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地位確認等請求事件
事件番号平成25(ワ)6929
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成28年1月14日
法廷名東京地方裁判所
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平成28年1月14日判決言渡
平成25年(ワ)第6929号

地位確認等請求事件

主文1
原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2
原告と被告との間で,原告がP1株式会社P2営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないことを確認する。

3
被告は,原告に対し,36万0841円及びこれに対する平成25年3月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4
被告は,原告に対し,平成25年5月から平成26年8月まで毎月25日限り51万8200円,同年9月25日限り31万8200円,同年10月から平成27年10月まで毎月25日限り31万0920円及び同年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り51万8200円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

7
この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。事
第1
1実及び理由
請求
原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有し,管理職1級の地位にあるこ
とを確認する。
2
原告が被告の総務人事本部人事部付に勤務する労働契約上の義務がないこと
を確認する。
3
主文第2項及び第3項と同旨
4
被告は,原告に対し,平成25年5月から本判決確定に至るまで,毎月25
日限り51万8200円,毎年7月10日及び12月10日限り各108万2000円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5
被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成25年3月29日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

本件は,被告に雇用されていた原告が,被告に対し,被告による配置転換命令,降格処分,出向命令,懲戒解雇はいずれも無効であると主張して,原告が労働契約上の権利を有し,降格処分前の地位にあること(請求第1項,主文第1項関係),配置転換先(請求第2項関係)及び出向先(主文第2項関係)に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに,労働契約に基づき,平成25年2月分の未払賃金(主文第3項関係),解雇後である同年4月以降の月例賃金及び賞与(請求第4項,主文第4項関係)並びにこれらに対する各支払期日の翌日以降の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の各支払を求め,また,被告が原告の内部告発に関するプレスリリースを発出したことにより原告の名誉を毀損し,懲戒委員会を開催して原告を難詰し,全く合理性のない配置転換命令等を乱発し,無効な降格処分及び懲戒解雇をするなどした一連の行為が,被告の原告に対する不法行為を構成すると主張して,民法709条,715条に基づき,損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日(平成25年3月28日)の翌日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金(請求第5項関係)の支払を求める事案である。1
前提事実(争いのない事実並びに末尾掲記の各証拠〔以下,書証の掲記は,
特に断らない限り枝番号を含む。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)

当事者等

ア(ア)

被告は,紙・板紙・パルプ及びその副産物の製造加工並びに販売等を目
的とする株式会社であり,平成25年3月当時,資本金は約304億円,従業員数は約3000人であった。被告は,その株式をP3市場第一部に上場している。(甲1)
(イ)

平成24年6月当時,被告には,次のaないしdを含め,国内に50を超
える子会社,関連会社その他の関係会社があった。(甲9,10,38,39,乙6,60)

P4株式会社(平成25年4月1日,P5株式会社に吸収合併されるととも
に,商号を「P1株式会社」に変更。以下「P4」という。)は,静岡県富士宮市に本店を置く被告の物流関連会社であった。

P6株式会社(以下「P6」という。)は,北海道赤平市に所在し,ティシ
ューペーパー等の製造・加工等を業とする会社であった。

P7株式会社(以下「P7」という。)は,兵庫県加古川市に所在する被告
の子会社であった。

P8株式会社(以下「P8」という。)は,栃木県さくら市に所在し,紙オ
ムツ,ナプキン,ウェットティシューの製造等を業とする会社であった。(ウ)

被告には,タイ王国における関係会社として,P9があり,大韓民国にお
ける関係会社として,P10があった。

原告は,昭和61年4月1日,被告との間で労働契約を締結し,以後,被告
及び被告の関係会社において就労した。原告は,平成14年1月から平成17年6月まで,被告の関係会社であるP11株式会社の取締役総務部長を務め,同年7月から同年12月まで,被告の関係会社であるP12株式会社の取締役総務部長を務めた。(甲37,乙1)

P13は,被告の社長及び会長を歴任し,その後顧問の職にあった者である
が,平成23年9月に発覚した被告の元会長による被告の関係会社からの多額の借入れに関連して,同年10月28日付けで顧問を解嘱された。P13は,その後,P13らが所有していた被告関係会社の株式を被告がP14株式会社(以下「P14」という。)を通じて買い取るに際し,あらためて被告の顧問に就任することとなり,平成24年6月26日,被告との間で顧問契約を締結し,同年10月1日執務を開始した。(乙5ないし7,20,59)
(2)

原告に対する出向命令及び配置転換命令等
原告は,平成19年7月1日,被告の関係会社である中華人民共和国江蘇省
蘇州市所在のP15有限公司に出向し,3年10か月間勤務した後,平成23年5月1日,被告の関係会社であるベトナム社会主義共和国ホーチミン市所在のP16コーポレーション(以下「P16」という。)に出向し,約1年4か月間勤務した。その後,原告は,平成24年9月10日,被告の経営企画本部経営企画部に異動となり,東京都中央区所在の被告の東京本社において,経営企画本部経営企画部の課長として勤務した。(甲1,37,乙1)

被告は,同年12月26日,原告に対し,平成25年1月1日付けでP7へ
の出向を命じた(以下,この出向命令を「P7出向命令」という。)。(甲2,乙63)

被告は,原告に対し,同月7日,P7出向命令を取り消す旨の意思表示をし
た上,同月8日,同月1日付けで総務人事本部人事部付課長への配置転換を命じた(以下,この配置転換命令を「本件配転命令」という。)。(甲3,25の1,乙63)
(3)

原告作成の告発状の記載内容の業界新聞への掲載等
平成25年1月7日以降,被告の顧問であったP13から,被告の複数の役
職員らに対し,順次,「告発状」と題する文書(以下「本件告発状」という。)が送付された。本件告発状は,原告が作成し,P13に交付したものであり,別紙1(告発状)のとおりの記載があった。(乙3,9)

同月11日頃,製紙業界の業界新聞であるP17に「P18問題

内部告発

が表面化へ」等と題する記事が掲載された。上記記事は,被告の顧問であるP13から,被告のP19社長(被告代表取締役社長のP19を指す。以下同じ。)に関して内部告発の資料が出回っているとの報告があった等と前置きした上で,P13から提供を受けた原稿を掲載するものであり,同原稿は,被告において,関係部署等が共謀して決算予想数値を改ざんしており,海外法人についても同様であること等を内容としていた。(乙10)

同年2月1日及び同月11日,P17に本件告発状の記載内容(ただし,本
件告発状とは,宛先が異なるほか,本文の表現等にも違いがみられる。)が2回に分けて掲載された。P17の上記報道は,P13が提供した資料に基づくものであった。(乙11,12)
(4)

原告に対する降格処分等
被告においては,従業員の職能資格を,上級管理職(GM1~2),管理職
(M1~4),企画指導職(S1~3)及び一般職(J1~3)に区分している。このうち,管理職1級(M1)に対応する役職は,部門長,部長,部長代理及び課長であり,管理職2級(M2)に対応する役職は,部長代理,課長及び課長代理とされていた。(乙32)

平成25年1月当時,被告における原告の資格等級は,管理職1級(M1)
であり,原告の賃金は,1か月につき,本給34万6200円,職責給11万1000円,役職手当4万6000円,勤務地手当1万5000円の合計51万8200円であった。なお,原告の賃金は,毎月1日から月末までを計算期間として,翌月25日(その日が会社の休日であるときは,その前日)に支払うものとされていた。(乙1,32)

被告は,同月22日,同月25日及び同月28日,原告を対象者とする懲戒
委員会を開催し,原告に対する質疑を行った。(甲25の4ないし25の6,乙38)

被告は,同年2月1日,原告を管理職1級(M1)から管理職2級(M2)
に降格させる旨の懲戒処分(以下「本件降格処分」という。)をし,同日,これを原告に通知した。本件降格処分に係る懲戒処分通知書には,処分事由として,次の記載があり,原告の行為が被告の社員就業規則(以下「就業規則」という。)22条1項,2項,懲戒規程6条2号,9号に該当する旨が記載されていた。(甲4)「

貴殿が作成した告発状と称する文書類は,対外的に未公表の事実を含み,その事実は社内においても限られた者しか知り得ない状況にあり,業務上知り得た会社の秘密にあたるものである。貴殿はこの文書類を平成24年12月下旬にP13顧問およびP20氏に交付し,同人らはそれを平成25年1月上旬に当社社員,関係金融機関,業界紙等に広く開示した。
貴殿は同人らによる上記開示があり得ることを認識していたものである。上記文書の内容には当社の経営戦略的なものが含まれており,第三者への不相当な開示により,経営上の不利益を惹起する恐れがあるとともに,さらに,事実で無い部分については当社および社員の名誉および信用を毀損する恐れがあるものである。」

(5)

原告に対する出向命令及び原告の懲戒解雇等
被告は,原告に対し,平成25年2月1日,同月5日付けでP4に出向し,
北海道赤平市所在の同社P2営業所において所長として勤務することを命じるとともに(以下,この出向命令を「P2出向命令」という。),同月12日までにP2営業所に着任できるよう準備すること等を指示した。(甲5,6,9)イ
原告が同日までにP2営業所に着任しなかったところ,被告は,同日頃,原
告に対し,同日付けの書面をもって,同月5日付けの人事異動(出向)辞令に基づき直ちにP2営業所に赴任する旨を命じるとともに,今後もP2営業所に赴任して就労しない場合には,懲戒規程7条14号に基づき諭旨解雇又は懲戒解雇することがある旨を通知した。(甲14)

被告は,同月20日頃,原告に対し,同日付けの書面をもって,再度,P2
営業所への赴任を命じるとともに,赴任しない場合は諭旨解雇又は懲戒解雇することがある旨を通知した。(甲15)

原告代理人弁護士は,同月21日,被告に対し,同月20日付け通知書を送
付し,同通知書は,同月22日被告に到達した。上記通知書には,P7出向命令,本件配転命令及びP2出向命令は,人事権の濫用であり,本件降格処分は,公益通報者保護法に違反するものであって,いずれも無効と解するほかないこと,後記(6)イのプレスリリースについて,原告をいたずらに侮辱するものとも言えるので,同プレスリリース中の「当社が既に改善を行ったもの」及び「告発者の単なる私見,あるいは憶測による事実の裏付けのないもの」に係る具体的事実等を明らかにするよう要求すること等が記載されていた。(甲16)

被告代理人弁護士らは,原告代理人弁護士に対し,同年3月1日,同日付け
回答書を送付し,同回答書は,その頃原告代理人弁護士に到達した。上記回答書には,被告が原告に対して発した3件の辞令は,いずれも人事権の濫用ではなく,本件降格処分が公益通報者保護法に違反することもないこと,上記プレスリリースが原告を侮辱するものではないこと,原告が今後もP2営業所に赴任して就労しない場合には,原告を諭旨解雇又は懲戒解雇する場合があるところ,この点を審議する懲戒委員会が同月8日に開催される予定であること等が記載されていた。(甲17)カ
被告は,同日,懲戒委員会を開催し,原告に対する質疑を行った。(乙19)

被告は,同月11日,原告に対し,同日付けで原告を懲戒解雇する旨の意思
表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をした。本件懲戒解雇に係る懲戒処分通知書には,処分事由として,次のとおり記載された上で,原告の行為が懲戒規程7条14号に該当する旨の記載があった。(甲7,25の8)


当社は貴殿に対し,平成25年2月1日,同年2月5日付人事異動辞令を交付してP4株式会社P2営業所長を命じ,併せて同年2月12日までに同所に着任するよう指示した。
しかしながら,貴殿が同年2月12日までにP4株式会社P2営業所に着任しなかったことから,当社は貴殿に対し,同年2月12日付文書『人事異動(出向)の再通知について』,同年2月20日付文書『人事異動(出向)の再通知について(督促)』,及び当社代理人より貴殿代理人に宛てた同年3月1日付『回答書』により3回にわたり,P4株式会社P2営業所へ赴任し就労するよう督促したが,貴殿は,同年3月8日に至るもP4株式会社P2営業所に赴任せず,同年2月12日から同年3月8日に至るまで,労働日通算で18日間の欠勤を続けている。
貴殿の上記行為は,当社の人事異動辞令に基づく出向を拒否するものである。」
(6)

外部調査委員会による本件告発状に関する調査の実施等
P14は,被告の主要株主であったところ,平成25年2月14日付けで,
「P18に対する特別調査委員会設置等の要請に関するお知らせ」と題するプレスリリースを発出した。上記プレスリリースには,次の記載がある。(乙13,31)「

当社の持分法適用関連会社であるP18株式会社(【括弧内略】)が当第3四半期連結会計期間(平成24年10月1日~平成24年12月31日)において突然海外関連会社への投融資等に対する巨額な損失を計上し純損失となったこと等から,P18は平成25年1月31日及び同年2月12日に通期連結業績予想を下方修正し,その結果,当社の通期連結業績予想についても影響を受けることとなりました。また,最近,P18において不適切な会計処理が行われていることなどを内容とする内部告発があったとの報道がなされたばかりか,P18の関連会社であるP21株式会社は,当社とP18との総合技術提携交渉中に,当社株式に関して外形上インサイダーと疑われかねない買付けを行っております。したがって,当社といたしましては,P18及びそのグループ会社のガバナンス及びコンプライアンスに大きな懸念を抱かざるを得ません。
そのため,平成25年2月1日,当社はP18に対し,第三者による特別調査委員会の設置と,上記記載の諸問題をはじめとする当該委員会によるP18及びそのグループ会社のガバナンス及びコンプライアンス上の詳細な調査及び報告を要請するとともに,もし問題が有るとすれば再発防止に向けた対応策の策定等を要請いたしました。」

被告は,同月14日付けで,「P14の特別調査委員会設置要請に対する回
答のお知らせ」と題するプレスリリース(以下「本件プレスリリース」という。)を発出した。本件プレスリリースには,次の記載がある。(甲8)「

平成25年2月14日付で,P14株式会社(【括弧内略】)から,『P18に対する特別調査委員会設置等の要請に関するお知らせ』が公表されましたが,当社は,当該公表前の平成25年2月13日に,同社に対し,書面をもってかかる特別調査委員会の設置をする必要がない旨回答しておりますのでお知らせ致します。当社の判断は,社外取締役及び社外監査役を含む全ての役員の同意に基づくものであります。その理由は以下のとおりです。」
「2.当社において内部告発があったとの点につきましては,当社が告発者から数次の事情聴取及び社内調査をした結果,当社が既に改善を行ったものが一部に含まれていることを除き,告発された内容の大半が告発者の単なる私見,あるいは憶測による事実の裏付けのないものであることが確認されております。この点につきましては,告発先である関係各機関に既に報告済みです。」

P14は,その後も,同月26日付け及び同年3月18日付けで,被告に対
して第三者による特別調査委員会の設置と当該委員会による詳細な調査等の実施及び報告等を行うことを再度要請した旨のプレスリリースを発出した。(乙14,15)

被告は,同年4月2日,P14から要請を受けた事項(①P21株式会社に
よるP14株式の買い付け,②平成24年度第3四半期連結会計期間における海外関連会社の投融資の損失処理,③被告における会計処理などを内容とする内部告発〔本件告発状に係るものを指す。〕)について,外部委員会による検証を実施することとし,上記①を検証する第1外部委員会と上記②及び③を検証する第2外部委員会を設置するとともに,その旨を公表した。第2外部委員会は,公認会計士の資格を有する3名の委員で構成されていた。(乙16)

第2外部委員会は,平成25年4月2日から同年5月10日までの間,前記
エの②及び③について調査を行い,同月11日,被告に調査結果を報告した。調査の結果は,結論として,いくつかの検出事項はあったが,不正,事実の隠蔽,意図的な決算操作と考えられる事象,重要なコンプライアンス違反,投資判断に重要な影響を及ぼす事象は確認されなかったというものであった。(乙4)(7)

本件懲戒解雇後の原告の賃金収入等
原告は,平成26年8月1日,P13が代表取締役を務めるP22株式会社
に就職し,同年12月1日,同社の取締役に就任した。(乙57)イ
また,原告は,同年9月1日,P13が代表取締役を務めるP23株式会社
に就職し,同年12月24日,同社の取締役に就任した。(甲36)ウ
原告は,別紙2(収入一覧表)記載のとおり,平成26年8月から平成27
年9月までの分の賃金及び役員報酬として,上記2社から合計427万3294円の支払を受けた。(甲33ないし35)
(8)

被告の就業規則等の定め

ア(ア)

被告の就業規則8条は,会社は業務の都合により社員に対し配置転換,
転勤,出向を命じることができる旨(1項),異動を命じられた者は会社が指定した日までに赴任しなければならない旨(2項),出向の場合の賃金,労働条件等の処遇については社員出向規程に定める旨(3項)を定めている。(乙2)(イ)

被告の就業規則22条1項は,「社員は,会社の名誉を毀損してはならな
い。」と定め,同条2項は,「社員は,業務上知り得た会社の秘密を他に漏らしてはならない。」と定めている。(乙2)
(ウ)

被告の就業規則80条は,懲戒は別に定める懲戒規程による旨を定めてい
る。(乙2)
イ(ア)

被告の懲戒規程4条は,懲戒の種類として,(1)譴責,(2)減給,(3)出
勤停止,(4)降格・降職,(5)諭旨解雇及び(6)懲戒解雇を定めており,このうち(4)降格・降職については,始末書を提出させ役職を免じ,若しくは引き下げ,又は資格等級を引き下げる旨,(6)懲戒解雇については,原則として予告期間を設けることなく即時解雇し,情状に応じて退職金の全額又は一部を支給しないことがある旨を定めている。(乙18)
(イ)

被告の懲戒規程6条は,同条各号に該当する場合は過去の事例を参考に減
給,出勤停止又は降格・降職とする旨を定めており,同条2号は「就業規則その他会社の諸規定に定める服務規律に違反してその程度が重いとき」と定め,同条9号は「会社の秩序や風紀を乱す行為があったとき」と定めている。(乙18)(ウ)

被告の懲戒規程7条は,同条各号に該当する場合は諭旨解雇又は懲戒解雇
処分とする旨を定めており,同条14号は「配置転換,転勤,出向などを拒否したとき」と定めている。(乙18)
2
争点

(1)

本件配転命令の有効性

(2)

本件降格処分の有効性

(3)

P2出向命令の有効性

(4)

本件懲戒解雇の有効性

(5)

原告の被告に対する賃金請求権及び賞与請求権の有無並びにその金額
(6)

不法行為の成否,損害の有無及びその金額

3
(1)

争点に関する当事者の主張
争点(1)(本件配転命令の有効性)

【原告の主張】
原告は,平成24年9月に被告の東京本社経営企画部に着任した後,被告の業績見通し発表の内容に偽りがあること,P9の業務執行,経理処理等に不適切な点があり,是正に向けた調査が必要なこと等を上司に報告し,善処を求めていたところ,同年12月26日,突如として,P7出向命令を受けた。原告は,P7出向命令により従前の業務から排除されることとなったことから,以後,上位役職者への上申,調査要求,内部通報制度の利用等によっては,上記問題の調査解明や業務執行の改善を期待することができないと考え,同月28日頃,同日付けの告発状を金融庁,P3,被告の会計監査人であるP24監査法人等に送付した。
しかるところ,被告は,原告に対し,P7出向命令を取り消した上で,本件配転命令を発した。本件配転命令は,P7出向命令と同様に,何ら合理性がなく,前述の上申ないし調査要求を重ねていた原告を従来の業務から外そうとの意図に基づくものであり,およそ合理的な理由のない不当な動機,目的によるものである。また,本件配転命令は,原告が正当な告発行為をしたことを契機に,原告に対する不利益処分としてされたものであり,これに引き続く本件降格処分及びP2出向命令という一連の処分をするための暫定的処分であって,その効力も本件降格処分及びP2出向命令と同様に考えるべきところ,後述のとおり,本件降格処分及びP2出向命令は,いずれも原告がした正当な告発行為を理由とするものであり,無効である。以上によれば,本件配転命令が人事権を濫用したものであることは明らかであり,本件配転命令は無効である。
【被告の主張】
被告は,被告の役職員が平成25年1月7日以降にP13から送付を受けた本件告発状について,原告に確認したところ,原告は,本件告発状を作成したことを認めた。被告は,ことの重大性に鑑み,本件告発状の作成者である原告から事情聴取をするなどして,本件告発状に係る事実を調査することとしたが,当該調査を被告の東京本社で行う関係上,原告のP7への赴任を停止する必要があり,しかも,その時点では,調査期間についての見通しが立たなかった。そこで,被告は,P7出向命令を取り消した上で,本件配転命令を発したのである。
このように,本件配転命令は,不当な動機,目的によってされたものではなく,本件告発状の送付を受けた被告における調査の必要によりされたものであるから,人事権の濫用でないことは明らかであり,有効である。
(2)

争点(2)(本件降格処分の有効性)

【被告の主張】
原告は,本件告発状を作成し,これをP13及びP13と行動を共にしていた被告の元従業員のP20に交付した。本件告発状の記載のうち,少なくとも別紙3(被告主張の虚偽記載)に掲記した各記述はいずれも真実でなく,また,本件告発状の記載のうち,別紙4(被告主張の秘密情報)に掲記した各情報は,秘密としての要保護性のある情報であった。P13は,本件告発状を多数の被告従業員,四国中央市長,被告の取引金融機関に送付したばかりでなく,本件告発状を業界新聞であるP17にも提供したことから,同紙に本件告発状の内容が掲載されることとなった上,P14が本件告発状の内容等について特別調査委員会による調査等を被告に要請する旨を繰り返し公表したことにより,被告の企業価値は毀損され,結果的に,多額の費用をかけて第三者による検証を実施せざるを得なくなった。原告は,個人的な恨みを晴らすべく敵対的な態度に出ていたP13に同調しており,P13が本件告発状を広く第三者に開示することについて,少なくとも未必的に認識していながら,本件告発状をP13及びP20に交付したものである。したがって,原告の行為は,被告の秘密情報を漏らしたものとして,就業規則22条2項に違反するとともに,被告に関する真実ではない事実を伝達し,被告の社会的評価を低下させたものとして,就業規則22条1項に違反する。原告の行為は,その結果をみても明らかなとおり,就業規則に違反する程度が重いから,懲戒規程6条2号に該当し,また,会社の秩序を乱す行為でもあるから,懲戒規程6条9号に該当する。そこで,被告は,懲戒規程6条2号及び9号に基づき,本件降格処分を行ったのである。
原告は,本件降格処分について,原告が金融庁等に対して告発を行ったことを理由とするものであるかのようにも主張するが,以上述べたとおり,本件降格処分の理由はそのようなものではない。そして,原告の行為が懲戒規程に定める懲戒事由に該当することは上記のとおりであるから,本件降格処分は有効である。【原告の主張】
原告による本件告発状の作成交付は,内部告発行為であり,その正当性は,①内容の真実性,②目的の正当性,③手段の相当性を総合考慮して判断すべきである。そして,①本件告発状における指摘は,いずれも真実であり,事実に基づく正当な批判であるが,仮に,真実性の立証が十全には認められない場合であっても,被告の中枢部門である経営企画部に所属していた原告が,職務上接した資料,関与した会議,関係部署の責任者や上司の発言に基づいて指摘したものであり,十分な根拠に基づくものであって,真実であると信ずるについて相当な理由があった。また,②本件告発状に記載された内容は,その株式をP3市場第一部に上場している被告の経営状態,業務執行状況等にかかわる問題であり,公共の利害に関する事実であることは疑問の余地がないところ,原告は,本件告発状による告発を,私利私欲のためではなく,被告及びその株主,従業員,取引先等の利害関係者のためにしたものであるから,本件告発状の作成交付は,公益目的という正当な目的でされたものであった。さらに,③原告が本件告発状を交付したP13は,被告と顧問契約を締結し,被告の会社経営について相談を受け,助言を与える立場にあり,被告の役員や従業員ではないものの,内部者ないし内部者に準じて考えることができるから,本件告発状をP13に交付するという手段も相当なものといえる。したがって,原告による本件告発状の作成交付は,正当な告発行為であるから,これを懲戒処分の理由とすることはできない。
また,原告がP13に本件告発状を交付した当時,P13は,被告の内部者である顧問の地位にあったから,P13に対して本件告発状を交付したことが,情報を外部に漏らし,被告の名誉を毀損する行為になり得ないことは明らかである。P13は,原告から受け取った本件告発状を被告の役職員その他の関係者に交付した趣であるが,それはP13が独自の判断でしたことであり,原告は,P13が本件告発状を第三者に配布することなど未必的にも全く認識していなかった。P20については,P13の秘書的な立場にあり,P20もP13に準じて考えられるべきであるし,原告がP20に本件告発状を交付したのは,P13への取次ぎのためにすぎないから,P20に対する本件告発状の交付も,情報漏えいや名誉毀損になるものではない。そうすると,本件降格処分は,原告が情報漏えいや名誉毀損をしたという前提事実を欠くことになる。
以上によれば,本件降格処分は,正当な告発行為を理由とするものである上,前提となる事実を欠き,合理的な理由なくされたものであるから,懲戒権を濫用するものとして,無効である。
(3)

争点(3)(P2出向命令の有効性)

【原告の主張】
P2出向命令における出向先のP2営業所は,独立した事務所を有しておらず,北海道赤平市に所在するP6の事務所内に間借りをしており,トラック等の運送業務のための車両等も保有していない。P2営業所所長は,所長とは名ばかりで部下はおらず,たった一人で仕事をしなければならない上,主たる仕事は,地元の運送業者に運送の連絡,手配をすることにとどまる。このように,P2出向命令における出向先は,被告との関係はもとより,出向先の本社からも孤立し疎外されている上,P2営業所所長は,過去の人事をみても,降格処分を受けた者が流れ着く極めて特殊なポストであって,著しく劣悪な労働環境にある。
また,原告は,入社当初に製造販売や物流などの現場業務を経験したのみで,その後は経理・財務に関する業務のほか,主として各種の調査分析・企画立案に関する業務を担当し,キャリアを積んできたところ,上記のとおり,P2営業所所長の業務は,原告の職歴や経験とは隔絶したものである。
この点,被告は,原告に物流費の削減を期待していた旨を主張するが,P2出向命令に係る辞令の交付に際してそのような説明は一切なく,そもそもP6における物流費の実績も特別悪いものではなかった上,原告には物流の経験が全くなかったのであるから,被告が原告にそのような期待をしていたとは到底考えられない。被告は,「新しい視点」からの物流費の削減を期待したなどとも主張するが,「新しい視点」なるものは空疎で具体的なイメージが何も示されていない。かえって,被告は,P2出向命令の発出時点において,業務統合によるスケールメリット等を狙ってP4と他の関係会社5社とを合併する方針を決めており,被告の主張するP2営業所単体での物流改革は,被告自身の方針と相いれないものというほかない。さらに,原告の出向先は,懲戒手続中に内定しており,本件降格処分と併せて検討されてきたことがうかがわれるところ,その際,P7については一顧だにされず,他の候補先も検討されることなく,出向先がP2営業所に絞り込まれていたのであって,被告は,原告に対し,あからさまな転落人事を図ったというほかない。以上の諸事情に照らし,P2出向命令が原告に対する報復ないし原告排除のための極めて恣意的な人事異動であるのは明らかであるから,P2出向命令は,人事権を濫用したものとして,無効である。
また,労働者にとって,人事異動,とりわけ他社への出向は,労務提供先,労務提供内容の変更を意味するから,使用者が発令に際して出向先での仕事内容の説明をすることは,労働契約上の信義則に基づき認められる最低限の義務というべきである。しかるに,被告は,P2出向命令の発令に際し,およそ説明の機会を設けようとすることなく,このような最低限の義務の履行も怠ったのであるから,P2出向命令は,手続上も重大な瑕疵を帯びており,無効というべきである。【被告の主張】
原告は,本件配転命令により総務人事本部人事部付となっていたが,これは本件告発状に係る調査のための一時的な異動であったところ,平成25年1月28日開催の第3回懲戒委員会をもって必要な調査が終了し,原告に対する処分が降格処分になる見通しとなったため,被告においては,同日以降,原告の配置転換先を検討した。
この点,懲戒委員会による調査を通じて原告の秘密漏えい行為が確認された以上,原告を重要度の高い機密情報に触れる可能性のあるポストに配置転換させることはできなくなったが,P7出向命令における出向先であったP7の総務部長職も,被告の重要な子会社の取締役会の事務局を含む総務全般を担当する管理職として,経営企画部課長ほど広範ではないものの,一定の重要な機密に接するポストであったことから,もはや原告をP7の総務部長職に就任させることはできず,別の異動先を検討する必要が生じた。
ところで,被告は,従前から被告の関係会社であったP4のP2営業所所長に,被告従業員のうち管理職の者(職能資格がM4からM1までの者)を出向させていた。当該出向者には,物流費の削減が期待されていたが,平成25年1月当時,期待するような削減効果が得られておらず,同月29日には,P6の社長であったP25(以下「P25社長」ともいう。)から被告に対し,出向人員の変更を検討するよう依頼があった。P25社長からは,出向人員の資質として,物流業務の経験はなくても良いので,物流業務に「新しい視点」を持っている者が良いとの要望があった。
ここで,P2営業所は,機能的にはP6の物流部門に位置づけられる重要な拠点であり,P2営業所が担う物流業務は極めて重要なものであるところ,P2営業所がその機能を十分に果たすためには,P6の関連部署,被告のP26営業所等と密接に情報交換及び協議を行う必要があり,下請の倉庫業者等との連携も必須となる。また,P2営業所所長に求められる作業のうち,物流コストの削減は,固定観念を排し,新しい視点に基づいて改善・改革を進めていくことが必要なものであり,繁忙期における運送手段の確保についても,被告の営業担当者と緻密に連携して各地の需要情報を収集・分析するという高度な作業である。以上のとおり,P2営業所所長に求められる業務は,運送業者に連絡し,限られた範囲での交渉を行うというような単純なものではなく,被告やP6と緻密な連携を取って情報の収集と分析を行い,物流業務の改善を図りP6を補助するという重要な職責を担うものであった。原告は,国内外の関係会社での業務経験や,改善計画立案を担当する部署での業務経験があった。そのため,被告は,原告が「新しい視点」を有していて,P25社長の上記要望に合致しており,これまでの経験をもとに相応の情報収集や情報分析ができるものと判断して,P2出向命令を発したのである。
また,原告が寒冷地に赴任するについて持病等の特段の支障があるわけではなく,海外での勤務経験がある原告にとって,北海道赤平市がことさらに遠隔地であるというものではないし,原告は単身者であるから,地方への異動について,所帯を構えていることに伴う特段の不利益があったわけでもない。
原告は,P2出向命令に説明義務の不履行という手続上の重大な瑕疵がある旨を主張するが,原告にP2営業所での業務内容等の説明がされなかった理由は,原告がP2出向命令の後,出向先関係者に一切連絡を取ることなく,一方的にP2出向命令を拒否した結果であるから,原告の上記主張は失当である。
以上のとおり,P2出向命令は,業務上の必要に基づく合理的なものであって,不当な目的によるものではなく,また,原告に著しい不利益を課すものでもないから,人事権の濫用となる余地はなく,有効である。
(4)

争点(4)(本件懲戒解雇の有効性)

【被告の主張】
原告は,被告が原告に対してP2出向命令を発し,その後も再三にわたってP2営業所への赴任を命じたにもかかわらず,P2営業所に赴任しなかった。これは,懲戒規程7条14号の「配置転換,転勤,出向などを拒否したとき」に該当する。被告は,上記規定に基づいて本件懲戒解雇をしたものであり,本件懲戒解雇は有効である。
【原告の主張】
前述のとおり,P2出向命令は無効であるから,原告がP2出向命令に従わなかったことをもって,懲戒規程7条14号の「配置転換,転勤,出向などを拒否したとき」には該当しない。
したがって,本件懲戒解雇は,懲戒事由なくされたものであり,無効である。(5)

争点(5)(原告の被告に対する賃金請求権及び賞与請求権の有無並びにその
金額)
【原告の主張】

平成25年2月分の賃金について
原告の平成25年2月分の賃金は51万8200円であったが,被告は,同年3月25日に15万7359円を支払っただけであり,36万0841円が未払である。

平成25年4月分以降の月例賃金について

被告は,本件懲戒解雇が無効であるのに,原告の就労を拒否している。したがって,原告は,被告に対し,1か月当たり51万8200円の賃金請求権を有する。被告は,原告が他社の役員に就任したことをもって,原告が被告において就労する意思を確定的に放棄していると主張するが,原告が他社において就労しているのは,あくまで裁判が確定するまで当面の生活を維持するための暫定的なものであるから,これをもって被告において就労する意思を確定的に放棄したことになるものではない。

賞与について

原告は,被告から,賞与として,平成24年7月10日及び同年12月10日にそれぞれ108万2000円の支給を受けた。したがって,原告は,被告に対し,上記イの賃金請求権に加え,平成25年以降,毎年7月10日及び12月10日限り108万2000円の賞与請求権を有する。
【被告の主張】

平成25年2月分の賃金について

原告は,平成25年2月12日までに出向先のP2営業所に着任せず,同日以降,無断欠勤であったため,原告の同月分の賃金は15万7359円であり,被告はその全額を支払済みであるから,未払賃金は存在しない。

平成25年4月分以降の月例賃金について

本件懲戒解雇は有効であるから,原告は被告に対して賃金請求権を有しない。仮に,本件懲戒解雇が無効であったとしても,原告は,他社の役員に就任しており,原告自身が被告において就労する意思を確定的に放棄しているといえるから,原告は被告に対して賃金請求権を有しない。

賞与について

被告が原告に対して平成24年7月10日及び同年12月10日にそれぞれ108万2000円の賞与を支給したことは認めるが,原告が被告に対して平成25年以降の賞与請求権を有することは争う。
(6)

争点(6)(不法行為の成否,損害の有無及びその金額)

【原告の主張】
前述のとおり,原告の作成した本件告発状は,真実で合理的な根拠のある正当な批判である。にもかかわらず,被告は,本件告発状について「単なる私見,あるいは憶測による事実の裏付けのないものであることが確認されております。」とする本件プレスリリースを発出した。しかも,被告とP14との間のやり取りの経緯やその内容は,原告とは無縁であるにもかかわらず,被告は,両者のやり取りと原告の告発行為を結びつける体裁で,本件プレスリリースの記述をしている。したがって,本件プレスリリースは,原告が何らかの企みから虚偽を並べ立てる特異な主張者であるとの印象を一般人に与え,原告の名誉を著しく毀損したものというべきである。被告は,本件プレスリリースが公益を図る目的で行われたと主張するが,本件プレスリリースは,原告の指摘した被告の経営上の重大な問題点に関する調査をこれ以上行わないというものであり,不正の隠蔽ないし役員らの保身のためにされたものであって,公益目的があったとは到底認められない。
加えて,被告は,平成25年1月22日,同月25日及び同月28日に開催された懲戒委員会において,原告の内部告発が私怨によるものであるかのごとくに原告を難詰し,他方において,全く合理性のない無効な配置転換命令(P7出向命令,本件配転命令及びP2出向命令)を乱発し,無効な本件降格処分をし,挙げ句には無効な本件懲戒解雇をするなどのパワーハラスメント行為に及んだ。被告のこれら一連の行為は,原告に対する執ような精神的攻撃というほかなく,原告に対する不法行為を構成する。原告は,被告の不法行為により,精神的被害を受け,人格的利益を傷つけられた。これを慰謝するには,少なくとも300万円の支払が相当であり,弁護士費用は30万円が相当である。
【被告の主張】
被告が本件プレスリリースを発出したのは,P14が,本件告発状の内容が報道されたとして,本件告発状に関しても特別調査委員会による調査を要請する旨のプレスリリースを発出したことから,これに対して,特別調査委員会の設置が必要ないことと,その理由を開示せざるを得なかったからであるところ,そもそも本件告発状の内容が報道されるに至ったのは,原告がP13らに本件告発状を交付したことが原因であり,原告は,自ら本件プレスリリースの発出を招いたのである。この点をおくとしても,本件プレスリリースは,投資者に適切な情報を開示するという,公共の利害に係る事項について公益を図る目的で行われたものであるし,本件告発状の内容が真実でなく,合理的な根拠に基づくものでもないことは,前述したとおりであって,本件プレスリリースの内容は真実であるから,本件プレスリリースに違法性はなく,原告に対する不法行為にはならない。
また,懲戒委員会においては,懲戒事由の調査に必要な質問をしたにすぎず,その質問が原告に対する不法行為になることはあり得ない。
そして,P7出向命令,本件配転命令,本件降格処分,P2出向命令及び本件懲戒解雇は,いずれも適法かつ有効なものであって,これらが原告に対する不法行為になることはない。
以上のとおり,原告の主張する被告の行為は,いずれも原告に対する不法行為にならない。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前記前提事実,末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)

被告の経営陣とP13との関係等
平成23年9月頃,P13の子であり,被告の代表取締役会長であったP27が被告の関係会社から多額の貸付けを受けていたことが明らかとなった。被告は,同月16日,上記貸付けについて調査するために,弁護士3名を含む5名の委員で構成された特別調査委員会を設置した。上記特別調査委員会は,調査の上,同年10月27日,被告に調査報告書を提出した。上記調査報告書には,上記貸付けが簡単に行われ,早期に発見,防止されなかった原因について,被告グループにおいて,P13,P27及びP27の実弟であるP28(以下,併せて「P13父子」という。)が非常に強い支配権を有し,特別の存在と扱われており,被告グループ内ではトップの指示には当然従うという体質ができあがっていて,まさかトップが会社に不利益な行動をするはずがないという気持ちも働き,安易に貸付けに応じて防止するための行動ができなかったことによるものと判断した旨の記載があるほか,このような不祥事の再発を防止するための提言として,被告が上記貸付金の使途解明の努力を続けるとともに,P27を告訴,告発することも検討すべきこと,公正な方法による貸付金の回収の努力をし,被害の回復を図るべきであること等に加え,被告グループに対するP13父子の支配権を薄め,被告のガバナンスを強化するための具体的方策を検討し,実現を図るべきであるとした上で,P13父子の保有する被告グループの株式を透明化し,その比率を下げる等の方策を講じるべきこと,被告グループの人事制度の見直しを直ちに行うべきであり,P13に報告してその承認をもらうといった慣行は直ちに廃止すべきであること等が記載されていた。(乙5,59)

被告は,上記報告を受けて,同月28日,代表取締役社長を含む役員らの報
酬の減額等を実施する旨を公表するとともに,同日付けで顧問のP13を解嘱した。(乙5)

被告は,平成24年6月26日,P13父子ら及びP14との間で,P13
父子らが所有する被告及び被告関係会社の株式をP14が買い取り,P14が取得した全ての被告関係会社株式(ただし,実質的に被告株式の保有会社である一社を除く。)を被告が買い取る旨の合意をするとともに,同日,P13との間で顧問契約を締結した。(乙6,20,60)

被告においては,上記顧問契約の締結と同じ平成24年6月26日付けで,
従業員らに対し,P19社長名義の「社員の皆様へ」と題する書面が配布された。同書面には,「P13氏は顧問に就任することとなりますが,当社の株主ではなく,ましてや役員でもありません。当社役員のみに対して必要に応じて助言をするだけであって,従前とは異なり,一般の社員の皆様に対して直接助言をしたり,報告を求めたりすることは許されていませんし,また,経営権・人事権も一切持たない名誉職となります。私以下の役員が毅然とした態度で応対することが,当社のガバナンス再構築であることを認識し,対応していきますので,社員の皆様は安心して業務に精励してください。」との記載があった。(乙21)

他方,P13は,被告との間で上記顧問契約を締結した後,月刊誌の取材に
応じて,P19社長を始めとする被告の経営陣に対して批判的な発言をし,これが月刊誌にインタビュー記事として掲載された。この記事には,P13の発言として,前記エ記載の書面はP19社長が根拠もなく勝手な解釈を従業員に押しつけるものであること,P19社長と一部の弁護士たちが画策し,P27の起こした事件をうまく利用して被告を乗っ取ろうとしたというのがP13の理解であること,P19社長は何のリスクも背負っておらず,失うものが何もない経営者を持った現経営陣下の被告は不幸であると思っていること等が記載されていた。(乙8,61)カ
原告は,P16への出向期間中に前記エの書面及び前記オの月刊誌の記事を
読んでおり,P13が被告の経営陣に対して批判的な立場にあることを認識していた。(原告本人)
(2)

原告による被告内部情報のP20への伝達等


被告は,平成24年9月7日,中期事業計画を公表した。(乙62)

原告は,同月10日に被告の経営企画部に異動した後,P16に対する出資
計画の見直しに関する業務を担当するとともに,モニタリング業務(被告の事業部における中期事業計画の進捗状況を把握し,中期事業計画との齟齬があればその原因を分析する業務)に従事した。(乙64,65,証人P29,同P30)ウ
原告は,遅くとも同年10月16日頃以降,経営企画部での執務により知っ
た情報を,被告に無断で,P13の私設秘書のような役回りをしていたP20に伝えていた。原告がP20に伝えていた情報には,本件告発状において問題が指摘されている被告の中国進出計画やP9の事業に関するものを始めとして,被告の秘密に属する情報が含まれていた。P20は,原告から伝えられた情報と自らの考え等を書面にまとめ,P13に交付していた。原告とP20とのやり取りは,少なくとも平成25年1月8日頃まで続いた。(甲37,乙24,49ないし51,証人P20,原告本人)

原告は,平成24年12月26日にP7出向命令を受けたところ,同月28
日頃,P13に対して本件告発状を交付した。原告は,その際,P13に対し,本件告発状をどのように使うかについてはP13にお任せするという趣旨の発言をした。(乙38〔7頁〕,原告本人)
(3)

P13による被告内部情報の取引銀行への提供等
P13は,平成24年11月28日,被告と取引のあった株式会社P31銀
行(以下「P31銀行」という。)に宛てて,被告の役員,社員はことごとくP13を警戒して貝のように口を閉じているが,被告の内外の多くの関係者から情報が届けられていること,P13としては,被告がコーポレートガバナンスやコンプライアンスを遵守する企業になるためにやむなくこのような社内の情報も存することをお知らせすること等を記載した書面を送付した。この書面には,前記(2)ウのとおりP13がP20から交付を受けた書面(ただし,一部マスキング処理がされているもの)が添付されていた。(乙49)

P13は,同年12月11日頃にも,P31銀行に宛てて,P20から交付
を受けた書面を送付し,さらに,平成25年1月には,同行に宛てて,その後にP20から交付を受けた書面等のほか,本件告発状とおおむね同じ内容の「告発状」(P17に掲載されたのとほぼ同じ内容の書面)を送付した。(乙50,51)ウ
なお,P13は,平成24年12月から平成25年1月にかけて,株式会社
P32銀行にも,上記のとおりP31銀行に送付したものとおおむね同じ書面を送付した。(乙52)
(4)

ハリマ出向命令発出の経緯等
被告は,平成24年11月末頃,P31銀行から,被告に関する情報が記載
された書面がP13から送られてきた旨の連絡を受けた。P31銀行が被告に対して上記書面を開示することはなかったものの,同行からの連絡内容は,上記書面に①被告の中国進出計画,②P9,③P16,④被告の平成25年3月期決算の経常利益等に関する記載があることがうかがわれるものであったところ,被告においては,被告の役員等がP13に対してこれらに関する情報を報告してはいなかったことから,従業員がこれらの情報をP13に提供しているものと判断した。その上で,被告においては,上記③のP16が経営企画部の所管であり,上記①ないし④の情報を幅広く知り得るのは経営企画部員のみであること,原告以外の経営企画部員がP13ないしその周辺人物と親しいという話は聞いたことがないのに対し,原告は以前P13の秘書をしていたことがあり,平成24年7月頃にはP20がP16に出向中の原告に会いに行ったこともあったことから,原告が経営企画部での執務により知った情報をP13に提供している強い疑いがあるものと判断した。そして,被告経営企画部部長のP29(以下「P29部長」ともいう。)は,経営企画部が取り扱う情報の重要性等に鑑み,原告を経営企画部に置いておくことはできないものと考え,それまでの原告の仕事ぶりから原告が経営企画部員としての適性を欠いていると考えていたこともあって,同年12月20日頃,被告の人事部部長であったP33(以下「P33部長」ともいう。)に対し,原告の異動を上申した。(乙64,証人P29)

被告人事部においては,上記異動の上申を受けて,原告の異動先を検討した
ところ,原告の異動先として被告の子会社であるP7が浮上した。P7の取締役総務部長職には,長年にわたり,総務部門の経験を有する被告の管理職(M1~M4)が出向していたが,当時の出向者は,既に在任期間が約3年半になっており,異動を検討する時期にあったところ,原告は,管理職(M1)であり,それまでに被告総務部総務課での勤務経験や,被告関係会社の総務部長職の経験があり,総務部門の経験を有していた。そこで,被告は,原告をP7に取締役総務部長として出向させることとし,同月26日,P7出向命令を発した。原告は,平成25年1月17日までに兵庫県加古川市所在のP7に着任することとされていた。(甲2,乙1,63,証人P33)
(5)

本件配転命令発出の経緯等

平成25年1月7日,P13から被告の役職員らに対し,原告が作成した本件告発状が送付された。被告は,本件告発状の送付を受けて,その作成者である原告に対してヒアリングを実施するなどして,本件告発状の記載内容について調査をする必要があるものと判断し,同日,原告にP7出向命令を取り消す旨を伝えた上,同月8日,本件配転命令を発した。(甲3,乙3,9,63,証人P33)(6)

本件降格処分の経緯等
被告は,平成25年1月7日及び同月8日,本件告発状の記載内容について,
原告に対するヒアリングを実施し,その後も,本件告発状の記載内容について内部調査を実施したが,調査の結果,本件告発状の記載内容の大半に根拠がないとの判断に至った。また,被告は,遅くとも同月18日までには,同月21日付けのP17▲号にP13の作成した文書が掲載され,▲号以降に本件告発状の内容が掲載される予定であることを把握した。そこで,被告においては,原告に就業規則22条1項及び2項違反の懲戒事由が存在する可能性が高いものと判断し,同月18日,被告執行役員総務人事本部長のP34を委員長とし,P33部長,社外取締役のP35及びP36を委員とする懲戒委員会を設置した。(甲25の1ないし25の4,乙38,39,63,証人P33)

被告は,同月22日,同月25日及び同月28日,懲戒委員会を開催し,原
告に対する質疑を行った。(甲25の4ないし25の6,乙38)ウ
被告は,同年2月1日,懲戒委員会を開催し,原告に対して本件降格処分を
通知した。(甲4)
(7)

P2出向命令の発出等
P33部長は,平成25年2月1日,前記(6)ウの懲戒委員会が終了し,懲
戒委員の社外取締役らが退席した後,その場で,原告に対し,P2出向命令に係る辞令を交付するとともに,同月12日までに着任するように準備すること等を指示した。(甲5,6,30,乙48)

P2出向命令の発出当時,P4は,静岡県富士宮市に本社事務所を置き,本
社事務所近くにP37センターを有していたが,それ以外の事業所は,P2営業所のみであった。P4は,P6から,P6が被告の依頼により生産した製品及び資材の保管,入出庫,運送業務並びにそれに付帯する業務(以下「本件業務」という。)を受託していた。P2営業所の行う業務は本件業務のみであったところ,P2営業所は,所長のほかに従業員がおらず,本件業務を自ら行うための車両や倉庫等の設備を有しているわけでもなく,本件業務を専ら下請業者に再委託しており,所長が自ら一人で本件業務の受託と再委託に伴う実務を行っていた。なお,原告は,入社当初に製造販売や物流などの現場業務を経験したことがあるほかは,物流部門における勤務経験がなかった。(甲9,37,乙41,67)

原告が同年2月12日以降もP2営業所に赴任しなかったところ,被告は,
同年3月11日,原告が被告の人事異動辞令に基づく出向を拒否したものとして,本件懲戒解雇をした。(甲7)
2
(1)

争点(1)(本件配転命令の有効性)について
前記認定事実によれば,被告は,平成25年1月7日,原告が作成した本
件告発状が被告役職員らに送付されたことから,原告に対するヒアリングを実施するなどしてその記載内容を調査する必要があるものと判断した(認定事実(5))が,その当時,原告は,P7出向命令を受け,同月17日には兵庫県加古川市所在のP7に着任することとされており(同(4)イ),調査のために原告を東京本社に在籍させておく必要があることから,P7出向命令を取り消した上で,本件配転命令を発したものと認められる。しかるところ,本件告発状は,別紙1(告発状)のとおり,被告及びその関係会社において不適切な会計処理がされていること等を内容とするものであったから,被告において,本件告発状の作成者である原告に対するヒアリングを実施するなどして本件告発状の記載内容を調査する必要があると判断したこと,そのために原告を被告の東京本社に在籍させておく必要があると判断したことは,いずれも合理的であったということができる。そうすると,本件配転命令は,業務上の必要性を有するものといえ,これが原告に著しい不利益を負わせるものと解すべき事情も認められないから,本件配転命令が権利を濫用したものであると認めることはできないというべきである。
(2)

原告は,本件配転命令が不当な動機,目的によるものであった旨を主張す
るが,当該事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また,原告は,本件配転命令が,これに引き続く本件降格処分及びP2出向命令という一連の処分をするための暫定的処分であって,その効力も本件降格処分及びP2出向命令と同様に考えるべきである旨を主張するが,後述のとおり,本件降格処分については,これが無効であるとは認められないし,P2出向命令については,これが本件配転命令と一連の処分であると解すべき根拠に乏しく,原告の上記主張を採用することはできない。(3)

以上のとおり,本件配転命令が無効であるとは認められないから,原告が
被告の総務人事本部人事部付に勤務する労働契約上の義務がないことの確認を求める原告の請求は理由がないということになる。
3
(1)

争点(2)(本件降格処分の有効性)について
就業規則22条1項違反(名誉毀損)の点について
原告が作成した本件告発状は,被告が経常利益見込みを意図的にかさ上げし
て公表したこと,被告の平成25年3月期の営業収支が赤字の見込みであること,被告の海外関係会社であるP9において,架空売上げの計上や循環取引を含む不適切な会計処理が行われていること,被告が中国進出事業を進めるに当たり,主力銀行との間の契約違反をしており,社内ルールも守られていないこと,被告が独占禁止法違反行為を行っていること,被告が決算短信に記載すべき事実を意図的に記載せず,これを「偽造」したこと,被告の海外事業においてマネー・ローンダリングの犯罪要件が構成されていったこと等が記載されており(別紙1),これらの記載が全体として被告の名誉を毀損するものであることは明らかである。イ(ア)

その上で,原告が本件告発状を交付したP13は,被告との間で顧問契
約を締結していた(認定事実(1)ウ)ものの,顧問契約の締結後も雑誌の取材に応じてP19社長を含む被告の経営陣を批判する趣旨の発言をしており(同(1)オ),被告の経営陣と対立関係にあったと認められるし,現にP13が原告から受け取った本件告発状の記載内容を被告の役職員(前提事実(3)ア,認定事実(5)),取引銀行(認定事実(3)イ,ウ)及び業界新聞の発行会社(前提事実(3)ウ)に広く流出させていることに照らしても,原告が本件告発状を交付した当時,P13が受領した本件告発状の記載内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性があったものと認められる。
(イ)

ここで,原告は,P13が本件告発状を第三者に配布することなど未必的
にも全く認識していなかった旨を主張する。しかしながら,証拠(甲25の5,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,P13について,制御をすることができない人間であるとの認識を有しており,懲戒委員会においてもその旨の発言をしていたと認められるところ,原告は,上記雑誌の記事を読むなどしてP13が被告の経営陣に対して批判的な立場にあったことを認識していながら(認定事実(1)カ),被告の名誉を毀損する内容の本件告発状をP13に交付し,その際,本件告発状をどのように使うかについてはP13にお任せするという趣旨を述べて,その利用方法を完全にP13の手に委ねていた(同(2)エ)のであって,これらの事実に鑑みれば,原告は,P13が本件告発状の記載内容を第三者に流出させる可能性があるとの認識を有していたと優に推認することができるというべきである。なお,後述(後記カ)のとおりP20が原告から聞いた内容をそのまま記載していたものと認められるP20作成の書面(乙51〔27頁〕)には,原告がP20に対し,P13が本件告発状をばらまくことを知っていたのかという被告従業員の質問には「敢えて」全く知らなかったと答えている,との発言をした旨の記載があるが,この原告のP20に対する発言は,実際にはP13が本件告発状を第三者に配布することを原告が知っていたことを前提とするものであるから,この記載についても,原告が上記可能性を認識していたことを裏付けるものといえる。

以上によれば,原告は,P13が本件告発状の記載内容を第三者に流出させ
る客観的な可能性がある状況において,当該可能性を認識しながら,あえて被告の名誉を毀損する記載のある本件告訴状をP13に交付したものであり,P13が本件告発状を被告の役職員らに送付し,本件告発状の記載内容を取引銀行及び業界新聞の発行会社に流出させたことによって,現実に被告の名誉が毀損されたことは明らかである。そうすると,原告のP13に対する本件告発状の交付は,被告の名誉を毀損するものとして,就業規則22条1項に違反するというべきである。エ
これに対し,原告は,原告による本件告発状の作成交付が正当な内部告発行
為であった旨を主張するので,以下検討する。
オ(ア)

まず,原告は,本件告発状における指摘がいずれも真実であり,仮に真
実であると立証できない場合でも,十分な根拠に基づくものであって,真実であると信ずるについて相当な理由がある旨を主張する。しかしながら,本件告発状の記載のうち,被告が真実でないと主張する別紙3(被告主張の虚偽記載)記載の各記述について,これらを裏付ける客観的資料は乏しく,原告本人尋問の結果と原告の陳述書(甲37。以下,併せて「原告の陳述書等」という。)のほかには,上記各記述の真実性の認定に供し得る的確な証拠はないものといわざるを得ない(原告は,65億円の経常利益見込みを80億円にかさ上げして公表した旨の記載〔別紙3記載1(1),(2)オ〕に関し,市況に関する報道内容や,紙製品,原材料の価格等についての証拠〔甲21,22,26ないし29,31,32〕を提出するが,これらの証拠は,被告の公表した利益見込みが客観的に過大であったことを示し得るということはできても,被告が見込んでいた経常利益の額が実際には65億円であったとか,被告が経常利益見込みを意図的にかさ上げしたとかいうことまでを示すものとはいえない。)。そして,原告の陳述書等は,上記各記述の大半について,被告の従業員から聞いたという伝聞や,原告が業務上見聞きした断片的な情報に基づく推測を根拠としていて,自ら確認をしていないものであるし,直接体験したという事柄についても客観的な裏付けを欠いているのであって,容易に採用することができないものといわざるを得ない。そうすると,上記各記述が真実であったとは認めるに足りず,原告がこれらの事実を真実であると信ずるについて相当な理由があったと認めることもできないというべきである。
(イ)

この点に関し,原告は,証人P38,同P30及び同P29の各証言や第
2外部委員会作成の平成25年5月11日付け調査報告書(乙4)等を引用して,P9や中国進出計画に関連して事業及び財務上の重大な問題があったことが認められ,本件告発状の主要部分については真実性が担保されている旨を主張する。しかしながら,原告が本件告発状に記載し,被告が真実ではないと主張している事実は,前記アにおいて取り上げたものを含め,別紙3(被告主張の虚偽記載)記載の各事実なのであって,原告が事業及び財務上の問題として指摘する事実(上記調査報告書において,洋紙本部で期ズレ販売等に関連する可能性がある値引きが1件確認されていること,被告がP9への融資を決定した際,P9に月次貸借対照表が存在しなかったこと,P9において,販促費ないし広告宣伝費が発生主義でなく現金主義で経理処理されており,販促費の管理が現地小売店による請求ベースになっていたこと,P9による販促活動にはおまけセールが含まれており,販促費としてキックバックを支払う処理があったこと,P9が大量の在庫を抱えていたこと,中国進出計画に関し,被告が取締役会決議を行わずに現地の政府責任者との間で覚書を締結したことなど)は,本件において真実か否かが争われている事実(係争事実)そのものではない。また,上記各証人は,原告が指摘する上記事実関係を認める内容の証言をしつつも,係争事実については真実でない旨を明確に証言しており,その証言内容に不自然な点があるということはできないし,上記調査報告書(乙4)は,結論として不正,事実の隠蔽,意図的な決算操作と考えられる事象,重要なコンプライアンス違反,投資判断に重要な影響を及ぼす事象は確認されなかったとしている(前提事実(6)オ)のであって,原告の指摘する上記事実の存在から係争事実の存在を推認することもできないというべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
カ(ア)

次いで,原告は,本件告発状の作成交付について,私利私欲のためでは
なく,被告及びその株主,従業員,取引先等の利害関係者のために公益目的で行った旨を主張する。しかしながら,原告は,遅くとも平成24年10月16日頃以降,経営企画部での執務により知った情報をP20に伝えており,P20は,この情報と自らの考え等を書面にまとめてP13に交付していた(認定事実(2)ウ)ところ,P20がP13に交付していた書面には,原告のP20に対する発言として,①「P29部長からは『・・・』と聞いた。皆,責任を負いたくないのだ。しかし,今月25日の取締役会では決議しなければならない。社長に付いて行くのか,の踏絵になる。否決すれば,・・・問題化するのは必至だ。賛成すれば,社長独断を認めた事になる。この決議で取締役個々の責任所在と“人となり”が明らかになる。」(同年10月16日,乙49〔7ないし8頁〕),②「今日,3週間ぶりに出社したが,全く平和だ。顧問やP39社長からの爆弾が突きつけられている事など,誰れも思っていない。」(同年11月26日,乙50〔11頁〕。なお,上記「P39社長」は,P14の代表取締役社長であったP39を指すと解される。),③「P20,やはり,社長は自ら辞めんぞ。」(同年12月5日,乙50〔37頁〕),④「タイ・中国を指摘されても,社長は『足の一本をもぎ取られた』程度としか思わないだろう。どんなに追い込まれても,自分から辞めようとはしないぞ。悩んでいる表情,素振りは全く見せていない。」(同月7日,乙50〔49頁〕),⑤「(P40)その案も含めて,お前(P40)と話し合い,顧問の判断で動く。」(同月25日,乙25の1〔4頁〕),⑥「俺(P40)自身は覚悟していたが,1月1日付とは思わなかった。これで,俺もエンジンかかったよ。容赦せずにやるよ。・・・P20よ,良いタイミングだ。・・・お前と顧問とやるよ。年末も正月も休みなく書類作ったりするぞ。」(平成24年12月26日,乙25の2〔1頁〕),⑦「これは戦争だ。顧問の指示通り,淡々と『告発状に書いてある通りです』と発言を繰り返すよ。」(平成25年1月7日,乙51〔24頁〕)との記載がある。これらの記載によれば,原告は,P19社長を失脚させたいと考えており,P20を通じたP13への情報提供の目的は,被告の経営陣と対立関係にあったP13がP19社長を含む被告経営陣を失脚に追いつめるための材料を提供することにあり,本件告発状のP13への交付もその一環であったと認めるのが相当である。そうすると,原告が本件告発状をP13に交付した目的についても,正当性を欠くものであったというべきである。
(イ)

この点,原告は,本人尋問において,P20に対して前記(ア)で指摘した
ような発言をした事実を否定しており,原告の陳述書(甲37)にも同旨の記載があるほか,P20は,証人尋問において,上記(ア)で指摘した記載について,その多くがP20自身の発言を記載したものであり,また,原告に対するP13の評価を上げるために実際にはしていない発言を記載した部分もある旨を証言している。しかしながら,前記(ア)の①ないし⑦の各記載があるP20作成の書面は,P13の私設秘書のような役回りをしていた(認定事実(2)ウ)P20が,原告から聞いた内容をP13に報告するために作成したものであり,そのような書面の性質に照らして,P20が故意に虚偽の内容を記載するとは考え難いということができるし,P20において,殊更に虚偽の事実を記載する動機となる事情があったとも認められないから,基本的には,P20が原告から聞いた内容をそのまま記載していたと認めることができるというべきである。これに対し,原告の上記供述や陳述書の記載は,単に発言の事実を否定するにとどまり,原告が実際にはしていない発言が上記書面に記載されている合理的な理由を述べるものではなく,容易に採用することができないものといわざるを得ない。また,原告の本人尋問における供述によれば,原告自身はP13による評価を全然気にしたことがないというのである(原告本人〔尋問調書36頁〕)から,P13にうその報告をしてまで本人が全然気にしていない評価を上げようとしたというP20の上記証言についても,不自然・不合理であって,容易に採用することはできない。

さらに,原告は,被告の内部者ないし内部者に準じて考えることができる立
場にあるP13に本件告発状を交付することは,内部告発の手段として相当なものであった旨を主張する。しかしながら,P13が本件告発状の記載内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性があったこと,原告が当該可能性を認識していたことは,前記認定判断のとおりであり,被告の名誉を毀損する記載を含む本件告発状をP13に交付して第三者への流出のおそれを生じさせることが,内部告発の手段として相当であったということができないのは明らかである。

以上のとおり,原告が本件告発状をP13に交付したことにより,被告の名
誉が毀損されたものであり,原告の行為が正当な内部告発であるということもできないから,原告のP13に対する本件告発状の交付は,被告の名誉を毀損する行為として,就業規則22条1項に違反するというべきである。
(2)

就業規則22条2項違反(秘密漏えい)の点について
本件告発状の記載のうち,別紙4(被告主張の秘密情報)記載の各情報は,
被告又は被告関係会社の予算,売上げ,収支,資金繰り,投融資,事業計画等に関するものであり,被告が法令等により開示を義務づけられていた情報であるとも,既に公になっていた情報であるとも認められず,その性質上,従業員が外部に漏えいすることが予定されていない情報であるということができるから,就業規則22条2項の「業務上知り得た会社の秘密」に該当するものと認められる。イ
しかるところ,原告は,前記(1)イ(イ)のとおり,P13が本件告発状の記
載内容を第三者に流出させる可能性があると認識しつつ,あえてこれをP13に交付したものである。証拠(乙20)によれば,P13と被告との間の顧問契約において,被告は,被告の役員をして,P13に対し,被告グループの経営上の重要事項について報告させなければならず,P13は,顧問として知ることとなる事項を厳に秘密として保持し,被告の事前の同意がある場合を除き,これを第三者に開示又は漏えいしてはならないものとされていたことが認められるから,P13は,被告の秘密に接することができ,被告に対して守秘義務を負う立場にあった。したがって,原告がP13に本件告発状を交付したことが,当然に就業規則22条2項にいう「会社の秘密を他に漏らし」たことになるとはいえない。しかしながら,P13は,被告の経営陣と対立関係にあり,雑誌の取材に応じて被告経営陣を公然と批判してもいて,P13が本件告発状の記載内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性があった(前記(1)イ(ア))ところ,原告は,当該可能性を認識しつつ,あえてP13に本件告発状を交付したものであり,P13が本件告発状の記載内容を取引銀行及び業界新聞の発行会社に流出させたことによって,本件告発状に記載された会社の秘密が外部に漏れることになったのである。このような事実経過を一連のものとしてみれば,原告が「業務上知り得た会社の秘密を他に漏らし」たと評価することができるというべきであり,したがって,原告は,就業規則22条2項に違反したものというべきである。

原告は,原告による本件告発状の作成交付が正当な内部告発行為であった旨
を主張するが,原告が本件告発状を作成し,これをP13に交付した目的が正当性を欠くものであり,原告の行為が内部告発の手段としての相当性も欠くものであることは前記認定判断のとおりであって,就業規則22条2項との関係でも,原告の上記主張を採用することはできない。
(3)

本件降格処分の有効性について
本件告発状には,被告が不適切な会計処理をしている旨の記載のほか,被告
が独占禁止法違反行為を行っている旨の記載や,被告の海外事業においてマネー・ローンダリングの犯罪要件が構成されていった旨の記載があり,被告が法令違反行為や犯罪行為を行い,又はこれらを行うおそれがあるとの印象を読み手に与えるものであるところ,この内容が取引銀行及び業界新聞の発行会社に流出したことにより,現に被告の名誉が毀損されたものである上,本件降格処分の時点において,この内容が業界新聞に掲載されて広く流布することで被告の名誉が著しく毀損される高度の蓋然性が生じていたということができる(なお,本件降格処分の当日,本件告発状の記載内容の一部を掲載したP17が発行されている〔前提事実(3)ウ,(4)エ〕が,上記新聞の発行が本件降格処分の決定より前であったとは認めるに足りないから,本件降格処分の有効性を判断するに当たり,発行の事実それ自体を直接考慮することはできないと解される。)。また,秘密の漏えいの点についても,原告が漏えいすることとなった被告の秘密に属する情報は多岐にわたっていて,これを軽視することはできないというべきである。そうすると,原告が就業規則22条1項及び2項に違反した程度は重いということができるから,原告は,懲戒規程6条2号に該当するものと認められる。また,原告は,被告経営陣の失脚という背信的な目的で本件告発状をP13に交付し,上記のとおり重大な結果を生じさせたものであるから,原告の行為は,会社の秩序を乱すものとして,懲戒規程6条9号にも該当するというべきである。

被告の就業規則において,降格処分は,懲戒処分のうち懲戒解雇及び諭旨解
雇に次いで重い処分である(前提事実(8)イ(ア))から,従業員に対して降格処分をするには,それに見合う程度の重い非行が存在しなければならないと解される。この点,前述のとおり,原告は,P13がP19社長を含む被告経営陣を失脚に追いつめるための材料を提供する一環として,本件告発状をP13に交付し,その結果,現に被告の名誉が毀損されるとともに,業界新聞への掲載によって被告の名誉が著しく毀損される高度の蓋然性が生じ,また,多岐にわたる被告の秘密が外部に流出したものであるから,本件において懲戒事由とされた原告の非行は,その目的において背信性が高く,その結果も重大であって,程度の重い非行というべきである。他方において,本件降格処分は,原告を管理職1級(M1)から管理職2級(M2)に降格させるというものであり,降格によって就くことのできる役職に違いが生じる(前提事実(4)ア)ものの,降格後も原告が管理職であることに変更はなく,降格前に就いていた課長の職に就くことも可能であり,原告が降格に伴って賃金の減額等の具体的な不利益を受けた旨の主張立証もない。以上のような原告の非行の程度と本件降格処分の内容とを比較衡量すれば,本件降格処分が今後の原告の人事考課等における有形無形の不利益を伴うものであろうことを考慮しても,本件降格処分が重すぎて不当であるとは認められないというべきであり,ほかに本件降格処分が懲戒権を濫用したものであると解すべき事情は認められない。(4)

結論

以上によれば,本件では,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が認められ,本件降格処分が懲戒権を濫用したものであるとも認められないから,本件降格処分が無効であるということはできない。したがって,原告が管理職1級の地位にあることの確認を求める原告の請求は理由がないということになる。
4
争点(3)(P2出向命令の有効性)について

(1)

被告は,原告からヒアリングするなどして本件告発状の記載内容について
調査をする必要があったことから,本件配転命令によって原告を総務人事本部人事部付に配置していたものであり(認定事実(5)),本件配転命令をした当時から,ヒアリング等の調査が終了した後に再度原告を配置転換することが予定されていたということができる。その上で,原告は,被告の経営企画部に在籍していた間に業務の遂行上取得した被告の秘密に属する情報を,被告に無断で被告の経営陣と対立関係にあるP13に伝達し(同(2)ウ),また,本件告発状をP13に交付することによって被告の秘密を外部に漏えいさせたのであるから,被告において,原告の再配置先を検討するに当たり,重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも,一定の合理性があるということができる。(2)ア

しかしながら,他方において,P2営業所は,P6から委託を受けた製
品及び資材の保管,入出庫及び運送の業務(本件業務)のみを取り扱っており,しかも本件業務を専ら下請業者に再委託して行っていて,所長が自ら一人で本件業務の受託と再委託に伴う実務を行っているものである(認定事実(7)イ)ところ,原告は,被告に就職してからP2出向命令までの約25年間,物流部門における勤務をほぼ経験することがなかった(同(7)イ)のであるから,業務内容という観点からみたときに,原告をP2営業所に配置することに合理性があったとは認め難い。イ
この点に関し,被告は,P2営業所所長に求められる作業のうち,物流コス
トの削減には新しい視点が必要であり,繁忙期における運送手段の確保についても被告の営業担当者との連携や需要情報の収集・分析等を要する高度な作業であって,原告が有する国内外の関係会社での業務経験や改善計画立案を担当する部署での業務経験を生かせる役職であった旨を主張する。しかしながら,P2営業所は,P6から受託した本件業務しか行わず,これを全て下請業者に再委託していた(認定事実(7)イ)のであるから,P2営業所所長が行うべき事務が主として本件業務の再委託に伴う実務的な作業であったことは明らかであり,被告の主張する物流コストの削減や繁忙期の運送手段の確保といった作業についても,本件業務の再委託という限られた事務の範囲における実務的な作業を通じて実現すべきものであったと解される(P25社長の陳述書〔乙67〕には,物流コストの削減及び運送手段の確保の具体的な手法に関する記載があるが,その内容は,正に本件業務の再委託に伴う実務的な作業を行う中での取り組みというべきものである。)。そうすると,人材育成等の目的による場合を別にして,物流業務の実務に携わった経験の乏しい者をP2営業所所長に配置することに合理性があったとは認められず,被告の上記主張を採用することはできないというべきである。
(3)ア

このように業務内容の点からは原告をP2営業所に配置する合理性を認
め難いことに加え,被告は,約3000名の従業員を擁し,50を超える関係会社を有していた(前提事実(1)ア(ア),(イ))のであるから,重要な機密情報を取り扱わない部署に限定しても,原告の配置転換先となり得る役職がP2営業所所長のほかになかったというのはおよそ考え難いこと,原告の配置転換先の決定に携わった被告人事部のP33部長は,証人尋問において,P2営業所所長以外の配置転換先は全く検討の対象にならなかったことを認める旨の証言をしていること(証人P33・18頁)からすると,被告において,配置転換先の決定に当たり,原告の経験,適性等を踏まえた配置転換先の選定作業が行われてはいなかったことが推認される。

この点に関し,被告は,平成25年1月28日,原告の配置転換先の検討を
開始したところ,同月29日,P6のP25社長から被告の人事部に対し,P2営業所所長への出向人員の変更を検討するよう依頼があり,その際,物流経験はなくても良いので「新しい視点」を持っている者が良いとの要望があったため,「新しい視点」を有する原告が上記要望に合致していると判断し,P2出向命令を発した旨を主張し,証人P33及び同P25もこれに沿う証言をしており,同人らの陳述書(乙63,67)にも同旨の記載がある。

しかしながら,業務内容の観点からみて物流業務の経験に乏しい者をP2営
業所に配置する合理性を認め難いことは前記認定判断のとおりであるから,P25社長が被告の人事部に対し,あえて物流経験がない者への交替を依頼したという経緯は,それ自体として不自然なものといわざるを得ない。この点に関するP25社長の証言及び陳述書(乙67)の記載は,物流業務の改善に当たり,物流経験による先入観がじゃまになると考えた旨を抽象的に述べるにとどまるものであるし,上記「新しい視点」についても,物流経験による先入観がないということ以上に具体的な説明に乏しく,あえて物流業務の未経験者を希望した理由を合理的に説明するものとはいえない。加えて,被告の人事部が原告の配置転換先を検討し始めた日の翌日に,人事部に対して異例というべき内容の人員交替の要請があり,それがたまたま原告の配置先として適切であったというのも,偶然というには余りに不自然であるといわざるを得ない。上記証人らの証言及び陳述書の記載は,これらの事情に照らして容易に採用することができず,ほかに被告主張の事実を認めるに足りる的確な証拠もないから,原告の配置転換先決定の経緯に係る被告主張の上記事実関係を認めるには足りないというべきである。
(4)

加えて,P2営業所所長は,前述のとおり,部下を持たず,P6の製品及び資材の保管,入出庫及び運送業務(本件業務)を下請業者に委託するのに伴う実務的な作業を一人で担当しており,証拠(乙42)によれば,その席は,P6の事務所内において,生産計画,購買,製品・物流等を所管する同社業務課の従業員らとともに島型に配置された机の一つであることが認められ,当該座席の位置は,社会通念や他の課の座席配置に照らし,同課の課長及び係長より下位で,役職のない従業員と同格と解釈することができるものであった。また,証拠(甲9,乙42)によれば,P6では各課に直通番号のある固定電話機があり,2課に1台のファクシミリがあったが,P2営業所固有の固定電話機やファクシミリはなく,所長に携帯電話機が与えられていただけであったことが認められる。これらの事情に照らすと,P2営業所所長は,所長という肩書ではあるものの,実質的には,P6の業務課に所属する物流業務の一担当者にすぎない役職であったと評価せざるを得ず,関係会社の取締役総務部長を歴任した(前提事実(1)イ)原告の配置転換先としては,原告が本件降格処分を受けたことを考慮しても,余りに不相応であったというべきである。
(5)

以上によれば,被告において,原告を重要な機密情報を取り扱わない部署
に再配置する必要があったことは認められるものの,P2営業所所長という役職は,業務内容の観点からみて原告の配置転換先としての合理性を欠くといわざるを得ないものであった。また,原告の配置転換先が決定された経緯に関する被告主張の事実関係を認めることができないため,配置転換先決定の過程は明らかでないものの,被告において,配置転換先の決定に当たり,原告の経験,適性等を踏まえた配置転換先の選定作業が行われてはいなかったものと推認される。加えて,P2営業所所長という役職は,実質的にはP6業務課の物流業務の一担当者にすぎず,関係会社の取締役総務部長を歴任した原告の配置転換先として余りに不相応なものであった。これらの事情に,P2出向命令が,本件降格処分を告知した直後にその場で発せられたものであり(認定事実(7)ア),被告において,懲戒処分の検討と平行して原告の配置転換先の検討が進められたと考えられることをも併せ考慮すれば,被告は,懲戒事由に該当する非行をした原告の処遇として,本件降格処分とP2出向命令とを併せて決定したものであり,実質的に原告を懲戒する趣旨でP2出向命令を発したとの評価を免れないというべきである。そうすると,P2出向命令は,その動機・目的が不当なものであるといわざるを得ないことになるから,出向命令権を濫用したものとして,無効であるというべきである(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。
(6)

以上によれば,原告がP2営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないこ
との確認を求める原告の請求は理由があるということになる。
5
(1)

争点(4)(本件懲戒解雇の有効性)について
前記4において認定判断したとおり,P2出向命令は,出向命令権を濫用
したものとして,無効である。そうすると,原告がP2出向命令に従わなかったことをもって,原告が懲戒規程7条14号の「配置転換,転勤,出向などを拒否したとき」に該当するということはできないから,本件懲戒解雇は,就業規則所定の懲戒事由を欠き,その効力を生じないというべきである。
(2)

したがって,原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあること
の確認を求める原告の請求は理由があるということになる。
6
争点(5)(原告の被告に対する賃金請求権及び賞与請求権の有無並びにその
金額)について
(1)

平成25年2月分の賃金について

前記認定判断のとおり,P2出向命令は無効であり,原告は,P2出向命令の効力発生日とされた平成25年2月5日以降,被告の責めに帰すべき事由によって就労義務の履行をすることができなかったということができるから,この間の賃金債権を失わないというべきである(民法536条2項本文)。しかるところ,平成25年1月当時,原告の賃金は1か月51万8200円であり(前提事実(4)イ),その後にこれが変更になった旨の主張立証はなく,原告の平成25年2月分以降の賃金は51万8200円であると認められるから,被告は,原告に対し,既払いの15万7359円を控除した36万0841円の支払義務を負う。(2)

平成25年4月分以降の月例賃金について
前記認定判断のとおり,本件懲戒解雇は無効であり,原告は,平成25年4
月以降,被告の責めに帰すべき事由によって就労義務の履行をすることができなかったものであるから,この間,被告に対し,1か月51万8200円の賃金債権を有することになる。

被告は,原告が他の会社の役員に就任していることから,被告において就労
する意思を完全に放棄している旨を主張する。しかしながら,原告は,平成25年3月19日,被告に対して労働契約上の地位の確認と解雇期間中の賃金の支払等を求める本件訴訟を提起した後(顕著な事実),平成26年8月1日になって,本件訴訟を維持したまま,他の会社に就職し,その後役員に就任したものであり,他の会社からの収入は,上記賃金の6割程度にとどまる(前提事実(7))というのである。かかる事実関係に照らせば,原告が他の会社に就職し,その後当該会社の役員に就任したことをもって,直ちに,原告が被告において就労する意思を完全に放棄したと認めることはできないというべきであり,ほかに原告が被告において就労する意思を放棄したと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。

もっとも,原告は,別紙2(収入一覧表)記載のとおり,平成26年8月か
ら平成27年9月までの期間を対象として,P22株式会社及びP23株式会社から賃金及び役員報酬を受領しているところ(前提事実(7)),被告の原告に対する解雇期間中の賃金債務のうち平均賃金額の6割を超える部分については,当該賃金の支給対象期間に対応する期間の収入額が控除されるものと解される(最高裁昭和37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁,最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決・裁判集民事150号527頁参照)。原告の平均賃金額は,解雇期間中の賃金債務の額と同じ1か月51万8200円であると解されるから,その6割を超える部分の金額は20万7280円であるところ,原告の収入額は,平成26年8月分が20万円であり,その余の期間については各月とも20万7280円を上回っている。そうすると,原告が上記収入を得た期間中の原告の被告に対する賃金請求は,平成26年8月分については51万8200円から20万円を控除した31万8200円の限度で,その余の各月については51万8200円から20万7280円を控除した31万0920円の限度で認めるのが相当である。

以上によれば,原告の被告に対する賃金請求権の額は,平成25年4月分か
ら平成26年7月分までが1か月51万8200円,同年8月分が31万8200円,同年9月から平成27年9月分までが1か月31万0920円,平成27年10月以降の分が1か月51万8200円ということになる。
(3)

賞与について
原告は,原告が被告から賞与として平成24年7月10日及び同年12月1
0日にそれぞれ108万2000円の支払を受けたとして,平成25年以降も同額の賞与の支払を求めている。しかしながら,単に平成24年に賞与が支払われたというだけでは,平成25年以降の賞与請求権を基礎付けるには不十分であり,ほかに原告の被告に対する平成25年以降の賞与請求権を根拠付けるに足りる事実の主張はないから,この点に関する原告の主張は,それ自体失当であるといわざるを得ない。

なお,証拠(乙2)によれば,就業規則57条は,「会社は,賞与を支給す
ることがある。」と定めており,これによれば,賞与を支給するか否かが被告の裁量に委ねられていることがうかがわれるところ,そうであるならば,実体的にも,原告が被告に対して当然に平成25年以降の賞与請求権を有するとはいえないことになる。

以上によれば,原告の被告に対する賞与の支払請求は理由がない。
7
争点(6)(不法行為の成否,損害の有無及びその金額)について
(1)

原告は,被告による①本件プレスリリースの発出,②P7出向命令,③本件配転命令,④懲戒委員会において原告を難詰したこと,⑤本件降格処分,⑥P2出向命令,⑦本件懲戒解雇が,一連のものとして原告に対する不法行為を構成する旨を主張するので,以下,順次検討する。
(2)ア

原告は,①本件プレスリリースについて,「告発された内容の大半が告
発者の単なる私見,あるいは憶測による事実の裏付けのないものであることが確認されております。」との記載が原告の名誉を毀損する旨を主張する。そして,上記記載は,原告が単なる私見や憶測によって裏付けのない告発をした旨の事実を摘示するものであり,原告の名誉を毀損するものであることは否定できない。イ
しかしながら,本件告発状の記載のうち,別紙3(被告主張の虚偽記載)記
載の各記述について,客観的な裏付けを欠いており,原告の陳述書等のほかに証拠が乏しいこと,原告が陳述書及び本人尋問において供述するところによっても,多くの記述が被告従業員から聞いたという伝聞であり,自ら確認をしていないものであることは,前記3(1)オにおいて説示したとおりであり,また,証拠(乙39)によれば,原告は,本件告発状の記載内容について,平成25年1月8日のヒアリングにおいて,複数の記述が原告の「私見」である旨を述べていたことが認められ,これらの事情に照らせば,本件プレスリリースの記載内容は,大筋において真実であると認めることができる。

そして,本件プレスリリースのうち原告の指摘する上記記載は,その株式を
P3市場第一部に上場している被告及びその関係会社において不適切な会計処理等が行われている旨の本件告発状の真偽に関するものであり,公共の利害に関する事実であると認められる。また,本件プレスリリースの体裁に照らすと,被告は,P14によるプレスリリースにおいて本件告発状に関する報道があったこと等が指摘されたことを受けて,本件告発状が裏付けのないものであること等の事実を明らかにすることにより投資家等の利害関係者に正しい情報を提供する目的で,本件プレスリリースを発出したと認めることができる。そうすると,本件プレスリリースの発出は,公共の利害に係る事実について公益を図る目的で行われたものであり,原告の指摘する上記記載については,摘示された事実が真実であることの証明があったということができるから,違法性を欠くというべきである(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。

また,P14による上記プレスリリースは,被告のガバナンス及びコンプラ
イアンスに大きな懸念があるという内容であり(前提事実(6)ア),被告がこれに応答しなければ,そのこと自体によって被告の名誉や信用が害されるおそれがあったということができる。本件プレスリリースは,このような状況において,P14が要請する特別調査委員会の設置は必要がない旨の被告の見解を明らかにする趣旨で発出されたものであり,本件プレスリリース発出の目的には,前述のとおり利害関係者に正しい情報を提供することのほかに,被告の名誉や信用の毀損を防ぐことも含まれていたと解することができる。その上で,原告の指摘する上記記載は,委員会設置の必要がない理由の一つとして,本件告発状の記載内容が裏付けを欠くものであるという事実を明らかにしたにとどまるものであり,その内容が本件プレスリリース発出の目的に照らして相当と認められる範囲を逸脱するものともいえない。以上のような本件プレスリリース発出の経緯,目的及び内容に照らしても,本件プレスリリースの発出は,違法性を欠くというべきである。

したがって,①本件プレスリリースの発出が原告に対する不法行為を構成す
ると認めることはできない。
(3)ア

次いで,②P7出向命令について検討すると,被告は,取引銀行からの
指摘を受けて,原告が業務上知った被告の内部情報をP13に提供し,P13がこれを取引銀行に提供した可能性が高いと判断し,経営企画部が取り扱う情報の重要性に鑑み,原告を経営企画部に置いておくことはできないものと考えて,P7出向命令を発したものであった(認定事実(4))。このことに,原告が実際にも業務上知った被告の秘密に属する情報をP13に提供していたこと(同(2)ウ)を併せ考慮すれば,原告に対して経営企画部からの異動を命じる業務上の必要性を肯定することができるというべきである。そして,原告が総務部門の経験を有する管理職であり,出向先のP7の取締役総務部長職が管理職の就く役職であったこと(同(4)イ)を踏まえると,P7出向命令は,P2出向命令とは異なり,原告の配置先としての合理性を有しており,不当な動機・目的に基づくものであったとは認められないし,原告がP7への出向によって著しい不利益を負うと解すべき事情も認められない。そうすると,P7出向命令が人事権を濫用したものとは認められず,これが原告に対する不法行為を構成するということもできないことになる。イ
これに対し,原告は,P7出向命令について,被告の不正不当な経営方針に
批判的であった原告を本社から排除する目的でされた報復的ないし追放的な人事措置である旨を主張する。しかしながら,そもそも被告の経営方針が不正不当なものであったことを認めるに足りる的確な証拠はない上,現に,原告が業務上知った被告の秘密に属する情報がP13を通じて取引銀行に流出していたのであるから,被告において,原告を経営企画部から異動させる必要があると判断したことが不当であるということもできない。この点に関する原告の主張を採用することはできないというべきである。

また,原告は,P7出向命令が異例の降格人事であったとも主張する。しか
しながら,証拠(乙33,34,40,63,証人P33)及び弁論の全趣旨によれば,P7の総務部長職は,管理職(M1~M4)の者の出向先とされており,原告と同じ管理職1級(M1)の者が同職に就いていたこともあったと認められるし,P2出向命令における出向先のP2営業所所長とは異なり,P7の総務部長職が原告の配置先として不相応であったと解すべき事情も認められない。そうすると,P7出向命令が異例の降格人事であったと評価することはできないというべきである。エ
以上によれば,②P7出向命令が原告に対する不法行為を構成するとは認め
られない。
(4)

③本件配転命令及び⑤本件降格処分については,前記認定判断のとおり,
権利の濫用として無効であるとは認められないから,これらが原告に対する不法行為を構成するということもできない。
(5)

④懲戒委員会において原告を難詰したことについては,原告において,不
法行為に該当する具体的な発言を特定して主張しているものではない上,本件全証拠(とりわけ,懲戒委員会における質疑の録音反訳に係る甲25の4ないし甲25の6及び乙38)によっても,懲戒委員会において,原告に対し,社会的相当性を逸脱する不当な内容や態様の発言がされたとは認められず,懲戒委員会におけるやり取りが原告に対する不法行為を構成すると認めることはできない。(6)ア

⑤P2出向命令については,前述のとおり,権利の濫用として無効であ
り,⑥本件懲戒解雇については,前述のとおり,懲戒事由を欠くものとして無効である。

もっとも,出向命令権や懲戒権の行使が無効であることから直ちに不法行為
が成立するものではなく,別途,不法行為の成立要件を充足するか否かを検討すべきであるところ,⑤P2出向命令は,実質的に懲戒の趣旨で配置転換先を決定したと評価される点において不当というべきものであったが,他方において,その当時,原告を暫定的な配置先であった総務人事本部人事部付から配置転換する必要があったことまで否定されるものではなく,その際,原告が被告の秘密に属する情報を漏らしていたことに照らし,重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも合理性が認められること,原告は懲戒事由に該当する程度の重い非行をしていたのであり,懲戒事由がない者に対して懲戒の趣旨で配置転換をした場合とは異なること,原告はP2出向命令に従っておらず,出向に伴う事実上の不利益を実際に受けたわけではないことに鑑みれば,被告が⑤P2出向命令を発出し,これに従わなかったことを理由として⑥本件懲戒解雇をしたことが,社会的相当性を逸脱し,不法行為法上違法であるとまでいうことはできないというべきである。

また,本件懲戒解雇は無効であり,原告は被告に対して解雇期間中の賃金請
求権を有しているのであって,原告が賃金の支払を受けてもなお回復し難い精神的苦痛を被ったとまで認めることも困難である。
(7)

以上によれば,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由
がないということになる。
第4

結論

以上によれば,原告の請求は,主文の限度で理由があり,その余は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部

裁判官

鷹野旭
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