのため,長時間の時間外労働をさせない程度に業務負担を軽減する措置も行うことなく,その結果,Dを前記の長時間労働により消耗させ,気分障害等の精神障害を発症させ,正常な認識をする能力等を低下させた結果,死に至らしめたのであるから((2)ウ)
,被告Eには,労働契約上の安全配慮義務違
反があり,これにより生じた損害の賠償責任を負う(民法709条)。
(ウ)

被告Eの債務不履行責任(民法415条)
,使用者責任(同法715

条)については,前記不法行為責任と選択的関係にあるから,判断を行わない。

被告Cの責任
(ア)

労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続する等して,疲
労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知の事実である。したがって,労働者の雇用主である被告Cとしては,労働契約に基づき,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を労働契約上の付随義務として負う。
そして,雇用主が労働者に他の企業への出向を命じて,他の企業の事業に従事させている場合には,法は不可能を強いるものではないことから,出向先・労働者との出向に関する合意で定められた出向元の権限・責任,及び,労務提供・指揮監督関係の具体的実態等に照らし,出向元における予見可能性及び回避可能性が肯定できる範囲で,出向労働者が業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を負うというべきである。(イ)

本件では,被告Cから被告Eへ出向した労働者の扱いについて,給
与は被告Cが支払義務を負うことになっていたが((1)ウ)
,使用者とし
てのその他の義務の分担については明示的な合意はなかった(弁論の全趣旨)

(ウ)

そこで,具体的な労務提供・指揮監督関係の実態をみるに,Dに対
する指揮命令は,被告Fが最上位の管理者で,その下に直接の上司であるGがいて,その下にDが配置され,被告Fからも,Gからも指揮命令を受けるという形がとられており((1)エ)
,被告Cの指揮命令系統とは
区別されていたことが認められる。
他方,出向先である被告Eには独自の人事・総務部門がなかったため,出向者の労働時間の集計は出向元である被告Cの人事部が行っており((1)ウ,ケ)
,被告Cの人事部はDが長時間労働を行っていることを把
握していたし((1)ケ)
,Dが就労していた被告Eの事業場は被告Cの事
業場と同じフロアにあったから((1)ウ)
,出向元の被告Cの人事部にお
いて,Dが消耗し普段と異なる言動をしていることすら把握可能であった((1)キ(ウ))

そして,被告Fは,被告Cの代表者として((1)ア,イ)
,被告Cの人
事部に対し,被告Eへの出向労働者が長時間労働をしていないかを定期的に報告させることで,自ら長時間労働を把握することは可能であったし,また,出向労働者が長時間労働をしているときは被告Eの代表者としての被告F又は被告Eの副社長のGに対してその旨を報告するよう指示することも可能であった。
そのように指示しておけば,被告Cの代表者である被告Fは,被告Eの代表者を兼務していたのであるから,Dの長時間労働を把握したときには,Dの上司であるGに命令したり,Dに直接命令したりする方法で,Dの業務内容の負担を軽減することが十分可能であった。
(エ)

したがって,出向元の被告Cとしては,出向労働者であるDが,業
務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する義務内容として,被告Cの人事部に対し,出向労働者が長時間労働をしていないかを定期的に報告させることや,出向労働者が長時間労働をしているときは被告F又はGに対してその旨を報告するよう指示することにより,出向元の代表者である被告Fや出向元の副社長であるGにおいて出向労働者が長時間の時間外労働をしていることを知り得るようにし,長時間労働をしている出向労働者がいるときは,被告F又はGにおいてその業務負担の軽減の措置を取ることができる体制を整える義務があったというべきである。
(オ)

しかし,被告C代表者の被告Fは,Dの労働時間を把握しておらず,
従業員に対してDの労働時間を把握してその内容を被告FやGに報告するよう指示したこともなく(被告F本人p61)
,前記義務を怠ったた
め,Dを前記イ(イ)の長時間労働により消耗させ,気分障害等の精神障害を発症させ,正常な認識をする能力等を低下させた結果,死に至らしめたのであるから,被告Cには,労働契約上の安全配慮義務違反があり,これにより生じた損害の賠償責任を負う(民法709条)

(カ)

被告Cの債務不履行責任(民法415条)
,使用者責任(民法715

条)については,前記不法行為責任と選択的関係にあるから,判断を行わない。
(4)

被告Fの責任
出向先である被告Eと,出向元である被告Cが,出向労働者において業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する労働契約上の付随義務としての安全配慮義務を負うことは前記(3)イ(ア),ウ(ア)のとおりである。

被告Fは,出向先である被告Eの代表者としては,被告Eの指揮命令下にある出向労働者の労働時間,業務の状況及び出向労働者の心身の健康状態を適切に把握して,労働時間が長時間に及ぶ等業務が過重であるときは,配置転換や人員体制を拡充する等の措置により,業務負担を軽減する措置をとる義務を負い((3)イ(ア))
,出向元である被告Cの代表者としては,
出向労働者の労働時間を把握している出向元被告Cの人事部に対し,出向労働者の労働時間について定期的に報告を求めたり,長時間労働をしている出向労働者がいるときは出向先の代表者の被告Fや出向先の副社長のGに知らせるよう指示したりすることで,出向先の代表者である被告Fや出向先の副社長であるGにおいて出向労働者が長時間の時間外労働をしていることを知り得るようにし,長時間労働をしている出向労働者がいるときに出向先の被告F又はGにおいてその業務負担の軽減の措置を取ることができる体制を整える義務があった((3)ウ(エ))

しかし,Dが,自殺直前の約2箇月,月172時間及び月186時間の時間外労働に従事していたのに((1)ケ,(2)ア)
,被告Fは,Dの労働時
間を把握しておらず,被告Cの従業員に対してDの労働時間を把握してその内容を報告するように指示したことはなく(被告F本人p61),前記
各義務を果たさなかった結果,Dを前記の長時間労働により消耗させ,気分障害等の精神障害を発症させ,正常な認識をする能力等を低下させた結果,死に至らしめたのであるから((2)ウ)
,安全配慮義務に違反したもの
として,Dの死によって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709条)


会社法429条1項に基づく責任については,前記責任と選択的関係にあると考えられるから,判断をしない。

(5)

責任原因についての被告らの主張に対する補足的判断
被告Cは,被告Cと被告Eの事業及び組織は区別されており

(1)ウ),

指揮命令系統が別であって((1)エ),被告Cにおいて被告Eの事業に対し指揮命令できる部門はなく,Dの就労や被告Eの人員配置について何らの権限もなかったから,安全配慮義務を認めることは,不可能を強いるものである旨主張する。
しかし,雇用主である被告Cは,労働契約に基づき,労働者を使用する際に,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を負い,労働者に対し他の企業への出向を命じて他の企業の事業に従事させている場合であっても,出向先・労働者との出向に関する合意で定められた出向元の権限・責任,及び,労務提供・指揮監督関係の具体的実態等に照らし,出向元において予見可能性及び回避可能性が肯定できる範囲で,出向労働者が業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する義務があるというべきである((3)ウ(ア))。出
向元における予見可能性や回避可能性が肯定できる範囲で義務を認めるのであるから,このように考えることは被告Cに何ら不可能を強いるとはいえない。
そして,出向元の人事部が出向労働者の労働時間を把握しており,出向元の代表者である被告Fが出向先の代表者を兼ねているという本件の事実関係の下では,出向元被告Cの代表者である被告Fが,被告Cの人事部に対し出向労働者の労働時間について定期的に報告を求めたり,出向労働者の労働時間が長時間に及ぶときは被告FやGに知らせるよう指示したりすることは,十分可能であって,出向元の被告Cに何ら不可能を強いるものとはいえない。
したがって,被告Cの主張は採用できない。

被告E及び被告Fは,本件異動後は,Gが被告Eの業務全般の指揮命令を行い,被告Fは,Gに対し,被告Eの業務及びDの監督を委ねていたし,被告FはDの業務を引き取ったり,引き取る提案をしたりしたから,被告E及び被告Fには安全配慮義務違反はない旨主張する。
しかし,被告FがGに対して被告Eの業務及びDの監督を委ねていたとしても,被告Fは,被告Eの代表者として,Gに対し,Dの労働時間の把握を命じたり,Dの労働時間が長時間に及ぶときはその業務内容の負担軽減を命じたりする権限があった。そのような措置を何らとることなく,Gに業務等を委ねていたということをもって,被告Fや被告EがDとの関係で安全配慮義務を免れることはない。
また,被告FがDの担当業務の一部を引き取ったり,引き取る提案をしたりしたことは認められるが((1)カ(ウ)),そうであっても,Dは,自死直前の約2箇月,月172時間及び月186時間の時間外労働に従事していたのであるから((1)ケ,(2)ウ),被告Fの業務負担の措置が十分であったとは認められない。これは,被告らが主張するように被告Fが,Dを宮崎出張に同行させたとき,業務負担の軽減を提案していたとしても同様である。

被告らは,本件異動はDの経験や意欲に照らして合理性があり,被告らにDの自死は予見不能であった旨主張する。
本件異動は,コールセンターのマネージャー等の業務により実績を積んでいたDを((1)ア),被告Eの重要ポストの1つである店舗管理・在庫管理の担当者として抜擢したものであり((1)イ,エ),被告Eの事業が軌道に乗れば,同社役員に就任できる可能性もあり(証人Gp8,12),Dの前記実績や,上場企業の役員になりたい夢をもっていたDの意欲(証人G)等に照らして,人事としての合理性がある。
しかし,本件異動が人事として合理性があることから直ちに,Dの自死が被告らに予見不能であるとはいえない。本件異動後のDの就労状況を見ると,Dは,自死する直前の約2か月には,月172時間及び月186時間の時間外労働に従事しており,これは前記(2)ウの労災精神障害認定基準における時間外労働が精神障害を発症させたと認めるべき場合の2つの場合のいずれにも該当するほどの極度の長時間労働である。また,被告Cの人事部が集計していた労働時間を前提としても,平成23年12月17日の直前1箇月が約170時間を超えており((1)ケ),労災精神障害認定基準に該当する極度の長時間労働であることには変わりない。
したがって,この事実を被告らにおいて把握していれば,Dが気分障害等の精神障害を発症することは十分予見可能であり,気分障害等の精神障害を発症すれば,その症状により正常な認識をする能力等が阻害され,自死を選ぶ可能性があることは公知の事実であるから,被告らにおいてDが精神障害を発症して自死することについての予見可能性があることは,優に認められる。
さらに,前記(1)キ(ウ)で認定したとおり,Dには,本件異動から2か月を経過した平成23年12月に,同僚に「仕事が楽しくない。」「俺,うつかも。」と述べたり,上司の前でパソコンに向かってぼーとした状態で座っている姿が数回見られたり等といった普段にない言動が種々見られたのであるから,被告FやGがそのつもりになれば,これら普段にないDの言動の一部ないし全部について従業員らから把握することは十分可能であったと認められることからも,予見可能性は否定できない。

被告らは,Dが管理監督者であるという認識でいたため労働時間を管理していなかった旨主張するが,仮に,Dが労働基準法41条の管理監督者であっても,被告会社らは労働契約関係にある使用者として,被告Fは被告会社らの代表者として,過度の長時間労働で心身を害さないための安全配慮義務として労働時間を把握し,適切な措置を取るべき義務があることは前記(3)イ,ウ,(4)のとおりであるから,前記判断を左右するものではない。


被告らは,Dの引き継いだ業務は本来は過重ではなく,過重となったのは,在庫管理のシステム化を行わず,被告Fからの業務引取りの提案を断ったDの行為,十分な求人をしなかった等のDのミスや委託業者のNのミス等による((1)カ(ウ),キ(イ))から,被告らに責任はない旨主張する。しかし,仮に,労働者自身の行為や第三者の行為によって,労働者が時間外労働を余儀なくされたとしても,使用者である被告会社ら及びその代表者である被告Fにおいては,労働者の労働時間を把握し長時間労働となっているときには当該労働者に適切な業務軽減措置を取る義務を負うから,前記判断を左右するものではなく,被告らの主張は採用できない。
2
争点(2)―Dが亡くなったことについての損害賠償―原告らの損害額について
(1)

逸失利益-4105万3000円
Dの平成23年度の年収は496万2000円(甲20)であり,長時間労働による精神障害の発症及びこれによる自死がなければ,67歳までの36年間就労して少なくとも同額の収入を得る蓋然性が高い。したがって,労働能力喪失期間36年間に対応するライプニッツ係数16.5469を用いる。
Dは,亡くなった当時,独身で,Kと交際しており,交際開始の直後ころである平成23年夏にKの両親に交際を始めた旨の挨拶を行い,亡くなる数日前のクリスマス・イブにKとペアの指輪を注文し,原告BにKとの結婚も考えている旨伝え,同居のための住宅探しも一時検討していたが(甲63,64,69,71の1,甲71の2の各号,証人K),D及びKが互いの両親に同居や婚姻の挨拶をしたことはなく,KはDの両親や姉と1度も会ったことはなく,Dの両親への紹介の予定も具体的に決まっておらず,同居及び婚姻の時期も決まっておらず,注文したペアの指輪には婚約指輪という趣旨はなかった(証人K)というのであるから,DがKと婚姻する蓋然性が高かったとは認められない。Dの生活費の控除率については50%とするのが相当である。
したがって,逸失利益は次の計算式に基づき,4105万3000円とするのが相当である(千円未満四捨五入)。
496万2000円×16.5469×0.5=4105万2859円(2)

死亡による慰謝料-Dにつき2000万円,原告ら各200万円
前記1(1)ケで認定したDの自死に至る状況を考慮すると,Dの精神障害
による精神的苦痛及び自死を選ぶ際の精神的苦痛は察するに余りある。また,Dが亡くなったことで,父の原告Aは抑うつ,不眠の症状が出て,緑内障等の症状が亢進し(甲38,39,62,原告A),母の原告Bは,Dの死を受容することができず,約4年を経過した現在も,ともすれば無感動,無気力な状態に陥り,家事に支障があり,不眠の症状があり,Dのことを話題にすることができず,抑うつ状態が続いている(甲60,63,原告B)。以上の事実に鑑みると,Dの慰謝料は,2000万円,原告ら固有の慰謝料は各200万円とするのが相当である。
(3)

葬儀費用-150万円
原告AはDの葬儀費用を支出したところ(甲62),そのうち150万円
を安全配慮義務違反と因果関係がある損害と認めるのが相当である。(4)

過失相殺
被告らは,被告Fが提案した業務軽減措置の提案をDが断った行為,平
成23年11月以降の在庫管理のトラブルの原因となったDのミスについては,被害者の過失として斟酌されるべきである旨主張する。
しかし,本件異動によりDが従事した小売業の在庫管理・店舗管理はDが経験したことがない業務であったこと,本件異動直後から,2店舗の新規出店の準備があり,翌月以降は,委託業者のNのミスによるトラブルが多発していたこと等((1)オからキ)からすれば,Dが在庫管理のシステム化に着手できなかったことには((1)オ(ア),カ(ウ)),やむを得ない面があり,また,自分より多忙な代表者からの同業務の引取り申し出を断ったことも((1)カ(ウ)),部下の立場として無理からぬ面がある。
また,店舗スタッフの求人が不十分であったことや,生産業者や資材業者への発注を怠ったこと等,Dのミスによるトラブルが発生し((1)カ(ア)(ウ),キ(ア)(イ)(エ)),これがDの時間外労働の要因の1つとなったことが窺えるが,これらのミスは重大なものとはいえないし,時間外労働の大きな要因となったとも認められない。
したがって,これらは被害者側の過失として過失相殺すべき場合に当たるとはいえない。
(5)

損害の填補
前記第2の2(3)のとおり,原告らは,労災保険給付として,遺族補償一
時金として1629万8000円,葬祭料97万7880円の支給を受けたところ,前者は前記(1)(2)の,後者は前記(3)の損害の填補に充てられたと解するのが相当である。
(6)

弁護士費用―原告A250万円,原告B240万円
以下の計算式によって計算される弁護士費用以外の損害額に照らし,弁護
士費用は原告Bにつき240万円,原告Aにつき250万円とするのが相当である。

原告A
(4105万3000円+2000万円―1629万8000円)÷2+200万円+150万円-97万7880円
=2489万9620円


原告B
(4105万3000円+2000万円―1629万8000円)÷2+200万円=2437万7500円

(7)

小括
前記(6)アイにそれぞれの弁護士費用を加えると,原告Aの損害額は27
39万9620円,原告Bの損害額は2677万7500円である。3
争点(3)―割増賃金請求―平成23年1月から12月までの労働時間につい

Dの前記期間における労働時間は,前記1(1)ケのとおりであり,時間外労働時間は,別紙4の各月の欄の末尾のとおりである。
この労働時間に,時間単価と割増率を乗じた結果は,別紙3のとおりであり,割増賃金の合計額は281万6831円となる(これを原告らの相続分により配分すると,原告ら各自につき140万8416円(1円未満四捨五入)となる。)。なお,前記1(2)(3)で判断した被告C及び被告Fの労働時間管理の実態に照らし,本件において付加金の支払命令をさし控える事情はない。4
結論
以上から,被告らに対する安全配慮義務違反に基づく請求は,民法709条に基づき,連帯して,原告Aに対して逸失利益,慰謝料,葬儀費用及び弁護士費用2739万9620円及びこれに対する不法行為後である平成23年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Bに対して逸失利益,慰謝料及び弁護士費用2677万7500円及びこれに対する不法行為後である平成23年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由がある(被告らの責任は不真正連帯の関係にある。)。
被告Cに対するDの時間外労働手当の請求は,原告ら各自に対する140万8416円及びこれに対する支払日後である平成24年2月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。被告Cに対する付加金請求は,原告ら各自に対する140万8416円及びこれに対するその支払を命じる判決確定日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。したがって,原告らの請求を前記の限度で認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判官

伊藤由紀子
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