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損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件(原審 大阪地方裁判所平成24年(ワ)第8227号〔第1事件〕、平成25年(ワ)第3192号〔第2事件〕)
事件番号平成27(ネ)1608等
事件名損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件(原審 大阪地方裁判所平成24年(ワ)第8227号〔第1事件〕,平成25年(ワ)第3192号〔第2事件〕)
裁判年月日平成28年3月25日
法廷名大阪高等裁判所
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平成28年3月25日判決言渡
平成27年(ネ)第1608号,同年(ネ)第2427号

損害賠償請求控訴,同附帯

控訴事件
主1文
控訴人の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)

控訴人は,被控訴人らに対し,それぞれ5000円及びこれに対

する平成24年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)

被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

2
被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを60分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。

4
この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
控訴及び附帯控訴の趣旨
控訴の趣旨
(1)
(2)

2
原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
上記部分につき,被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

附帯控訴の趣旨
(1)

原判決中,被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(2)

控訴人は,被控訴人らに対し,それぞれ32万4000円及びこれに対
する平成24年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

1
事案の骨子
(1)

争いがない又は当裁判所に顕著な事実控訴人のP1前市長(以下「市長」又は「P1前市長」ともいう。)は,P2特別顧問を代表とする調査チーム(以下「本件調査チーム」という。)に
委託して控訴人の職員に対し,
アンケート
(以下
「本件アンケート」
という。

を実施した。
被控訴人らは,控訴人の職員又は本件アンケート当時職員であった者である。
(2)

本件事案
本件は,被控訴人らが,本件アンケートは,被控訴人らの思想・良心の自
由,政治活動の自由,労働基本権,プライバシー権又は人格権を侵害するなど違憲・違法なものであるから,市長が,被控訴人らに対し,業務命令をもって本件アンケートに回答することを命じた
(以下
「本件業務命令」
という。

ことは,国家賠償法上違法であるとして,控訴人に対し,同法1条1項に基づき,被控訴人らに生じた精神的損害に対する賠償金及びこれに対する違法行為の日である平成24年2月16日(本件アンケートの実施最終日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(3)

原判決並びに本件控訴及び本件附帯控訴
原審が,被控訴人ら各自につき6000円及びこれに対する上記遅延損害
金の支払を求める限度で被控訴人らの請求を認容する原判決を言い渡したため,控訴人が控訴し,被控訴人らが附帯控訴した。
(4)

市長の交代
P3は,前記P1前市長の後任市長として,当審口頭弁論終結後である平
成27年12月19日,控訴人の代表者に就任した。
2
前提事実等
前提事実,
争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3で原判決を補正し,同4で当審における控訴人の主張,同5で当審における被控訴人らの主張を各付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第2の1ないし3(2頁6行目から23頁23行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。3
原判決の補正
(1)


2頁13行目から同15行目までの部分を次のとおり改める。
控訴人は,地方公共団体であり,本件アンケート当時の市長は,平成23年12月19日に就任したP1前市長であったが,同市長は,当審口頭弁論終結後の平成27年12月18日,
任期満了により退任し,
P3が,
同月19日,新たな市長に就任した(以下,単に「市長」というときは,P1前市長を指す。)。」

(2)

10頁24行目及び25行目の各「実行」をいずれも「実効」と改める。
(3)

原判決別紙2主張整理表(16頁21・22行目,17頁23・24行
目,20頁6・7行目,98ないし112頁)について

番号1ないし5の被控訴人らの「必要性・相当性」欄(98頁)末行の「可能性もある」を「可能性もあり,」と改める。


番号6の控訴人の「労働基本権の侵害」欄(99頁)29行目の「勤務時間外」を「勤務時間内」と改める。


番号9の控訴人の「政治活動の自由の侵害」欄(102頁)28行目を削る。


番号13の控訴人の「必要性・相当性」欄(106頁)3行目の「その必要性ついて」を「その必要性について」と改める。


番号16の被控訴人らの「思想良心の自由の侵害」欄(108頁)3・4行目の「(憲法19条)反する」を「(憲法19条)に反する」と改める。


番号19の控訴人の「人格権の侵害」欄(110頁)初行末尾に続けて「ない。」を加え,同番号の被控訴人らの「必要性・相当性」欄(同頁)2行目の「労働組合に寄る」を「労働組合による」,同4行目の「足りる」を「足りる。」,同5行目の「内部こ」を「内部告発につき」,同6・7行目の「調査目的をに対する必要性がない。」を「調査の必要性がない。」と各改める。

番号20の控訴人の「人格権の侵害」欄(111頁)初行末尾に続けて「ない。」を加える。

(4)

17頁13行目の「保険衛生検査所」を「保健衛生検査所」と改める。
(5)

23頁21行目の「平成23年4月6日」を「平成24年4月6日」と
改める。
4
当審における控訴人の主張
(1)

本件アンケート調査の目的
控訴人においては,平成24年1月,大阪市における違法行為等に関する
第三者調査を行う本件調査チームが設けられたが,本件アンケート調査は,上記調査の一環であり,その目的は,単なる労働組合「適正化」にあるわけではない。究極の目的は,大阪市政の健全な運営,ひいては大阪市民の生活に資する行政の確立にある。
控訴人は,本件アンケートの内容には一切関与しておらず,これを作成した本件調査チームのP2特別顧問が,市長の意向を反映させようとした事情もない。
(2)

本件アンケート調査の必要性
単なる「労働組合『適正化』政策」の一環ではないこと
市長は,成長戦略,産業振興,都市計画等様々な改革の実現,さらには子育て支援や教育,保健医療,福祉等の市民サービスの拡充等大きな枠組みの中で公約を掲げていた。そこには公務員改革も含まれるが,労働組合に関することは,ほんの一部であり,労働組合「適正化」政策などと呼べるものはない。


大阪市における労使問題の深刻さ,重大性当時の大阪市では,
以下のような深刻な問題があり,
労働組合
「適正化」
の要求が存在したというべきであるから,本件アンケート調査の必要が認められる。
(ア)

労使癒着の深刻さ
大阪市における労使関係の問題は,P4市長(以下「P4元市長」と
いう。
)当時の平成16年頃から発覚し,改善されたとの報告があったにもかかわらず,平成23年頃から,以前と全く同様の問題が生じた。このことは,この問題が安易な手法では容易に改善,解決しないことを物語っている。
(イ)

昇任・昇格差別問題,交通局嘱託職員転籍問題
大阪市においては,職員の不公正人事の問題があり,昇任・昇格差別
については,被控訴人らとは立場を異にする少数組合であるP5労働組合(以下「P5」という。
)から,かつて訴訟提起されるなど,泥沼状態
になっていた。
また,大阪市交通局においても,15年以上前から労使癒着の問題が露呈し,少数組合から労働委員会に対する申立てが行われる等,紛争が係属していた。
(ウ)

職員厚遇問題に関するP4改革とその失敗
大阪市では,平成16年から17年にかけて,市職員が適切な許可を
受けずに勤務時間内に組合活動を行う「ヤミ専従」問題等,様々な職員厚遇問題が発覚した。大阪市では,平成17年8月9日,管理職,組合役員,組合員ら合計254名に懲戒処分を行った上で制度改革を実施した。
ところが,それにもかかわらず,平成19年には,公金や公金外現金から不正に金員を捻出し,いったんプールした後,通常の決裁手続を経ずに支出するための資金として保管するという不適正資金問題,平成20年には,年次有給休暇を取得中の区役所の職員が,職員団体に対する便宜供与の対象外である区役所の会議室内の電話機から,組合活動の一環として市会議員に宛てて53通,9万3555円分の電報を打ったという事案,平成23年には,本来取得日数の上限が年間30日となっている無給の職務免除について,上限を大きく超えて取得した職員がいたという事案などが発覚した。さらに,平成19年から平成23年までの間には違法薬物11件,傷害・暴行等29件,窃盗32件等の重大事犯に関する処分案件も頻発する事態であった。
(エ)

本件調査チームによる実態調査の前提となった事実
P6の職員が,平成▲年▲月▲日,女性の背中を包丁で刺すという殺
人未遂の被疑事実で逮捕された。また,平成23年12月26日に開催された市会交通水道委員会において,市会議員から,市バスの営業所に勤務するP7労働組合(以下「P7」という。
)の役員が,通常の乗務ダ
イヤではなく,営業所車両出入口の安全対策業務等に従事することとして非乗務日を作り出し,当該非乗務日の勤務時間内に,市長選の報告集会に参加する目的で職場を離れたことが問題となった。
(オ)

本件目安箱の投書内容
平成23年12月のP1前市長当選後設置されていた目安箱
(以下
「本

件目安箱」という。
)には,労使に関する深刻な問題が多数投書されてい
た。その内容は,更迭された職員の妻を抜擢したり,自分の都合の良い人事を行い,仲良しグループを形成している,組合役員や組合と仲の良い職員は逆に昇任している,P8支部を除いて,ほとんどの支部や班の役員が主任に昇任している,組合が係員クラスの人事異動に介入している,係員の異動については,総務課長が組合の支部長の同意を得なければ異動ができないなどのようなものであった。
(カ)

本件調査チームによる実態調査で解明された事実本件調査チームは,平成24年4月2日,調査報告書(乙3。以下「本件調査報告書」という。
)を完成させたが,そこで解明された事実によっ
ても,本件アンケートの必要性が認められる。
(キ)

懲戒処分が一向に減少しないこと
控訴人は,本件調査報告書を受け,服務規律刷新プロジェクトチーム
を立ち上げ,様々な対応を実施した。ところが,平成24年から今日まで,職員の懲戒処分の件数は,一向に減少せず不祥事が絶えない。このことは,問題の深刻さを裏付けている。
(ク)

専門家からも労使「癒着」の構造が指摘されていること
大阪市に労使「癒着」の構造が存在することは,労働組合に対して好
意的な立場を取る研究者ですら,公に認めている。
このように,大阪市については,以前から続く労使癒着の構造を解消することにより,職場に自信と活気が戻り,真に健全な労使関係が構築されて,大阪市民の利益に資することが必要であった。このような事情からも,本件アンケート調査の必要性が裏付けられる。
(3)

本件アンケート調査の手法の相当性
はじめに
控訴人は,本件アンケート調査の内容について,何ら関与していない。控訴人が関与したのは,いずれも平成24年2月9日付けの市長から各職員宛ての「アンケート調査について」と題する文書(甲1の2。以下「職員宛て市長メッセージ」という。,及び市長から各所属長宛ての「アンケ)
ート調査の実施について」と題する文書(乙61。以下「所属長宛て市長メッセージ」
といい,
職員宛て市長メッセージと併せて
「市長メッセージ」
という。
)である。
そして,本件アンケートの内容にも,市長メッセージにも,細心の注意が払われている。イ

市長メッセージ
(ア)

表現の適切性
職員宛て市長メッセージは,冒頭で本件アンケート調査の趣旨・目的
を明記し,その主体が,P2特別顧問であることも明確にしている。また,職員宛て市長メッセージは,本件アンケート調査への回答を業務命令とすることと相まって,真実を記載することで人事上の不利益を受けることはないこと等を繰り返し記載し,職員に対する威嚇力や強制性,萎縮効果等を配慮するとともに,回答する側の心理的不安をできる限り軽減除去するよう配慮した体裁となっている。
以上によれば,職員宛て市長メッセージに対しては,市長等による懲戒処分の判断があり得るとか,組合活動への参加を萎縮させる効果を有するものであるとかという評価はできない。
(イ)

業務命令としたこと
第三者調査は,中立性・独立性が求められるところ,委託した控訴人
も,受託したP2特別顧問も,第三者調査であることを十分認識していた。したがって,少なくとも,控訴人に対し,本件アンケートの内容について「細心の注意」が求められていることは,想定されていなかったのであるから,純粋に,職員宛て市長メッセージ等自体が手法として相当かどうかを判断すべきである。
(ウ)

実施の必要性
上記(2)のように,
深刻な労使癒着と不祥事がはびこる大阪市において,

アンケートを実施するに当たっては,職員らに心理的抑制を一定限度甘受する義務が全くないというべきか,どの点を超えれば権利侵害といえるのかという点に対する評価が極めて重要である。民間企業であれば,社内の不祥事は,会社全体の存立基盤を揺るがす一大事であり,会社を挙げて原因の撲滅と再発防止に注力することが一般である。以上に照らせば,本件アンケートにつき,実施の必要性があったことは明らかである。
(4)

本件アンケートの個々の設問内容
思想・良心の自由の侵害について
(ア)

Q7ないし9は,いずれも何ら思想内容が明らかになるものとはい
えないから,およそ思想・良心の自由を侵害するとはいえない。
例えば,Q7では,勤務時間内におけるP9元市長陣営の推薦者紹介カード(以下「紹介カード」という。
)の配布,同元市長の街頭演説への
動員やヤミ便宜供与等の存在が判明しており,違法ないし不適切な政治活動の有無又はそれに関する調査の端緒となる現象の有無を確認する必要があったところ,具体的な政治家の氏名や応援活動に誘った人の名前については,回答を強制しない等の配慮をしている。また,Q9では,紹介カードの配布が問題となっており,詳細な確認の必要があったところ,カードを配布した人や配布を依頼した人等については回答を強制しない等の配慮をしている。

プライバシー権侵害について
(ア)

職場におけるプライバシー権は,
その業務上の必要性との関係では,

相当程度制約されることが許容されている。
そして,
当時の大阪市には,
大阪市職員のプライバシー権の保障を上回る要請が存在していた。したがって,
職員は,
平時とは異なり,
一定程度のプライバシー権の制約は,
甘受されてしかるべき状況であった。
(イ)

当時,大阪市においては,労使の癒着状況,その背景として,選挙
における労働組合による支援とその見返りとしての「隠密の約束」と表現される状態があったこと,本件目安箱への投書でもこれに沿う指摘が多数されていること,内部告発者による告発についても,これに沿う内容が確認されていること等の事情が存した。このことに加え,具体的な政治家の氏名や応援活動に誘った人の名前については回答を強制しない等の配慮をしていることからすれば,Q7ないし9は,時間帯及び場所を限定しなくても,必要な限度を超えて過度に広範な回答を義務付けるものであったとはいえない。
(ウ)

本件アンケート調査主体である本件調査チームは,国又は公共団体
ではなく,職員にとって使用者でもないから,本件アンケートにより,職員の憲法又は労働組合法上の権利が直接侵害されることはない。(エ)

本件アンケートは,
最終的には開封されることなく処分されたから,

プライバシー権侵害は生じていない。
(オ)

職員が本件アンケートの設問に回答したからといって,直ちにセン
シティブな情報(思想・信条,精神・身体に関する基本情報,重大な社会的差別の原因となる情報)を強制的に取得するともいえないし,そもそもこうした情報が,他人に知られることで私生活上の平穏を害するような情報であるともいえない。

労働基本権侵害について
(ア)

Q6について


上記イ(イ)及び(ウ)のとおり。


本件アンケートは,市長による労働組合「適正化」政策の一部を構成するものではない。


大阪市において,職員の大多数が組合に加入していることは公知の事実であったから,必要な限度を超えて過度に広範な事項を調査するものではない。

(イ)

Q16について


上記イ(ウ)のとおり。


上記(ア)cのとおり。

(ウ)

Q21についてa

組合費の使途に不明朗な点があったことは,本件目安箱への投書や内部告発者からのヒアリングによって,現に指摘されており,実際,本件アンケート後にも,組合費の横領事件が少なくとも2件発覚している。控訴人は,仮に,組合費の不当使用があれば,職場規律を保つために事実を確認する必要があるし,当時,一部組合との関係では,組合費のチェック・オフを実施していたから,組合費の使途は,控訴人にとっても,全く関わりのない事項ではなかった。


前記(ア)bのとおり。


上記イ(ウ)のとおり。

(エ)

被控訴人らの主張について
労働組合の結成・加入,非組合員・他組合員への拡大活動を侵害したとの主張
本件アンケートの設問の内容からは,何ら団結権侵害の要素を見出せない。むしろ,被控訴人らの上記主張は,その直前の市長の言動等に多大な影響を受けていると評価せざるを得ない。すなわち,仮に,被控訴人らが,市長の労働組合に対する敵視政策の一環であるとして萎縮したというのであれば,それは誤解であって,その責任を控訴人に負わせることは相当ではない。


使用者の介入により組合運営の権利を侵害したとの主張
内部告発者からのヒアリングや本件目安箱への投書等によって,組合幹部に対する人事面での優遇や,組合による人事介入が行われていることなどの具体的な指摘がされていたから,各設問には,それぞれ質問をせざるを得ない根拠があった。これらの設問が団結権侵害を構成するというのであれば,結局,労働組合に不当な印象を与えかねない言動は,全て違法であるということになり,組合に批判的な言動自体を問題にすることと同視され得る。c

その他組合活動の権利を侵害したとの主張
特定の政治家を応援する活動に参加するよう要請されたり,特定の政治家に投票するよう要請されたりしたことがあると回答したとしても,懲戒処分の対象にはならないことは,本件アンケートの設問の内容から容易に想定できた。特定の政治家への応援活動や投票を要請した人の名前を密告することへの抵抗感,心理的葛藤が存在することは理解できるが,それは,直ちに政治活動の自由を侵害することを意味しない。
控訴人は,上記bのような具体的な指摘がされていたことから,これらに関連する質問をしたが,その目的は,あくまでも控訴人における違法ないし不適切な政治活動の有無や,違法な政治活動等があったとすれば,その原因がどこにあったのかといった点を確認することにあった。そもそも,違法な政治活動等が許容されないということは,法律上の要請であって,市長の関係者であっても,P9元市長の関係者であっても違いはない。


人格権侵害について
本件アンケートは,一般論としては回答しにくいという感覚は理解できなくもない。
しかしながら,
そうであるからこそ,
本件アンケート調査は,
第三者である本件調査チームによって実施され,控訴人は,P2特別顧問の下でアンケート調査を実施する,職員の記載した内容は,P2特別顧問が個別に指名した特別チームだけが見るなどと繰り返し注意喚起していた。したがって,控訴人が全てを把握することを前提として,萎縮的効果が大きいと評価することは失当である。
また,控訴人では,様々な問題が発覚し,市民からの信頼が揺らいでおり,本件アンケートは,労使が一致団結して乗り越えるべき有事に第三者の力を借りて自浄しようとしている状況下で行われたものであった。(5)ア
控訴人の過失(市長の注意義務違反)
信頼の原則について
本件アンケート調査は,控訴人が第三者委員会である本件調査チームに委託したものである。第三者委員会は,独立性,中立性を有するもので,委託者すら調査の対象となるのであるから,その内容を確認することはできない。したがって,委託者たる控訴人が責任を負うとすれば,それは,委託した第三者が違法な調査を実施する蓋然性が高かったり,違法調査の兆候が見えたりするなど,違法な権利侵害が生じ得ることを予見させる何らかの具体的事実がある場合に限るというべきである。
ところが,本件では上記具体的事実があるとは認められないから,控訴人は,信頼の原則に基づき,何らの注意義務違反はない。


結果回避可能性の不存在について
上記アのとおり,市長は,本件アンケートの内容を事前に確認したり,その内容を修正,変更するための措置をとることは,全く予定されていなかったから,抽象的に控訴人に過失があると認定することは,結果責任を負わせることに等しい。
また,控訴人が独立性,中立性を有する第三者委員会の調査内容を事前に確認できるのであれば,使用者による恣意的な介入が避けられないことになるから,調査の正当性を担保できない。
したがって,控訴人には,結果回避可能性が存在しないから,何らの注意義務違反はない。


小括
上記ア及びイのとおり,控訴人が,委託者として,第三者委員会の調査内容である本件アンケートの内容を事前に確認しておくべきであったという注意義務違反を認めるのであれば,責任を免れるため,第三者委員会の調査内容に関与せざるを得ないが,それは相当ではない。本件では,現実の重大な不祥事を前にして,まさに,その「膿」を出し切るために行われる不祥事調査であるから,権利侵害防止の要請が,不祥事再発防止の要請にどれだけ優先するのか,その点の利益衡量が慎重に検討されるべきである。そうすると,当該第三者委員会が明らかに不当,違法な調査を行う予見可能性がある場合にのみ,その予見義務違反あるいは結果回避義務違反が認められる余地があると考えるべきである。そして,本件では,そのような余地はない。
したがって,控訴人には,上記各義務違反は認められない。
(6)

損害
本件アンケートの実施を決定し,項目を作成し,実際に実行したのは,P2特別顧問であるから,控訴人の責任を肯定するために何を注意義務違反と見るのか,その注意義務違反との間に相当因果関係がある損害とは何かが,問題とされなければならない。
また,被控訴人らが主張する精神的損害は,全て当時の市長の言動や行為と関連させて主張されているものであり,本件調査チームによる実態調査がされた経緯や本件アンケート調査がされた経緯を勘案すれば,それらの損害なるものまで,本件における損害として認定することは適切ではない。


市長の下では,労働組合に対する数々の新たな対策が打ち出されていたが,それらによる心理的圧迫を,本件アンケート調査による精神的苦痛と結び付けて主張することは誤りである。
個別の設問に対する威嚇的効果は,
労働組合が,長きにわたって不適切な厚遇を享受した結果,様々な問題が噴出してきた最中で感じた圧迫感という文脈で理解すべきである。そして,
被控訴人ら少数組合員としても,上記のような大阪市の当時の状況を十分に知っていたはずである。

5
当審における被控訴人らの主張(1)

本件アンケート調査の目的
市長による労働組合の適正化と本件アンケートの実施
本件アンケートは,地方公共団体の長が,労働組合やこれに所属する職員を対立する勢力と見なして地方公共団体から排除し,打撃を与えて,自らの実行する政策の実現に異を唱える意気を阻喪させるところにまで追い込むことを狙った,過去に例を見ない人権侵害である。
本件アンケートは,労働組合を弱体化させ,組合活動を萎縮させるだけでなく,職員個人の人格的自律と尊厳を奪い,精神的に隷属させてものを言えない職員を作り出し,市長の意のままになる上意下達の職場を作り出すことを目的としていた。


本件調査チームの独立性・中立性
(ア)

本件アンケートの実施主体
大阪市総務局長(以下「総務局長」という。
)作成名義の「労使関係

に関する職員のアンケート調査について(依頼)
」と題する文書(平成
24年2月9日付け総務人第439-1号。甲1の1)では,総務局長から各所属長に宛て,大阪市長(総務局人事課担当)作成の「労使関係に関する職員アンケート調査について(依頼)
」と題する文書(同日付
け総務人第439-2号。甲13)では,大阪市長から各任命権者に宛てて,いずれも,労使関係の適正化を図る取組として,労使関係に関する職員アンケート調査を実施すること,職員に周知し,調査について協力を依頼することなどが記載されていた。また,市長は,同日付けで,職員各位宛ての自筆の署名入りの職員宛て市長メッセージを作成し,そこで,市長の業務命令として本件アンケートに回答を求めること,正確に回答されない場合は処分の対象となることなどを明示した(甲1の2)
。さらに,大阪市総務局人事部人事課(人事グループ)を差出人として,同月10日,各職員宛てメールで,労使関係の適正を図る取組として,記名式のアンケート調査を行うこと,同調査は市長の業務命令として行うこと,真実を正確に回答しない場合には処分の対象となることなどが記載されていた(甲14)

以上のとおり,本件アンケート調査は,控訴人の総務局長を通じて各所属長を経由し,あるいは,市長から各任命権者を経由して行われているのであるから,控訴人が実施主体となって本件アンケートを行ったことは明らかである。
(イ)

本件調査チームの独立性・中立性
本件調査チームは,客観的に見て,控訴人から独立し,中立性のある
ものとはいえない。P2特別顧問は,市長の意を受け,控訴人当局と一体となって,本件アンケートを作成し,実施させたものである。

P2特別顧問の団結権侵害等の意図又は動機
本件アンケートの実施やその質問内容は,市長の意図を如実に反映したものであり,控訴人は,全庁を挙げて同調査に取り組んでいた。
特別顧問とは,組合適正化等について指導・助言を得るために委嘱されたものであるから,
P2特別顧問は,
もともと第三者的立場になかったし,
本件アンケートによる調査が,控訴人の行うものと同質のものであることにつき,市長と共通の認識を有していた。


適正化政策は労働基本権の侵害をいうにとどまらないこと
市長による労働組合「適正化」というのは,職務専念義務違反等のごく一部の行為に藉口して,労働組合の活動の拠点である庁舎内の組合事務所を剥奪するなどの便宜供与を一方的に廃止することを狙ったものである上,労働組合及び職員が行う政治活動を抑圧して,労働組合を弱体化させ,職員を萎縮させて,自らに従わせようとしたものである。

(2)

本件アンケート調査の必要性
控訴人においては,職員等による違法行為等が多発しているといった事態は生じていなかった。当時,控訴人では,P7について,勤務時間内組合活動という問題点が一部明らかになっていたにすぎず,
労働組合全体について,
違法行為等が次々と明らかになっていたわけではない。また,本件目安箱への投書の内容や,内部告発者の告発内容を具体的に裏付ける証拠もない。さらに,ごく一部の職員による非違行為があったとしても,本件アンケート調査は,職員の刑法犯の実態やその原因について明らかにしようとするものではないから,職員の非違行為は,本件アンケート調査の必要性とは無関係である。仮に,ごく一部の職員が非違行為を行ったとしても,ほぼ全職員を対象として,政治活動への参加の有無,労働組合への加入の有無,労働組合活動への参加の有無を問う必要はない。
(3)

本件アンケート調査の手法の不当性
控訴人は,
回収率を重視して本件業務命令により回答を義務付ける以上,
憲法上の権利を侵害しないよう細心の注意を払う必要がある。職員宛て市長メッセージからは,処分権者である市長において本件アンケートの回答が正確なものかどうか判断して懲戒処分をすることや,本件アンケートの回答内容を見て懲戒処分の量定を判断することがあり得ることが明記されており,むしろ,控訴人が個々のアンケートの内容を知り得る立場にあったことは,明白である。


仮に,何らかの調査の必要性が認められるとしても,その調査は,必要性に見合った相当な範囲に限定されなければならない。ほぼ全職員を対象として,政治活動への参加の有無,労働組合への加入の有無,労働組合活動全般への参加の有無について,強制力をもって回答を義務付ける理由はない。


本件アンケートは,職員の権利侵害への配慮に欠けた,過度に広範な質問で構成されており,相当性が認められない。また,無記名方式によるアンケートでも,各部署の管理職に対するヒアリング調査によっても,目的を達成できたはずである。(4)

本件アンケートの個々の設問内容
思想・良心の自由の侵害について
(ア)

前記⑴に照らせば,Q7ないし9は,市長がP9元市長と激しく市
長の座を争った直近の大阪市長選のことを指すことは明らかである。(イ)

Q9は,
P9元市長陣営で実際に活発に行われていた
「紹介カード」

の配布の事実を前提として,質問をしていることになる。したがって,これらの質問により,紹介カードを配布する側,あるいは積極的に記入して返却する側(積極的P9支持)
,消極的に(あるいは嫌々)返却する
側(消極的P9支持ないし中立)
,明確に「紹介カード」受取りを拒否す
る側,返却しない側(P9不支持)ないし中立という,各職員の政治的立ち位置がおよそ分かる仕組みになっている。
(ウ)

その上で,Q7,8などで,特定の政治家を応援する活動の有無等
について聞いているのであるから,本件アンケートは,詰まるところ,P9元市長の支持のための選挙活動をしたかどうか等を聞いているのと何ら変わらない。
(エ)

このように,本件アンケートは,職員の政治的思想・信条の在りよ
うを強制的に聞き取られることになってしまうから違法である。

プライバシー権の侵害について
(ア)

原審でプライバシー権侵害が認められたQ7及び9の設問以外にも,
Q6,10,13,15ないし21は,プライバシー権を侵害する違法なものである。
(イ)

上記の各質問は,政治活動や選挙活動への関わりの有無,態様,程
度,政治活動や選挙活動についての考え方を答えさせる調査項目があるが,それらは,まさに当該個人が自律的に形成する領域に属するものであって,いわゆるセンシティブ情報である。本件アンケートは,このような被控訴人らのセンシティブ情報を収集・保有しようとするものであり,被控訴人らのプライバシー権を侵害する違法なものである。
(ウ)

プライバシー権は,自己情報コントロール権として,個人の人格的
自律にとって重要な権利であり,容易に制限しうるものではない。そして,本件アンケートが実施された時点において,P7以外の労働組合について,違法行為等が具体的に明らかになっていたわけではなく,本件目安箱への投書の内容や,内部告発者による告発内容を具体的に裏付ける証拠も存在しなかった。
したがって,本件アンケートを実施しなければならない必要性は乏しかったから,被控訴人らが,プライバシー権の制約を甘受すべき状況にはなかった。
(エ)

本件アンケートが処分されたとしても,全てのアンケートの回答が
処分されたかどうかは確認されていないし,アンケートの収集過程で他の職員の目に触れた可能性がある。また,本件アンケートが強制された時点でプライバシー権は侵害され,侵害された事実そのものは消せないのであるから,プライバシー権の侵害がなかったとはいえない。

労働基本権の侵害(憲法28条違反)について
(ア)

憲法28条について
憲法28条は,憲法25条1項を総則とした生存権的基本権であるか
ら,労働者の団結権,団体交渉権及び団体行動権(労働三権)を侵害すれば,違法性が認められる。労働基本権も,第一次的には個人の権利であり,先ず何よりも,個々の労働者が他の労働者と共に労働組合を結成する自由(団結権)の保障が重要である。
そして,団結権とは,個々の労働者が自己の属する労働組合の意思形成や活動に参加する権利(組合活動の権利)も含まれる。これにより,労働組合の内部運営を自主的に遂行する権利,外部からの干渉を排除する権利も,労働者個人の団結権に含まれる。そして,使用者は,労働組合の結成や運営への介入や妨害を行わないという不作為の義務(団結承認義務)を負う。
ところが,本件アンケートは,個別の質問項目で団結権を侵害し,さらに,市長メッセージを含めた本件アンケート全体において,被控訴人ら職員の労働組合の結成や運営に対する介入や妨害をした。
(イ)

労働組合を結成し,加入すること及び非組合員・他組合員への拡大
活動を侵害した質問項目

Q12について
Q12は,選択肢で,組合幹部からの投票依頼の意図を感じたかどうかを問い,組合幹部の行為を特定し,自由記述で具体的内容まで回答を求めていることから,労働組合ぐるみの違法又は不適切な選挙活動をことさら強く印象付けるものである。
これが,
労働組合を敬遠し,
労働組合を結成・加入する自由,非組合員・他組合員を勧誘し拡大する活動を侵害したことは明白である。


Q13について
Q13は,適法なもの,違法なものを問わず,選択肢を挙げ,しかも抽象的な知識を問う設問であるから,全てが不適切なものではないかとの印象を強く植え付ける効果がある。これにより,労働組合を結成し,加入すること及び非組合員・他組合員への拡大活動を侵害したと認めるべきである。


Q22について
Q22は,平成17年当時の職員厚遇問題が大阪市において,未だに大きく残存している印象を強く与え,非組合員及び厚遇問題とは無関係な組合員からの労働組合に対する反発や組合役員への不信感を抱かせ,これにより,労働組合を新規に結成し,既存の労働組合に加入するという権利及び組合員が他者を労働組合に勧誘する拡大活動をそれぞれ侵害された。
(ウ)

使用者の介入により組合運営の権利を侵害した質問項目
Q6及び20について
Q6及び20は,労働組合が,どのように職員を勧誘しているか実態把握ができる質問であるが,職員個人から個別に情報を集め,使用者が最終的に労働組合の活動実態全体を把握することは,使用者が労働組合に介入して,組合活動の自由を侵害するものである。


Q10及び21について
Q10は,抽象的な感想又は意見のみを聞くことによって,労働組合内部で幹部に対する不信感を抱かせた。また,Q21は,組合費の使途の適切性に疑いを持たせ,組合幹部への信頼を失わせれば,内部紛争によって,組合を内部から崩壊させるという絶大な効果がある。

Q17ないし19について
Q17ないし19は,使用者が労働者個々に対し,労働組合に対する認識を問おうとするものであり,組合内部への干渉であって,団結権の侵害である。これらの質問は,労働組合の純粋な活動目的に対する疑いを生じさせ,労働組合の結成,加入,勧誘,組合活動一般を萎縮させる効果が生じている。

(エ)

その他組合活動の権利を侵害した質問項目(Q7ないし9)につい

労働組合は,直接の使用者との関係において経済的地位を高めることのみを目的とするだけでなく,人間らしく働いて生きるためのあらゆる権利について、経営者団体との関係,法令内容についても活動の対象とするから,自らの代表者として立候補者を出して応援すること,政策に賛同できる特定の政治家を応援することもあり,中核的な活動とそれ以外の活動との区別はない。特に,本件は,自治体労働者の問題であり,使用者たる市長は公選され,勤務条件は公選された市会議員で構成される議会における条例で決まるのであるから,職員としても,これら選挙には無関心であり得ず,政治活動に関わらざるを得ない。
特に,紹介カードについては,被控訴人らにおいて,知人,親戚などの情報集約等があったとすれば,そのような労働組合活動に参加することへの萎縮効果は十分にあった。
(オ)

任意回答(Q6,15,17ないし19)について
これらの質問は,任意回答とはされているが,市長の直筆署名により
真実の正確な回答でなければ処分する旨を示唆した,職員宛て市長メッセージが添えられていたのであるから,本件アンケートに直面した職員にとって任意性はなかった。
また,任意回答の質問項目に対し,回答を空欄とした場合,回答を拒否するとみなされること自体で,組合活動に関する他の設問への回答態度を推認させる重要な情報となるから,
任意であると記載されていても,
職員に動揺を与えないことはない。
(カ)

勧誘者氏名の記入,通報窓口への情報提供呼び掛けについて
Q6及び7は,上記(オ)のとおり,事実上任意性がない中で,勧誘者の氏名の記入が求められたことにより,誰かが自分の名前を記載しているのではないか,あるいは,自分の名前を書かないことで,誰かが不利益に扱われるのではないかという不安により,組合員同士や職員同士の信頼関係を壊し,労働組合を忌避する効果が生じたが,これも団結権の侵害である。


Q6は,労働組合員及び職員同士の悪意を助長し,労働組合内部に混乱を生じさせ,労働組合を忌避する効果があった。


また,Q11の選択肢1ないし4は,真実を正確に回答しなければ処分するとして,密告を強制するものであった。(キ)

P2特別顧問の関与(Q7ないし9及び12)について
これらの質問は,市長の労働組合「適正化」政策の一部であり,その
意図又は動機が色濃く反映している。それらは,P2特別顧問が介在することによっても,何ら遮断されていない。
(ク)

全体におけるクロス集計による団結権侵害
本件アンケートは,個別の質問項目ごとに労働基本権侵害があるので
はなく,各項目への回答をクロス集計することにより,回答者の労働組合への参加の有無,程度,態度,活動内容等が判明する。
本件アンケートは,職員に対し,職員宛て市長メッセージ及び各質問項目の文言で誘導し,労働組合が違法又は不適切な組合活動をしているとの評価を植え付け,これによって,被控訴人らの労働組合を結成・加入する権利及び拡大する権利が侵害された。また,本件アンケートをクロス集計することにより,労働組合の実態が明らかになることで,使用者による介入となり,被控訴人らの組合活動の自由が侵害された。エ
人格権の侵害について
(ア)

職場における自由な人間関係形成の自由
働くことは,人間にとって極めて基本的な生活要求である。職場は,
単に生活の糧を得る場所ではなく,家庭とともにその生活の基礎となる場所である。したがって,職場における自由な人間関係を形成する自由は,まさに人格的利益の核心となるものといえ,憲法13条により,人格権の一つとして保障されなければならない。本件アンケートは,この自由を侵害するものにほかならない。
(イ)

本件アンケートの人格権侵害
Q6ないし8は,第三者の氏名やその勧誘の態様などの回答を求めているが,これらについて回答してもしなくても,第三者は,回答者が,自分の氏名などを回答したかもしれないとの疑問を持ち,他方,回答者が,回答するかどうかで思い悩むことになるかもしれないとの思いから,他者への働き掛けを躊躇するという事態も生じる。こうした状況は,職員間の信頼関係を傷付けるものであるとともに,新たな信頼関係の形成を阻害するものであるから,職場における自由な人間関係を形成する自由を侵害している。

また,Q10ないし21によれば,たとえある回答者が本件アンケートの回答を拒否したとしても,
その者の周辺にいる職員を取り出し,
各項目への回答をクロス集計することで,当該回答者の入庁以後現在に至るまでの人間関係に関する詳細かつセンシティブな情報を集積することが可能となり,控訴人に対し,回答者の職場における人間関係を操作する手段を与えることとなる。こうした状況が存在しているということそのものが,被控訴人らがこれまで形成してきた人間関係を傷付け,新たな人間関係の形成を阻害するのであって,職場における自由な人間関係を形成する自由を侵害しているといえる。

(5)

控訴人の過失(市長の注意義務違反)
信頼の原則について
(ア)

市長は,自らの名で業務命令として全職員に対し,本件アンケート
調査への回答を命じているのであるから,自ら発する命令によって人権侵害が生じないような措置を講ずべき義務を負うことは当然である。(イ)

P2特別顧問らが本件アンケートの設問内容を起案したとしても,
本件アンケートを自らの業務命令により実施したのは,あくまでも控訴人である。P2特別顧問や本件調査チームは,独立・中立の組織ではないし,市長が負っているのは,本件業務命令の内容が職員の権利を侵害する違法なものでないことを確認すべき注意義務であるから,P2特別顧問や本件調査チームが関わったとしても,本件アンケートが違法でないとはいえない。(ウ)

調査機関の独立性・中立性とは,調査目的達成にとって支障となる
妨害や干渉を受けない状態が確保されることに本質があるのであり,調査内容の秘匿は,その本質的要請ではない。市長は,本件業務命令を発する以上,その内容が法令や契約内容等に反しないかどうかを検討すべきである。
本件においては,市長も総務局長以下も,事前に本件アンケートの内容を確認していた。

結果回避可能性の不存在について
市長が本件アンケートの内容を確認することに法律上の制約はなかったのであるから,市長及びP2特別顧問の認識あるいは意向を根拠に,事前確認をしたり,その内容を修正・変更するための措置を採ったりすることができなかったわけではない。したがって,市長において,結果回避可能性が否定される理由はない。
本件においては,市長も総務局長以下も,事前に本件アンケートの内容を確認していたし,市長とP2特別顧問との関係からしても,事前に示すことに何の支障もない。


小括
仮に,不祥事発生防止の要請があったとしても,これを個人の人権と衡量することは適切ではない。とりわけ本件は,個人の人権の中でも思想・良心の自由や団結権など精神的自由の制約が問題となっているのであるから,安易に行政目的の達成を優越させる利益衡量が選択されるべきではない。

(6)

損害
クロス集計
本件アンケートは,複数の質問を総合的に検討することにより,より重大な権利侵害が発生するものである。(ア)

職員の人間関係が丸裸になる
本件アンケートは,匿名性を排除した形式で,正確な回答を強制しな
がら,労働組合活動に誘った人,特定の政治家の応援活動に誘った人,労働組合の加入歴と現在の在籍の有無などを問うものであった。
これらの回答によって得られた情報を集積し,分析すれば,誰が回答者に影響を及ぼし得る存在か,回答者は誰に影響を与え得る存在かなどの事項を知ることができる。
(イ)

職員の思想・信条が丸裸になる
本件アンケートは,匿名性を排除した形式で,正確な回答を強制しな
がら,労働組合活動に参加したことがあるか,特定の政治家の応援活動に参加したことがあるか,労働組合の加入歴と現在の在籍の有無,労働組合に加入するメリットなどを問うものであった。
これらの回答によって得られた情報を集積し,分析すれば,回答者が「この2年間」
に実施された選挙において,
どの候補者や政党を支持し,
又は支持しなかったかが,
かなりの程度特定可能となる。
また,
同時に,
回答者が,労働組合の在り方について,どのような考え方を持っているかや,労働組合に対する親和性,親近感の有無が明らかになる。
(ウ)

職員監視ファイルの作成が可能となる
本件アンケートで得られた情報を全てクロス集計すれば,控訴人は,
回答者が誰の影響を受けて,どの労働組合に参加しているか,労働組合から何を得ようとしているのかなど,職員の思想・信条を踏まえた監視ファイルの作成が可能となる。
(エ)

本件アンケートで得た情報は,労働組合活動一般を弱体化させるた
めに活用できる
控訴人は,本件アンケートで取得した情報を活用すれば,例えば,人事異動などを活用して労働組合の勢力を拡大させないなどの労務政策をとることも可能となる。控訴人には,労働組合「適正化」の一手段として,本件アンケート結果を利用しようという意図があり,そのような意図から考えれば,本件アンケートの実施が継続されていれば,より深刻な職員の権利侵害がされる具体的な危険性があったといえる。

本件アンケートの中止
控訴人は,P2特別顧問が本件アンケートの回答データの入ったDVDを破棄するなどしたが,一部の回答については破棄を明言していないし,破棄したというDVDも,そのデータのコピーは極めて容易であるから,控訴人が現在もデータを所有している可能性がある。
被控訴人らは,自己の思想・信条を推知されたのではないかと現在も不安に感じており,人事異動や再雇用で不利益を受けるのではないかという疑念を払拭することができないままである。


本件アンケートで受けたダメージの大きさ
被控訴人らが受けた精神的苦痛については,市長が平成23年の大阪市長選挙前から労働組合を敵視する発言を繰り返してきた状況に身を置いた上,本件アンケートを見たときに,通常人であれば,同アンケート全体として,どのように理解し,受け止め,精神的な苦痛を受けるかということが評価されなければならない。
被控訴人らは,本件アンケートにより,抑うつ,不安,絶望,恐怖,無力感,自己への引きこもりなどの症状を呈し,精神的に不安定になるという一過性の急性ストレス反応に似た精神状態になった。被控訴人らの症状は,反応性の抑うつ状態で,一時的な適応障害に当たると診断された。
第3
1
当裁判所の判断
判断の概要
当裁判所は,被控訴人らの本件各請求は,被控訴人らの精神的苦痛に対する慰謝料各自4000円及び弁護士費用各自1000円の合計各自5000円並びにこれらに対する最終の違法行為の日である平成24年2月16日(本件アンケートの実施最終日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,後記2で原判決を補正し,同3で当審における当事者の主張に対する判断をそれぞれ付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第3の1ないし3(23頁25行目から89頁16行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。2
原判決の補正
(1)

24頁22行目の「謝罪した。
」を「徹底的に管理する,厳格化に努める

などと答弁した。
」と改める。
(2)

24頁22行目の末尾に行を改め,次のとおり加える。

「カ

過去の労使問題
(ア)

大阪市職員において,不公正人事問題があり,昇任・昇格差別に

ついては,被控訴人らと立場を異にする少数組合であるP5から,かつて訴訟提起されるなどし,大阪市交通局においても,15年以上前から労使癒着の問題が露呈し,少数組合から労働委員会に対する申立て等がされ,紛争が係属していた(乙36の1・2)

(イ)

大阪市では,平成16年から17年にかけて,適切に許可を受け

ずに勤務時間内に組合活動を行う「ヤミ専従」問題等,様々な職員厚遇問題が発覚した(乙66)

(ウ)

大阪市では,P4元市長当時の平成17年,上記ヤミ専従問題に

ついて,管理職,組合役員及び組合員ら合計254名に対して懲戒処分を行った上,制度改革を実施したが,平成19年には,不適正資金問題,平成20年には,年次有給休暇を取得中の区役所の職員が,区役所の会議室内の電話機から,組合活動の一環として53通,9万3555円分の電報を打ったという事案,平成23年には,30日の上限を大きく超えて無給の職務免除を取得した職員がいたという事案などが発覚するという状況であった(乙66)


本件目安箱の投書内容
平成23年12月のP1前市長当選後設置されていた本件目安箱には,労使に関する深刻な問題が多数投書されていた。それらの内容は,例えば,次のようなものがあった(乙8)

(ア)

更迭された職員の妻を抜擢したり,
自分の都合の良い人事を行い,

仲良しグループを形成している。
(イ)

現業職員の採用は高卒が条件であったが,大卒者が学歴を偽って

採用された問題において,学歴詐称者は停職処分を受けて罪を償ったにもかかわらず,
組合役員や組合と仲の良い職員は逆に昇任している。
(ウ)

P8支部を除いて,ほとんどの支部や班の役員が主任に昇任して

いる。
(エ)

組合が係員クラスの人事異動に介入している。

(オ)

係員の異動については,総務課長が組合の支部長の同意を得なけ

れば異動ができない。
(カ)

組合費の横領,
組合員からの借金踏み倒しが問題となった事件
(平

成21年に発覚)について,進展がないように思える。

(3)

24頁24行目の「同日」を「平成23年12月26日」
,25頁3行目

の「P10教授」を「P4元市長時代に大阪市福利厚生制度等改革委員会において委員を務めたP10P11大学総合政策学部教授
(以下
「P10教授」
という。」と各改める。

(4)

27頁14行目から20行目までを次のとおり改める。

「ウ

総務局長は,平成24年1月18日,P12労働組合
(以下
「P12」
という。)及びP5に対し,各労働組合に対する庁舎スペースの便宜供与の許可(目的外使用許可)を取り消すので,同月31日までに事務機器等を撤去するよう通知した(甲42,乙19)。エ
総務局長は,平成24年1月30日,P12,P5及びP13労働組合総連合(以下「P13」という。)に対し,同年4月以降,組合事務所としての目的外使用許可をしないので,同年3月31日までに退去するよう通知した(甲44,乙20)。」

(5)

31頁23行目の末尾に行を改め,次のとおり加え,同24行目の「cこの点」を「d

「c

上記bの点について」と改める。

ただし,前提事実(4)及び認定事実(1)ないし(6)(上記補正後のもの)によれば,本件アンケート調査を実施する以前の控訴人の職員における不適切ないし違法な行為は,労働組合の活動に係るものに止まらず,違法薬物,傷害・暴行,窃盗,殺人未遂等の犯罪行為にまで及んでいたのであるから,これらの問題も,本件調査チームにおける調査対象であったものと認められる。
そのため,
本件調査チームは,
本件調査報告書で,
大阪市政を取り巻く構図を示し,大阪市政の問題は,大きな枠組みとして,選挙支援の問題,労使癒着の問題などであるとしているが,その問題点としては,控訴人対労働組合の関係という単純なものではなく,上記犯罪行為についても考察しており,市政全体の問題として捉えているということが認められる。
以上によれば,本件調査チームは,労働組合「適正化」を問題としていたものの,それは,同問題が市政全体の問題を検討する中で大きな位置を占めていたことによるものであって,それのみに止まるものではなかったというべきである。
したがって,本件アンケートの目的は,労働組合「適正化」が大きな目的ではあったが,それに止まらず,市政全体の問題点を把握することにもあったと認められる。


(6)

33頁20行目の「別件訴訟」を「別件訴訟(大阪地方裁判所平成24年(ワ)第4348号,同年(ワ)第12059号)」と改める。
(7)

37頁12行目を次のとおり改める。

「控訴人における労使関係については,何らかの調査をする必要があるという背景事情が存したものと認めることができる。そして,本件調査チームが,その調査を実施する方法は,その合理的な裁量に委ねられていたものということができる。
したがって,
本件調査チームがその調査方法として,
アンケートという手法を選択することは正当であり,これが問題であるとはいえない。

(8)

38頁14行目から39頁3行目までの部分を次のとおり改める。
「(キ)

以上によれば,控訴人による本件アンケートの実施は,これを行う
必要性と正当性を認めることができ,また,その質問に対する回答についても,
業務命令をもってほぼ全職員を対象として行うことについても,
一応の合理性を認めることができる。
もっとも,他方,本件アンケートの内容は,上記のとおり大阪市政全体の問題に関わっているとはいえ,その中でも大きな比重を占めている労使間の労働問題に主として関わるものであったから,これを業務命令によって,
ほぼ全職員を対象として行う以上は,
その質問の内容,
文言,
各質問の配列等の種々の手法について,慎重な配慮を必要とするものというべきである。
そこで,以上の観点に基づいて,後記ウにおいて本件アンケートの手法に関する相当性について,同エにおいて本件アンケートの個別の設問内容について,それぞれ検討を行うこととする。

(9)

45頁14行目,48頁15行目,55頁5行目及び同17行目の各「原
告」をいずれも「被控訴人ら」と改める。
(10)

63頁21行目及び67頁9行目の各「端著」を「端緒」
,65頁7行

目の「原告」を「被控訴人ら」と各改める。(11)

71頁11行目,同23行目及び72頁12行目の各「原告」をいずれ
も「被控訴人ら」と改める。
(12)

82頁11行目から83頁13行目までを次のとおり改める。

「(a)

Q21は,
自分が納めた組合費がどのように使われているか知ってい

るのかについて質問するものである。
この質問は,4つの選択肢から回答を選択するものであるが,第1の選択肢は,
「十分な説明を受けている。
」というもの,第2ないし第4の
選択肢は,いずれも,
「よく知らないが,
」という語から始まり,これを
前提に,
「組合活動に適切に使われているものと思っている。(第2)


組合活動に適切に使われているかどうか,
疑問がある。

(第3)
及び
「組
合費の使い方に関心はない。」
(第4)というものである。
(b)

労働組合の組合費の使途は,
本来当該組合内部の自治に委ねられるべ

きものであるから,一般論でいうならば,控訴人が本件アンケート調査で質問をする必要があったのかどうか疑問がなくはない。また,その質問内容は,労働組合に加入している職員に対し,組合費の使途に不明朗な点があるのではないかとの印象を与える可能性もないではない。(c)

しかしながら,
本件目安箱にも組合費の横領に関する投書が見られる

など,組合費の使途に関する問題は,既に相当程度職員の間において問題意識が形成されつつあったとも推認することができたのであるから,この問題は,組合費の使途をも含め,控訴人と全く無関係ともいえない状況にあったといえる。他方,仮に,労働組合に加入している職員が,前記(a)の質問によって,上記(b)のような印象を抱いたとしても,そのような印象は,組合員及び組合の自治によって解消されるべき問題であるし,また,仮に,控訴人が,こうしたアンケート結果に基づいて組合費の使途について何らかの意見を有するに至ったとしても,労働組合に対し,何らの干渉もすることができないことは明らかである。以上によれば,上記質問は,これをもって直ちに,労働組合に加入している職員に動揺を与え,組合を弱体化させるものであったとは認められない。このことは,本件アンケートに職員宛て市長メッセージが添付されていたことによっても,何ら左右されるものではない。
(d)

したがって,
Q21は,被控訴人らの労働基本権を侵害するものではな

かったというべきである。

(13)

83頁23・24行目の「労働基本権を侵害するものであったが,その
他の」を削る。
(14)

86頁初行の「Q6,Q16及びQ21」を「Q6及び16」と改める。
(15)

88頁11行目の「発出にによる」を「発出による」
,同13行目の「別

問題あり」を「別問題であり」
,同行「回答内容を」を「回答内容に」と各
改める。
(16)
3
89頁13行目の「各5000円」を「各4000円」と改める。
当審における当事者の主張に対する判断
(1)

本件アンケート調査の目的
本件アンケート調査の目的
(ア)

被控訴人らは,本件アンケートの実施自体が,被控訴人らを含む職
員らの権利を侵害する意図によるものである旨主張する。
(イ)

しかしながら,本件アンケート調査の目的については,前記1(原
判決30頁4行目から36頁9行目までを上記2により補正の上引用)のとおりであって,市長の市政改善の一環としての労働組合「適正化」政策の一部を形成していたというべきではあるものの,本件アンケートの実施自体が,職員らの権利を侵害する意図によるものであったとまでは認められない。
(ウ)

したがって,被控訴人らの前記(ア)の主張は採用できない。

本件調査チームの独立性(ア)

控訴人は,本件調査チームは,控訴人とは独立し,又は中立の存在
であったから,控訴人は,本件調査チームが作成した本件アンケート及びその実施につき,そもそも責任を負うものではない旨主張する。(イ)

しかしながら,前記第2の2の前提事実等(原判決4頁2行目から
10頁17行目までを同3により補正の上引用)及び前記第3の1(原判決32頁12行目から34頁12行目までを同2により補正の上引用)によれば,本件調査チームは,P2特別顧問,P14特別顧問及び数名の特別参与によって構成されていたが,P2特別顧問に対して本件の調査を依頼したのは,P14特別顧問であったこと,P14特別顧問は,市長の労働組合「適正化」政策の中核である労働組合への便宜供与の禁止を内容とする労使関係条例案等の作成に中心的に関与していたし,市長の指示を受けて,本件アンケートの設問への加筆や市長メッセージを作成したり,本件アンケートの内容を確認したりするなど,その実施に深く関与していたことがそれぞれ認められる。これらによれば,本件調査チームは,市長の意向を受けて,市長の政策を推進するための活動を行っていたものといえる。また,前記第2の2の前提事実等に記載のとおり,市長は,市長メッセージを付した上,本件アンケートを実施させたものである。
(ウ)

したがって,本件調査チームは,控訴人から独立していたとも,中
立であったとも認め難いから,
控訴人の前記(ア)の主張は採用できない。
(2)

本件アンケート調査の必要性,相当性

(ア)

被控訴人らは,仮に本件調査チームが一定の調査をする必要性があっ
たとしても,
その調査方法としてアンケートという手法を選択したことは,
必要性,相当性を欠くものである旨主張する。
(イ)

しかしながら,前記1(原判決36頁10行目から42頁13行目ま
でを上記2により補正の上引用)のとおり,なるほど,ほぼ全職員を対象に本件アンケートを実施するについて,控訴人が職員宛て市長メッセージを添え,本件業務命令をもってしたことそれ自体は,相当であったとはいえないが,本件調査チームが,その調査を実施する方法の選択に当たっては,合理的な裁量を有するというべきであるところ,当該選択につき裁量権の逸脱,濫用は認められない。そうすると,本件調査チームが控訴人における労使関係等の調査方法としてアンケートという手法を選択したことそれ自体は,問題であったとも,不相当であったとも認められない。(ウ)
(3)

したがって,被控訴人らの前記(ア)の主張は採用できない。

本件アンケートの個々の設問内容


設問の違法性に関する判断の骨子
本件アンケートの個々の設問の違法性については,前記1(原判決42頁14行目から86頁4行目までを上記2により補正の上引用)のとおりである。
以上によれば,Q6及び16は,被控訴人らの労働基本権を侵害し,Q7及び9は,
被控訴人らのプライバシー権を侵害するものと認められるが,
それらは,
被控訴人らが主張するその余の権利を侵害するとは認められず,
また,上記以外の質問は,被控訴人らの主張する権利をいずれも侵害するとは認められない。


控訴人の主張について
(ア)

Q6及び16について
控訴人は,大阪市は,その当時,労使関係や選挙活動につき,問題が指摘される状況であった上,質問においても,具体的な氏名等については回答を強制しない等の配慮をしていたし,本件アンケートは,最終的には開封されることなく処分されたから,
Q6及び16により,
労働基本権の侵害は生じていないなどと主張する。


しかしながら,Q6及び16が被控訴人らの労働基本権を侵害するものであることは,上記アにおいて説示したとおりである。なるほど,本件アンケート実施当時,控訴人において,市政の改善の必要性があったことは認められるものの,そのことによって,職員個人の労働基本権を侵害することが許されるものでないことは明らかである。また,本件アンケートが開封されずに処分されたとしても,アンケートが実施されたことそれ自体により,被控訴人らの労働基本権は侵害されたというべきであるから,同権利の侵害がなかったとはいえない。

(イ)

したがって,控訴人の前記aの主張は採用できない。
Q7及び9について
控訴人は,本件アンケート実施当時,市政を改善する必要のある状況にあったから,職員は,業務上の必要性との関係では,一定程度のプライバシー権を制約されても,これを甘受してしかるべき状況であった旨主張するほか,上記(ア)と同様の主張をする。


しかしながら,本件アンケート実施当時,控訴人において,市政の改善の必要性があったとしても,そのことによって,職員個人のプライバシー権を侵害することが許されるものでないことは明らかである。また,本件アンケートの結果については,前記第2の2(原判決4頁初行から11頁24行目までを同3により補正の上引用)で認定したとおり,いったん回収されたものの,内容が開封されることなく廃棄処分されている。しかしながら,被控訴人らのプライバシー権は,アンケートが実施されたことそれ自体によって,侵害されたというべきであるから,上記認定事実によっても,同権利の侵害がなかったとはいえない。

cウ
したがって,控訴人の前記aの主張は採用できない。

被控訴人らの主張について(ア)

思想・良心の自由の侵害について
前記1(原判決48頁20行目から59頁20行目までを上記2により補正の上引用)で認定したとおり,Q7ないし9は,回答者の思想・良心そのものについて質問するものではないし,政治家の具体的な氏名について回答を求めるものでもないから,これらの質問によって,被控訴人らの思想内容が明らかになるとはいえない。


被控訴人らは,上記各質問は,P9元市長の応援であることが特定される旨主張する。
しかしながら,上記各質問の内容それ自体及びその回答欄に記入された情報だけから,そのように断定することはできないというべきである。そうすると,上記各質問は,下記のとおり,プライバシー権を侵害することは別として,被控訴人らの思想・良心の自由を侵害するものであったとはいえない。
したがって,被控訴人らの上記主張は採用できない。

(イ)

プライバシー権の侵害について
被控訴人らの主張する質問のうち,Q7及び9を除くものは,前記1(原判決42頁14行目から86頁4行目までを上記2により補正の上引用)で認定したとおり,いずれも私生活上の平穏を害するものとは認められない。


被控訴人らは,
政治活動や選挙活動への関わりの有無,
態様,
程度,
政治活動や選挙活動についての考え方を答えさせる調査項目は,個人が自律的に形成する領域に属するものであって,いわゆるセンシティブ情報である旨主張する。
しかしながら,仮に,質問対象が,個人が自律的に形成する領域に属するものであったとしても,単に抽象的な感想や意見を求めるものが,プライバシー権を侵害することになるとはいえない。そして,上記各質問は,いずれも,これを超えてプライバシー権を侵害するものであるとは認められない。
したがって,被控訴人らの上記主張は採用できない。
(ウ)

労働基本権の侵害について
被控訴人らの主張する質問のうち,Q6及び16を除くものは,前記1(原判決42頁14行目から86頁4行目までを上記2により補正の上引用)で認定したとおり,いずれも労働基本権を害するものとは認められない。


被控訴人らは,労働組合の結成・加入,非組合員・他組合員への拡大活動を侵害した質問項目としてQ12,13及び22を,使用者の介入により組合運営の権利を侵害した質問項目としてQ6,10,17ないし19,21及び20を,その他組合活動の権利を侵害した質問項目としてQ7ないし9を,任意回答についての質問項目としてQ6,15,17ないし19を,勧誘者氏名の記入,通報窓口への情報提供呼び掛けについての質問項目としてQ6,7及び11を,P2特別顧問の関与について市長の政策が遮断されていない質問項目としてQ7ないし9及び12をそれぞれ挙げ,それらが違法である旨主張する。
しかしながら,上記各質問が,上記aで当裁判所が労働基本権を侵害するものと認めたQ6及び16を超えて,被控訴人らの労働基本権を侵害するものであるといえないことは,前記1(原判決42頁14行目から86頁4行目までを上記2により補正の上引用)で認定判断したとおりである。
なるほど,上記各質問の中には,市長メッセージと各質問の表現とがあいまって,組合活動への参加を萎縮させ,労働組合に加入する職員に動揺を与える可能性が全くないとまではいい難いものも存している。しかしながら,上記(2)のとおり,控訴人が本件アンケートの実施に至った経緯を前提とすれば,本件調査チームによる調査活動の必要性は否定されるものではないから,その調査目的に照らし,労働組合又は労働組合活動に関する質問が全く許されないものではないというべきである。
問題は,前記第2の5(4)ウ(ア)で被控訴人らが主張する
とおり,これらが労働組合の結成や運営に対する介入や妨害に当たるというべきかどうかである。そこで,上記各質問をみるのに,これらは,選挙運動に係るもの,組合活動に係るものなどではあるが,いずれも大阪市において問題とされていた事柄に関し,上記に関連する事実の有無や一般的な感想等を,個人の特定等に至る事項について強制を用いない方法で尋ねるものであって,それらが,直ちに労働組合の結成・加入,非組合員・他組合員への拡大活動を侵害するものないし組合運営の権利を侵害するものであるとも,その他組合活動の権利を侵害するものであるともいうことはできない。本件アンケートの実施された時期が,市長とP9元市長との選挙から遠くない時期であったことを考慮しても,上記判断は,異なるものではないというべきである。

(エ)

したがって,被控訴人らの前記aの主張は採用できない。
人格権の侵害について
前記1(原判決48頁7行目から同16行目までを上記2により補正の上引用)で認定判断したとおり,Q6ないし8,10ないし21について,被控訴人らの主張する,職場における自由な人間関係を形成する自由が,人格権の一内容として保護されるものと解することはできない。


被控訴人らは,回答者の職場における人間関係を操作する手段を与え,そうした状況が存在しているということそのものが,被控訴人らがこれまで形成してきた人間関係を傷付け,新たな人間関係の形成を阻害することになる旨主張する。
しかしながら,被控訴人らが主張する上記権利の内容は,きわめて漠然としたものであって,保護の対象となり得る権利であるとはそもそも認められない上,本件アンケートが,同権利を侵害したとは認められないことは,上記aのとおりである。
したがって,被控訴人らの上記主張は採用できない。
(4)

控訴人の過失
信頼の原則について
(ア)

控訴人は,市長は,第三者委員会である本件調査チームに調査を委
託したところ,同チームは,控訴人との独立性,中立性を有するものであるから,控訴人は,これが違法な権利侵害をすることを予見させる何らかの具体的事実がある場合を除き,信頼の原則に基づき,特に当該調査内容を確認すべき義務はない旨主張する。
(イ)

しかしながら,前記1(原判決87頁12行目から88頁15行目
までを上記2により補正の上引用)のとおり,市長は,P2特別顧問に調査を依頼したものであったとしても,本件業務命令を発出し,職員に対して本件アンケートに対する回答を求めたのであるから,本件業務命令により職員の権利を侵害することのないよう確認すべき注意義務があったというべきであったところ,上記のとおり,本件アンケートには,一部違法な質問が含まれていたから,その確認を怠ったものというべきである。
(ウ)

したがって,控訴人の前記(ア)の主張は採用できない。

結果回避可能性について
(ア)

控訴人は,市長は,本件アンケートの内容を事前に確認したり,そ
の内容を修正,変更するための措置をとることは,全く予定されていなかったから,何ら注意義務違反はない旨主張する。(イ)

しかしながら,市長は,上記ア(イ)のとおり,本件業務命令により
職員に対して本件アンケートに対する回答を求めたのであるから,職員の権利を侵害することのないよう確認すべき注意義務があったというべきであるから,何らかの方法でこの注意義務を果たさなければならなかったものである。それにもかかわらず,前記1(原判決86頁5行目から87頁11行目までを引用)で認定判断したとおり,控訴人は,上記注意義務に違反し,職員に対し,漫然と本件アンケートに回答するよう求めたのであるから,過失による注意義務違反があることは明らかである。そして,仮に,控訴人が第三者である本件調査チームに本件アンケートの作成を任せていたとしても,そのことにより,上記注意義務を怠らなかったとも,これが免除されるともいえないというべきである。(5)

被控訴人らの損害
前記1(原判決88頁19行目から89頁16行目までを上記2により補
正の上引用)で認定判断したとおり,被控訴人らは,いずれも本件アンケートの実施により,精神的苦痛を被ったことが認められる。そして,本件調査チームによる調査の経緯,本件アンケートの実施それ自体について,その必要性と相当性が認められること,本件アンケート中違法であると認められる質問の数,内容等,本件アンケートの実施が不当労働行為に該当する旨の大阪府労働委員会の救済命令が確定し,控訴人がこれを履行したこと及び本件アンケートの回答が開封されることなく全て廃棄されたことなど,本件に現れた一切の事情を勘案すれば,被控訴人らに生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては,各自につき4000円と認めるのが相当である。
また,本件事案の内容,訴訟の経緯,被控訴人らが共通の損害を主張していること及び上記慰謝料額等の諸般の事情に照らせば,控訴人の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,各自につき1000円と認めるのが相当である。第4

結論
以上によれば,被控訴人らの本件請求は,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ5000円及びこれに対する違法行為の日である平成24年2月16日(本件アンケートの実施最終日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからそれぞれ認容し,
その余の請求については理由がないから,いずれも棄却すべきである。よって,
控訴人の控訴に基づき,上記と一部結論を異にする原判決を変更し,被控訴人らの附帯控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官

田中
裁判官

善元貞彦
裁判官

竹添明夫敦
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